(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記搬送器は、板またはフレーム構造のハンド本体を有し、前記保持器および前記押圧子は、前記ハンド本体に対して、接離する方向に移動可能であり、更に前記保持器は、前記ハンド本体に対して、沿う方向に移動可能である、請求項1に記載のプレス成形体の製造方法。
工程21の後、工程31の前に、1または2以上の成形材料を予備賦形して、立面を有するプレス成形体を製造する方法であって、予備賦形する際、前記1または2以上の成形材料の一部同士を重ね合せて立面を予備賦形し、
前記成形材料は、立面を形成するための重ね合せ領域を有する1の成形材料、または複数に分割された成形材料であって、
下記数式(2)で表される成形材料の重ね合わせ率が、200%以上である、請求項1〜9のいずれか1項に記載のプレス成形体の製造方法。
重ね合わせ率(%)
=重ね合わせ部分の最大長さ/成形材料の厚み×100 (2)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施の形態について順次説明する。
【0011】
(成形方法)
本発明は、以下のプロセスからなるプレス成形体の製造方法である。
強化繊維と熱可塑性樹脂とを含む成形材料を加熱軟化せしめたのちに、上型と下型から構成される圧縮成形用金型内に投入する。次に、上型と下型を合わせ圧力をかけることにより圧縮成形用金型内キャビティ圧力を上げ成形材料を流動させかつキャビティ表面を成形材料に転写させる。最後に、圧縮成形用金型内で賦形されたプレス成形体の温度が成形材料を構成する熱可塑性樹脂の軟化温度未満に冷却されたのち、プレス成形体を取り出す圧縮成形方法またはプレス成形方法と呼ばれるものである。このプレス成形方法で凹凸を有する成形体を得るためには、非常に流動性が良い成形材料を用いれば、成形材料の流動によってキャビティ内全域に成形材料が充填し良好な成形体が得られる。しかし、本発明の熱可塑性樹脂と強化繊維からなる成形材料から、大きくかつ複雑な凹凸形状を有する成形体を成形しようとすると、成形材料の流動不足が発生し、キャビティ内に完全に充填した成形体は得られにくい。本発明の製造方法において実施される予備賦形は、均一に成形材料を流動させキャビティ内に完全に充填した成形体を得ることが可能となる。
【0012】
(成形プロセスおよび搬送器)
本発明は、以下の工程を含む、プレス成形体の製造方法である。
工程11:重量平均繊維長2mm以上の不連続炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含む成形材料を、熱可塑性樹脂の軟化温度以上に加熱する工程
工程21:前記軟化温度以上に加熱した成形材料を、搬送器に複数個配置された点で、または前記成形材料の厚みの10倍以下の長さの線状態で保持する保持器で保持することにより、前記搬送器で支持して圧縮成形用金型の上型と下型との間に搬送する工程
工程22:複数の前記保持器の間に配置された押圧子により前記搬送器に支持されている前記成形材料を押して予備賦形し、予備賦形率を80%以上100%以下とする工程
工程31:前記上型と前記下型を閉じて加圧することにより前記成形材料をプレス成形して前記プレス成形体とし、前記プレス成形体の温度が前記熱可塑性樹脂の軟化温度未満になった状態で前記圧縮成形用金型を開き、プレス成形体を金型から取出す工程
【0013】
本発明で用いる上記工程は、プレス成形または圧縮成形であり、油圧または電動式の型締め機を用いて、圧縮成形用金型内に設置した可塑化状態の成形材料を上型と下型の間で圧縮し成形する方法に関する。この時、可塑化状態とは、軟化温度以上の温度、すなわち、結晶性熱可塑性樹脂なら融点以上、非晶性熱可塑性樹脂ならガラス転移温度以上に加熱され可塑性を有する状態である。更に、融点、ガラス転移温は熱可塑性樹脂を走査型熱分析装置を用いて、昇温速度10℃/分にて測定した値を用いた。本発明に用いる成形材料は、熱可塑性樹脂からなるため、上記の可塑化状態を維持したまま加圧賦形する必要がある。そのため、成形材料の温度が低下し可塑性が失われる前に加圧賦形を完了させるため、短時間で上記工程を完了させる必要がある。以下、圧縮成形用金型を単に金型と称することがある。
【0014】
軟化温度以上に加熱した成形材料を金型内に搬送する手法としては、成形材料を搬送するために針状の物を成形材料に突き刺し搬送することは公知である。本発明では、成形材料を搬送すると同時にまたは搬送直後に成形材料を予備賦形するものであり、針状の物を成形材料に突き刺したままでは、予備賦形動作が困難となる場合がある。すなわち本発明の予備賦形動作とは、搬送用の針を成形材料に突き刺し成形材料を保持したまま、部分的に成形材料を押し曲げるなどの動作を実施する。通常、直線状の針を成形材料に突き刺し搬送する場合は、複数本の直線状の針を備えた保持器を用い、この複数本の針を成形材料に対し交差した方向に挿す場合は、直線状の針が成形材料から抜けるのを防がなければならない。しかしこの場合、複数本の針を交差した方向に刺すことにより、成形材料が面で固定されるため、その複数本の針で刺され面で固定された部位およびその周辺の複数の領域を独立して駆動することができず、本発明の複雑形状に予備賦形することが困難となる。そのため、本発明で用いられる搬送器には複数本の針が成形材料を面で固定するような配置を取らず、成形材料となる基材を点でまたは成形材料厚みの10倍以下の長さの線状態で保持する独立した保持部を複数個配置しておく必要がある。好ましくは点または成形材料の厚みの0.1倍以上5.0倍以下の線状態の保持部にて成形材料を保持することである。このような態様で成形材料を保持することにより、保持部による成形材料の保持部分を中心に成形材料が全方向に回転させることが可能となり、複雑な形状の予備賦形が可能となる。この時、保持部が成形材料厚みの10倍を超えるとなると、成形材料が線で保持されるため、成形材料の回転運動が阻害される。また、保持部に備えられている保持器は1個または複数個であっても良い。好ましくは1〜6個、より好ましくは2〜4個である。
【0015】
上記の保持部分にて点でまたは線状態で成形材料を保持するためには、円弧、楕円弧または放物線等の二次曲線を含む曲線形状を有する鉤針を成形材料に突き刺して保持することがより好ましく、円弧状である針を成形材料に挿して保持することが、本発明の効果を発現するのに最も好ましい。この円弧状の針の詳細な形状としては、成形材料厚みプラス5mm以上成形材料厚みの40倍以下の近似曲率半径を有する円弧上の針が好ましい。更に好ましくは、成形材料厚みプラス8mm以上成形材料厚みの20倍以下である。更により好ましくは成形材料厚みプラス10mm以上成形材料厚みの15倍以下である。
成形材料厚みプラス5mm未満の場合、円弧状の針の回転中心が成形材料に接近するため機構上好ましくはない。一方円弧の半径が成形材料厚みの40倍を超えると円弧状の針の径が大きくなるため保持部分の直線部分が長くなり、本発明の効果が得られなくなる。本発明の円弧状の針の形状としては、真円からなる円弧形状、異なるまたは同じ曲率を持つ円の円弧を複数個組み合わせた形状、一部に直線を含んだ形状など、機構的制約から適宜選択することが可能である。成形材料への突き刺し、脱着が可能で、成形材料を構成する成分を過剰に付着しない範囲で、針は鉤針であっても良い。
【0016】
また、上記の説明では成形材料厚みプラス5mmが成形材料厚みの40倍より小さいことを前提としている。理論上、成形材料の厚みが0.128mm(=5mm/39)未満の場合には、成形材料厚みの40倍の方が成形材料厚みプラス5mmより小さいことになるが、本発明の製造方法においては、このような厚みの薄い成形材料を用いて成形することは想定していない。また本発明において成形材料、予備賦形成形体、プレス成形体の厚みとは、任意に選択した10点について、ノギス等を用いて0.1mm単位まで測定した平均値を採用した。
【0017】
本発明においては、金型面上に加熱した成形材料を金型に沿わせる、予備賦形の動作が必要である。予備賦形を評価するため、本発明においては予備賦形率を指標として用いた。予備賦形率とは、予備賦形した後圧縮成形を行う前の状態で、金型上で予備賦形成形体を冷却固化させたのち、得られた予備賦形成形体の形状をステレオカメラ式3D測定機を用いて計測する。以下、冷却固化させる前の予備賦形成形体を第1の予備賦形成形体と、冷却固化させた後の予備賦形体を第2の予備賦形成形体と称することがある。プレス成形体の設計3D図面の形状と、得られた第2の予備賦形成形体の計測したデータとでベストフィット法を用いてベストマッチング操作を行い、設計3D図面の形状と第2の予備賦形成形体の形状とを重ね合わせ、プレス成形体の製品面から法線方向に成形材料厚みの2倍以上乖離している部位の面積を求め、その面積比から下記数式(3)により予備賦形率と定義した。ベストフィット法を用いたベストマッチング操作については後述する。
【0018】
予備賦形率=(A−B)/A×100(%) (3)
A:予備賦形後の予備賦形成形体(第2の予備賦形成形体)の表面積
B:プレス成形体の製品面から法線方向に成形材料の厚みの2倍以上乖離している部位の面積
例えば、予備賦形率100%とは、設計図面と予備賦形成形体とが同等の形状となっていることを示し、予備賦形率0%では、予備賦形成形体にほぼ設計図面と一致している部位が無いことを示している。本発明においては、上記評価方法による予備賦形率が80%以上100%以下好ましくは85%以上95%以下が好ましい。予備賦形率が80%未満では、圧縮成形用金型の型締め時に成形材料の引き込みが再現性なく発生するため、成形良品率が低下する原因となる。一方、予備賦形率が100%を超えると、成形体の形状にもよるが、凹凸形状を有する成形体では、成形材料をその金型表面に密着するほど沿わせると、シワなどの発生が過大になり、成形性が低下する原因となる。
【0019】
本発明の予備賦形を実施するためには、圧縮成形用金型の下型の上で、好ましくは下型に接触した状態で、成形材料に対して押し込みと保持の動作を行い、下型の上に成形材料を沿わせる必要がある。その為、本発明の実施には、成形材料を下型に沿うように押し込む押圧子、および成形材料を保持しておく保持器が必要である。押圧子は予備賦形器に備えられていることが好ましい。保持器は保持部に備えられていることが好ましい。この保持器には、円弧状の針を有していることが好ましく、保持部にはその針を駆動させ成形材料に突き刺す機構が含まれることが好ましい。本発明の搬送器には、上記押圧子と保持器を有し、搬送器にて成形材料を金型の下型の上に搬送したのち連続的に予備賦形を行うことが可能である。それゆえ、熱可塑性樹脂と強化繊維からなる成形材料を成形するときに、成形材料が冷却固化してしまうことなく成形が可能となる。冷却固化を遅らせるために金型の上型および下型は適切な温度に設定されていることが好ましい。更には、押圧子および保持器は、金型の下型の上で搬送器に吊り下げられている成形材料の面に対し水平方向および鉛直方向で移動可能であることにより、プレス成形体の製品形状、しいては予備賦形形状に合わせて自在に予備賦形することができる。このような態様も、また好ましい。このように搬送器、保持器、押圧子が配置されていることで成形材料に円弧状の針を突き刺して保持する保持器と、成形材料の予備賦形に携わる押圧子とが、圧縮成形用金型の下型の製品面に対し、水平方向および鉛直方向に移動可能となる。より好ましくは、保持器が保持部に備えられており、押圧子が予備賦形器に備えられていることにより、上述した水平方向および鉛直方向への移動が可能となることである。具体的な動作は、下記の工程に分けられる。
