特許第6574336号(P6574336)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社安藤・間の特許一覧

特許6574336鉄骨鉄筋コンクリート造の柱、及びこれを用いた建物
<>
  • 特許6574336-鉄骨鉄筋コンクリート造の柱、及びこれを用いた建物 図000002
  • 特許6574336-鉄骨鉄筋コンクリート造の柱、及びこれを用いた建物 図000003
  • 特許6574336-鉄骨鉄筋コンクリート造の柱、及びこれを用いた建物 図000004
  • 特許6574336-鉄骨鉄筋コンクリート造の柱、及びこれを用いた建物 図000005
  • 特許6574336-鉄骨鉄筋コンクリート造の柱、及びこれを用いた建物 図000006
  • 特許6574336-鉄骨鉄筋コンクリート造の柱、及びこれを用いた建物 図000007
  • 特許6574336-鉄骨鉄筋コンクリート造の柱、及びこれを用いた建物 図000008
  • 特許6574336-鉄骨鉄筋コンクリート造の柱、及びこれを用いた建物 図000009
  • 特許6574336-鉄骨鉄筋コンクリート造の柱、及びこれを用いた建物 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6574336
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】鉄骨鉄筋コンクリート造の柱、及びこれを用いた建物
(51)【国際特許分類】
   E04C 3/293 20060101AFI20190902BHJP
   E04B 1/30 20060101ALI20190902BHJP
   E04B 1/58 20060101ALI20190902BHJP
【FI】
   E04C3/293
   E04B1/30 B
   E04B1/58 503P
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-90490(P2015-90490)
(22)【出願日】2015年4月27日
(65)【公開番号】特開2016-205054(P2016-205054A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2018年4月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(74)【代理人】
【識別番号】110001564
【氏名又は名称】フェリシテ特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100081514
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 一
(74)【代理人】
【識別番号】100082692
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵合 正博
(72)【発明者】
【氏名】松浦 恒久
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 英之
【審査官】 星野 聡志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−155036(JP,A)
【文献】 特開昭63−040043(JP,A)
【文献】 特開2013−245442(JP,A)
【文献】 特開2005−200994(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0031605(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C 3/293
E04B 1/30
E04B 1/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の分割された柱部材からなり、
