特許第6574118号(P6574118)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6574118
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】磁性流体シール付き軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/82 20060101AFI20190902BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20190902BHJP
【FI】
   F16C33/82
   F16C19/06
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-169563(P2015-169563)
(22)【出願日】2015年8月28日
(65)【公開番号】特開2017-44315(P2017-44315A)
(43)【公開日】2017年3月2日
【審査請求日】2017年9月6日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002495
【氏名又は名称】グローブライド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 浩司
(72)【発明者】
【氏名】小原 武恵
(72)【発明者】
【氏名】東本 隆
【審査官】 倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−228044(JP,A)
【文献】 特開平01−153873(JP,A)
【文献】 特開昭64−065368(JP,A)
【文献】 実開平01−109852(JP,U)
【文献】 特開平04−029680(JP,A)
【文献】 特開2001−311473(JP,A)
【文献】 実開平02−076224(JP,U)
【文献】 実開平01−169672(JP,U)
【文献】 米国特許第05051853(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/72−33/82
F16J 15/43
F16C 19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性材で形成された内輪及び外輪と、
前記内輪と外輪の間に介装された複数の転動体と、
前記内輪の外周面との間に隙間が生じるように前記外輪の内周面に対して装着され、磁性材で形成されたリング状の極板と、
前記リング状の極板の軸方向内側面に取着され、軸方向に磁極が向くように着磁されて外輪側と内輪側にそれぞれ磁気回路を形成し、前記リング状の極板よりも径方向長さが短いリング状の磁石と、
前記内輪側の磁気回路に保持され、前記隙間をシールする内輪側磁性流体と、
を有し、
前記リング状の極板の前記外輪側の径方向端部に、前記転動体側に屈曲する外輪側壁部を形成して前記磁石の外周面を前記外輪側壁部に当接することで軸方向及び径方向の移動を規制して前記リング状の磁石を位置決め固定する規制部を設け、
前記外輪側壁部の外周面を前記外輪の内周面に嵌合し
前記外輪側壁部の外周面と前記外輪の内周面との嵌合部に、前記外輪側に形成された磁気回路によって外輪側磁性流体を保持していることを特徴とする磁性流体シール付き軸受。
【請求項2】
前記外輪の転動体側内周面には段差が形成されており、
前記外輪側壁部の端面を前記段差に当て付けることで前記リング状の極板を外輪に位置決め固定したことを特徴とする請求項1に記載の磁性流体シール付き軸受。
【請求項3】
磁性材で形成された内輪及び外輪と、
前記内輪と外輪の間に介装された複数の転動体と、
前記内輪の外周面との間に隙間が生じるように前記外輪の内周面に対して装着され、磁性材で形成されたリング状の極板と、
前記リング状の極板の軸方向内側面に取着され、軸方向に磁極が向くように着磁されて外輪側と内輪側にそれぞれ磁気回路を形成し、前記リング状の極板よりも径方向長さが短いリング状の磁石と、
前記内輪側の磁気回路に保持され、前記隙間をシールする内輪側磁性流体と、
を有し、
前記リング状の極板の前記外輪側の径方向端部に、前記転動体側に屈曲する外輪側壁部を形成して前記磁石の外周面を前記外輪側壁部に当接することで軸方向及び径方向の移動を規制して前記リング状の磁石を位置決め固定する規制部を設け、
前記外輪側壁部の外周面を前記外輪の内周面に嵌合し、
