【実施例】
【0045】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0046】
(実施例1)
乾燥物重量32%のカネカ製圧搾生イーストを、表1に示した形状及び寸法の鋳型に詰め、ハンドプレス機を用いて圧縮成形し、表1に示した形状、寸法、密度、および重量(成形体1個あたりの重量)の生イースト成形体を得た。該成形体中のイーストの乾燥物重量は32.1%であった。この実施例では、イーストの菌株としてCFB27−1(寄託番号FERM BP−15903、特許第4357007号に記載)を使用した。
【0047】
続いて、該生イースト成形体40個をポリエチレン袋に詰めて、この袋詰めの状態で、−20℃の空冷式冷凍庫で2ヶ月間冷凍して、凍結生イースト成形体が40個入ったパッケージを得た。なお、前記袋詰めの際、パッケージ中のイースト成形体同士は互いに密着するように袋詰めを行なった。
【0048】
(実施例2〜6)
実施例1と同様に表1に従って、生イースト成形体、および凍結生イースト成形体のパッケージを得た。
【0049】
(比較例1〜3)
実施例1と同様に表1に従って、生イースト成形体を得て袋詰めを行なったが、その後の冷凍作業を行なわなかった。
【0050】
(比較例4)
バルク状(無定形の粉末状)に成形した乾燥物重量32%のカネカ製圧搾生イースト500gをポリエチレン袋に詰めて、この袋詰めの状態で、−20℃の空冷式冷凍庫で1週間冷凍し、バルク状凍結生イーストのパッケージを得た。この時、各バルク片の重量の範囲は0.0001〜5.0gであった。
【0051】
(比較例5)
乾燥物重量32%のカネカ製バルク状圧搾生イースト500gを、球形造粒機で成形し、直径が3.0mmの球状の生イースト成形体を得た。
【0052】
続いて、該生イースト成形体全量をポリエチレン袋に詰めて、この袋詰めの状態で、−20℃の空冷式冷凍庫で1週間冷凍し、凍結生イースト成形体のパッケージを得た。
【0053】
(比較例6〜7)
実施例1と同様に表1に従って、直方体形状の生イースト成形体、および凍結生イースト成形体のパッケージを得た。
【0054】
(参考例1)
特許文献2の実施例11に沿って、食用油脂および乳化剤を練り合わせた微小な凍結生イーストのパッケージを得た。具体的には、以下のとおりである。
【0055】
乾燥物重量32%のカネカ製バルク状圧搾生イースト500gを、表1の配合に従い乳化剤(ソルビタンモノステアレート)及び食用油脂(ナタネ硬化油)と練合した後、球形造粒機で成形し、直径が3.0mmの球状の生イースト成形体を得た。続いて当該生イースト成形体全量をポリエチレン袋に詰めて、この袋詰めの状態で、−20℃の空冷式冷凍庫で1週間冷凍し、凍結生イーストのパッケージを得た。
【0056】
(試験例1)
実施例、比較例及び参考例で得られた成形体またはそのパッケージについて、以下の方法に従って各評価を行なった。
【0057】
(1)長期保存性
実施例1〜6、比較例4〜7、および参考例1に関しては、4℃で1日間冷蔵保管した後の未凍結の生イースト成形体、及び、−20℃で2ヶ月間冷凍保管した後の凍結生イースト成形体について、イースト工業会が定めるパン用酵母試験法の高糖生地炭酸ガス測定法に準じ、30℃2時間の炭酸ガス発生量を測定した。未凍結の1日間冷蔵保管品の炭酸ガス発生量に対する2ヶ月間冷凍保管品の炭酸ガス発生量の割合を算出することで、長期保存性を評価した。なお、凍結生イースト成形体は、解凍せず凍結状態のまま上記試験に供した。
【0058】
一方、比較例1〜3に関しては、生イースト成形体を4℃で1日間及び2ヶ月間冷蔵保管した後、同様に炭酸ガス発生量を測定し、1日間冷蔵保管品の炭酸ガス発生量に対する2ヶ月間冷蔵保管品の炭酸ガス発生量の割合を算出することで、長期保存性を評価した。
【0059】
(評価基準)1:炭酸ガス発生量が70%未満、2:炭酸ガス発生量が70%以上80%未満、3:炭酸ガス発生量が80%以上90%未満、4:炭酸ガス発生量が90%以上95%未満、5:炭酸ガス発生量が95%以上
(2)崩壊し難さ
