特許第6573961号(P6573961)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6573961目の細胞を保護する薬品又は食品を調製するためのカンカニクジュヨウ抽出物の用途
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6573961
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】目の細胞を保護する薬品又は食品を調製するためのカンカニクジュヨウ抽出物の用途
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/64 20060101AFI20190902BHJP
   A61K 31/7034 20060101ALI20190902BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20190902BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20190902BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20190902BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20190902BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20190902BHJP
   A61P 27/06 20060101ALI20190902BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20190902BHJP
【FI】
   A61K36/64
   A61K31/7034
   A61K9/08
   A61K9/14
   A61K9/20
   A61K9/48
   A61P27/02
   A61P27/06
   A61P9/10
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-501159(P2017-501159)
(86)(22)【出願日】2015年7月3日
(65)【公表番号】特表2017-531614(P2017-531614A)
(43)【公表日】2017年10月26日
(86)【国際出願番号】CN2015083315
(87)【国際公開番号】WO2016000663
(87)【国際公開日】20160107
【審査請求日】2017年4月28日
(31)【優先権主張番号】62/020,409
(32)【優先日】2014年7月3日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517004551
【氏名又は名称】シンファー ティアン−リー ファーマシューティカル カンパニー リミテッド(ハンツォウ)
【氏名又は名称原語表記】SINPHAR TIAN−LI PHARMACEUTICAL CO., LTD. (HANGZHOU)
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】リー,チー−ウェン
【審査官】 鈴木 理文
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/087042(WO,A1)
【文献】 中華眼底病雑誌,2013年,Vol.29 No.6,pp.593-599
【文献】 Chem. Pharm. Bull.,1989年,Vol.37,pp.3153-3154
【文献】 Chem. Pharm. Bull.,1989年,Vol.37 No.11,pp.3153-3154
【文献】 J. Ethnopharmacol.,2011年,Vol.138,pp.624-632
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/64
A61K 9/08
A61K 9/14
A61K 9/20
A61K 9/48
A61K 31/7034
A61P 9/10
A61P 27/02
