【実施例】
【0061】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例において「部」や「%」は重量基準である。
【0062】
<油脂組成物の作製>
(製造例1)
表1に示す配合に従って、油脂組成物を作製した。即ち、パーム中融点部30.0重量部、硬化パームダブルオレイン(融点31℃)9.0重量部、エステル交換油脂A 10.0重量部、エステル交換油脂B 15.0重量部を65℃で融解し、菜種油36.0重量部を混合して油相部を調製し、急冷混捏して油脂組成物Aを100重量部得た。
【0063】
(製造例2)
表1に示す配合に従い、パーム中融点部5.0重量部、エステル交換油脂A 18.0重量部、エステル交換油脂B 52.0重量部を融解し、パームダブルオレイン25.0重量部を混合して油相部を調製し、急冷混捏して油脂組成物Bを得た。
【0064】
(製造例3)
表1に示す配合に従い、パームエステル交換油脂25.0重量部を融解し、菜種油75.0重量部を混合して油相部を調製し、急冷混捏して油脂組成物Cを得た。
【0065】
(製造例4)
表1に示す配合に従い、極度硬化菜種油15.0重量部を融解し、菜種油85.0重量部を混合して油相部を調製し、急冷混捏して油脂組成物Dを得た。
【0066】
(製造例5)
表1に示す配合に従い、油相部の油脂配合の割合は同じで、油相部を急冷捏和した後にトランスグルタミナーゼを添加し、再度捏和した以外は、製造例1と同様にして油脂組成物Eを得た。
【0067】
【表1】
【0068】
<こんにゃく粉含有有形水の作製>
(製造例6)特開2006−320207号公報の実施例1に準拠
表2に示す配合に従い、先ずこんにゃく粉とタピオカ澱粉とを水に分散し、これを攪拌して膨潤させ、次いで水酸化カルシウム溶液と反応させてゲル化させ、これを直径5mmの粒状に成形し、加熱してゼリー状固体に形成し、その後、クエン酸溶液中に3時間以上浸漬して引き上げ、こんにゃく粉含有有形水を得た。
【0069】
【表2】
【0070】
<食物繊維入り水中油型乳化油脂組成物の作製>
(製造例7)特開2011−97923号公報の実施例1に準拠
表3に示す配合に従い、60℃に加温したパーム油 8.0重量部にレシチン 0.1重量部とグリセリン脂肪酸エステル 0.1重量部を溶解した油相を用意した。一方、60℃に加温した水 67.6重量部に乳糖 8.0重量部、脱脂粉乳 15.0重量部、リン酸塩 0.2重量部を溶解し、さらに低置換度カルボキシメチルセルロース 1.0重量部を添加・分散した水相を用意した。前記油相を65℃に温調した水相に混合し、攪拌して水中油型の予備乳化物を調製した。該予備乳化物を143℃にて5秒間殺菌し、10MPaの圧力で均質化後、5℃まで冷却し、食物繊維入り水中油型乳化油脂組成物を得た。
【0071】
【表3】
【0072】
<生地の水分の測定>
実施例・比較例で作製した生地約50gを採取し、3〜10mmの厚さに圧延した中種生地又は本捏生地全体の重量(x)と、該生地全体を105℃のオーブンに、5時間保持した後の重量(y)を測定し、以下の式により計算される値を水分とした。
生地の水分(重量%)=[(x−y)/x]×100
【0073】
<本捏生地のまとまり易さの評価>
実施例・比較例で作製した本捏生地のまとまり易さは、以下の方法により混捏時間を測定し、評価した。本捏生地全体中の小麦粉が2000gになるように、中種生地および中種生地を除く本捏生地材料を20Lのミキサーボウルに投入し、縦型ミキサー(関東混合機工業株式会社製「カントーミキサーKPI−20M」)にフックを取り付け、低速で3分間混捏後、中速で生地がまとまるまで混捏した。
