(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6574740
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】磁気記録媒体用基板およびハードディスクドライブ
(51)【国際特許分類】
G11B 5/73 20060101AFI20190902BHJP
【FI】
G11B5/73
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-136290(P2016-136290)
(22)【出願日】2016年7月8日
(65)【公開番号】特開2018-5969(P2018-5969A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2019年4月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 功
(72)【発明者】
【氏名】杉本 公徳
【審査官】
中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2017−120680(JP,A)
【文献】
特開平05−089447(JP,A)
【文献】
国際公開第2016/068293(WO,A1)
【文献】
国際公開第2017/188320(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/73
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金基板の表面にNiP系めっき被膜を形成した磁気記録媒体用基板であって、
前記アルミニウム合金基板は、Siを9.5質量%以上11.0質量%以下の範囲内、Mnを0.45質量%以上0.90質量%以下の範囲内、Znを0.32質量%以上0.38質量%以下の範囲内、Srを0.01質量%以上0.05質量%以下の範囲内で含み、
前記アルミニウム合金基板の合金組織においてSi粒子の平均粒径が2μm以下であり、
前記NiP系めっき被膜の膜厚は7μm以上であり、
前記磁気記録媒体用基板は、外径が53mm以上であり、厚さが0.9mm以下であり、ヤング率(E)が79GPa以上であることを特徴とする磁気記録媒体用基板。
【請求項2】
前記アルミニウム合金基板は、Mgの含有量が0.01質量%以下か、または含まないことを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体用基板。
【請求項3】
前記磁気記録媒体用基板は、密度をρ(g/cm3)とした場合、E/ρが29以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気記録媒体用基板。
【請求項4】
アルミニウム合金基板の表面にNiP系めっき被膜を形成した磁気記録媒体用基板であって、
前記NiP系めっき被膜の膜厚は7μm以上であり、
前記磁気記録媒体用基板は、ヤング率をE(GPa)、密度をρ(g/cm3)とした場合、E/ρが29以上であることを特徴とする磁気記録媒体用基板。
【請求項5】
前記ヤング率が79GPa以上87GPa以下の範囲内、前記密度が2.7g/cm3以上3.0g/cm3以下の範囲内であることを特徴とする請求項4に記載の磁気記録媒体用基板。
【請求項6】
前記磁気記録媒体用基板は、外径が53mm以上であり、厚さが0.9mm以下であることを特徴とする請求項4または5に記載の磁気記録媒体用基板。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載の磁気記録媒体用基板を用いたハードディスクドライブであって、
前記ハードディスクドライブは、6枚以上の前記磁気記録媒体用基板を用いていることを特徴とするハードディスクドライブ。
【請求項8】
前記ハードディスクドライブにおけるハードディスクドライブケースの内部が大気であることを特徴とする請求項7に記載のハードディスクドライブ。
【請求項9】
