【文献】
川井信子,有機酸分析における糖およびアミノ酸除去のためのイオン交換樹脂条件の検討,生活衛生,1982年,Vol.26, No.4,pp.228-233
【文献】
山田貞二 他,クロセチンを指標物質とした食品中のクチナシ黄色素の確認,食衛誌,1996年,Vol.37,No.6,pp.372-377
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アルカリ性水溶液が、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液、四ホウ酸ナトリウム水溶液及びアンモニア水溶液から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1に記載のクロセチンの定量方法。
有機溶媒が、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトン、ピリジン、ジメチルスルホキシド及びジメチルホルムアミドから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1に記載のクロセチンの定量方法。
高極性有機溶媒が、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ピリジン及びアセトンから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1に記載のクロセチンの定量方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、クロセチンの標準品を用いることなく簡便に正確な定量が可能なクロセチンの定量方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題に対して鋭意検討を行った結果、クロセチンを含有する組成物をアルカリ性水溶液に溶解して不溶物を除去した後、これを陰イオン交換樹脂及び陽イオン交換樹脂等を用いて処理することにより、吸光度測定によるクロセチンの定量精度が向上することを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、下記の(1)〜(6)からなっている。
(1)以下の工程(A)〜(H)を順次行うことを特徴とするクロセチンの定量方法。
(A):クロセチンを含有する組成物をアルカリ性水溶液に溶解する工程
(B):工程(A)で得られた溶解液に含まれる不溶物を除去する工程
(C):工程(B)で不溶物が除去された溶解液を陰イオン交換樹脂に接触させる工程
(D):工程(C)後の陰イオン交換樹脂をアルカリ性水溶液で洗浄する工程
(E):工程(D)後の陰イオン交換樹脂を有機溶媒で洗浄する工程
(F):工程(E)後の陰イオン交換樹脂に吸着している成分を、酸剤を含有する高極性有機溶媒で溶出させ、溶出液を回収する工程
(G):工程(F)で回収した溶出液を陽イオン交換樹脂に接触させ、その非吸着画分を回収する工程
(H):工程(G)で得られた非吸着画分の回収液について、クロセチンに由来する吸光度を測定する工程
(2)アルカリ性水溶液が、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液、四ホウ酸ナトリウム水溶液及びアンモニア水溶液から選ばれる1種以上であることを特徴とする前記(1)に記載のクロセチンの定量方法。
(3)酸剤が、ギ酸、リン酸、塩酸、酢酸、トリフルオロ酢酸及びクエン酸から選ばれる1種以上であることを特徴とする前記(1)に記載のクロセチンの定量方法。
(4)有機溶媒が、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトン、ピリジン、ジメチルスルホキシド及びジメチルホルムアミドから選ばれる1種以上であることを特徴とする前記(1)に記載のクロセチンの定量方法。
