(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
歯列矯正ブラケット、歯列矯正アーチワイヤー、歯列矯正工具、およびそれらの個別コンポーネントからなる群から選択される歯列矯正治療で使用するための歯列矯正器具であって、ニッケルベース金属ガラスから作られる歯列矯正器具。
前記可動部材は、板のような形状である結紮スライドであり、前記結紮スライドは、前記結紮スライドが前記閉鎖位置にあるときに前記アーチワイヤースロットの上に延在するアーチワイヤースロット被覆部を備え、前記アーチワイヤースロット被覆部の厚さは0.003インチ(0.0762mm)から0.009インチ(0.2286mm)までの範囲内である、請求項2に記載の歯列矯正器具。
前記被覆部の近心側から遠心側までを測定したときの前記被覆部の幅の、前記被覆部の前記厚さに対するアスペクト比は、11から22までである、請求項3に記載の歯列矯正器具。
前記可動部材は、板のような形状である結紮スライドであって、前記結紮スライドは、前記結紮スライドが前記閉鎖位置にあるときに前記アーチワイヤースロットの上に延在するアーチワイヤースロット被覆部を備え、前記ブラケットの全高を前記アーチワイヤースロットの唇側から舌側までの寸法で割り算したときの商が2.68未満である、請求項2に記載の歯列矯正器具。
前記可動部材は、0.003インチ(0.0762mm)から0.009インチ(0.2286mm)までのアーチワイヤースロット被覆部を有する結紮スライドである、請求項8に記載の方法。
【背景技術】
【0003】
歯列矯正治療は、多くの場合、器具を歯に取り付けることを伴う。そこで、器具に加えられる力が歯に伝えられ、そうして歯を動かす。したがって、歯列矯正器具は、患者の歯列を改善することを主たる目的とする歯列矯正治療の主コンポーネントである。歯列矯正器具は、ブラケット、アーチワイヤー、または他の装置を含みうる。
【0004】
一例として歯列矯正ブラケットを挙げると、歯科矯正医は歯列矯正ブラケットを患者の歯に接着剤で貼り付けて、アーチワイヤーをそれぞれのブラケットのスロット中に係合させることができる。アーチワイヤーは、歯列矯正ブラケットに曲げおよび/またはねじり応力を与え、歯を所望の位置へ動かす傾向を有する、回転、ティッピング、押出し、嵌入、並進、および/またはトルク力を含む、復元力を生み出す。それぞれのブラケットスロット内にアーチワイヤーを保持するために、小さなエラストマーOリングまたは細い金属ワイヤーなどの、従来の結紮線を使用することができる。それぞれのブラケットに個別の結紮線を施すのが困難な場合があることから、アーチワイヤーをブラケットスロット内に保持するために、ラッチ、クリップ、またはスライドなどの、移動可能な部品または部材を利用することによって結紮線を不要にする自己結紮型歯列矯正ブラケットが開発されてきた。
【0005】
歯列矯正治療の典型的な手順では、予備的に歯を移動するため小口径の丸い金属製アーチワイヤーを使用し、続いて、治療の後の段階で矩形の金属製アーチワイヤーを使用する。最終段階では、ブラケット内のスロットを埋める矩形の断面を有するアーチワイヤーを使用することが必要になる場合がある。例えば、最初に小さな(例えば、0.014インチ(0.35
56mm)の)丸いアーチワイヤーを使用し、歯の向きを正確に決めるためにトルクが必要になったときに、通常は治療の終わりに、または終わり近くになって、矩形の断面(例えば、0.021インチ(0.533
4mm)×0.025インチ(0.635mm))を有するアーチワイヤーを導入することができる。矩形の形状によりそれぞれのブラケットに関して回転できないようになっているため、アーチワイヤーは、トルクを生じる力または直立させる力を歯に加える。その結果、矩形のワイヤーは、隣接する歯と歯との間でわずかに捻られうる。治療の中間段階において、異なるサイズの他のアーチワイヤーを導入することができる。金属製アーチワイヤーは効果的ではあるが、対応するブラケットに接触したとき、またはその周りで曲げられたときにノッチを生じる傾向がある。
【0006】
従来、ほとんどの歯列矯正治療は、歯の唇側面に1つまたは複数の器具を取り付けることによって実施される。しかし、歯列矯正器具を歯の舌側面に固定する治療法が知られている。舌側治療は、歯列矯正器具が容易には観察されないという点で有利であり、この意味で、舌側治療またはリンガルシステムは、対応する唇側治療よりも美観的に優れていると考えられる。しかし、舌側治療には、患者と臨床医の両方にとって問題および課題がないわけではない。これらの問題は、臨床医にとってはアクセスし易さ、患者にとっては快適さである。
【0007】
強度、強靭性、美観、生物学的耐性/耐食性、および製造可能性の特徴的な組合せによりさまざまな材料が歯列矯正ブラケット市場に普及している。ステンレス鋼(SS)は、もっぱら前述の特性が最もよくバランスしているものとして市場に受け入れられていることから、ブラケットおよび他の器具に使用されるバルク原材料として長い間成功を収めている。ステンレス鋼は、大半の臨床例のニーズに応えるのに必要な強度、強靭性、および口腔内耐食性(oral corrosion resistance)を有する。また、溶接可能で、処理も簡単であり、磨いて許容可能な美的魅力を持たせることができる。
【0008】
ステンレス鋼に関する前述の特性のうちの1つを改善し、さらに、ステンレス鋼中のニッケルの存在に関連する感度問題を解消する代替材料が発見されている。これらの材料としては、アルミナ、ジルコニア、ポリカーボネート、チタン、およびさまざまな複合材料が挙げられる。しかし、これらの材料のそれぞれは、別の特性の改善のため性能上の一側面もしくは特性を犠牲にしており、したがって、それぞれの臨床例においてトレードオフを考慮しなければならない。
【0009】
最後に、ステンレス鋼に関する特性において必要とされるトレードオフは、利用可能な現行世代のものには明確な統一的材料はないことを示唆している。例えば、単結晶および多結晶アルミナは、ブラケット材料に使用した場合に美観と降伏強さを改善している。しかしながら、アルミナの欠点は、脆い材料であるという点にある。これは、ステンレス鋼と比較して著しく制限された破壊靱性を示す。
【0010】
一般的にセラミック製ブラケットの脆性に対処するために、金属成分を含有させたセラミック製ブラケットもある。これらのいわゆるハイブリッドブラケットは、アーチワイヤースロット内に金属製ライナーを含めるか、または自己結紮型ブラケット用に金属から形成された閉鎖部材(例えば、結紮スライド)を使用することができる。したがって、ハイブリッド器具は、全体的に美観を有するものではなく、またオール金属製の同等物ほどには強靱でない。ここでもまた、このような材料の組合せは、結果として、特性のトレードオフを引き起こす。さらに、セラミック製器具は、製造が困難であり、製造コストが高い。
【0011】
他の材料も、類似の問題のある特性を抱える。例えば、ポリカーボネート製ブラケットは、改善された美観、剥離特性、および強靱性を有するが、強度(トルク変形)に欠け、使用中に変色することも多い。また、追加の例として、チタン製ブラケットは、ステンレス鋼の決定的な、ニッケルフリーのより強度の高い代替材料となるが、使用中に変色することもあり、より高価な原料を必要とし、製造が困難であり、製造コストも高い。
【発明を実施するための形態】
【0019】
既存の歯列矯正器具の不備に対処するために、本発明の実施形態による歯列矯正器具は、金属ガラスを含むか、または金属ガラスから作ることができる。本明細書で使用される歯列矯正器具は、歯列矯正治療で使用されるコンポーネントを指す。例えば、歯列矯正器具として、限定はしないが、歯列矯正ブラケット、アーチワイヤー、歯に直接的にもしくは間接的に取り付けることができるか、もしくは固定することができる他の器具、または歯列矯正治療で使用される工具が挙げられる。
