(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記有機化合物(B)が、アスコルビン酸、アスコルビン酸の誘導体、エリソルビン酸およびエリソルビン酸の誘導体から選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項4に記載の革の製造方法。
前記有機化合物(B)が、アスコルビン酸、アスコルビン酸の誘導体、エリソルビン酸およびエリソルビン酸の誘導体から選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項9に記載の革。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<革の製造方法>
<好ましい実施形態〔1〕>
まず、本発明の好ましい実施形態について説明する。
【0015】
本発明の好ましい実施形態はクロムなめし工程、染色加脂工程および仕上げ工程を含む。さらに、本実施形態は、クロムなめし工程でクロムなめしされた革に対して、6価のクロムを3価のクロムに還元し得る6価クロム還元化合物を付着させる6価クロム処理工程を含み、染色加脂工程と6価クロム処理工程とを同時に行う。
【0016】
クロムなめし工程は、爬虫類の皮に対してクロムなめしを行って革を得る工程である。この工程において、用いる皮としては、カメ目ウミガメ科に属するウミガメ、トカゲ亜目オオトカゲ科に属するオオトカゲ、トカゲ亜目テーイッド科に属するデグー、ヘビ亜目ボア科に属するアミメニシキヘビ、インドニシキヘビ、ヘビ亜目ウミヘビ科に属するウミヘビ、エラブウミヘビ、ヘビ亜目ヘビ科に属するミズヘビ、ワニ目クロコダイル科に属するニューニギアワニ、ワニ目アリゲーター科に属するミシシッピーワニ、カイマンなどの爬虫類の皮が挙げられる。また、クロムなめしは、通常の方法により行うことができる。
【0017】
染色加脂工程では、クロムなめしされた革に対して染色および加脂を同時に行う。この工程により、革に対して色材による色付けおよび柔軟性等の付与がされる。同時に行うことで処理回数を減らせる利点がある。本実施形態は、さらに革に6価クロム還元化合物を付着させる6価クロム処理工程を含む。ここでは、クロムなめし後に革に含まれ得る6価のクロムを3価のクロムにする。この6価クロム処理工程を染色加脂工程と同時に行うため、さらに処理回数を減らせる利点がある。
【0018】
仕上げ工程では、染色および加脂された革に対して仕上げを行う。たとえば、染色加脂工程で得られたマットな発色を光沢のある発色に変えたり、「ふ(腑、符または斑)」とよばれる爬虫類特有の立体感を出したりする。
【0019】
具体的には、メノウまたはガラスなどを使用して革の銀面を磨き、光沢を出す処理(グレージング処理)、加熱した金属のローラーを革に押し付けて光沢を出す処理、または加熱したフェルトのローラーで革を擦って光沢を出す処理などが行われる。次いで、必要に応じて、銀面の裏面をシェービングし、通常100℃以上、好ましくは120〜130℃のホットプレート上に革を載せて、「ふ」とよばれる立体感を出すことができる。
【0020】
このように、仕上げ工程では、革が加熱されることが多く、クロムなめし後に革に含まれる3価のクロムが、6価のクロムに変化する可能性がある。しかしながら、この場合も、6価クロム処理工程により革に含まれるようになった6価クロム還元化合物の働きにより、発生した6価のクロムを再び3価のクロムに戻すことができる。
【0021】
本実施形態では、6価クロム処理工程を仕上げ工程よりも前に行うため、仕上げ工程で得られた革の外観を損なうことなく保持できる。本発明に用いる爬虫類の革の中でも、爬虫綱ワニ目に属する動物(ワニ)の革は高級であり、デリケートな外観を有しており、仕上げ処理後には他の処理を行わないことが好ましい。このため、6価クロム処理工程を仕上げ工程よりも前に行う本実施形態は、ワニ革の製造に特に好適に用いられる。
以下に、本実施形態において同時に行われる染色加脂工程および6価クロム処理工程についてさらに詳細に説明する。
【0022】
〔染色加脂工程および6価クロム処理工程〕
染色加脂工程および6価クロム処理工程では、通常両工程を同時に行うための6価クロム処理剤を用いる。なお、本明細書において、上記量工程を同時に行う時に用いる6価クロム処理剤については、特に同時処理剤ともいう。
【0023】
上記同時処理剤は、水とともに、革の染色および加脂に通常用いられている色材および油を含む。さらに、上記同時処理剤には、染色と加脂とを同時に行うために通常用いられている界面活性剤が、また、6価クロム処理を行うために6価クロム還元化合物が添加される。
【0024】
6価クロム還元化合物は、6価のクロムを3価のクロムに還元し得る化合物である。
このような6価クロム還元化合物として、特許文献1に記載されたアスコルビン酸の他、本発明者が提案した化合物(国際出願PCT/JP2015/71509(国際出願日:平成27年7月29日))が挙げられる。以下に、本発明者が提案した6価クロム還元化合物について説明する。
【0025】
上記6価クロム還元化合物としては、6価のクロムを3価のクロムに還元し得る化合物であり、たとえば、少なくとも、6価クロムと作用して3価に還元性を有する(3価に還元する性能を有する)C原子、O原子、H原子とからなり、3つの炭素間に1重結合と、2重結合を有し、中心の炭素に水酸基を有する下記式(1)に示される有機化合物(A)が挙げられる。式(1)に示される構造は、6価クロムと作用して3価に還元性を有する。
【0027】
式(1)中、R
1、R
2、R
3、R
4およびR
5は、それぞれ独立に、C、H、Oで構成される置換基(C、Hおよび必要に応じてOで構成される置換基)で、不飽和結合のカルボニル基を含むことが好ましいが、アルデヒド基、カルボキシル基といった反応性の官能基は有しない。また、アミン基、イソシアネート基などの窒素含有基、硫酸基などの硫黄含有基などの官能基も有しないことが好ましい。R
1またはR
2と、R
3、R
4またはR
5のいずれかとは、互いに結合して環を形成していてもよい。
【0028】
式(1)に示される構造を有する化合物は、環式炭化水素であってもよく、さらに単環または縮合環で構成される芳香族炭化水素であってもよい。なお、芳香族炭化水素である場合、π結合は実際は式(1)の炭素1、炭素2の間の二重結合の部分にとどまらず、非局在化している。また、環式炭化水素または芳香族炭化水素は、置換基を有していてもよい。
【0029】
該有機化合物(A)は、式(1)に示される構造およびヒドロキシル基を有し、かつ、その構造中に、アルデヒド基およびカルボキシル基といった反応性の官能基を有しないことが好ましい。
【0030】
また、該6価クロム還元化合物として、該有機化合物(A)に加えて、6価クロムと作用して3価に還元性を有する式(1)に示される構造を有し、かつ、ヒドロキシフェニル基、アルデヒド基およびカルボキシル基を有さない有機化合物(B)を含むことが好ましい。また、アミン基、イソシアネート基などの窒素含有基、硫酸基などの硫黄含有基などの官能基も有しないことが好ましい。
【0031】
有機化合物(A)または(B)としては、たとえば、下記化合物(式(2)〜(14))およびその誘導体が挙げられる。本発明では、これらの混合物を用いることも好ましい。
【0045】
なお、上記式(2)〜(12)、(14)における炭素2が、たとえば上記式(1)の炭素2に対応している。
6価クロム還元化合物は、有害な6価クロムに作用して、無害な化合物に化学変化をさせる有機化合物である。この化合物はたとえば6価のクロムを還元して3価のクロムとして無害化ができる。
【0046】
一般に還元剤は、水素化アルミニウムリチウム、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン、水素化ジブチルアルミニウム、シュウ酸、ギ酸などが知られている。これらの代表的還元剤を用いた場合、種々の問題がある。
【0047】
水素化アルミニウムリチウムを用いた場合、薬剤は粉末状の強い還元剤であるが、水と激しく反応し水素を発生するため引火性を伴い危険である。革または革製品は、通常、皮膚(汗)に触れることや、雨などに晒されることが多いため、このような引火性物質は使用に耐えない。
【0048】