5点:極めて生地がまとまり易い(混捏時間=20分未満)。
4点:生地が比較的まとまり易い(混捏時間=20分以上、25分未満)。
3点:生地が普通にまとまる(混捏時間=25分以上、30分未満)。
2点:若干生地がまとまり難い(混捏時間=30分以上、45分未満)。
1点:極めて生地がまとまり難い(混捏時間=45分以上)。
【0074】
<機械による大量生産性の評価>
実施例・比較例で作製した本捏生地を、ストレートモルダ−(株式会社フジサワ製「FM−3」)を使用してパン生地を成形した際の機械への付着性を、以下の基準で評価した。
5点:機械に全く付着せず、機械による大量生産性が極めて良好である。
4点:機械に付着せず、機械による大量生産性が良好である。
3点:機械にやや付着し、機械による大量生産性が若干劣る。
2点:機械に付着し、機械による大量生産性が悪い。
1点:機械への付着が激しく、機械による大量生産性が極めて悪い。
【0075】
<パンの水分の測定>
実施例・比較例で得られたパンのクラム部分とクラスト部分を含むパン全体の重量(X)と、該パン全体を105℃のオーブンに、5時間保持した後の重量(Y)を測定し、以下の式により計算される値を水分とした。
パンの水分(重量%)=〔(X−Y)/X〕×100
【0076】
<パンクラムのpHの測定>
実施例・比較例で作製したパンのクラム部分20gを蒸留水80mlと混合し、ホモジナイザーにて12000rpmで5分間破砕して得た破砕液をpH METER(株式会社堀場製作所製「F-52」)で測定した値をパンクラムのpHとした。
【0077】
<パンの比容積の測定>
レーザー体積計測機「WinVM200」(株式会社アステックス製)を用い、予め重量(g)を測定したパンの体積(cm
3)を測定し、得られた体積を重量で割ることにより測定される値(cm
3/g)をパンの比容積とした。
【0078】
<焼成翌日のパンの弾力性の評価(凝集性の測定)>
実施例・比較例で作製したパンを焼成翌日に2cmの厚さになるよう上面から底面方向に向かってスライスし、5cm×5cmの正方形にカットしたパンクラムを、レオメーター(株式会社山電製「クリープメータ」MODEL:RE2-3305)を用いて、テクスチャー解析モードで、プランジャー:60mm×60mmの正方形、測定スピード:5mm/秒、測定歪率:50%、戻り距離:50mm、接触面積:2500mm
2、測定回数:2回の条件で測定を行った値をパンの凝集性とし、この値を基に、パンの弾力性を以下のような基準で評価した。
5点:食感に最適な弾力があり、極めて良好である(凝集性が0.80以上0.85以下)。
4点:食感に弾力があり、良好である(凝集性が0.78以上0.80未満、又は0.85を超えて0.87以下)。
3点:弾力が若干弱い、又は若干強すぎてやや劣る(凝集性が0.77以上0.78未満、又は0.87を超えて0.88以下)。
2点:弾力が弱い、又は強すぎて劣る(凝集性が0.76以上0.77未満、又は0.88を超えて0.89以下)。
1点:弾力が極めて弱い、又は極めて強すぎて劣る(凝集性が0.76未満、又は0.89より大きい)。
【0079】
<焼成4日後のパンの弾力性の評価(凝集性の測定)>
実施例・比較例で作製したパンを焼成4日後に2cmの厚さになるよう上面から底面方向に向かってスライスし、5cm×5cmの正方形にカットしたパンクラムを、レオメーター(株式会社山電製「クリープメータ」MODEL:RE2-3305)を用いて、テクスチャー解析モードで、プランジャー:60mm×60mmの正方形、測定スピード:5mm/秒、測定歪率:50%、戻り距離:50mm、接触面積:2500mm
