(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、この種のリリーフ弁にあっては、たとえば、高減衰力を発生する油圧ダンパの内部に設けた二つの圧力室を連通する通路の途中に設けられ、内部に環状弁座を有する筒状のハウジングと、ハウジング内に収容される弁体と、ハウジングの内周に螺着されるばね座と、弁体とばね座との間に介装されて弁体を環状弁座へ向けて付勢するコイルばねとを備えて構成されるものが知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
ハウジングは、内方に小径部と大径部とを有していて、小径部と大径部との境の段部によって形成される環状弁座を有している。また、リリーフ弁における弁体は、小径部の内周に摺接する摺接軸と、摺接軸の後端に連なって環状弁座に離着座する円板状の着座部と、摺接軸の先端から後端にかけて摺接軸を径方向に貫通するU字状のメインスリットとを備えている。そして、弁体は、ばね座側から圧力を受ける場合には着座部を環状弁座に着座させてハウジング内を閉塞し、反対に、摺接軸側から圧力を受けると着座部が環状弁座から後退してメインスリットが大径部に対向し、ハウジング内を開放して作動油の流れを許容するようになっている。また、メインスリットの後端形状は半円形状となっており、摺接軸の側方に対する開口量は、メインスリットは後端から先端に向かうほど流路面積が大きくなる。
【0004】
このように構成されたリリーフ弁では、メインスリットが大径部に径方向にて対向する面積で流路面積が決せられるので、弁体が環状弁座から後退する後退量が増えると流路面積も増加する。よって、このように構成されたリリーフ弁を油圧ダンパの減衰バルブとして利用すると、油圧ダンパのピストン速度に対して発生する減衰力の特性は、静的には
図10中の実線で示すように、ピストン速度が低速では弁体の環状弁座に対する後退量が少ないためにメインスリットの後端のみが開口するので減衰係数が大きくなり、ピストン速度が高速となってメインスリットの後端以外の部位も開口するようになると流路面積がピストン速度とともに大きく増加するようになって減衰係数が低くなる。つまり、リリーフ弁は、静的には上流の圧力が大きくなるとメインスリットの開口量が大きくなって圧力オーバーライドが小さくなる特性を備えている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のリリーフ弁は、作動油が弁体VBのメインスリットSを通過する際に作動油の流れを絞ることで圧力損失をもたらすのであるが、
図11の矢印で示すように、動的にみるとメインスリットSを通過した作動油の流れは摺動軸Pの径方向へ向かいハウジングHの内周面に衝突して直角に曲げられる。そのため、作動油がメインスリットSによって作動油の流れを絞る際に生じる抵抗の他にも、作動油の流れを妨げる抵抗が生じてしまう。
【0007】
そして、リリーフ弁を通過する作動油の流量が多くなればなるほど前述の流れを妨げる抵抗も大きくなるため、リリーフ弁の特性は、動的にみると、
図10中の破線で示すように、流量が多くなる領域で圧力オーバーライドが大きくなる。そのため、従来のリリーフ弁を油圧ダンパに利用する場合、油圧ダンパの減衰係数は、ピストン速度が高速域において狙った減衰係数よりも大きくなってしまう。
【0008】
つまり、弁体の環状弁座からの後退量に対するメインスリットの開口面積は、十分に確保されているものの、作動油の流れを妨げる抵抗がメインスリットで作動油の流れに与える抵抗に重畳されてしまい、流量が多くなると実際の圧力損失が設計上の圧力損失を上回ってしまうのである。
【0009】
