(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第2樹脂マトリックスが少なくとも1つのエポキシ樹脂を含み、前記不溶性強化粒子がエポキシ樹脂の硬化に際してエポキシ樹脂中に不溶性である熱可塑性粒子である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
第2樹脂マトリックスが、プリプレグプライの硬化により5%を超えて体積が減少するが、硬化後に離散粒子のままである部分可溶性強化粒子を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
第2樹脂マトリックスが、プリプレグプライの硬化前または硬化中に5%を超えて体積が増大する熱可塑性粒子である膨潤性強化粒子を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【背景技術】
【0001】
繊維強化ポリマー(FRP)複合体は、航空機の一次構造などの航空宇宙構造物において金属に代わる高強度軽量エンジニアリング材料として使用されてきた。そのような複合材料の重要な特性は、高強度、剛性および軽量である。
【0002】
プリプレグプライの多層は、通常、積層構造を有する構造複合部品を形成するために使用される。複合部品の層間剥離は重大な障モードである。層間剥離は、2つの層が互いに剥離する場合に起こる。デザインを限定する重大な因子には、層間剥離を開始するために必要なエネルギーおよび層間剥離を伝播するために必要なエネルギーの両方が含まれる。
【0003】
層間剥離に対する耐性が改善された硬化複合体(例えばプリプレグレイアップ)は、衝撃後圧縮強度(CAI)ならびに破壊靭性(G
IcおよびG
IIc)が改善されたものである。
【0004】
CAIは、複合材料が損傷に耐える能力を測定する。CAIを測定する試験では、複合材料に所与のエネルギーの衝撃を与え、次いで圧縮荷重を加える。損傷面積およびくぼみ深さを衝撃後に測定した後、圧縮試験をする。この試験中、複合材料を拘束して弾性不安定性が生じないことを確実にし、複合材料の強度を記録する。
【0005】
破壊靭性は亀裂を含む材料が破砕に耐える能力を表す性質であり、航空宇宙応用のための材料の最も重要な特性の1つである。破壊靭性は、亀裂が存在する場合の物質の脆性破壊に対する耐性を表す定量的な方法である。
【0006】
破壊靭性を歪みエネルギー解放率(G
c)として定量化することができ、これは新たに創出された破断面積単位当たりの破砕の間に消散するエネルギーである。G
cはG
Ic(モード1−開口モード)またはG
IIc(モードII−平面剪断)を含む。下付き文字「Ic」は、亀裂に対して垂直な垂直引張応力下で形成されるモードI亀裂開口部を意味し、そして下付き文字「IIc」は亀裂の面に対して平行に、そして亀裂前面に対して垂直に作用する剪断応力によって生じるモードII亀裂を意味する。層間剥離の開始および成長は、多くの場合、モードIおよびモードII破壊靭性を調べることによって決定される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
強化粒子を用いて隣接するプリプレグプライ間の層間領域を強化する試みがなされてきた。非架橋可溶性熱可塑性粒子を使用して熱硬化性樹脂系を強化してきたが、それらは様々な問題と関係している。硬化中に溶解する熱可塑性粒子に関する1つの問題は、結果として得られる複合体が充分な熱硬化性熱機械的特性を保持しないことである。一部の不溶性粒子は樹脂材料が粒子に浸透するのを許容せず、粒子と樹脂マトリックスとの間の剥離を引き起こし、したがって、それらは複合材料に対して充分な強度を付与しない。したがって、強化粒子の選択は重要である。
【0011】
強化粒子のあるブレンドを多層複合体の層間領域に組み入れることによって、最終的な硬化複合体のCAIおよび破壊靭性が改善され得ることが判明している。この文脈での多層複合体とは、積層配列で配置された複数の構造層から構成されるラミネート(すなわち、レイアップまたはラミネート)を指す。各構造層は樹脂含浸繊維、すなわち樹脂マトリックスを含浸させた強化繊用維から構成される。「層間領域」は、強化繊維の2つの隣接する構造層間の領域を指す。
【0012】
さらに、4フィルム法を利用して強化粒子を構造層に適用することに加えて、不溶性強化粒子および部分可溶性(または膨潤性)強化粒子の特定のブレンドを多層複合体の層間領域に組み入れることによって、多層複合体のG
