(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6574179
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】エフェクターTレグ細胞を同定するための方法及びキット
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20190902BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20190902BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20190902BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20190902BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20190902BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20190902BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20190902BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20190902BHJP
【FI】
G01N33/53 K
C12Q1/02
C12N5/0783
A61K35/17 Z
A61P37/06
A61P29/00
A61P37/08
G01N33/543 597
G01N33/53 Y
【請求項の数】27
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2016-530505(P2016-530505)
(86)(22)【出願日】2014年7月30日
(65)【公表番号】特表2016-532865(P2016-532865A)
(43)【公表日】2016年10月20日
(86)【国際出願番号】EP2014066332
(87)【国際公開番号】WO2015014871
(87)【国際公開日】20150205
【審査請求日】2017年7月13日
(31)【優先権主張番号】13306106.9
(32)【優先日】2013年7月31日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(73)【特許権者】
【識別番号】596076573
【氏名又は名称】ユニヴエルシテ・ピエール・エ・マリー・キユリー・パリ・シス
(73)【特許権者】
【識別番号】591140123
【氏名又は名称】アシスタンス ピュブリク−オピトー ドゥ パリ
【氏名又は名称原語表記】ASSISTANCE PUBLIQUE − HOPITAUX DE PARIS
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ゴロチョフ,ギー
(72)【発明者】
【氏名】ミヤラ,マコト
【審査官】
海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2013/006474(WO,A2)
【文献】
特表2009−508089(JP,A)
【文献】
特表2011−505008(JP,A)
【文献】
特開2010−276435(JP,A)
【文献】
特表2009−544610(JP,A)
【文献】
特表2011−505378(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/055378(WO,A1)
【文献】
国際公開第2012/143516(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0131445(US,A1)
【文献】
LIU WEIHONG,CD127 EXPRESSION INVERSELY CORRELATES WITH FOXP3 AND SUPPRESSIVE FUNCTION OF HUMAN CD4+ T REG CELLS,THE JOURNAL OF EXPERIMENTAL MEDICINE, [ONLINE],ROCKEFELLER UNIVERSITY PRESS,2006年 7月10日,VOL:203, NR:7,,PAGE(S):1701 - 1711,URL,http://dx.doi.org/10.1084/jem.20060772
【文献】
ISHIDA H,CLINICAL UTILITY OF MONITORING SIALYL LEWIS(X) (CD15S) ANTIGEN ON PERIPHERAL LYMPHOCYTES FOR THE DIAGNOSIS AND TREATMENT OF REJECTION AFTER RENAL TRANSPLANTATION,TRANSPLANTATION,WILLIAMS AND WILKINS,2000年 1月15日,VOL:69, NR:1,,PAGE(S):59 - 63
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)液体サンプル中に含まれる細胞集団上のCD4、CD25、CD127及びCD15sマーカーの細胞表面発現を検出する工程、及びii)CD4、CD25、低いレベルのCD127、及びCD15sを発現している細胞がエフェクターTレグ細胞であると結論付ける工程を含む、液体サンプル中のエフェクターTレグ細胞(eTレグ)を同定するための方法。
【請求項2】
液体サンプルが、血液サンプル、PBMCサンプル、又は懸濁液中のTレグ細胞のサンプルからなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
液体サンプル中に含まれる細胞集団上のCD4、CD25、CD127及びCD15sマーカーの細胞表面発現の検出が、マーカーに特異的な一連の抗体を用いて実施される、請求項1又は2の方法。
【請求項4】
液体サンプル中に含まれる細胞集団上のCD4、CD25、CD127及びCD15sマーカーの細胞表面発現の検出が、フローサイトメトリーによって実施される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
i)CD4、CD25、Foxp3、及びCD15sマーカーの細胞発現を検出する工程、及びii)CD4、CD25、Foxp3、及びCD15sを発現している細胞がエフェクターTレグ細胞であると結論付ける工程を含む、組織サンプル中のエフェクターTレグ細胞(eTレグ)を同定するための方法。
【請求項6】
組織サンプルを、CD4、CD25、Foxp3、及びCD15sに特異的な一連の抗体を用いて染色することからなる工程を含む、請求項5の方法。
【請求項7】
組織サンプル中のCD4、CD25、Foxp3、及びCD15sマーカーの細胞発現の検出が免疫化学法によって実施される、請求項5又は6の方法。
【請求項8】
組織サンプルが、脳、副腎、結腸、小腸、胃、心臓、肝臓、皮膚、腎臓、肺、膵臓、精巣、卵巣、前立腺、子宮、甲状腺、及び脾臓の組織切片からなる群より選択される、請求項5〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
CD45RAの表面発現を検出することからなる工程をさらに含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
サンプル中に存在するeTレグ細胞のレベルを決定することからなる工程をさらに含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
サンプルからeTレグ細胞を単離することからなる工程をさらに含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
請求項11の方法によって得られた単離されたeTレグ。
【請求項13】
請求項12に記載の単離されたeTレグ細胞集団を含む医薬組成物。
【請求項14】
自己免疫疾患、炎症性疾患、アレルギー性疾患、及び移植片拒絶からなる群より選択される疾患の処置のための請求項13の医薬組成物。
【請求項15】
eTレグ細胞のためのバイオマーカーとしてのCD15sの使用。
【請求項16】
i)被験者から得られたサンプル中において、請求項10の方法を実施することによってeTレグ細胞集団のレベルを決定する工程、ii)工程i)で決定されたレベルを基準値と比較する工程、及びiii)工程i)で決定されたレベルが基準値よりも低い場合に、被験者は疾患を患っていることを示す工程を含む、被験者における自己免疫疾患、炎症性疾患、及びアレルギー性疾患からなる群より選択された疾患をインビトロで診断するための方法。
【請求項17】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法を実施することによってeTレグ細胞集団を検出する工程を含む、被験者において自己免疫疾患、炎症性疾患、及びアレルギー性疾患からなる群より選択された疾患を有するリスクがあるかどうかをインビトロで決定するための方法であって、該集団の存在は被験者が疾患を有するリスクがあることを示す、前記方法。
【請求項18】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法を実施することによってeTレグ細胞集団の有無を検出する工程を含む、移植片拒絶のリスクがあるかどうかをインビトロで決定するための方法であって、該集団の不在は被験者が移植片拒絶のリスクがあることを示す、前記方法。
【請求項19】
i)被験者から得られたサンプル中において、請求項10の方法を実施することによってeTレグ細胞集団のレベルを決定する工程、ii)工程i)で決定されたレベルを基準値と比較する工程、及びiii)工程i)で決定されたレベルが基準値よりも低い場合に、被験者が移植片拒絶のリスクがあることを示す工程を含む、移植片拒絶のリスクがあるかどうかをインビトロで決定するための方法。
【請求項20】
i)請求項10の方法を実施することによって疾患の1回目の特定の時期に、被験者から得られたサンプル中のeTレグ細胞集団のレベルを決定する工程、ii)請求項10の方法を実施することによって疾患の2回目の特定の時期に、被験者から得られたサンプル中のeTレグ細胞集団のレベルを決定する工程、iii)工程i)で決定されたレベルを工程ii)で決定されたレベルと比較する工程、及びiv)工程ii)で決定されたレベルが工程i)で決定されたレベルよりも低い場合に、疾患は悪い方向に進展したことを示す工程を含む、自己免疫疾患、炎症性疾患、及びアレルギー性疾患からなる群より選択された疾患をインビトロでモニタリングするための方法。
【請求項21】
i)請求項10の方法を実施することによって処置前に被験者から得られたサンプル中のeTレグ細胞集団のレベルを決定する工程、ii)請求項10の方法を実施することによって処置後に被験者から得られたサンプル中のeTレグ細胞集団のレベルを決定する工程、iii)工程i)で決定されたレベルを工程ii)で決定されたレベルと比較する工程、及びiv)工程ii)で決定されたレベルが工程i)で決定されたレベルよりも高い場合に、処置は効果的であることを示す工程を含む、自己免疫疾患、炎症性疾患、及びアレルギー性疾患からなる群より選択された疾患の処置をインビトロでモニタリングするための方法。
【請求項22】
i)請求項10の方法を実施することによって被験者から得られたサンプル中のeTレグ細胞集団のレベルを決定する工程、ii)工程i)で決定されたレベルを基準値と比較する工程、及びiii)工程i)で決定されたレベルが基準値より高い場合に、患者は悪い予後を有することを示す工程を含む、癌を患っている患者の生存期間をインビトロで予測するための方法。
【請求項23】
i)請求項10の方法を実施することによって被験者から得られたサンプル中のeTレグ細胞集団のレベルを決定する工程、ii)工程i)で決定されたレベルを基準値と比較する工程、及びiii)工程i)で決定されたレベルが基準値より低い場合に、患者は処置に有意に応答するであろうことを示す工程を含む、癌を患っている患者が処置に応答するかどうかをインビトロで決定するための方法。
【請求項24】
処置が、免疫療法剤を用いて行なわれる、請求項23の方法。
【請求項25】
細胞集団上のCD4、CD25、CD127及びCD15sマーカーの細胞表面発現を検出するための手段を含むキット。
【請求項26】
細胞集団上のCD4、CD25、Foxp3及びCD15sマーカーの細胞発現を検出するための手段を含むキット。
【請求項27】
該手段が抗体である、請求項25又は26のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2013年7月31日に出願された、欧州特許出願番号第EP13306106.9号の優先権を主張する。欧州特許出願は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
発明の分野:
本発明は、エフェクター制御性T細胞を同定するための方法及びキットに関する。
【0003】
発明の背景:
FoxP3転写因子を発現している制御性T(Tレグ)細胞は、自己寛容の維持に役立つ
3。全てのマウスFoxP3発現CD4+T細胞が効果的なTレグ細胞であると考えられるが、そのヒト対応物は表現型及び機能において異質である
4。あらゆるヒト通常型CD4+T細胞が、抑制能を有さないIL−2の存在下で活性化されるとFoxP3をアップレギュレートすることができることが広く受け入れられているが
5〜9、本発明者らは、PBMC中の全てのFoxP3発現CD4+T細胞が制御機能を有するわけではないことを実証した。実際に、FoxP3+CD4+T細胞は、(1)CD127(low)CD25++CD45RA+FoxP3(low)表現型を有するナイーブ/休止Tレグ細胞(nTレグ)、及び(2)CD127(low)CD25+++CD45RA−FoxP3(high)表現型を有するエフェクター/活性化Tレグ(eTレグ)(どちらもインビトロにおいて非常に抑制性である)、及び(3)CD127(low)CD25++CD45RA−FoxP3(low)表現型を有する抑制性ではないCD4+T細胞に分類され得る。本発明者らはまた、胸腺遊出マーカーを有するナイーブTレグ細胞が、エフェクターTレグ細胞の前駆体であることを示すことができた
10。
【0004】
FoxP3発現CD4+T細胞のこの機能的叙述の妥当性を、免疫媒介性疾患である全身性エリテマトーデス(SLE)及びサルコイドーシス(PBMC中の各サブセットは異常であり、サルコイドーシスにおいてはeTレグ細胞が顕著に増加し、活動性SLEにおいては非TレグFoxP3(low)細胞が非常に増加していた)において確認することができた
10。
【0005】