【0020】
工程21:前記軟化温度以上に加熱した成形材料を、搬送器に複数個配置された点で、または前記成形材料の厚みの10倍以下の長さの線状態で保持する保持器で保持することにより、前記搬送器で支持して圧縮成形用金型の上型と下型との間に搬送する工程
工程22:複数の前記保持器の間に配置された押圧子により前記搬送器に支持されている前記成形材料を押して予備賦形し、予備賦形率を80%以上100%以下とする工程
この工程22には、
工程23:一部の保持器を備えている搬送器の位置を固定した状態で、他の保持器を金型の下型の上空で、前記一部の保持器を備えている搬送器に吊り下げられている成形材料の面に対して水平移動させながら、押圧子を鉛直方向または水平方向に移動させ、金型の下型の表面に成形材料を沿わせる工程、
工程24:保持器から成形材料を解放し、搬送器は金型の下型の上空から離脱する工程、を含んでいる。
【0021】
上記、工程23における、保持器および押圧子の移動方向、移動距離、移動するタイミングに関しては、製造する最終のプレス成形体の形状によって異なり、適宜調整される必要がある。この時、搬送器は、金型の下型の面と平行の状態で金型上空で維持され押圧子は金型製品面に対し垂直方向(以下、鉛直方向と称することがある。)に移動することが好ましい。しかし、プレス成形体形状上、ドラフトアングルなどの関係上、金型製品面を大きく傾ける必要があるとき、またはL字型成形体など基準となる平面が取りにくい成形体形状の場合は、その限りではない。
【0022】
上記、工程22での保持器と押圧子の動きとしては、水平方向、鉛直方向に移動が可能であるが、工程22終了時点での、各々の保持器−保持器間、保持器−押圧子間、押圧子−押圧子間の直線距離を保ったまま、工程24まで進むことが必要である。この時の一組の一の保持器である円弧状の針の位置または前記押圧子と成形材料の接触位置から、他の保持器である円弧状の針の位置または前記押圧子と成形材料の接触位置までにおける成形材料の表面に沿った最短距離の変動率は0〜10%以内、好ましくは1〜5%である。上記の変動率は下記数式(1)で表すことができる。
変動率=(C−D)/D×100(%) (1)
【0023】
C:予備賦形後の一の円弧状の針の位置または押圧子と成形材料の接触位置から他の円弧状の針の位置または押圧子と成形材料の接触位置までの成形材料の表面にそった最短距離
D:予備賦形前の一の円弧状の針の位置または押圧子と成形材料の接触位置から他の円弧状の針の位置または押圧子と成形材料の接触位置までの成形材料の表面にそった最短距離
この変動率が10%を超えると、予備賦形時に成形材料が延びたり、潰れたりして、本発明の予備賦形率が低下すると共に予備賦形率の再現性が低下する。このような予備賦形率の数値範囲を達成することで、外観が良好で、量産性のあるプレス成形体を製造することができる。更に変動率を上記の数値範囲内にすることでより一層本発明の効果を好ましく達成することができる。
【0024】
この押圧子は、加熱された成形材料を金型の下型の製品面に向く方向に押す必要がある。押圧子が押し込む際には、押圧子の先端部が加熱された成形材料に直接接触するため成形材料が冷える可能性がある。その為、予備賦形時に成形材料を押す押圧子の熱伝導率は、成形材料の熱伝導率より低いことが好ましい。熱伝導率の高い材料を押圧子に使用すると、押圧子に接触した成形材料の部分が冷え、予備賦形、プレス成形時に成形材料が十分に変形しないことがあり、その結果、プレス成形体表面の外観が悪化する場合がある。成形材料の表面は熱可塑性樹脂で覆われている部位が多いので、押圧子としては、熱伝導率の観点からは熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂であることが好ましい。また、この押圧子は、予備賦形が終了した後は、速やかに予備賦形後の成形材料から剥離、離脱されることが望ましい。
【0025】
このような観点から、この成形材料を押す部位、特に加熱された成形材料に直接接触する部位の素材としては、耐熱性、耐薬品性の高さや、摩擦係数が小さいフッ素系樹脂、具体的にはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(PETFE)、またはエチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)を単体で、またはこれらを混合して用いることが好ましい。
【0026】
また前記押圧子の形状としては、形状が棒状、錐状、球状、半球状、または板状であることが好ましい。棒状は、角柱形状、円筒形状、または楕円筒形状のいずれかであることが好ましく、錐状は、角錐台状、または円錐台状が好ましい。また、押圧子と成形材料との接触面積を下げる必要がある。その為、成形材料との接触面は円形状、半球形状または球形状のいずれかの形状が好ましい。
本発明に用いる熱可塑性樹脂成形材料は、不連続炭素繊維の重量平均繊維長が2mm〜500mmの範囲内であることが好ましく、5mm〜100mmの範囲内であることがより好ましく、更には、10mm〜30mmであることが特に好ましい。以下、重量平均繊維長が2〜500mmの炭素繊維を不連続炭素繊維と称することがある。
【0027】
この時、重量平均繊維長が2mmより短いと、本発明で用いる一例が円弧状の針である保持部を成形材料に突き刺し吊り上げた場合、針を突き刺した部位を中心に成形材料が延び、または成形材料が千切れて搬送が困難となる。一方、この成形材料の厚みは、円弧状の針の厚さの1/2倍以上である必要があることが好ましい。成形材料厚みが円弧状の針の厚さの1/2倍未満の場合、針を成形材料に安定的に挿し吊り上げることが困難となる。
【0028】
本発明おいて、円弧状の針は成形材料を吊り上げる時、予備賦形する時に成形材料を所定の位置に移動させる、予備賦形器で成形材料が押されるときにズレが発生しないように保持するなどの機能を要する。この時、この針表面に溶融した熱可塑性樹脂が付着する場合がある。溶融した熱可塑性樹脂が針の表面に付着すると、針に対する成形材料の剥離性(脱離性)が低下し、適切な位置まで移動してきた保持器が成形材料を解放することが困難となる。そのため、円弧状の針の表面の少なくとも一部に表面処理を行うことによって溶融熱可塑性樹脂の付着を防止することは、本発明の効果を発現するに当たり有効である。
【0029】
円弧状の針の表面の少なくとも一部を処理する方法としては、各種離形コーティング剤が知られているが、フッ素系樹脂でコーティングすることが耐久性、剥離効果ともに好ましい。針の全表面にコーティングが施されていることが好ましく、に成形材料と接触する箇所にコーティングが施されていることがより好ましい。使用されるフッ素系樹脂としては、例えば、PTFE、PFA、PCTFE、PVDF、PVF、FEP、PETFE、またはECTFEを単体で、またはこれらを混合して用いることができる。コーティングする方法としては、フッ素系樹脂を含有するワニスや分散液を、本発明の円弧状の針表面に塗布した後、溶媒の除去(乾燥)、硬化や焼結する方法により行うことができる。
【0030】
また、円弧状の針に溶融樹脂の付着を防止する別の対策としては、加熱された成形材料に針を突き刺す前に、円弧状の針に水性エマルジョンタイプの離型剤または水を塗布することによって、溶融樹脂の付着を防止する方法が挙げられる。水性エマルジョンタイプの離型剤とは、シリコーン系、フッ素系やアルキルポリマー系の離形剤等が挙げられるが、工程内へのコンタミネーションを防ぐため移行性の特に低いアルキルポリマー系が好ましい。特に、長いアルキル側鎖を有するポリマーが好ましく、炭素数12以上、特に炭素数16〜20のアルキル基を有するアルキルアクリレートとアクリル酸とのコポリマーが好ましい。アルキルアクリレートのアルキル鎖の炭素数が12未満では十分な剥離性が得られないことがある。中でも、特に好ましくは、ポリビニルアルコールまたはポリエチレイミンを塩素化アルキロイルまたはアルキルイソシアネートで長鎖アルキル化した共重合体が挙げられる。これらのポリマーを界面活性剤にてエマルジョン化した離型剤が用いられる。一方、同様に水を塗布することによっても同様に溶融樹脂の付着を防止する効果が得られる。しかしこの場合、針の表面に液滴状の水が付着した状態で加熱された成形材料に針を突き刺す必要がある。これらの離型剤または水を円弧状の針に塗布するのは、少なくとも1回のプレス成形体を製造する工程(先述の工程31)の後に実施し、再び上記工程11へ戻って次のプレス成形をするのが水や離型剤を確実に作用させる観点からより好ましい。そうすることで連続的に所望のプレス成形体を製造することができる。
【0031】
本発明においては、工程21の実施後、予備賦形を実施するが、3面が対向する角部など立面を有する立体形状を予備賦形するには成形材料に切れ目を入れて、1または2以上の成形材料の一部同士を重ね合わせた予備賦形を行う必要がある。この時、成形材料の下記数式(2)で示される重ね合わせ率は200%以上、好ましくは200%以上1200%以下、好ましくは300%以上1000%以下、より好ましくは350%以上900%以下とすることが好ましい。
重ね合わせ率(%)
=重ね合わせ部分の最大長さ/成形材料の厚み×100 (2)
ここで重ね合わせ部分の最大長さとは、予備賦形、圧縮成形後は成形材料の他の部分と重ね合わされる部分における最大の長さを表している。この重ね合わせ部分とは、予備賦形・圧縮成形前には成形材料が重ね合わされておらず、予備賦形・圧縮成形後は2枚の成形材料を貼り合せる時に成形材料が重ね合わされる部分である。すなわち平面状の展開図から立体形状を組み立てる場合ののりしろ部分に相当する。また、その2枚の成形材料とは、予備賦形前は1枚の成形材料の場合である場合、分離した2枚の成形材料である場合の双方の場合を含むものである。上記の重ね合わせ部分の最大長さとは、2枚の成形材料が重ね合わされた部分のうち、重ね合わされた部分とプレス成形体の製品面となる部分との境界線から垂直方向に重ね合わせ部分の端まで引いた線の中での最大の長さを示す。その重ね合わされる部分の形状が台形、三角形などの形状であった場合も上述した重ね合わせ部分の最大長さが不変であれば、重ね合わせ率は同じ値となる。重ね合わせる部分が複数個所存在する場合には、各々について重ね合わせ部分の最大長さを算出し、その中の最小値を代表値として採用し、算出された重ね合わせ率が上述の数値範囲を満たすことが好ましい。より好ましくは、重ね合わせる部分が複数個所存在する場合には、その全ての重ね合わせ部分の最大長さから得られた重ね合わせ率が上述の数値範囲を満たすことが好ましい。