そこで、本発明は、流量が多くなっても圧力オーバーライドを低減できるリリーフ弁の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明のリリーフ弁は、内部に環状弁座を有する筒状のハウジングと、ハウジング内に移動自在に収容されて環状弁座に離着座する弁体と、弁体を環状弁座に向けて付勢するばねとを備え、弁体はハウジングの内周に摺接する摺接軸と、摺接軸の後端に連なって
設けられて環状弁座に離着座する円板状の着座部と、摺接軸の先端から後端へ向けて形成されるとともに摺接軸の側方に開口するメインスリットと、摺接軸の側方であってメインスリットの後端よりも先端側から開口して
、摺接軸の先端へ通じてメインスリットで形成される流路に周方向にて流路を付加するサブ流路とを
有し、前記摺接軸が前記着座部よりも上流に配置される。
このように構成されたリリーフ弁によれば、弁体の環状弁座からの後退が進むとメインスリットの開放に遅れてサブ流路が開放され、サブ流路がメインスリットの流路に摺接軸の周方向にて流路を付加して、液体の流れをサブ流路に分散させることができる。
【0011】
また、リリーフ弁におけるメインスリットは、摺接軸を径方向に貫くように形成され、サブ流路は、着座部が環状弁座から後退して開口するとメインスリットの流量を分散させるとともに摺接軸の周方向にて液体の流れを拡散させてもよい。このように構成されたリリーフ弁によれば、サブ流路によって液体の吹き出し口の面積が増えて液体の流れを拡散しやすくなり、ハウジングと弁体の着座部との間を通過する流量分布が周方向に分散されるので、より液体の流れがハウジングによって曲げられることによる抵抗が減少し、圧力オーバーライドをより一層低減できる。
【0012】
さらに、メインスリットは摺接軸を径方向に貫くとともに摺接軸の先端から後端へ向けて形成され、サブ流路は摺接軸の側方から開口してメインスリットの摺接軸の側方に開口する側方開口部に連通するように形成されてもよい。このように構成されたリリーフ弁によれば、メインスリットの側方開口部にサブ流路が直接連通されているので、狭いメインスリットを通過してきた液体がサブ流路の開放に伴って周方向に広いサブ流路内に侵入して、液体の流れが摺接軸の周方向に効率よく拡散されて圧力オーバーライドを効果的に低減できる。
【0013】
なお、サブ流路は、摺接軸にメインスリットに連通する横孔を設けて形成されてもよいし、摺接軸を径方向に貫くとともに摺接軸の先端から後端へ向けてメインスリットに対して直交する向きで形成されてもよい。このようにサブ流路を形成しても、弁体が環状弁座から後退してサブ流路が開放されるとメインスリットの流路にサブ流路の流路を付加して液体の流れを分散でき、圧力オーバーライドを低減できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のリリーフ弁によれば、流量が多くなっても圧力オーバーライドを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】一実施の形態におけるリリーフ弁の縦断面図である。
【
図2】一実施の形態のリリーフ弁を適用したダンパの概略図である。
【
図3】(A)は、一実施の形態におけるリリーフ弁の弁体の正面図である。(B)は、一実施の形態におけるリリーフ弁の弁体の側面断面図である。(C)は、一実施の形態におけるリリーフ弁の弁体の底面図である。
【
図4】(A)は、一実施の形態の第一変形例におけるリリーフ弁の弁体の正面図である。(B)は、一実施の形態の第一変形例におけるリリーフ弁の弁体の側面断面図である。(C)は、一実施の形態の第一変形例におけるリリーフ弁の弁体の底面図である。
【
図5】一実施の形態におけるリリーフ弁の圧力流量特性を示した図である。
【
図6】一実施の形態におけるリリーフ弁における液体の流れを示した図である。
【
図7】一実施の形態のリリーフ弁を適用したダンパの減衰力特性を示した図である。
【
