(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6574563
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】電子部材用フィルムの製造方法およびフィルム搬送方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/56 20060101AFI20190902BHJP
C23C 16/44 20060101ALI20190902BHJP
C23C 16/54 20060101ALI20190902BHJP
【FI】
C23C14/56 B
C23C16/44 F
C23C16/54
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-226048(P2014-226048)
(22)【出願日】2014年11月6日
(65)【公開番号】特開2016-89231(P2016-89231A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2017年9月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100152571
【弁理士】
【氏名又は名称】新宅 将人
(74)【代理人】
【識別番号】100141852
【弁理士】
【氏名又は名称】吉本 力
(72)【発明者】
【氏名】口山 崇
(72)【発明者】
【氏名】元原 裕二
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 暁彦
【審査官】
宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−126504(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/56
C23C 16/44
C23C 16/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロール状フィルムの繰り出しから繰り出されたフィルムへの薄膜形成までの工程を減圧チャンバー内で連続的に行って電子部材用フィルムを製造する方法において、
前記ロール状フィルムから前記フィルムが剥離される近傍に、5.0×10−4〜2.0×10−1体積%の水、50体積%未満の酸素、および残部が窒素からなるガスを噴霧する電子部材用フィルムの製造方法。
【請求項2】
ロール状フィルムの繰り出しから繰り出されたフィルムへの薄膜形成までの工程を減圧チャンバー内で連続的に行って電子部材用フィルムを製造する方法において、
前記ロール状フィルムから前記フィルムが剥離される近傍に、5.0×10−3〜2.0×10−1体積%の水、30体積%未満の酸素、および残部がアルゴンからなるガスを噴霧する電子部材用フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記噴霧するガスが1〜25体積%の酸素を含む、請求項1または2に記載の電子部材用フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記フィルムの表裏面は、非対称組成および/または非対称構造であり、屈折率と膜厚の積である光学膜厚の制御を目的とする層が表裏の各面に1層以上形成されている請求項1〜3のいずれかに記載の電子部材用フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記ロール状フィルムから前記フィルムが剥離される近傍では、前記フィルムの幅方向に沿って略均等に前記ガスが噴霧される請求項1〜4のいずれかに記載の電子部材用フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記ロール状フィルムから前記フィルムが剥離される近傍では、前記フィルムの幅方向に沿って、両端部分に中央部分よりも多くの前記ガスが噴霧される請求項1〜4のいずれかに記載の電子部材用フィルムの製造方法。
【請求項7】
ロール状フィルムの繰り出しから繰り出されたフィルムへの薄膜形成までの工程を減圧チャンバー内で連続的に行うフィルム搬送方法において、
前記ロール状フィルムから前記フィルムが剥離される近傍に、5.0×10−4〜2.0×10−1体積%の水、50体積%未満の酸素、および残部が窒素からなるガスを噴霧する搬送方法。
【請求項8】
ロール状フィルムの繰り出しから繰り出されたフィルムへの薄膜形成までの工程を減圧チャンバー内で連続的に行うフィルム搬送方法において、