【0032】
重ね合わせ率をこの範囲にすることで成形材料を重ね合わせた部分の強度が、重ね合わせのない部分の強度と対比して十分な値を達成することができるので好ましい。なお、この予備賦形においては、1枚の成形材料を予備賦形する場合や、2枚以上の成形材料を積層して1つの工程22で予備賦形する場合もありえる。
【0033】
以下、図面を用いながら本発明のプレス成形体の製造方法における、搬送器の動作をより詳細に説明する。
図1は本発明の製造方法に用いる圧縮成形用金型の下型の一例である。図示しない金型の上型には、下型の中央に存在する凹部に対応する凸部を有している。
図2は、
図1の圧縮成形用金型を用いてプレス成形して得られたプレス成形体の例である。このプレス成形体は、1つの底面1と2つの立面2を有している。
図3の外形はプレス成形前に切断した成形材料の形状を表しており、プレス成形体の底面1と立面2になる部分と、成形時に重ね合わせられる部分とからなる。また
図3において、矩形または楕円形状は保持部に備えられている保持器または予備賦形器に備えられている押圧子が、成形材料を搬送または予備賦形を実施する際に接触する場所を表している。
図4は、
図3で示した成形材料から予備賦形工程、プレス成形工程を経て得られたプレス成形体を表しており、
図3と同様に、矩形または楕円形状は保持部に備えられている保持器または予備賦形器に備えられている押圧子が、成形材料を搬送または予備賦形を実施する際に接触した場所を表している。詳細は後述する。
図5は保持器6を備える保持部5、搬送器3,4を表す。搬送器3により、保持部5と搬送器が一体となって水平方向(例えば、
図5を表した紙面に対して左右方向および同紙面の手前から奥方向)に移動することができるよう備えられている。搬送器4により保持部5と搬送器が一体となって鉛直方向(例えば、
図5を表した紙面に対して上下方向)に移動することができるように備えられている。保持部5は、保持器6を備え、保持器を稼働させる機構(図示せず。)をその内部に備えている。保持器6は第1の位置6aと第2の位置bを取りうる。第1の位置6aは、成形材料を保持および搬送せずに保持部5を稼働させる場合の位置を、第2の位置6bは、成形材料を搬送する場合または予備賦形を行う場合の位置を示している。保持器は、第1の位置6aおよび第2の位置6bを取りうるように、時計回りまたは反時計回りに回転できるよう備えられている。予備賦形およびその後の圧縮成形するプレス成形体の形状により、1の搬送器には、1個もしくは複数個の保持器を備えた保持部を備えていても良い。より好ましくは、1個もしくは4個以下の保持器を備えた保持部を備えていることである。
【0034】
図6および
図7には予備賦形器を示している。予備賦形器7は保持部と同様に、搬送器3,4に設置され水平方向、鉛直方向に移動可能なように備えられている。予備賦形器は保持器6の代わりに、先端に押圧子8を備えている。予備賦形器7は押圧子8を稼働させる機構(図示せず。)をその内部に備えている。
図6に示した予備賦形器は、押圧子が鉛直方向(例えば、
図6を表した紙面に対して上下方向)に移動することができるように備えられている。予備賦形器7は
図6に示した第1の位置7a、
図7に示した第2の位置7b、およびその間の位置(第3の位置)を取りうる。第1の位置7aは予備賦形器7が動作していない位置を表し、第2の位置7bは予備賦形器7が予備賦形器の動作の限界まで動作している位置を表す。第3の位置はの第1の位置7aと第2の位置7bの間の領域で動作している位置を表す。
図7の予備賦形器も、図示していないが
図6と同様に搬送器3,4に備えられており、動作する場合には、
図7に示したように予備賦形器の一部分が伸長し、第2の位置または第3の位置にて押圧子8が加熱した成形材料表面に接触し、予備賦形を行う。予備賦形は、複数個の保持器で保持された成形材料に対して行われるので、押圧子は複数の保持器の間に配置されている。また
図6、
図7では、押圧子の動作方向は鉛直方向に動作する状態を示したが、動作方向は鉛直方向に限定されるものではなく、水平方向に動作可能な場合も含まれる。予備賦形およびその後の圧縮成形するプレス成形体の形状により、1の搬送器には、1個もしくは複数個の押し圧子を備えた予備賦形器を備えていても良い。複数の予備賦形器は、得ようとするプレス成形体の形状に従って、搬送器3,4により、おのおの独立に鉛直方向、水平方向に動作することができ、また動作時期も各々独立に設定することができる。
【0035】
成形材料を搬送する場合の保持器の稼働の一例として以下の様な態様を挙げることができる。本発明の製造方法においては、
図8に示したような搬送ロボット9を1台または2台以上用いることができる。搬送ロボット9はアーム10を備え、そのアームの先端にはハンド本体11を備えている。ハンド本体11には、上記の1個または複数個の保持器を備える保持部、1個または複数個の押圧子を備える予備賦賦形器を備えた搬送器(以下、機器を備えた搬送器と称することがある。)12を、1個または複数個備えている。上記のハンド本体11は、アーム10が上下前後左右に自在に駆動することによって、任意の角度に傾斜可能な機構を備えている。ハンド本体は機器を備えた搬送器が1個または複数個備えることができるように、板構造またはフレーム構造を採用していることが好ましい。前記保持器および前記押圧子は、前記ハンド本体に対して、接離する方向に移動可能であるよう構成されていることが好ましい。すなわちハンド本体を含む平面または曲面に対して、前記保持器および前記押圧子は、接近する方向または乖離する方向に移動可能であるよう構成されていることが好ましい。更に前記保持器は、前記ハンド本体に対して、沿う方向に移動可能であるよう構成されていることが好ましい。すなわち、前記保持器は、前記ハンド本体を含む平面または曲面から特定且つ同一の距離を有している平面または曲面上を移動可能であるように構成されていることが好ましい。また、前記押圧子も、前記ハンド本体に対して沿う方向に移動可能であるよう構成されていることが好ましい。
【0036】
搬送器3,4により保持部が初期の位置から加熱された成形材料の方向に移動している場合には、保持器は6aの位置にある。保持部5が成形材料の所定の保持する位置の真上に到達した時点で、搬送器3が停止し、搬送器4のみが駆動して保持部5が成形材料に接触する間際の位置まで下方に移動する。次に搬送器4が停止した後、保持器が回転し6aの位置から6bの位置に到達すると同時に、保持器の先端が成形材料を突き刺し成形材料を保持する。続いて、搬送器3,4を再び起動させ、成形材料の形状を保持したまま、保持部に保持された成形材料が圧縮成形用金型の上型と下型の間にまで移動する。移動された成形材料は金型の下型の上に載せられる。更に、成形材料を移動してきた搬送器と同一または異なる搬送器に備えられた予備賦形器が稼働し7aの状態から7bの状態となる。同時に押圧子8が作動し、成形材料を押し、成形材料は圧縮成形用金型に沿うような所定の形状に予備賦形される。最後に、予備賦形終了後、成形材料に接触していた押圧子8が成形材料から離れ、予備賦形器が7bの状態から7aの状態に戻り、保持器が6bの位置から6aの位置に戻り、成形材料を保持器から解放する。これで次の圧縮成形の準備に進む。上述のようなハンド本体11の動作内容、搬送器の水平方向・鉛直方向の動作内容、保持部・保持器の動作内容と動作の時期、予備賦形器・押圧子の動作内容と動作の時期を共に予めプログラミングしておくことにより、上記の様な動作を確実かつ連続して行うことができる。後述する実施例・比較例において動作例として示す内容がその一例である。
【0037】
(成形材料)
本発明で使用する成形材料とは、炭素繊維とマトリクス樹脂としての熱可塑性樹脂とを含むものである。すなわち、実質的に、材料の強度等を強化する目的で加えられる強化繊維の一種である炭素繊維と熱可塑性樹脂とが一体化した材料が用いられる。以下、本発明の成形材料を構成する炭素繊維を強化繊維と称することがある。
【0038】
成形材料中におけるマトリクス樹脂の存在量は、マトリクス樹脂の種類や強化繊維の種類等に応じて適宜決定することができる。 通常、強化繊維100重量部に対して3重量部〜1000重量部の範囲内とされる。より好ましくは30〜200重量部、更に好ましくは30〜150重量部である。強化繊維100重量部に対しマトリクス樹脂が3重量部未満ではマトリクス樹脂の含浸が不十分なドライの強化繊維が増加してしまうことがある。また1000重量部を超えるとマトリクス樹脂に対して強化繊維が少なすぎて構造材料として十分な強度を有するとは言い難い材料となることがある。
【0039】
成形材料における強化繊維の配向状態としては、例えば、強化繊維の長軸方向が一方向に配列した一方向配列状態や、上記長軸方向が繊維強化樹脂の面内方向においてランダムに配列した2次元ランダム配列状態を挙げることができる。
【0040】
本発明における強化繊維の配向状態は、上記一方向配列または2次元ランダム配列のいずれであってもよい。また、上記一方向配列と2次元ランダム配列の中間の配列(強化繊維の長軸方向が完全に一方向に配列しておらず、かつ完全にランダムでない配列状態)であってもよい。さらに、強化繊維の平均繊維長によっては、強化繊維の長軸方向が等方性成形材料の面内方向に対して角度を有するように配列していてもよく、強化繊維が綿状に絡み合うように配列していてもよい。さらには強化繊維が平織や綾織などの二方向織物、多軸織物、不織布、マット、ニット、組紐、または抄紙した紙等のように配列していてもよい。
【0041】
本発明において、成形材料の一つの形態として等方性材料が挙げられる。等方性材料とは、等方性成形材料の3次元空間に延びている3つの面のうちの1つの面内方向において強化繊維がランダムに配列している材料である。このような等方性材料は、衝撃吸収性能も等方的になるので、繊維強化樹脂製衝撃吸収材を設計する際に、バランスの良い設計を達成できる傾向にある。
【0042】
この様な等方性材料は、強化繊維を等方的に配置した強化繊維マットにマトリクス樹脂を一体化させる事で作成することができる。強化繊維マットとは、強化繊維が堆積し、または絡みあうなどしてマット状になったものをいう。強化繊維マットとしては、強化繊維の長軸方向が等方性成形材料の面内方向においてランダムに配列した2次元ランダム強化繊維マットが挙げられる。その他の形態として強化繊維が綿状に絡み合うなどして、強化繊維の長軸方向が3次元空間におけるXYZの各方向においてランダムに配列している3次元ランダム強化繊維マットも例示することができる。
