(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6574214
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】食物の製造方法、及び、食物
(51)【国際特許分類】
A23N 12/02 20060101AFI20190902BHJP
A22C 21/00 20060101ALI20190902BHJP
A22C 25/02 20060101ALI20190902BHJP
A23L 3/34 20060101ALI20190902BHJP
A23L 19/00 20160101ALN20190902BHJP
A23B 7/14 20060101ALN20190902BHJP
【FI】
A23N12/02 Q
A22C21/00 A
A22C25/02
A23L3/34
!A23L19/00 A
!A23B7/14
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-68165(P2017-68165)
(22)【出願日】2017年3月30日
(65)【公開番号】特開2018-166469(P2018-166469A)
(43)【公開日】2018年11月1日
【審査請求日】2018年8月6日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591186176
【氏名又は名称】株式会社 ゼンショーホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】高塩 仁愛
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 耕太郎
(72)【発明者】
【氏名】武井 俊憲
(72)【発明者】
【氏名】森本 昌志
【審査官】
土屋 正志
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−075050(JP,A)
【文献】
特開2014−147870(JP,A)
【文献】
特開2008−264771(JP,A)
【文献】
特開2008−306969(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23N 12/02
A22C 21/00
A22C 25/02
A23L 3/34
A23B 7/14
A23L 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象食物を、直径1μm未満の微細気泡を発生させた液体で満たした洗浄槽内において、前記液体を、圧力0.01〜0.05MPa、吐出水量0.1〜0.5(L/s)及び吐出量0.1〜0.5体積%の条件で噴流により循環させて洗浄して殺菌する工程を含み、前記液体が、飲用可の井水及び水道水から選ばれる少なくとも一つであって、且つ、塩素濃度が20ppm未満である、食物の製造方法。
【請求項2】
前記微細気泡の直径が10nm〜500nmである請求項1に記載の食物の製造方法。
【請求項3】
前記液体中の前記微細気泡の濃度が106個/ml以上である請求項1又は請求項2に記載の食物の製造方法。
【請求項4】
前記液体の噴流による洗浄時間が2秒間〜30分間である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の食物の製造方法。
【請求項5】
前記対象食物が、カットされた食物である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の食物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直径1μm未満の微細気泡を用いて食物を洗浄する工程を有する食物の製造方法、及び、当該製造方法によって製造された食物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から青果物などの食物が提供される際、当該食物は、洗浄、殺菌及び鮮度管理などの複数の工程を経た後に消費者に提供されている。また、近年では、千切りキャベツ等カットした野菜などの調理の手間を省くための製品も多く流通されている。カット野菜などの品質管理において微生物的鮮度低下については、保存温度と並んで初発菌数の低減が重要な要素の一つであると認識されている。このため、従来から食物の製造時に、例えば、次亜塩素酸、微酸性電解水、過酢酸製剤等の殺菌作用を有する食品添加物を殺菌剤として用いて野菜等を洗浄殺菌している。これらの化学物質は最終製品に残存することは許されないので、大量の洗浄水を用いた洗浄処理が必要となる。