前記ロール状フィルムから前記フィルムが剥離される近傍に、5.0×10−3〜2.0×10−1体積%の水、30体積%未満の酸素、および残部がアルゴンからなるガスを噴霧する搬送方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明フィルム基材上に真空プロセスにより薄膜を形成する際のフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
真空プロセスは、半導体材料をはじめ多くの薄膜層を形成する手段として広く使用されており、特にフィルム上に形成するものとして、タッチパネルやディスプレイなどの表示デバイス、LEDなどの発光デバイス、太陽電池などの受光デバイスが知られており、これらへの半導体層や透明導電層・電極層などの薄膜層が知られている。
【0003】
フィルム上に薄膜を形成する場合、枚葉式といわれる、シート状のフィルム上に形成する方式での手段もあるが、ロールトゥロール式といわれる連続製膜のほうが、生産面で圧倒的に有利であり、フィルムを用いたフレキシブルエレクトロニクス分野の多くは、ロールトゥロール式により生産されている。ロールトゥロール式は、フィルムロールの繰り出しから、薄膜の製膜、製品の巻取りまでを1プロセスのうちに行うことができるが、特許文献1〜2に記載されているように、フィルムが金属ロールから剥離する際に起こる帯電障害を抑制するために水蒸気を剥離箇所に向かって噴霧する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−348338号公報
【特許文献2】特開2011−111628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、ロールトゥロールプロセスで用いられるフィルムとして「インデックスマッチングフィルム」と称される機能性フィルムがある。インデックスマッチングフィルムとは、屈折率と膜厚を制御した薄膜層が1層以上堆積されたフィルムであり、反射防止機能や、タッチパネル用透明導電フィルムのパターン見え防止機能など、種々の光学的な機能を付与することが可能なフィルムである。
【0006】
インデックスマッチング薄膜層は、屈折率制御のため、フィルム基板やハードコート層とは異なる材質からなる場合があり、特に高屈折率な薄膜層では無機材料を含有することがある。
【0007】
このようなインデックスマッチングフィルムに代表される機能性フィルムは、表裏面が異なる材質からなるため、ロール状で保管している場合に接触帯電と呼ばれる帯電現象が起こる可能性がある。接触帯電は、接触している各面のイオン化ポテンシャル(仕事関数)が異なる場合、その差異に起因する電位差が発生するように、各面に電子と正孔が分布する現象である。接触帯電により発生する電位差が大きい場合には、ロールからフィルムを繰り出す際に剥離放電という現象を引き起こす。さらに電位差が、インデックスマッチング薄膜層やハードコート層の絶縁破壊電圧よりも大きい場合には、剥離放電の際に該層にクラック欠陥を生じることがあり、歩留まり低下の原因となる。
【0008】
このようなクラックを発生させる剥離放電の現象は、真空プロセスでは特に起こりやすい。これは、高真空雰囲気下では、フィルムの接触面に帯電した電荷の逃げ場がなく、結果として剥離放電(=アーク放電)として電荷を中和するしかなくなるためである。
【0009】
そこで、上記課題に鑑み、本発明は、真空プロセスにおいて剥離放電及びそれに起因したクラック欠陥を抑制するためのフィルムの繰り出し及び搬送方法に関する方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らが鋭意検討した結果、フィルムをロールから繰り出す際に、ロールからフィルムが剥離する局所的な領域にガスを噴霧し圧力を上げることで、剥離放電及びそれに起因するクラックを抑制可能であることを見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明
では、ロール状フィルムの繰り出しから繰り出されたフィルムへの薄膜形成までの工程を減圧チャンバー内で連続的に行う電子部材用フィルムを製造する方法において、ロール状フィルムから前記フィルムが剥離される近傍に
、不活性ガスを主成分と
し、水が含まれている
ガスを噴霧する。一態様
では、前記噴霧されるガスは窒素ガスを主成分とし、5.0×10
−4〜2.0×10
−1体積%の水と、50体積%未満の酸素ガスを含む
。一態様では、前記噴霧されるガスはアルゴンガスを主成分とし、5.0×10
−3〜2.0×10
−1体積%の水と、30体積%未満の酸素ガスを含む
。
【0012】
前記フィルム
は、表裏面
が、非対称組成および/または非対称構造であり、屈折率と膜厚の積である光学膜厚の制御を目的とする層
が各面に1層以上形成されているものが好適に用いられる。
【0013】
