(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6574723
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】マンホール更生方法および更生マンホールの接合部構造
(51)【国際特許分類】
E02D 29/12 20060101AFI20190902BHJP
【FI】
E02D29/12 D
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-34264(P2016-34264)
(22)【出願日】2016年2月25日
(65)【公開番号】特開2017-150243(P2017-150243A)
(43)【公開日】2017年8月31日
【審査請求日】2018年10月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】特許業務法人あーく特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 臨
(72)【発明者】
【氏名】原 幸弘
【審査官】
苗村 康造
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−38507(JP,A)
【文献】
特開平8−144307(JP,A)
【文献】
特開平10−152882(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0137508(US,A1)
【文献】
特開2006−097368(JP,A)
【文献】
特開2012−036655(JP,A)
【文献】
特開2002−054165(JP,A)
【文献】
特開2001−336167(JP,A)
【文献】
特開2014−218791(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 29/00〜 37/00
E03F 1/00〜 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のマンホール更生部材を軸方向に積み上げて既設マンホール内に新たな内壁面を形成するマンホール更生方法であって、
積み上げられる上下のマンホール更生部材のうち少なくとも下側に設置されるマンホール更生部材は、外面に受け部が周方向に沿って突設され、上端面に弾性体からなるスペーサ部材が配設されてなり、
下側に設置されるべきマンホール更生部材を既設マンホールに吊りおろして設置する工程と、
内径が前記マンホール更生部材の外径よりも大きい円筒状のカラー部材を、前記マンホール更生部材の受け部の上に設置する工程と、
前記カラー部材の内周側に、上側に設置されるべきマンホール更生部材を吊りおろして前記スペーサ部材の上に設置する工程と、
上下に連続する複数のマンホール更生部材の外面および前記カラー部材の外面と、既設マンホール内面との間にグラウト材を充填し硬化させる工程とを含み、
上下に連続するマンホール更生部材間には粘弾性を有するシール部材を装填することを特徴とするマンホール更生方法。
【請求項2】
請求項1に記載のマンホール更生方法において、
前記マンホール更生部材の上端面に、前記シール部材を、周方向に連続的に、かつ前記カラー部材の内周面に沿って配設し、上下のマンホール更生部材の相互間に密着させて配置することを特徴とするマンホール更生方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のマンホール更生方法において、
前記シール部材は、前記スペーサ部材よりも剛性が低くかつ粘弾性を有する弾性部材、または独立気泡性構造を有する弾性部材であることを特徴とするマンホール更生方法。
【請求項4】
既設マンホール内に複数のマンホール更生部材が軸方向に積み上げられて接合されてなる更生マンホールの接合部構造であって、
上下に配設された円筒状のマンホール更生部材の間に、粘弾性を有する弾性シール層が介装され、
前記弾性シール層の外周側に、上側のマンホール更生部材の下端部と、下側のマンホール更生部材の上端部とにまたがって円筒状のカラー部材が配設され、
前記弾性シール層は、マンホール更生部材の外周寄りに、前記カラー部材の内周面に沿って配設されたシール部材と、前記マンホール更生部材の内周寄りに配設されて上下のマンホール更生部材同士の間隔を確保するスペーサ部材とを備え、これらのシール部材およびスペーサ部材は上下のマンホール更生部材の各端面に圧着されており、