【0043】
本発明における等方性成形材料は、強化繊維マットに、マトリクス樹脂としての熱可塑性樹脂を一体化させる事で得られる。本発明における等方性材料において、強化繊維マットに熱可塑性樹脂と一体化させる手法としては、以下の方法を例示することができる。例えば、強化繊維マット内に粉末状、繊維状、または塊状の熱可塑性樹脂が含まれる態様や、強化繊維マットに熱可塑性樹脂を含むシート状またはフィルム状の熱可塑性樹脂層が搭載または積層された態様において、その後、加熱し、熱可塑性樹脂を強化繊維マット内に含浸させる方法が挙げられる。
【0044】
本発明に用いられる等方性成形材料においては、1枚の等方性成形材料に、異なる配列状態の強化繊維が含まれていてもよい。
1枚の等方性成形材料中に異なる配列状態の強化繊維が含まれる態様としては、例えば、(i)等方性成形材料の面内方向に配列状態が異なる強化繊維が配置されている態様、(ii)等方性成形材料の厚み方向に配列状態が異なる強化繊維が配置されている態様を挙げることができる。また、等方性成形材料が複数の層からなる積層構造を有する場合には、(iii)各層に含まれる強化繊維の配列状態が異なる態様を挙げることができる。さらに、上記(i)〜(iii)の各態様を複合した態様も挙げることができる。このような態様としては、例えば、強化繊維が一方向配列している層と、2次元ランダム配列している層を積層する態様を挙げることができる。3層以上が積層される場合には、任意のコア層と、当該コア層の表裏面上に積層されたスキン層とからなるサンドイッチ構造としてもよい。なお、本発明に用いられる等方性成形材料が複数の層が積層された構成を有する場合、上記厚みは各層の厚みを指すのではなく、各層の厚みを合計した等方性成形材料全体の厚みを指すものとする。
【0045】
なお、等方性成形材料内における強化繊維の配向態様は、以下に示す方法で確認することができる。例えば、等方性成形材料の任意の方向、およびこれと直行する方向を基準とする引張試験を行い、引張弾性率を測定した後、測定した引張弾性率の値のうち大きいものを小さいもので割った比(Eδ)を測定する方法である。この弾性率の比が1.0に近いほど、強化繊維が等方的に配列していると評価できる。直交する2方向の弾性率の値のうち大きいものを小さいもので割った比が2.0を超えないときに等方性であるとされ、この比が1.3を超えないときは等方性に優れていると評価される。
【0046】
等方性成形材料における強化繊維の目付量は、25g/m
2〜10000g/m
2である事が好ましい。また、本発明で用いる等方性成形材料中には、本発明の目的を損なわない範囲で、上記の強化繊維以外の有機繊維もしくは無機繊維の各種繊維状もしくは非繊維状のフィラー、難燃剤、耐UV剤、安定剤、離型剤、顔料、軟化剤、可塑剤、または界面活性剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0047】
(強化繊維)
本発明に用いられる強化繊維の種類としては、主として炭素繊維を用いるが、等方性成形材料の物性を損なわない範囲で他種の強化繊維が含まれていても良い。詳細には、マトリクス樹脂の種類や等方性成形材料の用途等に応じて適宜選択することができるものである。このため、本発明に用いられる強化繊維としては、無機繊維または有機繊維のいずれであっても好適に用いることができる。
【0048】
上記無機繊維としては、例えば、活性炭繊維、黒鉛繊維、ガラス繊維、タングステンカーバイド繊維、シリコンカーバイド繊維(炭化ケイ素繊維)、セラミックス繊維、アルミナ繊維、天然繊維、玄武岩などの鉱物繊維、ボロン繊維、窒化ホウ素繊維、炭化ホウ素繊維、または金属繊維等を挙げることができる。
【0049】
上記金属繊維としては、例えば、アルミニウム繊維、銅繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維、またはスチール繊維を挙げることができる。
【0050】
上記ガラス繊維としては、Eガラス、Cガラス、Sガラス、Dガラス、Tガラス、石英ガラス繊維、またはホウケイ酸ガラス繊維等からなるものを挙げることができる。
【0051】
上記有機繊維としては、例えば、ポリアラミド、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール、ポリフェニレンスルフィド、ポリエステル、ポリアクリル、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール、またはポリアリレート等の樹脂材料からなる繊維を挙げることができる。
【0052】
本発明においては、2種類以上の強化繊維を併用してもよい。この場合、炭素繊維に加えて、複数種の無機繊維を併用してもよく、複数種の有機繊維を併用してもよく、無機繊維と有機繊維とを併用してもよい。
複数種の無機繊維を併用する態様としては、例えば、炭素繊維と金属繊維とを併用する態様、炭素繊維とガラス繊維を併用する態様等を挙げることができる。一方、複数種の有機繊維を併用する態様としては、例えば、アラミド繊維と他の有機材料からなる繊維とを併用する態様等を挙げることができる。さらに、無機繊維と有機繊維を併用する態様としては、例えば、炭素繊維とアラミド繊維とを併用する態様を挙げることができる。
【0053】
本発明においては、上記強化繊維として炭素繊維を用いることが好ましい。炭素繊維は、軽量でありながら強度に優れた等方性成形材料を得ることができるからである。本発明においては、等方性成形材料中に含まれる強化繊維中、炭素繊維が70〜100重量%、より好ましくは80〜99重量%であることがより好ましい。
【0054】
上記炭素繊維としては、一般的にポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、石油・石炭ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、リグニン系炭素繊維、フェノール系炭素繊維、または気相成長系炭素繊維などが知られているが、本発明においてはこれらのいずれの炭素繊維であっても好適に用いることができる。
中でも、本発明においては引張強度に優れる点でPAN系炭素繊維を用いることが好ましい。強化繊維としてPAN系炭素繊維を用いる場合、その引張弾性率は100〜600GPaの範囲内であることが好ましく、200〜500GPaの範囲内であることがより好ましく、230〜450GPaの範囲内であることがさらに好ましい。また、引張強度は2000〜10000MPaの範囲内であることが好ましく、3000〜8000MPaの範囲内であることがより好ましい。
【0055】
本発明に用いられる強化繊維は、マトリクス樹脂との密着性を向上させるために、表面にサイジング剤が付着しているものであってもよい。サイジング剤が付着している強化繊維を用いる場合、当該サイジング剤の種類は、強化繊維およびマトリクス樹脂の種類に応じて適宜選択することができるものである。
強化繊維とマトリクス樹脂との密着強度は、ストランド引張せん断試験における強度が5MPa以上であることが望ましい。この強度は、マトリクス樹脂の選択に加え、炭素繊維の表面酸素濃度比(O/C)を変更する方法や、炭素繊維にサイジング剤を付与して、炭素繊維とマトリクス樹脂との密着強度を高める方法などで改善することができる。
【0056】
本発明に用いられる強化繊維の繊維長は、強化繊維の種類やマトリクス樹脂の種類、等方性成形材料中における強化繊維の配向状態等に応じて適宜決定することができるものである。したがって、本発明においては目的に応じて連続繊維を用いてもよく、不連続繊維を用いてもよい。不連続繊維を用いる場合、平均繊維長は、通常、2mm〜500mmの範囲内であることが好ましく、特に本発明の範囲においては5mm〜100mmの範囲内であり、更には、10mm〜30mmであることが特に好ましい。
【0057】
本発明においては平均繊維長が互いに異なる強化繊維を併用してもよい。換言すると、本発明に用いられる強化繊維は、繊維長の分布においてに単一のピークを有するものであってもよく、あるいは複数のピークを有するものであってもよい。強化繊維の平均繊維長は、例えば、等方性成形材料から無作為に抽出した100本の繊維の繊維長を、ノギス等を用いて1mm単位まで測定し、下記数式(4)、(5)に基づいて求めることができる。等方性成形材料からの強化繊維の抽出法は、例えば、等方性成形材料に500℃×1時間程度の加熱処理を施し、炉内にて樹脂を除去することによって行うことができる。
個数平均繊維長:Ln=ΣLi/j (4)
(Li:強化繊維の単糸の繊維長、j:強化繊維の本数)
重量平均繊維長:Lw=(ΣLi
2)/(ΣLi) (5)
なお、ロータリーカッターで切断した場合など、繊維長が一定長の場合は数平均繊維長と重量平均繊維長は極めて近い値になる。
【0058】
本発明において個数平均繊維長、重量平均繊維長のいずれを採用しても構わないが、等方性成形材料の物性をより正確に反映できるのは、重量平均繊維長である事が多い。また本発明に用いられる強化繊維の繊維径は、強化繊維の種類に応じて適宜決定すればよい。例えば、強化繊維として炭素繊維が用いられる場合、平均繊維径は、通常、3μm〜50μmの範囲内であることが好ましく、4μm〜12μmの範囲内であることがより好ましく、5μm〜8μmの範囲内であることがさらに好ましい。
【0059】
一方、強化繊維としてガラス繊維を用いる場合、平均繊維径は、通常、3μm〜30μmの範囲内であることが好ましい。ここで、上記平均繊維径は、強化繊維の単糸の直径を指すものとする。したがって、強化繊維が繊維束状である場合は、繊維束の径ではなく、繊維束を構成する強化繊維(単糸)の直径を指す。強化繊維の平均繊維径は、例えば、日本工業規格JIS R7607に記載された方法によって測定することができる。本発明に用いられる強化繊維は、その種類の関わらず単糸からなる単糸状であってもよく、複数の単糸からなる繊維束状であってもよい。
【0060】
本発明に用いられる強化繊維は、単糸状のもののみであってもよく、繊維束状のもののみであってもよく、両者が混在していてもよい。ここで示す繊維束とは2本以上の単糸が集束剤や静電気力等により近接している事を示す。繊維束状のものを用いる場合、各繊維束を構成する単糸の数は、各繊維束においてほぼ均一であってもよく、あるいは異なっていてもよい。なお、単糸状のものが増えると、等方性成形材料の機械強度が高くなり、流動性などに代表される成形性は低下する傾向にある。
【0061】
本発明に用いられる強化繊維が繊維束状である場合、各繊維束を構成する単糸の数は、通常、数本〜10万本の範囲内とされる。一般的に、炭素繊維は、数千〜数万本のフィラメントが集合した繊維束状となっている。強化繊維として炭素繊維を用いる場合に、炭素繊維をこのまま使用すると、繊維束の交絡部が局部的に厚くなり薄肉の等方性成形材料を得ることが困難になる場合がある。このため、強化繊維として炭素繊維を用いる場合は、繊維束を拡幅したり、または開繊したりして使用するのが通常である。
