特許第6574795号(P6574795)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6574795
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】端子付き電線の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01R 43/048 20060101AFI20190902BHJP
   H01R 43/02 20060101ALI20190902BHJP
   H01R 4/18 20060101ALN20190902BHJP
   H01R 4/62 20060101ALN20190902BHJP
【FI】
   H01R43/048 Z
   H01R43/02 B
   !H01R4/18 A
   !H01R4/62 A
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-3457(P2017-3457)
(22)【出願日】2017年1月12日
(65)【公開番号】特開2018-113181(P2018-113181A)
(43)【公開日】2018年7月19日
【審査請求日】2018年3月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鍋田 泰徳
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 直樹
【審査官】 杉山 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−222311(JP,A)
【文献】 特開2016−115525(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0324727(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0032569(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 43/048
H01R 43/02
H01R 4/18
H01R 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウム合金から形成されている複数の導体芯線が束ねられた芯線束を有する電線に端子が圧着された端子付き電線の製造方法であって、
前記芯線束に対して超音波接合処理を施すことによって前記複数の導体芯線が互いに接合された接合芯線を形成する接合工程と、前記接合芯線に前記端子を圧着する圧着工程と、を含み、
前記接合工程において、
前記接合芯線の軸線に直交する平面によって前記接合芯線を切断した際の断面において、前記断面の外周に囲まれた全体領域の面積に対する前記導体芯線が存在しない隙間領域の面積の百分率である隙間率が3よりも大きく且つ15以下であるように、前記接合芯線を形成する、
端子付き電線の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法において、
前記隙間率が、
前記接合芯線の前記断面の外周形状を多角形に近似した場合における前記全体領域の面積に対する前記隙間領域の面積の百分率である、
端子付き電線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の導体芯線が束ねられた芯線束を有する電線に端子が圧着された端子付き電線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電線の許容電流を高めつつ曲げ強度を向上させる観点等から、複数の導体芯線が束ねられた芯線束(例えば、撚り線)を有する電線が提案されている。このような芯線束(撚り線)に端子を圧着させた場合、芯線束の外周部に位置する導体芯線は端子に直接接触して電気的に接続されるものの、芯線束の中央部に位置する導体芯線は外周部に位置する導体を介して端子に電気的に接続されることになる。そのため、芯線束と端子との間の全体的な導電性を向上させるためには、導体芯線と端子との間の導電性(外周部の導電性)に加え、導体芯線同士の間の導電性(中央部の導電性)を向上させることが望ましい。
【0003】
