特許第6574324号(P6574324)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6574324
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】半導体封止用樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20190902BHJP
   C08K 3/28 20060101ALI20190902BHJP
   C09C 1/36 20060101ALI20190902BHJP
   C09C 3/06 20060101ALI20190902BHJP
   H01B 3/00 20060101ALI20190902BHJP
   H01B 3/40 20060101ALI20190902BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20190902BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20190902BHJP
【FI】
   C08L63/00 C
   C08K3/28
   C09C1/36
   C09C3/06
   H01B3/00 A
   H01B3/40 C
   H01L23/30 R
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-261156(P2013-261156)
(22)【出願日】2013年12月18日
(65)【公開番号】特開2015-117302(P2015-117302A)
(43)【公開日】2015年6月25日
【審査請求日】2016年9月9日
【審判番号】不服2018-4087(P2018-4087/J1)
【審判請求日】2018年3月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】597065282
【氏名又は名称】三菱マテリアル電子化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 正義
(72)【発明者】
【氏名】影山 謙介
(72)【発明者】
【氏名】石黒 茂樹
【合議体】
【審判長】 大橋 賢一
【審判官】 小川 進
【審判官】 後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−93896(JP,A)
【文献】 特開2001−83315(JP,A)
【文献】 特開昭62−136861(JP,A)
【文献】 特開平1−141963(JP,A)
【文献】 特開昭60−179696(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L63/00
C09C 1/36
C09C 3/06
C08K 3/28
H01L23/29
H01B 3/00
H01B 3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒色酸窒化チタンの粉末母体と、この粉末母体の表面を被覆する厚さ2.50〜5.90nmのシリカ膜とを備えた黒色酸窒化チタン粉末が、エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤及び無機充填剤の混合物に分散した半導体封止用樹脂組成物であって
前記黒色酸窒化チタン粉末は、5MPaの圧力で固めた圧粉体の状態での体積抵抗率が1×105Ω・cm以上であり、CIE 1976 L***色空間(測定用光源C:色温度6774K)における明度指数L*値が11.2以下であり、
前記黒色酸窒化チタン粉末の含有割合が、前記エポキシ樹脂、前記硬化剤、前記硬化促進剤及び前記無機充填剤の混合物と前記黒色酸窒化チタン粉末の合計量100質量%に対して0.05〜10質量%である
ことを特徴とする半導体封止用樹脂組成物
【請求項2】
