特許第6574326号(P6574326)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6574326ネオジム触媒イソプレン成分を含んだ、透明かつ強靭かつ耐熱性のあるゴム組成物およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6574326
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】ネオジム触媒イソプレン成分を含んだ、透明かつ強靭かつ耐熱性のあるゴム組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20190902BHJP
   C08L 9/06 20060101ALI20190902BHJP
   C08K 5/14 20060101ALI20190902BHJP
【FI】
   C08L9/00
   C08L9/06
   C08K5/14
【請求項の数】7
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2014-171655(P2014-171655)
(22)【出願日】2014年8月26日
(65)【公開番号】特開2016-44284(P2016-44284A)
(43)【公開日】2016年4月4日
【審査請求日】2017年8月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】510145211
【氏名又は名称】クレイトン・ポリマーズ・ユー・エス・エル・エル・シー
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】益子 法士
(72)【発明者】
【氏名】中沢 好勝
(72)【発明者】
【氏名】内藤 文雄
(72)【発明者】
【氏名】アーウィン・ファン・デル・ワール
【審査官】 藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭52−087444(JP,A)
【文献】 特開2004−307843(JP,A)
【文献】 特開昭63−193941(JP,A)
【文献】 特開平05−179063(JP,A)
【文献】 特開昭59−122531(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0187162(US,A1)
【文献】 国際公開第2014/132718(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00−13/08
C08F 4/60−4/70、6/00−246/00、301/00
C08J 5/00−5/02、5/12−5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な架橋ゴム組成物であって、
ネオジム触媒イソプレンゴム(IR)成分と、
ブタジエンゴム(BR)、1,2−ポリブタジエンゴム、およびスチレンブタジエンゴム(SBR)からなる群から選択される、ゴム重合体成分と
を含み、
前記ネオジム触媒イソプレンゴム成分と前記ゴム重合体成分の質量の合計を100質量部としたときに、前記ネオジム触媒イソプレンゴム成分の量が5〜95質量部の範囲であり、シリカを含まず、
前記組成物の2mm厚のシートでJIS K7136に従って測定したヘーズ値が、20%未満であり、
前記組成物のJIS K6253に従って測定したタイプAデュロメータ硬さ(0 sec)が、30以上である
ことを特徴とする、組成物。
【請求項2】
前記ネオジム触媒イソプレンゴム成分の量が25〜95質量部の範囲である、請求項1に記載の透明な架橋ゴム組成物。
【請求項3】
前記組成物のヘーズ値が、15%以下である、請求項1または2に記載の透明な架橋ゴム組成物。
【請求項4】
前記組成物のタイプAデュロメータ硬さ(0 sec)が、40〜70の範囲である、請求項1から3のいずれか一項に記載の透明な架橋ゴム組成物。
【請求項5】
シリカを含まない、透明な架橋ゴム組成物の製造方法であって、
23℃における屈折率が1.500〜1.525の範囲であるネオジム触媒イソプレンゴム重合体を用意するステップと、
23℃における屈折率が1.500〜1.525の範囲であり、かつブタジエンゴム、1,2−ポリブタジエンゴム、およびスチレンブタジエンゴムからなる群から選択されるゴム重合体を用意するステップと、
前記ネオジム触媒イソプレンゴム重合体と前記ゴム重合体との質量の合計を100質量部としたときに、前記ネオジム触媒イソプレンゴム重合体の量が5〜95質量部の範囲となるようにして、前記ネオジム触媒イソプレンゴム重合体と前記ゴム重合体とを混合し、混合物を得るステップと、
前記混合物に架橋剤を添加するステップと、
前記混合物を均一に混練するステップと
を含む、方法。
【請求項6】
前記混合物を得るステップが、前記ネオジム触媒イソプレンゴム重合体の量が25〜95質量部の範囲となるようにして、前記ネオジム触媒イソプレンゴム重合体と前記ゴム重合体とを混合する、
請求項5に記載のシリカを含まない、透明な架橋ゴム組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物または請求項5または6に記載の方法により製造された組成物を含んだ、物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネオジム触媒イソプレン成分(すなわち、ネオジム含有触媒により調製されるポリイソプレン成分)を含んだ、透明なゴム組成物およびその製造方法に関する。また本発明は、そうしたゴム組成物を含んだ製品にも関する。
【背景技術】
【0002】
透明、すなわち可視光を透過する物には、その物の向こうが見えるという独特の利点がある。透明性は、着色によって後天的に得ることができない特性である。このため先天的に透明な材料には、旧来よりさまざまな分野において産業的・審美的な需要から研究開発が続けられてきた。
【0003】
透明材料の用途が幅広いがゆえに、そこに求められる物性も不透明材料と同様にまたさまざまである。しかし、従来の透明・半透明な材料を、例えば靴やタイヤといった強靭性が求められる物品の製造に用いても、実用に堪えないことが知られている。
【0004】
また透明材料の透明性そのものにも度合いがある。濁りや曇りのある材料では、透明な物品の作製において美的に不適切であることもまた事実である。
【0005】
特許文献1は、エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体ゴムと、エチレン・極性モノマー共重合体と、シリカとを含んだ透明性のある架橋ゴム組成物を開示している。
【0006】
しかしながら、材料の強度を高めるためのシリカの添加は、材料の透明性を損うことが知られている。透明であると謳っている材料でも、実際の外観は白濁・黄色味を帯びたものとなってしまいやすい。また、透明性を上げるにはシリカを分散させるための繁雑な処理も必要となる。
【0007】
また、シリコーン樹脂やシリカ添加樹脂といったケイ素系の材料に柔軟性を与えるには、軟化剤としてのオイルも一般に必要になる。要求される柔軟性が高いほどオイルの必要量も多くなる。しかしそうしたオイルは経年変化によりブリーディング(bleeding)を起こすことが知られており、実際上の使用には制約も多い。
【0008】
特許文献2は、所定の屈折率差を有する二成分系のゴム重合体と湿式シリカとを含んだ透明な組成物を開示している。しかしながら、その透明性は実際には不充分であり、従来技術の欠陥を克服できるものとはなっていない。しかも、シリカの上述した欠点もまた解消されていない。
【0009】
特許文献3〜5は架橋性ポリブタジエン組成物を開示しているが、いずれも着色性が良いというだけにとどまり、材料自体の透明性については何ら寄与できていない。
【0010】
こうした先行研究群と高い需要があるにもかかわらず、これまでゴム的な硬度や強度といった特性と、高い透明性とを兼ね備えた組成物は見出されてこなかったのが実情である。これは、そうした物性のバランスのよい組み合わせを高いレベルで実現することが非常に困難であったことの証左であるといえる。
【0011】
くわえて、一見透明性があるような従来技術に係る組成物であっても、実際には熱に弱いことがある。すると、屋外の使用や殺菌消毒のために苛酷な環境下におかれることがある製品の場合には、熱により材料が劣化してしまい結局透明性が損われてしまって実用に堪えないという問題もあった。
