【文献】
Natalie Derise et al.,Production of Botulinum Toxin A,Semantic Scholar,2013年,p.1-23
【文献】
Frank Gessler et al.,Production and purification of Clostridium botulinum type C and D neurotoxin,FEMS Immunology and Medical Microbiology,1999年,Vol.24,p.361-367
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ボツリヌス毒素の生産菌株は、クロストリジウムボツリヌス(Clostridium botulinum)またはその変異体であることを特徴とする請求項1に記載のボツリヌス毒素の製造方法。
前記ステップ(a)での酸処理は、前記ボツリヌス毒素の生産菌株培養液に、硫酸または塩酸を添加し、培養液のpHが3.0〜4.5となるようにすることによって行われることを特徴とする請求項1に記載のボツリヌス毒素の製造方法。
前記ステップ(b)での深層濾過(depth filtration、DF)は、蠕動ポンプ(peristaltic pump)を用いることを特徴とし、深層濾過に使用されるフィルタは、0.01〜20μmの公称孔径(nominal pore size)を有することを特徴とする請求項1に記載のボツリヌス毒素の製造方法。
前記ステップ(b)でのリン酸ナトリウム緩衝液は、pH4.5〜6.5であり、前記ステップ(c)でのリン酸ナトリウム緩衝液はpH6〜7であることを特徴とする請求項10に記載のボツリヌス毒素の製造方法。
前記ステップ(d)における陰イオン交換クロマトグラフィーは、pH2〜9および伝導度(conductivity)2〜40mS/cmの条件で行われることを特徴とする請求項1に記載のボツリヌス毒素の製造方法。
前記ステップ(d)でのボツリヌス毒素は、陰イオン交換クロマトグラフィーより溶出されるFT(flow through)の、ボツリヌス毒素が含まれた分画として得られることを特徴とする請求項1に記載のボツリヌス毒素の製造方法。
前記ステップ(e)でのpHの上向き調節では、UFダイアフィルトレーション(UF diafiltration)、pH滴定(pH titration)、透析、および緩衝液交換カラムクロマトグラフィー(buffer exchange column chromatography)からなる群から選択される1つ以上の技法を用いることを特徴とする請求項15に記載のボツリヌス毒素の製造方法。
前記ステップ(f)での陰イオン交換クロマトグラフィーは、pH2〜9および伝導度(conductivity)2〜40mS/cmの条件で行われることを特徴とする請求項15に記載のボツリヌス毒素の製造方法。
前記ステップ(f)でのボツリヌス毒素は、陰イオン交換クロマトグラフィーより溶出されるFT(flow through)のボツリヌス毒素を含む分画、または、陰イオン交換クロマトグラフィーの樹脂に結合されたボツリヌス毒素を含む分画として得られることを特徴とする請求項15に記載のボツリヌス毒素の製造方法。
前記ステップ(h)での陽イオン交換クロマトグラフィーは、pH2〜9および伝導度(conductivity)2〜40mS/cmの条件で行われることを特徴とする請求項15に記載のボツリヌス毒素の製造方法。
【背景技術】
【0002】
神経毒性を持つ毒素を分泌する種々のクロストリジウム属菌株が1890年代から今まで発見されて、過去70年間これらの菌株が分泌する毒素に対する特性解明がなされてきた(Schant,E.J.et al.,Microbiol.Rev.,56:80,1992)。
【0003】
前記クロストリジウム属菌株から由来した神経毒性を持つ毒素、すなわちボツリヌス毒素(botulinum toxin)は、その血清学的特徴によりA〜G型の七つの型に区分される。各毒素は、約150kDa程度の毒素タンパク質を有しているが、自然的には種々の非毒性タンパク質と結合されている複合体からなっている。中間(Medium)複合体(300kDa)は、毒素タンパク質と非毒性−非ヘマグルチニンタンパク質からなり、大きい(Large;450kDa)複合体および巨大(Large−Large;900kDa)複合体は、中間複合体がヘマグルチニンと結合されている形態を有している(Sugiyama,H.,Microbiol.Rev.、44:419,1980)。このような非毒性非ヘマグルチニンタンパク質は腸内で低いpHと各種タンパク質加水分解酵素から毒素を保護する機能をすると知られている。
【0004】
前記毒素は、細胞内で分子量が約150kDaである一つのポリペプチドで合成された後、細胞内タンパク質分解酵素の作用やトリプシンのような人為的な酵素処理によってN末端から1/3になる位置で切断されて、二つ単位体である軽鎖(L:light chain)(分子量;50kDa)および重鎖(H:heavy chain)(分子量;100kDa)に分けられる。このように分けられた毒素は、単一ポリペプチドである時に比べてその毒性が大きく増加する。二つの単位体は、二硫化結合によって連結されていて、それぞれは異なる機能を有する。重鎖は目標物(target)になる細胞の受容体(receptor)と結合して(Park.M.K.,et al.,FEMS Microbiol.Lett.,72:243,1990)、低いpH(pH4)で生体膜と反応してチャネル(channel)を形成する機能を有して(Mantecucco,C.et al.,TIBS.,18:324,1993)、軽鎖は薬理活性を持っていて洗剤(detergent)を使って細胞に透過性を与えたり、電気穿孔(electroporation)等で細胞内投入された時に神経伝達物質の分泌を妨げる(Poulain,B.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,85:4090,1988)。
【0005】
前記毒素は、神経筋接合部(neuromuscular junction)のコリン性前シナプス(cholinergic presynapse)でアセチルコリンのエキソサイトーシス(exocytosis)を阻害して無力症を引き起こす。極微量の毒素を処理しても毒性が現れることからこの毒素は何らかの酵素活性を持つと考えられられてきた(Simpson,L.L.et al.,Ann.Rev.Pharmaeol.Toxicol.,26:427,1986)。
【0006】
最近明らかになったところによると、毒素はメタロペプチダーゼ活性(metallopeptidase activity)を持っていて、その基質は、エキソサイトーシス装置複合体(exocytosis machinary complex)をなす単位タンパク質であるシナプトブレビン(Synaptobrevin)、シンタキシン(Syntaxin)、25kDaのシナプトソーム関連タンパク質(Synaptosomal associated protein of 25KDa)(SNAP25)等である。各型の毒素は、この三つのタンパク質中一つを基質としているが、B、D、FおよびG型は、シナプトブレビンを、AとE型はSNAP25を、C型はシンタキシンを特定部位で切断すると知られている(Binz,T.et al.,J.Biol.Chem.,265:9153,1994)。
【0007】
特に、ボツリヌス毒素A型は、pH4.0〜6.8の薄い水溶液に溶解性であると知られている。約7以上のpHで安定化非−毒素タンパク質が神経毒素から分離されて、その結果毒性が徐々に失われるが、特にpHおよび温度が上昇するにつれ毒性が減少すると知られている。
【0008】
前記ボツリヌス毒素は、少量で体に致命的で大量生産が容易であるため、炭疽菌(Bacillus anthracis)、ペスト(Yersinia pestis)、天然痘(smallpox virus)と共に4大生物テロ武器で使われることができる毒素である。しかし、前記ボツリヌス毒素(botulinum toxin)中A型毒素の場合には、全身的には体に影響を及ぼさない容量以下で注射すると、前記注射部位の局所筋肉を麻痺させることができると明らかになり、このような特性を利用してシワ除去剤、強直性片麻痺および脳性麻痺の治療剤などで広範囲に使用することができるので、需要が急増していて需要に合わせてボツリヌス毒素の生産方法に対する研究が盛んに行われている。