α線放出量が0.1cph/cm2以下である請求項記載の半導体封止用樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ膜により被覆された黒色酸窒化チタン粉末をフィラーとして用いた半導体封止用樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、カーボンブラックを湿式酸化処理した後、孔径5μm以下のフィルタを濾過通過させ、次いでカーボンブラック含有分を3〜50質量%に濃縮調整したカーボンブラックスラリーを噴霧乾燥して得られた、孔径25μmの篩残分が0重量%、定量濾紙No.5Aの濾紙残分が0.5ppm以下である半導体封止材用カーボンブラック着色剤が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。このように構成されたカーボンブラック着色剤は、大きな凝集物が除去されているので、この着色剤を用いた半導体封止用樹脂組成物は、高集積度化する半導体素子においても、カーボンブラックの凝集物が配線間に挟持されて、凝集物により配線間が短絡して電気的不良を招くことが抑止され、また、樹脂組成物の流動性、成形性、レーザマーク性も優れており、IC、LSIなどの半導体素子の封止に好適である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−206621号公報(請求項1、段落[0019])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来の特許文献1に示された半導体封止材用カーボンブラックは、元来、導電性を有しているため、半導体素子の配線ピッチが30μm以下と更に狭くなると、上記カーボンブラックをフィラーとして用いた封止材では、カーボンブラックの凝集物が配線間に挟持されて、配線が短絡するおそれがあった。この点を解消するために、フィラーそのものの電気絶縁性が要求され、この要求を満たしたフィラー、即ち電気絶縁性の優れたフィラーとしては黒色酸窒化チタン粉末(チタンブラック粉末)がある。しかし、黒色酸窒化チタン粉末は、イルメナイト鉱(黒色酸窒化チタン原料となる酸化チタンの原料)に含まれる不純物(特に鉛)に起因するα線の発生が懸念される。このイルメナイト鉱を用いて酸化チタン粉末を製造し、更に黒色酸窒化チタン粉末を製造して、この黒色酸窒化チタン粉末をフィラーとして用いた封止材により半導体素子を封止したときに、黒色酸窒化チタン粉末からα線が発生すると、半導体素子がα線によって誤動作するいわゆるソフトエラーが発生するおそれがある。
【0005】
本発明の目的は、半導体素子等の封止用樹脂組成物のフィラーとして用いたとき、半導体素子等の配線ピッチが狭くなっても、配線を短絡せず、また半導体素子等のα線による誤動作であるソフトエラーの発生を抑制できる、半導体封止用樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の観点は、黒色酸窒化チタンの粉末母体と、この粉末母体の表面を被覆する厚さ2.50〜5.90nmのシリカ膜とを備え、5MPaの圧力で固めた圧粉体の状態での体積抵抗率が1×105Ω・cm以上であり、CIE 1976 L***色空間(測定用光源C:色温度6774K)における明度指数L*値が11.2以下であり、半導体封止用樹脂組成物に用いられる黒色酸窒化チタン粉末である。
【0010】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、更にα線放出量が0.1cph/cm2以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の第1の観点の黒色酸窒化チタン粉末では、粉末母体の表面を厚さ2.50〜5.90nmのシリカ膜で被覆し、黒色酸窒化チタン粉末を5MPaの圧力で固めた圧粉体の状態での体積抵抗率が1×105Ω・cm以上と大きいので、黒色酸窒化チタン粉末が高い電気絶縁性及び高いα線の遮蔽性を有する。この結果、黒色酸窒化チタン粉末を半導体素子等の封止用樹脂化合物のフィラーとして用いたとき、半導体素子等の配線ピッチが狭くなっても、このフィラーである黒色酸窒化チタン粉末が配線を短絡せず、また半導体素子等のα線による誤動作であるソフトエラーの発生を抑制できる。
【0012】
また、本発明の第1の観点の黒色酸窒化チタン粉末では、この黒色酸窒化チタン粉末のCIE 1976 L***色空間(測定用光源C:色温度6774K)における明度指数L*値を11.2以下としたので、黒色酸窒化チタン粉末の黒色度の不足を防止できる。この結果、上記黒色酸窒化チタン粉末を半導体封止用樹脂組成物のフィラーとして用いたとき、半導体素子等の封止材による隠蔽性を向上できる。