【0012】
また、オレフィンの合成反応においてアルカリ金属やアルカリ土類金属もしくは遷移金属を含んだ触媒を使うことは、一般論としては古くより知られている。しかし、どの金属を含有する触媒がどのオレフィンの合成に適しているのかを実証するには個別に研究を重ねていく必要があり、その研究はいまだ発展途上である。
【0013】
ポリイソプレン(ゴム)はポリオレフィンの一種であり、2-メチル-1,3-ブタジエン分子の重合体である。なお当該技術分野では単に「イソプレン(成分)」「IR(成分)」とも呼ぶことがある。従来技術に係るポリイソプレンは概して、たとえ透明性があると喧伝されていても実際にはかなり濁った外観であることがほとんどである。また、熱にも弱いことが知られている。
【0014】
従来技術に係るポリイソプレンは、旧来のZiegler-Natta触媒や、カルシウムなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属を用いた触媒を使って合成されている。その一方で、そうした金属含有触媒を使用すると、その金属残渣が製品内に含有されてしまう問題もある。このため、特に人体に直接触れる製品(医療用品など)については、厳しい基準が課されていることが多いため、安易に金属含有触媒を使用すると市場の要請に応えられない場合もある。
【0015】
ネオジムは元素番号60の希土類金属元素であり、ランタノイドに属する。ネオジムには主に磁石や超伝導体、ミッシュメタルの原料としての用途があることが知られているが、当該技術分野におけるオレフィン合成の触媒としてはそれほど著名ではない。
【0016】
ネオジム触媒を用いたオレフィンの調製に関しては、ポリブタジエン合成用途についてはある程度は知られているものの、ポリイソプレン合成用途についての報告例はごく限られている(特許文献6〜7および非特許文献1〜3を参照)。そしてそうした先行研究においてすらも、ネオジムは他の遷移金属とまとめて扱われていることが多く、特段にネオジム独自のポリイソプレン合成に適する性質に着目した研究は見当たらない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2003-301080号公報
【特許文献2】特開2005-002225号公報
【特許文献3】特開2002-327092号公報
【特許文献4】特開2002-363344号公報
【特許文献5】特開2003-041060号公報
【特許文献6】欧州特許出願公開EP2650313A号公報
【特許文献7】米国特許出願公開US2005/0137338A1号公報
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Henk van de Weg, R&TS Note KRTS, 108, 2011
【非特許文献2】Lars Friebe et al., Advances in Polymer Science, Vol. 204, 2006, pp. 1-154
【非特許文献3】Wei Gao et al., J. Am. Chem. Soc., 2008, 130 (14), pp. 4984-4991
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本願発明は、上述したような従来の組成物の欠点に鑑み、透明性にすぐれかつ強靭でありかつ耐熱性にすぐれるゴム組成物およびその製造方法を提供し、市場の要請に応えるものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本願発明の或る実施形態においては、透明な架橋ゴム組成物であって、
ネオジム触媒イソプレンゴム(IR)成分と、
ブタジエンゴム(BR)、1,2-ポリブタジエンゴム、およびスチレンブタジエンゴム(SBR)からなる群から選択される、ゴム重合体成分と
を含み、
前記ネオジム触媒イソプレンゴム成分と前記ゴム重合体成分の質量の合計を100質量部としたときに、前記ネオジム触媒イソプレンゴム成分の量が約5〜95質量部の範囲、好ましくは約10〜95質量部の範囲、より好ましくは約25〜95質量部の範囲であり、
シリカを実質的に含まず、
前記組成物の2mm厚のシートでJIS K7136に従って測定したヘーズ値が、約20%未満、好ましくは約18%以下、より好ましくは約15%以下であり、
前記組成物のJIS K6253に従って測定したタイプAデュロメータ硬さ(0 sec)が、約30以上、好ましくは約30〜70の範囲、より好ましくは約40〜70の範囲である
ことを特徴とする組成物が提供される。
【0021】
本願発明のなおも別の実施形態では、シリカを実質的に含まない透明な架橋ゴム組成物の製造方法であって、
23℃における屈折率が約1.500〜1.525の範囲であるネオジム触媒イソプレンゴム重合体を用意するステップと、
23℃における屈折率が約1.500〜1.525の範囲であり、かつブタジエンゴム、1,2-ポリブタジエンゴム、およびスチレンブタジエンゴムからなる群から選択されるゴム重合体を用意するステップと、
前記ネオジム触媒イソプレンゴム重合体と前記ゴム重合体との質量の合計を100質量部としたときに、前記ネオジム触媒イソプレンゴム重合体の量が約5〜95質量部の範囲、、好ましくは約10〜95質量部の範囲、より好ましくは約25〜95質量部の範囲となるようにして、前記ネオジム触媒イソプレンゴム重合体と前記ゴム重合体とを混合し、混合物を得るステップと、
前記混合物に架橋剤を添加するステップと、
前記混合物を均一に混練するステップと
含む方法が提供される。
【発明の効果】
【0022】
本願発明により得られるゴム組成物は、従来技術に係る組成物の欠点を克服し、驚くべきことに透明性にすぐれかつ強靭な特性をバランスよく有し、しかも耐熱性にもすぐれるものである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本願発明の実施形態を詳細に説明するが、これは本願発明を何ら限定するものではない。
【0024】
[定義]
本願明細書において物が「透明」(transparent)であるとは、透過光が主に正透過からなり、可視光線の正透過率が高いことをいう。透明性の程度は、本願においてはヘーズ値または全光線透過率によって規定できる。その程度に及ばない透明性を有する物のことは、本願においては「不透明」(opaque)または「半透明」(semi-transparent)であると称する。
【0025】
「ヘーズ」(haze)とは、JIS K7163(またはISO 14782)に示される基準に従って測定される、透明材料の曇りの度合いのことをいう。ヘーズの値は、試験片を通過する透過光のうち、前方散乱によって、入射光から0.044rad以上それた透過光の百分率として定まる。
【0026】
「全光線透過率」(total luminous transmittance、TT)とは、JIS K7361-1(またはISO 13468-1)に示される基準に従って測定される、透明材料を透過する光線の率をいう。全光線透過率の値は、試験片の平行入射光束に対する全透過光束の割合として定まる。
【0027】
「タイプAデュロメータ硬さ」(Type A Durometer Hardness、Hs、Hs,A)とは、JIS K6253に示される基準によって測定される、ゴム組成物の硬さのことをいう。本願明細書においてタイプAデュロメータ硬さの値は、試験片にプランジャを一定の押し込みで押しつけてから瞬間の沈み込みの深さとして、または押しつけてから30秒後の沈み込みの深さとして、測定したものとする。
【0028】
「引裂強度」(tear strength)とは、JIS K6252に示される基準によって測定される、ゴム組成物の引裂強さのことをいう。本願明細書においては、引裂強度の値は、供試材料を2mmの厚さのシートとしたものを用いて測定したものをN/mm単位に換算したものとする。
【0029】
「破断時引張強さ」または「引張強さ」(tensile、Tb)とは、JIS K6251(ISO37)に示される基準によって測定される、試験片を一定の速さで引張ったときに破断するまでの最大応力のことをいう。本願明細書においては、破断時引張強さの値は、供試試験片にかけた最大荷重を試験片の元の断面積で割った値をMPa単位に換算したものとする。
【0030】
