特許第6574209号(P6574209)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許65742092−ハロゲン−アクリル酸エステルを製造するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6574209
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】2−ハロゲン−アクリル酸エステルを製造するための方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/32 20060101AFI20190902BHJP
   C07C 69/653 20060101ALI20190902BHJP
   C07C 301/00 20060101ALI20190902BHJP
【FI】
   C07C67/32
   C07C69/653
   C07C301/00CSP
【請求項の数】17
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-573088(P2016-573088)
(86)(22)【出願日】2015年6月17日
(65)【公表番号】特表2017-522286(P2017-522286A)
(43)【公表日】2017年8月10日
(86)【国際出願番号】EP2015063634
(87)【国際公開番号】WO2015193392
(87)【国際公開日】20151223
【審査請求日】2016年12月14日
(31)【優先権主張番号】14172874.1
(32)【優先日】2014年6月18日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506207853
【氏名又は名称】サルティゴ・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】カーステン・フォン・デム・ブルーフ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス・シェルヴィツキ
【審査官】 西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−141477(JP,A)
【文献】 特開昭62−298556(JP,A)
【文献】 特開昭62−026247(JP,A)
【文献】 英国特許第01115287(GB,B)
【文献】 Yakubovich,A.Ya., et al.,Methylolhalomalonates,JOURNAL OF GENERAL CHEMISTRY OF THE USSR ,1962年,p.1981-1983,(translated from ZHURNAL OBSHCHEI KHIMII, 31(7), p.2119-2122, 1961)
【文献】 Prosyanik,A.V., et al.,Reaction of α,β-dibromo carboxylic esters with hydrazines,JOURNAL OF ORGANIC CHEMISTRY OF THE USSR,1984年,p.2171-2174,(Translated from ZHURNAL ORGANICHESKOI KHIMII, 19(21), p.2480-2484, 1983)
【文献】 右田俊彦ほか,ジアゾエステルのポリクロルメタン中での分解,日本化学雑誌,1970年,91(4),p.374-377
【文献】 SURYA PRAKASH G K,DIRECT ELECTROPHILIC MONOFLUOROMETHYLATION,ORGANIC LETTERS,2008年 2月21日,VOL:10, NR:4,,PAGE(S):557 - 560,URL,http://dx.doi.org/10.1021/ol702500u
【文献】 Belletire.J.L., et al.,TETRAHEDRON LETTERS,1983年,24(14),p.1475-1476
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(IV):
【化1】
[式中、
は、C〜C15−アルキル、またはC〜C−シクロアルキル、またはC〜C24−アリールであり、かつ
は、フッ素、塩素、または臭素である]
の2−ハロアクリル酸エステルを調製するためのプロセスであって、
a)式(II):
【化2】
の化合物、および/または式(III):