水素化ホウ素ナトリウムを用いた場合、薬剤はやや吸湿性があり水分により分解しやすいので、密栓して保存しなければならない。汗や雨等の水分により生成した水溶液は、薬剤が分解生成物のため、強い塩基性を示す。そのため、皮膚(肌)や粘膜などに悪影響する。酸性および中性条件で分解して水素を発生するため、アルカリ溶液中で保存しなければならないため、革または革製品中に含有させることができない。水で分解し水素を発生するため、取り扱いも困難である。
【0049】
ヒドラジンは、アンモニアに似た刺激臭を持つ無色の液体であり、空気に触れると白煙を生じるので使用に耐えない。水に易溶で、強い還元性を持ち、分解しやすく引火性があるので取り扱いも困難である。
【0050】
水素化ジブチルアルミニウムを用いた場合、薬剤は無色液体だが、湿気に弱いため、不活性ガス雰囲気下で保存・使用することになるので一般の大気中で活用することは困難である。
【0051】
シュウ酸を用いた場合には、薬剤は体内で血液中のカルシウムイオンと強く結合するため毒性があり、毒物および劇物取締法により医薬用外劇物に指定されている。このような毒物を革または革製品に使用することは目的に合わず使用に耐えない。
【0052】
ギ酸を用いた場合には、液体のギ酸溶液や蒸気は皮膚や目に対して有害であり、特に目に対して回復不能な障害を与えてしまう場合もある。また、吸入すると肺水腫などの障害を与えることがあるため使用には耐えない。この他、慢性的な曝露により肝臓や腎臓に悪影響を及ぼすと考えられていること、アレルギー源としての可能性も考えられていることから本発明の目的に合わず使用に耐えない。
【0053】
このようなことから本出願人は、革または革製品に使用できる6価クロム還元化合物を種々鋭意調査実験し、目的に見合った化合物を見出した。
6価クロム還元化合物として含まれる有機化合物(A)および(B)は、6価クロムの処理機能がありこれを無害化する基本性能はもとより、これで処理した革または革製品が皮膚に触れた状態で、肌荒れ等の影響を及ぼさないことと、有毒性を有しないものである。また、(A)および(B)は、それぞれの還元性によっても互いに分解を引き起こさず、また、反応せず互いに干渉し得ない化合物であることが、好ましい。該有機化合物としては、上記化学式(1)に示される基本骨格を有する化合物が好ましく、C、H、Oの原子からなる安定なものが好ましい。
【0054】
上記化学式(1)に示される構造を有する該有機化合物には、アルデヒド基、カルボキシル基といった官能基を有しない。また、アミン基、イソシアネート基などの窒素含有基、硫酸基などの硫黄含有基などの官能基も有しないことが好ましい。このような官能基は反応性があるので革または革製品を使用中に予期しない反応をする恐れがあるため、6価クロム還元化合物には適さない。該有機化合物は、6価クロムに作用して6価として検出されない化合物を生成し、6価クロムを無害化することができる。
【0055】
(有機化合物(A))
有機化合物(A)は、上記化学式(1)に示される構造およびたとえば下記化学式(15)に示すヒドロキシフェニル基を有する。該官能基を有することで、革または革製品中において、即効性もあり、長く安定して滞留し、長期にわたり還元作用を有し、耐熱性に優れる。それゆえ、長期にわたり、6価クロムの生成が抑制される。また、革または革製品に含まれることで、汗や雨などの水分によっても分解されにくい。このような優れた効果を有する理由については定かではないが、なめしによって、通常、皮の主成分であるコラーゲンは化学的に架橋され安定化されている。有機化合物(A)が有するヒドロキシフェニル基が、特に、該コラーゲンとの相互作用が高いため長く保持される一方で、該コラーゲンに完全に取り込まれず、海島構造の島部分のようになり、還元性を有するほどの自由度をもって取り込まれているためと推測している。有機化合物(A)としては、革または革製品に用いるため、安全性が高く、環境への負荷が少ない化合物が好ましい。
【0057】
化学式(15)中、R
aは、一価の基または二価の基である。一価の基としては、水素原子、炭化水素基または酸素含有基が挙げられる。二価の基としては、二価の炭化水素基または二価の酸素含有基が挙げられる。この中でも、水素原子、一価の炭化水素基、二価の炭化水素基またはヒドロキシル基であることが、革または革製品中に対してより相溶性を得ることができるため、好ましい。R
aは、それぞれ独立であり、互いに同一でも異なっていてもよいが、R
aは、隣接する基が互いに結合して芳香環や脂肪族環を形成していてもよい。また、R
aが、他のヒドロキシフェニル基のR
aと結合していてもよい。R
aの全てが同時に水素原子ではないことが好ましく、革または革製品中にて、より即効性があり、安定して長期にわたってより良好な還元性を示すことから、化学式(15)で表される基は、ジヒドロキシフェニル基またはトリヒドロキシフェニル基がより好ましく、3,4,5−トリヒドロキシフェニル基がより好ましい。
【0058】
炭化水素基としては、炭素数1〜20の炭化水素基が好ましく、具体的には、炭素数1〜20のアルキル基、炭素原子数7〜20のアリールアルキル基、炭素原子数6〜20のアリール(aryl)基あるいは置換アリール(aryl)基などが挙げられる。たとえば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、アリル(allyl)基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、アミル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デカニル基、3−メチルペンチル基、1,1−ジエチルプロピル基、1,1−ジメチルブチル基、1−メチル−1−プロピルブチル基、1,1−ジプロピルブチル基、1,1−ジメチル−2−メチルプロピル基、1−メチル−1−イソプロピル−2−メチルプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、ノルボルニル基、アダマンチル基、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、キシリル基、イソプロピルフェニル基、t−ブチルフェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、ターフェニル基、フェナントリル基、アントラセニル基、ベンジル基、クミル基を挙げることができ、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基などの酸素含有基を含むものも炭化水素基(たとえば、アルコキシル基)として挙げられる。また、メチルエステル、エチルエステル、n−プロピルエステル、イソプロピルエステル、n−ブチルエステル、イソブチルエステル、(5−ノルボルネン−2−イル)エステルなどの不飽和カルボン酸エステル類(該不飽和カルボン酸がジカルボン酸である場合にはモノエステルであってもジエステルであってもよい)を含むものも炭化水素基として挙げられる。
【0059】
酸素含有基としては、ヒドロキシル基が挙げられる。
有機化合物(A)としては、たとえば、上記化学式(2)〜(12)および(14)、
フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、2,3−ジメチルフェノール、2,5−ジメチルフェノール、3,4−ジメチルフェノール、3,5−ジメチルフェノール、2,4−ジメチルフェノール、2,6−ジメチルフェノール、2,3,5−トリメチルフェノール、3,4,5−トリメチルフェノール、2−tert−ブチルフェノール、3−tert−ブチルフェノール、4−tert−ブチルフェノール、BHT(ジブチルヒドロキシトルエン)、BHA(ブチルヒドロキシアニソール)、2−フェニルフェノール、3−フェニルフェノール、4−フェニルフェノール、3,5−ジフェニルフェノール、2−ナフチルフェノール、3−ナフチルフェノール、4−ナフチルフェノール、4−トリチルフェノール、2−メチルレゾルシノール、4−メチルレゾルシノール、5−メチルレゾルシノール、4−tert−ブチルカテコール、2−メトキシフェノール、3−メトキシフェノール、2−プロピルフェノール、3−プロピルフェノール、4−プロピルフェノール、2−イソプロピルフェノール、3−イソプロピルフェノール、4−イソプロピルフェノール、2−メトキシ−5−メチルフェノール、2−tert−ブチル−5−メチルフェノール、チモール、イソチモール、1−ナフトール、2−ナフトール、2−メチル−1−ナフトール、4−メトキシ−1−ナフトール、7−メトキシ−2−ナフトール、
1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン等のジヒドロキシナフタレン、