前記規制部は、内輪側の径方向端部に屈曲形成された内輪側壁部を備え、
前記リング状の磁石は、その内周面が前記内輪側壁部に当接することで位置決めされていることを特徴とする磁性流体シール付き軸受。
【請求項4】
磁性材で形成された内輪及び外輪と、
前記内輪と外輪の間に介装された複数の転動体と、
前記外輪の内周面との間に隙間が生じるように前記内輪の外周面に対して装着され、磁性材で形成されたリング状の極板と、
前記リング状の極板の軸方向内側面に取着され、軸方向に磁極が向くように着磁されて外輪側と内輪側にそれぞれ磁気回路を形成し、前記リング状の極板よりも径方向長さが短いリング状の磁石と、
前記外輪側の磁気回路に保持され、前記隙間をシールする外輪側磁性流体と、
を有し、
前記リング状の極板の前記内輪側の径方向端部に、前記転動体側に屈曲する内輪側壁部を形成して前記磁石の内周面を前記内輪側壁部に当接することで軸方向及び径方向の移動を規制して前記リング状の磁石を位置決め固定する規制部を設け、
前記内輪側壁部の内周面を前記内輪の外周面に嵌合し、
前記内輪側壁部の内周面と前記内輪の外周面との嵌合部に、前記内輪側に形成された磁気回路によって内輪側磁性流体を保持していることを特徴とする磁性流体シール付き軸受。
【請求項5】
前記内輪の転動体側外周面には段差が形成されており、
前記内輪輪側壁部の端面を前記段差に当て付けることで前記リング状の極板を内輪に位置決め固定したことを特徴とする請求項4に記載の磁性流体シール付き軸受。
【請求項6】
磁性材で形成された内輪及び外輪と、
前記内輪と外輪の間に介装された複数の転動体と、
前記外輪の内周面との間に隙間が生じるように前記内輪の外周面に対して装着され、磁性材で形成されたリング状の極板と、
前記リング状の極板の軸方向内側面に取着され、軸方向に磁極が向くように着磁されて外輪側と内輪側にそれぞれ磁気回路を形成し、前記リング状の極板よりも径方向長さが短いリング状の磁石と、
前記外輪側の磁気回路に保持され、前記隙間をシールする外輪側磁性流体と、
を有し、
前記リング状の極板の前記内輪側の径方向端部に、前記転動体側に屈曲する内輪側壁部を形成して前記磁石の内周面を前記内輪側壁部に当接することで軸方向及び径方向の移動を規制して前記リング状の磁石を位置決め固定する規制部を設け、
前記内輪側壁部の内周面を前記内輪の外周面に嵌合し、
前記規制部は、外輪側の径方向端部に屈曲形成された外輪側壁部を備え、
前記リング状の磁石は、その外周面が前記外輪側壁部に当接することで位置決めされていることを特徴とする磁性流体シール付き軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の動力伝達機構に配設され、回転軸を回転自在に支持すると共に、内部に埃や水分などの異物が侵入しないようにする磁性流体シール付き軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、各種の駆動力伝達機構に設置される回転軸は、軸受を介して回転自在に支持されている。この場合、軸受は、内輪と外輪との間に周方向に沿って複数の転動体(転がり部材)を収容した、いわゆるボールベアリング(玉軸受)を用いることが多く、このようなタイプの軸受を用いることで、回転軸の回転性能の向上を図っている。
【0003】
このような軸受は、様々な駆動装置における駆動力伝達機構の回転軸の支持手段として用いられるが、駆動装置によっては、軸受部分を通過して、内部に埃、水分等の異物の侵入を防止したいことがある。また、軸受そのものに異物が侵入すると、回転性能が劣化したり、異音が生じる等の問題が生じる。そこで、例えば、特許文献1及び2には、磁性流体によるシール機能を備えた磁性流体シール付き軸受が開示されている。
【0004】
前記特許文献1に開示された磁性流体シール付き軸受は、軸受の開口部一側の内外輪間に環状の磁石を配設して外輪から転動体を通過して内輪に至る磁気回路を形成し、内輪端部の磁石との対向面間に磁性流体を保持することで内部に異物を侵入しないようにしている。また、前記特許文献2に開示された磁性流体シール付き軸受は、リング状の極板を配置したリング状の磁石を軸受の内外輪の開口部分に配設しており、内輪側と外輪側のそれぞれに磁気回路を形成して、外輪側の内周面の隙間部分、及び内輪側の外周面の隙間部分に、ともに磁性流体を保持し、外輪側及び内輪側から内部に異物を侵入しないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭57−33222号