A61P 27/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
網膜色素上皮細胞を保護するための組成物であって、活性成分としてカンカニクジュヨウ水抽出物を含み、
カンカニクジュヨウ水抽出物が、エキナコシド、アクテオシド、イソアクテオシド、およびツブロシドA含み、
カンカニクジュヨウ水抽出物が、網膜色素上皮細胞に対する酸化ストレスによる損傷または青色光による損傷を低減する、
前記組成物。
【請求項2】
組成物が、網膜色素上皮細胞に対する酸化ストレスによる損傷または青色光による損傷によって引き起こされる目の疾患を予防る、請求項1に記載の網膜色素上皮細胞を保護するための組成物。
【請求項3】
目の疾患が、黄斑部の退化、又は網膜症ある、請求項2に記載の網膜色素上皮細胞を保護するための組成物。
【請求項4】
黄斑部の退化が、加齢黄斑変性である、請求項3に記載の網膜色素上皮細胞を保護するための組成物。
【請求項5】
加齢黄斑変性が、乾性黄斑変性又は滲出型黄斑変性である、請求項4に記載の網膜色素上皮細胞を保護するための組成物。
【請求項6】
網膜症が、糖尿病網膜症、網膜色素変性、網膜疾患、網膜動脈閉塞、網膜静脈閉塞、増殖性硝子体網膜症又は中心性漿液性脈絡膜網膜症である、請求項3に記載の網膜色素上皮細胞を保護するための組成物。
【請求項7】
組成物の形態が、カプセル、錠剤、粉剤又は液状である、請求項1に記載の網膜色素上皮細胞を保護するための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カンカニクジュヨウ抽出物の用途に関し、特に目の細胞を保護する薬剤又は食品を調製するための用途に関する。
【背景技術】
【0002】
目は魂の窓であり、目によって超高解像度で世界を見て、毎日の生活はいずれも目に依存する必要がある。現在、一般的な目の疾患は、加齢黄斑変性(Age−related macular degeneration;AMDと略称)、糖尿病網膜症(Diabetic retinopathy)及び増殖性硝子体網膜症(Proliferative vitreoretinopathy;PVRと略称)等であり、そのうち、加齢黄斑変性は成人又は老人の失明に至る重要な目の疾患の1つであると認められる。
【0003】
世界保健機関(World Health Organization;WHO)は、加齢黄斑変性が既に白内障を超えて、視力不良を引き起こす最も一般的な原因(Jager et al 2008)になると指摘し、2010年の報告には更に、加齢黄斑変性による視力低下及び失明となる人数が増加する傾向があると指摘した。米国国内の統計によると、八百万を超える人が加齢黄斑変性を罹患し、そのうち65歳〜74歳の人が10%を超えて、74歳以上の人は25%を超えて、2020年まで、加齢黄斑変性を罹患する人は50%を超えると予測された(Friedman et al 2004)。台湾地域では65歳以上の老人の罹患率が約10%であり、罹患率は欧州諸国よりも低いが、わが地域の人は黄斑変性に対する認知が限定的であり、且つ効果的な治療方法がないので、患者がこの疾患があると診断された後、医者も効果的な治療を与えることができない。このため、黄斑変性は我が地域の人の失明の主因の1つとなり、「視力のナンバーワンキラー」とも呼ばれ、このため、加齢黄斑変性に対しては、先に予防することが特に重要である。なお、台湾人口の高齢化、生活習慣の欧米化により、他の失明原因が制御される場合、加齢黄斑変性は日々一般的になって成人の主な目の病気となる。
【発明の概要】
【0004】
ラジカルによる細胞におけるDNA、タンパク質、脂類及び細胞内の高分子物質に対する酸化ストレスの損傷の累積は老化を引き起こすことがあり、中枢神経系の退化以外、一部の目の疾患(特に黄斑部の退化及び網膜症)も酸化ストレス損傷と高い相関性を有すると認められる。
【0005】
しかしながら、現在、効果的に目の疾患を予防し、遅延させるか又は治療する方法或いは目の細胞を保護する方法がまだないことは、本分野の解決するべき課題である。
【0006】
本発明は、目の細胞を保護する薬剤又は食品を調製するためのカンカニクジュヨウ抽出物の用途を提供する。
【0007】
本発明の一実施形態によれば、カンカニクジュヨウ抽出物は、エキナコシド、アクテオシド、イソアクテオシド、ツブロシドA又はそれらの組み合わせを含む。