1,3,6,8−テトラヒドロキシナフタレン等のテトラヒドロキシナフタレン、
3−ヒドロキシ−ナフタレン−2−カルボン酸メチル、9−ヒドロキシアントラセン、1−ヒドロキシピレン、1−ヒドロキシフェナントレン、9−ヒドロキシフェナントレン、ビスフェノールフルオレン、フェノールフタレイン、
2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、2,2',3,4−テトラヒドロキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体、
カテコール系タンニン、ピロガロール系タンニン、五倍子タンニン、没食子酸タンニン、フロロタンニンなどのタンニン類、
アントシアニン、ルチン、クエルセチン、フィセチン、ダイゼイン、ヘスペレチン、ヘスピリジン、クリシン、フラボノールなどのフラボノイド類、
カテキン、ガロカテキン、カテキンガラート、エピカテキン、エピカロカテキン、エピカテキンガレート、エピカロカテキンガレート、プロシアニジン、テアフラビンなどのカテキン類、
クルクミン、リグナン、
ロドデンドロール[4−(p−ヒドロキシフェニル)−2−ブタノール]、
アセチルロドデンドロール、ヘキサノイルロドデンドロール、オクタノイルロドデンドロール、ドデカノイルロドデンドロール、テトラデカノイルロドデンドロール、ヘキサデカノイルロドデンドロール、オクタデカノイルロドデンドロール、4−(3−アセトキシブチル)フェニルアセテート、4−(3−プロパノイルオキシブチル)フェニルプロパノエート、4−(3−オクタノイルオキシブチル)フェニルオクタノエート、4−(3−パルミトイルオキシブチル)フェニルパルミテート等のアシル化ロドデンドロール、
4−(3−メトキシブチル)フェノール、4−(3−エトキシブチル)フェノール、4−(3−オクチルオキシブチル)フェノール等のロドデンドロールアルキルエーテル体、
ロドデンドロール−D−グルコシド(αまたはβ体)、ロドデンドロール−D−ガラクトシド(αまたはβ体)、ロドデンドロール−D−キシロシド(αまたはβ体)、ロドデンドロール−D−マルトシド(αまたはβ体)等のロドデンドロール配糖体等、
αトコフェロール、βトコフェロール、γトコフェロール、δトコフェロールなどを挙げることができる。
【0060】
また、これらの誘導体、たとえば、アルコキシル基を有する化合物、エステル化物なども挙げられる。具体的には、たとえば、ピロガロール−1,3−ジメチルエーテル、ピロガロール−1,3−ジエチルエーテル、5−プロピルピロガロール−1−メチルエーテルなどが挙げられる。
【0061】
有機化合物(A)としては、たとえば、上記化学式(2)に示した構造(1,2,3−Trihydroxybenzene骨格)の化合物やその誘導体が有る。このような化合物は6価クロムの除去機能を有する。
【0062】
この誘導体としては上記化学式(2)に示した化合物の4,5,6位に、炭化水素基または酸素含有基などの置換基を有するものがある。好ましい置換基としては、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基および炭素数1〜20のエステル化物、より好ましくは炭素数1〜10の炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基および炭素数1〜10のエステル化物が挙げられる。これらの基については、上記に記載の通りである。なお、後述の化合物の誘導体についても同様である。たとえば、上記化学式(3)に示した化合物などの没食子酸のエステルや、上記化学式(2)の構造を1分子中に複数有する上記化学式(4)に示した化合物や該化合物の誘導体などがある。カテコール系タンニン、ピロガロール系タンニン、五倍子タンニン、没食子酸タンニン、フロロタンニンなどのタンニン類などが挙げられる。
【0063】
このように、4,5,6位に導入する置換基は、それぞれの使用法にあった置換基を導入することができる。たとえば、エステル系の溶媒に溶かして使用する場合にはエステル基を導入し相溶性を高めることもできる。
【0064】
本発明において、上記有機化合物(A)として、(i)没食子酸のエステルと、(ii)タンニン酸およびその誘導体から選ばれる少なくとも1種の化合物とを含むことが好ましく、(i)没食子酸のエステルと、(ii)タンニン酸を含むことがより好ましい。
【0065】
没食子酸のエステルは、分子量が比較的小さいため、革または革製品からブリードし易いと考えられるが、タンニン酸の部分構造を有するため、還元力を維持しながら、タンニン酸およびその誘導体と好適に相互作用し、ブリードし難くなる。革または革製品中においても還元力があり、即効性が高い。還元力はアスコルビン酸ほどではないが、タンニン酸より還元力が高いため、アスコルビン酸が分解し還元力を喪失した後においても、長期にわたり還元力を発揮する(のちに6価へ酸化されたクロムイオンを再度還元することができる)。没食子酸のエステルは、革または革製品中において、汗や雨などの水分に対しても強く、分解されにくい。
【0066】
タンニン酸およびその誘導体は、嵩高く、そもそもなめし処理に用いられるように、革または革製品中のコラーゲンなどに対して親和性がよいためブリードし難く、革および革製品中において長期にわたり還元力を維持できる。それゆえ、より長期にわたり、6価クロムの生成を抑制することができる。また、タンニン酸およびその誘導体は、ヒト(皮膚)に対して、低刺激性であるため、安全性が高い。還元力は、アスコルビン酸および没食子酸のエステルに比べて遅効性であるが、革および革製品と親和性が良く、分解されにくいため、アスコルビン酸および没食子酸のエステルに比べて、革製品がその効用および目的を達するまで還元力を維持することができる。
【0067】
それゆえ、これらの化合物を含むと、革または革製品への浸透性が高く、長く革または革製品中に滞留でき、長期にわたり安定して還元することができる。さらに、ポリフェノール類は、還元性が強いため、褐変や色落ちが懸念されるが、これらの化合物は、色落ちの前に、革または革製品中に取り込まれるため、退色や変色し難く、革または革製品の色味や風合いを損なうおそれが少ないため、好ましい。
【0068】
また、上記化学式(2)では、1位、2位、3位に水酸基を有しているが、同様に1位、2位、4位に水酸基が導入された骨格(上記化学式(5))、1位、3位、5位に水酸基が導入された骨格(上記化学式(6))の化合物についても同様の効果がある。また、誘導体についても同様の効果がある。
【0069】
また、上記化学式(2)では1つの芳香族環に3つの水酸基が導入されているが、1つの水酸基を有する化合物または2つの水酸基を有する化合物についても同様に6価クロム除去機能を有する。この様な骨格としてはたとえば、フェノール、BHT、上記化学式(7)、上記化学式(8)、上記化学式(9)の化合物およびその誘導体がある。
【0070】
芳香族環を複数結合した化合物に水酸基を有する化合物も同様の効果を有している。ナフタレン環に1つまたは、複数の水酸基を有するものなどが挙げられる。たとえば2つの水酸基を有する化合物としては上記化学式(10)、上記化学式(11)に示すものがある。この様な化合物の誘導体についても前述した化合物同様に6価クロム除去機能がある。
【0071】
芳香族環が3つ連なったアントラセンに対して、水酸基を1つないし複数個任意の位置に導入した化合物についても同様の機能を示す。この様な化合物としては、たとえば上記化学式(12)に示す化合物がある。また、これらの誘導体についても同様に6価クロム除去機能を有している。
【0072】
上記化学式(1)に示される化合物としては、たとえば、長鎖アルキル基と複合環を有する化合物がある。この様な化合物は、有機性が高くなり水溶性が低下する。しかし、一方で有機溶剤との親和性が高くなるので、炭化水素系の溶媒にも溶解できる利点がある。該化合物としては、たとえば、上記化学式(14)に示す化合物がある。
【0073】
上記化学式(1)に示される化合物としては、カテキン、ガロカテキン、カテキンガラート、エピカテキン、エピカロカテキン、エピカテキンガレート、エピカロカテキンガレート、プロシアニジン、テアフラビンなどのカテキン類、およびカテキン類の誘導体であることも好ましい。これらのカテキン類は、安全性に優れ、革または革製品中においても還元力が高い。
【0074】
(有機化合物(B))
