(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記表示光学系の前記ミラーから前記表示素子までの光軸は、前記表示光学系の前記眼球の瞳孔から前記ミラーまでの光軸に垂直な方向よりも頭部側に傾斜している請求項1に記載の視覚検査装置。
前記表示光学系の前記眼球の瞳孔から前記ミラーまでの光軸と、前記表示光学系の前記ミラーから前記表示素子までの光軸とのなす角度をαとしたとき、以下の式(1)を満たす請求項1又は2に記載の視覚検査装置。
40°<α<90° ・・・(1)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
本実施形態においては、次の順序で説明を行う。
1.視覚検査装置
1−1.表示光学系および表示素子
1−2.表示光学系の光学特性等
1−3.観察光学系および撮像素子
1−4.制御部
2.視覚検査方法
3.実施の形態による効果
4.変形例等
【0013】
<1.視覚検査装置>
図1は、本実施形態の視覚検査装置の概略図である。
図1に示されているように、本実施形態の視覚検査装置10は、視野検査の被検者の頭部に装着されるヘッドマウント型の視覚検査装置として構成されている。具体的には、視覚検査装置10は、例えば、ヘッドマウント(HM)部100と、制御部400とを備えている。
【0014】
HM部100は、筺体(装着本体)110と、筺体110に接続された装着具120と、を有しており、装着具120によって被検者の頭部に装着可能に構成されている。筺体110内には、後述する表示光学系(200)および観察光学系(300)等が格納されている。例えば、両目のそれぞれに表示光学系(200)が設けられており、筺体110内には、右眼に対応した表示素子240Rと、左眼に対応した表示素子240Lとが設けられている。また、装着具120は、被検者の両側頭部から後頭部にかけてU字状に架け渡される第1ベルトと、被検者の頭頂部に架け渡される第2ベルトと、を備えている。第2ベルトは、長さを調整可能に構成されていてもよい。
【0015】
制御部400は、表示光学系(200)および観察光学系(300)等を制御するよう構成されている。また、制御部400は、例えば、装着具120の後頭部側に配置されている。これにより、筺体110と制御部400との前後の重量バランスを保つことができる。制御部400については詳細を後述する。
【0016】
図2は、本実施形態の視覚検査装置の断面概略図である。
図2に示されているように、本実施形態の視覚検査装置10は、眼球20に対して視標を呈示するための表示光学系200と、眼球20を撮像するための観察光学系300と、を有している。本実施形態では、視覚検査装置10を小型化するために、表示光学系200が屈曲されている。以下、詳細を説明する。
【0017】
なお、
図2には、片眼に対応する光学系(表示光学系200および観察光学系300)が示されているが、例えば、左右の眼のそれぞれに対応する光学系は、互いに同様の構成を有している。以下の説明では、左右の眼のそれぞれに対応する光学系を区別なく記載し、LおよびRの符号を省略する。
【0018】
また、以下において、光が網膜22の位置から瞳孔21を介して出射される(瞳孔21を射出瞳とする)と仮定して説明する場合がある。網膜22から出射された光が表示素子240で結像されることと、表示素子240から出射された光が網膜22で結像されることとは、本実施形態の光学系では同じ意味をなす。以下においては、実際に光が表示素子240の位置から出射される場合を「表示素子240からの順方向光線の場合」とし、仮に光が網膜22の位置から出射される場合を「網膜22からの逆方向光線の場合」として説明する。
【0019】
(1−1.表示光学系および表示素子)
表示光学系200は、所定の視標の光を眼球20の網膜22に導くよう構成されている。ここでいう「視標」とは、視野検査の際に被検者の眼球に対して呈示される点または図形のことである。表示光学系200は、例えば、眼球20側から順に、第1レンズ210と、ミラー220と、第2レンズ群230と、を有している。
【0020】
第1レンズ210は、眼球20を物体としたときに対物レンズとして機能し、例えば正レンズとして構成されている。第1レンズ210の光軸280aは、眼球20の瞳孔21の中心(眼球20の中心)を通過するように配置されている。
【0021】
第1レンズ210は、網膜22からの逆方向光線の場合に網膜22からの光を所定の範囲に収束させるように、大きな正の屈折力(パワー)を有している。網膜22からの逆方向光線の場合に、第1レンズ210の端部を通る網膜22からの主光線の光束は、第1レンズ210によって屈曲され、網膜22からの主光線の光束は、ミラー220付近の位置に結像(集光)される。広い角度に亘った網膜22からの全ての光は、第1レンズ210によってミラー220の範囲内に収束される。この第1レンズ210のパワーについては、詳細を後述する。