【0008】
本発明の一実施形態によれば、薬剤又は食品は目の疾患を予防し、遅延させるか又は治療するためのものである。
【0009】
本発明の一実施形態によれば、目の疾患は黄斑部の退化、黄斑部円孔、網膜症又は緑内障である。
【0010】
本発明の一実施形態によれば、黄斑部の退化は加齢黄斑変性である。
【0011】
本発明の一実施形態によれば、加齢黄斑変性は乾性黄斑変性(dry−AMD)又は滲出型黄斑変性(wet−AMD)である。
【0012】
本発明の一実施形態によれば、網膜症は糖尿病網膜症、網膜色素変性(Retinitis pigmentosa)、網膜疾患(Retina disease)、網膜動脈と静脈閉塞(Retinal artery and vein occlusion)、増殖性硝子体網膜症又は中心性漿液性脈絡膜網膜症(Central serous retinopathy)である。
【0013】
本発明の一実施形態によれば、薬剤の形態はカプセル、錠剤、粉剤又は液状であってよい。
【0014】
本発明は、カンカニクジュヨウ抽出物を薬剤又は食品の調製に利用して、目の細胞を保護する効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本発明の特徴、メリット及び実施例をより分かりやすくするために、添付図面の説明が以下の通り記載される。
図1】本発明の実施例の細胞毒性試験結果図を示す。
図2】本発明の実施例の細胞毒性試験結果図を示す。
図3】本発明の実施例の細胞毒性試験結果図を示す。
図4】本発明の実施例の細胞毒性試験結果図を示す。
図5】本発明の実施例の細胞毒性試験結果図を示す。
図6】本発明の実施例のHにより誘発された細胞毒性に対する保護作用の試験結果図を示す。
図7】本発明の実施例のHにより誘発された細胞毒性に対する保護作用の試験結果図を示す。
図8】本発明の実施例のHにより誘発された細胞毒性に対する保護作用の試験結果図を示す。
図9】本発明の実施例のHにより誘発された細胞毒性に対する保護作用の試験結果図を示す。
図10】本発明の実施例のHにより誘発された細胞毒性に対する保護作用の試験結果図を示す。
図11】本発明の実施例のt−BHPにより誘発された細胞毒性に対する保護作用の試験結果図を示す。
図12】本発明の実施例のt−BHPにより誘発された細胞毒性に対する保護作用の試験結果図を示す。
図13】本発明の実施例のt−BHPにより誘発された細胞毒性に対する保護作用の試験結果図を示す。
【0016】
図14】本発明の実施例のt−BHPにより誘発された細胞毒性に対する保護作用の試験結果図を示す。
図15】本発明の実施例のt−BHPにより誘発された細胞毒性に対する保護作用の試験結果図を示す。
図16】本発明の実施例のNaNにより誘発された細胞毒性に対する保護作用の試験結果図を示す。
図17】本発明の実施例のNaNにより誘発された細胞毒性に対する保護作用の試験結果図を示す。
図18】本発明の実施例のNaNにより誘発された細胞毒性に対する保護作用の試験結果図を示す。
図19】本発明の実施例のNaNにより誘発された細胞毒性に対する保護作用の試験結果図を示す。
図20】本発明の実施例のNaNにより誘発された細胞毒性に対する保護作用の試験結果図を示す。
図21】本発明の実施例の青色光照射により誘発された細胞毒性に対する保護作用の試験結果図を示す。
図22】本発明の実施例の青色光照射により誘発された細胞毒性に対する保護作用の試験結果図を示す。
図23】本発明の実施例の青色光照射により誘発された細胞毒性に対する保護作用の試験結果図を示す。
図24】本発明の実施例の青色光照射により誘発された細胞毒性に対する保護作用の試験結果図を示す。
図25】本発明の実施例の青色光照射により誘発された細胞毒性に対する保護作用の試験結果図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の記述をより詳細化し充実させるために、以下、本発明の実施形態と具体的な実施例に対して説明的な記述を提出するが、これは、本発明の具体的な実施例を実施又は応用する唯一の形式ではない。有益な場合には、以下に開示された各実施例を互いに組み合わせるか又は取り替えてもよいし、一実施例に他の実施例を付加してもよく、さらなる記載又は説明を必要としない。以下の記述において、読者が以下の実施例を十分に理解するように複数の特定の細部を詳しく説明する。しかし、これらの特定な細部がない場合には本発明の実施例を実践することができる。