「破断時伸び」または「伸び」(elongation、Eb)とは、JIS K6251(ISO37)に示される基準によって測定される、試験片が引張りを受けて生ずる引張り方向の変形のことをいう。本願明細書においては、破断時伸びの値は、供試試験片の元の長さに対する伸びた長さの比をパーセントで表したものとする。
【0031】
「引張応力」または「モジュラス」(modulus)とは、JIS K6251(ISO37)に示される基準によって測定される、試験片に特定の伸びを与えたときの応力をいう。本願明細書においては、モジュラスの値は、供試試験片に特定の伸びを与えたときの荷重を、その試験片の断面積で割った値をMPa単位に換算したものとする。モジュラスのことは、それぞれ伸びが100%、300%、および500%のときについて、M100、M300、およびM500と表記する。
【0032】
「ムーニー粘度」(Mooney viscosity)とは、JIS K6300-1に示される基準によって測定される、未加硫ゴムの粘度のことをいう。本願明細書においては、ムーニー粘度の値は、上記基準に従うムーニー粘度計を用いて測定したものとする。
【0033】
「屈折率」(refractive index)とは、例えばJIS K7142に示される基準によって測定される、物質中での光速を示す指標となる値である。
【0034】
「ビニル含量」(vinyl content)という用語は、(ブタジエンの場合)1,2-付加反応を介して、または(イソプレンの場合)3,4-付加反応を介して、重合された共役ジエンのコポリマー中のパーセンテージのことを言う。厳密には、純粋な「ビニル基」は1,3-ブタジエンの1,2-付加重合でのみ形成されるものではあるけれども、イソプレンの3,4-付加反応(または他のジエンにおけるこれに類似する付加反応)についても、ブロックコポリマー上で最終的に得られる特性は同様なものであることから、このように定義するものである。この反応の結果、ポリマー骨格にぶら下がる一置換のオレフィン基、すなわちビニル基が生じる。ポリマー中のビニル含量は周知の手法で求めることができ、例えばプロトンNMRの測定結果から求めることができる。
【0035】
こうしたビニル含量は、加える分布剤(distribution agent)の相対量によって有効に制御可能である。よく知られているように、分布剤は二種の目的を以って使用される。すなわち、まずモノアルケニルアレーンと共役ジエンの制御された分布を調製すること、さらには共役ジエンの微細構造を制御することである。分布剤とリチウムの好ましい比率については、この参照により本願に含まれる米国再特許27,145号に教示されている。
【0036】
「軟化油(plasticizer oil)」または「軟化剤」(softener)とは、当該技術分野において材料の物性を柔軟なものに変化させるために添加されることがある(油性)化合物を言い、例えば、パラフィン油、鉱物油、エステル油、炭化水素系合成潤滑油、ナフテン油、植物油、などが含まれうる。
【0037】
ブロックコポリマーに関して本願明細書で使用されている場合、「分子量」という用語は、特に他に断わりが無ければ、ポリマーまたはコポリマーのブロックのg/mol単位での真の分子量を指す。本願明細書および特許請求の範囲において言及されている(見掛けの)分子量は、ASTM 3536に従い行われるようなポリスチレン較正基準を用いて、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定することができる。GPCは周知の手法である。この手法においては、ポリマーは、分子サイズに従い分離され、最も大きい分子が最初に溶出される。クロマトグラフは、市販のポリスチレン分子量基準を用いて較正される。GPCを用いて測定され、このように較正されたポリマーの分子量が、スチレン換算(当量)の分子量である。スチレン当量分子量は、ポリマーのスチレン含有量およびジエンブロックのビニル含有量がわかれば、真の分子量に変換し得る。使用する検出器は、紫外線検出器と屈折率検出器の組合せが好ましい。本明細書中で表現されている分子量は、GPCトレースのピークで測定し、真の分子量に変換するが、これが一般に「最大分子量(ピーク分子量)」と呼ばれているものである。見掛けの分子量について言及しているときは、ブロックコポリマー組成物を考慮してその後の換算をしていない以外は、上記と同様の手法で測定したものであると理解されたい。
【0038】
本願明細書において「含む」または「有する」(comprising、including、またはcontaining)とは、特に他に断わりがないかぎり、或る物または部品が、一つ以上の要素を包含する/持つことを指す。この語の概念は、内的付加も外的付加もいずれをも包摂するものである。
【0039】
本願明細書において「約」または「およそ」(about、around、またはappropriately)とは、特に他に断わりがないかぎり、その語が付された数値について少なくともプラスマイナス10%の幅があることを意味する。
【0040】
[オレフィン重合体についての概論]
オレフィン重合体とは、オレフィンを重合させたものをいい、ジエン重合体および非ジエン重合体を含む。また、オレフィン重合体には、熱可塑性エラストマー(TPE)も含まれうる。本願の実施形態にかかる組成物は、少なくとも二種以上のオレフィン重合体を含むことができる。
【0041】
なお本願明細書においては、特に別に定めないかぎり、「重合体」という概念には加硫させたものと未加硫のものの双方が含まれうることに留意されたい。
【0042】
オレフィン重合体には、共役オレフィン重合体と非共役オレフィン重合体が含まれる。「共役オレフィン重合体」とは、一つの単結合によって二重結合が隔てられた構造を有するオレフィンの重合体をいう。非共役オレフィン重合体とは、一般に二つ以上の単結合によって二重結合が隔てられた構造を有するオレフィンの重合体をいう。
【0043】
こうしたオレフィン重合体を調製するにあたっては例えば、炭素数4〜20のオレフィン(ジオレフィンおよびα-オレフィンを含む)、好ましくは炭素数4〜12のオレフィン、より好ましくは炭素数4〜8のオレフィンを原料として使用することができるが、これらに限定はされない。
【0044】
そうした共役または非共役のオレフィンとしては例えば、1,2-ブタジエン、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、4-メチル-1-ペンテン、1,3-ヘキサジエン、1,4-ヘキサジエン、1,3-ヘプタジエン、4,6-ジメチル-1-ヘプテン、1,3-オクタジエン、1,7-オクタジエン、1,3-ノナジエン、1,3-デカジエン、1,9-デカジエン、1,3-ドデカジエン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、ジシクロペンタジエン、ノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-ビニリデン-2-ノルボルネン、5-メチレン-2-ノルボルネンなどが含まれるが、これらに限定はされない。こうしたオレフィン重合体の数平均分子量については特に制限は無いが、例えば約100g/mol〜100,000g/molの範囲のものとすることができる。
【0045】
またオレフィン重合体には、スチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、α-メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、およびこれらの混合物から選択されるビニル芳香族炭化水素を含めることもできる。
【0046】
「ジエン重合体」とは、オレフィン重合体の一種であって、二重結合を二つ有する炭化水素を重合させたものをいう。ジエン重合体には例えば、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、1,2-ポリブタジエンゴム(または1,2-ポリブタジエンエラストマー)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、クロロプレンゴム(CR)、および任意のグレードの天然ゴム(NR)が含まれるが、これらに限定はされず、当該技術分野において知られるジエン炭化水素から製造できる任意の重合体も含めることができる。なお本願明細書においては、こうしたゴムである重合体のことを、「ゴム重合体」(rubber polymer)とも称することがある。また本願明細書においては、本実施形態に係る組成物に含まれるネオジム触媒イソプレン成分とゴム重合体成分とをまとめて、「オレフィン重合体」と呼ぶこともある。