【0009】
現在代表的に商用化されている製品は、米国アラガン(Allergan)社のBOTOX
R(ボツリヌス毒素A型精製された神経毒素複合体)で、それぞれのBOTOX
Rの100ユニットバイアルは、約5ngの精製されたボツリヌス毒素A型複合体、0.5mgヒト血清アルブミン、および0.9mg塩化ナトリウムで構成されて、真空−乾燥形態で提供されて、保存剤なしに(0.9%塩化ナトリウム注入)滅菌生理食塩水を利用して復元させる。他の商用化された製品は、英国Ipsen社のDysport
R(ボツリヌス毒素薬剤学的組成物中ラクトースおよびヒト血清アルブミンを有するクロストリジウムボツリヌスA型毒素ヘマグルチニン複合体、使用前に0.9%塩化ナトリウムを利用して復元される)およびSolstice Neurosciences社のMyoBloc
TM(ボツリヌス毒素B型、ヒト血清アルブミン、コハク酸ナトリウム、および塩化ナトリウムを含む薬pH5.6注射溶液)等がある。
【0010】
従来のボツリヌス毒素を製造するためには、酸沈殿法、塩による析出法、およびクロマトグラフィー法などが用いられてきた。
【0011】
例えば、日本特許出願公開第1994−192296号には、クロストリジウムボツリヌス菌株を培養した後、酸沈殿、抽出、核酸除去剤の添加、および結晶化ステップを経て結晶型(crystalline)のボツリヌスA型毒素を製造する方法が開示されている。また、米国特許登録第5696077号には、クロストリジウムボツリヌス菌株を培養し、それを酸沈殿、抽出、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル浸透クロマトグラフィー、および結晶化ステップを経てボツリヌスB型毒素を製造する方法が開示されている。
【0012】
一方、Simpson等は、重力流クロマトグラフィーを用いたボツリヌス神経毒素の精製、HPLC、親和性樹脂を用いた捕獲ステップ、サイズ排除クロマトグラフィー、および2つの異なるイオン交換カラムの使用を含むイオン(陰イオンおよび陽イオン)交換クロマトグラフィーを用いてボツリヌスA型毒素を製造しており(Method in Enzymology,165:76,1988)、Wang等は、ボツリヌス毒素A型を精製するための沈殿とイオンクロマトグラフィー方法を用いた(Dermatol Las Faci Cosm Surg., 2002:58, 2002)。
【0013】
また、米国特許登録第6818409号には、ボツリヌス毒素を精製するためのイオン交換およびラクトースカラムの使用が開示されており、米国特許登録第7452697号には、イオン交換クロマトグラフィーおよび疎水性クロマトグラフィーを用いてボツリヌスA型毒素を製造する方法が開示されている。韓国特許出願公開第2009−0091501号には、酸沈殿および陰イオン交換クロマトグラフィー方法を用いてボツリヌス毒素を精製する方法が、米国特許出願公開第2013−0156756号には、陰イオン交換クロマトグラフィーおよび陽イオン交換クロマトグラフィー方法を用いたボツリヌス毒素の精製方法が開示されている。
【0014】
しかし、従来の方法における陰イオン交換クロマトグラフィーの使用は、ボツリヌス毒素のゲルバンドパターン(gel banding pattern)に有害な影響を与え(米国特許登録第7452697号)、精製期間が長いため、商業的に適用しにくいなどの問題が残っている。また、ボツリヌス毒素の生産菌株であるクロストリジウムボツリヌスは嫌気性菌株であって、嫌気性施設内で醗酵を行わなければならないため、大量生産が困難であるという問題があり、上記の精製方法により精製された有効成分である前記ボツリヌス毒素が明確に分離同定されないため、不純物が含まれるという問題があった。また、従来のボツリヌス毒素の製造方法は、高純度のボツリヌス毒素を精製するために濾過または透析工程などが必須に含まれるため、精製過程が複雑で且つ難しいという問題があった。
【0015】
また、従来のボツリヌス毒素の製造工程では、DNAやRNAのような核酸を除去するために、DNaseやRNaseなどの酵素を用いてきた(韓国特許登録第10−1339349号および
図1のボツリヌス毒素の従来の製造方法などを参照)。しかしながら、DNaseやRNaseなどの酵素は動物由来のものであるため、各種疾病の原因となる物質、特に、伝染性海綿状脳症の誘発因子として知られている動物由来の異常プリオン(abnormal prion)などが含まれている可能性が排除できないため、安全性の点における問題を有している。
【0016】
伝染性海綿状脳症(Transmissible Spongiform Encephalopathy:TSE)は、致命的な神経の退行性疾患を引き起こす一種の退行性神経疾患で、BSE(Bovine Spongiform Encephalopathy、牛海綿状脳症(狂牛病))、スクレイピー(Scrapie)、クロイツフェルト・ヤコブ病(Creutzfeldt−Jacob Disease,CJD)、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー症候群(Gerstmann−Straussler−Scheinker Syndrome)、クールー病(Kuru)、伝染性ミンク脳症(Transmissible Mink Encephalopathy)、シカの慢性消耗病(Chronic Wasting Disease)、ネコ海綿状脳症(Feline Spongiform Encephalopathy)等のヒトおよび動物で発病して、牛海綿状脳症の場合、種間障壁(species barrier)を越えてヒトにも発病すると報告されている。
【0017】
伝染性海綿状脳症の原因体は、免疫原性がなく、長い潜伏期を有する特徴がある。牛海綿状脳症、すなわち狂牛病に感染した牛の脳の事後分析から、神経細胞の破壊と異常タンパク質繊維の沈積によって脳にスポンジ(海綿状)形態の特異なパターンの空胞が形成されたことを確認することができる。
【0018】
伝染性海綿状脳症の原因と考えられる病原体は、異常プリオン(abnormal prion)と呼ばれる感染タンパク質である。核酸を必要とする一般ウイルスの場合とは異なり、異常プリオンは、核酸を含まずタンパク質のみからなる感染粒子である。伝染性海綿状脳症は、正常プリオン(PrPc)に感染性因子である異常プリオン(PrPsc)が結合するようになると病原性プリオンに転換されて、このような病原性プリオンが脳に蓄積されると知られている(Prusiner SB,Alzheimer Dis Assoc Disord.,3:52−78,1989)。
【0019】
クロイツフェルト・ヤコブ病は、ヒト伝染性海綿状脳症(伝染性海面両脳症、Transmissible Spongiform Encephalopathy:TSE)の珍しい神経退行性疾患で、伝染性物質は、プリオンタンパク質の異常な変異体であることは明らかである。クロイツフェルト・ヤコブ病がある個体は、明らかに完全な健康状態から6ヶ月以内に無動無言症(akinetic mutism)に悪化され得る。したがって、動物由来産物を使用して得られるボツリヌス毒素のような生物製剤を含む薬剤学的組成物を投与する場合、クロイツフェルト・ヤコブ病のような、プリオン媒介疾患を得るようになる危険性が存在する。したがって、動物由来成分を使用して産生した原液を利用して医薬品を製造する場合、患者が様々な病原体または感染性物質を受け入れるようになる危険性が存在する。
【0020】
したがって、全世界的に、かかる動物由来成分による伝染性海綿状脳症の感染などの安全性問題を解決するために、動物由来成分が含まれていない(Animal Product Free:APF)工程を用いたボツリヌス毒素の製造方法の必要性が強く求められている状況である。
【0021】
