特許第6574790号(P6574790)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ハミルトン メディカル アーゲーの特許一覧

特許6574790機械的な換気および体外血液ガス交換を行う換気システム
<>
  • 特許6574790-機械的な換気および体外血液ガス交換を行う換気システム 図000002
  • 特許6574790-機械的な換気および体外血液ガス交換を行う換気システム 図000003
  • 特許6574790-機械的な換気および体外血液ガス交換を行う換気システム 図000004
  • 特許6574790-機械的な換気および体外血液ガス交換を行う換気システム 図000005
  • 特許6574790-機械的な換気および体外血液ガス交換を行う換気システム 図000006
  • 特許6574790-機械的な換気および体外血液ガス交換を行う換気システム 図000007
  • 特許6574790-機械的な換気および体外血液ガス交換を行う換気システム 図000008
  • 特許6574790-機械的な換気および体外血液ガス交換を行う換気システム 図000009
  • 特許6574790-機械的な換気および体外血液ガス交換を行う換気システム 図000010
  • 特許6574790-機械的な換気および体外血液ガス交換を行う換気システム 図000011
  • 特許6574790-機械的な換気および体外血液ガス交換を行う換気システム 図000012
  • 特許6574790-機械的な換気および体外血液ガス交換を行う換気システム 図000013
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6574790
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】機械的な換気および体外血液ガス交換を行う換気システム
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/16 20060101AFI20190902BHJP
   A61M 16/00 20060101ALI20190902BHJP
【FI】
   A61M1/16 107
   A61M16/00 332A
【請求項の数】27
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2016-570344(P2016-570344)
(86)(22)【出願日】2015年6月3日
(65)【公表番号】特表2017-518106(P2017-518106A)
(43)【公表日】2017年7月6日
(86)【国際出願番号】EP2015062369
(87)【国際公開番号】WO2015185618
(87)【国際公開日】20151210
【審査請求日】2018年5月7日
(31)【優先権主張番号】102014107980.9
(32)【優先日】2014年6月5日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】515233591
【氏名又は名称】ハミルトン メディカル アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】特許業務法人 武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ラウプシャー
(72)【発明者】
【氏名】ドミニク ノヴォトニ
【審査官】 近藤 利充
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/021978(WO,A1)
【文献】 米国特許第05810759(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0041381(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0129666(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/14 − 1/32
A61M 16/00 − 16/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械的な換気、および、体外血液ガス交換によって血液ガス交換を補助する換気システム(10)であって、
患者(12)の肺の機械的な換気を行う換気デバイス(20)と、
体外血液ガス交換を行うECLSデバイス(50)と、を備え、
前記換気システム(10)は、一方では前記換気デバイス(20)による機械的呼吸の補助、および、他方では前記ECLSデバイス(50)による体外血液ガス交換を、前記患者の血液循環系におけるガス交換を補助するために、協調して自動的に実行するように構成され、
前記ECLSデバイス(50)は、前記体外血液ガス交換のレベルが設定され、
前記換気デバイス(20)は、前記ECLSデバイス(50)によって設定された前記体外血液ガス交換のレベルに基づいて所定の機械的呼吸の補助のレベルに自動的に調節され
前記ECLSデバイス(50)によって設定される前記体外血液ガス交換のレベルは、血液中の酸素の富化、すなわち、血液における酸素付加における体外補助の度合い(%ECLS_O)に関連し、
酸素付加における体外補助の度合い(%ECLS_O)は、機械的な換気における最大の呼気終末陽圧(PEEPmax)を特定する
ことを特徴とする換気システム(10)。
【請求項2】
前記体外血液ガス交換のレベルは、前記ECLSデバイス(50)によって、自動的に、または、手動で、予め選択される
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム(10)。
【請求項3】
前記ECLSデバイス(50)は、前記体外血液ガス交換のレベルの目標値が設定される
ことを特徴とする請求項2に記載のシステム(10)。
【請求項4】
前記換気デバイス(20)は、前記ECLSデバイス(50)によるそれぞれの前記体外血液ガス交換のレベルの設定のために陽圧換気による呼吸補助を自動的に制御する
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のシステム(10)。
【請求項5】
前記換気デバイス(20)は、設定された換気パラメータの範囲内で、自動的に、前記換気デバイス(20)によって設定される換気状態を選択し、前記換気デバイス(20)が選択された前記換気状態となるように前記換気デバイス(20)を制御するように構成される
ことを特徴とする請求項4に記載のシステム(10)。
【請求項6】
設定された前記換気パラメータは、前記ECLSデバイス(50)によって設定される前記体外血液ガス交換のレベルに基づいて導出される
ことを特徴とする請求項5に記載のシステム(10)。
【請求項7】
前記最大の呼気終末陽圧(PEEPmax)は、酸素付加における体外補助の度合い(%ECLS_O)が低下するにつれて増大する
ことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のシステム(10)。
【請求項8】
酸素付加における前記体外補助の度合い(%ECLS_O)は、前記ECLSデバイスによって前記患者から抜き取られる血流の最大値(max.pump flow)を特定する
ことを特徴とする請求項から請求項のいずれか一項に記載のシステム(10)。
【請求項9】
前記ECLSデバイスによって前記患者から抜き取られる前記血流の最大値(max.pump flow)は、酸素付加における体外補助の度合い(%ECLS_O)が増大するにつれて増大する
ことを特徴とする請求項に記載のシステム(10)。
【請求項10】
前記ECLSデバイス(50)によって設定される前記体外血液ガス交換のレベルは、換気、すなわち、血液からのCOの除去における体外補助の度合い(%ECLS_CO)に関連する
ことを特徴とする請求項1から請求項のいずれか一項に記載のシステム(10)。
【請求項11】
換気における前記体外補助の度合い(%ECLS_CO)は、機械的な換気における最大毎分換気量(%MinVolmax)を特定する
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム(10)。
【請求項12】
前記最大毎分換気量(%MinVolmax)は、換気における体外補助の度合い(%ECLS_CO)が低下するにつれて増大する
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム(10)。
【請求項13】
換気における前記体外補助の度合い(%ECLS_CO)は、機械的な換気における最大気道圧力((Pinsp+PEEP)max)を特定する
ことを特徴とする請求項1から請求項1のいずれか一項に記載のシステム(10)。
【請求項14】
前記最大気道圧力((Pinsp+PEEP)max)は、酸素付加における体外補助(%ECLS_O)および換気における体外補助(%ECLS_CO)の最大値の度合いが減少するにつれて増大する
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム(10)。
【請求項15】
換気における前記体外補助の度合い(%ECLS_CO)は、前記ECLSデバイスが前記患者の血液循環系から抜き取られた血液に供給する酸素化ガス流の最大値を特定する
ことを特徴とする請求項1から請求項1のいずれか一項に記載のシステム(10)。