【0047】
当然のことながら、ジエン重合体にも、共役ジエン重合体および非共役ジエン重合体が含まれる。共役ジエン重合体には、エチレン-αオレフィン共重合体、エチレン-スチレン共重合体、エチレン-共役ジエン共重合体が含まれるが、これらに限定はされない。非共役ジエン重合体には例えば、エチレン-非共役ジエン共重合体が含まれうる。
【0048】
「非ジエン重合体」とは、重合体のユニットにおいて二重結合を二つ有しないものをいう。非ジエン重合体としては例えば、ブチルゴム(IIR)、フッ素ゴム(FKM)、エチレンプロピレンゴム(EPM)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、およびウレタンゴム(U)が含まれるが、これらに限定はされず、当該技術分野において知られる炭化水素から製造できる任意の重合体も含めることができる。
【0049】
なお非ジエン重合体という概念には、辞書的にはシリコーンゴム(Q)も含まれうるが、その問題については背景技術の項で述べたとおりである。しかしながら本願実施形態は、組成物全体の物性に影響をほとんど与えない程度の微量のシリコーンゴムまたはシリカの使用までをも排除しようとするものではない。すなわち、「シリカを実質的に含まない」なる語は、実質的でないシリカの使用(例えば、製造工程上不可避的に混入するものなど)までも排除するものではないことに留意されたい。
【0050】
なお、ジエンまた非ジエンの重合体には幾何異性が存在する場合がある。それらのcis含量の度合によって物性に変化も生じうる。cis含量は例えば、JIS 6230(またはISO 4650)に示された基準に従って赤外分光分析法によって測定可能である。
【0051】
cis含量の程度の高低はポリマーの種類に依って変わるが、例えばポリイソプレンの場合については、cis含量が約90〜95%、より典型的には約90〜94%程度、さらに典型的には約90〜92%程度であるジエン重合体のことを、「低cis(低シス、ローシス)」であると称することができる。また、cis含量が約95%以上のもの、典型的には約95〜99%程度、より典型的には約96%〜約99%程度であるもののことを、「高cis(高シス、ハイシス)」であると称することができる。
【0052】
また例えばポリブタジエン(BR)については、cis含量が約20〜40%程度のものが「低cis」、約94〜98%程度のものが「高cis」、その中間のものが「中cis」と称されることがある。
【0053】
高cisのジエン重合体の例としては、LHIR-80(Moaming Luhua社製のネオジム触媒高cisポリイソプレンゴム、Mw:約1800〜2100kg/mol、cis含量:約96〜97%程度、LHIR-90(Moaming Luhua社製のネオジム触媒高cisポリイソプレンゴム、23℃での屈折率:1.519)、Nipol IR2200(日本ゼオン社製の、ネオジム触媒によらない、Ziegler-Natta系触媒高cisポリイソプレンゴム、Mw:約1700kg/mol、cis含量:約98.5%、ムーニー粘度:82、23℃での屈折率:1.519)、およびNipol IR2200L(日本ゼオン社製のネオジム触媒によらない高cisポリイソプレンゴム、ムーニー粘度:72)、といったものが挙げられるがこれらに限定はされない。
【0054】
低cisまたは中cisのジエン重合体の例としては、Cariflex IR0307およびCariflex IR0310(クレイトンポリマー社製のリチウム触媒ポリイソプレン、cis含量:約87%〜約91%、23℃での屈折率:1.519)、ソルプレン255およびアサプレン755A(旭化成社製のスチレン系エラストマー)、ジエン35NR、ジエン35RNF、ジエン55RNF、ジエン35NF、ジエン55NF、およびジエン51(Firestone Polymers社製の中cisポリブタジエン、cis含量:約40%、ムーニー粘度:約35〜55)、Nipol BR1241SおよびNipol BR1242S(日本ゼオン社製の低cis1,4-ポリブタジエン、ムーニー粘度:約35〜55)、といったものを挙げることができる。
【0055】
1,2-ポリブタジエンの例としては、JSR RB805、JSR RB810、JSR RB820、JSR RB830、およびJSR RB840(JSR社製の低結晶性シンジオタクチック1,2-ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー、1,2-結合含量:約90%〜約96%)といったものを挙げることができる。なお23℃における屈折率は、JSR RB810が約1.513、JSR RB820が約1.515、JSR RB830が約1.517である。
【0056】
柔軟性を得る観点からは、重合体の結晶性は低いことが好ましい。例えばポリブタジエンブロック共重合体の場合、水素化後の結晶性(特に低温での過度の硬度)を回避するために、1,2-付加の割合を好ましくは約30%以上とすることができる。また、重合体の結晶性が高すぎると、ヘーズが高くなりやすく透明性を損なうおそれがある。
【0057】
上記重合体(ポリマー)の調製にあたっては、従来技術でこうした重合体の調製に有用であることが公知の任意の不活性な炭化水素溶媒を使用できる。適当な溶媒としては例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなど、ならびにそのアルキルで置換された誘導体などの直鎖および側鎖の炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタンなど、ならびにそのアルキルで置換された誘導体などの脂環式炭化水素;ベンゼン、ナフタレン、トルエン、キシレンなど芳香族系およびアルキルで置換された芳香族系炭化水素;およびテトラリン、デカリンなど水素化芳香族系炭化水素が挙げられる。
【0058】
また、特に別に定めないかぎり、「重合体」にはその末端が変性剤で変性された変性重合体も含まれうる。そうした変性剤としては例えば、アミノ基、アミド基、アルコキシシリル基、イソシアネート基、イミノ基、イミダゾール基、ウレア基、エーテル基、カルボニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、ニトリル基、およびピリジル基からなる群から選択される一種以上の官能基を有する化合物を挙げることができる。変性剤としては例えば、3-(N,N-ジメチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、3-(N,N-ジエチルアミノプロピル)トリメトキシシラン、3-(N,N-ジメチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、3-(N,N-ジエチルアミノプロピル)トリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2-(4-ピリジルエチル)トリエトキシシラン、N-(3-トリエトキシシリルプロピル)-4,5-ジヒドロイミダゾール、四塩化ケイ素などが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0059】
[本実施形態に係る組成物が含みうるネオジム触媒イソプレン成分]
本実施形態に係る組成物は、ネオジム触媒イソプレンゴム成分、すなわちネオジム含有触媒を用いて調製されるイソプレンゴム成分を含む。そうしたネオジム含有触媒の例としては、金属ネオジム、ならびに、ネオジムのカルボン酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、アルコキシド、およびジケトン錯体といったものが挙げられる。ネオジム含有触媒は、例えば炭化水素溶媒に溶解して使用することができる。
【0060】
ネオジムのカルボン酸塩の例としては、三価のネオジムにカルボン酸残基が結合したものが挙げられる。そうしたカルボン酸としては、飽和または不飽和の炭素数が1〜20の直鎖もしくは分岐のアルキル基またはアルケニル基を持つものが好ましく、例えば2-エチルヘキサン酸、ネオデカン酸、ナフテン酸、オレイン酸、ステアリン酸、および安息香酸といったものが含まれうるが、これらに限定はされない。
