特許第6574518号(P6574518)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6574518
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】管の拡径方法および成形装置
(51)【国際特許分類】
   B21D 41/02 20060101AFI20190902BHJP
   B21D 22/14 20060101ALI20190902BHJP
   B21C 37/16 20060101ALI20190902BHJP
【FI】
   B21D41/02 C
   B21D22/14 Z
   B21C37/16
【請求項の数】13
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-505550(P2018-505550)
(86)(22)【出願日】2016年3月14日
(86)【国際出願番号】JP2016001438
(87)【国際公開番号】WO2017158635
(87)【国際公開日】20170921
【審査請求日】2018年9月3日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井川 憲
(72)【発明者】
【氏名】今村 嘉秀
(72)【発明者】
【氏名】三上 恒平
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 勇人
(72)【発明者】
【氏名】平川 岳生
【審査官】 豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/087752(WO,A1)
【文献】 米国特許第01983584(US,A)
【文献】 特開昭61−067528(JP,A)
【文献】 特開昭62−062078(JP,A)
【文献】 特開平11−000732(JP,A)
【文献】 特公昭29−008663(JP,B1)
【文献】 特開2016−013567(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第00081700(EP,A1)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が回転台に固定された管をその中心軸回りに回転させる工程と、
前記管の軸方向に延びる棒状ローラを前記管の他端から前記管内に挿入し、前記管の他端から所定位置までの成形領域に接触させる工程と、
前記管の内周面または外周面と対向する加熱ヘッドを含む加熱器を用いて前記管の成形領域を加熱する工程と、
前記管の所定位置から一端までの非成形領域における少なくとも前記成形領域に近接する部分を冷却する工程と、
前記棒状ローラを前記管の成形領域に接触した状態から前記管の一端から他端に向かう方向および前記管の径方向外向きに移動させるとともに、前記加熱ヘッドを、前記棒状ローラの移動に同調して前記管の径方向に移動させる工程と、
を含む管の拡径方法。
【請求項2】
前記管の成形領域を、前記管の外側から加熱する、請求項1に記載の管の拡径方法。
【請求項3】
前記管の成形領域を、誘導加熱により加熱する、請求項1または2に記載の管の拡径方法。
【請求項4】
前記管の非成形領域を、前記管の外周面に冷却媒体を供給する冷却ヘッドを含む冷却器を用いて冷却し、
前記棒状ローラを前記管の成形領域に接触した状態から前記管の一端から他端に向かう方向および前記管の径方向外向きに移動させる際には、前記冷却ヘッドを、前記棒状ローラの移動に同調して前記管の軸方向および径方向に移動させる、請求項1〜の何れか一項に記載の管の拡径方法。
【請求項5】
前記管の少なくとも他端を径方向外側から補助ローラで支持しながら、前記棒状ローラを前記管の成形領域に接触した状態から前記管の一端から他端に向かう方向および前記管の径方向外向きに移動させる、請求項1〜の何れか一項に記載の管の拡径方法。
【請求項6】
前記棒状ローラの先端はフラットである、請求項1〜の何れか一項に記載の管の拡径方法。
【請求項7】
前記管は、8mm以上の厚さを有する、請求項1〜の何れか一項に記載の管の拡径方法。
【請求項8】
管の一端が固定される回転台と、
