特許第6574041号(P6574041)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6574041-リバーロキサバン含有医薬組成物 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6574041
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】リバーロキサバン含有医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/5377 20060101AFI20190902BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20190902BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20190902BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20190902BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20190902BHJP
【FI】
   A61K31/5377
   A61K47/26
   A61K9/20
   A61P7/02
   A61P9/10
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-224808(P2018-224808)
(22)【出願日】2018年11月30日
(65)【公開番号】特開2019-108324(P2019-108324A)
(43)【公開日】2019年7月4日
【審査請求日】2018年12月3日
(31)【優先権主張番号】特願2017-240268(P2017-240268)
(32)【優先日】2017年12月15日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】506075827
【氏名又は名称】エルメッド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】平野 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 大介
【審査官】 今村 明子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−512274(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/146709(WO,A1)
【文献】 特表2011−506363(JP,A)
【文献】 造粒便覧,1975年 5月30日,第1版第1刷,pp.293-316
【文献】 粉体工学会誌,1991年,Vol.28, No.6,pp.388-393
【文献】 大野育正,医薬品の溶出特性に影響する造粒工程の製造パラメータに関する製剤学的研究,千大院医薬博甲第49号,2007年,pp.1-84,https://opac.ll.chiba-u.jp/da/curator/900047197/IY-K-Y-049.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00− 9/72
A61K 31/00−31/80
A61K 33/00−33/44
A61K 47/00−47/69
A61P 1/00−43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リバーロキサバンを有効成分として含む錠剤の形態の固形医薬組成物であって、リバーロキサバン及び乳糖水和物を含む攪拌造粒物を含み、該造粒物中における結晶セルロースの含有量が造粒物の全質量に対して1質量%以下である固形医薬組成物。
【請求項2】
該攪拌造粒物中に実質的に結晶セルロースを含有しない請求項1に記載の固形医薬組成物。
【請求項3】
リバーロキサバンを有効成分として含む錠剤の形態の固形医薬組成物の製造方法であって、リバーロキサバン及び乳糖水和物を含む造粒用組成物を攪拌造粒して造粒物を得る工程を含み、ただし、該造粒物中における結晶セルロースの含有量が造粒物の全質量に対して1質量%以下である方法。
【請求項4】
リバーロキサバンを有効成分として含む錠剤の形態の固形医薬組成物からの有効成分の溶出性を改善する方法であって、リバーロキサバン及び乳糖水和物を含む造粒用組成物を攪拌造粒して造粒物を得る工程を含み、ただし、該造粒物中における結晶セルロースの含有量が造粒物の全質量に対して1質量%以下である方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリバーロキサバンを有効成分として含有する医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