前記各柱部材は、芯部に軸方向に向けて鉄骨柱が配置され、前記鉄骨柱の周囲に軸方向に向けて複数の鉄筋が配筋され、前記鉄骨柱及び前記各鉄筋に被覆コンクリートが一体に打設されて、扁平の断面略矩形状で、当該矩形状の長辺方向と短辺方向の比が略1.5〜5.5倍のプレキャスト部材として形成され、前記被覆コンクリート内の前記各鉄筋は上下いずれか一方の端部が前記被覆コンクリートの上下いずれか一方の面から所定の長さだけ突出され、上下いずれか他方の端部に所定の長さを有する筒形形状の機械式鉄筋継手用カプラが連接されて前記被覆コンクリート内に埋め込まれ、当該各機械式鉄筋継手用カプラの開口が前記被覆コンクリートの上下いずれか他方の面に開口されてなり、
前記複数の柱部材が上下に、前記各柱部材相互間で前記鉄骨柱が直接接合されることなく、一方の前記柱部材の前記各鉄筋の端部が他方の前記柱部材の前記機械式鉄筋継手用カプラに挿入されて接合され、プレキャスト工法により組み立てられる、
ことを特徴とする鉄骨鉄筋コンクリート造の柱。
【請求項2】
各柱部材は鉄骨柱が概ね階高中央で分断可能に形成される請求項1に記載の鉄骨鉄筋コンクリート造の柱。
【請求項3】
各柱部材は鉄骨柱の上下端部にエンドプレートが取り付けられ、前記各柱部材間で前記前記エンドプレート同士が鉄筋を介して接続される請求項1又は2に記載の鉄骨鉄筋コンクリート造の柱。
【請求項4】
エンドプレートは鉄骨柱の上下端部で鉄骨柱の両側に水平方向に延び、両側に鉄筋貫通用の孔が穿設されて、前記各鉄骨柱の上下いずれか一方の端部の前記エンドプレートの両側の前記鉄筋貫通用の孔に所定の長さの鉄筋が上下に貫通して取り付けられ、前記各鉄骨柱の上下いずれか他方の端部の前記エンドプレートの両側の内側面に前記鉄筋貫通用の孔に連通して、前記上下いずれか一方の端部のエンドプレートの前記各鉄筋が挿通可能な所定の長さを有する機械式鉄筋継手用カプラが取り付けられ、前記各柱部材間で前記鉄筋が前記機械式鉄筋継手用カプラに挿入されて前記各柱部材間の前記各エンドプレートが接続される請求項3に記載の鉄骨鉄筋コンクリート造の柱。
【請求項5】
各柱部材は高さ方向略中央に鉄骨柱から建物の外周方向に向けて梁主筋又はプレキャスト梁が突設される請求項1乃至のいずれかに記載の鉄骨鉄筋コンクリート造の柱。
【請求項6】
各柱部材は高さ方向略中央に鉄骨柱から建物の内部方向に向けて梁鉄骨が突設される請求項1乃至5のいずれかに記載の鉄骨鉄筋コンクリート造の柱。
【請求項7】
建物外壁面となる位置に外周柱が配設され、前記外周壁間に外周梁が架設されてなる建物であって、
前記外周柱に請求項1乃至6のいずれかに記載の鉄骨鉄筋コンクリート造の柱が採用される、
ことを特徴とする建物
【請求項8】
外周梁は鉄筋コンクリート造の梁とする請求項7に記載の建物。
【請求項9】
外周柱から建物内部方向に向けて架設される内部梁は鉄骨造の梁とする請求項7又は8に記載の建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物外壁面となる位置に配設される外周柱と、外周柱間に架設される外周梁と、外周柱から建物内部方向に向けて架設される内部梁とにより構成される建物などに使用する鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)の柱、及びこれを用いた建物に関する。
【背景技術】
【0002】
オフィスビルなどの建物では、内部空間を極力大きくするために、耐震要素を建物の外周部に配置して、内部空間側の柱を可及的に少なくし、大スパンで架構を構築することがある。
【0003】
この種の構造が特許文献1により提案されている。この文献1は外殻構造に関するもので、この外殻構造では、外周柱と外周梁と内部梁とを主体とし、外周柱をSRC造の壁柱とし、外周梁および内部梁をいずれもS造とする。この場合、芯鉄骨および外周梁をH形鋼とし、内部梁を芯鉄骨のフランジに対して溶接し、外周梁のウェブを芯鉄骨のウェブに対して構造的に直接接合することなく外周梁の端部を外周柱の被覆コンクリートに定着して剛接合する。そして、芯鉄骨のウェブ同士をボルトにより締結して上下方向に連結し被覆コンクリートに一体に定着する。このようにして内部梁を撓みにくいものにし、内部梁のスパンを大きくしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−245442公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この種のSRC造の建物の施工は、通常、建設サイトで柱鉄骨と梁鉄骨を接合し架構を構築した後、各鉄骨の外周部にコンクリートを打設するという手順で行い、鉄骨建て方、コンクリート工事の2つの工程を各別に行うために、次のような問題がある。
