(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記炭素鋼材や前記ステンレス鋼材の少なくとも一方の表面に、前記溝または前記段部に連通する補助溝が形成されることを特徴とする請求項1に記載の異種金属構造体。
前記ステンレス鋼材は、その表面にシール部材が接触する接触面が形成され、当該接触面に多数の細溝が形成されることを特徴とする請求項1または2に記載の異種金属構造体。
前記ステンレス鋼材の表面に凹部が形成され、当該凹部の周縁から少なくとも前記炭素鋼材と前記ステンレス鋼材の境界までの範囲の面の位置が、前記表面処理膜が設けられた前記炭素鋼材の表面位置よりも前記凹部の底面側に位置することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の異種金属構造体。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば水との接触により蓋部の少なくとも一部が腐食する(錆びる)と、放射性物質収納容器の性能が低下する可能性がある。腐食の発生を抑制するための従来技術の一つとして、腐食する可能性が高い、または防錆の要求が高い蓋部の一部をステンレス鋼材で形成し、他の一部を炭素鋼材で形成する異種金属構造体の技術がある。蓋部の一部をステンレス鋼製にすることによってコストの抑制が図られる。ただし、炭素鋼材においても防錆が必要な場合は、炭素鋼材の表面にメッキなどの表面処理膜を施す。
【0006】
しかし、表面処理膜がステンレス鋼材には必要でない場合、ステンレス鋼材と炭素鋼材との境界部分に表面処理膜の端部が存在することになる。この場合、端部から表面処理膜が剥がれやすくなってしまう。
【0007】
本発明は上述した課題を解決するものであり、異種の金属の境界部分における表面処理膜の剥離を防ぐことのできる異種金属構造体および放射性物質収納容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明の異種金属構造体は、炭素鋼材にステンレス鋼材を肉盛溶接または溶接接合した少なくとも前記炭素鋼材の表面に表面処理膜が設けられた異種金属構造体であって、前記炭素鋼材および前記ステンレス鋼材の表面の境界部分に沿って溝または段部が形成されることを特徴とする。
【0009】
この異種金属構造体によれば、炭素鋼材およびステンレス鋼材の表面の境界部分に沿って溝または段部が形成されることで、炭素鋼材およびステンレス鋼材の表面から表面処理膜の端部が離隔して配置される。この結果、表面処理膜の端部に外力が加わり難くなるため、異種の金属の境界部分における表面処理膜の剥離を防ぐことができる。
【0010】
また、本発明の異種金属構造体では、前記炭素鋼材や前記ステンレス鋼材の少なくとも一方の表面に、前記溝または前記段部に連通する補助溝が形成されることを特徴とする。
【0011】
この異種金属構造体によれば、補助溝を設けることにより、溝または段部に侵入する例えば水などの異物を補助溝から排出することができ、溝または段部の腐食やそれに伴う表面処理膜の剥離を防止することができる。
【0012】
また、本発明の異種金属構造体では、前記ステンレス鋼材は、その表面にシール部材が接触する接触面が形成され、当該接触面に多数の細溝が形成されることを特徴とする。
【0013】
この異種金属構造体によれば、多数の細溝に接触するようにシール部材が配置され、多数の細溝からなる凹凸にシール部材が嵌合することになり、高いシール機能を得ることができる。この結果、シール部材のシール機能の信頼性を向上することができる。
【0014】
また、本発明の異種金属構造体では、前記ステンレス鋼材の表面に凹部が形成され、当該凹部の周縁から少なくとも前記炭素鋼材と前記ステンレス鋼材の境界までの範囲の面の位置が、前記表面処理膜が設けられた前記炭素鋼材の表面位置よりも前記凹部の底面側に位置することを特徴とする。
【0015】
ステンレス鋼材に表面処理を施さない部位を設けるための製造上の観点から、ステンレス鋼材の表面に凹部が形成され、当該凹部の周縁において凹部を閉塞して凹部内面のステンレス鋼材をマスキングするためのシートの貼付面が形成される。このため、凹部の周縁から少なくとも炭素鋼材とステンレス鋼材の境界までの範囲の面の位置が、表面処理膜が設けられた炭素鋼材の表面位置よりも凹部の底面側に位置することで、貼付面は、炭素鋼材の表面から凹んだ部分に形成される。従って、この異種金属構造体によれば、表面処理後のマスキングシート剥離作業において貼付面の追加工が必要となる場合を考慮して、貼付面を平坦度を要求しない位置に設けておくことで、作業性向上およびコスト低下に寄与することができる。
