(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記Al−Ta酸化膜の表面に、カルボキシル基及びアミノ基の少なくとも一方の官能基を有する有機化合物が1分子層以上存在することを特徴とする請求項1又は2に記載の配線構造。
配線構造の下地層として、Mo、Mo合金、Ti、Ti合金及びInからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する透明導電膜を、少なくとも1層有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の配線構造。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<配線構造>
本発明に係る配線構造は、Al−Ta合金薄膜の表面及び側面の少なくともいずれか一方の面にAl−Ta酸化膜が形成され、前記Al−Ta合金薄膜のTa添加量が0.3〜3.0原子%かつCu含有量が0.03原子%以下であり、前記Al−Ta酸化膜の膜厚が3〜10nmであり、かつ、前記Al−Ta酸化膜中のTaの原子%濃度がAl−Ta合金薄膜中のTaの原子%濃度より低いことを特徴とする。
【0011】
TaはAlの表面酸化被膜の安定化に寄与することで塩化物イオン耐性を高めることができる。そのため、Al−Ta合金薄膜におけるTa添加量を0.3原子%以上とする。Ta添加量は0.5原子%以上が好ましく、0.8原子%以上がより好ましい。
また、該Al−Ta合金薄膜はスパッタリングにより成膜されることが一般的であるが、該スパッタリングに用いられるスパッタリングターゲットの製造性の観点から3.0原子%以下が好ましく、2.0原子%以下がより好ましい。
【0012】
Al−Ta合金薄膜にはさらにCuが0.03原子%以下含まれる。CuはAlのエレクトロマイグレーション耐性を向上する元素として機能することが知られているが、一方で塩化物イオン耐性を低下させる。Cu含有量はTa添加量の1/100(原子%)以下では塩化物イオン耐性に影響しないことから、Al−Ta合金薄膜におけるCu含有量は0.03原子%以下とし、0.01原子%以下がより好ましい。一方、Cu含有量の下限は0.001原子%以上が好ましい。
【0013】
Al−Ta酸化膜はAl−Ta合金薄膜の表面及び側面の少なくともいずれか一方の面に形成される。本発明に係る配線構造は表示装置や入力装置に用いられることを想定していることから、Al−Ta合金薄膜の一方の表面、又は、一方の表面と露出する側面の少なくとも一部の領域とに、Al−Ta酸化膜が形成されることが好ましい。
【0014】
Al−Ta酸化膜の膜厚は3nm以上が安定性の点から好ましい。一方、良好な加工性を得るために10nm以下が好ましい。
【0015】
Al−Ta酸化膜はAlの酸化物を中心に形成されているが、Al−Ta酸化膜中のTa原子%濃度をAl−Ta合金薄膜よりも低くすることにより、TaがAl−Ta合金薄膜とAl−Ta酸化膜との界面に濃化する。これにより、CuのAl−Ta酸化膜への拡散を抑制することができ、より高い塩化物イオン耐性を得ることができるようになる。
具体的には、Al−Ta酸化膜におけるTaの原子%濃度は、Al−Ta合金薄膜におけるTaの原子%濃度よりも30%以上低いことが好ましく、50%以上低いことがより好ましい。すなわち、例えばAl−Ta合金薄膜におけるTaの原子%濃度が1原子%であった場合には、Al−Ta酸化膜におけるTaの原子%濃度0.7原子%以下が好ましく、0.5原子%以下がより好ましい。
【0016】
Al−Ta合金薄膜は、希土類元素をさらに添加することにより、より高い塩化物イオン耐性を得ることができることから好ましい。これは、希土類元素によりAl−Ta酸化膜をより安定化できるためと推測される。
希土類元素の含有量は、0.05原子%以上が好ましく、0.1原子%以上がより好ましい。また、上限はスパッタリングターゲットの製造性の点から3.0原子%以下とすることが好ましく、2.0原子%以下がより好ましい。
