特許第6574773号(P6574773)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許65747731,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体の光学異性体、及びそれを用いた医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6574773
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体の光学異性体、及びそれを用いた医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   C07D 417/06 20060101AFI20190902BHJP
   A61K 31/554 20060101ALI20190902BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20190902BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20190902BHJP
   A61P 9/06 20060101ALI20190902BHJP
【FI】
   C07D417/06CSP
   A61K31/554
   A61P9/00
   A61P9/04
   A61P9/06
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-538270(P2016-538270)
(86)(22)【出願日】2015年7月17日
(86)【国際出願番号】JP2015070488
(87)【国際公開番号】WO2016017448
(87)【国際公開日】20160204
【審査請求日】2018年5月15日
(31)【優先権主張番号】特願2014-155068(P2014-155068)
(32)【優先日】2014年7月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504464667
【氏名又は名称】株式会社アエタスファルマ
(73)【特許権者】
【識別番号】599138320
【氏名又は名称】金子 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100189131
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 拓郎
(74)【代理人】
【識別番号】100182486
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 正展
(74)【代理人】
【識別番号】100158872
【弁理士】
【氏名又は名称】牛山 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100147289
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 裕子
(72)【発明者】
【氏名】金子 昇
【審査官】 吉海 周
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−542624(JP,A)
【文献】 特表平11−508590(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/114562(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/098080(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式[II]
【化1】
(式中、Rは水素原子を表わす。*は光学異性体であることを表す。)
で示される1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体の光学異性体第1成分又はその薬学的に許容される塩であって、
ここで、前記1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体の光学異性体第1成分とは、メタノール/アセトニトリル/ジエチルアミン=90/10/0.1(v/v)の移動相中でキラルカラムを用いてラセミ体から分離される2つの光学異性体のうちの、先に流出してくる光学異性体である、
前記1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体の光学異性体第1成分又はその薬学的に許容される塩
【請求項2】
薬学的に許容される塩が、塩酸塩、又はクエン酸塩である、請求項1に記載の1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシドの光学異性体第1成分又はその薬学的に許容される塩。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体の光学異性体第1成分又はその薬学的に許容される塩、及び製薬学的に許容される担体を含有してなる医薬組成物。
【請求項4】
医薬組成物が、心疾患の治療薬又は予防薬である請求項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
心疾患が、不整脈、心不全である請求項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
不整脈が、心房細動である請求項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
医薬組成物が、血行動態を改善することにより、不整脈と心不全を改善させる治療薬又は予防薬である請求項又はに記載の医薬組成物。
【請求項8】
次の一般式[I]
【化2】
(式中、Rは水素原子を表わす。)
で示される1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体を、メタノール/アセトニトリル/ジエチルアミン=90/10/0.1(v/v)の移動相とキラルカラムを用いて分離し、分離される2つの光学異性体のうち先に流出してくる光学異性体を分取してなる、次の一般式[II]
【化3】
(式中、Rは水素原子を表わす。*は光学異性体であることを表す。)
で示される1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体の光学異性体第1成分を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明の一般式[I]で表される1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体の光学異性体又はその薬学的に許容しうる塩、及びそれを用いた医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