【0061】
ネオジムのリン酸塩および亜リン酸塩の例としては、[リン酸ビス(2-エチルへキシル)]ネオジム、[リン酸ビス(1-メチルへプチル)]ネオジム、[2-エチルへキシルホスホン酸モノ-2-エチルへキシル]ネオジム、[ビス(2-エチルへキシル)ホスフィン酸]ネオジム、[ビス(1-メチルヘプチル)ホスフィン酸]ネオジム、および[(2-エチルヘキシル)(p-ノニルフェニル)ホスフィン酸]ネオジムといったものが含まれるが、これらに限定はされない。
【0062】
ネオジムのアルコキシドの例としては、三価のネオジムにアルコキシ基が結合したものが挙げられる。そうしたアルコキシ基としては、炭素数が1〜20のものが好ましく、例えば飽和または不飽和の、直鎖状、分岐状、または環状の構造をとることができる。そうしたアルコキシ基の具体例としては、2-エチル-ヘキシルアルコキシ基、オレイルアルコキシ基、ベンジルアルコキシ基、ステアリルアルコキシ基、フェノキシ基などを挙げることができる。
【0063】
ネオジムのβ-ジケトン錯体のβ-ジケトン錯体部位の具体例としては、アセチルアセトン錯体、エチルアセチルアセトン錯体、ベンゾイルアセトン錯体、プロピオニトリルアセトン錯体、バレリルアセトン錯体などを挙げることができる。
【0064】
本願発明者らは、ネオジム含有触媒により調製されたポリマーは、炭素鎖の枝分かれが非常に少ないことを見出した。この特徴は、ポリマー中のゲル分(wet gel content)が少ないことにも関連する。以下説明する。
【0065】
従来技術に係る高cisイソプレンゴムの調製に使われているZiegler-Natta系触媒は、溶媒に溶けず、微粒子(固形)として反応液中に分散される。その分散した触媒粒子の表面の活性点(チタン原子の反応サイトであり、表面上に複数点あるものと推測される)においてイソプレンモノマーの重合反応が起こっていると考えられる。そのため、平面状に重合反応が進み枝分かれが起こりやすく、重合時にできるポリマーは枝分かれが多いものとなり、枝が網目状となるときもある。ポリマーの枝分かれが多いと、ゲル分が増加する原因となる。そのような枝分かれの多いポリマー鎖は触媒分子を包み込んでしまいやすく、ポリマーゲル中に触媒残渣(金属残渣)が残ってしまうと考えられる。そのようなゲル中の残渣は、ポリマーの洗浄工程では十分に取り除けない。(一方、ゲル中に包み込まれる前に活性が無くなった触媒は溶媒中に残るので、洗浄で容易に洗い出されると考えられる。)
【0066】
しかしながら、ネオジム含有触媒で重合されたポリマーでは枝分かれが非常に少ないことを本願発明者らは見出した。ネオジム含有触媒上での反応機構の詳細はまだ学術的に十分に解明されているとは言いがたく、ここで特定の理論に束縛されることを望むものではないが、このように枝分かれが少ないポリマー鎖では触媒分子を包み込んでしまうことはほとんど無いと考えられる。このため、ポリマーの仕上げ工程で洗浄を十分に行うことによって、触媒残渣を容易に洗い出すことができるものと推測される。つまり触媒残渣がポリマー中に取り込まれていないので、洗浄工程を追加したり洗浄条件を最適化することで残渣を減らすことができると考えられるのである。
【0067】
また、ゲル分が多いポリマーは一般に摩耗しやすく、機械的特性が劣りやすいという欠点を持つ。この点においても、ネオジム触媒ポリイソプレンの優位性が示される。
【0068】
或る実施形態においては好ましくは、ネオジム触媒ポリイソプレンとしては高cisのものを用いることができ、例えば好ましくは、cis含量が95%以上、好ましくは95〜99%の範囲、さらに好ましくは96〜99%の範囲であってよい。高cisポリイソプレンは、耐熱性にすぐれかつ製造コストが比較的廉価であることから工業的に好ましい。しかし別の実施形態においては、低cisまたは中cisのネオジム触媒ポリイソプレンを用いることもまた可能である。
【0069】
なお従来技術に係る、ネオジム触媒を用いずに調製された高cisポリイソプレンには一般に伸長結晶化しやすい性質が見られ、透明性が低い欠点があった。しかし本発明者らは、ネオジム触媒ポリイソプレンはたとえ高cisであっても、結晶化速度が遅いため透明性にすぐれるという驚くべき特徴を発見し、これに基づいて本願発明に想到しこれを完成させたものである。
【0070】
[本実施形態に係る組成物が含みうるゴム重合体成分]
本実施形態に係る組成物が含むゴム重合体成分は、ブタジエンゴム(BR)、1,2-ポリブタジエンゴム、またはスチレンブタジエンゴム(SBR)から選択することができる。これらのゴム同士は物性が近く、ポリイソプレンゴムと混合されると適度に軟化し、その結果として適切な物性が得られると考えられる。例えば或る実施形態では、そうしたゴム重合体成分として、シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンまたは低cisポリブタジエン(BR)を好ましく用いることができる。特に、シンジオタクチック構造を持つものはその構造が耐熱性に寄与すると考えられるため好ましい。
【0071】
他の実施形態においては、当該ゴム重合体成分として上記以外の上述したジエン重合体を用いることも可能ではあるが、適切な物性が得られないおそれがある。例えばEPDMについては、屈折率がポリイソプレンと大きく違うこと、またポリイソプレンとのブレンド性が悪いためEPDMの比率が高くなると相分離を起こしてしまうという問題がありえる。また例えば天然ゴムについては、ゴム自体が元々着色していることが多いため、透明性に問題が出るおそれがある。
【0072】
特定の理論に束縛されることを望むものではないが、ネオジム触媒ポリイソプレンに上記ゴム重合体成分を混合することで、上述したように元々結晶化速度が遅いネオジム触媒ポリイソプレンの結晶化がさらに阻害され、結果としてヘーズの顕著な低下を実現できると考えられる。
【0073】
[架橋剤]
本願の実施形態にかかる組成物の最終的な調製(製品として用いるための仕上げの処理)にあたっては、少なくとも二種のオレフィン重合体の混合物を、架橋剤(加硫剤)により架橋することが好ましい。架橋剤としては例えば、硫黄、硫黄含有化合物、ラジカル架橋剤、および過酸化物といったものが挙げられる。
【0074】
ラジカル架橋剤としては例えば、エチレングリコールメタアクリラート(EGDMA)、トリメチロールプロパントリメタクリラート、トリアリルイソシアヌラート、トリアリルシアヌラート、ジエチレングリコールジアクリラート、およびネオフェニレングリコールジアクリラートなどが含まれるが、これらに限定はされない。
【0075】
過酸化物としては例えば、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、ジイソブチリルパーオキサイド、クミルパーオキシネオデカノエート、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-sec-ブチルパーオキシジカーボネート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、ジ(4-t-ブチルシクロへキシル)パーオキシジカーボネート、ジ(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、t-ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t-ヘキシルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシピバレート、ジ(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジコハク酸パーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(2-エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジ(4-メチルベンゾイル)パーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジ(3-メチルベンゾイル)パーオキサイド、ベンゾイル(3-メチルベンゾイル)パーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)-2-メチルシクロヘキサン、1