【0022】
ミラー220は、特定の波長の光を反射し、その他の光を透過するよう構成されている。具体的には、ミラー220は、例えば、可視光を反射し赤外光を透過するコールドミラーとして構成されている。ミラー220は、第1レンズ210の光軸280a上で第1レンズ210を挟んで眼球20と反対側に設けられている。また、ミラー220は、第1レンズ210の光軸280aに対して所定の角度で傾斜して設けられており、網膜22からの逆方向光線の場合に、ミラー220付近の位置で収束された光を所定の方向に反射するようになっている。一方で、ミラー220は、後述する眼球20表面で反射した赤外光をミラー220の眼球20と反対側に透過するようになっている。
【0023】
第2レンズ群230は、網膜22からの逆方向光線の場合に、第1レンズ210によって網膜22からミラー220付近の位置に結像された光を、再び表示素子240に結像するリレー系として機能するように構成されており、さらに、色収差や倍率を補正するように構成されている。
【0024】
第2レンズ群230は、第1レンズ210の光軸280aに対してミラー220を介して反射する方向の光軸280b上に設けられている。つまり、表示光学系200の眼球20の瞳孔21からミラー220までの光軸280aと、表示光学系200のミラー220から表示素子240までの光軸280bとは、ミラー220を介して互いに反射する方向に屈曲されている。本実施形態では、例えば、表示光学系200のミラー220から表示素子240までの光軸280bは、表示光学系200の眼球20の瞳孔21からミラー220までの光軸280aを含む鉛直平面上において、表示光学系200の眼球20の瞳孔21からミラー220までの光軸280aよりも鉛直上側に位置している。また、表示光学系200のミラー220から表示素子240までの光軸280bは、表示光学系200の眼球20の瞳孔21からミラー220までの光軸280aに垂直な方向よりも頭部側に傾斜している。これにより、第2レンズ群230および表示素子240の重心が頭部側に接近するようになり、視覚検査装置10全体としての重量バランスを良くすることができる。
【0025】
ここで、表示光学系200の眼球20の瞳孔21からミラー220までの光軸280aと、表示光学系200のミラー220から表示素子240までの光軸280bとのなす角度をαとしたとき、以下の式(1)を満たす。
40°<α<90° ・・・(1)
【0026】
α≦40°である場合、第2レンズ群230および表示素子240が頭部に接近しすぎて、頭部と干渉してしまう可能性がある。これに対して、α>40°であることにより、第2レンズ群230および表示素子240が頭部と干渉することを抑制することができる。一方、α≧90°である場合、被検者が頭部を前方に傾けた際に、視覚検査装置10が被検者の頭部から容易にずれ落ちてしまう可能性がある。これに対して、α<90°であることにより、被検者が頭部を前方に傾けた場合であっても、視覚検査装置10が被検者の頭部からずれ落ちることを抑制することができる。
【0027】
さらに、以下の式(2)を満たすことが好ましい。
50°≦α≦80° ・・・(2)
【0028】
α≧50°であることにより、前額部が突出している被検者であっても、第2レンズ群230および表示素子240が前額部と干渉することを抑制することができる。一方、α≦80°であることにより、第2レンズ群230および表示素子240の重心が確実に頭部側に位置するようになり、視覚検査装置10全体としての重量バランスを良くすることができる。
【0029】
さらに、以下の式(3)を満たすことがより好ましい。
60°≦α≦70° ・・・(3)
【0030】
α≧60°であることにより、前額部が突出しており且つ眼の彫りが深い被検者であっても、第2レンズ群230および表示素子240が前額部と干渉することを抑制することができる。一方、α≦70°であることにより、第2レンズ群230および表示素子240の重心が上記よりもさらに頭部側に位置するようになり、視覚検査装置10全体としての重量バランスをより良くすることができる。また、ミラー220の法線方向が第1レンズ210の光軸280aに近づくため、第1レンズ210からミラー220に照射される光の範囲を小さくすることができ、ミラー220の鉛直方向の必要径を小さくすることができる。したがって、視覚検査装置10を小型化することができる。
【0031】