(5)高極性有機溶媒が、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ピリジン及びアセトンから選ばれる1種以上であることを特徴とする前記(1)に記載のクロセチンの定量方法。
(6)クロセチンを含有する組成物が、飲食品又は医薬品である前記(1)〜(5)のいずれかに記載のクロセチンの定量方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の定量方法によれば、クロセチンの標準品を用いることなく簡便に正確なクロセチンの定量が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明で言うところのクロセチンとは、式
【0012】
【化1】
で表される化合物である。このクロセチンは、通常、カロテノイド系の黄色色素であるクロシン(クロセチンのジゲンチオビオースエステル)を加水分解することにより得られる。クロシンは、アカネ科クチナシ(Gardenia augusta MERRIL var.grandiflora HORT.,Gardenia jasminoides ELLIS)の果実、サフランの柱頭の乾燥物等に含まれるが、クロシンを得るための工業的原料としてはクチナシの果実が好ましく用いられる。
【0013】
本発明のクロセチンの定量方法は、クロセチンを含有する組成物について次の工程(A)〜(F)を順次実施することを特徴とする。以下、各工程について説明する。
【0014】
[工程(A)]
工程(A)は、クロセチンを含有する組成物(以下、単に「試料」ともいう)をアルカリ性水溶液に溶解する工程である。アルカリ性水溶液としては、pH8.0以上の溶液であれば特に制限はないが、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液、四ホウ酸ナトリウム水溶液及びアンモニア水溶液から選ばれる1種以上が挙げられる。溶解方法に特に制限はなく、例えば、攪拌による溶解、超音波照射による溶解、振とうによる溶解等種々の方法が使用可能であるが、超音波照射による溶解が好ましく使用される。尚、常温で固体の試料であって加熱により流動性を生じるもの(例えば、ゼリー等)の場合、溶解性を高めるため、予め該試料を適宜加熱しても良い。アルカリ性水溶液の濃度は、通常0.001〜2M、好ましくは0.05M〜1Mである。アルカリ性水溶液の使用量に特に制限はないが、試料100質量部に対し、通常200〜100000質量部、好ましくは500〜20000質量部である。また、溶解温度に特に制限はないが、通常10〜90℃、好ましくは20〜80℃である。
【0015】
[工程(B)]
工程(B)は、工程(A)で得られた溶解液に含まれる不溶物〔即ち、試料中のクロセチン以外の成分(夾雑成分)であってアルカリ性水溶液に溶解しないもの〕を除去する工程である。該不溶物の除去方法に特に制限はなく、例えば、遠心分離、ろ過等、自体公知の固液分離方法が使用可能であるが、ろ過が好ましく使用される。ろ過方法に特に制限はないが、例えば、フィルターと慣用の装置とを用いて、常法によりろ過することができる。フィルターとしては、例えばシリンジフィルターを使用することが好ましく、より具体的には、Polyvinylidenedifluoride(PVDF)製やCellulose Acetate製等の親水性シリンジフィルターを用いることが好ましい。また、シリンジフィルターは、不溶物による目詰まり防止のため、二層構造からなるものの使用が好ましい。工程(B)で除去される不溶物は、試料の配合組成等により異なり一様ではないが、例えば、β−カロチン、リコピン、アスタキサンチン、ルテイン、β−クリプトキサンチン、ゼアキサンチン、カプサンチン等のカロテノイド類とそのエステル体、ユビキノン等が挙げられる。
【0016】
[工程(C)]
