特許第6574553号(P6574553)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6574553導電パターン形成用組成物および導電パターン形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6574553
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】導電パターン形成用組成物および導電パターン形成方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/12 20060101AFI20190902BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20190902BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20190902BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20190902BHJP
   C09D 11/00 20140101ALI20190902BHJP
【FI】
   H05K3/12 610B
   H01B1/22 A
   H01B1/00 J
   H01B13/00 503D
   C09D11/00
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-131394(P2014-131394)
(22)【出願日】2014年6月26日
(65)【公開番号】特開2016-9829(P2016-9829A)
(43)【公開日】2016年1月18日
【審査請求日】2017年5月25日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102716
【弁理士】
【氏名又は名称】在原 元司
(72)【発明者】
【氏名】内田 博
【審査官】 原田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−121206(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/077448(WO,A1)
【文献】 特開2012−079933(JP,A)
【文献】 特開2014−166939(JP,A)
【文献】 特開2004−143571(JP,A)
【文献】 特開2008−274324(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/12
C09D 11/00
H01B 1/00
H01B 1/22
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス光照射による導電パターン形成用の組成物であって、
平均粒径が1nm〜10μmである窒化銅粒子と、
バインダー樹脂と、
溶媒と、
からなることを特徴とするパルス光照射による導電パターン形成用組成物。
【請求項2】
パルス光照射による導電パターン形成用の組成物であって、
平均粒径が1nm〜10μmである窒化銅粒子と、
バインダー樹脂と、
溶媒と、
銅粒子と、
を含むことを特徴とするパルス光照射による導電パターン形成用組成物。
【請求項3】
前記銅粒子の平均粒径が50nm〜10μmであり、含有量が10〜80質量%である請求項2に記載のパルス光照射による導電パターン形成用組成物。
【請求項4】
パルス光照射による導電パターン形成用の組成物であって、
平均粒径が1nm〜10μmである窒化銅粒子と、
バインダー樹脂と、
溶媒と、
平均粒径50nm〜10μmの銀粒子と、
を含み、前記銀粒子の含有量が5〜80質量%であることを特徴とするパルス光照射による導電パターン形成用組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の導電パターン形成用組成物を基材上に印刷する工程と、
前記導電パターン形成用組成物に光照射を行う工程と、
を備えることを特徴とする導電パターン形成方法。
【請求項6】
前記導電パターン形成用組成物に照射する光は、200〜3000nmの波長のパルス光であることを特徴とする請求項5に記載の導電パターン形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電パターン形成技術に関する。
【背景技術】
【0002】