【0062】
(マトリクス樹脂)
本発明に用いられるマトリクス樹脂は、所望の強度を有する等方性成形材料を得ることができるものであれば、好ましく使用することができ、等方性成形材料の用途等に応じて適宜選択して用いることができる。一般的に、等方性成形材料に用いられる代表的なマトリクス樹脂としては、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂が知られているが、本発明においては、マトリクス樹脂として熱可塑性樹脂を好適に用いることができる。また、本発明においてはマトリクス樹脂として、熱可塑性樹脂を主成分とする範囲において、熱硬化性樹脂を併用してもよい。好ましくは熱可塑性樹脂100重量部に対して熱硬化性樹脂が0〜20重量部、より好ましくは5〜15重量部である。
【0063】
上記熱可塑性樹脂は、等方性成形材料の用途等に応じて所望の軟化温度または融点を有するものを適宜選択して用いることができる。また、上記熱可塑性樹脂としては、通常、軟化温度が180℃〜350℃の範囲内のものが用いられることが好ましい。
【0064】
上記熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂(ポリオキシメチレン樹脂)、ポリカーボネート樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂、フッ素系樹脂、または熱可塑性ポリベンゾイミダゾール樹脂等を挙げることができる。
【0065】
上記ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等を挙げることができる。
上記ポリスチレン樹脂としては、例えば、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)等を挙げることができる。
上記ポリアミド樹脂としては、例えば、ポリアミド6樹脂(ナイロン6)、ポリアミド11樹脂(ナイロン11)、ポリアミド12樹脂(ナイロン12)、ポリアミド46樹脂(ナイロン46)、ポリアミド66樹脂(ナイロン66)、ポリアミド610樹脂(ナイロン610)等を挙げることができる。
上記ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、ボリトリメチレンナフタレート樹脂、ボリブチレンテレフタレート樹脂、ボリブチレンナフタレート樹脂、ポリ乳酸樹脂、または液晶ポリエステル等を挙げることができる。
上記(メタ)アクリル樹脂としては、例えば、ポリアクリル樹脂、ポリメタクリル樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレートを挙げることができる。
上記変性ポリフェニレンエーテル樹脂としては、例えば、ポリフェニレンエーテル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル等を挙げることができる。
上記熱可塑性ポリイミド樹脂としては、例えば、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂等を挙げることができる。
上記ポリスルホン樹脂としては、例えば、ポリスルホン樹脂、変性ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルフェニレンスルホン樹脂、およびポリエーテルケトンスルホン樹脂等を挙げることができる。
上記ポリエーテルケトン樹脂としては、例えば、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトンケトン樹脂等を挙げることができる。
上記フッ素系樹脂としては、例えば、ポリモノフルオロエチレン樹脂、ポリビスフルオロエチレン樹脂、ポリトリフルオロエチレン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン等を挙げることができる。
【0066】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂は1種類のみであってもよく、2種類以上であってもよい。2種類以上の熱可塑性樹脂を併用する態様としては、例えば、相互にガラス転移温度または融点が異なる熱可塑性樹脂同士を併用する態様や、相互に重量平均分子量が異なる熱可塑性樹脂を併用する態様等を挙げることができるが、この限りではない。
【0067】
(等方性成形材料の製造方法)
本発明に用いられる等方性成形材料は、公知の方法を用いて製造することができる。マトリクス樹脂として熱可塑性樹脂を用いる場合は、例えば、1.強化繊維をカットする工程、2.カットされた強化繊維を開繊させる工程、3.開繊させた強化繊維とマトリクス樹脂を混合した後、加熱圧縮してプリプレグを得る工程、4.プリプレグを成形する工程により製造することができるが、この限りではない。
【0068】
なお、等方性材料およびその製造法については、例えば国際公開WO2012/105080号パンフレット、日本特許庁の公開公報特開2013−49298号公報の明細書に記載されている。すなわち、複数の強化繊維からなるストランドを、必要に応じ繊維長方向に沿って連続的にスリットして幅0.05〜5mmの複数の細幅ストランドにした後、重量平均繊維長2〜500mmとなるように連続的にカットし、カットした強化繊維束に気体を吹付けて開繊させた状態で、通気性コンベヤーネット等の上に層状に堆積させることによりランダムマットを得ることができる。この際、粒体状または短繊維状の熱可塑性樹脂を強化繊維とともに通気性コンベヤーネット上に堆積させるか、マット状の強化繊維層に溶融した熱可塑性樹脂を膜状に供給し浸透させることにより熱可塑性樹脂を包含する等方性材料を製造する方法により製造することもできる。
【0069】
プリプレグすなわち強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸させ、板状に成形し成形材料とする方法は、通常では、ホットプレス工法、ダブルベルトプレス工法などで、熱可塑性樹脂の軟化温度以上に加熱した状態で加圧し含浸を進める工程、加圧した状態で軟化温度未満まで下げ成形材料を取り出す工程を含んでいる。
なお、強化繊維束中の単繊維の本数や繊維間距離を制御する方法としては、上述した好適な等方性材料の製造法において、カット工程に供する繊維束の大きさ、例えば繊維束の幅や幅当りの繊維数を調整することでコントロールすることができる。具体的には開繊するなどして繊維束の幅を広げてカット工程に供すること、カット工程の前にスリット工程を設ける方法が挙げられる。また繊維束をカットと同時に、スリットしてもよい。その他の手法としては、開繊する条件に合わせ、適切なサイジング剤を選ぶ手法などがある。
【0070】
上述のような等方性材料を使用した等方性成形材料は、その面内において、強化繊維が特定の方向に配向しておらず、無作為な方向に分散して配置されている。すなわち、この様な等方性成形材料は面内等方性の材料である。互いに直交する2方向の引張弾性率の比を求めることで、等方性成形材料の等方性を定量的に評価できる。
【0071】
(等方性成形材料の成形方法)
本発明における等方性成形材料を成形することで、繊維強化樹脂成形体を得る事ができる。等方性成形材料は、機械強度に優れるため、これを必要とする部位に好適に用いる事ができる。
本願において、等方性成形材料を成形する具体的な方法として、射出成形やプレス成形などの圧縮成形が挙げられる。等方性成形材料は成形直前に加熱して可塑化し、金型へ導入する。加熱する方法としては、熱風乾燥機や赤外線加熱機などが用いられる。
用いる熱可塑性樹脂が吸水性を示す場合にはあらかじめ乾燥しておくことが好ましい。加熱する熱可塑性樹脂の温度は溶融温度プラス15℃以上かつ分解温度−30℃であることが好ましい。加熱温度がその範囲以下であると、熱可塑性樹脂が溶融しないため成形しにくく、またその範囲を超えると熱可塑性樹脂の分解が進むことがある。
【0072】
本発明では、等方性材料を用いて、予備賦形およびプレス成形する方法が生産性、等方性に優れるので好ましい。具体的には、上記等方性成形材料を熱可塑性樹脂の軟化温度プラス30℃以上、熱可塑性樹脂の分解温度以下の可塑化温度に加熱してやわらかくしたのち、熱可塑性樹脂の融点以下またはガラス転移温度以下に調整された上型と下型とを対で構成された圧縮成形用金型内、すなわち上型と下型の間に配置して上型と下型の間に圧力を付与し上記等方性成形材料を加圧する。本発明の成形方法を用いると過剰なシワの発生を抑制することができるため、低い圧力で均一な肉厚な凹凸を有する成形体を得ることが可能である。その際、加圧条件としては0.1〜20MPa、好ましくは0.2〜15MPa、さらに0.5〜10MPaの圧力をかけることが好ましい。圧力が0.1MPa未満の場合、等方性材料を十分に押し切れず、スプリングバックなどが発生し素材強度が低下することがある。また圧力が20MPaを超える場合、例えば等方性材料が大きい場合、きわめて大きなプレス機が必要となり、経済的に好ましくない場合がある。また加圧中の加熱条件としては、金型内の温度としては、熱可塑性樹脂の種類によるが、溶融した熱可塑性樹脂が冷却されて固化し、繊維強化樹脂成形体が形作られるために、熱可塑性樹脂が結晶性の場合は結晶溶解温度、非晶性の場合はガラス転移温度、それぞれより20℃以下であることが好ましい。例えばポリアミド樹脂の場合には、通常120〜180℃であり、好ましくは125〜170℃であり、さらにより好ましくは130〜160℃である。
【0073】
また、本発明において、圧縮成形時に等方性材料の他に、一方向配列した一方向性繊維強化成形材料あるいは不連続繊維からなる抄造法に作成された等方性繊維強化成形材料を使用し、これを加熱加圧し、一体化しても構わない。
【実施例】
【0074】
以下に実施例を示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。なお、本実施例におけるプレス成形体製造に用いた装置機器は以下のとおりである。また、予備賦形、プレス成形時における各パラメータ数値は、以下の方法に従って求め、以下に示した
図1〜10、表1〜5に表した事項に沿って実施した実施例に従って、本発明を更に詳細に説明する。
【0075】
(金型および成形体形状)
以下、
図1に示したような形状の金型の下型および対応する形状の金型の上型を用いて、1つの底面および2つの立面の3つの面から構成される厚み2.5mmの成形体を得る試みを行った。プレス成形後のプレス成形体の大きさとしては、底面が300mm角の正方形、立面となる壁部が高さ100mmの成形体である。この金型は、加圧水を熱媒にした配管が金型内に設置され、金型温度は150℃に調整されている。
【0076】
(圧縮成形機)