不整脈は徐脈性と頻脈性に分類される。頻脈性不整脈はさらに、発生部位より心房性と心室性に分類される。心房性の頻脈性不整脈には、心房細動、心房粗動、上室性頻拍、心房性期外収縮等がある。心室性の頻脈性不整脈には、心室細動、心室粗動、心室性頻拍、心室性期外収縮がある。
抗不整脈剤はこれら頻脈性不整脈の治療及び予防に使用されている。
現在、抗不整脈薬の分類はヴォーン・ウィリアムズ分類(Vaughan-Williams分類)や、受容体や標的分子を基盤として分けたSicilian Gambit分類が用いられている。
ヴォーン・ウィリアムズ分類のクラスI群はNaチャネル遮断薬で、活動電位の最大立ち上がり速度を減少させるものである。I群はさらに3群に分けられ、Ia群は活動電位持続時間を延長させるもので、キニジン、プロカインアミド、ジソピラミドなどがある。Ib群は活動電位持続時間を短縮するものでリドカインなどがある。Ic群は活動電位の最大立ち上がり速度を減少させ、不応期を延長させるNaチャネル遮断薬である。フレカイニド、プロパフェノン、ピルジカイニドなどがある。クラスII群はβ遮断薬である。クラスIII群はKチャネル遮断薬で、電位依存性Kチャネルを抑制することにより、活動電位持続時間の延長、有効不応期の延長を起こす。Kチャネル遮断薬にはアミオダロン、ソタロール、ニフェカラントなどがある。クラスIV群はCa拮抗薬である。
【0003】
頻脈性不整脈の中でも、心房細動は、心房が1分間に250〜400回又はそれ以上の高頻度で不規則に収縮する代表的な不整脈である。心房細動は心不全と心源性脳梗塞を惹起させる最大の危険因子であり、心房細動を正常調律へ戻すことと、その発生を予防することは、喫緊の課題となっている(非特許文献1及び2参照)。
心房細動は、高血圧、心筋梗塞、心不全等を基礎疾患として発症することは良く知られているが、器質的な心臓疾患がなくても加齢に伴い発症する。60歳台から急激にその発症頻度が増し、80歳以上では、その発症頻度は約10%に達するとされている。日本では、年間、約70万人が罹患し、欧米での罹患患者数は750万人と推定されている。
【0004】
心房細動の治療薬として、クラスIa及びIc群、並びにクラスIII群から選択される薬剤が使用される。これらの薬剤の問題点は心房細動から洞調律へ戻す心房細動停止率が30-40%と低いことである。さらに、クラスIa及びIc群から選択される薬剤では、心拍数、血圧を低下させ、心機能を低下させる。また、クラスIa及びIc群、並びにクラスIII群から選択される薬剤は、心室の有効不応期を延長させ、トルサドポアン(Torsades de Pointes:心室頻拍)や心室細動などの重篤な不整脈を発生させる。大規模臨床試験CASTにおいて、クラスIc群の薬剤が、心筋梗塞後の不整脈患者で,プラセボに比べ、死亡例を逆に増加させることがわかり(非特許文献3参照)、虚血性心疾患の患者の不整脈に対して、その使用は禁忌となっている。
このように抗不整脈剤による心拍や血圧の低下、心筋収縮、弛緩機能の抑制や、重篤な催不整脈作用は、心房細動の薬物治療の大きな障害となっている。
【0005】
心房細動が発生すると、心房から心室への血流流入が抑制され、心機能が低下するため、心不全を惹起させることも少なくない。さらに心房細動は心不全を基礎疾患として発生する場合が少なくなく、また、治療薬そのものが心不全を惹起させるため、心機能の低下した心房細動患者の薬物治療は、極めて困難である。特に、心房細動による不整脈治療の場合、心室に影響を与えずに心房のみへの強い作用を有する薬剤は未だ見いだされていないため、例えば、心房有効不応期のみを延ばそうとしても、同時に心室にも作用して心室不応期も延びてしまうことになる。そのため、効き目の強い心房細動による不整脈治療薬ほど、副作用としての心室細動などの強い催不整脈作用を伴うことになり、現在、心房細動を選択的に高率的に正常洞調律 (NSR:Normal Sinus Rhythm)へ治すことができ、かつ心機能に影響を与えず、かつ、催不整脈作用のない薬剤は見いだされていない。
【0006】
心房細動もしくは心房細胞における不整脈の予防又は治療薬としては、心房選択制Kチャネル遮断作用を有するジアゼピン化合物(特許文献1参照)、5−HT受容体アンタゴニスト(特許文献2及び3参照)、p38阻害剤化合物(特許文献4参照)、及びパンテニルドコサヘキサエノアート(特許文献5参照)などが報告されている。また、本発明者らは、心抑制作用を伴うことなく心筋のKD(Kinetic cell death)抑制作用を有する心筋壊死や急性心筋梗塞に有効な4−[3−(4−ベンジルピペリジン−1−イル)プロピオニル]−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン(特許文献6及び7参照)を報告してきた。
しかし、これらの物質が、いずれも正常な洞調律の回復効果や心房の有効不応期増大効果などの優れた抗心房細動作用を有していることについては述べられているが、副作用となる催不整脈作用防止効果については言及されていない。
【0007】
4−[3−(4−ベンジルピペリジン−1−イル)プロピオニル]−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン及びその誘導体(特許文献6及び7参照)に関しては多くの報告がなされてきており、例えば、制ガン剤に対する効果増強作用を有すること(特許文献8参照)、リアノジン受容体機能の改善及び/又は安定化により、筋小胞体からのCa2+リークを抑制する作用を有すること(特許文献9参照)、筋弛緩促進薬、左室拡張障害の治療薬、狭心症の治療薬、急性肺気腫の治療薬、微小循環系の血流改善薬、高血圧の治療薬、心室性頻拍の治療薬、トルサドポアンの治療薬などとして有用であること(特許文献10参照)などが報告されてきている。
【0008】
最近、本発明者らが開発してきた4−[3−(4−ベンジルピペリジン−1−イル)プロピオニル]−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド(特許文献11参照)についても、心不全や高血圧、拡張障害、狭心症や心筋梗塞、高血圧症、または虚血性心疾患、心不全、心室性不整脈と共に、心房性不整脈において認められる心筋弛緩障害の治療薬または予防薬として有用であることが見いだされている。しかし、特に心房細動など心房性不整脈への選択的な作用は確認されておらず、むしろ心室への強い作用が確認されていることから、仮に心房細動治療に用いた場合には催不整脈作用はまぬがれないことが予想される。