(1)鉄骨造(S造)、鉄筋コンクリート造(RC造)による施工に比べて、工期が長くなる。
(2)2つの工程(鉄骨建て方、コンクリート工事)があり、施工が煩雑になる。
(3)鉄骨、鉄筋が入り組んだ型枠内にコンクリートを打設するため、コンクリートを隙間なく充填するために、施工管理を十分に行う必要がある。
また、特に上記従来の外殻構造にあっては、上下の鉄骨のウェブをボルトにより締結して鉄骨柱の一体化を図るため、鉄骨柱の建て方の後にコンクリート工事を行う必要があり、一般的なSRC構造と同様の課題がある。
【0006】
本発明は、このような従来の問題を解決するものであり、この種の鉄骨鉄筋コンクリート造の柱、及びこれを用いた建物において、施工を簡略化して、工期の短縮を図ることなど、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の鉄骨鉄筋コンクリート造の柱は、
(イ)複数の分割された柱部材からなり、
(ロ)前記各柱部材は、芯部に軸方向に向けて鉄骨柱が配置され、前記鉄骨柱の周囲に軸方向に向けて複数の鉄筋が配筋され、前記鉄骨柱及び前記各鉄筋に被覆コンクリートが一体に打設されて、扁平の断面略矩形状で、当該矩形状の長辺方向と短辺方向の比が略1.5〜5.5倍のプレキャスト部材として形成され、前記被覆コンクリート内の前記各鉄筋は上下いずれか一方の端部が前記被覆コンクリートの上下いずれか一方の面から所定の長さだけ突出され、上下いずれか他方の端部に所定の長さを有する筒形形状の機械式鉄筋継手用カプラが連接されて前記被覆コンクリート内に埋め込まれ、当該各機械式鉄筋継手用カプラの開口が前記被覆コンクリートの上下いずれか他方の面に開口されてなり、
(ハ)前記複数の柱部材が上下に、前記各柱部材相互間で前記鉄骨柱が直接接合されることなく、一方の前記柱部材の前記各鉄筋の端部が他方の前記柱部材の前記機械式鉄筋継手用カプラに挿入されて接合され、プレキャスト工法により組み立てられる、
ことを要旨とする。
【0008】
この鉄骨鉄筋コンクリート造の柱はまた、各部に次のような構成を備える。
)各柱部材は鉄骨柱が概ね階高中央で分断可能に形成される。
)各柱部材は鉄骨柱の上下端部にエンドプレートが取り付けられ、前記各柱部材間で前記エンドプレート同士が鉄筋を介して接続される。
この場合、エンドプレートは鉄骨柱の上下端部で鉄骨柱の両側に水平方向に延び、両側に鉄筋貫通用の孔が穿設されて、前記各鉄骨柱の上下いずれか一方の端部の前記エンドプレートの両側の前記鉄筋貫通用の孔に所定の長さの鉄筋が上下に貫通して取り付けられ、前記各鉄骨柱の上下いずれか他方の端部の前記エンドプレートの両側の内側面に前記鉄筋貫通用の孔に連通して、前記上下いずれか一方の端部のエンドプレートの前記各鉄筋が挿通可能な所定の長さを有する機械式鉄筋継手用カプラが取り付けられ、前記各柱部材間で前記鉄筋が前記機械式鉄筋継手用カプラに挿入されて前記各柱部材間の前記各エンドプレートが接続されることが好ましい。
)各柱部材は高さ方向略中央に鉄骨柱から建物の外周方向に向けて梁主筋又はプレキャスト梁が突設される。
)各柱部材は高さ方向略中央に鉄骨柱から建物の内部方向に向けて梁鉄骨が突設される。
【0009】
また、上記目的を達成するために、本発明は、建物外壁面となる位置に外周柱が配設され、前記外周壁間に外周梁が架設されてなる建物であって、前記外周柱に上記の鉄骨鉄筋コンクリート造の柱が採用される、ことを要旨とする。
この場合、外周梁は鉄筋コンクリート造の梁とすることが好ましい。