前記の分類は、細胞内FoxP3発現の分析に基づいて行なわれたので、本発明者らは、FoxP3発現細胞サブセットのための特異的な表面マーカーを決定しようと努力した。nTレグ細胞はCD127(low)CD25++CD45RA+FoxP3(low)表現型によって容易に定義され得るが
11〜13、表面マーカーの使用に基づいてFoxP3(low)非Tレグ細胞とFoxP3(high)Tレグ細胞とをどのように区別するかは依然として不明である。
【0006】
他のグループは、ヒトTレグ細胞を、ICOS
14、HLA−DR
15の発現、又はHelios
16の細胞内発現に基づいてさらに分類することができることを示し、後者は天然型Tレグ細胞に特異的であるとして報告されている。
【0007】
しかし、当技術分野におけるエフェクター/活性化Tレグのための特異的な表面マーカーのニーズは依然として充足されていない。
【0008】
それ故、本発明者らは、後者の代用識別マーカーの発現を、FoxP3及び他の表面マーカーの発現レベルと相関させようと努力した。
【0009】
発明の要約:
ここで本発明者らは、最もよく知られている表面マーカーの徹底的な研究に基づいて、CD15s(シアリルルイスx)の発現が、抑制性eTレグ細胞とFoxP3(low)非Tレグ細胞とを効果的に区別することができることを示す。本発明者らはまた、胸腺におけるFoxP3発現CD4+T細胞のCD15s発現が、末梢でeTレグによって生じる他の活性化マーカーと並行することを示す。最後に、本発明者らは、eTレグ細胞の特異的マーカーとしてのCD15sの使用は、FoxP3発現サブセットの異常を有する標準的な疾患において妥当であることを示す。
【0010】
それ故、本発明者らは本発明において初めて、eTレグ細胞に非常に特異的である表面マーカーを記載する。
【0011】
したがって、本発明は、細胞集団上のCD4、CD25、CD127及びCD15sマーカーの細胞表面発現を検出する工程を含む、液体サンプル中のエフェクターTレグ細胞(eTレグ)を同定するための方法に関し、ここで、CD4、CD25、低いレベルのCD127、及びCD15sを発現している細胞はエフェクターTレグ細胞である。
【0012】
本発明は、細胞集団上のCD4、CD25、及びCD15sマーカーの細胞発現を検出する工程を含む、組織サンプル中のエフェクターTレグ細胞(eTレグ)を同定するための方法に関し、ここで、CD4、CD25、及びCD15sを発現している細胞はエフェクターTレグ細胞である。
【0013】
本発明はまた、上記の方法によって得ることができる単離されたeTレグに関する。
【0014】
最終の態様では、本発明は、eTレグのバイオマーカーとしてのCD15sの使用に関する。
【0015】
発明の詳細な説明:
エフェクターTレグ細胞(eTレグ)を同定するための方法
本発明の目的は、i)液体サンプル中に含まれる細胞集団上のCD4、CD25、CD127及びCD15sマーカーの細胞表面発現を検出する工程、及びii)CD4、CD25、低いレベルのCD127、及びCD15sを発現している細胞がエフェクターTレグ細胞であると結論付ける工程を含む、液体サンプル中のエフェクターTレグ細胞(eTレグ)を同定するための方法に関する。
【0016】
「制御性T細胞」(「Tレグ」又は「Tレグ細胞」とも呼ばれる)という用語は当技術分野におけるその一般的な意味を有し、これはインビトロ及び/又はインビボにおいてエフェクターT細胞の活性を「抑制する」と特徴付けられるT細胞の亜集団を述べることを意図する。したがって、Tレグ細胞は、健康な免疫系の重要な成分を示す。制御性T細胞は、免疫系を調節するエフェクターT細胞を抑制することに関与し、自己抗原に対する寛容を維持し、かつ自己免疫疾患及び/又は炎症性疾患を抑止する。Tレグは、当技術分野において公知である数多くの認められているバイオマーカーを有する。制御性T細胞は、FOXP3及びCD45RAを発現する「ナイーブTレグ」、及びこれもまたFOXP3を発現するがCD45RAを発現しない「エフェクターTレグ」として定義される、CD45RAの発現によって互いに区別される2つのサブセットを含む。増大に適した細胞はナイーブTレグである。なぜなら、ナイーブTレグは刺激条件下及びIL−2の存在下で非常に増殖するが、エフェクターTレグはこのような条件下であまり増殖しないからである。したがって、FoxP3+CD4+T細胞は、(1)CD127(low)CD25++CD45RA+FoxP3(low)表現型を有するナイーブ/休止Tレグ細胞(ナイーブTレグ)、及び(2)CD127(low)CD25+++CD45RA−FoxP3(high)表現型を有するエフェクターTレグ(「エフェクターTレグ細胞」)(どちらもインビトロにおいて非常に抑制性である)、及び(3)CD127(low)CD25++CD45RA−FoxP3(low)表現型を有する抑制性ではないCD4+T細胞に分類され得る。したがって、「エフェクターTレグ細胞」(「eTレグ細胞」とも呼ばれる)という用語は、エフェクターT細胞の制御機能又は抑制機能を示す活動的なTレグ細胞を指す(Tレグ細胞の「エフェクター」の文字通りに作用する)。eTレグ細胞の制御/抑制機能の実証は、当技術分野において公知の任意の適切な方法によって決定され得る(Miyara, M. et al. Functional Delineation and Differentiation Dynamics of Human CD4(+) T Cells Expressing the FoxP3 Transcription Factor. Immunity 30, 899-911 (2009)を参照)。特に、このような試験の例は、実施例の節に提示されている。具体的には、実施例及び
図2に具現された試験は、制御性T細胞の機能評価のための標準的なインビトロ試験と捉えられる。
【0017】
実施態様によっては、本発明によるeTレグ細胞は哺乳動物eTレグ細胞、最も特定するとヒトeTレグ細胞である。
【0018】
「液体サンプル」という用語は、懸濁液中にeTレグ細胞集団を含有しやすい任意のサンプルを指す。非限定的な例としては、生物学的液体、例えば血液(例えば末梢血又は臍帯血)、尿、リンパ、脳脊髄液若しくは腺管液、又は生理的溶液(例えば食塩水、リン酸緩衝食塩水(PBS)、又は組織培養培地)中に希釈されたこのような液体、又は、生物学的液体から得られて(例えば遠心分離によって)かつ生理的溶液に懸濁された細胞が挙げられる。「細胞を含有する液体サンプル」の他の例としては、骨髄穿刺液、針生検吸引液、又は例えばリンパ節若しくは脾臓に由来する生検標本から得られた(生理的溶液中)細胞懸濁液が挙げられる。
【0019】
実施態様によっては、液体サンプルは血液サンプルである。「血液サンプル」という用語は、被験者(例えば、eTレグ細胞集団を同定することができるかどうかを決定することに関心が持たれる個体)から得られた全血サンプルを意味する。
【0020】
実施態様によっては、液体サンプルはPBMCサンプルである。本明細書において使用される「PBMC」又は「末梢血単核細胞」又は「未分画PBMC」という用語は、全PBMC、すなわち、所与の亜集団について強化されていない、丸い核を有する白血球集団を指す。典型的には、PBMCサンプルは、非接着性のPBMC(T細胞、B細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、NK T細胞、及びDC前駆体を含有する)を含有させる選択工程に付されていてもよい。それ故、本発明によるPBMCサンプルは、リンパ球(B細胞、T細胞、NK細胞、NKT細胞)を含有する。典型的には、これらの細胞は、血液の層を分離させる親水性多糖であるフィコールを使用して全血から抽出され得、PBMCは血漿の層の下にセルリングを形成する。さらに、PBMCは、選択的に赤血球を溶解する低張溶解緩衝液を使用して全血から抽出されてもよい。このような手順は当業者には公知である。
【0021】
実施態様によっては、液体サンプルは懸濁液中のTレグ細胞サンプルである。典型的には、Tレグ細胞のサンプルは、PBMCサンプルに対して実施されたFACS選別法によって調製される。例えば、Tレグ細胞は、Tレグに関連した細胞表面マーカーであるCD4、CD25、及びFoxp3に対する抗体を使用して単離される。市販のキット、例えば、Miltenyi Biotec製のCD4+CD25+制御性T細胞単離キット、又はInvitrogen製のDynal(登録商標)CD4+CD25+Tレグキットを利用できる。該方法をTレグ細胞のサンプルから実施する場合、CD15sの細胞表面発現の検出のみを行なうことができる。したがって、1つの態様では、本発明は、i)PBMCサンプルからCD4+/CD25+/CD127(low)細胞(「Tレグ細胞」)集団を選択する工程、及びii)CD15sの細胞表面発現を検出することによってeTレグ細胞集団を同定する工程からなる工程を含む、eTレグ細胞を同定するための方法に関する。
【0022】
本明細書において使用される場合、「CD4」という用語は当技術分野におけるその一般的な意味を有し、これは、成熟ヘルパーT細胞上及び未熟胸腺細胞上、並びに、単球上及びマクロファージ上に典型的に見られる細胞表面糖タンパク質を指す。T細胞上では、CD4はT細胞受容体(TCR)の共受容体であり、かつチロシンキナーゼlckを動員する。
【0023】
本明細書において使用される場合、「CD25」という用語は、分子量55kDの一本鎖糖タンパク質であるインターロイキン−2受容体のαサブユニットを指す。
【0024】
本明細書において使用される場合、「CD127」という用語は、Tレグ細胞表面上に存在するインターロイキン−7受容体を指す。IL−7受容体α鎖は文献に記載されている(例えばGoodwin et al. (1990) Cell 60:941-951)。
【0025】
本明細書において使用される場合、「CD15s」又は「シアリルルイスx」という用語は、「シアリルCD15」又は「シアリルLex」又は「Sle[x]」としても知られているが、これは、細胞膜上に発現されるヒト糖鎖接着分子、及びα2−3シアリル化(sialosylated)形のラクト−N−フコペンタオースIII(CD15)である。CD15sは顆粒球、単球、並びに多様な起源の正常細胞及び腫瘍細胞の両方上に発現されている。それは、内皮白血球接着分子−1(ELAM−1又はE−セレクチン)及び顆粒膜タンパク質−140(GMP−140又はP−セレクチン)の両方のリガンドであることが示されている。「CD15」すなわち(ラクト−N−フコペンタオースIII)は、分化抗原のクラスター、すなわち免疫学的に重要な分子である。CD15は、糖タンパク質、糖脂質及びプロテオグリカン上に発現され得る糖鎖接着分子(タンパク質ではない)である。
【0026】
細胞表面(例えばTレグ表面)におけるCD15s等の特定の表面マーカーの発現を検出するための標準的な方法は当技術分野において周知である。典型的には、表面マーカー(例えばCD15s)の表面発現を検出することからなる工程は、表面マーカーに対して指向された少なくとも1つの判別の目安になる結合対を使用することからなり得、該細胞は、該表面マーカーに対する該結合対に結合している。
【0027】
本明細書において使用される場合、「表面マーカーに対して指向される結合対」という用語は、高い親和性で表面マーカーに結合することのできる任意の分子(天然又は非天然)を指す。結合対は抗体であり得、これはポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよいが、好ましくはモノクローナル抗体である。別の実施態様では、結合対は一連のアプタマーであってもよい。
【0028】
既知の方法に従って適切な抗原又はエピトープを、例えばとりわけブタ、ウシ、ウマ、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、及びマウスから選択される宿主動物に投与することによって、本発明のポリクローナル抗体又はその断片を生成することができる。当技術分野において公知の様々なアジュバントを使用して、抗体の産生を増強させることができる。本発明の実施に有用な抗体はポリクローナル抗体でもよいが、モノクローナル抗体が好ましい。
【0029】
本発明のモノクローナル抗体又はその断片を、細胞株の連続培養によって抗体分子の産生をもたらす任意の技術を使用して調製及び単離することができる。産生及び単離の技術としては、元来のハイブリドーマ技術;ヒトB細胞ハイブリドーマ技術;及びEBV−ハイブリドーマ技術が挙げられるがこれらに限定されない。
【0030】
例えば、本発明のCD15sの結合対は、BD Pharmingenから入手可能な抗ヒトCD15s抗体(精製マウス抗ヒトCD15sクローンCSLEX1)であるか、又は、Santa Cruzから入手可能な抗体(クローン5F8又はクローンCHO131)からなる群より選択される。
【0031】
本発明の結合対、例えば抗体又はアプタマーを、検出可能な分子若しくは物質、例えば優先的には蛍光分子、又は放射性分子、又は当技術分野において公知の任意の他の標識を用いて標識し得る。一般的にシグナルを(直接的に又は間接的にのいずれかで)与える標識は当技術分野において公知である。
【0032】
本明細書において使用される場合、抗体又はアプタマーに関する「標識された」という用語は、検出可能な物質、例えばフルオロフォア[例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)又はフィコエリトリン(PE)又はインドシアニン(Cy5)]又は放射性物質を、抗体又はアプタマーに結合(すなわち物理的に連結)させることによって抗体又はアプタマーを直接標識すること、並びに、検出可能な物質との反応性によってプローブ又は抗体を間接的に標識することを包含することを意図する。本発明の抗体又はアプタマーは、当技術分野において公知の任意の方法によって放射性分子を用いて標識され得る。より特定すると、抗体はすでにフルオロフォアにコンジュゲート(例えばFITCにコンジュゲート及び/又はPEにコンジュゲート)している。
【0033】
前記のアッセイには、固相支持体への結合対(すなわち抗体又はアプタマー)の結合を含み得る。固相表面は、表面マーカーに対する結合対でコーティングされたマイクロタイタープレートであり得る。あるいは、固相表面はビーズ、例えば活性化ビーズ、磁気反応性ビーズであってもよい。ビーズは、ガラス、プラスチック、ポリスチレン及びアクリルを含むがこれらに限定されない、様々な材料から構成され得る。さらに、ビーズは好ましくは蛍光標識されている。好ましい実施態様では、蛍光ビーズは、Becton Dickinson Biosciences(サンノゼ、カリフォルニア)から入手可能なTruCount(商標)チューブに含有されたものである。本発明によると、フローサイトメトリー法が、表面マーカー(すなわちCD4、CD25、CD127及びCD15s)の表面発現を検出するための好ましい方法である。該方法は当技術分野において周知である。それ故、例えば、蛍光活性化細胞選別(FACS)が使用され得る。表面マーカーに対して指向される蛍光標識された抗体(又は抗体でコーティングされたイムノビーズ(immunobeads))を、明確に異なる蛍光色素と結合させたCD4、CD25、CD127、及びCD15sに対して指向される抗体(又は、抗CD4抗体、抗CD25抗体、抗CD127抗体、及びCD15s抗体でコーティングされたイムノビーズ)と組み合わせて使用した細胞選別プロトコールは、適切な光学配置を有する細胞選別機を使用した直接的な選別を可能とし得る。