このように、従来の心房細動又は心房性不整脈の治療薬として提案された薬剤は、1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体も含め、抗心房細動作用については高い有効性が見いだされていたが、心房細動への有効性以上にむしろ心室への作用が強い場合が多く、催不整脈作用が無視できないという問題点があった。
以上のように、心房細動を正常な洞調律へ回復することができ、かつ催不整脈作用のない薬剤の提供が強く望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2012−184225号公報
【特許文献2】特開2003−267890号公報
【特許文献3】特開2007−145869号公報
【特許文献4】特表2009−513713号公報
【特許文献5】特表2013−538197号公報
【特許文献6】WO92/12148号公報
【特許文献7】特開2000−247889号公報
【特許文献8】特開2001−31571号公報
【特許文献9】特開2003−95977号公報
【特許文献10】WO2005/105793号公報
【特許文献11】特許第4808825号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】日本循環器学会、日本小児循環器学会、日本心臓病学会、日本心電学会、日本不整脈学会合同研究班「不整脈薬物治療に関するガイドライン」(2009年改訂版)
【非特許文献2】日本循環器学会、日本心臓病学会、日本心電学会、日本不整脈学会合同研究班「心房細動治療(薬物)ガイドライン」(2013年改訂版)
【非特許文献3】Echt DS et al., N Engl J Med 324(12):781-788(1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、心筋の収縮機能、弛緩機能を促進するという有用な薬理作用を有する新規な化合物、及びそれを用いた不整脈や心不全などの心疾患の治療薬及び/又は予防薬として有用な医薬組成物を提供する。
また、本発明は、心拍、血圧を緩やかに増加させ、心機能の改善作用を有する心房細動治療薬として有用であり、特に、心房の有効不応期のみを延長し、心室の有効不応期を延長しないために、心室性不整脈を惹起させない心房性不整脈用治療薬として有用な医薬組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、次の一般式[I]
【0013】
【化1】
【0014】
(式中、Rは水素原子又は水酸基を表す。)
で表される4−[3−(4−ベンジルピペリジン−1−イル)プロピオニル]−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド及びその誘導体について各種の薬理作用について検討してきた。
そして、一般式[I]の1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体化合物に、心筋拡張機能を増強させる作用、緩やかに冠動脈を拡張させる作用、緩やかに心拍数を低下させる性質を有し、心筋への酸素供給量を増加させると共に心筋の酸素消費量を減らす性質を併せ持っていることを見いだしており、従来、治療や予防が難しいとされていた、高齢者や高血圧、左室心肥大の左室拡張障害を有する患者や、心不全及び拡張不全による心不全の患者、また、狭心症又は心筋梗塞の患者に対しても安全に用いることができ、さらに、心筋弛緩障害、高血圧症などを改善する治療薬又は予防薬として有用であるなどを特許文献11において報告してきた。
ところで、一般式[I]で示される化合物は、S−オキサイドの部分における硫黄原子がキラル中心となっており、中心性キラリティーを有している。本発明者は、当該中心性キラリティーにおける立体異性体の分離を試みたところ、40℃においても安定に分離することができ、それぞれの鏡像異性体を分離することに成功した。本明細書では、本発明者がキラルカラムを用いて分離した2つの鏡像異性体のうちの、先に流出してくる鏡像異性体を第1成分(又は、化合物(A)ということもある。)と称し、次いで流出してくる鏡像異性体を第2成分(又は、化合物(B)ということもある。)と称する(図7参照)。分離された第1成分と第2成分の量の比は、ほぼ1:1であった(図7参照)。
そして、本発明者は、2つの鏡像異性体(以下、光学異性体とも言う)を、それぞれ分取した(図8及び9参照)。
【0015】
そして、両者の薬理活性を検討したところ、驚くべきことに、光学異性体第1成分(A)と、第2成分(B)の性質が相反する作用を有しており、とりわけ心房細動に関して、第1成分(A)のみが高い抗心房細動効果及び催不整脈作用低減効果が期待できる極めて特異な薬理活性を有していることを見出した。
すなわち、光学異性体第1成分は、心拍、血圧を緩やかに増加させ、心収縮、弛緩機能を増強させる。一方、光学異性体第2成分は、心拍、血圧を減少させ、心収縮、弛緩機能を減弱させる。また、心房の有効不応期は光学異性体第1成分が第2成分に比較し、より延長させ、一方、光学異性体第1成分は心室の有効不応期を延長させないのに対して、光学異性体第2成分は心室の有効不応期を濃度依存的に延長させる。このことは、光学異性体第1成分は、トルサドポアンや心室細動を起こしにくいのに対し、光学異性体第2成分は、これらの不整脈を発生させる危険性があることを示している。
【0016】
以上のように一般式[I]で示される化合物のうちの一方の鏡像異性体(第1成分)は、他方の鏡像異性体(第2成分)に比べて、心房の有効不応期を延長させ、心室の有効不応期を延長させないという特異的かつ理想的な抗心房細動効果を有しており、不整脈、特に心房細動治療薬として、催不整脈作用のない理想的な薬剤となることを見出した。
また、他方の鏡像異性体(第2成分)も一定の薬理作用を有し、医薬として有用である。
【0017】
即ち、本発明は、次の一般式[II]
【0018】
【化2】
【0019】
(式中、Rは水素原子又は水酸基を表わす。*は光学異性体であることを表す。)
で示される1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体の光学異性体又はその薬学的に許容しうる塩に関する。より詳細には、前記一般式[II]で表される1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体の光学異性体第1成分又はその薬学的に許容しうる塩に関する。
また、本発明は、前記式[II]で表される1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体の光学異性体第1成分又はその薬学的に許容しうる塩、及び製薬学的に許容される担体を含有してなる医薬組成物に関する。