2、測定回数:2回の条件で測定を行った値をパンの凝集性とし、この値を基に、パンの弾力性を以下のような基準で評価した。
5点:食感に最適な弾力が維持されており、極めて良好である(凝集性が0.72以上0.83以下)。
4点:食感に弾力が維持されており、良好である(凝集性が0.70以上0.72未満、又は0.83を超えて0.85以下)。
3点:弾力が若干弱く、やや劣る(凝集性が0.68以上0.70未満、又は0.85を超えて0.86以下)。
2点:弾力が弱く、劣る(凝集性が0.66以上0.68未満、又は0.86を超えて0.87以下)。
1点:弾力が極めて弱く、劣る(凝集性が0.66未満、又は0.87より大きい)。
【0080】
<パンの官能評価方法>
実施例・比較例で作製したパンを、熟練した10名のパネラーに食べて評価してもらい、それらの平均点を評価値とした。その際の評価基準は、以下の通りである。
(しっとりさ)
5点:しっとりさが極めて良好である。
4点:しっとりさが良好である。
3点:若干パサツキが感じられ、しっとりさが劣る。
2点:パサツキがあり、しっとりさに欠ける。
1点:パサツキが酷く、しっとりさが全く感じられない。
(モチモチさ)
5点:モチモチさが極めて良好である。
4点:モチモチさが良好である。
3点:モチモチさがやや劣る。
2点:モチモチさに欠ける。
1点:モチモチさが全く感じられない。
【0081】
<総合評価>
生地のまとまり易さ、機械による大量生産性、弾力性、しっとりさ、モチモチさの各評価結果を基に、総合評価を行った。その際の評価基準は以下の通りである。
5点:生地のまとまり易さ、機械による大量生産性、弾力性、しっとりさ、モチモチさの評価が全て4.5点以上。
4点:生地のまとまり易さ、機械による大量生産性、弾力性、しっとりさ、モチモチさの評価で1つ以上が4点以上4.5点未満で、残りが4.5点以上。
3点:生地のまとまり易さ、機械による大量生産性、弾力性、しっとりさ、モチモチさの評価で1つ以上が3点以上4点未満で、残りが4点以上。
2点:生地のまとまり易さ、機械による大量生産性、弾力性、しっとりさ、モチモチさの評価で1つ以上が2点以上3点未満で、残りが3点以上。
1点:生地のまとまり易さ、機械による大量生産性、弾力性、しっとりさ、モチモチさの評価で1つ以上が2点未満。
【0082】
<パンの衛生(一般生菌)の評価>
実施例・比較例で作製したパンを2cmの厚さにスライスし、中心に乳酸菌を10
3個/g植菌してポリ袋に入れ、30℃で2日間保存後の標準寒天培地を用いた一般生菌測定法でコロニー数をカウントし、検体1g当りの菌数を算出して、乳酸菌の増殖(菌数が10
5CFU/gを超えるか)を評価した。この評価は、パンの商品性判断には必須なので評価を行った。
【0083】
<パンの衛生(カビ)の評価>
実施例・比較例で作製したパンを2cmの厚さにスライスし、ポリ袋に入れて、30℃で5日間保存後のカビの発生の有無を目視で評価した。この評価は、パンの商品性判断には必須なので評価を行った。
【0084】
<パンの老化耐性の評価>
実施例・比較例で作製したパンを20℃で4日間保存後、熟練した10名のパネラーに、老化耐性の有無(焼成直後のパンに比べ、硬くなっているか否か)を評価してもらった。この評価は、パンの商品性判断には必須なので評価を行った。
【0085】
(実施例1)食パン