【0034】
CD127に関連して使用される「低いレベル」又は「low」という用語は当技術分野において周知であり、これは細胞マーカーの発現レベルが、全体として分析される細胞集団におけるその細胞マーカーの発現レベルと比較して低いという、関心対象の細胞マーカー(すなわちCD127)の発現レベルを指す。より特定すると、「lo」という用語は、1つ以上の他の明確に異なる細胞集団よりも低いレベルで細胞マーカーを発現している明確に異なる細胞集団を指す。したがって、CD127
lowは、標識されたCD127抗体と接触させると僅かに又はぼんやりとしか染色しない種類の細胞を指す。
【0035】
本発明のさらなる目的は、i)CD4、CD25、Foxp3及びCD15sマーカーの細胞発現を検出する工程、及びii)CD4、CD25、Foxp3、及びCD15sを発現している細胞がエフェクターTレグ細胞であると結論付ける工程を含む、組織サンプル中のエフェクターTレグ細胞(eTレグ)を同定するための方法に関する。
【0036】
本明細書において使用される場合、「組織サンプル」という用語は、生物学的細胞の集合から典型的には構成されるサンプルを指し、これには例えば、生検サンプル、剖検サンプル、手術で得られたサンプル、細胞塗抹標本、細胞濃縮物、及び支持体上に固定された培養細胞が挙げられるがこれらに限定されない。典型的には、組織サンプルは一般的に、顕微鏡スライド上で調製された材料のサンプルの顕微鏡検査が望まれる、任意の材料を含む。組織サンプルは、診断、研究、教育、又は他の目的のために収集され得る。該サンプルは、あらゆる生物学的組織のサンプルであり得る。組織サンプルの例としては、脳、副腎、結腸、小腸、胃、心臓、肝臓、皮膚、腎臓、肺、膵臓、精巣、卵巣、前立腺、子宮、甲状腺、及び脾臓の組織切片が挙げられるがこれらに限定されない。本明細書において使用される「組織サンプル」は、新鮮であるか、又は凍結されているか、又は固定され包埋されているかのいずれかである組織切片であり得る。例えば、組織学的検査のための組織サンプルは支持媒体中に包埋され、標準化ブロックへと成形されている。パラフィンワックスは、支持媒体として公知かつ一般的に使用されているが、Sakura Finetek製のTissueTek O.C.T、エステル、微結晶セルロース、蜜蝋、樹脂、又はポリマー、例えばメタクリル酸塩等を含むがこれらに限定されない他の支持媒体もまた、支持媒体として使用され得ることが理解されるだろう。適切な樹脂及びポリマーは、Araldite 502キット、Eponate 12(商標)キット、及びメタクリル酸グリコール(GMA)キットを含むが、Ted Pella, Inc.、レディング、カリフォルニアから入手可能である。
【0037】
実施態様によっては、組織サンプルは腫瘍サンプルである。「腫瘍サンプル」は、吸引若しくは穿刺、切除によって、又は、生検材料若しくは摘除された細胞材料(保存された材料、例えば新鮮凍結材料、ホルマリンで固定された材料、パラフィン包埋された材料等を含む)をもたらす任意の他の外科的方法によって採取された、腫瘍材料、例えば新生物病変からの組織材料を含有するサンプルである。このような生物学的サンプルは、患者から得られた細胞を含み得る。該細胞は、例えば乳頭吸引、乳管洗浄細胞診、微細針生検によって回収された、又は、誘発若しくは自発的な乳頭分泌液に由来する、細胞「塗抹」に見られ得る。
【0038】
本明細書において使用される場合、「Foxp3」という用語は、転写因子として作用すると考えられている核タンパク質Foxp3を指す(Hori et al., 2003; Yasayko, J. E. et al., Nat. Genet 27:68-73 (2001); Fontenot, J. D. et al., Nat. Immunol. 4:330-336 (2003); Khattri, R. et al., Nat Immunol. 4:337-342 (2003))。
【0039】
典型的には、組織サンプル中のマーカーの検出はIHC法を用いて実施される。免疫組織化学(IHC)法は実際に、組織サンプル中のeTレグ細胞の存在を検出するのに適している。IHCは具体的に、インサイツで組織標本中の標的を検出する方法を提供する。サンプルの全細胞完全性はIHCにおいて維持され、したがって関心対象の標的(すなわちeTレグ細胞)の存在及び場所の両方の検出を可能とする。典型的には、サンプルをホルマリンを用いて固定し、パラフィンに包埋し、染色及びその後の光学顕微鏡による検査のために切断して切片とする。現在のIHC法は、直接的な標識又は二次抗体をベースとした若しくはハプテンをベースとした標識のいずれかを使用する。公知のIHCシステムの例としては、例えば、EnVision(商標)(DakoCytomation)、Powervision(R)(Immunovision、スプリングデール、AZ)、NBA(商標)キット(Zymed Laboratories Inc.、サウスサンフランシスコ、CA)、HistoFine(R)(ニチレイ社、東京、日本)が挙げられる。特定の実施態様では、組織切片(例えばeTレグ細胞を含むサンプル)を、CD4、CD25、FoxP3及びCD15sマーカーに対して指向される抗体と共にインキュベートした後、スライド又は他の支持体上に取付け得る。その後、適切な固相支持体上に固定されたサンプルの顕微鏡検査を実施し得る。顕微鏡写真の作製のために、サンプルを含む切片を、スライドガラス又は他の平坦な支持体上に取付け、関心対象のタンパク質の存在を選択的に染色することによって強調させ得る。それ故、IHCサンプルは、例えば、(a)組織サンプルの調製、(b)該細胞の固定及び包埋、並びに(c)該細胞サンプル中の関心対象のタンパク質の検出を含み得る。実施態様によっては、IHC染色手順は、組織を切断及びトリミング、固定、脱水、パラフィン浸潤、薄片への切断、スライドガラス上へと取付け、ベーキング、脱パラフィン化、再水和、抗原賦活、ブロッキング工程、一次抗体の適用、洗浄、(場合により適切な検出可能な標識に結合させた)二次抗体の適用、洗浄、対比染色、及び顕微鏡検査等の工程を含み得る。
【0040】
実施態様によっては、上記の方法はさらに、CD45RAの表面発現を検出することからなる工程を含み、CD45RAを発現しない細胞はeTレグ細胞である。
【0041】
本明細書において使用される場合、「CD45」という用語は当技術分野におけるその一般的な意味を有し、これは、造血細胞において特異的に発現されるPTPRC遺伝子によってコードされるタンパク質チロシンホスファターゼ(PTP)を指す。CD45は、受容体複合体の成分との直接的な相互作用によって、又は様々なSrcファミリーキナーゼ(SFK)、すなわちLck12を活性化及び脱リン酸化することによって、受容体のシグナル伝達を調節する。しかし、それはJAKキナーゼを阻害することによって、又はSrcの活性化している残基を脱リン酸化することによって、サイトカイン受容体シグナル伝達を阻害し得る。典型的には、CD45の2つのアイソフォームであるCD45RAとCD45ROを区別することが可能である。
【0042】
実施態様によっては、本発明の方法はさらに、サンプル中に存在するeTレグ細胞のレベルを決定することからなる工程を含む。
【0043】
実施態様によっては、本発明の方法はさらに、サンプルからeTレグ細胞を単離することからなる工程を含む。
【0044】
本発明の単離されたeTレグ及びその使用
本発明のさらなる目的は、上記の方法の1つに従って得ることができる又は得られた単離されたeTレグに関する。
【0045】
本明細書において使用される場合、「単離された」という用語は、その天然環境の少なくともいくつかの成分から分離された細胞又は細胞集団を指す。
【0046】
本発明のさらなる目的は、上記の方法の1つによって得ることができる単離された実質的に純粋で同質なeTレグ集団に関する。
【0047】
本明細書において使用される場合、「実質的に純粋で同質な集団」という用語は、全細胞数の大半(例えば、少なくとも約80%、好ましくは少なくとも約90%、より好ましくは少なくとも約95%)が、関心対象のeTレグの明記された特徴を有する、細胞集団を指す。
【0048】
eTレグ細胞(又はeTレグ細胞の実質的に純粋で同質な集団)は、自己免疫疾患及び/又は炎症性疾患、アレルギー性疾患、及び移植片拒絶の処置を含むがこれらに限定されない、数種類の適用のために使用され得る。本発明のeTレグ細胞は、被験者への注射による投与後に、実際に免疫抑制を行ない、その結果、異常な免疫反応が減少する。Tレグ細胞をベースとした治療は、理論的には、自己免疫疾患及びアレルギーを処置するためにヒトに容易に適用可能であるように思われる(Miyara M, et al (2009) Therapeutic approaches to allergy and autoimmunity based on FoxP3+ regulatory T-cell activation and expansion. J Allergy Clin Immunol 123: 749-755; quiz 756-747)。さらに、全てではなくても殆どのモデルにおいて示されているように、Tレグ細胞はインビボにおいて、自己免疫を予防し、時には疾患の発症を遅延させるが、完全に疾患を治癒することは稀であるその能力によって特徴付けられる(Bluestone JA, et al (2007) What does the future hold for cell-based tolerogenic therapy? Nat Rev Immunol 7: 650-654;及びUhlig HH, et al. (2006) Characterization of Foxp3+CD4+CD25+ and IL-10-secreting CD4+CD25+ T cells during cure of colitis. J Immunol 177: 5852-5860)。
【0049】
したがって、本発明のさらなる目的は、医薬品としての使用のための本発明の方法の1つによって得ることができるか又は得られた、単離されたeTレグ細胞に関する。
【0050】
本発明のさらなる目的は、自己免疫疾患及び/又は炎症性疾患、アレルギー性疾患及び移植片拒絶の処置における使用のための、本発明の方法の1つによって得ることができる単離されたeTレグ細胞に関する。
【0051】
それ故、本発明は、本発明の実質的に純粋で同質なeTレグ細胞集団と、場合により薬学的に許容される担体又は賦形剤とを含む、医薬組成物に関する。特定の実施態様では、医薬組成物はさらに、少なくとも1つの生物学的に活性な物質又は生理活性因子を含んでいてもよい。
【0052】
本明細書において使用される場合、「薬学的に許容される担体又は賦形剤」という用語は、Tレグ細胞の生物学的活性の効力を妨害せず、かつそれが投与される濃度において宿主に対して過度に毒性ではない、担体媒体を指す。適切な薬学的に許容される担体又は賦形剤の例としては、水、塩溶液(例えばリンガー溶液)、油、ゼラチン、糖質(例えば乳糖、アミラーゼ、又はデンプン)、脂肪酸エステル、ヒドロキシメチルセルロース、及びポリビニルピロリドンが挙げられるがこれらに限定されない。医薬組成物は、液体、半液体(例えばゲル)、又は固体(例えばマトリックス、ラティス(lattices)、スキャホールド(scaffolds)等)として製剤化され得る。
【0053】
本明細書において使用される場合、「生物学的に活性な物質」又は「生理活性因子」という用語は、本発明の医薬組成物中のその存在が、該組成物を受ける被験者にとって有益である、任意の分子又は化合物を指す。当業者には認識されているように、本発明の実施における使用に適した生物学的に活性な物質又は生理活性因子は、多種多様なファミリーの生理活性分子及び化合物に見られ得る。例えば、本発明の状況において有用な生物学的に活性な物質又は生理活性因子は、抗炎症剤、抗アポトーシス剤、免疫抑制剤又は免疫調節剤、抗酸化剤、成長因子、及び薬物から選択され得る。
【0054】
特に、本発明によるeTレグ細胞は、それを必要とする被験者においてT細胞増殖を阻害するのに特に適し得る。
【0055】
したがって、本発明の関連態様は、自己免疫疾患、アレルギー性疾患及び移植片拒絶を患う被験者を処置するための方法に関し、該方法は、本発明の実質的に純粋で同質なeTレグ集団(又はその医薬組成物)の有効量を被験者に投与する工程を含む。
【0056】
本明細書において使用される場合、「被験者」という用語は哺乳動物、好ましくはヒトを指す。
【0057】
本発明の状況において、本明細書において使用される場合、「処置する」又は「処置」という用語は、病態の発症を遅延若しくは予防すること、病態の症状の進行、増悪若しくは悪化を元に戻す、軽減、阻止、減速化、若しくは停止すること、病態の症状の寛解をもたらすこと、及び/又は病態を治癒することを目的とした方法を指す。
【0058】
本明細書において使用される場合、「有効量」という用語は、意図する目的を達成するのに十分である、実質的に純粋で同質なeTレグ集団(又はその医薬組成物)の任意の量を指す。
【0059】
本発明の状況における「自己免疫疾患及び/又は炎症性疾患」は、生体内に通常存在する物質及び組織に対する生体の過活動の免疫応答から生じた疾患に関する。換言すれば、生体は事実上自分自身の細胞又は成分を攻撃する。免疫系は生体のある一部を病原体と間違えて、それを攻撃する。これは、特定の臓器に限定され得るか(例えば甲状腺炎)、又は、異なる場所の特定の組織に併発し得る(例えば、肺及び腎臓の両方の基底膜を冒し得るグッドパスチャー病)。自己免疫疾患及び/又は炎症性疾患の処置は、典型的には、免疫応答を低下させる免疫抑制薬物療法による。自己免疫疾患及び/又は炎症性疾患の例としては、サルコイドーシス、強直性脊椎炎、クローン病(2種類の特発性炎症性腸疾患「IBD」の中の1つ)、皮膚筋炎、1型糖尿病、グッドパスチャー症候群、グレーブス病、ギラン・バレー症候群(GBS)、橋本病、化膿性汗腺炎、特発性血小板減少性紫斑病、全身性エリテマトーデス、混合性結合組織病、多発性硬化症、重症筋無力症、筋炎、ナルコレプシー、尋常性天疱瘡、悪性貧血、乾癬、乾癬性関節炎、多発性筋炎、原発性胆汁性肝硬変、再発性多発軟骨炎、関節リウマチ、全身性硬化症、側頭動脈炎(「巨細胞性動脈炎」としても知られる)、潰瘍性結腸炎(2種類の特発性炎症性腸疾患「IBD」の中の1つ)、血管炎、ウェゲナー肉芽腫症が挙げられるがこれらに限定されない。