【請求項16】
前記ECLSデバイスが前記患者の血液循環系から抜き取られた血液に供給する前記酸素化ガス流の最大値は、換気における体外補助の度合い(%ECLS_)が増大するにつれて増大する
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム(10)。
【請求項17】
前記ECLSデバイス(50)は、前記体外血液ガス交換のそれぞれのレベルで、所定の期間の満了後に、前記体外血液ガス交換の前記レベルで前記血液ガス交換の所定の目標状態が、前記換気デバイス(20)、および、前記ECLSデバイス(50)の協働によって到達されるかどうかを検知する
ことを特徴とする請求項1から請求項1のいずれか一項に記載のシステム(10)。
【請求項18】
前記血液ガス交換の所定の前記目標状態は、前記血液循環系内のO濃度を定義するパラメータによって特徴付けられる
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム(10)。
【請求項19】
前記血液ガス交換の所定の前記目標状態は、前記血液循環系内のCO濃度を定義するパラメータによって特徴付けられる
ことを特徴とする請求項1または請求項18に記載のシステム(10)。
【請求項20】
前記ECLSデバイス(50)は、所定の前記目標状態に到達した後で、前記体外血液ガス交換のレベルを低下させる
ことを特徴とする請求項1から請求項19のいずれか一項に記載のシステム(10)。
【請求項21】
前記ECLSデバイス(50)は、前記血液循環系内のO濃度の設定値に到達した後で、酸素付加における前記体外血液ガス交換のレベル(%ECLS_O)を第1の所定の量だけ低下させる
ことを特徴とする請求項1から請求項2のいずれか一項に記載のシステム(10)。
【請求項22】
前記ECLSデバイス(50)は、前記血液内の濃度の設定値に到達した後で、換気における前記体外補助の度合い(%ECLS_CO)を第2の所定の量だけ低下させる
ことを特徴とする請求項1から請求項2のいずれか一項に記載のシステム(10)。
【請求項23】
前記ECLSデバイス(50)は、一定の時間間隔で、前記体外血液ガス交換のそれぞれのレベルで、前記血液ガス交換の所定の目標値が前記換気デバイス(20)および前記ECLSデバイス(50)の協働によって到達されるかどうかを検知する
ことを特徴とする請求項1から請求項2のいずれか一項に記載のシステム(10)。
【請求項24】
前記ECLSデバイス(50)による前記検知の時間間隔は、前記換気デバイス(20)の時の定数、すなわち、前記換気デバイス(20)が設定されたパラメータの変化に適応するために必要な平均時間、より大きい
ことを特徴とする請求項2に記載のシステム(10)。
【請求項25】
前記ECLSデバイス(50)は、前記体外血液ガス交換のレベルの予め設定された開始値から始動する
ことを特徴とする請求項1から請求項2のいずれか一項に記載のシステム(10)。
【請求項26】
前記開始値は、前記体外血液ガス交換のレベルの最大レベルに対応する
ことを特徴とする請求項2に記載のシステム(10)。
【請求項27】
前記開始値を、前記体外血液ガス交換の前記レベルのそれぞれ低下または増大の参照値として利用する
ことを特徴とする請求項2または請求項2に記載のシステム(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の肺における機械的な換気、特に、陽圧換気を行うデバイスと体外血液ガス交換を行うECLSデバイスとを備える換気システムに関する。
【背景技術】
【0002】
米国特許第5810759号明細書には、COのOへの置換を改善するために、静脈−静脈ECMO中のECMOSパラメータの自動制御を行うことを特徴とするシステムが開示されている。ECMO回路内を循環する血流と、それに比例してECMO回路内を循環する血液に供給される酸素付加器のガス流とを制御して、予め設定された血液中のO濃度およびCO濃度を調節することができる。例えば機械的な換気デバイスの設定など、追加の外部パラメータを検出することもでき、ECMOシステムのパラメータの設定が、これらの追加パラメータを考慮に入れることも可能なことがかなり概略的に指摘されている。この文書は、このECMO閉ループ制御システムが、劇的に変化する外部パラメータに適応することが可能なことを示す動物実験について報告している。つまり、この実験では、機械的な陽圧換気による所定の呼吸補助が、非常に低いレベルにまで劇的に減少している。
【0003】
国際公開第2011/021978号公報には、患者の血液ガス交換を補助するためにECLSおよび陽圧換気が組み合わされ、可能な限り一緒に自動的に実行される換気システムが開示されている。その目的は、強すぎる陽圧換気によって肺系に損傷を与えることを回避するために、ECLSおよび陽圧換気をそれぞれ最適なレベルで利用することにある。ECLSおよび陽圧換気は、それぞれ体外血液ガス交換および換気を制御する制御システムを有する。これらの制御システムは、それぞれ、ECLSおよび陽圧換気の制御パラメータを送信するためにそれぞれに関連付けられたセンサ・システムを有する。ECLSの制御システムと陽圧換気の制御システムとにおいては、データが交換され、それらの制御システムのうちの少なくとも一方が、他方の制御システムに関連する制御パラメータのうち、少なくとも1つに基づいて自システムに関連するプロセスの制御信号を出力するようになっている。一方では、ECLSによる補助の自動設定は、陽圧換気によって得られる制御パラメータに基づいて行われるようになっており、それぞれのレベルの陽圧換気において、ECLSによる所要の補助レベルは、呼息を行っている途中における終末時の呼吸ガス中のCO含有量に基づいて設定される。他方で、陽圧換気による補助の自動設定は、ECLSで得られる制御パラメータに基づいて行われるようになっており、それぞれのレベルのECLSで、陽圧換気による所要の補助レベルは、患者の血液循環系のO含有量に基づいて設定される。ただし、この2つの部分システムの協働において換気システムは、ECLSの部分システムおよび陽極換気の部分システムが両方とも、それぞれ他方の部分システムから転送される制御パラメータによって表される、低すぎる補助レベルを相殺しようとするために動作が不安定かつ複雑になる傾向があることが分かっている。これにより、2つの部分システムが競合することになり、変化に対する反応が強くなりすぎる傾向がある。したがって、このシステムは、治療を行うために、両システムがおおかた自動的に協調して動作することにはほとんど適さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5810759号明細書
【特許文献2】国際公開第2011/021978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明によれば、特に機械的な換気およびECLSが同時に適用される状況において、不十分な血液ガス交換の危険性、および/あるいは、肺、気道、または心臓血管系へ、回復不能な損傷を生じる危険性を伴うのが機械的な換気のみであることから、より高い信頼性で完全に自動的な換気を保証する換気システムが利用可能になる。この換気システムは、特に、機械的な換気を必要とする、呼吸機能を失った、または、少なくとも呼吸機能が不十分な患者の集中治療に使用されるように構成される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の目的は、以下に示す換気システムによって達成される。
【0007】
本発明における換気システムは、一方では、機械的な換気を行うデバイス、他方では、ECLSデバイスによって体外血液ガス交換を行い、特に、酸素付加および換気を行うことによって、協調して自動的に機械的な呼吸の補助を行い、患者の血液循環系におけるガス交換を補助するように構成されている。具体的に、このシステムは、集中治療される患者に用いるために構成され、特に、患者の集中治療中に行われる機械的な換気において、機械的な換気だけでは患者の肺機能を十分に補助することができない状況や、あるいは、肺機能を十分に補助するために、機械的な換気の換気パラメータの設定を、肺および気道、ならびに/または、心臓血管系を損傷させる恐れがあるような設定にする必要がある状況になり始めたときに、肺機能および血液ガス交換を、それぞれ補助するように構成されている。
【0008】
本発明によれば、ECLSデバイスは、体外血液ガス交換、特に、酸素付加/換気におけるレベルを設定し、機械的な換気を行うデバイスは、ECLSデバイスによって設定された体外血液ガス交換のレベルに基づいて、あるレベルの機械的な呼吸補助に自動的に適応する。
【0009】
提案される機械的な換気を行うデバイスは、現在、機械的な換気において散見されるように、陽圧換気デバイスとして実現することができる。陽圧換気の場合、吸息中に外部から気道に陽圧を印加することにより、場合によっては、酸素、および/または、その他の添加物が加わった空気を肺に送り込む効果がある。ほとんどの場合、呼息は、周囲の圧力が気道出口に印加され、肺内部の圧力が周囲の圧力に対して解放されて受動的に起こる。呼息中に何らかの機械的な補助を設けることも任意に選択することができる。機械的な換気の場合、血液ガスの適切な交換、特に、静脈血中のOの富化、および、静脈血中のCOの除去は、それぞれが基本的に肺の内部で行われる。機械的な換気を行うデバイスは自発的な呼吸補助の形態から完全に機械で制御された換気の形態までの範囲を網羅するような、複数の異なる換気モードを可能にする。機械的な換気を行うデバイスは、例えば、換気モードを変化させて、換気の侵襲性を患者の状態に応じて連続的に適応させることができる。
