(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6574826
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】半割スラスト軸受、スラスト軸受、軸受装置および内燃機関
(51)【国際特許分類】
F16C 33/20 20060101AFI20190902BHJP
F16C 17/04 20060101ALI20190902BHJP
F16C 9/02 20060101ALI20190902BHJP
【FI】
F16C33/20 Z
F16C17/04 Z
F16C9/02
【請求項の数】14
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-217483(P2017-217483)
(22)【出願日】2017年11月10日
(65)【公開番号】特開2019-90431(P2019-90431A)
(43)【公開日】2019年6月13日
【審査請求日】2018年9月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】591001282
【氏名又は名称】大同メタル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 徹也
(72)【発明者】
【氏名】坂井 一紀
【審査官】
横山 幸弘
(56)【参考文献】
【文献】
特表2008−510107(JP,A)
【文献】
特開平11−201145(JP,A)
【文献】
国際公開第2017/170544(WO,A1)
【文献】
特開2014−070662(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/140745(WO,A1)
【文献】
特表2016−500430(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/20
F16C 9/02
F16C 17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半円環形状の半割スラスト軸受であって、軸線方向力を受けるための摺動面と、前記摺動面の反対側の背面とを有し、基板上に被覆された樹脂被覆層が前記摺動面を形成している半割スラスト軸受において、
樹脂被覆層の厚さが、前記半割スラスト軸受の周方向中央部で最大で、前記半割スラスト軸受の周方向両端部へ向かって小さくなっていることを特徴とする半割スラスト軸受。
【請求項2】
前記周方向中央部が、円周角度で75°〜105°の位置であることを特徴とする請求項1に記載された半割スラスト軸受。
【請求項3】
前記半割スラスト軸受の周方向に沿って前記半割スラスト軸受を見たとき、前記半割スラスト軸受の前記摺動面が、前記周方向中央部で突出した凸形状の輪郭を有していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載された半割スラスト軸受。
【請求項4】
前記摺動面の前記輪郭が曲線から構成されることを特徴とする請求項3に記載された半割スラスト軸受。
【請求項5】
前記摺動面の前記輪郭が直線から構成されることを特徴とする請求項3に記載された半割スラスト軸受。
【請求項6】
前記樹脂被覆層の厚さが円周角度に対して、以下の式で規定され、
t(θ)/tmax×100 = A×exp[−{(θ−B)/C}2]+D (1)
ここで、t(θ)は円周角度θにおける前記樹脂被覆層の厚さの値であり、tmaxは前記樹脂被覆層の厚さの最大値であり、Bは前記樹脂被覆層の厚さが最大となる円周角度(°)の値であり、A、C、Dは、10≦C≦100、30≦D≦95であり、A=100−Dを満たす定数であることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載された半割スラスト軸受。
【請求項7】
前記(1)式により規定される前記樹脂被覆層の厚さの円周角度に対する曲線の接線の傾きが最大となる位置が、B位置から15°〜65°離れた位置にあることを特徴とする請求項6に記載された半割スラスト軸受。
【請求項8】
前記曲線の接線の傾きが最大となる位置が、B位置から20°〜60°離れた位置にあることを特徴とする請求項7に記載された半割スラスト軸受。
【請求項9】
前記(1)式により規定されるt(θ)/tmax×100の円周角度に対する曲線の接線の最大傾きが、0.10〜1.20であることを特徴とする請求項6から請求項8までのいずれか1項に記載された半割スラスト軸受。