また、第2レンズ群230は、少なくとも、正の屈折力を有するレンズと、負の屈折力を有するレンズとを有している。これにより、表示光学系200の色収差を補正することができる。具体的には、第2レンズ群230は、例えば、眼球20側から順に、正レンズ232と、負レンズ234と、眼球20側に凸の正メニスカスレンズ236と、を有している。正レンズ232の外径は、負レンズ234および正メニスカスレンズ236の外径よりも大きく、負レンズ234の外径は正メニスカスレンズ236の外径とほぼ等しくなっている。このようなレンズ構成により、表示光学系200の色収差を補正することができる。
【0032】
表示素子240は、眼球20に対して所定の視標を呈示するよう構成されている。所定の視標とは、例えば、十字型などの固定視標や、視野検査のための所定の明るさ(輝度)を有する刺激視標などである。表示素子240は、例えば、液晶表示素子、または有機EL表示素子などとして構成されている。また、表示素子240は、視野検査のために高輝度の視標を呈示可能に構成されており、表示素子240の最大輝度は、例えば、3000cd/m
2以上である。
【0033】
表示素子240は、第2レンズ群230の光軸280b上で第2レンズ群230を挟んでミラー220と反対側に設けられている。また、表示素子240の表示面は、その法線方向が第2レンズ群230の光軸280bと一致するように配置されている。また、表示素子240は、網膜22からの逆方向光線の場合に、網膜22からの光が第1レンズ210、ミラー220および第2レンズ群230を介して結像されるよう配置されている。言い換えれば、表示素子240は、第1レンズ210、ミラー220および第2レンズ群230を介して、網膜22に対して光学的に共役な位置に配置されている。
【0034】
また、表示素子240は、制御部400に接続されており、制御部400からの信号に基づいて眼球20に対して所定の視標を呈示するように構成されている。
【0035】
(1−2.表示光学系の光学特性等)
ここで、表示光学系200の光学特性等について詳細を説明する。
【0036】
(第1レンズ)
第1レンズ210は、上述のように大きな正の屈折力(パワー)を有しており、以下の条件を満たしている。
【0037】
第1レンズ210からミラー220までの距離をa、ミラー220から第2レンズ群230までの距離をb、第1レンズ210から第2レンズ群230までの光学的距離をD1としたとき、
D1=a+b
である。
【0038】
第1レンズ210の焦点距離をf1としたとき、第1レンズ210の焦点距離f1は、第1レンズ210から第2レンズ群230までの光学的距離D1よりも短く、すなわち、以下の式(4)を満たす。
f1<D1 ・・・(4)
【0039】
また、第2レンズ群230の焦点距離をf2としたとき、第1レンズ210の焦点距離f1および第2レンズ群230の焦点距離f2は、以下の式(5)を満たす。
0<f1/f2<1.0 ・・・(5)
【0040】
さらに具体的には、第1レンズ210のパワーは、20D(ディオプター)以上60D以下である。第1レンズ210のパワーにより、瞳孔21の位置と第1レンズ210との距離が変化する。第1レンズ210のパワーが20D未満であると、瞳孔と第1レンズとが離れ、さらに光線の偏角も小さくなるため、網膜からの逆方向光線の場合において網膜からの光の全てをミラーで反射させるようにするためには、ミラーが大型化してしまう可能性がある。視覚検査装置では両眼のそれぞれの前方にミラーを設置する必要があるため、被検者の瞳孔間距離(約50mm)を考慮した場合、ミラーが大型化しすぎると、両眼それぞれにおけるミラーを保持する鏡筒等の部材が互いに干渉してしまう可能性がある。これに対して、第1レンズ210のパワーが20D以上であることにより、網膜22からの逆方向光線の場合に、広い角度に亘った網膜22からの光を第1レンズ210によってミラー220の範囲内に収束させることができ、ミラー220および第2レンズ群230を介して、所定の大きさを有する表示素子240に結像することができる。したがって、ミラーを小型化することができ、また、被検者の瞳孔間距離(約50mm)を考慮した場合であっても、両眼それぞれにおけるミラーを保持する鏡筒等の部材が互いに干渉することを抑制することができる。一方、第1レンズ210のパワーが60D超であると、瞳孔と第1レンズとの距離が近くなりすぎるため、第1レンズが被検者のまつ毛や瞼と干渉してしまう可能性がある。この場合、被検者に不快感を与えてしまい、正確な視野検査を行うことが出来なくなる可能性がある。さらに、第1レンズに汚れや傷が付き易くなるため、視野検査の精度を低下させてしまう可能性がある。これに対して、第1レンズ210のパワーが60D以下であることにより、第1レンズ210が被検者のまつ毛や瞼と干渉することを抑制することができる。また、第1レンズに汚れや傷が付くことを抑制することができ、視野検査の精度が低下することを抑制することができる。
