【実施例】
【0023】
図1は、本発明の実施例に係るデファレンシャル装置の断面図である。なお、以下の説明において、軸方向とは、デフケースの回転軸芯の方向、回転方向とは、デフケースの回転方向を意味する。
【0024】
図1のように、デファレンシャル装置1は、デフケース3と、一対のサイドギヤ5、7と、ピニオンギヤ9とを備えている。
【0025】
前記デフケース3は、本体部11と蓋体部13とにより構成されている。
【0026】
前記本体部11は、本体周壁部14の一側に本体フランジ部15を一体に備え、他側に本体端壁部17を一体に備えている。本体周壁部14には、窓16が形成され、本体端壁部17には、ボス部19が一体に突設され、ボス部19の外周面が軸受支持部19aとなっている。
【0027】
本体端壁部17の内面には、締結受け面17a及び逃げ面17bが設けられ、締結受け面17aが逃げ面17bに対して軸方向内方に相対的に突出している。また、本体端壁部17の内面には、逃げ面17bの内周に回転支持用の凹部17cが周回状に形成されている。
【0028】
蓋体部13は、蓋体周壁部21の一側に蓋体フランジ部23を一体に備え、他側に蓋体端壁部25を一体に備えている。蓋体端壁部25には、ボス部27が一体に突設され、ボス部27の外周面が軸受支持部27aとなっている。
【0029】
蓋体端壁部25の内面には、締結受け面25a及び逃げ面25bが設けられ、締結受け面25aが逃げ面25bに対して軸方向内方に突出している。また、蓋体端壁部25の内面には、逃げ面25bの内周に回転支持用の凹部25cが周回状に形成されている。
【0030】
本体フランジ部15に蓋体フランジ部23が合わされ、ボルトにより締結固定され、本体部11に蓋体部13が取り付けられ、デフケース3が構成されている。本体フランジ部15及び蓋体フランジ部23からなるフランジ部には、ドライブピニオンギヤからトルク入力を受けるリングギヤが締結固定される。
【0031】
本体端壁部17と蓋体端壁部25との外周部には、外側の径が細くなった段付き穴29、31が設けられ、この段付き穴29、31は、デフケース3の回転周方向に所定間隔で複数設けられている。
【0032】
段付き穴29、31に連続するように本体周壁部14の内周面に、断面が半円状のピン挿通溝33が設けられている。
【0033】
前記サイドギヤ5、7は、周回状のギヤ本体部35、37の正面側にギヤ部39、41を備え、かさ歯車となっている。ギヤ部39、41の背面には、回転嵌合用の凸部39a、41aが周回状に形成されている。サイドギヤ5、7の凸部39a、41aは、デフケース3の凹部17c、25cに回転自在に支持されている。
【0034】
サイドギヤ5、7のギヤ本体部35、37には、係合部43、45が設けられている。係合部43、45は、ギヤ本体部35、37からギヤ部39、41に渡って設けられている。係合部43、45については、さらに後述する。
【0035】
なお、サイドギヤ5、7には、前記デフケース3のボス部19、27を貫通する一対の軸であるアクスルシャフトがスプライン結合される。
【0036】
前記ピニオンギヤ9は、4個備えられた4ピニオンタイプであり、ピニオンシャフト47に回転自在に支持されている。各ピニオンギヤ9は、前記各サイドギヤ5、7に噛み合っている。この噛合いによりデフケース3及び各サイドギヤ5、7間のトルク伝達を可能にすると共に、各サイドギヤ5、7間の相対回転を許容する。
【0037】
前記各サイドギヤ5、7と前記デフケース3との間には、摩擦部材として多板の摩擦クラッチ49、51が締結受け面17a、25aの軸方向に隣接して配置されている。この摩擦クラッチ49、51は、サイドギヤ5、7間の差動回転をその締結力に応じて制限する。
【0038】
摩擦クラッチ49、51のインナープレート49a、51aは、前記サイドギヤ5、7の係合部43、45に回転方向に係合し、回転軸芯に沿った方向へ移動可能となっている。摩擦クラッチ49、51のアウタープレート49b、51bは、ピン53に回転方向に係合し、デフケース3の回転軸芯に沿った方向へ移動可能となっている。摩擦クラッチ49、51は、ピン53に係合することによってデフケース3に係合した構成となっている。
【0039】
ピン53は、両端部が段付き穴29、31に嵌合固定され、段付き部に突き当てられている。ピン53の中間部は半円状のピン挿通溝33に嵌合している。
【0040】
前記摩擦クラッチ49、51に軸方向に隣接して、押圧部材としてのプレッシャーリング55、57が設けられ、締結受け面17a、25aとの間で摩擦クラッチ49、51が締結可能となっている。