前記管の軸方向に延びる棒状ローラであって、前記管の他端から前記管内に挿入されて前記管の他端から所定位置までの成形領域に接触させられる棒状ローラと、
前記管の内周面または外周面と対向する加熱ヘッドを含み、前記管の成形領域を加熱する加熱器と、
前記管の所定位置から一端までの非成形領域における少なくとも前記成形領域に近接する部分を冷却する冷却器と、
前記棒状ローラを前記管の軸方向および径方向に移動させるローラ用移動装置と、
前記ローラ用移動装置が前記棒状ローラを前記管の成形領域に接触した状態から前記管の一端から他端に向かう方向および前記管の径方向外向きに移動させる際に、前記加熱ヘッドを、前記棒状ローラの移動に同調して前記管の径方向に移動させる加熱ヘッド用移動装置と、
を備える、成形装置。
【請求項9】
前記管の成形領域の温度を検出する第1温度センサと、
前記管の非成形領域における前記成形領域に近接する部分の温度を検出する第2温度センサと、
前記第1温度センサで検出される温度に基づいて前記加熱器を制御するとともに、前記第2温度センサで検出される温度に基づいて前記冷却器を制御する制御装置と、をさらに備える、請求項に記載の成形装置。
【請求項10】
前記加熱器は、前記成形領域を誘導加熱により加熱する、請求項またはに記載の成形装置。
【請求項11】
前記冷却器は、前記管の外周面に冷却媒体を供給する冷却ヘッドを含み、
前記ローラ用移動装置が前記棒状ローラを前記管の成形領域に接触した状態から前記管の一端から他端に向かう方向および前記管の径方向外向きに移動させる際に、前記冷却ヘッドを、前記棒状ローラの移動に同調して前記管の軸方向および径方向に移動させる冷却ヘッド用移動装置をさらに備える、請求項10の何れか一項に記載の成形装置。
【請求項12】
前記ローラ用移動装置が前記棒状ローラを前記管の成形領域に接触した状態から前記管の一端から他端に向かう方向および前記管の径方向外向きに移動させる際に、前記管の少なくとも他端を径方向外側から支持する補助ローラをさらに備える、請求項11の何れか一項に記載の成形装置。
【請求項13】
前記棒状ローラの先端はフラットである、請求項12の何れか一項に記載の成形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管の拡径方法およびこれを実行する成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、スピニング成形により、管を部分的に拡径する方法が知られている。例えば、特許文献1には、一対の円盤ローラを用いた管の拡径方法が開示されている。
【0003】
具体的に、特許文献1に開示された拡径方法では、一端が回転台に固定された管が、管内に配置された第1ローラと管外に配置された第2ローラとで挟まれた状態で、その中心軸回りに回転される。その後、第1ローラおよび第2ローラを管の一端から他端に向かう方向および径方向外向きに移動させる。その結果、第1ローラが管を押圧し、その押圧位置から他端までの部分が拡径される。第2ローラは、拡径された部分の成形性を高める役割を果たす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−246353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、管内に配置された円盤ローラを管の径方向および軸方向に移動させることにより管を拡径した場合には、図7に示すように、円盤ローラよりも管の他端側の部分が元の径を維持しようとするために、円盤ローラよりも管の一端側の部分に引張りによる減肉(いわゆる、ネッキング)が発生する。このようなネッキングの発生を抑制するためには、円盤ローラの代わりに、管の軸方向に延びる棒状ローラを用いることが望ましい。
【0006】
しかしながら、棒状ローラを用いた場合には、管の拡径対象領域である成形領域の広範囲を押圧する必要があるため、棒状ローラを径方向外向きに大きな力で押し込む必要がある。これに対し、管の成形領域を加熱すれば、棒状ローラの押し込み力を低減することができる。
【0007】
しかしながら、管の成形領域を加熱した場合には、成形領域に大きな熱量が与えられ、その熱量が成形領域よりも管の一端側の領域である非成形領域にも伝達される。このため、棒状ローラを成形領域に押圧したときに、非成形領域も変形してしまう。
【0008】