希土類元素としては、スカンジウムSc、イットリウムY、ランタノイド元素が好ましく、中でもNd、La、Gdがより好ましい。希土類元素は単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0017】
本発明におけるAl−Ta合金薄膜は、本発明の効果を損なわなければ、上記成分以外の他の元素を含んでいてもよく、残部はAl及び不可避不純物である。
不可避不純物としては、Fe、Si、B等が例示される。不可避不純物の含有量は合計で0.1原子%以下が好ましい。
Al−Ta合金薄膜の組成はICP発光分光法により同定することができる。
【0018】
Al−Ta酸化膜は、表面にカルボキシル基及びアミノ基の少なくともいずれか一方の官能基を有する有機化合物が1分子層以上存在することが好ましい。
アミノ基を有する有機化合物が存在すると、酸性及び中性領域においてアミノ基がNH
3+にイオン化して塩化物イオンと結合することから、より塩化物イオン耐性を高めることができる。
また、カルボキシル基を有する有機化合物が存在すると、中性及びアルカリ性領域においてカルボキシル基がCOO
−にイオン化してAl−Ta合金薄膜表面近傍の電気的中性を維持するために、該表面近傍の塩化物イオン濃度が低下し、塩化物イオン耐性をより高めることができる。
これら有機化合物は単分子層(1分子層)があればよく、2分子以上の層があってもよい。
【0019】
表面にアミノ基を有する有機化合物としては、例えば1−プロパンアミン、1,3−プロパンジアミン、1−プロパノールアミン等が挙げられる。表面にカルボキシル基を有する有機化合物としては、例えばプロピオン酸、フマル酸、酒石酸等が挙げられる。
また、表面にアミノ基とカルボキシル基の両方を有する有機化合物でもよく、例えば、アミノ酸等が挙げられる。
有機化合物はアミノ酸程度の比較的分子サイズの小さいものの方がより好ましい。また、2以上の有機化合物同士が結合した形態であってもよい。
【0020】
有機化合物は、アミノ基とカルボキシル基を併せ持ち、かつその分子サイズの小ささからアミノ酸がより好ましい。アミノ酸は分子内にアミノ基とカルボキシル基を持つことで、溶液のpH変化に対する緩衝作用を有する。
すなわち、塩化物イオンとAlの反応では、水素イオンの発生により膜表面の近傍が酸性になることが知られているが、アミノ酸が存在することで、中性環境下でCOO
−にイオン化しているカルボキシル基に水素イオンが結合することで、膜表面近傍のpH変化を緩和することができる。
【0021】
本発明におけるAl−Ta酸化膜は、本発明の効果を損なわなければ、上記成分以外の他の元素を含んでいてもよく、残部はAl及び不可避不純物である。
不可避不純物としては、Fe、Si、B等が例示される。不可避不純物の含有量は合計で0.1原子%以下が好ましい。
Al−Ta酸化膜の組成はICP発光分光法により同定することができる。
【0022】
Al−Ta合金薄膜とAl−Ta酸化膜からなる配線構造において、Al−Ta合金薄膜は配線構造の下地層である透明導電膜の上に形成されることが、Al−Ta酸化膜がより緻密化して安定化し、塩化物イオン耐性がより向上することから好ましい。
下地層は、Mo、Mo合金、Ti、Ti合金及びInからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する透明導電膜であることが好ましく、該透明導電膜を少なくとも1層有することが好ましい。
また、下地層がAl−Ta合金薄膜と基板との間に存在しても、Al−Ta合金薄膜が下地層と基板との間に存在してもよく、その順序は任意であるが、基板上に下地層を形成し、その上にAl−Ta合金薄膜を形成することがより好ましい。
【0023】
<製造方法>
本発明に係る配線構造において、Al−Ta合金薄膜及びAl−Ta酸化膜は、スパッタリング法にてスパッタリングターゲットを用いて形成することが好ましい。この他に、蒸着法等で形成してもよい。
