特許第6574711号(P6574711)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6574711永久磁石同期電動機のインダクタンス測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6574711
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】永久磁石同期電動機のインダクタンス測定方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 23/14 20060101AFI20190902BHJP
【FI】
   H02P23/14
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-7889(P2016-7889)
(22)【出願日】2016年1月19日
(65)【公開番号】特開2017-131016(P2017-131016A)
(43)【公開日】2017年7月27日
【審査請求日】2018年10月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】302038844
【氏名又は名称】東芝シュネデール・インバータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】特許業務法人 サトー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】陳 建峰
(72)【発明者】
【氏名】有馬 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】北岡 幸樹
【審査官】 池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−125120(JP,A)
【文献】 特表2011−526479(JP,A)
【文献】 特表2005−537774(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0134914(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 23/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3相永久磁石同期電動機の固定子巻線に流す電流の目標値を設定する第1ステップと、
3相のうち何れか1相の固定子巻線に流れる正極性及び/又は負極性の電流が前記目標値に到達するように、電圧のパルス幅を調整して各相の固定子巻線に印加する第2ステップと、
何れか1相(以下、第1相と称す)の固定子巻線に流れる電流が前記目標値に到達すると、その時点で印加していた電圧のパルス幅を記憶する第3ステップと、
その時点で測定された3相の電流に基づいてD軸インダクタンスLdを求める第4ステップと、
前記第1相を除いた2相のうち、何れか1相の固定子巻線に流れる正極性及び/又は負極性の電流が前記目標値に到達するように、電圧のパルス幅を調整して各相の固定子巻線に印加する第5ステップと、
前記第1相を除いた2相のうち、何れか1相(以下、第2相と称す)の固定子巻線に流れる電流が前記目標値に到達すると、その時点で印加していた電圧のパルス幅を記憶する第6ステップと、
残り1相(以下、第3相と称す)の固定子巻線に流れる正極性及び/又は負極性の電流が前記目標値に到達するように、電圧のパルス幅を調整して各相の固定子巻線に印加する第7ステップと、
前記第3相の固定子巻線に流れる電流が前記目標値に到達すると、その時点で印加していた電圧のパルス幅を記憶する第8ステップと、
前記第1〜第3相のそれぞれに対応して記憶させたパルス幅で電圧を各相にそれぞれ印加して、各相電流を測定する第9ステップと、
前記各相電流から各相インダクタンスを計算し、それら各相インダクタンスよりインダクタンスの平均値Laveを求める第10ステップと、
前記平均値Laveと前記D軸インダクタンスLdとから、Q軸インダクタンスLqを求める第11ステップとを有する永久磁石同期電動機のインダクタンス測定方法。
【請求項2】
前記第5及び第7ステップにおいて、前記第1相の固定子巻線に印加する電圧のパルス幅に、前記第3ステップにおいて記憶させたパルス幅を用いる請求項1記載の永久磁石同期電動機のインダクタンス測定方法。
【請求項3】
前記第7ステップにおいて、前記第2相の固定子巻線に印加する電圧のパルス幅に、前記第6ステップにおいて記憶させたパルス幅を用いる請求項2記載の永久磁石同期電動機のインダクタンス測定方法。
【請求項4】
