(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6573985
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】エネルギ吸収構造付きの車両シート
(51)【国際特許分類】
B60N 2/427 20060101AFI20190902BHJP
B60N 2/68 20060101ALI20190902BHJP
【FI】
B60N2/427
B60N2/68
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-557244(P2017-557244)
(86)(22)【出願日】2016年1月11日
(65)【公表番号】特表2018-502779(P2018-502779A)
(43)【公表日】2018年2月1日
(86)【国際出願番号】CN2016070576
(87)【国際公開番号】WO2016115986
(87)【国際公開日】20160728
【審査請求日】2018年7月31日
(31)【優先権主張番号】201510032544.0
(32)【優先日】2015年1月22日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】517257065
【氏名又は名称】イェンフェン アディエント シーティング カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】孟慶保
(72)【発明者】
【氏名】陳岳雲
(72)【発明者】
【氏名】陶恵家
【審査官】
永安 真
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/077444(WO,A1)
【文献】
特開2008−230557(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/427
B60N 2/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートクッション側板と角度調整器下接続板とを含むエネルギ吸収構造付きの車両シートであって、
前記角度調整器下接続板には、上下に連通される直進溝部及び円形溝部を含む衝撃溝が設けられ、
環状部と、位置決め部と、前記環状部及び前記位置決め部の間に接続される衝撃断裂部とを含むエネルギ吸収片と、
前記シートクッション側板に固接される第1ナットと、
順に同軸接続されるヘッド部、段差部、及び、ボルトステムを含む段差ボルトと、を含み、
前記ボルトステムは、前記段差部を前記円形溝部に貫通させて前記エネルギ吸収片と押圧係合されるように、前記円形溝部と前記環状部とを順に貫通して前記第1ナットと螺合されることを特徴とするエネルギ吸収構造付きの車両シート。
【請求項2】
前記シートクッション側板と前記角度調整器下接続板とが、前端ボルトと第2ナットとによって接続されることを特徴とする請求項1記載のエネルギ吸収構造付きの車両シート。
【請求項3】
前記段差部の外径は、前記段差部と前記エネルギ吸収片とが押圧係合されるとき、前記段差部の最低位置と前記円形溝部の最低位置とが離間するように、前記円形溝部の内径よりも小さいことを特徴とする請求項1記載のエネルギ吸収構造付きの車両シート。
【請求項4】
前記角度調整器下接続板は、平面構造であることを特徴とする請求項1記載のエネルギ吸収構造付きの車両シート。
【請求項5】
前記角度調整器下接続板は、異なる平面に位置するシートクッション取り付け面及びエネルギ吸収片取り付け面を含み、
前記エネルギ吸収片は、前記エネルギ吸収片取り付け面に取り付けられるとき、前記シートクッション取り付け面と面一になっていることを特徴とする請求項1記載のエネルギ吸収構造付きの車両シート。
【請求項6】
前記衝撃断裂部の断面積は、6−9mm2であることを特徴とする請求項1記載のエネルギ吸収構造付きの車両シート。
【請求項7】
前記第1ナットは、前記シートクッション側板に半田付けされていることを特徴とする請求項1記載のエネルギ吸収構造付きの車両シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両シートに関し、特にエネルギ吸収構造付きの車両シートに関する。
【背景技術】
【0002】