【0016】
なお、本発明の異種金属構造体では、前記貼付面は、前記シートの貼り付けに対応した表面仕上げが施されることを特徴とする。
【0017】
この異種金属構造体によれば、炭素鋼材の表面から凹んだ部分に形成される貼付面に粗加工や研磨加工等の表面仕上げが施されることで、シートが剥がれにくくなり、マスキングの信頼性を向上することでき、表面処理膜の端部の位置を制御しやすくなり、作業性向上およびコスト低下に寄与することができる。
【0018】
上記の目的を達成するため、本発明の放射性物質収納容器は、放射性物質が収納される胴部と、前記胴部の開口部を塞ぐ蓋部と、を備える放射性物質収納容器であって、前記胴部や前記蓋部のシール部の少なくとも一方に、上述した異種金属構造体が適用されることを特徴とする。
【0019】
この放射性物質収納容器によれば、炭素鋼材およびステンレス鋼材の表面の境界部分に沿って溝または段部が形成されることで、炭素鋼材およびステンレス鋼材の表面から表面処理膜の端部が離隔して配置される。この結果、表面処理膜の端部に外力が加わり難くなるため、異種の金属の境界部分における表面処理膜の剥離を防ぐことができる。この構造体が、胴部や蓋部のシール部の少なくとも一方に適用されることで、剥離した表面処理膜や表面処理膜の剥離に伴う腐食により発生する異物がシール部に挟まれる事態を防ぐことができ、密封性を向上することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、異種の金属の境界部分における表面処理膜の剥離を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る異種金属構造体が適用される放射性物質収納容器としてのキャスクの一例を示す側断面図である。
【
図4】
図4は、一般的な異種金属構造体の断面図である。
【
図5】
図5は、一般的な異種金属構造体の断面図である。
【
図6】
図6は、一般的な異種金属構造体の断面図である。
【
図7】
図7は、炭素鋼材にステンレス鋼材が肉盛溶接されて接合された形態において表面処理膜を設けた状態の断面図である。
【
図8】
図8は、炭素鋼材にステンレス鋼材が肉盛溶接されて接合された形態において表面処理膜を設けた状態の断面図である。
【
図9】
図9は、本発明の実施形態に係る異種金属構造体の断面図である。
【
図10】
図10は、本発明の実施形態に係る異種金属構造体の断面図である。
【
図11】
図11は、本発明の実施形態に係る異種金属構造体の断面図である。
【
図12】
図12は、本発明の実施形態に係る異種金属構造体の断面図である。
【
図13】
図13は、本発明の実施形態に係る異種金属構造体の断面図である。
【
図14】
図14は、本発明の実施形態に係る異種金属構造体の部分拡大断面図である。
【
図15】
図15は、本発明の実施形態に係る異種金属構造体の部分拡大断面図である。
【
図16】
図16は、本発明の実施形態に係る異種金属構造体の部分拡大断面図である。
【
図17】
図17は、本発明の実施形態に係る異種金属構造体の部分拡大断面図である。
【
図18】
図18は、本発明の実施形態に係る異種金属構造体の部分拡大断面図である。
【
図19】
図19は、本発明の実施形態に係る異種金属構造体の断面図である。
【
図21】
図21は、本発明の実施形態に係る異種金属構造体の断面図である。
【
図23】
図23は、本発明の実施形態に係る異種金属構造体の断面図である。
【
図24】
図24は、本発明の実施形態に係る異種金属構造体の断面図である。
【
図25】
図25は、本発明の実施形態に係る異種金属構造体の断面図である。
【
図26】
図26は、本発明の実施形態に係る異種金属構造体の部分拡大断面図である。
【
図27】
図27は、本発明の実施形態に係る異種金属構造体の部分拡大断面図である。
【
図28】
図28は、本発明の実施形態に係る異種金属構造体の部分拡大断面図である。
【
図29】
図29は、本発明の実施形態に係る異種金属構造体の部分拡大断面図である。
【
図30】
図30は、本発明の実施形態に係る異種金属構造体の部分拡大断面図である。
【
図31】
図31は、本発明の実施形態に係る異種金属構造体の断面図である。
【
図32】