前記ハードディスクドライブは、3.5インチ規格化ハードディスクドライブであることを特徴とする請求項7または8に記載のハードディスクドライブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体用基板およびハードディスクドライブに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハードディスクドライブに用いられる磁気記録媒体について、その記録密度の著しい向上が図られつつある。特に、MR(magneto resistive)ヘッドやPRML(Partial Response Maximum Likelihood)技術の導入以来、面記録密度の上昇は更に激しさを増している。
【0003】
また、近年のインタ−ネット網の発展やビッグデータの活用の拡大から、データセンターにおけるデータ蓄積量も増大を続け、そしてデータセンターのスペース上の問題から、単位体積当たりの記憶容量を高める必要性が生じている。すなわち、規格化されたハードディスクドライブ一台当たりの記憶容量を高めるため、磁気記録媒体一枚当たりの記憶容量を高めることに加え、ドライブケースの内部に納める磁気記録媒体の枚数を増やす試みが行われている。
【0004】
磁気記録媒体用基板としては、主に、アルミニウム合金基板とガラス基板が用いられている。このうち、アルミニウム合金基板は、ガラス基板に比べ靱性が高く、製造が容易である特徴を有し、比較的径の大きい磁気記録媒体に用いられている。通常の3.5インチ規格化ハードディスクドライブの磁気記録媒体に用いられるアルミニウム合金基板の板厚は1.27mmで、ドライブケースの内部には最大で5枚のアルミニウム合金基板が用いられている。
【0005】
ドライブケースの内部に納める磁気記録媒体の枚数を増やすため、磁気記録媒体に用いる基板の板厚を薄くすることが試みられている。しかしながら、基板の板厚を薄くした場合、アルミニウム合金基板はガラス基板に比べフラッタリングが生じやすい。フラッタリングとは、磁気記録媒体を高速回転させた場合に生ずる磁気記録媒体のばたつきであり、このフラッタリングが生ずるとハードディスクドライブにおける安定した読み取りが困難になる。
【0006】
このようなフラッタリングを抑制するためには、例えば、ガラス基板においては、磁気記録媒体用基板の材料としてヤング率の高い材料を使用することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
また、3.5インチ規格化ハードディスクドライブのドライブケースの内部にヘリウムガスを充填することで基板のフラッタリングを低減し、これによりアルミニウム合金基板の板厚を薄くし、ドライブケースの内部に6枚以上のアルミニウム合金基板を収納することが行われている。
【0008】
アルミニウム合金基板は、一般的には次の工程によって製造される。先ず、厚さ2mm以下程度のアルミニウム合金板をドーナツ状に打ち抜き加工して所望の寸法の基板にする。次に、打ち抜かれた基板に対して内外径の面取り加工、データ面の旋削加工を施した後、旋盤加工後の表面粗さやうねりを下げるために、砥石による研削加工を行う。その後、表面硬さの付与と表面欠陥抑制の目的から、基板表面にNiPめっきを施す。次に、このNiPめっき被膜が形成された基板の両面(データ面)に対して研磨加工を施す。磁気記録媒体用基板は大量生産品であり、また高いコストパフォーマンスが求められるため、それに用いられるアルミニウム合金には、高い機械加工性と廉価性が求められる。
【0009】
特許文献2には、優れた切削性を有するとともに、切削工具の摩耗やチッピング等の損傷を抑制し、さらに良好なアルマイト処理性を有するアルミニウム合金として、Mg:0.3〜6質量%、Si:0.3〜10質量%、Zn:0.05〜1質量%およびSr:0.001〜0.3質量%を含み、残部がAlおよび不純物からなる材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2015−26414号公報