工程(C)は、工程(B)で不溶物が除去された溶解液を陰イオン交換樹脂に接触させる工程である。工程(C)により、工程(B)で不溶物が除去された溶解液中に存在するクロセチンが陰イオン交換樹脂に吸着し、該溶解液からクロセチンが分離される。接触方法としては、工程(B)で不溶物が除去された溶解液中に存在するクロセチンを陰イオン交換樹脂に吸着させることができる方法であれば特に制限はなく、例えば、バッチ方式、カラム充填方式等が挙げられ、好ましくは、該溶解液を、陰イオン交換樹脂を充填した固相抽出カラムに通液し、該溶解液中のクロセチンを固相に吸着させる方法である。尚、この方法において、通液方法に特に制限はなく、自然落下法、加圧法、減圧法等の自体公知の通液手段を用いることができる。また、この方法において、工程(B)で不溶物が除去された溶解液を通液する前に、予め、陰イオン交換樹脂を充填したカラムに対し、メタノール及びアルカリ性水溶液の順に通液すること等によりコンディショニングをしておくのが好ましい。該コンディショニングに用いられるアルカリ水溶液としては、工程(A)に使用可能なアルカリ水溶液であればいずれも好ましく用いることができる。
【0017】
工程(C)で用いられる陰イオン交換樹脂としては、クロセチンを吸着可能なものであれば特に制限はなく、例えばカルボキシル基を有する化合物を吸着可能なものを用いることができる。そのような陰イオン交換樹脂として、例えばOasis MAX(商品名:日本ウォーターズ社製)等が商業的に製造及び販売されており、本発明ではこれを用いることができる。工程(C)における陰イオン交換樹脂の使用量は、工程(B)で不溶物が除去された溶解液100体積部に対して、通常5〜200体積部、より好ましくは、10〜40体積部であることが好ましい。
【0018】
[工程(D)]
工程(D)は、工程(C)後の陰イオン交換樹脂をアルカリ性水溶液で洗浄する工程である。工程(D)により、工程(C)において陰イオン交換樹脂に吸着した塩基性の高極性成分が主に除去される。洗浄方法としては、このような成分を除去できる方法であれば特に制限はなく、例えば、工程(C)後の陰イオン交換樹脂が充填された固相抽出カラムに対し、自然落下法、加圧法、減圧法等の自体公知の通液手段を用いてアルカリ性水溶液を通液し、通過液を廃棄する方法が挙げられる。
【0019】
工程(D)で用いられるアルカリ性水溶液としては、pH8.0以上の溶液であれば特に制限はないが、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液、四ホウ酸ナトリウム水溶液及びアンモニア水溶液等が挙げられる。アルカリ性水溶液の濃度は、通常0.001〜2M、好ましくは0.05〜1Mである。アルカリ性水溶液の使用量に特に制限はないが、工程(C)後の陰イオン交換樹脂100体積部に対して、通常200〜2000体積部、好ましくは500〜1500体積部である。尚、工程(D)で除去される成分は、試料の配合組成等により異なり一様ではないが、例えば、アントシアニン類やポリフェノール類等が挙げられる。
【0020】
[工程(E)]
工程(E)は、工程(D)後の陰イオン交換樹脂を有機溶媒で洗浄する工程である。工程(E)により、工程(B)において十分に除去できなかった夾雑成分が除去される。洗浄方法としては、このような夾雑成分を除去できる方法であれば特に制限はなく、例えば、工程(D)後の陰イオン交換樹脂が充填された固相抽出カラムに有機溶媒を通液し、通過液を廃棄する方法が挙げられる。この方法において、通液方法に特に制限はなく、自然落下法、加圧法、減圧法等の自体公知の通液手段を用いることができる。
【0021】
工程(E)で用いられる有機溶媒としては、特に制限はないが、例えば、水及びメタノールのいずれにも混和し、且つ脂溶性物質を溶解し得るものが好ましく、そのような有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトン、ピリジン、ジメチルスルホキシド及びジメチルホルムアミドから選ばれる1種以上が挙げられる。有機溶媒の使用量に特に制限はないが、工程(C)後の陰イオン交換樹脂100体積部に対して、通常200〜10000体積部、好ましくは500〜2000体積部である。尚、工程(E)で除去される成分は、試料の配合組成等により異なり一様ではないが、例えば、β−カロチン、リコピン、アスタキサンチン、ルテイン、β−クリプトキサンチン、ゼアキサンチン、カプサンチン等のカロテノイド類とそのエステル体、ユビキノン等が挙げられる。