リバーロキサバンは選択的直接作用型第Xa因子阻害剤であり、血栓塞栓性疾患の予防及び治療における有用性が認められている。リバーロキサバンを有効成分とする製剤としては「イグザレルト(登録商標)錠」及び「イグザレルト(登録商標)細粒分包」(それぞれバイエル薬品株式会社製造及び販売)が発売されており、非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制、並びに深部静脈血栓症及び肺血栓塞栓症の治療及び再発抑制に使用されている。
【0003】
リバーロキサバンは水にほとんど溶けない薬物であることから、リバーロキサバンを有効成分とする医薬を提供するにあたっては、経口投与に際して溶出性及び経口吸収性を確保することが必要である。このような問題を解決するための手段として、特許第4852423号公報には、ヒドロキシプロピルメチルセルロースとラウリル硫酸ナトリウムを水に溶解した造粒液にリバーロキサバンを懸濁し、結晶セルロース、乳糖水和物、クロスカルメロースナトリウムの混合物に噴霧し、湿式造粒(攪拌造粒および流動層造粒)を行い、その造粒物を用いて錠剤を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4852423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、リバーロキサバンを有効成分として含有する医薬組成物について、製剤の構造及び添加物と有効成分の溶出性との関係を解明すべく研究を行っていた。その過程で、特許第4852423号公報の実施例に具体的に開示された錠剤(ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びラウリル硫酸ナトリウムを水に溶解した造粒液にリバーロキサバンを懸濁し、結晶セルロース、乳糖水和物、及びクロスカルメロースナトリウムの混合物に噴霧し、湿式造粒により得られる造粒物を用いて製造した錠剤)が、ある程度満足すべき溶出性を備えており、臨床上において一応許容できる程度の経口バイオアベイラビリティーを有することを確認していた。
【0006】
もっとも、上記特許第4852423号公報の実施例に具体的に開示された錠剤に比べて、さらに有効成分の溶出性を高めて経口バイオアベイラビリティーを改善した医薬組成物を提供することができれば、所望の薬効を安定して発現させることができるものと期待される。特に、リバーロキサバンを有効成分とする医薬組成物に関しては、有効成分の薬理作用の点から出血傾向が高まる危険性があり、医薬品添付文書において「本剤の投与により出血が発現し、重篤な出血の場合には、死亡に至るおそれがある。本剤の使用にあたっては、出血の危険性を考慮し、本剤投与の適否を慎重に判断すること。」との警告が付されているが、このような重篤な副作用を回避するために、経口バイオアベイラビリティーを改善し、所望の薬効を安定して発現させることは極めて重要である。
【0007】
従って、本発明の課題は、リバーロキサバンを有効成分として含有する医薬組成物であって、特許第4852423号公報の実施例に具体的に開示された錠剤に比べて、改善された溶出性を備えており、優れた経口バイオアベイラビリティーを有する医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記の課題を解決すべく、特許第4852423号公報の実施例に具体的に開示された錠剤における添加物がリバーロキサバンの溶出性に対して及ぼす影響を仔細に検討した。その結果、上記錠剤の造粒物に含まれる結晶セルロース(実施例においては「微結晶セルロース」と記載されている)がリバーロキサバンの溶出性を低下させていることを見いだした。本発明者らは、上記の知見に基づき、リバーロキサバンを含む造粒物を湿式造粒である攪拌造粒により調製するにあたり、造粒物中の結晶セルロースの含有量を十分に低減させるか、あるいは造粒物の調製の際に用いる造粒用液体中の水分量を低減させることにより、リバーロキサバンの溶出性を顕著に改善した医薬組成物を提供できることを見いだした。本発明は上記の知見に基づいて完成されたものである。
【0009】
すなわち、本発明により、リバーロキサバンを有効成分として含む固形医薬組成物であって、リバーロキサバンを含む攪拌造粒された造粒物を含み、該造粒物中における結晶セルロースの含有量が造粒物の全質量に対して5質量%以下であり、及び/又は造粒物の調製に用いる造粒用液体中の水分量が造粒物の固形成分の全質量に対して25質量%以下である固形医薬組成物が提供される。
【0010】