微細な導電パターンを作製する技術として、従来、銅箔とフォトレジストを組み合わせてリソグラフィー法で導電パターンを形成する方法が一般的に用いられている。しかし、この方法は工程数が多い上に、排水、廃液処理の負担が大きく、環境的に改善が望まれている。また、加熱蒸着法やスパッタリング法で作製した金属薄膜をフォトリソグラフィー法によりパターニングする手法も知られている。しかし、加熱蒸着法やスパッタリング法は真空環境が不可欠である上に、装置の価格も非常に高価であり、導電パターン形成へ適用した場合には製造コストを低減させることが困難であった。
【0003】
そこで、金属インキ(酸化物を還元剤により還元して金属化するものも含む)を用いて印刷により導電パターンを作製する技術が提案されている。印刷による導電パターン形成技術は、低コストで多量の製品を高速に作製することが可能であるため、既に一部で実用的な電子デバイスの作製が検討されている。
【0004】
しかし、加熱炉を用いて金属インキを加熱焼成する方法では、加熱工程で時間がかかる上に、金属インキの焼成に必要な加熱温度にプラスチック基材が耐えることができない場合には、プラスチック基材が耐える温度で焼成せざるを得ず、導電パターンが満足な導電率に到達しないという問題があった。
【0005】
そこで、ナノ粒子を含む組成物(インキ)を用いて、光照射により印刷パターンを導電パターンに転化させることが試みられている(特許文献1〜3参照)。なお、特許文献4には、エッチング工程がなくても、所定のパターンを有する銅膜を形成することを可能とする銅膜形成用の組成物として、窒化銅粉末、有機バインダーおよび有機溶剤からなることを特徴とする組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2008−522369号公報
【特許文献2】WO2010/110969号公報
【特許文献3】特表2010−528428号公報
【特許文献4】特開2008−274324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、基板上に形成された導電パターンは、導電率が高い(体積抵抗率が低い)ほど性能が高いといえる。そのため、上記従来の技術により形成された導電パターンも、さらに導電率を向上させることが望ましい。しかし、従来のナノ粒子を含む組成物では、ナノ粒子として金属ナノ粒子を用いる場合には、金属ナノ粒子が凝集しやすいために、保護コロイドが必要となる。この結果、光照射により得られる金属配線内に空隙(ボイド)が生じやすくなるため、導電率の向上に限界があるという問題があった。このため、サブミクロンやミクロンレベルの金属粒子を使用することも検討されているが、このような金属粒子では融点が高く、焼結により低抵抗にすることが困難となる。
【0008】
このため金属ナノ粒子よりは凝集し難い金属酸化物のナノ粒子をその代わりに用い化学焼結により低抵抗化することも検討されているが、金属酸化物を還元するための還元剤が必要である上に、酸素が抜けるためにやはり金属配線内に空隙(ボイド)が生じやすくなるため、体積抵抗率として見た場合の導電率の向上に限界があるという問題があった。
【0009】
特許文献4に開示されている組成物は、300℃以上で真空中または不活性ガス中で焼成することにより銅膜を形成させるものであり、光焼成またはマイクロ波加熱により銅膜を形成させるための組成物ではない。導電率の低減という観点では銅よりも銀の方が優れているので、銀や酸化銀の粒子を使用することが考えられるが、銀は銅よりもイオンマイグレーションを起こしやすく、信頼性に懸念がある。
【0010】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、導電パターンの導電率を向上させることができ、かつイオンマイグレーションの発生の懸念が低い導電パターン形成用組成物および導電パターン形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のある態様は、光照射による導電パターン形成用の組成物であって、窒化銅粒子とバインダー樹脂と溶媒とを含むことを特徴とする。
【0012】
上記態様の組成物において、前記窒化銅粒子の平均粒径が1nm〜10μmであってもよい。また、銅粒子または銀粒子をさらに含んでもよい。
【0013】
本発明の他の態様は、導電パターン形成方法である。当該導電パターン形成方法は、上述したいずれかの導電パターン形成用組成物を基材上に印刷する工程と、前記導電パターン形成用組成物に光照射を行う工程と、を備えることを特徴とする。
【0014】
上記態様の導電パターン形成方法において、前記導電パターン形成用組成物に照射する光は、200〜3000nmの波長のパルス光であってもよい。
【0015】