【0022】
[工程(F)]
工程(F)は、工程(E)後の陰イオン交換樹脂に吸着している成分を、酸剤を含有する高極性有機溶媒で溶出させ、溶出液を回収する工程である。工程(F)により、陰イオン交換樹脂に吸着したクロセチンを溶出させ、回収することができる。溶出方法としては、陰イオン交換樹脂に吸着したクロセチンを溶出できる方法であれば特に制限はなく、例えば、工程(E)後の陰イオン交換樹脂が充填された固相抽出カラムに酸剤を含有する高極性有機溶媒を通液し、通過液を回収する方法が挙げられる。この方法において、通液方法に特に制限はなく、自然落下法、加圧法、減圧法等の自体公知の通液手段を用いることができる。
【0023】
工程(F)の高極性有機溶媒に含有される酸剤は、20℃のイオン交換水1Lに1g以上溶解し、且つ1g/1Lの濃度の20℃におけるpHが5以下の物質であって、高極性有機溶媒に可溶なものである。このような酸剤としては、例えば、ギ酸、リン酸、塩酸、酢酸、トリフルオロ酢酸及びクエン酸から選ばれる1種以上が挙げられ、中でも、定量精度の観点からギ酸又はリン酸が好ましく用いられる。
【0024】
工程(F)で用いられる高極性有機溶媒としては、比較的極性の高い有機溶媒であって、前記酸剤を可溶なものであれば特に制限はないが、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ピリジン及びアセトンから選ばれる1種以上が挙げられ、中でも、定量精度の観点からメタノール、エタノール又はアセトンが好ましく用いられる。高極性有機溶媒に含有される酸剤の濃度は、通常0.05〜5%(w/v)、好ましくは0.1〜4%(w/v)である。
【0025】
工程(F)において、酸剤を含有する高極性有機溶媒の使用量に特に制限はないが、工程(E)後の陰イオン交換樹脂100体積部に対して、通常200〜2000体積部、好ましくは500〜1500体積部である。
【0026】
[工程(G)]
工程(G)は、工程(F)で回収した溶出液を陽イオン交換樹脂に接触させ、その非吸着画分を回収する工程である。工程(G)により、工程(D)において十分に除去されなかった成分(例えば、アントシアニン類やポリフェノール類等)は、陽イオン交換樹脂に吸着され、除去される。工程(F)で回収した溶出液を陽イオン交換樹脂に接触させ、その非吸着画分を回収する方法としては、工程(D)において十分に除去されなかった成分を除去できる方法であれば特に制限はないが、例えば、バッチ方式、カラム充填方式等が挙げられ、好ましくは、該溶出液を、陽イオン交換樹脂が充填された固相抽出カラムに通液し、通過液を回収する方法が挙げられる。この方法において、通液方法に特に制限はなく、自然落下法、加圧法、減圧法等の自体公知の通液手段を用いることができる。尚、この方法において、陽イオン交換樹脂が充填された固相抽出カラムに工程(F)で回収した溶出液を通液する前に、予め、該カラムに対し、工程(F)で用いられる「酸剤を含有する高極性有機溶媒」を通液すること等によりコンディショニングをしておくのが好ましい。また、この方法において、陽イオン交換樹脂が充填された固相抽出カラムに工程(F)で回収した溶出液を通液した後に、工程(F)で用いられる「酸剤を含有する高極性有機溶媒」を適量通液し、通過液を非吸着画分として更に回収することがクロセチンの回収率を高め、定量精度を高める観点から好ましい。
【0027】
工程(G)で用いられる陽イオン交換樹脂としては、工程(D)において十分に除去されなかった成分を吸着可能なものであれば特に制限はないが、例えばOasis MCX(商品名:日本ウォーターズ社製)等が市販されており、本発明ではこれを好ましく用いることができる。工程(G)における陽イオン交換樹脂の使用量に特に制限はないが、工程(F)で回収した溶出液100体積部に対して、通常5〜50体積部、好ましくは5〜20体積部、より好ましくは5〜10体積部である。