このような技術的背景の下で、本発明者らは、プリオン媒介疾患(伝染性海綿状脳症(Transmissible Spongiform Encephalopathy:TSE))に露出する危険を予防し、ボツリヌス毒素の純度を向上させることができる方法を開発するために鋭意努力した結果、ボツリヌス毒素の生産菌株培養液を酸で処理してボツリヌス毒素を酸沈殿させた後、形成された沈殿物を、前処理工程である深層濾過(depth filtration、DF)、精密濾過(microfiltration、MF)、限外濾過(ultrafiltration、UF)、滅菌濾過(sterile filtration)、メンブレンクロマトグラフィー(membrane chromatography、MC)、および遠心分離(centrifugation)からなる群から選択される1つ以上の技法を用いたボツリヌス毒素の浄化(clarification)とともに、UFダイアフィルトレーション(UF diafiltration)、硫酸アンモニウム沈殿、または塩酸沈殿から選択される1つの方法と陰イオン/陽イオン交換クロマトグラフィーを用いて精製すると、動物由来産物が用いられる酵素処理ステップが省略可能であるため、プリオン媒介疾患が得られる危険性がなく、ボツリヌス毒素の純度を向上させることができることを確認し、本発明を成すに至った。
【発明を実施するための形態】
【0026】
他の方式で定義されない限り、本明細書において使用されたあらゆる技術的・科学的用語は、本発明が属する技術分野に熟練した専門家によって通常理解されるものと同じ意味を有する。通常、本明細書において使用された命名法は、本技術分野において周知であり、しかも汎用されるものである。
【0027】
本発明は、APF(Animal Product Free)および低分子のボツリヌス毒素工程を開発するために、従来の工程のうち、AP(Animal Product)を用いる酵素処理ステップに代替可能な工程を開発しようとした。したがって、深層フィルタ(Depth filter)を用いた濾過(filtration)および従来の塩酸沈殿工程の他に、硫酸アンモニウムを用いた工程およびUFシステムを用いた工程をともに行った結果、従来の方法により生産されたボツリヌス毒素に比べて高い純度を示すことを確認し、前記方法を用いると、TSEフリー(TSE−free)の条件で菌株の培養物から高純度のボツリヌス毒素を安全に製造することができた。
【0028】
本発明で相互交換的に用いられる用語「工程」または「分離」は、精製工程で特定の結果(例えば、ボツリヌス毒素の精製)を達成するための1つ以上の方法または装置の利用を指し示す。
【0029】
本発明の一様態において、深層濾過(depth filtration、DF)、精密濾過(microfiltration、MF)、限外濾過(ultrafiltration、UF)、滅菌濾過(sterile filtration)、メンブレンクロマトグラフィー(membrane chromatography、MC)、および遠心分離(centrifugation)からなる群から選択される1つ以上の技法によりボツリヌス毒素を浄化(clarification)した後、UFダイアフィルトレーション(UF diafiltration)または酸沈殿を行った場合、陰イオン交換クロマトグラフィー精製(Anion exchange chromatography:AEX)工程だけでも、満足のいくレベルの純度を有するボツリヌス毒素を製造することができた。
【0030】
したがって、一観点において、本発明は、ボツリヌス毒素の製造方法に関し、より詳細には、
(a)ボツリヌス毒素の生産菌株培養液を酸で処理して酸沈殿させるステップと、
(b)前記ステップ(a)におけるボツリヌス毒素を含む沈殿物に緩衝液を添加した後、深層濾過(depth filtration、DF)、精密濾過(microfiltration、MF)、限外濾過(ultrafiltration、UF)、滅菌濾過(sterile filtration)、メンブレンクロマトグラフィー(membrane chromatography、MC)、および遠心分離(centrifugation)からなる群から選択される1つ以上の方法により浄化(clarification)するステップと、
(c)前記ステップ(b)における浄化されたボツリヌス毒素を含む溶液に対して、UFダイアフィルトレーション(UF diafiltration)、硫酸アンモニウム沈殿、または塩酸沈殿を行った後、前記UFダイアフィルトレーションの透析残留物(retentate)を緩衝液に希釈するか、硫酸アンモニウム沈殿または塩酸沈殿の沈殿物を緩衝液に溶解させるステップと、
(d)前記ステップ(c)における希釈された透析残留物、硫酸アンモニウム沈殿物の溶解物、または塩酸沈殿物の溶解物に対して、陰イオン交換クロマトグラフィー(Anion exchange chromatography:AEX)を用いてボツリヌス毒素を精製するステップと、
を含む、ボツリヌス毒素の製造方法に関する。
【0031】
本発明の製造方法により精製されたボツリヌス毒素は、7Sまたは19Sの構成形態(分子量では約150〜900kDa)を有することを特徴とする。
【0032】
本発明において、ボツリヌス毒素の生産菌株は、クロストリジウムボツリヌス(Clostridium botulinum)またはその変異体であることが好ましいが、これに限定されるものではなく、ボツリヌス毒素の生産が可能な菌株であれば何れも使用可能であることは、通常の技術者にとって明らかである。
【0033】
本発明の「ボツリヌス毒素」とは、クロストリジウムボツリヌス菌株またはその変異体により生成された神経毒素(Neurotoxins、NTXs)だけでなく、変形、組換え、ハイブリッド、およびキメラボツリヌス毒素を意味する。組換えボツリヌス毒素は、非−クロストリジウム種によって組換えにより製造された軽鎖および/または重鎖を有することができる。また、本発明の
「ボツリヌス毒素」は、ボツリヌス毒素血清型A、B、C、D、E、F、およびGを包括し、ボツリヌス毒素複合体(すなわち、300、600、および900kDa複合体)だけでなく、純粋ボツリヌス毒素(すなわち、約150kDa神経毒性分子)の両方を包括して、これらは何れも本発明の実施において有用である。
【0034】
ボツリヌス毒素の主成分であるNTXs(7S)は、菌株培養用培地または食品で非毒素成分と結合されて大きい複合体を成す(Oguma et al., "Structure and function of Clostridium botulinum progenitor toxin.", J. Toxical-Toxin Reviews, 18:17-34, 1999)。ボツリヌス毒素血清型Aを生成するA型菌株(Type A strain)は3つの構成形態(form)の前駆体毒素(progenitor toxins)を生成し、これはLL(19S、900kDa)、L(16S、500kDa)、およびM(12S、300kDa)毒素である。これらは何れも完全に活性化したものと見なされる。これに対し、B型、C型、およびD型菌株は、2つの構成形態であるLおよびMを生成する。また、E型、F型、およびG型は単一形態の毒素のみを生成するが、E型およびF型はM毒素を生成し、G型はL毒素を生成する。M毒素は、NTX(7S、150kDa)およびヘマグルチニン(hemagglutinin、HA)活性を示さない非毒素成分(Non-Toxic Non-HA, NTNH)で構成されている。
【0035】
本発明の「製造されたボツリヌス毒素」とは、ボツリヌス毒素が培養または醗酵工程より得られる際に、ボツリヌス毒素に同伴し得る他のタンパク質および不純物から分離されるか実質的に分離された純粋ボツリヌス毒素、またはボツリヌス毒素複合体を意味する。したがって、製造されたボツリヌス毒素は、少なくとも90%、好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の純度を有する。特に好ましくは、本発明において、製造されたボツリヌス毒素は、純度98%以上のボツリヌス毒素A型タンパク質であることを特徴とする。
【0036】
ボツリヌス毒素を製造するためのクロストリジウムボツリヌス菌株の培養は、当業界に公知の通常の方法を用いて行われ、培養のために使用可能な通常の培地を用いて培養可能である。
【0037】
非制限的な例として、クロストリジウムボツリヌス菌株の培養のための培地には、カゼイン加水分解物(Casein hydrolysate)、酵母抽出物、グルコースなどが含まれてもよく、25〜40℃の温度で90〜180時間、好ましくは100〜150時間培養する。
【0038】