【0018】
本発明は、目の細胞を保護する薬剤又は食品を調製するためのカンカニクジュヨウ抽出物の用途を提供する。
「砂漠人参」とも呼ばれるカンカニクジュヨウ(Cistanche tubulosa)は、ニクジュヨウの1種であり、従来から補腎壮陽薬として、勃起不全、不妊、脱力感、腰と膝の痛み及び便秘の治療に用いられ、2005年から『中国薬典』に記載される。ニクジュヨウは、酸化防止、神経細胞保護作用(例えば神経細胞アポトーシス抑制)、神経成長因子分泌促進、脳内神経伝達物質調整作用、学習記憶力改善及び脳内アミロイドペプチド(Amyloid)生成低減等の効果を有する。
【0019】
本発明の一実施形態によれば、カンカニクジュヨウ抽出物は、エキナコシド(Echinacoside)、アクテオシド(Acteoside)、イソアクテオシド(Isoacteoside)、ツブロシドA(Tubuloside A)又はそれらの組み合わせを少なくとも含む。エキナコシド、アクテオシド、イソアクテオシド及びツブロシドAのいずれも、目の細胞に対して保護作用を有する。
【0020】
本発明のカンカニクジュヨウ抽出物を目の細胞を保護する薬剤又は食品に調製する方法は、カンカニクジュヨウ抽出物を提供し、目の細胞を保護する薬剤又は食品として調製することを含んでよい。例を挙げると、カンカニクジュヨウ抽出物を目の細胞を保護する薬剤又は食品に調製する方法は、まず、カンカニクジュヨウを抽出すること、次に、カンカニクジュヨウから抽出された成分(即ちカンカニクジュヨウ抽出物)に対して補助材料添加、加工等の工程を行った後、薬剤又は食品を調製することを含む。又は、前記カンカニクジュヨウ抽出物に含まれた成分を直接に取得し、補助材料添加、加工等の工程を行った後、薬剤又は食品を直接に調製することを含む。
【0021】
注意すべきなのは、本発明のカンカニクジュヨウ抽出物で調製されてなる薬剤又は食品は、前記4種の成分における少なくとも1種を含んでもよく、且つ選択的に薬剤又は食品における一般的な他の補助材料を含んでもよい。また、本発明のカンカニクジュヨウ抽出物で調製された薬剤又は食品は、任意の形態であってよく、例えば薬剤の形態がカプセル、錠剤、粉剤又は液状であってよい。
【0022】
本発明の一実施形態によれば、薬剤又は食品は目の疾患を予防し、遅延させるか又は治療するためのものである。
【0023】
本発明の一実施形態によれば、目の疾患は黄斑部の退化、黄斑部円孔、網膜症又は緑内障である。
【0024】
本発明の一実施形態によれば、黄斑部の退化は加齢黄斑変性である。臨床及び病理表現により、加齢黄斑変性は、乾性黄斑変性及び滲出型黄斑変性という2種のタイプに分けられることができる。
【0025】
本発明の一実施形態によれば、網膜症は、糖尿病網膜症、網膜色素変性、網膜疾患、網膜動脈と静脈閉塞、増殖性硝子体網膜症又は中心性漿液性脈絡膜網膜症である。
【0026】
本発明によれば、カンカニクジュヨウ抽出物を薬剤又は食品の調製に用い、ここでカンカニクジュヨウ抽出物に含まれた成分は、エキナコシド、アクテオシド、イソアクテオシド、ツブロシドA又はそれらの組み合わせであってよく、目の細胞に対する酸化ストレスによる損傷を低減することができ、それにより調製された該薬剤又は食品に目の細胞への保護効果を持たせる。将来、目の疾患の悪化を予防するか又は遅らせる薬剤として更に開発されることができ、特に網膜症疾患の治療に用いることができる。
【0027】
以下、複数の実施例を挙げて更に本発明の方法を詳しく説明し、しかしながら、それは例示して説明するためのものだけであり、本発明を限定するためのものではなく、本発明の保護範囲は請求の範囲で画定されたものを基準とする。
【0028】
実施例1
本発明の実施例1において、カンカニクジュヨウ抽出物の調製は以下の工程を含む。
【0029】
カンカニクジュヨウの肉質茎部分10kgを取り、スライスした後8倍の体積の水に1時間浸漬した後、2時間煎じ、濾過して濾過液を収集する。
【0030】