そこで、本発明は、加熱された管の成形領域に棒状ローラが押圧されたときの非成形領域の変形を抑制できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明は、一端が回転台に固定された管をその中心軸回りに回転させる工程と、前記管の軸方向に延びる棒状ローラを前記管の他端から前記管内に挿入し、前記管の他端から所定位置までの成形領域に接触させる工程と、前記管の成形領域を加熱する工程と、前記管の所定位置から一端までの非成形領域における少なくとも前記成形領域に近接する部分を冷却する工程と、前記棒状ローラを前記管の成形領域に接触した状態から前記管の一端から他端に向かう方向および前記管の径方向外向きに移動させる工程と、を含む管の拡径方法を提供する。
【0010】
上記の構成によれば、加熱された管の成形領域に棒状ローラが押圧されるため、ネッキングの発生を抑制しつつ比較的に小さな押し込み力で成形領域を拡径することができる。しかも、管の非成形領域における少なくとも成形領域に近接する部分が冷却されるため、加熱された成形領域に棒状ローラが押圧されたときの非成形領域の変形を抑制することができる。
【0011】
前記管の成形領域を、前記管の外側から加熱してもよい。この構成によれば、管の内側から成形領域を加熱する場合に比べ、棒状ローラの押圧によって形成されるおそれのある管の内周面の隆起を抑制することができる。
【0012】
前記管の成形領域を、誘導加熱により加熱してもよい。バーナーを用いて管の成形領域を加熱した場合には、成形領域と非成形領域との間での温度勾配が緩やかになる。これに対し、誘導加熱により成形領域を加熱した場合には、成形領域と非成形領域との間での温度勾配が急になる。従って、誘導加熱により成形領域を加熱すれば、非成形領域の変形をより効果的に抑制することができる。換言すれば、非成形領域における棒状ローラの軌跡を示すテーパー部を精度良く形成することができる。
【0013】
前記管の成形領域を、前記管の内周面または外周面と対向する加熱ヘッドを含む加熱器を用いて加熱し、前記棒状ローラを前記管の成形領域に接触した状態から前記管の一端から他端に向かう方向および前記管の径方向外向きに移動させる際には、前記加熱ヘッドを、前記棒状ローラの移動に同調して前記管の径方向に移動させてもよい。この構成によれば、管の成形領域と加熱ヘッドの間の距離を略一定に保つことができ、成形領域を安定的に加熱しながら拡径することができる。
【0014】
前記管の非成形領域を、前記管の外周面に冷却媒体を供給する冷却ヘッドを含む冷却器を用いて冷却し、前記棒状ローラを前記管の成形領域に接触した状態から前記管の一端から他端に向かう方向および前記管の径方向外向きに移動させる際には、前記冷却ヘッドを、前記棒状ローラの移動に同調して前記管の軸方向および径方向に移動させてもよい。この構成によれば、管の軸方向における棒状ローラの移動に伴って成形領域が徐々に狭くなっても、棒状ローラの先端と冷却ヘッドの位置関係は不変であるため、非成形領域における少なくとも成形領域に近接する部分を継続して冷却することができる。
【0015】
前記管の少なくとも他端を径方向外側から補助ローラで支持しながら、前記棒状ローラを前記管の成形領域に接触した状態から前記管の一端から他端に向かう方向および前記管の径方向外向きに移動させてもよい。この構成によれば、成形中の管の振れを防止することができる。
【0016】
前記棒状ローラの先端はフラットであってもよい。この構成によれば、棒状ローラの先端が半球状である場合に比べて、棒状ローラと非成形領域における棒状ローラの軌跡を示すテーパー部との干渉を抑制することができる。従って、管の成形領域を精度良く拡径することができる。
【0017】
例えば、前記管は、8mm以上の厚さを有してもよい。
【0018】
また、本発明は、管の一端が固定される回転台と、前記管の軸方向に延びる棒状ローラであって、前記管の他端から前記管内に挿入されて前記管の他端から所定位置までの成形領域に接触させられる棒状ローラと、前記管の成形領域を加熱する加熱器と、前記管の所定位置から一端までの非成形領域における少なくとも前記成形領域に近接する部分を冷却する冷却器と、前記棒状ローラを前記管の軸方向および径方向に移動させるローラ用移動装置と、を備える、成形装置を提供する。この成形装置を用いれば、上記の管の拡径方法を実行することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、加熱された管の成形領域に棒状ローラが押圧されたときの非成形領域の変形を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1実施形態に係る管の拡径方法を実行する成形装置の概略構成図である。