【請求項10】
前記接線の最大傾きが、0.15〜0.90であることを特徴とする請求項9に記載された半割スラスト軸受。
【請求項11】
2つの半割スラスト軸受からなるスラスト軸受であって、該2つの半割スラスト軸受のうちの少なくとも1つが、請求項1から請求項10までのいずれか1項に記載された半割スラスト軸受であることを特徴とするスラスト軸受。
【請求項12】
内燃機関のクランク軸の軸線方向力を受けるための半割スラスト軸受であることを特徴とする請求項1から請求項11までのいずれか1項に記載された半割スラスト軸受。
【請求項13】
請求項1から請求項12までのいずれか1項に記載された半割スラスト軸受を備えた軸受装置。
【請求項14】
請求項13に記載された軸受装置を有する内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、船舶用、一般産業機械等の内燃機関において、特にクランク軸の軸線方向力を受けるための半円環形状の半割スラスト軸受に関し、とりわけ、軸線方向力を受けるための摺動面と摺動面の反対側の背面とを有し、基板上に被覆された樹脂被覆層が摺動面を形成する半割スラスト軸受に係るものである。更に、本発明は、この半割スラスト軸受を有するスラスト軸受、及びこのスラスト軸受を備えた軸受装置、並びにこの軸受装置を備えた内燃機関にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のクランク軸は、ジャーナル部において、一対の半割軸受を円筒形状に組み合わせて構成される主軸受を介して、内燃機関のシリンダブロック下部に回転自在に支承される。一対の半割軸受のうちの一方又は両方が、クランク軸の軸線方向力を受ける半割スラスト軸受と組み合わせて用いられる。半割スラスト軸受は、半割軸受の軸線方向端面の一方又は両方に配設される。半割スラスト軸受は、クランク軸に生じる軸線方向力を受ける。すなわち、クラッチによってクランク軸と変速機とが接続される際等に、クランク軸に対して入力される軸線方向力を支承することを目的として配置される。
【0003】
半割スラスト軸受として、鋼製などの裏金層に薄い軸受合金層を接着したバイメタルが用いられるが、更にその上に樹脂層を被覆したものも周知である(引用文献1等)。低摩擦で軟らかく弾性のある樹脂層を被覆することにより、潤滑性を向上させ、軸受の焼付きや摩耗を抑制することが可能になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−130273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、エンジンの高性能化、高機能化が進んでいる。それに伴い軸のような相手部材の低剛性化が進み軸受の高面圧化が求められている。このような条件は軸受にとっては厳しい使用環境になっている。特に、アイドリングストップやハイブリッド車の適用により、優れた耐焼付き性能を有することが望まれている。
【0006】
このような軸受においては、運転時に、相手部材(例えば軸部材)表面と摺動部材の摺動面との間に潤滑油等の流体潤滑膜が形成されることにより、相手部材表面と摺動部材の摺動面との直接接触が防がれている。従来技術によるスラスト軸受に付与された樹脂被覆層は均一な層厚さで被覆が施されているが、油膜圧力が不足して支承能力不足になり、上記使用環境下において焼付きを招く可能性がある。焼付きを防ぐためには摺動面全体で油膜形成が必要であるが、厳しいエンジン環境で優れた耐焼付き性能を有するには、上記従来技術では不十分である。
【0007】
本発明は、優れた油膜形成を促進することにより優れた耐焼付き性能を有する半割スラスト軸受、ひいてはスラスト軸受を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一観点によれば、半円環形状を有し、軸線方向力を受けるための摺動面と、前記摺動面の反対側の背面とを有し、基板上に被覆された樹脂被覆層が前記摺動面を形成している半割スラスト軸受が提供される。この半割スラスト軸受は、樹脂被覆層の厚さが、半割スラスト軸受の周方向中央部で最大で、半割スラスト軸受の周方向両端部へ向かって小さくなっていることを特徴とする。
なお、ここで「半円環形状」とは、2つの半円により内周および外周が規定された形状であるが、これらは幾何学的厳密に半円である必要はない。例えば、外周面または内周面の一部が(例えば周方向端面で)径方向に突出していてもよく、周方向端面から(例えば周方向端面垂直方向に)延長部が存在してもよい。