【0041】
プレッシャーリング55、57は、前記ピン53に回転方向に係合し、回転軸芯に沿った方向へ移動可能となっている。プレッシャーリング55、57は、ピン53に係合することによって、デフケース3に係合した構成となっている。
【0042】
各プレッシャーリング55、57には、カム面59、61が設けられている。カム面59、61は、例えば山形凹状に形成され、ピニオンシャフト47の外周面に係合する構成となっている。尚、ピニオンシャフト47については、さらに後述する。
【0043】
プレッシャーリング55、57には、球面部63、65が設けられ、ピニオンギヤ9の背面を支持している。前記プレッシャーリング55、57の対向面67、69は、前記窓16内へ軸方向に若干突出している。窓16内で前記ピン53にコイルスプリング71が支持されている。
【0044】
コイルスプリング71は、前記プレッシャーリング55、57の対向面67、69に弾接している。コイルスプリング71の付勢力によって、プレッシャーリング55、57を介し摩擦クラッチ49、51にプリロードを付与している。
【0045】
[係合部]
図2〜
図6により、係合部を説明する。
図2は、サイドギヤの要部断面図、
図3は、サイドギヤの要部平面図、
図4は、サイドギヤの側面図、
図5は、サイドギヤの正面側の斜視図、
図6は、サイドギヤの背面側の斜視図である。なお、サイドギヤ5、7は、同一構成であるため、サイドギヤ5について説明し、サイドギヤ7については、対応する構成の符号を括弧により付記し、説明は省略する。
【0046】
前記係合部43(45)は、前記のようにギヤ本体部35(37)からギヤ部39(41)に渡って設けられ、本実施例では、係合部43(45)が、ギヤ本体部35(37)からギヤ部39(41)の歯先に渡るように形成されている。但し、係合部
係合部43(45)は、ラグ状に形成され、ギヤ部39(41)の一定歯数毎に備えられている。本実施例では、歯数が整数枚であり、2枚の歯が一組となって周方向に一定間隔の係合部43(45)を備えている。
【0047】
係合部43(45)は、一歯置きにギヤ部39(41)の歯39b(41b)間に軸方向に平行な溝43a(45a)を形成することで構成されている。溝43a(45a)は、各サイドギヤ5(7)の背面からギヤ部39(41)の歯先に渡って貫通している。この場合、係合部43(45)は、サイドギヤ5(7)の背面からギヤ部39(41)の歯先に渡って全体に形成されることになる。
【0048】
但し、係合部43(45)は、ギヤ部39(41)の歯先にまで渡ることなく、サイドギヤ5(7)の背面からギヤ部39(41)の途中まで、例えば、後述の当て部の位置まで、などと設定することもできる。さらに、ギヤ部39(41)の歯先とサイドギヤ5(7)の背面との間の中間部において係合部43(45)を設定することもできる。
【0049】
かかる設定は、一例として歯39b(41b)間に形成する溝43a(45a)の幅の設定で行うことができ、溝43a(45a)の幅を図示よりも狭くすることで係合部43(45)がギヤ部39(41)の歯先にまで至らないように形成することができる。
【0050】
この係合部43(45)に摩擦クラッチ49(51)のインナープレート49a(51a)が係合する形態は、インナープレート49a(51a)の内周側の周方向一定間隔の突部が、二枚の歯を跨ぐようにして行なわれる。
【0051】
係合部43(45)は、摩擦クラッチ49(51)に軸方向に突き当たる当て部43b(45b)をギヤ部39(41)の外周部に備えている。この当て部43b(45b)は、ギヤ部39(41)の外周部が係合部43(45)よりも外周に突出することで形成されている。
【0052】
[ピニオンシャフト]
図7は、ピニオンシャフトに係り(A)は、端面図、(B)は、側面図である。
【0053】
図1、
図7のように、本実施例のピニオンシャフト47は、一体のスパイダー状ではなく、二本のシャフト部材73(75)の十字の組み合わせにより構成されている。シャフト部材73(75)の形状は同一であり、長さ方向の中央にかみ合わせ用の合わせ凹部73a(75a)が形成され、合わせ凹部73a(75a)内にスプリング収納穴73b(75b)が形成されている。
【0054】
二本のシャフト部材73(75)の径方向の断面形状は、二面取りが行なわれた長円形状であり、両側に円形状部73c(75c)が径成されている。