一方、近年、銅に比べて軽量かつ低コストであること等を理由に、アルミニウム及びアルミニウム合金等が導体芯線の材料として用いられる場合がある。ところが、この場合、導体芯線の表面に自然形成される酸化皮膜(酸化アルミニウム)の絶縁性が高いため、上述した導電性(外周部の導電性・中央部の導電性)を向上させる工夫が特に求められる。
【0004】
そこで、例えば、従来の端子付き電線の製造方法の一つ(以下「従来製法」という。)では、アルミニウム製の導体芯線からなる芯線束(撚り線)に対して超音波接合処理を施すことにより、導体芯線の表面の酸化皮膜を破壊しつつ導体芯線同士を互いに接合させ、芯線束を一体化(単線化)するようになっている。これにより、芯線束の外周部に位置する導体芯線も中央部に位置する導体芯線も、実質的に端子に直接接触することになる。その結果、このような単線化がなされない場合に比べ、中央部の導電性が向上する分、芯線束と端子との間の全体的な導電性が向上し得る(例えば、特許文献1〜3を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−231079号公報
【特許文献2】特開2011−082127号公報
【特許文献3】特開2016−115525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、超音波接合による接合力は、一般に、他の接合手法(例えば、溶接およびハンダ付け等)による接合力に比べて小さい。そのため、導体芯線同士が十分に接合していない場合(例えば、接合箇所の面積の大きさが不十分である場合)、端子付き電線の使用環境によっては(例えば、使用環境の温度が上下することによる接合芯線の熱膨張・熱収縮の繰り返しに起因し)、導体芯線同士が接合した状態を維持できず、芯線束(接合芯線)が複数の導体芯線に分離する(接合箇所が破断し、単線化が解除される)場合がある。この場合、分離した導体芯線の表面に改めて酸化皮膜が形成され、上述した一体化(単線化)の効果が損なわれることとなり得る。
【0007】
一方、上述したような単線化の解除を避けるべく、超音波接合処理の際に芯線束を過度に圧縮し過ぎると、端子を接合芯線に圧着した後に接合芯線にクリープ変形が生じ、端子から接合芯線の一部が剥離する場合がある。この場合、端子と接合芯線との接触面積が低下する分、端子と接合芯線と間の導電性が低下することとなり得る。
【0008】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、複数の導体芯線が互いに接合された接合芯線に端子が圧着された端子付き電線の導電性を出来る限り高め且つ維持することが可能な端子付き電線の製造方法、を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達成するために、本発明に係る端子付き電線の製造方法は、下記(1)〜()を特徴としている。
(1)
アルミニウム又はアルミニウム合金から形成されている複数の導体芯線が束ねられた芯線束を有する電線に端子が圧着された端子付き電線の製造方法であって、
前記芯線束に対して超音波接合処理を施すことによって前記複数の導体芯線が互いに接合された接合芯線を形成する接合工程と、前記接合芯線に前記端子を圧着する圧着工程と、を含み、
前記接合工程において、
前記接合芯線の軸線に直交する平面によって前記接合芯線を切断した際の断面において、前記断面の外周に囲まれた全体領域の面積に対する前記導体芯線が存在しない隙間領域の面積の百分率である隙間率が3よりも大きく且つ15以下であるように、前記接合芯線を形成する、
端子付き電線の製造方法であること。
(2)
上記(1)に記載の製造方法において、
前記隙間率が、
前記接合芯線の前記断面の外周形状を多角形に近似した場合における前記全体領域の面積に対する前記隙間領域の面積の百分率である、
端子付き電線の製造方法であること
【0010】
上記(1)の構成の端子付き電線の製造方法によれば、接合芯線に端子を圧着した圧着部の電気抵抗値について発明者が行った実験等の結果、隙間率が15以下(隙間率≦15)である場合、熱衝撃試験(例えば、SAE Internationalが定める米国規格USCAR−21のAccelerated Environment Exposure Test)を経た後の圧着部の電気抵抗値が、所定の基準範囲内に収まることが明らかになった。更に、発明者が別途行った実験等の結果、隙間率が3よりも大きい(隙間率>3)場合、圧着部において接合芯線にクリープ変形が生じ難く、端子から接合芯線が剥離する現象が生じ難いことが明らかになった。