【特許文献2】特開2013−228044号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の公知技術のように、軸受の内外輪間の隙間部分に磁性流体を保持するためには、内外輪間に磁石を配設する必要があるが、磁石は寸法精度が悪いため、磁気シールする部分の磁力にバラツキが生じ易く、これにより、安定したシール性能が得られない。特に、リング状の磁石を軸受の内外輪の段差に当て付ける構造であるため、磁石の寸法精度が悪いと、磁石と極板の同芯度を維持して軸受に組み込むことが難しく作業効率が悪い。さらに、磁石そのもので位置決めを行なうと、組み込み時の衝撃、或いは、外的な衝撃によって磁石が破損する可能性があり、安定したシール性能が得られない。
【0007】
本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、安定したシール性能が得られるとともに、磁気シール機構部分の軸受に対する組み込み作業性に優れた磁性流体シール付き軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するために、本発明に係る磁性流体シール付き軸受は、磁性材で形成された内輪及び外輪と、前記内輪と外輪の間に介装された複数の転動体と、前記内輪の外周面との間に隙間が生じるように前記外輪の内周面に対して装着され、磁性材で形成されたリング状の極板と、前記リング状の極板の軸方向内側面に取着され、軸方向に磁極が向くように着磁されて外輪側と内輪側にそれぞれ磁気回路を形成し、前記リング状の極板よりも径方向長さが短いリング状の磁石と、前記内輪側の磁気回路に保持され、前記隙間をシールする内輪側磁性流体と、を有し、前記リング状の極板に、軸方向及び径方向の移動を規制して前記リング状の磁石を位置決め固定する規制部を設けたことを特徴とする。
【0009】
上記した構成によれば、リング状の磁石は、リング状の極板に設けられている規制部によって軸方向及び径方向の移動が規制された状態でリング状の極板に位置決め固定されている。すなわち、リング状の磁石よりも寸法精度が良く、リング状の磁石が予め位置決め固定されたリング状の極板を内外輪の間に組み込むことが可能となるため、組み込み時において、寸法精度の良いリング状の極板によってリング状の磁石の位置が固定されることから、両者の同芯度が確保できると共に、磁気シール部分における磁力が安定してシール性能の向上が図れる。また、リング状の極板とリング状の磁石は、特別な治具を要することなく一体化することができ、この一体化された部材を軸受の内外輪間に組み込むことから組み込み作業性の向上が図れると共に、リング状の磁石は、外輪部分に当接することもないため、衝撃等によって破損することもなく、シール性能の安定化が図れる。
【0010】
なお、上記した構成のリング状の磁石を取着したリング状の極板は、内輪の外周面に対して装着され、外輪側に隙間を形成して外輪側磁性流体を保持して内部をシールするものであっても良い。
【0011】
また、上記した目的を達成するために、本発明に係る磁性流体シール付き軸受は、磁性材で形成された内輪及び外輪と、前記内輪と外輪の間に介装された複数の転動体と、前記内輪の外周面との間に隙間が生じるように前記外輪の内周面に対して装着され、磁性材で形成されたリング状の極板と、前記リング状の極板の軸方向内側面に取着され、軸方向に磁極が向くように着磁されて外輪側と内輪側にそれぞれ磁気回路を形成し、前記リング状の極板よりも径方向長さが短いリング状の磁石と、前記内輪側の磁気回路に保持され、前記隙間をシールする内輪側磁性流体と、を有し、前記リング状の磁石は、前記内輪及び外輪との間で、内輪側隙間及び外輪側隙間が生じるように前記リング状の極板に接着されていることを特徴とする。
【0012】
上記した構成によれば、リング状の磁石は、リング状の極板に対して内輪及び外輪との間で、内輪側隙間及び外輪側隙間が生じるようにリング状の極板に接着されている。すなわち、リング状の磁石よりも寸法精度が良く、リング状の磁石が予め位置決めして接着されたリング状の極板を内外輪の間に組み込むことが可能となるため、組み込み時において、寸法精度の良いリング状の極板によってリング状の磁石の位置が固定されることから、両者の同芯度が確保できると共に、磁気シール部分における磁力が安定してシール性能の向上が図れる。また、リング状の極板とリング状の磁石は、特別な治具を要することなく単なる接着で一体化することができ、この一体化された部材を軸受の内外輪間に組み込むことから組み込み作業性の向上が図れると共に、リング状の磁石は、内外輪部分に当接することもないため、衝撃等によって破損することもなく、シール性能の安定化が図れる。