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2-ジ(4,4-ジ-(t-ブチルパーオキシ)シクロへキシル)プロパン、t-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシマレイン酸、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシラウレート、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシ2-エチルヘキシルモノカーボネート、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシアセテート、2,2-ジ-(t-ブチルパーオキシ)ブタン、t-ブチルパーオキシベンゾエート、n-ブチル4,4-ジ-(t-ブチルパーオキシ)バレレート、ジ(2-t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ジ-t-ヘキシルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、p-メンタンヒドロパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルヒドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、およびt-ブチルヒドロパーオキサイドといったもののうちの一種以上を用いることができるが、これらに限定はされない。
【0076】
本願実施形態の調製にあたっては例えば、上述した架橋剤のうちの一種以上を、オレフィン重合体成分100質量部に対して、0.1〜10質量部の範囲、好ましくは0.2〜8.0質量部の範囲、より好ましくは0.5〜6.0質量部の範囲で添加することができるが、他の量を添加することも可能である。
【0077】
本願実施形態の調製にあたっては好ましくは、生成物に与える汚染の少なさの観点から、架橋剤として過酸化物を用いることができる。より好ましくは、悪臭と残渣の少なさの点から、パーヘキサ(R)25B、パーヘキサ(R)25B-40、またはパーヘキサ(R)25B-40MB(日本油脂社製の2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン)を用いることができるが、これに限定はされない。
【0078】
[その他の添加成分]
本願の実施形態にかかる組成物には、その透明性を著しく損わないかぎりにおいて、他の成分を含めることもまた可能である。そうした他の成分としては例えば、着色剤、変性剤、加工剤(ラウリン酸など)、抗酸化剤(モノフェノール系、ビスフェノール系、ポリフェノール系、硫黄系、リン系の化合物など;例えばイルガノックス1010(BASF製)、イルガノックス1726(BASF製)、イルガフォス168(BASF製)、イルガノックスPS800(BASF製)など)、還元剤、脱酸素剤、光安定剤、制酸剤、pH安定剤、表面処理剤、熱安定剤、着色剤、充填剤(タルク、炭酸カルシウム、カーボンブラックなど)、界面活性剤、ゲル化剤、殺生物剤、UV吸収剤(サリチル酸、ベンゾフェノン、ベンゾトリアゾール、シアノアクリラート、ヒンダードアミンなど)、ダスティング剤(ポリエチレン等のポリオレフィン、シリカ、タルク、または炭酸カルシウム粉末など)、難燃剤、またはポリリン酸が含まれるが、これらに限定はされない。
【0079】
例えば着色剤は、組成物に対し、単なる透明ではなくクリアブルー、クリアレッド、またはクリアグリーンのような透明感のある色彩を与えたいときに用いることが可能である。そうした着色剤としては任意の公知の着色剤を用いることが可能であり、例えば着色顔料、体質顔料、防錆顔料、機能性顔料など、すなわち例えばフタロシアニングリーン、チタン、紺青、酸化鉄、亜酸化鉛、硫化亜鉛などを用いることができるが、これらに限定はされない。
【0080】
本願実施形態にかかる組成物には例えば、これらの成分のうちの一種以上を、オレフィン重合体成分100質量部に対して、約0.10〜10.0質量部の範囲、好ましくは約0.20〜5.00質量部の範囲、より好ましくは約0.25〜2.00質量部の範囲で添加することができるが、他の量を添加することもまた可能である。
【0081】
[透明組成物]
本願の実施形態にかかる透明組成物においては、透明性の観点から、ヘーズの値が約20%未満であることが好ましく、より好ましくは約18%以下、さらに好ましくは約15%以下、なおもさらに好ましくは10%以下である。ヘーズが約20%以上となると、組成物の透明性が低くなってしまい、実用的・審美的な観点から市場の要請に応えられない問題が生ずる。
【0082】
本願の実施形態にかかる透明組成物においては、機械的特性の観点から、モジュラスが約0.5MPa以上であることが好ましく、より好ましくは約1.0MPa以上、さらに好ましくは約2.0MPa以上である。モジュラスが低すぎる場合(例えば、M100が約0.5MPa未満であるような場合)には、機械的特性が十分でないおそれがある。
【0083】
本願の実施形態にかかる組成物はまた、タイプAデュロメータ硬さが約30以上であることが好ましく、より好ましくは約30以上70以下の範囲、さらに好ましくは約40以上70以下の範囲、なおもさらに好ましくは約50以上70以下の範囲である。また一般に、靴製品(靴底など)やタイヤなどの苛酷な環境での使用を強いられる用途では、当該硬さが約60〜70程度であるのが好ましいとされる。また組成物は、30sec後におけるタイプAデュロメータ硬さが、0sec後におけるそれの約80%を下回らないことが好ましく、より好ましくは約90%を下回らず、さらに好ましくは約95%を下回らないように構成できる。
【0084】
或る実施形態においては、組成物の破断時引張強さ(Tb)が、約1.5MPa以上であり、より好ましくは約2.0MPa以上約15MPa以下の範囲、さらに好ましくは約3.0MPa以上約15MPa以下の範囲、なおもさらに好ましくは約5.0MPa以上約15MPa以下の範囲である。引張強さが低すぎる場合(例えば、約1.5MPa未満であるような場合)には、組成物が外力に対して脆弱なおそれがある。
【0085】
或る実施形態においては、組成物の破断時伸び(Eb)が、約150%以上であり、好ましくは約200%以上、より好ましくは約250%以上、さらに好ましくは約300%以上である。破断時伸びが低すぎる場合(例えば、約150%未満であるような場合)には、ゴム組成物として弾力性が十分でないおそれがある。
【0086】
本願の実施形態にかかる組成物はまた、JIS K6252に従って2mmシートで測定した引裂強度(N/mm単位への換算値)が約10N/mm以上であり、好ましくは約10N/mm〜50N/mmの範囲、より好ましくは約20N/mm〜50N/mmの範囲とすることができる。引裂強度が低すぎる場合(例えば、約10N/mm未満であるような場合)には、耐久性の面で問題が生じうる。
【0087】
本願の実施形態にかかる組成物はまた、特に医療用途などの直接身体に触れる用途においては、例えばFe、Li、Al、Nd、Tiといった金属の含有量(残存量)が少ないことが好ましい。例えば、或る実施形態に係る組成物の調製にあたり使用されるネオジム触媒ポリイソプレン成分における、金属元素(例えばFe、Li、Al、Nd、またはTiなど)のそれぞれについて、約10000ppm以下、好ましくは約1000ppm以下、より好ましくは約100ppm以下、さらにより好ましくは約10ppm以下の含有量(金属原子換算)とすることができる。組成物中の金属の含有量が高すぎると、環境基準・健康基準に照らして工業上・商業上問題となりうる。また例えば鉄(Fe)の含有量が高すぎると、得られる組成物が茶褐色に色づいてしまい、透明性が損われるおそれがある。
【0088】
或る実施形態においては、組成物中のネオジム触媒イソプレンゴム(IR)成分の屈折率と、ゴム重合体成分の屈折率との差の絶対値が、約0.100以下、より好ましくは約0.050以下、さらにより好ましくは約0.020以下、なおもさらにより好ましくは約0.010以下、約0.005以下、約0.002以下、もしくは約0.001以下、であるような第二のオレフィン重合体を含むことができる。
【0089】