スパッタリングターゲットによりAl−Ta合金薄膜を形成する場合、Al−Ta合金薄膜と同じ組成、すなわち、Ta添加量が0.3〜3.0原子%かつCu含有量が0.03原子%以下であり、Al−Ta酸化膜中のTaの原子%濃度よりも高いTa原子%濃度のスパッタリングターゲットを用いることが好ましい。
スパッタリングターゲットによりAl−Ta酸化膜を形成する場合、Al−Ta合金薄膜中のTaの原子%濃度よりも低いTa原子%濃度のスパッタリングターゲットを用いることが好ましい。
【0024】
これらスパッタリングターゲットの形状は、スパッタリング装置の形状や構造に応じて任意の形状(角型プレート状、円形プレート状、ドーナツプレート状、円筒形等)に加工したものが含まれる。
スパッタリングターゲットは、溶解鋳造法や粉末焼結法、スプレーフォーミング法で、Al−Ta合金からなるインゴットを製造して得る方法や、Al−Ta合金からなるプリフォーム(最終的な緻密体を得る前の中間体)を製造した後、該プリフォームを緻密化手段により緻密化して得られる方法等が挙げられる。
【0025】
Al−Ta合金薄膜の最適な膜厚は用途や仕様により選ぶことができる。例えば、ディスプレイの配線用途の場合、Al−Ta合金薄膜の膜厚は100nm以上が好ましく、150nm以上がより好ましい。また、2μm以下が好ましく、1μm以下がより好ましい。
Al−Ta合金薄膜の膜厚はスパッタリング法においては、スパッタリングの電流値や時間、圧力、ターゲットと基板間の距離等を変更することにより調整することができる。
【0026】
Al−Ta酸化膜の膜厚はスパッタリング法においては、スパッタリングの電流値や時間、圧力、ターゲットと基板間の距離等を変更することにより調整することができる。また、スパッタに用いるアルゴンガスと酸素ガスの比率を変更することによっても調整することができる。
【0027】
得られたAl−Ta合金薄膜やAl−Ta酸化膜の膜厚は、断面SEM、SIMS深さ分析、断面TEM観察等により測定することができる。
また、成膜後にUVによる洗浄や、酸素プラズマ等の処理を行ってもよい。
【0028】
また、所望の有機化合物の塩の水溶液を調製し、該水溶液中にAl−Ta酸化膜を含む配線構造を浸漬することにより、Al−Ta酸化膜の表面に該有機化合物の層を形成することができる。
有機化合物の塩としては、例えばナトリウム塩、カルシウム塩等が挙げられ、中でもナトリウム塩が、水への溶解度やpHの点から好ましく用いられる。また、浸漬条件は水溶液中の塩濃度等によって異なるが、例えば1%水溶液の場合、10分〜24時間浸漬することが好ましい。
浸漬後、適宜洗浄と乾燥を行う。
【0029】
配線構造の下地層は、スパッタリング法や蒸着法によって形成することができる。スパッタリング法により形成する場合には、所望の下地層と同じ組成のスパッタリングターゲットを用いてスパッタリングにより形成することができる。例えば、Mo、Mo合金、Ti、Ti合金及びInからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有するスパッタリングターゲットを用いて、Mo、Mo合金、Ti、Ti合金及びInからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する透明導電膜を成膜することができる。
透明導電膜を2層以上形成する場合には、各層の組成のスパッタリングターゲットを用いて、複数回スパッタリングすることにより形成することができる。
【0030】
また、透明導電膜をスパッタリングにより成膜した後に、結晶化するための熱処理を行ってもよい。透明導電膜として例えばITO(Indium Tin Oxide)膜を形成する場合には、窒素雰囲気にて150〜250℃で10分以上の熱処理を行うことが好ましい。
【0031】
上記で得られた本発明に係る配線構造は、表示装置や入力装置に好適に用いることができる。中でもタッチパネルにより好適に用いることができる。
本発明に係る配線構造を有する表示装置や入力装置として、該配線構造を備えた薄膜トランジスタ(TFT)、反射膜、有機EL用アノード電極、タッチパネルセンサー等を有する表示装置や入力装置等が挙げられる。