図2】成形を開始する前の管と棒状ローラの位置関係を示す図である。
図3】成形中の管と棒状ローラの位置関係を示す図である。
図4図2のIV−IV線に沿った断面図である。
図5図5Aは第1実施形態で用いられる加熱ヘッドの正面図、図5Bは変形例の加熱ヘッドの正面図、図5Cは別の変形例の加熱ヘッドの正面図である。
図6】本発明の第2実施形態に係る管の拡径方法を実行する成形装置の概略構成図である。
図7】円盤ローラを用いたときに発生するネッキングを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第1実施形態)
まず、本発明の第1実施形態に係る管の拡径方法を説明する。本実施形態の拡径方法は、図1に示す成形装置1Aにより実行される。
【0022】
成形装置1Aは、スピニング成形により、管2を部分的に拡径する。管2を構成する材料は特に限定されるものではないが、本実施形態の拡径方法は、特に変形抵抗の高い金属からなる管2に有用である。変形抵抗の高い金属としては、例えば、ステンレス鋼やチタン合金などの難塑性加工材が挙げられる。難塑性加工材でなくても軟鋼やアルミニウム合金からなる管2でも厚さが8mm以上であれば、変形抵抗が高くなる。
【0023】
具体的に、成形装置1Aは、ベース11と、ベース11に回転可能に支持された回転台12を含む。回転台12は、図略のモータにより回転される。本実施形態では、回転台12の軸方向が鉛直方向であるが、回転台12の軸方向は水平方向などの他の方向であってもよい。
【0024】
回転台12には、管2の下端(一端)が、管2の中心軸20と回転台12の回転中心とが一致するように固定される。つまり、管2は、中心軸20回りに回転させられる。本実施形態では、管2の下端が、回転台12に設けられたチャック13によって回転台12に固定される。ただし、管2の下端の回転台12への固定方法はこれに限られない。例えば、チャック13の代わりに管2と嵌合する筒状体が回転台12に設けられ、その筒状体に管2の下端がボルトによって固定されてもよい。
【0025】
さらに、成形装置1Aは、管2を内側から押圧する棒状ローラ3と、管2を外側から加熱する加熱器4と、管2を外側から冷却する冷却器5を含む。
【0026】
棒状ローラ3は、管2の軸方向に延びており、円柱状をなしている。棒状ローラ3は、管2の上端(他端)から管2内に挿入されて、管2の上端から所定位置までの成形領域21に接触させられる。本実施形態では、棒状ローラ3の先端が、管2の軸方向と直交する面に平行なフラットである。このため、棒状ローラ3の周面は、曲率半径の小さな屈曲部を介して先端面につながっている。
【0027】
棒状ローラ3の軸方向は、必ずしも管2の軸方向と完全に平行である必要はなく、実質的に平行(例えば、それらの軸方向の角度差が±10度以内)であればよい。また、棒状ローラ3の周面は、管2の軸方向に平行な筒状であってもよいし、上向きまたは下向きに先細りとなるテーパー状であってもよい。さらに、棒状ローラ3の周面は、必ずしも平滑である必要はなく、多少の凹凸を有していてもよい。
【0028】
棒状ローラ3には、上端面から上方に突出するシャフト31が設けられている。シャフト31は、アーム15により回転可能に支持されている。つまり、棒状ローラ3は、管2の成形領域21に接触したときに、管2の回転に追従して回転する。
【0029】
アーム15は、ベース11から立ち上がる支柱14aに取り付けられた第1移動装置14に連結されている。第1移動装置14は、アーム15を介して棒状ローラ3を管2の軸方向および径方向に移動させるローラ用移動装置として機能する。本実施形態では、第1移動装置14が、軸方向が互いに直交する一対の直動アクチュエータを含む。各直動アクチュエータは、電動/油圧/空圧シリンダであってもよいし、ボールねじ機構であってもよいし、ラックアンドピニオン機構であってもよい。ただし、第1移動装置14は、ロボットアームであってもよい。
【0030】