【0013】
更に、本発明の第1の観点の半導体封止用樹脂組成物では、この半導体封止用樹脂組成物に含まれる黒色酸窒化チタン粉末が高い電気絶縁性及び高いα線の遮蔽性を有するので、この樹脂組成物を半導体素子等の封止材として用いたとき、半導体素子等の配線ピッチが狭くなっても、封止材中の黒色酸窒化チタン粉末が配線を短絡せず、また半導体素子等のα線による誤動作であるソフトエラーの発生を抑制できる。
【0014】
本発明の第2の観点の半導体封止用樹脂組成物では、α線放出量が0.1cph/cm2以下と少ないので、この樹脂組成物を半導体素子等の封止材として用いたとき、半導体素子等のα線による誤動作であるソフトエラーの発生を抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に本発明を実施するための形態を説明する。黒色酸窒化チタン粉末は、コアとなる黒色酸窒化チタンの粉末母体と、この粉末母体を被覆するシェルとなるシリカ膜とを備える。黒色酸窒化チタンの粉末母体は、化学式:TiNXY(但し、X=0.2〜1.4,Y=0.1〜1.8)、又は化学式:TiW2W-1(但し、W=1〜10)で表され、黒色を呈する。ここで、上記化学式:TiNXYにおいて、Xを0.2〜1.4の範囲内に限定したのは、0.2未満では還元割合が低いことから黒色度が不十分であり、1.4を超えると黄色味を呈してくるため黒色顔料として所定の色調が得られないからである。また、上記化学式:TiNXYにおいて、Yを0.1〜1.8の範囲内に限定したのは、この範囲外では黒色顔料として所定の色調が得られないからである。更に、上記化学式:TiW2W-1において、Wを1〜10の範囲内に限定したのは、1未満の化合物は一般的に存在せず、10を超えると黒色顔料として所定の色調が得られないからである。なお、上記化学式:TiNXYの酸素と窒素の質量比(O/N)は、0.2〜6の範囲であることが好ましい。
【0016】
一方、上記シリカ膜の厚さは、2.50〜5.90nmの範囲内である。また黒色酸窒化チタン粉末は、5MPaの圧力で固めた圧粉体の状態での体積抵抗率が1×105Ω・cm以上、好ましくは1.5×106Ω・cm以上であって1.0×1010Ω・cm以下である。上記シリカ膜の厚さは、透過型電子顕微鏡(TEM)により撮影した画像から測定される。また上記体積抵抗率は、例えば、三菱化学社製の低抵抗率計ロレスタ-GP(型式:UV−3101PC)を用いて、四端子四探針法により測定される。この四端子四探針法とは、試料(圧粉体)の表面に4本の針状電極を所定の間隔をあけて一直線上に置き、外側の2本の針状電極間に一定の電流を流し、内側の2本の針状電極間に生じる電位差を測定することにより体積抵抗率を求める方法である。ここで、シリカ膜の厚さを2.5〜12nmの範囲内に限定したのは、2.50nm未満では、黒色酸窒化チタンの粉末母体に含まれる不純物(特に鉛)から放射されるα線の遮蔽性が十分でなく、5.90nmを超えると黒色酸窒化チタン粉末の黒色顔料としての黒色度が不足するからである。また、黒色酸窒化チタン粉末の圧粉体の状態での体積抵抗率を1×105Ω・cm以上に限定したのは、1×105Ω・cm未満では黒色酸窒化チタンの粉末母体がシリカ膜で完全に被覆されておらず、粉末母体の一部が露出した状態になり、結果として黒色酸窒化チタン粉末をフィラーとして用いた半導体封止材の電気絶縁性が低下してしまうからである。なお、コアとなる黒色酸窒化チタンの粉末母体の平均一次粒径は、10nm〜120nmの範囲内であることが好ましい。この粉末母体の平均一次粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて測定した粒径であり、体積基準の平均一次粒径である。ここで、上記粉末母体の平均一次粒径の好ましい範囲を10nm〜120nmに限定したのは、10nm未満では粒子が細か過ぎて凝集が起こり易く、半導体封止用樹脂組成物に均一に分散できず、120nmを超えると粒子が大き過ぎて、着色力(発色力)が不足するからである。
【0017】
一方、黒色酸窒化チタン粉末のCIE 1976 L***色空間(測定用光源C:色温度6774K)における明度指数L*値は、11.2以下である。上記CIE 1976 L***色空間は、国際照明委員会(CIE)が1976年にCIEXYZ表色系を変換し、表色系内の一定距離がどの色の領域でもほぼ知覚的に等歩度の差をもつように定めた色空間である。また明度指数L* 値、a*値及びb*値は、CIE 1976 L***色空間内の直交座標系で定められる量であり、次の式(1)〜式(3)で表される。