IIc破壊靭性をさらに改善できることが見いだされた。4フィルム法によって強化粒子を配置すると、粒子が多層複合体(またはプリプレグレイアップ)の硬化に際して層間領域から離れて移動しないので、実質的に均一な層間領域が得られることが意外にも判明した。
【0013】
強化粒子のブレンドが製造中に2フィルム法によって施用される同じ複合体と比較する場合にこの改善が見られる。しかしながら、4フィルム法が利用するが、1種の強化粒子(不溶性または部分可溶性/膨潤性のいずれか)だけを層間領域に組み込む場合には、G
IIc破壊靭性における同様の改善は見られない。
【0014】
図1A〜1Dは上述の4フィルム法を示す。
図1Aを参照して、2つの樹脂フィルム11、12を強化繊維10の層の上面および底面にそれぞれ施用する。繊維強化材10は一方向に整列した繊維(すなわち、同じ平面上、同じ方向に整列した連続繊維)であり得る。しかしながら、強化繊維10は複数の方向に整列していてもよいし、または織物の形態をとってもよいと理解すべきである。熱および圧力を次いで結果として得られるアセンブリに加えて、
図1Bで示されるように樹脂を含浸させた繊維層13を形成する。
図1Cお
よび1Dを参照して、2つのさらなる樹脂フィルム14、15を続いて樹脂含浸層13の上面および底面上にそれぞれプレスして、「プリプレグ」または「プリプレグプライ」とも称する複合体層16を得る。複合構造を形成するために、複数の複合体層16を積層配置で積層して、隣接する複合体層間の層間領域中に強化粒子を有する複合体レイアップを形成する。
【0015】
1つの実施形態において、樹脂フィルム11、12、14、15を、実質的に同じであって、硬化性熱硬化性樹脂マトリックスから形成し、この場合の相違は、外側のフィルム14および15が不溶性および部分可溶性または膨潤性強化粒子の混合物を含むのに対して、最初の2つのフィルム11および12は含まないことである。外側樹脂フィルム14、15を形成する樹脂マトリックス中の(i)不溶性強化粒子:(ii)部分可溶性または膨潤性強化粒子の比は20:80〜80:20の範囲内であり得る。
【0016】
図2は、4フィルム法を実施するための例示的システムを示す。強化繊維の連続層20を含浸ゾーン21中に長手方向の経路22に沿って供給する。強化粒子を含まず、それぞれ剥離紙によって支持されている2つの樹脂フィルム23、24を供給ローラー25、26から繰り出し、繊維層20が圧力ローラー27〜30によって形成される圧力ニップを通って移動する際に、繊維層20のそれぞれ上面および底面上に圧力/圧密化(consolidating)ローラー27、28、29、30を利用してプレスする。圧力ローラー27〜30の圧力によって、樹脂フィルム23、24を繊維層20に含浸させ、その結果、樹脂含浸繊維層31を得る。それぞれ樹脂フィルム23および24を支持する剥離紙P1およびP2を次いで、含浸繊維層31がローラー29および30間の第2圧力ニップを通過した後に、含浸繊維層31の表面からはがす。次に、強化粒子を含む2つのさらなる樹脂フィルム32、33を供給ローラー34、35から繰り出し、圧力/圧密化ローラー36、37、38、39を利用してそれぞれ含浸繊維層31の上面および底面上にプレスして、プリプレグ40を得る。樹脂32を支持する剥離紙P3を、ローラー38および39間のニップを通過した後にプリプレグ40からはがす。よって、結果として得られるプリプレグ40は剥離紙上にあり、下流位置で巻き取ることができる(図示せず)。樹脂フィルムを軟化させるため、そして含浸過程を容易にするために、最初の2つの樹脂フィルム23、24を相対する圧力ローラー27〜30間で形成される圧力ニップより前に圧力ニップの上流で予熱してもよい。しかしながら、含浸中の加熱は樹脂マトリックスを硬化させるために充分ではない。
【0017】
上述の4フィルム法は、プリプレグを形成するために業界でより一般的な2フィルム法とは異なる。2フィルム法では、樹脂マトリックスの2つのフィルムだけを強化用繊維の層の両面に、熱および圧力を用いて施用して、それによって繊維に含浸させる。樹脂マトリックスが隣接する繊維間の隙間またはギャップよりも大きな強化粒子を含む場合、粒子は含浸中に繊維によって濾過作用によって除去され、したがって、繊維層の外側に残る。
【0018】
図3Aは、樹脂のビーズ41が圧力/圧密化ローラー44、45間で形成される第1ニップの前に2つの剥離紙P4、P5間で形成されて、強化繊維層42に含浸させ、そしてローラー44、45間のギャップを変えて樹脂含浸繊維層48を形成することによって樹脂含有量を制御する以外は、