有機化合物(B)は、上記化学式(1)に示される構造を有するが、たとえば上記化学式(15)に示すヒドロキシフェニル基を有さない。該ヒドロキシフェニル基を含まないことで、革または革製品中に浸透し難くなるが、化学式(1)に示される構造を有するので、革または革製品の表面にある6価クロムを3価クロムに好適に還元させ、無毒化させることができる。そのため、該化合物(B)を用いることで、汗や雨などの水分に溶解した6価クロムイオンの環境への溶出およびヒトへの曝露を即効性良く抑制できる。該有機化合物(B)としては、たとえば、ヘテロ環を有する化合物がある。ヘテロ環としてはフラン、クロメン、イソクロメン、キサンテンなどがある。この様な誘導体としては、たとえば上記化学式(13)に示した構造の化合物やその誘導体、エリソルビン酸やその誘導体、4−ヒドロキシフラン−2(5H)−オンが有る。このような化合物は6価クロムの除去機能を有する。
【0075】
アスコルビン酸の誘導体としては、特に限定されないが、たとえば、アスコルビン酸エステル、アスコルビン酸リン酸エステル、アスコルビン酸硫酸エステル、アスコルビン酸グルコシド(2−O−α−D−グルコピラノシル−L−アスコルビン酸)、アスコルビン酸グルコサミン、デヒドロアスコルビン酸等を挙げることができる。
【0076】
エリソルビン酸の誘導体としては、エリソルビン酸エステル等を挙げることができる。
本発明において、上記有機化合物(B)が、アスコルビン酸およびエリソルビン酸から選ばれる少なくとも1種の化合物であることが好ましく、アスコルビン酸であることがより好ましい。該化合物は、分解し易いため長期にわたり効果を実現できず、革または革製品からブリードし易いが、ヒト(皮膚)に対して低刺激性であり安全性に優れ、還元力も高く、即効性も高い。そのため、該化合物(B)を含む同時処理剤を革または革製品に接触させることで、6価クロムイオンの環境への溶出およびヒトへの曝露を効果的かつ未然に防ぐことができる。また、特に表面を迅速に無毒化処理できるため、肌荒れやアレルギーなどの発症を好適に抑制することができる。該化合物(B)は、有機化合物(A)とも反応せず相溶しなく、該化合物(A)によって分解されないので、該同時処理剤に好適に混合することができる。また、還元力が強いため、該化合物を含むことで、有機化合物(A)による褐色化や色落ちを防止できる。さらに分解性が高いため、色つきがし難く、革または革製品の色味や風合いを損なうことがないため、好ましい。
このように、上記化学式(1)に示される基本骨格を分子中に含む化合物であれば6価クロムを無害化し除去することができる。
【0077】
(6価クロム還元化合物の好ましい態様)
6価クロム還元化合物として、下記式(A−i)で表される化合物(A−i)およびタンニン(A−ii)から選ばれる少なくとも1種が好ましく、下記式(A−i)で表される化合物(A−i)と、タンニン(A−ii)とを組み合わせて用いることがより好ましい。
【0078】
化合物(A−i)は下記式(A−i)で表される。
【0080】
式中、nは、0、1または2を表す。すなわち、化合物(A−i)は、ベンゼン、ナフタレンまたはアントラセン構造を有する。
R
11〜R
18は、それぞれ独立に水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、または下記式(a−i)で表される基を表す。ここで、R
19は、炭素数1〜4のアルキル基を表す。
【0082】
炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基が挙げられる。炭素数1〜4のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基が挙げられる。
【0083】
nが0のとき、R
11〜R
14、R
16およびR
17のうち少なくとも1個はヒドロキシ基である。R
11〜R
14、R
16およびR
17のうち、2個がヒドロキシ基である場合および3個がヒドロキシ基である場合は、6価クロムを還元する能力が高くなるため好ましい。
【0084】
nが1または2のとき、R
11〜R
18のうち少なくとも1個はヒドロキシ基である。nが1または2のとき、R
11〜R
18のうち、2個がヒドロキシ基である場合および3個がヒドロキシ基である場合は、6価クロムを還元する能力が高くなるため好ましい。
【0085】
なお、nが2のとき、複数あるR
15は、同一であっても異なっていてもよく、R
18についても同様である。
R
16とR
17とは相互に一体となって5員環または6員環を形成していてもよく、該環を構成する原子としては炭素原子の他に酸素原子が含まれていてもよい。また、該環は置換基として炭素数1〜16のアルキル基を有していてもよい。炭素数1〜16のアルキル基は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。
【0086】
化合物(A−i)としては、具体的には、上述した式(2)、(3)、(5)〜(12)、(14)で表される化合物や、上述した例示化合物が挙げられる。化合物(A−i)は単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0087】
タンニン(A−ii)は、加水分解性タンニンであっても、縮合型タンニンであってもよい。加水分解性タンニンとしては、タンニン酸(上記式(4)で表される化合物)等のガロタンニン、エラジタンニンなどが挙げられる。後述する同時処理剤を調製する観点からは、加水分解性タンニンが好適に用いられる。タンニン(A−ii)は単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0088】
なお、化合物(A−i)、タンニン(A−ii)において、ヒドロキシ基が結合している炭素が、たとえば上記式(1)の炭素2に対応している。
6価クロム還元化合物として、化合物(A−i)、タンニン(A−ii)とともに、さらに下記式(B−i)で表される化合物(B−i)および下記式(B−ii)で表される化合物(B−ii)から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0090】
式中、Xは、下記式(b−i)〜(b−iii)で表される基のいずれかを表す。ここで、оは、0〜3の整数を表し、pは、1〜3の整数を表し、qは、1〜17の整数を表す。
【0092】
化合物(B−i)および化合物(B−ii)としては、具体的には、上述した式(13)で表される化合物や、上述した例示化合物が挙げられる。化合物(B−i)および化合物(B−ii)はそれぞれ単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、化合物(B−i)および化合物(B−ii)を組み合わせて用いてもよい。
【0093】
化合物(A−i)、(A−ii)、(B−i)または(B−ii)を6価クロム還元化合物として用いて革の処理を行うと、すなわち化合物(A−i)、(A−ii)、(B−i)または(B−ii)が革または革製品に含まれるように処理を行うと、革または革製品に処理前から存在している6価クロムのみならず、処理後に何らかの原因で生成する6価クロムをも還元し、たとえば無害な3価クロムとすることができる。いいかえると、革または革製品がその効用および目的を達するまで、6価クロム量が規則(EU)番号3014/2014による規制値未満の状態を保てる。特に、即効性の高い化合物(A−i)と遅効性の化合物(A−ii)とを組み合わせると、革または革製品がその効用および目的を達するまで、より確実に規制値未満の状態を保てる。さらに、化合物(A−i)および/または(A−ii)とともに、還元力および即効性の高い化合物(B−i)および/または(B−ii)を組み合わせると、処理時に、革または革製品の特に表面付近に存在している6価クロムを効果的に還元できる。
【0094】
6価クロム還元化合物によって処理する場合は、具体的には、6価クロム還元化合物を含む同時処理剤を用いる。この同時処理剤中において、有機化合物(A)および(B)の割合は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、重量%比((A):(B))で、50〜90:10〜50であることが好ましく、50〜80:20〜50であることがより好ましく、50〜70:30〜50であることがさらに好ましい(ただし、(A)と(B)との合計を100重量%とする)。有機化合物(B)は、即効性に優れるが、革または革製品に浸透しにくいため長期安定性を得られない。そのため、有機化合物(B)の量は、有機化合物(A)に比して、同程度か、少ない方が好ましい。一方、10重量%未満であると、革または革製品の表面にある6価クロムを3価クロムに好適に還元させ、無毒化させることができないおそれがある。