【0028】
[工程(H)]
工程(H)は、工程(G)で得られた非吸着画分の回収液について、クロセチンに由来する吸光度を測定する工程である。具体的には、例えば、紫外・可視分光光度計等の自体公知の吸光度測定手段を用いることにより、クロセチンに由来する吸光度(例えば、波長410〜430nmにおける吸光度、好ましくは波長420nmにおける吸光度)を測定することができる。尚、工程(H)では、吸光度の測定前に、予めアルカリ性水溶液を用いて、工程(G)で得られた非吸着画分の回収液を一定の容量に適宜調整することが好ましい。このような調整により、後述のクロセチン含有率の算出に用いられる測定吸光度を0.1〜1.0の範囲に入るように調整することができる。該アルカリ性水溶液としては、例えば、pH8以上のアルカリ性緩衝液を使用することが好ましく、中でもクロセチンのモル吸光係数及びクロセチン純品の色価が明らかとなっているKolthoff氏緩衝液(50mM Na
2CO
3−50mM Na
2B
4O
7;pH10.0)の使用がより好ましい。
【0029】
次いで、工程(H)で測定された吸光度に基づき、自体公知の方法に従い、試料のクロセチン含有量を求めることができる。例えば、試料中のクロセチンは工程(G)で得られる回収液に移行しているため、上記吸光度とクロセチンのモル吸光係数〔例えば、120500mol
−1・L
−1・cm(溶媒:Kolthoff氏緩衝液)〕又はクロセチン純品の色価〔例えば、E
10%1cm=36700(溶媒:Kolthoff氏緩衝液)〕等とに基づき、試料のクロセチン含有量又は含有率を求めることができる。より具体的には、例えば、工程(H)で測定されたクロセチンに由来する吸光度及びクロセチン純品の色価〔E
10%1cm=36700(溶媒:Kolthoff氏緩衝液)〕に基づき、下式により、試料のクロセチン含有率を算出することができる。
クロセチン含有率(質量%)=CV/36700×100
CV:試料の色価(E
10%1cm)=(10×A×F)/試料の採取量(g)
A:クロセチンに由来する吸光度
F:測定吸光度が0.1〜1.0の範囲に入るように調整するための希釈倍率
【0030】
ここで、上記式におけるCV(試料の色価)は、「第8版 食品添加物公定書」(日本食品添加物協会)に記載された「色価測定法」に準じて測定される。但し、該「色価測定法」においては、「通例、色価は、着色料溶液の可視部での極大吸収波長における吸光度を測定し、10w/v%溶液の吸光度に換算した数値(E
10%1cm)で表す」と定められている。しかし、本発明においては、「可視部での極大吸収波長における吸光度」ではなく、クロセチンに由来する吸光度(例えば、波長410〜430nmにおける吸光度、好ましくは波長420nmにおける吸光度)を用いて色価を求める点において、その定めとは異なる。
【0031】
また、上記式における「F:測定吸光度が0.1〜1.0の範囲に入るように調整するための希釈倍率」は、上記「色価測定法」に示される希釈方法に従い決定する。例えば、試料を溶媒等に加えて100mLとすることにより、吸光度が0.1〜1.0の範囲内の検液を調製した場合、希釈倍率は「1」である。また、試料に溶媒等を加えて100mLとし、そのうち2mLを取り、これに溶媒等を加えて希釈して50mLとすることにより、吸光度が0.1〜1.0の範囲内の検液を調製した場合、希釈倍率は「25」である。
【0032】
一方、試料の形態が常温で液状のもの(例えば、飲料等)の場合又は加熱等により液状になるもの(例えば、ゼリー等)の場合には、下式により、試料のクロセチン含有率を算出するのがより簡便である。
クロセチン含有率(質量%)=10×A×F/36700
A:クロセチンに由来する吸光度
F:測定吸光度が0.1〜1.0の範囲に入るように調整するための希釈倍率
【0033】