なお、上述した各要素を適宜組み合わせたものも、本件特許出願によって特許による保護を求める発明の範囲に含まれうる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、導電パターンの導電率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態に係る導電パターン形成方法を示す工程図である。
図2】パルス光の定義を説明するための図である。
図3】ウォータードロップ試験の概要を示す図である。
図4図4(a)、図4(b)は、それぞれ、ウォータードロップ試験に使用したパターン(寸法の単位はmm)を示す図、ウォータードロップ試験に必要な水の堰き止め方を示す図である。
図5図5(a)、図5(b)および図5(c)は、それぞれ、実施例1、実施例3および比較例2におけるウォータードロップ試験後の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という)について説明する。
【0019】
(導電パターン形成用組成物)
実施形態に係る導電パターン形成用組成物は、窒化銅粒子、バインダー樹脂および溶媒を含む。以下、導電パターン形成用組成物の各成分について詳細に説明する。
【0020】
(窒化銅粒子)
窒化銅粒子の平均粒径は、1nm〜10μmが好ましく、10nm〜3μmがより好ましく、20nm〜1μmがさらに好ましい。窒化銅粒子の平均粒径が1nm以上であると、窒化銅粒子が均一分散された組成物を調製しやすい。一方、窒化銅粒子の平均粒径が10μm以下であると、窒化銅から金属銅に変換するのに必要なエネルギーが小さくてすむ。窒化銅粒子の含有量は、導電パターン形成用組成物全体に対して、10〜80質量%が好ましい。この範囲であると、良好な導電性能を有する導電パターンを形成しやすい。
【0021】
なお、本明細書において「平均粒径」は、500nm以上の粒子径の場合には、レーザー回折・散乱法で、500nm未満の場合には動的散乱法で各々測定した、個数基準の平均粒径D50(メジアン径)の粒子径を意味する。
【0022】
(溶剤)
溶媒に関しては、一般にグラビア印刷、スクリーン印刷、グラビアオフセット印刷、フレキソ印刷等に使用できる溶媒なら特に制限なく使用することができる。グラビア印刷の場合には沸点が比較的低い溶媒が好適であり、スクリーン印刷の場合には沸点が比較的高い溶媒が好適である。
【0023】
グラビア印刷に使用できる沸点が比較的低い溶媒の沸点は一気圧で50℃以上で200℃以下、より好ましくは150℃以下である。たとえばトルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系、酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸−n−ブチルなどのエステル系、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ノルマルプロパノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール、n−ブチルアルコール、シクロヘキサノールなどのアルコール系溶媒などの有機溶剤が利用できる。
【0024】
スクリーン印刷に使用できる沸点が比較的高い溶媒の沸点は360℃以下で120℃以上、より好ましくは150℃以上である。具体的にはブチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトール、ターピネオール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、イソボルニルシクロヘキサノール(商品名:テルソルブ MTPH、日本テルペン製)、キシレン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ビスエトキシエタン、エチレングリコール、プロピレングリコール等を挙げることができる。
【0025】
なお、これらの溶媒は1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
この中で、エチレングリコール、プロピレングリコールやグリセリン等の多価アルコールを使用することが好適である。溶媒の含有量は、印刷方式や目標とする膜厚によっても異なるが、一般に、導電パターン形成用組成物全体に対して、20〜90質量%が好ましい。溶媒の含有量がこの範囲内であると印刷に適した粘性となり、有効な膜厚の塗膜を得ることができる。
【0027】