【0020】
本発明をより詳細に説明すれば、以下のとおりとなる。
(1)前記の一般式[II]で示される1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体の光学異性体又はその薬学的に許容される塩。
(2)前記一般式[II]で表される1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体の光学異性体が、光学異性体第1成分である、前記(1)に記載の1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体の光学異性体又はその薬学的に許容しうる塩。
(3)1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体の光学異性体の薬学的に許容される塩が、塩酸塩である前記(1)又は(2)に記載の1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体の光学異性体又はその薬学的に許容される塩。
(4)前記(1)から(3)のいずれかに記載の1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体の光学異性体又はその薬学的に許容される塩、及び製薬学的に許容される担体を含有してなる医薬組成物。
(5)前記一般式[II]で表される1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体の光学異性体が、光学異性体第1成分である、前記(4)に記載の医薬組成物。
(6)医薬組成物が、心疾患の治療薬及び/又は予防薬である前記(4)又は(5)に記載の医薬組成物。
(7)心疾患が、不整脈、心不全、狭心症、又は心筋梗塞である前記(6)に記載の医薬組成物。
(8)不整脈が心房細動及び/又は心房粗動である前記(7)に記載の医薬組成物。
(9)医薬組成物が、心機能低下を伴う心房細動を改善させるための治療剤及び/又は予防薬である、前記(4)又は(5)に記載の医薬組成物。
(10)前記の一般式[I]で表される化合物を、分割してそれぞれの鏡像異性体を分取して、前記の一般式[II]で表される光学異性体又はその薬学的に許容される塩を製造する方法。
(11)分取される鏡像異性体が、光学異性体第1成分である、前記(10)に記載の方法。
(12)分割が、キラルカラムを用いる方法である、前記(10)又は(11)に記載の方法。
(13)分割が、キラルカラム(CHIRALPAK AD-Hサイズ0.46cmI.D.×25cmL.)により、移動相としてMeOH/MeCN/DEA=90/10/0.1(v/v)を用い流速1.0mL/minにより、先に流出してくる成分を光学異性体第1成分として分取する方法である、前記(12)に記載の方法。
(14)前記の一般式[I]で表される化合物が、次の一般式[III]
【0021】
【化3】
【0022】
(式中、Rは水素原子又は水酸基を表わす。)
で示される1,4−ベンゾチアゼピン誘導体を酸化して製造されたものである、前記(10)から(13)のいずれかに記載の方法。
(15)酸化が、有機過酸化物による酸化である、前記(14)に記載の方法。
【0023】
(16)心疾患の患者に、有効量の前記一般式[II]で示される1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体の光学異性体又はその薬学的に許容される塩を含有してなる医薬組成物を投与することからなる心疾患を治療する方法。
(17)前記一般式[II]で表される1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体の光学異性体が、光学異性体第1成分である、前記(16)に記載の方法。
(18)心疾患が、不整脈、心不全、狭心症、又は心筋梗塞である、前記(16)又は(17)に記載の方法。
(19)不整脈が、心房細動及び/又は心房粗動である、前記(18)に記載の方法。
(20)心疾患が、心機能低下を伴う心房細動である、前記(16)又は(17)に記載の方法。
(21)心疾患の治療及び/又は予防のための医薬組成物に使用するための、前記一般式[II]で示される1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体の光学異性体又はその薬学的に許容される塩。
(22)前記一般式[II]で表される1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体の光学異性体が、光学異性体第1成分である、前記(21)に記載の1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体の光学異性体又はその薬学的に許容される塩。
(23)心疾患が、不整脈、心不全、狭心症、又は心筋梗塞である、前記(21)又は(22)に記載の光学異性体又はその薬学的に許容される塩。
(24)不整脈が、心房細動及び/又は心房粗動である、前記(23)に記載の光学異性体又はその薬学的に許容される塩。
(25)心疾患が、心機能低下を伴う心房細動である、前記(21)又は(22)に記載の光学異性体又はその薬学的に許容される塩。
【発明の効果】
【0024】
本発明の一般式[II]で表される光学異性体第1成分又はその塩は、心拍数、血圧を緩やかに増加させ、心筋収縮、弛緩機能を改善させる作用を有している。このような性質は、一般式[II]で表される光学異性体第1成分の鏡像異性体である光学異性体第2成分が有する性質と異なっているだけでなく、これらの混合物である一般式[I]で表される化合物が有している性質も異なっている。
このように、本発明の一般式[II]で表される光学異性体第1成分が、その鏡像異性体とも、それらの混合物とも、全く異なる性質を有していることは、驚くべきことであり、本発明により分取し単離することにより初めて明らかにされたことである。
また、本発明の一般式[II]で表される光学異性体のうちの光学異性体第2成分の鏡像異性体も、一定の薬理作用を有しており、医薬の成分として有用である。
【0025】
さらに、本発明の一般式[II]で表される光学異性体第1成分又はその塩が、心機能を増強する作用、心拍数、血圧を緩やかに増加させる作用があり、心機能を改善させ、特に不整脈に対する薬剤として極めて有用であるだけでなく、本発明の一般式[II]で表される光学異性体第1成分又はその塩は、心房の有効不応期を延長させ、心室の有効不応期を延長させず、またビーグル犬で8mg/Kgまで、投与しても心室の有効不応期を延長させない。このことは極めて重要なことであり、心房細動に対する有効な薬剤であると同時に、催不整脈作用という副作用を有していないということであり、本発明は、心室の有効不応期を延長させず、心房の有効不応期を延長させるという極めて特異的な性質を有している物質を世界に先駆けて初めて見出したものである。