また、この場合、外周柱から建物内部方向に向けて架設される内部梁は鉄骨造の梁とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の鉄骨鉄筋コンクリート造の柱、及びこれを用いた建物では、上記の構成により、次のような格別な効果を奏する。
(1)複数の柱部材を、芯部に軸方向に向けて鉄骨柱を配置し、鉄骨柱の周囲に軸方向に向けて複数の鉄筋を配筋し、鉄骨柱及び各鉄筋に被覆コンクリートを一体に打設して、扁平の断面略矩形状で、当該矩形状の長辺方向と短辺方向の比が略1.5〜5.5倍のプレキャスト部材として形成し、各柱部材を上下に、各柱部材相互間で鉄骨柱を直接接合することなく、一方の柱部材の各鉄筋の端部を他方の柱部材の機械式鉄筋継手用カプラに挿入して接合するようにしたことで、鉄骨鉄筋コンクリート造の柱のプレキャスト化を可能とする。
(2)プレキャスト工法を採用したことにより、施工の省力化、省人化を可能とする。
(3)複数の柱部材を、芯部に軸方向に向けて鉄骨柱を配置し、鉄骨柱の周囲に軸方向に向けて複数の鉄筋を配筋し、鉄骨柱及び各鉄筋に被覆コンクリートを一体に打設して、扁平の断面略矩形状で、当該矩形状の長辺方向と短辺方向の比が略1.5〜5.5倍のプレキャスト部材として形成し、各柱部材を上下に、各柱部材相互間で鉄骨柱を直接接合することなく、一方の柱部材の各鉄筋の端部を他方の柱部材の機械式鉄筋継手用カプラに挿入して接合するようにしたことで、各柱部材の鉄骨柱の接合部で鉄筋を介して曲げモーメントの伝達が可能となり、反曲点が接合部にない場合でも、十分な耐力、変形性能を有する。
(4)各柱部材の鉄骨柱の接合部で曲げモーメントの伝達を可能としたことで、各柱部材の接合部間の構造性能を確保するための曲げ補強筋が不要である。
以上により、本発明の鉄骨鉄筋コンクリート造の柱、及びこれを用いた建物によれば、施工を簡略化して、工期の短縮を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施の形態における鉄骨鉄筋コンクリート造の柱の構成を示す斜視図
図2】同柱の特に鉄骨柱の構成を示す図((a)は側面図(b)は端面図)
図3】同柱の特に鉄骨柱の接合構造を示す側面図
図4】同柱の内部構造を示す図((a)は同柱の被覆コンクリート打設前の状態を示す斜視図(b)は同柱の被覆コンクリート打設後の状態を示す斜視図)
図5】同柱の外部構造を示す斜視図
図6】同柱の各柱部材の鉄骨柱間の接合部での力の流れを示す図
図7】同柱の作用を示す図
図8】同柱を用いた建物を示す斜視図
図9】同柱の変形例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、この発明を実施するための形態について図を用いて説明する。
図1に鉄骨鉄筋コンクリート造の柱を示している。なお、この柱は、建物の外周面の位置に配置される外周柱(壁柱)を構成するものとして例示してある。
図1に示すように、この鉄骨鉄筋コンクリート造の柱Pは、複数の分割された柱部材P1から構成される。これらの柱部材P1はそれぞれ、芯部に軸方向に向けて鉄骨柱1が配置され、鉄骨柱1の周囲に軸方向に向けて複数の鉄筋2が配筋されて、鉄骨柱1及び各鉄筋2に被覆コンクリート3が一体に打設されてなるプレキャスト(鉄骨鉄筋コンクリート)部材として形成され、被覆コンクリート3内の各鉄筋2は上下いずれか一方の端部、この場合、上端部21が被覆コンクリート3の上下いずれか一方の面、この場合、上面から所定の長さだけ突出され、上下いずれか他方の端部、この場合、下端部22に所定の長さを有する筒形形状の機械式鉄筋継手用カプラ23が連接されて被覆コンクリート3内に埋め込まれ、各機械式鉄筋継手用カプラ23の開口230が被覆コンクリート3の上下いずれか他方の面、この場合、下面に開口されてなる。
また、各柱部材P1は、扁平の断面略矩形状に形成され、当該矩形状の長辺方向と短辺方向の比は、略1.5〜5.5倍にしてある。各柱部材P1の鉄骨柱1は概ね階高中央で分断可能に形成され、鉄骨柱1の上下端部にそれぞれエンドプレート4が取り付けられ、各柱部材P1の高さ方向略中央に、鉄骨柱1から建物の外周方向に向けて梁主筋5が突設され、鉄骨柱1から建物の内部方向に向けて梁鉄骨6が突設される。
【0013】