表4に示す配合に従い、食パンを以下の方法にて作製した。強力粉70重量部に対して、生パン酵母2.0重量部(乾燥重量で0.6重量部)、油脂組成物A5.0重量部、水50重量部、トランスグルタミナーゼ0.1重量部(強力粉100gに対して4.0U)をミキサーボウルに投入し、縦型ミキサー(関東混合機工業株式会社製「カントーミキサー」)にフックを取り付け、低速で3分間、中速で生地がまとまるまで混捏後、28℃で4時間発酵させ、中種生地を作製した。その後、発酵した中種生地に、強力粉30重量部に対して、上白糖8重量部、食塩2.2重量部、脱脂粉乳3.0重量部、水40重量部を加えて、低速で3分間、高速で生地がまとまるまで混捏し本捏生地を作製した。28℃で30分一次発酵させ、ゼロープレッシャーモルダー(株式会社コードジャパン製)を用いて板状に生地を延ばして300gで分割後、モルダー及び展圧板を用いて俵状に成型し、この成型物を食型(底面:縦8.5cm×横17cm、上面:縦9.5cm×横19cm、高さ:8cm)に入れ、38℃,湿度85%の条件下で60分間最終発酵を行った。最終発酵後、205℃のオーブンで22分焼成し、食パンを得た。中種生地、本捏生地及び食パンの各種評価結果を表4に示す。
【0086】
(実施例2,3、比較例1,2)食パン
表4に示す配合に従い、トランスグルタミナーゼの添加量を変えた以外は、実施例1と同様に食パンを作製して、その評価結果を表4に示した。
【0087】
(比較例3)食パン
表4に示す配合に従い、トランスグルタミナーゼの本捏生地全体中の添加量は同じで、添加場所を中種生地から中種生地を除く本捏生地材料に変えた以外は、実施例1と同様に食パンを作製して、その評価結果を表4に示した。
【0088】
(比較例4)食パン
表4に示す配合に従い、トランスグルタミナーゼの添加量を変えた以外は、比較例3と同様に食パンを作製して、その評価結果を表4に示した。
【0089】
【表4】
【0090】
表4から明らかなように、中種生地中の小麦粉100gに対してトランスグルタミナーゼを少量(0.2U)しか添加しなかった水準(比較例1)は、本捏生地がまとまり難く且つ大量生産性が悪く、出来たパンもモチモチさが劣ったが、トランスグルタミナーゼを0.8〜12.0U添加した水準(実施例1〜3)は、何れも本捏生地がまとまり易く、機械による大量生産性が良好で、出来た食パンも比容積が増し、またモチモチさが向上し、好ましいものであった。一方、トランスグルタミナーゼを過剰(24.0U)に添加した水準(比較例2)は、トランスグルタミナーゼの作用が過剰に起こり、パンの凝集性、モチモチさが低下し、ゴム様の食感で好ましくないものであった。また、トランスグルタミナーゼを、中種生地を除く本捏生地に添加(本捏生地全体中では、実施例1と同量の添加量)した水準(比較例3)は、トランスグルタミナーゼの作用する時間が少ないため効果が得られず、本捏生地がまとまり難く、出来たパンもモチモチさが劣った。更に、トランスグルタミナーゼを、中種生地を除く本捏生地に過剰に添加した水準(比較例4)は、出来たパンの凝集性が低く、ゴム様の食感で好ましくないものであった。
【0091】
(実施例4,5、比較例6,7)食パン
表5に示す配合に従い、油脂の添加量を変えた以外は、実施例1と同様に食パンを作製して、その評価結果を表5に示した。
【0092】
(比較例5)食パン
表5に示す配合に従い、油脂の本捏生地全体中の添加量は同じで、添加場所を中種生地から中種生地を除く本捏生地材料に変え、本捏で生地がまとまってから油脂を添加して低速で2分、高速で4分混捏した以外は、実施例1と同様に食パンを作製して、その評価結果を表5に示した。
【0093】
【表5】
【0094】