【0020】
本明細書で参照される「金属ガラス」は、非晶質であるか、または長距離原子秩序を欠いているが、少数の結合の長さ(つまり、3つまたは4つの結合の長さ)などの、短い距離にわたって何らかの原子秩序がありうる、金属または金属合金を意味する。金属ガラスは、結晶または多結晶物質ではない。対照的に、結晶または多結晶物質は、概して、金属ガラスのx線回折図形にはない明確なx線回折ピークを有するものとして特徴付けられるような秩序のある原子配列を含む。さらに対照的に、金属ガラス中に結晶粒境界は、もしあるとしてもほんのわずかしかない。したがって、一実施形態では、金属ガラスの歯列矯正器具は、結晶粒境界を含まない。本明細書で使用される「から作られる」は、歯列矯正器具またはその個別のコンポーネントの境界面によって画成される体積全体が金属ガラスであることを意味する。歯列矯正器具またはその個別のコンポーネントは、もっぱら、金属ガラスの関連する特性を示す。一実施形態では、金属ガラスから作られた歯列矯正器具またはそのコンポーネントは、原料、加工プロセス、および/または微々たる結晶形成に由来する他の要素の不純物含有量を考慮して、ほぼ100%金属ガラスである。
【0021】
以下で詳細に述べるように、金属ガラスから作られた歯列矯正器具は、ステンレス鋼製またはセラミック製歯列矯正ブラケットに比べて強度、強靭性、および耐食性が同じに、または改善されるように小型化し、および/または特定の特徴を持たせることができる。有利には、小型化するか、または特定の特徴を備えることにより、比較的大きなステンレス鋼またはチタン合金製器具と比べて歯列矯正器具の美的魅力を高めることができる。さらに、金属ガラスの歯列矯正器具は、ステンレス鋼と少なくとも同等の製造可能性を有するものとして特徴付けられうる。しかし、いくつかの状況では、以下で述べるように、金属ガラスの歯列矯正器具は、さらに製造しやすい場合がある。
【0022】
これらの目的および他の目的に関して、金属ガラスは、金属組成物または合金組成物を加熱し、次いで、金属原子の結晶化または長距離秩序を回避するのに十分な速度で、またはそれより速く金属または合金を急速冷却することによって形成されうる。金属または合金を加熱する段階は、金属または合金の溶融温度より高い温度に加熱する段階を含みうる。しかし、以下で述べるように、低い温度に加熱する段階も、金属ガラスからコンポーネントを形成するために使用されうる。
【0023】
金属もしくは合金の非晶構造を形成するか、または金属もしくは合金を非晶構造に保持するのに必要な冷却速度は、「臨界冷却速度」(
図1でRcのラベルが付けられ、符号52で示されている)と称され、金属もしくは合金の組成に依存しうる。溶融金属または合金を臨界冷却速度Rc以上の速度で、室温などの十分に低い温度まで冷却することによって、概して、結晶化が回避され、結果として金属ガラスが生じる。例えば、臨界冷却速度は、毎秒数ケルビン(K/s)程度、例えば、約10K/sとすることができるが、10
3K/sを超えてもよく、さらなる例として、10
6K/sを超えてもよい。
【0024】
臨界冷却速度Rcは、金属または合金の組成に依存する。この点に関して、溶融金属または溶融合金の組成が、時間/温度変態(TTT:Time-Temperature-Transformation)図において組成に対する変態曲線50の形状および配置を決定しうる。
図1に、例示的なTTT図が示されている。与えられた金属もしくは合金の変態曲線50に関して、溶融金属または溶融合金の臨界冷却速度Rcは、TTT図中の変態曲線50の54のところで結晶の「鼻」を回避する最低冷却速度である。言い換えると、溶融金属もしくは溶融合金を、金属もしくは合金が溶融するか、もしくはわずかに粘性を有する温度から、鼻54を回避する速度で金属もしくは合金が固体となるより低い温度に冷却する結果、金属ガラスが生じるということである。概して、この冷却経路は、曲線52によって示される。
【0025】
溶融金属または溶融合金のガラス形成能力に影響を与える他の要因(つまり、TTT図における変態曲線の形状および配置)のいくつかの例として、高温下での溶融金属または溶融合金の安定性、冷却後に金属ガラスが使用される温度での金属ガラスの安定性、および溶融金属または溶融合金が冷却された後の競合する結晶相の動力学的安定性が挙げられる。比較的低い臨界冷却速度を示す金属および合金は、概して、より大きな体積を有する製品を作る段階への適応性が高いことが理解されるであろう。これらの合金組成は、「バルク金属ガラス」またはBMGと称されうる。
【0026】
比較的低い臨界冷却速度を示し、BMGと称されうる数多くの金属合金が開発されている。例示的な合金は、それぞれ参照によりその全体が本明細書に組み込まれている、米国特許第5,288,344号、米国特許第5,368,659号、米国特許第5,618,359号、および米国特許第5,735,975号において開示されている。具体例によれば、本発明の実施形態は、ジルコニウム(Zr)および/またはチタン(Ti)含有合金の1つまたは複数の金属ガラスを含みうる。例えば、金属ガラスは、遷移金属(つまり、周期表の3〜12族)などの他の元素をわずかに添加した、Zrをベースとする金属合金とすることができる。追加の例によれば、他の金属ガラスは、鉄(Fe)ベース、Tiベース、パラジウム(Pd)ベース、ニッケル(Ni)ベースとすることができる。これらの金属合金は、他の元素のわずかな添加も含みうることが理解されるであろう。PdベースおよびNiベースの金属ガラスは、業界ではそれぞれ「GlassiPalladium」および「GlassiNickel」として知られており、カリフォルニア州パサディナ所在のGlassimetal Technology Inc.によって所有され、製造されている。
【0027】
本発明の実施形態によれば、上で述べたように、合金の変態曲線50は、歯列矯正器具またはその一部を金属ガラスから作る形成プロセスに影響を及ぼしうる。概して、臨界冷却速度Rcが低いほど、歯列矯正器具を製造する段階の実現性が高まる。さらに、歯列矯正器具を製造する技術は、器具それ自体にも依存しうる。例えば、金属ガラスアーチワイヤーを製造するための方法は、金属ガラス歯列矯正ブラケットを製造するための方法と異なっていてもよい。
【0028】
この点において、一実施形態では、この方法は、高温下で金属もしくは合金組成物を溶融する段階と、次いで結晶化を回避するのに十分な速度で溶融組成物をより低い温度に冷却する段階とを含むことができる。冷却する段階は、いったん冷却されると歯列矯正器具が形成されるように鋳型内で行うことができる。歯列矯正器具を製造するための方法は、限定はしないが、ダイキャスティングおよびインベストメント鋳造などの金属鋳造を含む。特に、カリフォルニア州ランチョサンタマルガリータ所在のLiquid Metal Technologiesが行っている鋳造法の1つは、金属ガラス歯列矯正器具の製造に適している。
【0029】
例示的な他のプロセスは、事前に準備されている金属ガラスインゴット、金属ガラスバルクチャンクレット、または他のバルク形態の金属ガラスを高温に加熱する段階と、次いで加熱されたバルク形態を鍛造または塑性加工する段階とを含む。容量放電により、200K/s以上の加熱速度を達成できる。例示的な一形成プロセスは、参照により全体が本明細書に組み込まれている、米国特許出願公開第2009/0236017号、名称「Forming of Metallic Glass by Rapid Capacitor Discharge」において説明されている。本発明の実施形態によれば、金属ガラスを、金属ガラスの粘度が室温で観察される温度より低い高温に加熱することができる。概して、室温での金属ガラスの粘度は、固体物質の粘度である、つまり、例えば、少なくとも10
