特許第6574736号(P6574736)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6574736
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】端子付き電線の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01R 43/048 20060101AFI20190902BHJP
   H01R 4/62 20060101ALI20190902BHJP
   H01R 43/02 20060101ALI20190902BHJP
【FI】
   H01R43/048 Z
   H01R4/62 A
   H01R43/02 B
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-108900(P2016-108900)
(22)【出願日】2016年5月31日
(65)【公開番号】特開2017-216122(P2017-216122A)
(43)【公開日】2017年12月7日
【審査請求日】2017年8月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鍋田 泰徳
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一栄
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 直樹
【審査官】 藤井 眞吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−090804(JP,A)
【文献】 特開2014−029884(JP,A)
【文献】 特開2003−272728(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 4/18
H01R 4/62
H01R 43/02
H01R 43/048 −43/055
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の導体芯線が束ねられた芯線束を有する電線に端子が圧着された端子付き電線の製造方法であって、
前記芯線束に対して超音波接合処理を施すことによって前記複数の導体芯線が互いに接合された接合芯線を形成する工程と、端子圧着機を用いて前記接合芯線に前記端子を圧着する工程と、を含み、
前記端子は、
前記接合芯線が載置されることになる基底部、及び、前記接合芯線を挟むように前記基底部から延設される一対の圧着片、を有し、
前記端子圧着機は、
前記基底部を支持することになる支持面を有するアンビル、及び、前記支持面から離れる向きに突出すると共に前記接合芯線の長さ方向に延び且つ幅方向に並ぶ2つの円弧面から構成されたアーチ溝であって前記一対の圧着片を前記接合芯線に向けて湾曲させることになるアーチ溝を有するクリンパ、を有すると共に、前記支持面と前記円弧面とに挟まれる空間の形状が所定の圧着形状となる圧着完了状態まで前記アンビルと前記クリンパとを近付けることによって前記圧着を行い、
前記アーチ溝を構成する前記2つの円弧面それぞれの前記幅方向の外側の端部同士の間隔を前記アーチの幅としたとき、
前記圧着の前における記一対の圧着片同士の内面側の間隔が、前記アーチ溝の幅から前記端子の厚さの2倍を減じた値より大きく、
前記接合芯線は、
前記圧着の前における該接合芯線の軸線に直交する断面の幅が、前記アーチ溝の幅から前記端子の厚さの2倍を減じた値以下であり、且つ、前記圧着の前における前記断面の高さが、前記圧着完了状態における前記支持面と前記円弧面との最大距離から前記端子の厚さの2倍を減じた値以上である、ように形成される、
端子付き電線の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法において、
前記接合芯線の前記断面の形状は、矩形状である、
端子付き電線の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の製造方法において、
前記複数の導体芯線が、
アルミニウム又はアルミニウム合金から形成されている、
端子付き電線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の導体芯線が束ねられた芯線束を有する電線に端子が圧着された端子付き電線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電線の許容電流を高めつつ曲げ強度を向上させる観点等から、複数の導体芯線が束ねられた芯線束(例えば、撚り線)を有する電線が提案されている。このような芯線束(撚り線)に端子を圧着させた場合、芯線束の外周部に位置する導体芯線は端子に直接接触して電気的に接続されるものの、芯線束の中央部に位置する導体芯線は外周部に位置する導体を介して端子に電気的に接続されることになる。そのため、芯線束と端子との間の全体的な導電性を向上させるためには、導体芯線と端子との間の導電性(外周部の導電性)に加え、導体芯線同士の間の導電性(中央部の導電性)を向上させることが望ましい。