本発明の定量方法の実施対象であるクロセチンを含有する組成物に特に制限はなく、例えばクロセチンを含有する飲食品、飲食品材料、医薬部外品、医薬品、医薬品材料、医薬部外品材料であってもよい。該組成物に含有されるクロセチン以外の成分に特に制限はないが、例えば、アントシアニン類、ポリフェノール類、水溶性ビタミン類等の比較的極性の高い成分や、β−カロチン、リコピン、アスタキサンチン、ルテイン、β−クリプトキサンチン、ゼアキサンチン、カプサンチン等のカロテノイド類とそのエステル体、ユビキノン等の比較的極性の低い成分が挙げられる他、薬学的若しくは食品衛生上許容される各種の担体、例えば賦形剤、滑沢剤、安定剤、分散剤、結合剤、希釈剤、香味料、甘味料、風味剤、着色剤等を例示することができる。
【0034】
上記組成物の形態は、本発明の効果を奏するものである限り特に制限されず、例えば、錠剤、丸剤、顆粒剤、細粒剤、咀嚼剤、液剤、カプセル剤(ハードカプセル、ソフトカプセル等に充填されたもの)、チュアブル剤等が挙げられる。
【0035】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0036】
[錠剤についてのクロセチンの定量]
(1)クロセチン含有錠剤の製造
L−アスコルビン酸(エーザイフード・ケミカル社製)1000g、L−アスコルビン酸ナトリウム(扶桑化学工業社製)200g、グレープフルーツ粉末果汁(小川香料社製)193g、粉末還元麦芽糖水あめ(商品名:アマルティMR−50;東和化成工業社製)4030g、クロセチン製剤(商品名:クロビットP;クロセチン含有量76.5質量%;理研ビタミン社製)37gを混合し、得られた混合物を40メッシュの篩を通した後、水をバインダーとして流動層造粒機にて造粒を行った。造粒条件は、ポンプ280g/分、乾燥10分、吸気温75℃、排気温40℃、冷却3分、流動時間50分とした。
得られた造粒物を、20メッシュ以下の粒子を除去してからポリエチレン製の袋に入れ、これにグリセリン脂肪酸エステル(商品名:ポエムTR−FB;理研ビタミン社製)240g、β−カロテン含有組成物(商品名:リケビーズβ−カロテン6CS;理研ビタミン社製)300gを加え、予備混合を行った。
その後、得られた混合物から30メッシュ以下の粒子を除去した後、ロッキングミキサーにて10分間混合した。混合物をロータリー打錠機を用いて打錠し、クロセチン含有錠剤を得た。打錠条件は、臼杵直径12mm、臼杵本数3本立て、回転速度20rpm、打錠圧0.7〜0.9kNとした。得られた錠剤は、重量が600.0mg/錠であり、クロセチン含有量の理論値が2.83mg/錠となった。
【0037】
(2)クロセチンの定量(実施例1〜4)
(1)で得たクロセチン含有錠剤1錠を100mL容メスフラスコに入れ、これに表1に記載のアルカリ性水溶液を約80mL加えた。これを45℃で加温しながら超音波処理を行って該錠剤を溶解させ、室温まで冷却した後、これに表1に記載のアルカリ性水溶液を加えて100mLに定容した。得られた溶解液を撹拌した後、該溶解液約10mLをPVDF製の親水性シリンジフィルター〔製品名:25mmGD/Xフィルター(PVDF0.45μm);GEヘルスケア・ジャパン社製〕にてろ過し、該溶解液に含まれる不溶物を除去した。ここで、ろ過初期に流出した約5mLのろ液は廃棄し、その後流出した約5mLのろ液を試験管に回収した。
一方、陰イオン交換樹脂が充填された固相抽出カラム(商品名:Oasis MAX 3cc/60mg;日本ウォーターズ製社製)に対しメタノール1mL及び表1に記載のアルカリ性水溶液1mLの順に通液してコンディショニングした後、該固相抽出カラムに、試験管に回収した前記ろ液のうち2mLを通液した。尚、固相抽出カラム(後述の陽イオン交換樹脂が充填された固相抽出カラムを含む)に対する通液速度は、以下の工程を含み、全て1秒間に1〜2滴滴下する速度で行った。