12から10
13パスカル秒(Pa・s)である。
【0030】
具体的には、一実施形態では、この粘度を下げるのに十分な高温は、金属または合金の溶融温度56(T
1)より実質的に低い温度を含むものとしてよく、例えば、金属ガラスが自然に結晶化する結晶化温度より低い温度を含むものとしてもよい。追加の例によれば、高温は、ガラス転移温度(T
g)58よりわずかに高い温度までの温度を含むものとしてよく、これは温度対体積のプロット(図示せず)における金属ガラスに対する曲線と温度対体積のプロットにおける金属または合金の過冷却液体に対する曲線との間の交差点における温度に対応する。
【0031】
一実施形態では、高温下の金属ガラスの粘度は、約10Pa・sから約10
9Pa・sまでの範囲内とすることができる。別の実施形態では、形成する前に、バルク形態の金属ガラスを、粘度が約10
3Pa・sから約10
6Pa・sまでの範囲内である温度まで加熱することができる。固体形態に関してこれらの低い粘度において、バルク形態の金属ガラスは、歯列矯正器具またはその一部の中へ形成可能であるが、金属ガラスは、形成時に結晶化の可能性を排除するか、または制限する十分な安定性を有している。
【0032】
形成が行われる高温および対応する粘度は、金属ガラスの組成に依存しうることは理解されるであろう。ここでもまた、高温は、変態曲線50の形状に依存しうる。さらに、結晶化が生じる前にバルク金属ガラス形態が加熱されうる最高の高温も加熱速度に依存しうることは理解されるであろう。加熱速度が遅ければ遅いほど、概して、結果として、比較的低い最高形成温度となり、利用可能なプロセスウィンドウもきつくなりうる。対照的に、比較的高い加熱速度では、バルク形態の金属ガラスを、結晶化温度であるか、またはそれよりわずかに低い温度まで加熱することができるが、少なくとも著しい結晶化は回避され、好ましくは、結晶形態はいっさいない。
【0033】
本発明の実施形態において、形成する段階は、ネット形状またはネットに近い形状の技術を含みうる。ネット形状およびネットに近い形状の技術は、形成する段階で、形成後処理(例えば、研削および/または研磨)を行わないで、または非常に制限された状態で行うことでその最終的寸法で、またはその最終的寸法に近い寸法でコンポーネントを生産する技術を含む。有利には、本発明の実施形態により歯列矯正器具を製造する段階は、生産時に必要な工程段階を少なくすることができるため、歯列矯正器具を生産するうえで他のプロセスに比べて簡素化される。この点に関して、本発明の実施形態は生産コストを下げることは理解されるであろう。
【0034】
歯列矯正器具が形成された後、結晶化が行われるか、または始まる前に、歯列矯正器具は室温まで冷却されうる。バルク形態の金属ガラスを加熱し、形成し、冷却するのに要する処理時間は、最短となりうる。例えば、処理時間は1秒未満とすることができ、数分の1秒で測定される可能性が高まる。一実施形態では、処理時間は、数マイクロ秒(10マイクロ秒未満)と計測される。
【0035】
上で述べたように、本発明の実施形態では、形成されたコンポーネントが形成時に収縮をほとんど、または全く示さないので、形成後処理はもしあるとしてもごく短時間で済む。そのため、金属ガラスの歯列矯正器具を形成した後、転動などの、その後の切削加工および/または仕上げ作業は、不要になりうる。それに加えて、収縮が最小限であるため、歯列矯正器具またはその個別のコンポーネントは、MIM
(Metal Injection Molding:金属粉末射出成型法)に関連する許容差の約1/2の許容差で作るか、または形成することができる。例えば、限定はしないが、歯列矯正器具またはその個別のコンポーネントの許容差は、約0.0005インチ(0.0127mm)以下、例えば、約0.0003インチ(0.00762mm)から約0.0001インチ(0.00254mm)までとすることができる。許容差を下げることができるため、本発明の実施形態により金属ガラスから作られる歯列矯正器具およびその個別のコンポーネント(例えば、可動部材)は改善された能力を示しうる。例えば、自己結紮型ブラケットまたはその個別のコンポーネント(つまり、可動部材)が金属ガラスから作られる実施形態では、許容差を下げることで、ブラケットを取り付ける歯の回転制御を改善することができる。
【0036】
MIMおよび類似のプロセスとは対照的に、上で述べたような歯列矯正器具を製造する段階は、結合剤を必要としない。知られているように、MIMでは、有機結合剤を含む素地が生産される。製品を形成するためには、有機結合剤を除去して、素地を焼結しなければならない。MIMプロセスでは、素地から最終製品へ著しい収縮を生じる。鋳型設計者は、このプロセスに関連する収縮を考慮しなければならない。その結果、MIMプロセスでは、許容差管理が貧弱であり、例えば、0.0005インチ(0.0127mm)を超える。この点に関して、MIMの制限された能力を補正するために、コンポーネントにその後の切削加工プロセスを実行して、コンポーネントを所定の許容差限度内に収める必要がある場合がある。
【0037】
本発明の実施形態によれば、金属ガラスから作られた歯列矯正器具は、ステンレス鋼またはチタン合金から作られた同等の器具と比べて優れた性能を示しうる。金属ガラスの特性は、組成によって異なりうるが、金属ガラスは、剪断帯として知られている固有の破壊機構により約1500MPaから約2500MPaまでの降伏強さを有することが知られている。これらの降伏強さは、17-4
ステンレス鋼のように、いくつかのステンレス鋼に勝る、またTi
6Al
4VのようないくつかのTi合金に勝る、約50%の改善から約400%の改善をもたらす。それに加えて、金属ガラスの硬さは、約500kg/mm
2から約700kg/mm
2までの範囲内である。結晶金属に対するこの相対的改善は、原子の高密度非晶質配列によるものと思われる。同様に、破壊靱性は、概して、約75MPa√mから約200MPa√mまでの範囲内にある。この特性の組合せは、概念的に「損傷許容性」と称されうる。
【0038】
金属ガラスは、歯列矯正で一般に使用される材料、例えば、ステンレス鋼、Niベース合金、およびTiベース合金など、他のエンジニアリング材料に比べて比較的高い損傷許容性を有する。多くのエンジニアリング材料に勝る損傷許容性の相対的改善に加えて、金属ガラスは改善された耐食性を示す。これは、上で述べたように高速加工によるものと考えられ、これにより、化学的均質性の増大、著しい結晶化の排除、および仕上げの改善が確実になされうる。結晶封入体および/または表面欠陥は、腐食の部位として働く可能性が高いことは理解されるであろう。金属ガラスの歯列矯正器具には著しい結晶はなく、表面仕上げに関して、上で述べたように、形成されたままの表面の仕上がりが滑らかで、光沢があるため、金属ガラスの歯列矯正器具は、研削および研磨などのその後の表面化処理または仕上げが不要な場合がある。つまり、歯列矯正器具の形成されたままの表面はほぼ無欠陥であると言える。したがって、本発明の実施形態による金属ガラスの歯列矯正器具は、使用中に腐食する可能性が低い。
【0039】
金属ガラスの歯列矯正器具には、ほかにも利点があることは発見されている。この点に関して、処理の美観上の態様に対処するために、金属ガラスの歯列矯正器具のサイズを、従来の歯列矯正器具に比べて縮小することができる。概して、金属ガラスから作られる、歯列矯正ブラケットまたはアーチワイヤーなどの歯列矯正器具は、治療中に目で確認するのが比較的困難である。しかし、これらの器具は、上で述べたように、従来の材料に比べて改善された特性を有するので同じか、もしくは改善された性能を発揮しうる。
【0040】
概して、これらの図、具体的には、