【0003】
一方、近年、銅に比べて軽量かつ低コストであること等を理由に、アルミニウム及びアルミニウム合金等が導体芯線の材料として用いられる場合がある。ところが、この場合、導体芯線の表面に自然形成される酸化皮膜(酸化アルミニウム)の絶縁性が高いため、上述した導電性(外周部の導電性・中央部の導電性)を向上させる工夫が特に求められる。
【0004】
そこで、例えば、従来の端子付き電線の製造方法の一つ(以下「従来製法」という。)では、アルミニウム製の導体芯線からなる芯線束(撚り線)に対して超音波接合処理を施すことにより、導体芯線の表面の酸化皮膜を破壊しつつ導体芯線同士を互いに接合させ、芯線束を一体化(単線化)するようになっている。これにより、芯線束の外周部に位置する導体芯線も中央部に位置する導体芯線も、実質的に端子に直接接触することになる。その結果、このような単線化がなされない場合に比べ、中央部の導電性が向上する分、芯線束と端子との間の全体的な導電性が向上し得る(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−231079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、超音波接合による接合力は、一般に、他の接合手法(例えば、溶接およびハンダ付け等)による接合力に比べて小さい。そのため、超音波接合された芯線束(接合芯線)に対して過大な外力が及んだ場合、導体芯線同士が接合した状態を維持できず、芯線束(接合芯線)が複数の導体芯線に分離する(接合箇所が破断し、単線化が解除される)場合がある。この場合、分離した導体芯線の表面に改めて酸化皮膜が形成され、上述した一体化(単線化)の効果が損なわれることとなり得る。
【0007】
一方、従来製法において端子を電線に圧着する際、超音波接合された芯線束(接合芯線)に対して端子が加締められる過程にて、芯線束(接合芯線)は、所定の圧着形状(圧着完了後の形状)となるまで押圧変形させられる。芯線束(接合芯線)と端子との間の全体的な導電性を向上させる観点からは、この押圧変形の過程において、芯線束(接合芯線)の単線化が解除されることを出来る限り防ぐことが望ましい。
【0008】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、複数の導体芯線が互いに接合された接合芯線の接合状態を出来る限り維持しながら接合芯線に端子を圧着することが可能な端子付き電線の製造方法、を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達成するために、本発明に係る端子付き電線の製造方法は、下記(1)〜(3)を特徴としている。
(1)
複数の導体芯線が束ねられた芯線束を有する電線に端子が圧着された端子付き電線の製造方法であって、
前記芯線束に対して超音波接合処理を施すことによって前記複数の導体芯線が互いに接合された接合芯線を形成する工程と、端子圧着機を用いて前記接合芯線に前記端子を圧着する工程と、を含み、
前記端子は、
前記接合芯線が載置されることになる基底部、及び、前記接合芯線を挟むように前記基底部から延設される一対の圧着片、を有し、
前記端子圧着機は、
前記基底部を支持することになる支持面を有するアンビル、及び、前記支持面から離れる向きに突出すると共に前記接合芯線の長さ方向に延び且つ幅方向に並ぶ2つの円弧面から構成されたアーチ溝であって前記一対の圧着片を前記接合芯線に向けて湾曲させることになるアーチ溝を有するクリンパ、を有すると共に、前記支持面と前記円弧面とに挟まれる空間の形状が所定の圧着形状となる圧着完了状態まで前記アンビルと前記クリンパとを近付けることによって前記圧着を行い、
前記アーチ溝を構成する前記2つの円弧面それぞれの前記幅方向の外側の端部同士の間隔を前記アーチの幅としたとき、
前記圧着の前における記一対の圧着片同士の内面側の間隔が、前記アーチ溝の幅から前記端子の厚さの2倍を減じた値より大きく、
前記接合芯線は、
前記圧着の前における該接合芯線の軸線に直交する断面の幅が、前記アーチ溝の幅から前記端子の厚さの2倍を減じた値以下であり、且つ、前記圧着の前における前記断面の高さが、前記圧着完了状態における前記支持面と前記円弧面との最大距離から前記端子の厚さの2倍を減じた値以上である、ように形成される、
端子付き電線の製造方法であること。
(2)
上記(1)に記載の製造方法において、
前記接合芯線の前記断面の形状は、矩形状である、
端子付き電線の製造方法であること。
(3)
上記(1)又は上記(2)に記載の製造方法において、