【0013】
なお、上記した構成のリング状の磁石を取着したリング状の極板は、内輪の外周面に対して装着され、外輪側に隙間を形成して外輪側磁性流体を保持して内部をシールするものであっても良い。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、安定したシール性能が得られるとともに、磁気シール機構部分の軸受に対する組み込み作業性に優れた磁性流体シール付き軸受が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る磁性流体シール付き軸受の第1の実施形態を示す図であり、軸方向に沿った断面図。
図2図1の要部(Aで示す部分)の拡大図。
図3】本発明の第2の実施形態を示す要部拡大図。
図4】本発明の第3の実施形態を示す要部拡大図。
図5】本発明の第4の実施形態を示す要部拡大図。
図6】本発明の第5の実施形態を示す要部拡大図。
図7】本発明の第6の実施形態を示す要部拡大図。
図8】本発明の第7の実施形態を示す要部拡大図。
図9】本発明の第8の実施形態を示す要部拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明に係る磁性流体シール付き軸受の実施形態について説明する。
図1及び図2は、本発明に係る磁性流体シール付き軸受の第1の実施形態を示す図であり、図1は軸方向に沿った断面図、図2図1のAの部分の拡大図である。
【0017】
本実施形態に係る磁性流体シール付き軸受(以下、軸受とも称する)1は、円筒状の内輪3と、これを囲繞する円筒状の外輪5と、前記内輪3と外輪5との間に介装される複数の転動体(転がり部材)7とを備えている。前記転動体7は、周方向に延出するリテーナ(保持器)8に保持されており、内輪3と外輪5を相対的に回転可能としている。
【0018】
前記内輪3、外輪5及び転動体7は、磁性を有する材料、例えばクロム系ステンレス(SUS440C)によって形成されており、前記リテーナ8は、耐食性、耐熱性に優れた材料、例えばステンレス材(SUS304)によって形成されている。なお、転動体7については、必ずしも磁性体である必要はない。また、本実施形態の内輪3及び外輪5は、軸方向(軸受の軸芯方向)Xにおける長さが同一(略同一であっても良い)となるように構成されているが、外輪5を内輪3よりも軸方向に長く形成しても良いし、内輪3を外輪5よりも軸方向に長く形成しても良い。
【0019】
前記内輪3と外輪5の開口側には、以下に詳述する磁気シール機構(磁性流体シール)10が設置されている。なお、本実施形態では、前記内輪3と外輪5の両側の開口に、同じ構成の磁気シール機構10が配設されているため、以下の説明では、図1の上側の部分(点線Aで囲む部分)を参照して説明する。
【0020】
磁気シール機構10は、リング状に構成された磁石(以下、磁石とも称する)12と、この磁石12を軸方向内側面に取着するリング状の極板(以下、極板とも称する)14と、前記磁石12によって形成される磁気回路に保持される磁性流体(本実施形態では、外輪側磁性流体15a、内輪側磁性流体15b)と、を有しており、これらの部材により、前記転動体7内に、埃、水分等が侵入しないようにシールする機能を有している。
【0021】
前記磁石12としては、磁束密度が高く、磁力が強い永久磁石、例えば、焼結製法によって作成されるネオジム磁石を用いることができ、予め軸方向(軸受の軸芯方向)Xに磁極(S極、N極)が向くように着磁されている。また、磁石12の軸方向外側面には、前記極板14が接するように配設される。極板14は、前記磁石12と略同一の形状となっており、磁性を有する材料、例えばクロム系ステンレス(SUS440C)によって形成されている。したがって、内輪側及び外輪側には、それぞれ磁気回路M1,M2が形成される。
【0022】
本実施形態の極板14は、内輪3の外周面3aとの間に隙間Gが生じるように外輪5の内周面5aに対して装着されている。前記磁石12は、極板14よりも径方向(軸方向Xと直交する方向Y)の長さが短くなる(L1<L2)ように形成されており、極板14に取着された磁石12は、内輪3の外周面3aとの間で上記した隙間Gと略同程度の隙間(図に示す構成では、隙間Gよりも僅かに大きい隙間)が生じるように形成されている。また、磁石12は、極板14に対して、軸方向X及び径方向Yの移動が規制された状態で位置決め固定されている。