前記フィルムが前記ロール状フィルムから剥離される近傍では、前記フィルムの幅方向に沿って略均等に前記ガスが噴霧されることが好ましい。局所的な噴霧では、剥離箇所の圧力を制御しがたく、剥離放電を完全に抑制することが困難となりやすいことと、局所的に噴霧されることで、ガス中に含まれる水分が、噴霧箇所に吸着した場合にフィルム特性の不均一性の原因となる可能性があるためである。一方、前記フィルムが前記ロール状フィルムから剥離される近傍で、前記フィルムの幅方向に沿って、両端部分が中央部分よりも多く前記ガスが噴霧されるようにしても、発明の実施は可能である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法によれば、真空プロセスにおいてフィルムをロールから繰り出す際に、その剥離部分のみを周辺よりも高圧にし、その高圧にするのに用いるガスについて電荷を拡散させるような誘電率のものとすることで、繰り出し部の剥離放電を効果的に抑制することが可能となり、さらに噴霧ガスの水分量を適量に制御することで、電荷の拡散と、水の表面吸着による薄膜形成後のフィルム特性悪化の抑制を同時に達成可能となる。さらに、本発明におけるフィルム搬送は、インデックスマッチングフィルムのような、フィルムの表裏面が非対称構造のものに特に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例1における透明導電フィルムの模式的断面図である。
【
図2】実施例及び比較例における放電開始電圧と圧力のフィッティングカーブである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は、フィルムロール200が、駆動ロール301により矢印方向に回転され、ガイドロール302を通るようにフィルム201として繰り出される搬送系を示している。フィルムロールからフィルムが剥離する箇所(近傍)には、ガス配管100を通してガス101が噴霧される。
【0017】
フィルム201の表裏面は非対称組成および/または構造の場合に、本発明は特に有効である。非対称な組成・構造とは、フィルムの1面にはハードコート層が形成されており、他の1面には、光学膜厚を制御するためのインデックスマッチング層が形成されているものである。
【0018】
ロールトゥロール法に用いる真空プロセスでは、非製膜チャンバーの圧力は10
−4〜10
−2Pa台とすることが一般的である。たとえば10Paのように圧力が過剰に高い(排気速度が不十分)場合には、フィルム表面からの脱水・脱ガスが不十分となり、形成した薄膜の特性が良くない場合がある為である。例えば、インデックスマッチングフィルム上に透明導電層を形成する透明導電フィルムにおいて、透明導電層としてインジウム錫酸化物(ITO)を形成する場合、フィルム表面に残った水の影響を受けて、電気特性の不良を起こす場合がある。
【0019】
真空装置においては、
図1におけるガスが噴霧されている局所的領域の圧力を測定することは、設備的に困難である。このため、ガス噴霧領域に最近接の圧力計の値で管理することもできるが
、導入するガスにより規定を行う。導入するガスについては、フィルム表面電荷の効果的な系内への拡散を目的として、比誘電率が一定の範囲にあることが好ましい。その範囲とは、導入するガスの液体または固体の状態の比誘電率をeとした時に、下記式(1)
e1=(e−1)÷10
−4 (1)
で表される値
e1が5.1〜5.8である。この中でも、特に5.3〜5.6が好ましい。比誘電率が低すぎる場合には、電荷の拡散がスムーズに行われず、剥離放電が発生する可能性が高くなる。一方、比誘電率が高すぎる場合には、導入ガスの影響を受けてフィルム剥離箇所でグロー放電が起こりやすくなるため好ましくない。グロー放電は、クラックを引き起こすようなアーク放電ではないが、パッシェン則といわれる経験則より、グロー放電が起こっていることは、フィルム間の電位差が放電開始電圧以上になっている可能性を示すものであり、本発明における剥離放電の抑制を達成することが困難となる。
【0020】
上記のような比誘電率を達成するためには、例えば導入ガス中に1.0×10
−4〜2.0×10
−1体積%の水を含有させることが簡便であり、有効である。特には5.0×10
−4〜1.0×10
−2体積%が好ましい。含水量が低すぎる場合は、電荷拡散の効果が薄くなるため好ましくない。一方、含水量が高すぎる場合には、フィルム表面に水を吸着させやすくなり、薄膜形成時の特性に悪影響を与えるため好ましくない。
【0021】
この他、導入ガス中に、上記水に加え、酸素ガスを50体積%未満、好ましくは1〜50体積%含有させることも、比誘電率を制御する上で効果的である。より効果的なのは、1〜25体積%である。さらに、酸素ガスを真空チャンバー中に流し排気することで、ゲッタリング効果によりチャンバー内の水を同時に減少させることが可能である。