図32は、本発明の実施形態に係る異種金属構造体の断面図である。
【
図33】
図33は、本発明の実施形態に係る異種金属構造体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0023】
図1は、本実施形態に係る異種金属構造体が適用される放射性物質収納容器としてのキャスクの一例を示す側断面図である。
図2は、
図1に示すキャスクの平断面図である。
【0024】
放射性物質収納容器としてのキャスク11は、胴部12と蓋部13とバスケット14とを有する。胴部12は、胴本体21の一方である上部に開口部22が形成され、他方である下部に底部(閉塞部)23が形成された円筒形状をなしている。胴本体21は、内部にキャビティ24が設けられ、このキャビティ24は、その内面がバスケット14の外周形状に合わせた形状となっている。バスケット14は、例えば、使用済燃料集合体である放射性物質(図示略)を個々に収納するセルを複数有している。バスケット14は、
図1に示すようにバスケット本体14Aを有する。バスケット本体14Aは、互いに平行かつ所定間隔で配置されるセルとしての放射性物質収納部14Bが上下方向で連続して形成されている。ここで、上下方向とは、キャスク11において胴本体21の円筒形状の中心軸の延在方向である長手方向Xに対して沿う方向であり、胴本体21の上下方向に相当する。そして、胴本体21は、下部に底部23が溶接結合または一体成形されており、この胴本体21および底部23は、γ線遮蔽機能を有する炭素鋼製の鍛造品となっている。胴本体21および底部23は、炭素鋼の代わりにステンレス鋼を用いることもできる。また、胴本体21および底部23は、球状黒鉛鋳鉄または炭素鋼鋳鋼などの鋳造品を用いることもできる。
【0025】
胴部12は、胴本体21の外周側に所定の隙間を空けて外筒25が配設されており、胴本体21の外周面と外筒25の内周面との間に、熱伝導を行う銅や鋼製の伝熱フィン25Aが周方向に等間隔で複数溶接されている。そして、胴部12は、胴本体21と外筒25との空間部に、水素を多く含有する高分子材料であって中性子遮蔽機能を有するボロンまたはボロン化合物を含有したレジン(中性子遮蔽体)26が流動状態で図示しないパイプ等を介して注入され、固化されている。
【0026】
また、胴部12は、底部23の下側に複数の連結板27により所定の隙間を空けて底板28が連結されていてもよく、この連結板27と底板28との空間部にレジン(中性子遮蔽体)29が設けられている。なお、連結板27を設けないこともある。また、胴部12は、側面35にトラニオン30が固定されている。
【0027】
蓋部13は、
図1に示すように、一次蓋31と、二次蓋32と、三次蓋33と、を有する。一次蓋31は、胴部12における胴本体21の開口部22に対して着脱可能に取り付けられる。二次蓋32は、一次蓋31の外側で開口部22に対して着脱可能に取り付けられる。三次蓋33は、二次蓋32の外側で開口部22に対して着脱可能に取り付けられる。一次蓋31は、キャビティ24側の負圧を維持してキャビティ24内に充填されたガスの漏洩を防ぐと共に、キャビティ24内に収納された放射性物質から出る放射線(γ線)を遮蔽する。また、一次蓋31は、二次蓋32側にレジン(中性子遮蔽体)34が設けられている。二次蓋32は、一次蓋31との間に大気に対して加圧された圧力監視境界を有し、一次蓋31からのガスの漏洩を阻止すると共に、キャビティ24側の負圧を維持する。三次蓋33は、二次蓋32を外部の衝撃から防御すると共にキャビティ24側の負圧を維持する。なお、図には明示しないが、一次蓋31と二次蓋32との間に、二次蓋32の衝撃を吸収する緩衝部が設けられていてもよい。
【0028】
ここで、一次蓋31、二次蓋32、三次蓋33の開口部22への取り付けについて説明する。
図3は、
図1に示すキャスクの部分拡大断面図である。
【0029】
図3に示すように、胴部12は、胴本体21の開口部22の内周部に段付部が形成されている。段付部は、開口部22の内側から、第一段部41と、第二段部42と、第三段部43と、を有する。
【0030】
第一段部41は、第一内周部41Aと第一座面部41Bとを有する。第一内周部41Aは、胴本体21の内周をなしており、長手方向Xにおいて開口部22の外側に延伸している。第一座面部41Bは、第一内周部41Aの延端から胴本体21の径方向外側に延伸して開口部22の外側に向く面をなす。第一座面部41Bは、複数のネジ穴41Cが胴本体21の周りに沿って設けられている。この第一段部41において、一次蓋31が胴本体21と固定される。