【0060】
好ましい実施態様では、自己免疫疾患は、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症、及び血管炎からなる群より選択される。
【0061】
本明細書において使用される場合、「アレルギー性疾患」という用語は、アレルゲンに対する免疫系の過敏性障害を指す。「アレルゲン」は、アレルギーを引き起こし得る全ての物質を含み、これは例えば、ハチ刺され、ペニシリン、様々な食物アレルギー、花粉、動物の有機堆積物(例えばチリダニ、ネコ、イヌ、及びゴキブリ)、カビ、及び真菌性アレルゲンであるがこれらに限定されない。アレルギー性疾患の例としては、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アレルギー性気管支喘息、アトピー性湿疹、アナフィラキシー、虫刺され、薬物アレルギー、食物アレルギー、アレルギー性眼疾患又は多発性アレルギー(例えば喘息、湿疹及びアレルギー性鼻炎の併発)が挙げられるがこれらに限定されない。アレルギー性疾患は季節性又は通年性である。
【0062】
本発明のさらなる態様は、本発明の実質的に純粋で同質なeTレグ集団(又はその医薬組成物)の有効量を被験者に投与する工程を含む、レシピエント被験者による、ドナーの組織、細胞、移植片、又は臓器移植の拒絶に伴う免疫応答を予防又は抑制するための方法に関する。
【0063】
典型的には、被験者は、心臓、腎臓、肺、肝臓、膵臓、膵島、脳組織、胃、大腸、小腸、角膜、皮膚、気管、骨、骨髄、筋肉、又は膀胱からなる群より選択された移植片を移植され得る。本発明の方法は実際に、移植片に関連した疾患を予防及び処置するのに特に適している。移植片に関連した疾患又は障害としては、例えば骨髄移植に伴う移植片対宿主病(GVDH)、及び、例えば皮膚、筋肉、ニューロン、膵島、臓器、肝臓の実質細胞等の移植片を含む、臓器、組織、又は細胞の移植片の移植(例えば組織又は細胞の同種移植片又は異種移植片)の拒絶から生じた又はそれに伴う免疫障害が挙げられる。レシピエント被験者におけるドナーの組織、細胞、移植片、又は固形臓器の移植に関して、本発明によるeTレグ細胞は、レシピエントにおけるこのような移植の急性拒絶を予防する上で、及び/又は、レシピエントにおけるこのような移植の拒絶を予防するための長期維持療法のために(例えば、糖尿病を患う被験者レシピエントにおいて、ドナー由来のインスリン産生膵島細胞移植の拒絶を阻止する上で)効果的であり得ると考えられている。したがって、本発明の方法は、宿主対移植片病(HVGD)及び移植片対宿主病(GVHD)を予防するのに有用である。eTレグ細胞を、移植前及び/又は移植後に被験者に投与し得る(例えば、移植の少なくとも1日前、移植から1〜5日後等)。実施態様によっては、eTレグ細胞を、移植前及び/又は移植後に周期的に被験者に投与し得る。
【0064】
eTレグのバイオマーカーとしてのCD15sの使用及び診断法
最後に、本発明者らは、CD15sが、疾患におけるeTレグ細胞の妥当なマーカーであることを確認した。本発明者らは、eTレグ細胞の追加のマーカーとしてCD15sを使用した場合、FoxP3、CD45RA及びKi−67の発現に基づいたTレグサブセットの定義を使用するeTレグ細胞の保有率は、健康なドナーにおいては変更されておらず、サルコイドーシスでは僅かに高く見積もられ、SLE(全身性エリテマトーデス)では僅かに低く見積もられたことを観察した。特に、FoxP3発現CD4+T細胞サブセットにおいて観察された異常は、このマーカーを使用すると依然として存在しかつ顕著であった。最後に、本発明者らは、本発明の方法を、軽度の未処置の菌状息肉腫を有する被験者のPBMCに適用し、明瞭に異なるCD15s+FoxP3(high)eTレグ細胞集団を観察することができた。
図5に示されているように、活動性SLEにおけるCD15s+エフェクターTレグ細胞のレベルは、健康なドナーと比較して有意に減少している。
【0065】
したがって、本発明のさらなる目的は、eTレグ細胞のバイオマーカーとしてのCD15sの使用に関する。CD15sは、増大中のeTレグ細胞上でアップレギュレートされているので、CD15sはまた、インビトロで増大中の天然型Tレグ細胞(nTレグ)の純度を評価するための品質管理マーカーとして使用することができる。
【0066】
本発明のさらなる目的は、i)被験者から得られたサンプル中において、本発明の方法の1つを実施することによってeTレグ細胞集団のレベルを決定する工程、ii)工程i)で決定されたレベルを基準値と比較する工程、及びiii)工程i)で決定されたレベルが基準値よりも低い場合に、被験者は疾患を患っていると結論付ける工程を含む、被験者における自己免疫疾患、炎症性疾患、及びアレルギー性疾患からなる群より選択された疾患をインビトロで診断するための方法に関する。
【0067】
「診断」という用語は、状態の同定、又は疾患の重度の評価を意味する。
【0068】
「基準値」は一般的に、自己免疫疾患及び/若しくは炎症性疾患又はアレルギー性疾患又は移植片拒絶を患っていない被験者において決定された数値を指す。典型的には、基準値は、最適な感度及び特異性、すなわちベネフィット/リスクのバランス(偽陽性及び偽陰性の臨床結果)が得られるように選択される。例えば、最適な感度及び特異性(及びよって基準値)は、試験被験者コホートから得られた実験データに基づいた受信者動作特性(ROC)曲線を使用して決定することができる。
【0069】
本発明のさらなる目的は、本発明の方法の1つを実施することによってeTレグ細胞集団を検出する工程を含む、被験者において自己免疫疾患、炎症性疾患、及びアレルギー性疾患からなる群より選択された疾患を有するリスクがあるかどうかをインビトロで決定するための方法に関し、該集団の存在は被験者が該疾患を有するリスクがあることを示す。
【0070】
実施態様によっては、eTレグ細胞の全ての集団(すなわち、eTレグ細胞が特異的である抗原がどのようなものであれ)の不在は、被験者が該疾患を有するリスクがあることを示す。
【0071】
実施態様によっては、抗原(すなわち疾患の原因となる抗原)に特異的なeTレグ細胞集団の不在は、被験者が該疾患を有するリスクがあることを示す。
【0072】
本発明のさらなる目的は、本発明の方法の1つを実施することによってeTレグ細胞集団の有無を検出する工程を含む、移植片拒絶のリスクがあるかどうかをインビトロで決定するための方法に関し、該集団の不在は被験者が移植片拒絶のリスクがあることを示す。
【0073】
本発明のさらなる目的は、i)被験者から得られたサンプル中において、本発明の方法の1つを実施することによってeTレグ細胞集団のレベルを決定する工程、ii)工程i)で決定されたレベルを基準値と比較する工程、及びiii)工程i)で決定されたレベルが基準値よりも低い場合に、被験者が移植片拒絶のリスクがあると結論付ける工程を含む、移植片拒絶のリスクがあるかどうかをインビトロで決定するための方法に関する。
【0074】
本発明のさらなる目的は、i)本発明の方法の1つを実施することによって疾患の1回目の特定の時期に、被験者から得られたサンプル中のeTレグ細胞集団のレベルを決定する工程、ii)本発明の方法の1つを実施することによって疾患の2回目の特定の時期に、被験者から得られたサンプル中のeTレグ細胞集団のレベルを決定する工程、iii)工程i)で決定されたレベルを工程ii)で決定されたレベルと比較する工程、及びiv)工程ii)で決定されたレベルが工程i)で決定されたレベルよりも低い場合に、疾患は悪い方向に進展したと結論付ける工程を含む、自己免疫疾患、炎症性疾患、及びアレルギー性疾患からなる群より選択された疾患をインビトロでモニタリングするための方法に関する。
【0075】
本発明のさらなる目的は、i)本発明の方法の1つを実施することによって処置前に被験者から得られたサンプル中のeTレグ細胞集団のレベルを決定する工程、ii)本発明の方法の1つを実施することによって処置後に被験者から得られたサンプル中のeTレグ細胞集団のレベルを決定する工程、iii)工程i)で決定されたレベルを、工程ii)で決定されたレベルと比較する工程、及びiv)工程ii)で決定されたレベルが工程i)で決定されたレベルよりも高い場合に、処置は効果的であると結論付ける工程を含む、自己免疫疾患、炎症性疾患、及びアレルギー性疾患からなる群より選択された疾患の処置をインビトロでモニタリングするための方法に関する。
【0076】
増加は、例えば少なくとも5%、又は少なくとも10%、又は少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%であり得る。
【0077】
典型的には、上記の実施態様では、サンプルは血液サンプル又はPBMCサンプルである。
【0078】
炎症性疾患、自己免疫疾患、及びアレルギー性疾患とは対照的に、癌を患う被験者からの証拠は、増加したTレグ細胞活性が、腫瘍抗原に対する弱い免疫応答に関連し得、また免疫機能不全の原因となり得ることを示唆する。近年のデータは、Tレグにより媒介される免疫抑制が、腫瘍による免疫回避の重要な機序の1つであり、また成功裡の腫瘍免疫療法の主要な障害であることを示す(Zou, W. Regulatory T cells, tumour immunity and immunotherapy. Nature Rev. Immunol. 6, 295-307 (2006))。これらの議論に一致するように、肺癌、膵臓癌、乳癌、肝臓癌、及び皮膚癌の被験者の、血液中及び腫瘍それ自体の両方において、多数のCD4+CD25+Tレグ細胞が発見されている(Zou, W. Regulatory T cells, tumour immunity and immunotherapy. Nature Rev. Immunol. 6, 295-307 (2006). Viguier, M. et al. Foxp3 expressing CD4+CD25high regulatory T cells are overrepresented in human metastatic melanoma lymph nodes and inhibit the function of infiltrating T cells. J. Immunol. 173, 1444-1453. Wolf, A. M. et al. Increase of regulatory T cells in the peripheral blood of cancer subjects. Clin. Cancer Res. 9, 606-612 (2003). Woo, E. Y. et al. Cutting edge: regulatory T cells from lung cancer subjects directly inhibit autologous T cell proliferation. J. Immunol. 168, 4272-4276 (2002))。さらに、腫瘍とその微小環境の間の相互作用は、発癌及び腫瘍進行の最中においてだけでなく、抗癌療法の状況においても重要であることが明らかとなった。近年の研究は、数多くの抗癌剤が、その細胞増殖抑制作用を超えて、自然免疫系及び獲得免疫系を刺激する能力を有し、その結果、場合によっては、長期の防御的なメモリーT細胞応答が起こるか、又はTレグ細胞の機能若しくは生存の阻害が起こり、これにより腫瘍の根絶が促進されることを示している(Galluzzi, L., et al. The secret ally: immunostimulation by anticancer drugs. Nature Rev. Drug Discov. 11, 215-233 (2012). Lesterhuis, W. J., et al. Cancer immunotherapy - revisited. Nature Rev. Drug Discov. 10, 591-600 (2011). Zitvogel, L. et al. The anticancer immune response: indispensable for therapeutic success? J. Clin. Invest. 118, 1991-2001 (2008))。
【0079】
本発明のさらなる目的は、i)本発明の方法の1つを実施することによって被験者から得られたサンプル中のeTレグ細胞集団のレベルを決定する工程、ii)工程i)で決定されたレベルを基準値と比較する工程、及びiii)工程i)で決定されたレベルが基準値より高い場合に、患者は悪い予後を有すると結論付ける工程を含む、癌を患っている患者の生存期間をインビトロで予測するための方法に関する。
【0080】
「癌」、「悪性腫瘍」及び「腫瘍」という用語は、典型的には制御不能な細胞増殖によって特徴付けられる哺乳動物における病状を指すか又は述べる。特に、癌は、固形腫瘍、又は未分化骨髄細胞の制御不能な増殖(すなわちリンパ腫)に関連し得る。本明細書の前記及び後記において腫瘍、腫瘍疾患、癌腫、又は癌が言及されている場合、元来の臓器若しくは組織への及び/又は任意の他の場所への転移が代替的に又は追加的に、腫瘍及び/又は転移の場所が何処であれ、暗黙的に意味される。典型的には、癌は、胆管癌(例えば肝門部領域癌(periphilar cancer)、遠位胆管癌、肝内胆管癌)、膀胱癌、骨癌(例えば骨芽細胞腫、骨軟骨腫(osteochrondroma)、血管腫、軟骨粘液線維腫、骨肉腫、軟骨肉腫、線維肉腫、悪性線維性組織球腫、骨巨細胞腫、脊索腫、リンパ腫、多発性骨髄腫)、脳及び中枢神経系の癌(例えば髄膜腫、星状細胞腫(astocytoma)、乏突起神経膠腫、上衣腫、神経膠腫、髄芽腫、神経節膠腫、シュワン腫、胚細胞腫、頭蓋咽頭腫)、乳癌(例えば非浸潤性乳管癌、浸潤性乳管癌、浸潤性小葉癌、上皮内小葉癌、女性化乳房)、キャッスルマン病(例えば巨大リンパ節過形成、脈管濾胞性リンパ節過形成)、子宮頸癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌(例えば子宮内膜腺癌、腺類癌、乳頭状漿液性腺癌(papillary serous adenocarcinroma)、明細胞)、食道癌、胆嚢癌(粘液腺癌、小細胞癌)、消化管カルチノイド腫瘍(例えば絨毛癌、破壊性絨毛腺腫)、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、カポジ肉腫、腎臓癌(例えば腎細胞癌)、喉頭癌及び下咽頭癌、肝臓癌(例えば血管腫、肝腺腫、限局性結節性過形成、肝細胞癌)、肺癌(例えば小細胞肺癌、非小細胞肺癌)、中皮腫、形質細胞腫、鼻腔癌及び副鼻腔癌(例えば鼻腔神経芽細胞腫、正中線肉芽腫)、上咽頭癌、神経芽細胞腫、口腔癌及び中咽頭癌、卵巣癌、膵臓癌、陰茎癌、下垂体癌、前立腺癌、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫(例えば胎児性横紋筋肉腫、胞巣状横紋筋肉腫、多形性横紋筋肉腫)、唾液腺癌、皮膚癌(例えば黒色腫、非黒色腫皮膚癌)、胃癌、精巣癌(例えば精上皮腫、非セミノーマ胚細胞癌)、胸腺癌、甲状腺癌(例えば濾胞腺癌、未分化癌、低分化癌、甲状腺髄様癌、甲状腺リンパ腫)、膣癌、外陰癌、及び子宮癌(例えば子宮平滑筋肉腫)からなる群より選択され得る。