本発明において、前記ステップ(a)での酸沈殿ステップは、培養を終了した後、pHが3.0〜4.5、好ましくはpHが3.3〜4.0、最も好ましくはpHが3.4〜3.6となるように、酸、好ましくは硫酸または塩酸を添加することによって行われることができる。
【0039】
本発明において、前記ステップ(a)での酸沈殿ステップは、ボツリヌス菌株を培養した後に残っている菌株を全て死滅させ、多くの種類のタンパク質溶液に酸を加えることでpHを低下させることにより、タンパク質が等電点に達することとなって沈殿される原理を用いたステップである。広い意味では結晶化も含まれ、純粋に精製するのに重点を置いた結晶化に比べて、沈殿法は、混合された状態で目的物を粗く分離する方法である。通常、沈殿法は、目的の物質と構造的に類似の不純物がともに沈殿される。この際、pHを約3.0〜4.5に調節する。前記ボツリヌス毒素の回収率はpHが低いほど高くなるが、pHが3.0以下になる場合には、前記ボツリヌス毒素自体に影響を与えることとなり、pHが4.5以上になる場合には、前記ボツリヌス毒素の回収率が低くなるため、上記の範囲内で行われることが好ましい。特に、pHが3.4〜3.6である際に、前記ボツリヌス毒素の回収率が最も高いため、最も好ましい。ボツリヌス菌株の培養液に酸を徐々に加えた後、pHが適切な範囲に達すると、それ以上のpH変化を示さない時まで添加した後、常温で15時間〜30時間放置してから、上澄液を除去する。
【0040】
本発明において、前記ステップ(a)での酸沈殿は、1回またはそれ以上の回数で行われることを特徴とする。
【0041】
本発明で用いられた用語「浄化(clarification)」とは、沈殿物などを緩衝液を用いて再溶解させた後、再溶解された溶液中に含まれている不純物を除去することを意味する。本発明における「浄化」ステップは、一般に、以下の単独またはその様々な組み合わせを含む、例えば、濾過、析出、凝集、および沈降の1つ以上のステップ、より詳細には、深層濾過(depth filtration、DF)、精密濾過(microfiltration、MF)、限外濾過(ultrafiltration、UF)、滅菌濾過(sterile filtration)、メンブレンクロマトグラフィー(membrane chromatography、MC)、および遠心分離(centrifugation)からなる群から選択される1つ以上の技法を用いて行われることができ、本発明における浄化ステップにより、再溶解された毒素沈殿物などに含まれている不純物、特に、核酸不純物、HCD、細胞破壊片(cell debris)、および内毒素(endotoxin)などが除去されることができる。
【0042】
本発明の一部の実施様態において、本発明は、様々な精製計画において一般に用いられる通常の浄化ステップに対して、改善点を提供する。浄化ステップは、一般に、1つ以上の好ましくない個体を除去することを含み、また、所望の標的分子の捕獲を含むステップの前に典型的に実施される。浄化の他の主な要旨は、後続の精製工程で滅菌フィルタの詰まりを引き起こし得るサンプル中の可溶性および不溶性成分を除去することで、全体の精製工程をより経済的とすることである。また、浄化効率を向上させる方法、例えば、析出が用いられることができる。不純物の析出は、凝集、pH調節(酸析出)、温度変動、刺激−感受性重合体または小分子による相変化などのような様々な方法またはこれらの方法の組み合わせにより実施されることができる。
【0043】
本発明において「深層濾過(depth filtration、DF)」とは、減少する気孔のサイズに応じた一連のフィルタ(filters)を用いて溶液から粒子(例えば、不純物)を除去することを意味し、本発明で用いられた用語「深層フィルタ(depth filter)」は、フィルタ物質の深層内で濾過を果たす。前記フィルタは、流動チャンネルの複雑で蛇行した迷路を形成する任意の繊維マトリックスで構成されており、前記繊維マトリックスによる捕獲または繊維マトリックスに対する吸着により粒子の分離が行われる。細胞培養ブロス(broth)およびその他の供給原料をバイオ加工(bioprocessing)するために最もよく用いられる深層フィルタの媒質は、セルロース繊維、DEなどのような濾過助剤、および陽に荷電した樹脂結合剤からなる。絶対フィルタと異なって、深層フィルタの媒質は、多孔性媒質によって粒子を保持し、気孔のサイズより大きくまたより小さい粒子の滞留を許容する。粒子の滞留は、サイズ排除および疎水性、イオン性およびその他の相互作用による吸着の両方を含むことができる。 商業的に購入可能な深層フィルタとしては、例えば、Millistak+ Pod depth filter system, XOHC media(Millipore Corporation), Zeta Plus
TM Depth Filter(3M Purification Inc.) 等がある。本発明において、深層濾過は、2つ以上の深層フィルタを配列して重ねて用いることができて、この場合、商業的に購入可能なMillistak+ mini DOHC(Millipore Corporation)及びXOHC filters(Millipore Corporation) を使用することができる。
【0044】
本発明において、深層フィルタは、一般に0.01〜20μm、好ましくは0.1〜8μmの公称孔径(nominal pore size)を
有し、それより大きいサイズを有する凝集された細胞破壊片およびコロイド状微粒子、またはそれより小さい粒子を始めとする凝集された細胞性バイオマスの除去および複数の等級化された層を有する多孔性深層フィルタ媒質を含むことができる。
【0045】
したがって、本発明で深層濾過を用いる場合、ボツリヌス毒素沈殿液に含まれている不純物(例えば、核酸)、細胞破壊片、内毒素(endotoxin)などを容易に除去することができる。
【0046】
本発明において、「精密濾過(microfiltration、MF)」または「限外濾過(ultrafiltration、UF)」とは、所定の圧力下で、混合溶液の構成要素である溶質(solute)のサイズおよび構造に応じて、膜(membrane)の気孔(pore)を介して標的溶質(例えば、ボツリヌス毒素)を分画する工程である。一例として、0.1μmまたは750kDaの分画分子量(molecular weight cutoff、MWCO)分離用PS(polysulfone)膜を用いて5〜40psigおよび4〜60℃の条件で行うことで、溶液の浄化が可能である。
【0047】
一般に、精密濾過は、限外濾過に先立つ工程であって、溶液から0.1〜10μmの粒子を分離するのに用いられ、これは、一般に1x105g/molの分子量を有する高分子を分離するのに用いられる。また、精密濾過は、沈殿物(sediment)、原生動物、大きいバクテリアなどの除去に用いられる。本発明において精密濾過は、高分子、細胞破壊片の除去に容易に用いられることができる。一般に、精密濾過工程は、0.1〜5、好ましくは1〜3m/sの速度、50〜600kPa、好ましくは100〜400kPaの圧力で圧力ポンプまたは真空ポンプを用いて行う。
【0048】
限外濾過は、溶液から0.01〜0.1μmの粒子を分離するのに用いられ、これは、一般に1x10
3〜1x10
5Daの分子量を有する高分子に対応する。限外濾過は、タンパク質、内毒素(endotoxin)、ウイルス、シリカ(silica)などの除去に用いられる。本発明において、100〜300KのMWCO用限外濾過分離用膜を用いる場合、ボツリヌス毒素沈殿液に含まれている不純物は除去し、ボツリヌス毒素は濃縮させることができる。
【0049】
「滅菌濾過(sterile filtration)」とは、精密濾過またはメンブレンフィルタを用いる工程であって、加熱、放射線の照射、化学的処理を代替し、標的物質が含まれた溶液(例えば、生物製剤(biologics)、ボツリヌス毒素など)を安全に浄化させることができる方法である。溶液に含まれ得る微生物を除去するためには、0.1〜0.3μm、好ましくは0.15〜0.25μm、最も好ましくは0.2μmの気孔を有する精密フィルタ(microfilter)を用いて除去し、ウイルスの除去および不活性化のためには、20〜50nmの気孔を有するナノフィルタ(nanofilter)を用いる。メンブレンフィルタも同様に、微生物、ウイルスなどの除去のために、特定の気孔を有し、セルロースエステル(cellulose ester)またはPES(polyethersulfone)からなるメンブレンフィルタを用いて浄化工程を行うことができる。