【0010】
患者の状態は、例えば、機械的な換気でよく行われる、吸気中のOおよび呼気中のCOの含有量(例えば呼息の終端におけるPetCO)の特定、または、パルス・オキシメトリによる血液中の酸素飽和度の測定(SpO)、あるいは、肺の粘性抵抗およびコンプライアンス(肺のやわらかさ)の測定など、特有のパラメータのそれぞれを検出するための様々なセンサ、または、測定手順によって検出することができる。さらに、一般に換気中に散発的にのみ、または、手動によってのみ検出されるパラメータ、特に、対応する化学的な分析、または、光学的な測定によって血液中の呼吸ガスの含有量(PaO、PaCO)を検出することも可能である。これらの測定手順は全て、すなわち医師または看護師による処置を必要とすることなく自動的に実行することができる。
【0011】
機械的な換気を行うデバイスは、特定の換気パラメータに従って動作する。これらのパラメータには、特に、肺に供給される呼気中の酸素濃度(FiO)、毎分あたりの呼吸数である呼吸頻度、1呼吸あたり肺に送り込まれる空気の体積である1回換気量(呼吸量とも呼ばれる)、呼息を行っている途中の空気流である呼息流(これは、1呼息を行っている途中に実際に変化する可能性があり、通常は変化するものである)、呼息を行っている途中の気道入口における空気の最大圧力である最大呼息圧力、呼息の終了時に肺胞の一部のつぶれを相殺するために換気中に気道入口に絶えず印加される陽圧である呼気終末陽圧(いわゆるPEEP)が含まれる。PEEPは、一般に、呼息の終了時の気道出口における圧力として特定することができる。
【0012】
機械的な換気を行うデバイスは、FiO、PEEP、または、最大呼息圧力など、予め一定に設定された換気パラメータに基づいて換気を実行することができる。その他の換気パラメータは、換気デバイスによって、可能な限り最良の換気状態を実現するように自動的にそれぞれ適応させることができる。これに関して、換気は、機械的な換気を行うデバイスが、所与の換気モードにおいて予め一定に設定された換気パラメータ、ならびに、自動的に検出されたフレキシブルな換気パラメータに基づいて、関連するフレキシブルな換気パラメータを自動的に設定する(例えば、それぞれの閉ループ制御システムによって)ように行うことができる。予め一定に設定される換気パラメータ、および、設定可能なフレキシブルな換気パラメータの種類および数は、換気モードの種類、例としてその一部のみを挙げると、圧力制御式換気、体積制御式換気、BiPAP換気などによって異なる。予め一定に決められた換気パラメータの数が少なくなるほど、換気デバイスは様々な影響に対してより柔軟に適応することができ、換気において必要となる手作業による処置の数が少なくなる。ただし、それに応じて閉ループ制御を行うために必要な処置も増加し、特に、肺に損傷を与えるような特定の換気パラメータの組合せが生じる危険性がある。これを回避するために、フレキシブルな換気パラメータについて、特定の基本条件を定義することができる。その場合、換気デバイスは、それぞれについて定義された範囲内でのみ、それぞれの換気パラメータを変化させることができる。
【0013】
また、機械的な換気を行うデバイスが、様々な換気モードを交換して行うことができる、または、複数の換気モードの中から、適当なそれぞれの換気モードを選択することができることも考えられる。これは、検出されたそれぞれの換気パラメータ、または、換気状態に特徴的なパラメータを評価することによって自動的に行うことができる。例として、例えば本出願人によって「S1」として市販されている機械的な換気を行うデバイスに含まれるASV(適応補助換気)として知られる、本出願人による換気システムを参照されたい。
【0014】
機械的な換気の他にも、血液ガスの交換、すなわち、血液における酸素の富化(酸素付加)、および/または、血液からのCOの除去(換気)が機械的に補助される、または、さらに完全に機械的に行われるという意味で、肺の機能を部分的に、または、完全に機械が引き継ぐ様々な体外式肺補助(ECLS)の方法がある。ECLSは、通常は、心臓外科手術において頻繁に利用される人工心肺装置と同様に、集中治療に使用される技術である。人工心肺装置の場合には、血液の循環を維持する心臓機能を機械によって完全に引き継がなければならないが、ECLSは、必ずというわけではなくとも、通常は、肺機能の置換、または、補助に集中している。静脈−静脈ECLSシステムは、通常、静脈系から血液を抜き取り、体外血液ガス交換の後で、この血液を静脈系に戻すことによって、肺機能を補助する。静脈−動脈ECLSシステムでは、静脈系から抜き取られた血液が体外血液ガス交換後に動脈系に戻され、さらに、心臓機能の機械的な補助の可能性も提供する。本発明とも関連して、静脈−静脈ECLSシステムも静脈−動脈ECLSシステムも両方とも利用することができる。ECLSは、肺胞における呼吸機能の確保が必要な程度まで、ガス交換を行うことができなくなるほど深刻に肺が損傷している患者に対して使用される。したがって、ECLSは、一種の体外器官置換方法である。
【0015】
例えば、いわゆる体外式膜型人工肺(ECMO)などのほとんどのECLS方法では、2本の太い血管(静脈−静脈タイプの場合には1本または2本の太い静脈、静脈−動脈タイプの場合には1本の太い静脈と1本の太い動脈)にカニューレを挿入して、例えば、血液からCOを除去し、血液中のOを富化し、そののち、このように処理した血液を患者の血液循環系に戻すECMO(体外式膜型人工肺)の場合の膜型酸素付加器など、体外酸素付加器を通して連続的に血液を送る。血液は、患者の静脈系に戻すことができるので(いわゆる静脈−静脈ECLS)、心臓機能は、依然として心臓によって維持されている。ただし、心臓をブリッジし、血液を心臓より下流側の動脈系に戻し、ポンプ回路によって心臓機能を補助する形態(いわゆる静脈−動脈ECLS)もある。膜型酸素付加器の代替として、例えば、肺胞酸素付加器など、その他の形態を使用することもできる。いくつかの場合、ECLSは、例えば、一体型ガス交換カテーテル(IGEC)を太い静脈に直接挿入することにより、侵襲性を最小限に抑えて実行することができる。その場合には、カテーテルの毛細管がOを供給してCOを除去することによって静脈内でガス交換が行われるので、患者から血液を抜き取る必要がない。
【0016】
ECLSは、数日または数週間にわたって十分な酸素付加および換気を保証することができるので、積極的な機械的な換気を行うことなく治癒する時間を肺に与える。にもかかわらず、ECLSが治療の最後の選択肢と考えられているのは、技術的および人員的な費用、コスト、および複雑さのリスク(例えば出血)が高いからである。
【0017】
通常、ECLSでは、体外酸素付加器に供給されるガスの組成(例えばOおよびCOの含有量)、体外酸素付加器に供給されるガス流、体外酸素付加器を通る血流などのパラメータが影響を受ける可能性がある。
【0018】
本発明は、機械的な換気およびECLSが、わずかな肺への損傷のみで、可能な限り効率的な、機械的な換気が相互に協調して実行されるように構成されている換気システムに関する。この換気システムは、機械的な換気を行うデバイスとECLSデバイスとを備え、基本的には以下、本明細書で述べるようにそれぞれ構成することができる。
【0019】
従来通りに動作する機械的な換気、特に、陽圧換気を行うデバイスと、体外式肺補助ECLSのデバイス(特に体外式膜型人工肺ECMOのデバイス)との発明性のある組合せにより、ECLSデバイスは、パラメータ(例えば、体外回路内または体外酸素付加より下流側の静脈血内を流れるOの含有量などのECLSデバイスで特定されるパラメータ、または、機械的な換気で得られるパラメータなどとすることができる)を評価することにより機械的な換気の強度に対するECLSによる治療の強度を変化させるかどうかを判定する。所定のパラメータとして、ECLS治療の強度の相対比率を示す少なくとも1つのパラメータが機械的な換気を行うデバイスに転送される。次いで、機械的な換気を行うデバイスには、特定の状況に適応するか、または、少なくとも、特定の状態が得られるように適応しようとする。したがって、治療の過程に関しては、常にECLSデバイスが機械的な換気を行うデバイスにより優勢である。ECLSデバイスには、所定の補助レベルに予め設定される。機械的な換気を行うデバイスは、ECLSデバイスの補助レベルを予め設定されたファクタとして考慮し、適応する。
【0020】
治療のさらなる過程は、ECLSデバイスによって設定された補助レベルが、どの度合いまで維持されるか、または、変更されるか(通常は低下する)を検知することによって決定される。ECLSデバイスによる補助のレベルを低下させる場合には、機械的な換気の自動設定の新たな指定として機械的な換気を行うデバイスにECLSデバイスによる補助の新たなレベルを識別するためのパラメータが転送される。これは、例えば、ECLSデバイスが体外血液ガス交換のレベルの目標値を設定するように行うことができる。ECLSデバイスは、ECLSデバイスによって現在検出されている血液ガス値を考慮して、予め設定された目標値に接近しようとし、その後、到達したら目標値を維持することをターゲットとして動作する(閉ループ)制御機構を備える。機械的な換気は、その度にこの目標値への接近の過程において優勢であるECLSデバイスの各状態に適応し、したがって、また間接的に予め設定された目標値に一致する換気状態に向かう過程をたどる。