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂として、ポリ−N−ビニルピロリドン、ポリ−N−ビニルカプロラクタムのようなポリ−N−ビニル化合物、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリTHFのようなポリアルキレングリコール化合物、ポリウレタン、セルロース化合物およびその誘導体、エポキシ化合物、ポリエステル化合物、塩素化ポリオレフィン、ポリアクリル化合物のような熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂が挙げられる。この中でもバインダー効果を考えるとポリ−N−ビニルピロリドン、常温で固形状のフェノキシタイプのエポキシ樹脂、セルロース化合物が好ましい。
【0028】
バインダー樹脂の使用量は、窒化銅粒子100質量部に対して、1〜20質量部が好ましく、3〜10質量部がより好ましい。バインダー樹脂の使用量が1質量部以上であると、窒化銅粒子同士を繋ぎ止めるのに有利である。一方、バインダー樹脂の使用量を20質量部以下とすることで、良好な導電性を発現しやすくなる。
【0029】
(その他の成分)
実施形態に係る導電パターン形成用組成物は、以下の金属成分を任意成分として含んでもよい。
【0030】
(銅粒子)
銅粒子の平均粒径は、50nm〜10μmが好ましく、200nm〜2μmがより好ましい。銅粒子の平均粒径が50nm以上である場合には、比表面積が大きくないため、酸化を受け難くなる。一方、銅粒子の平均粒径が10μm以下であると、ファインパターン印刷に有利である。また、銅粒子の平均粒径を200nm〜2μmとすることにより、空気下に放置してもより酸化を受けにくくなり、導電パターン形成用組成物の経時変化を抑制する効果や、窒化銅とお互いに均一に分散させる効果を得ることができる。銅粒子の含有量は、導電パターン形成用組成物全体に対して、10〜80質量%が好ましく、15〜65質量%がより好ましく、20〜50質量%がさらに好ましい。銅粒子の含有量が10質量%以上であると、上記併用する効果が良好に得られる。一方、銅粒子の含有量が80質量%以下であると、得られる塗膜が脆くなる等の不具合が発生し難い。
【0031】
(銀粒子)
銀粒子の平均粒径は、50nm〜10μmが好ましく、200nm〜2μmがより好ましい。銀粒子の平均粒径が50nm以上であると、凝集し難くなり、凝集を防ぐための保護コロイドの使用量が少なくてすむ、あるいは不要になり、低抵抗化に有利となる。一方、銀粒子の平均粒径が10μm以下であると、ファインパターン印刷に有利である。なお、銀粒子の形状は、特に限定されないが、扁平状の銀粒子を用いることにより、より低抵抗化させやすくなるという効果を得ることができる。銀粒子の含有量は、導電パターン形成用組成物全体に対して、5〜80質量%が好ましく、10〜50質量%がより好ましく、15〜40質量%がさらに好ましい。銀粒子の含有量が5質量%以上であると、低抵抗化に有利である。一方、銀粒子の含有量が80質量%以下であると、イオンマイグレーションを起こし難くなる。
【0032】
また、導電パターン形成用組成物には、粘度や表面張力などの特性を調整するために、インキに用いられる公知の添加剤(消泡剤や、表面調整剤、チクソ剤等)を適量存在させてもよい。
【0033】
(導電パターン形成方法)
図1は、実施形態に係る導電パターン形成方法を示す工程図である。
【0034】
図1(a)に示すように、基材10を用意する。基材10は、導電パターン形成に適していれば特に限定されず、たとえば、プラスチック基板、ガラス基板、セラミックス基板等が挙げられる。
【0035】
次に、図1(b)に示すように、基材10の上に、導電パターン形成用組成物20により印刷パターンを形成する。印刷パターンの形成方法は、任意の印刷パターンを形成可能な方法であれば特に限定されないが、たとえば、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、インクジェット法が挙げられる。なお、印刷パターンは、基板10の全面にベタパターンとして形成されてもよい。
【0036】
次に、図1(c)に示すように、基材10の上に形成された導電パターン形成用組成物20に対して光照射を行う。
【0037】
導電パターン形成用組成物20に光照射する場合、光の波長は200nm〜3000nmが好適である。導電パターン形成用組成物20に照射される光はパルス光であることが好ましい。本明細書中において「パルス光」とは、光照射期間(照射時間)が数マイクロ秒から数十ミリ秒の短時間の光であり、光照射を複数回繰り返す場合は図2に示すように、ある光照射期間(on)とそれに続く光照射期間(on)との間に光が照射されない期間(照射間隔(off))を有する光照射を意味する。図2ではパルス光の光強度が一定であるように示しているが、1回の光照射期間(on)内で光強度が変化してもよい。上記パルス光は、たとえば、キセノンフラッシュランプ等のフラッシュランプを備える光源から照射される。このような光源を使用して、上記導電パターン形成用組成物の層にパルス光を照射する。複数回繰り返し照射する場合は、図2における1サイクル(on+off)を複数回反復する。なお、繰り返し照射する場合には、パルス光照射を行う際に、基材10側から冷却することにより、基材10の温度を室温付近まで下げることが好ましい。