図2Aおよび2Bを参照すると、本発明の一実施形態による例示的な歯列矯正ブラケットが図示されている。ブラケットは、参照により本明細書に組み込まれている、米国特許出願第13/224,908号
(米国特許出願公開第2012/0064476号明細書)、名称「Self-ligating Orthodontic Appliance」においてさらに詳しく説明されている。図示されているように、自己結紮型歯列矯正ブラケット110は、ブラケット本体部112および弾力性のあるヒンジピン116(
図2Bに示されている)によってブラケット本体部112に動作可能に結合された可動部材もしくは移動可能結紮ラッチ114を備える。本発明の実施形態によれば、ブラケット本体部112、移動可能結紮ラッチ114、および/または弾力性のあるヒンジピン116は、金属ガラスから作られるものとしてもよい。言い換えると、本体部112、ラッチ114、またはピン116は全部金属ガラス製とすることができる。自己結紮型ブラケットが図示され説明されているが、以下で
図3および4を参照しつつ開示されている歯列矯正ブラケットなど、自己結紮型ではない歯列矯正ブラケットも金属ガラスから作ることができることは理解されるであろう。
【0041】
歯列矯正ブラケット110は、歯列矯正治療で使用するように構成される。そのために、ブラケット本体部112は、矯正力を歯に加えるためのアーチワイヤー(図示せず)を受け入れるように適合された、中に形成されるアーチワイヤースロット118を備える。結紮ラッチ114は、結紮ラッチ114がアーチワイヤーをアーチワイヤースロット118内に保持する閉鎖位置(
図2A)とアーチワイヤーがアーチワイヤースロット118内に挿入可能である開放位置(
図2B)との間で移動可能である。閉鎖位置から開放位置へのラッチ114の移動は、ヒンジピン116によって決定される回転軸117の周りの回転運動およびラッチ114とブラケット本体部112との間の相対的並進運動の組合せを必要とする場合がある。
【0042】
歯列矯正ブラケット110は、歯の唇側面または舌側面のいずれかに固定することができる。しかし、特に断りのない限り、ブラケット110は、本明細書では、上顎または下顎の歯の舌側面に取り付けられた基準フレームを使用して説明されている。したがって、歯列矯正ブラケット110を説明するために使用されている唇側、舌側、近心、遠心、咬合、および歯肉などの用語は、選択された基準フレームに対して相対的なものである。しかし、本発明の実施形態は、選択された基準フレームおよび記述用語に限定されず、他の歯で、また口腔内の他の向きで歯列矯正ブラケット110を使用することができる。例えば、歯列矯正ブラケット110は、歯の唇側面に結合することもでき、本発明の範囲内にあるものとしてもよい。当業者であれば、本明細書で使用されている記述用語は、基準フレームの変更がある場合に直接的に適用されえないことを理解するであろう。しかしながら、本発明の実施形態は、口腔内の配置および向きから独立していることが意図されており、歯列矯正ブラケットの実施形態を記述するために使用される相対語は、図面中の実施形態の記述を明確にするだけの働きをする。したがって、唇側、舌側、近心、遠心、咬合、および歯肉という相対語は、発明の実施形態を特定の配置または向きに決して限定するものではない。
【0043】
歯列矯正ブラケット110の一実施形態は、上顎上の前歯の舌側面で使用するように特に構成されている。この点に関して、歯列矯正ブラケット110の全体的形状および輪郭は、概して、上顎上の前歯の形状に対応しうる。患者の上顎に載る前歯の舌面に装着したときに、ブラケット本体部112は、舌側120、咬合側122、歯肉側124、近心側126、遠心側128、および唇側130を有する。ブラケット本体部112の唇側130は、適切な歯列矯正セメントもしくは接着剤、または隣接する歯の周りのバンドなど、従来の方法で、歯に固定されるように構成される。
【0044】
例示されている配置構成では、唇側130は、挿入され、歯の表面に固定された接着基部を画成するパッド(図示せず)上に形成された対応する受容器と結合するように構成された形状を有する突出部132(
図2Bにおいて想像線で示されている)を備えることができる。パッドは、別々のピースまたは要素としてブラケット本体部112に(例えば、レーザーもしくは他の従来の溶接法によって)結合することができ、特定の患者専用に形成することができる。例えば、パッドは、特定の患者の歯の表面に適合するように、歯の表面に関してアーチワイヤースロットを位置決めしつつカスタマイズすることができる。この点に関して、患者の歯の印象を採り、次いで、コンピュータで操作できるように走査もしくは2値化することができる。患者の歯のコンピュータ操作データを使用して、パッドを、パッドの表面がその歯と嵌合するように製造する。一実施形態では、パッドは、金属ガラスから作ることができる。整形された突出部132は、カスタム製造されたパッド内の類似の形状の陥凹部内に嵌合するように、概して台形形状を画成しうることは理解されるであろう。
【0045】
ブラケット本体部112は、舌側120のところで歯肉方向に延在する歯肉タイウィング134をさらに備えることができる。ブラケット本体部112は、舌側120のところで咬合方向に延在する一対の咬合タイウィング(図示せず)も備えることができる。
【0046】
一実施形態では、ブラケット本体部112の総体積は、より小さな金属ガラスのブラケット本体部112でも歯列矯正ブラケット110の機能を維持するか、または改善することができるが、類似の構成のステンレス鋼ブラケット本体部に相対的に縮小されうる。さらに、ラッチ114の総体積も、類似の構成のステンレス鋼ラッチに相対的に同様に縮小されうる。歯列矯正ブラケット110の体積が小さければ小さいほど、概して、歯列矯正治療、特に舌側治療における金属製器具の受け入れを高めやすい。
【0047】
一実施形態では、体積の縮小は、ブラケット本体部112および/またはラッチ114の全高、全幅、および/または長さの寸法の減少を含みうる。例えば、概して舌側120から唇側130まで測定されるような全高は、少なくとも約10%小さく、ステンレス鋼から作られた相当する本体部よりも約10%から約80%ほど小さく、セラミックまたはプラスチックから作られる相当する本体部よりも約25%から約80%ほど小さいものとしてもよい。同様に、概して咬合側122から歯肉側124まで測定されるブラケット本体部112の長さの寸法も、ステンレス鋼から作られる相当する本体部よりも同様に小さいものとしてもよい。例えば、長さの寸法は、少なくとも約10%小さく、約10%から約80%ほど小さいものとしてもよい。概して近心側126から遠心側128まで測定される全幅は、同様に小さいものとしてもよい。それに加えて、または代替えとして、ブラケット本体部112のタイウィング134または他の特徴も、サイズを縮小することができる。そこで、各機能を変えることなく、ブラケット本体部112の個別の特徴をより細かくすることができる。ステンレス鋼では可能でない他の特徴を歯列矯正ブラケット110に加えることができることも理解されるであろう。それに加えて、歯列矯正ブラケット110の性能は、比較してより大きなステンレス鋼製およびチタン製ブラケットと同じか、またはそれに勝る改善がなされうることも理解されるであろう。
【0048】
代替的な歯列矯正ブラケットが、
図3および4に示されている。一実施形態では、歯列矯正ブラケット200は、金属ガラスから作られた本体部202を備える。言い換えると、本体部202の全体を金属ガラスにすることができるということである。本体部202は、矯正力を歯に加えるためのアーチワイヤー(図示せず)を受け入れるように構成されているアーチワイヤースロット204を有する。それに加えて、本体部202は、当技術分野で知られているように、1つまたは複数の結紮線(図示せず)を受けるために、それぞれ一対の歯肉タイウィング224a、224bに向かい合う一対の咬合タイウィング222a、222bを有する。