本出願では、株式会社放電精密加工研究所製の電動サーボプレスを用いて評価を行った。圧縮成形条件は全て同一であり、具体的には、加圧圧力15MPa、金型温度150℃、成形材料の加熱温度は290℃で実施した。
【0077】
(成形材料)
[製造例1]等方性材料を用いた等方性成形材料の製造
炭素繊維として、東邦テナックス株式会社製の炭素繊維“テナックス”(登録商標)STS40−24KS(平均繊維径7μm)をナイロン系サイジング剤処理したものを使用した。国際公開公報WO2012/105080号パンフレットに記載された方法に基づき、炭素繊維目付け1800g/m
2である強化繊維マットを作成した。カットした炭素繊維と、結晶性熱可塑性樹脂であるナイロン6樹脂(ユニチカ株式会社製のナイロン6樹脂A1030(商品名)(融点:225℃))の混合体を帯状に堆積させた。支持体上に強化繊維と熱可塑性樹脂が混合された等方性材料を得た。この得られた等方性材料を、250℃に設定された平板状金型に投入し、2MPaで10分間加圧した後、金型温度を100℃まで下げ、そののち、金型から等方基材を取出し、以下の実施例・比較例において使用する成形材料とした。この時得られた成形材料の一例では、厚みが2.6mmであった。他に重量平均炭素繊維長が20mm、10mm、1mmの炭素繊維を用いて同様に成形材料の製造を行った。また、炭素繊維目付、ナイロン6樹脂の供給量を調節し、同様の操作にて厚みが3.6mmの成形材料も製造した。
【0078】
(搬送器)
本発明に用いる搬送器3,4には、
図5、
図6に示すように成形材料を保持する保持器と成形材料を金型に押し込む予備賦形器とが配置されている。以下の実施例等においては、保持部を備えた保持器を2つ配置された搬送器A、保持部を備えた保持器を3つ配置された搬送器B、および押圧子を備えた予備賦形器を3つと保持部を備えた保持器を2つ配置された搬送器Cを用いて以下のプレス成形材料の成形を行った。それらの搬送器A〜Cは平面フレーム状のハンド本体11に接続されている。搬送器A〜Cはフレームの面に沿って2次元方向に移動可能な状態でフレームに設置されている。そのハンド本体11はアーム10を介して搬送ロボット9に接続されている。その結果、各保持器および各押圧子はハンド本体11に対して接離する方向に移動可能である。すなわち、ハンド本体を含む平面または曲面に対して、前記保持器および前記押圧子は、接近する方向または乖離する方向に移動可能である。また、保持器および押圧子はハンド本体に沿う方向に移動可能である。搬送ロボット9に備えられているアーム10が上下前後左右に駆動することによって、ハンド本体11はアームの届く領域内で上下前後左右に自在に移動することができ、同時にハンド本体は任意の角度に傾斜可能となる。更に、保持器により保持された成形材料も同様に上下前後左右に自在に移動することができ、任意の角度に傾斜可能となる。
【0079】
図2に示したプレス成形体を得るために、
図3に示した形状にカットされた成形材料と搬送器A〜Cを備えたハンド本体を用いた。このハンド本体には、所定の位置に7個の保持器(以下、G1〜G7、またはグリッパー1〜グリッパー6と称する。)および3個の押圧子(以下、P1〜P3、またはプッシャ-1〜プッシャー3と称する。)を配置した。搬送器AにはG1,G2が、搬送器BにはG3,G4,G7が、搬送器Cには、G5,G6,P1,P2,P3が配置されている。これらの保持器を備えた保持部、押圧子を備えた予備賦形器は各々搬送器に設置されており、搬送器にはハンド本体が形成しているフレーム状の平面に対して垂直方向に移動させるエアーシリンダーが設置されている。ハンド本体には、ハンド本体が形成しているフレーム状の平面に沿って設置されているレールとエアシリンダーが設置されている。この結果、一旦保持した加熱後の平面状の成形材料に対して、保持器と予備賦形器は、同一搬送器に配置されているか否かを問わず各々独立にその成形材料の面に対し水平方向、または垂直方向に移動が可能となる。
【0080】
(保持部、保持器)
本実施例・比較例においては保持器として円弧状の針を用いた。詳細は後述する。搬送器に設置される保持部には、その保持部に設置された円弧状の針と共に、保持部を上下前後左右に移動させるエアーシリンダーまたはレールを備えた搬送器に接続されている。保持器および円弧状の針を駆動させる方法としてはエアーシリンダーが軽量でかつ構造が簡易のため好ましい。一方、精密に移動を制御するためサーボモータ駆動ボールねじ、リニアガイドなどの駆動方法が好ましい。
保持部5の一例を
図5に示した。
図5に示した保持部には、図面の下方に保持器である円弧状の針があり、この円弧状の針がギアボックスを内部に備えた保持部5に接続されている。そして円弧状の針はギアボックスとの接続点を中心として円弧を描くように回転することができる。
図5においては、円弧状の針が時計回りに回転することで成形材料にその円弧状の針を突き刺し、成形材料を保持・支持し、搬送することができる。逆に円弧状の針が反時計回りに回転することで成形材料からその針を外すことができ、成形材料を保持器から解放することができる。
本発明の実施例・比較例においては、全てエアーシリンダーを用いて保持部を所定の方向へ移動させた。
【0081】
(円弧状の針)
実施例等において用いた円弧状の針は、ばね鋼鋼材(SUP10)を用いて、
図9に示したような線径2mmφ、直径40mmの円状の線材を、4分割したのち一方の先端を針状に研磨し用いた。
図9において表されている4本の太線13は、上記の線材において4分割する際の切断個所を示している。その後、4分割した円弧状の線材を加工して、
図10に示したような円弧状の針14を得た。この円弧状の針14を保持部に接続して、以下の実施例・比較例を実施した。この円弧状の針14における針の厚さとは、円弧状に伸びている針の全体形状を特徴的に表している面と垂直方向の針の長さ、即ち4分割する前の線材の直径15を示している。
【0082】
(予備賦形器、押圧子)
実施例においては、押圧子であるP1はPTFE製の直径40mmの半球体の形状である。P1はエアーシリンダーを用いて駆動させ、成形材料の上から金型の下型へ押し付けるよう稼働させ、予備賦形を行った。押圧子であるP2およびP3は、PTFE製の長さ150mm、直径30mmの円筒状の丸棒の形状である。P2およびP3をエアーシリンダーを用いて駆動させ、成形材料の上から金型の下型へ押し付けるよう稼働させ、予備賦形を行った。実施例・比較例においてはPTFE製(熱伝導率:0.23W/m・K)の押圧子を用いた。但し実施例10においては、アルミニウム製(熱伝導率:236W/m・K)の押圧子を用いた。なお、成形材料の熱伝導率は0.38W/m・Kであった。
【0083】
(予備賦形率)
予備賦形率とは、予備賦形成形体(第2の予備賦形成形体)と製品図面との形状差を数値で示した値である。例えば、製品図面と同一の形状の予備賦形成形体が得られれば予備賦形率100%となり、まったく同一平面が存在しない場合は、0%となる。実際の予備賦形率の算出方法は、3Dカメラ式形状測定機:GOM mbh社製ATOSIII Triple Scan(測定機器商品名)を用いて予備賦形成形体の形状をステレオカメラ式3D測定機を用いて計測する。その計測したデータを3D−CADソフトウェア(computer-aided design software):GOM mbh社製GOM Professional(ソフトウエア商品名)を用いて3D−CAD図面化する。この予備賦形成形体のCAD図面の形状とプレス成形体の設計図からのCAD図面の形状とをベストフィット法によって重ね合わせ、ベストマッチング操作を行った。具体的には、プレス成形体の製品面から法線方向に成形材料厚みの2倍以上乖離している部位の面積を求め、その面積比から下記数式(3)により予備賦形率を定義した。
予備賦形率=(A−B)/A×100(%) (3)
A:予備賦形後の第2の予備賦形成形体(第2の予備賦形成形体)の表面積
B:プレス成形体の製品面から法線方向に成形材料の厚みの2倍以上乖離している部位の面積
なおベストフィットとは、平面または曲面形状の評価の前処理として、設計形状と実測値とを重ね合わせる処理のことである。ベストフィット法によるベストマッチング操作とは、あらかじめプレス成形体の設計段階で作成しておいたプレス成形体の形状に関する3Dデータと、得られた第2の予備賦形成形体を計測して得られた3Dデータを用いて、両データから偏差量を求め、その二乗和が最小となる座標系を求めて、設計データを重ね合わせる操作を言う。
【0084】
(針の表面処理)
円弧状の針の全表面にPTFEを含むワニスを塗布したのち、硬化しPTFEコーティングを行った。
【0085】
(針の表面塗布)
エマルジョン離型剤は、信越化学工業株式会社製KM−722T(商品名)シリコーン系離型剤を10倍に希釈して使用した。加熱された成形材料を円弧状の針で吊り上げる工程21の前に、離型剤希釈液を満たしたバスに円弧状の針を接触させ針表面に離型剤希釈液を付着させた。
【0086】
(保持器および予備賦形器の動作)
保持器および押圧子は、搬送器に吊り下げられている成形材料の面に対し水平方向および鉛直方向に移動可能である。この時、それぞれの保持器および押圧子の移動タイミングおよび移動距離によって予備賦形形状は大きく異なる。すなわち、これらの動作仕様、配置などによって本発明の予備賦形率は変化する。本発明の実施例における、動作例について表1、表2にまとめた。
図4中の矩形および楕円形の位置は、予備賦形後の第1の予備賦形成形体およびプレス成形体において、成形材料の搬送時、予備賦形時の保持器および押圧子の接触位置を示している。
これらの予備賦形動作は、2ステップまたは3ステップ以上に分けることが可能である。
【0087】
また、各保持器間の直線距離は、以下のような手法により測定した。両端に印をつけた糸の一つの糸の端を片方の保持器に固定し、相手方の保持器に張力を掛けた状態で糸の他方の端を接触させる。この状態で双方の保持器を動作させ、動作させた時の双方の保持器と糸との関係を高速ビデオカメラで録画し動作中の糸の印と保持器との関係から、保持器間の距離をリアルタイムで計測した。保持器間の距離を測定した一例としてこの方法で測定したG4−G6間距離のうち、予備賦形前と予備賦形後の値を表3〜表5に示した。また、G4の停止位置として金型のキャビティ内で最も適切な位置を停止位置0mmと定め、保持器G4の動作距離がこれより長い場合をプラス値で、短い場合をマイナス値で、mm単位で表3〜表5に示した。
【0088】
(動作例)
本発明においては、搬送器により成形材料が金型の下型の上に移動した後の予備賦形の動作例として、各保持器および各押圧子を以下の様に駆動させる5種類の動作例を実施した。
1)動作例1:
・ステップ1;押圧子P2,P3は鉛直方向に押しながら、保持器G1は水平方向に移動後、成形材料を保持器から解放する。保持器G2,G3,G4は水平方向に移動した状態でそのまま保持し、保持器G5,G6は鉛直方向に移動しそのまま保持する。保持器G7は、水平方向に移動後鉛直方向に移動した後そのまま保持する。