一方、一般式[I]で表される化合物の光学異性体第2成分はビーグル犬で1mg/Kgで心室の有効不応期を延長させ、さらに濃度依存的に心室の有効不応期を延長させる。心室の有効不応期の延長は心室細動やトルサドポアン等の重症不整脈を惹起させるので、仮に心房細動に対する有効な薬剤であったとしても、催不整脈作用という副作用を有することになる。
【0026】
このように、本発明は、心房細動を正常な洞調律へ回復することができ、かつ催不整脈作用のない理想的な不整脈の治療薬及び/又は予防薬を提供するものであり、不整脈を改善する有用な薬剤としてだけでなく、心不全を改善させる有用な薬剤として極めて有用な化合物を提供するものである。
したがって、本発明は、このような有用な作用を有する新規な化合物、及びこれらの本発明の化合物を含有してなる医薬組成物を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、本発明の光学異性体第1成分(図1中では、白丸印でAと記載されている。)と、その鏡像異性体である第2成分(図1中では、黒丸印でBと記載されている。)の、それぞれの投与後(0.1mg/kg/分)における心拍数の変化を前値(対照値)との差で比較したものである。統計処理はt検定を用い、光学異性体第1成分(図1中では、白丸印でAと記載されている。)と第2成分(図1中では、黒丸印でBと記載されている。)の有意差を調べた。*は第1成分が第2成分と有意差P<0.05であることを示す。
図2図2は、本発明の光学異性体第1成分(図2中では、白丸印でAと記載されている。)と、その鏡像異性体である第2成分(図2中では、黒丸印でBと記載されている。)の、それぞれの投与後(0.1mg/kg/分)における血圧の変化を前値(対照値)との差で比較したものである。光学異性体第1成分(図2中では、白丸印でAと記載されている。)と第2成分(図2中では、黒丸印でBと記載されている。)の統計処理で*は有意差P<0.05、**は有意差P<0.01、***有意差P<0.001であることを示す。
図3図3は、本発明の光学異性体第1成分(図3中では、白丸印でAと記載されている。)と、その鏡像異性体である第2成分(図3中では、黒丸印でBと記載されている。)の、それぞれの投与後(0.1mg/kg/分)における心筋収縮機能(max dP/dt)の変化を前値(対照値)との差で比較したものである。光学異性体第1成分(図3中では、白丸印でAと記載されている。)と第2成分(図3中では、黒丸印でBと記載されている。)の統計処理で*は有意差P<0.05、**は有意差P<0.01、***有意差P<0.001であることを示す。
図4図4は、本発明の光学異性体第1成分(図4中では、白丸印でAと記載されている。)と、その鏡像異性体である第2成分(図4中では、黒丸印でBと記載されている。)の、それぞれの投与後(0.1mg/kg/分)における心筋弛緩機能(min dP/dt)の変化を前値(対照値)との差で比較したものである。光学異性体第1成分(図4中では、白丸印でAと記載されている。)と第2成分(図4中では、黒丸印でBと記載されている。)の統計処理で*は有意差P<0.05を示す。
図5図5は、本発明の光学異性体第1成分(図5中では、白丸印でAと記載されている。)と、その鏡像異性体である第2成分(図5中では、黒丸印でBと記載されている。)の、それぞれの投与後(0.1mg/kg/分で10分間に続けて0.05mg/kg/分で20分間、持続投与)における心房有効不応期を前値(対照値)を100%としたときの変化を%変化率で比較したものである。光学異性体第1成分(図5中では、白丸印でAと記載されている。)と第2成分(図5中では、黒丸印でBと記載されている。)の統計処理で*は有意差P<0.05、**は有意差P<0.01であることを示す。
図6図6は、本発明の光学異性体第1成分(図6中では、左側にAと記載されている。)と、その鏡像異性体である第2成分(図6中では、右側にBと記載されている。)の心室有効不応期を前値(対照値)を100%としたときの変化を%変化率で比較したものである。*は第1成分(図6中では、Aと記載されている)と第2成分(図6中では、Bと記載されている)に有意差P<0.05が有ることを示す。
図7図7は、化合物[I]を、キラルカラムを用いたクロマトグラフィーにかけたときの溶出パターンを示している。本発明の光学異性体第1成分は、約8.1分で溶出され、その鏡像異性体である光学異性体第2成分は、約11.4分で溶出されており、両者は完全に分離されていることを示す。
図8図8は、分取された本発明の光学異性体第1成分を、分取のときと同じキラルカラムを用いたクロマトグラフィーにかけたときの溶出パターンを示している。
図9図9は、本発明の光学異性体第1成分の鏡像異性体である光学異性体第2成分を、分取のときと同じキラルカラムを用いたクロマトグラフィーにかけたときの溶出パターンを示している。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の一般式[II]で表される光学異性体は、一般式[II]中のRが水素原子である場合の化合物と、Rが水酸基である化合物がある。好ましい化合物としては、次の式[IV]
【0029】
【化4】
【0030】
(式中、*印はキラル中心を示す。)
で表される4−[3−(4−ベンジルピペリジン−1−イル)プロピオニル]−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシドの光学異性体第1成分、若しくはその薬学的に許容される塩が挙げられる。
【0031】
本発明の化合物において、へテロ環の硫黄(S)と酸素(O)の結合(SO)は、強い電気陰性を示す極性原子団を形成し、配位結合であるから、硫黄と酸素の結合については、配位結合であることを示すために、へテロ環S→Oの矢印で示すことができ、また、この配位接合は、へテロ環S−Oで示すことができる。
一般に、R−S(O)−Rで表されるスルホキサイド化合物において、RとRが異なる基である場合には、硫黄原子がキラル中心となり中心性キラリティーがあることが知られている。即ち、酸素原子が紙面の下側から結合している化合物と、酸素原子が紙面の上側から結合している化合物の2種類の立体異性体が存在していることが知られている。そして、d軌道の関与を無視して、硫黄原子の対電子の部分に原子番号0の仮想原子が結合しているとして、R−S命名法による順位規則にしたがってR配置かS配置であるかを表示することができる。