*=116(Y/Y01/3 −16 ……(1)
*=500[(X/X01/3 −(Y/Y01/3] ……(2)
*=200[(Y/Y01/3 −(Z/Z01/3] ……(3)
但し、X/X0,Y/Y0,Z/Z0>0.008856であり、X,Y,Zは物体色の三刺激値である。また、X0,Y0,Z0は物体色を照明する光源の三刺激値であり、Y0=100に基準化されている。また黒色酸窒化チタン粉末の明度指数L*値は、例えば日本電色工業社製の分光色差計(型式:SE2000)を用いて求める。ここで、黒色酸窒化チタン粉末の明度指数L*値を11.2以下に限定したのは、11.2を超えると黒色度が不足して黒色顔料として所定の色調が得られないからである。
【0018】
このように構成された黒色酸窒化チタン粉末の製造方法を説明する。先ず白色酸化チタン粉末(TiO2)を還元ガスにより還元して黒色酸窒化チタンの粉末母体を得る。ここで、還元ガスとしてアンモニアガスを用いると、化学式:TiNXY(但し、X=0.2〜1.4,Y=0.1〜1.8)で表される黒色酸窒化チタンが生成される。上記白色酸化チタン粉末(TiO2)の還元率は、反応温度を高くしたり、アンモニアガス流量を上げたり、或いは反応時間を延ばすことにより、コントロール可能であり、還元率が高くなると、粉末の黒色度が向上する。即ち、L*値が低くなる。この黒色酸窒化チタンの粉末母体を湿式粉砕して黒色酸窒化チタンの粉末母体の分散液を得る。この湿式粉砕は、アルコール中に分散させた粒子母体をビーズミルにより平均一次粒径が80nm〜200nmの範囲内になるまで粉砕することにより行われる。次いで上記粉末母体の分散液に、この分散液の濃度を調整するためのアルコールを添加した後、シリカ膜を形成するためのシリカ源を添加する。ここで、アルコールとしては、エチルアルコールやプロピルアルコールを用いることが好ましく、シリカ源としては、オルトけい酸テトラエチル(TEOS)、オルトけい酸テトラメチル、プロピルシリケート及びブチルシリケートからなる群より選ばれた1種又は2種以上の化合物であることが好ましい。特にオルトけい酸テトラエチル(TEOS)又はオルトけい酸テトラメチルのいずれか一方又は双方を用いることが更に望ましい。
【0019】
次にシリカ源が添加された黒色酸窒化チタンの粉末母体の分散液にアルカリ源を添加して分散液での反応を開始する。ここで、アルカリ源は、NaOH、KOH、Na2CO3、K2CO3、NaHCO3、KHCO3、NH4OH、(NH4)2CO3及びNH4HCO3からなる群より選ばれた1種又は2種以上のアルカリ触媒である。更に上記分散液を洗浄し乾燥した後に焼成する。上記分散液の洗浄は、この分散液から不純物を除去するために、分散液を遠心分離器にかけたり、或いは分散液をイオン交換樹脂製のフィルタに通すことにより行われる。また上記焼成は、不活性ガス雰囲気中で100〜400℃に1〜10時間保持する処理であって、この焼成によりシリカ膜で被覆された黒色酸窒化チタンの粉末母体である黒色酸窒化チタン粉末が得られる。ここで、焼成温度を100〜400℃の範囲内に限定したのは、100℃未満では重縮合反応が進行せずシリカ膜の形成が不十分となり、400℃を超えると黒色酸窒化チタンの粉末母体の粒成長によりシリカ膜が割れてしまうからである。また、焼成時間を1〜10時間の範囲内に限定したのは、1時間未満ではシリカ膜の形成が不十分となり、10時間を超えると黒色酸窒化チタンの粉末母体の粒成長によりシリカ膜が割れてしまうからである。このように製造された黒色酸窒化チタン粉末では、シリカ膜が、黒色酸窒化チタンの粉末母体の表面で生じるゾル−ゲル反応、即ち加水分解や重縮合などの反応によって形成されるので、シリカ膜が緻密になって、シリカ膜にクラックが発生しない。この結果、黒色酸窒化チタン粉末の電気絶縁性を良好に保つことができる。
【0020】