前記第5ステップにおいて、前記第1相を除いた2相それぞれの固定子巻線に印加する電圧のパルス幅の初期値に、前記第3ステップにおいて記憶させたパルス幅を用いる請求項1から3の何れか一項に記載の永久磁石同期電動機のインダクタンス測定方法。
【請求項5】
前記第7ステップにおいて、前記第3相の固定子巻線に印加する電圧のパルス幅の初期値に、前記第6ステップにおいて記憶させたパルス幅を用いる請求項1から4の何れか一項に記載の永久磁石同期電動機のインダクタンス測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、永久磁石同期電動機のインダクタンスを測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
永久磁石同期電動機を位置センサなしで駆動する装置では、制御性能向上や、安全性の面から、電動機のインダクタンスを測定するチューニング機能等を実施することがある。当該機能を実施する際に電動機に電流を流すと、磁石の磁束と電流とで発生するトルクによりロータが動いてしまうおそれがある。そこで、ロータが回転し難い交番電流を用いて、印加している電圧値と定められた時間における電流値の変化量とからインダクタンスを測定する手法が提案されている。
【0003】
具体的には、所定の期間にわたり、正方向の電圧ベクトル(V1,V3,V5)及び負方向の電圧ベクトル(V4,V6,V2)を、各相(U,V,W)の方向に印加する手段が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5431465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている方法では、磁気飽和を考慮するため、印加電圧のパルス幅Tpを、最終的に検出可能な飽和効果を生じるのに十分に高い値を有する電流ピークが得られるまで調整して決定する。しかしこの場合、3相の内少なくとも1相が磁気飽和効果を生じるような電流ピークが得られるまで、電圧パルス幅を調整している。このような方法では、D軸に最も近い相には磁気飽和に応じた大きな電流が流れるが、その他の2相の電流は十分に流れていない状態にある。その結果、Q軸のインダクタンスについては電流値が小さい状態での測定値が得られる可能性、つまり、回転子の位置に応じて、Q軸インダクタンスの測定結果にバラつきを生じる可能性がある。そして、そのような測定結果を用いて電動機を制御すると、重負荷状態での制御が不安定になるおそれがある。
【0006】
そこで、Q軸の測定をより安定的に行うことができる永久磁石同期電動機のインダクタンス測定方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の永久磁石同期電動機のインダクタンス測定方法は、3相永久磁石同期電動機の固定子巻線に流す電流の目標値を設定する第1ステップと、
3相のうち何れか1相の固定子巻線に流れる正極性及び/又は負極性の電流が前記目標値に到達するように、電圧のパルス幅を調整して各相の固定子巻線に印加する第2ステップと、
何れか1相(以下、第1相と称す)の固定子巻線に流れる電流が前記目標値に到達すると、その時点で印加していた電圧のパルス幅を記憶する第3ステップと、
その時点で測定された3相の電流に基づいてD軸インダクタンスLdを求める第4ステップと、
前記第1相を除いた2相のうち、何れか1相の固定子巻線に流れる正極性及び/又は負極性の電流が前記目標値に到達するように、電圧のパルス幅を調整して各相の固定子巻線に印加する第5ステップと、
前記第1相を除いた2相のうち、何れか1相(以下、第2相と称す)の固定子巻線に流れる電流が前記目標値に到達すると、その時点で印加していた電圧のパルス幅を記憶する第6ステップと、
残り1相(以下、第3相と称す)の固定子巻線に流れる正極性及び/又は負極性の電流が前記目標値に到達するように、電圧のパルス幅を調整して各相の固定子巻線に印加する第7ステップと、
前記第3相の固定子巻線に流れる電流が前記目標値に到達すると、その時点で印加していた電圧のパルス幅を記憶する第8ステップと、
前記第1〜第3相のそれぞれに対応して記憶させたパルス幅で電圧を各相にそれぞれ印加して、各相電流を測定する第9ステップと、
前記各相電流から各相インダクタンスを計算し、それら各相インダクタンスよりインダクタンスの平均値Laveを求める第10ステップと、
前記平均値Laveと前記D軸インダクタンスLdとから、Q軸インダクタンスLqを求める第11ステップとを有する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施形態であり、インダクタンスのチューニング処理手順を示すフローチャート