【0003】
このように、次亜塩素酸等による野菜等の青果物の殺菌や除菌はごく一般的に行われている。例えば、次亜塩素酸による殺菌処理によれば、カットした野菜を次亜塩素酸200ppmの水溶液に投入し、1〜30分間程度浸漬し、その後無菌のチラー水で塩素が検出されなくなるまで洗浄することで、菌数を100分の一程度に減少させることができると言われている。殺菌処理に用いられる次亜塩素酸としては、次亜塩素酸水や次亜塩素酸ナトリウム等が一般に用いられている。尚、本明細書を通じて、単に「殺菌」と称した場合であっても、物理的に菌や微生物を排除する「除菌」の意味合いも含まれるものとする。
【0004】
しかし、次亜塩素酸を用いた洗浄方法については改良法も提案されている。例えば、次亜塩素酸ナトリウム等の殺菌剤水溶液を用いた千切りキャベツの製造方法としては、殺菌処理工程後にキャベツの切断部分に清水を注ぎながら千切り処理行い、その後一定時間以上水に晒す技術が開示されている(例えば、下記特許文献1参照)。当該技術によれば、十分に殺菌されキャベツのエグ味を大きく軽減できるとされている。
【0005】
一方、近年では微細な気泡を含む液体を用いた技術が注目されている。例えば、直径100μm以下の微細な気泡は「ファインバブル(登録商標)」と称されることがあり、種々の分野における利用が検討されている。ファインバブルの中でも特に直径が1μm未満のものは「ウルトラファインバブル(登録商標)」と称され、動植物の成長促進効果、水質改善効果、除菌効果、及び殺菌効果など種々の効果を奏する点で注目されている。
【0006】
このような微細な気泡を用いた食品の洗浄方法としては、次亜塩素酸ナトリウムの濃度を20〜80ppmであり、微細気泡を含有する塩素気泡水を用いた食品の洗浄方法が開示されている(例えば、下記特許文献2参照)。当該技術では微細気泡水の有する除菌・殺菌効果が少ないことを理由として微細気泡水に次亜塩素酸ナトリウムを溶解させることで除菌・殺菌作用を発揮させることを目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開WO2012/073840号公報
【特許文献2】特開2017−38528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、近年次亜塩素酸による殺菌処理にはその殺菌効果に限界があることが確認されている。また、次亜塩素酸で殺菌処理されたカット野菜は、水によって洗浄した後であっても口に入れる際に塩素臭を感じる場合が多く、野菜本来の旨味も損なわれてしまう。特に、薬味に使うスライスした青ネギやサラダ用のカットタマネギの場合、次亜塩素酸による殺菌処理を行うと、調理したての野菜本来の香味が失われて、無味に近くなってしまう。
【0009】
一方、作業環境の向上や摂食時における弊害並びに食物本来の旨味を損なわないために次亜塩素酸の代替技術の開発が求められている。そこで、次亜塩素酸使用時の塩素濃度を数十ppmにまで減らしても殺菌効果のある微酸性電解水を導入する技術も増えてきている。しかし、このような技術でも共存する有機物により塩素が失活するため、殺菌効果を発揮させるためにはかけ流しで微酸性電解水を補給する必要がある。また、製品中には塩素の残存が許されないため、殺菌処理後の洗浄が必須となる。
【0010】
この点において、微細な気泡を利用した技術も候補として注目が高まっている。しかし、単に青果物などの食物を微細気泡を含む液体に浸漬させたり撹拌する程度では殺菌効果が弱く、次亜塩素酸の代替技術とするためには未だ改良の余地があった。このように、微細気泡を用いた次亜塩素酸代替の食物の洗浄技術に開発が求められているが、いまだ十分な効果を達成した事例はない。
【0011】
本発明は、上述の課題を解決すべく、食物の本来の旨味が損なわれず除菌及び殺菌作用に優れた食物の衛生的な製造方法及び当該製造方法によって製造された食物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
<1> 対象食物を、直径1μm未満の微細気泡を含む液体の噴流によって洗浄する工程を含む食物の製造方法。
<2> 前記微細気泡の直径が10nm〜500nmである前記<1>に記載の食物の製造方法。
<3> 前記液体中の前記微細気泡の濃度が10
6個/ml以上である前記<1>又は<2>に記載の食物の製造方法。
<4> 1つの吐出口当たり洗浄槽容積に対し1秒間で0.05体積%以上、且つ、圧力0.01MPa以上で吐出された前記微細気泡を含む液体で前記対象食物を洗浄する前記<1>〜<3>のいずれか一つに記載の食物の製造方法。