図2中で示されるものと類似した別のプリプレグ形成システムを示す。樹脂のビーズ41は、ローラー44、45間で形成される第1ニップの前に意図的に蓄積させた過剰の樹脂の蓄積物である。樹脂ビーズ41の分解図を
図3Bに示す。強化繊維層は過剰の樹脂を通過する際に樹脂自体でコーティングされる。粒子を含まない樹脂をこの工程段階で使用する。1つの実施形態では、一部の樹脂が第1ニップに到達する前に剥離紙の1つの上に広げることによって樹脂ビーズ41を創出することができる。剥離紙P4、P5を次いでローラー46および47によって形成された第2圧力ニップを通過した後に樹脂含浸繊維層48からはがす。続いて、強化粒子を含む2つのさらなる樹
脂フィルム49、50を次いで樹脂含浸繊維層48上にプレスして、
図2に関連して前述するようなプリプレグを形成する。
【0019】
溶解度
ある粒子が不溶性であるか、または可溶性であるかの判定は、それらが存在する特定の樹脂系中の溶解度に関連する。樹脂系は、1以上の熱硬化性樹脂、硬化剤および/または触媒、ならびに未硬化または硬化樹脂マトリックスの特性を修飾するための少量の任意の添加剤を含んでもよい。
【0020】
高温顕微鏡観察を使用して、粒子が樹脂マトリックス中で不溶性、部分可溶性、または膨潤性であるか否かを判定することができる。まず、乾燥ポリマー粒子の試料(すなわち、樹脂と結合していない)を測定して、平均粒子サイズおよび体積を決定する。第2に、粒子の試料を機械的混合により所望の樹脂マトリックス中に分散させる。第3に、結果として得られる混合物の試料を顕微鏡スライド上に載せ、これを次いで顕微鏡下でホットステージセットアップに置く。次いで、試料を所望の硬化温度まで加熱し、粒子のサイズ、体積または形状の変化を観察し、測定する。すべてのホットステージ試験を、10重量%(重量百分率)の硬化剤または触媒を含まない樹脂マトリックスの粒子ローディングで実施してもよい。
【0021】
不溶性強化粒子
強化粒子を上記高温顕微鏡観察分析に供し、粒子の直径または体積の変化が最小、例えば当初の「乾燥」粒子と比較して5%未満、好ましくは1%未満である場合、粒子は不溶性であるとみなされる。いくつかの実施形態において、不溶性強化粒子は、高温顕微鏡観察分析の間に溶融するが、樹脂マトリックスと不適合性であり、したがって冷却すると離散粒子を再形成する粒子を含む。分析目的だけで、粒子を高温顕微鏡観察分析の間流動していてもよく、結晶化度も変化する可能性がある。
【0022】
エポキシ系樹脂マトリックスに関して、不溶性粒子は、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアミド(PA)ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、液晶ポリマー(LCD)から選択される1以上のポリマーから作製されたポリマー粒子を含み得る。
【0023】
1つの実施形態において、不溶性粒子は、硬化過程の間に溶解せず、硬化した複合材料の層間領域内に残存する不溶性熱可塑性粒子である。好適な不溶性熱可塑性粒子の例としては、ポリアミドイミド(PAI)粒子およびポリアミド(PA)粒子(例えばナイロンまたはポリフタルアミド(PPA)粒子)が挙げられ、これらはその硬化サイクルの間、エポキシ樹脂系中に不溶性である。
【0024】
ある等級のポリイミド粒子は不溶性強化粒子として好適であり得る。例えば、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、4,4’−メチレンジアニリン(MDA)、および2,4−トルエンジアミン(TDA)から調製され、90〜92パーセントの芳香族炭素を含む非フタルイミド炭素含有量を有するポリイミド(例えば、Lenzing AGから市販されているP84)である。
【0025】
不溶性熱可塑性粒子は層間強化剤として熱湿性能(hot wet performance)の損失を回避することが判明している。これらの熱可塑性粒子は硬化後でさえも樹脂マトリックス中に不溶性のままであるので、それらは改善された強靭性、損傷許容性、熱湿性能、加工、微小破砕耐性、および低下した溶媒感受性を硬化樹脂に付与する。
【0026】
上記ポリマー粒子に加えて、伝導性材料(例えば、金属、グラファイト、炭素)、セラミック、シリカから形成される無機粒子も不溶性粒子として添加することができる。
【0027】
部分可溶性および膨潤性強化粒子