【化3】
[それぞれの式において、RおよびXは、式(IV)で与えられた定義を有し、二つのR基は、同一であっても異なっていてもよく、
そして、式(III)におけるXは、フッ素、塩素、クロロスルフィニルオキシ、または臭素である]
の化合物を、塩基の存在下で反応させて、式(IV)の化合物を得る工程を含み、
前記塩基が、アルカリ土類金属もしくはアルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属もしくはアルカリ金属のアミド、アルカリ土類金属もしくはアルカリ金属のアルコキシド、アルカリ土類金属もしくはアルカリ金属の炭酸塩、アルカリ土類金属もしくはアルカリ金属のリン酸水素塩、またはアルカリ土類金属もしくはアルカリ金属のリン酸塩である、プロセス。
【請求項2】
式(IV):
【化4】
[式中、
は、C〜C15−アルキル、またはC〜C−シクロアルキル、またはC〜C24−アリールであり、かつ
は、フッ素、塩素、または臭素である]
の2−ハロアクリル酸エステルを調製するためのプロセスであって、
a)式(II):
【化5】
の化合物、および/または式(III):
【化6】
[それぞれの式において、RおよびXは、式(IV)で与えられた定義を有し、二つのR基は、同一であっても異なっていてもよく、
そして、式(III)におけるXは、フッ素、塩素、または臭素である]
の化合物を、塩基の存在下で反応させて、式(IV)の化合物を得る工程を含み、
前記塩基が、アルカリ土類金属もしくはアルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属もしくはアルカリ金属のアミド、アルカリ土類金属もしくはアルカリ金属のアルコキシド、アルカリ土類金属もしくはアルカリ金属の炭酸塩、アルカリ土類金属もしくはアルカリ金属のリン酸水素塩、またはアルカリ土類金属もしくはアルカリ金属のリン酸塩である、プロセス。
【請求項3】
式(II)〜(IV)に規定したRが、C〜C−アルキル、C〜C−シクロアルキル、またはC〜C24−アリールであり、式(I)〜(IV)に規定したXが、フッ素、塩素、または臭素であることを特徴とする、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
式(III)に規定したXが、塩素または臭素であることを特徴とする、請求項1に記載の、または請求項2もしくは3に記載のプロセス。
【請求項5】
式(III)に規定したXが、クロロスルフィニルオキシであることを特徴とする、請求項1に記載のプロセス。
【請求項6】
前記式(II)の化合物が、ホルムアルデヒドを用いて式(I):
【化7】
[式中、RおよびXは、請求項1〜5で与えられた定義を有する]
の2−ハロマロン酸ジアルキルをヒドロキシメチル化することによって調製されることを特徴とする、請求項1に記載の、または請求項2〜5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記式(III)の化合物が、式(II)の化合物をハロゲン化剤と反応させることによって調製されることを特徴とする、請求項1に記載の、または請求項2〜6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
使用するハロゲン化剤が、塩化チオニル、臭化チオニル、三塩化リン、三臭化リン、塩化スルフリル、臭化スルフリル、およびハロゲン化水素の群から選択されるものであることを特徴とする、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
2−フルオロアクリル酸メチルまたは2−フルオロアクリル酸エチルが、工程a)において、
・ 2−フルオロ−2−ヒドロキシメチルマロン酸ジメチルまたは2−フルオロ−2−ヒドロキシメチルマロン酸ジエチルから出発して調製されるか、または
・ 2−フルオロ−2−クロロメチルマロン酸ジメチルまたは2−フルオロ−2−クロロメチルマロン酸ジエチルから出発して調製される
ことを特徴とする、請求項1に記載の、または請求項2〜8のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
2−フルオロアクリル酸メチルまたは2−フルオロアクリル酸エチルが、工程a)において、
・ 2−フルオロ−2−クロロスルフィニルオキシメチルマロン酸ジメチルまたは2−フルオロ−2−クロロスルフィニルオキシメチルマロン酸ジエチルから出発して調製される
ことを特徴とする、請求項1に記載のプロセス。
【請求項11】