次いで、上記陰イオン交換樹脂が充填された固相抽出カラムに対し表1に記載のアルカリ性水溶液2mL及びメタノール2mLの順で通液し、該カラムの固相を洗浄した後、これに表1に記載の酸剤を含有する高極性有機溶媒2.5mLを通液してクロセチンを溶出させた。得られた全ての溶出液は、陽イオン交換樹脂が充填された固相抽出カラム(商品名:Oasis MCX 3cc/60mg;日本ウォーターズ製社製)に直接通液した。尚、該陽イオン交換樹脂が充填された固相抽出カラムは、使用前に予め表1に記載の酸剤を含有する高極性有機溶媒1mLを通液してコンディショニングした。
続いて、前記陽イオン交換樹脂が充填された固相抽出カラムに対し表1に記載の酸剤を含有する高極性有機溶媒1mLを通液した。該固相抽出カラムの通過液(約3.5mL)は、全量50mL容のメスフラスコに回収した。これにKolthoff氏緩衝液(50mM Na
2CO
3−50mM Na
2B
4O
7;pH10.0)を加えて50mLに定容した。得られた溶液を撹拌した後、該溶液について波長420nmにおける吸光度を紫外・可視分光光度計にて測定し、次式により錠剤1錠当りのクロセチン含有量(mg/錠)を求めた。
クロセチン含有量(mg/錠)=600×クロセチン含有率(質量%)/100
クロセチン含有率(質量%)=錠剤の色価(E
10%1cm)/36700×100
錠剤の色価(E
10%1cm)=10×吸光度×25/600×1000
【0038】
尚、上記式中、「600」は、錠剤1錠当りの重量(mg)であり、「36700」は、クロセチン純品の色価(E
10%1cm=36700)であり、「25」は、測定吸光度が0.1〜1.0の範囲に入るように調整された希釈倍率であり、「1000」は、質量単位を「g」から「mg」に換算するための換算値である。
【0039】
【表1】
【0040】
(3)クロセチンの定量(比較例1)
(1)で得たクロセチン含有錠剤1錠を100mL容メスフラスコに入れ、これにKolthoff氏緩衝液(50mM Na
2CO
3−50mM Na
2B
4O
7;pH10.0)を約80mL加えた。これを45℃で加温しながら超音波処理を行って錠剤を溶解させ、室温まで冷却した後、これに同Kolthoff氏緩衝液を加えて100mLに定容した。得られた溶解液を撹拌した後、該溶解液2mLを50mL容メスフラスコに分取し、これに同Kolthoff氏緩衝液を加えて50mLに定容した。得られた溶解液を撹拌した後、該溶解液について波長420nmにおける吸光度を紫外・可視分光光度計にて測定し、実施例1〜4で用いた上記式により錠剤1錠当りのクロセチン含有量(mg/錠)を求めた。
【0041】
(4)結果
上記実施例1〜4及び比較例1により求められたクロセチン含有量(mg/錠)及び該含有量についてのクロセチンの理論含有量(2.83mg/錠)を基準とするクロセチン回収率(%)を表2に示す。
【0042】
【表2】
【0043】
表2の結果から明らかなように、本発明の定量方法(実施例1〜4)によれば、比較例1の定量方法に比べ、100%に近い回収率でクロセチンを定量できた。
【0044】
[飲料についてのクロセチンの定量]
(1)クロセチン含有飲料の製造
クロセチン製剤(商品名:クロビット2.5WD;クロセチン含有量2.65質量%;理研ビタミン社製)33g、ビルベリーエキス(商品名:ビルベリーカンソウエキス;インデナジャパン社製)20g、ビタミンE(商品名:ビタミンE−α−50(A);理研ビタミン社製)20g、L−アスコルビン酸(エーザイフード・ケミカル社製)10g、ビタミン混合粉末(商品名:ビタミンエースミックスDR−300;理研ビタミン社製)3g、エリスリトール(三菱化学フーズ社製)300g、アセスルファムカリウム(商品名:サネット;MCフードスペシャリティーズ社製)0.5g、スクラロース(商品名:サンスイートSU−200;三栄源エフ・エフ・アイ社製)0.5g、精製無水クエン酸(扶桑化学工業社製)10g、精製クエン酸ナトリウム(扶桑化学工業社製)7g及びグレープフルーツ香料(商品名:グレープフルーツミクロンZD−4346;高砂香料社製)5gに水を加えて撹拌及び溶解し、全量5Lの溶解液とした。該溶解液を褐色瓶に充填し、80℃にて10分間の殺菌を行い、クロセチン含有飲料(内容量50mL/本)を作製した。得られた飲料は、クロセチン含有量の理論値が8.75mg/本となった。