【0095】
該同時処理剤が、上記(i)没食子酸のエステルと、上記(ii)タンニン酸およびその誘導体から選ばれる少なくとも1種の化合物と、有機化合物(B)とを含む場合、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、重量%比((i):(ii):(B))で、1〜20:30〜89:10〜50の割合が好ましく、3〜17:33〜77:20〜50の割合がより好ましく、5〜15:35〜65:30〜50の割合がさらに好ましい(ただし、(i)、(ii)および(B)の合計を100重量%とする)。有機化合物(A)の量比については、前述のとおりである。有機化合物(B)としては、化合物(i)および(ii)と相溶せず、化合物(ii)に取り込まれず、好適に革または革製品の表面を還元させることができるため、アスコルビン酸および/またはエリソルビン酸が好ましい。化合物(i)および(ii)は、主として、革または革製品の内部の6価クロムを還元させる作用を有する。アスコルビン酸、没食子酸プロピルおよびタンニン酸は、OECDテストガイドライン(OECD Guidelines for the Testing of Chemicals)に規定する、発がん性、皮膚感作性および皮膚刺激性について、革または革製品に使用する濃度での国際的安全性の基準を満たしている。化合物(i)は、還元力が高いが、比較的分解し易い。一方、化合物(ii)は、化合物(i)を部分構造として有するため、化合物(ii)が分解されることで化合物(i)を得ることができるが、還元力は、アスコルビン酸および没食子酸のエステルに比べて遅効性である。そのため、化合物(ii)の量は、化合物(i)に比べて、多い方が好ましい。また、化合物(i)は、化合物(ii)および有機化合物(B)に比べて、ヒト(皮膚)に対して、若干、過敏性を有するおそれも指摘されており、比較的に着色性のおそれもあるため、化合物(ii)および有機化合物(B)よりも少ない量で用いることが好ましい。化合物(i)の量が1重量%未満であると、革または革製品中の6価クロムを迅速に無毒化できず、有機化合物(B)で処理しきれない量の、あるいは、有機化合物(B)が失活したあとに、未処理の6価クロムイオンが表面に溶出するおそれがある。ポリフェノール類は、還元性が強いため、褐色化や色落ちが懸念されるが、これらの量比で用いると、色落ちの前に、革または革製品中により好適に取り込まれ易くなるため、さらに退色や変色し難くなり、革または革製品の色味や風合いを殆ど損なうことがなくなるため、好ましい。また、これらの量比であれば、水および有機溶媒の両方に溶けやすくなるため、好ましい。該同時処理剤は、長期信頼性が得られるため、好ましい。
【0096】
また、同時処理剤が化合物(A−i)とタンニン(A−ii)とを含む場合、化合物(A−i)およびタンニン(A−ii)の割合は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、重量%比((A−i):(A−ii))で、11〜70:30〜89が好ましく、23〜67:33〜77がより好ましく、35〜50:50〜65がさらに好ましい(ただし、(A−i)および(A−ii)の合計を100重量%とする)。これにより、長期にわたり6価クロムが低減された状態を維持できる。
【0097】
また、同時処理剤が化合物(A−i)と、タンニン(A−ii)と、化合物(B−i)および/または(B−ii)とを含む場合、化合物(A−i)、タンニン(A−ii)、ならびに化合物(B−i)および(B−ii)の合計の割合は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、重量%比((A−i):(A−ii):(B−i)および(B−ii)の合計)で、1〜20:30〜89:10〜50が好ましく、3〜17:33〜77:20〜50がより好ましく、5〜15:35〜65:30〜50がさらに好ましい(ただし、(A−i)、(A−ii)、(B−i)および(B−ii)の合計を100重量%とする)。なお、これらの割合が好ましい理由は、上記において(i)を(A−i)に、(ii)を(A−ii)に、(B)を(B−i)および(B−ii)に置き換えた場合と同じである。
【0098】
(同時処理剤中での成分の量)
同時処理剤100質量%中に、色材および油は通常用いられる範囲の量で含まれる。また、同時処理剤100質量%中に、6価クロム還元化合物はたとえば0.01〜10.0質量%の量で含まれる。
【0099】
6価クロム還元化合物として有機化合物(A)のみを用いる場合は、同時処理剤中に含まれる有機化合物(A)の量は、特に限定されないが、同時処理剤100重量%中、合計で好ましくは0.01〜10.0(重量%)程度であり、より好ましくは0.1〜7.0(重量%)程度であり、さらに好ましく0.3〜5.0(重量%)程度であり、さらにより好ましくは0.5〜3.0(重量%)程度であり、最も好ましくは0.5〜2.0(重量%)程度である。該量で含まれると、革または革製品に対する退色や変色が特に少なくなるため、好ましい。また、長期にわたり6価クロムが低減された状態を維持できる。
【0100】
有機化合物(A)と(B)とを組み合わせて用いる場合は、同時処理剤中に含まれる有機化合物(A)および(B)の量は、特に限定されないが、同時処理剤100重量%中、合計で好ましくは0.01〜10.0(重量%)程度であり、より好ましくは0.1〜7.0(重量%)程度であり、さらに好ましく0.3〜5.0(重量%)程度であり、さらにより好ましくは0.5〜3.0(重量%)程度であり、最も好ましくは0.5〜2.0(重量%)程度である。該量で含まれると、革または革製品に対する退色や変色が特に少なくなるため、好ましい。また、長期にわたり6価クロムが低減された状態を維持できる。
【0101】
なお、同時処理剤が化合物(A−i)および/またはタンニン(A−ii)と、必要に応じて化合物(B−i)および/または(B−ii)とを含むときは、これらの量は、上記量において(A)を(A−i)および(A−ii)の合計に、(B)を(B−i)および(B−ii)の合計に置き換えた場合と同じである。
【0102】
また、同時処理剤が化合物(A−i)および/またはタンニン(A−ii)と、必要に応じて化合物(B−i)および/または(B−ii)とを含むときは、上記量以外の説明についても、(i)(没食子酸のエステル)を(A−i)に、(ii)(タンニン酸)を(A−ii)に、(A)を(A−i)および(A−ii)に、(B)を(B−i)および(B−ii)に置き換えた場合が適用される。
【0103】
同時処理剤の調製方法は、上記成分が溶解できる限り特に限定されない。6価クロム還元化合物を溶解させるためには、たとえば50〜70℃に加熱することも好ましい。
染色加脂工程および6価クロム処理工程では革と同時処理剤とを接触させるが、たとえばドラムの中に上記同時処理剤とともにクロムなめしされた革を入れて行う。
【0104】
革と同時処理剤との割合としては、通常の染色加脂における革と染色加脂剤との割合を採用できる。また、処理温度、処理時間などの条件としては、色材に応じて適切な条件を採用できる。
【0105】
これにより、革に色が付き、柔軟性等が付与される。
また、革に浸み込んだ6価クロム還元化合物が革中の6価クロムを3価クロムに還元する。そして、革は、3価クロムとともに、上記還元に使われなかった残りの6価クロム還元化合物が含まれた状態となる。6価クロム還元化合物による処理で、革は、ISO17075:2008−02に準拠して測定された6価クロムの含有量が通常3ppm未満、好ましくは2ppm以下となる。なお、3価クロム含有量は、革によって異なるため特に限定されないが、通常4000ppm以上であり、4500ppm以上、さらに5000ppm以上含まれる場合もある。また、同時処理剤による処理の前後で全クロム含有量は変化しない。
【0106】
上記処理によって革中に6価クロム還元化合物が含有された状態になると、処理後に、無害なクロムが有害な6価のクロムに変化した場合にも、この6価クロムを6価クロム還元化合物で無害化できる。すなわち、同時処理剤で処理された革は、その効用または目的を達するまで6価クロムが規制値未満である状態を維持できる。
【0107】