【0050】
本発明において、「メンブレンクロマトグラフィー(membrane chromatography、MC)」は、「樹脂クロマトグラフィー(resin chromatography)」と対比される標的物質(例えば、ボツリヌス毒素)の分離方式を用いる。樹脂クロマトグラフィーは、一般に、球状の形態および気孔(pore)を有する樹脂を用い、溶液の対流(convection)に比べて拡散(diffusion)の比重が大きい分離方式を利用するのに対し、メンブレンクロマトグラフィーは、平面の形態およびマクロ孔(macroporous)を有する膜を用い、拡散に比べて対流の比重が大きいため、溶液の分離効率が高い。したがって、ウイルス、プラスミド、巨大タンパク質複合体などの膜への接近が容易であるため、分離が容易である。商業的に購入可能なメンブレンクロマトグラフィーとしては、Mustang Q membrane chromatography capsule(Pall Corporation), Sartobind Q(Sartorius Stedim Biotech GmbH) 等が使用されるが、これに限定されない。
【0051】
本発明において、遠心分離(centrifugation)は、好ましくは20,000g、より好ましくは30,000g、さらに好ましくは50,000g、さらに好ましくは70,000g、最も好ましくは90,000g以上の遠心力で行われることができ、他の好ましくは実施態様で、遠心力は200,000g、150,000g、120,000g、100,000gまたは90,000g未満である。
【0052】
本発明において、前記ステップ(b)によるボツリヌス毒素の浄化ステップは、前記ステップ(a)で得た毒素にリン酸緩衝液、好ましくはリン酸ナトリウム緩衝液(sodium phosphate buffer)を加えて溶解し、沈殿を浄化するステップを含む。この際、リン酸緩衝液のpHは約3.0〜8.0、好ましくは4.0〜7.0であり、塩基を添加して最終pHを4.5〜6.5、好ましくは5.5〜6.2、より好ましくは4.8〜5.8になるように調節して、毒素浄化を前記pH範囲で行うことができる。
【0053】
本発明において、前記ステップ(c)によるボツリヌス毒素の希釈または溶解ステップは、前記ステップ(b)で得た毒素にリン酸緩衝液、好ましくはリン酸ナトリウム緩衝液(sodium phosphate buffer)を加えて透析残留物を希釈するか、沈殿物を溶解させるステップを含む。この際、リン酸緩衝液のpHは約4.0〜8.5が好ましく、塩基を添加して最終pHを4.5〜8.0、好ましくは5.5〜7.5、より好ましくは6.0〜7.5になるように調節して、毒素の希釈または溶解を前記pH範囲で行うことができる。
【0054】
本発明において、前記ステップ(b)でのボツリヌス毒素の深層濾過(depth filtration、DF)は、蠕動ポンプ(peristaltic pump)を用いることを特徴とする。また、前記ステップ(c)でのUFダイアフィルトレーション(UF diafiltration)、硫酸アンモニウム沈殿、または塩酸沈殿は、1回またはそれ以上の回数で行うことを特徴とする。
【0055】
本発明において、「UFダイアフィルトレーション(UF diafiltration)」とは、上述の限外濾過(ultrafiltration、UF)を用いてダイアフィルトレーションを行うことを意味するが、これに限定されるものではない。「ダイアフィルトレーション」とは、標的物質(溶液)に含まれている成分(例えば、粒子)を除去または得る技法であって、成分の分子量(分子サイズ)に応じて分離可能な透過性フィルタ(permeable filter)を用いることを特徴とする、標的物質の純度を高める技法を意味する。
【0056】
本発明において、前記硫酸アンモニウム沈殿ステップは塩析(salting out)に該当することであって、前記塩析は、水に溶解しやすい塩(硫酸アンモニウムなど)をタンパク質混合液に加えてイオン強度を増加させることでタンパク質を沈殿させることである。もし、目的とするタンパク質が硫酸アンモニウム30%(w/v)飽和時に主に沈積するということを知っている場合、予め30%(w/v)飽和以下の硫酸アンモニウム濃度で目的以外のタンパク質を沈殿させて除去し、次に、30%(w/v)飽和となるように硫酸アンモニウムを加えて目的とするタンパク質を沈殿させ、それを遠心分離により集めることができる。塩析操作は、精製の初期手段としてよく用いられる。この時に用いられる硫酸アンモニウムは、10〜50%(w/v)、好ましくは20〜40%(w/v)濃度の溶液を用いることができる。前記ステップ(c)での塩酸沈殿は、pH2〜5、好ましくは2.5〜4.5となるように塩酸を添加して行われることを特徴とする。
【0057】
前記ステップ(d)での陰イオン交換クロマトグラフィーは、pH2〜9、好ましくはpH3〜8、伝導度(conductivity)2〜40mS/cm、好ましくは3〜30mS/cmの条件で行われることを特徴とする。前記ステップ(d)でのボツリヌス毒素は、陰イオン交換クロマトグラフィーより溶出されるFT(flow through)を、ボツリヌス毒素が含まれた分画(fraction)として得るか(flow through mode)、陰イオン交換クロマトグラフィーの樹脂(resin)に結合されたボツリヌス毒素が含まれた分画として得ること(binding mode)を特徴とする。また、最終的に精製されたボツリヌス毒素は、7Sまたは19Sの構成形態を有することを特徴とする。
【0058】
本発明において相互交換的に用いられる用語「FT(flow through)」、「フロースルー工程」、または「フロースルー精製」は、1つ以上の不純物とともにバイオ医薬製剤に含有された少なくとも1つの標的分子(例えば、ボツリヌス毒素)が1つ以上の不純物と結合する物質を介して通過し、前記標的分子は通常結合しない(すなわち、フロースルーする)分離方法を意味する。
【0059】
用語「伝導度」とは、2つの電極の間の電流を通電させる水溶液の能力を意味する。溶液中では、イオンの輸送によって電流が流れる。したがって、水溶液中に存在するイオン量を増加させると、溶液はより高い伝導度を有することになるはずである。伝導度の基本測定単位はジーメンス(Siemen)(またはmho)、mho(mS/cm)であり、伝導度測定機、例えば、各種モデルのオリオン(Orion)伝導度測定機を用いて測定することができる。電気伝導度は、電流を運ぶことができる溶液中のイオンの能力であるため、溶液のイオン濃度を変化させることで、溶液の伝導度を変更させることができる。例えば、所望の伝導度を得るために、溶液中の緩衝剤の濃度および/または塩(例えば、塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、または塩化カリウム)の濃度を変化させることができる。好ましくは、各種緩衝液の塩の濃度を変更することで、所望の伝導度を得ることができる
【0060】
本発明において、前記ステップ(d)における陰イオン交換クロマトグラフィーのカラム緩衝液としては、リン酸ナトリウム、クエン酸、またはTris−HCl緩衝液が使用可能であるが、これに限定されるものではない。カラム緩衝液の濃度は、15〜70mMに調節し、好ましくは約20〜60mMに調節する。カラム緩衝液のpHは2〜9、好ましくは3〜8となるように調節し、移動相の流速は0.5〜5.0mL/分に調節し、好ましくは1.0〜3.0mL/分に調節する。この際、緩衝液の伝導度は2〜40mS/cm、好ましくは3〜30mS/cmとなるようにし、カラムの平衡化が終わると、試料を注入する。
【0061】
また、本発明では、前記ステップ(a)〜(d)の工程を経て得られたボツリヌス毒素を含む陰イオン交換クロマトグラフィー分画のpHを上向き調節し、さらに陰イオン交換クロマトグラフィーを行った後、陽イオン交換クロマトグラフィー(Cation exchange chromatography:CEX)を行うと、非常に高い純度のボツリヌス毒素、特に低分子量のボツリヌス毒素を得ることができることを確認することができた。