更に、上記(1)の構成の端子付き電線の製造装置によれば、一般に用いられる銅製の導体芯線(銅線)に比べて表面に形成される酸化皮膜の絶縁性が大きいアルミニウム製またはアルミニウム合金製の導体芯線(アルミニウム線)に端子を圧着するにあたり、上述した各種の効果を得られることになる。
【0011】
したがって、本構成の端子付き電線の製造方法は、複数の導体芯線が互いに接合された接合芯線に端子が圧着された端子付き電線の導電性を出来る限り高め且つ維持することが可能である。
【0012】
上記(2)の構成の端子付き電線の製造方法によれば、接合芯線の断面の外周形状を多角形に近似する分(例えば、超音波接合装置の接合処理室の断面形状が四角形である場合、接合芯線の外周の微細な凹凸形状を敢えて考慮せず、その断面を単純な四角形に近似することにより)、隙間率の算出が容易になる。なお、このような近似を行っても、接合芯線の外周の微細な凹凸形状は通常は隙間率の算出結果に実質的な影響を及ぼさない。よって、本構成により、上記(1)の製造方法の実施をより容易にすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、複数の導体芯線が互いに接合された接合芯線に端子が圧着された端子付き電線の導電性を出来る限り高め且つ維持することが可能な端子付き電線の製造方法、を提供できる。
【0015】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の実施形態に係る端子付き電線の製造方法の概略を説明する図であって、図1(a)〜図1(d)の各々は、電線の端部における斜視図である。
図2図2は、端子を圧着する電線を説明する図であって、図2(a)は電線の端部の正面図、図2(b)は接合芯線を形成した電線の端部の正面図、図2(c)は接合芯線の正面図である。
図3図3は、芯線束を超音波接合する超音波接合機の概略図である。
図4図4は、電線に端子を圧着する端子圧着機及び電線等の斜視図である。
図5図5は、端子圧着機による端子の圧着の方法を説明する図であって、図5(a)は端子及び電線の接合芯線が配置された端子圧着機の正面図、図5(b)は端子及び電線の接合芯線が配置されたアンビルの正面図である。
図6図6は、電線に端子を圧着した状態における端子圧着機の正面図である。
図7図7は、電線に端子を圧着した端子付き電線の圧着箇所における断面図である。
図8図8は、隙間率と圧着部における電気抵抗値との関係を、熱衝撃試験の前後において比較しながら示すグラフである。
図9図9は、接合芯線に生じたクリープ変形に起因して端子から接合芯線の一部が剥離した状態を示す、図7に対応する図である。
図10図10(a)〜(e)は、他の実施形態として、端子付き電線の圧着箇所の形状の種々のバリエーションについて、図7に対応する断面図を並べた図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<実施形態>
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る端子付き電線の製造方法について説明する。
【0018】
本実施形態に係る端子付き電線の製造方法においては、まず、図1(a)に示すように、電線11の絶縁被覆14を皮剥きして複数の導体芯線12からなる芯線束13を露出させる。次いで、図1(b)に示すように、芯線束13に対して超音波接合処理(詳細は後述される。)を施し、隣接する導体芯線12が互いに接合した接合芯線13Aを形成する。次いで、図1(c)に示すように、接合芯線13Aを端子31の所定箇所に配置した後、図1(d)に示すように、端子31を接合芯線13A(及びその周辺の絶縁被覆14)に圧着する。これにより、端子付き電線1が製造される。
【0019】
図1(a)及び図2(a)に示すように、電線11は、複数の導体芯線12が束ねられた芯線束13の外周を絶縁被覆14によって覆うように構成されている。本例では、導体芯線12は、アルミニウム又はアルミニウム合金製の非メッキ素線である。換言すると、電線11は、いわゆるアルミニウム電線またはアルミニウム合金電線である。