表5から明らかなように、中種生地中の小麦粉100重量部に対して油脂を2.9〜28.6重量部添加した水準(実施例1、4及び5)は、何れも本捏生地がまとまり易く、また出来たパンはしっとり、モチモチしており、非常に好ましいものであった。一方、油脂を、中種生地を除く本捏生地材料に添加した水準(比較例5)は、本捏生地がまとまり難くて混捏時間が長くなった。また、中種生地に油脂を少量(0.7重量部)しか添加しなかった水準(比較例6)は、本捏生地がまとまり難くて混捏時間が長くなり、出来たパンもしっとりさとモチモチさが劣った。更に、油脂を中種生地に過剰(42.9重量部)に添加した水準(比較例7)は、中種生地及び本捏生地がまとまり難く且つ大量生産性が悪く、出来たパンもモチモチさが劣った。
【0095】
(実施例6,7、比較例8)食パン
表6に示す配合に従い、中種生地中の水の添加量を変え、中種生地を除く本捏生地材料中の水の添加量で、本捏生地全体中の水分量が同じになる様に調整した以外は、実施例1と同様に食パンを作製して、その評価結果を表6に示した。
【0096】
【表6】
【0097】
表6から明らかなように、中種生地中の水分が45.0〜49.6重量%の水準(実施例1、6及び7)は、何れも本捏生地がまとまり易く、べたつき難くて、大量生産性が良好で、また出来たパンはしっとり、モチモチしており、非常に好ましいものであった。一方、中種生地中の水分が少ない水準(比較例8)は、本捏生地がまとまり難く、べたついて大量生産性が劣った。
【0098】
(実施例8,9、比較例9,10)食パン
表7に示す配合に従い、中種生地を除く本捏生地材料中の糖類の添加量を変えた以外は、実施例1と同様に食パンを作製して、その評価結果を表7に示した。
【0099】
(実施例10)食パン
表7に示す配合に従い、中種生地に糖類を加え、中種生地の発酵時間を2.5時間に変えた以外は、実施例1と同様に食パンを作製して、その評価結果を表7に示した。
【0100】
【表7】
【0101】
表7から明らかなように、中種生地を除く本捏生地材料中の小麦粉100重量部に対して糖類を15.2〜87.8重量部添加した水準(実施例1、8及び9)は、何れも生地のまとまり易さ及び大量生産性が良好で、出来たパンは比容積も大きく、高い弾力性があって、モチモチさのある好ましいものであった。一方、中種生地を除く本捏生地材料に糖類を少量(7.9重量部)しか添加しなかった水準(比較例9)は、出来たパンの比容積が小さく、弾力性がなく、モチモチさに欠けるものであり、またパン酵母の発酵に必要な糖類が足りないため発酵が抑制され、pHが低下し難いために一般生菌が30℃、2日間で増殖して衛生上問題があった。更に、中種生地を除く本捏生地材料に糖類を過剰(137.3重量部)に添加した水準(比較例10)は、過剰な糖類の影響で本捏生地がまとまり難く、べたつく生地で、大量生産性に劣り、出来たパンも比容積が小さく、凝集性も低くなり、モチモチさが劣るものであり、また糖類により浸透圧が高くなったことでパン酵母の発酵が抑制され、比較例9と同様、pHが低下し難いために一般生菌が30℃2日間で増殖して衛生上問題があった。一方、中種生地に糖類を添加し発酵を短縮した水準(実施例10)は、実施例1と同等の良好な生地状態で、出来たパンもしっとりさとモチモチさに優れたものであった。
【0102】
(実施例11、比較例11)食パン
表8に示す配合に従い、本捏生地全体中の原材料が同じになる様に中種生地、及び中種生地を除く本捏生地材料中の原材料の割合を調整して、中種生地中の小麦粉/中種生地を除く本捏生地材料中の小麦粉の比率を変えた以外は、実施例1と同様に食パンを作製して、その評価結果を表8に示した。
【0103】
(実施例12、比較例12)食パン
表8に示す配合に従い、中種生地に配合していた生パン酵母及び油脂組成物の一部を、中種生地を除く本捏生地材料に配合し、中種生地中の小麦粉/中種生地を除く本捏生地材料中の小麦粉の比率を変えて本捏生地全体中の原材料が同じになる様にした以外は、実施例1と同様に食パンを作製して、その評価結果を表8に示した。