なお、本発明の爬虫類の革の製造方法においては、上述した工程の他に、通常行われている水漬け工程、石灰漬け工程、脱灰工程、ピックル工程、漉き工程、シェービング工程、再なめし工程などが適宜行われてもよい。
【0108】
<その他の態様>
次に、その他の態様について説明する。
本発明の爬虫類の革の製造方法は、上述した好ましい態様〔1〕の他、クロムなめし工程でクロムなめしされた革に対して6価クロム処理工程を行い、次いで6価クロム処理された革に対して染色加脂工程を行い、次いで染色および加脂された革に対して仕上げ工程を行う態様〔2〕であってもよい。また、クロムなめしされた革に対して染色加脂工程を行い、次いで染色および加脂された革に対して6価クロム処理工程を行い、次いで6価クロム処理された革に対して仕上げ工程を行う態様〔3〕であってもよい。
【0109】
態様〔2〕および〔3〕いずれも、態様〔1〕と同様に、仕上げ工程よりも6価クロム処理工程を前に行うため、仕上げ工程で得られた革の外観を損なうことなく保持できる。態様〔1〕は、態様〔2〕、〔3〕よりも工程数を減らせる点で好ましい。また、6価クロム処理工程後に、溶媒中での染色加脂工程を行うと、革に入り込んだ6価クロム還元化合物が出ていく懸念がある。態様〔1〕、〔3〕は、このような懸念がない点で好ましい。
【0110】
態様〔2〕では、まず6価クロム処理工程を行うが、ここで用いる6価クロム処理剤は、上述した同時処理剤から、色材、油および界面活性剤を除いた処理剤(すなわち、6価クロム還元化合物と水とを含む処理剤であって、本明細書において6価クロム専用処理剤ともいう。)が好適に用いられる。ただし、ノニオン系界面活性剤は含んでいてもよい。
【0111】
溶媒は、水の他、水と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。有機溶媒としては、炭素原子数1〜3のアルコール(メタノール、エタノール、プロパノールおよびイソプロパノール(IPA))、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)が挙げられる。
【0112】
革の風合いを損なわないため、水のみまたは水と炭素原子数1〜3のアルコールとの混合溶媒が好ましく、水のみまたは水とIPAとの混合溶媒がより好ましく、水のみがさらに好ましく用いられる。なお、態様〔2〕の6価クロム処理工程は加脂前に行われるため、溶媒が水であっても処理剤は浸み込みやすい。
【0113】
革の風合いを損なわないため、水と有機溶媒との混合溶媒である場合、水と有機溶媒との合計を100質量%とすると、有機溶媒は0質量%を超え20質量%以下の量で用いることが好ましい。
【0114】
上述した6価クロム処理剤による革の処理、いいかえると6価クロムの無害化は、6価クロムを含む革と6価クロム処理剤とを接触させて行われる。該接触方法としては、本発明の効果が得られる限り特に限定されないが、たとえば、噴霧、散布、ディップ、塗布、浸漬が挙げられる。具体的には、革に対して、スプレーなどによる吹付け、筆塗りや刷毛塗りなどによる塗布で処理剤を付着させて処理してもよく、また、処理剤を布に含ませて表面を擦って処理してもよい。爬虫類のようにデリケートな革の場合は、表面が非常に繊細で傷つきやすいため、スプレーなどの吹付で塗布することが好ましい。なお、態様〔2〕の6価クロム処理工程は加脂前に行われるため、革の銀面、裏面ともに処理剤は浸み込みやすい。
【0115】
さらに、6価クロム処理剤の適切な使用量は、革の繊維の太さ、密度等も考慮して適宜決定することができる。6価クロム処理剤による処理を適切に行うためには、たとえば、革の処理面に対して上述した濃度範囲で6価クロム還元化合物を含む処理剤をスプレー等により付着させていき、該処理面の裏面まで処理剤がしみ出しはじめる量を求め、この量で処理することが好ましい。この量で行うと、通常革がその効用または目的を達するまで6価クロムが規制値未満である状態を維持できる。なお、6価クロム処理剤の適切な使用量を予め求める際には、実際に6価クロム処理工程に用いる革と繊維の太さ、密度などの性状ができるだけ近い革を用いることが好ましい。
【0116】
次いで、通常行われている方法により染色加脂工程を行うが、ここで用いる染色加脂剤は、上述した同時処理剤から、6価クロム還元化合物を除いた処理剤(すなわち、色材、油、界面活性剤および水を含む処理剤)が好適に用いられる。
【0117】
態様〔3〕では、まず通常行われている方法により染色加脂工程を行うが、ここで用いる染色加脂剤については態様〔2〕と同様である。
次いで、6価クロム処理工程を行うが、ここで用いる6価クロム処理剤についても態様〔2〕と同様である。処理方法についても、態様〔2〕と同様である。ただし、態様〔3〕の6価クロム処理工程は加脂後に行われるため、溶媒は、水と有機溶媒との混合溶媒が好ましく、水と炭素原子数1〜3のアルコールとの混合溶媒がより好ましく、水とIPAとの混合溶媒がさらに好ましく用いられる。また、加脂後であるため、革の裏面の方が処理剤は浸み込みやすい。したがって、革の裏面に処理剤を塗布することが好ましい。
【0118】
また、本発明の爬虫類の革の製造方法は、態様〔1〕における同時処理剤の代わりに、水と、革の染色に通常用いられている色材と、革の加脂に通常用いられている油を可溶化した油と、6価クロム還元化合物とを含む同時処理剤を用いる態様〔1'〕であってもよい。また、本発明の爬虫類の革の製造方法は、態様〔2〕、〔3〕における染色加脂剤の代わりに、水と、革の染色に通常用いられている色材と、革の加脂に通常用いられている油を可溶化した油とを含む染色加脂剤を用いる態様〔2'〕、〔3'〕であってもよい。
さらに、本発明の爬虫類の革の製造方法は、爬虫類以外では、魚の革の製造にも好適に用いられる。
【0119】
<革>
本発明の爬虫類の革は、クロムなめしされた革であって、該革が、該革の銀面からその裏面に向かって濃度勾配なく、6価のクロムを3価のクロムに還元し得る6価クロム還元化合物を含む。本発明の革においては、仕上げ処理によって施された革の外観がそのまま保持されている。本発明の革は、たとえば上述した革の製造方法によって得られる。
【0120】
<革製品の製造方法および革製品>
本発明の革製品は、上述した革の製造方法により革を製造し、次いで該革を加工する加工工程を含む。上記革製品の製造方法においては、革の製造過程で仕上げ処理によって施された革の外観がそのまま保持されている。
【0121】
革製品(革の加工品)としては、たとえば、靴、衣料、帽子、手袋、ベルト、財布、名刺入れ、時計バンド、かばん、ブックカバー、筆入れ、携帯電話ケース、システム手帳、キーケース、眼鏡ケース、工具入れが挙げられる。
【0122】
加工工程は通常の方法により行われる。具体的には、革製品は、革のシートを必要とする形に切り取り、これに芯材や革同士を接着剤や縫うなどして貼りあわせて得られる。たとえば、時計バンドの場合は、芯となる材料の周り、すなわち表面と裏面とに、バンドの形状に切り取った革を、接着剤で貼り合わせ、加熱して得られる。また、製品によっては周囲を縫うなどして質感を出して完成させる。
【0123】
本発明の革製品は、上述した革を含む。革製品(革の加工品)の例示は上記のとおりである。上記革製品においては、革の製造過程で仕上げ処理によって施された革の外観がそのまま保持されている。また、本発明の革製品は、たとえば上述した革製品の製造方法によって得られる。
【0124】
以上より、本発明は以下に関する。
[1]
爬虫類の皮に対してクロムなめしを行って革を得るクロムなめし工程と、クロムなめしされた革に対して染色および加脂を同時に行う染色加脂工程と、染色および加脂された革に対して仕上げを行う仕上げ工程とを含む爬虫類の革の製造方法であって、
さらに、クロムなめし工程でクロムなめしされた革に対して、仕上げ工程に供する前に、6価のクロムを3価のクロムに還元し得る6価クロム還元化合物を付着させる6価クロム処理工程を含むことを特徴とする革の製造方法。
【0125】
上記製造方法によれば、革の製造過程において、外観を変化させずに6価クロム処理剤により革を処理できる。
[2]
クロムなめしされた革に対して、染色加脂工程と6価クロム処理工程とを同時に行うことを特徴とする[1]に記載の爬虫類の革の製造方法。
【0126】
上記革においては、仕上げ処理によって施された革の外観がそのまま保持されている。
[3]
前記6価クロム還元化合物が、6価クロムと作用して3価に還元性を有する化学式(1)に示される構造およびヒドロキシフェニル基を有し、かつ、アルデヒド基およびカルボキシル基を有さない、有機化合物(A)であることを特徴とする[1]または[2]に記載の革の製造方法。