【0049】
歯列矯正ブラケット200は、特に断りのない限り、本明細書では、ブラケット200が上顎の歯の唇側面に取り付けられた基準フレームを使用して説明されている。したがって、本明細書で使用されているように、ブラケット200を説明するために使用されている唇側、舌側、近心、遠心、咬合、および歯肉などの用語は、選択された基準フレームに対して相対的なものである。しかし、本発明の実施形態は、選択された基準フレームおよび記述用語に限定されず、他の歯で、また口腔内の他の向きで歯列矯正ブラケット200を使用することができる。例えば、ブラケット200は、下顎に、または歯の舌側面に配置することもでき、本発明の範囲内にあるものとしてもよい。当業者であれば、本明細書で使用されている記述用語は、基準フレームの変更がある場合に直接的に適用されえないことを理解するであろう。しかしながら、本発明は、口腔内の配置および向きから独立していることが意図されており、歯列矯正ブラケットの実施形態を記述するために使用される相対語は、図面中の例の記述を明確にするだけの働きをする。したがって、唇側、舌側、近心、遠心、咬合、および歯肉という相対語は、発明を特定の配置または向きに決して限定するものではない。
【0050】
ブラケット200が患者の上顎に載る歯の唇側面に装着されたとき、本体部202は、舌側226、咬合側228、歯肉側230、近心側232、遠心側234、および唇側236を有する。本体部202の舌側226は、従来の方法で、例えば、適切な歯列矯正セメントもしくは接着剤、または隣接する歯(図示せず)の周りのバンドによって、歯に固定されるように構成される。アーチワイヤースロット204は、近心側232から遠心側234へ近心遠心方向に延在する。本体部202のアーチワイヤースロット204は、好適な方法で歯列矯正アーチワイヤーを受けるように構成されうる。
【0051】
図4に最もよく示されているように、舌側226は、歯の表面に固定されるように適合された接合基部240を画成するパッド238をさらに備えることができる。パッド238は、本体部202と一体形成されるか、または本体部202に結合された別の要素(図示せず)であってもよい。接合基部240は、隣接する歯との接合強度を改善するために複数のペグまたは支柱(図示せず)を備えることができる。
【0052】
図3を参照すると、一実施形態では、本体部202は、近心部244および遠心部246を備え、これらは陥凹部248によって分離されうることがわかる。図示されている例示的な実施形態では、近心部244は、咬合タイウィング222aおよび歯肉タイウィング224aを備え、遠心部246は、咬合タイウィング222bおよび歯肉タイウィング224bを備える。
【0053】
それに加えて、それぞれの部分244、246は、アーチワイヤースロット204の対応する部分を画成しうる。この点に関して、例えば、近心部244は、基部表面250aおよび近心部244内のアーチワイヤースロット204をまとめて画成する基部表面250aから唇側に突き出る一対の対向するスロット表面252a、254aを画成することができる。遠心部246は、基部表面250bおよび遠心部246内のアーチワイヤースロット204をまとめて画成する基部表面250bから唇側に突き出る一対の対向するスロット表面252b、254bを画成することができる。
【0054】
一実施形態では、
図4に示されているように、近心部244および遠心部246は、256a、256bおよび258a、258bをそれぞれさらに画成することができる。面取りした面256a、256bは、対応するスロット表面252aおよび252bと交差し、またそこから延在し、各スロット表面252a、252bとある角を成すものとしてもよい。同様に、一実施形態では、面取りした面258a、258bは、対応するスロット表面254aおよび254bと交差し、またそこから延在し、各スロット表面254a、254bとある角を成すものとしてもよい。有利には、面取りした面256a、256b、258a、および258bは、臨床医のために標的を大きくすることによってアーチワイヤーを中に挿入しやすくする漏斗状のガイドをアーチワイヤースロット204の近くに形成する。
【0055】
図2Aおよび2Bに示されている自己結紮型ブラケット110と同様に、一実施形態では、歯列矯正ブラケット200の総体積は、より小さな金属ガラスのブラケット本体部202でも歯列矯正ブラケット200の機能を維持するか、または改善することができるが、類似の構成のステンレス鋼ブラケット本体部に相対的に縮小されうる。歯列矯正ブラケット200の体積が小さければ小さいほど、概して、歯列矯正治療、特に舌側治療における金属製器具の受け入れを高めやすい。タイウィング222a、222b、224a、および224bのうちの単一の1つまたは複数などの個別の特徴のサイズを縮小する、例えば、厚さを縮小しても、歯列矯正治療時に歯を効率的に移動するのに必要な十分な強度を保つことができる。
【0056】
体積の縮小は、ブラケット本体部202の全高、全幅、および/または長さの寸法の減少を必要とする場合がある。その結果、ブラケット本体部202の体積を減らすことができる。例えば、概して舌側226から唇側236まで測定されるような全高は、少なくとも約10%小さく、ステンレス鋼から作られた相当する本体部よりも約10%から約80%ほど小さく、セラミックまたはプラスチックから作られる相当する本体部よりも約25%から約80%ほど小さいものとしてもよい。同様に、概して咬合側228から歯肉側230まで測定されるブラケット本体部202の長さの寸法も、ステンレス鋼から作られる相当する本体部よりも同様に小さいものとしてもよい。例えば、長さの寸法は、少なくとも約10%小さく、約10%から約80%ほど小さいものとしてもよい。概して近心側232から遠心側234まで測定される全幅は、同様に小さいものとしてもよい。それに加えて、または代替えとして、ブラケット本体部202の他の特徴も、サイズを縮小することができる。そこで、その機能を変えることなくブラケット本体部202の個別の特徴をより細かくすることができる。ステンレス鋼製歯列矯正ブラケットでは可能でない他の特徴を歯列矯正ブラケット200に加えることができることも理解されるであろう。それに加えて、歯列矯正ブラケット200の性能は、比較してより大きなステンレス鋼製およびチタン製ブラケットと同じか、またはそれに勝る改善がなされうることも理解されるであろう。
【0057】
歯列矯正器具の別の実施例では、
図5に示されているように、自己結紮型歯列矯正ブラケット300は、金属ガラスから作られた本体部302を備える。言い換えると、本体部302の全体を金属ガラスにすることができるということである。ブラケット300は、本明細書で説明されている方法のうちの1つによって作ることができる。本体部302は、矯正力を歯に加えるためのアーチワイヤー(図示せず)を受け入れるように構成されているアーチワイヤースロット304を有する。自己結紮型歯列矯正ブラケット300は、弾力性のあるピン308によってブラケット本体部302に動作可能に結合された可動部材または移動可能結紮スライド306を備える。本発明の実施形態によれば、ブラケット本体部302、移動可能結紮スライド306、および/または弾力性のあるピン308は、金属ガラスから作られるものとしてもよい。あるいは、弾力性のあるピン308は、ニチノールなどの超弾性材料、ステンレス鋼、または別の合金のピンであってもよい。
【0058】
結紮スライド306は、結紮スライド306がアーチワイヤーをアーチワイヤースロット304内に保持する閉鎖位置(
図5)とアーチワイヤーがアーチワイヤースロット304内に挿入可能である開放位置(