車両走行時に追突事故が発生した場合、衝突車両の運転手、乗客がむち打ち症となるおそれがある。むち打ち症とは、衝突加速度及びヘッド部慣性力の働きによって、首が鞭のようにしなったために起こる症状である。事故後、患者は首に様々な違和感を感じるが、命に別状はない。しかしながら、リハビリのプロセスが非常に複雑、冗長であり、場合によって完治しない持病と成り得る。そこで、ダメージを低減させるために、自動車メーカーは、衝撃エネルギを吸収可能な車両シートの研究開発を行っており、例えば、特許公開公報CN103249595A、CN1640714A及びUS20100096892A1のそれぞれには、衝撃エネルギを吸収可能な車両シートが提供されている。ところが、これらのシートは、構造が複雑で、高コストである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上記先行技術の不具合に鑑みてなされたものであり、エネルギ吸収効率が良く、構造が簡単で、低コストであるエネルギ吸収構造付きの車両シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上述の目的を実現するために、本発明は、シートクッション側板と角度調整器下接続板とを含むエネルギ吸収構造付きの車両シートであって、前記角度調整器下接続板には、上下に連通される直進溝部及び円形溝部を含む衝撃溝が設けられ、環状部と、位置決め部と、前記環状部及び前記位置決め部の間に接続される衝撃断裂部とを含むエネルギ吸収片と、前記シートクッション側板に固接される第1ナットと、順に同軸接続されるヘッド部、段差部、及び、ボルトステムを含む段差ボルトと、を含み、前記ボルトステムは、前記段差部を前記円形溝部に貫通させて前記エネルギ吸収片と押圧係合されるように、前記円形溝部と前記環状部とを順に貫通して前記第1ナットと螺合される構成を採用する。
【0005】
さらに、前記シートクッション側板と前記角度調整器下接続板とが、前端ボルトと第2ナットとによって接続されてもよい。
【0006】
前記段差の外径は、前記段差部と前記エネルギ吸収片とが押圧係合されるとき、前記段差部の最低位置と前記円形溝部の最低位置とが離間するように、前記円形溝部の内径よりも小さいことが好ましい。
【0007】
前記角度調整器下接続板は、平面構造であることが好ましい。
【0008】
前記角度調整器下接続板は、異なる平面に位置するシートクッション取り付け面及びエネルギ吸収片取り付け面を含み、前記エネルギ吸収片は、前記エネルギ吸収片取り付け面に取り付けられるとき、前記シートクッション取り付け面と面一になっていることが好ましい。
【0009】
さらに、前記衝撃断裂部の断面積は、6−9mm
2であることが好ましい。
【0010】
さらに、前記第1ナットは、前記シートクッション側板に半田付けされていることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の車両シートは、構造が簡単で、取り付けやすく、衝突時においてエネルギを吸収可能であることで、車両衝突時における人体ヘッド部のリバウンド速度を低減し、乗客の安全を守り、車両の評価を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】本発明のエネルギ吸収構造の分解概略図である。
【
図3】本発明のエネルギ吸収構造の組立て概略図である。
【
図4A】
図2におけるエネルギ吸収片の第1実施例の構造概略図である。
【
図4B】
図2におけるエネルギ吸収片の第2実施例の構造概略図である。
【
図4C】
図2におけるエネルギ吸収片の第3実施例の構造概略図である。
【
図4D】
図2におけるエネルギ吸収片の第4実施例の構造概略図である。
【
図5A】
図2における角度調整器下接続板の第1実施例の構造概略図である。
【
図5B】
図2における角度調整器下接続板の第2実施例の構造概略図である。
【
図6A】
図4におけるエネルギ吸収片と
図5Bにおける角度調整器下接続板とが接続される概略図である。
【
図8A】
図7におけるナットがシートクッション側板に半田付けされている概略図である。
【
図8B】
図7におけるナットがシートクッション側板に半田付けされている断面図である。
【
図9】
図2における段差ボルトの構造概略図である。
【
図10】本発明の組立済のエネルギ吸収構造の断面図である。
【
図11】衝突発生時に本発明のエネルギ吸収片が断裂した概略図である。
【
図12】衝突発生時における本発明の段差ボルト及び角度調整器下接続板の概略図である。
【
図13】衝突発生時における本発明のエネルギ吸収構造の断面図である。
【
図14】衝突時において本発明のエネルギ吸収片が直進溝部を押圧する概略図である。