【0128】
(R
1、R
2、R
3、R
4およびR
5は、それぞれ独立に、C、H、Oで構成される置換基である。R
1またはR
2と、R
3、R
4またはR
5のいずれかとは、互いに結合して環を形成していてもよい)。
【0129】
[4]
前記有機化合物(A)が、6価クロムと作用して3価に還元性を有する化学式(1)に示される構造と、ジヒドロキシフェニル基またはトリヒドロキシフェニル基とを有し、かつ、アルデヒド基およびカルボキシル基を有さない化合物であることを特徴とする[3]に記載の革の製造方法。
【0130】
[5]
前記有機化合物(A)が、6価クロムと作用して3価に還元性を有する化学式(1)に示される構造と、3,4,5−トリヒドロキシフェニル基を有し、かつ、アルデヒド基およびカルボキシル基を有さない化合物であることを特徴とする[4]に記載の革の製造方法。
【0131】
[6]
前記有機化合物(A)が、
(i)没食子酸のエステルと、
(ii)タンニン酸およびその誘導体から選ばれる少なくとも1種の化合物と
であることを特徴とする[5]に記載の革の製造方法。
【0132】
[7]
前記化合物(ii)がタンニン酸であることを特徴とする[6]に記載の革の製造方法。
【0133】
[8]
前記6価クロム還元化合物が、さらに、6価クロムと作用して3価に還元性を有する前記化学式(1)に示される構造を有し、かつ、ヒドロキシフェニル基、アルデヒド基およびカルボキシル基を有さない、有機化合物(B)を含むことを特徴とする[3]〜[7]のいずれかに記載の革の製造方法。
【0134】
[9]
前記有機化合物(B)が、アスコルビン酸、アスコルビン酸の誘導体、エリソルビン酸およびエリソルビン酸の誘導体から選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする[8]に記載の革の製造方法。
【0135】
[10]
前記6価クロム還元化合物が、下記式(A−i)で表される化合物(A−i)およびタンニン(A−ii)から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする[1]または[2]に記載の革の製造方法。
【0137】
(nは、0、1または2を表す。R
11〜R
18は、それぞれ独立に水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、または下記式(a−i)で表される基(R
19は、炭素数1〜4のアルキル基を表す。)を表す。nが0のとき、R
11〜R
14、R
16およびR
17のうち少なくとも1個はヒドロキシ基であり、nが1または2のとき、R
11〜R
18のうち少なくとも1個はヒドロキシ基である。nが2のとき、複数あるR
15は、同一であっても異なっていてもよく、R
18についても同様である。R
16とR
17とは相互に一体となって5員環または6員環を形成していてもよく、該環は置換基として炭素数1〜16のアルキル基を有していてもよい。)。
【0139】
[11]
前記6価クロム還元化合物が、さらに下記式(B−i)で表される化合物(B−i)および下記式(B−ii)で表される化合物(B−ii)から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする[10]に記載の革の製造方法。
【0141】
(Xは、下記式(b−i)〜(b−iii)で表される基(оは、0〜3の整数を表し、pは、1〜3の整数を表し、qは、1〜17の整数を表す。)のいずれかを表す。)
【0143】
上記[3]〜[11]に記載された6価クロム還元化合物を用いると、革または革製品がその効用および目的を達するまで、6価クロム量が規則(EU)番号3014/2014による規制値未満の状態を保てる。
【0144】
[12]
クロムなめしされた革であって、該革が、該革の銀面からその裏面に向かって濃度勾配なく、6価のクロムを3価のクロムに還元し得る6価クロム還元化合物を含むことを特徴とする爬虫類の革。
【0145】
上記革においては、仕上げ処理によって施された革の外観がそのまま保持されている。
[13]
前記6価クロム還元化合物が、6価クロムと作用して3価に還元性を有する化学式(1)に示される構造およびヒドロキシフェニル基を有し、かつ、アルデヒド基およびカルボキシル基を有さない、有機化合物(A)であることを特徴とする[12]に記載の革。
【0147】
(R
1、R
2、R
3、R
4およびR
5は、それぞれ独立に、C、H、Oで構成される置換基である。R
1またはR
2と、R
3、R
4またはR
5のいずれかとは、互いに結合して環を形成していてもよい)。
【0148】
[14]
前記有機化合物(A)が、6価クロムと作用して3価に還元性を有する化学式(1)に示される構造と、ジヒドロキシフェニル基またはトリヒドロキシフェニル基とを有し、かつ、アルデヒド基およびカルボキシル基を有さない化合物であることを特徴とする[13]に記載の革。
【0149】
[15]
前記有機化合物(A)が、6価クロムと作用して3価に還元性を有する化学式(1)に示される構造と、3,4,5−トリヒドロキシフェニル基を有し、かつ、アルデヒド基およびカルボキシル基を有さない化合物であることを特徴とする[14]に記載の革。
【0150】
[16]
前記有機化合物(A)が、
(i)没食子酸のエステルと、
(ii)タンニン酸およびその誘導体から選ばれる少なくとも1種の化合物と
であることを特徴とする[15]に記載の革。
【0151】
[17]
前記化合物(ii)がタンニン酸であることを特徴とする[16]に記載の革。
[18]
前記6価クロム還元化合物が、さらに、6価クロムと作用して3価に還元性を有する前記化学式(1)に示される構造を有し、かつ、ヒドロキシフェニル基、アルデヒド基およびカルボキシル基を有さない、有機化合物(B)を含むことを特徴とする[13]〜[17]のいずれかに記載の革。
【0152】
[19]
前記有機化合物(B)が、アスコルビン酸、アスコルビン酸の誘導体、エリソルビン酸およびエリソルビン酸の誘導体から選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする[18]に記載の革。
【0153】
[20]
前記6価クロム還元化合物が、下記式(A−i)で表される化合物(A−i)およびタンニン(A−ii)から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする[12]に記載の革。
【0155】
(nは、0、1または2を表す。R
11〜R
18は、それぞれ独立に水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、または下記式(a−i)で表される基(R
19は、炭素数1〜4のアルキル基を表す。)を表す。nが0のとき、R
11〜R
14、R
16およびR
17のうち少なくとも1個はヒドロキシ基であり、nが1または2のとき、R
11〜R
18のうち少なくとも1個はヒドロキシ基である。nが2のとき、複数あるR
15は、同一であっても異なっていてもよく、R
18についても同様である。R
16とR
17とは相互に一体となって5員環または6員環を形成していてもよく、該環は置換基として炭素数1〜16のアルキル基を有していてもよい。)。
【0157】
[21]
前記6価クロム還元化合物が、さらに下記式(B−i)で表される化合物(B−i)および下記式(B−ii)で表される化合物(B−ii)から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする[20]に記載の革。
【0159】
(Xは、下記式(b−i)〜(b−iii)で表される基(оは、0〜3の整数を表し、pは、1〜3の整数を表し、qは、1〜17の整数を表す。)のいずれかを表す。)
【0161】
上記[13]〜[21]に記載された6価クロム還元化合物を用いると、革または革製品がその効用および目的を達するまで、6価クロム量が規則(EU)番号3014/2014による規制値未満の状態を保てる。
【0162】
[22]
[1]〜[11]のいずれかに記載の革の製造方法により革を製造し、次いで該革を加工する加工工程を含むことを特徴とする革製品の製造方法。
【0163】
[23]
[12]〜[21]のいずれかに記載の革を含むことを特徴とする革製品。
上記革製品の製造方法または革製品においては、仕上げ処理によって施された革の外観がそのまま保持されている。