図2図1において、各相に印加する電圧パルス幅を段階的に拡げて行く状態を説明する図
図3】ステップS5における第1相の印加電圧パルス幅及び相電流波形を示す図
図4】ステップS11(1回目)における第2相の印加電圧パルス幅及び相電流波形を示す図
図5】ステップS11(2回目)における第3相の印加電圧パルス幅及び相電流波形を示す図
図6】電圧ベクトル,電圧パルス幅及び電流測定のタイミングを示す図
図7】正,負方向の電流変化を示すベクトル図
図8】電動機Mのa相に正方向電圧ベクトルを印加した状態を示す図
図9】電動機Mのa相に負方向電圧ベクトルを印加した状態を示す図
図10】特許文献1と本実施形態とによるD軸インダクタンスLdのチューニング結果を示す図
図11】同じくQ軸インダクタンスLqのチューニング結果を示す図
図12】同じくQ軸インダクタンスLqのバラつきを評価した結果を示す図
図13】同じくインダクタンス平均値L_aveを、30°の位置推定誤差がある場合とない場合とについて比較した図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、一実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態は、特許文献1に開示されている方法をベースにしているので、特許文献1と同一の部分については同一の符号を付して示す。図8及び図9は、特許文献1の図2.A,B相当図である。三相の永久磁石同期電動機M(以下、電動機M)を制御する可変速駆動装置は、ダイオードブリッジを有し、DC電源バスにDC電圧を供給する整流器モジュール(図示せず)を含む。DCバスは正配線20及び負配線21を含み、平滑コンデンサ(図示せず)は正配線20と負配線21との間に接続されている。DCバスは、各相a,b,cに電力を供給する電力ケーブル3を介して電動機Mに接続されたインバータモジュール1に電力を供給する。
【0010】
インバータモジュール1は、IGBT等の半導体スイッチング素子11(上アーム),12(下アーム)を含み、DCバスの電圧Vdcから電動機Mに印加する可変電圧を生成する。可変速駆動装置は、その様々な機能を実現するための制御や処理及び記憶する手段等も含む。図8図9は、a相に対しそれぞれ正の電圧ベクトルV1,負の電圧ベクトルV4を印加した状態に対応するインバータモジュール1のスイッチングパターンを示している。
【0011】
図6は、例えばa相について、正の電圧ベクトル及び負の電圧ベクトルを取得する電圧シーケンスを示す。この電圧シーケンスでは、インバータモジュール1により計測対象のa相と他の2つのb,c相との間に電圧を印加する。所定のパルス幅Tpの正電圧パルス、続いて2倍の所定のパルス幅Tpを有する負電圧パルス、続いて所定のパルス幅Tpの正電圧パルスを含む。この電圧シーケンスによれば、電動機Mにトルクを発生させず、従ってロータを回転させることがない。
【0012】
次に、本実施形態の作用について説明する。図1は、電動機MのD軸インダクタンスLd及びQ軸インダクタンスLqを求めるチューニングの処理手順を示すフローチャートである。先ず、最終的に検出可能な磁気飽和効果を生じるのに十分に高い値を有する電流レベルI_Targetを事前に決めておき、可変速駆動装置の制御部がその目標電流レベルI_Targetを指定する(S1,第1ステップ)。
【0013】
インバータモジュール1を介して電動機Mの固定子巻線に印加する電圧パルスの幅の初期値を小さい値に設定する。それから、電圧パルス幅を初期値から順次増加させて、図6に示すように各相に対し、正電圧,負電圧を印加する(S2,第2ステップ)。そして、同じく図6に示すように、各相の電流情報を測定する(S3)。例えばa相については、電流Ia1+,Ia2+,Ia1-,Ia2-を測定する。
【0014】
電動機Mのロータに配置されている磁石の磁束によりインダクタンスが磁気的に飽和しているので、最もD軸に近い相に流れる電流が一番早く目標電流レベルI_Targetに到達する(S4;YES)。目標電流レベルI_Targetを超えたことの確認は、正負電流の少なくとも一方について行えば良い。この相を例えばa相とし、電圧のパルス幅Tp1をこの時の値で固定し、記憶手段に記憶する(図2図3参照)。ステップS3で得られた各相の電流情報に基づき、特許文献1の[数1]式及び[数2]式から、位相情報つまりロータの回転位置θrが得られる(S5,第3ステップ)。また、D軸インダクタンスLdは、例えば特許文献1の[数3]式より得られる(S6,第4ステップ)。
【0015】