【0031】
第二段部42は、長手方向Xにおいて第一段部41よりも開口部22の外側に位置する。第二段部42は、第二内周部42Aと第二座面部42Bとを有する。第二内周部42Aは、胴本体21の内周をなしており、第一段部41の第一座面部41Bの外周端から長手方向Xにおいて開口部22の外側に延伸している。第二座面部42Bは、第二内周部42Aの延端から胴本体21の径方向外側に延伸して開口部22の外側に向く面をなす。第二座面部42Bは、複数のネジ穴42Cが胴本体21の周りに沿って設けられている。この第二段部42において、二次蓋32が胴本体21と固定される。
【0032】
第三段部43は、長手方向Xにおいて第二段部42よりも開口部22の外側に位置する。第三段部43は、第三内周部43Aと第三座面部43Bとを有する。第三内周部43Aは、胴本体21の内周をなしており、第二段部42の第二座面部42Bの外周端から長手方向Xにおいて開口部22の外側に延伸している。第三座面部43Bは、第三内周部43Aの延端である開口部22の開口縁から胴本体21の径方向外側に延伸して開口部22の外側に向く面をなす。この第三座面部43Bは、胴本体21における開口部22の外側の端面をなす。第三座面部43Bは、複数のネジ穴43Cが胴本体21の周りに沿って設けられている。この第三段部43において、三次蓋33が胴本体21と固定される。
【0033】
一次蓋31は、円板部31Aと突起部31Bとを有する。円板部31Aは、第二段部42の第二内周部42Aの内側に挿入可能な大きさで円板状に形成されている。突起部31Bは、円板部31Aの中央部において一側面31Aaから突出して設けられ、第一段部41の第一内周部41Aの内側に挿入可能な大きさで円柱状に形成されている。円板部31Aの一側面31Aaは、円板部31Aの外周部に配置されることになる。また、一次蓋31は、円板部31Aの一側面31Aaに、シール溝31Cが形成されている。シール溝31Cは、シール部材(例えば、金属製ガスケット)31Dが挿入される。また、一次蓋31は、円板部31Aの外周部であってシール溝31Cを避ける位置に、周方向に沿って複数の貫通穴31Eが設けられている。貫通穴31Eは、第一段部41の第一座面部41Bに設けられたネジ穴41Cに対応して設けられている。この一次蓋31は、円板部31Aの一側面31Aaを第一段部41の第一座面部41Bと対面させた状態で、貫通穴31Eに挿通したボルト51をネジ穴41Cに螺合させることで、一側面31Aaが第一座面部41Bに押圧されるように締め付けられ、シール部材31Dが一側面31Aa側と第一座面部41B側との間で挟み込まれることで、胴本体21の開口部22における第一段部41の位置を密封する。
【0034】
二次蓋32は、円板部32Aと突起部32Bとを有する。円板部32Aは、第三段部43の第三内周部43Aの内側に挿入可能な大きさで円板状に形成されている。突起部32Bは、円板部32Aの中央部において一側面32Aaから突出して設けられ、第二段部42の第二内周部42Aの内側に挿入可能な大きさで円柱状に形成されている。円板部32Aの一側面32Aaは、円板部32Aの外周部に配置されることになる。また、二次蓋32は、円板部32Aの一側面32Aaに、シール溝32Cが形成されている。シール溝32Cは、シール部材(例えば、金属製ガスケット)32Dが挿入される。また、二次蓋32は、円板部32Aの外周部であってシール溝32Cを避ける位置に、周方向に沿って複数の貫通穴32Eが設けられている。貫通穴32Eは、第二段部42の第二座面部42Bに設けられたネジ穴42Cに対応して設けられている。この二次蓋32は、円板部32Aの一側面32Aaを第二段部42の第二座面部42Bと対面させた状態で、貫通穴32Eに挿通したボルト52をネジ穴42Cに螺合させることで、一側面32Aaが第二座面部42Bに押圧されるように締め付けられ、シール部材32Dが一側面32Aa側と第二座面部42B側との間で挟み込まれることで、胴本体21の開口部22における第二段部42の位置を密封する。
【0035】