6倍の体積の水を入れて濾過後の煎じ薬のかすを2回煎じ、毎回1時間ずつ行い、且つ濾過して濾過液を収集する。
【0031】
三回の濾過液を併合して、且つ50℃で1.10の比重に減圧濃縮して、濃度60%となるようにエタノールを添加し、12時間冷蔵し、上澄液をデカントして、50℃で減圧濃縮して且つ1.10の比重となるようにエタノールを回収し、粗抽出物6kgを取得する。
【0032】
1倍体積の水で工程3の粗抽出物を加熱溶解して、且つマクロポーラス吸着樹脂カラム内に注入する。次に、順次に4倍体積の水及び5倍体積の40%エタノールで溶離し、更に水溶離液をマクロポーラス吸着樹脂カラムに注入し、先に3倍の体積の水で溶離し、水溶離液を捨ててから、4倍体積の40%エタノールで溶離する。
【0033】
工程4の2回の40%エタノール溶離液を収集し、濃縮乾燥した後、実施例1のカンカニクジュヨウ抽出物1107gを取得することができる。該カンカニクジュヨウ抽出物には、エキナコシド、アクテオシド、イソアクテオシド及びツブロシドAを含む。
【0034】
実施例2−5
本発明は、エキナコシド(echinacoside)を実施例2とし、アクテオシド(acteoside)を実施例3とし、イソアクテオシド(isoacteoside)を実施例4(以上、いずれも米国ChromaDex会社から購入)とし、ツブロシドA(Tubuloside A)を実施例5(中国上海同田生物技術有限会社、略称Tauto Biotechから購入)とする。
【0035】
細胞培養
網膜色素上皮細胞(Retinal Pigment Epithelial;RPEと略称)は、網膜神経上皮層と脈絡膜との間に位置し、多種の生理機能(例えば、網膜バリア、食作用、視サイクル代謝参与、酸化防止機能及び成長因子分泌等)を有する。RPE細胞は、酸化ストレスの損傷により死亡しやすく、更に網膜症、視機能異常、ひいては視機能喪失を引き起こし、このため、常に目の相関疾患の細胞モードの研究に利用される。
【0036】
加齢黄斑変性を例として、加齢黄斑変性は、血管内皮成長因子(Vascular endothelial growth factor;VEGFと略称)の酸化ストレス、リポフスチン沈着(Delori FC et al、2001)、慢性炎症及び補体系突然変異等と密接に関連し、このため、RPE細胞を使用して研究する。加齢黄斑変性において、酸化ストレスによりRPE細胞又は脈絡膜毛細管(Choriocapillaris)損傷(Boltz A et al、 2010)を引き起こす。RPE細胞の損傷によりブルッフ膜(Bruch membrane)及び脈絡膜の炎症反応を引き起こし、且つRPE細胞の機能障害及び誘発した炎症反応により細胞外基質(Extra Cellular Matrix;ECMと略称)の異常沈積を引き起こし、更にRPE細胞の生物機能に影響を与えて、且つ加齢黄斑変性の進行を悪化させる。
【0037】
以下の実験例は、RPE細胞(アメリカ培養細胞系統保存機関(American Type Culture Collection;略称ATCCから購入))を採用して本発明の実施例1−5の目の細胞に対する保護効果を評価するものであり、細胞培養は以下の工程を含む。
【0038】
RPE細胞株の不凍管を液体窒素から取り出し、急速に37℃の水浴タンクに置いて1分間解凍した後、迅速に無菌作業台内へ移動する。細胞株を取り出し、10mLのDMEM(Dulbecco's Modified Eagle Medium)培養液を含有する10cmの培養皿に入れて、この培養液に10%の非活性化のウシ胎仔血清(heat−inactivated fetal bovine serum;FBSと略称)、2mMのL‐グルタミン(L−glutamine)、100U/mLのペニシリン(penicillin)及び100g/mLのストレプトマイシン(streptomycin)を加える。
【0039】
該培養皿を37℃のインキュベータに置いて、条件として95%の空気及び5%の二酸化炭素の混合気体、湿度70%の環境において培養し、三日おきに新鮮な培養液を切り替える。実験する前に培養液を血清を含まないDMEMに切り替える必要がある。