【0021】
可能な制御戦略は、ECLSデバイスが最初に可能な限り高い補助レベル、特にECLSデバイスが肺機能の必要な補助を完全に実施することができ、機械的な換気を行うデバイスによる補助が行われない補助レベル(すなわちECLSデバイスの補助レベルが100%)に設定されることにあることがある。その後、ECLSデバイスの補助レベルをどの程度まで低減することができるか、および、それに応じて機械的な換気を行うデバイスによる補助レベルをどの程度まで上昇させることができるかを、(通常はECLS制御ユニットによって)定期的に検知する。
【0022】
機械的な換気を行うデバイスは、ECLS回路内の血流、Oおよびその他のガスの酸素付加器に流れる総ガス流、酸素付加器のガスの組成などのパラメータによって特徴付けられるそれぞれのECLSデバイスの所与の設定について、ガス交換の所与の目標値が達成されるように機械的な換気を行うデバイスのパラメータを設定しようとする。この意味では、本発明による提案は、ECLSデバイスが機械的な換気を行うデバイスと比較して「優勢」であることを意味している。機械的な換気を行うデバイスは、ECLSデバイスによって設定される状態を所与の状態とみなし、この所与の状態に合わせて、機械的な換気を行うデバイスの適当な状態を設定しようとする。これに関連して、機械的な換気を行うデバイスは、特定の換気モードに応じた予め一定に設定される換気パラメータについての特定の要件に束縛され、また実際には、最大PEEP、最大気道圧力、または、供給される換気ガスの最大毎分換気量など設定可能な換気パラメータについての特定の基本条件にも束縛される。毎分換気量は、呼吸頻度と1回の呼吸の1回換気量との積である。
【0023】
ECLSデバイスによる体外血液ガス交換のレベルは、自動的に、または、手動で、予め選択することができる。特に注目すべきは、さらに一例を提示して詳細に説明するように、ECLSデバイスの設定戦略の範囲内においてECLSデバイスによる体外血液ガス交換のレベルを自動的に予め設定することができることである。
【0024】
例えば、機械的な換気を行うデバイスは、ECLSデバイスによる体外血液ガス交換のレベルに関するそれぞれの設定について、機械的な換気を行うデバイスによる呼吸補助が自動的に(開ループ/閉ループ)制御されるように構成することができる。例えば、機械的な換気を行うデバイスは、所定の換気パラメータの範囲内において、自動的に機械的な換気を行うデバイスによって設定される換気状態を選択し、機械的な換気を行うデバイスが選択した換気状態になる、または、少なくとも選択した換気状態にさせるように機械的な換気を行うデバイスを制御するように構成することができる。これは、特に、閉ループ制御システムを使用した機械的な換気を行うデバイスの形態で設けることができる。例えば、「ASV」(適応補助換気)として知られる換気モードを有する換気デバイスは、選択されるそれぞれの換気モードで十分なフレキシビリティを提供し、さらに、適当と判断される特定の換気モードを自動的に選択することができる。ASVは、閉ループ制御システムを用いた最適な換気モードの動的な計算と、換気モードの選択後には、選択された各換気モードの自由パラメータのうち、依然として自動設定が必要なものへの動的な計算とによる換気を実現するので、患者に与える影響を可能な限り小さくして、十分な呼吸補助を実現することができる。これを行う際には、可能な限り低い圧力で動作する肺保護のための処置戦略が好ましい。
【0025】
機械的な換気を行うデバイスで設定される換気パラメータは、ECLSデバイスによって設定される体外血液ガス交換のレベルから導出することができる。例えば、機械的な換気を行うデバイスにおける最大の呼気終末陽圧PEEPmax、機械的な換気を行うデバイスにおける最大の気道圧力(PEEP+Pinsp)、または機械的な換気を行うデバイスにおける最大の毎分換気量は、体外血液ガス交換のそれぞれの設定されたレベルによって決まることがある。
【0026】
例えば、ECLSデバイスによって設定される体外血液ガス交換のレベルに、酸素付加における、すなわち、血液中の酸素を富化するときの体外補助の度合いを割り当てることができる。酸素付加における体外補助の度合いは、特に、血液中の酸素の富化における体外酸素付加の総計、すなわち、体外酸素付加および機械的な換気を行うデバイスによって実現される血液中の酸素の富化の総計の比率に関する相対値とすることができる。この比率は、以下、%ECLS_Oと記載する。酸素付加における体外補助の度合い%ECLS_Oにより、機械的な換気の最大の呼気終末陽圧PEEPmaxを特定することができる。最大の呼気終末陽圧(PEEPmax)は、その後、酸素付加における体外補助の度合い%ECLS_Oが低下するにつれて増加する。このようにして、機械的な換気を行うデバイスの多数の換気モードにおいて換気強度の基本条件となる最大の呼気終末陽圧が、酸素付加における体外補助の度合い%ECLS_Oが低下するほど、ますます高くなることが保証される。これにより、それに応じて、体外酸素付加による補助のレベルと比較して、血液中のOの富化における機械的な換気を行うデバイスによる補助のレベルが上昇することになる。酸素付加における体外補助の度合いが低下するにつれて、機械的な換気を行うデバイスの関連性はますます高くなる。したがって、機械的な換気を行うデバイスとECLSデバイスとを組み合わせて十分に動作させる期間が長くなるほど、血液中のOを富化するための(生体)器官としての肺の機能の重要性は高くなる。これは、機械的な換気を行うデバイスの補助とECLSデバイスの補助とを組み合わせて十分に行う期間が長くなるほど、機械的な換気を行うデバイスにおいて設定される呼気終末陽圧PEEPがとる最大値が大きくなる可能性があるという事実と整合している。呼気終末陽圧が高くなると、呼息中の肺胞のつぶれを、より良好に抑制することができるため、機械的な換気を行うデバイスの効率が高くなるが、一方では、肺組織にかかる負荷が大きくなることも意味している。
【0027】
体外血液ガス交換のレベルの変化は、体外血液ガス交換の比率と比較して機械的な換気を行うデバイスの比率が強制的に変更されることの直接の結果である。
【0028】
酸素付加における体外補助の度合い%ECLS_Oが、ECLSデバイスによって患者から抜き取られる血流の最大値を特定するので、体外血液ガス交換のレベルの変更を直接得ることもできる。これに関連して、酸素付加における体外補助の度合い%ECLS_Oが増大するにつれて、ECLSデバイスによって患者から抜き取られる血流の最大値が増大するようにすることもできる。この方法を、前述した最大の呼気終末陽圧と酸素付加における体外補助の度合いとの間の関係性の代わりに使用することもできる。ただし、この方法は、付加的に利用すると特に効率的である。
【0029】
これに加えて、または別の方法として、換気における、すなわち、血液からCOを除去するときの体外補助の度合いを、体外血液ガス交換のレベルに割り当てることもできる。また、換気における体外補助の度合いは、特に、血液からCOを除去する際の体外換気の総計、すなわち、体外換気および機械的な換気(人工呼吸)によって実現される血液からのCOの除去の総計の比率に関する相対値とすることができる。この比率は、以下では%ECLS_COとも呼ぶ。
【0030】
換気における体外補助の度合い%ECLS_COは、酸素付加における体外補助の度合い%ECLS_Oから独立していることもある。
【0031】
換気における体外補助の度合い%ECLS_COにより、機械的な換気を行うデバイスにおける最大の毎分換気量を特定することができる(毎分換気量は、1回換気量と呼吸頻度の積として定義される)。特に、最大の毎分換気量は、換気における体外補助の度合い%ECLS_COが低下するにつれて増加することができる。これに加えて、または別の方法として、換気における体外補助の度合い%ECLS_COにより、機械的な換気を行うデバイスにおける最大の気道圧力を特定することもできる(気道圧力は、呼気終末陽圧PEEPと吸息および呼息中に優勢な圧力の和として定義され、最大の気道圧力は、通常は吸息の終了時に得られる)。特に、最大の気道圧力は、換気における体外補助の度合い%ECLS_COが低下するにつれて増加することができる。これは、特に、最大の気道圧力が換気における体外補助の度合いから導出されるだけでなく酸素付加における体外補助の度合いからも導出される、特に、この2つの度合いのうちの高い方から導出されるときに好ましいことが分かっている。例えば、機械的な換気を行うデバイスにおける最大の気道圧力を導出するために、酸素付加における体外補助(%ECLS_O)および換気における体外補助(%ECLS_CO)の最大値の度合いが減少するにつれて増大する最大の気道圧力との関係を利用することができる。
【0032】
このようにして得られる効果は、場合によっては、酸素付加における体外補助の度合いをさらに考慮して、換気における体外補助の度合い%ECLS_COが低下するにつれて、最大の気道圧力、および/または、最大の毎分換気量(これらのパラメータも、機械的な換気を行うデバイスの多くの換気モードにおいて換気強度の基本条件となる)が増大し続けることである。したがって、機械的な換気を行うデバイスによってCOを除去する際の補助のレベルは、それに応じて、体外換気による補助のレベルと比較して増大する。機械的な換気を行うデバイスの重要性は、換気における体外補助の度合いが低下するほど、高くなる。したがって、この場合も、換気における体外補助の度合いが低下するほど、血液からCOを除去するための(生体)器官としての肺の機能の重要性は高くなる。これは、気道圧力、および/または、毎分換気量の最大限界値が大きな機械的な換気を行うデバイスほど、より大きな総負荷が再度肺組織に作用することにはなるが、より効率的な呼息を実現する傾向があるという事実と整合する。