三次蓋33は、円板部33Aと突起部33Bとを有する。円板部33Aは、第三座面部43Bを覆う大きさで円板状に形成されている。突起部33Bは、円板部33Aの中央部において一側面33Aaから突出して設けられ、第三段部43の第三内周部43Aの内側に挿入可能な大きさで円柱状に形成されている。円板部33Aの一側面33Aaは、円板部33Aの外周部に配置されることになる。また、三次蓋33は、円板部33Aの一側面33Aaに、シール溝33Cが形成されている。シール溝33Cは、シール部材(例えば、ゴム製Oリング)33Dが挿入される。また、三次蓋33は、円板部33Aの外周部であってシール溝33Cを避ける位置に、周方向に沿って複数の貫通穴33Eが設けられている。貫通穴33Eは、第三段部43の第三座面部43Bに設けられたネジ穴43Cに対応して設けられている。この三次蓋33は、円板部33Aの一側面33Aaを第三段部43の第三座面部43Bと対面させた状態で、貫通穴33Eに挿通したボルト53をネジ穴43Cに螺合させることで、一側面33Aaが第三座面部43Bに押圧されるように締め付けられ、シール部材33Dが一側面33Aa側と第三座面部43B側との間で挟み込まれることで、胴本体21の開口部22における第三段部43の位置を密封する。
【0036】
そして、放射性物質は、水中において胴本体21におけるキャビティ24のバスケット14に挿入され、一次蓋31により密封される。その後、一次蓋31に設けられた排水口(図示せず)から排水および吸引が行われると共に、一次蓋31に設けられた封入口(図示せず)からガス(例えば、不活性ガス)が注入されることで、一次蓋31により密封された内部が負圧とされてガスで満たされる。その後、二次蓋32および三次蓋33が取り付けられる。このように、放射性物質は、一次蓋31、二次蓋32および三次蓋33を胴本体21に取り付けることによりキャスク11に収納される。なお、図には明示しないが、キャスク11は、一次蓋31のみを有する構成や、一次蓋31および二次蓋32のみを有する構成や、一次蓋31および三次蓋33のみを有する構成がある。
【0037】
以下、本実施形態の異種金属構造体について説明する。
図4〜
図6は、一般的な異種金属構造体の断面図である。
図9〜
図18は、本実施形態に係る異種金属構造体の断面図である。
【0038】
本実施形態の異種金属構造体は、上述したキャスク11に適用されるものであるが、その適用はキャスク11に限定されるものでない。
【0039】
まず、上述したキャスク11に適用される一般的な異種金属構造体について
図4〜
図6を参照して説明する。
【0040】
図4に示す異種金属構造体は、蓋部13の一次蓋31や二次蓋32に適用されるもので、一次蓋31や二次蓋32自体が炭素鋼材CSであり、シール溝31C,32Cの部分がステンレス鋼材SSである。具体的には、一次蓋31や二次蓋32の炭素鋼材CSにステンレス鋼材SSが肉盛溶接または溶接接合されて、ステンレス鋼材SS自体がシール溝31C,32Cを構成する凹部をなすように形成されている。そして、シール溝31C,32Cである凹部の内面が、シール部材31D,32D(図示せず)に接触する接触面31Ca,32Caとなる。また、
図4に示す異種金属構造体は、一次蓋31や二次蓋32の炭素鋼材CSの表面に、防錆のための表面処理膜61が施されている。表面処理膜61は、例えば、無電解ニッケルメッキ処理により形成され、メッキ液に一次蓋31や二次蓋32を浸漬させて表面がメッキ液と接触することで表面処理膜61が施される。また、無電解ニッケルメッキ処理において、表面処理膜61は、炭素鋼材CSの表面には形成されるものの、ステンレス鋼材SSの表面には形成され難い。従って、一次蓋31や二次蓋32の炭素鋼材CSの表面にのみ表面処理膜61が施される。ただし、極わずかであるが、ステンレス鋼材SSにも表面処理膜61が形成される可能性がある。ステンレス鋼材SSからなるシール溝31C,32Cの接触面31Ca,32Caは、シール部材31D,32Dに接触する部分であり、一次蓋31や二次蓋32による密封機能において重要であるため、表面処理膜61が施されないようにマスキングのためのシートにより覆うことが好ましい。
図4に示す異種金属構造体では、シール溝31C,32Cである凹部の内面が接触面31Ca,32Caとなるため、当該凹部を閉塞するように、凹部の開口縁または凹部の内面にシートが貼り付けられる。このため、表面処理膜61は、炭素鋼材CSの表面であってステンレス鋼材SSとの境界部分に端部が位置する。この表面処理膜61の端部は、炭素鋼材CSの表面に確実に施されるように、僅かにステンレス鋼材SS側に掛かっている。
【0041】