【特許文献2】特開2009−24265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような従来の事情に鑑みて提案されたものであり、規格化されたハードディスクドライブケースに納める磁気記録媒体の枚数を増やすことを可能とする、薄板化に対応可能な、フラッタリングが少なく機械加工性に優れた磁気記録媒体用基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本実施の形態に一観点によれば、アルミニウム合金基板の表面にNiP系めっき被膜を形成した磁気記録媒体用基板であって、前記アルミニウム合金基板は、Siを9.5質量%以上11.0質量%以下の範囲内、Mnを0.45質量%以上0.90質量%以下の範囲内、Znを0.32質量%以上0.38質量%以下の範囲内、Srを0.01質量%以上0.05質量%以下の範囲内で含み、前記アルミニウム合金基板の合金組織においてSi粒子の平均粒径が2μm以下であり、前記NiP系めっき被膜の膜厚は7μm以上であり、前記磁気記録媒体用基板は、外径が53mm以上であり、厚さが0.9mm以下であり、ヤング率(E)が79GPa以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る磁気記録媒体用基板は、フラッタリングが抑えられるため薄板化が可能であり、規格化されたハードディスクドライブケースの内部に納められる磁気記録媒体の枚数を増やすことにより高記録容量のハードディスクドライブを提供可能とする効果を有する。
【0014】
また、本発明に係る磁気記録媒体用基板は、機械加工性が高く廉価で製造することが可能であるため、高記録容量のハードディスクドライブのビット単価を下げることができる。
【0015】
また、本発明に係る磁気記録媒体用基板は、大気中でのフラッタリングが抑えられるため、ハードディスクドライブケースの内部にヘリウム等の低分子量のガスを封入する必要がなくなり、高記録容量のハードディスクドライブの製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明を適用した磁気記録媒体用基板の製造工程を説明するための斜視図
【
図2】本発明の磁気記録媒体の一例を示す断面模式図
【
図3】本発明のハードディスクドライブの一例を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態に係る磁気記録媒体用基板について詳細に説明する。
【0018】
本実施の形態における磁気記録媒体用基板は、アルミニウム合金基板の表面にNiP系めっき被膜を形成したものであって、アルミニウム合金基板は、Siを9.5質量%以上11.0質量%以下の範囲内、Mnを0.45質量%以上0.90質量%以下の範囲内、Znを0.32質量%以上0.38質量%以下の範囲内、Srを0.01質量%以上0.05質量%以下の範囲内で含み、アルミニウム合金基板の合金組織においてSi粒子の平均粒径が2μm以下であり、NiP系めっき被膜の膜厚は
7μm以上、より好ましくは10μm以上であり、磁気記録媒体用基板は、外径が53mm以上であり、厚さが0.9mm以下であり、ヤング率(E)が79GPa以上であることを特徴とする。
【0019】
本実施の形態における磁気記録媒体用基板は、中心に開口部を有する円盤状のアルミニウム合金基板の表面にNiP系めっき被膜を形成した磁気記録媒体用基板である。そして、この磁気記録媒体用基板を用いた磁気記録媒体は、この磁気記録媒体用基板の面上に、磁性層、保護層及び潤滑膜等を順次積層したものである。また、この磁気記録媒体を用いたハードディスクドライブは、この磁気記録媒体の中心部をスピンドルモータの回転軸に取り付けて、スピンドルモータにより回転駆動される磁気記録媒体の面上を磁気ヘッドが浮上走行しながら、磁気記録媒体に対して情報の書き込み又は読み出しを行う。
【0020】
ハードディスクドライブでは、磁気記録媒体を5000rpm以上で高速回転させるため、磁気記録媒体用基板の機械的特性が低いとばたつき(フラッタリング)が生じ、ハードディスクドライブにおける安定した読み取りが困難になる。本願発明者は、この磁気記録媒体用基板のフラッタリングと、ヤング率および密度には密接な関係があり、磁気記録媒体のヤング率を高め、また密度を下げることでフラッタリングを低減できること、そして特に、磁気記録媒体用基板のヤング率を79GPa以上とすることで、外径は53mm以上、厚さが0.9mm以下の磁気記録媒体を製造することが可能となることを見出した。
【0021】