【0022】
このような放電現象は、パッシェン則により経験的に議論することが可能である。パッシェン則とは、放電開始電圧をV
sとした場合に、下記式(2)
【0024】
で表される式であり、p、dはそれぞれ放電雰囲気の圧力と放電電極間(本発明においてはフィルム剥離部のフィルム間)距離を示しており、BとCはそれぞれ経験的に求められる定数である。
【0025】
本発明においては、フィルム間距離dはフィルムからの繰り出し部であるため一定であると仮定することができ、dを定数として式(2)を
【0027】
と変換することができる。式(3)においてB’とC’の比(B’/C’)は、0.3以上であることが好ましい。
図2に式(3)を元にした曲線を示す。ただし、放電開始電圧はその絶対値を定量的に求めることができなかったため、相対値で示した。圧力についても、局所的な圧力の測定ができないため、放電開始電圧と同様に相対値で示した。
図2に示すように、上の比が大きくなるほど、縦軸の放電開始電圧を大きくすることが可能となり、つまり剥離放電を抑制することが可能となる。比を上記値にするためには、上述の通りのガス噴霧条件とする必要がある。
【0028】
以下に、本発明に係るフィルムについて述べる。フィルムロール200およびフィルム201は、ロール状にできる材質であれば特に限定されることはなく、金属箔状のものも使用できるが、本発明はプラスチックフィルムのような誘電物質を用いた時に効果を発揮する。プラスチックフィルムの基材となる材料には、ポリアルキレンテレフタレート類や、ポリアルキレンナフタレート類、シクロオレフィン類、ポリカーボネート類、ポリオレフィン類、ポリイミド類などがあり、その厚みは10μm〜200μm程度である。これらのフィルム上には、キズ防止の目的からハードコート層や、基材からのオリゴマーの拡散を抑制する層が形成されることがある。ハードコート層やオリゴマー拡散抑制層の厚みは、その機能とフィルムの柔軟性を損なわないことが重要であり、0.5〜15μm程度の厚みで形成される。延伸フィルムを用いる場合は、延伸による歪が分子鎖に残留するため、加熱された場合に熱収縮する性質を有している。このような熱収縮を低減させるために、延伸の条件調整や延伸後の加熱によって応力を緩和し、熱収縮率を0.2%程度あるいはそれ以下に低減させるとともに、熱収縮開始温度が高められた二軸延伸フィルム(低熱収縮フィルム)が知られている。基材の熱収縮による不具合を抑止する観点から、このような低熱収縮フィルムを基材として用いることも提案されている。
【0029】
本発明に述べるような剥離放電現象は、以下のような過程を経て発生すると考えられる。つまり、フィルム生産時にロール状に巻き取る際の摩擦や、巻ズレによる摩擦等によりフィルム表面に電荷を生じる。その電荷は、向かい合うフィルムで正負が異なっており、これによりフィルムどうしが強く密着しやすくなる。強く密着したフィルムは、その影響により接触帯電を誘発する。接触帯電は、向かい合うフィルムのイオン化ポテンシャル差により程度が決まる。接触帯電したフィルムはより強く密着し、それに伴いさらに帯電量を増していき、フィルム間の電位差が大きくなり、その電位差が放電開始電圧以上となった時に繰り出されることによって、剥離放電が起こる。
【0030】
上記のような電位差の発生は、フィルムの表裏面が非対称な構造・組成となっている場合に、その材料のイオン化ポテンシャル差が生じるために起こりやすい。特にフィルムの片面にハードコート層が形成されており、反対面に光学膜厚制御層(インデックスマッチング層)が形成されている、いわゆるインデンックスマッチングフィルムが代表例である。インデックスマッチングフィルムは、ハードコート層は有機物(高分子化合物)であるが、インデックスマッチング層は屈折率制御のために無機物を含有することが一般的であることから、ハードコート層とインデックスマッチング層が接することで層間に電位差が発生しやすくなると考えられる。
【0031】
次に、ガスの噴霧方法について述べる。ガスの噴霧は、フィルムロール200からフィルム201が剥離する箇所に行うことがもっとも有効である。繰り出しのチャンバー雰囲気全体の圧力を数Paまで上げる方法もあるが、チャンバー全体の圧力が高くなるため、その後の薄膜形成チャンバーに対して圧力が高くなるなどの悪影響を及ぼす可能性があり、好ましくない。
【0032】
このように剥離箇所にスポット的に噴霧するには、噴霧口がロールトゥロール設備の追従システムに付随していることが有効である。追従システムは、フィルム201を繰り出していくことで変化していくフィルムロール200の外径にあわせて位置を変え、フィルムロールの外側端部から芯側端部まで安定した張力で繰り出しをするためのシステムである。この追従システムに付属することで、フィルムロール径によらず剥離箇所に噴霧することができる。