複数のマンホール更生部材の外面およびカラー部材の外面と、既設マンホール内面との間にグラウト材が充填されてなることを特徴とする更生マンホールの接合部構造。
【請求項5】
請求項4に記載の更生マンホールの接合部構造において、
前記スペーサ部材は、マンホール更生部材の厚みよりも小さい幅寸法を有し、マンホール更生部材の上端面の内周寄りに周方向に配設され、
前記シール部材は、該マンホール更生部材の上端面の外周寄りに周方向に配設されてなることを特徴とする更生マンホールの接合部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンホール更生方法および該方法により得られる更生マンホールの接合部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
劣化したマンホールの更生方法として、マンホール内面にプライマーを塗布し、熱硬化樹脂を含浸させたマンホールライニング材をマンホールに挿入した後、そのマンホールライニング材を空気圧により膨らませ、熱硬化させて、マンホール内面を更生する方法が知られている。このほか、マンホールの更生方法としては、マンホールの内周に内張りブロックを配置し、内張りブロックとマンホール内面との間をモルタル充填する方法も提案されている(例えば特許文献1参照。)。
【0003】
また、マンホールの構成部材としてプレキャストコンクリート製の円筒リング状部材を用いて、これを積み上げ、接合部に連続気泡性スポンジを介在させる組立てマンホールの施工方法も提案されている(例えば特許文献2、3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−36655号公報
【特許文献2】特開2001−336167号公報
【特許文献3】特開2002−54165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年では、劣化したマンホールを更生することに加えて、更生後のマンホールにおいて受ける可能性のある地震の影響を、最小限にとどめられるような対策を講じることが強く求められている。特に、地中深さが5m以上に及ぶような、比較的深さを有するマンホールにあっては、地震によって管壁が破断したり折損したりするおそれがあった。マンホールを含めた下水道施設は、他のライフラインとは異なり、地震時に同等の機能を代替する手段がないことから、被災した場合にも機能性が保たれるよう、被害の最小限化を図ることが要求されている。
【0006】
特許文献1の更生方法では、更生後のマンホールの自重を増すことで地震時の浮上を防止するものとされている。しかし、内張りブロック同士の接続部や管壁における破断、破損等については考慮されていない。特許文献2、3等に開示された円筒リング状部材は、接合部に厚みを有するプレキャストコンクリート製部材であるので、凹溝や凸状を設けて弾性体を介在させることが可能とされる。プレキャストコンクリート製部材よりも、耐久性を有して軽量である合成樹脂製部材はマンホール更生により好適である。しかし、合成樹脂製部材であると、プレキャストコンクリート製部材よりも肉厚が薄いので、接合部にこのような方法を適用することができない。
【0007】
そこで本発明は、上記のような問題点にかんがみてなされたものであり、その目的とするところは、マンホール更生部材を用いてマンホールを更生するとともに、地震による振動や変位を吸収する能力を備えて破損の発生を抑制することのできるマンホール更生方法および更生マンホールの接合部構造に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するための本発明の解決手段は、複数のマンホール更生部材を軸方向に積み上げて既設マンホール内に新たな内壁面を形成するマンホール更生方法であって、積み上げられる上下のマンホール更生部材のうち少なくとも下側に設置されるマンホール更生部材は、外面に受け部が周方向に沿って突設され、上端面に弾性体からなるスペーサ部材が配設されてなる。マンホール更生方法としては、下側に設置されるべきマンホール更生部材を既設マンホールに吊りおろして設置する工程と、内径が前記マンホール更生部材の外径よりも大きい円筒状のカラー部材を、前記マンホール更生部材の受け部の上に設置する工程と、前記カラー部材の内周側に、上側に設置されるべきマンホール更生部材を吊りおろして前記スペーサ部材の上に設置する工程と、上下に連続する複数のマンホール更生部材の外面および前記カラー部材の外面と、既設マンホール内面との間にグラウト材を充填し硬化させる工程とを具備する。そして、上下に連続するマンホール更生部材間には粘弾性を有するシール部材を装填する構成としている。