本実施の形態における磁気記録媒体用基板であるアルミニウム合金基板組成は、Siを9.5質量%以上11.0質量%以下の範囲内、好ましくは9.7質量%以上10.4質量%以下の範囲内、Mnを0.45質量%以上0.90質量%以下の範囲内、好ましくは0.47質量%以上0.80質量%以下の範囲内、Znを0.32質量%以上0.38質量%以下の範囲内、好ましくは0.33質量%以上0.37質量%以下の範囲内、Srを0.01質量%以上0.05質量%以下の範囲内、好ましくは0.02質量%以上0.04質量%以下の範囲内で含み、合金組織においてSi粒子の平均粒径が2μm以下、好ましくは1.7μm以下であることを特徴とする。本実施の形態におけるアルミニウム合金基板は、Si、Mn、ZnおよびSrの4元素は必須の添加元素であり、その他の適宜加える添加元素、不可避不純物、残部Alによって構成される。
【0022】
本実施の形態におけるアルミニウム合金基板組成はSiを多量に含むため、アルミニウム合金基板のヤング率を飛躍的に高めることが可能である。しかしながら、Siを多量に含む合金内部にはSi粒子が多量に分散しているため、製造条件に応じてこれらのSi粒子が最終的には5〜10μmのサイズにまで成長する場合がある。そして、アルミニウム合金基板内にこのようなSi粒子が存在すると、その表面に設けるNiP系めっき被膜が均一に成膜できず、めっき膜の膜質が不均一になる場合があった。
【0023】
そのような問題点を解決するため、本実施の形態においてはアルミニウム合金基板組成にSrを添加し、これによりSi粒子を球状化および微細化させ、その表面に設けるNiP系めっき被膜を均一なものとする。また、本実施の形態におけるSi粒子の球状化および微細化は、アルミニウム合金の機械加工性を高める効果を有する。
【0024】
以下、各添加元素について詳細に説明する。
【0025】
Siは、Al中への固溶量が少ないために化合物形成に要する量を除いて、Siの単体粒子としてマトリックス中に分散される。Si粒子の分散した合金組織においては、切削工具によるSi粒子の粉砕、あるいはSi粒子とAl母相との界面剥離により切屑が速やかに分断し、切削性が向上する。また、必須元素として添加されるSr、あるいは任意に添加されるNa、Caによって、Si粒子は球状化されるとともに微細化され、このことによっても切削性が向上する。Si含有量は、9.5質量%未満では合金のヤング率を高める効果が低下し、また切屑分断性向上効果に乏しく、一方、11.0質量%を越えると切屑分断性は向上するものの、切削工具の摩耗が著しくなって磁気記録媒体用基板の生産性が低下する。
【0026】
Mnは、合金マトリックス中に微細析出し、機械的性質を向上させる効果がある。Mnの含有量は、0.45質量%未満では効果が乏しく、0.90質量%を超えると効果が飽和して機械的性質が向上しなくなる。
【0027】
Znは、合金マトリックス中に固溶されるとともに、他の添加物と結合して析出物としてマトリックス中に分散される。このため、アルミニウム合金の機械的特性を向上させ、他の固溶型元素との相乗効果により、合金の切削性を向上させる。Zn含有量は、0.32質量%未満では前記効果が乏しく、一方、0.38質量%を越えると、耐食性が低下するおそれがある。
【0028】
Srは、Siと共存することで、凝固時の共晶Si、初晶Siを直径2μm以下、好ましくは1.7μm以下に球状化させるとともに微細化させる。このため、間接的に切屑分断性を良好にして切削性を向上させるとともに、切削工具の摩耗や損傷を抑制する効果がある。また、連続鋳造、押出、引抜き等の工程でSi粒子を均一かつ微細に分散させ、一層切削性を向上させる効果がある。加えて、アルミニウム合金基板表面に設けるNiP系めっき被膜の組織が均一となり、そして、めっき膜の膜質も均一となる。すなわち、Siを多量に含む従来のアルミ合金を磁気記録媒体用基板に用いた場合、Si粒子の表面にはNiP系めっきが形成されにくいため、その個所にくぼみやピット等の欠陥が生じやすかった。本発明ではそのような従来の問題点を解決し、均一なめっき被膜を有する磁気記録媒体用基板を提供可能となる。
【0029】
尚、Sr含有量は、0.01質量%未満では前記効果に乏しく、またSi粒子が球状化されず鋭角部が生じることで切削工具の摩耗が顕著になり、一方、0.05質量%を越えると前記効果が飽和して、多量添加する意味が乏しくなる。また、初晶SrAl