【0020】
図1(b)及び図2(b)に示すように、電線11の芯線束13を超音波接合した接合芯線13Aは、その軸線に直交する断面において矩形状の(本例では長方形状の)形状を有している。接合芯線13Aでは、芯線束13を構成する複数本の導体芯線12が超音波振動によって互いに接合されている。
【0021】
図3に示すように、電線11の芯線束13を超音波接合するための超音波接合機20は、ホーン21と、アンビルプレート22と、グライディングジョー23と、アンビル24と、を備えている。ホーン21は、超音波発振器により、図中の紙面前後方向に超音波振動するようになっている。ホーン21の上面(芯線束13に接触する面)には、振動方向に直交する方向に延びる複数の凸条からなるローレット(図示省略)が形成されており、ホーン21の上面と芯線束13との間の滑りを抑制するようになっている。超音波接合機20では、ホーン21、アンビルプレート22、グライディングジョー23及びアンビル24によって画成される断面視矩形状の空間が接合処理室Sとされており、この接合処理室S内に配置した芯線束13の導体芯線12同士を超音波接合するようになっている。
【0022】
アンビルプレート22は、ホーン21の側部に配置されている。グライディングジョー23は、ホーン21の上面におけるアンビルプレート22と対向する位置に配置されており、アンビルプレート22に対して近接または離間する方向へ移動可能とされている。図3では、グライディングジョー23は、図中の矢印Aに示す向きに移動し、この向きに芯線束13を押圧している。
【0023】
アンビル24は、ホーン21及びアンビルプレート22の上方に配置されており、昇降することにより、ホーン21に対して近接または離間する方向へ移動可能とされている。図3では、アンビル24は、図中の矢印Bに示す向きに移動し、この向きに芯線束13を押圧している。
【0024】
超音波接合機20は、グライディングジョー23及びアンビル24を上述したように移動させることにより、接合処理室Sの幅および高さ(ひいては、芯線束13が接合された接合芯線13Aの幅および高さ)を自在に変更することが可能となっている。このように接合処理室Sの幅および高さを調整することにより、所望の隙間率(詳細は後述される)を有する接合芯線13Aを形成できる。
【0025】
再び図1を参照すると、図1(c)に示すように、端子31は、電気接続部32と、圧着接続部33とを有している。端子31は、例えば、銅または銅合金などの導電性金属材料からなる金属板をプレス加工することによって形成されている。よって、本例において、端子31の厚さは、いずれの箇所においても実質的に同一である。
【0026】
電気接続部32は、平板状の接続板部34を有しており、この接続板部34には、接続孔34aが形成されている。接続板部34は、例えば、接続孔34aに締結ボルトを挿通させて接続機器の端子台などに締結することにより、端子台に電気的に接続される。
【0027】
圧着接続部33は、電気接続部32側から順に、導体圧着部41と、外被圧着部45と、を有している。導体圧着部41は、基底部42と、基底部42の両側部に形成された一対の導体圧着片43(圧着片)とを有している。基底部42には、接合芯線13Aが載置される。導体圧着片43は、接合芯線13Aを挟むように基底部42から延設されている。導体圧着部41は、一対の導体圧着片43を内側へ向けて湾曲させる(加締める)ことにより、電線11の接合芯線13Aに圧着される。これにより、端子31が電線11の芯線束13と導通接続されることになる。
【0028】
外被圧着部45は、基底部46と、基底部46の両側部に形成された一対の外被圧着片47とを有している。外被圧着部45の基底部46は、導体圧着部41の基底部42から延在されている。基底部46には、電線11の絶縁被覆14が載置される。外被圧着片47は、基底部46から電線11の絶縁被覆14部分を挟むように延設されている。外被圧着部45は、一対の外被圧着片47を内側へ向けて湾曲させる(加締める)ことにより、電線11の絶縁被覆14の部分に圧着され且つ固定されることになる。
【0029】