本発明の現時点では、本発明の第1成分として命名されている立体異性体が、R配置であるか、S配置であるかまでは解析されていない。しかし、図7に示されるように、一般式[I]で表される化合物は、温度40℃において、キラルカラムにより約1:1の比で、安定に、かつ明確に分離される2つの化合物を包含していることが明らかになった。そして、分取された2つの化合物は、機器分析において同じ挙動を示すことから、キラル中心による中心性キラリティーによる2種の立体異性体であると考えられた。
本明細書では、一般式[I]で表される化合物を、キラムカラム(CHIRALPAK AD-H(ダイセル製)0.46cmI.D.×25cmL.)により、40℃で、移動相としてMeOH/MeCN/DEA=90/10/0.1(v/v)を用い流速1.0mL/minで流出させたとき、7分から9分あたり(リテンションタイムは約8.1分)で溶出されてくる成分を第1成分(又は、単に(A)ということもある。)と称し、次いで10分から13分あたり(リテンションタイムは約11.4分)で流出してくる成分を第2成分(又は、単に(B)ということもある。)と称することとした。前述してきたように、本発明の現時点では、本発明の第1成分として命名されている鏡像異性体の立体配置が、R配置であるか、S配置であるかまでは解析されていないが、図7及び図8に示されるように分取でき、単離されたことは明らかである。
【0032】
なお、後述する化合物[Ia]のシュウ酸塩は結晶であり、そのH−NMRの室温における測定で、アミド部分における立体異性体が約2:3の割合で存在することが確認されていることからすれば、本発明における一般式[II]で表される立体異性体のキラル中心が窒素原子である可能性も完全には否定できない。しかし、後述する化合物[Ia]の遊離体は結晶ではなく、アモルファスであり、キラル中心が窒素原子である立体異性体の存在は確認されていない。
これらのことからすれば、現段階では前述してきたようにキラル中心は硫黄原子であると考えられている。
【0033】
本発明の化合物は、塩基性の窒素原子を有しているので、この位置において、酸付加塩を形成させることができる。この酸付加塩を形成させるための酸としては、薬学的に許容されるものであれば特に制限はない。本発明の好ましい酸付加塩としては、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩又は硝酸塩等の無機酸付加塩;シュウ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、コハク酸塩、グリコール酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩又はアスコルビン酸塩等の有機酸付加塩;アスパラギン酸塩又はグルタミン酸塩等のアミノ酸付加塩などが挙げられる。また、本発明の化合物又はその酸付加塩は、水和物のような溶媒和物であってもよい。
【0034】
本発明の光学異性体の第1成分の化合物が、一般式[I]で表される化合物をキラルカラムなどを用いた分離方法で分離し、分取することにより製造することができる。
一般式[I]で表される化合物は、特許文献11に記載の方法により製造することができる。より詳細には、例えば、次の反応式における式[V]で表される化合物を適当な酸化剤で酸化することにより式[Ia]で表されるオキサド体を製造することができる。酸化剤としては、過酸、例えば、過酢酸、過安息香酸、メタクロロ過安息香酸(mCPBA)などを使用することができる。溶媒としては、塩化メチレン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素などを適宜使用することができる。反応温度はスルホンまでの酸化を防止するために低温、例えば、0℃から5℃程度が好ましい。反応混合物から、抽出操作やクロマトグラフィーや蒸留などの公知の分離精製手段により、目的物を分離精製することができる。
【0035】
【化5】
【0036】
化合物[V]の4−[3−(4−ベンジルピペリジン−1−イル)プロピオニル]−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピンのヘテロ環の硫黄を、クロロホルム(CHCl)溶媒中で、酸化剤のメタクロロ過安息香酸(mCPBA)により、酸化することにより製造することができる。
上記の反応経路により、式[V]で示される塩酸塩をクロロホルム溶媒中で、酸化剤のメタクロロ過安息香酸(mCPBA)により酸化することにより製造された化合物[Ia]の4−[3−(4−ベンジルピペリジン−1−イル)プロピオニル]−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシドは、移動相としてクロロホルム−メタノール混合液を使用して、シリカゲルクロマトグラフィーにより分離し、次いで、分離されたクロロホルム−メタノール共沸溶媒から溶媒を留出し、さらにアルゴン中で残留溶媒を駆出して最終製品とする。このようにして得られた前記式[Ia]で示される化合物は、90%以上の純度を有しており、440.61の分子量を有し、アモルファスであり、室温で酸素及び湿度並びに酸及びアルカリに安定であり、エタノール及びジメチルスルホキシド(DMSO)に易溶であり、皮膚刺激性を有している。また、化合物[Ia]のシュウ酸塩は、530.65の分子量を有し、純度90%以上で、167〜168℃の融点を有する結晶であり、水、エタノール及びジメチルスルホキシドに可溶である。H−NMRの室温における測定で、アミド部分における立体異性体が約2:3の割合で存在することが確認されている。
【0037】
また、本発明の一般式[II]で表される化合物のうちの、Rが水酸基である4−{3−[4−(4−ヒドロキシベンジル)ピペリジン−1−イル]プロピオニル}−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド又はその薬学的に許容される塩は、前記と同様な酸化反応により、必要により水酸基を保護して製造することができる。また、ラット又はイヌに、その母体化合物である1,4−ベンゾチアゼピン誘導体を投与し、得られた尿及び糞に、水を加えてホモジネートし、その上清を、オクタデシル基を化学結合させたシリカゲル(ODS)を用いる逆相カラムを使用して、移動相は、A液として、0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)含有の水を用い、B液として、0.1%TFA含有のアセトニトリルを用いて、グラジエント溶離を用いる高速液体クロマトグラフィーにより、保持時間19〜22分で成分分離することもできる。分離された成分は、マススペクトロメトリーにより、質量荷電比(m/Z)は457であった。なお、化合物[Ia]も、同様の手法で、グラジエント溶離を用いる高速液体クロマトグラフィーにより、保持時間27〜30分で成分分離して得ることができる。
【0038】