図5に示す異種金属構造体は、蓋部13の一次蓋31や二次蓋32に適用されるもので、一次蓋31や二次蓋32自体が炭素鋼材CSであり、シール溝31C,32Cの一部がステンレス鋼材SSである。具体的には、一次蓋31や二次蓋32の炭素鋼材CSにシール溝31C,32Cを構成する凹部が形成され、当該凹部の一部(第一座面部41Bや第二座面部42Bに対向する部分)にステンレス鋼材SSが溶接接合されている。そして、ステンレス鋼材SSの表面が、シール部材31D,32D(図示せず)に接触する接触面31Ca,32Caとなる。また、
図5に示す異種金属構造体は、一次蓋31や二次蓋32の炭素鋼材CSの表面に、防錆のための表面処理膜61が施されている。表面処理膜61は、例えば、無電解ニッケルメッキ処理により形成される。ここでも、ステンレス鋼材SSからなる接触面31Ca,32Caに表面処理膜61が施されないようにマスキングのためのシートにより覆うことが好ましい。
図5に示す異種金属構造体では、ステンレス鋼材SSの表面の接触面31Ca,32Caにシートが貼り付けられる。このため、表面処理膜61は、炭素鋼材CSの表面であってステンレス鋼材SSとの境界部分に端部が位置する。この表面処理膜61の端部は、炭素鋼材CSの表面に確実に施されるように、僅かにステンレス鋼材SS側に掛かっている。
【0042】
図6に示す異種金属構造体は、蓋部13の三次蓋33に適用されるもので、三次蓋33自体が炭素鋼材CSであり、シール溝33Cの部分がステンレス鋼材SSである。具体的には、三次蓋33の炭素鋼材CSにステンレス鋼材SSが肉盛溶接または溶接接合されて、ステンレス鋼材SS自体が2つのシール溝33Cを構成する凹部をなすように形成されている。そして、シール溝33Cである凹部の内面が、シール部材33D(図示せず)に接触する接触面33Caとなる。また、
図6に示す異種金属構造体は、三次蓋33の炭素鋼材CSの表面に、防錆のための表面処理膜61が施されている。表面処理膜61は、例えば、無電解ニッケルメッキ処理により形成される。ここでも、ステンレス鋼材SSからなるシール溝33Cの接触面33Caに表面処理膜61が施されないようにマスキングのためのシートにより覆うことが好ましい。
図6に示す異種金属構造体では、シール溝33Cである凹部の内面が接触面33Caとなるため、当該凹部を閉塞するように、凹部の開口縁または凹部の内面にシートが貼り付けられる。このため、表面処理膜61は、炭素鋼材CSの表面であってステンレス鋼材SSとの境界部分に端部が位置する。この表面処理膜61の端部は、炭素鋼材CSの表面に確実に施されるように、僅かにステンレス鋼材SS側に掛かっている。
【0043】
上述した
図4〜
図6に示す異種金属構造体では、以下の問題が生じるおそれがある。
図4および
図6に示す異種金属構造体は、表面処理膜61の端部が第一座面部41Bや第二座面部42Bまたは第三座面部43Bに接触し外力が加わることになる。この表面処理膜61の端部は、露出しているため、表面処理膜の側面方向から外力が加わりやすく、剥離するおそれがある。そして、表面処理膜61の剥離片がシール溝31C,32Cやシール溝33Cに侵入し、接触面31Ca,32Caとシール部材31D,32Dとの間や接触面33Caとシール部材33Dとの間に挟まると、密封性が損なわれるおそれがある。また、
図5に示す異種金属構造体は、接触面31Ca,32Caを拭き取り洗浄する際に、表面処理膜61の端部に外力が加わり剥離するおそれがある。そして、表面処理膜61の剥離片がシール溝31C,32Cに侵入し、接触面31Ca,32Caとシール部材31D,32Dとの間に挟まると、密封性が損なわれるおそれがある。
【0044】
ここで、
図7は、炭素鋼材にステンレス鋼材が肉盛溶接されて接合された形態において表面処理膜を設けた状態の断面図であり、この場合、表面処理膜61の端部は、炭素鋼材CSおよびステンレス鋼材SSを接合する肉盛溶接の溶接材料N(例えば、ニッケル)の表面に沿って施される。また、
図8は、炭素鋼材にステンレス鋼材が肉盛溶接されて接合された形態において表面処理膜を設けた状態の断面図であり、この場合、表面処理膜61の端部は、接合された炭素鋼材CSおよびステンレス鋼材SSの表面に沿って施される。
【0045】
本実施形態の異種金属構造体は、異種の金属の境界部分における表面処理膜61の剥離を防ぐように構成されている。具体的に、
図9〜
図33を参照して説明する。
【0046】
図9に示す異種金属構造体は、
図4に示す異種金属構造体に対応するもので、炭素鋼材CSおよびステンレス鋼材SSの表面の境界部分に沿って溝1が形成されている。また、
図10に示す異種金属構造体は、