加熱器4は、管2の成形領域21を加熱する。本実施形態では、加熱器4が、誘導加熱により管2の成形領域21を加熱する。具体的に、加熱器4は、図2に示すように、管2の外周面と対向する加熱ヘッド41と、加熱ヘッド41に埋め込まれた複数のコイル42と、コイル42に交流電圧を印加する交流電源回路43を含む。交流電圧の周波数は、5k〜400kHzの高周波数であることが望ましい。すなわち、誘導加熱は、高周波誘導加熱であることが望ましい。
【0031】
本実施形態では、図4に示すように、管2の周方向における加熱ヘッド41と棒状ローラ3の間の角度が180度であるが、管2の周方向における加熱ヘッド41と棒状ローラ3の間の角度は例えば90度などの別の角度であってもよい。また、本実施形態では、図4および図5Aに示すように、各コイル42が管2の周方向に長い長円状である。ただし、各コイル42は、図5Bに示すように、管2の軸方向に長い長円状であってもよい。あるいは、図5Cに示すように、コイル42が多角形(例えば、三角形)を描くように1つだけ設けられていてもよい。なお、加熱ヘッド41は、管2の周方向に並ぶように複数設けられていてもよい。
【0032】
図2に戻って、冷却器5は、管2の上述した所定位置から下端までの非成形領域22(すなわち、管2の成形領域21以外の領域)における少なくとも成形領域21に近接する部分(すなわち、上部)を冷却する。本実施形態では、冷却器5が、冷却媒体への熱伝達により管2の非成形領域22を冷却する。具体的に、冷却器5は、管2の外周面に冷却媒体を供給する冷却ヘッド51と、冷却ヘッド51へ冷却媒体を送り出す、回転数が変更可能な送出機52を含む。例えば、冷却媒体が気体(例えば、空気や不活性ガス)である場合は、送出機52は圧縮機であってもよいしファンであってもよい。あるいは、冷却媒体が液体(例えば、水や油)である場合は、送出機52はポンプであってもよい。
【0033】
加熱器4による成形領域21の加熱温度は、管2を構成する材料の融点の1/3以上であることが望ましく、融点の1/2以上であることがより望ましい。冷却器5による非成形領域22の上部の冷却温度は、成形領域21に棒状ローラが押圧されたときに非成形領域22の上部が変形しない程度であることが望ましい。
【0034】
特に、加熱器4は、成形領域21の全範囲をほぼ同一温度に加熱することが望ましい。また、冷却器5は、加熱器4による成形領域21の加熱温度が管2を構成する材料の融点の1/2以上である場合に、非成形領域22における上端から僅かな距離だけ離れた位置までの極小範囲で、温度が管2を構成する材料の融点の1/4以下まで低下するように、非成形領域22の少なくとも上部を冷却することが望ましい。例えば、極小範囲は、棒状ローラ3の屈曲部の高さと同程度である。
【0035】
本実施形態では、加熱器4の加熱ヘッド41と冷却器5の冷却ヘッド51が保持板18に取り付けられている。保持板18は、ベース11から立ち上がる支柱17aに取り付けられた第2移動装置17に連結されている。第2移動装置17は、保持板18を介して加熱ヘッド41を管2の軸方向および径方向に移動させる加熱ヘッド用移動装置として機能するとともに、保持板18を介して冷却ヘッド51を管2の軸方向および径方向に移動させる冷却ヘッド用移動装置として機能する。本実施形態では、第2移動装置17が、軸方向が互いに直交する一対の直動アクチュエータを含む。各直動アクチュエータは、電動/油圧/空圧シリンダであってもよいし、ボールねじ機構であってもよいし、ラックアンドピニオン機構であってもよい。ただし、第2移動装置17は、ロボットアームであってもよい。
【0036】
ただし、加熱ヘッド41がアーム15に取り付けられて、第1移動装置14が加熱ヘッド用移動装置として機能してもよい。あるいは、冷却ヘッド51がアーム15に取り付けられて、第1移動装置14が冷却ヘッド用移動装置として機能してもよい。さらには、第2移動装置17に代えて、加熱ヘッド41専用の移動装置と冷却ヘッド51専用の移動装置が別々に設けられていてもよい。
【0037】
加熱器4の交流電源回路43および冷却器5の送出機52は、制御装置6により制御される。例えば、制御装置6は、シーケンサ(登録商標)であってもよいし、CPUとROMやRAMなどのメモリを有するコンピュータであってもよい。
【0038】
