(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照して説明する。
図1は本発明の一実施の形態におけるスパークプラグ10の軸線Oを含む面で切断した断面図である。
図1に示すようにスパークプラグ10は、主体金具11、接地電極12、絶縁体15、中心電極17及び端子金具20を備えている。
【0011】
主体金具11は、内燃機関のねじ穴(図示せず)に固定される略円筒状の部材である。接地電極12(第2電極)は、主体金具11の先端に接合される金属製(例えばニッケル基合金製)の電極母材13と、電極母材13の先端に接合されるチップ14とを備えている。電極母材13は、軸線Oと交わるように軸線Oへ向かって屈曲する棒状の部材である。チップ14は、白金、イリジウム、ルテニウム、ロジウム等の貴金属またはこれらを主成分とする合金によって形成される板状の部材である。絶縁体15は、機械的特性や高温下の絶縁性に優れるアルミナ等により形成された略円筒状の部材であり、軸線Oに沿って軸孔16が貫通し、外周に主体金具11が固定される。
【0012】
中心電極17(第1電極)は、軸孔16に挿入されて絶縁体15に保持される棒状の電極である。中心電極17は、軸線Oに沿って延びる金属製(例えばニッケル基合金製)の電極母材18の先端にチップ19が接合されている。電極母材18は銅等の芯材が埋め込まれている。チップ19は、白金、イリジウム、ルテニウム、ロジウム等の貴金属またはこれらを主成分とする合金によって形成される柱状の部材である。チップ19は、火花ギャップを介して接地電極12と対向する。端子金具20は、高圧ケーブル(図示せず)が接続される棒状の部材であり、先端側が絶縁体15内に配置される。
【0013】
スパークプラグ10は、例えば、以下のような方法によって製造される。まず、電極母材18にチップ19が予め接合された中心電極17を絶縁体15の軸孔16に挿入する。中心電極17は、チップ19及び電極母材18の先端が軸孔16から外部に露出するように配置される。軸孔16に端子金具20を挿入し、端子金具20と中心電極17との導通を確保した後、予め電極母材13が接合された主体金具11を絶縁体15の外周に組み付ける。電極母材13にチップ14を接合した後、チップ14が中心電極17と軸方向に対向するように電極母材13を屈曲して、スパークプラグ10を得る。
【0014】
図2は、チップ19側から見た中心電極17の斜視図である。
図2では、電極母材18の軸方向の一部の図示が省略されている。
図2に示すように中心電極17は、電極母材18に溶接部21を介してチップ19が接合されている。チップ19は円柱状に形成されている。電極母材18は先端に円柱状の先端部18aが突出する。先端部18aは、外径が、チップ19の外径より少し大きく設定されている。チップ19の側面19aの全周および底面19b(
図3参照)と電極母材18との間に溶接部21が形成されている。溶接部21は、チップ19の側面19aの全周にレーザ光を照射して形成される。
【0015】
図3は第1電極(中心電極17)の軸線Oを含む断面図である。
図3では、溶接前のチップ19の外形が想像線(二点鎖線)で図示されており、中心電極17の軸方向の一部の図示が省略されている。溶接部21は、電極母材18及びチップ19が溶け合ってなる部位であり、チップ19の径方向の側面19a,19aに亘って設けられている。
【0016】
中心電極17は、溶接部21の中にチップ19の一部が溶け残った残存部22が存在する。残存部22は、チップ19の一部である底面19bの近傍が溶け残った部分である。残存部22は、チップ19と同じ金属材からなる。残存部22は軸線Oと交わる位置に存在する。残存部22は周囲が溶接部21に囲まれているので、残存部22の全周に溶接部21との界面23が形成される。残存部22は、軸線Oと直交する方向へ延びる扁平状に形成されている。残存部22の界面23は、チップ19側の界面24と電極母材18側の界面25とが連続している。
【0017】
残存部22は、軸線Oと直交する方向の残存部22の長さL1と、軸線Oと直交する方向のチップ19の長さL2(本実施の形態ではチップ19の直径)との比率L1/L2(%)が5%〜50%程度に設定される。溶接部21の機械的強度を確保しつつ残存部22による応力緩和効果を発現させるためである。L1/L2が5%より小さくなると残存部22による効果が生じ難くなり、L1/L2が50%より大きくなると溶接部21の強度が低下する傾向がみられる。
【0018】
中心電極17は、残存部22を挟んだ軸線O方向の両側の溶接部21に含まれるチップ19由来の貴金属元素の比率に特徴がある。貴金属元素はEPMAやEDS等の元素分析装置によって定量測定できる。元素分析を行う位置は以下のとおりである。
【0019】
残存部22よりもチップ19側の溶接部21においては、溶接部21とチップ19との界面26が軸線Oと交わる第1交点27と、残存部22の界面23と軸線Oとの交点のうち第1交点27に近い第2交点28(界面24上の交点)と、を結ぶ第1線分29の中点30で、貴金属の質量含有率Pを測定する。質量含有率Pは、中点30を中心とする直径50μmの円形の範囲の平均値である。
【0020】