【0009】
本発明の一具体例によれば、周方向中央部が、円周角度で75°〜105°の位置にあることが好ましい。
【0010】
本発明の一具体例によれば、半割スラスト軸受の周方向端面に沿って半割スラスト軸受を見たとき、半割スラスト軸受の摺動面が、周方向中央部で突出した凸形状の輪郭を有していることが好ましい。
【0011】
本発明の一具体例によれば、摺動面の輪郭が曲線から構成されることが好ましい。
【0012】
本発明の一具体例によれば、摺動面の輪郭が直線から構成されることが好ましい。
また、本発明の一具体例によれば、摺動面の輪郭が曲線と直線から構成されていてもよい。
【0013】
本発明の一具体例によれば、樹脂被覆層の厚さが円周角度に対して、以下の式で規定されることが好ましい。
t(θ)/t
max×100 = A×exp[−{(θ−B)/C}
2]+D (1)
ここで、t(θ)は円周角度θにおける樹脂被覆層の厚さの値であり、t
maxは樹脂被覆層の厚さの最大値であり、Bは樹脂被覆層の厚さが最大となる円周角度(°)の値であり、A、C、Dは、10≦C≦100、30≦D≦95であり、A=100−Dを満たす定数である。
【0014】
本発明の一具体例によれば、(1)式により規定される樹脂被覆層の厚さの円周角度に対する曲線の傾きが最大となる位置が、B位置から15°〜65°離れた位置にあることが好ましく、20°〜60°離れた位置にあることが更に好ましい。
【0015】
本発明の一具体例によれば、(1)式により規定されるt(θ)/t
max×100の円周角度に対する曲線の接線の最大傾きが、0.10〜1.20であることが好ましく、0.15〜0.90であることが更に好ましい。
【0016】
本発明の他の観点によれば、本発明は、2つの半割スラスト軸受からなるスラスト軸受であって、この2つの半割スラスト軸受のうちの少なくとも1つが、上記の本発明の半割スラスト軸受であるスラスト軸受が提供される。
【0017】
本発明の一具体例によれば、半割スラスト軸受は、内燃機関のクランク軸の軸線方向力を受けるための半割スラスト軸受であることが好ましい。
【0018】
本発明の更に他の観点によれば、本発明は、上記の本発明の半割スラスト軸受を備えた軸受装置も提供される。
【0019】
本発明の更に他の観点によれば、本発明は、上記の本発明の軸受装置を備えた内燃機関も提供される。
【0020】
本発明の樹脂被覆を施した半割スラスト軸受は、樹脂被覆層の厚さの周方向の分布を制御することによって、油膜形成を促進し、低摩擦機能を損なうことなく、耐焼付き性能を向上させることができる。
【0021】
本発明の構成及びその多くの利点を、添付の概略図面を参照して以下により詳細に述べる。図面は、例示の目的で、いくつかの非限定的な実施例を示す。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図5】本発明の半割スラスト軸受の一例を、半径方向中央部で周方向に切断した断面の展開図。
【
図6】本発明の半割スラスト軸受の他の例を、半径方向中央部で周方向に切断した断面の展開図。
【
図7】本発明の半割スラスト軸受の更に他の例を、半径方向中央部で周方向に切断した断面の展開図。
【
図8】本発明の半割スラスト軸受の更に他の例を、半径方向中央部で周方向に切断した断面の展開図。
【
図9】本発明の半割スラスト軸受の更に他の例を、半径方向中央部で周方向に切断した断面の展開図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
まず、
図1及び
図2を用いて本発明の半割スラスト軸受8を有する軸受装置1の一例の全体構成を説明する。
図1及び
図2に示すように、シリンダブロック2の下部に軸受キャップ3を取り付けて構成された軸受ハウジング4には、両側面間を貫通する円形孔である軸受孔(保持孔)5が形成されており、側面における軸受孔5の周縁には円環状凹部である受座6、6が形成されている。軸受孔5には、クランク軸のジャーナル部11を回転自在に支承する半割軸受7、7が円筒状に組み合わされて嵌合される。受座6、6には、クランク軸のスラストカラー面12を介して軸線方向力f(
図2参照)を受ける半割スラスト軸受8、8が円環状に組み合わされて嵌合される。半割スラスト軸受8は、円環状に組み合せず、例えばシリンダブロック2側のみに嵌合されてもよい。