前記複数の導体芯線が、
アルミニウム又はアルミニウム合金から形成されている、
端子付き電線の製造方法であること。
【0010】
上記(1)及び上記(2)の構成の端子付き電線の製造方法によれば、接合芯線の軸線に直交する断面の幅は、アーチ溝の幅から端子の厚さの2倍を減じた値(以下「基準幅」という。)以下である。そのため、端子を接合芯線に圧着する際、アーチ溝によって端子の圧着片が湾曲され始めるまで(実際の加締めが始まるまで)、接合芯線が端子(圧着片)によって押圧されないことになる(図5も参照。)。これにより、接合芯線の上記断面の幅が基準幅よりも大きい場合に比べ、端子の圧着時に接合芯線に過大な外力が印加されることが防がれ、接合芯線の単線化が解除することを避けられる。その結果、端子が加締められる過程において、芯線束(接合芯線)の単線化が解除されることを出来る限り防ぐことができる。
【0011】
したがって、上記構成の製造方法によれば、複数の導体芯線が互いに接合された接合芯線の接合状態を出来る限り維持しながら接合芯線に端子を圧着することが可能である。
【0012】
更に、上記構成の製造方法によれば、以下の効果も得られる。具体的には、上記構成の製造方法によれば、上記断面の高さが、圧着完了状態におけるアンビル(支持面)とクリンパ(円弧面)との最大距離から端子の厚さの2倍を減じた値(以下「基準高さ」という。)以上である。そのため、圧着完了状態において、接合芯線と端子とが密着した状態となり、両者の間に空隙等が生じ難い(図6も参照。)。よって、上記構成の製造方法によれば、芯線束と端子との間の全体的な導電性を更に向上できる。
【0013】
上記()の構成の端子付き電線の製造方法によれば、一般に用いられる銅製の導体芯線(銅線)に比べて表面に形成される酸化皮膜の絶縁性が大きいアルミニウム製またはアルミニウム合金製の導体芯線(アルミニウム線)に端子を圧着するにあたり、上述した各種の効果を得られることになる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、複数の導体芯線が互いに接合された接合芯線の接合状態を出来る限り維持しながら接合芯線に端子を圧着することが可能な端子付き電線の製造方法を提供できる。
【0015】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の実施形態に係る端子付き電線の製造方法の概略を説明する図であって、図1(a)〜図1(d)の各々は、電線の端部における斜視図である。
図2図2は、端子を圧着する電線を説明する図であって、図2(a)は電線の端部の正面図、図2(b)は接合芯線を形成した電線の端部の正面図、図2(c)は接合芯線の正面図である。
図3図3は、芯線束を超音波接合する超音波接合機の概略図である。
図4図4は、電線に端子を圧着する端子圧着機及び電線等の斜視図である。
図5図5は、端子圧着機による端子の圧着の方法を説明する図であって、図5(a)は端子及び電線の接合芯線が配置された端子圧着機の正面図、図5(b)は端子及び電線の接合芯線が配置されたアンビルの正面図である。
図6図6は、電線に端子を圧着した状態における端子圧着機の正面図である。
図7図7は、電線に端子を圧着した端子付き電線の圧着箇所における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<実施形態>
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る端子付き電線の製造方法について説明する。
【0018】
本実施形態に係る端子付き電線の製造方法においては、まず、図1(a)に示すように、電線11の絶縁被覆14を皮剥きして複数の導体芯線12からなる芯線束13を露出させる。次いで、図1(b)に示すように、芯線束13に対して超音波接合処理(詳細は後述される。)を施し、隣接する導体芯線12が互いに接合した接合芯線13Aを形成する。次いで、図1(c)に示すように、接合芯線13Aを端子31の所定箇所に配置した後、図1(d)に示すように、端子31を接合芯線13A(及びその周辺の絶縁被覆14)に圧着する。これにより、端子付き電線1が製造される。
【0019】
図1(a)及び図2(a)に示すように、電線11は、複数の導体芯線12が束ねられた芯線束13の外周を絶縁被覆14によって覆うように構成されている。本例では、導体芯線12は、アルミニウム又はアルミニウム合金製の非メッキ素線である。換言すると、電線11は、いわゆるアルミニウム電線またはアルミニウム合金電線である。
【0020】
図1(b)及び図2(b)に示すように、電線11の芯線束13を超音波接合した接合芯線13Aは、その軸線に直交する断面において矩形状の(本例では長方形状の)形状を有している。接合芯線13Aでは、芯線束13を構成する複数本の導体芯線12が超音波振動によって互いに接合されている。
【0021】