【
図15】衝突時における本発明の車両シートの変形概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に示される本発明の好適な実施例について詳細に記述することにより、本発明の機能、特徴をより理解できる。
【0014】
通常の車両シートは、
図1に示すように、シートクッションアセンブリ及び背もたれアセンブリを含む。背もたれアセンブリには、それぞれ下端両側に位置する角度調整下接続板1が設けられており、シートクッションアセンブリには、それぞれ後端両側に位置するシートクッション側板2が設けられており、且つ、シートクッションアセンブリと背もたれアセンブリとが、シートクッション側板2及び角度調整器下接続板1によって一体に接続されている。
【0015】
衝突時に背もたれアセンブリに加わる衝撃エネルギを吸収するために、本発明は、シートクッション側板2と角度調整器下接続板1との間にエネルギ吸収片3(
図2に示すように)を増設し、当該エネルギ吸収片3は、互いに係合する第1ナット6と段差ボルト4とによって、シートクッション側板2及び角度調整器下接続板1と一体に接続されている。それに応じて、シートクッション側板2には、第1ナット6が貫通可能な孔が設けられ、角度調整器下接続板1には、段差ボルト4が貫通可能な衝撃溝10が設けられ、当該衝撃溝10は、上方に位置する直進溝部及び下方に位置する円形溝部を含む。第1ナット6及び段差ボルト4に加えて、シートクッション側板2と角度調整器下接続板1とが、さらに前端ボルト5及び第2ナット7によって直接接続されることが好ましい。組立済のエネルギ吸収構造は、
図3に示されている。
【0016】
図4A−4Dは、それぞれ前述のエネルギ吸収片3の複数の変形例を示している。これらのエネルギ吸収片3は、それぞれ環状部31、環状部31の両側に設けられる衝撃断裂部33、及び、衝撃断裂部33に接続される位置決め部32を含む。
図4Aでは、位置決め部32は、略U字状の構造に示されており、環状部31の大半部分を囲み、
図4Bでは、位置決め部は、略J字状の構造に示されており、J字状の構造の前端には、ファスナーを取り付けるための孔が開設されており、他端が環状部31の大半部分を囲むように延伸し、
図4Cでは、位置決め部32は、2つの位置決め部分を含み、それぞれ環状部31両側に位置する衝撃断裂部33に接続されており、
図4Dでは、位置決め部32は、それぞれ環状部31両側に位置する衝撃断裂部33に接続される2つの位置決め部分、及び、2つの位置決め部分を接続するための円形フレームを含む。ここで、エネルギ吸収片3の環状部31と角度調整器下接続板1の円形溝部とは同軸に設けられており、環状部31の中心の円孔には、段差ボルト4のねじが貫通し、位置決め部32は、エネルギ吸収片3を角度調整器下接続板1の内側面(即ち、シートクッション側板2に対する側面)に位置決めさせるように、角度調整器下接続板1と面接触している。図から分かるように、エネルギ吸収片3の構造変形は、位置決め部32に集中しており、勿論、
図4A−4D以外の他の適宜の形態を採用してもよいが、衝撃断裂部33の幅は、環状部31の直径より遥かに小さく(その断面積は、約6−9mm
2であり、ただし、エネルギ吸収時にシートが受ける力の大きさに応じて断面積を調整しても良い)、自動車が追突事故に出会い、衝突が一定レベルに達すると、衝撃断裂部33に断裂が発生する。
【0017】
図5A−5Bは、角度調整器下接続板1の実施例を2つ示している。
図5Aに示す角度調整器下接続板1は、平面をなしており、その平面には、衝撃溝10、前端ボルト5のネジロッドが貫通するための孔、及び、角度調整器(図示しない)を取り付けるための取り付け孔11が開設されている。
図5Bにおける角度調整器下接続板1は、前者と異なり、台形状をなしており、すなわち、異なる平面に位置するシートクッション取り付け面12及びエネルギ吸収片取り付け面13を含み、シートクッション取り付け面12は、シートクッションの取り付けに用いられ、前端ボルト5のネジロッドが通過するための孔、及び角度調整器(図示しない)を取り付けるための取り付け孔11は、いずれもシートクッション取り付け面12に設けられており、エネルギ吸収片13には、エネルギ吸収片3を取り付けるための衝撃溝10が設けられている。