図8】(A)は、一実施の形態の第二変形例におけるリリーフ弁の弁体の正面図である。(B)は、一実施の形態の第二変形例におけるリリーフ弁の弁体の側面断面図である。(C)は、一実施の形態の第二変形例におけるリリーフ弁の弁体の底面図である。
【
図9】(A)は、一実施の形態の第三変形例におけるリリーフ弁の弁体の正面図である。(B)は、一実施の形態の第三変形例におけるリリーフ弁の弁体の側面断面図である。(C)は、一実施の形態の第三変形例におけるリリーフ弁の弁体の底面図である。
【
図10】従来のリリーフ弁を利用したダンパの減衰力特性を示した図である。
【
図11】従来のリリーフ弁における液体の流れを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のリリーフ弁Vを図に基づいて説明する。一実施の形態におけるリリーフ弁Vは、
図1に示すように、内部に環状弁座2を有する筒状のハウジング1と、ハウジング1に移動自在に収容されて環状弁座2に離着座する弁体3と、弁体3を環状弁座2に向けて付勢するばねとしてのコイルばね4とを備えている。
【0017】
そして、このリリーフ弁Vは、たとえば、
図2示すようなダンパDの内部に区画される伸側室R1と圧側室R2を連通する通路20a,20bの途中に設けられて使用される。なお、ダンパDは、シリンダ21と、シリンダ21内に摺動自在に挿入されてシリンダ21内に作動油などの液体が充填される伸側室R1と圧側室R2を区画するピストン22と、シリンダ21内に移動自在に挿入されてピストン22に連結されるピストンロッド23とを備えて構成されており、この場合、ダンパDは、両ロッド型のダンパとされている。なお、片ロッド型のダンパとされてもよいことは勿論である。
【0018】
また、ピストン22には、通路20a,20bが設けられており、この通路20a,20bの途中に、それぞれ一つのリリーフ弁Vが向きを互い違いにして設置されている。また、通路20a,20bには、リリーフ弁Vに並列される減衰弁
DVが設けられている。そして、このダンパDが伸長作動してピストン22が
図2中左方へ移動する場合、図中の左方の伸側室R1内の圧力が上昇し、当該圧力がリリーフ弁Vのリリーフ圧に達すると、通路20aの途中に設置したリリーフ弁Vが開弁して伸側室R1内の液体を図中右方の圧側室R2へ逃がしつつ液体の流れに抵抗を与えて伸側減衰力を発揮する。なお、通路20bの途中に設置したリリーフ弁Vは、伸側室R1の圧力を受けて閉じたままとなって、通路20bを遮断する。反対に、ダンパDが収縮作動してピストン22が
図2中右方へ移動する場合、図中の右方の圧側室R2内の圧力が上昇し、当該圧力がリリーフ弁Vのリリーフ圧に達すると、通路20bの途中に設置したリリーフ弁Vが開弁して圧側室R2内の液体を図中左方の伸側室R1へ逃がしつつ液体の流れに抵抗を与えて減衰力を発揮する。なお、通路20aの途中に設置したリリーフ弁Vは、圧側室R2の圧力を受けて閉じたままとなって、通路20aを遮断する。
【0019】
このように、リリーフ弁Vは、ダンパDに振動が入力された際に、ダンパDに減衰力を発揮させる減衰弁として作用する。なお、ダンパDの構成は、前述した構成に限られるものではなく、たとえば、ダンパDが片ロッド型で伸側室R1と圧側室R2の他にリザーバタンクを備えて、これらを数珠繋ぎに通路で連通し、ダンパDが伸縮の際に液体をリザーバR、圧側室R2、伸側室R1およびリザーバタンクの順に循環させるユニフローダンパとされる場合には、リリーフ弁Vを伸側室R1とリザーバタンクとを連通する通路に伸側室R1からリザーバタンクに向けて液体が流れる際に抵抗を与えるように設置するようにしてもよい。また、ダンパDが、やはり、伸側室R1と圧側室R2の他にリザーバタンクを備えている場合には、ピストンに設けた通路以外にもリザーバタンクと圧側室R2とを連通する通路の途中にもリリーフ弁Vを設けるようにしてもよい。いずれにせよ、リリーフ弁VをダンパDに減衰力を発揮させることが可能なように設置すればよい。また、リリーフ弁Vは、ダンパDに限らずアクチュエータの他、リリーフ弁を用いる液圧機器にも利用可能である。