図5に示す異種金属構造体に対応するもので、炭素鋼材CSおよびステンレス鋼材SSの表面の境界部分に沿って溝1が形成されている。また、
図11に示す異種金属構造体は、
図6に示す異種金属構造体に対応するもので、炭素鋼材CSおよびステンレス鋼材SSの表面の境界部分に沿って溝1が形成されている。
【0047】
溝1は、シール部材31D,32Dを取り付ける際に、シール部材31D,32Dが溝1内に入り、表面処理膜61の端部と接触することがないよう、以下の寸法条件を満たすことを特徴とする。
W<0.5R
かつ
・
図9、
図11の場合、D>R−√{R
2−(W/2)
2}
・
図10の場合、D>2d
このとき、W:溝1の幅、D:溝1の深さ、R:シール部材31D,32Dの断面半径、d:表面処理膜61の厚さ、である。
【0048】
図9および
図11の場合、溝1は、その断面形状が
図12に示すようなアーチ型や、
図13に示すような矩形型に形成される。溝1の断面形状は、アーチ型や矩形型に限らず、図には明示しないが、例えば、三角型や台形型であってもよい。また、
図16や
図17に示すように、溝1が形成された上で、段部2’が形成されても良い。段部2’は溝1の深さ方向において炭素鋼材CSの表面とシートの面との間に位置することを特徴とする。
【0049】
また、
図9および
図11の場合、溝1に替えて、
図18に示すように、炭素鋼材CSおよびステンレス鋼材SSの表面の境界部分に沿って段部2が形成されている。段部2は、一次蓋31、二次蓋32、三次蓋33において、第一座面部41B、第二座面部42B、第三座面部43Bに接触する一側面31Aa,32Aa,33Aaから離れるように段状に形成される部分をいう。段部2は、溝1の深さ方向において炭素鋼材CSの表面とシートの面との間に位置し、シール部材31D,32Dの取扱い時にシール部材31D,32Dが表面処理膜61の端部に接触することがないよう以下の寸法条件を満たすことを特徴とする。
A>2d
かつ
(A)>2d
かつ
(A)+A<2R
かつ
B<R
このとき、A:炭素鋼材CSの表面と段部2の深さ方向の距離(シート面と段部2間の深さ方向の距離)、B:段部2の幅、R:シール部材31D,32Dの断面半径、d:表面処理膜61の厚さ、である。
【0050】
このように、本実施形態の異種金属構造体によれば、
図9、
図11〜
図18に示すように、炭素鋼材CSおよびステンレス鋼材SSの表面の境界部分に沿って溝1または段部2が形成されることで、炭素鋼材CSおよびステンレス鋼材SSの表面(一側面31Aa,32Aa,33Aa)から表面処理膜61の端部が離隔して配置される。この結果、表面処理膜61の端部に外力が加わり難くなるため、異種の金属の境界部分における表面処理膜61の剥離を防ぐことができる。
【0051】
また、本実施形態の異種金属構造体によれば、
図10、
図14、
図15に示すように、炭素鋼材CSおよびステンレス鋼材SSの表面の境界部分に沿って溝1が形成されることで、ステンレス鋼材SSの表面(接触面31Ca,32Ca)から表面処理膜61の端部が離隔して配置される。この結果、表面処理膜61の端部に外力が加わり難くなるため、異種の金属の境界部分における表面処理膜61の剥離を防ぐことができる。
【0053】
図18〜
図22に示す異種金属構造体は、炭素鋼材CSやステンレス鋼材SSの少なくとも一方の表面に、溝1または段部2に連通する補助溝3が形成されている。
図19および
図20では、溝1に対して連通する補助溝3が、炭素鋼材CSおよびステンレス鋼材SSに形成されている。
図18、
図21では、溝1または段部2に対して連通する補助溝3が、炭素鋼材CSにのみ形成されている。
図18〜
図20では、補助溝3は、その深さが溝1または段部2の深さよりも浅いことを特徴とする。
図21、
図22では、補助溝3は、その深さがシート溝(31C,32C)の深さよりも浅いことを特徴とする。
【0054】
この異種金属構造体によれば、補助溝3を設けることにより、溝1または段部2およびシート溝(31C,32C)に侵入する異物を補助溝3から排出することができる。キャスク11の場合、一次蓋31は、取り付け後に水抜きが行われるが、溝1または段部2およびシート溝(31C,32C)に侵入した水(異物)を補助溝3から一次蓋31の外側または内側に排出することで、溝1または段部2およびシート溝(31C,32C)に水が溜まる事態を防ぐことができ、水による溝1または段部2の腐食によって表面処理膜61の剥離やシール部材31Dの腐食や劣化を防止できる。つまり、補助溝3は、例えば、一次蓋31において、シール溝31Cの外側では、円板部31Aの一側面31Aaの外側端まで連通しており、シール溝31Cの内側では、一側面31Aaの内側端であって突起部31Bに至るまで連通している。また、キャスク11の場合、補助溝3は、一次蓋31の周方向で複数(例えば、十字状に4箇所)設けることが異物の排出を適宜行うために好ましい。なお、