【0041】
また、眼球20に対して広い角度に亘って視標を呈示するためには、第1レンズ210は大きいほど好ましい。しかしながら、人間の両眼の間隔がおよそ50mmであるため、両眼のそれぞれの第1レンズ210が互いに干渉することがないように、第1レンズ210の直径は、例えば、50mm以下となっている。
【0042】
また、第1レンズ210を用いた表示光学系200の最大視野角(瞳孔22の中心を通る主光線と光軸280aとのなす角の最大値)は、好ましくは、半画角で30度以上、60度以下(全画角では60度以上、120度以下)の範囲に設定するとよい。
【0043】
(表示素子)
上記のように第1レンズ210のパワーを大きくすることにより、網膜22からの逆方向光線の場合に網膜22からの光が結像される表示素子240を、所定の大きさに縮小することができる。具体的には、表示素子240の(表示面の)対角長は、例えば、
38.1mm以下であり、好ましくは、
25.4mm以下である。このように、表示素子240を小さくすることにより、視覚検査装置10を小型化することができる。
【0044】
(色収差特性)
表示光学系200の色収差を抑制するため、第1レンズ210および第2レンズ群230は、以下のような光学特性を有している。
【0045】
第1レンズ210のアッべ数をv1としたとき、以下の式(6)を満たす。なお、アッべ数が大きいほど、レンズの分散が小さいことを示している。
45<v1<80 ・・・(6)
【0046】
第2レンズ群230のうち、正の屈折力を有するレンズ(例えば、正レンズ232、正メニスカスレンズ236)のアッべ数をv2としたとき、以下の式(7)を満たす。
45<v2<80 ・・・(7)
【0047】
また、第2レンズ群230のうち、負の屈折力を有するレンズ(例えば、負レンズ234)のアッベ数をv3としたとき、以下の式(8)を満たす。
15<v3<30 ・・・(8)
【0048】
式(6)〜(8)を満たすことにより、表示光学系200の色収差を抑制することができる。
【0049】
また、第1レンズ210および第2レンズ群230のそれぞれのレンズは、非球面を有している。これにより、各種収差を抑制するとともに、表示光学系200を小型化することが可能となる。ただし、表示光学系200を構成するすべてのレンズを非球面レンズとする必要はなく、たとえば、複数の球面レンズの組み合わせ、あるいは球面レンズと非球面レンズの組み合わせによって実現することも可能である。その場合、表示光学系200を構成する複数のレンズのなかで、少なくとも眼球位置に最も近いレンズ(本実施形態の例であれば、第1レンズ210)を非球面レンズによって構成することが好ましい。その理由は、眼球位置に最も近いレンズを非球面レンズによって構成した場合は、これを球面レンズで構成した場合に比べて光学設計の自由度が増すことでレンズ枚数の削減が見込め、視覚検査装置1の小型化および軽量化を図ることが可能になるためである。特に眼球位置からミラー220までの光路が長くなることは、筺体110が被検者の前方に長くなることに相当し、重量バランスが確保しづらくなるという問題が発生する。このため、眼球位置に最も近いレンズを非球面レンズとし前方への突出量を出来るだけ小さくすることが好ましい。
【0050】
(1−3.観察光学系および撮像素子)
観察光学系300は、眼球20の像(虹彩および瞳孔21の像等)を撮像素子340に導くよう構成されている。具体的には、観察光学系300は、例えば、眼球20側から順に、光源310と、表示光学系200と共有されている第1レンズ210と、表示光学系200と共有されているミラー220と、撮像レンズ320と、を有している。
【0051】
眼球20と第1レンズ210との間には、第1レンズ210の光線通過範囲よりも外側の位置に、眼球20を照明する光源310が設けられている。光源310は、例えば、眼球20を挟んで水平方向(または鉛直方向)に2つ設けられている。光源310は、例えば赤外光を照射するLED光源として構成されている。赤外光を眼球20に照射することにより、被検者の網膜22に感知されることなく、被検者の眼球20を撮像することができる。
【0052】
観察光学系300では、第1レンズ210およびミラー220が表示光学系200と共有されていることにより、表示光学系200の眼球20の瞳孔21からミラー220までの光軸280aは、観察光学系300の眼球20の瞳孔21からミラーまでの光軸(280a)と一致している。また、ミラー220は、上述のように、光源310から照射され眼球20の表面で反射した赤外光を透過するようになっている。
【0053】