【0081】
実施態様によっては、被験者から得られたサンプルは腫瘍サンプルである。
【0082】
比較のために使用される基準値は、本明細書に記載のように決定され得る「カットオフ」値又は「閾値」を含み得る。関心対象の各遺伝子の各基準(「カットオフ」)値は、
a)癌を患う患者から腫瘍組織サンプルの集合を提供する工程;
b)工程a)で提供された集合に含まれる各腫瘍組織サンプルについてeTレグ細胞のレベルを決定する工程;
c)該発現レベルに従って腫瘍組織サンプルを順位付けする工程;
d)eTレグ細胞のそのレベルに従って順位付けされたそれぞれ数の増加しているメンバーと数の減少しているメンバーのサブセット対に、該腫瘍組織サンプルを分類する工程;
e)工程a)で提供された各腫瘍組織サンプルについて、対応する癌患者の実際の臨床転帰に関連した情報(すなわち、無病生存期間(DFS)若しくは全生存期間(OS)又はその両方)を提供する工程;
f)腫瘍組織サンプルの各サブセット対について、カプランマイヤー生存率曲線を得る工程;
g)腫瘍組織サンプルの各サブセット対について、両方のサブセット間の統計学的有意性(p値)を計算する工程;
h)発現レベルの基準値として、p値が最小である発現レベルの数値を選択する工程
を含む方法を実施することによって予め決定され得る。
【0083】
例えば、100人の患者の100個の癌サンプルについてのeTレグ細胞のレベルを評価した。100個のサンプルを、その発現レベルに従って順位付けする。サンプル1は最善レベルのeTレグ細胞を有し、サンプル100は最悪レベルのeTレグ細胞を有する。最初のグループ分けは、一方にサンプル番号1、他方に99個の他のサンプルという2つのサブセットを提供する。次のグループ分けは、一方にサンプル1及び2、他方に残りの98個のサンプルを提供し、これは一方にサンプル1〜99、他方にサンプル番号100という最後のグループ分けまで続けられる。対応する癌患者の実際の臨床転帰に関連した情報に従って、99個のグループの2つのサブセットの各々について、カプランマイヤー曲線を準備する。また、各99個のグループについて、両方のサブセット間のp値を計算した。
【0084】
最小p値の基準に基づいた区別が最強であるように、基準値が選択される。換言すれば、p値が最小である両方のサブセット間の境界に対応するeTレグ細胞のレベルが基準値と判断される。基準値は、必ずしもeTレグ細胞のレベルの中央値ではないことが注記されるべきである。
【0085】
日常業務では、基準値(カットオフ値)は、本発明の方法において、腫瘍サンプルを区別し、それ故、対応する患者を区別するために使用され得る。
【0086】
時間の関数としてのカプランマイヤー生存率曲線は一般的に、処置後の一定の期間生存している患者の割合を測定するためのものであり、そしてこれは当業者には周知である。
【0087】
当業者はまた、eTレグ細胞の遺伝子レベルの同じ評価技術が、勿論、基準値を得るために使用されるべきであり、その後、本発明の方法に付された患者のeTレグ細胞の遺伝子レベルの評価のために使用されるべきであることを理解する。
【0088】
このようなeTレグ細胞のレベルの基準値は、上記に定義される任意の遺伝子について決定され得る。
【0089】
本発明のさらなる目的は、i)本発明の方法の1つを実施することによって被験者から得られたサンプル中のeTレグ細胞集団のレベルを決定する工程、ii)工程i)で決定されたレベルを基準値と比較する工程、及びiii)工程i)で決定されたレベルが基準値より低い場合に、患者は処置に有意に応答するであろうと結論付ける工程を含む、癌を患っている患者が処置に応答するかどうかをインビトロで決定するための方法に関する。
【0090】
処置は、放射線療法、化学療法、又は免疫療法からなり得る。処置は、アジュバント療法(すなわち、原発性腫瘍の外科的切除後の処置)又はネオアジュバント療法(すなわち、原発性腫瘍の外科的切除前の処置)からなり得る。
【0091】
「化学療法剤」という用語は、腫瘍増殖を阻止するのに効果的である全ての化合物を指す。化学療法剤の例としては、アルキル化剤、例えばチオテパ及びシクロホスファミド;アルキルスルホネート、例えばブスルファン、インプロスルファン及びピポスルファン;アジリジン類、例えばベンゾドーパ、カルボコン、メツレドーパ(meturedopa)、及びウレドーパ(uredopa);エチレンイミン類及びメチルメラミン(methylamelamines)類(アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホルアミド(trietylenephosphoramide)、トリエチレンチオホスホルアミド(triethylenethiophosphaorarnide)、及びトリメチロールメラミン(trimethylolomelamine)を含む);アセトゲニン類(特にブラタシン及びブラタシノン);カンプトテシン(合成類似体のトポテカンを含む);ブリオスタチン;カリスタチン;CC−1065(そのアドゼレシン、カルゼレシン及びビゼレシン合成類似体を含む);クリプトフィシン(特にクリプトフィシン1及びクリプトフィシン8);ドラスタチン;デュオカルマイシン(合成類似体、KW−2189及びCBI−TMIを含む);エリュテロビン;パンクラチスタチン;サルコジクチイン;スポンジスタチン;ナイトロジェンマスタード、例えばクロラムブシル、クロルナファジン、クロロホスファミド(cholophosphamide)、エストラムスチン(estrarnustine)、イホスファミド、メクロレタミン、塩酸メクロレタミンオキシド、メルファラン、ノベンビチン(novembichin)、フェネステリン(phenesterine)、プレドニムスチン(prednimus tine)、トロホスファミド、ウラシルマスタード;ニトロソウレア類(nitrosureas)、例えばカルムスチン、クロロゾトシン、フォテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、ラニムスチン;抗生物質、例えばエンジイン抗生物質(例えばカリケアマイシン、特にカリケアマイシン(11及びカリケアマイシン211、例えばAgnew Chem Intl. Ed. Engl. 33:183-186(1994)参照);ダイネミシン(ダイネミシンAを含む);エスペラマイシン;並びにネオカルジノスタチン発色団及び関連した色素タンパク質エンジイン抗生物質発色団)、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、アントラマイシン(authramycin)、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カラビシン(carabicin)、カルミノマイシン(canninomycin)、カルジノフィリン、クロモマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6−ジアゾ−5−オキソ−L−ノルロイシン、ドキソルビシン(モルホリノ−ドキソルビシン、シアノモルホリノ−ドキソルビシン、2−ピロリノ−ドキソルビシン及びデオキシドキソルビシンを含む)、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン(idanrbicin)、マルセロマイシン、マイトマイシン、ミコフェノール酸、ノガラマイシン(nogalarnycin)、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、ピューロマイシン、クエラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン(rodorubicin)、ストレプトニグリン(streptomgrin)、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシン;代謝拮抗薬、例えばメトトレキサート及び5−フルオロウラシル(5−FU);葉酸類似体、例えばデノプテリン、メトトレキサート、プテロプテリン、トリメトレキサート;プリン類似体、例えばフルダラビン、6−メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニン;ピリミジン類似体、例えばアンシタビン、アザシチジン、6−アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロキシウリジン、5−FU;アンドロゲン、例えばカルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトン;抗副腎薬、例えばアミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタン;葉酸補充薬、例えばフロリン酸(frolinic acid);アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド(aldophospharnide glycoside);アミノレブリン酸;アムサクリン;ベストラブシル;ビサントレン;エダトレキサート(edatraxate);デフォファミン(defofamine);デメコルシン;ジアジコン;エフロルニチン(elfornithine);酢酸エリプチニウム;エポチロン;エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシ尿素;レンチナン;ロニダミン;メイタンシノイド、例えばメイタンシン及びアンサミトシン;ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダモール;ニトラクリン;ペントスタチン;フェナメット(phenamet);ピラルビシン;ポドフィリン酸;2−エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK(登録商標);ラゾキサン;リゾキシン;シゾフィラン;スピロゲンナニウム(spirogennanium);テヌアゾン酸;トリアジクオン;2,2’,2’’−トリクロロトリエチルアミン(trichlorotriethylarnine);トリコテセン(特にT−2毒素、ベルキュリン(verracurin)A、ロリジンA、及びアンギジン);ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール(mitobromtol);ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(「Ara−C」);シクロホスファミド;チオテパ;タキソイド、例えばパクリタキセル(タキソール(登録商標)、Bristol-Myers Squibb Oncology、プリンストン、N.J.)及びドセタキセル(doxetaxel)(タキソテール(登録商標)、Rhone-Poulenc Rorer、アントニー、フランス);クロラムブシル;ゲムシタビン;6−チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキサート;白金類似体、例えばシスプラチン及びカルボプラチン;ビンブラスチン;白金;エトポシド(VP−16);イホスファミド;マイトマイシンC;ミトキサントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン;ナベルビン;ノバントロン;テニポシド;ダウノマイシン;アミノプテリン;ゼローダ;イバンドロン酸塩;CPT−11;トポイソメラーゼ阻害剤RFS2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノイン酸;カペシタビン;並びに、上記のいずれかの薬学的に許容される塩、酸、又は誘導体が挙げられる。またこの定義には、腫瘍に対するホルモン作用を調節又は阻害するように作用する抗ホルモン剤、例えば抗エストロゲン剤(例えば、タモキシフェン、ラロキシフェン、アロマターゼ阻害性4(5)−イミダゾール、4−ヒドロキシタモキシフェン、トリオキシフェン、ケオキシフェン、LY117018、オナプリストン、及びトレミフェン(フェアストン)を含む);及び抗アンドロゲン剤、例えばフルタミド、ニルタミド、ビカルタミド、ロイプロリド、及びゴセレリン;並びに、上記のいずれかの薬学的に許容される塩、酸、又は誘導体も含まれる。
【0092】
本明細書において使用される「免疫療法剤」という用語は、癌細胞に対する生体の免疫応答を間接的に若しくは直接的に増強、刺激、若しくは増大させ、及び/又は、他の抗癌療法の副作用を和らげる化合物、組成物、又は処置を指す。したがって、免疫療法は、癌細胞に対する免疫系の応答を直接的に若しくは間接的に刺激若しくは増強させ、及び/又は、他の抗癌剤によって引き起こされ得る副作用を和らげる療法である。免疫療法はまた、当技術分野において免疫学的療法、生物学的療法、生体応答調節剤療法、及び生物療法とも呼ばれる。当技術分野において公知である一般的な免疫療法剤の例としては、サイトカイン、癌ワクチン、モノクローナル抗体、及び非サイトカインアジュバントが挙げられるがこれらに限定されない。あるいは、免疫療法処置は、ある量の免疫細胞(T細胞、NK細胞、樹状細胞、B細胞等)を患者に投与することからなり得る。
【0093】
免疫療法剤は非特異的であってもよく、すなわち、免疫系を全般的にブーストし、よって免疫系が癌細胞の増殖及び/又は蔓延に対して戦うのにより効果的となるか、あるいは、それらは特異的であってもよく、すなわち、癌細胞それ自体に標的化されてもよく、免疫療法計画は、非特異的な免疫療法剤と特異的な免疫療法剤を併用してもよい。
【0094】
非特異的免疫療法剤は、免疫系を刺激するか又は間接的に増大させる物質である。非特異的免疫療法剤は、癌の処置のための主要な療法として単独で使用されているだけでなく、主要な療法に付加して使用され、この場合には、非特異的免疫療法剤は、他の療法(例えば癌ワクチン)の効力を増強させるアジュバントとして機能する。非特異的免疫療法剤はまた、この後者の状況において、他の療法の副作用、例えば特定の化学療法剤によって誘発された骨髄抑制を低減させるように機能することができる。非特異的免疫療法剤は、重要な免疫系の細胞に対して作用することができ、そして二次応答、例えばサイトカイン及び免疫グロブリンの増加した産生を引き起こすことができる。あるいは、該薬剤は、それ自体、サイトカインを含んでいてもよい。非特異的免疫療法剤は、一般的に、サイトカイン又は非サイトカインアジュバントとして分類される。
【0095】