図6)との間で移動可能である。スライド306が閉鎖位置から開放位置まで移動するには、スライド306とブラケット本体部302との間の相対的並進運動を必要とする場合がある。
【0059】
歯列矯正ブラケット300は、歯の唇側面または舌側面のいずれかに固定することができる。しかし、特に断りのない限り、ブラケット300は、本明細書では、上顎または下顎の歯の唇側面に取り付けられた基準フレームを使用して説明されている。しかし、歯列矯正ブラケット300は、歯の舌側面に結合することもでき、本発明の範囲内にあるものとしてもよい。当業者であれば、本明細書で使用されている記述用語は、基準フレームの変更がある場合に直接的に適用されえないことを理解するであろう。しかしながら、本発明の実施形態は、口腔内の配置および向きから独立していることが意図されており、歯列矯正ブラケットの実施形態を記述するために使用される相対語は、図面中の実施形態の記述を明確にするだけの働きをする。したがって、唇側、舌側、近心、遠心、咬合、および歯肉という相対語は、発明の実施形態を特定の配置または向きに決して限定するものではない。
【0060】
上顎上の前歯の唇側面に位置決めされたときに、ブラケット本体部302は、唇側310、咬合側312、歯肉側314、近心側316、遠心側318、および舌側320を有する。ブラケット本体部302の舌側320は、適切な歯列矯正セメントもしくは接着剤、または隣接する歯の周りのバンドなど、従来の方法で、歯に固定されるように構成される。
【0061】
例示されている配置構成において、舌側320は、歯の表面に固定される接合基部を画成するパッド322を備えることができる。パッド322は、別々のピースまたは要素としてブラケット本体部302に(例えば、レーザーもしくは他の従来の溶接法によって)結合することができ、特定の患者専用に形成することができる。例えば、パッド322は、特定の患者の歯の表面に適合するように、歯の表面に関してアーチワイヤースロットを位置決めしつつカスタマイズすることができる。一実施形態では、パッド322のみが、金属ガラスから作られうる。
【0062】
一実施形態において、
図7を参照すると、ブラケット本体部302は、咬合部328および咬合部329と向かい合い、アーチワイヤースロット304によって隔てられる歯肉部330を備えることがわかる。咬合部328は、アーチワイヤースロット304に隣接する位置に出っ張り332を備える。図示されているように、出っ張り332は、咬合部328の全幅にわたって延在し、スライド306が閉鎖位置にあるときにスライド306(
図5に示されている)の一部を受け入れるように構成される。一実施形態において、ブラケット本体部302は、咬合部328から咬合方向に延在する一対の咬合タイウィング326a、326bも備えることができる。
【0063】
引き続き
図7を参照すると、一実施形態において、ブラケット本体部302の歯肉部分330は、アーチワイヤースロット304の歯肉表面を画成する近心支柱334および遠心支柱336を備えることがわかる。近心支柱334は、ブラケット本体部302の唇側310に沿って近心並進表面340を画成する。遠心支柱336も同様に、唇側310に沿って遠心並進表面342を備える。並進表面340、342は、概して歯肉部330の唇側に面する表面を形成するスライド平面344を画成する。スライド306は、開放位置と閉鎖位置とで支柱334および336上に支持され、スライド平面344に沿って開放位置と閉鎖位置との間で並進する。支柱334、336は溝338によって隔てられ、この溝338の中に、以下で説明される結紮スライド306の一部が置かれ、開放位置と閉鎖位置との間で移動するときに並進する。図示されているように、一実施形態において、支柱334、336のそれぞれは、ピン308の各端部を受け入れる、ボア348、350をそれぞれ備える。ボア348、350は、貫通孔として示されているが、支柱334または336のうちの一方のみを貫通するか、または一方もしくは両方の支柱334、336を一部のみ貫通しうることは理解されるであろう。歯肉側314は、歯肉方向に延在する一対の歯肉タイウィング324a、324bをさらに備えることができる。
【0064】
次に
図5および8を参照すると、一実施形態において、結紮スライド306は、アーチワイヤースロット304の上に片持ち梁として作られる板または平面状カバー352を備えることがわかる。この点に関して、スライド306は、ピン308のみによってブラケット本体部302に捕捉または固定される。一実施形態において、スライド306を装着するスロット304内のアーチワイヤーからの上方荷重に抵抗するためにスライド306の唇側面356と接触するブラケット本体部302の部分はない。
【0065】
さらに、
図5に示されているように、カバー352は、歯肉部330に沿ってブラケット300の唇側面を形成する。カバー352は、スライド306が閉鎖位置にあるときにアーチワイヤースロット304の上に延在するアーチワイヤースロット被覆部354を備える。
図5および8に示されているように、被覆部354は比較的薄い。例えば、貫通厚さ寸法は、約0.003インチ(0.076
2mm)から約0.009インチ(0.22
86mm)までであり、約0.006インチ
(0.1524mm)から約0.008インチ
(0.2032mm)まで、より具体的には約0.007インチ(0.178mm)とすることができる。しかし、最小の厚さを考慮しても、カバー352は剛性を有するか、または堅い。
【0066】
この点に関して、本発明の一実施形態において、出っ張り332は、深さ約0.007インチ(0.1778mm)であり、最大のたわみ、および約300MPaなどの妥当な荷重の下で、カバー352によって出っ張り332がなくなることはない。言い換えると、
被覆部354は、例えば厚さ約0.007インチ(0.1778mm)と測定されうる、その厚さより大きくたわむことはないということである。カバー352の剛性は、比較的薄いU字形クリップと対比することができ、これは概して非常に柔軟であり、多くの場合クリップが過剰に屈曲してアーチワイヤースロットからアーチワイヤーを解放することにならないようにブラケット本体部からの構造支持を必要とする。典型的には、クリップおよび同様のものは、塑性変形することなく大きな歪みに耐えられる(つまり、大きな弾性を示す)ニッケルチタン合金材料(例えば、ニチノール)から形成されうる。被覆部354は、その点で柔軟なクリップと異なる。
【0067】
アーチワイヤースロット被覆部354は、出っ張り332内に受け入れられる前縁部357を画成する。一実施形態では、アーチワイヤースロット被覆部354は、アーチワイヤースロット304の全幅に延在する。つまり、アーチワイヤースロット被覆部354は、ブラケット本体部302の近心側316から遠心側318へ延在する。有利には、スライド306は、アーチワイヤー(図示せず)をブラケット300内に捕らえておく長さが大きいことにより回転制御を改善できる。アーチワイヤースロット304の上の被覆部354の近心-遠心幅が約0.100インチ(2.54mm)である一実施形態では、被覆部354の幅の厚さに対するアスペクト比は、上で述べたように、約20から約11までの範囲内とすることができる。例えば被覆部354の厚さが約0.007インチ(0.17
78mm)である場合に、他のアスペクト比は、大きくも小さくもでき、被覆部354の近心-遠心幅に主に依存することは理解されるであろう。
【0068】
引き続き
図8を参照すると、カバー352は、ブラケット係合部360をさらに備えていることがわかる。ブラケット係合部360は、近心部362および遠心部364を備える。これらの部分362、364は、
図7に示されている、対応する支柱334、336を覆う。一実施形態では、これらの部分362、364は、被覆部354の厚さと同じ厚さであり、カバー352の唇側面を板状に見せる。
