【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、次の一般式[I]
【0013】
【化1】
【0014】
(式中、Rは水素原子又は水酸基を表す。)
で表される4−[3−(4−ベンジルピペリジン−1−イル)プロピオニル]−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド及びその誘導体について各種の薬理作用について検討してきた。
そして、一般式[I]の1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体化合物に、心筋拡張機能を増強させる作用、緩やかに冠動脈を拡張させる作用、緩やかに心拍数を低下させる性質を有し、心筋への酸素供給量を増加させると共に心筋の酸素消費量を減らす性質を併せ持っていることを見いだしており、従来、治療や予防が難しいとされていた、高齢者や高血圧、左室心肥大の左室拡張障害を有する患者や、心不全及び拡張不全による心不全の患者、また、狭心症又は心筋梗塞の患者に対しても安全に用いることができ、さらに、心筋弛緩障害、高血圧症などを改善する治療薬又は予防薬として有用であるなどを特許文献11において報告してきた。
ところで、一般式[I]で示される化合物は、S−オキサイドの部分における硫黄原子がキラル中心となっており、中心性キラリティーを有している。本発明者は、当該中心性キラリティーにおける立体異性体の分離を試みたところ、40℃においても安定に分離することができ、それぞれの鏡像異性体を分離することに成功した。本明細書では、本発明者がキラルカラムを用いて分離した2つの鏡像異性体のうちの、先に流出してくる鏡像異性体を第1成分(又は、化合物(A)ということもある。)と称し、次いで流出してくる鏡像異性体を第2成分(又は、化合物(B)ということもある。)と称する(
図7参照)。分離された第1成分と第2成分の量の比は、ほぼ1:1であった(
図7参照)。
そして、本発明者は、2つの鏡像異性体(以下、光学異性体とも言う)を、それぞれ分取した(
図8及び9参照)。
【0015】
そして、両者の薬理活性を検討したところ、驚くべきことに、光学異性体第1成分(A)と、第2成分(B)の性質が相反する作用を有しており、とりわけ心房細動に関して、第1成分(A)のみが高い抗心房細動効果及び催不整脈作用低減効果が期待できる極めて特異な薬理活性を有していることを見出した。
すなわち、光学異性体第1成分は、心拍、血圧を緩やかに増加させ、心収縮、弛緩機能を増強させる。一方、光学異性体第2成分は、心拍、血圧を減少させ、心収縮、弛緩機能を減弱させる。また、心房の有効不応期は光学異性体第1成分が第2成分に比較し、より延長させ、一方、光学異性体第1成分は心室の有効不応期を延長させないのに対して、光学異性体第2成分は心室の有効不応期を濃度依存的に延長させる。このことは、光学異性体第1成分は、トルサドポアンや心室細動を起こしにくいのに対し、光学異性体第2成分は、これらの不整脈を発生させる危険性があることを示している。
【0016】
以上のように一般式[I]で示される化合物のうちの一方の鏡像異性体(第1成分)は、他方の鏡像異性体(第2成分)に比べて、心房の有効不応期を延長させ、心室の有効不応期を延長させないという特異的かつ理想的な抗心房細動効果を有しており、不整脈、特に心房細動治療薬として、催不整脈作用のない理想的な薬剤となることを見出した。
また、他方の鏡像異性体(第2成分)も一定の薬理作用を有し、医薬として有用である。
【0017】
即ち、本発明は、次の一般式[II]
【0018】
【化2】
【0019】
(式中、Rは水素原子又は水酸基を表わす。*は光学異性体であることを表す。)
で示される1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体の光学異性体又はその薬学的に許容しうる塩に関する。より詳細には、前記一般式[II]で表される1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体の光学異性体第1成分又はその薬学的に許容しうる塩に関する。
また、本発明は、前記式[II]で表される1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体の光学異性体第1成分又はその薬学的に許容しうる塩、及び製薬学的に許容される担体を含有してなる医薬組成物に関する。
【0020】
本発明をより詳細に説明すれば、以下のとおりとなる。
(1)前記の一般式[II]で示される1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体の光学異性体又はその薬学的に許容される塩。
(2)前記一般式[II]で表される1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体の光学異性体が、光学異性体第1成分である、前記(1)に記載の1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体の光学異性体又はその薬学的に許容しうる塩。
(3)1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体の光学異性体の薬学的に許容される塩が、塩酸塩である前記(1)又は(2)に記載の1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体の光学異性体又はその薬学的に許容される塩。
(4)前記(1)から(3)のいずれかに記載の1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体の光学異性体又はその薬学的に許容される塩、及び製薬学的に許容される担体を含有してなる医薬組成物。
(5)前記一般式[II]で表される1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体の光学異性体が、光学異性体第1成分である、前記(4)に記載の医薬組成物。