4が晶出して、NiP系めっきが形成されにくいため、その個所にくぼみやピット等の欠陥が生じやすくなる。
【0030】
本実施の形態におけるアルミニウム合金基板は、Mgの含有量を0.01質量%以下か、または含有させないのが好ましい。本実施の形態におけるアルミニウム合金は、いわゆる4000系のアルミシリコン合金に分類され、そして、4000系のアルミシリコン合金ではMgを添加することが技術常識となっている。これに対し、本実施の形態におけるアルミニウム合金基板では、Mgの含有量を0.01質量%以下か、または含有させないものとするが、これによりSr添加の効果がより有効に働き、共晶Si、初晶Siが球状するとともに微細化する効果がある。
【0031】
その他の適宜加える添加元素としては、Fe、Cu、Cr、Ti、Pb、Bi、Zr、B、V、Na、Caがあり、これらの元素の添加量は各々1質量%以下か、もしくは添加せず、また、これらの元素の添加量の総量は4質量%以下とする。これらの元素の添加効果としては、4000系のアルミシリコン合金で一般的に知られているように、鋳造性(流動性、引け特性、耐熱間割れ性)の改善、機械的性質の向上、機械加工性(切削性)の向上、結晶粒の微細化がある。一方で、これらの添加元素の添加量が各々において1質量%を超えるか、または総量で4質量%を超えると、必須添加元素であるSi、Mn、Zn、Srの添加効果が低下するので好ましくない。特に、必須添加元素の添加効果を強調したい場合は、適宜加える添加元素の各々の添加量は、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下とする。
【0032】
本実施の形態におけるアルミニウム合金基板は公知の方法で製造することができる。例えば、成分調整した合金材料を加熱溶融し、これを鋳造後、圧延して板材にし、その後、規定の寸法の中央に開口部を有する円盤状板に加工する。また、円盤状板への加工工程の前後に加熱、焼鈍工程を設けることで、基板に内在する歪を緩和し、また基板のヤング率を適正な範囲内に調整することができる。
【0033】
本実施の形態におけるアルミニウム合金基板の外径は53mm以上とする。前述のように、本実施の形態におけるアルミニウム合金基板は、規格化されたハードディスクドライブケースに納める磁気記録媒体の枚数を増やす目的で使用されるものであるから、規格化されたハードディスクドライブケース、すなわち、2.5インチハードディスクドライブ、3.5インチハードディスクドライブ等に収納できる必要がある。そして、2.5インチハードディスクドライブでは最大直径で約67mm、3.5インチハードディスクドライブでは最大直径で約97mm程度の基板が用いられるため、本実施の形態におけるアルミニウム合金基板の外径は少なくとも53mm以上とする必要がある。
【0034】
また、本実施の形態におけるアルミニウム合金基板は、より高容量である、3.5インチハードディスクドライブに用いるのが特に好ましい。通常の3.5インチ規格化ハードディスクドライブには、板厚1.27mmのメディアが最大で5枚収納されている。これに対し、本実施の形態における磁気記録媒体用基板は、板厚を0.9mm以下とできるため、メディアを6枚以上収納することが可能となる。また、本実施の形態における磁気記録媒体用基板は、フラッタリングに対する耐性が高いため、大気雰囲気での使用に耐えられ、ハードディスクドライブケースの内部にヘリウム等の低分子量のガスを封入する必要がなくなり、高記録容量のハードディスクドライブの製造コストを低減することができる。
【0035】
本実施の形態における磁気記録媒体用基板は、その表面に膜厚が7μm以上、より好ましくは10μm以上のNiP系めっき被膜を形成する。通常の磁気記録媒体用基板に使用されるNiP系めっき被膜の膜厚は7μm未満であるが、本実施の形態においてはNiP系めっき被膜の膜厚を高め、これにより磁気記録媒体用基板のヤング率を79GPa以上に高めている。
【0036】
本実施の形態におけるNiP系めっき被膜として、NiP合金を使用し、このNiP合金はPを10質量%以上15質量%以下の範囲内、不可避不純物、残部Niで構成するのが好ましい。NiP系めっき被膜をこのような構成とすることで、磁気記録媒体用基板のヤング率を、めっき前の基板に比べ高めることができる。