残存部22よりも電極母材18側の溶接部21においては、溶接部21と電極母材18との界面31が軸線Oと交わる第3交点32と、残存部22の界面23と軸線Oとの交点のうち第3交点32に近い第4交点33(界面25との交点)と、を結ぶ第2線分34の中点35で、貴金属の質量含有率Qを測定する。質量含有率Qは、中点35を中心とする直径50μmの円形の範囲の平均値である。
【0021】
貴金属の質量含有率P,Qは、(貴金属の質量)/(溶接部21に含まれる全元素の質量)である。貴金属はチップ19には含まれるが電極母材18には含まれない成分なので、貴金属の質量含有率P,Qを測定することにより、中点30,35におけるチップ19の溶融具合がわかる。本実施の形態ではP>Qの関係にあり、特に、チップ19の貴金属の質量含有率をRとしたときに(P−Q)/R≧0.2の関係にある。
【0022】
なお、質量含有率Rは、質量含有率P,Qの測定と同様に、EPMAやEDS等の元素分析装置で測定できる。質量含有率Rは軸線O上のチップ19の中央で測定する。貴金属の質量含有率Rは、(貴金属の質量)/(チップ19に含まれる全元素の質量)である。質量含有率P、Q,Rの測定は、同一の元素分析装置を用い、同一の測定条件で行う。
【0023】
次に、電極母材18とチップ19との接合方法の一例を説明する。電極母材18の先端部18aにチップ19の底面19bを重ね合せて配置し、軸線O方向に電極母材18とチップ19とを押し付けながら、レーザ光のビーム軸を軸線Oと略直交させてチップ19の側面19aの全周にレーザ光を照射する。
【0024】
レーザ光は、パルス発振レーザ、連続発振レーザ、いずれも用いることができる。レーザ光は、チップ19の底面19bの近傍が溶け残るように、チップ19の側面19aにおけるスポット径を考慮してチップ19の内部の焦点の位置を調整する。これにより、電極母材18及びチップ19が溶け合ってなる溶接部21が形成され、溶接部21の内側であって軸線Oと交わる位置に、チップ19の一部が溶け残った残存部22が形成される。残存部22は全面が溶接部21に覆われる。
【0025】
チップ19の底面19bを電極母材18に密着させた状態で、軸線O方向にチップ19を加圧してレーザ溶接が行われるので、残存部22のうちチップ19の底面19bは、溶接部21の熱によって、チップ19の融点以下の温度条件で加圧されて溶接部21に接合される。従って、残存部22の界面23のうち電極母材18側の界面25は拡散接合面となる。
【0026】
レーザ溶接の条件(特にチップ19の溶融量に関する条件)を最適化することにより、貴金属の質量含有率P,Qを所定の条件を満たすようにできる。残存部22よりもチップ19に近い溶接部21(中点30)の貴金属の質量含有率Pが、残存部22よりも電極母材18に近い溶接部21(中点35)の貴金属の質量含有率Qより大きいので(P>Q)、チップ19に近い溶接部21の熱膨張率をチップ19の熱膨張率に近づけることができる。その結果、チップ19と溶接部21との界面26の熱応力を緩和できる。
【0027】
同様に、電極母材18に近い溶接部21の熱膨張率を電極母材18の熱膨張率に近づけることができるので、電極母材18と溶接部21との界面31の熱応力を緩和できる。界面26,31の熱応力を緩和することにより、界面26,31や界面26,31近傍のクラックの発生を抑制できる。その結果、クラックの発生に起因する酸化スケールの発生を抑制できるので、チップ19の剥離を抑制できる。
【0028】
さらに、溶接部21の中に存在する残存部22の界面25は、強固な溶接部21に応力緩和を発現し、溶接部21の軸線O方向の中央に生じるクラックを抑制する。即ち、界面25の接合強度は界面24,26,31の接合強度に比べて小さいので、溶接部21の中央の熱応力によって界面25の欠陥密度が増大し応力緩和が生じる。特に、界面25を拡散接合面にすることで、熱応力による欠陥を生じさせ易くすることができ、応力の緩和効果を増大できる。その結果、界面26,31や界面26,31近傍のクラックの発生、及び、溶接部21の中央のクラックの発生を抑制できるので、チップ19を剥離し難くできる。
【0029】
また、質量含有率P、Q,Rが(P−Q)/R≧0.2を満たすと、溶接部21に発生する熱応力を緩和する効果を向上できる。よって、チップ19をより剥離し難くできる。なお、溶接部21はチップ19及び電極母材18が溶け合ってなるので、(P−Q)/R<1である。
【実施例】
【0030】
本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0031】
(サンプルの作成)
チップは、直径0.8mm、高さ0.6mmの円柱状のイリジウム合金製のチップを用いた。チップの組成はRu:11wt%,Rh:8wt%,Ni:1wt%、残部はIr及び不可避不純物であった。電極母材はニッケル合金(インコネル600)(登録商標)製とした。チップを接合する電極母材の先端部は直径1.1mmの円柱状であった。
【0032】
電極母材(先端部)にチップを重ね合せた後、チップ及び電極母材の軸線方向に10N〜50Nの荷重を加えながらレーザ溶接した。レーザ溶接の出力、レーザ光の焦点の位置、チップの側面におけるスポット径および照射パターンを調整して、種々の中心電極(第1電極)を得た。X線透視装置を用いて軸線Oを含む中心電極の断面を非破壊観察し、溶接部の中に残存部が存在するものや存在しないものを抽出してサンプルとした。