或る実施形態においては、組成物が、ネオジム触媒イソプレンゴム(IR)成分と、ブタジエンゴム(BR)、1,2-ポリブタジエンゴム、およびスチレンブタジエンゴム(SBR)からなる群から選択されるゴム重合体成分とを含むことができる。その実施形態の一態様においては、そのネオジム触媒イソプレンゴム成分とゴム重合体成分との質量の合計を100質量部としたときに、ネオジム触媒イソプレンゴム成分の量が約5〜95質量部の範囲、好ましくは約10〜95質量部の範囲、より好ましくは約25〜95質量部の範囲、さらに好ましくは約30〜90質量部の範囲でありえる。
【0090】
或る実施形態においては、組成物が、軟化剤としてのオイルを実質的に含まないことで、オイルのブリーディングを回避することができる。
【0091】
或る実施形態においては、組成物が、JIS K7361-1に従って測定した全光線透過率として、約88%以上、好ましくは約89%以上、より好ましくは約90%以上、さらに好ましくは約91%以上を有することができる。全光線透過率が約88%未満であると、透明性に欠けてしまう問題が生じうる。
【0092】
[製造方法]
或る実施形態においては、組成物を、以下の工程を含んだ方法により調製することができる。すなわち、23℃における屈折率が約1.500〜1.525の範囲であるネオジム触媒イソプレンゴム重合体を用意する工程と、23℃における屈折率が約1.500〜1.525の範囲でありかつブタジエンゴム、1,2-ポリブタジエンゴム、およびスチレンブタジエンゴムからなる群から選択されるゴム重合体を用意する工程と、ネオジム触媒イソプレンゴム重合体とゴム重合体との質量の合計を100質量部としたときにネオジム触媒イソプレンゴム重合体の量が約5〜95質量部の範囲となるようにしてネオジム触媒イソプレンゴム重合体とゴム重合体とを混合し混合物を得る工程と、混合物に架橋剤を添加する工程と、混合物を均一に混練する工程とを含む方法により調製可能である。
【0093】
本願の実施形態にかかる組成物は、その高い透明性が活かされる任意の産業用途に用いることができる。そのような用途の例としては、靴製品、タイヤ、衣服、マスク、医療用マスク、アイウェア、医療用ゴーグル、医療用エアーテント、雨具、玩具、制振材、建築部材、配線用被覆材、梱包材、コンピュータ用保護部材、コンピュータ用周辺機器、避妊用品、性具、人工乳首、紙おむつ、文房具、容器、食品用トレイ、球技用ボール、ボールチェア、および保護フィルムといったものが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0094】
靴製品においては、本願実施形態にかかる組成物を用いることで、従来技術では得ることができない高い透明性と強靭性を兼ねそなえた靴底、チップ、オーナメント、舌革その他のパーツを作成することもできるし、あるいは靴全体を透明にすることも可能である。このような靴製品は実用性と意匠的(デザイン的)審美性を併せもち、商業的にきわめて高い価値を有しうる。他の用途とも共通することであるが、オイルを実質的に含まないようにすることで、ブリーディングが起こらないようにすることができるため、オイルにより他の部品を侵すことがないというのは非常に大きな利点であるといえる。
【0095】
タイヤにおいては、本願実施形態にかかる組成物を用いることで、強靭かつ透明な意匠性にすぐれたものを製造することができる。例えば、自転車または自動車用の瀟洒なタイヤを作成することが可能である。同様に、チューブも作成可能である。
【0096】
衣服や下着類、雨具、花粉防護用のマスクなどのマスクや、熔接用保護眼鏡・自転車用/水泳用ゴーグル・化学実験用保護眼鏡などのアイウェアなどにおいては、本願実施形態にかかる組成物を用いることで、強靭かつ透明な部分を設けることが可能になり、向こうが見えるという実用的な価値のみならず、意匠的な要請をみたしつつも耐久性も付与することができるようになる。
【0097】
また、医療用マスク、医療用ゴーグル、医療用エアーテントなどの医療用途においては、本願実施形態に係る組成の低い金属含有量から、環境基準に適合させた製品を提供することができる。
【0098】
制振材および建築部材においては、本願実施形態にかかる組成物を用いることで、高い耐久性や防振性を発揮しながらも、なおも美的に満足できる透明性を担保することができる。
【0099】
配線用被覆材および梱包材においては、本願実施形態にかかる組成物を用いることで、高い絶縁性を持ちながらもその透明性により内部を容易に視認できるという効果を得ることができる。
【0100】
プラモデル、ガレージキット、もしくはミニカーなどの玩具や、人工乳首、または紙おむつなどにおいては、本願実施形態にかかる組成物を用いることで、一部または全体が透明でありながら乳幼児などがそれを口に入れても問題が無いようにすることができる。
【0101】
また避妊用品(コンドームやペッサリーなど)、性具(ラブドールやディルドーなど)、コンピュータ用保護部材(スマートフォン用カバーなど)、コンピュータ用周辺機器(コンピュータ用キーボードやマウスなど)、容器、食品用トレイ、球技用ボール、ならびにボールチェアといった用途においては、本願実施形態にかかる組成物をシリコーン樹脂の代わりに用いることで、従前の使い勝手を損うことなく、意匠的な要請から全体や一部分を透明にしつつ、オイルのブリーディングによる周囲環境の汚染を起こさず、しかも人体に触れても健康上の問題を起こしにくく耐久性にも優れたものを作成できる。
【0102】
ここに列挙した用途はあくまで例示であり、本願実施形態にかかる組成物の用途はこれらに限定されるものではないことに留意されたい。
【実施例】
【0103】
以下に述べる実施例および比較例ならびに参考例により、さらに詳細に本願実施形態について説明してゆく。
【0104】
[実施例1]
[工程1]
ネオジム触媒高cisポリイソプレンゴム(Moaming Luhua社製のLHIR-80)50gの塊を、5インチオープンロール(安田精機株式会社製、ロール温度70℃、回転比1:1.25)にかけて押し潰した。
【0105】
[工程2]
5インチオープンロールの温度を100℃に上げて、1,2-ポリブタジエン(JSR社製、RB-820、結晶化度:25%)50gをロールにかけて、潰しながらロールに巻きつけた。
【0106】
[工程3]
1,2-ポリブタジエンを巻きつけたロールに、工程1で先に潰しておいたポリイソプレンゴムを加え、同時にラウリン酸(0.25g)を加えながら均一に練り上げた。
【0107】
[工程4]
均一に練られたゴムをロールから外し、ロール温度を70℃に下げた。
【0108】
[工程5]
70℃になったロールに、工程4で外しておいたゴムを巻きつけて、架橋剤として2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン(日本油脂製、商品名パーヘキサ(R)25B; Perhexa 25B)を0.5g添加して、均一に練った。
【0109】
[工程6]
次に練りあがったゴムをロールより厚さ3〜4mmのシート状に切りだし、室温で一昼夜放置して熟成させた。
【0110】
[工程7]
一昼夜熟成させたゴムを、プレス機(関西ロール株式会社製、36t・2段加熱冷却プレス)を用いて、160℃、6分間(加圧15MPa)のプレス条件で架橋(cure)させ、ゴム組成物の実施例1を得た。
【0111】
得られたゴム組成物を、室温(RT)でヘーズ、TT、Hs、破断時引張強さ、モジュラス、破断時伸び、および引裂強度を上述した基準に従い測定した。その後、70℃のオーブン内に置き、24時間後、48時間後、および72時間後にさらにそれぞれ物性を測定した。なおヘーズとTTについては2mm厚の試料シートを用いて測定した。
【0112】
なお、上記工程4においてゴムをロールから外したのは、外さないと以下の三つの問題が生じるためである。
【0113】
すなわち第一に、ゴムをロールに付けたままでは冷却にかかる時間だけゴムを練りすぎ、ゴムに過度の分子切断が進行し物性が低下する悪影響が出ること。
【0114】
第二に、ゴムを付けたままロールを止め、ロールを冷却すると、再始動した場合、冷却されて粘度の上がったゴムにより始動時に過度の力がロールにかかり危険であること。
【0115】
また第三に、ゴムをロールに巻き付けた状態ではゴムが保温材となりロール温度の下がるのを妨げ、冷却に時間がかかること。
【0116】
なお実施例1および後述する他の例の組成および物性測定結果については、下記に表としてまとめているので参照されたい。
【0117】
[実施例2]
工程1においてLHIR-80を70g、工程2においてRB-820を30g用い、工程7において架橋時間を9分間とした他は、実施例1と同様にして、ゴム組成物の実施例2を得た。