・ステップ2;保持器G7は成形材料を解放する同時に押圧子P1を鉛直方向に押し下げる。
・ステップ3;保持器G2〜G6の各保持器が成形材料を解放し、予備賦形が完了する。
2)動作例2:動作例1に対し、G6が鉛直方向に押し下げるタイミングをステップ2にすると、ステップ1において保持器G5および保持器G6間の直線距離に大きな変化が発生する。その結果、G5およびG6の間で成形材料が引き延ばされ亀裂が発生する。
3)動作例3:ステップ1にてすべての保持器および予備賦形器を動作させ、押圧子は鉛直方向に押し下げ、保持器は水平移動または鉛直移動を行った。G7は水平移動および鉛直移動を行った。
ステップ2にてG1,G2,G3,G4,G5,G6,G7は成形材料を解放した。この場合、やはり保持器−押圧子間距離に差が発生し、G7およびG6の間で成形材料が延ばされ亀裂が発生した。
4)動作例4:動作例1に対して、ステップ1にて保持器G1,G3,G7が成形材料を解放したのち、ステップ2にて押圧子P1を鉛直方向に押し下げ、成形材料を下型に押し付けた。その結果、下型における垂直方向の成形材料がズレ落ちた。
5)動作例5:動作例1に対し、ステップ2において、押圧子P1,P2,P3を同時に鉛直方向に押し下げ、成形材料を下型に押し付けた。その結果、合わせ面が重なり合わず開いてしまった。
【0089】
以上の動作例1〜5における保持器と押圧子の作動の仕方を表1および表2に纏めた。表1および表2において各保持器および各押圧子が独立して、各ステップごとに上欄から下欄に向けて記載された動作を実行することを表している。このうち、“○”印のあるステップでそれぞれ欄に記載された鉛直押し、水平移動、解放、または鉛直移動の動作を実行することを表している。一方、空欄は、各保持器および各押圧子が何も動作しないことを表している。
【0090】
【表1】
【0091】
【表2】
【0092】
(変動率)
本発明における変動率の説明、測定評価について説明する。上記の様に搬送器に配置されている1つまたは複数の保持器および1つまたは複数の押圧子について、成形材料が保持器により搬送器に吊上げられてから、予備賦形を実行するまでのリアルタイムで各保持器または押圧子から他の保持器または押圧子の間の距離を計測する。すなわち、一の保持器または押圧子と、他の保持器または押圧子の組合せの数だけのリアルタイムの距離を計測することとなる。また、この場合の「距離」とは点同士の最短距離ではなく、保持器からの「距離」、または保持器への「距離」とは成形材料の表面に沿って最短距離となる様に結んだ線の長さを表す。また、基材表面に沿って直線で結んだ場合に、成形材料の外周からはみ出してしまう場合には、変動率の計測の対象外とした。そのうち予備賦形前と予備賦形後の値について、下記数式(1)より変動率を算出した。本発明においては、この変動率が−10%〜10%であることが好ましい。
変動率=(C−D)/D×100(%) (1)
C:予備賦形後の一の円弧状の針の位置または押圧子と成形材料の接触位置から他の円弧状の針の位置または押圧子と成形材料の接触位置までの成形材料の表面にそった最短距離
D:予備賦形前の一の円弧状の針の位置または押圧子と成形材料の接触位置から他の円弧状の針の位置または押圧子と成形材料の接触位置までの成形材料の表面にそった最短距離
「距離」計測時の保持器側の位置は、円弧状の針の位置であり、詳細には成形材料における針の突き刺し位置である。予備賦形器の形状中心としては、押圧子が成形材料に接触する部分の形状の重心である。この変動率の値を上記の数値範囲にすることで、予備賦形前後において成形材料から第1の予備賦形成形体への賦形において、予備賦形に寄与しない成形材料の伸び、たるみの発生を防ぎ、シワ、立面の基材落ちがなく、所望の厚みを有する第1の予備賦形成形体を得ることができる。
【0093】
なお、実施例、比較例において、成形材料、第2の予備賦形成形体、プレス成形体の物性、評価等は以下の操作により実施した。
(a)平均炭素繊維長
炭素繊維の平均繊維長は成形材料、予備賦形成形体、プレス成形体から無作為に抽出した100本の繊維の繊維長を、ノギス等を用いて1mm単位まで測定し、下記数式(4)、(5)に基づいて求めることができる。等方性成形材料からの強化繊維の抽出法は、例えば、等方性成形材料に500℃×1時間程度の加熱処理を施し、炉内にて熱可塑性樹脂を除去することによって行うことができる。
個数平均繊維長:Ln=ΣLi/j (4)
(Li:強化繊維の単糸の繊維長、j:強化繊維の本数)
重量平均繊維長:Lw=(ΣLi
2)/(ΣLi) (5)
なお、ロータリーカッターで切断した場合など、繊維長が一定長の場合は数平均繊維長と重量平均繊維長は極めて近い値とみなせる。
【0094】
(b)炭素繊維容積比率
成形材料から100mm×100mmの角板を切り出し、その重量w0(g)を測定した。次に切り出した角板状の成形材料を空気中で500℃×1時間加熱し、成形材料を構成している熱可塑性樹脂成分を焼き飛ばして残った炭素繊維の重量w1(g)を測定した。その測定結果から下記数式(6)により炭素繊維の重量比率Wfを求めた。同一の成形材料から角板状の成形材料を、任意に3枚サンプリングし、同様に測定を行い平均値を求めた。
炭素繊維の重量比率:
Wf=(炭素繊維の重量:w1)/(成形材料の重量w0)×100 (6)
次に各成分の比重を用い、下記数式(7)により炭素繊維容積比率Vfを算出した。なお、一般的に炭素繊維容積比率Vfと炭素繊維重量比率Wfの間には下記数式(7)が成立する。
1/Vf=1+ρf/ρm(1/Wf−1) (7)
【0095】
(c)成形材料、予備賦形成形体、プレス成形体の基材の厚さ
成形材料、予備賦形成形体、プレス成形体の基材の厚さは、成形体について任意に選択した10点について、ノギス等を用いて0.1mm単位まで測定し平均値を求めた。
【0096】
(d)成形材料の保持部の長さ、鉤針の厚さ
成形材料の保持部の長さはノギスを用いて、保持器が成形材料に付与した痕跡を直線距離で0.1mm単位まで測定した。直線距離が0.1mm未満と認められる場合には、点で保持していると判断した。円弧状の針の厚さとしては、針の全体形状を特徴的に表している面(例えば、円弧、楕円形の円弧)に対して垂直方向の針の長さを、ノギスを用いて、0.1mm単位まで測定した。
【0097】
(e)重ね合わせ率
成形材料を予備賦形する際、1もしくは2以上の成形材料の一部同士を重ね合わせて立面を予備賦形する際に、以下の数式(2)で表される重ね合わせ部分の最大長さはノギス等を用いて0.1mm単位まで測定する。厚さにばらつきがある場合には上記のとおり任意に選択した10点の数平均値を採用した。
重ね合わせ率(%)
=重ね合わせ部分の最大長さ/成形材料の厚み×100 (2)
本実施例、比較例においては、
図3に示した形状の成形材料を基にプレス成形体を製造したので、重ね合わせ部分の最大長さとしては、
図3において双方向矢印の部分の長さを採用した。なお、
図3において、破線が重ね合わされた部分とプレス成形体の製品面となる部分との境界線を示す。
【0098】
(f)軟化温度
熱可塑性樹脂の軟化温度は、熱可塑性樹脂が結晶性樹脂である場合には、結晶融解温度、即ち融点Tmと、熱可塑性樹脂が非晶性樹脂である場合にはガラス転移温度Tgと定義する。Tm.Tgは熱可塑性樹脂を走査型熱分析装置を用いて、昇温速度10℃/分にて測定した値を用いた。
【0099】
(g)保持部の針の近似曲線半径、厚み
保持器の針の形状が円弧状の場合には、対応する円弧の半径を近似曲線半径として算出した。針の形状が楕円形の円弧の場合は、その楕円の長径の円と短径の円の半径の平均値を、近似曲線の半径として算出した。針の厚みは針の形状を表している面(例えば、円弧、楕円形の円弧)に垂直な方向の針の長さをマイクロメーターで計測した。
【0100】
(h)変動率
上記のように各保持器または押圧子から他の保持器または押圧子の間の基材表面に沿ってリアルタイムで測定した場合における、予備賦形前と予備賦形後の距離を計測し、下記数式(1)より変動率を算出した。本発明においては、この変動率が−10%〜10%であることが好ましい。
変動率=(C−D)/D×100(%) (1)
C:予備賦形後の一の円弧状の針の位置または押圧子と成形材料の接触位置から他の円弧状の針の位置または押圧子と成形材料の接触位置までの成形材料の表面にそった最短距離
D:予備賦形前の一の円弧状の針の位置または押圧子と成形材料の接触位置から他の円弧状の針の位置または押圧子と成形材料の接触位置までの成形材料の表面にそった最短距離
【0101】
(i)第1の予備賦形成形体、プレス成形体、保持器の針付着物等の評価
予備賦形成形体の評価は、予備賦形終了の段階で目視によりシワがなく、基材のずり落ち、合わせ面開きの現象が発生しなかったものを成形良好と判定した。一方、予備賦形終了の段階で目視によりシワが認められたり、基材のずり落ち、合わせ面開きの現象が発生したものを成形不良と、予備賦形が実施できなかったものを成形不可と判定した。
プレス成形体の外観評価は、成形体外観のシワの有無、立面での基材の金型シャーエッジ部へのはみ出しの有無、立面での基材のずり落ちの有無、合わせ面の開きの有無にて評価を行った。これらの現象を表3〜表5ではそれぞれ表面のシワの有無、立面からのはみ出し、立面基材落ち、合わせ面開きと称している。また、保持器の針への付着物の有無は、目視により判定を行った。
【0102】
(j)熱伝導率
成形材料、押圧子等の各素材の熱伝導率は、熱線(ヒーター線)の発熱量と温度上昇量から、熱伝導率を直接測定する熱線法により測定した値を用いた。
【0103】
[実施例1]
製造例1において製造した重量平均炭素繊維長20mmの炭素繊維とナイロン6樹脂を用いて得た炭素繊維容積比率Vfが30容積%であり、プレス成形体相当厚み2.5mm相当(成形材料厚み2.6mm)の等方性を有する成形材料となる基材を用いた。この基材を
図3の太線で外枠を示した形状にカットし、遠赤外線ヒータにて成形材料表面温度が290℃になるように加熱した。この時の加熱時間は420秒であった。加熱方法は金属格子の上に基材を置き、金属格子の上下両面にセットされた遠赤外線ヒータによって基材を加熱し、所定の時間経過後、金属格子ごと基材を外へ引出した。次に引出した金属格子上の加熱済みの基材の上部に保持器を有する保持部を備えた搬送器を配置させ、保持部5を基材の約10mm上方まで降下させた。続いて、保持器先端の円弧状の針を6aから6bの位置へ回転させ、円弧状の針を基材に突き刺し、搬送器を上方に移動させ加熱済み基材を吊り上げ保持した。この時用いた円弧状の針は、全体の形状は中心角が90度で半径20mmの円弧状の形状で断面が直径2mmの円形状であり、これは直径40mmの円形の線材を
図9に示すように4つに切断し、一方の端を切削して製造した針である(