【0104】
【表8】
【0105】
表8から明らかなように、中種生地中の小麦粉/中種生地を除く本捏生地材料中の小麦粉(重量比)が50/50〜80/20の水準(実施例1,11,12)は、何れも生地がまとまり易く、大量生産性が良好で、出来たパンは弾力性があって良好で、しっとりさとモチモチさのある好ましいものであった。一方、生地の混合比率が95/5の水準(比較例11)は、中種生地を除く本捏生地材料中の小麦粉に対する水の量が多くなりすぎるために、本捏生地のまとまりが悪くて扱いにくく、大量生産性も悪いものであった。また、混合比率が10/90の水準(比較例12)は、出来たパンは弾力性が低くて、パサ付き気味の硬い食感で、好ましくないものであり、また中種生地が少なすぎて、生地のpHが下がり難いためパンクラムのpHは5.67となり、一般生菌の増殖が30℃、2日間で増殖して衛生上問題があった。
【0106】
(実施例13、比較例13)食パン
表9に示す配合に従い、中種生地を除く本捏生地材料中の小麦粉100重量部に対する水分を減らし、出来たパンの食感を保つために中種生地中の小麦粉100重量部に対するトランスグルタミナーゼを減らして調整した以外は、実施例1と同様に食パンを作製して、その評価結果を表9に示した。
【0107】
(実施例14、比較例14)食パン
表9に示す配合に従い、中種生地を除く本捏生地材料中の小麦粉100重量部に対する水分を増やし、出来たパンの生地物性を保つために中種生地中の小麦粉100重量部に対するトランスグルタミナーゼと水分を増やして調整した以外は、実施例1と同様に食パンを作製して、その評価結果を表9に示した。
【0108】
【表9】
【0109】
表9から明らかなように、本捏生地全体中の水分が48.0〜54.7重量%の水準(実施例1,13,14)は、生地のまとまり易さや大量生産性は良好で、また出来たパンの水分が多く、弾力性も高く、しっとりさやモチモチさが良好であり、非常に好ましいものであった。一方、本捏生地全体中の水分が45.3重量%の水準(比較例13)は、出来たパンの水分が38%と一般的なパンと同等であり、弾力性が低く、しっとりさとモチモチさに欠けた普通のパンであった。また、本捏生地全体中の水分が過剰な水準(比較例14)は、本捏生地がまとまり難くて、機械による大量生産性に欠けるものであった。
【0110】
(実施例15)食パン
表10に示す配合に従い、中種生地を除く本捏生地材料でアスコルビン酸を添加した以外は、実施例1と同様に食パンを作製して、その評価結果を表10に示した。
【0111】
(実施例16)食パン
表10に示す配合に従い、中種生地を除く本捏生地材料でグルコースオキシダーゼを添加した以外は、実施例15と同様に食パンを作製して、その評価結果を表10に示した。
【0112】
(実施例17)食パン
表10に示す配合に従い、中種生地及び中種生地を除く本捏生地材料のそれぞれの生地配合でリン酸架橋澱粉を添加して、水を増やした以外は、実施例16と同様に食パンを作製して、その評価結果を表10に示した。
【0113】
(実施例18)食パン
表10に示す配合に従い、中種生地を除く本捏生地材料でアミラーゼを添加した以外は、実施例17と同様に食パンを作製して、その評価結果を表10に示した。
【0114】
(実施例19)食パン
表10に示す配合に従い、中種生地を除く本捏生地材料でキシラナーゼを添加した以外は、実施例18と同様に食パンを作製して、その評価結果を表10に示した。
【0115】
(実施例20)食パン