【0020】
戻って、以下にリリーフ弁Vの各部について詳しく説明する。ハウジング1は、筒状であって、
図1中下端となる先端の内周が縮径されており、内部に小径部1aと内径が小径部1aよりも大径な大径部1bを備えている。そして、ハウジング1は、小径部1aと大径部1bとの境に形成される段部で形成された環状弁座2を備えている。さらに、ハウジング1の
図1中上端となる後端の内周には、螺子部1cが設けられており、この螺子部1cに外周にねじ部を備えた有底筒状のナット15が螺着されている。
【0021】
また、ハウジング1の環状弁座2よりも後端側には側方から開口して内部に通じる通孔1dが複数設けられている。よって、リリーフ弁Vをピストン22に設ける場合、ハウジング1の先端の開口をダンパDの伸側室R1と圧側室R2の一方に臨ませるとともに通孔1dをピストン22に設けられる図示しないポートを介して伸側室R1と圧側室R2の他方に連通させればよい。
【0022】
弁体3は、ハウジング1内に軸方向へ移動自在に収容され、
図1および
図3に示すように、ハウジング1の小径部1aの内周に摺接する円柱状の摺接軸3aと、摺接軸3aの
図1中上端となる後端に連なって環状弁座2に離着座する円板状の着座部3bと、摺接軸3aの
図1中下端となる先端から後端へ向けて形成されるとともに摺接軸3aの側方に開口するメインスリット3cと、摺接軸3aの側方であってメインスリット3cの後端よりも先端側にずれた位置から開口して摺接軸3aの先端へ通じるサブ流路3dとを備えている。弁体3は、摺接軸3aが小径部1aの内周に摺接しているので、摺接軸3aをガイドにしてハウジング1内を軸方向に軸ぶれせずに移動できる。
【0023】
また、弁体3は、着座部3bの後端に設けられて軸方向に突出する円柱状の胴部3eと、胴部3eの先端外周を拡径して設けられてコイルばね4が嵌合される着座部3bより外径が小径なガイド部3fとを備えている。
【0024】
メインスリット3cは、
図3に示すように、摺接軸3aの先端から開口して後端へ向けて形成されて摺接軸3aを直径方向に貫いており、摺接軸3aを側方から見ると後端形状が半円形とされており、丁度、摺接軸3aを側方から直径方向にU字状に切り取った形状とされている。
【0025】
サブ流路3dは、
図3に示すように、摺接軸3aの側方であってメインスリット3cの後端よりも先端側に開口し、メインスリット3cの摺接軸3aの側方に開口する側方開口部Oに通じて、メインスリット3cの周方向幅を拡幅するように設けられている。具体的には、サブ流路3dは、
図3に示すように、摺接軸3aのメインスリット3cの二つの側方開口部Oに対して一つずつ通じる切欠N、Nによって形成されており、メインスリット3cの先端から後端へ向く方向に対して直交する方向に摺接軸3aの側部を側方から角丸形状に切り取って形成されている。
【0026】
そして、着座部3bが環状弁座2に着座した状態では、リリーフ弁Vは、閉弁状態となってハウジング1の大径部1bの内側の空間とメインスリット3cとの連通を断ってハウジング1内を閉塞する。他方、弁体3が
図1に示した状態からハウジング1に対して
図1中上方へ移動して着座部3bが環状弁座2から離座してメインスリット3cが大径部1bに径方向で対向すると、リリーフ弁Vが開弁してハウジング1内が開放されて大径部1bの内側の空間とメインスリット3cとが連通される。そして、弁体3が環状弁座2からの後退量に応じてメインスリット3cが大径部1bに対向する面積が大きくなり、弁開口面積が増加する。さらに、弁体3の環状弁座2から後退していくとサブ流路3dも大径部1bに径方向で対向するようになって、メインスリット3cに加えてサブ流路3dが大径部1bの内側の空間に連通される。よって、リリーフ弁Vにおける流路面積は、メインスリット3cの流路面積にサブ流路3dが大径部1bに対向する面積を加算した面積となる。このように、サブ流路3dは、メインスリット3cの流路に摺接軸3aの周方向にて流路を付加するようになっている。なお、