【0024】
次に、本発明の半割スラスト軸受8の一例の正面図および斜視図を
図3および
図4に示す。半割スラスト軸受8は、半円環形状の平板に形成された基板89上に樹脂被覆層88を有している。基板89は、通常、鋼製の裏金層に薄い軸受合金層を接着したバイメタルによって構成されることが好ましいが、裏金のみの構成、またはその他の構成でもよい。半割スラスト軸受8は軸線方向を向いた摺動面81(軸受面)を備え、摺動面81は樹脂被覆層から構成される。摺動面81には、潤滑油の保油性を高めるために、周方向両端面83、83の間に少なくとも1つの油溝81a(
図3では2つの油溝を図示している)が形成されていてもよい。
【0025】
半割スラスト軸受8は軸線方向に垂直な基準面84を画定しており、この基準面84内に、シリンダブロック2の受座6に配置されるように適合された実質的に平坦な背面84aを有する(
図4参照)。背面84aは基板89の底面でもある。基板89は、基準面84(背面84a)から軸線方向反対側の上面82を有し、基板の上面には、樹脂被覆層88が被覆されている。樹脂被覆層88の表面は、基準面84(背面84a)から軸線方向に離れた摺動面81を形成し、摺動面81は、クランク軸のスラストカラー面12を介して軸線方向力f(
図2参照)を受けるようになっている。
【0026】
図5は、半割スラスト軸受8を、所定の半径で切断した断面を展開した図であり、
図5に示された半割スラスト軸受8の横方向両端部が半割スラスト軸受8の周方向両端面83(円周角度0°、180°)、
図5に示された半割スラスト軸受8の横方向中央が、半割スラスト軸受8の周方向中央85(円周角度90°)を示す。円周角度は、半割スラスト軸受8の円環形状の中心を中心とする周方向両端面83からの角度を言う。本明細書では、クランク軸の摺動する方向(
図3に矢印SDで示す)の後方側端面を0°、摺動方向前方側端面を180°にとる(
図3参照)。(ただし、摺動方向前方側端面を0°にとっても、本発明の範囲には影響はない。)
【0027】
図5には、基板89上の樹脂被覆層88を示す。樹脂被覆層88は、樹脂被覆層の厚さが、半割スラスト軸受の周方向中央部86で最大で、半割スラスト軸受の周方向両端部83へ向かって小さくなっている。なお、周方向中央部86は、厳密に周方向中央85(円周角度90°)に位置する必要はなく、摺動方向に見た樹脂被覆層88の厚さ分布が全体として凸状を示せばよい。好ましい周方向中央部86は、円周角度で75°〜105°の位置である。
樹脂被覆層は、厚さの最大値が2〜30μm程度、最小値が1〜28μm程度になることが好ましい。厚さの最大値および最小値がこの範囲であると、樹脂被覆層の摩耗による早期の基板露出と熱伝導性の悪化を防ぐことができるため、より耐焼付き性が向上する。
【0028】
このような分布形状に制御することによって、潤滑油の油膜形成が容易になり、低摩擦機能を損なうことなく、耐焼付き性能が向上する。この機構は以下の通りである。
樹脂は弾性体であるためストレッチ(伸縮)作用が起こるために、樹脂被覆層の厚さの大きい周方向中央部を中心にストレッチ作用を発揮して、潤滑油の流れ分布による油膜圧力が発生し、スラスト軸受け面全体で優れた油膜形成を促すことができ、耐焼付性が向上する。
【0029】
更に、樹脂被覆層88の周方向の厚さ分布は、円周角度に対して、以下の式で規定される分布を有することが好ましい。
t(θ)/t
max×100=A×exp[−{(θ−B)/C}
2]+D (1)
ここで、t(θ)は円周角度θにおける樹脂被覆層88の厚さの値であり、t
maxは樹脂被覆層の厚さの最大値であり、Bは樹脂被覆層の厚さが最大となる円周角(°)の値であり、A、C、Dは、10≦C≦100、30≦D≦95であり、A=100−Dを満たす定数である。
【0030】
(1)式により規定される樹脂被覆層88の厚さの円周角度に対する曲線の接線の傾きが最大となる位置が、B位置(周方向中央部86)から15°〜65°離れた位置にあることが好ましく、B位置から20°〜60°離れた位置にあることが更に好ましい。また、(1)式により規定されるt(θ)/t
max×100の円周角度に対する曲線の接線の最大傾きが、0.10〜1.20であることが好ましく、接線の最大傾きが、0.15〜0.90であることが更に好ましい。これらの条件を満たすことにより、油膜形成が更に容易になり、耐焼付き性能が更に向上する。
【0031】