【0033】
(冷熱試験)
各サンプルについて、電極母材の先端の温度が1000℃になるように2分間バーナで加熱した後、1分間かけて放冷することを1サイクルとして、1000サイクルを加える冷熱試験を行った。
【0034】
(評価方法)
冷熱試験後、各サンプルについて、軸線を含む研磨断面を作成した。金属顕微鏡を用いて溶接部の研磨断面を観察し、溶接部に存在するクラックの長さ(軸線と直交する方向の長さ)の総和を求めた。(クラックの長さの総和)/(チップの直径)×100(%)をクラック伸展率(%)とした。
【0035】
残存部が存在するサンプル(以下「本発明品」と称す)は、EPMAを用い、各研磨断面について、残存部の両側の溶接部に含まれる貴金属成分(Ir,Ru及びRh)の質量含有率P,Q、及び、チップに含まれる貴金属成分(Ir,Ru及びRh)の質量含有率Rを測定した。
【0036】
残存部が存在しないサンプル(以下「従来品」と称す)も各研磨断面についてEPMAを用い、溶接部に含まれる貴金属成分(Ir,Ru及びRh)の質量含有率P,Qと、チップに含まれる貴金属成分(Ir,Ru及びRh)の質量含有率Rと、を測定した。
【0037】
図4を参照して、従来品40の質量含有率P,Qの測定箇所を説明する。
図4は軸線Oを含む従来品40の断面図である。
図4に示すように、従来品40はチップ19が溶接部41を介して電極母材18に接合されている。
【0038】
従来品40では、まず、溶接部41とチップ19との界面42が軸線Oと交わる第1交点43と、溶接部41と電極母材18との界面44が軸線Oと交わる第2交点45と、を結ぶ線分46を引く。次いで、線分46を四等分する点47,48,49を求める。点47は線分46の中点である。点48は質量含有率Pの測定箇所であり、点49は質量含有率Qの測定箇所である。質量含有率は、各点を中心とする直径50μmの円形の範囲の平均値である。
【0039】
測定した質量含有率P,Q,Rから(P−Q)/Rの値を算出した。(P−Q)/Rの値とクラック伸展率との相関を
図5に示す。
図5は冷熱試験の結果を示す図である。
図5において、●は本発明品の結果であり、○は従来品の結果である。
【0040】
図5に示すように、本発明品(●)は従来品(○)に比べてクラック伸展率を小さくできることが確認された。本発明品は全て(P−Q)/R≧0.1なので、P>Qを満たす。従って、溶接部の中に残存部を存在させ、且つ、P>Qを満たすことにより、溶接部との界面の熱応力を緩和することができ、クラックを生じさせ難くできることが明らかである。
【0041】
本発明品は(P−Q)/Rの値が大きい方がクラックの伸展率を小さくできる。質量含有率Pと質量含有率Qとの差(P−Q)が大きい方がクラックの発生の抑制に有利なのは、残存部22(
図3参照)よりもチップ19側の溶接部21の熱膨張率をチップ19の熱膨張率に近づけられると共に、残存部22よりも電極母材18側の溶接部21の熱膨張率を電極母材18の熱膨張率に近づけられるからである。界面26,31の熱応力をそれぞれ小さくできるので、クラックの発生を抑制できる。
【0042】
特に(P−Q)/R≧0.2を満たすようにすることで、クラック伸展率を20%以下にできることがわかった。溶接部による応力緩和の効果を向上できるので、クラックの発生をより抑制し、チップを剥離し難くできる。
【0043】
この実施例ではイリジウム合金製のチップを用いてサンプルを作成し試験を行ったが、これに限られるものではなく、イリジウム以外の白金、ルテニウム、ロジウム等の貴金属またはこれらを主成分とする合金によって形成されるチップを用いた場合も同様に効果があると推察される。
【0044】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、電極母材18及びチップ19の形状や寸法、材質などは一例であり適宜設定できる。
【0045】
上記各実施の形態では、円柱状のチップ19を用いる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。チップ19の形状は楕円柱状、多角柱状など、適宜設定できる。この場合、チップ19の軸線Oは、チップ19の電極母材18との接合面の反対側の面の中心を通り、且つ、電極母材18のチップ19との接合面に直交する直線である。
【0046】
上記各実施の形態では、中心電極17を構成する電極母材18にチップ19を溶接する場合(中心電極17が第1電極の場合)について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。接地電極12を構成する電極母材13にチップ14を溶接する場合(接地電極12が第1電極の場合)に、上記各実施の形態を適用することは当然可能である。
【0047】
この場合、チップ14の形状は、円形や矩形等の板状など、種々のものを採用できる。円形や矩形等の板状のチップ14の場合、チップ14の軸線Oは、電極母材13との接合面の反対側の面の中心を通り、且つ、電極母材13のチップ14との接合面に直交する直線である。