制御装置6は、第1温度センサ61および第2温度センサ62に接続されている。第1温度センサ61は、管2の成形領域21の温度を検出し、第2温度センサ62は、管2の非成形領域22の上部の温度を検出する。例えば、第1温度センサ61および第2温度センサ62は、赤外線または可視光線に基づいて温度を検出する放射温度計である。
【0039】
本実施形態では、第1温度センサ61および第2温度センサ62がアーム15から垂れ下がるブラケット16に取り付けられている。つまり、第1温度センサ61および第2温度センサ62は、棒状ローラ3と一緒に移動する。ただし、第1温度センサ61および第2温度センサ62は、保持板18に取り付けられていてもよい。あるいは、第1温度センサ61および第2温度センサ62は、第1移動装置14および第2移動装置17とは異なる移動装置によって移動されてもよいし、定位置に固定されていてもよい。
【0040】
制御装置6は、加熱器4および冷却器5の出力を制御する。具体的には、制御装置6は、第1温度センサ61で検出される温度に基づいて加熱器4の交流電源回路43を制御するとともに、第2温度センサ62で検出される温度に基づいて冷却器5の送出機52を制御する。ただし、回転数が変更可能な送出機52の代わりに、回転数が固定の送出機と、送出機から冷却ヘッドまでの流路に設けられた流量制御弁を用い、その流量制御弁が制御装置6によって制御されてもよい。
【0041】
次に、図1図3を参照して、成形装置1Aが管2を部分的に拡径する際の動作を説明する。
【0042】
まず、第1移動装置14が、棒状ローラ3を管2の上端から管2内に挿入し、管2の成形領域21に接触させる(図2参照)。その後、回転台12により、管2が中心軸20回りに回転させられる。ただし、管2の回転は、棒状ローラ3が管2内に挿入される前に開始されてもよい。
【0043】
次に、加熱器4が成形領域21を加熱するとともに、冷却器5が非成形領域22の少なくとも上部を冷却する。成形領域21および非成形領域22が共に所望の温度になると、第1移動装置14が、棒状ローラ3を管2の成形領域21に接触した状態から管2の下端から上端に向かう方向(つまり、上向き)および管2の径方向外向きに移動させる。このとき、第2移動装置17が、加熱ヘッド41および冷却ヘッド51を棒状ローラ3の移動に同調して管2の軸方向および径方向に移動させる。ここで、「同調」とは、管2の軸方向および径方向のそれぞれにおいて、加熱ヘッド41および冷却ヘッド51の移動量が棒状ローラ3の移動量と同じことを意味する。例えば、後述するように管2の軸方向における棒状ローラ3の移動と管2の径方向における棒状ローラ3の移動が個別に断続的に行われる場合には、棒状ローラ3が管2の軸方向に移動されたときに、加熱ヘッド41および冷却ヘッド51が管2の軸方向のみに同じ量だけ移動させられ、棒状ローラ3が管2の径方向に移動されたときに、加熱ヘッド41および冷却ヘッド51が管2の径方向のみに同じ量だけ移動させられる。
【0044】
加熱ヘッド41および冷却ヘッド51が管2の軸方向および径方向に移動させられる間も、制御装置6は、第1温度センサ61で検出される温度が所望の温度となるように加熱器4の交流電源回路43を制御するとともに、第2温度センサ62で検出される温度が所望の温度となるように冷却器5の送出機52を制御する。
【0045】
棒状ローラ3が上向きに移動すると、それに伴って成形領域21が徐々に狭くなるとともに非成形領域22が徐々に広くなる(図3参照)。換言すれば、棒状ローラ3が上向きおよび径方向外向きに移動するにつれて、成形領域21の下端であった部分が拡径処理済のテーパー部(つまり、テーパー部は棒状ローラ3の軌跡を示す)となり、このテーパー部が非成形領域22の一部となる。
【0046】
管2の軸方向における棒状ローラ3の移動と管2の径方向における棒状ローラ3の移動は、共に連続的に行われてもよいし、それらが個別に断続的に行われてもよい。また、管2の軸方向における棒状ローラ3の移動量は、管2の径方向における棒状ローラ3の移動量に対して非常に大きくてもよいし(非成形領域22のテーパー部の角度が小さい)、非常に小さくてもよい(非成形領域22のテーパー部の角度が大きい)。
【0047】