【0037】
また、本実施の形態においては、NiP系めっき被膜としてNiWP系合金を使用し、このNiWP系合金はWを15質量%以上22質量%以下の範囲内、Pを3質量%以上10質量%以下の範囲内で含み、その他の適宜加える添加元素、不可避不純物、残部Niで構成するのが好ましい。NiP系めっき被膜としてこのような高硬度材料とすることで磁気記録媒体用基板のヤング率をさらに高めることができる。
【0038】
NiP系めっき被膜は従来から使用されている方法を用いて形成することができる。また、NiWP系めっき被膜についても、NiP系めっきと同様の方法を用いて形成することができる。例えば、NiWP系めっき被膜についてはNiPめっき液にW塩を添加させためっき液を用いることができる。W塩としては、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸カリウム、タングステン酸アンモニウム等を用いることができる。
【0039】
めっきは無電解めっきにより行うのが好ましい。めっき層の厚さは、めっき液への浸漬時間、めっき液の温度によって調整することが可能である。めっき時の条件は、特に限定されるものではないが、めっき浴のpHを5.0〜8.6とし、浴温を70〜100℃、好ましくは85〜95℃とし、浸漬時間を90〜150分間とするのが好ましい。
【0040】
めっき後の基板に加熱処理を施すのが好ましい。特に、加熱処理を300℃以上とすることで、めっき膜の硬度をより高め、もって磁気記録媒体用基板のヤング率をさらに高めることができる。
【0041】
本実施の形態における磁気記録媒体用基板は、密度をρ(g/cm
3)とした場合、E/ρを29以上とするのが好ましい。
【0042】
前述のように、本願発明者は、磁気記録媒体用基板のフラッタリングと、ヤング率Eおよび密度ρには密接な関係があり、磁気記録媒体のヤング率を高め、また密度を下げることでフラッタリングを低減できることを見出した。ここで従来の、磁気記録媒体用アルミニウム基板には、5000系アルミニウム合金が使用される場合が多いが、その密度は約2.8g/cm
3、ヤング率は約74GPaで、E/ρは約26.4となる。一方で、本実施の形態における磁気記録媒体用基板は、ヤング率を79GPa以上87GPa以下の範囲内とし、密度を2.7g/cm
3以上3.0g/cm
3以下の範囲内のものとし、これにより、E/ρを29以上とする。E/ρを29以上としたNiP系めっき被膜の磁気記録媒体用アルミニウム基板は、従来では得られなかったものであり、ハードディスクドライブに使用した場合、フラッタリングが低く、極めて優れた特性が得られる。
【0043】
本実施の形態における磁気記録媒体用基板の製造方法では、アルミニウム合金基板にめっきを施した後に、この基板の表面に対して研磨加工を施す。また、本実施の形態においては、より平滑で、傷が少ないといった表面品質の向上と生産性の向上との両立の観点から、複数の独立した研磨盤を用いた2段階以上の研磨工程を有する多段階研磨方式を採用するのが好ましい。
【0044】
具体的には、基板の表面を研磨する工程として、第1の研磨盤を用いてアルミナ砥粒を含む研磨液を供給しながら研磨する粗研磨工程と、磁気記録媒体用基板を洗浄した後に、第2の研磨盤を用いてコロイダルシリカ砥粒を含む研磨液を供給しながら研磨する仕上げ研磨工程を行う。
【0045】
ここで、第1及び第2の研磨盤は、例えば
図1に示すように、上下一対の定盤11、12を備え、互いに逆向きに回転する定盤11、12の間で複数枚の基板Wを挟み込みながら、これら基板Wの両面を定盤11、12に設けられた研磨パッド13により研磨するものである。
【0046】
本実施の形態における磁気記録媒体は、例えば
図2に示すように、磁気記録媒体用アルミニウム基板1上に、磁性層2と保護層3と潤滑剤層4とがこの順序で積層された磁気記録媒体111である。また本実施の形態における磁気記録媒体には、公知の積層構造を用いることができる。
【0047】
本実施の形態におけるハードディスクドライブは、例えば、