図4及び図5に示すように、端子31は、端子圧着機51によって電線11に圧着される。端子圧着機51は、アンビル52と、クリンパ55と、を有している。アンビル52は、端子31及び接合芯線13Aの下方に配置され、クリンパ55は、端子31及び接合芯線13Aの上方に配置されている。クリンパ55は、アンビル52に対して相対的に上下方向へ移動可能となっている。
【0030】
アンビル52は、その頂部に、下方へ向けて窪むように湾曲した支持面53を有している。端子31の圧着の際、この支持面53は、端子31の基底部46を支持することになる。具体的には、端子31の基底部42の外面が支持面53に当接することになる。
【0031】
クリンパ55は、幅方向の中央部に、アンビル52側へ突出する山形部58を有するアーチ溝57を備えている。アーチ溝57は、山形部58の両側に形成された二つの円弧面57aから構成されている。円弧面57aは、支持面53から離れる向きに突出する円弧状の凸面である。クリンパ55は、二つの案内傾斜面59を有している。案内傾斜面59は、アンビル52側へ向かって次第に離間するように傾斜している。これらの案内傾斜面59は、アーチ溝57の両端に連続するように形成されている。
【0032】
次いで、本実施形態に係る端子付き電線1の製造方法について、詳細に説明する。
【0033】
(端末処理工程)
図1(a)に示すように、電線11の端部の絶縁被覆14を皮剥きし、導体芯線12を束ねた芯線束13を所定長さだけ露出させる。露出させる芯線束13の所定長さは、端子31を圧着するのに十分な長さであればよい。
【0034】
(超音波接合工程)
図1(b)に示すように、電線11の端部で露出させた芯線束13を超音波接合することにより、複数の導体芯線12が互いに接合された接合芯線13Aを形成する。具体的には、図3に示すように、露出させた芯線束13を超音波接合機20の接合処理室Sに配置させ、グライディングジョー23をアンビルプレート22に近接する方向(図3中の矢印A方向)へ移動させるとともにアンビル24をホーン21に近接する方向(図3中の矢印B方向)へ移動させ、接合処理室S内の芯線束13を両側及び上下から押圧する。そして、この状態にて、ホーン21を超音波振動させる。これにより、接合処理室Sにおいて、導体芯線12の表面に形成された酸化皮膜が破壊されながら、導体芯線12同士が互いに接合する。これにより、図2(b)に示すように、断面形状が幅Xかつ高さYである矩形状の接合芯線13Aが形成される。このようにして形成された接合芯線13Aでは、導体芯線12同士が接合されて一体化(単線化)しており、導体芯線12同士が良好に導通した状態となっている。
【0035】
(端子圧着工程)
図1(d)に示すように、端子圧着機51を用いて接合芯線13Aに端子31を圧着する。具体的には、まず、図5(b)に示すように、アンビル52の支持面53に端子31を載せて支持させ、この端子31に電線11の端部を配置させる。
【0036】
端子31に電線11の端部を配置させた後、端子31を電線11に圧着させるべく、クリンパ55を下降させてアンビル52に近接させる。このとき、両側方へ広がっている端子31の導体圧着片43の端部がクリンパ55の案内傾斜面59に接触する。これにより、導体圧着片43は、クリンパ55の案内傾斜面59に沿って互いに近接する方向へ変形する。
【0037】
クリンパ55を更に下降させてアンビル52に近接させると、端子31は、アーチ溝57に導体圧着片43が到達し(図5(a)参照)、この状態から導体圧着片43がアーチ溝57によって互いに近接する方向へ押圧されて内側に湾曲する(巻き込む)ように変形する。
【0038】
その後、図6に示すように、支持面53と円弧面57aとに挟まれる空間の形状が所定の圧着形状となる圧着完了状態までアンビル52とクリンパ55とが近接される。このとき、端子31の導体圧着部41は、アンビル52とクリンパ55とによって挟まれて接合芯線13Aに押圧される。これにより、図7に示すように、端子31が芯線束13(接合芯線13A)に隙間なく強固に圧着され、端子31が電線11の芯線束13と確実に導通されることになる。
【0039】
なお、端子圧着工程では、端子圧着機51に設けられた外被用のアンビル及びクリンパ(図示省略)によって、端子31の外被圧着片47が加締められる。これにより、端子31の外被圧着部45が、電線11の絶縁被覆14部分に圧着されて固定される。
【0040】
(超音波接合工程後の接合芯線における隙間率の適正な範囲)