図3に示すように、電線11の芯線束13を超音波接合するための超音波接合機20は、ホーン21と、アンビルプレート22と、グライディングジョー23と、アンビル24と、を備えている。ホーン21は、超音波発振器により、図中の紙面前後方向に超音波振動するようになっている。ホーン21の上面(芯線束に接触する面)には、振動方向に直交する方向に延びる複数の凸条からなるローレット(図示省略)が形成されており、ホーン21の上面と芯線束13との間の滑りを抑制するようになっている。超音波接合機20では、ホーン21、アンビルプレート22、グライディングジョー23及びアンビル24によって画成される断面視矩形状の空間が成形空間Sとされており、この成形空間S内に配置した芯線束13の導体芯線12同士を超音波接合するようになっている。
【0022】
アンビルプレート22は、ホーン21の側部に配置されている。グライディングジョー23は、ホーン21の上面におけるアンビルプレート22と対向する位置に配置されており、アンビルプレート22に対して近接または離間する方向へ移動可能とされている。図3では、グライディングジョー23は、図中の矢印Aに示す向きに移動し、この向きに芯線束13を押圧している。
【0023】
アンビル24は、ホーン21及びアンビルプレート22の上方に配置されており、昇降することにより、ホーン21に対して近接または離間する方向へ移動可能とされている。図3では、アンビル24は、図中の矢印Bに示す向きに移動し、この向きに芯線束13を押圧している。
【0024】
超音波接合機20は、グライディングジョー23及びアンビル24を上述したように移動させることにより、成形空間Sの幅および高さ(ひいては、芯線束13が接合された接合芯線13Aの幅および高さ)を自在に変更することが可能となっている。
【0025】
再び図1を参照すると、図1(c)に示すように、端子31は、電気接続部32と、圧着接続部33とを有している。端子31は、例えば、銅または銅合金などの導電性金属材料からなる金属板をプレス加工することによって形成されている。よって、本例において、端子31の厚さは、いずれの箇所においても実質的に同一である。
【0026】
電気接続部32は、平板状の接続板部34を有しており、この接続板部34には、接続孔34aが形成されている。接続板部34は、例えば、接続孔34aに締結ボルトを挿通させて接続機器の端子台などに締結することにより、端子台に電気的に接続される。
【0027】
圧着接続部33は、電気接続部32側から順に、導体圧着部41と、外被圧着部45と、を有している。導体圧着部41は、基底部42と、基底部42の両側部に形成された一対の導体圧着片43(圧着片)とを有している。基底部42には、接合芯線13Aが載置される。導体圧着片43は、接合芯線13Aを挟むように基底部42から延設されている。導体圧着部41は、一対の導体圧着片43を内側へ向けて湾曲させる(加締める)ことにより、電線11の接合芯線13Aに圧着されるこれにより、端子31が電線11の芯線束13と導通接続されることになる。
【0028】
外被圧着部45は、基底部46と、基底部46の両側部に形成された一対の外被圧着片47とを有している。外被圧着部45の基底部46は、導体圧着部41の基底部42から延在されている。基底部46には、電線11の絶縁被覆14が載置される。外被圧着片47は、基底部46から電線11の絶縁被覆14部分を挟むように延設されている。外被圧着部45は、一対の外被圧着片47を内側へ向けて湾曲させる(加締める)ことにより、電線11の絶縁被覆14の部分に圧着され且つ固定されることになる。
【0029】
図4及び図5に示すように、端子31は、端子圧着機51によって電線11に圧着される。端子圧着機51は、アンビル52と、クリンパ55と、を有している。アンビル52は、端子31及び接合芯線13Aの下方に配置され、クリンパ55は、端子31及び接合芯線13Aの上方に配置されている。クリンパ55は、アンビル52に対して相対的に上下方向へ移動可能となっている。
【0030】
アンビル52は、その頂部に、下方へ向けて窪むように湾曲した支持面53を有している。端子31の圧着の際、この支持面53は、端子31の基底部46を支持することになる。具体的には、端子31の基底部42の外面が支持面53に当接することになる。
【0031】
クリンパ55は、幅方向の中央部に、アンビル52側へ突出する山形部58を有するアーチ溝57を備えている。アーチ溝57は、山形部58の両側に形成された二つの円弧面57aから構成されている。円弧面57aは、支持面53から離れる向きに突出する円弧状の凸面である。クリンパ55は、二つの案内傾斜面59を有している。案内傾斜面59は、アンビル52側へ向かって次第に離間するように傾斜している。これらの案内傾斜面59は、アーチ溝57の両端に連続するように形成されている。
【0032】
次いで、本実施形態に係る端子付き電線1の製造方法について、詳細に説明する。