表10に示す配合に従い、本捏生地を混捏時、中種生地を除く本捏生地材料中の水を、まず小麦粉100重量部に対して120重量部を添加して生地がまとまるまで混捏を行った後、残りの水33.3重量部を添加して低速2分、高速4分混捏して生地を作製した以外は、実施例19と同様に食パンを作製して、その評価結果を表10に示した。
【0116】
【表10】
【0117】
表10から明らかなように、中種生地を除く本捏生地材料で酸化剤(アスコルビン酸)を添加した水準(実施例15)は、生地のべたつきがよりなくなり、大量生産性が極めて良好で、より比容積が大きいパンが得られた。更に、中種生地を除く本捏生地材料でグルコースオキシダーゼを添加した水準(実施例16)は、酸化剤との相乗効果で生地のべたつきが更になくなり、大量生産性も極めて良好で、更に比容積が大きいパンが得られた。
【0118】
リン酸架橋澱粉を添加した水準(実施例17)は、リン酸架橋澱粉が水を保持するために多くの水を生地に含ませることが可能となり、出来たパンの比容積は若干小さくなったものの、パン中の水分が更に多くなりモチモチさが向上し、またパネラー9名中8名が老化耐性ありと評価し、流通の面で非常に好ましいものであった。
【0119】
また、中種生地を除く本捏生地材料にアミラーゼを添加した水準(実施例18)及び中種生地を除く本捏生地材料にキシラナーゼを添加した水準(実施例19)は、生地物性や出来たパンの良好さに加え、パネラー10名中10名が老化耐性ありと評価し、非常に好ましいものであった。更に、中種生地を除く本捏生地材料中の水を2回に分けて添加することで(実施例20)、本捏生地のまとまり易さが更に向上し、大量生産性の面で更に好ましく、出来たパンはパネラー10名中10名が老化耐性ありと評価し、非常に良好なものであった。
【0120】
(実施例21,22)食パン
表11に示す配合に従い、中種生地を除く本捏生地材料に醸造酢を添加し、水分量を調製した以外は、実施例20と同様に食パンを作製して、その評価結果を表11に示した。
【0121】
(実施例23)食パン
表11に示す配合に従い、パン酵母を酢酸の生成が少ないパン酵母に変えた以外は、実施例20と同様に食パンを作製して、その評価結果を表11に示した。
【0122】
【表11】
【0123】
表11から明らかなように、中種生地を除く本捏生地材料中の小麦粉100重量部に対して8.3重量部の醸造酢を添加した水準(実施例21)は、生地のまとまり易さや大量生産性が極めて良好で、出来たパンもしっとりさとモチモチさが感じられ、且つ本捏生地のpH及びパンクラムのpHが、醸造酢が無添加のもの(実施例20)より低く、非解離型酢酸量も実施例20が60ppmに対して222ppmであり、30℃で5日間保存してもカビが発生しない、流通に適したパンであった。また、中種生地を除く本捏生地材料中の小麦粉100重量部に対して醸造酢を11.7重量部添加した水準(実施例22)は、生地のまとまり易さと機械大量生産性は良好であったが、pHが低下し過ぎて、出来たパンは30℃で5日間保存してもカビが発生しなかったものの、酸味が感じられ風味がやや劣った。一方、酢酸生成が穏やかなパン酵母を使用した水準(実施例23)は、生地のまとまり易さと機械大量生産性が良好であったが、出来たパンはクラムのpHが若干高く、非解離型酢酸量も16ppmであった。
【0124】
(実施例24〜27)食パン
表12に示す配合に従い、油脂組成物の種類を変えた以外は、実施例20と同様に食パンを作製して、その評価結果を表12に示した。
【0125】
【表12】
【0126】
表12から明らかなように、油脂組成物中の液油の含有量が25〜85重量%の水準(実施例20,24〜27)は、何れも生地のまとまり易さと大量生産性が良好で、かつ出来たパンは弾力性、しっとりさ、モチモチさが良好なものであった。特に液油の含有量が75〜85重量%の水準(実施例25,26)は、出来たパンは、弾力性、しっとりさ、モチモチさが非常に良好で、比容積も大きなものであった。