使用する塩基が、有機塩基または無機塩基であることを特徴とする、請求項1に記載の、または請求項2〜10のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項12】
溶媒の存在下に実施されることを特徴とする、請求項1に記載の、または請求項2〜11のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項13】
120〜170℃の範囲の温度で実施されることを特徴とする、請求項1に記載の、または請求項2〜12のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項14】
請求項1、または請求項2〜13のいずれか一項に記載のプロセスを含むことを特徴とする、プラスチックおよび医薬品におけるポリマー性添加物を製造するためのプロセス。
【請求項15】
式(III):
【化9】
[式中、
は、C〜C15−アルキル、またはC〜C−シクロアルキル、またはC〜C24−アリールであり、かつ
は、フッ素、塩素、または臭素であり、かつ
は、クロロスルフィニルオキシである]
の2−クロロスルフィニルオキシメチル−2−ハロマロン酸ジアルキル。
【請求項16】
2−フルオロ−2−クロロスルフィニルオキシメチルマロン酸ジメチルまたは2−フルオロ−2−クロロスルフィニルオキシメチルマロン酸ジエチル。
【請求項17】
式(III):
【化12】
の2−クロロスルフィニルオキシメチル−2−ハロマロン酸ジアルキルを調製するためのプロセスであって、式(II):
【化13】
[ここで、式(II)および(III)において、R、X、およびXは、請求項15に記載の定義を有している]
の2−ヒドロキシメチル−2−ハロマロン酸ジアルキルを、塩化チオニルと反応させることにより調製するプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2−ヒドロキシメチル−または2−ハロメチル−または2−クロロスルフィニルオキシメチル−2−ハロマロン酸ジエステルから、2−ハロアクリル酸エステルを調製するためのプロセスに関する。本発明はさらに、新規な2−ハロメチル−2−ハロマロン酸ジエステルまたは2−クロロスルフィニルオキシメチル−2−ハロマロン酸ジエステルを提供するが、これらは2−ハロアクリル酸エステルを調製するために使用することができる。
【背景技術】
【0002】
置換された2−ハロアクリル酸エステル、特に2−フルオロアクリル酸エステルは、ポリマーを合成するための反応剤である。これらは、たとえば、光導波路中のプラスチックとして、および医薬品におけるポリマー性添加物として使用することができる。
【0003】
文献には、2−フルオロアクリル酸エステルを調製するための各種のプロセスが開示されている。
【0004】
(非特許文献1)には、α−ヒドロキシメチル−α−フルオロマロン酸エステルを加水分解し、次いで脱炭酸および再エステル化することによる、2−フルオロアクリル酸エステルを調製するためのプロセスが開示されている。そのプロセスは、低い収率しか得られないという欠点を有している。
【0005】
さらに、(特許文献1)には、2,2−ブロモフルオロプロピオン酸エステルからの置換された2−フルオロアクリル酸エステルの調製が開示されている。このプロセスが不利であるのは、反応剤の入手が困難であることと、低収率しか得られず、そのためにこのプロセスでは採算がとれないことである。
【0006】
(特許文献2)には、2,3−ジクロロ−1−プロペンから出発して2−フルオロアクリル酸エステルを調製するための4工程のプロセスが開示されている。3−ヒドロキシ−2−フルオロプロピオン酸エステルから出発して、塩化トルエンスルホニルと反応させ、フタルイミドカリウムの存在下に、生成したトシレートを除去することにより、2−フルオロアクリル酸誘導体を調製するさらなるプロセスが、(非特許文献2)、および(非特許文献3)から公知である。上述のプロセスにおける共通因子は、それらが、経済的および安全面の理由から、工業的なプロセスとしては望ましくないということである。
【0007】
3−ヒドロキシ−2−フルオロプロピオン酸エステルを脱水剤と反応させることによる、2−フルオロアクリル酸誘導体を調製するためのさらなるプロセスが、(非特許文献4)から公知である。このプロセスの欠点もやはり、製品収率が低いことである。
【0008】