粒子が樹脂マトリックスの熱硬化に際して樹脂マトリックス中に部分的に溶解し、完全に溶解しない場合、粒子は部分可溶性であるとみなされる。そのような部分可溶性粒子を上記高温顕微鏡観察分析に供する場合、粒子の直径または体積の変化は、当初の「乾燥」粒子と比べると5%を上回るが、粒子は硬化および冷却後、依然として離散粒子として識別可能である。本明細書中で用いられる場合、樹脂中に「溶解させる」とは、周囲の樹脂と均一な相を形成することを意味する。
【0028】
「膨潤性」粒子は、上記高温顕微鏡観察分析に供する場合、5%を超えて粒子直径または体積が増加する粒子を包含する。膨潤は、周囲樹脂マトリックスが粒子の外表面へ侵入することに起因する。
【0029】
部分可溶性または膨潤性熱可塑性粒子は複合材料に良好な引張強度特性を付与することが判明している。ある工業用架橋熱可塑性粒子は層間強化粒子として特に好適である。これらの架橋熱可塑性粒子は、部分可溶性であり、同時に膨潤性であるとみなすことができる。
【0030】
工業用架橋熱可塑性粒子
1つの実施形態において、工業用架橋熱可塑性粒子は、1以上の反応基を有する架橋性熱可塑性ポリマーをその反応基と化学的に反応性である架橋剤で架橋することによって創出される架橋ネットワークから構成され、ここで、架橋剤は反応基を介してポリマー鎖を互いに直接架橋させる。反応基は、ポリマー主鎖上の末端基またはペンダント基であり得る。この実施形態の直接架橋反応は、1以上の反応基を用いたポリマー鎖の直接架橋によるポリマー分子の「タイアップ(tying−up)」として説明することができる。
【0031】
架橋熱可塑性粒子は、乳化法によって製造することができ、乳化法は、熱可塑性ポリマー、架橋剤、および触媒を、水と非混和性である共通の溶媒中に溶解させることを含む。次いで、非イオン性界面活性剤を使用し、これによって乳化粒子を形成することによって水中でエマルジョンを作製する。乳化粒子をその後、ポリマー鎖が化学的に架橋するように、乾燥、硬化させる。反応条件ならびに架橋剤の種類およびレベルは、粒子の最終的特性を決定する。温度などの反応条件は、さらに高度の架橋をもたらす。さらに高い官能性を有する架橋剤は、熱可塑性粒子の架橋の程度に影響を及ぼすであろう。比較的低い官能性を有する他の架橋剤は架橋度が低いであろう。架橋剤濃度も架橋度に正比例するであろう。
【0032】
架橋を受けやすい好適な熱可塑性ポリマーの例としては、限定されるものではないが:ヒドロキシル末端基を有するポリエーテルスルホン(PES);ヒドロキシル末端基、アミン基または無水物末端基を有するポリエーテルイミド(PEI);ヒドロキシル末端基を有するポリフェニレンオキシド(PPO)またはポリフェニレンエーテル(PPE);フルオロ末端基もしくはヒドロキシル末端基を有するポリアリールエーテルケトン(PAEK)、例えばポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK);または反応性末端基もしくは主鎖官能基を有する任意のエンジニアリング熱可塑性ポリマーから選択されるものが挙げられる。架橋性熱可塑性ポリマーの具体例としては、ヒドロキシル末端基を有するPES、アミン末端基を有するPES−PEESコポリマー、アミン末端基を有するPEI、ヒドロキシル末端基を有するPPEが挙げられる。
【0033】
熱可塑性ポリマー末端基の化学的性質/官能性によって、複数の反応性部位を有する適切な多官能性架橋剤を選択することができる。そのような架橋剤の例は:アルキル化メラミン誘導体(例えばCymel 303)、酸塩化物(例えば1,3,5ベンゼントリカルボニルトリクロリド)、多官能性エポキシ(例えばAraldite MY0501、MY721)、カルボン酸(例えば1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸)である。多不飽和熱可塑性ポリマーは、熱、UVまたは他の放射線硬化技術を使用するラジカル付加を用いて容易に架橋することもできる。
【0034】
別の実施形態において、本発明は、独立した架橋ネットワークと絡み合った熱可塑性ポリマー鎖から構成される相互貫入ポリマーネットワーク(IPN)から構成される工業用粒子を提供する。IPNは、1以上の反応基を有する1以上の化合物(例えば架橋性モノマー)を、その反応基と化学的に反応性である架橋剤と熱可塑性ポリマーの存在下で反応させることによって創出される。反応(ある架橋または硬化条件下で起こる)は化合物を反応基により架橋させ、それによって独立した架橋ネットワークを形成する。このようにして、熱可塑性ポリマー鎖は独立した架橋ネットワークと分子レベルで絡み合って、IPNを形成する。この方法は、別個かつ独立した架橋ネットワークの形成により熱可塑性ポリマー鎖を「タイアップ」して、それによって相互貫入ネットワークを創出すると記載することができる。したがって、この実施形態において、熱可塑性ポリマーは反応基を有している必要はない。