図10参照。)。またその円弧状の表面はPTFEでコートされている。厚さ2.5mmの成形材料を上記の円弧状の針で吊り上げた場合、円弧状の針で保持される成形材料の距離(保持部分の長さ)は3.5mmであった。
【0104】
次に基材を吊り上げた搬送器を圧縮成形用金型面から上空30mmの圧縮成形用金型の上型と下型の間に搬送させたのち、保持器および押圧子を表1の動作例1に従って駆動させ成形材料に対して予備賦形を行った。この時、押圧子P1は保持器G6とG7の間等に、押圧子P2は保持器G2とG5の間に、押圧子P3は保持器G4とG5の間等に配置されている。その結果、立面を有し、成形材料の一部が重ね合わさっている第1の予備賦形成形体を金型の下型の上で成形した。この時、G4−G6間の成形材料の表面に沿った最短距離は、予備賦形前が285mm、予備賦形後が287mmとほぼ等長の関係であった。また動作例1の各ステップにおいても、保持器および押圧子の動作速度をエアーシリンダーに送る空気流量を調整し距離間隔が一定となるように調整した。その結果、動作例1のステップ1,2,3におけるG4−G6間の変動率は、0〜3%以内であった。
固化冷却後の第2の予備賦形成形体を金型からとり出し、形状を計測し上述の手法により予備賦形率を算出した。次に、別途予備賦形が完了した第1予備賦形成形に対して、ただちに圧縮成形用金型を閉じ加圧し圧縮成形を行って立面を有するプレス成形体を得た。この時、圧縮成形用金型温度は150℃に調整され、プレス成形体の金型開閉方向への投影面積換算で20MPaの圧力で加圧し賦形を行った。加圧を35秒間保持し、プレス成形体温度が180℃となった状態で金型を開けプレス成形体を取り出した。更にこの一連の成形動作を10回繰り返し、一連のプレス成形動作が安定性を持って作動できることを確認した。
【0105】
上記の操作の結果、予備賦形成形体は、予備賦形率90%であった。また立面と底面の角部合わせ部の重ね合わせ率は800%であった。この時、加熱済み基材の吊り上げ状況は良好であり、また10回連続後に針への樹脂付着を確認したところ、付着物は認められなかった。また得られたプレス成形体は、立面での金型シャーエッジ部へのはみ出し、立面での基材のずり落ちによるショート、合わせ面の開きが無く良好なプレス成形体が得られた。
【0106】
[実施例2]
実施例1において重量平均炭素繊維長20mm、炭素繊維容積比Vfが30容積%の成形材料を用いる代わりに、製造例1において製造した重量平均炭素繊維長10mmの炭素繊維とナイロン6樹脂を用いて得た炭素繊維容積比率Vfが40容積%であり、プレス成形体相当厚み2.5mm相当(成形材料厚み2.6mm)の等方性を有する成形材料を用いた。この成形材料を用いる以外の他の条件は実施例1と同様の条件にて予備賦形および圧縮成形を実施しプレス成形体を製造した。10回の繰り返し成形も行った。その結果、実施例1と同等に良好なプレス成形体を安定して得ることができた。
【0107】
[実施例3]
実施例1において重量平均炭素繊維長20mm、炭素繊維容積比Vfが30容積%の成形材料を用いる代わりに、製造例1において製造した重量平均炭素繊維長20mmの炭素繊維とナイロン6樹脂を用いて得た炭素繊維容積比率Vfが30容積%であり、プレス成形体相当厚み3.5mm相当(成形材料厚み3.6mm)の等方性を有する成形材料を用いた。この成形材料を用いる以外の他の条件は実施例1と同様の条件にて予備賦形および圧縮成形を実施しプレス成形体を製造した。10回の繰り返し成形も行った。その結果、実施例1と同等に良好なプレス成形体を安定して得ることができた。
【0108】
[実施例4]
実施例1において、断面が直径2mmの円形状の円弧状の針を用いる代わりに、断面が厚み2mm×幅3mmの矩形の形状の円弧状の針を用いた。この針を用いた時の円弧状の針の厚さは2mmであった。他の条件は実施例1と同様の条件にて予備賦形および圧縮成形を実施しプレス成形体を製造した。10回の繰り返し成形も行った。この時の円弧状の針による成形材料を保持する距離(保持部分の長さ)は実施例1と同様に3.5mmであった。その結果、実施例1と同等に良好なプレス成形体を安定して得ることができた。
【0109】
[実施例5]
実施例1において、断面が直径2mmの円形状の円弧状の針を用いる代わりに、断面が直径1.5mmの円形の円弧状の針を用いた。他の条件は実施例1と同様の条件にて予備賦形および圧縮成形を実施しプレス成形体を製造した。10回の繰り返し成形も行った。この時の円弧状の針による成形材料を保持する距離(保持部分の長さ)は実施例1と同様に3.5mmであった。その結果、実施例1と同等に良好なプレス成形体を安定して得ることができた。
【0110】
[実施例6]
実施例1において、重ね合わせ率のみ400%となるように、成形材料となる基材をカットした。具体的には、成形時に成形材料が重なることになる領域、すなわち
図3において保持器G3、G7で保持される領域周辺の台形部分の面積が実施例1で用いた成形材料より小さくなるようにカットした。その他の条件は実施例1と同様の条件にて予備賦形および圧縮成形を実施しプレス成形体を製造した。10回の繰り返し成形も行った。その結果、予備賦形率90%で実施例1と同様に良好なプレス成形体を安定して得ることができた。
【0111】
[実施例7]
円弧状の針の表面にPTFEコート処理をせず、代わりに、加熱済み成形材料に針を突き刺す前に針表面に通常の水を接触させた。それ以外は、実施例1と同様の条件にて予備賦形および圧縮成形を実施しプレス成形体を製造した。その結果、10回連続で成形を行った後も、円弧状の針の針表面に成形材料を構成する熱可塑性樹脂の付着は認められなかった。
【0112】
[実施例8]
円弧状の針の表面にPTFEコート処理をせず、代わりに、加熱済み成形材料に針を突き刺す前に針表面にシリコーンエマルジョン系離型剤の水希釈液を接触させた。それ以外は、実施例1と同様の条件にて予備賦形および圧縮成形を実施しプレス成形体を製造した。その結果、10回連続で成形を行った後も、円弧状の針の針表面に成形材料を構成する熱可塑性樹脂の付着は認められなかった。
【0113】
[実施例9]
実施例1に対し、円弧状の針の表面にPTFEコート処理を施さない状態で、実施例1と同様の条件にて10回連続の予備賦形および圧縮成形を行った。その結果、4回目までは正常に成形ができたが、4回目以降、予備賦形後の円弧状の針の解放動作時に針の表面に成形材料が付着し、第1の予備賦形成形体が大きくずれる現象が発生した。なお、プレス成形体の評価は1回目成形操作で得られたプレス成形体の評価結果を示している。
【0114】
[実施例10]
実施例1において、PTFE製の押圧子を備えた予備賦形器を用いる代わりに、アルミニウム製の押圧子を備えた予備賦形器を用いた。それ以外は、実施例1と同様の条件にて予備賦形および圧縮成形を実施しプレス成形体を製造した。その結果、予備賦形後の第1の予備賦形成形体における押圧子が接触した部位に押圧子の先端の押し付け跡が残った。しかし、その後の圧縮成形で押し付け跡は若干残ったものの、プレス成形体の外観を大きく損なうものではなかった。
【0115】
[比較例1]
実施例1において、重量平均炭素繊維長20mm、炭素繊維容積比Vfが30容積%の成形材料を用いる代わりに、製造例1において製造した重量平均炭素繊維長1mmの炭素繊維とナイロン6樹脂を用いて得た炭素繊維容積比率Vfが30容積%であり、プレス成形体相当厚み2.5mm相当(成形材料厚み2.6mm)の成形材料を用いて成形を行った。それ以外は、実施例1と同様の条件にて予備賦形および圧縮成形を実施しプレス成形体の製造を試みた。しかし、円弧状の針を突き刺し成形材料を吊り下げる段階で、成形材料が破れ落下し搬送が困難であった。その結果プレス成形体を製造することができなかった。
【0116】
[比較例2]
実施例1において、保持器および押圧子の動作を表1記載の動作例1で実施する代わりに、動作例2を実施して予備賦形を行い、次いで圧縮成形を試みた。動作例2のステップ1にて一時的にG5−G6間距離が308mmとなり変動率が10%を超えた状態となった。そののち、ステップ2にてG5−G6間距離は287mmとなり変動率は低下した。しかし、ステップ1の段階でG5−G6間で基材の破れが発生して第1の予備賦形成形体の表面にシワが発生し成形不良となった。また、この時予備賦形率は74%であった。
【0117】
[比較例3]
実施例1において、保持器および押圧子の動作を表1記載の動作例1で実施する代わりに、動作例3を実施して予備賦形を行い、次いで圧縮成形を試みた。G6−G7間距離は、予備賦形前は83mmにであったのに対し、ステップ1に動作中に一時的に96mmとなった。このステップ1にて変動率が10%を超え、その結果、G6、G7間で基材の破れが発生し第1の予備賦形成形体表面にシワが発生した。この時予備賦形率は68%であった。
【0118】
[比較例4]
実施例1において、保持器および押圧子の動作を表1記載の動作例1で実施する代わりに、表2記載の動作例4を実施して予備賦形を行い、次いで圧縮成形を試みた。その結果、立面合わせ部付近の基材がずり落ち、正常な形状の第1の予備賦形成形体が得られなかった。この時の予備賦形率は34%であった。
【0119】
[比較例5]
実施例1において、保持器および押圧子の動作を表1記載の動作例1で実施する代わりに、表2に記載の動作例5を実施して予備賦形を行い、次いで圧縮成形を試みた。その結果、立面の重ね合わせ部が正常に合わないで、合わせ面が開いた第1の予備賦形成形体となった。この時の予備賦形率は71%であった。
【0120】
[比較例6]
実施例1において、G4の水平方向の移動距離を15mm短くするとともに、G6およびG5の鉛直方向の移動距離を調整しG4−G6の予備賦形前、予備賦形後の距離が変動しないようにした。その他の条件は、実施例1と同等である。この得られた第1の予備賦形成形体の予備賦形率は、75%であった。しかし、実施例1と同様に圧縮成形を行ったところ、金型の立面の外側に成形材料がはみ出した状態で型締めを行ったため、金型シャーエッジ部に成形材料を噛んでしまい、その結果、製品部に十分に成形圧力がかからなかった。その為、シワの跡が残るなどプレス成形体の外観が悪化した。
【0121】
[比較例7]
保持器が円弧状の針ではなく、市販されているニードルグリッパーを用いたプレス成形体の実験例である。
シュマルツ株式会社製SNG−Y−12−2.0−V(商品名)を搬送器にセットして実施例1と同様な動作をさせた。このニードルグリッパーは、直線状の針が、12本交差するように配列され、保持器が成形材料を保持している長さは約110mmであった。この場合、押圧子で成形材料を押しても成形材料が追従することなく、成形材料が引っ張られ、千切れ、予備賦形は実施困難であった。
以上の実施例1〜10および比較例1〜7について、成形条件と、予備賦形成形体およびプレス成形体の評価結果を纏めて表3〜表5に示した。
【0122】
【表3】
【0123】
【表4】
【0124】
【表5】