これら装置において、本発明に係る配線構造部分以外の他の構成要件は、本発明の効果を損なわない範囲において、当該技術分野で通常用いられるものを適宜選択して用いることができる。例えばTFT基板に用いられる半導体層としては多結晶シリコンやアモルファスシリコンが挙げられる。TFT基板に用いられる基板も特に限定されず、ガラス基板やシリコン基板等が挙げられる。
その他、反射アノード電極を備えた有機EL表示装置、薄膜トランジスタを備えた表示装置、反射膜を備えた表示装置、ITO膜の上にAl−Ta合金薄膜及びAl−Ta酸化膜を備えたタッチパネル等、様々な装置に適用することができる。
【0032】
<耐食性評価>
本発明に係る配線構造の耐食性は、塩水滴下試験により評価することができる。
具体的には、1%塩化ナトリウム水溶液をスポイトでサンプルに滴下し、室温環境下で168時間放置し評価を行う。168時間経過後にサンプルを水洗した上で光学顕微鏡にて観察する。腐食面積は小さいほど好ましいが、具体的には、8%以下が好ましく、5%以下がより好ましく、2%以下がさらに好ましい(1%塩水滴下試験)。
また、アミノ酸ナトリウム塩を含有する塩化ナトリウム水溶液で耐食性試験を行うことも有効である。この場合、上記1%塩水滴下試験と比べて、人体に起因する塩分付着時の耐食性を模擬した評価をすることができる。具体的には、1%アミノ酸ナトリウム塩を添加した1%の塩化ナトリウム水溶液を用いる以外は1%塩水滴下試験と同様にして腐食面積を測定する。腐食面積は小さいほど好ましいが、8%以下が好ましく、5%以下がより好ましく、2%以下がさらに好ましい。
【実施例】
【0033】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することが可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0034】
[実施例1−1]
無アルカリガラス基板(直径4インチ、板厚0.7mm)上に、DCマグネトロンスパッタリング法により、Al−Ta合金薄膜を成膜した。該Al−Ta合金薄膜のTa添加量は0.3原子%、Cu含有量は0.03原子%、残部はAl及び不可避不純物であった。
成膜にあたっては、成膜前にチャンバー内の雰囲気を一旦、到達真空度:3×10
−6Torrに調整してから、Al−Ta合金薄膜と同一の成分組成を有する直径4インチの円盤型スパッタリングターゲットを用い、下記条件でスパッタリングを行った。
(スパッタリング条件)
・Arガス圧:2mTorr
・Arガス流量:30sccm
・スパッタパワー:500W
・基板温度:室温
・成膜温度:室温
・膜厚:300nm
なお、得られたAl−Ta合金薄膜の成分の同定はICP発光分析法により行った。
【0035】
次いで、Al−Ta合金薄膜表面をUV洗浄することによりAl−Ta合金薄膜の表面上にAl−Ta酸化膜の成膜を行った。得られたAl−Ta酸化膜中のTa原子濃度は0.1原子%であり、膜厚は3nmであった。
なお、得られたAl−Ta酸化膜の膜厚は配線断面のTEM観察にて確認した。
【0036】
得られたAl−Ta合金薄膜及びAl−Ta酸化膜からなる配線構造に対し、フォトリソグラフィー及びウェットエッチングによるパターニングを行い、配線幅10μm、配線間隔10μmのストライプ状の配線パターンを作成した。
【0037】
[実施例1−2〜1−15及び比較例1−1〜1−4]
Al−Ta合金薄膜の組成又はAl−Ta酸化膜の組成や膜厚を表1に記載のものに変更した以外は実施例1−1と同様にして配線構造を得て、さらに配線パターンを作成した。
なお、比較例1−4については、Al−Ta酸化膜の膜厚を0nmとしたが、Al−Ta合金薄膜の表面に形成された自然酸化被膜をアルカリ溶液(水酸化テトラメチルアンモニウム:TMAH2.38%)に室温で30秒浸漬することで除去したものである。
なお、表中の「Al合金種」における数値は各元素の原子%濃度を表す。
【0038】
上記で得られたパターニング後の配線構造について、耐食性評価(1%塩水滴下試験)を行った。