図3に示した実施の形態では、サブ流路3dは、メインスリット3cを通じて摺接軸3aの先端側へ連通しており、摺接軸3aの軸方向の全長に対して部分的に設けられているので、摺接軸3aの先端側の強度が確保されているが、
図4に示すように、摺接軸3aの先端にも通じるように形成されてもよい。
【0027】
また、ハウジング1内には、弁体3の他にばね座10が収容されており、ばね座10は、円柱状のばね嵌合部10aと、ばね嵌合部10aの後端に設けられてナット15の底部に着座するフランジ状のばね受け部10bと備えている。そして、ばね受け部10bと弁体3の着座部3bの後端面との間には、コイルばね4が圧縮状態で介装されている。よって、弁体3は、コイルばね4が発生する付勢力で付勢されて環状弁座2へ向けて押圧されている。コイルばね4の付勢力は、ハウジング1に対するナット15の軸方向位置を変更することで調整可能である。
【0028】
なお、ばね座10とナット15とは一部品とされてもよいが、ばね座10とナット15とが別部品となっているので、ナット15に対してばね座10の径方向への遊びを持たせることで、弁体3へのばね座10の嵌合が容易となり、高度な寸法管理を要せずリリーフ弁Vの組付性が向上する。
【0029】
リリーフ弁Vは、上流側から弁体3に作用する圧力によって弁体3を
図1中上方へ押し上げる力が、コイルばね4の弁体3を
図1中下方へ押し下げる付勢力に打ち勝つまでは閉弁状態を保ち、前記力がコイルばね4の付勢力に打ち勝つと弁体3がコイルばね4を押し縮めて環状弁座2から後退して開弁する。すなわち、このリリーフ弁Vにあっては、閉弁状態においてコイルばね4が発する付勢力の調整によって、リリーフ圧(開弁圧)を調整できる。リリーフ弁Vが開弁すると、弁体3を押し退けてメインスリット3cを通過した液体は、ハウジング1の大径部1b内および通孔1dを通ってハウジング1外へと抜ける。
【0030】
弁体3に作用する圧力が大きくなればなるほど、弁体3を
図1中押し上げる力が大きくなるので、弁体3が環状弁座2から離れて後退する後退量が増加するが、環状弁座2からの後退量が所定の後退量となると、メインスリット3cのみならずサブ流路3dも大径部1bに対向してリリーフ弁における流路が摺接軸3aの周方向で大きくなる。
【0031】
なお、コイルばね4は、その一端となる
図1中下端が弁体3のガイド部3fの外周に嵌合され、その他端となる
図1中上端がばね座10のばね嵌合部10bの外周に嵌合されていて、コイルばね4が径方向へ撓んでも弁体3の胴部3eのガイド部3f以外の外周に干渉しないよう配慮されている。
【0032】
このように構成されたリリーフ弁Vは、前述のようにすべての構成部材がハウジング1に一体化されてカートリッジ化され、たとえば、前述したように、ダンパDのピストン22に設けた通路20a,20b等に挿入され固定されて使用される。具体的には、ピストン22に孔と通孔1dに通じるポートを設けて通路20a,20bを形成しておき、当該通路20a,20bを形成する孔に上記の如くにカートリッジ化されたリリーフ弁Vを挿入してから、当該孔に環状のナットを螺着する等して通路20a,20bにリリーフ弁Vを固定すればよい。
【0033】
つづいて、リリーフ弁Vの動作についてダンパDの通路20a内に設置された場合を例に説明する。前述したように、リリーフ弁Vは、減衰弁
DVと組み合わせて使用される。ピストン22に