図6A−6Bに示すように、エネルギ吸収片3がエネルギ吸収片取り付け面13に取り付けられると、エネルギ吸収片3の端面は、エネルギ吸収片3に接続されるシートクッションを台形状にすることなく平面とすることが可能であり、シートクッション及び背もたれの製造治具及び検査ゲージの費用を減らし、シートクッション、背もたれを取り付けやすいように、シートクッション取り付け面12の端面と面一となるように構成される(すなわち、シートクッション取り付け面12とエネルギ吸収片取り付け面13との間の高度差は、エネルギ吸収片3の厚みである)。
【0018】
本発明が採用するナットは、
図7に示すように、当該技術分野における通常のナットである。
図8A−8Bの実施例では、ナット6,7は、シートクッション側板2に半田付けされている。また、本発明が採用する段差ボルト4は、
図9に示すように、当該技術分野における通常の段差ボルトであり、順に軸方向に接続される大径のヘッド部41、小径の段差部42及びボルトステム43を含む。
【0019】
上述エネルギ吸収構造の組立プロセスは、以下のステップを含む。
(1)
図2に示すように、第1ナット6、第2ナット7をそれぞれシートクッション側板2の対応位置に半田付けさせる。
(2)
図6Aに示すように、エネルギ吸収片3を角度調整器下接続板1に位置決めさせつつ、エネルギ吸収片3の環状部31と衝撃溝10の円形溝部との同軸を保持させる。
(3)
図10に示すように、エネルギ吸収片3を段差ボルト4の段差部42とシートクッション側板2との間に押圧させるように、段差ボルト4をシートクッション側板24とエネルギ吸収片3とに順に貫通させて、シートクッション側板2に半田付けされている第1ナット6と螺合させる。ここで、エネルギ吸収片3が断裂するときの力値は、エネルギ吸収片3の断裂力によって決まるため、段差部42の最底端と衝撃溝10の最底端との隙間Lにより、段差ボルト4と角度調整器下接続板1との間に摩擦力及び押圧力を生じさせない。
(4)前端ボルト5を角度調整器下接続板1に貫通させてシートクッション側板2と接続させることで、組立プロセスが終了する。
【0020】
追突事故が発生するとき、段差ボルト4は、背もたれアセンブリが前端ボルト5周りに回転することによって、エネルギ吸収片3を切断し(
図11に示すように、エネルギ吸収片3の衝撃断裂部33を切断する)、断裂の環状部31を連れて(
図12に示すように)上へ変位し、移動距離は、ΔLであるときに、段差ボルト4の段差部42が、衝撃溝10の直進溝部の底端に当接されており(
図13に示すように)、その後、安定の力を発生し続けることで、角度調整器下接続板1を押圧し(
図14に示すように、下接続板の直進溝部が広くなる。破線は、直進溝部の初期外郭である。)、背もたれアセンブリを前端ボルト5周りに後ろに回転し、エネルギを吸収する(
図15に示すように、破線は、背もたれアセンブリの初期外郭である。)。
【0021】
これによって、本発明のエネルギ吸収構造は、構造が簡単なだけでなく、取り付けやすく、衝突時においてエネルギを吸収可能であるとともに、さらに以下のメリットを有する。
【0022】
1.生じる力値は、安定して大きさが調整される。エネルギ吸収片3の材料強度、厚み及び断裂断面積によれば、生じる力値F1=許容応力σ1×断面積Sであり、ここで、エネルギ吸収片3は、材料の許容応力σ1が一定であり、衝撃断裂部33の断面積Sを変化させ、すなわち、力F1を調整可能であり、下接続板の衝撃溝10の押圧力F2=許容応力σ2×押圧量Ψ×係数であり、下接続板1と段差ボルト4との干渉押圧量Ψを変化させることによって、調整される。
【0023】
2.耐久性が良く、エネルギ吸収片3は、衝突失効時に生じる力値を保証しつつ、通常場合において疲労による失効を防ぐことができるため、通常の場合におけるシートの使用機能に影響しない。
【0024】
3.ボルト締め付け時の摩擦力の影響を解消し、背もたれとシートクッションとがボルトによって接続されるときに、ボルトを締め付ける軸方向の力が機構運動時に生じるスライド摩擦力に対する影響を考慮せずとも、段差ボルト4が下接続板の円形溝を貫通し、円形溝の底部と離間し、段差部42が、エネルギ吸収片3に押圧されており、エネルギ吸収片3が衝突破壊、断裂発生力を受けるときに、段差ボルト4の軸方向力は、エネルギ吸収片3の断裂に影響しない。
【0025】
以上の記述は、本発明の好適な実施態様に過ぎず、本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の上述の実施態様を適宜に変化させることが可能である。すなわち、本願発明の特許請求の範囲及び明細書の内容に基づいて簡単、同等な変化、修飾を行ったものであっても、本発明の特許請求の範囲に含まれる。