【0033】
この場合も、換気における体外補助の度合い%ECLS_COが、ECLSデバイスが患者の血液循環系から抜き取られた血液に供給する酸素化ガス流の最大値が特定するときに、体外血液ガス交換のレベルの変更を直接実施することもできる。特に、ECLSデバイスが患者の血液循環系から抜き取られた血液に供給する酸素化ガス流の最大値は、換気における体外補助の度合い%ECLS_COが増大するにつれて増大することができる。別の方法として、またはこれに加えて、酸素化ガスの組成を変化させることも可能である。この方法も、最大の気道圧力、および/または、一方では最大の毎分換気量と、他方では、換気における体外補助の度合いとの間の以下に示す相関の代わりに利用することができる。ただし、この方法は、付加的に利用すると特に効率的である。
【0034】
相当の度合いまで、自動的に、望ましくは、完全に自動的に、高い信頼性で動作する換気システムにおいて、通常、体外血液ガス交換のレベルの設定値を有するECLSデバイスは、所定の期間の満了時に、その体外血液ガス交換のレベルの設定値に関して、機械的な換気を行うデバイスおよびECLSデバイスの協働によって血液ガス交換の所定の目標状態が達成されるかどうかを検知する。
【0035】
血液ガス交換の所定の目標状態は、例えば、血液循環系内のOの含有量について特徴的なパラメータによって表現することができる。この目的のために、基本的には、血液中のOの含有量を表現することができる、全ての一般的な方法またはパラメータを使用することができる。特に、以下のパラメータのうちの1つを使用すると容易である。すなわち、SpO(パルス・オキシメトリによって特定される静脈血中のOの飽和度値であり、この目的のためには、特に使いやすい指先プローブが利用できる)、SaO(化学的分析または光学的方法によって特定される血液中の酸素の飽和度値)、または、PaO(血液中のOの分圧)である。これらの値は、機械的な換気を行うデバイス内で(例えばパルス・オキシメトリによって)、またはECLSデバイス内で(これは、いずれにしても血液流が患者の血管系から分岐するので、血液ガス分析で有用である)測定することができる。測定プローブの位置は、基本的には、血液ガス交換が行われる位置の下流側または上流側とすることができる。
【0036】
これに加えて、または別の方法として、対応する方法で、血液循環系内のCOの含有量を定義するパラメータによって、血液ガス交換の所定の目標状態を特徴付けることができる。この場合も、例えば、PaCO(血液中のCOの分圧)、PetCO(呼息の終了時に測定される呼気中のCOの含有量)など、血液中のCOの含有量または濃度を表現するのに適した全ての既知の方法またはパラメータを利用することができる。また、COに関する血液ガス交換の測定は、機械的な換気を行うデバイス(例えばPetCO)またはECLSデバイス(例えばPaCO)の両方で行うことができる。Oの含有量に関する上記の説明は、同様に当てはまる。
【0037】
特に好都合な経過としては、ECLSデバイスは、所定の目標状態に到達した後で、体外血液ガス交換のレベルを低下させる。これは、ECLSデバイスが、機械的な換気を行うデバイスによって行われる血液ガス交換を優先し、体外血液ガス交換のレベルを、初期のレベルから継続的に連続して低下させる固有の傾向を有することを意味する。その結果、この換気システムは、体外血液ガス交換からの固有のウィーニング効果を含む。すなわち、体外血液ガス交換は、機械的な換気を行うデバイスが所与のレベルの体外血液ガス交換で所定の目標状態が得られる状態に適応することができる限り、低下し続ける傾向がある。既に説明したように、所定の目標状態は、特に、血液中の酸素の富化、および/または、血液からのCOの除去に関する所望の状態である。
【0038】
所望のウィーニング効果は、ECLSデバイスが、目標状態に到達することができる、特に、血液循環系内のO濃度の設定値に到達することができると判定した後で、酸素付加における体外補助の度合い%ECLS_Oを、第1の所定の量だけ低下させる点で、特に、簡潔に実現することができる。上記に説明したように、これは、血液ガス交換の補助、特に、血液中の酸素の富化における機械的な換気を行うデバイスの比率が酸素付加における体外補助の比率を犠牲にしてさらに上昇するという効果を有する。ECLSデバイスおよび機械的な換気を行うデバイスの協働による血液ガス交換、特に、酸素付加における補助の全体的なレベルは、必ずしも変化する必要はない。むしろ、このレベルは、多くの場合、全体としての必要とされる補助レベルが変化していないことから一定のままである。ただし、施される補助における機械的な換気の全体の比率は、時間経過とともに増加するように変化する。これは、例えば、体外膜型人工肺による補助の度合い%ECLS_Oが低下するにつれて最大の呼気終末陽圧が上昇するので、機械的な換気を行うデバイス全体が、例えば呼気終末陽圧PEEPなどの次第に緩くなる境界条件の範囲内で起こる可能性があることによるものである。体外膜型人工肺による補助の度合い%ECLS_Oが低下するにつれて患者から抜き取られる血液の最大流が次第に少なくなることも、1つの要因である。
【0039】
したがって、別の方法として、または、これに加えて、ECLSデバイスは、目標状態に到達することができる、特に、血液循環系内のCO濃度の設定値に到達することができると判定した後で、換気における体外補助の度合い%ECLS_COを第2の所定の量だけ低下させることが可能である。酸素付加における体外補助の度合い%ECLS_Oに関連する上記の説明は、この場合にも同様に当てはまる。つまり、血液ガス交換の補助、特に、血液からの二酸化炭素の除去における機械的な換気を行うデバイスの比率は、換気における体外補助の比率を犠牲にしてさらに上昇する。血液ガス交換、特に、ECLSデバイスおよび機械的な換気を行うデバイスの協働による換気における補助の全体的なレベルは、必ずしも変化する必要はない。むしろ、このレベルは、多くの場合、全体としての必要とされる補助レベルが変化していないことから、一定のままである。ただし、施される補助における機械的な換気全体の比率は、時間経過とともに増加するように変化する。体外換気による補助の度合い%ECLS_COが低下するにつれて最大の気道圧力、および/または、最大の1回換気量が上昇するので、機械的な換気は、例えば最大の気道圧力、および/または、最大の1回換気量などの次第に緩くなる境界条件の範囲内で起こる可能性がある。体外換気による補助の度合い%ECLS_COが低下するにつれて患者から抜き取られる血液に供給される酸化ガスの最大流が次第に少なくなることも、1つの要因である。
【0040】
所定の目標値を超えないように、ECLSデバイスが体外酸素付加のレベルを低下させるようにすることができる。特に、ECLSデバイスが、血液循環系内のO濃度の所定の値を超えると、ECLSデバイスによって患者の血液循環系から抜き取られる血流を低減させる、かつ/または、酸素付加における体外補助の度合いを低下させるようにすることができる。特に、ECLSデバイスは、血液循環系内のCO濃度の所定の値を超えたときに、ECLSデバイスによって患者の血液循環系から抜き取られる血液に供給される酸素化ガス流を低減させる、かつ/または、換気における体外補助の度合い%ECLS_COを低下させるようにすることができる。酸素付加における体外補助の度合いまたは換気における体外補助の度合いは、特に、それぞれの所定の目標値に実際に到達したが超えてはいない場合より大きく低下させることができる。
【0041】
所定の目標値に到達していない場合、プロセスの停止、または、特定の反転を実現することができる。これは、ECLSデバイスが体外酸素付加のレベルおよび体外換気のレベルをそれぞれ所定の量だけ上昇させることによって実現することができる。このシナリオでも、それぞれの目標値から明らかにずれている、かつ/または、それぞれの目標値に近づく傾向が全く確認されないときには、体外酸素付加のレベルおよび体外換気のレベルを、それぞれ明らかに、より大きな量だけ増加させることによって、危険な状況を考慮することができる。
【0042】
機械的な換気を行うデバイスの比率が可能な限り高く、体外血液ガス交換の比率が必要なだけの高さである状態に、ほぼ自律的に適応する換気システムは、特に、ECLSデバイスが、機械的な換気を行うデバイスおよびECLSデバイスの協働によるそれぞれの体外血液ガス交換のレベルの設定値で、血液ガス交換の所定の目標値に到達することができるかどうかを、一定の時間間隔で検知する点で実現することができる。この検知は、上記で概説した方法で行うことができ、上記に示した結果を有することがある。
【0043】