【0055】
二本のシャフト部材73(75)が合わせ凹部73a(75a)でかみ合わせるように結合され、スプリング収納穴73b(75b)にコイルスプリング77を介設しながら十字のピニオンシャフト47が構成される。
【0056】
なお、このコイルスプリング77の構造は、省略することもできる。
【0057】
二本のシャフト部材73(75)の端部は、円形状部73c(75c)がそれぞれプレッシャーリング55、57のカム面59、61に当接する。
【0058】
[ピン]
図8は、プレッシャーリング係合用のピンとデフケースとの関係を示す断面図である。
【0059】
図8のように、前記ピン53と前記ピン挿通溝33との関係は、ピン53の中心が、本体周壁部14の内周面よりも内径側となるように設定されている。
【0060】
[作用]
(係合部)
デファレンシャル装置1は、デフケース3の軸受支持部19a、27aがトルク伝達装置のハウジングにべアリングを介して回転自在に支持され、本体フランジ部15及び蓋体フランジ部23からなるフランジ部に取り付けられたリングギヤが、ドライブピニオンギヤに噛合っている。
【0061】
ドライブピニオンギヤからリングギヤを介し、トルクが入力されると、デフケース3が回転する。デフケース3の回転によって、ピン53に係合するプレッシャーリング55、57にトルクが伝達され、カム面59、61を介して、ピニオンシャフト47にトルク伝達が行われる。このトルク伝達によって、ピニオンギヤ9、サイドギヤ5、7がデフケース3共に一体に回転する。サイドギヤ5、7からは、左右のアクスルシャフトを介してトルク伝達が行われ、左右の車輪が回転駆動される。
【0062】
前記カム面59、61が、ピニオンシャフト47に回転方向に当接すると、カム作用によって、プレッシャーリング55、57が摩擦クラッチ49、51側へ移動する。この移動によって、プレッシャーリング55、57と締結受け面17aとの間で摩擦クラッチ49、51が締結される。
【0063】
この場合、デフケース3からプレッシャーリング55、57へ伝達されるトルクの増大に応じて、カム面59、61のカム力が増大するため、摩擦クラッチ49、51がトルクに応じて締結力を強める。この摩擦クラッチ49、51の締結力によって、サイドギヤ5、7とデフケース3とが摩擦係合し、サイドギヤ5、7間の差動制限が行われる。この差動制限力は、前記のように、トルクの増大に応じて増大する。
【0064】
左右の車輪へは、トルク増大に応じた差動制限を行いながらトルク伝達が行われることになる。
【0065】
また、コイルスプリング65の付勢力によって、プレッシャーリング55、57を介し、摩擦クラッチ49、51にプリロードが与えられているため、当初から差動制限力を得ながらトルク伝達を行うことができる。
【0066】
左右の車輪の差動回転時には、ピニオンギヤ9がピニオンシャフト47を中心に自転することにより、サイドギヤ5、7間の差動回転を許容することができ、該差動回転を摩擦クラッチ49、51のプリロード及びトルクに応じた摩擦力によって制限することができる。
【0067】
同時にサイドギヤ5、7がピニオンギヤ9との間の噛合い反力で軸方向に移動すると当て部43b、45bが摩擦クラッチ49、51に軸方向に押圧する。この押圧により、サイドギヤ5、7のスラスト力が摩擦クラッチ49、51に働き、締結受け面17aとの間で摩擦クラッチ49、51がさらに締結される。
【0068】
従って、コーナリング走行時等にサイドギヤ5、7がプレッシャーリング55、57と共に走行に応じて摩擦クラッチ49、51を締結し差動制限力を得ることができ、安定したコーナリング走行等を可能とする。
【0069】
サイドギヤ5、7のスラスト力を差動制限力に利用できながら、摩擦クラッチ49、51は、サイドギヤ5,7のギヤ部39、41側にもオーバーラップして配置することができ、従来の
図10の構造に比較して、ギヤ部39、41のギヤ径の減少を抑制しながら、従来の
図9の構造に比較して、デフケース3の軸方向幅の増大も抑制できる。
【0070】
サイドギヤ5、7のスラスト力は、摩擦クラッチ49、51を介して締結受け面17aに入力されるからサイドギヤ5、7とデフケース3の本体端壁部17との間のスラストワッシャを不要にすることができる。
【0071】
従来の
図9の構造に比較して、デフケース3の本体端壁部17への入力をより外径側にすることができ、強度、剛性上有利な構造になる。
【0072】