撮像レンズ320は、ミラー220を透過した赤外光を撮像素子340に結像するリレーレンズとして構成されている。撮像レンズ320の光軸380aは、第1レンズ210の光軸380aと一致している(同軸上に位置している)。また、撮像レンズ320は、眼球20の瞳孔21の像が撮像素子340にフォーカスされるように構成されている。
【0054】
撮像素子340は、赤外光を検出することにより眼球20を撮像するよう構成されており、具体的には、例えばCCD(Charge Coupled Device)、またはCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)として構成されている。撮像素子340は、撮像レンズ320の光軸380a上で撮像レンズ320を挟んでミラー220と反対側に設けられている。撮像素子340の撮像面は、その法線方向が撮像レンズ320の光軸380aと一致するように配置されている。また、撮像素子340は、制御部400に接続されており、制御部400に対して眼球20を撮像した画像を送信するよう構成されている。
【0055】
(1−4.制御部)
制御部(コンピュータ部)400は、視野検査に必要な動作制御を行うためのものであり、具体的には、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard disk drive)、各種インタフェース等の組み合わせからなるものである。そして、制御部400は、CPUがROMまたはHDDに格納された所定プログラムを実行することにより、各種手段として機能するように構成されている。
【0056】
制御部400は、表示素子240および撮像素子340と有線または無線により通信可能に接続されており(A,B)、表示素子240および撮像素子340を制御するよう構成されている。
【0057】
ここで、本実施形態の視覚検査装置10は、後述する自覚式視野検査を行うことができるように構成されており、制御部400は、感度マッピング手段として機能するように構成されている。
例えば、被検者の近傍には、視標が見えたかを被検者自身が回答するためのスイッチ420が設けられている。スイッチ420は、制御部400に接続されており(C)、制御部400に被検者が視認したことを示す信号を送信するよう構成されている。
制御部400の感度マッピング手段は、スイッチ420から送信された信号に基づいて、視標が見えるようになったときの表示素子240の輝度を網膜22の感度としてマッピングするための機能である。
【0058】
さらに、本実施形態の視覚検査装置10は、後述する他覚式視野検査を行うことができるようにも構成されており、制御部400は、視標呈示手段、縮瞳検出手段、および感度マッピング手段として機能するように構成されている。
視標呈示手段は、表示素子240により視標を呈示させるための機能である。
縮瞳検出手段は、撮像素子340が取得した瞳孔21の画像に基づいて、表示素子240が呈示する視標の明るさが所定の明るさ(輝度)以上となったときの瞳孔21の縮瞳を検出するための機能である。
感度マッピング手段は、自覚式視野検査だけでなく他覚式視野検査においても用いられる機能であり、縮瞳検出手段が瞳孔21の縮瞳を検出したときに表示素子240が呈示していた視標の明るさ(輝度)を網膜22の感度としてマッピングするための機能である。
【0059】
これらの各機能を実現するための所定プログラムは、制御部400にインストールして用いられるが、そのインストールに先立ち、制御部400で読み取り可能な記憶媒体に格納されて提供されるものであってもよいし、あるいは制御部400と接続する通信回線を通じて当該制御部400へ提供されるものであってもよい。
また、所定プログラムがインストールされる制御部400は、視覚検査装置10の各部に対して動作制御指示を与え得るものであれば、必ずしも当該視覚検査装置10に搭載されていなくてもよく、当該視覚検査装置10に通信回線を介して接続されたものであってもよい。
【0060】
<2.視覚検査方法>
本実施形態の視覚検査装置10により、動的量的視野検査、静的量的視野検査、眼底視野検査(マイクロペリメトリー)、網膜電図検査(ERG)その他の検査を行うことができる。以下では、静的量的視野検査を行う場合について説明する。静的量的視野検査については、自覚式視野検査と他覚式視野検査があり、本実施形態の視覚検査装置10では、いずれの方式の検査も行うことができる。
【0061】
自覚式視野検査は、次のようにして行われる。まず、視覚検査装置10のHM部100を被検者の頭部に装着させ、被検者にスイッチ420を持たせる。制御部400の視標呈示手段は、表示素子240により視野内の一点に視標を呈示させ、視標の明るさを徐々に増していく。視標の明るさが所定の明るさ以上になると、被検者は、視標を見ることができるようになる。このとき、被検者は、スイッチ420を押す。そして、被検者が視認したことを示す信号が、スイッチ420から制御部400に送信される。制御部400の感度マッピング手段は、スイッチ420から送信された信号に基づいて、視標が見えるようになったときの視標の明るさに対応する値を、その視標を呈示している点における網膜感度とする。視野内の各点について同様の測定を行うことにより、制御部400の感度マッピング手段は、視野内の網膜22感度のマップを作成する。