鉄骨柱1は、図2に示すように、H形鋼により建物の階高に応じて所定の長さに形成され、図3に示すように、各柱部材P1の組み立て時に階高略中央の位置で分断されるようになっている。
鉄骨柱1の上下端部にはそれぞれ、図2及び図3に示すように、鋼材からなるエンドプレート4が溶接などにより取り付けられる。このエンドプレート4は略長方形の平板状で、一方の辺がフランジ11間の内法長さと略同じ長さで、他方の辺がフランジ11の幅からウェブ12の板厚を除いた長さの1/2に略同じか少し長く形成され、鉄骨柱1の上下端部で鉄骨柱1の(ウェブ12の)両側に水平方向に延ばされる。なお、このエンドプレート4は一例にすぎず、エンドプレートとしての同じ機能を有するものであれば、例えば、図2(c)に示すように、一方の辺がフランジの長さと同じ、他方の辺がウェブの長さ(フランジの厚さ分を含む)と同じ一枚の四角形の鋼板が使用されてもよい。このエンドプレート4の鉄骨柱1の両側に延びる部分には鉄筋貫通用の複数の孔40が穿設されて、鉄骨柱1の上下いずれか一方の端部、この場合、上端部のエンドプレート4の両側の鉄筋貫通用の孔40に所定の長さの鉄筋41が上下に貫通して取り付けられ、鉄骨柱1の上下いずれか他方の端部、この場合、下端部のエンドプレート4の両側の内面、この場合、上面に鉄筋貫通用の孔40に連通して、上端部のエンドプレート4の各鉄筋41が挿通可能な所定の長さを有する機械式鉄筋継手用カプラ42が取り付けられる。なお、この場合、鉄骨柱1上端部のエンドプレート4に取り付けられる鉄筋41はその全長の略上半部近くがエンドプレート4の上方に突出されて、この鉄骨柱1の周囲に配筋される各鉄筋2の上端部と略同じ高さになっていて、その略下半部近くがエンドプレート4の下方に配置される。機械式鉄筋継手用カプラ42は鉄骨柱1上端部のエンドプレート4の上方から突出される鉄筋41の長さと略同じかそれよりも少し長くなっている。
また、この鉄骨柱1の高さ方向略中央には、図4(a)に示すように、H形鋼のウェブ12に対して略直角に梁主筋5が取り付けられ、H形鋼の一方のフランジ11に対して略直角に梁鉄骨6が取り付けられる。この場合、梁主筋5は柱鉄骨1のウェブ12に設けられた孔(図示省略)に挿通配置される。なお、この梁主筋5は柱鉄骨1に固定されない。また、場合によって、梁主筋5は柱鉄骨1を貫通されず、柱鉄骨1の手前で機械式定着、折り曲げ定着されることがある。この取り付けでは、柱部材(プレキャスト部材)P1の両側(柱鉄骨1のウェブ12の両側)から突出される各梁主筋5は繋がれないことになる。また、この場合、梁鉄骨6は柱鉄骨1のフランジ11に溶接により接合される。
鉄骨柱1はかかる構成を有し、図4に示すように、被覆コンクリート3内で柱部材P1の幅方向中央にH形鋼のウェブ12両面を柱部材P1の幅方向に向けて配置され、鉄骨柱1上端部のエンドプレート4に取り付けられた鉄筋41のエンドプレート4の下に配置される部分(略下半部)、及び鉄骨柱1下端部のエンドプレート4に取り付けられた機械式鉄筋継手用カプラ42(図2図3参照)とともに被覆コンクリート3に定着され、鉄骨柱1上端部のエンドプレート4に取り付けられた鉄筋41のエンドプレート4から上の部分(略上半部)が被覆コンクリート3の上面から突出される。
【0014】
複数の鉄筋2はそれぞれ、図4に示すように、下端の機械式鉄筋継手用カプラ23の長さを含めて、各鉄筋2が被覆コンクリート3の上面から突出される分だけ鉄骨柱1の長さよりも長く形成される。これらの鉄筋2は鉄骨柱1の両側に所定の間隔で並列に配筋され、その周囲には枠状をなす複数のせん断補強筋24が水平の状態に上下方向に所定の間隔で配筋される。
複数の鉄筋2はかかる構成からなり、被覆コンクリート3内で鉄骨柱1の両側に配筋され、せん断補強筋24とともに鉄骨柱1の周囲に略扁平の柱状に組まれて、被覆コンクリート3に定着され、各鉄筋2の上端部21が所定の長さだけ被覆コンクリート3の上面から突出され、各鉄筋2下端部の機械式鉄筋継手用カプラ23の下端開口230が被覆コンクリート3の下面に開口される。
【0015】