本発明の好ましい態様によれば、該造粒物中における結晶セルロースの含有量が造粒物の全質量に対して1質量%以下である上記の固形医薬組成物;該造粒物中に実質的に結晶セルロースを含有しない上記の固形医薬組成物;該造粒物中に実質的に結晶セルロースを含有せず、かつ該造粒物が結晶セルロースを含む医薬用添加物と混合された上記の固形医薬組成物;造粒用液体中の水分量が造粒物の固形成分の全質量に対して20質量%以下である上記の固形医薬組成物;造粒用液体中の水分量が造粒物の固形成分の全質量に対して15質量%である上記の固形医薬組成物;及び、錠剤の形態である上記の固形医薬組成物が提供される。
【0011】
別の観点からは、リバーロキサバンを有効成分として含む固形医薬組成物の製造方法であって、リバーロキサバンを含む造粒用組成物を攪拌造粒して造粒物を得る工程を含み、ただし、該造粒物中における結晶セルロースの含有量が造粒物の全質量に対して5質量%以下であり、及び/又は造粒物の調製に用いる造粒用液体中の水分量が造粒物の固形成分の全質量に対して25質量%以下である上記方法が提供される。
【0012】
さらに別の観点からは、リバーロキサバンを有効成分として含む固形医薬組成物からの有効成分の溶出性を改善する方法であって、リバーロキサバンを含む造粒用組成物を攪拌造粒して造粒物を得る工程を含み、ただし、該造粒物中における結晶セルロースの含有量が造粒物の全質量に対して5質量%以下であり、及び/又は造粒物の調製に用いる造粒用液体中の水分量が造粒物の固形成分の全質量に対して25質量%以下である上記方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の固形医薬組成物は、有効成分であるリバーロキサバンの溶出性が改善されており、高い経口バイオアベイラビリティーを有していることから、安定した薬効発現を達成することが可能であり、出血傾向などの副作用を回避して安全に使用することができるという特徴がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】日本薬局方溶出試験第2液にポリソルベート80を0.5%濃度になるように加えた試験液を用いて実施例の錠剤1〜3についてパドル法により溶出試験を行った結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の固形医薬組成物の有効成分であるリバーロキサバン(5-クロロ-N-([(5S)-2-オキソ-3-[4-(3-オキソ-4-モルホリニル)-フェニル]-1,3-オキサゾリジン-5-イル]-メチル)-2-チオフェンカルボキサミド)を含む医薬はすでに臨床で使用されており(イグザレルト(登録商標)錠など)、当業者はリバーロキサバンを容易に入手することができる。リバーロキサバンの形態は特に限定されないが、結晶形態であることが好ましい。例えば、結晶形態であって、D50を20μm以下、好ましくは15μm以下、より好ましくは1〜8μmの範囲となるように微粉化したリバーロキサバンを用いることが好ましい場合がある。
【0016】
本発明の固形医薬組成物は、リバーロキサバンを有効成分として含む固形医薬組成物であって、リバーロキサバンを含む攪拌造粒された造粒物を含んでおり、該造粒物中における結晶セルロースの含有量が造粒物の全質量に対して5質量%以下であり、及び/又は造粒物の調製に用いる造粒用液体中の水分量が造粒物の固形成分の全質量に対して25質量%以下であることを特徴としている。
【0017】
結晶セルロース(microcrystalline cellulose, 微結晶セルロースと呼ばれる場合もある)としては粒子径や粒子形状が異なる種々の製品が提供されている。本発明の固形医薬組成物においては、造粒物中に含まれる結晶セルロースの割合が造粒物の全質量に対して5質量%以下となる限りにおいて、任意の粒子径又は粒子形状の結晶セルロースを含んでいてもよいが、好ましくは結晶セルロースの割合は造粒物全質量に対して2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下であり、造粒物中に実質的に結晶セルロースを含有しないことが特に好ましい。
【0018】
錠剤の形態の固形医薬組成物は、例えば、リバーロキサバンを含む造粒用組成物を調製した後に、造粒用組成物を攪拌造粒して造粒物を調製し、通常の手法により造粒物を圧縮成型することにより調製することができる。攪拌造粒は、一般的には、造粒用組成物を造粒容器内に投入して、回転するブレードで攪拌しながら造粒用液体を添加して、造粒用組成物を概ね球形の造粒物として凝集させる湿式造粒法であり、バッチ式又は連続式で攪拌造粒を行うための造粒機が種々提供されている。
【0019】