次にこのように製造された黒色酸窒化チタン粉末を用いて、半導体封止用樹脂組成物を製造する方法を説明する。先ずエポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤及び無機充填剤を混合して混合物を調製する。エポキシ樹脂としては、多官能型エポキシ樹脂が好ましく、具体例としては、ビフェニル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、トリフェニルグリシジルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニルグリシジルメタン型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾール型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂等が挙げられる。硬化剤としては、1級アミン、2級アミン、フェノール樹脂(例えば、フェノールノボラック樹脂)、酸無水物等が挙げられる。硬化促進剤としては、例えば、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾールなどのイミダゾール化合物や、例えば、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなどの3級アミン等が挙げられる。無機充填剤としては、結晶性シリカ、非晶質シリカ、アルミナ、窒化珪素、窒化アルミ等が挙げられる。また上記混合物100質量%に対して、エポキシ樹脂の含有割合が3〜40質量%であることが好ましく、硬化剤の含有割合が1〜30質量%であることが好ましく、硬化促進剤の含有割合が0.1〜3.0質量%であることが好ましく、無機充填剤の含有割合が60〜95質量%であることが好ましい。次にこの混合物にフィラーとして黒色酸窒化チタン粉末を添加し、混合物に黒色酸窒化チタン粉末を分散させる。上記黒色酸窒化チタン粉末の含有割合は、上記混合物と黒色酸窒化チタン粉末の合計量100質量%に対して0.05〜10質量%の範囲内であることが好ましく、0.1〜5.0質量%の範囲内であることが更に好ましい。このようにして半導体封止用樹脂組成物が製造される。この半導体封止用樹脂組成物のα線放出量は0.1cph/cm2以下であることが好ましく、0.05cph/cm2以下であることが更に好ましい。
【0021】
ここで、混合物100質量%に対するエポキシ樹脂の含有割合を3〜40質量%の範囲内に限定したのは、3質量%未満では半導体素子や基板等に対する密着性が不足し、40質量%を超えると封止材としての強度が不足するからである。また、混合物100質量%に対する硬化剤の含有割合を1〜30質量%の範囲内に限定したのは、1質量%未満では樹脂組成物の硬化が不十分となって封止材の強度が不足し、30質量%を超えると硬化前の樹脂組成物の保存安定性が不足するからである。また、混合物100質量%に対する硬化促進剤の含有割合を0.1〜3.0質量%の範囲内に限定したのは、0.1質量%未満では樹脂組成物の硬化が不十分となって封止材の強度が不足し、3.0質量%を超えると硬化前の樹脂組成物の保存安定性が不足するからである。また、混合物100質量%に対する無機充填剤の含有割合を60〜95質量%の範囲内に限定したのは、60質量%未満では封止材としての強度が不足し、95質量%を超えると半導体素子や基板等に対する密着性が不足するからである。また、混合物と黒色酸窒化チタン粉末の合計量100質量%に対する黒色酸窒化チタン粉末の含有割合を0.05〜10質量%の範囲内に限定したのは、0.05質量%未満では封止材の黒色度が低下し、10質量%を超えると半導体素子や基板等に対する接着性が不足するからである。更に、半導体封止用樹脂組成物のα線放出量を0.1cph/cm2以下に限定したのは、0.1cph/cm2を超えると半導体封止用樹脂組成物を用いて半導体を封止したときにソフトエラーが発生するおそれがあるからである。
【0022】
これらの各成分を含む半導体封止用樹脂組成物には、必要に応じて封止材の低弾性率、強靱性或いは高耐湿性化などを図るためのシリコーン系の可撓化剤や、成形品が金型から容易に離れるようにするための離型剤や、樹脂成分と充填剤との濡れ性や接着性を改善するためのカップリング剤や、難燃性を付与する難燃剤及び難燃助剤などの添加剤を適宜配合することもできる。
【0023】
このように製造された半導体封止用樹脂組成物を用いて半導体素子を封止すると、この封止材に含まれる黒色酸窒化チタン粉末が高い電気絶縁性及び高いα線の遮蔽性を有するので、半導体素子の配線ピッチが狭くなっても、封止材中の黒色酸窒化チタン粉末が配線を短絡せず、また半導体素子のα線による誤動作であるソフトエラーの発生を抑制できる。