【0127】
(比較例15)食パン <特開2006−320207号公報(実施例7)に準拠>
表13に示す配合に従い、中種生地配合を強力粉70重量部に対して、生パン酵母2重量部(乾燥重量で0.6重量部)、水42重量部とし、中種生地を除く本捏生地材料配合を強力粉30重量部に対して、上白糖8重量部、食塩2.2重量部、脱脂粉乳3重量部、油脂組成物A5重量部、こんにゃく粉含有有形水(製造例6)55重量部、水13重量部に変えた以外は、比較例5と同様に食パンを作製して、その評価結果を表13に示した。
【0128】
(比較例16)食パン <特開2011−97923号公報に準拠>
表13に示す配合に従い、こんにゃく粉含有有形水を食物繊維入り水中油型乳化油脂組成物(製造例7)に変え、更に中種生地を除く本捏生地材料中の水分量を変えた以外は、比較例15と同様に食パンを作製して、その評価結果を表13に示した。
【0129】
(比較例17)食パン <特開平11-243843号公報に準拠>
表13に示す配合に従い、こんにゃく粉含有有形水を小麦蛋白部分加水分解物に変え、トランスグルタミナーゼを添加し、更に中種生地を除く本捏生地材料中の水分量を変えた以外は、比較例15と同様に食パンを作製して、その評価結果を表13に示した。
【0130】
【表13】
【0131】
表13から明らかなように、こんにゃく粉含有有形水を添加した水準(比較例15)は、生地のまとまり易さと大量生産性は良かったが、生地中に有形水が粒状に分散しており、やや不均一な状態であり、出来たパンは弾力性に乏しく、モチモチさも不十分で、かつ繊維様の食感が付与されて、口に残る異物感があり、好ましくないものであった。また、食物繊維入り水中油型乳化油脂組成物を添加した水準(比較例16)は、生地のまとまり易さと大量生産性は良かったが、出来たパンは弾力性に乏しく、しっとりさに欠け、モチモチさが全く感じられないものであった。更に、蛋白加水分解物とトランスグルタミナーゼを併用した水準(比較例17)は、生地がべたついて、機械による大量生産が困難であり、出来たパンは硬い食感であり、モチモチさに欠け好ましくなかった。
【0132】
(実施例28)レーズン食パン
表14に示す配合に従い、水分量を増やして生地を混捏した後、レーズンを加えた以外は、実施例20と同様に食パンを作製して、その評価結果を表14に示した。
【0133】
【表14】
【0134】
(実施例29)全粒粉食パン
表14に示す配合に従い、中種生地を除く本捏生地材料の配合中の小麦粉の一部を全粒粉に変え、水分量を増やした以外は、実施例20と同様に食パンを作製して、その評価結果を表14に示した。
【0135】
(実施例30)ライ麦食パン
表14に示す配合に従い、中種生地を除く本捏生地材料の配合中の小麦粉の一部をライ麦粉に変え、水分量を増やして生地を混捏した後、ライ麦粒を加えた以外は、実施例20と同様に食パンを作製して、その評価結果を表14に示した。
【0136】
(実施例31)ココア食パン
表14に示す配合に従い、中種生地を除く本捏生地材料の配合にココアパウダーを添加した以外は、実施例20と同様に食パンを作製して、その評価結果を表14に示した。
【0137】
表14から明らかなように、実施例28〜31の全ての水準において、生地のまとまり易さや大量生産性は良好で、出来たパンは、通常のレーズンや全粒粉、ライ麦、ココアパウダーなどを加えたパンでは感じられるパサつきはなく、しっとりさとモチモチさのある、非常に好ましい食感のパンであった。