図2中左向きの外力が作用する場合、図中の左方の伸側室R1内の圧力が上昇するが、伸側室R1の圧力がリリーフ弁Vの開弁圧に達しない場合、弁体3が環状弁座2に着座したままとなって、液体は減衰弁
DVのみを通過して伸側室R1から圧側室R2へ移動する。よって、減衰弁
DVの圧力流量特性は、
図5中の線Xで示すように、傾きが大きな特性を有しており、ピストン速度が低速域にある場合、リリーフ弁Vが開弁せず減衰弁
DVのみの特性が現れる。
【0034】
伸側室R1の圧力が高くなってリリーフ弁Vの開弁圧以上となると、弁体3が圧力を受けて環状弁座2から後退してリリーフ弁Vが開弁し、液体は、メインスリット3cを通過してハウジング1の大径部1bおよび通孔1dを通過して圧側室R2へ移動する。伸側室R1内の圧力の上昇に応じて弁体3の環状弁座2からの後退量が大きくなっていくが、ピストン速度が中速域である場合には、メインスリット3cのみが大径部1bに径方向で対向するだけでサブ流路3dは開放されない。よって、ダンパDのピストン速度が中速域にあってリリーフ弁Vを通過する流量が少ない場合、リリーフ弁Vの流路面積も小さく抵抗が大きい。
【0035】
他方、ピストン速度が高速域に達すると、弁体3の環状弁座2から後退量が大きくなりメインスリット3cの開放に遅れてサブ流路3dも大径部1bに径方向で対向するようになる。サブ流路3dが大径部1bに対向して開放されると液体は、メインスリット3cのみならずサブ流路3dを通過するようになる。すると、サブ流路3dは、
図6に示すように、メインスリット3cで形成される流路に加えて摺接軸3aの周方向で流路を付加してリリーフ弁Vの流路面積を周方向に拡大し、液体の流れを周方向に分散させる。このように本実施の形態のリリーフ弁Vでは、メインスリットのみを有するリリーフ弁に比較して液体の流れが摺接軸3aの周方向に分散される。よって、本実施の形態のリリーフ弁Vは、液体の流れが摺接軸3aの周方向で極一部分に集中するのを抑制して、当該流れを分散できるので、その分、摺接軸3a周りの流量分布における最大値を従来のリリーフ弁よりも少なくすることができる。以上より、メインスリット3cおよびサブ流路3dを通過してハウジング1の大径部1b内に向かう液体の流れがハウジング1内で曲げられても流量が少なくなる分、液体の流れに与えられる抵抗も小さくなる。これにより、流量が多くなった場合のリリーフ弁Vの圧力流量特性は、
図5中の線Yで示すように、サブ流路3dが開放されるために従来のリリーフ弁の特性(
図5中線Z)に比較して高速域における圧力オーバーライドが低減されて、流量の増加に対して圧力損失の増加が極小さくなる特性となる。したがって、リリーフ弁Vを搭載したダンパDの減衰力特性は、
図7に示すように、ピストン速度が低速域にある場合には減衰弁
DVによる特性が現れて減衰係数が大きいが、ピストン速度が中速域にある場合にはリリーフ弁Vが開弁して減衰係数が小さくなり、ピストン速度が高速域にある場合には減衰係数の増加が抑制されてピストン速度の増加に対して減衰力の増加が極僅かとなる特性となる。
【0036】
以上のように、本実施の形態のリリーフ弁Vは、内部に環状弁座2を有する筒状のハウジング1と、ハウジング1内に移動自在に収容されて環状弁座2に離着座する弁体3と、弁体3を環状弁座2に向けて付勢するコイルばね(ばね)4とを備え、弁体3はハウジング1の内周に摺接する摺接軸3aと、摺接軸3aの後端に連なって環状弁座2に離着座する円板状の着座部3bと、摺接軸3aの先端から後端へ向けて形成されるとともに摺接軸3aの側方に開口するメインスリット3cと、摺接軸3aの側方であってメインスリット3cの後端よりも先端側から開口して摺接軸3aの先端へ通じてメインスリット3cで形成される流路に周方向にて流路を付加するサブ流路3dとを備えている。
【0037】