<5> 前記液体の噴流による洗浄時間が2秒間〜30分間である前記<1>〜<4>のいずれか一つに記載の食物の製造方法。
<6> 前記対象食物が、カットされた食物である前記<1>〜<5>のいずれか一つに記載の食物の製造方法。
<7> 直径1μm未満の微細気泡を含む液体の噴流によって洗浄する工程の洗浄方法によって洗浄された食物。
<8> 前記微細気泡の直径が10nm〜500nmである前記<7>に記載の食物。
<9> 前記液体中の前記微細気泡の濃度が10
6個/ml以上である前記<7又は前記<8>に記載の食物。
<10> 1つの吐出口当たり洗浄槽容積に対し1秒間で0.05体積%以上、且つ、圧力0.01MPa以上で吐出された前記微細気泡を含む液体で洗浄された前記<7>〜<9>のいずれか一つに記載の食物。
<11> 前記液体の噴流による洗浄時間が2秒間〜30分間である前記<7>〜<10>のいずれか一つに記載の食物。
<12> カットされた食物である前記<7>〜<11>のいずれか一つに記載の食物。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、食物の本来の旨味が損なわれず除菌及び殺菌作用に優れた食物の衛生的な製造方法及び当該製造方法によって製造された食物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の内容について実施態様を用いて詳細に説明する。但し、以下の実施形態は例示であり、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0015】
本実施形態の食物の製造方法(以下、単に「本実施形態の製造方法」と称することがある。)は、対象食物を、直径1μm未満の微細気泡を含む液体の噴流によって洗浄する工程(以下、単に「洗浄工程」と称することがある。)を含む。また、以下直径1μm未満の微細な気泡を適宜「UFB」と称することがある。本実施形態の製造方法は衛生的な製造方法であり、食物本来の旨味を損なうことなく対象食物を洗浄することができるとともに、次亜塩素酸等の殺菌剤を用いなくても当該洗浄によって対象食物に殺菌処理を施すことができる。このため、本実施形態の製造方法により製造された食物、即ち、直径1μm未満の微細気泡を含む液体の噴流によって洗浄する工程の洗浄方法によって洗浄された食物は、次亜塩素酸処理された食物と同等以上の除菌率を示すことができる。また、次亜塩素酸を用いないため、塩素臭がせず食物本来の風味・旨味を有するものとなる。尚、上述のように、本明細書を通じて、単に「殺菌」と称した場合であっても、物理的に菌や微生物を排除する「除菌」の意味合いも含まれるものとする。
【0016】
本実施形態の製造方法によれば、単にUFBを含む液体に対象食物を浸漬させた場合に比して殺菌効果が高い。本実施形態における洗浄工程が対象食物に対して高い殺菌効果を発揮できる機構については明らかにされていないが、UFBを含む液体を噴流とすることで当該液体と対象食物との衝突回数が多くなり単に浸漬振盪させた場合に比して対象食物に残留する菌数を減らすことができることが一因であると推測される。更に、本願実施形態の製造方法によれば、UFBの代わりに直径が1μm〜100μm程度のマイクロバブルを用いた場合に比しても殺菌効果を高めることができる。
【0017】
(洗浄工程)
本実施形態における「洗浄工程」は、対象食物を直径1μm未満の微細気泡を含む液体の噴流によって洗浄する工程である。本実施形態の製造方法は、洗浄工程以外の他の工程を適宜含んでいてもよい。本実施形態の製造方法に含まれうる他の工程としては、例えば、対象食物をカットする裁断工程の他、対象食物に付着した泥やごみなどを洗い流すための予備洗浄工程、脱水工程、洗浄後の食物を包装材料で密封する包装工程、異物検出工程、重量チェック、等が挙げられる。また、本実施形態の製造方法は、全工程を通じて次亜塩素酸フリーで行われることが好ましい。また、本実施形態の製造方法は、洗浄工程において次亜塩素酸等の殺菌剤を用いずに対象食物の洗浄及び殺菌が可能なことから、洗浄工程の後に別途殺菌剤等を除去するための工程をおこなわなくてもよい。このため、大量のチラー水等を用いる必要がなく、コスト及び資源的観点からも優れている。但し、特に洗浄工程後に実施される工程は、洗浄後に菌や微生物が食物に付着するのを防止すべく無菌状態で実施されることが好ましい。無菌状態の確保は、消費者の口に入る製品やその原料が次亜塩素等の化学物質に触れないことを前提として、設備や施設を殺菌することによって行うことが好ましい。
【0018】
−対象食物−