【0062】
したがって、本発明の他の様態は、
前記ステップ(d)の後に、
(e)ボツリヌス毒素が含まれている陰イオン交換クロマトグラフィー分画のpHを上向き調節するステップと、
(f)前記ステップ(e)でpHが上向き調節された陰イオン交換クロマトグラフィー分画を陰イオン交換クロマトグラフィーを用いて精製するステップと、
(h)前記ステップ(f)で希釈されたボツリヌス毒素を陽イオン交換クロマトグラフィー(Cation exchange chromatography:CEX)を用いて精製するステップと、
をさらに含むボツリヌス毒素の製造方法を提供する。
【0063】
好ましくは、前記ステップ(f)とステップ(h)との間に、
(g)精製された陰イオン交換クロマトグラフィー分画に緩衝液を添加してボツリヌス毒素を希釈するステップをさらに含むことができる。
【0064】
本発明では、説明の便宜上、前記ステップ(e)〜(h)がさらに用いられる場合、陰イオン交換クロマトグラフィー(AEX)工程を区分するために、前記ステップ(d)のAEX工程を一次陰イオン交換クロマトグラフィー、前記ステップ(f)のAEX工程を二次陰イオン交換クロマトグラフィー工程と称し、何ら説明がない場合には、ステップ(d)のAEX工程の一次陰イオン交換クロマトグラフィーを意味する。また、実施例などでのTQは一次陰イオン交換クロマトグラフィー工程を、HQは二次陰イオン交換クロマトグラフィー工程を、そしてXSは陽イオン交換クロマトグラフィー工程を意味する。
【0065】
本発明において、溶液の「pH」は、水サンプルのイオン化に関連して酸性度またはアルカリ度を測定する。水のpHは中性、すなわちpH7である。殆どのpHの読取値が0〜14の範囲である。水よりも高い[H+]を有する溶液(pH7未満)は酸性であり、水よりも低い[H+]を有する溶液(pH7超過)は塩基性またはアルカリ性である。pHはpH計測器を用いて測定されることができる。緩衝剤のpHは、HClまたはNaOHなどの酸または塩基を用いて調整することができる。
【0066】
本発明において、前記ステップ(e)での陰イオン交換クロマトグラフィー分画のpHの上向き調節は、1回またはそれ以上の回数で行われることを特徴とする。また、前記ステップ(e)でのpHの上向き調節では、UFダイアフィルトレーション(UF diafiltration)、pH滴定(pH titration)、透析(dialysis)、および緩衝液交換カラムクロマトグラフィー(buffer exchange column chromatography)からなる群から選択される1つ以上の技法を用いることを特徴とする。好ましくは、前記ステップ(e)での陰イオン交換クロマトグラフィー分画のpHの上向き調節は、Tris−HCl緩衝液を用いて行われ、この際、Tris−HCl緩衝液のpHは7.0〜8.5、好ましくは7.3〜8.3の値を有する。
【0067】
本発明において、前記ステップ(f)での二次陰イオン交換クロマトグラフィーは、pH2〜9、好ましくはpH3〜8、伝導度(conductivity)2〜40mS/cm、好ましくは3〜30mS/cmの条件で行われることを特徴とする。前記ステップ(f)でのボツリヌス毒素は、陰イオン交換クロマトグラフィーより溶出されるFT(flow through)を、ボツリヌス毒素が含まれた分画(fraction)として得るか(flow through mode)、陰イオン交換クロマトグラフィーの樹脂(resin)に結合されたボツリヌス毒素が含まれた分画として得ること(binding mode)を特徴とする。
【0068】
本発明において、好ましくは、前記ステップ(g)での緩衝液はリン酸ナトリウム緩衝液であり、pHは6〜8、好ましくは6.5〜7.5の値を有する。
【0069】
本発明において、前記ステップ(h)での陽イオン交換クロマトグラフィーは、pH2〜9、好ましくはpH3〜8、伝導度(conductivity)2〜40mS/cm、好ましくは3〜30mS/cmの条件で行われることを特徴とする。前記ステップ(h)での陽イオン交換クロマトグラフィーでボツリヌス毒素は、陽イオン交換クロマトグラフィーの樹脂(resin)に結合されたボツリヌス毒素が含まれた分画として得ることを特徴とする。また、最終的に精製されたボツリヌス毒素の構成形態は、7S(分子量:150kDa)であることを特徴とする。
【0070】
本発明によるボツリヌス毒素の製造方法において、陰イオン交換クロマトグラフィーに用いられる樹脂は、ジエチルアミノエチル(DEAE)、4級アミノエチル(QAE)、および4級アミン(Q)グループを含むが、これに限定されるものではない。好ましくは、TQ650、HQ、XQなどが用いられることができる。
【0071】
本発明によるボツリヌス毒素の製造方法において、陽イオン交換クロマトグラフィーに用いられる樹脂は、カルボキシメチル(CM),スルホエチレ(SE),スルホプロピル(SP),ホスフェート(P)およびスルホネート(S)を含むが好ましいが、これに限定されるものではない。好ましくは、HS、XSなどが用いられることができる。
【0072】
製造元
セルロースイオン交換樹脂としては、例えば、DE23
TM、DE32
TM、DE52
TM、CM−23
TM、CM−32
TM、およびCM−52
TMが製造元[GE Healthcare, Lindesnes, Norway]から市販されており、SEPHADEX−ベースおよび架橋結合されたイオン交換剤も公知されている。例えば、DEAE−、QAE−、CM−、およびSP−SEPHADEXおよびDEAE−、Q−、CM−およびS−SEPHAROSEおよびSEPHAROSE Fast Flowが何れも製造元[GE Healthcare Bio-Sciences]から市販されている。さらに、DEAEおよびCM誘導体化されたエチレングリコール−メタクリレート共重合体(例えば、TOYOPEARL
TM DEAE-650S
またはMおよびTOYOPEARL
TM CM-650SまたはM)が製造元[Tosoh Bioscience LLC, King of Prussia, PA]から市販されている。
【実施例】
【0073】
以下、本発明を実施例を挙げて詳述する。これらの実施例は単に本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例に制限されないことは当業者において通常の知識を有する者にとって自明である。
【0074】
実施例1:クロストリジウムボツリヌス菌株の培養
ボツリヌス毒素を生産するためのクロストリジウムボツリヌス菌株は、2%のカゼイン加水分解物(Casein hydrolysate)、1%の酵母抽出物(Yeast extract)、1%のグルコース、および0.5%のチオグリコール酸塩培地(Thioglycollate medium)の組成を有する培地を121℃で30分間滅菌した後、前記培地10mLが入っている培養容器に20μLのクロストリジウムボツリヌス(疾病管理本部管理番号:4−029−CBB−IS−001)を接種し、35℃で嫌気的条件で22〜30時間一次種培養(静置培養)した。一次種培養で菌株の成長が確認されると、同じ培地組成を有する800mLの滅菌された培地がそれぞれ入っている培養容器に8mLの一次種培養液を接種し、35℃で嫌気的条件で3日間二次種培養(静置培養)した。
【0075】
実施例2:ボツリヌス毒素の製造
2−1:硫酸沈殿およびpH中和
硫酸沈殿ステップは、ボツリヌス菌を培養した後に残っている菌を全部死滅させ、多くの種類のタンパク質が含まれている培養液に硫酸を添加することでpHを低下させることにより、タンパク質が等電点に達することとなって沈殿されるタンパク質を分離する方法であって、実施例1の方法で本培養を実施し、培養が終了すると、10Lの培養容器(10L SUS Pot)に培養された培養液を集めた後、pH3.4〜3.6となるように5Nの硫酸を添加し、常温で12〜20時間放置することで、上澄液と沈殿物が分離されるようにした。前記上澄液を除去し、最終的に2.5〜3.0Lの硫酸沈殿液を残した。
【0076】
前記上澄液が除去された硫酸沈殿液のpH中和方法は、次のとおりである。すなわち、硫酸沈殿液に1Mのリン酸ナトリウム(pH5.3)700mLを添加し、撹拌した後、5NのNaOHを添加して硫酸沈殿液のpHを5.9〜6.1に調節した。上記のようにpHを中和させた硫酸沈殿液を得て、4等分した。