また、7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピンを前記同様な方法で酸化して、7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン―1−オキシドとし、これをキラルカラムにより立体異性体を分離して、その一方の鏡像異性体を分取し、これを適当な反応条件でアミド化することにより、本発明の一般式[II]を製造する方法も考えられる。
【0039】
本発明の一般式[II]で表される化合物の光学異性体第1成分、又はその塩は、不整脈、心不全、狭心症、又は心筋梗塞などの心疾患の治療薬又は予防薬、特に心房細動もしくは心房粗動に起因する不整脈、心不全、狭心症、又は心筋梗塞などの心疾患の治療薬又は予防薬として有用である。
したがって、本発明の一般式[II]で表される化合物の光学異性体第1成分又はその塩は、医薬組成物の有効成分として使用することができる。本発明の医薬組成物は、経口、舌下、貼付、静脈内投与ができるが、冠動脈内に注入する方法が好ましい。
【0040】
本発明の医薬組成物を経口投与のための固体組成物にする場合には、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤等の剤形が可能である。このような固体組成物においては、一つ又はそれ以上の活性物質が、少なくとも一つの不活性な希釈剤、分散剤又は吸着剤等、例えば乳糖、マンニトール、ブドウ糖、ヒドロキシプロピルセルロース、微晶性セルロース、澱粉、ポリビニルピロリドン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム又は無水ケイ酸末等と混合され、常法にしたがって製造することができる。
錠剤又は丸剤に調製する場合は、必要により白糖、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース又はヒドロキシメチルセルロースフタレート等の胃溶性あるいは腸溶性物質のフィルムで皮膜してもよいし、二以上の層で皮膜してもよい。さらに、ゼラチン又はエチルセルロースのような物質のカプセルにしてもよい。
【0041】
経口投与のための液体組成物にする場合は、薬剤的に許容される乳濁剤、溶解剤、懸濁剤、シロップ剤又はエリキシル剤等の剤形が可能である。用いる希釈剤としては、例えば精製水、エタノール、植物油又は乳化剤等がある。又、この組成物は希釈剤以外に浸潤剤、懸濁剤、甘味剤、風味剤、芳香剤又は防腐剤等のような補助剤を混合させてもよい。
【0042】
非経口のための注射剤に調製する場合は、無菌の水性若しくは非水性の溶液剤、可溶化剤、懸濁剤または乳化剤を用いる。水性の溶液剤、可溶化剤、懸濁剤としては、例えば注射用水、注射用蒸留水、生理食塩水、シクロデキストリン及びその誘導体、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、トリエチルアミン等の有機アミン類あるいは無機アルカリ溶液等がある。
水溶性の溶液剤にする場合、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコールあるいはオリーブ油のような植物油、エタノールのようなアルコール類等を用いてもよい。又、可溶化剤として、例えばポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、蔗糖脂肪酸エステル等の界面活性剤(混合ミセル形成)、又はレシチンあるいは水添レシチン(リポソーム形成)等も用いられる。又、植物油等の非水溶性の溶解剤と、レシチン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油又はポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等からなるエマルジョン製剤にすることもできる。
【0043】
本発明の一般式[II]で表される化合物若しくはその塩は、遊離の化合物として、年齢、体重、症状、治療効果、投与方法、処理時間等により異なるが、通常成人一人当たり0.1mg乃至1g、好ましくは1mg乃至1g又は0.1mg乃至0.5gの範囲で、一日一回から数回に分けて経口あるいは非経口投与することができる。
【0044】
以下に、本発明の一実施例をあげて、本発明について更に具体的に説明するが、ここでの例示及び説明により、何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0045】
式[Ia]で示される化合物の4−[3−(4−ベンジルピペリジン−1−イル)プロピオニル]−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシドの製造
反応容器に、30.0gの前記式[V]で示される化合物の4−[3−(4−ベンジルピペリジン−1−イル)プロピオニル]−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン塩酸塩を入れ、これに溶媒のクロロホルム(CHCl)800mlを加えて、室温下に攪拌して溶解させる。次いで、反応容器を氷水浴に浸して、容器内温度が0〜1℃になるまで冷却した。これに、14.0gのメタクロロ過安息香酸(mCPBA)のクロロホルム(CHCl)600mlの溶液を、反応温度が上昇しないように留意しながら110分の滴下時間で徐々に滴下した。滴下終了後、0〜1℃で約20分間攪拌した。
次いで、4.14gのNaSOの200mlHO溶液を0〜5℃で1分間かけて滴下し、滴下終了後、0〜5℃で10分間攪拌した。次いで、0〜5℃に保冷しながら、1モル/リットルのNaOH水溶液を1分間かけて滴下した。滴下後、0〜5℃で15〜20分間攪拌した。有機層を分液後、水層を600mlのCHClで抽出した。有機層を合わせて、200mlのHOで1回、200mlの飽和食塩水で1回洗浄した。有機層を無水NaSOで乾燥した後、減圧で濃縮した。
濃縮残渣をシリカゲルクロマトグラフィーにより、エタノールで流出させて精製した。目的の化合物は、アモルファス乃至粘性オイル状で13gが得られた。
IR(cm−1) :3452, 2919, 1643, 1594, 1022
H−NMR(CDCl 300MHz): δ
1.1-2.95(17H, m), 3.78(3H, s), 3.86-4.16(2H, m), 4.65(2H, s), 6.8-7.65(8H, m)
MS(FD−MS):441(M
【実施例2】
【0046】
本発明の式[IV]で表される化合物の光学異性体第1成分及び第2成分は、次に示す条件で、前記の実施例1で製造した式[Ia]で示される化合物を分離し、分取して製造した。
カラム : CHIRALPAK AD-H(株式会社ダイセル製)
サイズ : 0.46cm I.D. × 25cm L.