多くのサイトカインが、免疫系をブーストさせるように設計された一般的な非特異的免疫療法剤として、又は、他の療法と共に提供されるアジュバントとしてのいずれかとして癌の処置に適用を見出している。適切なサイトカインとしては、インターフェロン、インターロイキン、及びコロニー刺激因子が挙げられるがこれらに限定されない。
【0096】
本発明によって考えられるインターフェロン(IFN)としては、一般的な種類のIFN、IFN−アルファ(IFN−α)、IFN−ベータ(IFN−β)、及びIFN−ガンマ(IFN−γ)が挙げられる。IFNは、例えば、癌細胞の増殖を減速させることによって、癌細胞からより正常な行動を有する細胞への発達を促進することによって、及び/又は、癌細胞による抗原の産生を増加させて免疫系が癌細胞をより容易に認識し破壊できるようにすることによって、癌細胞に対して直接的に作用することができる。IFNはまた、例えば、血管新生を減速させることによって、免疫系をブーストすることによって、並びに/又はナチュラルキラー(NK)細胞、T細胞及びマクロファージを刺激することによって、癌細胞に対して間接的に作用することもできる。組換え型IFN−αは、ロフェロン(Roche Pharmaceuticals)及びイントロンA(Schering Corporation)として市販されている。IFN−αの単独使用、又は他の免疫療法剤若しくは化学療法剤との併用は、黒色腫(転移性黒色腫を含む)、腎臓癌(転移性腎臓癌を含む)、乳癌、前立腺癌、及び子宮頸癌(転移性子宮頸癌を含む)を含む様々な癌の処置に効力を示した。
【0097】
本発明によって考えられるインターロイキンとしては、IL−2、IL−4、IL−11及びIL−12が挙げられる。市販されている組換え型インターロイキンの例としては、プロロイキン(登録商標)(IL−2;Chiron Corporation)及びニューメガ(登録商標)(IL−12;Wyeth Pharmaceuticals)が挙げられる。Zymogenetics, Inc.(シアトル、ワシントン州)は、組換え型IL−21を現在試験中であり、これもまた本発明の組合せ使用に考えられる。インターロイキンは、単独又は他の免疫療法剤若しくは化学療法剤と組合せて、腎臓癌(転移性腎臓癌を含む)、黒色腫(転移性黒色腫を含む)、卵巣癌(再発性卵巣癌を含む)、子宮頸癌(転移性子宮頸癌を含む)、乳癌、結腸直腸癌、肺癌、脳癌、及び前立腺癌を含む様々な癌の処置に効力を示した。
【0098】
インターロイキンはまた、様々な癌の処置においてIFN−αと組合せて良好な活性を示した(Negrier et al., Ann Oncol. 2002 13(9):1460-8;Touranietal, JClin Oncol. 2003 21(21):398794)。
【0099】
本発明によって考えられるコロニー刺激因子(CSF)としては、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF又はフィルグラスチム)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF又はサルグラモスチム)及びエリスロポエチン(エポエチンアルファ、ダルベポエチン)が挙げられる。1つ以上の増殖因子を用いての処置は、従来の化学療法を受けている患者において新たな血球の生成を刺激するのに役立ち得る。したがって、CSFを用いての処置は、化学療法に伴う副作用を低減させるのに役立ち得、またより高用量の化学療法剤の使用を可能とし得る。様々な組換え型コロニー刺激因子、例えば、ニューポジェン(登録商標)(G−CSF;Amgen)、ニューラスタ(ペグフィルグラスチム(pelfilgrastim);Amgen)、リューカイン(GM−CSF;Berlex)、プロクリット(エリスロポエチン;Ortho Biotech)、エポジェン(エリスロポエチン;Amgen)、アラネスプ(エリスロポエチン)が市販されている。コロニー刺激因子は、黒色腫、結腸直腸癌(転移性結腸直腸癌を含む)、及び肺癌を含む癌の処置に効力を示した。
【0100】
本発明の組合せ使用に適した非サイトカインアジュバントとしては、レバミソール、水酸化アルミニウム(ミョウバン)、カルメット・ゲラン桿菌(ACG)、不完全フロイントアジュバント(IFA)、QS−21、DETOX、キーホールリムペットヘモシアニン(KLH)、及びジニトロフェニル(DNP)が挙げられるがこれらに限定されない。他の免疫療法剤及び/又は化学療法剤と組合せた非サイトカインアジュバントは、例えば結腸癌及び結腸直腸癌(レバミソール(Levimasole));黒色腫(BCG及びQS−21);腎臓癌及び膀胱癌(BCG)を含む様々な癌に対して効力を実証した。
【0101】
特異的又は非特異的標的を有することに加えて、免疫療法剤は能動的であってもよく、すなわち生体自身の免疫応答を刺激してもよく、又は、それらは受動的であってもよく、すなわち、生体の外部で生成される免疫系の成分を含んでいてもよい。
【0102】
受動的で特異的な免疫療法は、典型的には、癌細胞の表面上に見られる特定の抗原に対して特異的であるか、又は特定の細胞増殖因子に対して特異的である、1つ以上のモノクローナル抗体の使用を含む。モノクローナル抗体は、癌の処置における多くの方法に使用されて、例えば特定の種類の癌に対する被験者の免疫応答を増強させ得るか、血管新生に関与する細胞増殖因子等の特定の細胞増殖因子を標的化することによって、又は化学療法剤、放射性粒子若しくは毒素等の薬剤と連結若しくはコンジュゲートさせた場合に癌細胞への他の抗癌剤の送達を増強させることによって、癌細胞の増殖を妨害し得る。
【0103】
本発明の組合せにおける封入に適した、癌免疫療法剤として現在使用されているモノクローナル抗体としては、リツキシマブ(リツキサン(登録商標))、トラスツズマブ(ハーセプチン(登録商標))、イブリツモマブチウキセタン(ゼヴァリン(登録商標))、トシツモマブ(ベキサール(登録商標))、セツキシマブ(C−225、アービタックス(登録商標))、ベバシズマブ(アバスチン(登録商標))、ゲムツズマブオゾガマイシン(マイロターグ(登録商標))、アレムツズマブ(キャンパス(登録商標))、及びBL22が挙げられるがこれらに限定されない。モノクローナル抗体は、乳癌(進行転移性乳癌を含む)、結腸直腸癌(進行及び/又は転移性結腸直腸癌を含む)、卵巣癌、肺癌、前立腺癌、子宮頸癌、黒色腫、及び脳腫瘍を含む多種多様な癌の処置に使用される。他の例としては、抗CTLA4抗体(例えばイピリムマブ)、抗PD1抗体、抗PDL1抗体、抗TIMP3抗体、抗LAG3抗体、抗B7H3抗体、抗B7H4抗体、抗TREM抗体、抗BTLA抗体、又は抗B7H6抗体が挙げられる。
【0104】
モノクローナル抗体は単独で又は他の免疫療法剤若しくは化学療法剤と組み合わせて使用され得る。
【0105】
能動的で特異的な免疫療法は典型的には、癌ワクチンの使用を含む。全癌細胞、癌細胞の一部、又は癌細胞に由来する1つ以上の抗原を含む、癌ワクチンが開発されてきた。単独で又は1つ以上の免疫療法剤若しくは化学療法剤と組み合わせた癌ワクチンが、黒色腫、腎臓癌、卵巣癌、乳癌、結腸直腸癌、及び肺癌を含む数種類の癌の処置において研究されている。非特異的な免疫療法剤は、生体の免疫応答を増強させるために癌ワクチンと組み合わせると有用である。
【0106】
免疫療法剤による処置は、Nicholas P. Restifo, Mark E. Dudley and Steven A. Rosenberg (Adoptive immunotherapy for cancer: harnessing the T cell response, Nature Reviews Immunology, Volume 12, April 2012)によって記載されているような養子免疫療法からなり得る。養子免疫療法では、患者の循環中のリンパ球又は腫瘍に浸潤したリンパ球をインビトロで単離し、IL−2等のリンホカインによって活性化させるか、又は腫瘍壊死のための遺伝子を形質導入し(transuded)、そして再投与する(Rosenberg et al., 1988; 1989)。活性化されたリンパ球は、最も好ましくは、血液サンプル又は腫瘍サンプルから事前に単離されインビトロで活性化(又は「増大」)させておいた、患者自身の細胞である。この形態の免疫療法は、数例の黒色腫及び腎臓癌の退縮をもたらした。
【0107】
本明細書において使用される「放射線療法剤」という用語は、癌を処置又は寛解するのに効果的である当業者には公知である任意の放射線療法剤を指すことを意図するがこれに限定されない。例えば、放射線療法剤は、小線源療法又は放射性核種療法に投与されるような薬剤であり得る。
【0108】
本発明のキット:
本発明のさらなる目的は、細胞集団上のCD4、CD25、CD127及びCD15sマーカーの細胞表面発現を検出するための手段を含むキットに関する。
【0109】
実施態様によっては、該手段は抗体である。別の実施態様では、これらの抗体は上記のように標識されている。
【0110】
典型的には、上記のキットは、例えば、洗浄試薬、及び/又は、結合した抗体の存在を定量的に検出することのできる他の試薬を含有する、1つ以上の他の容器も含むだろう。好ましくは、検出試薬は標識された(二次)抗体を含むか、又は、CD4、CD25、CD127及びCD15sに対して生じた抗体それ自体が標識されている場合には、コンパートメントは、標識された抗体と反応することのできる抗体結合試薬を含む。コンパートメント化されたキットは、試薬が別々の容器に含有されているあらゆるキットを含み、また、これは小型のガラス容器、プラスチック容器、又はプラスチック片若しくは紙片を含み得る。このような容器は、サンプル及び試薬の互いの混入を回避しつつ、あるコンパートメントから別のコンパートメントへの試薬の効率的な移動を可能とし得、また、各容器の薬剤又は溶液をあるコンパートメントから別のコンパートメントへと定量的に加えることを可能とし得る。このようなキットはまた、試験サンプルを受容する容器、アッセイに使用される抗体(群)を含有する容器、洗浄試薬(例えばリン酸緩衝食塩水、トリス緩衝液等)を含有する容器、及び検出試薬を含有する容器を含み得る。
【0111】
実施態様によっては、該キットはさらに、Foxp3及び/又はCD45RAの発現を検出するための手段(例えば抗体)を含み得る。
【0112】
特定の実施態様では、IHCアッセイに適したキットはさらに、Foxp3の発現を検出するための手段(例えば抗体)を含む。それ故、本発明のさらなる目的は、細胞集団上のCD4、CD25、Foxp3及びCD15sマーカーの細胞発現を検出するための手段(例えば抗体)を含むキットに関する。
【0113】
典型的には、本発明のキットはまた、適切な方法を実施するためのキット成分の使用説明書を含むだろう。
【0114】
本発明はさらに、以下の図面及び実施例によって説明されるだろう。しかし、これらの実施例及び図面は、いずれにしても、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【
図1】FoxP3、Helios、及びKi−67を発現しているCD4
+T細胞サブセットについての細胞表面マーカー。(A)分析した340個超の中で、FoxP3
highエフェクターTレグ細胞においてアップレギュレートされた18個の表面マーカー。CD4
+T細胞にゲートをかけたPBMCのフローサイトメトリーによる、細胞内FoxP3及び各々の示された表面マーカーの発現。データは6人の健康なドナーの代表である。(B)
図1Aに示されたどのマーカーがFoxP3
+CD4
+細胞上に選択的に発現されているかを評価するために、本発明者らは、各マーカーについてCD4
+T細胞中のFoxpP3
+細胞(FoxP3及び1つの前記の表面マーカー発現により規定されるCD4
+T細胞サブセットを示す、下のサイトメトリースキームに示されている集団A)中の陽性細胞の比率と、CD4
+T細胞中のFoxP3
−細胞(集団B)中の陽性細胞の比率の比を計算した(比I)。本発明者らは、FoxP3
+細胞に対して最も特異的であるマーカーが、最も高い比Iを有するマーカーであると規定した(上のヒストグラム)。本発明者らはまた、CD4
+T細胞中のこのようなマーカーを発現しているCD45RA
−FoxP3+細胞(集団A、下のサイトメトリースキーム)の比率を、CD4
+T細胞中のCD45RA
−FoxP3
high表現型によって規定されるeTレグ細胞の比率で割った比(比II)を計算することによって、該マーカーが、(CD45RA
−FoxP3
high表現型によって規定される上のサイトメトリースキームに示された)eTレグ細胞上に選択的に発現されているか、又は、他のCD45RA
−FoxP3
low非Tレグ細胞上にも発現されているかどうかを確認した。本発明者らは、比IIが1に近いマーカーはeTレグ細胞に対してより特異的であると判断した。なぜなら、それらはFoxP3
low細胞によって発現されていないからである(下のヒストグラム)。データは6人の健康なドナーから得られる。
【
図2A】CD15sは、機能的FoxP3
highTレグ細胞のマーカーである。(A)CD15sは、eTレグ細胞上に発現されているが、シアリル化されていないCD15は発現されていない。CD4
+T細胞にゲートをかけたPBMCのフローサイトメトリーによる、細胞内FoxP3及び示された表面マーカーの発現。データは6回の独立した実験の代表である。
【
図2B】(B)CD15s
+FoxP3
+は抑制性であるが、CD15s
−FoxP3
+細胞は抑制性ではない。示されたCD4
+T細胞サブセットと1:1の比で84〜90時間TCRを刺激しながら共培養した後に評価された10
4個の標識CD25
−CD45RA
+CD4
+レスポンダーT細胞によるCFSEの希釈率。参考文献8に先に記載されたプロトコールを使用して単離されたnTレグ又はeTレグによるCFSEの希釈率を、完全な抑制のための陽性対照として使用する。矢印によって示されているように、完全な抑制は、より少ない増殖サイクル(増大中のエフェクター細胞における4本の識別可能なピークに対して2本の識別可能なピーク)及び連続サイクルピークの振幅の減少によって特徴付けられ、一方、進行中の増殖は、連続サイクルピークの振幅の増加によって特徴付けられる。データは3回の独立した実験の代表である。
【
図2C】(C)CD4
+T細胞におけるCD45RAと核内FoxP3(上)、核Ki−67とFoxP3(中央)、及び表面CD15sと核内FoxP3(下)の発現のフローサイトメトリー。赤線は、Ki−67
+/−FoxP3
high細胞とKi−67
−FoxP3
low細胞とを、及びCD45RA
+/−FoxP3
low細胞とCD45RA
−FoxP3
high細胞とを区切り、一方、下のパネルの黒線は、CD15s
+FoxP3
+細胞とCD15s
−FoxP3
+細胞とを区切る。CD4
+細胞中のCD45RA
−FoxP3
high細胞、Ki−67
+FoxP3
high細胞、及びCD15s
+FoxP3