【0023】
本実施形態では、極板14に、磁石12を位置決め固定するための規制部14aを設けており、この規制部14aは、平板でリング状に形成されている極板14の外輪側の径方向端部に、転動体側に屈曲形成された環状の壁部として構成されている(以下において、規制部14aを外輪側壁部14aとも称する)。すなわち、リング状の磁石12は、その外周面12aが外輪側壁部14aに当接(外輪側壁部14aの内周面14bに当接)することで、極板14に対して軸方向及び径方向に対して位置決めされると共に、両者が磁気吸着することで固定されている。なお、外輪側壁部14aの高さについては、磁石12の軸方向の厚さよりも高く形成しておくことが好ましい。両者の関係をこのように設定することで、両者を一体化した際、磁石が転動体側に突出することがなく、組み込み時等において、磁石が損傷することが防止できる。
【0024】
上記したような磁気吸着される磁石12と極板14は、予めユニット化しておくことができ、このようなユニット(12,14)は、内輪3と外輪5との間の開口に、そのまま挿入して、外輪5の内周面5aに装着される。この場合、磁石12と極板14は、磁力によって吸着され、かつ規制部14aによって位置決め固定されるため、両者は接着剤等によって接着する必要はないが、ユニット化する際に両者を接着しておいても良い。
【0025】
本実施形態の外輪5には、転動体側の内周面5aに段差5bが形成されており、この段差5bにより、外輪5は、開口側が薄肉領域5A、転動体側が厚肉領域5Bとなって、軸方向の外側の内外輪間隔が内側よりも大きく形成されている。この段差5bは、開口側から挿入される前記ユニット(12,14)の内、極板14の外輪側壁部14aの端面(転動体側の端面)14cを当て付けてユニットを位置決め固定する機能を備えている。このため、段差5bは、軸方向に対して垂直な面とすることが好ましい。なお、段差5bについては、本実施形態のように、垂直な面に限定されるものではなく、極板14を安定して保持できるのであれば、階段状に形成されていたり、傾斜状(斜面)に形成されていても良い。
【0026】
上記したように、極板14は、内外輪の間に挿入して、段差に当て付いて位置決め固定されることから、極板14の外輪側壁部14aは、外輪5の内周面に対して多少の遊度をもって形成することが可能である。すなわち、外輪側壁部14aの外周面14dと外輪5の内周面5aとの間の嵌合部には、組み込み時において支障なく嵌合できるための僅かな隙間が生じるように設定されており、組み付け作業性を容易にしている。
【0027】
上記した極板14と内輪3との間に形成された隙間Gには、磁性流体(内輪側磁性流体15b)が保持される。保持される磁性流体は、例えばFeのような磁性微粒子を、界面活性剤によりベースオイルに分散させて構成されたものであり、粘性があって磁石を近づけると反応する特性を備えている。すなわち、隙間G部分に、そのような磁性流体を保持することによって隙間をシールする機能を備えている。
【0028】
上記したように、軸方向に磁極が向くように着磁されている磁石12を取着した極板14を外輪5の内周面に装着すると、内輪3側、及び外輪5側では、軸方向に対して対称となるような磁束(磁気回路M1,M2)が形成される。このため、上記した極板14と内輪3との間の隙間G、及び磁石12と内輪3との間の隙間に対しては、それぞれ内輪側磁性流体15bを保持させることが可能となる。具体的には、磁性流体をスポイト等の注入器具によって前記隙間Gに充填すると、それは磁気回路M1によって隙間Gに保持され、注入量を多くすることで磁石12と内輪3との間の隙間にも保持することが可能となる。
【0029】