(6)医薬組成物が、心疾患の治療薬及び/又は予防薬である前記(4)又は(5)に記載の医薬組成物。
(7)心疾患が、不整脈、心不全、狭心症、又は心筋梗塞である前記(6)に記載の医薬組成物。
(8)不整脈が心房細動及び/又は心房粗動である前記(7)に記載の医薬組成物。
(9)医薬組成物が、心機能低下を伴う心房細動を改善させるための治療剤及び/又は予防薬である、前記(4)又は(5)に記載の医薬組成物。
(10)前記の一般式[I]で表される化合物を、分割してそれぞれの鏡像異性体を分取して、前記の一般式[II]で表される光学異性体又はその薬学的に許容される塩を製造する方法。
(11)分取される鏡像異性体が、光学異性体第1成分である、前記(10)に記載の方法。
(12)分割が、キラルカラムを用いる方法である、前記(10)又は(11)に記載の方法。
(13)分割が、キラルカラム(CHIRALPAK AD-Hサイズ0.46cmI.D.×25cmL.)により、移動相としてMeOH/MeCN/DEA=90/10/0.1(v/v)を用い流速1.0mL/minにより、先に流出してくる成分を光学異性体第1成分として分取する方法である、前記(12)に記載の方法。
(14)前記の一般式[I]で表される化合物が、次の一般式[III]
【0021】
【化3】
【0022】
(式中、Rは水素原子又は水酸基を表わす。)
で示される1,4−ベンゾチアゼピン誘導体を酸化して製造されたものである、前記(10)から(13)のいずれかに記載の方法。
(15)酸化が、有機過酸化物による酸化である、前記(14)に記載の方法。
【0023】
(16)心疾患の患者に、有効量の前記一般式[II]で示される1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体の光学異性体又はその薬学的に許容される塩を含有してなる医薬組成物を投与することからなる心疾患を治療する方法。
(17)前記一般式[II]で表される1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体の光学異性体が、光学異性体第1成分である、前記(16)に記載の方法。
(18)心疾患が、不整脈、心不全、狭心症、又は心筋梗塞である、前記(16)又は(17)に記載の方法。
(19)不整脈が、心房細動及び/又は心房粗動である、前記(18)に記載の方法。
(20)心疾患が、心機能低下を伴う心房細動である、前記(16)又は(17)に記載の方法。
(21)心疾患の治療及び/又は予防のための医薬組成物に使用するための、前記一般式[II]で示される1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体の光学異性体又はその薬学的に許容される塩。
(22)前記一般式[II]で表される1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体の光学異性体が、光学異性体第1成分である、前記(21)に記載の1,4−ベンゾチアゼピン−1−オキシド誘導体の光学異性体又はその薬学的に許容される塩。
(23)心疾患が、不整脈、心不全、狭心症、又は心筋梗塞である、前記(21)又は(22)に記載の光学異性体又はその薬学的に許容される塩。
(24)不整脈が、心房細動及び/又は心房粗動である、前記(23)に記載の光学異性体又はその薬学的に許容される塩。
(25)心疾患が、心機能低下を伴う心房細動である、前記(21)又は(22)に記載の光学異性体又はその薬学的に許容される塩。
【発明の効果】
【0024】
本発明の一般式[II]で表される光学異性体第1成分又はその塩は、心拍数、血圧を緩やかに増加させ、心筋収縮、弛緩機能を改善させる作用を有している。このような性質は、一般式[II]で表される光学異性体第1成分の鏡像異性体である光学異性体第2成分が有する性質と異なっているだけでなく、これらの混合物である一般式[I]で表される化合物が有している性質も異なっている。
このように、本発明の一般式[II]で表される光学異性体第1成分が、その鏡像異性体とも、それらの混合物とも、全く異なる性質を有していることは、驚くべきことであり、本発明により分取し単離することにより初めて明らかにされたことである。
また、本発明の一般式[II]で表される光学異性体のうちの光学異性体第2成分の鏡像異性体も、一定の薬理作用を有しており、医薬の成分として有用である。
【0025】
さらに、本発明の一般式[II]で表される光学異性体第1成分又はその塩が、心機能を増強する作用、心拍数、血圧を緩やかに増加させる作用があり、心機能を改善させ、特に不整脈に対する薬剤として極めて有用であるだけでなく、本発明の一般式[II]で表される光学異性体第1成分又はその塩は、心房の有効不応期を延長させ、心室の有効不応期を延長させず、またビーグル犬で8mg/Kgまで、投与しても心室の有効不応期を延長させない。このことは極めて重要なことであり、心房細動に対する有効な薬剤であると同時に、催不整脈作用という副作用を有していないということであり、本発明は、心室の有効不応期を延長させず、心房の有効不応期を延長させるという極めて特異的な性質を有している物質を世界に先駆けて初めて見出したものである。
一方、一般式[I]で表される化合物の光学異性体第2成分はビーグル犬で1mg/Kgで心室の有効不応期を延長させ、さらに濃度依存的に心室の有効不応期を延長させる。心室の有効不応期の延長は心室細動やトルサドポアン等の重症不整脈を惹起させるので、仮に心房細動に対する有効な薬剤であったとしても、催不整脈作用という副作用を有することになる。
【0026】
このように、本発明は、心房細動を正常な洞調律へ回復することができ、かつ催不整脈作用のない理想的な不整脈の治療薬及び/又は予防薬を提供するものであり、不整脈を改善する有用な薬剤としてだけでなく、心不全を改善させる有用な薬剤として極めて有用な化合物を提供するものである。
したがって、本発明は、このような有用な作用を有する新規な化合物、及びこれらの本発明の化合物を含有してなる医薬組成物を提供するものである。