係合部43、45は、一歯置きにギヤ部39、41の歯39a、41a間に軸方向に平行な溝43a、45aを設けて形成するだけであり、加工が容易である。
【0073】
溝43a、45aが、ギヤ部39、41の歯39a、41a間で各サイドギヤ5、7の背面からギヤ部39、41の歯先に渡って貫通しているので、歯39a、41aや摩擦クラッチ49、51に対する潤滑油の到達が容易となる。
【0074】
従来の
図9の構造に比較して、左右のサイドギヤ5、7とピニオンギヤ9との間の噛合いバランスが有利である。
【0075】
(ピニオンシャフト)
ピニオンシャフト47は、二本のシャフト部材73、75の十字の組み合わせにより構成されているので、製造が容易であり、安価にすることができる。
【0076】
二本のシャフト部材73、75の端部は、円形状部73c、75cがそれぞれプレッシャーリング55、57のカム面59、61に当接するので、エッジ当たりをせず、耐久性に優れ、摩擦が小さく、レスポンスを良好にすることができる。
【0077】
二本のシャフト部材73、75間にコイルスプリング77が介設された場合には、プレッシャーリング55、57のカム面59、61とシャフト部材73、75との間のがた付きが抑制され、ドライブ、コースト間でのトルク移動のとき、当該部に起因するがた付き音を抑制できる。
【0078】
(ピン)
ピン53の中心が、本体周壁部14の内周面よりも内径側となるように設定されているため、プレッシャーリング55、57及び摩擦クラッチ49、51のアウタープレート49b、51bとピン53との間で、プレッシャーリング55、57及びアウタープレート49b、51bの噛合いがデフケース3の回転半径方向でピン53の中心よりも外径側に至るように行なわせることができる。
【0079】
このため、プレッシャーリング55、57及びアウタープレート49b、51bからピン53に働く反力方向が、ピン53の中心を通る接線方向(
図8中矢印方向)となる。かかる反力方向の設定により同一トルクに対して最小の面圧にすることができ、軸方向締結移動時の摩擦力も軽減し、締結動作をより円滑に行なわせることができる。この結果、レスポンスの良い差動制限機能を得ることができる。
【0080】
また、プレッシャーリング55、57及びアウタープレート49b、51bとピン53との接触面積も増大し、かかる点においても面圧を下げることに寄与できる。
【0081】
[実施例の効果]
本発明実施例は、回転自在に支持され外周面のフランジ部に取り付けられたリングギヤからトルクの入力を行うデフケース3と、デフケース3内に相対回転自在に支持され一対の軸がそれぞれ結合される一対のサイドギヤ5、7と、デフケース3内でピニオンシャフト47に回転自在に支持され各サイドギヤ5、7に噛合うピニオンギヤ9と、デフケース3とサイドギヤ5、7とに係合しサイドギヤ5、7の差動回転を締結力に応じて制限するための多板の摩擦クラッチ49、51と、デフケース3及びピニオンシャフト47に係合しデフケース3の回転をピニオンギヤ9の公転としてトルク伝達を可能にすると共に前記トルクに応じて移動し摩擦クラッチ49、51に締結力を与えるプレッシャーリング55、57とを備えたデファレンシャル装置1である。
【0082】
そして、サイドギヤ5、7は、周回状のギヤ本体部35、37にギヤ部39、41を備え、摩擦クラッチ49、51を回転方向に係合させる係合部43、45をギヤ本体部35、37からギヤ部39、41に渡って設けている。
【0083】
このため、ギヤ部39、41のギヤ径の減少を抑制しながらデフケース3の軸方向幅の増大も抑制できる。
【0084】
サイドギヤ5、7とデフケース3の本体端壁部17との間のスラストワッシャを不要にすることができる。
【0085】
デフケース3の強度、剛性上有利な構造になる。
【0086】
係合部43、45は、加工が容易である。
【0087】
溝43a、45aにより歯39a、41aや摩擦クラッチ49、51に対する潤滑油の到達が容易となる。
【0088】
左右のサイドギヤ5、7とピニオンギヤ9との間の噛合いバランスが有利である。
【0089】
係合部43、45は、摩擦クラッチ49、51に軸方向に突き当たる当て部43b、45bをギヤ部39、41の外周部に備えている。
【0090】
このため、サイドギヤ5、7のスラスト力が摩擦クラッチ49、51に働き、コーナリング走行時等に摩擦クラッチ49、51をサイドギヤ5、7がプレッシャーリング55、57と共に走行に応じて締結し差動制限力を得ることができ、安定したコーナリング走行等を可能とする。