【0045】
(2)クロセチンの定量(実施例5〜8)
(1)で得たクロセチン含有飲料5mLを25mL容メスフラスコに採取し、これに1M水酸化ナトリウム水溶液を加えて25mLに定容した。得られた溶液を撹拌した後、該溶液約10mLをPVDF製の親水性シリンジフィルター(製品名:25mmGD/Xフィルター(PVDF0.45μm);GEヘルスケア・ジャパン社製)にてろ過し、該溶液に含まれる不溶物を除去した。ここで、ろ過初期に流出した約5mLのろ液は廃棄し、その後流出した約5mLのろ液を試験管に回収した。
一方、陰イオン交換樹脂が充填された固相抽出カラム(商品名:Oasis MAX 3cc/60mg;日本ウォーターズ製社製)に対しメタノール1mL及び表2に記載のアルカリ性水溶液1mLの順に通液してコンディショニングした後、該固相抽出カラムに、試験管に回収した前記ろ液のうち1mLを通液した。尚、固相抽出カラム(後述の陽イオン交換樹脂が充填された固相抽出カラムを含む)に対する通液速度は、以下の工程を含み、全て1秒間に1〜2滴滴下する速度で行った。
次いで、上記陰イオン交換樹脂が充填された固相抽出カラムに対し表2に記載のアルカリ性水溶液1mL及びメタノール1mLの順で通液し、該カラムの固相を洗浄した後、これに表2に記載の酸剤を含有する高極性有機溶媒2.5mLを通液してクロセチンを溶出させた。得られた全ての溶出液は、陽イオン交換樹脂が充填された固相抽出カラム(商品名:Oasis MCX 3cc/60mg;日本ウォーターズ製社製)に直接通液した。尚、該陽イオン交換樹脂が充填された固相抽出カラムは、使用前に予め表2に記載の酸剤を含有する高極性有機溶媒1mLを通液してコンディショニングした。
続いて、前記陽イオン交換樹脂が充填された固相抽出カラムに対し表2に記載の酸剤を含有する高極性有機溶媒1mLを通液した。該固相抽出カラムの通過液(約3.5mL)は、全量50mL容のメスフラスコに回収した。これにKolthoff氏緩衝液(50mM Na
2CO
3−50mM Na
2B
4O
7;pH10.0)を加えて50mLに定容した。得られた溶液を撹拌した後、該溶液について波長420nmにおける吸光度を紫外・可視分光光度計にて測定し、次式により飲料1本当りのクロセチン含有量(mg/本)を求めた。
クロセチン含有量(mg/本)=クロセチン含有率(質量%)×1000×内容量(mL/本)/100
クロセチン含有率(質量%)=10×吸光度×250/36700
【0046】
尚、上記式中、「1000」は、質量単位を「g」から「mg」に換算するための換算値であり、「36700」は、クロセチン純品の色価(E
10%1cm=36700)であり、「250」は、測定吸光度が0.1〜1.0の範囲に入るように調整された希釈倍率である。
【0047】
【表3】
【0048】
(3)クロセチンの定量(比較例2)
(1)で得たクロセチン含有飲料5mLを25mL容メスフラスコに入れ、これにKolthoff氏緩衝液(50mM Na
2CO
3−50mM Na
2B
4O
7;pH10.0)を加えて25mLに定容した。得られた溶液を撹拌した後、該溶液1mLを50mL容メスフラスコに分取し、これに同Kolthoff氏緩衝液を加えて50mLに定容した。得られた溶解液を撹拌した後、該溶解液について波長420nmにおける吸光度を紫外・可視分光光度計にて測定し、実施例5〜8で用いた上記式により飲料1本当りのクロセチン含有量(mg/本)を求めた。
【0049】
(4)結果
上記実施例5〜8及び比較例2により求められたクロセチン含有量(mg/本)及び該含有量についてのクロセチンの理論含有量(8.75mg/本)を基準とするクロセチン回収率(%)を表4に示す。
【0050】
【表4】
【0051】
表4の結果から明らかなように、本発明の定量方法(実施例5〜8)によれば、比較例2の定量方法に比べ、100%に近い回収率でクロセチンを定量できた。