なお、上記したように、磁石12は、軸方向に着磁されていることから、外輪側にも同様な磁気回路M2が形成される。この場合、磁性流体の隙間Gに対する充填量を多くすると、磁性流体は、磁気回路M1側から磁気回路M2側の磁性流体が保持される磁気回路の領域内に入ることで、磁石12の表面に沿って段差5bと極板14の外輪側壁部14aの端面14cの境界部分に移動し、外輪側で形成されている磁気回路M2によって保持されて外輪側磁性流体15aを形成するようになる。また、上記したように、極板14を、その外輪側壁部14aが外輪5の内周面に対して多少の遊度をもって形成した場合、外輪側壁部14aの外周面14dと外輪5の内周面5aとの間には、組み込み時において僅かな隙間が生じた状態となっている。このため、外輪側に、このような僅かな隙間が生じるような構成であれば、そこに磁性流体(外輪側磁性流体15a)を充填しておくことが好ましく、このような磁性流体15aは、磁気回路M2によって保持される。すなわち、本実施形態では、内輪側の隙間Gのみならず、極板14の固定側にも磁性流体を保持することにより、内部のシール性を確実にすることが可能となる。なお、このような僅かな隙間については、極板14の加工精度が高いことから寸法管理することが容易である。
【0030】
前記内輪3の外周面には、極板14と対向する部分に、外周面と直交する方向に段差3cを形成しておくことが好ましい。このような段差3cを形成しておくことで、内輪側磁性流体15bが径方向に拡がるように保持された状態となり、シール性をより高めることが可能となる。また、極板14については、内輪3及び外輪5の露出端面位置Pから転動体側に窪んだ位置に固定することが好ましい。このように、極板14を窪んだ位置に配設することで、磁性流体に他物が接触する可能性が減り、磁性流体の散逸を防止することが可能となる。
【0031】
上記した構成の軸受1によれば、極板14に磁石を吸着固定して一体化しているため、組み込み作業性が良く、特に、極板14は、外輪5の段差5bに磁力で当て付けて位置決め固定されるため、組み込み作業性が良い。また、シールに際しては、1つの部材である磁石12の磁極を軸方向となるように着磁し、これを極板14に接するように配設するだけであるため、部品点数が少なく、磁石12については、精密な寸法精度を出す必要もないことから、組み込み作業が容易になり、コストを低減することができる。さらに、内輪側及び外輪側の双方で、それぞれ磁性流体を保持する磁石12は、1つの部材として構成されており、1箇所からの注油作業で、同時に内輪側と外輪側に磁性流体によるシールを形成することが可能であるため、作業性が良好となる。
【0032】
また、極板14は、磁石12よりも寸法精度良く加工でき、そのような極板12を外輪5に嵌合するため、同芯度を高精度に維持することができ、磁性流体のシール性能が安定する。さらに、規制部12を環状の壁部として構成し、その高さを磁石12の軸方向の厚さより高く形成したことで、磁石12が直接外輪5に当接することはなく、これにより磁石を保護して損傷等が生じることが防止でき、シール性能の安定化が図れるようになる。
【0033】
上記した実施形態では、磁石12を、軸方向及び径方向に移動を規制して位置決め固定する規制部14aは、外輪側に形成した環状の壁部で構成したが、そのような規制部は、リング状に形成された磁石12を位置決めできるようになっていれば良い。このため、例えば、極板14に、磁石12が部分的に当て付くように凸部を形成したものや、周方向に沿って断続的に形成される壁部によって構成する等、適宜、変形することが可能である。
【0034】
図3は、本発明の第2の実施形態を示す図である。
なお、以下に説明する実施形態では、上記した第1の実施形態と同様な構成部分については同一の参照符号を付し、その詳細な説明については省略する。
【0035】
本実施形態は、外輪5の内周面5aに第1実施形態のような段差を形成することなく、内周面を軸方向に沿ってストレート状にしたものであり、そのまま極板14の外輪側壁部14aを圧入して位置決め固定している。このような構成では、外輪5に段差を加工する必要が無いため、コストを低減することができ、更には、部分的な厚みの変化がないことから、外輪が強度低下したり、或いは、強度維持のために大型化することもない。
【0036】
なお、このような構成においても、外輪5の内周面5aと外輪側壁部14aの外周面14cとの間の圧入嵌合部に外輪側磁性流体15aを浸透保持することも可能である。もちろん、極板は高精度に加工することができ、圧入して固定することから、磁性流体を保持しない構成であっても良い。また、外輪5の内周面5aに段差を形成する代わりに面取り(テーパ)を形成して、外輪を位置決め固定する構成であっても良い。
【0037】
図4は、本発明の第3の実施形態を示す図である。
本実施形態は、磁石12を位置決め固定する極板14の外輪側壁部14aを薄肉厚化(段差5bの径方向長さよりも外輪側壁部14aを薄肉厚化)したものである。
【0038】