このように構成されたリリーフ弁Vによれば、前述したように、弁体3の環状弁座2からの後退が進むとメインスリット3cの開放に遅れてサブ流路3dが開放され、サブ流路3dがメインスリット3cの流路に摺接軸3aの周方向にて流路を付加して、液体の流れをサブ流路3dに分散させる。よって、本実施の形態のリリーフ弁Vによれば、流量が多くなっても圧力オーバーライドを低減できる。また、サブ流路3dは、流量が少ない場合には開放されないので流量が少ない場合におけるリリーフ弁Vの特性には影響を与えない。よって、
図3に示したリリーフ弁Vでは、流量が少ない場合における圧力流量特性には影響を与えることなく流量が多くなった場合における圧力オーバーライドを低減できるのである。
【0038】
また、本実施の形態のリリーフ弁Vにおけるメインスリット3cは、摺接軸3aを径方向に貫くように形成され、サブ流路3dは、着座部3bが環状弁座2から後退して開口するとメインスリット3cの流量を分散させるとともに摺接軸3aの周方向にて液体の流れを拡散させる。サブ流路3dがこのように液体の流れを周方向へ分散させる場合には、ハウジング1と弁体3の着座部3bとの間を通過する流量分布が周方向に分散されるので、より液体の流れがハウジング1によって曲げられることによる抵抗が減少し、前述の圧力オーバーライドをより一層低減できる。
【0039】
本実施の形態のリリーフ弁Vでは、メインスリット3cが摺接軸3aを径方向に貫くとともに摺接軸3aの先端から後端へ向けて形成され、サブ流路3dが摺接軸3aの側方から開口してメインスリット3cの側方開口部Oに連通するように形成されている。このように構成されたリリーフ弁Vによれば、メインスリット3cの側方開口部Oにサブ流路3dが直接連通されているので、狭いメインスリット3cを通過してきた液体がサブ流路3dの開放に伴って周方向に広いサブ流路3d内に侵入して、液体の流れが摺接軸3aの周方向に効率よく拡散される。このように構成されたリリーフ弁Vによれば、サブ流路3dによって効率的に液体の流れを周方向に拡散できるので、リリーフ弁Vの圧力オーバーライドを効果的に低減できる。また、摺動軸3aのガイド面積が確保されているので、開口面積の確保後と弁体3の軸ぶれの抑制の両立を図ることができる。
【0040】
なお、サブ流路3dの具体的な構成は、摺接軸3aに切欠Nを設ける他にも、
図8に示すようにメインスリット3cに連通する横孔30を設けて、これをサブ流路としてもよいし、
図9に示すように摺接軸3aを径方向に貫くとともに摺接軸3aの先端から後端へ向けてメインスリット3cに対して直交する向きで形成されるサブスリット31を設けて、これをサブ流路としてよい。このように、横孔30或いはサブスリット31によってサブ流路を形成しても、弁体3が環状弁座2から後退してサブ流路が開放されるとメインスリット3cの流路にサブ流路の流路を付加して液体の流れを分散できる。液体の流れが分散されれば、ハウジング1と弁体3の着座部3bとの間を通過する流量分布を分散できるので、流量が大きくなった場合におけるリリーフ弁Vの圧力オーバーライドを低減できる。
【0041】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、および変更が可能である。
【解決手段】本発明のリリーフ弁Vは、内部に環状弁座2を有する筒状のハウジング1と、ハウジング1内に移動自在に収容されて環状弁座2に離着座する弁体3と、弁体3を環状弁座2に向けて付勢するばね4とを備え、弁体3はハウジング1の内周に摺接する摺接軸3aと、摺接軸3aの後端に連なって環状弁座2に離着座する円板状の着座部3bと、摺接軸3aの先端から後端へ向けて形成されるとともに摺接軸3aの側方に開口するメインスリット3cと、摺接軸3aの側方であってメインスリット3cの後端よりも先端側から開口して摺接軸3aの先端へ通じてメインスリット3cで形成される流路に周方向にて流路を付加するサブ流路3dとを備えている。