【0009】
この特定事項により、合成樹脂製部材のマンホール更生部材を用いて、既設マンホール内に新規の更生マンホール内面を効率よく形成することができる。マンホール更生部材は耐食性および耐薬品性に優れるとともに比較的軽量であるので、作業性よく簡便に施工することができる。マンホール更生部材間にはシール部材を装填するので、上下のマンホール更生部材が受ける地震力による変形を許容し、更生後のマンホールの破損を最小限に抑えた構造を備えさせることが可能となる。
【0010】
前記マンホール更生方法において、前記マンホール更生部材の上端面には、前記シール部材を、周方向に連続的に、かつ前記カラー部材の内周面に沿って配設し、上下のマンホール更生部材の相互間に密着させて配置することが好ましい。
【0011】
また、前記シール部材は、前記スペーサ部材よりも剛性が低くかつ粘弾性を有する弾性部材、または独立気泡性構造を有する弾性部材であることが好ましい。
【0012】
このような構成であることにより、更生したマンホールの内外面における止水性を安定的に保ち、漏水、浸水等を防ぐことが可能となる。
【0013】
また、前記マンホール更生方法により得られた更生マンホールの接合部構造も本発明の技術的思想の範疇である。すなわち、既設マンホール内に複数のマンホール更生部材が軸方向に積み上げられて接合されてなる更生マンホールの接合部構造であって、上下に配設された円筒状のマンホール更生部材の間に、粘弾性を有する弾性シール層が介装され、前記弾性シール層の外周側に、上側のマンホール更生部材の下端部と、下側のマンホール更生部材の上端部とにまたがって円筒状のカラー部材が配設され、前記弾性シール層は、マンホール更生部材の外周寄りに、前記カラー部材の内周面に沿って配設されたシール部材と、前記マンホール更生部材の内周寄りに配設されて上下のマンホール更生部材同士の間隔を確保するスペーサ部材とを備え、これらのシール部材およびスペーサ部材は上下のマンホール更生部材の各端面に圧着されており、複数のマンホール更生部材の外面およびカラー部材の外面と、既設マンホール内面との間にグラウト材が充填されてなることを特徴としている。
【0014】
この特定事項により、更生マンホールの接合部は、十分な止水性が確保されるだけでなく、地震等による振動や変位を吸収する能力を備えたものとすることができる。このため、地震等による更生マンホールの被害を最小限に抑えて、マンホール機能を保持させることが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、更生マンホールの接合部に、地震等による振動や変位を吸収する機能を備えさせている。このため、マンホールの更生とともに地震への対策を同時に実施することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の形態に係るマンホール更生方法を適用するマンホールの例を示す説明図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係るマンホール更生方法の一工程を示す説明図である。
【
図3】実施の形態に係るマンホール更生方法に用いるマンホール更生部材を示す側面図である。
【
図4】前記マンホール更生部材の上端部を示す部分断面図である。
【
図5】実施の形態に係るマンホール更生方法の一工程を示す部分断面図である。
【
図8】施工完了後の接合部を示す部分断面図である。
【
図9】地震による接合部の変形例を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態に係るマンホール更生方法について、図面を参照しつつ説明する。
【0018】
図1〜
図8は本発明の実施形態に係るマンホール更生方法を説明したものである。なお、以下の説明において、マンホール1とは、本実施形態に係るマンホール更生方法が施工される前の劣化等を生じている既設マンホールをいい、更生マンホール10とは、本実施形態に係るマンホール更生方法により補修され更生された後のマンホールをいうものとする。
【0019】