【実施例】
【0024】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。(なお、以下に記載の「実施例4〜6」はいずれも「参考例」である。)
【0025】
<実施例1>
先ず白色酸化チタン粉末(TiO2)をアンモニアガス(還元ガス)により還元して黒色酸窒化チタンの粉末母体を得た。ここで、還元反応時間(白色酸化チタン粉末のアンモニアガスへの接触時間)を120分とした。この黒色酸窒化チタンの粉末母体は、化学式:TiNXY(但し、X=0.3,Y=0.9)で表される。この粉末母体0.1モルに対しアルコールとしてエタノールを12モル添加し、粉末母体をエタノールに分散させて、ビーズミルにより湿式粉砕することにより、平均一次粒径150nmの粉末母体の分散液を得た。次いでこの粉末母体の分散液に、濃度調整のためのエタノールを6モル添加した後、シリカ膜を形成するためのシリカ源としてオルトけい酸テトラメチルを1×10-2モル添加した。次にこのオルトけい酸テトラメチルが添加された粉末母体の分散液にアルカリ源(反応開始剤)として水酸化ナトリウムを1×10-3モル添加して分散液での反応を開始した。更にこの分散液を洗浄し乾燥した後に焼成することにより、黒色酸窒化チタンの粉末母体が厚さ2.56nmのシリカ膜により被覆された体積抵抗率7.50×105Ω・cmの黒色酸窒化チタン粉末を得た。但し、上記分散液の洗浄は、この分散液から不純物を除去するために、分散液を遠心分離器にかけた後に、分散液をイオン交換樹脂製のフィルタに通すことにより行った。また上記焼成は、窒素ガス雰囲気中で350℃に5時間保持する処理であった。この黒色酸窒化チタン粉末を実施例1とした。なお、シリカ膜の厚さは、透過型電子顕微鏡(TEM)により撮影した画像から測定した。また、黒色酸窒化チタン粉末の体積抵抗率は、黒色酸窒化チタン粉末を5MPaの圧力で固めた圧粉体の状態で、三菱化学社製の低抵抗率計ロレスタ-GP(型式:UV3101PC)を用いて、四端子四探針法により測定した。
【0026】
<実施例2>
オルトけい酸テトラメチルを2×10-2モル添加し、アルカリ源(反応開始剤)として水酸化ナトリウムを1×10-3モル添加したこと以外は、実施例1と同様にして、黒色酸窒化チタンの粉末母体が厚さ3.50nmのシリカ膜により被覆された体積抵抗率9.00×106Ω・cmの黒色酸窒化チタン粉末を得た。この黒色酸窒化チタン粉末を実施例2とした。
【0027】
<実施例3>
オルトけい酸テトラメチルを3×10-2モル添加し、アルカリ源(反応開始剤)として水酸化カリウムを1×10-3モル添加したこと以外は、実施例1と同様にして、黒色酸窒化チタンの粉末母体が厚さ5.90nmのシリカ膜により被覆された体積抵抗率1.00×107Ω・cm以上の黒色酸窒化チタン粉末を得た。この黒色酸窒化チタン粉末を実施例3とした。
【0028】
<実施例4>
オルトけい酸テトラメチルを4×10-2モル添加し、アルカリ源(反応開始剤)として水酸化カリウムを1×10-3モル添加したこと以外は、実施例1と同様にして、黒色酸窒化チタンの粉末母体が厚さ7.20nmのシリカ膜により被覆された体積抵抗率1.00×107Ω・cm以上の黒色酸窒化チタン粉末を得た。この黒色酸窒化チタン粉末を実施例4とした。
【0029】
<実施例5>
オルトけい酸テトラメチルを5×10-2モル添加し、アルカリ源(反応開始剤)としてアンモニア水を8×10-3モル添加したこと以外は、実施例1と同様にして、黒色酸窒化チタンの粉末母体が厚さ10.25nmのシリカ膜により被覆された体積抵抗率1.00×107Ω・cm以上の黒色酸窒化チタン粉末を得た。この黒色酸窒化チタン粉末を実施例5とした。
【0030】
<実施例6>
オルトけい酸テトラメチルを10×10-2モル添加し、アルカリ源(反応開始剤)としてアンモニア水を5×10-3モル添加したこと以外は、実施例1と同様にして、黒色酸窒化チタンの粉末母体が厚さ12.00nmのシリカ膜により被覆された体積抵抗率1×107Ω・cmの黒色酸窒化チタン粉末を得た。この黒色酸窒化チタン粉末を実施例6とした。
【0031】
<実施例7>
オルトけい酸テトラエチルを1.0×10-2モル添加し、アルカリ源(反応開始剤)としてアンモニア水を5×10-3モル添加したこと以外は、実施例1と同様にして、黒色酸窒化チタンの粉末母体が厚さ2.50nmのシリカ膜により被覆された体積抵抗率1.00×105Ω・cmの黒色酸窒化チタン粉末を得た。この黒色酸窒化チタン粉末を実施例7とした。