実施例1〜6、比較例4〜7、および参考例1の凍結生イースト成形体および比較例1〜3の生イースト成形体について、成形体一つを両手の手の平で上下に軽く挟み、両手を平行にしたまま反対方向に移動させることにより手の平で成形体を10回転がして、成形体の崩壊し難さを以下の基準で評価した。
【0060】
(評価基準)1:非常に崩壊し易い、2:崩壊し易い、3:やや崩壊し難い、4:崩壊し難い、5:非常に崩壊し難い
(3)凍結成形体の固結し難さ
袋詰めして−20℃で2ヶ月間冷凍保管した後、パッケージから凍結成形体を取り出して固結の状況を観察し、凍結成形体同士の固結し難さを以下の基準で評価した。
【0061】
(評価基準)1:成形体同士が固結し、大きな塊が形成されている、2:成形体同士が固結し、やや大きな塊が形成されている、3:成形体同士が固結し、小さな塊が形成されている、4:成形体同士はあまり固結していない、5:成形体同士は殆ど固結していない
(4)固結塊の分割し易さ
袋詰めして−20℃で2ヶ月間冷凍保管した後、2個以上の凍結成形体が固結してなる塊を取り出し、その固結塊のなかで隣り合った凍結成形体をそれぞれ左右の手で持ち、固結部へ5kg/cm
2程度の力(一般成人の標準的な握力)を加えて、容易に固結塊を分割できるか否かで、固結塊の分割し易さを評価した。
【0062】
(評価基準)1:非常に分割し難い、2:分割し難い、3:やや分割し易い、4:分割し易い、5:非常に分割し易い
(5)計数作業の容易性
実施例1〜6、比較例4〜7、および参考例1の凍結生イースト成形体について、比較例1〜3のブロック状の未凍結の生イースト成形体を基準にして、各成形体の大きさや、成形体の崩壊し難さ、凍結成形体の固結し難さ、固結塊の分割し易さを総合的に考慮して、成形体の個数を数える計数作業の容易性を評価した。
【0063】
(評価基準)1:計数作業が比較例1〜3と比較して極めて困難である、2:計数作業が比較例1〜3と比較して困難である、3:計数作業が比較例1〜3と同等である、4:計数作業が比較例1〜3より容易である、5:計数作業が比較例1〜3より極めて容易である
(6)重量の変動係数
−20℃で2ヶ月間冷凍保管したパッケージを20cmの高さから3回自然落下させてパッケージ内で大きな固結塊を分割した後、さらに、パッケージの外側から5kg/cm
2程度の力を加えて小さな固結塊を分割した。その後、一つ一つの成形体を取り出し、各成形体の重量を測定し、各成形体の重量の標準偏差を、各成形体の重量の平均値で除して、重量の変動係数を算出した。比較例1〜3に関しては、4℃で1日間冷蔵保管したパッケージから一つ一つの未凍結の生イースト成形体を取り出し、同様に各成形体の重量を測定し、重量の変動計数を算出した。
【0064】
以上により得られた結果を表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
表1より、実施例1〜6は、長期保存後も多いガス発生量を維持しており、凍結成形体は崩壊しにくく、凍結体同士が固結しにくく、固結しても容易に分割でき、成形体の個数を数える計数作業が容易であった。一方、凍結をしていない比較例1〜3は、長期保存後のガス発生量が大幅に低下するとともに、成形体が比較的崩壊しやすいものであった。バルク状に成形を行なった比較例4は、長期保存性が低いことに加え、凍結体同士が固結しやすく、容易に分割できない固結塊を形成し、計数作業が困難であった。成形体の最大幅が小さい比較例5や直方体に成形した比較例6及び7は、凍結体同士が固結しやすく、容易に分割できない固結塊を形成し、計数作業が困難であった。参考例1は、食用油脂及び乳化剤といった添加物が添加されており、微小に成形されているため計数作業が困難であった。
【0067】
(試験例2)
実施例2の凍結生イースト成形体、及び、比較例1の未凍結の生イースト成形体に関し、表2の配合1、条件1に従ってパン(ワンローフ及びプルマン)を製造した。なお、凍結生イースト成形体については、−20℃の冷凍庫に3ヶ月間保管後、解凍せず凍結状態のまま、他のパン生地原材料と混合した。未凍結の生イースト成形体については、4℃で1日間冷蔵保管後、そのまま、他のパン生地原材料と混合した。