図1に示すように、マンホール1は、円筒状の内面を有する直壁部11と、直壁部11の内径よりも小さい内径を有する路面に接する開口部12と、直壁部11の上部に設けられ開口部12に接続する斜壁部13とを備えている。直壁部11の内面にはステップ15が設けられている。
【0020】
(準備工程)
マンホール1の更生に際して、まず、マンホール1内の点検作業や施工機材の搬入作業等を行う。その後、マンホール1の斜壁部13を直壁部11から切り離し、撤去する。これにより、マンホール1を地上に開口する略円筒状の竪穴とする。
【0021】
次いで、マンホール1内における前処理を行う。具体的には、劣化しているマンホール1内部の汚れや腐食部分を除去する。除去作業には、高圧洗浄装置やケレン工具を用いる。また、マンホール1の底部に設けられているインバート部14の周辺腐食部、および後述するマンホール更生部材2の設置箇所のはつり処理を行う(はつり処理)。その後、マンホール1内部に設けられているステップ15を除去する。
【0022】
(設置工程)
図2に示すように、準備工程を終えたマンホール1に対して、マンホール更生部材2を吊りおろしてマンホール1内に新たな内壁面を形成していく(設置工程)。
【0023】
この設置工程では、マンホール1における直壁部11の軸方向長さ(埋設深さ)に合わせて、複数のマンホール更生部材2をマンホール1内に軸方向に積み上げて設置する。例えば、
図3に示すように、2つのマンホール更生部材2を上下に積み重ねて設置し、これらのマンホール更生部材2の間をカラー部材5で接続する。
【0024】
(マンホール更生部材)
マンホール更生部材2は直管円筒状の合成樹脂製部材であり、軽量で高強度、耐食性に富む繊維強化樹脂管とされている。このようなマンホール更生部材2としては、例えば、ガラス繊維、不飽和ポリエステル樹脂、および硅砂からなる多層構造の繊維強化樹脂管が好ましい。カラー部材5は、マンホール更生部材2の外径よりも大きい内径を有し、マンホール更生部材2よりも短尺の円筒形状に形成されている。カラー部材5は、マンホール更生部材2と同様の強化繊維樹脂製であるほか、ステンレス板等の金属製であってもよい。
【0025】
積み上げる複数のマンホール更生部材2のうち、少なくとも下側に設置されるべきマンホール更生部材2は、外面にフランジ状の受け部3が、周方向に沿って突設されている。上下に2つのマンホール更生部材2を積み上げて更生する場合、マンホール1の底部に設置されることとなる下側のマンホール更生部材2の外面に受け部3が設けられている。
図4に拡大して示すように、受け部3は、マンホール更生部材2の外面の上端寄りに一体に接合されている。受け部3は、合成ゴム製または繊維強化樹脂製の断面矩形状の部材であることが好ましい。受け部3の厚みは、カラー部材5の厚みよりも厚い。
【0026】
また、このマンホール更生部材2の上端面には、マンホール更生部材2よりも剛性が低い弾性体からなるスペーサ部材41が配設されている。スペーサ部材41は、例えば合成ゴム性の断面矩形状の環状部材であり、マンホール更生部材2の上端面の内周寄りに接着されている。スペーサ部材41の厚みは、直径が800mm、厚さが16mm程度のマンホール更生部材2の場合に、5〜10mmとされることが好ましい。
【0027】
スペーサ部材41は、長尺の四角柱状に形成されており、第一の側面を下側のマンホール更生部材2の上端面に密着させて配設されている。第一の面に対向する第二の面は、後に吊りおろす、上側に設置されるべきマンホール更生部材2の下端面に密着させることによって、マンホール更生部材2同士の間隔を所定寸法に保持するとともに両者間を水密的に閉止する。
【0028】
図1に示したように、マンホール1には、接続する埋設横引管の接続口16が底部に開口している。下側に設置されるべきマンホール更生部材2には、この接続口16に対応させて、下部に切欠部21を対向させて形成する。切欠部21はマンホール更生部材2をマンホール1へ吊りおろす前に予め設けておく。
【0029】
そして、
図2に示すように、マンホール1の内壁にその外面を添わせるようにして、最も下側に設置されるべきマンホール更生部材2をマンホール1内へ吊りおろす。この際、地上に三脚や滑車等を設置し、このマンホール更生部材2の上端部内面に複数の吊り具22を取り付けてマンホール更生部材2を吊り下げ支持し、下方へ移動させていく。これにより、最も下側に設置されるべきマンホール更生部材2をマンホール1の底部に設置する。
【0030】
次いで、このマンホール更生部材2の外面にカラー部材5を設置する。カラー部材5もマンホール更生部材2と同様に、マンホール1の内壁にその外面を添わせるようにしてマンホール1内へ吊りおろす。