図3に示す構造を用いることができる。すなわち、本発明の実施形態であるハードディスクドライブ101は、磁気記録媒体111と、磁気記録媒体111を記録方向に駆動する媒体駆動部123と、記録部と再生部からなる磁気ヘッド124と、磁気ヘッド124を磁気記録媒体111に対して相対運動させるヘッド移動部126と、磁気ヘッド124からの記録再生信号の処理を行う記録再生信号処理部128とを具備したものである。
【0048】
本実施の形態における磁気記録媒体用基板は、フラッタリングが抑えられるため薄板化が可能であり、規格化されたハードディスクドライブケースの内部に納められる磁気記録媒体111の枚数を増やすことにより高記録容量のハードディスクドライブ101を提供可能とする効果を有する。
【0049】
また、本実施の形態における磁気記録媒体用基板は、大気中でのフラッタリングが抑えられるため、ハードディスクドライブケースの内部にヘリウム等の低分子量のガスを封入する必要がなくなり、高記録容量のハードディスクドライブ101の製造コストを低減することができる。
【0050】
また、本実施の形態におけるハードディスクドライブ101は、特に、高記録容量の3.5インチ規格化ハードディスクドライブに用いるのが好ましい。
【実施例】
【0051】
(実施例1〜12、比較例1〜9)
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0052】
(アルミニウム合金基板の製造)
表1に示す組成(アルミニウム合金組成)で成分調整した合金材料をダイレクトチル鋳造により製造した。なお、鋳造速度80mm/分とした。製造した鋳塊を460℃で5時間保持して均質化処理した後、圧延して厚さ1.2mmの板材とした。その後、この板材を中央に開口部を有する外径97mmの円盤状に打ち抜き、380℃で1時間の焼鈍した後、表面、端面をダイヤモンドバイトにより旋削加工し、外径96mm、表1に示す厚さの基板とした。得られたアルミニウム合金基板の結晶組織を観察し、Si粒子径を測定した。実施例1〜12、比較例1〜9における測定結果を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
(無電解めっき膜の形成)
アルミニウム合金基板の表面にNi
88P
12の組成(めっき膜組成)で、表1に示す膜厚のめっき膜を形成した。めっき後の加熱温度は、300℃、3分間とした。
【0055】
(研磨加工)
研磨盤には、上下一対の定盤を備える3段のラッピングマシーンを用いて行った。このときの研磨パッドには、スウエードタイプ(Filwel製)を用いた。そして、第1段目の研磨にはD50が0.5μmのアルミナ砥粒を、第2段目の研磨にはD50が30nmのコロイダルシリカ砥粒を、第3段目の研磨にはD50が10nmのコロイダルシリカ砥粒を用いた。研磨時間は各段5分間とした。
【0056】
(評価)
製造した磁気記録媒体用基板のヤング率を測定した。ヤング率の測定は、日本工業規格JIS2280−1993に基づいて常温で行った。試験片は、長さ50mm、幅10mm、厚さ1.0mmの直方体とした。
【0057】
また、表面を1000倍の微分干渉型光学顕微鏡で観察し、その平坦性からアルミニウム合金基板の機械加工性を評価した。機械加工性の評価は、優れている、使用可能範囲、劣っている、の3段階で評価した。その結果を表1に示す。なお、表1では、優れているを「◎」、使用可能範囲を「○」、劣っているを「×」で示す。表1より、機械加工性は、実施例1〜4における磁気記録媒体用基板は優れており、実施例5〜12における磁気記録媒体用基板は使用可能範囲であり、比較例1〜9における磁気記録媒体用基板は劣っていた。
【0058】
また、製造した磁気記録媒体用基板を10000rpmで回転させ、磁気記録媒体用基板の最外周面で生ずるフラッタリングを、He−Neレーザー変位計を用いて測定した。測定結果を表1に示す。実施例1〜12における磁気記録媒体用基板は、フラッタリングは3.5μm以下であり、比較例1〜9における磁気記録媒体用基板は、フラッタリングは3.6μm以上であり、実施例1〜12における磁気記録媒体用基板は、比較例1〜9における磁気記録媒体用基板よりもフラッタリングが低かった。
【符号の説明】
【0059】
11 定盤
12 定盤
13 研磨パッド
W 基板