【0118】
[実施例3]
工程1においてLHIR-80を90g、工程2においてRB-820の代わりにRB-810(JSR社製、結晶化度:18%)を10g用い、工程5においてパーヘキサ25Bの量を0.8gとし、工程7において架橋時間を10分間とした他は、実施例1と同様にして、ゴム組成物の実施例3を得た。
【0119】
[実施例4]
工程1においてLHIR-80を30g、工程2においてRB-820を70g用いた他は、実施例1と同様にして、ゴム組成物の実施例4を得た。なお実施例4〜8については、物性測定は室温時のもの以外は省略した。
【0120】
[実施例5]
工程2においてRB-820の代わりにRB-830(JSR社製、結晶化度:29%)を50g用いた他は、実施例1と同様にして、ゴム組成物の実施例5を得た。
【0121】
[実施例6]
工程1においてLHIR-80を70g、工程2においてRB-830を30g用い、工程7において架橋時間を8分間とした他は、実施例5と同様にして、ゴム組成物の実施例6を得た。
【0122】
[実施例7]
工程2においてRB-820の代わりにジエンNF35NR(Diene-NF35NR; Firestone Polymers社製の低cisブタジエンゴム、非結晶性)を50g用い、工程5においてパーヘキサ25Bの量を0.8gとした他は、実施例1と同様にして、ゴム組成物の実施例7を得た。
【0123】
[実施例8]
工程1においてLHIR-80を70g、工程2においてジエンNF35NRを30g用い、工程7において架橋時間を8分間とした他は、実施例7と同様にして、ゴム組成物の実施例8を得た。
【0124】
[比較例c1]
工程1においてLHIR-80の代わりにNipol IR2200(日本ゼオン社製のZiegler-Natta系触媒高cisポリイソプレン)を50g用いた他は、実施例1と同様にして、ゴム組成物の比較例c1を得た。
【0125】
[比較例c2]
工程1においてLHIR-80の代わりにNipol IR2200を70g用いた他は、実施例2と同様にして、ゴム組成物の比較例c2を得た。
【0126】
[比較例c3]
工程1においてLHIR-80の代わりにNipol IR2200を90g用いた他は、実施例3と同様にして、ゴム組成物の比較例c3を得た。
【0127】
[比較例c4]
工程2においてRB-820の代わりにEPT3091(三井化学社製のEPDM)を30g用い、工程5においてパーヘキサ25Bの量を0.8gとし、工程7において架橋温度を180℃、架橋時間を6分間とした他は、実施例2と同様にして、ゴム組成物の比較例c4を得た。
【0128】
[比較例c5]
工程1においてLHIR-80の量を90gとし、工程2においてEPT3091の量を10gとした他は、比較例c4と同様にして、ゴム組成物の比較例c5を得た。
【0129】
[比較例c6]
工程1においてLHIR-80の代わりにCariflex IR0307(クレイトンポリマー社製のリチウム触媒低cisイソプレンゴム)を70g用い、工程2においてRB-820の代わりにEPT3091を30g用い、工程5においてパーヘキサ25Bの量を0.8gとし、工程7において架橋温度を180℃、架橋時間を6分間とした他は、実施例2と同様にして、ゴム組成物の比較例c6を得た。
【0130】
[比較例c7]
工程1においてCariflex IR0307の量を90gとし、工程2においてEPT3091の量を10gとした他は、比較例c6と同様にして、ゴム組成物の比較例c7を得た。
【0131】
[比較例c8〜c13]
さらに比較例c8〜c13としてそれぞれ、ポリマー成分が単一である組成物を用意した。比較例c8およびc9にはネオジム触媒高cisポリイソプレンゴム(Moaming Luhua社製、LHIR-80)、比較例c10およびc11にはリチウム触媒低cisポリイソプレンゴム(クレイトンポリマー社製、Cariflex IR0307)を、比較例c12およびc13にはネオジム触媒によらない高cisポリイソプレンゴム(日本ゼオン社製、Nipol IR2200)を、単独のゴム成分としてそれぞれ用いた。
【0132】
具体的には、上記工程1において各ゴム成分100gを用いてかつそのうち比較例c9、c11、およびc13についてのみさらにIrganox 1726を0.5g加えた。工程2は省略し、工程5においてパーヘキサ25Bの量を0.8gとし、工程7で架橋時間を10分間とした他は、実施例1と同様に調製した。
【0133】
なお比較例c10およびc11については、70℃で72時間加熱後にはサンプル自体が熱により変質(degradation)してしまい、ヘーズとTTの測定は不可能であった。
【0134】
[参考例r1〜r8]
さらにまた、本出願人による、本願出願時においては未公開である先行出願PCT/JP2014/051659の記載に従って、リチウム触媒低cisポリイソプレンゴム(クレイトンポリマー社製、Cariflex IR0307)を用いた新規なゴム組成物の参考例r1〜r8を下記表に示したように用意し同様に物性を測定した。製造工程1〜7は本願実施例と大枠は同じとした(材料等の詳細は下記表を参照されたい)。これは参考のための記載である。
【0135】
実施例1〜8および比較例c1〜c13ならびに参考例r1〜r8の組成および結果をそれぞれ下記表にまとめた。
【0136】
【表1】
【0137】
【表2】
【0138】
【表3】
【0139】
【表4】
【0140】
【表5】
【0141】
上記の結果からは、各実施例においてはヘーズ値とタイプAデュロメータ硬さなどの物性の組み合わせが優れている一方、各比較例ではいずれかの物性に欠陥が見られることがわかる。
【0142】
より具体的に比較例c1〜c3については、高cisポリイソプレンであるNipol IR2200を用いているにもかかわらず、いずれもヘーズとTTがともに悪く、所望の透明性は得られていない。この結果はネオジム触媒イソプレンの有する驚くべき効果を裏づけているものである。
【0143】
比較例c4〜c7については、純ゴム加硫EPDMとしてのEPT3091自体は単独では透明性があるにもかかわらず(ヘーズ:14%、TT:88%、23℃での屈折率:1.48)、これを他の材料と混合すると混合物は非常に不透明になっていることがわかる。これは、ポリイソプレンの屈折率(約1.52)との差が大きく、かつポリイソプレンとのブレンド性が悪いためであると考えられる。したがって、EPDMを材料としても所望の物性を得ることができず、本実施形態に係る組成物の優位性が裏づけられている。
【0144】
比較例c8〜c13については、一見ヘーズやTTが良好のようであっても、硬度等が不足しており、単独のポリマー成分では得られない効果を本実施形態に係るブレンド組成物が奏していることを裏づけている。
【0145】
[実施例8:金属含有量の測定]
実施例1〜7で用いたネオジム触媒高cisポリイソプレンであるLHIR-80の金属含有量(trace elements)を測定した。測定は、オランダのGeleenに在るIntertek Polychemlabにおいて、ICP/OESを用いて行った(検出下限:8ppm)。
【0146】
LHIR-80についての測定結果は、「Al:425ppm、Nd:690ppm、Fe:n.a.(検出範囲外)、Ti:n.a.、Li:n.a.」であった。
【0147】
[実施例9:ゲル含量(wet gel index)の測定]
実施例1〜7で用いたネオジム触媒高cisポリイソプレンであるLHIR-80(重量平均分子量Mw:2100kg/mol)のゲル含量を測定した。BMS P 35-88に規定される方法に従って、測定対象のゴムをトルエンに溶解させ、溶けなかったゲル粒子を濾別した。濾別したゲル粒子の数を0〜9の段階に分類した(0=ゲル分無し、9=多量のゲル分)。またゲル粒子の大きさを、大型のものをA、小型のものをBとして区別した。
【0148】
LHIR-80のサンプルについては、測定されたゲル分は「2〜3B」となった。この結果は、ネオジム触媒ポリイソプレン特有のゲル分の少なさを裏づけるものである。
【0149】
さらに比較のため、Nipol 2200(日本ゼオン社製のZiegler-Natta系触媒高cisポリイソプレン)についても同様にゲル分を測定した。ゲル分は、「2A」であった。このことから、Nipol 2200ではネオジム触媒ポリイソプレンに比べてゲルの量が多いことが裏づけられる。