【0062】
他覚式視野検査は、次のようにして行われる。まず、視覚検査装置10のHM部100を被検者の頭部に装着させる。この場合、被検者にスイッチ420を持たせる必要はない。制御部400の視標呈示手段は、表示素子240により視野内の一点に視標を呈示させ、視標の明るさを徐々に増していく。これと同時に、光源310により、赤外光を被検者の眼球20に照射し、撮像素子340により、被検者の眼球20の瞳孔21を撮像する。視標の明るさが所定の明るさ以上になると、被検者は、被検者の網膜22が視標の光を感知することにより、視標を見ることができるようになる。このとき、被検者の瞳孔は、視標の明るさに応じて変化(縮瞳)する。制御部400の縮瞳検出手段は、撮像素子340が取得した瞳孔21の画像に基づいて画像解析を行うことにより、表示素子240が呈示する視標の明るさが所定の明るさ以上となったときの瞳孔21の縮瞳を検出する。そして、制御部400の縮瞳検出手段が瞳孔21の縮瞳を検出したとき、制御部400の感度マッピング手段は、縮瞳検出手段が瞳孔21の縮瞳を検出したときに表示素子240が呈示していた視標の明るさを網膜22の感度とする。視野内の各点について同様の測定を行うことにより、制御部400の感度マッピング手段は、視野内の網膜22感度のマップを自動的に作成する。
【0063】
また他覚式視野検査は、表示素子240の表示面の一点に明るい視標を表示し、瞳孔径の縮小の度合いを観察することにより感度マップを作成する単一閾上刺激法を用いても良い。
【0064】
<3.実施の形態による効果>
本発明の実施の形態によれば、以下のような効果が得られる。
【0065】
(a)本実施形態によれば、表示光学系200の眼球20の瞳孔21からミラー220までの光軸280aと、表示光学系200のミラー220から表示素子240までの光軸280bとを、ミラー220を介して互いに反射する方向に屈曲させている。これにより、視覚検査装置10全体としての大きさを小さくすることができる。
【0066】
ここで、参考までに、ヘッドマウント型の視覚検査装置における表示光学系の課題について説明する。ヘッドマウント型の視覚検査装置において、視標を呈示する表示素子を大きくすることなく、眼球に対して広い角度に亘って視標を呈示するためには、複数のレンズを組み合わせるなどして、視標の光を眼球の網膜に導く表示光学系を大きくする必要がある。表示素子を被検者の眼球に対向するように配置し、表示光学系を直線的に設けた場合では、表示光学系だけが被検者の頭部の前方に突出した状態となる。表示光学系が大きくなる分、筺体の頭部前方への突出量も大きくなる。このため、視覚検査装置全体としてのサイズが歪な形状で大きくなってしまう可能性がある。また、視覚検査装置の装着時に視覚検査装置が不安定となってしまう可能性がある。これに対し、本実施形態によれば、表示光学系200がミラー220を介して屈曲されている。これにより、表示光学系200が大きくなっても、表示光学系200だけが被検者の頭部の前方に突出した状態となることを避けることができ、筺体の頭部前方への突出量を抑えることができる。したがって、視覚検査装置10全体としてのサイズを小さくすることができる。また、視覚検査装置10の装着時に視覚検査装置10を安定化させることができる。
【0067】
(b)本実施形態によれば、表示光学系200のミラー220から表示素子240までの光軸280bを、表示光学系200の眼球20の瞳孔21からミラー220までの光軸280aに垂直な方向よりも頭部側に傾斜させている。これにより、視覚検査装置10全体としての重量バランスを良くすることができる。
【0068】
ここで、参考までに、表示光学系が大きくなった視覚検査装置において、表示素子を被検者の眼球に対向するように配置し、表示光学系を直線的に設けた場合の課題について説明する。この場合、上述のように、表示光学系だけが被検者の頭部の前方に突出した状態となる。このため、表示光学系の重心が被検者の頭部の前方に偏ってしまい、視覚検査装置の重量バランスが保たれなくなってしまう。ヘッドマウント型の視覚検査装置では、被検者の頭部が動く可能性があるため、視覚検査装置の重量バランスが悪いと、視覚検査装置が被検者の頭部からずれ落ちたり、傾いたりする可能性がある。これに対し、本実施形態によれば、表示光学系200の屈曲された側の光軸280bが頭部側に傾斜している。これにより、表示光学系200が大きくなっても、表示光学系200の屈曲された側の重心を頭部側に接近させることができ、表示光学系200の重心が被検者の頭部の前方に偏ることを抑制することができる。したがって、視覚検査装置10全体としての重量バランスを良くすることができる。被検者の頭部が動いたときであっても、表示光学系200の屈曲された側の重心を頭部側に接近させることで、視覚検査装置10が頭部からずれ落ちたり、傾いたりすることを抑制することができる。