試験は1%の塩化ナトリウム水溶液をスポイトで滴下し、室温環境下で168時間放置し評価を行った。168時間経過後にサンプルを水洗した上で光学顕微鏡にて観察し、腐食面積を測定した。比較例1−4については、アルカリ溶液に浸漬した直後に1%塩水滴下試験を行った。この時のAl−Ta酸化膜の膜厚はTEM観察にて測定を行っていないが、アルカリ溶液への浸漬による自然参加皮膜除去直後に該滴下試験を実施したことから、Al−Ta酸化膜はない(酸化膜厚0nm)ものと判断した。
評価結果を表1に示す。表1中、腐食面積が2%以下のものを◎、2%超5%以下を〇、5%超8%以下を△、8%超を×とした。また、表中「at%」とは「原子%」と同義である。
【0039】
【表1】
【0040】
その結果、実施例1−1〜実施例1−15は、腐食面積率が8%以下であり、良好な耐食性が得られることを見出した。比較例1−1は配線膜がAl−Ta合金薄膜ではなく純Alの薄膜であり耐食性が低いことから、腐食が発生した。比較例1−2はTaを含有するが、その含有量が0.2原子%と少ないため所望の耐食性が得られなかった。比較例1−3は、Cu含有量が多いため所望の耐食性が得られなかった。比較例1−4は、表面のAl−Ta酸化膜が薄い(存在しない)ため、所望の耐食性が得られなかった。
【0041】
[実施例2−1]
実施例1−1と同様にして、Ta添加量0.3原子%、Cu含有量0.01原子%、残部がAl及び不可避不純物のAl−Ta合金薄膜(膜厚300nm)を成膜した。
次いで、実施例1−1と同様にしてAl−Ta合金薄膜の表面上にAl−Ta酸化膜の成膜を行った。得られたAl−Ta酸化膜中のTa原子濃度は0.1原子%であり、膜厚は3nmであった。
得られたAl−Ta合金薄膜及びAl−Ta酸化膜からなる配線構造に対し、フォトリソグラフィー及びウェットエッチングによるパターニングを行い、配線幅10μm、配線間隔10μmのストライプ状の配線パターンを作成した。
なお、Al−Ta合金薄膜及びAl−Ta酸化膜の同定及び膜厚の測定は実施例1−1と同様に行った。
【0042】
次に、カルボキシル基及びアミノ基を含む有機化合物であるアミノ酸のナトリウム塩として、L−グリシン酸ナトリウムの1%水溶液を調製した。なお、水への溶解度およびpHの観点からナトリウム塩を選択した。当該水溶液に上記で得られたサンプルを1時間浸漬した。浸漬後、1分間水洗し、乾燥させた。これにより、Al−Ta酸化膜の表面にアミノ酸であるL−グリシンが存在する配線構造となる。なお、アミノ酸の厚みは走査型トンネル顕微鏡により1分子層以上であることを確認した。
上記で得られた配線構造に対し、実施例1−1と同様の耐食性評価(1%塩水滴下試験)を行った。
【0043】
[実施例2−2〜2−4]
カルボキシル基及びアミノ基を含む有機化合物であるアミノ酸のナトリウム塩として、L−トリプトファンナトリウムの1%水溶液(実施例2−2)、L−アスパラギンナトリウムの1%水溶液(実施例2−3)、又は、カルボキシル基を含む有機化合物として酒石酸ナトリウムの1%水溶液(実施例2−4)を用いた以外は実施例2−1と同様にして配線構造を各々得て、同様に耐食性評価(1%塩水滴下試験)を行った。
【0044】
評価結果を表2に示す。表2中、腐食面積が2%以下のものを◎、2%超5%以下を〇、5%超8%以下を△、8%超を×とした。また、表中「at%」とは「原子%」と同義である。
【0045】
【表2】
【0046】
その結果、実施例2−1〜実施例2−4はいずれも、腐食面積率が2%以下であり、非常に良好な耐食性が得られることを見出した。
【0047】
[実施例3−1]
実施例1−1と同様にして、Ta添加量0.3原子%、Cu含有量0.01原子%、残部がAl及び不可避不純物のAl−Ta合金薄膜(膜厚300nm)を成膜した。
次いで、実施例1−1と同様にしてAl−Ta合金薄膜の表面上にAl−Ta酸化膜の成膜を行った。得られたAl−Ta酸化膜中のTa原子濃度は0.1原子%であり、膜厚は3nmであった。