【0035】
一例として、IPNは、(i)熱可塑性ポリマー、多官能性エポキシ樹脂およびそのエポキシ樹脂を架橋させることができるアミン硬化剤を含むエマルジョンを形成し;(ii)溶媒をエマルジョンから除去し、そして固体粒子の形態の濃縮物を集め;(iii)粒子を乾燥し、続いてエポキシ樹脂が架橋するように、硬化(例えば加熱)させる。硬化の結果、架橋エポキシは熱可塑性ポリマーとIPNを形成する。
【0036】
本明細書中で記載される架橋熱可塑性粒子は、熱硬化性樹脂マトリックス、例えばエポキシ系マトリックスと熱力学的に適合性であり、樹脂マトリックスの硬化の間、樹脂中に完全に溶解するのを防止するために、それらを化学的に架橋させる。
【0037】
本明細書中で記載される架橋熱可塑性粒子はさらに、それらがその中にある周囲樹脂マトリックスと「勾配界面(gradient interface)」を形成する。本明細書中で用いられる「勾配界面」という用語は、粒子の各々と周囲の樹脂マトリックスとの間の段階的かつ強力な界面を指す。勾配界面は、熱硬化性樹脂、例えばエポキシと熱力学的に適合性である工業用架橋熱可塑性粒子を使用することによって得られる。樹脂マトリックスが外表面から粒子に侵入し、コアに向かって移動する際、架橋熱可塑性粒子のコア中の熱可塑性ポリマーの濃度は、中心で最大であり、粒子の外表面に向かって徐々に減少する。熱可塑性物質濃度における、コアから熱可塑性粒子の外表面へ向かうこのような段階的な減少は、熱可塑性粒子の各々と周囲の樹脂マトリックスとの間に勾配界面を形成する。したがって、熱硬化性樹脂と熱可塑性粒子との間に鋭い図形(delineation)または遷移はない。鋭い図形または遷移が存在する場合、複合材料では、熱可塑性物質および熱硬化性樹脂間の界面は、勾配界面を含む複合材料と比べて遙かに弱い。このように、粒子を樹脂マトリックス中に混合し、それによって粒子サイズが増加する場合、樹脂マトリックスが粒子中に拡散し得るので、架橋熱可塑性粒子は「膨潤性」とも見なすことができる。しかしながら、架橋粒子は、樹脂マトリックスの硬化後に離散かつ識別可能な粒子のままである。
【0038】
本明細書中で用いられる「離散粒子」は、樹脂マトリックス中で識別可能であり、走査電子顕微鏡法(SEM)、光学顕微鏡法、または微分緩衝顕微鏡法(DIC)を使用することによって検出することができる粒子を指す。
【0039】
架橋熱可塑性粒子の利点は、位相反転を得るリスクに直面することなく層間領域で熱可塑性の局部的に高い濃度を達成できることである。層間領域中に熱可塑性物質が含まれることにより材料の強靭性が増加することが知られている。しかしながら、大量の適合性熱可塑性物質を熱硬化性樹脂とブレンドするか、または熱硬化性樹脂中に溶解させる場合、熱可塑性物質は、熱硬化性樹脂の硬化の間に逆の方法で相分離することが知られ、これは反応で誘発される相分離としても知られ、熱硬化性ポリマーを含む熱可塑性連続相に至る。この位相反転は、複合体の特性にとって、主に温度耐性および溶媒耐性について非常に有害である。
【0040】
層間強化に好適な部分可溶性および/または膨潤性熱可塑性粒子の他の例としては、ある等級のポリイミド粒子が挙げられる。本明細書中で考察される目的について有用な熱可塑性ポリイミドは、少なくとも硬化サイクルの間に樹脂系中で膨潤または部分溶解し得るが、それらはまた、硬化後に離散粒子のままである程度まで溶解するに抵抗するものでなければならない。全てのポリイミドがそのような適用に関して等しく機能するわけではない。非常に高いので、樹脂マトリックスの調製中またはプリプレグ製造過程中に完全に溶解するような溶解度を有するポリイミドは好適ではない。
【0041】
ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)および5(6)−アミノ−1−(4’−アミノフェニル)−1,3,3−トリメチルインダン(AATI)に基づき、約81パーセントだけの芳香族の、40非−フタルイミド炭素を含むポリイミドは、本明細書中で考察される目的について有用である。同様に、AATIおよびMDAまたはTDAの混合物に基づくものは、芳香族非フタルイミド炭素含有量が90%未満である限り、有効であると予想される。有用であることが予想される他のポリイミドは、ジアミンが2,2,4−トリメチルヘキサン−1,6−ジアミンに全体としてまたは一部基づくものである。BTDAおよびAATIに基づくポリイミドも好適である。そのようなポリイミドは商標MATRIMID(登録商標)5218でCiba−Geigy Corporationから市販されている。