細胞は飽和に近い程度まで増殖する際、セルカウンタで細胞の数を測定する。細胞数が約2×10−1×10細胞/mLに達する際、1:3の割合で希釈して細胞の継代培養を行う。RPE細胞が付着型細胞であるため、切り替える場合、まず、細胞を含有する培養液を15mLの遠心分離管に吸い込み、室温で回転速度72gで5分間遠心する必要がある。遠心を行った後、上澄液を吸い除いて更に新鮮な培養液を加えて培養する。
【0040】
以下の実験例は上記工程で培養した後のRPE細胞により本発明の実施例1−5の効果を評価する。
【0041】
実験例1、実施例1−5のRPE細胞生存率及び成長に対する測定(MTT assay)
実験前にまず、培養液を無血清の培養液に置換し、定量的なRPE細胞(2×10細胞/mL)を分けて96ウェル培養プレートに置いて、インキュベータ内に入れた後、異なる濃度の実施例1−5で細胞を処理した後24時間培養する。次に、1.0mg/mLのチアゾリルブルーテトラゾリウムブロミド(3−(4,5−Dimethylthiazol−2−yl)−2,5−diphenyltetrazolium bromide;MTTと略称)を添加して、37℃で1時間作用させる。そして、更に各ウェルに200μLのジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide;DMSOと略称)を添加し、やや混合した後、室温で光を避けて10分間軽く振る。ウェル内に残留された細胞が完全に溶解された後、酵素免疫分析装置(MRX microplate reader;USA)により550nmの波長で各ウェルの吸光度を検出する。実施例により処理されない細胞が24時間培養した後、対照群として用いられた。
【0042】
実験例1の目的は、実施例1−5がRPE細胞に対して細胞毒性を有するかどうか及びそのRPE細胞成長を促進する程度を測定することにある。生存細胞のミトコンドリア酵素を利用してMTT試薬をホルマザン(formazan)である紫色の結晶に還元し、更にDMSOで結晶を溶解する。即ち細胞の代謝活性を細胞が生存するかどうかの依拠とすることにより、測定された溶解吸光度は相対的な細胞生存率に等しいので、生存細胞が多いほど、その吸光度が高くなる。細胞生存率百分率の計算方式は以下のとおりである。
【0043】
【数1】
【0044】
実験例1のデータ結果は、実験回数の平均値標準誤差(mean±S.E.)で示される。学生t検定(Student’s t−test)又は一元配置分散分析(one way ANOVA)に基づいて統計分析を行い、P<0.05となると、有意差があると示される。
【0045】
図1−5を参照して、それぞれ実施例1−5のそれぞれの細胞毒性試験結果図を示す。図1−5に示すように、実施例1−5のIC25、IC50及びIC75が知られ、且つ結果を以下の表1にまとめる。
【0046】
【表1】
【0047】
表1の結果より、実施例1−5のIC50を大きさ順に並べ替える。(実施例5、実施例1)>実施例2>(実施例3、実施例4)とする。実験例1で得られた細胞毒性試験結果に従って、後続の実験例2に用いるテスト濃度を決定する。
【0048】
実験例2、実施例1−5の活性酸素種(reactive oxygen species;ROSと略称)を共同処理した後のRPE細胞の生存率及び成長に対する測定(MTT assay)
実験例2は実験例1で得られた細胞毒性試験結果により、実施例1−5からそれぞれ3つの濃度を取って、実験例2の酸化ストレス傷害保護作用のテスト濃度とする。実験例2において実施例1−5のIC50を最高濃度として用い、その目的はIC50で実施例1−5の毒性と薬学的性質との作用区間を再び確認することにある。
【0049】
実験する前に、まず、培養液を無血清の培養液に切り替え、定量的な細胞(2×10cells/mL)を分けて96ウェル培養プレートに置いて、インキュベータ内に入れた後、異なる濃度の実施例1−5で細胞を処理した後24時間培養する。次に、異なる濃度の酸化ストレスインデューサ(Oxidative stress inducer)を添加して細胞を処理する。実験例2で用いられた酸化ストレスインデューサは、過酸化水素(hydrogen peroxide;H、濃度が0.01−10mMである)、tert-ブチルヒドロペルオキシド(tert−butyl hydroxyperoxide;t−BHPと略称し、濃度が0.01−10mMである)、アジ化ナトリウム(sodium azide;NaN、濃度が0.1−100mMである)及び青色光により誘発された損傷を含み、波長が480nmであり、照度が350ルクス(lux)の青色発光ダイオード(light−emitting diode;LEDと略称)で細胞を照射する。