【0068】
【表2】
【0069】
製造したパンの品質は、下記の中種ガス発生量、ホイロガス発生量、パン比容積、及び、パン風味を基に評価した。
【0070】
中種ガス発生量及びホイロガス発生量は、それぞれ、中種ミキシング及びベンチタイム終了後の生地20gについて、ファーモグラフII(ATOO社製)を用いて全ガス発生量を測定し、全ガス発生量に2.5を乗じることで、生地50gに相当するガス発生量を算出した。
【0071】
パン比容積は、製造したワンローフの体積を3Dレーザー体積計Selnac−WinVM210(ASTEX社製)により測定し、これをワンローフの重量で除すことにより算出した。
【0072】
パン風味は、製造したプルマンについて、以下の基準に基づき官能評価を行なった。
【0073】
(パン風味の官能評価基準)
○:未凍結の生イーストを使用して製造したプルマンと同等の良好な風味
△:未凍結の生イーストを使用して製造したプルマンと比べ、やや風味が劣る
×:未凍結の生イーストを使用して製造したプルマンと比べ、風味が劣る
以上により得られた結果を表3に示す。
【0074】
【表3】
【0075】
表3より、凍結生イースト成形体は、3ヶ月間冷凍保管を行なった後であるにも関わらず、中種ガス発生量、ホイロガス発生量、パン比容積、及びパン風味のいずれについても、未凍結の生イースト成形体と同等の評価がされており、イーストの長期保存性に優れていることが分かる。
【0076】
(試験例3)
実施例2の凍結生イースト成形体、及び、比較例1の未凍結の生イースト成形体に関し、表4の配合2、条件2に従って中糖パン生地を成型した後、当該パン生地の冷凍及び解凍を経てロールパンを製造した。なお、凍結生イースト成形体については、−20℃の冷凍庫に3ヶ月間保管後、解凍せず凍結状態のまま、他のパン生地原材料と混合した。
【0077】
【表4】
【0078】
製造したパンの品質は、上述と同様の方法によって、ホイロガス発生量、パン比容積、及び、パン風味を基に評価した。
【0079】
以上により得られた結果を表5に示す。
【0080】
【表5】
【0081】
表5より、凍結生イースト成形体は、3ヶ月間冷凍保管を行なった後であるにも関わらず、ホイロガス発生量、パン比容積、及びパン風味のいずれについても、未凍結の生イースト成形体と同等の評価がされており、イーストの長期保存性に優れていることが分かる。
【0082】
(試験例4)
実施例2の凍結生イースト成形体を25℃8時間で解凍した。これを、冷解凍を1回施したものとする。次いで−20℃16時間及び25℃8時間の冷解凍を1〜3回行なった。これらをそれぞれ、冷解凍を2〜4回施したものとする。これら1〜4回の冷解凍を施した凍結生イースト成形体を、下記の基準に基づき、解凍後の発酵力、凍結時の成形体の保形性、及び解凍後の成形体の性状を評価した。比較例1の未凍結の生イースト成形体については、発酵力、及び成形体の性状を評価した。
【0083】
発酵力については、イースト工業会が定めるパン用酵母試験法の高糖生地炭酸ガス測定法に準じ、30℃2時間の炭酸ガス発生量を測定した。
【0084】
凍結時の成形体の保形性については、凍結時のイースト成形体が未凍結の生イースト成形体の形状を保持しているかどうかにより、3段階評価を行なった。
【0085】
(凍結時の成形体の保形性の評価基準)
○:未凍結の生イースト成形体の形状と同一である
△:未凍結の生イースト成形体の形状からやや形状が変化している
×:未凍結の生イースト成形体の形状から大きく形状が変化している
成形体の性状については、解凍後の生イースト成形体の表面を指で押したときに感じる柔らかさにより、3段階評価を行なった。
【0086】
(成形体の性状の評価基準)
○:未凍結の生イースト成形体と同程度に硬い
△:未凍結の生イースト成形体と比べ、やや柔らかい
×:未凍結の生イースト成形体と比べ、非常に柔らかい
以上により得られた結果を表6に示す。
【0087】
【表6】
【0088】