【0033】
ガスを噴霧する際には、フィルムの幅方向にほぼ均一に噴霧することが好ましい。局所的な噴霧では、剥離箇所の圧力を制御しがたく、剥離放電を完全に抑制することが困難となりやすいことと、局所的に噴霧されることで、ガス中に含まれる水分が、噴霧箇所に吸着した場合に、フィルム特性の不均一性の原因となる可能性があるためである。
【0034】
本発明は、フィルム基板上に真空プロセスを用いて薄膜を形成する用途に適用可能であるが、特にディスプレイや発光デバイス、光電変換デバイスをフィルム上に形成する場合の電極層や半導体薄膜層、タッチパネル用の透明電極層などを形成する際に好ましく適用できる。特にタッチパネル用途では、上記のインデックスマッチングフィルムを適用することが多いことから有効である。
【実施例】
【0035】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
(フィルムロールの作製)
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚み:50μm)の片面にポリアクリル樹脂からなるハードコート層を1μmの厚みで形成し、反対面にはインデックスマッチング層を形成した。インデックスマッチング層は、アクリル樹脂(商品名:ダイヤナールBR−102、三菱レイヨン製)をメチルセロソルブに溶解した。固形分濃度は30重量%とした。この樹脂溶液に、酸化チタン(商品名:チタニア粒子TECNAPOW−TIO2、エアブラウン製)を、アクリル樹脂に対して4重量%添加して十分に撹拌して得た樹脂溶液を1マイクロメートルの厚みに塗布し、125℃で15分間乾燥させることで、0.3マイクロメートル厚のインデックスマッチング層を形成した。
【0037】
ハードコート層およびインデックスマッチング層は、いずれもロールトゥロール方式により、グラビア印刷法で形成した。
【0038】
上記のようにして作製したフィルムを167mm外径のプラスチックコアに2000m巻取り、巻取り径397mmのロールを作製した。
【0039】
(真空チャンバー内でのフィルム搬送)
上記のロールを、ロールトゥロール設備の駆動軸にセットし、ガイドロールを通して通紙したのち、チャンバーの真空引きを実施した。電離真空計の圧力が5×10
−4Paを下回ったところで、実施例1〜9、比較例1〜4および参考例1〜2のガスを合計50sccmの流量で流し、フィルム剥離箇所に向けて噴霧した。
【0040】
含水量の調整は、純水を液体流量調整器により流量を制御した後に、加熱気化器を通して気化させた。酸素は、気体の流量調整器を通した。導入ガスは、主成分ガス含めてチャンバー導入前で合流させた。水及び酸素の含有量は、流量による体積比から算出した。
【0041】
導入ガスの
比誘電率
eは、低温で液体〜半固体の状態にしたものを同軸プローブ法により測定し
、前述の式(1)に基づいてe1を算出した。
【0042】
フィルムに150N/mの張力をかけた状態で、2m/min.の搬送速度で搬送した。剥離放電の有無については、搬送中の剥離箇所を、チャンバー外から目視で観察し、放電現象発生の有無により評価した。クラックについては、巻取り側で巻き取り、大気開放してフィルムロールを取り出した後に、目視で観察した。いずれも、発生したものを×、発生しなかったものを○とした。
【0043】
評価結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
表1の結果より、水分量・酸素量を適量に調整することで、剥離放電及びクラックの抑制が可能であることがわかった。比較例4では、埃などの異物を除去した、いわゆる「空気」を導入したが、これでは湿度が高すぎるため、この後に形成した薄膜の密着性が良くないなどの不具合が生じた。密着性を確保するためにガスの量を20sccmまで低下すると、剥離放電とクラックの抑制ができなかった。
【0046】
参考例として、窒素またはアルゴンの乾燥ガス導入を試みた。比誘電率は範囲内であったが、剥離放電やクラックの抑制には至らなかった。これは、フィルムの表面では水や酸素へ直接電荷拡散が起こっている可能性を示している。
【0047】
今回の結果から、導入ガスの比誘電率がプロセス・特性に影響を与えていることがわかった。一方で、比誘電率が範囲内であっても、参考例のように不良が発生したことから、比誘電率が優勢でありながら、含有成分も重要であることがわかった。詳細な説明ができないが、含有成分の存在による局所的に高誘電率となっていることが、剥離放電及びクラックの抑制に影響していることが予想される。
【符号の説明】
【0048】
100:ガス噴出し口
101:剥離放電抑制ガス
200:フィルムロール
201:フィルム(矢印が搬送方向)
301:駆動軸
302:ガイドロール