この樹脂被覆層88の周方向厚さ分布は、いずれの径方向位置においても成立することが好ましい。しかし、径方向中央の半径位置で、この厚さ分布が成立していればよい。この場合でも、油膜形成は容易になる。なお、樹脂被覆層88の周方向厚さ分布がいずれの径方向位置においても成立する場合でも、周方向中央部86の円周角度が一致する必要がない。ただし、いずれの径方向位置においても、周方向中央部86の円周角度が75°〜105°であることが好ましい。
【0032】
上記の樹脂被覆層88の周方向厚さ分布は、全体的な分布であり、局所的に見れば小さな凹凸は存在するが、このような局所的凹凸は存在してもよい。
【0033】
半割スラスト軸受8の基板89の上面82は、
図5に示すように平坦面であることが好ましい。この場合、樹脂被覆層88の厚さ分布が摺動面81の輪郭形状になる。この場合、摺動面81の輪郭形状の周方向中央部と円周方向端部との高低差は1〜17μm程度が好ましい。
しかし、基板89の上面82は平坦面でなくてもよい。例えば、
図6に示すように周方向中央部が高くなったものや、あるいは
図8、
図9のような周方向の中央に向かって低くなってもよく、その他の形状でもよい。この場合、摺動面81の輪郭形状は、中央が高くなってもよく(
図6)、平坦でもよく(
図8)、中央が低くなってもよく(
図9)、その他の形状でもよい。
なお、何れの形状であっても、スラストリリーフ87が形成されてもよい(
図7)。スラストリリーフ87は、摺動面81側の周方向両端面に隣接する領域に、壁厚が端面に向かって徐々に薄くなるように形成される壁厚減少領域であり、半割スラスト軸受8の周方向端面の径方向全長に亘って延びている。スラストリリーフ87は、半割スラスト軸受8を分割型の軸受ハウジング4内に組み付けた際の位置ずれ等に起因する、一対の半割スラスト軸受8、8の周方向端面83、83同士の位置ずれを緩和するために形成される。
【0034】
更に、本発明の半割スラスト軸受8は、基準面84から摺動面81までの軸線方向距離が、半割スラスト軸受8のいずれの径方向位置においても、半割スラスト軸受8の周方向中央部86で最大で、半割スラスト軸受の周方向両端部83へ向かって小さくなるように形成されることが好ましい。すなわち、半割スラスト軸受8の周方向に沿って半割スラスト軸受8を見たとき、半割スラスト軸受8の摺動面81が、周方向中央部で突出した凸形状の輪郭を有していることが好ましく、この摺動面81の輪郭が曲線から構成されてもよく、直線から構成されてもよい。
【0035】
半割スラスト軸受8の基板89の上面82が平坦面の場合には、この摺動面81の輪郭は、樹脂被覆層88の厚さ分布により決定され、樹脂被覆層88の最大厚さのところで摺動面81が突出していることになる。内燃機関の作動時に、輪郭が周方向中央部で突出していることによって、相手軸材の回転運動に伴って、周方向中央部を中心とするくさび膜作用による油膜圧力が発生する。さらに、上記に説明した樹脂被覆層によるストレッチ作用による油膜圧力の発生と相まって、スラスト軸受面全体で優れた油膜形成を促すことができ、耐焼付き性が向上すると共に摩耗が抑制される。たとえ接触したとしても、半割スラスト軸受8は樹脂被覆層によって被覆されたものなので、低摩擦機能を損なわない。
半割スラスト軸受8の基板89の上面82が平坦面でなく、摺動面81の輪郭の最大突出部が、樹脂被覆層88の厚さの最大の位置と一致しない場合があっても、摺動面81の輪郭の最大突出部と樹脂被覆層88の最大厚さのところとが、周方向中央85近傍に近接して位置するため、上記と同様の効果が得られる。
【0036】
樹脂被覆層88を形成する樹脂は、例えば、PAI(ポリアミドイミド)、PI(ポリイミド)、PBI(ポリベンゾイミダゾール)、PA(ポリアミド)、フェノール、エポキシ、POM(ポリアセタール)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PE(ポリエチレン)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PEI(ポリエーテルイミド)およびフッ素樹脂およびエラストマーのうちから選ばれる1種または2種以上からなる合成樹脂からなることが好ましい。
樹脂被覆層は、樹脂の他に、固体潤滑剤および充填材の両方またはいずれかを含んでもよい。固体潤滑剤としては、例えば、黒鉛、MoS
2、WS
2、h−BN、PTFE、メラミンシアヌレート、フッ化黒鉛、フタロシアニン、グラフェンナノプレートレット、フラーレン、超高分子量ポリエチレンおよびNε―ラウロイル―L―リジンから選ばれる1種または2種以上があり、固体潤滑剤を含有することにより、摺動層の摺動特性を高めることができる。好ましい固体潤滑剤の含有量は10〜70体積%である。充填材としては、例えば、CaF