(特許文献3)および(特許文献4)には、2−フルオロアクリル酸エステルを調製するためのプロセスが開示されており、そこでは、第一のプロセス工程において2−フルオロマロン酸ジメチルをホルムアルデヒドと反応させて2−ヒドロキシメチル−2−フルオロマロン酸ジメチルを得て、それを、脱炭酸および脱水を使用する第二工程において、2−フルオロアクリル酸に転化させる。第三の工程において、アルコールを用いた2−フルオロアクリル酸のエステル化反応によって、相当する2−フルオロアクリル酸エステルを得ている。
【0009】
これらのプロセスにおいてもやはり、安全面の理由から2−ハロアクリル酸エステルの調製には不適切であるか、あるいはプロセス工程の段数が多すぎるために反応収率が低くなりすぎるか、のいずれかが共通因子となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−172223号公報
【特許文献2】欧州特許出願公開第415 214A号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第249 867A号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第203 462A号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Journal of Fluorine Chemistry,55,1991,p.149−162
【非特許文献2】Journal of Fluorine Chemistry,1993,60,p.149−162
【非特許文献3】Coll.Czech.Chem.Commun.,1983,48,p.319−326
【非特許文献4】Bull.Soc.Chem.Fr.,1975,p.1633−1638
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、従来技術の欠点を克服し、そして工業的に実現可能なプロセスにおいて置換された2−ハロアクリル酸エステルを効率的に調製することが可能となるような、2−ハロアクリル酸エステルを調製するためのプロセスが依然として求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
したがって、本発明は、式(IV)
【化1】
[式中、
は、C〜C15−アルキル、好ましくはC〜C−アルキル、またはC〜C−シクロアルキル、またはC〜C24−アリールであり、かつ
は、フッ素、塩素、または臭素、好ましくはフッ素である]
の2−ハロアクリル酸エステルを調製するためのプロセスを提供し、このプロセスは、
a)式(II)
【化2】
の化合物、および/または式(III)
【化3】
[それぞれの式において、RおよびXは、式(IV)で与えられた定義を有し、二つのR基は、同一であっても異なっていてもよいが、好ましくは同一であり、
そして式(III)におけるXは、フッ素、塩素、クロロスルフィニルオキシ、または臭素である]
の化合物を、塩基の存在下で反応させて、式(IV)の化合物を得る工程を含む。
【0014】
本発明はさらに、式(IV)
【化4】
[式中、
は、C〜C15−アルキル、好ましくはC〜C−アルキル、C〜C−シクロアルキル、またはC〜C24−アリールであり、かつ
は、フッ素、塩素、または臭素、好ましくはフッ素である]
の2−ハロアクリル酸エステルを調製するためのプロセスを提供し、このプロセスは、
a)式(II)
【化5】
の化合物、および/または式(III)
【化6】
[それぞれの式において、RおよびXは、式(IV)で与えられた定義を有し、二つのR基は、同一であっても異なっていてもよいが、好ましくは同一であり、
そして、式(III)におけるXは、フッ素、塩素、または臭素、好ましくは塩素または臭素である]
の化合物を、塩基の存在下で反応させて、式(IV)の化合物を得る工程を含む。
【発明を実施するための形態】
【0015】
塩基の存在下では、式(II)の化合物から、二酸化炭素およびアルコール(ROH)が脱離されて、式(IV)の化合物が得られる。
【0016】
塩基の存在下では、式(III)の化合物から、二酸化炭素およびハロゲン化メチル(CH)が脱離されて、式(IV)の化合物が得られる。
【0017】
さらなる実施態様においては、式(III)の化合物で、X=クロロスルフィニルオキシの場合、二酸化炭素、二酸化硫黄、および塩化メチルが脱離されて、式(IV)の化合物が得られる。クロロスルフィニルオキシは、−O−SO−Cl基を意味していると理解されたい。
【0018】