造粒物の調製に用いられる造粒用液体を構成する媒体としては、例えば、水、エタノール、又はイソプロパノール、あるいはこれらの任意の混合物などが用いられるが、これらに限定されることはない。本発明の固形医薬組成物の調製にあたっては、造粒用液体中の水分量を造粒物の固形成分の全質量に対して25質量%以下、好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下として造粒物の調製を行う。造粒用液体中の水分量を造粒物の固形成分の全質量に対して15質量%以下とすることが特に好ましい。
【0020】
さらに、造粒用液体中の水分量を造粒物の固形成分の全質量に対して25質量%以下とし、かつ、造粒物中に含まれる結晶セルロースの割合を造粒物の全質量に対して5質量%以下とすることが好ましく、造粒用液体中の水分量を造粒物の固形成分の全質量に対して20質量%以下とし、かつ、造粒物中に含まれる結晶セルロースの割合を造粒物の全質量に対して2質量%以下とすることがより好ましい。特に好ましいのは、造粒用液体中の水分量を造粒物の固形成分の全質量に対して15質量%以下とし、かつ、造粒物中に結晶セルロースを含まない場合である。
【0021】
造粒用液体には、例えば、結合剤などを配合してもよい。結合剤の種類は特に限定されないが、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、又はポリビニルピロリドンなどが挙げられる。さらに、造粒用液体には、上記で説明した医薬用添加物の1種又は2種を添加してもよい。例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及び/又はラウリル硫酸ナトリウムを造粒用液体に配合する態様が好ましい場合がある。同一の医薬用添加物を造粒用組成物及び造粒用液体の両者に配合することもできる。また、リバーロキサバンの一部又は全部を造粒用液体に配合することも可能である。なお、造粒物の粒子径は特に限定されないが、例えば、D50=30〜600μm程度の造粒物として調製することが好ましい場合がある。
【0022】
本発明の固形医薬組成物の形態は特に限定されないが、一般的には経口投与に適する固形医薬組成物として、例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、又はカプセル剤などの形態の固形医薬組成物として調製することが好ましい。特に好ましいのは錠剤である。以下、本発明の好ましい態様として特に錠剤について詳しく説明するが、本発明の固形医薬組成物の形態は錠剤に限定されることはない。
【0023】
造粒用組成物は、有効成分であるリバーロキサバンに加えて、通常用いられる賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、又は色素などの医薬用添加物を含む混合物として調製することができる。上記の医薬用添加物を単独で使用してもよいが、2種以上の組み合わせてとして使用してもよい。
【0024】
賦形剤としては、例えば、D-マンニトール、トウモロコシデンプン、コムギデンプン、乳糖水和物、無水乳糖、ヒドロキシプロピルセルロース、白糖、タルク、精製ゼラチン、ヒドロキシプロピルスターチ、ポリビニルピロリドン、又はケイ酸カルシウムなどが挙げられる。
【0025】
崩壊剤としては、例えば、トウモロコシデンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、カルメロースカルシウム、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウム、クロスカルメロースカルシウム、メチルセルロース、又はカルボキシメチルスターチナトリウムなどが挙げられる。
【0026】
結合剤としては、例えば、部分アルファー化デンプン、酸化デンプン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマー、ポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースナトリウム、デンプングリコール酸ナトリウム、又はミツロウなどが挙げられる。
【0027】
滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、硬化油、サラシミツロウ、カルナウバロウ、ポリエチレングリコール6000、又はフマル酸ステアリルナトリウムなどが挙げられる。
【0028】
造粒用組成物には、上記の医薬用添加物の他、必要に応じて、亜硫酸塩、トコフェロール、又はジブチルヒドロキシトルエンなどの安定化剤、ステアリン酸ポリオキシル40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ラウリル硫酸ナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン、マクロゴール、ラウロマクロゴール、ポリソルベート、ポリエチレングリコール、又はクエン酸トリエチルなどの界面活性剤を配合することもできる。もっとも、医薬用添加物は上記に例示したものに限定されることはなく、当業者であれば目的に応じて適宜選択できることは言うまでもない。