2、CaCO
3、タルク、マイカ、ムライト、リン酸カルシウム、酸化鉄、酸化アルミニウム、酸化クロム、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化シリコン、酸化マグネシウムなどの酸化物、Mo
2C(モリブデンカーバイト)、SiCなどの炭化物、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、c−BNなどの窒化物およびダイヤモンドのうちから選ばれる1種または2種以上があり、この充填材を含有することにより、摺動層の耐摩耗性を高めることが可能となる。好ましい充填剤の含有量は1〜25体積%である。
【0037】
半割スラスト軸受8の基板89は、上記の通り、裏金層と、この裏金層上に設けられた軸受合金層とを備えることが好ましい。裏金層としては、Fe合金、Cu、Cu合金等の金属板を用いることができ、軸受合金層は、銅合金、アルミニウム合金、錫合金などの合金から形成できる。軸受合金層上に錫合金、ビスマス合金および鉛合金などのめっき層およびPVD法により蒸着した金属オーバレイ層を設けても良い。裏金層がなく、高強度なアルミニウム合金又は銅合金などの軸受合金層のみを用いることもできる。裏金層表面、すなわち軸受合金層との界面となる側に多孔質金属層を形成してもよいが、多孔質金属層は裏金層と同じ組成を有することも、異なる組成または材料を用いることも可能である。裏金層の表面に多孔質金属層を設けることにより、摺動層と裏金層の接合強度を高めることができる。多孔質金属層は、Cu、Cu合金、Fe、Fe合金等の金属粉末を金属板や条等の表面上に焼結することにより形成することができる。多孔質金属層の空孔率は20〜60%程度であればよく、多孔質金属層の厚さは0.05〜0.50mm程度とすればよい。この場合、多孔質金属層の表面上に被覆される摺動層の厚さは0.05〜0.40mm程度となるようにすればよい。ただし、ここで記載した寸法は一例であり、本発明がこの値の限定されるものではなく、異なる寸法に変更するも可能である。
【0038】
次に、樹脂被覆層88を基板89上に塗布する方法について説明する。樹脂被覆層88の塗布は、例えばスプレー、ロール、パッド、スクリーン等のコート法を用いることが好ましい。樹脂被覆層88の厚さ制御は、これらのコート法において、樹脂の吐出量や付着量や転写量の部分制御を行なうことによって、摺動面全体での層厚分布形状を制御する。樹脂の吐出量の制御の一例として、例えば、多数の吐出ノズルをラインに対して直角方向に一列に配置して、吐出ノズルは中央に位置するものほど多くの樹脂を吐出するように調整する。周方向両端部をラインの流れ方向に向けて配置して半割スラスト軸受8をラインに流すことにより、周方向中央部の樹脂の付着量が最大となり、被覆厚さが最大に制御できる。各吐出ノズルからの樹脂の吐出量を調整することにより所望の樹脂被覆層の厚さ分布が制御可能になる。
【実施例】
【0039】
鋼裏金上のアルミ合金(Al−Sn−Si)の軸受合金層を接着した平坦な半円環形状の基板(外径80mm、内径60mm、厚さ1.5mm)を準備した。樹脂は、PAIを用い、その軸受合金層の表面にスプレーコート法にて、多数の塗料吐出ノズルをラインに対して直角方向に一列に配置して基板をラインに流して樹脂を塗布し、樹脂被覆層を形成した。このようにして、周方向中央部で樹脂被覆層の厚さが最大になり、周方向両端部に向かって厚さが小さくなる(以下、この形状を凸部という)の半割スラスト軸受の試料Aおよび、樹脂被覆層の厚さがほぼ均一な(凸部のない)試料Bを作製した。試料Aの樹脂被覆層の厚さは、周方向中央部で10μm(円周角度70°)、周方向端部で6μmであった。試料Bの樹脂被覆層の厚さは、ほぼ均一に10μmとした。樹脂被覆層の厚さは、径方向中央の各円周角度で試料を切り出し、光学顕微鏡による断面観察によって厚さを測定した。
【0040】
試料Aおよび試料Bを用いて表2の条件で焼付き試験を行なった。相手軸材としてS55Cを用い、相手軸材を2000rpmで回転させながら、1MPa/10minの割合で荷重を増加させ、焼付きの発生しない最大の荷重を非焼付き面圧とした。潤滑油としてVG22を100℃で200cc/minの割合で供給した。試験結果は、表1に示すとおり、樹脂被覆層の厚さのほぼ均一な試料Bが非焼付き面圧5MPaであったのに対して、周方向中央部に凸部を有する試料Aが非焼付き面圧6MPaとなり、周方向中央部に凸部を有することにより耐焼付性が改善される結果となった。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