移動相 : MeOH/MeCN/DEA=90/10/0.1(v/v)
流速 : 1.0mL/min
温度 : 40℃
検出波長: 245nm
注入量 : 10μL
MeOHはメタノールを、MeCNはアセトニトリルを、DEAはジエチルアミンをそれぞれ示す。
なお、機器としては、
ポンプ : LC-20AD(島津製作所製)
検出器 : SPD-20A(島津製作所製)
オートサンプラー : SIL-20A(島津製作所製)
を用いた。
式[Ia]で示される化合物10gから、各々4gの光学異性体第1成分および第2成分を分取できた。
分取したそれぞれの成分を、前記と同様の条件でカラムクロマトグラフィーにかけた。結果を図8及び図9にそれぞれ示す。
【実施例3】
【0047】
心拍、血圧、左室収縮機能(max dP/dt)、左室弛緩機能(min dP/dt)の測定
試験方法:本試験では、麻酔下のラットを用い、光学異性体第1成分(A)及び光学異性体第2成分(B)の塩酸塩を、それぞれ静脈内持続投与した時の循環器系に及ぼす影響を検討した。各群n=5で行った。第1成分(A)又は第2成分(B)をそれぞれ0.1mg/kg/分で20分間持続投与し、心拍数、血圧、max dP/dt、min dP/dtの測定を行った。投与0分、1分、5分、10分、15分、20分、25分、30分、35分、40分の各パラメータを測定し、0分値(前値(対照値))との差で表示した。測定値は平均値±SDで表した。
試験結果:心拍数の変化の結果を図1に示す。図1で示すように光学異性体第1成分(A)は、心拍数を緩やかに増加させるのに対し、光学異性体第2成分(B)心拍数を低下させ、相反する薬理活性を有する。
血圧の変化の結果を図2に示す。図2で示すように光学異性体第1成分(A)は、血圧を緩やかに増加させるのに対し、光学異性体第2成分(B)血圧を低下させ、相反する薬理活性を有する。
左室収縮機能の変化を図3に示す。図3で示すように光学異性体第1成分(A)は、左室収縮機能を増加させるのに対し、光学異性体第2成分(B)は左室収縮機能を低下させ、相反する薬理活性を有する。
左室弛緩機能の変化を図4に示す。図4で示すように光学異性体第1成分(A)は、左室弛緩機能を増加させるのに対し、光学異性体第2成分(B)は左室弛緩機能を低下させ、相反する薬理活性を有する。
図1図4のデータについて、それぞれt検定を用いて有意差の検定を行った。
【実施例4】
【0048】
心房の有効不応期に対する影響
試験方法:本試験では、麻酔下のビーグル犬を用い、光学異性体第1成分(A)及び光学異性体第2成分(B)の塩酸塩を、それぞれ静脈内持続投与した時の心房の有効不応期に及ぼす影響を検討した。各群n=5で行った。被験物質は0.1mg/kg/分で10分間に続けて0.05mg/kg/分で20分間、持続投与し、投与終了後270分までの心房の有効不応期測定を行った。ペーシング間隔は250m秒で行った。測定値は平均値±SDで表した。
試験結果:試験の結果を、心房有効不応期を前値(対照値)を100%としたときの%変化率で表して図5に示す。図5で示すように光学異性体第1成分(A)および光学異性体第2成分(B)心房の有効不応期を延長させたが、光学異性体第1成分(A)がより延長させた。
図5のデータについて、t検定を用いて有意差の検定を行った。
【実施例5】
【0049】
心室の有効不応期に対する影響
試験方法:本試験では、麻酔下のビーグル犬を用い、光学異性体第1成分(A)及び光学異性体第2成分(B)を、それぞれ静脈内急速投与した時の心室の有効不応期に及ぼす影響を検討した。各群n=5で行った。被験物質は1mg/kg/分で5分間急速投与し、投与終了直後の心室の有効不応期測定を行った。ペーシング間隔は250m秒で行った。測定値は平均値±SDで表した。
試験結果:試験の結果を、心室有効不応期を前値(対照値)を100%としたときの%変化率で表して図6に示す。図6で示すように光学異性体第1成分(A)は心室の有効不応期を延長させなかったが、光学異性体第2成分(B)心室の有効不応期を有意に延長させた(P<0.05)。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、心房の有効不応期を延長させ、心室の有効不応期を延長させないという理想的な心房細動治療薬の性質を有する特定の立体配置を有する化合物、及びそれを用いた医薬組成物を提供するものであり、製薬分野や医薬分野において有用であり、産業上の利用可能性を有している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9