【0033】
(端末処理工程)
図1(a)に示すように、電線11の端部の絶縁被覆14を皮剥きし、導体芯線12を束ねた芯線束13を所定長さだけ露出させる。露出させる芯線束13の所定長さは、端子31を圧着するのに十分な長さであればよい。
【0034】
(超音波接合工程)
図1(b)に示すように、電線11の端部で露出させた芯線束13を超音波接合することにより、複数の導体芯線12が互いに接合された接合芯線13Aを形成する。具体的には、図3に示すように、露出させた芯線束13を超音波接合機20の成形空間Sに配置させ、グライディングジョー23をアンビルプレート22に近接する方向(図3中の矢印A方向)へ移動させるとともにアンビル24をホーン21に近接する方向(図3中の矢印B方向)へ移動させ、成形空間S内の芯線束13を両側及び上下から押圧する。そして、この状態にて、ホーン21を超音波振動させる。これにより、成形空間Sにおいて、導体芯線12の表面に形成された酸化皮膜が破壊されながら、導体芯線12同士が互いに接合する。これにより、図2(b)に示すように、断面形状が幅Xかつ高さYである矩形状の接合芯線13Aが形成される。このようにして形成された接合芯線13Aでは、導体芯線12同士が接合されて一体化(単線化)しており、導体芯線12同士が良好に導通した状態となっている。
【0035】
この超音波接合工程では、図5に示すように、接合芯線13Aの軸線に直交する断面の幅Xが、端子圧着機51のクリンパ55に形成されたアーチ溝57の幅Wから端子31の厚さTの2倍を減じた値以下(X≦W−2T)となるように、接合芯線13Aを形成する。更に、超音波接合工程では、接合芯線13Aの軸線に直交する断面の高さYが、図6に示すように、端子圧着機51による端子31の圧着の完了時におけるアンビル52の支持面53とクリンパ55のアーチ溝57との最大距離Hから端子31の厚さTの2倍を減じた値以上(Y≧H−2T)となるように、接合芯線13Aを形成する。なお、端子31の厚さTとは、端子31を構成する金属板の厚さである。また、以下、便宜上、アーチ溝57の幅Wから端子31の厚さTの2倍を減じた値(W−2T)は「基準幅」とも称呼され、端子圧着機51による端子31の圧着の完了時におけるアンビル52の支持面53とクリンパ55のアーチ溝57との最大距離Hから端子31の厚さTの2倍を減じた値(H−2T)を「基準高さ」とも称呼する。
【0036】
(端子圧着工程)
図1(d)に示すように、端子圧着機51を用いて接合芯線13Aに端子31を圧着する。具体的には、まず、図5(b)に示すように、アンビル52の支持面53に端子31を載せて支持させ、この端子31に電線11の端部を配置させる。ここで、圧着前の端子31は、基底部42から延設された導体圧着片43同士の内面側の間隔が、クリンパ55のアーチ溝57の幅Wから端子31の厚さTの2倍を減じた値(基準幅=W−2T)よりも十分に大きくなっている。よって、電線11の接合芯線13Aを端子31の導体圧着部41へ配置させる際、幅Xが基準幅以下(X≦W−2T)である接合芯線13Aは、端子31の導体圧着片43に引っ掛かることなく、導体圧着部41内に配置されることになる。
【0037】
端子31に電線11の端部を配置させた後、端子31を電線11に圧着させるべく、クリンパ55を下降させてアンビル52に近接させる。このとき、両側方へ広がっている端子31の導体圧着片43の端部がクリンパ55の案内傾斜面59に接触する。これにより、導体圧着片43は、クリンパ55の案内傾斜面59に沿って互いに近接する方向へ変形する。このとき、接合芯線13Aの軸線に直交する断面の幅Xが、基準幅以下(X≦W−2T)であるため、端子31の導体圧着片43がアーチ溝57に到達して湾曲し始めるまで(実際の加締めが始まるまで)、接合芯線13Aが端子31によって押圧されないことになる。これにより、接合芯線13Aに過大な外力が印加されることが防がれる。
【0038】
クリンパ55を更に下降させてアンビル52に近接させると、端子31は、アーチ溝57に導体圧着片43が到達し(図5(a)参照)、この状態から導体圧着片43がアーチ溝57によって互いに近接する方向へ押圧されて内側に湾曲する(巻き込む)ように変形する。
【0039】
その後、図6に示すように、支持面53と円弧面57aとに挟まれる空間の形状が所定の圧着形状となる圧着完了状態までアンビル52とクリンパ55とが近接される。このとき、端子31の導体圧着部41は、アンビル52とクリンパ55とによって挟まれて接合芯線13Aに押圧される。これにより、図7に示すように、端子31が芯線束13(接合芯線13A)に隙間なく強固に圧着され、端子31が電線11の芯線束13と確実に導通されることになる。
【0040】