図5に示すように、カラー部材5の下端部を、マンホール更生部材2の外面に設けた受け部3に到達させる。カラー部材5は受け部3に支持されて、マンホール更生部材2の外面に配設される。カラー部材5の上端、具体的には凡そ半分が下側のマンホール更生部材2の上端より突出している。
【0031】
次いで、下側のマンホール更生部材2の上端面に、弾性を有し断面略T字形状の環状体であるシール部材42を、周方向に連続的に、かつカラー部材5の内周面に沿って配設する。シール部材42は、上下のマンホール更生部材2の間、およびマンホール更生部材2とカラー部材5との間に止水性をもたせる役割をなす。シール部材42には、スペーサ部材41よりも剛性が低くかつ粘弾性を有する弾性部材、または独立気泡性構造を有する弾性部材を用いることが好ましい。シール部材42の内周先端と、スペーサ41の外周面との間には隙間がある。
【0032】
例えば、シール部材42として、エポキシ系、シリコーン系、変成シリコーン系、ポリウレタン系、ポリサルファイド系、アクリルウレタン系、アクリル系、ブチルゴム系等の各種の粘弾性シーリング材を用いることができ、不定形のシールが可能であり好ましい。かかるシール部材42の場合、マンホール更生部材2の上端面に、カラー部材5の内周面に沿うようにしてシール部材42を塗布する。
【0033】
また、独立気泡性構造を有するシール部材42としては、合成樹脂や天然ゴム、合成ゴムなどの任意の独立気泡スポンジまたは独立気泡ゴムを用いることができ、マンホール更生部材2間によくなじむ弾力のある発泡体であることが好ましい。発泡体材料としては、ポリウレタン、ポリエチレン、天然ゴム、各種合成ゴムなどを挙げることができる。
【0034】
スペーサ部材41の弾性率は、5〜10N/mm
2程度であることが好ましい。また、シール部材42の弾性率は、0.1〜0.5N/mm
2程度であることが好ましい。
【0035】
次いで、
図6に示すように、上側に設置されるべきマンホール更生部材2を吊りおろす。下側のマンホール更生部材2の吊りおろしと同様、マンホール1の内壁にその外面を添わせるようにして、上側のマンホール更生部材2をマンホール1内へ吊りおろす。
図3に示すように、上側のマンホール更生部材2の上端部内面に設けられた複数の取り付け孔221を利用して吊り具22を取り付け、このマンホール更生部材2を吊り下げ支持し、下方へ移動させていく。これにより、上側に設置されるべきマンホール更生部材2を下側のマンホール更生部材2の上に設置する。
【0036】
図7に示すように、上側に設置されるべきマンホール更生部材2は、下端部がカラー部材5の内周側へ挿入される。また、下側のマンホール更生部材2の上端面のスペーサ部材41およびシール部材42の上に、上側のマンホール更生部材2の下端部が設置される。シール部材42は上下のマンホール更生部材2の間で弾性的に変形し、相互間に密着する。スペーサ部材41およびシール部材42は弾性シール層4を構成する。
【0037】
次いで、下側のマンホール更生部材2とマンホール1底部との接続部を固定し止水処理をする。これらの部位には、耐酸性を有するモルタル等をコテ塗りして仕上げる。また、上下のマンホール更生部材2間を、マンホール更生部材2の内面からモルタルまたはシーリング材等で間詰めし、止水処理を仕上げる。
【0038】
(裏込め工程)
次いで、
図8に示すように、上下に連続する2つのマンホール更生部材2の外面およびカラー部材5の外面と、マンホール1内面との間に、グラウト材6を注入する。この場合、マンホール1の上端部から、マンホール1の内面とマンホール更生部材2との間に、耐酸性を有するモルタル等のグラウト材6を注入し、隙間なく充填していく(裏込め工程)。上側のマンホール更生部材2の外面とカラー部材5の内面との間、および下側のマンホール更生部材2の外面とカラー部材5の内面との間にも、グラウト材6が隙間なく充填される。グラウト材6が硬化することによって、複数のマンホール更生部材2とカラー部材5とをマンホール1の内面に固着させる。
【0039】
(仕上げ工程)
その後、インバート部14を再形成して底部を仕上げる。上側のマンホール更生部材2の上に、図示しない新規の斜壁部を設置することで、マンホール1の更生作業が完了し、更生マンホール10が形成される。これにより、老朽化し、内面に亀裂が生じたり腐食したりしているマンホール1を更生することができる。
【0040】
(更生マンホールの接合部構造)