【0029】
錠剤の形態の医薬組成物は、造粒物を調製した後、通常の圧縮成型機を用いて調製することができる。錠剤の圧縮成型に際して、造粒物に適宜の医薬用添加物を混合することもできる。例えば、賦形剤、滑沢剤、結合剤、又は崩壊剤などの1種又は2種以上を造粒物に添加して混合物を調製し、その混合物を圧縮成型して錠剤を調製してもよい。その際には、賦形剤、崩壊剤、及び/又は結合剤として結晶セルロースを添加してもよい。本発明においては、造粒物中の結晶セルロースの量は制限されるが、造粒物の内部以外に存在する結晶セルロースの量は特に限定されない。錠剤を調製する際の圧縮条件や得られた錠剤の硬度も特に限定されず、当業者が適宜選択できることは言うまでもない。
【0030】
例えば、好ましい態様の一つとして、造粒物中に実質的に結晶セルロースを含有せず、かつ造粒物が結晶セルロースを含む医薬用添加物と混合された後に圧縮成型された錠剤の形態の医薬組成物を挙げることができる。造粒物と混合すべき医薬用添加物は結晶セルロースのみからなるものであってもよいが、結晶セルロース以外の医薬用添加物を1種又は2種以上含むものであってもよい。この態様において、造粒物に混合される結晶セルロースの割合は特に限定されないが、例えば、錠剤重量に対して40重量%以下、好ましくは35重量%以下、さらに好ましくは30重量%以下とすることができる。錠剤重量に対して40重量%以下の割合で結晶セルロースを含む医薬用添加物を造粒物と混合して圧縮成型により調製される錠剤では、長期保存時における有効成分の溶出性を改善できる場合があり、本発明の好ましい態様の一つである。長期保存における溶出性の改善効果は、例えば50℃、90%RHでの苛酷条件における1か月保存(開放条件)の後に通常の溶出試験を行うことにより確認することができる。
【0031】
錠剤を提供する場合には、圧縮成型により得られた素錠に対して、必要に応じてコーティングを施すこともできる。コーティングの種類は特に限定されず、フィルムコーティング、胃溶コーティング、又は腸溶コーティングなど、必要に応じて適宜のコーティングを選択し、適宜の厚さの皮膜を形成することができる。異なる2種以上のコーティングを施すことが好ましい場合もある。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
【0033】
例1
リバーロキサバン(Lupin社製) 30 g、乳糖水和物(Pharmatose 200M、DFE Pharma社製) 208.4 g、及びクロスカルメロースナトリウム(Primellose、DFE Pharma社製) 7.65 gを量り取り、攪拌造粒機(VG-01、株式会社パウレック製)で3分間混合して造粒用組成物を得た。ヒドロキシプロピルメチルセルロース(TC-5E、信越化学工業株式会社製) 5.1 g及びラウリル硫酸ナトリウム 1.275 gを水 37.87 gに溶解させた造粒用液体を造粒用組成物に添加して4分間造粒した。得られた造粒物をスクリーン径 1.58 mmの解砕機(コーミル、株式会社パウレック製)で湿式解砕し、棚式乾燥機で乾燥した。乾燥した造粒物をさらに目開き850 μmの篩を用いて解砕した。解砕した造粒物にステアリン酸マグネシウム(太平化学産業株式会社製) 2.55 gを添加して打錠用顆粒とし、ロータリー式打錠機(株式会社菊水製作所製)及び直径 6.0 mmの杵を用いて800 kgfの打錠圧で打錠して錠剤1を得た。
【0034】
例2
リバーロキサバン 40 g、乳糖水和物 175.9 g、及びクロスカルメロースナトリウム 10.2 gを量り取り、攪拌造粒機で3分間混合して造粒用組成物を得た。ヒドロキシプロピルメチルセルロース 6.8 g及びラウリル硫酸ナトリウム 1.7 gを水 35.19 gに溶解させた造粒用液体を造粒用組成物に添加して4分間造粒した。得られた造粒物をスクリーン径 1.58 mmの解砕機で湿式解砕し、棚式乾燥機で乾燥した。乾燥した造粒物をさらに目開き 850 μmの篩を用いて解砕した。解砕した造粒物に結晶セルロース(セオラスUF-711、旭化成株式会社製) 102 g及びステアリン酸マグネシウム 3.4 gを添加して打錠用顆粒とし、ロータリー式打錠機及び直径 6.0 mmの杵を用いて800 kgfの打錠圧で打錠して錠剤2を得た。
【0035】
例3
錠剤1の製造において、造粒物中の乳糖水和物を、乳糖水和物 131.9 g及び結晶セルロース 76.5 gの混合物とし、造粒用液体の水の量を75.74 gに代えた以外は、錠剤1の製造と同様にして錠剤3を得た。
【0036】
錠剤1〜3の1錠あたりの処方を表1に示す。
【表1】
【0037】
試験例1:溶出試験