棒状ローラ3の上向きおよび管2の径方向外向きへの移動は、図3に示すように成形領域21が所望量だけ拡径された時点で終了となる。これにより、管2を小径筒状部と大径筒状部の間にテーパー部が存在するように、換言すれば1つの段差部を有するように拡径することができる。その後、棒状ローラ3をいったん管2から離して少し上方に移動した後に、上述した動作を繰り返せば、管2を複数の段差部を有するように拡径することができる。ただし、棒状ローラ3を管2の上端まで上向きに移動させて、管2を小径筒状部とテーパー部のみを有するように拡径してもよい。
【0048】
以上説明したように、本実施形態の管の拡径方法では、加熱された管2の成形領域21に棒状ローラ3が押圧されるため、ネッキングの発生を抑制しつつ比較的に小さな押し込み力で成形領域21を拡径することができる。しかも、管2の非成形領域22の少なくとも上部が冷却されるため、加熱された成形領域21に棒状ローラ3が押圧されたときの非成形領域22の変形を抑制することができる。
【0049】
また、本実施形態では、加熱ヘッド41が管2の径方向における棒状ローラ3の移動に同調して管2の径方向に移動されるため、管2の成形領域21と加熱ヘッド41の間の距離を略一定に保つことができる。従って、成形領域21を安定的に加熱しながら拡径することができる。特に、本実施形態では、加熱ヘッド41が管2の軸方向における棒状ローラ3の移動に同調して管2の軸方向にも移動されるため、管2の軸方向における棒状ローラ3の移動に伴って成形領域21が徐々に狭くなっても、棒状ローラ3の先端と加熱ヘッド41の位置関係を不変とすることができる。
【0050】
さらに、本実施形態では、冷却ヘッド51が棒状ローラ3の移動に同調して移動されるため、管2の軸方向における棒状ローラ3の移動に伴って成形領域21が徐々に狭くなっても、棒状ローラ3の先端と冷却ヘッド51の位置関係は不変である。従って、非成形領域22における少なくとも上部を継続して冷却することができる。
【0051】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る管の拡径方法を説明する。本実施形態では、図6に示す成形装置1Bがその拡径方法を実行する。本実施形態では、管2の周方向における加熱ヘッド41と棒状ローラ3の間の角度が90度である。すなわち、棒状ローラ3は、第1移動装置14(図6では作図を省略)により、上下方向および図6の紙面と直交する方向に移動される。さらに、本実施形態では、成形装置1Bが補助ローラ7を含む。成形装置1Bのその他の構成は、第1実施形態の成形装置1Aと同じである。
【0052】
補助ローラ7は、管2の軸方向に延びており、先端が半球状の円柱状をなしている。本実施形態では、管2の周方向における棒状ローラ3と補助ローラ7の間の角度が90度であるが、管2の周方向における棒状ローラ3と補助ローラ7の間の角度は例えば180度などの別の角度であってもよい。
【0053】
補助ローラ7は、少なくとも成形中は、管2の外側から成形領域21の少なくとも上部(管2の上端を含む部分)と接触する。本実施形態では、補助ローラ7の長さが棒状ローラ3の長さよりも短く、成形領域21の上部のみと接触する。ただし、補助ローラ7の長さが棒状ローラ3と同じかそれよりも長くて、成形領域21と全体的に接触してもよい。
【0054】
補助ローラ7には、上端面から上方に突出するシャフト71が設けられている。シャフト71は、アーム81により回転可能に支持されている。つまり、補助ローラ7は、管2の成形領域21の上部に接触したときに、管2の回転に追従して回転する。
【0055】
アーム81は、ベース11から立ち上がる支柱83に取り付けられた直動アクチュエータ82に連結されている。直動アクチュエータ82は、アーム81を介して補助ローラ7を管2の径方向に移動させる。例えば、直動アクチュエータ82は、電動/油圧/空圧シリンダであってもよいし、ボールねじ機構であってもよいし、ラックアンドピニオン機構であってもよい。
【0056】
本実施形態では、直動アクチュエータ82が、補助ローラ7が常に一定の押し付け力で管2に押し付けられるように制御装置6により制御される。つまり、補助ローラ7は、第1移動装置14が棒状ローラ3を管2の成形領域21に接触した状態から上向きおよび径方向外向きに移動させる際に、管2の少なくとも上端を径方向外側から支持する。換言すれば、補助ローラ7により管2の少なくとも上端が支持されながら、棒状ローラ3が成形領域21に押圧される。なお、成形領域21の厚さは、拡径が進むにつれて薄くなる。従って、管2の径方向における補助ローラ7の移動速度は、管2の径方向における棒状ローラ3の移動速度よりも小さくなる。