このような構成によれば、外輪側に磁石12を近接配置できるため、図2に示した実施形態と比較して外輪側の磁界強度を高くすることができ、これにより外輪側磁性流体15aを多く保持して、シール性能の安定化を図ることができる。
【0039】
図5は、本発明の第4の実施形態を示す図である。
本実施形態は、磁石12を位置決め固定するため極板14の規制部を内輪側にも形成している。すなわち、図2に示した極板14の構成において、内輪側の径方向端部を転動体側に屈曲して環状の内輪側壁部14eを形成したものであり、磁石12の内周面12cを内輪側壁部14eの内面に当接することで位置決め固定するようにしている。
【0040】
このような構成では、リング状に形成された極板14の平板部に環状の凹部が形成された状態となるため、磁石12の極板14への位置決め固定作業がより簡単に行えるようになり、磁石12の極板に対する固定状態も安定する。
【0041】
なお、本実施形態では、極板14を外輪5の内周面に圧入して位置決め固定する構成としたが、図2に示した構成のように外輪5の内周面5aに段差を形成して極板14を位置決め固定する構成であっても良い。また、規制部(環状となる壁部)については、内輪側のみに形成したものであっても良い。
【0042】
図6は、本発明の第5の実施形態を示す図である。
上述した実施形態は、極板14を外輪側に装着する構成としたが、図6に示すように、極板14は、内輪3の外周面3aに装着するようにしても良い。
【0043】
すなわち、リング状の極板14は、外輪5の内周面5aとの間に隙間Gが生じるように内輪3の外周面3aに対して装着されるとともに、内輪側の径方向端部を転動体側に屈曲して環状の内輪側壁部(規制部)14eを形成している。この極板14には、軸方向に磁極が向くように着磁され、リング状の極板よりも径方向長さが短いリング状の磁石12が内輪側壁部14eに対して軸方向及び径方向の移動を規制して位置決め固定される。
【0044】
また、内輪3に対して極板14を固定するに際しては、図2に示す外輪の段差と同様、内輪の外周面の転動体側に段差3c´を形成しておき、この段差に内輪側壁部14eの端面を当て付けて位置決めする。さらに、隙間Gに対応する部分の外輪5には、段差5b´を形成しておき、外輪側磁性流体15aを安定して保持するようにしても良い。
【0045】
このように、内輪側に極板14を装着しても、上述した第1実施形態と同様な作用効果を得ることが可能である。
【0046】
なお、このように内輪側に極板14を装着する場合、上記した図3図5に示した実施形態のように構成することが可能である。例えば、極板14の外輪側の径方向端部に外輪側壁部(規制部)を形成して磁石を位置決め固定しても良いし、内輪に段差3c´を形成することなく、内輪側壁部14eを圧入固定しても良い。また、図に示すように、内輪側にも内輪側磁性流体15bを保持しても良い。このような構成においても、上記した各実施形態と同様な作用効果を発揮することが可能である。
【0047】
図7は、本発明の第6の実施形態を示す図である。
本実施形態は、リング状の磁石12を位置決め固定するリング状の極板14に上述したような規制部を形成することなく、極板を平板状に形成したものである。
極板14は、外輪5の内周面5aに対して圧入固定され、位置決め固定された状態で内輪の外周面との間に隙間Gが生じるように構成されている。
【0048】
リング状の磁石12は、極板14の軸方向内側面に取着されており、リング状の極板14と略同一の形状で、径方向長さが極板14よりも短く形成されており、上述した実施形態と同様、軸方向に磁極が向くように着磁されて外輪側と内輪側にそれぞれ磁気回路を形成している。
【0049】
磁石12と極板14は、互いに治具等により同芯度を設定した状態で接着固定されて予めユニット化されており、このように一体化されたユニット(12,14)が外輪5の内周面5aに圧入して装着固定される。この場合、磁石12は、ユニットの装着状態において、内輪3の外周面3aとの間、及び、外輪5の内周面5aとの間でそれぞれ隙間(内輪側隙間G1及び外輪側隙間G2)が生じるように極板14に対して接着される。
【0050】
このような磁気シール機構によれば、磁石12が極板14に対して径方向に突出することはなく、磁石12は内外輪に対して非接触状態(当接することのない状態)となるため、組み付け作業時等、磁石が破損することが防止される。なお、このような構成では、磁石12は、隙間G側(本実施形態では内輪側)に偏倚するように極板14に接着しておくことが好ましい。すなわち、磁石12を極板14に接着した際、磁石12の内周縁から極板14の内周縁までの距離W1が、磁石12の外周縁から極板14の外周縁までの距離W2よりも短くなる(W1<W2)ように構成されることが好ましい。