high細胞の比率が示されている。データは8回の独立した実験の代表である。
【
図2D】(D)増大中のナイーブTレグ細胞はインビトロでCD15sをアップレギュレートする。CD25
−CD45RA
+CD4
+通常型T細胞及びnTレグ細胞をフローサイトメトリーで単離し、抗CD3/抗CD28抗体ビーズ、IL−2及びラパマイシンの存在下で14日間培養し、CD15s及びFoxP3の発現について分析した。CD15s
+及びCD15s
−FoxP3
+細胞%を、対応する四分円に示す。データは3回の独立した実験の代表である。
【
図3】胸腺におけるFoxP3を発現している発達中のTレグ細胞によるCD15sの発現。(A)ダブルネガティブ(DN)、ダブルポジティブ(DP)、及びシングルポジティブ(SP)CD4
+胸腺細胞による核内FoxP3及び示されたマーカーの発現のフローサイトメトリー。データは3回の独立した実験の代表である。(B)胸腺において発達中のTレグ細胞による表面マーカー及び細胞内マーカーの改変。マーカーの変化を太文字で示す。
【
図4】FoxP3発現細胞サブセットの異常を有する標準的な疾患における、CD4
+T細胞サブセットにおけるCD15sの発現。(A)代表的な健康なドナー、活動的なサルコイドーシスを有する被験者、及び活動的なSLEを有する被験者のCD4
+T細胞にゲートをかけたPBMCのフローサイトメトリー。CD45RAとFoxP3(上)、及びCD15sとFoxP3(下)の発現。数字は、CD45RA
−FoxP3
high表現型(上)によって及びCD15s
+FoxP3
high表現型(下)によって規定されるeTレグ細胞%を示す。縦の点線は、CD45RA発現によって規定されたFoxP3
lowとFoxP3
highとの間の描写のためのFoxP3発現の閾値を示す。右のパネルでは、縦の細線は、CD15sの発現によって規定されたFoxP3
low細胞とFoxP3
high細胞との間の境界線を示す。(B)8人の健康なドナー(上)、活動的なサルコイドーシスを有する8人の被験者(中央)、及び活動的なSLEを有する8人の被験者(下)における、CD45RAとFoxP3の発現によって、及びCD15sとFoxP3の発現によって規定されたeTレグ細胞%の比較。赤線及び数字は、平均値%を示す。統計学的比較を、スチューデントt−検定を使用して実施した。P<0.05を有意と判断する。(A)に記載のパラメータを分析する、未処置の菌状息肉腫を有する被験者のCD4
+T細胞にゲートをかけたPBMCのフローサイトメトリー。
【
図5】CD15s
+エフェクターTレグ細胞の絶対数は、健康なドナーと比較して活動的なSLEにおいて有意に減少している。
図4に示される8人の健康なドナー及び8人の活動的なSLE被験者のCD15s
+エフェクターTレグ細胞のCD4
+T細胞中の比率(A)及び絶対数(B)を、ノンパラメトリックマンホイットニーU検定を使用して比較する。平均値と標準誤差を赤色で示す。
【0116】
実施例
材料及び方法
FoxP3、Ki−67及びHeliosを発現しているCD4
+T細胞の表面マーカー分析及びフローサイトメトリー
血液サンプルを、若い健康な成人試験志願者から、及び活動的なサルコイドーシス又はSLEを有する被験者から入手した。SLE及びサルコイドーシスの診断は、先に記載された基準に従って行なわれた
1、2。研究は、ヒトを対象とした地域倫理委員会からの承認とともにヘルシンキ宣言に従って実施された(Comite Consultatif
de Protection des Personnes dans la Recherche Biomedicale
of Pitie-Salpetriere Hospital, Paris)。胸腺細胞の分析のために、生物医学局による承認(PFS13−007番)を得た。
【0117】
ヒト末梢血PBMC及びヒト胸腺細胞をフィコール勾配遠心分離によって調製し、抗CD3、抗CD8、抗hCD4抗体−PerCP−Cy5.5又は−APC、抗hCD25抗体−PE、抗hCD45RA抗体−PE−Cy7、抗ICOS−、抗HLA−DR抗体(−PE、BD biosciences製)、抗CD31抗体(−APC、e-bioscience製)、抗hCD127抗体(−パシフィックブルー)を用いて染色した。抗hFoxP3抗体(PE又はAlexa Fluor 647、クローン259D/A7、BD biosciences)を用いてのFoxP3の細胞内検出、及びKi−67抗体(BD製のFITC又はPE)を用いてのKi−67抗原の細胞内検出を、Cytofix/Cytoperm(e-Bioscience)を使用して、固定され透過処理された細胞において実施した。研究のために使用される大半のmAbは、Lyoplate system(BD)から得られた。細胞表面マーカースクリーニングのための全てのmAbは非コンジュゲート型であり、二次染色した。データをLSR-Fortessa又はFACSCanto-IIによって取得し、FloJoソフトウェアを用いて分析した。
【0118】
抑制アッセイ
PBMCを、新たに採取した血液からフィコール勾配分離を通して単離した。CD4
+T細胞をまず、CD4 T細胞分離キット(Miltenyi)を使用して磁気的に単離し、続いて、蛍光色素にコンジュゲートさせたmAbの以下の組合せを使用して表面染色した:BD bioscienceから入手した抗CD4抗体−PErCP5.5、抗CD25抗体−PE、抗CD127抗体−パシフィックブルー、抗CD45RA抗体−PECy7、及び抗CD15s抗体−AF647。CD127
+CD25
−CD45RA
+CD4
+、ナイーブFoxP3
lowCD45RA
+、エフェクターFoxP3
highCD45RA
−Tレグ細胞、CD127
lowCD25
+CD45RA
−を、本発明者らが以前検証したゲーティング戦略に従って、FACSAria(BD bioscience)
10を使用して、並びにCD15s
−FoxP3
lowCD4
+T細胞及びCD127
lowCD25
+CD127
lowCD15s
+CD4
+T細胞を該ゲーティング戦略に従って、フローサイトメトリーにより単離した後に、PBMCからフローサイトメトリーにより単離した。
【0119】
1×10
4個のCFSE(1μM Invitrogen)で標識されたレスポンダーCD25
−CD45RA
+CD4
+T細胞を、その抑制能について評価された1×10
4個の標識されていない細胞、及び、B細胞と単球とを含有する1×10
5個の放射線照射された自己補助細胞と共培養した。細胞を、96ウェル丸底プレート中、10%ウシ胎児血清(Bio West)、2mM L−グルタミン、1mM ピルビン酸ナトリウム、1%非必須アミノ酸MEM、100U/ml ペニシリン、100μg/ml ストレプトマイシン及びアムホテリシンB(全てGibco製)を補充されたRPMI培地で、プレートに結合させた0.5μg/mLの抗CD3抗体(OKT3 mAb)を用いて刺激した。CFSE標識細胞の増殖を、84〜90時間培養した後にフローサイトメトリーによって評価した。
【0120】
nTレグ細胞の増大
nTレグ細胞の増大に関して、30×10
3個の単離されたnTレグを直ちに、培養のためにU底ウェルに分配した。細胞を、5%AB血清(Invitrogen Lifetech)を含みかつ2mM L−グルタミン、1mM ピルビン酸ナトリウム、1%非必須アミノ酸MEM、100U/ml ペニシリン、100μg/ml ストレプトマイシン及びアムホテリシンB(全てGibco製)、抗CD3抗体/抗CD28抗体でコーティングされたTレグ増大用ビーズ(Invitrogen Lifetech)を補充されたX-vivo 15培地(Lonza)中、培養培地単独中300 IU/ml IL−2(Miltenyi Biotec)の存在下で、又は培養培地中に希釈されたラパマイシン(Sigma-Aldrich)の存在下(1μg/mL)で培養した。300〜1000 IU/ml IL−2を3〜4日間毎に加えた。
【0121】
統計分析
eTレグとCD15s
+FoxP3
+細胞の%を比較するために、対応のあるt−検定を実施した。健康なドナー対SLE被験者におけるCD15s
+%を比較するために、ノンパラメトリックU−マンホイットニー検定を実施した。
【0122】
結果
FoxP3、Helios及びKi−67を発現しているCD4
+T細胞サブセットの細胞表面マーカー
FoxP3を発現しているCD4
+T細胞内のサブセットを区別する具体的な表面マーカーを決定するために、本発明者らは、CD25、CD45RA、ICOS、HLA−DR、Ki−67、Helios、及びFoxP3発現を、細胞表面マーカーと一緒に分析することによって、ヒトCD4
+T細胞のマルチパラメーター細胞蛍光測定分析を実施した。
【0123】
340個を超える細胞表面マーカーの徹底的な分析により、18個の表面マーカーがeTレグ細胞上で非常に多いことが示され、その中の6個はすでに記載されている(CD15s、CLA、HLA−DQ、CD30、CD66B、CD101、CD275、すなわち、ICOS−L、CCR5、CCR6、CCR4、CD137、CD71及びすでに記載されているCD25
4、HLA−DR
15、CD39
17、18、CD95
19、CD147
20、CD278、すなわちICOS
14;
図1)。
【0124】
どのマーカーがFoxP3
+CD4
+細胞上に選択的に発現されているかを評価するために、本発明者らは、各マーカーについてCD4
+T細胞中のFoxP3
+細胞(
図1bの集団A)中の陽性細胞の比率と、CD4
+T細胞中のFoxP3
−細胞(
図1bの集団B)中の陽性細胞の比率の比を計算した(比I)。本発明者らは、FoxP3
+細胞に対して最も特異的であるマーカーが、最も高い比Iを有するマーカーであると規定した。
【0125】
本発明者らはまた、CD4
+T細胞中のこのようなマーカーを発現しているCD45RA
−FoxP3
+細胞(
図1bの集団A)の比率と、CD4
+T細胞中のCD45RA
−FoxP3
high表現型によって規定されるeTレグ細胞の比率の比(比II)を計算することによって、該マーカーが、eTレグ細胞上に選択的に発現されているか、又は、他のCD45RA
−FoxP3
low非Tレグ細胞上にも発現されているかどうかを確認した。本発明者らは、比IIが1を超えるマーカーはeTレグ細胞に対してあまり特異性がないと判断した。なぜなら、それらはFoxP3
low細胞によっても発現されているからである。
【0126】
本発明者らは、CD15sが最も高い比Iを有する唯一のマーカーであることを観察した。CD15sはまた、FoxP3
+細胞中の陽性細胞の比率がeTレグ細胞の比率と類似している、すなわち比IIが1に近い唯一のマーカーであった(
図1b)。これらの結果は、CD15sがeTレグ細胞上に選択的に発現されていることを示す。
【0127】
本発明者らはまた、eTレグ細胞においてのみダウンレギュレートされたマーカーを探した。7個の未知のマーカーがeTレグにおいてダウンレギュレートされ(CD26、CD55、CD100、CD130、CD221、CD305、CD321)、その中のいずれもCD127ほど識別できなかった
21、22。
【0128】
表面マーカーの発現と、増殖マーカーKi−67及び転写因子Heliosの細胞内発現との比較により、CD71だけでなくICOS及びICOS−Lも、Ki−67の発現に高度に相関していることが判明した。この結果は、ICOSが、eTレグ細胞の増殖のための良好なマーカーであることを示す。細胞内Helios発現に対応する唯一の特異的な表面マーカーは、全員ではないが何人かの健康ドナーにおいてはCD39であった。
【0129】
CD15sはFoxP3
higheTレグ細胞上に高度に発現されていたが、FoxP3
lowCD45RA
−FoxP3
low細胞上には発現されず、FoxP3陰性細胞上では弱くしか発現されていなかったので、本発明者らは、eTレグ細胞の可能性あるマーカーとしてCD15sに本発明者らの研究の焦点を当てることを決定した。
【0130】
CD15sは、機能的FoxP3
highTレグ細胞のマーカーである。
本発明者らは、CD15sはeTレグ細胞上に高度に発現されているが、シアリル化されていないCD15は発現されていないことに気付いた(
図2A)。CD15sは、フコシルトランスフェラーゼ7(α(1,3)フコシルトランスフェラーゼ)を通したCD15のシアリル化の結果である。FoxP3を発現しているCD4
+T細胞の本発明者らの以前のトランスクリプトーム
10分析により、この酵素が、他のCD4
+T細胞サブセットと比較してeTレグ細胞サブセット上に特異的に発現されていることが示され、このことは、CD15のシアリル化が、CD4
+T細胞中のeTレグ細胞に特異的であることを示す(マイクロアレイデータは、国立生物工学情報センターの遺伝子発現情報データベース(GEO)アクセッションナンバー15659で入手可能である)。
【0131】
CD15sの発現が実際に、機能的な抑制性のFoxP3発現CD45RA
−eTレグ細胞を、非抑制性のFoxP3発現CD45RA
−細胞から分離するマーカーであることを確認するために、本発明者らは、CD15S
+CD45RA
−CD127
lowCD25
++CD4
+T細胞及びCD15S
−CD45RA
−CD127
lowCD25
++CD4
+T細胞をフローサイトメトリーで単離した。
図2Bに示されているように、CD15s
+FoxP3
high細胞は非常に抑制性であったが、CD15S
−FoxP3
low細胞は抑制しなかった。このことは、CD15sが、ヒトPBMC中のFoxP3
low非Tレグ細胞からのeTレグ細胞のフローサイトメトリーによる分離を可能とする表面マーカーであることを示す。
【0132】
本発明者らはまた、CD15s発現に従って規定されたCD4+T細胞サブセットの炎症性サイトカインプロファイルは、FoxP3及びCD45RAマーカーを使用して先に規定された対応するサブセットのサイトカインプロファイルと一致することを確認した
8。予想された通り、CD45RA−FoxP3+CD15s−細胞は、健康なCD4+FoxP3+細胞だけでなくSLEのCD4+FoxP3+細胞の中でも、最も高いIFN−γ及びIL−2の生産体であった。
【0133】
本発明者らは、FoxP3
low細胞(nTレグ細胞及び非Tレグ細胞の両方)とFoxP3
high細胞の間の境界は、CD45RAとKi−67の発現によって描かれた縦の境界線(
図2Cの赤色の縦線)によって図解で規定され得ることを先に示した
8。
図2Cに示されているように、CD15sの発現によって規定されるFoxP3発現の境界は、CD45RA及びKi−67によって規定されたものと近いが、僅かに低いレベルである。FoxP3
high細胞のマーカーとしてのCD15sの使用は、CD15s
+eTレグ細胞とCD15s
−非Tレグ細胞との間のFoxP3発現の狭い重複帯の存在を示す(
図2C)。
【0134】