上述したように、超音波接合工程では、接合処理室S内の芯線束13を両側及び上下から押圧しながら、芯線束13に対して超音波振動が加えられる。超音波接合工程における芯線束13の押圧度合いが大きいほど、超音波接合工程後の接合芯線13Aの断面(接合芯線13Aの軸線に直交する平面によって接合芯線13Aを切断した際の断面)における導体芯線12が存在しない領域(隙間領域)の割合が小さくなる。以下、超音波接合工程後の上記断面について、その断面の外周に囲まれた全体領域の面積に対する隙間領域の面積の百分率を「隙間率」(%)と定義する。隙間率は、超音波接合工程における芯線束13の押圧度合いを調整することによって、任意に調整することができる。
【0041】
接合芯線13Aの断面の全体領域の面積とは、厳密には、図2(c)に示す接合芯線13Aの外周形状(即ち、接合芯線13Aの外周部に位置する複数の導体芯線12のそれぞれの外周による微細な凹凸形状(円弧形状)を順に繋いで得られる輪郭形状)によって囲まれた部分の面積を指す。但し、隙間率の算出を容易化するべく、接合芯線13Aの外周形状を多角形に近似した場合の近似面積(図2(c)に示す例では、長方形Rの面積)を、接合芯線13Aの断面の全体領域の面積として採用してもよい。なお、接合芯線13Aの断面の全体領域の面積、及び、隙間領域の面積は、例えば、接合芯線13Aの断面(図2(c)を参照)を撮影した画像に対して公知の画像処理を施すことによって取得することができる。
【0042】
発明者は、隙間率(%)が3よりも大きく且つ15以下(3<隙間率≦15)であれば、隙間率がこの範囲に属さない場合と比べ、超音波接合工程を経た後の端子付き電線1を苛酷な使用環境下に置いた場合であっても、接合芯線13Aと端子31との圧着部の電気抵抗値(以下「圧着部抵抗」という。)が増大し難いことを見出した。以下、この点に関連して発明者が行った2つの実験について説明する。
【0043】
1つ目の実験(熱衝撃試験)では、隙間率(%)が異なる複数のサンプルについて、熱衝撃試験(SAE Internationalが定める米国規格USCAR−21のAccelerated Environment Exposure Testに準じた試験)の前後における圧着部抵抗(mΩ)が測定された。圧着部抵抗としては、具体的には、端子付き電線1(図1(d)を参照)における端子31の接続板部34の所定箇所と、接合芯線13Aの所定箇所と、の間の電気抵抗値が測定された。本試験の結果を図8に示す。
【0044】
本試験においては、実際には、隙間率が10%未満の複数(具体的には10個)のサンプル、隙間率が10%以上かつ15%以下の複数(具体的には10個)のサンプル、及び、隙間率が15%よりも大きい複数(具体的には10個)のサンプルについて、電気抵抗値がそれぞれ測定された。図8において、隙間率が「10%未満」、「10〜15%」、及び、「15%よりも大」の各サンプル群について、上段の実線、中段の菱形マーク、下段の実線は、それぞれ、測定された圧着部抵抗の最大値、平均値、最小値を示す。更に、左側(細い線)の最大値、平均値、最小値は、上記熱衝撃試験の前の値を示し、右側(太い線)の最大値、平均値、最小値は、上記熱衝撃試験の後の値を示す。この実験では、圧着部抵抗の合格基準範囲が0.05mΩ以下(図8の破線を参照)の範囲とされた。
【0045】
図8に示すように、隙間率が大きいほど、上記熱衝撃試験の前の圧着部抵抗に対する上記熱衝撃試験の後の圧着部抵抗の増大度合いが大きいことが明らかになった。そして、超音波接合工程を経た後の圧着部抵抗について、隙間率が15%以下(隙間率≦15)であれば、上記熱衝撃試験を経た後においても、合格基準範囲内に収まることが明らかになった。
【0046】
このことは、隙間率が15%以下であれば、使用環境の温度が上下することによる接合芯線13Aの熱膨張・熱収縮に起因して芯線束13(接合芯線13A)が複数の導体芯線12に分離する現象が発生し難いことに基づく、と考えられる。芯線束13(接合芯線13A)が複数の導体芯線12に分離し難ければ、分離した導体芯線12の表面に改めて酸化皮膜が形成される現象が発生し難く、その結果、上述した一体化(単線化)の効果が損なわれ難い。
【0047】