【0032】
<比較例1>
オルトけい酸テトラメチルを添加しなかった、即ち粉末母体の表面にシリカ膜を形成しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、体積抵抗率5.50×100Ω・cmの黒色酸窒化チタン粉末を得た。この黒色酸窒化チタン粉末を比較例1とした。
【0033】
<比較例2>
オルトけい酸テトラメチルを0.5×10-2モル添加し、アルカリ源(反応開始剤)として水酸化ナトリウムを1×10-3モル添加したこと以外は、実施例1と同様にして、黒色酸窒化チタンの粉末母体がシリカ膜により被覆された体積抵抗率0.80×105Ω・cmの黒色酸窒化チタン粉末を得た。この黒色酸窒化チタン粉末を比較例2とした。なお、比較例2のシリカ膜の厚さは、電子顕微鏡写真で計測できず、不明であった。
【0034】
<比較例3>
オルトけい酸テトラメチルを0.8×10-2モル添加したこと以外は、実施例1と同様にして、黒色酸窒化チタンの粉末母体が厚さ2.30nmのシリカ膜により被覆された体積抵抗率1.00×105Ω・cmの黒色酸窒化チタン粉末を得た。この黒色酸窒化チタン粉末を比較例3とした。
【0035】
<比較例4>
オルトけい酸テトラメチルを12×10-2モル添加し、アルカリ源(反応開始剤)として水酸化カリウムを1×10-3モル添加したこと以外は、実施例1と同様にして、黒色酸窒化チタンの粉末母体が厚さ13.00nmのシリカ膜により被覆された体積抵抗率0.90×106Ω・cmの黒色酸窒化チタン粉末を得た。この黒色酸窒化チタン粉末を比較例4とした。
【0036】
<比較例5>
オルトけい酸テトラメチルを15×10-2モル添加し、アルカリ源(反応開始剤)としてアンモニア水を5×10-3モル添加したこと以外は、実施例1と同様にして、黒色酸窒化チタンの粉末母体が厚さ14.00nmのシリカ膜により被覆された体積抵抗率1.00×107Ω・cm以上の黒色酸窒化チタン粉末を得た。この黒色酸窒化チタン粉末を比較例5とした。
【0037】
<比較例6>
オルトけい酸テトラメチルを20×10-2モル添加し、アルカリ源(反応開始剤)としてアンモニア水を5×10-3モル添加したこと以外は、実施例1と同様にして、黒色酸窒化チタンの粉末母体が厚さ16.00nmのシリカ膜により被覆された体積抵抗率1.00×107Ω・cm以上の黒色酸窒化チタン粉末を得た。この黒色酸窒化チタン粉末を比較例6とした。
【0038】
<比較例7>
実施例1において白色酸化チタン粉末(TiO2)をアンモニアガスにより還元して黒色酸窒化チタンの粉末母体を作製するときの反応時間を実施例1の半分とすることにより、白色酸化チタン粉末(TiO2)の還元率の低い黒色酸窒化チタンの粉末母体を作製したこと以外は、実施例1と同様にして、黒色酸窒化チタンの粉末母体が厚さ3.60nmのシリカ膜により被覆された体積抵抗率4.50×106Ω・cmの黒色酸窒化チタン粉末を得た。この黒色酸窒化チタン粉末を比較例7とした。
【0039】
<比較試験1及び評価>
実施例1〜7及び比較例1〜7の黒色酸窒化チタン粉末について、L*値を測定した。黒色酸窒化チタン粉末の明度指数L*値は、日本電色工業社製の分光色差計(型式:SE2000)を用いて求めた。
【0040】
一方、実施例1〜7及び比較例1〜7の黒色酸窒化チタン粉末を用いて半導体封止用樹脂組成物をそれぞれ製造し、これらの樹脂組成物を用いて半導体をそれぞれ封止した。具体的には、先ずビフェニル型エポキシ樹脂(エポキシ樹脂)6質量%と、フェノールノボラック樹脂硬化剤(硬化剤)3質量%と、2−メチルイミダゾール(硬化促進剤)0.2質量%と、非晶質シリカ(無機充填剤)90.8質量%とを混合して混合物を調製した。次にこの混合物と上記黒色酸窒化チタン粉末の合計量100質量%に対し黒色酸窒化チタン粉末を2質量%添加して、半導体封止用樹脂組成物をそれぞれ製造した。更にこれらの半導体封止用樹脂組成物を用いて半導体をそれぞれ封止した。これらの封止材を実施例1〜7及び比較例1〜7の封止材とし、これらの封止材の電気絶縁性、黒色度及びα線放出量をそれぞれ測定した。上記封止材の電気絶縁性は、樹脂封止型半導体装置により測定した。そして、リーク電流の認められなかったものを良好とし、リーク電流が認められたものを不良とした。