特許第6574916号(P6574916)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6574916
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】板金修理に用いるはんだごて
(51)【国際特許分類】
   B23K 3/02 20060101AFI20190902BHJP
   B23K 1/00 20060101ALI20190902BHJP
   B21D 1/06 20060101ALI20190902BHJP
   B60S 5/00 20060101ALI20190902BHJP
   B23K 101/18 20060101ALN20190902BHJP
【FI】
   B23K3/02 R
   B23K1/00 330F
   B21D1/06 B
   B60S5/00
   B23K101:18
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2019-85463(P2019-85463)
(22)【出願日】2019年4月26日
(62)【分割の表示】特願2015-110471(P2015-110471)の分割
【原出願日】2015年5月29日
【審査請求日】2019年4月26日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】512262204
【氏名又は名称】株式会社山本自動車
(74)【代理人】
【識別番号】100080126
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 惇逸
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩司
(72)【発明者】
【氏名】山本 圭吾
【審査官】 岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−305566(JP,A)
【文献】 実公昭43−28037(JP,Y1)
【文献】 特開昭63−071345(JP,A)
【文献】 特開2006−130559(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 3/02
B23K 1/00
B21D 1/06
B60S 5/00
B23K 101/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板金修理における凹み部表面への引き出し部材のはんだ付けによる接合のために、前記凹み部表面にはんだメッキを施すはんだごてであって、ヒータ部材と、ヒータ部材に断熱的に連結された把持部材と、ヒータ部材に伝熱的に連結されると共にこて先を前方に突出させたこて先部材とからなり、前記こて先が、先端面に向かって厚みが漸減する扁平チップ板を備え、前記チップ板の先端面に、チップ板幅方向に沿ってスリットが、はんだメッキのために前記凹み部表面に供給された溶融はんだ材の毛細管現象による内部への吸引、貯留可能に且つ前記内部に貯留された溶融はんだ材の前記凹み部表面への流動供給可能に2個所以上にチップ板面と交差する方向に穿設されると共に、それによって前記チップ板の先端面に、チップ板幅方向に沿って歯状体が、溶融はんだ材で覆われた中でのチップ板幅方向の往復移動による前記凹み部表面上の酸化被膜の擦取、排出可能に3個以上に形成されたことを特徴とするはんだごて。
【請求項2】
前記こて先のチップ板は、前記ヒータ部材からの伝熱距離が調節可能である請求項1に記載のはんだごて。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のボディパネル等を構成する鉄、鋼又はアルミ合金等からなる板金に損傷等により生じた凹み部を修復するための板金修理に用いるはんだごてに関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板等の凹み部の板金修理に際して、特開63−71345号公報(特許文献1)及び特開2006−130559号公報(特許文献2)には、前記凹み部表面に引き出し部材をはんだ付けにより接合すると共に前記引き出し部材を外方向に引っ張ることにより、前記凹み部を引き出して修復するようにした板金修理方法が開示されている。
【0003】
前記はんだ付けによる引き出し部材の接合工程を含む従来の板金修理方法は、1000℃以上の高温加熱を伴うスポット溶接等の溶接により引き出し部材を前記凹み部表面に接合する旧来の方法に比べて処理温度が400℃以下と格段に低く、従って前記凹み部が高温に曝されることがないため、該凹み部の構成材料の材質劣化や強度の低下が抑制され、また前記凹み部に断熱材その他の可燃材が隣接配置されていても、それらの着火の危険性が小さい等の利点を有している。
【0004】