最後に、eTレグ細胞はインビボにおいてnTレグ細胞に由来するので、本発明者らはまた、CD15s発現が、インビトロで高用量のIL−2及びラパマイシンの存在下で増大中のナイーブTレグ細胞において誘導され得るかどうかを確認した
23、24。7日間の培養後にCD15sを発現している増大中のnTレグ細胞は殆どなかったが、有意な割合の増大中の細胞がCD15sをアップレギュレートした一方、CD15sは、増大中の通常型CD4
+T細胞上には弱くしか発現していなかった(
図2D)。しかし、大半の増大中のnTレグ細胞はCD15sをアップレギュレートせず、このことはIL−2のみ及びラパマイシンは、全てのnTレグ細胞を効果的な抑制性のCD15s
+eTレグ細胞に変換するのに十分ではない可能性があることを示す。
【0135】
胸腺におけるFoxP3を発現している発達中のTレグ細胞によるCD15sの発現
胸腺に由来するnTレグ細胞は、eTレグ細胞上に存在する大半のマーカーを発現しないが(すなわち低いレベルのCD25、及びICOSは存在せず)、いくつかの発達中の胸腺Tレグ細胞はこれらのマーカーを発現すると報告されているので、本発明者らは、CD15sがこれらの前記の活性化マーカーと一緒にどのように胸腺において発達中の天然型Tレグ細胞によって発現されるのかを決定しようと考えた。
【0136】
他の研究者によって示されているように、FoxP3の胸腺での発現は、ダブルポジティブ段階で始まる
25。この段階で、発達中のダブルポジティブTレグ細胞はFoxP3
highCD25
highICOS
+CD15s
+CD45RA
−CD31
−表現型を示し、これらの細胞のいくつかはKi−67
+であるので増殖し始める。シングルCD4ポジティブ段階では、本発明者らは2つのサブセットのFoxP3発現細胞を観察し、一方はFoxP3の高い発現を示し、他方はFoxP3の低い発現を示す。FoxP3
highCD4
+胸腺細胞はKi−67を発現するので増殖し、それらはまたICOS、高いレベルのCD25、及びCD15sも発現するので、増殖中のダブルポジティブFoxP3
high細胞と類似した表面マーカーを共有する。
【0137】
FoxP3
lowシングルCD4
+胸腺細胞を、Ki−67、ICOS又はCD15sのいずれかを発現せず、かつ低いレベルのCD25を有する、CD45RA
−CD31
−細胞、CD45RA
−CD31
+細胞及びCD45RA
+CD31
+細胞に分類することができる(
図3A)。それ故、本発明者らは、末梢でeTレグ細胞上に存在する活性化マーカーが、胸腺でダブルポジティブ段階の発達中のTレグ細胞において、及びそれらがシングルポジティブCD4
+T細胞に分化した時に、一過性に発現されると仮定することができる。このようなマーカーは、FoxP3
+胸腺細胞がナイーブTレグ表現型を獲得し、CD45RA
+CD31
+FoxP3
lowCD4
+ナイーブTレグ細胞として胸腺から遊出する時にFoxP3発現と平行してダウンレギュレートされる(
図3B)。
【0138】
したがって、ヒト胸腺細胞の分析は、CD15sの発現が、胸腺において一過性に発現されかつ胸腺から遊出しているnTレグには存在しない、Tレグに関連した他のマーカーの発現と並行することを示す。
【0139】
FoxP3発現細胞サブセットの異常を有する標準的な疾患におけるCD4
+T細胞サブセットにおけるCD15sの発現
最後に、本発明者らは、健康なドナー(n=8)及びFoxP3発現サブセットにおける異常の保有が知られている疾患、すなわちサルコイドーシス(n=8)及び全身性エリテマトーデス(n=8)を有する被験者のPBMC中のCD15sの発現を研究した。
【0140】
どちらの疾患においても、eTレグ細胞はCD15sを使用して同定され得、FoxP3
low非Tレグ細胞から分離され得た(
図4A)。特に、本発明者らはまた、特にSLEにおいて、CD15s
+eTレグ細胞とCD15s
−非Tレグ細胞の間のFoxP3発現の重複帯がより広いことを観察した。CD45RA及び/又はKi−67を使用して測定されたeTレグ細胞の比率は僅かであるがしかし有意に低く見積もられ、一方、サルコイドーシスにおけるeTレグは依然として増大し、高く見積もられた(
図4B)。活動的なSLEにおけるCD15s
+Tレグ細胞の比率は、健康なドナーと比較して有意差はなかったが、絶対数は有意に低く、これは本発明者らの以前の観察と一致する
2、10、26(
図5)。このことはさらに、特に、癌等のFoxP3発現CD4
+T細胞の増加が報告されている疾患においてeTレグ細胞と非Tレグ細胞とを効率的に区別するためにFoxP3発現CD4
+サブセットの分析にCD15sを加える必要性を示す。
【0141】
したがって、本発明者らは、増大した循環中のTレグ細胞を示すことが知られている未処置の菌状息肉腫を有する被験者のPBMCを分析する場合にこの戦略を適用した
27、28。
図4Cに示されているように、FoxP3発現CD4
+T細胞の増加と非常に僅かなnTレグ細胞とが観察された。eTレグ細胞のマーカーとしてのCD15sの使用により、eTレグ細胞が実際に非常に増加し、個別の集団として同定可能であることが確認された。
【0142】
CD4+T細胞におけるCD127の低い発現とCD25の高い発現の組合せは、ヒトにおけるFoxP3発現CD4+T細胞を規定するための代用として十分に受け入れられている
19、20。特に、SLE、シェーグレン症候群、全身性硬化症、重症筋無力症、又はサルコイドーシスにおいて、CD127とCD25の組合せは、FoxP3+細胞とFoxP3−細胞とを効果的に分離しなかった。なぜなら存在する各FoxP3+細胞、すなわちナイーブTレグ細胞、Foxp3(low)CD15s−非Tレグ細胞、及びCD15s+eTレグ細胞のかなりの割合が、CD127(high)細胞又はCD25−細胞のいずれかであるからである。このことは、CD127の低い発現及びCD25の高い発現の組合せが、ヒトの自己免疫状態及び/又は炎症性状態におけるFoxP3+細胞の同定に適していない可能性があることを示す。
【0143】
考察:
ヒトFoxP3発現CD4
+T細胞は機能において異質であるので
4、FoxP3を発現する、抑制性Tレグ細胞とエフェクターT細胞へのその分離を可能とするマーカーが、特に、免疫媒介性疾患、例えば自己免疫疾患及び/又は炎症性疾患、移植、並びに癌等において必要とされる。本発明者らは以前に、FoxP3発現CD4
+T細胞は、細胞内FoxP3のそのレベル及びCD45RAの発現に基づいて3つのサブセットに分離され得ることを示した
10。現在、ナイーブ表現型を有し低い発現のFoxP3を有するCD4
+T細胞は、マウス天然胸腺由来Tレグ細胞に相当する胸腺由来のTレグ細胞の個別のサブセットであることが十分に受け入れられている。これらの細胞は単純にCD45RA
+CD25
+CD4
+T細胞としてフローサイトメトリーで単離され得る
10。
【0144】
CD45RA
−FoxP3発現細胞に関して、FoxP3
high細胞は非常に抑制性であるが、FoxP3の低い発現を有するCD4
+T細胞は抑制しない。後者はおそらく、活性化によりFoxP3の発現が誘導されているが抑制機能を獲得するほど十分に高くはない、通常型T細胞に対応するだろう
29、30。
【0145】
FoxP3
high細胞は、HLA−DR及び/又はICOSを発現しているTレグ細胞を包含する。どちらのマーカーも、それぞれ非常に及び迅速に抑制性であり
15並びにIL−10を産生する
14、Tレグ細胞のサブセットを特徴付けることが示されている。より近年になって、Shevachのグループは、転写因子Heliosが、天然型Tレグ細胞のマーカーであると提案した
16。しかし、近年の知見により、FoxP3の発現が誘導されたCD4
+T細胞及び他の活性化されたCD4
+T細胞もまたHeliosを発現し得ることが実証された
31〜33。
【0146】
FoxP3
highエフェクターTレグ細胞が、単一の特定の表面マーカーを有する個別の集団として定義され得るかどうかは不明であったので、本発明者らは、フローサイトメトリー用に抗体が利用可能な全ての公知の表面マーカーを分析することを決断した。
【0147】
340個を超える表面マーカーの研究により、本発明者らは、eTレグ細胞によって高度にアップレギュレートされた18個のマーカーを規定することができ、その中の6個のマーカー(CD25、HLA−DR、CD39、CD95、CD147、及びICOS)
4、14、15、17〜20がすでに記載されている。7個の他の表面分子はダウンレギュレートされたが、その中のいずれもFoxP3
+細胞を規定するのにCD127に優るものはなかった。
【0148】
ICOSはKi−67の発現に高度に相関し、このことはICOSが、特定の集団に対するマーカーというよりは、eTレグ細胞の増殖に対するマーカーであることを示す。Itoの報告と一緒に、この結果は、増殖中のICOS
+Ki−67
+eTレグ細胞はIL−10を産生することを示す
14。本発明者らは、CD39以外のHeliosに対して特異的な表面マーカーを決定することができず、CD39は全てのドナーではないにしても幾人かのドナーにおいてHeliosと高度に相関していた。この結果は、Helios
+及びCD39
+Tレグ細胞はおそらく、eTレグ細胞内の同じサブセットであろうことを示す。
【0149】
本発明者らは最後に、CD15sが、eTレグの推定される特異的マーカーとしての最善の候補であることを発見した。なぜなら、CD15sは、FoxP3
high細胞上には高度に発現されたが、nTレグ細胞及びFoxP3
lowCD45RA
−CD4
+T細胞上には発現されなかったからである。本発明者らは、CD15s
+FoxP3
+(high)細胞は非常に抑制性であるが、CD15s
−FoxP3
+(low)はこのマーカーに高度な識別力を付与しないことを確認することができた。それ故、本発明者らはここに初めて、eTレグ細胞に対して非常に特異的であるマーカーを記載する。
【0150】
CD15sは、四糖糖鎖であるシアリルルイスx(sLEx)としても知られる、α2−3シアリル化形のラクト−N−フコペンタオースIII(CD15)である
34。この抗原の糖質性は、なぜトランスクリプトーム分析を通して特異的表面マーカーを決定する以前の試みがこの分子を同定することができなかったかを説明する
10。しかし、本発明者らの以前のトランスクリプトーム分析の慎重なレトロスペクティブな分析により、CD15からCD15sの合成に必要とされる
35、フコシルトランスフェラーゼ7(α(1,3)フコシルトランスフェラーゼ)が実際にeTレグサブセットにおいて特異的にアップレギュレートされていることが示された。
【0151】
本発明者らはまた、胸腺において発達中のTレグ細胞において、末梢eTレグ細胞によって生じる他の公知の活性化マーカーと一緒にCD15sの発現を分析した。本発明者らは、ダブルポジティブ及びシングルCD4
+ポジティブFoxP3
+胸腺細胞において、Foxp3、Ki−67、CD45RA、及びCD31のレベルを分析することによって、胸腺で発達中のTレグ細胞の段階的な分化の動態を確立することができた。本発明者らは、FoxP3発現が、ICOS及びCD15sの発現と一緒に、ダブルポジティブ段階で高いレベルで開始されることを確認することができた
14。どちらのマーカーもシングルポジティブCD4
+CD31
+FoxP3
low細胞に存在せず、このことは、どちらのマーカーも胸腺において一過性に発現され、胸腺から遊出している細胞には存在しないことを示す。
【0152】
最後に、本発明者らは、CD15sが、疾患におけるeTレグ細胞に対する妥当なマーカーであることを確認した。本発明者らは、FoxP3、CD45RA及びKi−67の発現に基づいたTレグサブセットの定義を使用するeTレグ細胞の保有率は、eTレグ細胞の追加のマーカーとしてCD15sを使用する場合、健康なドナーにおいて変更されておらず、サルコイドーシス
1においては僅かに高く見積もられ、SLE
2においては僅かに低く見積もられたことを観察した。特に、FoxP3発現CD4
+T細胞サブセットにおいて観察された異常は、このマーカーを使用すると、依然として存在しかつ顕著であった。最後に、本発明者らは、この新たな定義を、軽度な未処置の菌状息肉腫を有する被験者のPBMCに適用し
27、28、CD15s
+FoxP3
higheTレグ細胞の明瞭な個別の集団を観察することができた。
【0153】
それ故、本発明者らは、機能分析のためのFoxP3発現サブセットのフローサイトメトリーによる分離のために、少なくともCD45RAに加えて、並びにCD25、CD127及びCD45RAに加えて、ヒトの研究におけるFoxP3発現CD4
+T細胞サブセットのあらゆる表現型フローサイトメトリー分析にCD15sを加えるべきであると提案する。
【0154】
CD15sは、増大中のnTレグ細胞においてアップレギュレートされているので、本発明者らはまた、インビトロで増大中のTレグ細胞の純度を評価するための品質管理マーカーとしてCD15sを提案する。実際に、IL−2及びラパマイシンを使用すると、CD15sは、増殖中のnTレグ細胞の20〜30%にしか存在せず、このことはIL−2及びラパマイシンのみでは、培養時に非常に純粋なFoxP3
higheTレグ細胞を得るのに最適ではない可能性があることを示す
36。
【0155】
本発明者らは、CD15sを特異的に認識するがCD15を認識しない抗体を使用してCD15s
+eTレグ細胞をフローサイトメトリーにより単離したので、CD15sそれ自体が、インビトロ及びインビボでの接触依存性Tレグ媒介性抑制に関与している見込みはない
37。しかし、CD15sはセレクチンのリガンドであり、内皮細胞との細胞性相互作用に関与して末梢血から組織への遊出を促進しているので
38、CD15sはおそらく、標的組織へのeTレグ細胞の遊出に関与し、よってインビボでのその抑制機能に関与しているのだろう。CD15sはまた、単球及びいくつかの骨髄前駆体にも高度に発現されている
39。これは、エフェクター免疫応答を促進するために、eTレグ細胞の組織への遊出を中和することを目的としたモノクローナル抗体の使用を損ない得る。eTレグにおけるCD15sのアップレギュレーションの分子機序のより良い理解は、eTレグ細胞の抑制作用を増強又は中和する際の新規な治療標的を提供するのを助け得る。
【0156】
まとめると、本発明者らは、CD15sが、FoxP3発現CD4
+T細胞サブセットについての以前に提案された分類の妥当性を確認する、eTレグ細胞のマーカーであることを実証した。それ故、本発明者らは、ヒトFoxP3発現CD4
+T細胞の表現型分析及び機能分析のために、CD45RAに加えてCD15sの使用を推奨する。
【0157】
参考文献:
本出願全体を通して、様々な参考文献が、本発明が属する技術分野の状況を記載する。これらの参考文献の開示は、本開示への参照により本明細書に組み入れられる。
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