特許第6574735号(P6574735)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6574735-汚染地下水の拡散防止方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6574735
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】汚染地下水の拡散防止方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/28 20060101AFI20190902BHJP
   C02F 3/00 20060101ALI20190902BHJP
【FI】
   C02F1/28 E
   C02F1/28 B
   C02F1/28 J
   C02F1/28 C
   C02F3/00 D
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-104285(P2016-104285)
(22)【出願日】2016年5月25日
(65)【公開番号】特開2017-209620(P2017-209620A)
(43)【公開日】2017年11月30日
【審査請求日】2018年11月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100167597
【弁理士】
【氏名又は名称】福山 尚志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 毅
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 圭二郎
(72)【発明者】
【氏名】河合 達司
【審査官】 富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−125713(JP,A)
【文献】 特開2011−031187(JP,A)
【文献】 特開平11−309482(JP,A)
【文献】 特開2009−125624(JP,A)
【文献】 特表2000−506437(JP,A)
【文献】 米国特許第05833855(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0016763(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/28
C02F 3/00−3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属類で汚染された地下水が通過する土壌に配置され、内部を深さ方向に上部領域と下部領域とに区分するように遮水材が設けられた井戸を複数用いる汚染地下水の拡散防止方法であって、
複数の前記井戸のうちの一の井戸では、当該井戸における前記上部領域内の地下水を前記下部領域内へ送水し、複数の前記井戸のうちの前記一の井戸に隣接する他の井戸では、当該井戸における前記下部領域内の地下水を前記上部領域内へ送水し、
第1の嫌気バイオ剤を前記井戸内の地下水に添加する第1の添加工程と、
前記井戸内の地下水中で硫酸イオンを生じる化学種を前記井戸内の地下水に添加する第2の添加工程と、
前記第1の添加工程の後に第2の嫌気バイオ剤を前記井戸内の地下水に添加する第3の添加工程と、を有し、
前記第1の嫌気バイオ剤及び前記第2の嫌気バイオ剤は、いずれも前記複数の井戸が設けられた土壌に生息する微生物を活性化させるものであり、
前記第1の嫌気バイオ剤は、乳酸、グルコース、エタノール、グリセロール、酢酸、酪酸、プロピオン酸、蟻酸、ソルビトール、オリゴ乳酸、及び、シュークロースからなる群から選択される1種又は2種以上を含有するものであり、
前記第2の嫌気バイオ剤は、ポリ乳酸、植物油、エマルジョン油、及び、高級脂肪酸からなる群から選択される1種又は2種以上含有するものであり、
前記第2の嫌気バイオ剤は、前記第1の嫌気バイオ剤よりも持続性が高いものである、汚染地下水の拡散防止方法。
【請求項2】
重金属類で汚染された地下水が通過する土壌に配置され、内部を深さ方向に上部領域と下部領域とに区分するように遮水材が設けられた井戸を用いる汚染地下水の拡散防止方法であって、
前記上部領域内の地下水を前記下部領域内へ、又は、前記下部領域内の地下水を前記上部領域内へ送水し、