ここで、圧着前の接合芯線13Aの断面の高さYが、圧着の完了時におけるアンビル52の支持面53とクリンパ55のアーチ溝57との最大距離Hから端子31の厚さTの2倍を減じた値(基準高さ=H−2T)以上である。高さYが基準高さ以上(Y≧H−2T)であるため、圧着完了時に接合芯線13Aと端子31との間に空隙などが発生することが抑制される。
【0041】
なお、端子圧着工程では、端子圧着機51に設けられた外被用のアンビル及びクリンパ(図示省略)によって、端子31の外被圧着片47が加締められる。これにより、端子31の外被圧着部45が、電線11の絶縁被覆14部分に圧着されて固定される。
【0042】
以上に説明したように、本実施形態に係る端子付き電線1の製造方法によれば、接合芯線13Aの軸線に直交する断面の幅Xが、基準幅以下(X≦W−2T)であるため、端子31の圧着の際、端子31の導体圧着片43がアーチ溝57に到達するまで(実際の加締めが始まるまで)、接合芯線13Aが端子31によって押圧されないことになる。これにより、接合芯線13Aに過大な外力が印加されることが防がれ、接合芯線13Aにおける導体芯線12同士の接合の解除を避けることができる。これにより、端子31の圧着後においても、超音波接合された導体芯線12間の抵抗を極力抑え、芯線束13と端子31との良好な導電性を維持することができる。
【0043】
更に、接合芯線13Aの断面の高さYが、基準高さ以上(Y≧H−2T)であるため、圧着完了時に接合芯線13Aと端子31との間に空隙などが生じ難く、端子31と接合芯線13Aとの間の導電性を更に向上できる。
【0044】
特に、本実施形態に係る端子付き電線の製造方法は、芯線束13の中央部分における導体芯線12の間の導電性低下が特に懸念されるアルミニウム電線またはアルミニウム合金電線からなる電線11に端子31を圧着する場合に有効である。
【0045】
<他の態様>
なお、本発明は上記各実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用できる。例えば、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0046】
例えば、電線11として、アルミニウム電線またはアルミニウム合金電線に代えて、導体芯線12が銅または銅合金からなる電線(銅線)が用いられても良い。更に、端子31として、銅または銅合金から形成された端子に代えて、アルミニウムまたはアルミニウム合金から形成された端子が用いられても良い。
【0047】
ここで、上述した本発明に係る端子付き電線の製造方法の実施形態の特徴をそれぞれ以下(1)及び(2)に簡潔に纏めて列記する。
(1)
複数の導体芯線(12)が束ねられた芯線束(13)を有する電線(11)に端子(31)が圧着された端子付き電線(1)の製造方法であって、
前記芯線束(13)に対して超音波接合処理を施すことによって前記複数の導体芯線が互いに接合された接合芯線(13A)を形成する工程と、端子圧着機(51)を用いて前記接合芯線(13A)に前記端子(31)を圧着する工程と、を含み、
前記端子(31)は、
前記接合芯線(13A)が載置されることになる基底部(42)、及び、前記接合芯線を挟むように前記基底部から延設される一対の圧着片(43)、を有し、
前記端子圧着機(51)は、
前記基底部(42)を支持することになる支持面(53)を有するアンビル(52)、及び、前記支持面(53)から離れる向きに突出すると共に前記接合芯線の長さ方向に延び且つ幅方向に並ぶ2つの円弧面(57a)から構成されたアーチ溝(57)であって前記一対の圧着片(43)を前記接合芯線(13A)に向けて湾曲させることになるアーチ溝(57)を有するクリンパ(55)、を有すると共に、前記支持面(53)と前記円弧面(57a)とに挟まれる空間の形状が所定の圧着形状となる圧着完了状態まで前記アンビルと前記クリンパとを近付けることによって前記圧着を行い、
前記接合芯線(13A)は、
前記圧着の前における該接合芯線(13A)の軸線に直交する断面の幅(X)が、前記アーチ溝の幅(W)から前記端子の厚さ(T)の2倍を減じた値以下(X≦W−2T)であり、且つ、前記圧着の前における前記断面の高さ(Y)が、前記圧着完了状態における前記支持面と前記円弧面との最大距離(H)から前記端子の厚さ(T)の2倍を減じた値以上(Y≧H−2T)である、ように形成される、
端子付き電線の製造方法。
(2)
上記(1)に記載の製造方法において、
前記複数の導体芯線(12)が、
アルミニウム又はアルミニウム合金から形成されている、
端子付き電線の製造方法。
【符号の説明】
【0048】
1 端子付き電線
11 電線
12 導体芯線
13 芯線束
13A 接合芯線
31 端子
42 基底部
43 導体圧着片(圧着片)
51 端子圧着機
52 アンビル
53 支持面
55 クリンパ
57 アーチ溝
X 接合芯線の幅
Y 接合芯線の高さ
W アーチ溝の幅
T 端子の厚さ
H 最大距離
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7