【0069】
それに加えて、一実施形態では、近心部362および遠心部364は、支柱334、336の近心側および遠心側と一致するサイズおよび形状を有する対応する周辺端部366、368を画成する。例えば、周辺端部366、368は、スライド306が閉鎖位置にあるときに近心支柱334および遠心支柱336のそれぞれの周辺端部と一致する。この構成は、
図5に示されている。図示されているように、スライド306は、露出された唇側面の大きな部分を形成する。一実施形態では、スライド306を超えて唇側に延在するブラケット本体部302の他の特徴はない。スライド306の平面状の、または滑らかな唇側面は、患者の頬を刺激する可能性が低いため有利であることは理解されるであろう。同様に、舌側に使用する場合、スライド306の平面状の、または滑らかな唇側面は、患者の舌を刺激する可能性が低い。
【0070】
図8に示されているように、スライド306は、概してカバー352から舌側方向に延在するガイドフィン370を備える。ガイドフィン370は、スライド306が開閉するときに溝338内で摺動する。ガイドフィン370の全高は、溝338(
図9に示されている)の深さよりわずかに小さい。フィン370と溝338との間の相対的寸法により、部分362、364と表面340、342との間の表面-表面接触が確実になされることは理解されるであろう。一実施形態では、ガイドフィン370は、アーチワイヤースロット304(
図9に示されている)の一部をなす。
【0071】
図8を参照すると、ガイドフィン370は、ボア348、350(
図7)と位置が合わされた開口372を備え、これによりピン308をボア348、350および開口372のそれぞれと連携させることができることがわかる。図示されているように、開口372は、概して、細長い楕円形の貫通孔とすることができる。隆起部374は、以下で述べるように、開口372の最も舌側にある表面から突き出て、スライド306の開閉時にピン308と相互作用する。
【0072】
次に
図9〜11を参照すると、ブラケット300の動作がさらに説明されている。一実施形態では、開口372は、ピン308と摺動可能に係合してスライド並進運動に対して垂直な方向にスライド306を付勢するように構成される。具体的には、スライド306が閉鎖位置にあるときに、
図9に示されているように、開口372はピン308と連動して、舌側方向に、またはアーチワイヤースロット304の基部表面373に平行な平面に対して垂直な方向に真の力をスライド306に加える。図示されていないが、ピン308は、開口372とボア348、350のそれぞれとの間でわずかに変形する。つまり、ピン308は、開口372とボア348、350の中を真っ直ぐには通らない。開口372は、ボア348、350から唇側方向にわずかにオフセットされ、ピン308の中心部を唇側方向に曲げる。曲がったピンは、舌側方向にスライド306に真の力を加える。したがって、真の力は、閉鎖位置へのスライド306の移動に対して垂直である。真の力は、ブラケット本体部302に関して固定されたより安定した位置にスライド306を保持し、これにより、より一貫した唇側と舌側との間のアーチワイヤースロットの寸法が維持される。言い換えると、唇側から舌側への方向の積み重ね許容差は低減されるか、または排除される。
【0073】
図9に示されているように、開口372は、歯肉側314の近くに第1のローブ部376を備えることができる。単なる例であるが、第1のローブ部376は、概して開口372の一部に沿って変形の周を画成しうる。ローブ部376は、軸と半径とで画成されうる。開口372は、アーチワイヤースロット304の近くに第2のローブ部378をさらに備えることができる。第1のローブ部376と同様に、第2のローブ部378は、軸および半径を有する概して円形の周によって画成されうる。一実施形態では、第1のローブ部376および第2のローブ部378は、サイズがほぼ等しいものとしてもよい。しかし、本発明の実施形態は、ローブ部376および378のサイズが等しいことに限定されないことは理解されるであろう。
【0074】
一実施形態では、開口372は、第1のローブ部376と第2のローブ部378との間に位置決めされ、第1のローブ部376と第2のローブ部378とを接続する中心部380を備えることができる。中心部380は、第1のローブ部376に接し、第2のローブ部378にも接する第1のセグメント384を備えることができる。中心部380は、隆起部374によって画成される第2のセグメント386も備えることができる。第1のローブ部376、第2のローブ部378、および第2のセグメント386は、概して、ピン308に対するスライドトラックを画成しうる。
【0075】
結紮スライド306が閉鎖位置にあるときに、
図9に示されているように、ピン308は、第1のローブ部376内に置かれる。スライド306に力をかけてスライド306を開放位置の方へ押しやるには、まず、隆起部374によってもたらされる摺動運動への干渉により必要になる付加的力を克服しなければならない。動作時に、結紮スライド306に加えられる力は、ピン308を第2のセグメント386まで摺動させるのに十分な量だけピン308をさらに変形させるのに十分な大きさの力でなければならない。これは、
図10に最もよく示されている。そのため、ピン308が隆起部374に沿って摺動するときには、ピン308は、ピン308が第1のローブ部376内にあるときに比べてより大きく変形する。
【0076】
スライド306が解放位置の方へさらに移動すると、
図11に示されているように、ピン308は、第2のローブ部378内に入る。スライド306は、ピン308を逆方向に隆起部374上に変形させるのに十分な力がスライド306に加えられるまで開放位置に留まる。ピン308がローブ部378内に置かれているときには、これは、隆起部374上に位置決めされたときに比べて変形する程度が小さい場合がある。ピン308の変形の程度または量は、第1のローブ部376内にあるときのピン308の変形の程度または量と同じであってもよい。しかし、本発明の実施形態は、それぞれの位置において変形の程度または量が同じであることに限定されない。第1のローブ部376、第2のローブ部378、および中心部380のどれかにおけるピン308の変形の量は、一方または両方のボア348、350と各表面との間のオフセット距離を変更することによって調整することができることは理解されるであろう。
【0077】
一実施形態では、もしあればパッド322、歯肉タイウィング324a、324b、および/または咬合タイウィング326a、326bを含む、ブラケット本体部302の総体積は、同様に構成されているステンレス鋼製ブラケット本体部に関して縮小されうる。さらに、スライド306の総体積も、類似の構成のステンレス鋼製スライドに相対的に同様に縮小されうるが、歯列矯正ブラケット300は治療を維持するか、または改善することができる。歯列矯正ブラケット300の体積が小さければ小さいほど、概して歯列矯正治療において金属製器具の受け入れを高めやすい。
【0078】
一実施形態では、体積の縮小は、ブラケット本体部300および/またはスライド306の全高、全幅、および/または長さの寸法の減少を含みうる。一実施形態では、概してアーチワイヤースロット304の基部表面373の中心のところで唇側310から舌側320まで測定されるような全高は、少なくとも約10%小さく、ステンレス鋼から作られた相当する本体部よりも約10%から約80%ほど小さく、セラミックまたはプラスチックから作られる相当する本体部よりも約25%から約80%ほど小さいものとしてもよい。
【0079】