次に、それぞれ処理時間が終わった後(青色光照射試験で連続的に7日観察し、他の酸化ストレスインデューサがいずれも24時間である)、0.5mg/mLのMTTを添加し、37℃で2時間作用させる。そして、更に200μLのDMSOを各ウェルに添加し、やや混合した後、室温で光を避けて10分間軽く振って、ウェル内に残留された細胞が完全に溶解した後、酵素免疫分析装置により550nmの波長で各ウェルの吸光値を検出する。酸化ストレスインデューサ及び実施例により処理されない細胞を24時間培養した後対照群とし、且つ実験例1に記載された細胞生存率百分率の計算方式で対照群に対する細胞生存率を計算する。
【0050】
実験例2のデータ結果は実験回数の平均値標準誤差(mean±S.E.)で示される。学生t検定又はone way ANOVAに基づいて統計分析を行い、P<0.05となると、有意差があると示される。
【0051】
以下、実験例2で用いられた酸化ストレスインデューサ及びRPE細胞毒性物の作用メカニズムを以下の表2に総合的にまとめる。
【0052】
【表2】
【0053】
実験例2には、まず本発明の実施例1−5でRPE細胞をそれぞれ処理し、更にこれらの代表的な酸化ストレスインデューサでRPE細胞を処理し、RPE細胞の生存率により、本発明の実施例1−5のRPE細胞に対する保護効果を評価する。
【0054】
図6−10を参照すると、それらはそれぞれ実施例1−5のHにより誘発された細胞毒性に対する保護作用の試験結果図を示し、実施例1の濃度が50、100及び200μg/mLであり、実施例2の濃度が18.75、37.5及び75μg/mLであり、実施例3の濃度が15.625、31.25及び62.5μg/mLであり、実施例4の濃度が15.625、31.25及び62.5μg/mLであり、実施例5の濃度が50、100及び200μg/mLである。試験結果に示すように、0.1mMのHを処理すると約50%のRPE細胞死を引き起こし、即ち生存率が約50%のみであることが分かる。この濃度による損傷には、実施例1、実施例2、実施例3及び実施例5がいずれも明らかに細胞保護作用を有し、そのうち実施例1の作用が最強で、その濃度が50μg/mLと100μg/mLである場合、50%の細胞生存率を100%まで向上させることができることが観察される。また、実施例1は、200μg/mLの濃度である場合、既にそのIC50の濃度に達したので、合理的な細胞毒性反応を表現する。図6−10の試験結果からも実施例1のHに対する最も有効な作用濃度区間が50μg/mLと100μg/mLとの間にあることが再び確認される。
【0055】
図11−15を参照すると、それらはそれぞれ実施例1−5のt−BHPにより誘発された細胞毒性に対する保護作用の試験結果図を示す。実施例1の濃度が50、100及び200μg/mLであり、実施例2の濃度が18.75、37.5及び75μg/mLであり、実施例3の濃度が15.625、31.25及び62.5μg/mLであり、実施例4の濃度が15.625、31.25及び62.5μg/mLであり、実施例5の濃度が50、100及び200μg/mLである。試験結果に示すように、0.3mMのt−BHPを処理すると約80%のRPE細胞死を引き起こすことができ、即ち生存率が約20%のみであることが分かる。この濃度による損傷には、実施例1−実施例5がいずれも明らかに細胞保護作用を有し、そのうち実施例1、実施例2及び実施例3の作用が最強で、低濃度と中濃度でいずれも20%の細胞生存率を80%以上まで向上させることができることが観察される。また、各実施例1−5の高濃度が既にIC50に達したので、合理的な細胞毒性反応を表現する。図11−15の試験結果からも実施例1、実施例2及び実施例3のt−BHPに対する最も有効な作用濃度区間が低濃度と中濃度との間にあることが再び確認される。
【0056】