本実施形態における「対象食物」は液体で洗浄できる食物であれば特に限定されず、例えば、野菜や果物などの青果物に加えて、魚介類や肉類などの生鮮食品、豆腐やこんにゃくなどの加工食品等が挙げられる。前記対象食物としては青果物が好ましい。また、食物の状態についても特に限定されるものではなく、例えば、カット(裁断)された食物であってもよいし裁断される前の食物であってもよい。このため、千切りキャベツや魚の切り身等のカットされた食物を提供する場合、対象食物の種類に応じて、裁断工程を洗浄工程よりも前に行ってカットされた対象食物をUFBで洗浄する態様としてもよいし、裁断工程を洗浄工程の後に行って洗浄後に対象食物を裁断する態様であってもよい。
【0019】
−微細気泡を含む液体−
本実施形態における「微細気泡」は、直径1μm未満の微細気泡であり、所為「ウルトラファインバブル」と称されるナノオーダーの微細気泡を好適に用いることができる。前記微細気泡の直径が1μm以上であると、殺菌効果が十分ではない。本実施形態における微細粒子の直径は1μm未満であれば特に限定されるものではないが、野菜の表面構造の観点から、10nm〜500nmであることが好ましい。液体中のUFBの存在は、例えばレーザー光の散乱を用いることによって確認することができる。
【0020】
微細気泡の直径の測定方法は特に限定されるものではないが、例えば、動的光散乱法(DLS)、粒子トラッキング解析(particle tracking analysis)、レーザー解析法、共振式質量測定法(RMM)等の公知の方法を適宜用いることができる。これら公知の方法で測定した微細気泡の平均直径を前記微細気泡の直径とみなすことができる。
【0021】
また、洗浄工程に用いられる液体中の微細気泡(UFB)の濃度は特に限定されるものではないが、洗浄殺菌効率の観点から、10
6個/ml以上であることが好ましく、10
7個/ml以上が更に好ましく、10
8個/ml以上が特に好ましい。当該微細気泡の濃度は、例えば、マイクロトラックベル社製のゼータビュー(登録商標)で測定することができる。
【0022】
前記UFBを含む液体は特に限定されるものではなく、一般に青果物の洗浄に用いられる脱イオン水、飲用可の井水や水道水などを用いることができる。またこれに限らず、エタノール、酢酸、有機酸等の水溶液を用いることもできる。また、当該液体は単一の液体であってもよいし、混合液体であってもよい。ここで、本実施形態の製造方法においては、次亜塩素酸を用いることなく対象食物の洗浄を行うことを目的としている。このため、前記液体は、食品衛生法等の観点から、次亜塩素酸ナトリウム等に起因する液体中の塩素濃度が20ppm未満であることが好ましく、1ppm以下であることが更に好ましい。前記液体中の塩素濃度は、高速液体クロマトグラフィー等の公知の方法で測定することができる。
【0023】
本実施形態において微細気泡(UFB)の発生手法は特に限定されることなく公知の手法を用いることができる。前記公知の手法としては、例えば、液体に気体を混合し、当該液体に高いせん断力等を付与することでUFBを発生させる手法を挙げることができる。より具体的には、気体を混合した液体をポンプで複雑な流体経路を有するミキサー等に送液し、液体中の気泡にせん断力を加えることで気泡を微細化することができる。また、用いられる装置によっても異なるが、例えば、気泡の微細化工程を数回繰り返すことで理想的な微細気泡を発生させることができる。液体に混合される気体は特に限定されるものではないが、例えば、空気、炭酸ガス、窒素ガス、オゾンガス等を用いることができ、炭酸ガス、空気、窒素ガスが好ましい。またこれらのガスは単独ガスだけでなく混合ガスを用いることもできる。UFBの発生装置としては市販されている超高密度ウルトラファインバブル発生装置等を用いることができる。
【0024】
−噴流−
本実施形態における洗浄工程においては、UFBを含む液体(以下、「UFB水」と称することもある)の噴流を用いる。ここで、「噴流」とは、速度を持った流体が圧力をかけて吐出口から空間中にほぼ一方向の流れとなって噴出する現象である。前記洗浄工程では、UFBを含む洗浄用水を除菌洗浄対象である対象食物を含む洗浄槽に一定時間噴射して洗浄対象(対象食物)と混合させる。洗浄工程における洗浄条件は洗浄槽の形状、サイズ、噴出孔の数や位置、洗浄対象である対象食物(青果等)のカットサイズや比重などを考慮して決定することができる。一方、噴流の強度の範囲は対象の青果が沈降するあるいは浮いたままの状態よりも強く、青果が噴流によって傷つくより弱い、という必要がある。このような観点から、前記洗浄工程において「微細気泡を含む液体の噴流によって洗浄する」とは、1つの吐出口当たり洗浄槽容積に対し1秒間で0.05体積%以上、且つ、圧力0.01MPa以上で吐出された微細気泡を含む液体で対象食物を洗浄することを意味する。