被覆コンクリート3は、図4(b)、図5に示すように、鉄骨1及び複数の鉄筋2と一体に打設され、全体として鉄骨柱1と略同じ高さで縦に長く、厚さ寸法に対して幅寸法が大きい略直方体形の柱状に形成されて、扁平の略矩形状の断面を有している。この断面の長辺方向と短辺方向の比は、既述のとおり、2.5〜5.5倍にしてある。
被覆コンクリート3はかかる構成からなり、既述のとおり被覆コンクリート3の上面から複数の鉄筋2の上端部21が突出され、また、被覆コンクリート3の両側面の上下方向中央から梁主筋5が突出され、被覆コンクリート3の一方の大きな面の中心から梁鉄骨6が突出される。
【0016】
このようにして柱部材P1は構成され、図1に示すように、複数の柱部材P1が上下に、各柱部材P1相互間で鉄骨柱1が直接接合されることなく、下側一方の柱部材P1の各鉄筋2の上端部21が上側他方の柱部材P1の機械式鉄筋継手用カプラ23に挿入されるとともに、下側一方の柱部材P1のエンドプレート4から突出される各鉄筋41が上側他方の柱部材P1のエンドプレート4を通して各機械式鉄筋継手用カプラ42に挿入され(図3参照)、それぞれのカプラ23、42内にモルタルなどのグラウト材7(図3参照)が充填されて接合され、プレキャスト工法により組み立てられる。なお、各柱部材P1の両側面から突出される梁主筋5には鉄筋コンクリート造(RC造)の梁が設けられ、各柱部材P1の一方の大きな面の中心から突出される梁鉄骨6には鉄骨造(S造)の梁が設けられる。
【0017】
また、かかる柱部材P1の接合構造により、各柱部材P1に外力により発生した曲げモーメントは各柱部材P1の接合部間で各鉄筋2、41により伝達される。
図6に各柱部材P1の鉄骨柱1間の接合部での力の流れを示している。図6に示すように、各柱部材P1に曲げモーメントが発生すると、これが各鉄筋2、41から被覆コンクリート3を介してエンドプレート4へ、エンドプレート4からH形鋼のフランジ11に伝達され、各柱部材P1の接合部間で曲げモーメントの伝達が可能となる。このように各柱部材P1の接合部間で曲げモーメントの伝達を可能としたことで、図7に示すように、反曲点が各鉄骨柱1間の接合部中央にある場合でもない場合でも、各鉄骨柱1に十分な耐力と変形性能が得られる。また、このように各柱部材P1の接合部間で曲げモーメントの伝達が可能なため、接合部の構造性能を確保するための曲げ補強筋は不要となる。
【0018】
以上説明したように、このSRCの柱Pでは、複数の分割された柱部材P1を上下に、各柱部材P1相互間で鉄骨柱1を直接接合することなく、下側一方の柱部材P1の各鉄筋2、41の上端部を上側他方の柱部材P1の機械式鉄筋継手用カプラ23、42に挿入して接合するようにしたことで、鉄骨鉄筋コンクリート造の柱Pをプレキャスト化することができる。そして、この柱Pをプレキャスト工法により施工するので、鉄骨鉄筋コンクリート造の柱の施工の省力化、省人化を図ることができる。また、各柱部材P1の鉄骨柱1の接合部で鉄筋2、41を介して曲げモーメントの伝達を可能にしたので、反曲点が接合部にない場合でも、十分な耐力、変形性能を持たせることができ、各柱部材P1の接合部間の構造性能を確保するための曲げ補強筋を不要にすることができる。
したがって、この鉄骨鉄筋コンクリート造の柱Pによれば、建物の外周面の位置に配置される外周柱(壁柱)の施工を簡略化して、工期の短縮を図ることができる。
【0019】
図8にこのSRCの柱Pを用いた建物Bを例示している。
図8に示すように、この建物Bは、外壁面となる位置に外周柱B1が配設され、外周柱B1間に外周梁B2が架設されて、地震力を負担する耐震要素が建物Bの外周部にあり、建物Bの内部は大きな空間を確保するために大スパン化され、外周柱B1から内部梁B3が建物B内部方向に向けて架設される(言い換えれば、建物Bの内部を挟んで相互に対向する外周柱B1間に内部梁B3が架設される。)。
【0020】
この建物Bの外周柱B1に既述のSRC造の柱Pが採用され、外周梁B2は鉄筋コンクリート造の梁(RC造の梁)とし、内部梁B3は鉄骨造の梁(S造の梁)としてある。
【0021】