【0051】
このように接着することで、隙間G側の磁界を強くすることができ、磁性流体(内輪側磁性流体15b)を安定して保持することが可能となる。また、内輪3の磁性流体が保持される隙間Gの部分については、上述した実施形態のように段差にするのではなく、面取り(テーパ)3fを形成しても良い。このような面取りにしても、磁性流体を隙間Gに安定して保持することが可能となる。
【0052】
以上のように構成される軸受によれば、極板を屈曲する等、加工する必要が無く、単なる板状で打ち抜き加工することができるため、製造が容易になるとともに、軸受そのものを小型化することが可能である。
なお、本実施形態では、極板が圧入固定される外輪側にも外輪側磁性流体15aを保持しているが、外輪側磁性流体15aを保持しない構成であっても良い。また、極板14には、所定の位置に磁石12が接着できるようにマーキングを付与したり、凹凸などを形成しておいても良い。
【0053】
図8は、本発明の第7の実施形態を示す図である。
本実施形態は、図7に示した構成において、外輪5の転動体側内周面に段差5bを形成しており、この段差5bに極板14の外周側端縁を当て付けることで極板14を外輪に対して位置決め固定している。
【0054】
このような構成によれば、図2及び図4に示した構成と同様、ユニット(12,14)を外輪5の内周面に装着するに際しての組み込み作業性が良くなる。
【0055】
図9は、本発明の第8の実施形態を示す図である。
図8に示した実施形態は、極板14を外輪側に装着する構成としたが、図9に示すように、極板14は、内輪3の外周面3aに装着するようにしても良い。
【0056】
すなわち、リング状の極板14は、外輪5の内周面5aとの間に隙間Gが生じるように内輪3の外周面3aに対して装着されており、この隙間Gに外輪側磁性流体15aを保持するようにしている。
【0057】
内輪3に対して極板14を固定するに際しては、図8に示す外輪の段差と同様、内輪の外周面の転動体側に段差3c´を形成しておき、この段差に内周側端縁を当て付けて位置決めする。さらに、隙間Gに対応する部分の外輪5には、面取り(テーパ)5fを形成しておき、外輪側磁性流体15aを安定して保持するようにしても良い。
【0058】
このように、内輪側に極板14を装着しても、上述した第7実施形態と同様な作用効果を得ることが可能である。
【0059】
なお、このように内輪側に極板14を装着する場合、上記した図7に示した実施形態のように構成することが可能である。例えば、内輪に段差3c´を形成することなく、極板14を圧入固定しても良い。また、図に示すように、内輪側にも内輪側磁性流体15bを保持しても良いし、保持しない構成であっても良い。このような構成においても、上記した各実施形態と同様な作用効果を発揮することが可能である。
【0060】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記した実施形態に限定されることはなく、適宜変形することが可能である。
例えば、上記した実施形態では、内輪3及び外輪5の表面に、電解クロム酸処理を施しておくことが好ましい。このように電解クロム酸処理を施しておくことで、錆や腐食によって表面に亀裂や裂けが生じることが防止でき、埃や異物が内部に侵入して行くことを確実に防止することが可能となる。
【0061】
また、上記した各実施形態の構成において、開口側に配設される極板14の軸方向外側の表面に、軸方向外方からリング状のシールド(密閉カバー)を圧入固定しておいても良い。このようなシールドは、耐食性、耐熱性に優れた材料、例えばステンレス材(SUS304)や樹脂等によって形成することが可能であり、このようなシールドを配設することで、異物の侵入をより効果的に防止できると共に、砂鉄のような磁性物(異物)が磁石12に付着することを効果的に防止することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 磁性流体シール付き軸受
3 内輪
5 外輪
7 転動体
10 磁気シール機構
12 リング状の磁石
14 リング状の極板
14a 外輪側壁部(規制部)
14e 内輪側壁部(規制部)
15a,15b 磁性流体
G 隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9