【0042】
膨潤性粒子のさらなる例には、官能化ゴム粒子が含まれる。官能化ゴム粒子は官能化エラストマーから形成され、これは、カルボキシル、カルボキサミド、無水物、エポキシ、またはアミン官能基を有する、またはカルボキシル、カルボキサミド、無水物、エポキシ、またはアミン官能基を含むように修飾されているジエンおよびオレフィンゴムを含み得る。これらのゴム粒子は、それらが組み込まれる複合体の作製および硬化の間に通常遭遇する温度で感知できるほど溶解することに抵抗するために充分な完全性を示すように、部分的に架橋しているとしてさらに特徴づけられる。
【0043】
概して、不溶性および部分可溶性/膨潤性粒子は、5〜70μmの範囲内の粒子サイズまたは直径を有し得る。粒子は、形状が規則的であっても、または不規則的であってよく、球状粒子、粉砕粒子、ペレットなどの形態をとってもよい。
【0044】
複合体において、強化粒子(不溶性および部分可溶性/膨潤性粒子)の総量は、樹脂マトリックスの重量の約2%〜30%を構成し得る。好ましくは、強化粒子の含有量は5重量%〜20重量%の範囲内である。最適量は、樹脂マトリックスの固有の強靭性、粒子の強靭性、ならびに他の因子に依存するであろう。
【0045】
樹脂マトリックス
強化粒子がその中に分散されている樹脂マトリックス(または樹脂系)は、硬化性樹脂配合物を指し、1以上の熱硬化性樹脂を含んでもよく、これらとしては、限定されるものではないが、エポキシ樹脂、ビスマレイミド、ビニルエステル樹脂、シアネートエステル
樹脂、イソシアネート修飾エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ベンゾオキサジン、ホルムアルデヒド縮合樹脂(例えば尿素、メラミンまたはフェノールと)、ポリエステル、アクリル、およびそれらの組み合わせが挙げられる。1つの実施形態において、樹脂マトリックスは主ポリマー成分として1以上の多官能性エポキシ樹脂を含むエポキシ系熱硬化性配合物である。
【0046】
好適なエポキシ樹脂としては、芳香族ジアミン、芳香族モノ第1アミン、アミノフェノール、多価フェノール、多価アルコール、ポリカルボン酸のポリグリシジル誘導体が挙げられる。好適なエポキシ樹脂の例としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールSおよびビスフェノールKなどのビスフェノールのポリグリシジルエーテル;ならびにクレゾールおよびフェノール系ノボラックのポリグリシジルエーテルが挙げられる。
【0047】
具体例は、4,4’−ジアミノジフェニルメタン(TGDDM)のテトラグリシジル誘導体、レゾルシノールジグリシジルエーテル、トリグリシジル−p−アミノフェノール、トリグリシジル−m−アミノフェノール、ブロモビスフェノールFジグリシジルエーテル、ジアミノジフェニルメタンのテトラグリシジル誘導体、トリヒドロキシフェニルメタントリグリシジルエーテル、フェノール−ホルムアルデヒドノボラックのポリグリシジルエーテル、o−クレゾールノボラックのポリグリシジルエーテルまたはテトラフェニルエタンのテトラグリシジルエーテルである。
【0048】
樹脂マトリックスにおける使用に好適な市販のエポキシ樹脂としては、N,N,N’,N’−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(例えばHuntsmanから得られるMY9663、MY720、およびMY721);N,N,N’,N’−テトラグリシジル−ビス(4−アミノフェニル)−1,4−ジイソ−プロピルベンゼン(例えばMomentiveから得られるEPON1071);N,N,N’,N’−テトラグリシジル−ビス(4−アミノ−3,5−ジメチルフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、(例えばMomentiveから得られるEPON1072);p−アミノフェノールのトリグリシジルエーテル(例えばHunstmanから得られるMY0510);m−アミノフェノールのトリグリシジルエーテル(例えばHunstmanから得られるMY0610);ビスフェノールA系材料のジグリシジルエーテル(例えばHuntsmanから得られるTactix123);2,2−ビス(4,4’−ジヒドロキシフェニル)プロパン(例えばDowから得られるDER661、Momentiveから得られるEPON828)、フェノールノボラック樹脂のグリシジルエーテル(例えばDowから得られるDEN431、DEN438);ジシクロペンタジエン系エポキシノボラック(例えばHuntsmanから得られるTactix556);1,2−フタル酸ジグリシジル(例えばGLY CEL A−100);ビスフェノールFのジグリシジル誘導体(例えばHuntsmanから得られるPY306)が挙げられる。他のエポキシ樹脂としては、脂環式化合物、例えば3’,4’−エポキシシクロヘキシル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(例えばHuntsmanから得られるCY179)が挙げられる。