式(I)〜(IV)においてRで表されたものは、たとえば、C〜C15−アルキル、C〜C−アルキル、C〜C−シクロアルキル、またはC〜C24−アリールであってよい。Rが、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−、i−、s−もしくはt−ブチル、n−ペンチル、またはn−ヘキシルであるのが好ましく、特にメチルまたはエチルが好ましい。Rがメチルであれば、より好ましい。
【0019】
式(I)〜(IV)においてXで表されたものは、フッ素、塩素、または臭素である。Xがフッ素であれば、より好ましい。
【0020】
一つの実施態様においては、式(I)〜(IV)においてXで表されたものは、塩素または臭素である。好ましくは、Xが塩素であれば、より好ましい。さらなる実施態様においては、式(I)〜(IV)においてXで表されたものは、フッ素、塩素、クロロスルフィニルオキシ、または臭素である。
【0021】
式(IV)の化合物が、2−フルオロアクリル酸メチルおよび2−フルオロアクリル酸エチルであれば、特に好ましいが、さらに好ましいのは2−フルオロアクリル酸メチルである。
【0022】
式(II)の化合物が、2−フルオロ−2−ヒドロキシメチルマロン酸ジメチルおよび2−フルオロ−2−ヒドロキシメチルマロン酸ジエチルあれば、特に好ましいが、さらに好ましいのは2−フルオロ−2−ヒドロキシメチルマロン酸ジメチルである。
【0023】
式(II)の化合物が、2−フルオロ−2−クロロメチルマロン酸ジメチルおよび2−フルオロ−2−クロロメチルマロン酸ジエチルあれば、特に好ましいが、さらに好ましいのは2−フルオロ−2−クロロメチルマロン酸ジメチルである。式(III)の化合物が、2−フルオロ−2−クロロスルフィニルオキシメチルマロン酸ジエチルおよび2−フルオロ−2−クロロスルフィニルオキシメチルマロン酸ジメチルであれば、さらに特に好ましい。
【0024】
ホルムアルデヒドを用いて式(I)の2−ハロマロン酸ジアルキルをヒドロキシメチル化することによる、反応剤として使用される式(II)の化合物の調製は、欧州特許出願公開第249 867A号明細書および欧州特許出願公開第203 462A号明細書からも常識である。式(I)
【化7】
[式中、RおよびXは、先に挙げた定義を有している]
の化合物も同様に公知であって、公知のプロセス(たとえば相当するマロン酸ジアルキルからハロゲン化、または2−クロロマロン酸ジアルキルからハロゲン交換反応)によって調製することができる。
【0025】
反応剤として使用される式(III)の化合物は、式(II)の化合物をハロゲン化剤と反応させることによって調製することができる。
【0026】
フッ素化剤、塩素化剤または、臭素化剤のようなハロゲン化剤を使用する。使用するハロゲン化剤としては、たとえば、塩化チオニル、臭化チオニル、三塩化リン、三臭化リン、塩化スルホニル、臭化スルホニル、およびハロゲン化水素たとえば、フッ化水素、塩化水素、または臭化水素が挙げられる。特に好ましいハロゲン化剤/塩素化剤は、塩化チオニルである。
【0027】
ハロゲン化プロセスは、溶媒の存在下、または溶媒の非存在下で実施することができる。
【0028】
ハロゲン化に好適な溶媒としては、たとえば以下のものが挙げられる:ヒドロクロロカーボン、たとえば塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、芳香族、場合によっては塩素化された炭化水素、たとえばトルエン、キシレン、クロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン、1,3−ジクロロベンゼン、および1,4−ジクロロベンゼン;脂肪族炭化水素、たとえばヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、およびメチルシクロヘキサン、または上述の溶媒の混合物。
【0029】
ハロゲン化プロセスは、塩基の存在下、または溶媒の非存在下で実施することができる。好適な塩基としては、たとえば以下のものが挙げられる:水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウム、炭酸ナトリウムまたは炭酸カリウム、ナトリウムアルコキシドまたはカリウムアルコキシド、アンモニア、有機アミンたとえば、トリエチルアミン、トリブチルアミンもしくはピリジン、または上述の塩基の混合物。
【0030】
ハロゲン化プロセスは、たとえば−20℃〜200℃、好ましくは50℃〜90℃、またはさらに好ましくは0℃〜50℃、またはさらにもっと好ましくは80℃〜120℃、またはさらにもっと好ましくは110℃〜170℃の範囲の温度で実施することができる。
【0031】