また、上記封止材の黒色度は、分光色差計により測定した。そして、L*値が30以下であったものを良好とし、L*値が30を超えたものを不足とした。ここで、黒色酸窒化チタン粉末のL*値の基準値(良好の範囲の上限値)が14であるのに対し、封止材のL*値の基準値(良好の範囲の上限値)が30と大きいのは、封止材中における黒色酸窒化チタン粉末の含有割合が2質量%と低いからである。更に、上記封止材のα線放出量は、α線測定器(型番:SSB、EG&G ORTEC社製)を用いて測定した。それらの結果を、黒色酸窒化チタン粉末のシリカ膜の厚さ及び体積抵抗率とともに、表1に示す。なお、表1において、比較例6の電気絶縁性が形成不良であるとは、比較例6の黒色酸窒化チタン粉末をエタノールに分散させたときに、この分散液がゲル化してしまい、封止材を製造できず、電気絶縁性を測定できなかったことを示す。このため、比較例6では、封止材の黒色度及びα線放出量も測定できなかった。
【0041】
【表1】
【0042】
表1から明らかなように、黒色酸窒化チタン粉末の粉末母体の表面にシリカ膜を形成せず、かつ圧粉体の状態での体積抵抗率が5.50×100Ω・cmと小さかった比較例1では、黒色酸窒化チタン粉末を用いた封止材において、黒色度は良好であったけれども、電気絶縁性が不良であり、またα線の放出量も0.5cph/cm2と多かった。また黒色酸窒化チタン粉末の圧粉体の状態での体積抵抗率が1.00×105Ω・cmと適切であったけれども、シリカ膜の厚さが2.3nmと薄かった比較例3では、黒色酸窒化チタン粉末を用いた封止材において、黒色度は良好であったけれども、電気絶縁性が不良であり、またα線の放出量も0.2cph/cm2と多かった。更に黒色酸窒化チタン粉末の圧粉体の状態での体積抵抗率がそれぞれが0.90×106Ω・cm及び1.00×107Ω・cm以上と適切であったけれども、シリカ膜の厚さがそれぞれ13.00nm及び14.00nmと厚かった比較例4及び5では、黒色酸窒化チタン粉末を用いた封止材において、電気絶縁性は良好であり、またα線の放出量も0.1cph/cm2以下と少なかったけれども、黒色度が不足した。これらに対し、黒色酸窒化チタン粉末のシリカ膜の厚さが2.5nm〜12.00nmと適切であり、かつ圧粉体の状態での体積抵抗率が1.00×105Ω・cm以上と適切であった実施例1〜7では、黒色酸窒化チタン粉末を用いた封止材において、電気絶縁性及び黒色度がいずれも良好であり、またα線の放出量も全て0.1cph/cm2以下と少なかった。
【0043】
一方、黒色酸窒化チタン粉末のシリカ膜の厚さが3.60nmと適切であり、かつ圧粉体の状態での体積抵抗率が4.50×106Ω・cmと適切であったけれども、白色酸化チタン粉末をアンモニアガスにより還元して黒色酸窒化チタンの粉末母体を作製するときの反応時間を実施例1の半分にしたため、黒色酸窒化チタン粉末の還元率が不足している比較例7では、黒色酸窒化チタン粉末を用いた封止材において、電気絶縁性が良好であり、またα線の放出量も0.1cph/cm2以下と少なかったけれども、黒色度が不足した。また、シリカ膜の厚さを電子顕微鏡写真で計測できず、かつ圧粉体の状態での体積抵抗率が0.80×105Ω・cmと小さかった比較例2では、黒色酸窒化チタン粉末を用いた封止材において、黒色度は良好であったけれども、電気絶縁性が不良であり、またα線の放出量も1.0cph/cm2と多かった。なお、比較例2において、シリカ膜の厚さを電子顕微鏡写真で計測できなかったのは、シリカ膜が連続膜の形状を呈していなかったためである。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の黒色酸窒化チタン粉末は、半導体素子を封止するための封止材の樹脂組成物に分散されるフィラーであって、内部を隠蔽するために封止材を黒色に着色するためのフィラー或いは封止材にロット番号などの印字用のレーザマークを行うためのフィラーや、大電流を流す車載用パワー半導体素子を封止するための封止材に分散されるフィラーであって、高い電気絶縁性が要求される封止材のフィラーとして利用できる。また、本発明の黒色酸窒化チタン粉末が高い電気絶縁性を有することから、電子表示素子への色素材、例えば液晶カラーフィルタの樹脂ブラックマトリックス、黒色シール材、リブ材、フレキシブルプリント基板等における黒色度及び電気絶縁性を必要とする黒色膜として利用できる。