【0069】
(c)本実施形態によれば、第1レンズ210は、大きな正の屈折力(パワー)を有している。具体的には、第1レンズ210の焦点距離f1は、上述の式(2)および(3)を満たしている。さらには、第1レンズ210のパワーは、20D(ディオプター)以上60D以下である。これにより、網膜22からの逆方向光線の場合に、広い角度に亘った網膜22からの全ての光を、第1レンズ210によってミラー220の範囲内に収束させることができる。
【0070】
ここで、参考までに、第1レンズのパワーが小さい場合の課題について説明する。第1レンズのパワーが小さい場合では、網膜からの逆方向光線の場合に、網膜からの光は、第1レンズのミラー側の位置で充分に収束されず、ミラーの位置で発散してしまう可能性がある。この状態では、網膜からの光の一部がミラーで反射されず、表示素子の位置で結像されない。この場合に網膜からの光の全てをミラーで反射させるようにするためには、ミラーを大きくしなければならず、視覚検査装置が大型化してしまう可能性がある。これに対し、本実施形態では、第1レンズ210のパワーが大きいことにより、網膜22からの逆方向光線の場合に、第1レンズ210の端部を通る網膜22からの主光線の光束を、第1レンズ210によって屈曲させ、例えば、ミラー220付近の位置に結像(集光)することができる。広い角度に亘った網膜22からの全ての光を、第1レンズ210によってミラー220の範囲内に収束させることができる。そして、第1レンズ210よって収束された光をミラー220によって反射させ、第2レンズ群230によって表示素子240の位置で結像させることができる。これらの光線の状況を逆に考えた場合、すなわち、表示素子240からの順方向光線の場合で言えば、所定の大きさの表示素子240からの視標を、第1レンズ210によって眼球20に対して広い角度(画角)に亘って呈示することが可能となる。さらに、網膜22からの全ての光を第1レンズ210によってミラー220の範囲内に収束させることができることにより、ミラー220自体の大型化を抑制することができ、視覚検査装置10を小型化することが可能となる。
【0071】
<6.変形例等>
本発明は、上述した実施形態の内容に限定されることはなく、その要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【0072】
上述の実施形態では、制御部400が装着具120の後頭部側に設けられている場合について説明したが、制御部はHM部の筺体内に格納されていてもよい。また、制御部は、HM部とは別体として設けられていても良い。
【0073】
上述の実施形態では、表示光学系200の第1レンズ210が1枚で構成されている場合について説明したが、第1レンズは、複数枚のレンズにより構成されるレンズ群であってもよい。
【0074】
上述の実施形態では、ミラー220がコールドミラーである場合について説明したが、ミラーは、ホットミラー、ダイクロイックミラーであってもよい。
【0075】
上述の実施形態では、表示光学系200のミラー220から表示素子240までの光軸280bが、表示光学系200の眼球20の瞳孔21からミラー220までの光軸よりも鉛直上側に位置する場合について説明したが、表示光学系のミラーから表示素子までの光軸は、表示光学系の眼球の瞳孔からミラーまでの光軸よりも鉛直下側に位置していてもよい。
【0076】
上述の実施形態では、表示光学系200を合計4つのレンズで構成するとともに、観察光学系300を合計2つのレンズ(そのうちの一つは表示光学系200と共用)で構成したが、各々の光学系を構成するレンズの個数や形状、光軸方向のレンズ間隔などは、必要に応じて変更可能である。ただし、第2レンズ群230については、正のパワーを有するレンズと負のパワーを有するレンズを組み合わせて色収差や像倍率を補正するため、複数個のレンズで構成することが好ましい。また、ミラー220をダイクロイックミラーで構成してもよい。
【0077】
ここで、
図5および
図6を用い、表示光学系の他の構成例について説明する。
図5は、表示光学系の他の構成例(変形例1)を示す概略図である。
図6は、表示光学系の他の構成例(変形例2)を示す概略図である。
【0078】