第1の嫌気バイオ剤を前記井戸内の地下水に添加する第1の添加工程と、
前記井戸内の地下水中で硫酸イオンを生じる化学種を前記井戸内の地下水に添加する第2の添加工程と、
前記第1の添加工程の後に第2の嫌気バイオ剤を前記井戸内の地下水に添加する第3の添加工程と、を有し、
前記第1の嫌気バイオ剤及び前記第2の嫌気バイオ剤は、いずれも前記井戸が設けられた土壌に生息する微生物を活性化させるものであり、
前記第1の嫌気バイオ剤は、乳酸、グルコース、エタノール、グリセロール、酢酸、酪酸、プロピオン酸、蟻酸、ソルビトール、オリゴ乳酸、及び、シュークロースからなる群から選択される1種又は2種以上を含有するものであり、
前記第2の嫌気バイオ剤は、ポリ乳酸、植物油、エマルジョン油、及び、高級脂肪酸からなる群から選択される1種又は2種以上含有するものであり、
前記第2の嫌気バイオ剤は、前記第1の嫌気バイオ剤よりも持続性が高いものである、汚染地下水の拡散防止方法。
【請求項3】
前記第3の添加工程の後に前記井戸における送水を停止する、請求項1又は2記載の汚染地下水の拡散防止方法。
【請求項4】
前記第2の添加工程における前記化学種の添加量を、前記地下水中の硫酸イオン濃度が10〜1000mg/Lとなる量とする、請求項1〜3のいずれか一項記載の汚染地下水の拡散防止方法。
【請求項5】
前記重金属類は、六価クロム、セレン、ヒ素、鉛、カドミウム、水銀、硝酸イオン、亜硝酸イオンニッケル、モリブデン、アンチモン、ウラン、亜鉛及びスズからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1〜4のいずれか一項記載の汚染地下水の拡散防止方法。
【請求項6】
前記第2の嫌気バイオ剤の添加量を、前記土壌への吸着量が0.3〜3.0kg/mとなる量とする、請求項1〜5のいずれか一項記載の汚染地下水の拡散防止方法。
【請求項7】
前記第2の嫌気バイオ剤は、前記第1の嫌気バイオ剤よりも分子量が大きいものである、請求項1〜6のいずれか一項記載の汚染地下水の拡散防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染地下水の拡散防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、汚染された地下水を浄化するシステムとして、揚水井戸から地下水を汲み上げて地上の設備で浄化し、浄化した水を注水井戸から地下に戻すものが知られている。一般に、汲み上げた場所とは異なる場所に地下水を戻す際には、その汚染物質の濃度を、地下水を戻す場所の濃度よりも低くしなければ、汚染物質が周辺へ拡散する所謂二次汚染が生じてしまう。従って、二次汚染が生じないように、汲み上げた地下水の適切な管理及び処理が必要となる。
【0003】
地下水の浄化システムとして、隣接する井戸同士の間に汚染地下水の流れに略垂直となる水平方向の流れを生じさせるとともに、土壌中の微生物を活性化させる活性剤を井戸に添加するシステムが考案されている(例えば、特許文献1参照)。このシステムでは、二次汚染を防止しながら、汚染物質の微生物分解の速度を高めることができる。
【0004】
また、分子量が異なる二種類の活性剤を地下水に添加して微生物を持続的に活性化させる試みもなされている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5711519号公報
【特許文献2】特許第5405936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の浄化システムによって汚染地下水の拡散防止が図られるのであるが、これらの浄化システムは、効果の早期発現や持続性の面において未だ改善の余地がある。
【0007】
そこで本発明は、汚染地下水の拡散防止効果が早期に発現して持続する、汚染地下水の拡散防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、重金属類で汚染された地下水が通過する土壌に配置され、内部を深さ方向に上部領域と下部領域とに区分するように遮水材が設けられた井戸を複数用いる汚染地下水の拡散防止方法であって、複数の井戸のうちの一の井戸では、当該井戸における上部領域内の地下水を下部領域内へ送水し、複数の井戸のうちの一の井戸に隣接する他の井戸では、当該井戸における下部領域内の地下水を上部領域内へ送水し、第1の嫌気バイオ剤を井戸内の地下水に添加する第1の添加工程と、井戸内の地下水中で硫酸イオンを生じる化学種を井戸内の地下水に添加する第2の添加工程と、第1の添加工程の後に第2の嫌気バイオ剤を井戸内の地下水に添加する第3の添加工程と、を有し、第1の嫌気バイオ剤及び第2の嫌気バイオ剤は、いずれも複数の井戸が設けられた土壌に生息する微生物を活性化させるものであり、第2の嫌気バイオ剤は、第1の嫌気バイオ剤よりも持続性が高いものである、汚染地下水の拡散防止方法を提供する。