次に、半割スラスト軸受の樹脂被覆層の厚さが最大になる位置(以下、凸部位置という)による耐焼付性への影響を調べるために、形状、材質、製造方法は試料Aと同じとしたままで、凸部位置のみを円周角度で70°〜110°まで変化させた試料1〜7を作製した。これらの試料を上記の条件で焼付き試験に供した。結果を表3に示す。凸部位置が円周角度で75°〜105°の試料は非焼付き面圧が7MPaであったが、凸部位置が円周角度で70°、110°の試料は非焼付き面圧が6MPaとなった。これは、円周角度で75°〜105°に凸部を有することにより油膜形成が容易となり、非焼付き面圧が向上したと考えられる。
【0044】
【表3】
【0045】
次に、凸部位置を90°に固定したまま、樹脂被覆層の厚さの円周角度に対する分布を変化させた。この分布を式(1)
t(θ)/t
max×100=A×exp[−{(θ−B)/C}
2]+D (1)
に従う分布とした。t(θ)は円周角度θの位置での樹脂被覆層の厚さであり、t
maxは凸部位置での樹脂被覆層の厚さであり、10μmとした。Bは凸部位置の円周角度90°である。凸部位置θ=Bではt(θ)=t
maxとなるのでA+D=100となり、Dが決まればAも決まる。
そこで、CおよびDの値を変化させて耐焼付性に及ぼす影響を調べた。変化させたCおよびDならびに非焼付き面圧を表4に示す。
【0046】
【表4】
【0047】
表4に示された結果から、試料11〜14が試料15〜18よりも大きな非焼付き面圧が得られた。これにより、(1)式のパラメータCおよびDが、10≦C≦100かつ30≦D≦95を満たすものは耐焼付性が向上することがわかった。
次に、パラメータCおよびDをこの範囲内で更に変化させて、その場合の最大傾斜位置の円周角度と耐焼付性との関係を調べた。その結果を表5に示す。
【0048】
【表5】
【0049】
表5に示された結果から、試料22〜26が試料21、27よりも大きな非焼付き面圧が得られ、試料23〜25が更に大きな非焼付き面圧が得られた。これにより、(1)式のパラメータCおよびDが、10≦C≦100かつ30≦D≦95を満たすもののうち、最大傾斜位置の円周角度が、凸部位置の円周角度から15°〜65°離れた位置にあるものは耐焼付性が向上し、20°〜60°離れた位置にあるものは耐焼付性が更に向上することがわかった。
次に、その最大傾斜位置での式(1)により表された曲線A×exp[−{(θ−B)/C}
2]+D(すなわち、t(θ)/t
max×100)の接線の傾き(最大傾斜)の値と耐焼付性との関係を調べた。その結果を表6に示す。
【0050】
【表6】
【0051】
表6に示された結果から、試料32〜39が試料31、42に比べて大きな非焼付き面圧が得られ、試料33〜37が更に大きな非焼付き面圧が得られた。これにより、最大傾斜値が0.10〜 1.20であるものは耐焼付性が向上し、0.15〜0.90のものは耐焼付性が更に向上することがわかった。
【0052】
更に、樹脂被覆層の厚さの耐焼付性への影響を調べるために、円周角度90°の位置に凸部を設け、10≦C≦100かつ30≦D≦95を満たし、最大傾斜位置の円周角度が、凸部位置の円周角度から20°〜60°離れた位置にあり、最大傾斜値を0.15〜0.90に調整したものについて、樹脂被覆層の厚さを表7のとおり変化させた試料43〜47を作製した。すなわち、凸部位置での樹脂被覆層の厚さを2〜30μm、樹脂被覆層の最小厚さを1〜28μmに変化させた。しかし、表7に示すとおり、非焼付き面圧はいずれの試料でも14MPaであり、樹脂被覆層の厚さによらず一定の結果が得られた。したがって、上記要件を設定すれば、樹脂被覆層の絶対厚さによらず優れた耐焼付性が得られることがわかった。
【0053】
【表7】
【符号の説明】
【0054】
1 軸受装置
11 ジャーナル部
12 スラストカラー面
2 シリンダブロック
3 軸受キャップ
4 軸受ハウジング
5 軸受孔(保持孔)
6 受座
7 半割軸受
8 半割スラスト軸受
81 摺動面
81a 油溝
82 基板の上面
83 周方向両端面
84 基準面
84a 背面
85 周方向中央
86 周方向中央部
87 スラストリリーフ
88 樹脂被覆層
89 基板
f 軸線方向力
SD 摺動方向