【0049】
概して、樹脂マトリックスは、添加剤、例えば硬化剤、触媒、コモノマー、レオロジー調節剤、粘着付与剤、レオロジー修飾剤、無機または有機フィラー、可溶性熱可塑性またはエラストマー強化剤、安定剤、阻害剤、顔料/染料、難燃剤、反応性希釈剤、および硬化前または後に樹脂マトリックスの特性を修飾するための当業者に周知の他の添加剤と組み合わされた1以上の熱硬化性樹脂を含む。
【0050】
硬化剤(複数可)および/または触媒(複数可)の添加は、樹脂マトリックスの硬化速度を増加させ得る、および/または硬化温度を低下させ得る。熱硬化性樹脂の硬化剤は、
好適には、公知硬化剤、例えば芳香族もしくは脂肪族アミン、またはグアニジン誘導体から選択される。芳香族アミン硬化剤、好ましくは1分子あたり少なくとも2個のアミノ基を有する芳香族アミンが好ましく、特に好ましいのは、ジアミノジフェニルスルホン、例えばアミノ基がスルホン基に関してメタ位またはパラ位にあるものである。具体例は、3,3’−および4−,4’−ジアミノジフェニルスルホン(DDS);メチレンジアニリン;ビス(4−アミノ−3,5−ジメチルフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン;ビス(4−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン;4,4’メチレンビス−(2,6−ジエチル)−アニリン(Lonzaから得られるMDEA);4,4’メチレンビス−(3−クロロ、2,6−ジエチル)−アニリン(Lonzaから得られるMCDEA);4,4’メチレンビス−(2,6−ジイソプロピル)−アニリン(Lonzaから得られるM−DIPA);3,5−ジエチルトルエン−2,4/2,6−ジアミン(Lonzaから得られるD−ETDA80);4,4’メチレンビス−(2−イソプロピル−6−メチル)−アニリン(Lonzaから得られるM−MIPA);4−クロロフェニル−N,N−ジメチル−尿素(例えばMonuron);3,4−ジクロロフェニル−N,N−ジメチル−尿素(例えばDiuronTM)およびジシアノジアミド(例えばPacific Anchor Chemicalから得られるAmicure TM CG 1200)である。
【0051】
好適な硬化剤には、無水物、特に無水ポリカルボン酸、例えば無水ナジック酸、無水メチルナジック酸、無水フタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水メチルテトラヒドロフタル酸、無水エンドメチレンテトラヒドロフタル酸、および無水トリメリット酸も含まれる。
【0052】
強化繊維
高性能複合材料およびプリプレグを作製するために、本明細書中で記載される目的のための強化用繊維は、一般論として高引張強度(TS)(例えば3500MPaを超える)および高引張係数(TM)(例えば230GPaを超える)を有するとして特徴づけることができる。これらの目的のために有用な繊維としては、炭素またはグラファイト繊維、ガラス繊維および炭化ケイ素、アルミナ、チタニア、ホウ素およびその他から形成される繊維、ならびに例えばポリオレフィン、ポリ(ベンゾチアゾール)、ポリ(ベンズイミダゾール)、ポリアリレート、ポリ(ベンゾキサゾール)、芳香族ポリアミド、ポリアリールエーテルおよびその他などの有機ポリマーから形成される繊維が挙げられ、2以上のそのような繊維を有する混合物を含み得る。好ましくは、繊維は、ガラス繊維、炭素繊維および芳香族ポリアミド繊維、例えばDuPont CompanyからKevlarの商品名で販売されている繊維から選択される。さらに、樹脂マトリックスを含浸させる強化繊維は、連続一方向もしくは多方向繊維の形態で、または織布もしくは不織布としてであってよい。
【0053】
複合部品およびプリプレグレイアップ