【0164】
[実施例]
次に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制約されるものではない。
【0165】
〔実施例1−1〕
クロムなめし工程においてクロムなめしされたワニの革シート(厚さ1.5mm)を用意した。この革について、ISO17075:2008−02の手法で求めた6価クロムの含有量は、8ppmであった。また、全クロムの含有率を蛍光X線分析器(エネルギー分散型蛍光X線分析装置、日本電子株式会社製JSX−3202EV ELEMENT ANALYZER)で分析したところ、7141ppmであった。なお、基準試料として、日本電子株式会社製 JSX3000シリーズ 基準試料1、JSX3000シリーズ 基準試料2およびJSX3000シリーズ エネルギー校正基準試料を用いた。測定は、日本電子株式会社資料QuickManual(番号EY07007−J00、J00 EY07007G、2007年8月版)に基づき、JSX starterにつづき PlasticD3により実施した。
【0166】
この革について、以下のようにして染色加脂工程と6価クロム処理工程とを同時に行った。水に対して、色材、油および界面活性剤とともに、化学式(3)で示される化合物0.5重量部、化学式(4)で示される化合物2.5重量部および化学式(13)で示される化合物2.0重量部を混合して溶解し、同時処理剤を得た。ここで、処理剤の全量が500重量部となるように水を用いた。
【0167】
革シートおよび同時処理剤をドラムに入れ、ドラムを回転させながら処理を行った。
乾燥後、革の一部を切り取って、ISO17075:2008−02で6価クロムの含有量を測定したところ、6価クロムは検出限界(2ppm)以下であった。全クロムの含有率は、蛍光X線分析器で分析したところ、6価クロム処理剤による処理前と変化していなかった。
【0168】
上記革の別の一部について、6価クロム還元化合物を検出できる下記検査液で検査したところ、上記革は、革の銀面からその裏面に向かって濃度勾配なく6価クロム還元化合物を含むことを確認した。
【0169】
この検査液は、革に滴下した場合、該革に6価クロム還元化合物が含まれていると青色に発色する。また、革に含まれる6価クロム還元化合物の量が多いほど濃い色の発色が見られる。銀面から厚さ方向に0.5mmずつシェービングしたサンプル、すなわち革の銀面から0.5mmまでのシェービングサンプル、0.5mmを超え1.0mmまでのシェービングサンプルおよび残りのサンプルに対して、検査液を滴下したところ、同じ濃さで発色した。
【0170】
(検査液)
水とIPAとを50:50(重量%比)で混合し、水性溶媒を調製した。塩化鉄(III)5gを上記水性溶媒95gに溶解し、5質量%の濃度で塩化鉄(III)が含まれる検査液を作製した。
さらに、染色加脂工程と6価クロム処理工程とを経た革(上記革の残り)について、グレージング処理を行い、光沢のあるワニ革を得た。
【0171】
〔実施例1−2〕
化学式(3)で示される化合物0.5重量部、化学式(4)で示される化合物2.5重量部、化学式(13)で示される化合物2.0重量部の代わりに、化学式(3)で示される化合物1.5重量部および化学式(4)で示される化合物3.5重量部を用いたほかは、実施例1−1と同様に染色加脂工程と6価クロム処理工程とを同時に行って、同時処理剤による処理を行った革を得た。
【0172】
乾燥後、革の一部を切り取って、ISO17075:2008−02で6価クロムの含有量を測定したところ、6価クロムは検出限界(2ppm)以下であった。全クロムの含有率は、蛍光X線分析器で分析したところ、6価クロム処理剤による処理前と変化していなかった。
【0173】
上記革の別の一部について、上記検査液で検査したところ、上記革は、革の銀面からその裏面に向かって濃度勾配なく6価クロム還元化合物を含むことを確認した。なお、検査は、実施例1−1と同様の方法で行った。
さらに、染色加脂工程と6価クロム処理工程とを経た革(上記革の残り)について、グレージング処理を行い、光沢のあるワニ革を得た。
【0174】
〔実施例1−3〕
化学式(3)で示される化合物0.5重量部、化学式(4)で示される化合物2.5重量部、化学式(13)で示される化合物2.0重量部の代わりに、化学式(4)で示される化合物15重量部を用いたほかは、実施例1−1と同様に染色加脂工程と6価クロム処理工程とを同時に行って、同時処理剤による処理を行った革を得た。
【0175】
乾燥後、革の一部を切り取って、ISO17075:2008−02で6価クロムの含有量を測定したところ、6価クロムは検出限界(2ppm)以下であった。全クロムの含有率は、蛍光X線分析器で分析したところ、6価クロム処理剤による処理前と変化していなかった。
【0176】
上記革の別の一部について、上記検査液で検査したところ、上記革は、革の銀面からその裏面に向かって濃度勾配なく6価クロム還元化合物を含むことを確認した。なお、検査は、実施例1−1と同様の方法で行った。
さらに、染色加脂工程と6価クロム処理工程とを経た革(上記革の残り)について、グレージング処理を行い、光沢のあるワニ革を得た。
【0177】
〔実施例2〕
クロムなめし工程においてクロムなめしされたワニの革シート(厚さ1.5mm)を用意した。この革について、ISO17075:2008−02の手法で求めた6価クロムの含有量は、8ppmであった。また、全クロムの含有率を蛍光X線分析器で分析したところ、7141ppmであった。
【0178】
この革について、以下のようにして6価クロム処理工程を行った。水に対して、化学式(3)で示される化合物0.5重量部、化学式(4)で示される化合物2.5重量部および化学式(13)で示される化合物2.0重量部を混合して溶解し、6価クロム処理剤を得た。ここで、処理剤の全量が500重量部となるように水を用いた。
【0179】
得られた処理剤に上記ワニの革を浸漬した後、これを乾燥させて、6価クロム処理剤による処理を行った革を得た。
次いで、上記革に対して色材、油および界面活性剤を含む染色加脂剤により染色加脂工程を行った。
【0180】
乾燥後、革の一部を切り取って、ISO17075:2008−02で6価クロムの含有量を測定したところ、6価クロムは検出限界(2ppm)以下であった。全クロムの含有率は、蛍光X線分析器で分析したところ、6価クロム処理剤による処理前と変化していなかった。
【0181】
上記革の別の一部について、上記検査液で検査したところ、上記革は、革の銀面からその裏面に向かって濃度勾配なく6価クロム還元化合物を含むことを確認した。なお、検査は、実施例1−1と同様の方法で行った。
さらに、染色加脂工程と6価クロム処理工程とを経た革(上記革の残り)について、グレージング処理を行い、光沢のあるワニ革を得た。
【0182】
〔実施例3〕
クロムなめし工程においてクロムなめしされたワニの革シート(厚さ1.5mm)を用意した。この革について、ISO17075:2008−02の手法で求めた6価クロムの含有量は、8ppmであった。また、全クロムの含有率を蛍光X線分析器で分析したところ、7141ppmであった。
【0183】
この革について、色材、油および界面活性剤を含む染色加脂剤により染色加脂工程を行った。
次いで、上記革に対して以下のようにして6価クロム処理工程を行った。水およびIPA(50重量%:50重量%)の混合溶媒に対して、化学式(3)で示される化合物0.5重量部、化学式(4)で示される化合物2.5重量部および化学式(13)で示される化合物2.0重量部を混合して溶解し、6価クロム処理剤を得た。ここで、処理剤の全量が500重量部となるように混合溶媒を用いた。
【0184】
得られた処理剤に上記ワニの革を浸漬した後、これを乾燥させて、6価クロム処理剤による処理を行った革を得た。
乾燥後、革の一部を切り取って、ISO17075:2008−02で6価クロムの含有量を測定したところ、6価クロムは検出限界(2ppm)以下であった。全クロムの含有率は、蛍光X線分析器で分析したところ、6価クロム処理剤による処理前と変化していなかった。
【0185】
上記革の別の一部について、上記検査液で検査したところ、上記革は、革の銀面からその裏面に向かって濃度勾配なく6価クロム還元化合物を含むことを確認した。なお、検査は、実施例1−1と同様の方法で行った。
【0186】
さらに、染色加脂工程と6価クロム処理工程とを経た革(上記革の残り)について、グレージング処理を行い、光沢のあるワニ革を得た。