【0077】
2−2:前処理工程
1)従来工程
実施例2−1の4等分した硫酸沈殿液のうち1つを、従来の工程により前処理した。すなわち、沈殿物に残っているDNAおよびRNAを除去するために、0.4Mのベンザミジン塩酸(benzamidine HCl)60mL、DNase0.25g、RNase0.25gを添加し、ボツリヌス毒素を抽出するために約3〜7時間反応させた。前記毒素抽出培養液を、4℃、15分、12,000xgで遠心分離した後、上澄液を得た。前記上澄液に1Nの塩酸を添加してpHを3.4〜3.6に低めた後、3〜5℃で12〜20時間放置することで、塩酸沈殿過程を行った。前記過程により形成された塩酸沈殿液を4℃、12,000xgで15分間遠心分離して上澄液を除去した後、毒素沈殿物(pellet)に50mMのリン酸ナトリウム(pH6.5)緩衝液30mLを添加して毒素沈殿物を溶解させた。
【0078】
2)深層フィルタ(Depth filter)濾過工程
実施例2−1の4等分した硫酸沈殿液のうち残りの3/4の硫酸沈殿液は、蠕動ポンプ(peristaltic pump)にZeta Plus
TM Encapsulated Capsule depth filter effective filtration(3M、BC0025S60SP05A)を連結して濾過(filtration)した。
【0079】
i)深層フィルタ(Depth filter)濾過後、UF
UFシステム(PALL、TFF cassette 30kDa)を用いて、深層フィルタの濾過液に対して50mMのリン酸ナトリウム(pH6.5)でダイアフィルトレーション(diafiltration)を10回行った後、最終体積を30mLとなるようにした。
【0080】
ii)深層フィルタ(Depth filter)濾過後、硫酸アンモニウム(Ammonium sulfate)沈殿
深層フィルタの濾過液に硫酸アンモニウムを30%(w/v)となるように添加し、3〜5℃で12〜20時間放置した。次に、4℃、15分、12,000xgで遠心分離して上澄液を除去した後、遠心分離ペレット(pellet)を50mMのリン酸ナトリウム(pH6.5)30mLに再溶解した。
【0081】
iii)深層フィルタ(Depth filter)濾過後、塩酸(Hydrochloric acid)沈殿
深層フィルタの濾過液に1NのHCl(塩酸)を添加してpHを3.4〜3.6に低めた後、3〜5℃で12〜20時間放置した。次に、4℃、15分、12,000xgで遠心分離して上澄液を除去した後、遠心分離ペレット(pellet)を50mMのリン酸ナトリウム(pH6.5)30mLに再溶解した。
【0082】
2−3:精製工程
TQ工程(一次陰イオン交換クロマトグラフィー工程)により精製されたボツリヌス毒素の純度の測定は、HPLC(Waters社、e2695)を用いてSEC(size exclusion chromatography)方法により行った。ここで、移動相としては100mMのリン酸ナトリウム溶液(pH6.5)を使用し、P/N08542に対するガードカラム(Tosoh Bioscience社、P/N08543)にTSKgel G4000SWXL(Tosoh Bioscience社、P/N08542)カラムを連結し、ボツリヌス毒素タンパク質20μgをロード(loading)して1mL/minで30分間流した。
【0083】
TQ工程(一次陰イオン交換クロマトグラフィー工程)、HQ工程(二次陰イオン交換クロマトグラフィー工程)、およびXS工程(陽イオン交換クロマトグラフィー工程)により精製されたボツリヌス毒素の各精製(工程)ステップで回収した試料に含まれたボツリヌス毒素の混合状態/純度/含量を視覚的に確認するために、タンパク質の電気泳動(SDS−PAGE)を行った。すなわち、ボツリヌス毒素が含まれていると推定される試料をブラッドフォード(Bradford)方法により定量した後、各試料の所定の定量(例えば、40μgタンパク質)を取り、適宜加熱および/または溶解させることで変性されたタンパク質を用いて、10%〜12%のSDS−PAGEを行った。電気泳動されたゲルは、適切な染色剤(硝酸銀またはクーマシーブルー)で染色した後、各精製ステップでのボツリヌス毒素の純度を視覚的に確認した。
【0084】
2−3−1:TQ精製(陰イオン交換クロマトグラフィー(Anion exchange chromatography Flow−through:AEX FT))
実施例2−2の前処理工程が終わった後、ボツリヌス毒素を除いた殆どの主要不純物を除去するために、イオン交換樹脂を用いて下記のようにクロマトグラフィーを行った。
【0085】
(1)XK 26/40にTQ樹脂(resin)をカラムに高さ30〜34cmとなるようにパッキング(packing)した後、AKTA Prime Plusに取り付けた。
(2)平衡/溶出緩衝液(50mMのリン酸ナトリウム、pH6.5、10mS/cm)を流してカラムを平衡化した。
(3)実施例2−2の従来工程により前処理された試料を前記カラムに10mLずつ分画し、2mL/分で注入した。注入が終わると、160〜180mLの平衡/溶出緩衝液を注入し、UV280nm波長でピークが上昇してから基準値(Baseline)に下がるまでの分画(fraction)を順に得た(前記分画は、HPLCおよびSDS−PAGEで確認した)。
(4)分画を得た後、カラムの再生のために、洗浄緩衝液(50mMのリン酸ナトリウム、pH6.5、1MのNaCl)を5mL/分で200mL以上注入して洗浄した。
(5)前記(2)〜(4)の過程を、従来工程により前処理された試料の代わりに、他の3つの方法により前処理された試料(深層フィルタ濾過後UF/硫酸アンモニウム沈殿/塩酸沈殿)を用いてTQ精製を行った。この際、高純度のボツリヌス毒素を精製するために、pHは6.4〜6.6、伝導度(conductivity)は10±5mS/cmに維持されるようにした。
【0086】
その結果、ボツリヌス毒素はTQ樹脂に吸着されず、殆どの主要不純物は吸着されて除去されるため、高い純度を有するボツリヌス毒素の生産が可能であり、最終ボツリヌス毒素の構成形態は19S(分子量:約900kDa)であることを確認した。
【0087】
2−3−2:HQ精製(陰イオン交換クロマトグラフィー(Anion exchange chromatography:AEX、biding mode)
TQ精製が終わった後、ボツリヌス毒素をさらに精製するために、HQイオン交換樹脂を用いたクロマトグラフィー(以下、HQ工程)を行った。この際、HQ工程は、バインディングまたはFT(flow−through)方式によりTQ精製試料を精製した。本発明において、HQ(バインディング)とは、標的物質(例えば、ボツリヌス毒素)と結合可能なHQ樹脂(resin)の電荷量差によって標的物質を分離(溶出)する方式であり、また、HQ(FT)とは、標的物質(例えば、ボツリヌス毒素)と混合され得る不純物と結合可能なHQ樹脂(resin)の電荷量差によってHQ樹脂と結合せずに流れ出る(Flow−through、FT)標的物質を試料から分離する方式である。
【0088】
HQ(バインディング)精製(AEX、biding mode)
(1)従来工程により前処理した後にTQ精製された試料に対して、UFシステム(PALL、TFF cassette 30kDa)を用いて、25mMのTris−HCl緩衝液(pH7.8)でダイアフィルトレーション(diafiltration)を10回行い、最終pHを7.7〜7.9、体積を30mLとなるようにして準備した。
(2)HQ樹脂(resin)をAKTA Prime Plusに取り付けた。
(3)25mMのTris−HCl、pH7.8緩衝液を流してカラムを平衡化した。
(4)12mLずつ分画設定し、前記(1)で準備した試料を2.5mL/分で前記平衡化したカラムに注入し、25mMのTris−HCl緩衝液(pH7.8)40mLで洗浄した後、20CV、10%の勾配(gradient)で溶出(elution)した。一番目のピークの分画を順に得た(前記分画はSDS−PAGEで確認した)。この際、高純度のボツリヌス毒素を精製するためにpHを7.8に調節した。
(5)分画を得た後、カラムの再生のために、洗浄緩衝液(25mMのリン酸ナトリウム、pH7.8、1MのNaCl)を2.5mL/分で120mL以上注入して洗浄した。