プリプレグプライの多層を積層配列で積層して、積層構造を有する構造複合部品を形成し、続いて硬化させてもよい。ある実施形態において、レイアップ内のプリプレグプライを互いに対して選択された配向で配置してもよい。例えば、プリプレグレイアップは、繊維がレイアップの最大寸法、例えば長さに対して0°、45°、90°など様々な角度で配向している一方向繊維構造を有するプリプレグプライを含み得る。ある実施形態では、一方向および多次元などの繊維構造の任意の組み合わせを有するプリプレグを組み合わせてプリプレグレイアップを形成してもよいとさらに理解することができる。プリプレグレイアップを形削り工具で形成して、所望の3次元コンフィギュレーションを得ることができる。プリプレグレイアップの硬化は通常、加熱および圧力下で起こる。
【実施例】
【0054】
以下の実施例は本開示の生成物および方法を説明する役割をする。
【0055】
実施例1−2フィルム法
樹脂マトリックスを表1で示した配合に基づいて調製した。
【0056】
【表1】
【0057】
樹脂マトリックスを次いで台紙上にかぶせて、50gsmのフィルム気中重量(aerial weight:FAW)を有する樹脂フィルムを形成した。
【0058】
Toho Tenax IMS65炭素繊維をプリプレグマシンで194gsmの気中重量になるように広げた。2つの樹脂フィルムを次いで広げられた繊維の相対する各面上にプレスして、以下の特性を有するプリプレグを得た:
FAW=194gsm
樹脂含有量=34%
【0059】
上記プリプレグから切り出したシートをEN2565にしたがって積層してラミネートを形成した。ラミネートを次いで180℃にて2時間、2℃/分の硬化ランプ速度を用いて硬化温度に到達することにより硬化させる。
図4は硬化ラミネートの光学顕微鏡画像(断面図)を示す。
【0060】
実施例2−4フィルム法
2つの異なる樹脂マトリックスを表2および3で示す処方に基づいて形成した。
【0061】
【表2】
【0062】
【表3】
【0063】
上記表中:
Araldite PY 306=ビスフェノールFに基づく二官能性エポキシ
Araldite MY 0510=p−アミノフェノールのトリグリシジルエーテル
【0064】
表2の配合に基づく樹脂マトリックスを次いで台紙上に25gsmの気中重量になるようにかぶせて、「Uフィルム」と表示される樹脂フィルムを得た。表3の配合に基づく樹脂マトリックスを次いで台紙上に25gsmの気中重量になるようにかぶせて、「Pフィルム」と表示される樹脂フィルムを得た。Toho Tenax IMS65炭素繊維をプリプレグマシンで194gsmの気中重量になるように広げた。上述の4フィルム法を使用して、2つのUフィルムを広げられた繊維の両面上にプレスして、以下の特性を有する樹脂含浸プリプレグを得た:
FAW=194gsm
樹脂含有量=20%
【0065】
2つのP−フィルムを次いで先のステップで得られたプリプレグの両面にプレスして、以下の特性を有する最終プリプレグを得た:
FAW=194gsm
樹脂含有量=34%
【0066】
上記プリプレグから切り出したシートをEN2565にしたがって積層してラミネートを形成した。ラミネートを180℃で2時間、2℃/分の硬化ランプ速度を使用して硬化させて、硬化温度に到達した。
【0067】
図5は、4フィルム法で作製した硬化ラミネートの断面での光学顕微鏡画像(10倍拡大)を示す。
【0068】
図6Aおよび6Bは、それぞれ
図4および
図5で示す硬化ラミネートの層間領域の20倍拡大図である。
【0069】
図4、5、6A、および6Bからわかるように、4フィルム法によって得られるラミネート構造は、2フィルム法によって得られるものと比べてはるかに均一な層間領域を有する。さらに、2フィルム法によって製造されるラミネートについて、かなりの量の粒子は層間領域から離れて移動したようであり、繊維くず内に埋め込まれているが(
図4および6A)、このことは、4フィルム法によって製造されるラミネートの場合では粒子のほとんどが層間領域に限定されているので、見られない(
図5および6B)。
【0070】
機械的試験結果
実施例1および2にしたがって作成された硬化ラミネートの機械的特性を表4で開示された試験方法にしたがって測定した。試験結果も表4に示す。
【0071】
【表4】
【0072】
(*)クーポン幅は12.7mmであった。prEN6034で特定されるG
IcコンフィギュレーションではなくG
IIcコンフィギュレーションで前もって破砕されたクーポン。
【0073】
表4にまとめたデータは、さらに均一な層間領域を有するラミネートと関連するモードII層間強靭性(G
IIc)の増加を明らかに示す。