一般式(II)の化合物と塩化チオニルとの反応においては、得られる反応生成物は、2−フルオロ−2−クロロスルフィニルオキシメチルマロン酸ジエステル(X=O−SO−Cl)とすることができる。この化合物は、一般式(II)の化合物を塩化チオニルと0〜50℃の温度で反応させることによって得られる。それとは対照的に、一般式(II)の化合物を塩化チオニルと、塩基の存在下、比較的に高い温度、たとえば80〜120℃の温度で反応させると、相当するクロロメチルマロン酸ジエステルが得られる。それとは対照的に、塩基を存在させずに一般式(II)の化合物を塩化チオニルと反応させると、より高い温度、たとえば110〜170℃の温度の場合のみに、相当するクロロメチルマロン酸ジエステルが得られる。
【0032】
本発明のプロセスにおいて、反応剤の代替え物としてまたは追加物として使用される式(III)の化合物は、新規であり、したがってそれらも本発明に包含され、その調製法も同様である。
【0033】
好ましい実施態様においては、本発明のプロセスにおいて使用される反応剤が、式(III)の化合物である。
【0034】
公知の従来技術に勝る点は、本発明のプロセスでは、遊離の2−ハロアクリル酸が生成することなく反応が進行するという点にあると考えられる。したがって、さらなるエステル化工程は存在しない。
【0035】
本発明においては、塩基が使用される。使用される塩基は、有機塩基、たとえばアミン、有機金属のアミド、アルコキシド、または無機塩基であってよい。好適な塩基としては、特に以下のものが挙げられる:アルカリ土類金属もしくはアルカリ金属の水酸化物、アミド、アルコキシド、炭酸塩、リン酸水素塩もしくはリン酸塩、たとえばナトリウムアミド、リチウムジエチルアミド、ナトリウムメトキシド、カリウムtert−ブトキシド、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム。使用される塩基が、炭酸水素ナトリウムまたは炭酸水素カリウムであれば好ましい。
【0036】
そのプロセスは、溶媒の存在下、または溶媒の非存在下で実施することができる。
【0037】
好適な溶媒としては、たとえば以下のものが挙げられる:エーテル、アミド、たとえばスルホン、たとえばスルホラン;スルホキシド、たとえばジメチルスルホキシド;エーテル、たとえばジオキサン;アミド、たとえばN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、およびN−メチルピロリドン。特に好ましい溶媒は、N−メチルピロリドンである。
【0038】
そのプロセスは、たとえば120〜170℃、好ましくは140〜160℃の範囲の温度で実施することができる。
【0039】
本発明のプロセスを使用すれば、式(IV)の2−ハロアクリル酸エステルの調製は、やっかいな副生物を実質的に生成させることなく、有利に実施することが可能となる。
【0040】
式(IV)の2−ハロアクリル酸エステルは、当業者に公知の方法、たとえば溶媒を用いた抽出法によるか、好ましくは蒸留法によって精製することができる。別法として、さらなる仕上げ工程なしで、本発明のプロセスからの式(IV)の2−ハロアクリル酸エステルのさらなる加工を実施することができる。
【0041】
本発明におけるプロセスによれば、式(IV)の2−ハロアクリル酸エステルを、工業的に単純で安全な方法で高収率且つ高純度で調製することが可能である。本発明のプロセスでは、その有害性のために特別な処置を必要とするような化学物質を取り扱う必要はなく、大スケールであっても何の問題もなく実施することが可能である。特に、本発明のプロセスが、式(IV)の2−ハロアクリル酸エステルを高収率、高純度で与えるということは驚くべきことである。
【0042】
本発明において調製される式(IV)の2−ハロアクリル酸エステルは、プラスチックの製造および医薬品におけるポリマー性添加物には特に好適である。
【0043】
本発明はさらに、式(III)
【化8】
[式中、R、X、およびXは、先に挙げた定義を有している]
の2−ハロメチル−2−ハロマロン酸ジアルキルも提供する。
【0044】
好ましくはRがエチル基またはメチル基、より好ましくはメチル基であり、Xがフッ素原子、そしてXが塩素原子である。
【0045】
式(III)の2−ハロメチル−2−ハロマロン酸ジアルキルは、従来技術では今日まで知られていないものであった。式(III)の2−クロロスルフィニルオキシメチル−2−ハロマロン酸ジアルキルもまた同様に、従来技術では未知のものであった。先にも説明したように、それらは、2−ハロアクリル酸エステルを調製するための出発物質として使用することができる。