図19、
図21では、一次蓋31および二次蓋32に対して補助溝3を設けた例を示しているが、三次蓋33に補助溝3を設けてもよい。
【0056】
図23、
図24および
図25に示す異種金属構造体では、ステンレス鋼材SSは、その表面に凹部4が形成され、当該凹部4の周縁において凹部4を閉塞して表面処理膜61をマスキングするためのシート100の貼付面5が炭素鋼材CSの表面(一側面31Aa、32Aa,33Aa)から凹んだ部分に形成される。
【0057】
図23では、
図10に示す形態に凹部4を新たに設けた構成であり、当該凹部4の内面が接触面31Ca,32Caとなる。
図24は、
図9に示す形態に
図16または
図17の溝1および段部2’を設け、段部2’が貼付面5として、シール溝31C、32Cが当該凹部4として構成される。また、図には明示しないが、
図11に示す形態の場合も、
図16または
図17の溝1及び段部2’を設け、段部2’が貼付面5として、シール溝33Cが凹部4として構成される。
【0058】
この異種金属構造体によれば、シート100を剥がすときに貼付面5に傷が付いたり、シート100が容易に剥がれなかったりするなどの事象が生じたとしても、貼付面5は平坦度や寸法精度が要求されない面であることから、追加工における作業性向上およびコスト低下に寄与することができる。
【0059】
図23、
図24および
図25では、貼付面5が形成されるステンレス鋼材SSが炭素鋼材CSの表面から凹んだ位置に配置されており、貼付面5は、シート100の貼り付けに対応した面処理が施される。具体的に、面処理は、シート100を貼り付けるための材質などに対応した処理であり、粗加工や研磨加工などがある。
【0060】
この異種金属構造体によれば、シート100が剥がれにくくなり、マスキングの信頼性を向上することができる。キャスク11の場合、マスキングの信頼性が向上することで、接触面31Ca,32Ca,33Caに表面処理膜61の材料(メッキ液)が付着する事態を防止できる。
【0061】
図31〜
図33は、本実施形態に係る異種金属構造体の断面図である。
図31〜
図33は、上述した実施形態の異種金属構造体における他の適用例を示す。つまり、異種金属構造体をキャスク11の胴本体21における各段部41,42,43の各座面部41B,42B,43Bに適用している。具体的には、胴本体21(各座面部41B,42B,43B)が炭素鋼材CSで形成され、各座面部41B,42B,43Bの一部であって、各蓋31,32,33のシール溝31C,32C,33Cの開口部が対向する部分(すなわち、シール部材31D,32D,33Dが接触する接触面)にステンレス鋼材SSが溶接接合されている。
【0062】
そして、
図31に示す異種金属構造体は、炭素鋼材CSおよびステンレス鋼材SSの表面の境界部分に沿って溝1が形成される。
図32に示す異種金属構造体は、補助溝3が形成される。
図33に示す異種金属構造体は、凹部4が形成され、貼付面5が、炭素鋼材CSの表面から凹んだ部分に形成される。また、貼付面5は、シート100の貼り付けに対応した面処理が施される。
【0063】
すなわち、キャスク11の場合、異種金属構造体は、蓋部13側だけでなく胴本体21側に適用することが可能である。
【0064】
ところで、本実施形態の異種金属構造体では、ステンレス鋼材SSの表面にシール部材31D,32D,33Dが接触する接触面31Ca,32Ca,33Caが形成され、当該接触面31Ca,32Ca,33Caに多数の細溝が形成されることが好ましい。また、シール部材31D,32Dへの接触面(41B,42B,43B)も同様に多数の細溝が形成されることが好ましい。
【0065】
細溝はセレーション加工することにより形成される。すなわち、多数の細溝に接触するようにシール部材31D,32D,33Dが配置される。多数の細溝にシール部材31D,32D,33Dが接触すると、多数の細溝からなる凹凸にシール部材31D,32D,33Dが嵌合することになり、高いシール機能を得ることができる。この結果、シール部材31D,32D,33Dのシール機能の信頼性を向上することができる。