この時点で、a相を除く他の2相(例えばb相,c相)について、既に目標電流レベルI_Targetに到達したa相と同じ電圧のパルス幅Tp1で流れている電流は、目標電流レベルI_Targetに未到達である。そこで、a相については上記の電圧パルス幅Tp1を固定し、他の2つ相のみに対し、引き続き電圧パルス幅をより長くするように調整を進める(S7,第5ステップ)。ここで、b,c相のパルス幅の初期値もTp1にする。ステップS8〜S10は、ステップS2〜S4と同様の処理となる。
【0016】
そして、他の2相のうち一方(例えばb相)に流れる電流が既定電流レベルI_Targetを超えると(S10;YES)、b相の電圧パルス幅Tp2をこの時の値で固定し、記憶する(S11,n=2(b),図2及び図4参照,第6ステップ)。そこから(S12;NO)ステップS7に戻り、最後に残ったc相に対し、電圧パルス幅の初期値をTp2にしてパルス幅を更に長くして調整を進める(S7,第7ステップ)。すると、やがてc相に流れる電流も既定電流レベルI_Targetを超えるので(S10;YES)、c相の電圧パルス幅Tp3をこの時の値で固定し、記憶する(S11,n=3(c),図2及び図5参照,第8ステップ)。
【0017】
3相全てについて電圧パルス幅の調整が完了すると(S12;YES)、a,b,cの各相について記憶した電圧パルス幅Tp1,Tp2,Tp3で、それぞれの相に電圧を印加する。そして、各相について電流情報を再度測定する(S13,第9ステップ)。ここで再度測定した各相の電流情報から得られる各相電流の変化の平均値ΔIaave,ΔIbave,ΔIcaveは(1)式となる(図7参照)。
【数1】
【0018】
(1)式と、各相に印加された直流電圧と、各相の異なる電圧パルス幅より、各相のインダクタンスLa,Lb,Lcは(2)で表される。
【数2】
尚、ここで、Δta=Tp1,Δtb=Tp2,Δtc=Tp3である。そして、3相の平均インダクタンスL_aveは、
L_ave=(La+Lb+Lc)/3 …(3)
である。
【0019】
ここで、電動機Mにおけるインダクタンス分布が正弦波状であることを前提とすると、
3相モデルにおけるロータ位置θrを用いて、各相インダクタンスLa,Lb,Lcを(4)〜(6)式のように示すことができる。
【数3】
【0020】
また、3相座標系からD,Q座標系に変換すると、ベクトル制御に使用されているD軸(磁束)インダクタンスLd、Q軸(トルク)インダクタンスLqを下記の式で表現できる。
Ld=L−ΔL …(7)
Lq=L+ΔL …(8)
【0021】
そして、(3)式と(4)〜(6)式の加算結果とから、以下の関係式が得られる。
L_ave=(La+Lb+Lc)/3=L …(9)
また、(7),(8)式の加算結果と(9)式とから、以下の関係式が得られる。
L_ave=(Ld+Lq)/2 …(10)
(10)式より、Q軸インダクタンスLqは、
Lq=2×L_ave−Ld …(11)
で得られる。
【0022】
したがって、ステップS13では、(1)及び(2)式より各相インダクタンスLa,Lb,Lcを求め、(3)式より平均インダクタンスL_aveを求める(S14,第10ステップ)。本実施形態では、3相の電流が何れも目標電流レベルI_Targetを超えるまで流れる状態で、且つ正方向,負方向における電流情報に基づき得られた3相の平均インダクタンスL_aveは、位置によるバラつきが少なくなる。また、測定を繰り返す回数を増やせば、位置によるバラつきをさらに低減できる。そして、平均インダクタンスL_aveと、ステップS6で得られたD軸インダクタンスLdとから、(11)式でQ軸インダクタンスLqを求める(S15,第11ステップ)。以上で、インダクタンスのチューニング処理が完了する。
【0023】
図10図12は、特許文献1と本実施形態とについて、D軸インダクタンスLd,Q軸インダクタンスLqのチューニング結果及びQ軸インダクタンスLqのバラつきを評価したものである。図10に示すD軸インダクタンスLdの結果については、特許文献1におけるチューニング方法を流用しているので、何れもほぼ理想値に等しくなる。一方、図11に示すQ軸インダクタンスLqについては、本実施形態が理想値により近い結果となっている。図12に示すロータ位置によるQ軸インダクタンスのバラつき(各測定値と各測定値の平均値との差を、理想値で除した結果の%表示)については、特許文献1よりも小さくなっている。また、この結果について二乗平均の平方根で評価すると、本実施形態の方法は3.97%であり、特許文献1の方法による6.11%より低減している。
【0024】