ECLSデバイスによる検知の時間間隔は、「可能な限り短く、必要なだけ長く」という原則に従って選択しなければならない。これに関連して、機械的な換気を行うデバイスが非常に短い時間のなかで変化後の状況に適応することができることを利用することができる。これに対して、体外血液ガス交換は、明らかにより強い介入を必要とし、このことは、患者に対する強い影響があることを予想しなければならないことも意味している。したがって、体外血液ガス交換のパラメータを可能な限りゆっくりと、かつ、可能な限り連続的に一致させることが望ましい。これは、ECLSデバイスによる検知の時間間隔を、機械的な換気を行うデバイスの時定数、すなわち、機械的な換気を行うデバイスが予め設定されたパラメータの変化に適応するために、平均して必要とする時間よりも明白に大きくなるように選択することによって、対応することができる。治療の過程の大部分を定義する部分システムであるECMOと、それに適応する部分システムである機械的な換気を行うデバイスとの協調によって提案される組合せでは、この手法が本質的に、ECLSデバイスによる検知の時間間隔をより長く、いずれの場合でも機械的な換気を行うデバイスの時定数よりはるかに長くなるように選択することを可能にすることから、この手法が好まれる。例えば、機械的な換気を行うデバイスは、各呼吸の度に新たな設定を提供する、すなわち、呼吸するごとに制御を実行するように構成することができる。
【0044】
基本的に、この手順は、ECLSデバイスが予め設定された体外における酸素付加/換気のレベルの開始値から始動し、次いで機械的な換気を行うデバイスと協働して、ほぼ自律的に、すなわち、手動による介入を必要とせずに、両部分システムがほぼ最適に動作する状態に至るようにすることができる。この状態も、例えば機械的な換気、および/または、体外血液ガス交換の適応を必要とする患者の状態の変化があるときに、治療の過程で変化する可能性がある。これは、開始値が体外における酸素付加/換気のレベルの最大レベルに対応するときに、特に好都合である。次いで、血液ガス交換がほぼ完全にECLSデバイスによって行われ、機械的な換気を行うデバイスが用いられない状態から開始する。この状態から開始して、換気システムは、体外血液ガス交換および機械的な換気のレベルを段階的に設定し、体外血液ガス交換の比率をますます低下させ、機械的な換気の比率をそれに応じて段階的に上昇させる。
【0045】
これは、換気システムが、開始値を、将来的な過程における体外の酸素付加/換気のレベルの低下および上昇の参照値として使用するときに好都合である。
【0046】
これに加えて、本発明は、患者の肺の機械的な換気を行うデバイスおよび患者の血液の体外血液ガス交換を行うECLSデバイスを協調して動作させる方法であって、一方の機械的な換気を行うデバイスによる機械的な呼吸補助および他方のECLSデバイスによる体外血液ガス交換を、協調して自動的に実行し、患者の血液循環系におけるガス交換を補助する方法にも関する。この方法では、ECLSデバイスが、体外血液ガス交換のレベルを設定し、機械的な換気を行うデバイスが、ECLSデバイスによって設定された体外血液ガス交換のレベルに基づいてあるレベルの機械的な呼吸補助に自動的に適応する。この方法は、上述のように、好ましい展開でさらに展開させることができる。
【0047】
以下、図面に示す実施形態に基づいて、本発明についてさらに詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】陽圧換気デバイスとして構成された機械的な換気を行うデバイスとECLSデバイスとを備える本発明による換気システムを示す高度に簡略化した概略図である。
図2図1に示す高度に簡略化した概略図において、陽圧換気デバイスとして構成された機械的な換気を行うデバイスとECLSデバイスとを備える本発明による別の換気システムを示す図である。
図3】機械的な換気を行うデバイスとECLSデバイスとの間の協調した動作の手順の一例を示すフローチャートである。
図4図3の酸素付加モジュールで行われる手順の詳細を示すフローチャートである。
図5図3の換気モジュールで行われる手順の詳細を示すフローチャートである。
図6】酸素付加における体外補助の度合い%ECLS_Oと最大の呼気終末陽圧PEEPmaxとの間の相関を定性的に示す図である。
図7】酸素付加における体外補助の度合い%ECLS_OとECLSデバイスで設定可能な最大のポンプ流との間の相関を定性的に示す図である。
図8】換気における体外補助の度合い%ECLS_COと陽圧換気における最大の毎分換気量との間の相関を定性的に示す図である。
図9】一方では酸素付加における体外補助の度合い%ECLS_Oおよび換気における体外補助の度合い%ECLS_COと、陽圧換気における最大の気道圧力(Pinsp+PEEP)maxとの間の相関を定性的に示す図である。
図10】換気における体外補助の度合い%ECLS_COとECLSデバイスで設定可能な酸素化ガスの最大流との間の相関を定性的に示す図である。
図11】優勢な呼気終末陽圧PEEPでパルス・オキシメトリによって測定される酸素飽和度値SpOのそれぞれの値のうち、どの値が、高すぎる、低すぎる、通常である、または緊急事態であるとみなされ、図4の判定ブロックにおいてパラメータ%ECLS_Oの対応する変化を生じるかを定性的に示す図である。
図12】優勢な最大の気道圧力(Pinsp+PEEP)で動脈血中で測定された二酸化炭素濃度PaCOのそれぞれの値のうち、どの値が、高すぎる、低すぎる、または通常であるとみなされ、図5の判定ブロックにおいてパラメータ%ECLS_COの対応する変化を生じるかを定性的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
図1は、本発明における陽圧換気デバイスとして構成された機械的な換気を行う換気デバイス20と、ECLSデバイス50とを備える換気システム10を簡略化したものを示す概略図である。換気デバイス20は、図1において概略的に示されている人工呼吸器22を備える。人工呼吸器22は、詳細には示していない導管システム24によって、患者(図1では参照符12で概略的に示してある)の気道に接続される。人工呼吸器22は、導管システム24を介して、吸息を行っている途中には加圧空気を患者12の気道に供給し、呼息を行っている途中では患者の気道から空気を排出する。換気中には、導管システム24には、呼気終末陽圧PEEPが常に印加されている。この圧力に加えて、呼息を行っている途中では、(通常は呼息サイクル中に変化する)吸息圧力Pinspも人工呼吸器によって印加される。呼息を行っている途中で、人工呼吸器は通常、呼気終末陽圧PEEPのみを印加し、これに対して肺組織が弛緩する。
【0050】
換気デバイス20は、さらに、換気に必要なパラメータを検出するセンサ・システムを備える。例えば、図1に、以下に示された一部のパラメータが、導管システム24で検出される。すなわち、吸息圧力Pinsp、呼息圧力Pexp、呼気終末陽圧PEEP、1回呼吸量VT(すなわち吸息サイクル中に肺の中に取り込まれる呼吸ガス体積)、取り込まれる呼吸ガスの流量、(特に呼息中の)呼吸ガス中のCOの陽圧である。換気デバイス20は、さらに、図1に参照番号26で示される患者の血液中の酸素飽和度を特定するセンサ部を備える。これは、動脈の酸素飽和度SpOを皮下で特定するパルス・オキシメトリ・センサ部(例えば指先センサを備えるもの)などの形態で設けることができる。図1に示す実施形態において換気デバイス20は、さらに、血液ガスを分析する、特に、図1に参照番号28で概略的に示すように、血液中の酸素の動脈濃度PaOを特定し、血液中の二酸化炭素の動脈濃度PaCOを一定の間隔で特定するセンサ部を備える。酸素濃度PaOおよび二酸化炭素濃度PaCOの代わりに、対応するヘモグロビンの飽和度SaOおよびSaCOを求めても良い。
【0051】
換気デバイス20は、換気デバイスの全ての手順をほぼ自動的に制御するように構成された、連動する制御ユニットを有する。この制御ユニットは、人工呼吸器22に一体化することができるが、その一部、または、全体を外部の制御デバイスとして構成することもできる。換気デバイス20の制御ユニットは、操作者と通信する、特に、患者の換気状態を表示し制御コマンドを入力するための通常のインタフェースを備える。制御ユニットは、基本的には、換気デバイス20が、適当な換気モードをほぼ自律的に手作業による介入なく選択し、予め選択された換気モードの範囲内で換気パラメータをそれぞれ最適値に設定し、また、閉ループ制御システムとして、換気パラメータを自律的に監視し、場合によってはそれらを再調整して、可能であれば所望の換気状態を維持可能なように構成される。
【0052】
この種類の換気デバイスは、例えば、本出願人の換気デバイスで実現される「適応補助換気」として知られる換気モードなど、ほぼ自動化された換気モードを含むデバイスである。
【0053】
血液ガス交換をさらに補助するために、図1の換気システム10は、その全体を参照番号50で示されているECLS(体外式肺補助)デバイスを備える。患者の気道に接続され、気道を通して肺に呼吸ガスを送る換気デバイス20とは対照的に、ECLSデバイス50は、血液ガスの交換を直接的に補助する、すなわち、肺の機能の一部または肺の機能の全体の代替するものとして機能する。したがって、ECLSデバイス50は、肺に接続されず、患者の血液循環系に直接接続される。ECLSデバイス50は、患者の静脈系から血液を抜き取り、ECLSデバイス50の体外血液循環系に送るための第1の導管52を備える。この体外血液循環系は、静脈系から取り出された血液を酸素付加器58に供給し、その後、その血液を、導管54を介して患者の血液循環系に戻すECLSポンプ56によって駆動される。静脈−静脈体外血液ガス交換補助の場合には、導管54は、酸素が富化されCOが除去された血液を患者の静脈系に戻す。静脈−動脈体外血液ガス交換補助の形態も考えられ、この場合には、導管54は、酸素が富化されCOが除去された血液を、患者の動脈系の心臓より下流側に戻すことによって肺機能に加え患者の心臓機能をも補助する。その場合には、ECLSデバイス50は、人工心肺装置と非常によく似た機能となる。