【0038】
パルス光の1回の照射時間(on)としては、約20マイクロ秒から約10ミリ秒の範囲が好ましい。20マイクロ秒よりも短いと焼結が進まず、導電膜の性能向上の効果が低くなる。また、10ミリ秒よりも長いと基材10の光劣化、熱劣化による悪影響の方が大きくなる。パルス光の照射は単発で実施しても効果はあるが、上記の通り繰り返し実施することもできる。繰り返し実施する場合、照射間隔(off)は20マイクロ秒から30秒、より好ましくは2000マイクロ秒から5秒の範囲である。照射間隔(off)が20マイクロ秒よりも短いと、連続光に近くなってしまい、一回の照射後に放冷される間も無く照射されるので、基材10が加熱され温度が高くなって劣化する可能性がある。また、照射間隔(off)が30秒より長いと、放冷が進むのでまったく効果が無いわけではないが、繰り返し実施する効果が低減する。
【0039】
導電パターン形成用組成物20に対する光照射により、導電パターン形成用組成物20中の金属成分が焼結された結果、図1(d)に示すように、所定パターンに形成された金属製の導電パターン30が得られる。
【0040】
以上説明した窒化銅を含む導電パターン形成用組成物による導電パターンの形成方法によれば、光照射による焼結の際に消失する窒素の割合が銅原子3個に対して1個となるため、酸化銅を含む導電パターン形成用組成物を用いる場合よりも銅の焼結体に空隙(ボイド)が生じにくくなる。また、窒化銅の融点(300℃)が銅(1085℃)や酸化銅(1201℃)に比べて低いため、焼結の際に窒化銅がより緻密な状態となる。この結果、焼結により得られる導電パターンは、空隙の発生が抑制され、より緻密な導電層となるため、導電率の向上を図ることができる。
【0041】
なお、上述した実施の形態では、導電パターン形成用組成物に光照射を行うことにより導電パターンを得ているが、光照射に代えて、マイクロ波加熱を行うことによっても導電パターンを得ることができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の実施例を説明するが、これら実施例は、本発明を好適に説明するための例示に過ぎず、なんら本発明を限定するものではない。
【0043】
また、以下の実施例および比較例において、体積抵抗率は、株式会社三菱アナリテック製LORESTA−GP MCP−T610 4探針法表面抵抗率、体積抵抗率測定装置により測定し、粒子径は、日機装株式会社製 マイクロトラック粒度分布測定装置 MT3000IIシリーズ USVR(レーザー回折・散乱法)、またはナノトラックUPA−EX150(動的光散乱法)により測定し、球近似により粒径を求めメジアン径をD50とした。
【0044】
(ナノ窒化銅粒子の調製)
2000mlのフラスコに硝酸第二銅3水和物6.0gを500mlの1−オクタデシルアミンと500mlの1−オクタデセンの混合溶液に溶解したものを入れ、窒素ガスを室温で2時間バブリングした後、マグネチックスタラーで攪拌しながら、窒素下で150℃に昇温して3時間加熱した。その後、250℃まで昇温してさらに1時間加熱した。得られた反応液を室温まで冷却後、遠心分離器(株式会社コクサン製 H−201F 10000回転)により固形分を沈殿として回収し、沈殿物をエタノールで良く洗浄しては遠心分離で沈殿物を回収するという操作を5回繰り返して、ナノ窒化銅粒子を得た。エタノールを分散溶媒にしてナノトラックを用いて測定した粒子径はD50=185nmであった。
【0045】
(実施例1)
溶媒としてエチレングルコール、グリセリン(関東化学株式会社製の試薬)の混合水溶液(質量比エチレングリコール:グリセリン:水=70:15:15)に、バインダー樹脂としてポリ−N−ビニルピロリドンK−30(日本触媒株式会社製)を溶解して、40質量%のバインダー樹脂溶液を調製した。この溶液0.3gと上記混合水溶液0.1gとを混合し、上記のように調製した窒化銅粒子1.2gを混合し、自転・公転真空ミキサー あわとり練太郎 ARV−310(株式会社シンキー製)を用いて1200rpm−3分間の攪拌を3回繰り返して混合し、印刷用のペースト(導電パターン形成用組成物)を作製した。
【0046】