更に、2つ目の試験(クリープ試験)では、隙間率(%)が異なる複数のサンプルについて、接合芯線13Aに端子31を圧着した後に所定の期間(通常の使用時間を想定した期間)が経過した後、接合芯線13Aと端子31との間に隙間が生じるか否か(換言すると、クリープ変形が生じるか否か)が観察された。その結果、接合芯線13Aの隙間率が3%以下である場合、本試験を経た後、図9に示すように端子31から接合芯線13Aの一部が剥離して端子31と接合芯線13Aとの間に隙間Pが生じる現象(クリープ変形)が発生し易く、隙間率が3%よりも大きければ、本試験を経ても、図9に示すような剥離現象が発生し難いことが明らかになった。
【0048】
図9に示すような剥離現象が発生すると、隙間Pが存在する分だけ圧着部抵抗が増大することになる。このような圧着部抵抗の増大を避ける観点から、この剥離現象を防止することが望ましい。
【0049】
以上の2つの試験結果から、圧着部抵抗の増大を出来る限り抑制するためには、接合芯線13Aの隙間率が3よりも大きく且つ15以下であることが好ましいことが明らかとなった。
【0050】
以上に説明したように、本実施形態に係る端子付き電線1の製造方法によれば、接合芯線13Aの隙間率が3よりも大きく且つ15以下(3<隙間率≦15)であるため、複数の導体芯線12が互いに接合された接合芯線13Aに端子31が圧着された端子付き電線1の導電性を出来る限り高め且つ維持することが可能である。
【0051】
<他の態様>
なお、本発明は上記各実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用できる。例えば、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0052】
例えば、電線11として、アルミニウム電線またはアルミニウム合金電線に代えて、導体芯線12が銅または銅合金からなる電線(銅線)が用いられても良い。更に、端子31として、銅または銅合金から形成された端子に代えて、アルミニウムまたはアルミニウム合金から形成された端子が用いられても良い。
【0053】
更に、例えば、超音波接合処理を経た後の接合芯線13Aに対して端子31を圧着するにあたり、圧着後の圧着箇所の断面形状は、特に制限されない。具体的には、図10(a)に示すように、接合芯線13Aの外周面を周回するように端子31を圧着してもよい。加えて、図10(b)〜図10(e)に示すように、筒状の端子31に接合芯線13Aを挿入した状態にて種々の断面形状を有するように加締めを行ってもよい。なお、圧着箇所の断面形状によらず、接合芯線13Aの隙間率が上記範囲内(3<隙間率≦15)であれば、上記実施形態に記載した効果が得られることが発明者によって確認されている。
【0054】
ここで、上述した本発明に係る端子付き電線の製造方法の実施形態の特徴をそれぞれ以下(1)〜(3)に簡潔に纏めて列記する。
(1)
複数の導体芯線(12)が束ねられた芯線束(13)を有する電線(11)に端子(31)が圧着された端子付き電線(1)の製造方法であって、
前記芯線束に対して超音波接合処理を施すことによって前記複数の導体芯線が互いに接合された接合芯線(13A)を形成する接合工程(図3)と、前記接合芯線(13A)に前記端子を圧着する圧着工程(図4)と、を含み、
前記接合工程(図3)において、
前記接合芯線(13A)の軸線に直交する平面によって前記接合芯線を切断した際の断面において、前記断面の外周に囲まれた全体領域の面積に対する前記導体芯線が存在しない隙間領域の面積の百分率である隙間率が3よりも大きく且つ15以下(3<隙間率≦15)であるように、前記接合芯線(13A)を形成する、
端子付き電線の製造方法。
(2)
上記(1)に記載の製造方法において、
前記隙間率が、
前記接合芯線(13A)の前記断面の外周形状を多角形(図2cの長方形R)に近似した場合における前記全体領域(長方形R)の面積に対する前記隙間領域の面積の百分率である、
端子付き電線の製造方法。
(3)
上記(1)又は上記(2)に記載の製造方法において、
前記複数の前記導体芯線(12)が、
アルミニウム又はアルミニウム合金から形成されている、
端子付き電線の製造方法。
【符号の説明】
【0055】
1 端子付き電線
11 電線
12 導体芯線
13 芯線束
13A 接合芯線
31 端子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10