(6)前記(1)〜(5)の過程を、従来工程により前処理した後にTQ精製された試料の代わりに、他の3つの方法により前処理されてTQ精製された試料(深層フィルタ濾過後UF/硫酸アンモニウム沈殿/塩酸沈積した後、TQ精製された試料)を用いて行った。
【0089】
その結果、高い純度を有するボツリヌス毒素の生産が可能であり、最終ボツリヌス毒素は7S(分子量:約150kDa)であることを確認した(
図2および
図3)。
【0090】
2−3−3:HQ精製(AEX、biding mode)およびXS精製(binding mode)
前記実施例2−3−2によるHQ精製が終わった後、ボツリヌス毒素をさらに精製するために、XS陽イオン交換クロマトグラフィー(Cation exchange chromatography:CEX、binding mode)をさらに行った。
【0091】
具体的なXS工程は、次のとおりである。
(1)実施例2−2の従来工程により前処理した後にHQ精製された試料を、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.0)緩衝液を用いて1/4に希釈した。
(2)XS樹脂(resin)をAKTA Prime Plusに取り付けた。
(3)平衡/溶出緩衝液(50mMのリン酸ナトリウム、pH7.0)を流してカラムを平衡化した。
(4)14mLずつ分画設定し、前記(1)で希釈された、HQ精製された試料を1.6mL/分で前記平衡化したカラムに注入し、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.0)緩衝液50mLで洗浄した後、分画を6mLに設定し、20CV、12%の勾配(gradient)で溶出(elution)した。一番目のピークの分画を順に得た(前記分画はSDS−PAGEで確認した)。この際、高純度のボツリヌス毒素を精製するためにpHを7.0に調節した.。
(5)分画を得た後、カラムの再生のために、洗浄緩衝液(25mMのリン酸ナトリウム、pH7.0、1MのNaCl)を1.6mL/分で20mL以上注入して洗浄した。
(6)前記(1)〜(5)の過程を、従来工程により前処理した後にTQ精製された試料の代わりに、他の3つの方法により前処理されてTQ精製された試料(深層フィルタ濾過後UF/硫酸アンモニウム沈殿/塩酸沈積した後、TQ精製およHQ精製された試料)を用いて行った。
【0092】
その結果、高い純度を有するボツリヌス毒素の生産が可能であり、最終ボツリヌス毒素は7S(分子量:約150kDa)であることを確認した(
図4および
図5)。
【0093】
2−3−4:HQ精製(AEX、FT mode)およびXS精製(binding mode)
前記実施例2−3−3のようなボツリヌス毒素の製造方法において、HQ工程(AEX)を用いた精製方法で、binding modeをflow through modeで代替してボツリヌス毒素を製造した。
【0094】
HQ(AEX、FT mode)工程
HQ精製(AEX、FT mode)は、次のような方法により行われた。
【0095】
UFシステム(PALL、TFF cassette 30kDa)を用いて、従来工程により前処理した後にTQ精製された試料に対して25mMのTris−HCl緩衝液(pH7.8)でダイアフィルトレーション(diafiltration)を10回行い、最終pHを7.7〜7.9、体積を30mLとなるようにして準備した後、HQ(FT mode)工程を行った。
【0096】
i.HQをAKTA Prime Plusに取り付けた。
ii.25mMのTris−HCl、pH7、伝導度7.8mS/cm緩衝液を流してカラムを平衡化した。
iii.1mLずつ分画設定し、TQ試料を1.5mL/分で注入し、25mMのTris−HCl、pH7.8、伝導度7.3mS/cm緩衝液40mLで溶出した。ピークの分画を集めて回収した(前記分画はSDS−PAGEで確認した)。
iv.分画を得た後、カラムの再生のために、25mMのTris−HCl、pH7.8、1MのNaCl緩衝液を1.5mL/分で40mL以上注入して洗浄した。
【0097】
HQ(FT)試料を用いたXS工程
ボツリヌス毒素の純度を向上させるために、HQ(FT)工程により精製された試料に対してXS(バインディング)工程を行って精製した。
【0098】
(1)HQ(FT)工程により精製された試料を、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.0)緩衝液を用いて1/4に希釈した。
(2)XS樹脂(resin)をAKTA Prime Plusに取り付けた。
(3)50mMのリン酸ナトリウム(pH7.0)緩衝液を流してカラムを平衡化した。
(4)14mLずつ分画設定し、前記(1)で希釈された、HQ精製された試料を1.5mL/分で注入し、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.0)緩衝液50mLで洗浄した後、分画を6mLに設定し、60CV、12%の勾配(gradient)で溶出(elution)した。一番目のピークの分画を集めて回収した(前記分画はSDS−PAGEで確認した)。
(5)分画を得た後、カラムの再生のために、洗浄緩衝液(50mMのリン酸ナトリウム、pH7.0、1MのNaCl)を1.5mL/分で20mL以上注入して洗浄した。
【0099】
その結果、
図6および
図7に示されたように、7S(分子量:約150kDa)、純度98%以上のボツリヌス毒素を製造することができることが確認された。
【0100】
まとめると、
図2〜
図7に示されたように、実施例2の従来工程、または深層フィルタ(depth filter)で濾過してから塩酸沈殿工程を行った後、陰イオン交換クロマトグラフィー精製(TQ(バインディングまたはFT)精製)により得たボツリヌス毒素を含有する試料は、毒素19Sで本来観察される138kDa(NTNH)、98kDa(重鎖(Heavy chain))、52kDa(軽鎖(Light chain))、50kDa(HA)、33kDa(HA)、20kDa(HA)、17kDa(HA)以外の不純物が最も少なく観察された。
【0101】
また、深層フィルタ(depth filter)で濾過した後、UF工程(UFダイアフィルトレーション(UF diafiltration))および陰イオン交換クロマトグラフィー精製(TQ(バインディングまたはFT)精製)により得たボツリヌス毒素を含有する試料は、約13kDaの不純物タンパク質バンドが観察された。
【0102】
また、深層フィルタ(depth filter)で濾過した後、硫酸アンモニウム沈殿および陰イオン交換クロマトグラフィー精製(TQ(バインディングまたはFT)精製)により得たボツリヌス毒素を含有する試料は、37kDaの不純物タンパク質バンドが観察された。
【0103】
これに対し、低分子ボツリヌス毒素を精製する工程である、解離後にHQからXSに繋がる精製の結果では、4つの前処理工程(従来工程または深層フィルタ(depth filter)濾過後UF/硫酸アンモニウム沈殿/塩酸沈殿)の種類にかかわらず、ボツリヌス毒素を含有する試料は何れも不純物タンパク質バンドが観察されず、98kDa(重鎖(Heavy chain))、52kDa(軽鎖(Light chain))の低分子ボツリヌス毒素のみが観察された。
【0104】
特に、ボツリヌス毒素である19Sを分離するために、ボツリヌス毒素を含有する試料の酵素処理および抽出工程に代替可能な最も効率の高い工程は、硫酸沈殿工程、深層フィルタ(depth filter)を用いた濾過(filtration)および塩酸沈殿を行った後、陰イオン交換クロマトグラフィー精製(TQ(バインディングまたはFT)精製)を順に行うことであるということが確認された。
【0105】
これに対し、ボツリヌス毒素である7S(低分子ボツリヌス毒素)を分離するための工程は、4つの前処理工程(従来工程または深層フィルタ(depth filter)濾過後UF/硫酸アンモニウム沈殿/塩酸沈殿)の後、陰イオン交換クロマトグラフィー(HQ(bindng modeまたはFT mode))を適用し、次いで、陽イオン交換クロマトグラフィー(XS(bindng mode))を適用する場合に、何れも精製効率が高いことが確認された。