【0009】
この拡散防止方法においては、井戸内における上部領域と下部領域との間の地下水の移動方向が隣接する井戸間で逆方向となるため、隣接する井戸間の帯水層において、井戸間を渡すように水平方向の地下水の流れが生じ得る。そして、この水平方向の流れが隣接する井戸の上部領域間と下部領域間との双方で生じることにより、井戸間の地下水の循環流が形成される。井戸間の土壌に生息する微生物が第1の嫌気バイオ剤及び第2の嫌気バイオ剤で活性化されることにより、土壌に還元性物質が蓄積し、当該土壌に流れ込む汚染地下水が持続的に浄化されるので、その下流側へ汚染地下水が拡散されることが防止される。そして、本発明では地下水中で硫酸イオンを生じる化学種を地下水に添加する。地下水中で生じた硫酸イオンは微生物の働きによって硫化物イオンとなり、更には硫化鉱物として土壌中に蓄積されるので、汚染地下水の浄化効果が一層早く現れ、より長時間持続する。
【0010】
また、本発明は、重金属類で汚染された地下水が通過する土壌に配置され、内部を深さ方向に上部領域と下部領域とに区分するように遮水材が設けられた井戸を用いる汚染地下水の拡散防止方法であって、上部領域内の地下水を下部領域内へ、又は、下部領域内の地下水を上部領域内へ送水し、第1の嫌気バイオ剤を井戸内の地下水に添加する第1の添加工程と、井戸内の地下水中で硫酸イオンを生じる化学種を井戸内の地下水に添加する第2の添加工程と、第1の添加工程の後に第2の嫌気バイオ剤を井戸内の地下水に添加する第3の添加工程と、を有し、第1の嫌気バイオ剤及び第2の嫌気バイオ剤は、いずれも井戸が設けられた土壌に生息する微生物を活性化させるものであり、第2の嫌気バイオ剤は、第1の嫌気バイオ剤よりも持続性が高いものである、汚染地下水の拡散防止方法を提供する。
【0011】
用いる井戸が一つであったとしても、井戸内とその周辺の帯水層との間で地下水の交換が起こるので、井戸の周辺を流れる汚染地下水の拡散防止効果が早期に発現して持続する。
【0012】
本発明において、第3の添加工程の後に井戸における送水を停止してもよい。還元性物質が土壌中に蓄積されると地下水の浄化効果が持続するため、送水のための動力を節約することができる。
【0013】
また、本発明において、第2の添加工程における化学種の添加量を、地下水中の硫酸イオン濃度が10〜1000mg/Lとなる量としてもよい。
【0014】
また、本発明において、重金属類は、六価クロム、セレン、ヒ素、鉛、カドミウム、水銀(総水銀、アルキル水銀)、硝酸イオン、亜硝酸イオンニッケル、モリブデン、アンチモン、ウラン、亜鉛及びスズからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。これらは一般に土壌に含まれる有害物質であるので、本発明の適用対象として好適である。
【0015】
また、本発明において、第2の嫌気バイオ剤の添加量を、土壌への吸着量が0.3〜3.0kg/mとなる量としてもよい。
【0016】
また、本発明において、第2の嫌気バイオ剤は、第1の嫌気バイオ剤よりも分子量が大きいものであることが好ましい。これによれば、第2の嫌気バイオ剤が第1の嫌気バイオ剤よりも持続性が高いものとして働く効果が高い。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、汚染地下水の拡散防止効果が早期に発現して持続する、汚染地下水の拡散防止方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】浄化システムの垂直断面図である。
図2】浄化システムが設けられた敷地の水平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において同一部分又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0020】