図5に示すように、変形例1においては、表示光学系200の第2レンズ群230に属する正メニスカスレンズ236を、図示しないレンズ移動機構により光軸方向に移動可能とした点が、上記実施形態と異なっている。この構成を採用した場合は、被検者の視力に合わせて視度を調整することが可能となる。
【0079】
一方、
図6に示すように、変形例2においては、表示光学系200の第2レンズ群230を正レンズ235の追加により計4つのレンズ232〜236を用いて構成した点と、平面型の表示素子240の表示面の大きさを小さくした点が、上記実施形態と異なっている。この構成を採用した場合は、被検者に対して、より鮮明に視標を表示することが可能となる。また、この構成においても、正メニスカスレンズ236を光軸方向に移動可能な構成とすることにより、被検者の視力に合わせて視度を調整することが可能となる。
【実施例】
【0080】
次に、
図3および
図4を用い、本発明に係る実施例について説明する。
図3(a)は、実施例1の光線図であり、
図3(b)は、実施例2の光線図であり、
図4(a)は、実施例3の光線図であり、
図4(b)は、実施例4の光線図である。
図3(a)〜
図4(b)は、それぞれ、瞳孔21を射出瞳とした逆光線追跡によるシミュレーションを行った結果を示している。なお、
図3(a)〜
図4(b)において、第2レンズ群230は省略されている。また、
図3(a)〜
図4(b)において、第1レンズおよびミラーの大きさや間隔等の比率は、実際の比率と同等に設定した。また、鉛直方向をy方向、y方向に垂直で第1レンズ210の光軸に垂直な方向をx方向、y方向に垂直で第1レンズ210の光軸に平行な方向をz方向とした。
【0081】
ここでは、第1レンズ210のパワーの影響を調べるため、以下の条件で実施例1〜4のシミュレーションを行った。
実施例1:
第1レンズ焦点距離f=50mm(パワー=20D)
α=70°
実施例2:
第1レンズ焦点距離f=50mm(パワー=20D)
α=80°
実施例3:
第1レンズ焦点距離f=18.6mm(パワー=54D)
α=70°
実施例4:
第1レンズ焦点距離f=18.6mm(パワー=54D)
α=80°
なお、それぞれの実施例において、瞳孔21から第1レンズ210に向かう光線の全画角を70°とした。
【0082】
(実施例1および2)
図3(a)の実施例1および
図3(b)の実施例2において、瞳孔21から射出された主光線の光束がミラー220付近で集光し、全画角70°に亘った全ての主光線の光束がミラー220の範囲内に収束されることを確認した。
【0083】
また、
図3(a)の実施例1および
図3(b)の実施例2では、ミラー220のx方向の必要径は、54mm程度であった。ミラー220のx方向の必要径が瞳孔間距離(約50mm)に近づいたため、当該ミラー220のx方向の必要径が、両眼それぞれにおけるミラー220を保持する鏡筒等の部材が互いに干渉しない限界の大きさとなっていた。したがって、第1レンズ210のパワーの下限値が20Dとなることを確認した。
【0084】
また、
図3(b)のα=80°とした実施例2では、ミラー220のy方向の必要径は、79mmであった。これに対して、
図3(a)のα=70°とした実施例1では、ミラー220のy方向の必要径は、72mmであった。したがって、α≦70°とすることにより、第1レンズ210からミラー220に照射される光の範囲を小さくすることができ、ミラー220の鉛直方向の必要径を小さくすることができることを確認した。また、
図3(a)のα=70°とした実施例1では、瞳孔21から射出された光が、ミラー220を介して、
図3(b)のα=80°とした実施例2よりも頭部側に反射されることを確認した。したがって、α≦70°とすることにより、第2レンズ群230および表示素子240の重心をさらに頭部側に配置することが可能となることを確認した。
【0085】
(実施例3および4)
図4(a)の実施例3および
図4(b)の実施例4においても、瞳孔21から射出された主光線の光束がミラー220付近で集光し、全画角70°に亘った全ての主光線の光束がミラー220の範囲内に収束されることを確認した。
【0086】
また、
図4(a)の実施例3および
図4(b)の実施例4の光学系は、第1レンズ210のパワーが大きくなることにより、
図3(a)の実施例1および
図3(b)の実施例2の光学系よりも小型化されることを確認した。
【0087】
一方で、
図4(a)の実施例3および
図4(b)の実施例4では、第1レンズ210のパワーが大きくなることにより、瞳孔21と第1レンズ210との距離が近くなったため、当該瞳孔21と第1レンズ210との距離が、第1レンズ210が被検者のまつ毛や瞼と干渉しない限界の距離となっていた。したがって、第1レンズ210のパワーの上限値が60Dとなることを確認した。