得られたペーストを用いてスクリーン印刷にて、2cm×2cm角のパターンをポリイミドフィルム(カプトン(登録商標)100V、東レ・デュポン株式会社製)上に印刷した。このようにして得られたサンプルについて、Novacentrix社製PulseForge3300を用いて240V、1400μ秒、3.03J/cmでパルス光照射を1回行って上記パターンを導電膜に転化させた。以上により形成した導電膜の厚さは18μmであり、体積抵抗率は3.4×10−5Ω・cmであった。
【0047】
(実施例2)
窒化銅粒子1.2gの代わりに同窒化銅粒子0.24gと、三井金属鉱業株式会社製銅粉1050Y(球形、D50=716nm)0.96gを用いた以外は実施例1と同様の操作により印刷用のペーストを作製、スクリーン印刷、パルス光照射を行って上記パターンを導電膜に転化させた。得られた導電膜の厚さは19μmであり、体積抵抗率は4.5×10−5Ω・cmであった。
【0048】
(実施例3)
窒化銅粒子1.2gの代わりに同窒化銅粒子0.6gと、銀粒子としてトクセン工業株式会社製N300(扁平形状(厚さ:30nm)、D50=470nm)0.6gを用いた以外は実施例1と同様の操作により印刷用のペーストを作製、スクリーン印刷、パルス光照射を行って上記パターンを導電膜に転化させた。得られた導電膜の厚さは16μmであり、体積抵抗率は9.1×10−6Ω・cmであった。
【0049】
(比較例1)
窒化銅粒子1.2gの代わりに三井金属鉱業株式会社製銅粉1050Y(球形、D50=716nm)1.2gを用いた以外は実施例1と同様の操作により印刷用のペーストを作製、スクリーン印刷、パルス光照射を行って上記パターンを導電膜に転化させた。得られた導電膜の厚さは26μmであり、体積抵抗率は7.6×10−4Ω・cmであった。
【0050】
(比較例2)
窒化銅粒子1.2gの代わりに銀粒子としてトクセン工業株式会社製N300(扁平形状(厚さ:30nm)、D50=470nm)1.2gを用いた以外は実施例1と同様の操作により印刷用のペーストを作製、スクリーン印刷、パルス光照射を行って上記パターンを導電膜に転化させた。以上により形成した導電膜の厚さは16μmであり、体積抵抗率は6.3×10−6Ω・cmであった。
【0051】
以上のように、ペースト中に窒化銅粒子を有する実施例1乃至3では、ペースト中に金属粒子として銅粉のみを有する比較例1に比べて体積抵抗率が一桁以上低下することが確認された。また、ペースト中の金属粉として銀粒子のみを有する比較例2では、体積抵抗率の低下が確認されたが、後述するようにイオンマイグレーションの発生という問題が生じることが確認された。
【0052】
(ウォータードロップ試験)
図3は、ウォータードロップ試験の概要を示す図である。図4(a)、図4(b)は、それぞれ、ウォータードロップ試験に使用したパターン(寸法の単位はmm)を示す図、ウォータードロップ試験に必要な水の堰き止め方を示す図である。
【0053】
各実施例、各比較例で調製したペーストを用いて、図3または図4(a)に示したパターンの配線をスクリーン印刷によりポリイミドフィルム(カプトン100V、東レ・デュポン株式会社製、厚み25μm)上に印刷し、厚さ約20μmの導電パターンを形成した。た。得られた導電パターンに対して、Novacentrix社製PulseForge3300を用いて240V、1400μ秒、3.03J/cmでパルス光照射を行った。
【0054】
図4(b)に示したように、カプトン(登録商標)粘着テープ(株式会社寺岡製作所製テープNo.650S ♯50)10を貼り、カプトン粘着テープ10と導電パターンにより囲まれた半同心円状のくぼみ部分を形成した。このくぼみ部分に純水を1滴程度滴下し、カバーグラスを上から抑えることにより、くぼみ部分が水で満たされるようにした。この後、導電パターンに対して、25Vの電圧を印加し、イオンマイグレーションの発生の有無を観察した。
【0055】
図5(a)、図5(b)および図5(c)は、それぞれ、実施例1、実施例3および比較例2におけるウォータードロップ試験後の写真である。なお、実施例2、比較例1のウォータードロップ試験結果は、実施例1と同様である。実施例1乃至3、および比較例1のペーストを用いて形成された導電パターンでは、電圧を300秒間印加しても、イオンマイグレーションが生じなかった。これに対して、比較例2のペーストを用いて導電パターンでは、電圧印加後25秒後に電極間にイオンマイグレーションが生じていることが確認された。以上の実施例、比較例の結果をまとめて表1に示した。
【表1】
【0056】
本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうるものである。
【符号の説明】
【0057】
10 基材、20 導電パターン形成用組成物、30 導電パターン
図1
図2
図3
図4
図5