【0046】
本発明はさらに、式(III)(X=ハロゲン)
【化9】
の2−ハロメチル−2−ハロマロン酸ジアルキルを調製するためのプロセスも提供し、ここでは、式(II)
【化10】
の2−ヒドロキシメチル−2−ハロマロン酸ジアルキルを、ハロゲン化剤と反応させる[ここで、式(II)および(III)において、R、X、およびXは、先に与えられた定義を有している]。
【0047】
本発明はさらに、式(III)
【化11】
(X=クロロスルフィニルオキシ)
の2−クロロスルフィニルオキシメチル−2−ハロマロン酸ジアルキルを調製するためのプロセスも提供し、ここでは、式(II)
【化12】
の2−ヒドロキシメチル−2−ハロマロン酸ジアルキルを、塩化チオニルと反応させる[ここで、式(II)および(III)において、R、X、およびXは、先に与えられた定義を有している]。
【0048】
好ましくはRがエチル基またはメチル基、より好ましくはメチル基であり、Xがフッ素原子、そしてXが塩素原子である。
【0049】
反応剤として使用される式(III)の化合物は、式(II)の化合物をハロゲン化剤と反応させることによって調製することができる。
【0050】
使用するハロゲン化剤は、フッ素化剤、塩素化剤または、臭素化剤でよい。ハロゲン化剤としては、たとえば、塩化チオニル、臭化チオニル、三塩化リン、三臭化リン、塩化スルフリル、臭化スルフリル、およびハロゲン化水素たとえば、フッ化水素、塩化水素、または臭化水素が挙げられる。特に好ましいハロゲン化剤/塩素化剤は、塩化チオニルである。
【0051】
ハロゲン化プロセスは、溶媒の存在下、または溶媒の非存在下で実施することができる。
【0052】
本発明を説明するために以下の実施例を示すが、それらは本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0053】
例1:2−フルオロ−2−ヒドロキシメチルマロン酸ジメチルの調製
(欧州特許出願公開第A0203462号明細書または欧州特許出願公開第A0249867号明細書に記載の方法に類似)
室温で調製した、80gの30%ホルムアルデヒド水溶液中に8gの炭酸水素カリウムを溶解させた溶液の中に、内温20〜25℃で、100gの2−フルオロマロン酸ジメチルを1時間以内で計量仕込みした。室温でさらに1時間撹拌してから、酢酸エチルを用いて抽出し、その抽出物を濃縮することによって、112gの反応生成物が、約88%の純度で、無色の油状物の形で得られたが、それは、室温では急速に固化し、無色の固体となった。さらなる精製をするために、その反応生成物をトルエンから再結晶させた。
【0054】
例2:2−フルオロ−2−ヒドロキシメチルマロン酸ジエチルの調製
(欧州特許出願公開第A0203462号明細書または欧州特許出願公開第A0249867号明細書に記載の方法に類似)
室温で調製した、70gの30%ホルムアルデヒド水溶液中に7gの炭酸水素カリウムを溶解させた溶液の中に、7.0gのエタノールを添加した後で、内温20〜25℃で、100gの2−フルオロマロン酸ジエチルを1時間以内で計量仕込みした。室温でさらに3時間撹拌してから、酢酸エチルを用いて抽出し、その抽出物を濃縮することによって、122gの反応生成物が、約84%の純度で、淡いベージュ色の油状物の形で得られた。さらなる精製をするために、その反応生成物をトルエンから再結晶させた。
【0055】
例3:2−フルオロ−2−クロロメチルマロン酸ジメチルの調製(本発明実施例)
60gの例1からの反応生成物に、0〜5℃で、300gの塩化チオニルを添加したが、一次反応生成物として生成した懸濁液は、短時間の後に、透明で淡いベージュ色の溶液となった。0〜5℃でさらに1時間撹拌した後、1.8gのトリエチルアミンをこの温度で添加し、その反応混合物を加熱して還流させ、還流下で48時間加熱した。濃縮して乾燥させた後に残った残渣を、200gのジクロロメタンに溶解させ、そのようにして得られた溶液を、200gの炭酸水素ナトリウム5重量%水溶液を用いて、中性になるまで室温で洗浄した。その有機相を再濃縮して乾燥させ、その残った残渣を約10mbarで分別蒸留した。約50gの、98%よりも高い純度を有する黄色の油状物が得られた(理論値の約75%)。
【0056】
例4:2−フルオロ−2−クロロメチルマロン酸ジエチルの調製(本発明実施例)