この建物Bでは、既述のとおり、各外周柱B1の鉄骨鉄筋コンクリート造の柱Pを、複数の柱部材P1を上下に、各柱部材P1相互間で鉄骨柱1を直接接合することなく、下側一方の柱部材P1の各鉄筋2、41の上端部を上側他方の柱部材P1の機械式鉄筋継手用カプラ23、42に挿入して接合することでプレキャスト化し、プレキャスト工法により形成することができ、プレキャスト工法の採用により、施工の省力化、省人化を図ることができる。また、この鉄骨鉄筋コンクリート造の柱Pの構造から、各柱部材P1の鉄骨柱1の接合部で鉄筋2、41を介して曲げモーメントの伝達が可能となり、反曲点が接合部にない場合でも、十分な耐力、変形性能を持たせることができる。さらに、各柱部材P1の鉄骨柱1の接合部で曲げモーメントの伝達を可能としたことで、各柱部材P1の接合部間の構造性能を確保するための曲げ補強筋が不要となる。
したがって、この種の建物Bの外周柱B1に鉄骨鉄筋コンクリート造の柱Pを用いることにより、鉄骨鉄筋コンクリート造の柱の施工を簡略化して、工期の短縮を図ることができる。
【0022】
なお、上記各実施の形態では、各柱部材P1の両側面から突出される梁主筋5に鉄筋コンクリート造(RC造)の梁が設けられるものとしたが、梁主筋に代えて、図9に示すように、略スパン中央までの長さのプレキャスト部材(プレキャスト梁)が取り付けられてもよい。
また、上記各実施の形態では、被覆コンクリート3内の各鉄筋2は上端部が被覆コンクリート3の上面から所定の長さだけ突出され、下端部に所定の長さを有する筒形形状の機械式鉄筋継手用カプラ23が連接されて被覆コンクリート3内に埋め込まれ、各機械式鉄筋継手用カプラ23の開口230が被覆コンクリートの下面に開口されるものとしたが、これとは反対に、被覆コンクリート内の各鉄筋は下端部が被覆コンクリートの下面から所定の長さだけ突出され、上端部に所定の長さを有する筒形形状の機械式鉄筋継手用カプラが連接されて被覆コンクリート内に埋め込まれ、各機械式鉄筋継手用カプラの開口が被覆コンクリートの上面に開口されて、複数の柱部材が上下に、一方の柱部材の各鉄筋の端部が他方の柱部材の機械式鉄筋継手用カプラに挿入されて接合されるものとしてもよい。
同様に、上記各実施の形態では、各鉄骨柱1の上端部のエンドプレート4の両側の鉄筋貫通用の孔40に所定の長さの鉄筋41が上下に貫通して取り付けられ、各鉄骨柱1の下端部のエンドプレート4の両側の上面に鉄筋貫通用の孔40に連通して、上端部のエンドプレート4の各鉄筋41が挿通可能な所定の長さを有する機械式鉄筋継手用カプラ42が取り付けられ、各柱部材P1間で鉄筋41が機械式鉄筋継手用カプラ42に挿入されて各柱部材P1間の各エンドプレート4が接続されるものとしたが、これとは反対に、各鉄骨柱の下端部のエンドプレートの両側の鉄筋貫通用の孔に所定の長さの鉄筋が上下に貫通して取り付けられ、各鉄骨柱の上端部のエンドプレートの両側の下面に鉄筋貫通用の孔に連通して、下端部のエンドプレートの各鉄筋が挿通可能な所定の長さを有する機械式鉄筋継手用カプラが取り付けられ、各柱部材間で鉄筋が機械式鉄筋継手用カプラに挿入されて各柱部材間の各エンドプレートが接続されるものとしてもよい。
さらに、上記各実施の形態では、鉄骨鉄筋コンクリート造の柱Pを、外壁面となる位置に外周柱が配設され、外周柱間に外周梁が架設されて、地震力を負担する耐震要素が建物の外周部にあり、建物の内部は大きな空間を確保するために大スパン化され、外周柱から内部梁が建物B内部方向に向けて架設される建物に適用するものとして例示したが、この鉄骨鉄筋コンクリート造の柱Pを一般の建物の現場打ちの鉄骨鉄筋コンクリート造の柱に代えて用いることができることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0023】
P 鉄骨鉄筋コンクリート造の柱
P1 柱部材
1 鉄骨柱
11 フランジ
12 ウェブ
2 鉄筋
21 上端部
22 下端部
23 筒形形状の機械式鉄筋継手用カプラ
230 開口
24 せん断補強筋
3 被覆コンクリート
4 エンドプレート
40 孔
41 鉄筋
42 筒形形状の機械式鉄筋継手用カプラ
5 梁主筋
6 梁鉄骨
7 グラウト材
B 建物
B1 外周柱
B2 外周梁
B3 内部梁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9