【0054】
酸素付加器58は、静脈血のCOを除去し、Oを富化する。この目的のために、酸素化ガス62を酸素付加器58に供給し、この酸素化ガスが、酸素付加器58において静脈血と相互作用することで、ヘモグロビンからCOが除去され、COから解放されたヘモグロビンにOが添加される。酸素付加器58は、したがって、ほぼ、肺の肺胞の機能を代替するものとなる。このような酸素付加器58は、例えば、人工心肺装置では既知である。膜型の酸素付加器として設けられる場合には、半透性膜が血液ガスOおよびCOの交換に使用され、ECLSデバイス50によって実現される血液ガス交換の補助は、ECMOS(体外式膜型人工肺)として知られている。その他の既知の酸素付加器の構成も、基本的には使用可能である。酸素化ガス62は、基本的には、コンディショニング・ユニット60にその源を有するO、ときには純粋なOが富化された混合ガスである。所望の酸素付加および換気の度合いは、それぞれ酸素化ガス62中のOおよびCOの分圧によって設定することができる。この目的のために、酸素化ガスを適当に調製することができ、望ましい場合には、これは、体外血液ガス流を取り出す静脈系、または動脈系の血液ガスの組成に従って調製することができる。
【0055】
ECLSデバイス50による血液ガス交換補助のレベルを制御するための基本パラメータは、人体から取り出され体外回路を通して送られる血液の流れ、および、酸素付加器に供給される酸素化ガスの流れである。人体から取り出され体外回路を通して送られる血液の流れは、ポンプ58によって発生するポンプ流によってかなり容易に検出することができ、また、設定することができる。また、酸素化ガスの流れも、適当な流れセンサまたは流れ制御装置によって容易に検出し、設定することができる。
【0056】
さらに、上述のように、酸化ガスの組成に対する適当な影響を及ぼすことも可能である。例えば、COを過剰に除去することによって生じる生理学的にマイナスの影響を抑制するために、特定の量のCOを酸化ガスに加えることも実際に可能である。
【0057】
ECLSパラメータを制御するために、図1に参照番号30で示される別個の制御デバイスであるECLS制御ユニットが設けられる。ECLS制御ユニット30は、人体から取り出され体外回路を通して送られる血液の流れおよび酸素付加器に供給される酸素化ガスの流れ、ならびに、酸素化ガスの組成に関する上述したデータを検出する。これらのデータに応答して、ECLS制御ユニットは、通常は対応する閉ループ制御システム(例えばPI制御システム)を介して、ECLSポンプ56、酸素付加器58、および酸素化ガス発生器60、ならびにそれらに関連付けられたアクチュエータに対して、それぞれの所望の流れおよび組成を設定するために、適当な制御コマンドを出力。図では、これをそれぞれの矢印で示してある。
【0058】
換気デバイスに関連する制御ユニットおよびECLSデバイスに関連する制御ユニットは、一般に、相互に独立して動作する。ただし、これらのデバイスは、一方の換気デバイス20および他方のECLSデバイス50と協調して動作する動作モードを可能にするために図1に参照番号40で示す接続を介してデータを交換する。これについては、以下でさらに詳細に説明する。
【0059】
ただし、本明細書で既に指摘しているように、ECLSデバイス50に関連するECLS制御ユニット30と換気デバイス20に関連する制御ユニットとの物理的な分離は、絶対的に必要であるわけではない。両制御ユニットを1つのユニットまたはモジュールに物理的に組み合わせることも実際に考えられる。このようなユニットまたはモジュールは、換気デバイス20およびECLSデバイス50の他に独立したユニットとして設けることができるが、例えば図1に示す人工呼吸器22などこれらのデバイスのうちの一方に完全に統合することもできる。
【0060】
図2は、図1に示した換気デバイス20とECLSデバイス50とを備える本発明による別の換気システム10を示す高度に簡略化した概略図である。図2で使用する参照番号は、同じ、または対応する構成要素が存在する限り、図1の参照番号と対応している。これに関して同様に当てはまるものは、図1に関連する構成要素の説明を参照されたい。図2の換気システムは、患者の血液循環系内のOおよびCOの濃度または飽和度(それぞれPaOおよびPaCO、または、SaOおよびSaCO)を特定するセンサ・システムが換気デバイス20と関連付けられなくなり、ECLSデバイス50と関連付けられている点のみ、図1の換気システムと異なる。参照番号66で示すように、PaO/PaCO(またはSaO/SaCO)の特定は、体外血液循環系で行われる。このことは、特に、このようなセンサ・システムが体外血液循環系に容易に収容することができることを考慮すると好都合であり、したがって、いずれにしても通常は、ECLSデバイス50の動作には情報が必要である。その後、ECLS血液循環系で検出されたデータは、インタフェース40を介して、換気デバイス20も利用できるようになる。
【0061】
図3は、一例における換気デバイス20とECLSデバイス50との間で協調して動作する際の基本的なプロセスを示すフローチャートである。図3のフローチャートは、後述の図4および図5のフローチャートと同様に、換気デバイス20とECLSデバイス50の協調協働に関連するステップおよびパラメータの表現に限定されているが、これは、図示されている手順における全体的な過程を限定するものではない。
【0062】
プロセスの開始後、最初に、換気デバイス20とECLSデバイス50との協調動作に関連するいくつかのパラメータの開始値を設定する。これらは、とりわけ、酸素付加における体外補助の度合い%ECLS_O、および換気における体外補助の度合い%ECLS_COのパラメータである。図示されている実施形態によれば、これらの量は両方とも、血液ガス交換の完全補助に対する、ECLSデバイス50によって実現される血液ガス交換(すなわちそれぞれ酸素付加および換気)における体外補助の比率をそれぞれ示す相対量として表される。これを行う際に酸素付加および換気は別個に考慮され、それぞれ別個の体外補助の度合い%ECLS_Oおよび%ECLS_COで表される。開始値は、パラメータ%ECLS_Oおよびパラメータ%ECLS_COの両方に割り当てられる。この開始値は、手動で設定することができる。開始値を選択する際には、一般に、患者の状態をオリエンテーションとして使用し、必要とされる追加の体外血液ガス交換の度合いまたは比率に関する評価に従って、陽圧換気と協働し、患者の妥当な全体的な状態を達成することになる。この評価に関しては、「慎重に」進める、すなわち、酸素付加および換気の体外補助の度合いを決して過小評価せずに、疑いのある場合には、%ECLS_Oおよび%ECLS_COの開始値を高すぎる程度に選択することが推奨される。図示されている例では、%ECLS_Oおよび%ECLS_COのそれぞれについて開始値100%が選択されている。これは、開始時の血液ガス交換の補助が、完全に体外血液ガス交換によって実現されていることによって陽圧換気は全く寄与していないことを意味する。
【0063】
これに加えて、換気デバイス20によって気道に供給される呼吸ガスFiOの酸素含有量の開始値も設定される。図3に示す実施形態では、FiOの開始値=100%が設定されており、換気デバイスが、ECLSデバイス50に加えて血液ガス交換の補助に寄与するようになると、直ちに純粋な酸素を患者に対して供給することを意味している。ただし、このステップでFiOについて設定される値は、換気デバイス20が常に可能な限り最良の換気モードを選択し、選択した換気モードについて、可能な限り最良の換気状態が得られるように換気パラメータを設定するように構成されるため、非常に素早く変化することになる。これを行う際に、換気デバイス20は、通常は、FiOの値を、特に、明らかに100%より小さい値に変化させる。
【0064】
開始値を設定すると、この手順は、所定の期間が経過するまで待機する(ステップ120)。この所定の時間が、ECLSデバイス50のパラメータの設定更新を行うための繰返し率を決定する。この所定の時間は、換気デバイス20の時定数、すなわち、換気デバイス20が新たな状態に適応するために必要な平均の時間より明らかに長くなるように選択されるものとする。この例では、この時間は30秒である。
【0065】
所定の時間が経過した後で、このプロセスは、酸素付加に関連するパラメータを設定する手順(ステップ200)に入り、その後、換気に関連するパラメータを設定する手順(ステップ300)に入る。
【0066】
その後、このシーケンスを反復的に繰り返す。すなわち、このプロセスは、再度所定の時間が経過するのを待機し(ステップ120)、その後、酸素付加が行われ(ステップ200)、その後に換気が行われて(ステップ300)、以下同様に繰り返される。
【0067】