100gの例2からの反応生成物に、0〜5℃で、400gの塩化チオニルを添加すると、短時間の内に透明で褐色の溶液が生成した。0〜5℃でさらに1時間撹拌した後、5.0gのトリエチルアミンをこの温度で添加し、その反応混合物を加熱して還流させ、還流下で48時間加熱した。濃縮して乾燥させた後に残った残渣を、300gのジクロロメタンに溶解させ、そのようにして得られた溶液を、300gの炭酸水素ナトリウム5重量%水溶液を用いて、中性になるまで室温で洗浄した。その有機相を濃縮して乾燥させると、約107gの約91%の純度を有するベージュ色の油状物が得られた(理論値の約88%)。さらなる精製をするために、その反応生成物を20mbarで分別蒸留すると、蒸留収率が理論値の約80%であった。
【0057】
例5:2−フルオロ−2−クロロスルフィニルオキシメチルマロン酸ジメチルの調製(本発明実施例)
60gの例1からの反応生成物を溶融させ、溶融させた形で、80gの塩化チオニルの初期仕込み液に室温で計量仕込みした。室温でさらに5時間撹拌してから、その反応混合物を減圧下に濃縮して乾燥させた。残存した液体相は、86gのベージュ色の油状物であって、90%の純度を有していた(理論値の約90%)。
【0058】
例6:2−フルオロ−2−クロロスルフィニルオキシメチルマロン酸ジメチルからの2−フルオロ−2−クロロメチルマロン酸ジメチルの調製(本発明実施例)
68gの実施例5の反応生成物を、20mbarでの分別蒸留にかけた。得られた留出物は、27.7gの無色の油状物であって、ほぼ97%の純度を有していた(理論値の約60%)。
【0059】
例7:2−フルオロ−2−クロロメチルマロン酸ジメチルからの2−フルオロアクリル酸メチルの調製(本発明実施例)
100gのN−メチルピロリドン、70gの炭酸ナトリウム、および5gの2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールの混合物の中に、300mbar、150℃で、50gの例3からの反応生成物を約4時間以内で計量仕込みした。27gの、88%の純度を有する無色の液体が得られた(理論値の約93%)。さらなる精製をするために、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールを添加してその反応生成物を減圧下で分別蒸留すると、理論値の約92%の蒸留収率となった。
【0060】
例8:2−フルオロ−2−ヒドロキシメチルマロン酸ジメチルからの2−フルオロアクリル酸メチルの調製(本発明実施例)
室温で調製した、50gのN−メチルピロリドン、30gの炭酸ナトリウム、2.5gの2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、および50gの例1からの反応生成物の混合物を、300mbarの減圧下で、徐々に加熱して150℃とした。20重量%の塩化ナトリウム水溶液を用いて0℃で、そのようにして得られた留出物を洗浄して、それからメタノールを除去した。24gの、96%の純度を有する無色の液体が得られた(理論値の約82%)。
【0061】
さらなる精製をするために、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールを添加してその反応生成物を減圧下で分別蒸留すると、理論値の約92%の蒸留収率となった。
【0062】
例9:2−フルオロ−2−クロロスルフィニルオキシメチルマロン酸ジメチルからの2−フルオロアクリル酸メチルの調製(本発明実施例)
40gのN−メチルピロリドン、32gの炭酸ナトリウム、および1.4gの2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールの混合物の中に、300mbar、130℃で、48.6gの例5からの反応生成物を約4時間以内で計量仕込みした。そのようにして得られた留出物を、水を用い、0℃で洗浄した。14.8gの、ほぼ88%の純度を有する無色の液体が得られた(理論値の約82%)。
【0063】
例10:2−フルオロ−2−クロロメチルマロン酸ジエチルからの2−フルオロアクリル酸エチルの調製(本発明実施例)
100gのN−メチルピロリドン、24gの炭酸ナトリウム、および2.5gの2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールの混合物の中に、300mbar、140℃で、50.7gの、例4からの蒸留した反応生成物を、約3時間以内に計量仕込みした。そのようにして得られた留出物は、16.2gの、80%の純度を有する無色の液体であった(理論値の約47%)。20重量%の塩化ナトリウム水溶液を用い、0℃で洗浄することにより、その粗反応生成物からメタノールを除去した。