表6より、本発明の凍結生イースト成形体を1度だけ解凍したものは、未凍結の生イースト成形体と同等の発酵力を示し、未凍結の生イースト成形体の形状及び硬さを保持しているが、2回以上の冷解凍を施したものは発酵力の低下や、形状の変化及び軟化が確認された。以上の結果から、凍結生イースト成形体を一度解凍した後に、再び凍結することは避けたほうがよい。
【0089】
(試験例5)
実施例2の凍結生イースト成形体、及び、比較例1の未凍結の生イースト成形体を4℃の冷蔵庫に静置して2日後、及び1ヶ月後の発酵力を、試験例4と同様の方法で評価した。
【0090】
以上により得られた結果を表7に示す。
【0091】
【表7】
【0092】
表7より、凍結生イースト成形体、未凍結の生イースト成形体いずれも、1ヶ月間冷蔵保管後に発酵力が大きく低下したが、凍結生イースト成形体における発酵力低下は、未凍結の生イースト成形体における発酵力低下よりも著しいものであった。このことから、凍結生イースト成形体を一旦解凍した後は、長期にわたって冷蔵保管をすることなく、速やかに使用したほうがよい。
【0093】
(実施例7〜12、比較例8〜14、参考例2)
イーストの菌株としてKGLY59(寄託番号FERM BP−20635、特許第4839860号に記載)を使用した以外は、実施例1〜6、比較例1〜7、及び参考例1と同様にして、成形体、及びそのパッケージを得た。各成形体中のイーストの乾燥物重量は31.5%であった。これら成形体、及びそのパッケージについて、試験例1に従って各種評価を行なった。得られた結果を表8に示す。
【0094】
【表8】
【0095】
(実施例13〜18、比較例15〜21、参考例3)
イーストの菌株としてKCY1254(寄託番号NITE BP−1396、特許第5677624号に記載)を使用した以外は、実施例1〜6、比較例1〜7、及び参考例1と同様にして、成形体、及びそのパッケージを得た。各成形体中のイーストの乾燥物重量は32.4%であった。これら成形体、及びそのパッケージについて、試験例1に従って各種評価を行なった。得られた結果を表9に示す。
【0096】
【表9】
【0097】
(実施例19〜24、比較例22〜28、参考例4)
イーストの菌株としてKCY1217(寄託番号NITE BP−1058、特許第5907161号に記載)を使用した以外は、実施例1〜6、比較例1〜7、及び参考例1と同様にして、成形体、及びそのパッケージを得た。各成形体中のイーストの乾燥物重量は32.9%であった。これら成形体、及びそのパッケージについて、試験例1に従って各種評価を行なった。得られた結果を表10に示す。
【0098】
【表10】
【0099】
(実施例25〜30、比較例29〜35、参考例5)
イーストの菌株としてKCY1222(寄託番号NITE BP−1059、特許第5907161号に記載)を使用した以外は、実施例1〜6、比較例1〜7、及び参考例1と同様にして、成形体、及びそのパッケージを得た。各成形体中のイーストの乾燥物重量は32.3%であった。これら成形体、及びそのパッケージについて、試験例1に従って各種評価を行なった。得られた結果を表11に示す。
【0100】
【表11】
【0101】
異なる菌株を使用した表8〜表11の各実施例及び比較例においても、表1の各実施例及び比較例と同じ傾向の結果が得られた。すなわち、各実施例は、長期保存後も多いガス発生量を維持しており、凍結成形体は崩壊しにくく、凍結体同士が固結しにくく、固結しても容易に分割でき、成形体の個数を数える計数作業が容易であった。一方、凍結をしていない比較例8〜10、15〜17、22〜24、及び29〜31は、長期保存後はガス発生量が大幅に低下するとともに、成形体が比較的崩壊しやすいものであった。バルク状に成形を行なった比較例11、18、25、及び32は、長期保存性が低いことに加え、凍結体同士が固結しやすく、容易に分割できない固結塊を形成し、計数作業が困難であった。成形体の最大幅が小さい比較例12、19、26、及び33や、直方体に成形した比較例13、14、20、21、27、28、34、及び35は、凍結体同士が固結しやすく、容易に分割できない固結塊を形成し、計数作業が困難であった。各参考例は、食用油脂及び乳化剤といった添加物が添加されており、微小に成形されているため計数作業が困難であった。