得られたAl−Ta合金薄膜及びAl−Ta酸化膜からなる配線構造に対し、フォトリソグラフィー及びウェットエッチングによるパターニングを行い、配線幅10μm、配線間隔10μmのストライプ状の配線パターンを作成した。
なお、Al−Ta合金薄膜及びAl−Ta酸化膜の同定及び膜厚の測定は実施例1−1と同様に行った。
【0048】
次に、耐食性評価として、塩水滴下試験を行った。塩水として、1%の塩化ナトリウム水溶液にL−グリシン酸ナトリウムを1%添加したものをスポイトで滴下し、室温環境下で168時間放置し評価を行った。168時間経過後にサンプルを水洗した上で光学顕微鏡にて観察し、腐食面積を測定した。
【0049】
[実施例3−2及び3−3]
耐食性評価として、滴下試験溶液を1%の塩化ナトリウム水溶液にL−グリシン酸ナトリウムを1%添加したものに代えて、1%の塩化ナトリウム水溶液にL−トリプトファンナトリウムを1%添加したもの(実施例3−2)、又は、1%の塩化ナトリウム水溶液にL−アスパラギンナトリウムを1%添加したもの(実施例3−3)を用いた以外は実施例3−1と同様にして配線構造を各々得て、耐食性評価を行った。
【0050】
評価結果を表3に示す。表3中、腐食面積が2%以下のものを◎、2%超5%以下を〇、5%超8%以下を△、8%超を×とした。また、表中「at%」とは「原子%」と同義である。
【0051】
【表3】
【0052】
その結果、実施例3−1〜実施例3−3はいずれも、腐食面積率が2%以下であり、非常に良好な耐食性が得られることを見出した。
【0053】
[実施例4−1]
無アルカリガラス基板(直径4インチ、板厚0.7mm)上に、DCマグネトロンスパッタリング法により下地層として純Mo膜を30nm成膜した。成膜にあたっては、成膜前にチャンバー内の雰囲気を一旦、到達真空度:3×10
−6Torrに調整してから、直径4インチの円盤型純Moスパッタリングターゲットを用い、下記条件でスパッタリングを行った。
(スパッタリング条件)
・Arガス圧:2mTorr
・Arガス流量:30sccm
・スパッタパワー:500W
・基板温度:室温
・成膜温度:室温
・膜厚:30nm
【0054】
その上にAl−Ta合金薄膜を成膜した以外は実施例1−1と同様にして、Al−Ta合金薄膜及びAl−Ta酸化膜からなる配線構造を得て、さらに、フォトリソグラフィー及びウェットエッチングによるパターニングを行った。
なお、Al−Ta合金薄膜及びAl−Ta酸化膜の同定及び膜厚の測定は実施例1−1と同様に行った。
得られた配線構造について、実施例1−1と同様にして耐食性評価(1%塩水滴下試験)を行った。
【0055】
[実施例4−2及び4−3]
無アルカリガラス基板(直径4インチ、板厚0.7mm)上に、DCマグネトロンスパッタリング法により下地層として純Mo膜を30nm成膜し、その上にAl−Ta合金薄膜を成膜した以外は実施例1−2(実施例4−2)又は実施例1−3(実施例4−3)と同様にして、Al−Ta合金薄膜及びAl−Ta酸化膜からなる配線構造を得て、さらに、フォトリソグラフィー及びウェットエッチングによるパターニングを行った。
なお、Al−Ta合金薄膜及びAl−Ta酸化膜の同定及び膜厚の測定は実施例1−1と同様に行った。
得られた配線構造について、実施例1−1と同様にして耐食性評価(1%塩水滴下試験)を行った。
【0056】
[実施例4−4〜4−6]
下地層を膜厚30nmの純Ti膜(実施例4−4)、膜厚30nmのMo−10原子%Nb合金膜(実施例4−5)又は膜厚30nmのITO膜(実施例4−6)として、それぞれDCマグネトロンスパッタリング法により成膜した以外は実施例4−2と同様にして配線構造を各々得て、耐食性評価を行った。
【0057】
評価結果を表4に示す。表4中、腐食面積が2%以下のものを◎、2%超5%以下を〇、5%超8%以下を△、8%超を×とした。また、表中「at%」とは「原子%」と同義である。
【0058】
【表4】
【0059】
その結果、実施例4−1〜実施例4−6はいずれも、腐食面積率が5%以下であり、非常に良好な耐食性が得られることを見出した。