本明細書を通じて、吐出口から微細気泡を含む液体を吐出するため圧力を「吐出圧力」(単位:Pa)と称する。また、1つの吐出口から1秒間洗浄槽容積に吐出される洗浄槽容器の容積に対する微細気泡を含む液体の量の比を「吐出量」(単位:体積%)と称する。
UFBを含む液体の吐出圧力が0.01MPa未満又は1秒間の吐出量が0.05体積%未満のUFB水量で洗浄した場合、菌体が潜んでいる対象食物の表面構造内にUFBが十分に侵入できず、殺菌効果を十分に発揮することができない。前記吐出圧力としては、対象食物の鮮度(ダメージの受け具合)と洗浄及び殺菌作用とのバランス、並びに工場稼働エネルギーの観点から、0.01〜0.10MPaであることが好ましく、0.01〜0.05MPaであることが更に好ましい。また、前記吐出量としては、対象食物の鮮度(ダメージの受け具合)と洗浄及び殺菌作用とのバランス、並びに工場稼働エネルギーの観点から、洗浄槽容積の0.05体積%〜50.00体積%であることが好ましく、0.05体積%〜5.00体積%であることが更に好ましい。
【0025】
−洗浄条件−
本実施形態における洗浄工程においては、UFBを含む液体の噴流を用いれば特に他の洗浄条件に限定はないが、例えば、液体の噴流による洗浄時間は、対象食物の鮮度(ダメージの受け具合)と洗浄及び殺菌作用とのバランス、及び工程の稼働効率の観点から、2秒間〜30分間であることが好ましく、10秒間〜5分間であることが更に好ましい。特に本実施形態の製造方法によれば、噴流を用いるため浸漬振盪する場合に比して短い洗浄時間で、洗浄効果及び殺菌効果を奏することができる。また、洗浄時における液体の温度についても特に限定はないが、殺菌効果と対象食物の鮮度維持との観点から、2〜25℃であることが好ましく、5〜15℃であることが更に好ましい。
【0026】
本実形態において洗浄槽容器の構成(洗浄槽の容積、噴出口の設置数、設置角度、孔径等)については特に限定なく、目的に応じて適宜選定することができる。洗浄工程におけるUFBを含む液体の流れの方向は一方向であってもよいし、複数方向で液体が衝突するような方式であってもよく、更に、連続式、バッチ方式のいずれであってもよい。また、洗浄工程に用いられる洗浄槽は解放式及び密閉式いずれの方式であってもよく、目的(対象食物の種類や量等)に応じて適宜サイズを決定することができる。また、洗浄槽は、UFBを洗浄に用いられる水槽と同一槽内で発生させるような構成としそれを循環させるような機構であってもよいし、別の装置で発生させたUFBを含む液体を洗浄槽内に吐出するような機構のいずれであってもよい。また、前記洗浄槽はUFBを含む液体に超音波照射を施すことができる機構を有していてもよい。
【0027】
本実施形態において殺菌の対象となる菌としては、例えば、土壌由来の雑菌や野菜に付着してその鮮度を低下させるような菌を始め、大腸菌、サルモネラ菌、ブドウ球菌等が挙げられる。
【0028】
(他の工程)
上述のように、本実施形態の製造方法は、洗浄工程に加えて、予備洗浄工程、裁断工程、脱水工程、包装工程異物検出工程、重量チェック等を含んでいてもよい。裁断工程は、対象食物をカットする工程であり、洗浄工程の前後いずれに行ってもよい。予備洗浄工程は対象食物に付着した泥やごみなどを洗い流すための工程であり、洗浄工程の前に行われることが好ましい。予備洗浄工程を採用する場合、予備洗浄工程において洗浄された対象食物が洗浄工程によって洗浄・殺菌されることとなる。脱水工程は、洗浄工程において洗浄された食物から液体を除去するための工程である。脱水工程においては、例えば、遠心脱水等の手段を用いることができる。また、包装工程は洗浄工程において洗浄・殺菌された食物を窒素ガス等の充填させた袋や包装材で密封する工程である。
【0029】
上述のように本実施形態の製造方法は次亜塩素酸フリーで対応できる方法であるため、殺菌剤を除去するために水で晒すような工程を必須とせず、洗浄工程の後に脱水工程を施した後、直接包装工程によって食物を密封包装する態様であってもよい。例えば、カットされた食物を提供する場合は、本実施形態の製造方法を、予備洗浄工程、カット工程、洗浄工程、脱水工程、包装工程の順で行ってもよいし、予備洗浄工程、洗浄工程、脱水工程、裁断工程、包装工程の順で行ってもよい。上述のように洗浄工程を含め、各工程は無菌状態で実施されることが好ましい。
【0030】
以上、本発明の製造方法及びこれにより得られた食物について詳細な実施形態を持って説明したが、本発明の構成は上述の実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
[実施例1〜5,比較例4]