本実施形態の汚染地下水の拡散防止方法を実施するために、図1及び図2に示された浄化システム1を用いる。浄化システム1は、敷地23に設けられており、隣接する複数の井戸3、及び、地上に設置された薬剤注入ポンプ15を備えている。図1図2のI-I断面図である。
【0021】
井戸3は、重金属類に汚染された地下水が流れる地盤(土壌)5を掘削して難透水層17にまで達するボーリング穴2に対し、スリットや貫通孔を壁面に有するストレーナー4が挿通されてなるものである。浄化システム1においては、汚染地下水の流れの方向と略垂直となるように複数の井戸3が並設される。複数の井戸3は、後述するとおり井戸内の送水方向の別によって二種類の井戸3a,3bに分類され、これらが交互に配置される(図2参照)。
【0022】
各井戸3の内部において、ストレーナー4の径はボーリング穴2の径よりも小さく、径の差分として生じた空間には砂7が充填されている。
【0023】
砂7が充填されている空間において、井戸3の深さの約半分の高さ位置には、砂7の代わりに遮水材としてのベントナイト9が充填されている。そして、井戸内におけるベントナイト9が充填された高さ位置には、送水ポンプ11が設置されている。送水ポンプ11は、送水方向を上下に制御可能であって、送水ポンプ11の流量は、例えば10〜100L/分とする。複数の井戸3のうち、一の井戸3aでは送水方向を上向きとし、他の井戸3bでは送水方向を下向きとする。
【0024】
ベントナイト9及び送水ポンプ11によって井戸3の内部における地下水の上下方向の移動が制限され、井戸3内が深さ方向に上部領域31と下部領域32とに区分されている。ここで、上部領域31と下部領域32との間の遮水性を確実にするために、送水ポンプ11を設置した周囲にパッカー(図示せず)を詰めてもよい。パッカーは中心部に孔が開いた環状の風船であり、これが膨らむことによって送水ポンプ11や井戸3の内周壁に密着するので、井戸3内の上部領域31と下部領域32との間の遮水性を高くすることができる。
【0025】
地上には、薬剤注入ポンプ15が設置されている。薬剤注入ポンプ15から各井戸3ヘ向かってパイプ13が延び、パイプ13の端部は各井戸3内に達している。
【0026】
薬剤注入ポンプ15を通じて、井戸3内には第1の嫌気バイオ剤、第2の嫌気バイオ剤、及び、硫酸塩が添加される。第1の嫌気バイオ剤及び第2の嫌気バイオ剤は、いずれも地盤5に生息する微生物を活性化させるものである。
【0027】
第1の嫌気バイオ剤は、即効性の高いものを選択する。具体例としては、乳酸、グルコース、エタノール、グリセロール、酢酸、酪酸、プロピオン酸、蟻酸、ソルビトール、オリゴ乳酸、シュークロース等の成分を1種又は2種以上含有するものが挙げられる。
【0028】
第2の嫌気バイオ剤としては、第1の嫌気バイオ剤よりも分子量が大きいものを選択する。具体例としては、ポリ乳酸、植物油、エマルジョン油、高級脂肪酸等の成分を1種又は2種以上含有するものが挙げられる。第2の嫌気バイオ剤は、第1の嫌気バイオ剤よりも持続効果が高い。ここで第2の嫌気バイオ剤の「持続」とは、一定量当たりの効果発現が嫌気バイオ剤の中でも長時間緩慢に続く様子を意味している。
【0029】
硫酸塩は、地下水中で電離して硫酸イオンを生じる化学種であり、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム等が挙げられる。
【0030】
以下、浄化システム1を用いた汚染地下水の拡散防止方法の手順を示す。本実施形態の汚染地下水の拡散防止方法は、重金属類を対象とする。本明細書において「重金属類」とは、土壌汚染対策法における特定有害物質のうち第二種特定有害物質に区分されるものを含む概念である。また、「重金属類」は、地盤に通常存在しうる形態(イオンや化合物)を含むものとする。本実施形態の適用対象としては、六価クロム、セレン、ヒ素、鉛、カドミウム、水銀(総水銀、アルキル水銀)、硝酸イオン、亜硝酸イオンニッケル、モリブデン、アンチモン、ウラン、亜鉛及びスズからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0031】
はじめに、各井戸3内の送水ポンプ11を駆動させる。このとき、一の井戸3aでは送水方向を上向きとし、これに隣接する他の井戸3bでは送水方向を下向きとする(図1の白矢印A及びB)。すると、隣接する井戸3a,3b間の地盤5において、上部領域31,31同士、及び、下部領域32,32同士を結ぶ地下水の移動が起こり、その移動の向きは上部領域31,31間と下部領域32,32間とで逆向きとなる(図1の白矢印C及びD)。これによって、図2に示された汚染地下水19の流れの方向(図2の白矢印G)に対して略垂直な方向に地下水が移動することとなる。また、各井戸3には上部領域31と下部領域32とを短絡する流れも生じる(図1の白矢印E)。