図4は、図3の酸素付加モジュール200で行われる手順をさらに詳細に示すフローチャートである。ステップ202で開始された後で、このプロセスは、最初に、図示される例では30秒である所定の時間を待機する(ステップ204)。この時間の経過後に、ステップ206で、血液循環系の酸素付加が十分であるかどうかを検知する。これは、前述のセンサのうちの1つまたは複数によって、例えば、パルス・オキシメトリによる酸素飽和度値SpOの特定によって、または、血液ガス値の継続的な分析および血液中の酸素濃度PaOの特定によって、行うことができる。望ましい場合には、パルス・オキシメトリによって特定される酸素飽和度SpOを、血液ガス分析によって散発的にではあるが確かめられているPaOまたはSaOの値で補足することもできる。ステップ206の特定の結果における酸素濃度または酸素飽和度が所望の範囲内であるというものである場合には、ステップ210で、酸素付加における体外補助の度合いを表すパラメータ%ECLS_Oを、図示されている例では0.05%である所定の第1の量だけ減少させる。この瞬間から、ECLSデバイス50による体外血液ガス交換補助と陽圧換気による補助との間の血液ガス交換補助の相対比率が変化し始める。これは、図6および図7のグラフに見ることができる。図6に示す図は、酸素付加における体外補助の度合い%ECLS_Oと最大の呼気終末陽圧PEEPmaxとの間の相関を定性的に示す図であり、一方で第1の所定の量だけパラメータ%ECLS_Oが減少すると、換気デバイス20の最大の呼気終末陽圧PEEPmaxが上昇することを示している。一方、図7の図は、酸素付加における体外補助の度合い%ECLS_OとECLSデバイスで設定可能な最大のポンプ流との間の相関を定性的に示す図であり、パラメータ%ECLS_Oが第1の所定の量だけ減少すると、最大のポンプ流が低下することを示している。ただし、最大のポンプ流は、体外ECLS回路内を流れることができる最大の血流に対応しているため酸素が富化されている。これは、ECLSデバイス50による体外補助の基本条件の方がより厳しく設定され、換気デバイス20による補助の基本条件の方がより甘く設定されることを意味している。
【0068】
ステップ208の後で、プロセスは、参照番号210で示す図4の点2に到達する。この点で、手順は、図1の換気モジュール300に進む。図5は、換気モジュール300で行われる手順をさらに詳細に示すフローチャートである。
【0069】
最初に、このプロセスは、図示の例では30秒である所定の期間の経過を待機する(ステップ302)。この時間の経過後に、ステップ304で、血液循環系の換気が十分であるかどうかを検知する。これは、前述のセンサのうちの1つまたは複数によって、例えば、血液ガス値の継続的な分析および血液中の二酸化炭素濃度PaCOおよび対応する二酸化炭素飽和度SaCOの特定によって行うことができる。図1および図2にはPetCOとして示してある呼気中のCO含有量の測定値を使用することもできる。望ましくは、この測定値を、血液ガス分析によって散発的にではあるが確かめられているPaCOまたはSaCOの値で補足することもできる。ステップ302の特定の結果において二酸化炭素濃度または二酸化炭素飽和度が所望の範囲内であるというものである場合には、ステップ304で、換気における体外補助の度合いを表すパラメータ%ECLS_COを、図示されている例では0.05%である所定の第2の量だけ減少させる。この瞬間から、ECLSデバイス50による体外血液ガス交換補助と陽圧換気による補助との間の血液ガス交換補助の相対比率が変化し始める。これは、図8から図10に示されているグラフで確認することができる。図8に示す図は、換気における体外補助の度合い%ECLS_COと陽圧換気の最大の毎分換気量%MinVolMaxとの間の相関を定性的に示す図であり、一方で第2の所定の量だけパラメータ%ECLS_COが減少すると、換気デバイス20の最大の毎分換気量%MinVolMaxの設定が上昇することを示している。一方、図9の図は、酸素付加における体外補助の度合い%ECLS_Oおよび換気における体外補助の度合い%ECLS_COと、陽圧換気における最大の気道圧力(Pinsp+PEEP)maxとの間の相関を定性的に示す図であり、パラメータ%ECLS_Oおよび%ECLS_COが両方とも、%ECLS_Oが第1の所定の量だけ、%ECLS_COが第2の所定の量だけ減少したときに、陽圧換気において最大の気道圧力(Pinsp+PEEP)maxが高くなることも示している。最大の毎分換気量の上昇および最大の許容気道圧力の上昇は、両方とも、換気システムによって行われる血液ガス交換の補助における陽圧換気の影響を全体として大きくすることができる。さらに、図10は、パラメータ%ECLS_COが第2の所定の量だけ減少すると、追加の効果があることも示している。図10に示す図から、定性的に、ECLSデバイスで設定可能な酸化ガスの最大流は、換気における体外補助の度合い%ECLS_COが低下すると減少することが分かる。したがって、ECLSデバイスによる体外補助の基本条件の方がより厳しく設定されるので、パラメータ%ECLS_COの減少は、ECLSデバイスによって全体として得ることができる血液ガス交換の低下も伴う。これに対して、陽圧換気による補助の基本条件は、より甘く設定される。
【0070】
全体としては、その結果、点310において、陽圧換気の影響が体外血液ガス交換の影響を犠牲にして全体として増大していることになる。この手順によって、血液中の酸素の富化および血液中のCOの除去に関して設定される目標値は、最初に選択される設定で達成することができる。
【0071】
参照番号310で示してある図5の点1に到達すると、このプロセスは、やはり参照番号310で示してある図4の点1に戻る。これは、新たな待機期間がその後に続き、その後に酸素付加に関する状態の再検出と、場合によってはパラメータ%ECLS_Oの再設定とが続くことを意味する。
【0072】
上述の手順は、その全体が、換気システム10が、少なくとも陽圧換気および体外血液ガス交換を組み合わせた効果によって設定される酸素付加および換気に関連する目標値を達成することができる限り、選択された初期状態よりも陽圧換気が影響を増し、体外血液ガス交換がますます影響を失っていく方向に展開する傾向にあることを意味している。したがって、換気システム10自体は、外部からの介入を必要とすることなく、陽圧換気が可能な限り大きな影響を有し、体外血液ガス交換が必要とされる度合いだけ補助するような状態に適応する。この展開は、ECLSデバイス50によって促進され、換気デバイス20ではない。これにより、最終的に、ECLSデバイスに対してほとんど、または全く影響を及ぼすことなく、ECLSデバイス50によって設定されるそれぞれの基本条件に換気デバイス20が適応することが、徐々に、ただし連続的に展開していくことになる。
【0073】
ステップ206で検出される血液中の酸素濃度が所望の目標値に対応せず、低すぎる、または高すぎる場合には、酸素付加における体外補助の度合いを示すパラメータ%ECLS_Oが、第1の量より大きい第3の量だけ減少する(ステップ212)、または第4の量だけ増加する(ステップ214)。第3の量は第1の量より大きいので、陽圧換気の比率は、その後、血液中の酸素濃度の所望の目標値に単に到達するだけの場合よりさらに速く増加する。対照的に、%ECLS_COが第4の量だけ増加すると、陽圧換気による補助がその後は増加しなくなり、逆に減少するという効果を有する。これは、このような状況では、患者の状態が陽圧換気の比率がそれ以上増加することを許容しないことによるものである。所望の酸素濃度から大きくずれている場合には、緊急事態であると結論付けられ、パラメータ%ECLS_Oを、劇的に、この例では10%増加させて(ステップ216)、結果的に十分な血液ガス交換を体外回路で保証することができるようにする。
【0074】
換気モジュール300についても、同様の機構が適用可能である。ステップ302で検出される血液中の二酸化炭素濃度が所望の目標値に対応せず、高すぎる、または低すぎる状況が生じた場合には、換気における体外補助の度合いを示すパラメータ%ECLS_COが、第2の量より大きい第5の量だけ減少する(ステップ306)、または第6の量だけ増加する(ステップ308)ようになっている。第5の量は第2の量より大きいので、陽圧換気の比率は、その後、所望の、血液中の二酸化炭素濃度の目標値に単に到達するだけの場合よりさらに速く増加する。対照的に、%ECLS_COが第6の量だけ増加すると、陽圧換気による補助がその後は増加しなくなり、逆に減少するという効果を有する。これは、このような状況では、患者の状態が陽圧換気の比率がそれ以上増加することを許容しないことによるものである。
【0075】
図11は、優勢な呼気終末陽圧PEEPに関してパルス・オキシメトリによって測定される酸素飽和度値SpO2のそれぞれの値のうち、どの値が、高すぎる、低すぎる、通常である、または緊急事態であるとみなされ、図4の判定ブロックにおいてパラメータ%ECLS_Oの対応する変化につながるかを定性的に示す図である。
【0076】
図12は、優勢な最大の気道圧力(Pinsp+PEEP)に対する動脈血中で特定されたCO濃度PaCOのそれぞれの値のうち、どの値が、高すぎる、低すぎる、または通常であるとみなされ、図5の判定ブロックにおいてパラメータ%ECLS_COの対応する変化につながるかを定性的に示す図である。
【0077】
図示された全ての図面において、特に、図6から図12に示す相関では、定性的な過程しか図示されていないことに留意されたい。これは、定性的な説明をすることを意図したものではない。さらに、これらの関係の直線的な推移は、単に簡略化を表しているに過ぎない。実際の推移は、部分的に、または完全にこの直線的な推移からずれることもある。重要なことは、それぞれ概説したように、%ECLS_Oおよび%ECLS_COの値が増大するにつれてそれぞれのパラメータが増加または減少する傾向にあることである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12