図16−20を参照すると、それらはそれぞれ実施例1−5のNaNにより誘発された細胞毒性に対する保護作用の試験結果図を示し、実施例1の濃度が75、100及び125μg/mLであり、実施例2の濃度が25、37.5及び50μg/mLであり、実施例3の濃度が15.625、31.25及び62.5μg/mLであり、実施例4の濃度が15.625、31.25及び62.5μg/mLであり、実施例5の濃度が75、100及び125μg/mLである。試験結果に示すように、10mMのNaNを処理すると約50%のRPE細胞死を引き起こすことができ、即ち生存率が約50%のみであることが分かる。この濃度による損傷から、実施例1−実施例5はいずれも明らかに細胞保護作用を有し、そのうち実施例1、実施例4及び実施例5の保護作用が最強で、中濃度と高濃度でほぼ細胞生存率を100%まで回復させることができ、次に実施例2と実施例3で50%の細胞生存率を80%以上まで向上させることができることが観察される。また、各実施例1−5の高濃度がこのNaNの損傷で、重大な毒性反応を示さず、このIC50も薬効果区間にあるが、まだ用量相関を表現しない。図16−20の試験結果により実施例1−実施例5のNaNに対する最も有効な作用濃度区間が低濃度と中濃度との間にあることが確認される。
【0057】
図21−25を参照すると、それらはそれぞれ実施例1−5の青色光照射により誘発された細胞毒性に対する保護作用の試験結果図を示し、実施例1の濃度が50、100及び200μg/mLであり、実施例2の濃度が18.75、37.5及び75μg/mLであり、実施例3の濃度が15.625、31.25及び62.5μg/mLであり、実施例4の濃度が15.625、31.25及び62.5μg/mLであり、実施例5の濃度が50、100及び200μg/mLである。試験結果に示すように、青色光(480nm、30lux)で照射処理されたRPE細胞は、約第5日に照射された後40%のRPE細胞死を引き起こし、即ち生存率が約60%のみであることが観察される。この濃度による損傷には、実施例1−5がいずれも明らかに細胞保護作用を有し、そのうち実施例3と実施例4の作用が最強で、中濃度でいずれも60%の細胞生存率を90%−100%以上まで向上させることができることが観察される。また、各実施例1−5の高濃度が既にIC50に達したので、合理的に細胞毒性反応を表現する。図21−25の試験結果からも実施例3と実施例4の青色光照射の最も有効な作用に対する濃度区間が低濃度と中濃度との間にあることが確認される。
【0058】
本発明において、実験例1及び実験例2の試験結果を分析することにより、実施例1−5の抗酸化ストレスインデューサに対して損傷を引き起こす過程中に、実施例1−5と酸化ストレスインデューサとの間に化学反応が発生し、構造を改変し、更に質的変化を引き起こし、それにより実施例1−5の性質を還元剤から酸化剤へ変換し、酸化ストレスインデューサの性質を酸化剤から還元剤へ変換し、このため、同時に実施例1−5の抗酸化ストレスインデューサに対する効果及び酸化ストレスインデューサによる細胞損傷の程度を低減して、且つこの状況は実施例1−5及び酸化ストレスインデューサの濃度の増加に従ってより明確であることが発見される。
【0059】
以下、実験例2のすべての酸化ストレスインデューサの試験結果を以下の表3にまとめる。
【0060】
【表3】
【0061】
以上の表3の総合的な結果から分かるように、実施例1−5はt−BHP、NaN及び青色光によるRPE細胞損傷に対していずれも明らかな保護作用を有し、そのうち実施例1及び実施例4が強い保護作用を有する。
【0062】
要するに、本発明は、目の細胞を保護する薬剤又は食品を調製するためのカンカニクジュヨウ抽出物の用途を提供する。カンカニクジュヨウ抽出物は、酸化ストレスによる目の細胞に対する損傷を低減することができ、それによりそれで調製された薬剤又は食品に目細胞への良好な保護効果を持たせ、将来、更に目の疾患を予防するか又は目の疾患の悪化を遅らせる薬剤又は食品として開発することができる。
【0063】
本発明は、実施形態として上記の通り開示したが、これは本発明を限定するものではない。当業者は、本発明の精神と範囲から逸脱しない限り、各種の変更や修正を加えることができる。従って、本発明の保護範囲は、添付する特許請求の範囲に定義されるものを基準とする。
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