試験液として日本薬局方溶出試験第2液にポリソルベート80を0.5%濃度になるように加えたものを用い、錠剤1〜3についてパドル法により溶出試験を行った。結果を表2及び図1に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
表2及び図1に示されるとおり、錠剤1及び2に比べて錠剤3では溶出率が低下していることが分かる。錠剤1及び錠剤3では、造粒物中の賦形剤として結晶セルロースを含むか否かのみが異なることから、造粒物中に結晶セルロースを含むとリバーロキサバンの溶出率が低下することが分かる。
【0040】
また、錠剤2及び錠剤3は、同量の結晶セルロースを含有する製剤であるが、結晶セルロースを造粒物中に含む錠剤3に比べて、造粒物中に結晶セルロースを含まない錠剤2(造粒物の外側に結晶セルロースが存在する)では溶出率の大きな低下は生じていなかった。従って、錠剤中に結晶セルロースを含有することが問題となるのではなく、結晶セルロースが造粒物中に存在することがリバーロキサバンの溶出率の低下に影響していることが分かる。また、造粒物中の結晶セルロースの量を低減するか、造粒物中に結晶セルロースを配合せずに攪拌造粒を行うことで、リバーロキサバンの溶出性を改善することができることも示された。
【0041】
例4
リバーロキサバン30 g、乳糖水和物208.4 g、及びクロスカルメロースナトリウム7.65 gを量り取り、攪拌造粒機で2分間混合して造粒用組成物を得た。ヒロキシプロピルメチルセルロース5.1 g及びラウリル硫酸ナトリウム1.275 gを水37.87 gに溶解させた造粒用液体を造粒用組成物に添加して4分間造粒した。得られた造粒物をスクリーン径1.58 mmの解砕機で湿式解砕し、流動層造粒機(MP-01、株式会社パウレック製)で乾燥した。乾燥した造粒物をさらに目開き850μmの篩を用いて解砕した。解砕した造粒物にステアリン酸マグネシウム2.55 gを添加して打錠用顆粒とし、ロータリー式打錠機及び直径6.0 mmの杵を用いて800 kgfの打錠圧で打錠して錠剤4を得た。
【0042】
例5
錠剤4の製造において、造粒用液体の調製に用いる水の量を75.74 gにした以外は錠剤4の製造と同様にして、錠剤5を得た。
【0043】
例6
錠剤4の製造において、造粒物中の乳糖水和物を乳糖水和物195.68 g及び結晶セルロース12.75 gの混合物に代えた以外は、錠剤4の製造と同様にして錠剤6を得た。
【0044】
例7
錠剤6の製造において、造粒用液体の調製に用いる水の量を75.74 gにした以外は錠剤6の製造と同様にして、錠剤7を得た。
【0045】
例8
錠剤4の製造において、造粒物中の乳糖水和物を乳糖水和物182.93 g及び結晶セルロース25.5 gの混合物に代えた以外は、錠剤4の製造と同様にして錠剤8を得た。
【0046】
例9
錠剤8の製造において、造粒用液体の調製に用いる水の量を75.74gにした以外は錠剤8の製造と同様にして、錠剤9を得た。
【0047】
例10
錠剤4の製造において、造粒物中の乳糖水和物を乳糖水和物157.43 g及び結晶セルロース51 gの混合物に代えた以外は、錠剤4の製造と同様にして錠剤10を得た。
【0048】
例11
錠剤10の製造において、造粒用液体の調製に用いる水の量を75.74gにした以外は錠剤10の製造と同様にして、錠剤11を得た。
【0049】
例12
錠剤4の製造において、造粒物中の乳糖水和物を乳糖水和物131.93 g及び結晶セルロース76.5 gの混合物に代えた以外は、錠剤4の製造と同様にして錠剤12を得た。
【0050】
例13
錠剤12の製造において、造粒用液体の調製に用いる水の量を75.74 gにした以外は錠剤12の製造と同様にして、錠剤13を得た。
【0051】
錠剤4〜13の1錠あたりの処方、造粒時に用いた水の量、及び造粒後と乾燥後に測定した乾燥減量を表3に示す。
【0052】
【表3】
【0053】
試験例2:溶出試験
試験例1と同様にして、試験液として日本薬局方溶出試験第2液にポリソルベート80を0.5%濃度になるように加えたものを用い、錠剤4〜13についてパドル法により溶出試験を行った。結果を表4に示す。
【0054】
【表4】
【0055】
表4に示されるとおり、錠剤4、5、6、8、10、及び12に比べて錠剤7、9、11、及び13では溶出率が低下した。これらの結果より、造粒において使用する造粒用液体中に含まれる水の量が多いと溶出率が低下する傾向があることがわかった。一方、結晶セルロースを含まない錠剤5では、造粒において使用する造粒用液体中の水の量が多いにもかかわらず、良好な溶出率が得られた。以上の結果から、造粒において使用する造粒用液体中の水の量を少なくするか、あるいは造粒物に含まれる結晶セルロースの量を低減させて攪拌造粒を行うことにより、リバーロキサバンの溶出性を改善することができることが示された。
図1