【0057】
本実施形態でも、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。しかも、本実施形態では、補助ローラ7の作用によって、成形中の管2の振れを防止することができる。
【0058】
(その他の実施形態)
本発明は上述した第1および第2実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0059】
例えば、加熱器4は、加熱ヘッド41が管2の内周面に対向するように配置され、管2の内側から成形領域21を加熱してもよい。ただし、成形領域21を管2の外側から加熱すれば、管2の内側から成形領域21を加熱する場合に比べ、棒状ローラ3の押圧によって形成されるおそれのある管2の内周面の隆起を抑制することができる。同様に、冷却器5も、冷却ヘッド51が管2の内周面に冷却媒体を供給するように配置され、管2の内側から非成形領域22の少なくとも上部を冷却してもよい。
【0060】
また、加熱器4は、必ずしも誘導加熱により管2の成形領域21を加熱する必要はない。例えば、加熱器4として、ノズル(加熱ヘッド)から火炎を放射するバーナーを用いてもよい。ただし、バーナーを用いて管2の成形領域21を加熱した場合には、成形領域21と非成形領域22との間での温度勾配が緩やかになる。これに対し、誘導加熱により成形領域21を加熱した場合には、成形領域21と非成形領域22との間での温度勾配が急になる。従って、誘導加熱により成形領域21を加熱すれば、非成形領域22の変形をより効果的に抑制することができる。換言すれば、非成形領域22における棒状ローラ3の軌跡を示すテーパー部を精度良く形成することができる。
【0061】
また、第2移動装置17は、加熱ヘッド41および冷却ヘッド51を管2の軸方向に移動させる機能を有さず、加熱ヘッド41および冷却ヘッド51を管2の径方向に移動させる機能のみを有していてもよい。つまり、第1移動装置14が棒状ローラ3を管2の成形領域21に接触した状態から上向きおよび管2の径方向外向きに移動させる際に、第2移動装置17は、加熱ヘッド41および冷却ヘッド51を管2の径方向における棒状ローラ3の移動のみに同調して管2の径方向に移動してもよい。
【0062】
また、管2の拡径量が小さな場合には、加熱ヘッド41および冷却ヘッド51のどちらか一方または双方が定位置に固定されていてもよい。あるいは、管2の拡径量が大きな場合でも、冷却ヘッド51を定位置に固定して、第2温度センサ62に基づく制御によって、管2の内周面または外周面に供給する冷却媒体の供給量を調整してもよい。
【0063】
冷却器5は、必ずしも冷却媒体への熱伝達によって管2の非成形領域22の少なくとも上部を冷却する必要はない。例えば、冷却器5は、非成形領域22の少なくとも上部を、管2の成形に応じて変形する放熱部材への接触によって冷却するように構成されていてもよい。
【0064】
棒状ローラ3の先端は、例えば半球状であってもよい。ただし、棒状ローラ3の先端がフラットであれば、棒状ローラ3の先端が半球状である場合に比べて、棒状ローラ3と非成形領域22における棒状ローラ3の軌跡を示すテーパー部との干渉を抑制することができる。従って、管2の成形領域21を精度良く拡径することができる。
【0065】
また、管2の成形領域21の加熱と、管2の非成形領域22の少なくとも上部の冷却と、棒状ローラ3の成形領域21への押圧とは、必ずしも同時に行われる必要はない。例えば、まず管2の成形領域21を加熱し、ついで管2の成形領域21の加熱を停止して非成形領域22を冷却し、その後に非成形領域22の冷却を停止して棒状ローラ3を成形領域21へ押圧してもよい。
【符号の説明】
【0066】
1A,1B 成形装置
14 第1移動装置(ローラ用移動装置)
17 第2移動装置(加熱ヘッド用移動装置、冷却ヘッド用移動装置)
2 管
20 中心軸
21 成形領域
22 非成形領域
3 棒状ローラ
4 加熱器
41 加熱ヘッド
5 冷却器
51 冷却ヘッド
6 制御装置
61 第1温度センサ
62 第2温度センサ
7 補助ローラ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7