例えば、ブラケット300の全高は、0.075インチ(1.905mm)未満と測定され、また例えば、全高は、約0.040インチ(1.016mm)から約0.060インチ(1.524mm)までと測定されうる。これは、スライド306が閉鎖位置にあるときに全高が基部表面373からスライド306の舌側面まで基部表面373に垂直に測定された唇側から舌側へのアーチワイヤースロットの寸法よりわずかしか大きくないロープロファイルブラケットを形成することができる。全高の、0.028インチ(0.711
2mm)の標準的なアーチワイヤースロットの寸法に対する比は、約2.68未満、または約2未満とすることができる。あるいは、この比は、約1.43から約2.14までの範囲であるものとしてもよい。しかし、特定の患者のブラケットの「イン/アウト」は、この比にいくぶん影響を及ぼしうることは理解されるであろう。使用可能なステンレス鋼製ブラケットでは、全高の、アーチワイヤースロットの寸法に対する比を3よりも大きくすることができ、使用可能なセラミック製ブラケットは、前記比を4より大きくしてもよい。
【0080】
同様に、概して咬合側312から歯肉側314まで測定されるブラケット本体部302の長さの寸法も、ステンレス鋼から作られる相当する本体部よりも同様に小さいものとしてもよい。例えば、長さの寸法は、少なくとも約10%小さく、約10%から約80%ほど小さいものとしてもよい。概して近心側316から遠心側318まで測定される全幅は、同様に小さいものとしてもよい。歯列矯正ブラケット300の性能は、比較してより大きなステンレス鋼製およびチタン製ブラケットと同じか、またはそれに勝る改善がなされうることも理解されるであろう。
【0081】
別の実施形態では、
図12、13、および14を参照すると、歯列矯正装置は、金属ガラスから作られた歯列矯正アーチワイヤー10であることがわかる。アーチワイヤー10は、例えば、矩形の断面形状(
図14)または円形の断面形状(図示せず)を有しうるが、他の断面構成も可能であることは理解されるであろう。アーチワイヤー10に関して、本発明の実施形態では、アーチワイヤー10の断面寸法の縮小を企図している。例えば、
図14を参照すると、アーチワイヤー10は、匹敵する引張強さを持つステンレス鋼製アーチワイヤーより小さい、1つまたは複数の寸法を有することができることがわかる。同様に、アーチワイヤー10は、匹敵する引張強さを持つチタン含有アーチワイヤーより小さい、1つまたは複数の寸法(例えば、幅12および高さ14)を有することができることがわかる。アーチワイヤー10はより硬く、したがって歯列矯正ブラケットと接触したときに接合するか、または切り欠きを付ける可能性は低いものとしてもよい。一実施形態では、アーチワイヤー10の断面積は、類似の機械的特性を有するステンレス鋼製アーチワイヤーの断面積よりも少なくとも10%小さい。さらに例によれば、アーチワイヤー10の断面積は、ステンレス鋼製の匹敵するアーチワイヤーに比べて約10%から約80%小さいものとすることができる。したがって、金属ガラスから作られたアーチワイヤーは、約0.003インチ(0.0762mm)から約0.013インチ(0.330
2mm)までの1つまたは複数の寸法を有することができる。一実施形態では、金属ガラスから作られたアーチワイヤーは、約0.014インチ(0.35
56mm)×約0.025インチ(0.635mm)から約0.019インチ(0.48
26mm)×約0.025インチ(0.635mm)までの寸法を有することができるが、さらに小さな寸法も使用可能であるものとしてもよい。
【0082】
本発明の実施形態は、限定はしないが、歯列矯正プライヤーなどの歯列矯正工具を備えることができる。例示的な一対の歯列矯正プライヤー20が、
図15に示されている。プライヤー20は、概して、2つの対応する2分割部分22および24からなる形状を有する。それぞれの2分割部分22および24は、以下で説明されているように組み立てたときに、人間の手で保持され操作されるように構成されている一方の端部のところの対応するハンドル部26および28をそれぞれ備える。それぞれの2分割部分22および24の他方の端部に、対応する先端部30および32がある。さらに、それぞれの先端部30および32は、1つの把持歯34を備える。まとめて、先端部30および32は、概して、プライヤー20の作業面35を画成する。
【0083】
2分割部分22および24は、図示されているように、ネジなどで、ヒンジ36のところに動作可能に接合され、これにより、2分割部分24の把持歯34に対向する2分割部分22の把持歯34を向き付ける。互いに関する2分割部分22および24の動作により、対向する把持歯34の間に相対移動が生じる。この方法で、ハンドル部26および28が動作すると、把持歯34は、対向する把持歯34の間にクリアランスがもしあるとしてもごくわずかである閉鎖位置へ移動しうる。反対方向へのハンドル部26および28の相対移動により、先端部30、32は完全開放位置に移動しうる。開放位置において、歯列矯正ブラケット(図示せず)または同様のものを空間内に位置決めし、先端部32から先端部30を隔てることができることは理解されるであろう。先端部30、32を閉じると、作業面35は、先端部30、32を隔てる空間内に置かれている歯列矯正ブラケットまたは同様のものと係合または接触する。付加的圧力をハンドル部26および28に印加することで、指だけで加えることができる力を容易に超えうる把持力が歯列矯正ブラケット上に発生しうる。プライヤー20を介して力を印加すると、通常はプライヤー20がなければありえない、歯から歯列矯正ブラケットを取り外すなどの作業を歯列矯正ブラケットで容易に行うことができる。
【0084】
本発明の実施形態によれば、上で述べたように、それぞれの把持歯34またはプライヤー20の一部もしくは全部を金属ガラス製とすることができる。このようなプライヤー20を使用すると、プライヤー20の重量が相対的に減るため歯列矯正治療時に臨床医が経験することが多い手の疲労を軽減することができて都合がよい。しかし、同じまたは改善された性能も観察されうる。それに加えて、本発明の実施形態によるプライヤー20は、耐久性と強靭性を改善することができ、したがって、ステンレス鋼の匹敵するプライヤーに比べてひっかき傷に強く、概して長く持続しうる。
【0085】
一実施形態では、プライヤー20は、上で述べたように、金属ガラスのバルクチャンクを高温に加熱し、次いで、チャンクを2分割部分22、24のうちの一方に塑性変形することによって作ることができる。それぞれの2分割部分22、24がこうして形成された後、
図15に示されているように2つの2分割部分22、24をネジで取り付けて組み立てることによってヒンジ36を形成することができる。開示されているプロセスでは、さもなければ2分割部分22と24との間の滑らかでぴったりした相対運動を行うために必要な許容差を達成するのに必要であった可能性のあるその後の研削加工(例えば、研削)または仕上げ作業(例えば、研磨またはサンディング)がなくてもよいことは理解されるであろう。したがって、本明細書で開示されているように、プライヤー20を作製する方法の一実施形態により、有利に、付加的プロセスに関連するコストを回避することができる。それに加えて、実施形態では、上で述べたように、金属射出成形作業の製造過程で必要なものなどの、焼結作業に典型的には関連する収縮をなくすこともできる。2分割部分22および24は、それぞれ、改善された生体適合性および/または耐食性を示しうることは理解されるであろう。
【0086】
本発明はさまざまな実施形態の記述により例示され、またこれらの実施形態はある程度詳細に記述されているが、付属の請求項の範囲をそのような詳細に制限するか、またはどのような形であれ限定することは発明者の意図するものではない。したがって、追加の利点および修正点は、当業者に容易にわかるであろう。本発明のさまざまな特徴は、使用者の必要条件と選好に応じて単独で、または組み合わせて使用することができる。