1mm幅にスライスした新鮮なキャベツ(スライスキャベツ)、又は5cm角に切ったレタス(カットレタス)を対象食物とした。各実施例及び比較例4においては必要に応じて、対象食物を洗浄した後、遠心分離により脱水した(予備洗浄工程)。得られた対象食物を水槽に移し、水道水中にウルトラファインバブルで充満されたウルトラファインバブル水(以下、「UFB水」と称する)の噴流にて洗浄・殺菌処理を行った。UFB水は(株)ナノクス製の装置(装置名:ナノフレッシャー(登録商標))を用いた。具体的には、水道水200Lをナノフレッシャーによって室温・2時間の条件で所定のガスによって通気処理を行い、UFBの濃度が10
8個/ml以上となるようにUFBを生成した(UFBの濃度についてはマイクロトラックベル社製のゼータビュー(登録商標)で測定)。各実施例におけるUFB水の作製条件及び洗浄条件について表1〜3に示す。
【0032】
[比較例1]
水道水に次亜塩素酸ナトリウムを加え塩素濃度が180ppmになるように調整し、当該水道水に5分間スライスキャベツを浸漬させ洗浄殺菌した。その後大量の水道水で濯いだ対象食物を用いた。洗浄条件について表1に示す。
【0033】
[比較例2]
水道水に次亜塩素酸ナトリウムを加え塩素濃度が200ppmになるように調整し、当該水道水に5分間スライスキャベツを浸漬させ洗浄殺菌した。その後大量の水道水で濯いだ対象食物を用いた。洗浄条件について表1に示す。
【0034】
[比較例3−1〜3−3]
水道水を、吐出量:1〜5体積%、吐出圧力:0.01〜0.05MPaの強度で噴流させ、5,10又は15分間カットレタスを洗浄殺菌した。洗浄条件について表2に示す。
【0035】
[カット野菜の洗浄殺菌の効果(洗浄殺菌効果)評価]
各実施例及び比較例について洗浄処理したカット野菜をポリ袋に封入し10℃以下で保存した。
各操作について一般的な微生物実験の手順に従い、保存したサンプルを用いて菌数検査を行った。菌数検査は保存したサンプル10gに対し90mlのリン酸バッファー(pH7.0)とストマッカーとを用いて1分間処理して菌を抽出し、10倍段階希釈の後、これをプレートに1ml塗布し48時間培養した後、一般細菌と大腸菌群とのCFU/gを測定した。当該測定値に基づき、洗浄殺菌の前後での菌数を求め残菌率を算出した。なお、「残菌率」とは未処理のサンプルを100%とした時の一般生菌数の減少割合を示す。
【0036】
各実施例及び比較例におけるUFB水中の微細気泡及び洗浄条件の状態、及びサンプルの除菌率を下記に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
実施例1及び比較例1〜2(スライスキャベツを使用)によって、UFBの噴流によって対象食物を洗浄した本発明の場合と従来法(次亜塩素酸Naを用いた方法)との残菌率(洗浄殺菌効果)の違いについて比較をした。表1の結果から明らかなように、残菌率で比較すると、UFBの噴流によって対象食物を洗浄した実施例1の製造方法は、次亜塩素酸Na従来法(次亜塩素酸Na)と同等の結果を示した。これらの結果から、本発明は従来法と同等の殺菌作用を奏することがわかる。
また、実施例1で洗浄されたスライスキャベツは残菌率も低い上、塩素臭がなく本来の風味及び旨味を維持されていた。一方、比較例1及び2のスライスキャベツは、残菌率は少ないものの塩素臭が強く、食物の風味及び旨味が損なわれており、苦味も感じられた。
【0039】
【表2】
【0040】
実施例2−1〜実施例4−3及び比較例3−1〜3−3(カットレタスを使用)によって、UFBの噴流によって対象食物を洗浄した本発明の場合とUFBを用いず単に水道水の噴流によって対象食物を洗浄した場合との残菌率(洗浄殺菌効果)の違いについて比較をした。表2の結果から明らかなように、UFBの噴流によって対象食物を洗浄した各実施例の製造方法は、単に水道水を用いた場合に比して残菌率に顕著な差が認められた。これらの結果から、本発明はUFBの噴流を用いることによって、単に水道水の噴流によって洗浄した場合と比して格別に優れた殺菌作用を発揮できることがわかる。
【0041】
【表3】
【0042】
実施例5及び比較例4(スライスキャベツを使用)によって、UFBの噴流によって対象食物を洗浄した本発明の場合と、単に対象食物をUFB水に浸漬させた場合と、の残菌率(洗浄殺菌効果)の違いについて比較をした。表3の結果から明らかなように、UFBの噴流によって対象食物を洗浄した本発明の製造方法は、単に対象食物をUFB水に浸漬させた場合に比して残菌率に顕著な差が認められた。これらの結果から、本願発明はUFBの噴流を用いることによって、単に対象食物をUFB水に浸漬させた場合と比して格別に優れた殺菌作用を発揮できることがわかる。