【0032】
次に、薬剤注入ポンプ15を駆動させ、第1の嫌気バイオ剤を井戸3内の地下水に添加する(第1の添加工程)。また、硫酸塩も井戸3内の地下水に添加する(第2の添加工程)。硫酸塩の添加量は、地下水中の硫酸イオン濃度が10〜1000mg/Lとなる量とすることが好ましい。これらの二つの工程は、同時に行ってもよく、いずれか一方を先にして順番に行ってもよい。
【0033】
添加された第1の嫌気バイオ剤及び硫酸塩は、送水ポンプ11の働きで形成された地下水の循環に乗って地盤5内に拡散する。すると、並設された複数の井戸3の周囲に、循環流による浄化壁25が形成される。
【0034】
添加した第1の嫌気バイオ剤は地盤5中の微生物を活性化し、微生物は、地盤5に元々含まれている硫酸イオン又は地下水中で硫酸塩が電離して生じた硫酸イオンを還元して硫化物イオンに変化させる。硫化物イオンは硫化鉱物(例えば硫化鉄)として浄化壁25内に蓄積される。同時に、酸化還元電位は低下する。
【0035】
次に、井戸3内から、又は、地下水の下流側に別途設けたモニタリング用の井戸から地下水を採取し、硫酸イオン濃度を測定する。硫酸イオン濃度が所定の管理基準値以下に低下していたら、第2の嫌気バイオ剤を井戸3内の地下水に添加する(第3の添加工程)。第2の嫌気バイオ剤の添加量は、地盤5への吸着量が0.3〜3.0kg/mとなる量とする。この添加量と吸着量との関係は、井戸3を設置するときに生じた掘削土を利用した試験によって事前に求めることができ、例えば、地下水1Lあたり5〜50mgに設定することができる。
【0036】
その後、第2の嫌気バイオ剤が浄化壁25内に均一に拡散したと想定される頃に、複数の井戸3における送水ポンプ11の駆動を停止する。第1及び第2の嫌気バイオ剤と硫酸塩は既に浄化壁25内に拡散しているので、送水ポンプ11の駆動を停止しても、流入してくる汚染地下水19内の重金属類を吸着(又は不溶化)することができる。すなわち、汚染地下水19が地盤5に流れ込み、浄化壁25に侵入して通過しようとすると、浄化壁25内に蓄積された硫化鉱物その他の還元性物質が、汚染地下水19に含まれる重金属類を吸着する。そして、汚染地下水19は、浄化された地下水21として浄化壁25から流出する。
【0037】
その後、吸着対象である重金属類の種別に応じて、地下水中の硫酸イオン、硝酸イオン、アンモニウムイオン、鉄イオン等の濃度を測定する。その結果に基づいて、地下水の浄化を続行するか終了するかを判断する。続行する場合は、第1の嫌気バイオ剤を添加する工程に戻る。
【0038】
本実施形態においては、即効性の第1の嫌気バイオ剤と持続性の第2の嫌気バイオ剤を併用するため、汚染地下水の拡散防止効果が早期に発現して、その効果が持続する。また、硫酸塩を添加するため、地盤5に硫化物イオンが蓄積しやすく、地盤5に天然に存在する硫酸イオンが少ない場合であっても重金属類を吸着する作用が速やかに発現し、その効果が持続する。従って、本実施形態によれば、重金属類に汚染された地下水が下流側へ拡散することが防止される。
【0039】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、はじめに送水ポンプ11を駆動させたが、第1の嫌気バイオ剤や硫酸塩を添加した後に送水ポンプ11を駆動させてもよい。
【0040】
また、上記実施形態では井戸を複数用いる態様を示したが、用いる井戸は一つであってもよい。一つの井戸において上部領域内の地下水を下部領域内へ、又は、下部領域内の地下水を上部領域内へ送水することで、井戸内と地盤との間で地下水の交換が起こる。このとき、図1に示した白矢印Eに相当する循環流が生じてもよいし、生じずに白矢印C及びDに相当する流れが生じてもよい。このように井戸が一つであったとしても、井戸の周辺を流れる汚染地下水の拡散防止効果が早期に発現して持続する。
【符号の説明】
【0041】
1…浄化システム、2…ボーリング穴、3(3a,3b)…井戸、4…ストレーナー、5…地盤、7…砂、9…ベントナイト(遮水材)、11…送水ポンプ、13…パイプ、15…薬剤注入ポンプ、17…難透水層、19…汚染地下水、23…敷地、25…浄化壁、31…上部領域、32…下部領域。
図1
図2