図13は、図10図12と同じ電動機Mのモデルで、1相あたりのインダクタンス平均値L_aveを、30°の位置推定誤差がある場合と位相推定誤差なしで得られた場合とを比較しているが、何れも殆ど同じである。一般的にIPM(Interior Permanent Magnet)モータの場合、磁石軸であるD軸については磁気回路透磁率及びインダクタンスが低下し、かつ磁気抵抗は大きいため、D軸インダクタンスLdは電流による飽和の影響が少なくなる。したがって、ロータ位置に応じた磁気飽和の影響によるD軸インダクタンスLdのバラつきは少ない。つまり特許文献1の方法でも、位置によるバラつきが少ないD軸インダクタンスLdを測定できる。
【0025】
以上のように本実施形態によれば、同期機Mの固定子巻線に流す電流の目標値I_Targetを設定し、3相のうち何れか1相の固定子巻線に流れる電流が目標値I_Targetに到達するように、電圧パルス幅を調整して各相の固定子巻線に印加する。何れか1相である第1相の固定子巻線に流れる電流が目標値I_Targetに到達すると、その時点で印加していた電圧のパルス幅Tp1を記憶し、その時点で測定された3相の電流に基づいてD軸インダクタンスLdを求める。
【0026】
次に、第1相を除いた2相のうち、何れか1相の固定子巻線に流れる電流が目標値I_Targetに到達するように、電圧パルス幅を調整して各相の固定子巻線に印加し、前記何れか1相である第2相の固定子巻線に流れる電流が目標値I_Targetに到達すると、その時点で印加していた電圧のパルス幅Tp2を記憶する。続いて、残り1相である第3相の固定子巻線に流れる電流が目標値I_Targetに到達するように、電圧パルス幅を調整して各相の固定子巻線に印加する。
【0027】
第3相の固定子巻線に流れる電流が目標値I_Targetに到達すると、その時点で印加していた電圧のパルス幅Tp3を記憶する。そして、第1〜第3相のそれぞれに対応して記憶させた電圧のパルス幅Tp1〜Tp3を各相にそれぞれ印加して各相電流を再度測定し、測定結果より各相インダクタンスLa,Lb,Lcを計算し、それら各相インダクタンスより平均値Laveを求め、平均値LaveとD軸インダクタンスLdとからQ軸インダクタンスLqを求める。
【0028】
これにより、各相がより磁気飽和状態に近づいた状態で、D軸インダクタンスLd,Q軸インダクタンスLqをチューニングでき、重負荷時においても電動機Mを制御する際の安定性を確保できる。また、ロータ位置によるバラつきが少ないD軸インダクタンスLd,Q軸インダクタンスLqを得ることができる。
【0029】
また、最初にa相の電圧パルス幅Tp1を調整完了後、a相の電圧パルス幅TP1を固定すると、次にb相,c相について電圧パルス幅を調整する際に、a相の固定子巻線に印加する電圧のパルス幅をTp1とし、a相の電圧パルス幅を調整しないので、チューニングを迅速に行うことができる。更に、b相の電圧パルス幅Tp2を調整完了後、b相の電圧パルス幅Tp2を固定すると、次にc相について電圧パルス幅を調整する際に、b相の固定子巻線に印加する電圧のパルス幅をTp2とし、b相の電圧パルス幅も調整しないので、チューニングをより迅速に行うことができる。
【0030】
加えて、a相を除いたb,c相それぞれの固定子巻線に印加する電圧のパルス幅の初期値に、パルス幅Tp1を用いる。また、最後にc相の固定子巻線に印加する電圧のパルス幅の初期値に、パルス幅Tp2を用いるようにした。したがって、チューニングを一層迅速に行うことができる。
【0031】
(その他の実施形態)
D軸インダクタンスLdについては、その他、例えば特開2006−262643号公報や、特開2009−232573号公報に開示されている方法により求めても良い。
ステップS13以降にロータ位置θrを再計算すれば、より精度が高い値を得ることができる。
第5及び第7ステップで第1相の固定子巻線に印加する電圧のパルス幅に、必ずしも第3ステップで記憶させたパルス幅を用いる必要はない。
【0032】
第5ステップで第1相を除いた2相の各固定子巻線に印加する電圧のパルス幅の初期値に、必ずしも第3ステップで記憶させたパルス幅を用いる必要はない。
第7ステップで第2相の固定子巻線に印加する電圧のパルス幅に、必ずしも第6ステップで記憶させたパルス幅を用いる必要はない。
また、第7ステップで第3相の固定子巻線に印加する電圧のパルス幅の初期値に、第6ステップにおいて記憶させたパルス幅を用いる必要はない。
【0033】
本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0034】
図面中、1はインバータモジュール、11及び12は電力半導体電子スイッチ、20は正配線、21は負配線、Mは永久磁石同期電動機を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13