上述のマンホール更生方法によって得られた更生マンホール10は、
図8に示すように、上下に配設されたマンホール更生部材2の間に、弾性シール層4が介装された構造となる。この弾性シール層4は、マンホール更生部材2よりも剛性が低くかつ粘弾性的性質を有し、上下のマンホール更生部材2を接合している。
【0041】
弾性シール層4は、マンホール更生部材2の外周寄りに、カラー部材5の内周面に沿って配設されたシール部材42と、マンホール更生部材2の内周寄りに配設されたスペーサ部材41とを備えている。シール部材42およびスペーサ部材41は上下のマンホール更生部材2の各端面に圧着されている。
【0042】
シール部材42は、マンホール更生部材2の上端面の外周寄りに、周方向に連続的に配設されている。スペーサ部材41は、マンホール更生部材2の厚みよりも小さい幅寸法を有しており、マンホール更生部材2の上端面の内周寄りに、周方向に配設されている。スペーサ部材41は、上下のマンホール更生部材2の間隔を所定の寸法に保ち、シール部材42の厚みを確保する。シール部材42は、マンホール更生部材2同士の水密性と、マンホール更生部材2内外の水密性とを確保する。
【0043】
弾性シール層4の外周側には、上側のマンホール更生部材2の下端部と、下側のマンホール更生部材2の上端部とにまたがって、短尺円筒状のカラー部材5が配設されて、上下のマンホール更生部材2の外面を覆っている。
【0044】
更生マンホール10は、このように接続された上下のマンホール更生部材2の外面およびカラー部材5の外面と、マンホール1の内面との間に、グラウト材6が充填されて一体化されている。更生マンホール10は、マンホール更生部材2による新規の平滑な内面が形成されて、強度、耐久性、耐食性、および耐薬品性のいずれもが高められている。
【0045】
更生マンホール10の接合部における弾性シール層4は、平常時には、更生マンホール10の内外面の止水性を保ち、漏水、浸水等を防ぐ。一方、地震等が発生した場合には、更生マンホール10の管壁は水平方向のせん断力を受けることとなる。マンホール更生部材2は変形したり接合部が離間したりする可能性がある。このような場合に、弾性シール層4のシール部材42は、破断せずに伸びるなどして当該箇所の変形に追従し、外部からの水の浸入を防ぐ。
【0046】
例えば、
図9に示すように、更生マンホール10が地震振動によって地盤に対して変形しようとすると、上下のマンホール更生部材2の間の弾性シール層4においてその変形を許容する。弾性シール層4のシール部材42は弾性変形するので、上下のマンホール更生部材2の相対変位を許容するとともに、変位に追従して変形し、振動のエネルギーを吸収する。これにより、上下のマンホール更生部材2間に隙間が生じても、接合部におけるシール部材42の破断が防がれ、止水性が維持されるとともにマンホールとしての機能が担保される。
【0047】
以上説明したとおり、本発明に係るマンホール更生方法および更生マンホールの接合部構造を採用することによって、老朽化したマンホール1を極めて簡便に自立更生することが可能になるとともに、地震等による振動や変位を吸収する能力を備えさせて破損の発生を最小限に抑え、マンホール機能を保持することが可能な構造を備えさせることができる。従来の耐震性・免震性を備えないマンホールにあっても、本発明を適用することで、更生と同時に将来の地震への対策を講じることが可能となる。
【0048】
なお、本発明は叙上の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で種々設計変更が可能である。例えば、マンホール更生部材2は、上下に2つ積み重ねられる形態に限定されず、更生対象のマンホールの地中深さに応じて、3つ以上のマンホール更生部材2を用いることができる。このとき、必ずしも全ての上下マンホール更生部材2間に上述した接合部構造を適用せずともよく、設計上必要な箇所へこの接合部構造を適用すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、既設マンホールの更生に好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 マンホール
11 直壁部
12 開口部
13 斜壁部
14 インバート部
15 ステップ
16 接続口
2 マンホール更生部材
21 切欠部
22 吊り具
3 受け部
4 弾性シール層
41 スペーサ部材
42 シール部材
5 カラー部材
6 グラウト材
10 更生マンホール