本発明者等は、自動車のボディパネル等にその軽量化、引っ張り強さの強度化等のために昨今多用されるようになった素材で、概して400℃以上の加熱で材質の劣化や強度の低下を生じる難点を有する高張力鋼板からなる前記凹み部の修理にも、前記はんだ付けによる引き出し部材の接合工程を含む板金修理方法を適用し得ることを既に確認している。
【0005】
一方、自動車のボディパネル等に、高い強度を保持しつつ更なる軽量化、低燃費化を目指して、比強度及び成形性等に優れた6000系、7000系等のアルミ合金が使用され始めている。
【0006】
しかしながら、前記アルミ合金板からなるボディパネルの凹み部の板金修理に際しては、はんだ付けによる引き出し部材の接合工程を含む従来の板金修理方法を適用することが極めて困難であった。
【0007】
即ち、前記アルミ合金板からなるボディパネルの凹み部表面に引き出し部材をはんだ付けにより接合すべく、先ず前記凹み部表面に、研磨等による酸化被膜の除去後にはんだメッキを施そうとしても、アルミニウムの酸素との特異な化学親和性の高さから、前記凹み部表面から酸化被膜を研磨除去すると同時に前記表面に新たな酸化被膜が形成されるので、はんだメッキのために供給された溶融はんだ材は、前記のように新たに形成された酸化被膜に遮断されて、前記凹み部表面における未酸化状態のアルミ合金と安定した金属間化合物や固溶体を形成することができないのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭63−71345号公報
【特許文献2】特開2006−130559号公報
【特許文献3】特開2002−239719号公報
【特許文献4】特開2005−161336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、前記先行技術の問題点に鑑み、自動車のボディパネル等を構成する板金、特にアルミ合金からなる板金に生じた凹み部を修復するに際して、前記凹み部表面への引き出し部材のはんだ付けによる接合を容易に可能にするはんだごてを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るはんだごては、請求項1に記載のように、板金修理における凹み部表面への引き出し部材のはんだ付けによる接合のために、前記凹み部表面にはんだメッキを施すはんだごてであって、ヒータ部材と、ヒータ部材に断熱的に連結された把持部材と、ヒータ部材に伝熱的に連結されると共にこて先を前方に突出させたこて先部材とからなり、前記こて先が、先端面に向かって厚みが漸減する扁平チップ板を備え、前記チップ板の先端面に、チップ板幅方向に沿ってスリットが、はんだメッキのために前記凹み部表面に供給された溶融はんだ材の毛細管現象による内部への吸引、貯留可能に且つ前記内部に貯留された溶融はんだ材の前記凹み部表面への流動供給可能に2個所以上にチップ板面と交差する方向に穿設されると共に、それによって前記チップ板の先端面に、チップ板幅方向に沿って歯状体が、溶融はんだ材で覆われた中でのチップ板幅方向の往復移動による前記凹み部表面上の酸化被膜の擦取、排出可能に3個以上に形成されたことを特徴としている。
【0011】
前記こて先のチップ板は、請求項2に記載のように、前記ヒータ部材からの伝熱距離が調節可能であることが好ましい。
【0012】
本発明に係る前記はんだごては、自動車のボディパネル等を構成する鉄、鋼又はアルミ合金等からなる板金に損傷等により生じた凹み部を修復するための板金修理に用いられる。前記板金修理方法は、板金のはんだメッキが施された凹み部表面に、はんだメッキが施された又は施されていない引き出し部材をはんだ付けにより接合すると共に前記引き出し部材を引っ張り具により外方向に引っ張ることにより、前記凹み部を引き出して修復するようにした板金修理方法であって、前記凹み部表面にはんだメッキを施すに際して前記構成のはんだごてを使用し、前記凹み部表面に、酸化被膜の除去を含む前処理の後に、はんだ材を前記こて先のチップ板で加熱、溶融させつつ供給し、前記溶融されたはんだ材を前記チップ板の各スリット内に毛細管現象で吸引、貯留させた状態の下に、前記チップ板の一連の歯状体を、溶融はんだ材で覆われた中でチップ板幅方向に往復移動させつつ前記凹み部表面に擦り付けて酸化被膜を擦取すると共に、前記酸化被膜が擦取された直後の前記凹み部表面に、酸素の遮断下に、従って新たな酸化被膜の形成の抑制下に、前記スリットから溶融はんだ材を流動供給させるようにしている。
【0013】
前記板金修理方法におけるはんだメッキ工程では、はんだごてにおける前記チップ板の歯状体を、溶融はんだ材で覆われた中でチップ板幅方向に往復移動させつつ前記凹み部表面に擦り付ける操作を繰り返すことにより、前記凹み部表面上の酸化被膜の擦取及び排出と、前記酸化被膜が擦取された直後の表面部分への前記スリットからの溶融はんだ材の流動供給が交互に繰り返され、それによって、前記凹み部表面のはんだメッキ面積が徐々に増大すると共に、最終的に、前記凹み部表面に、所要面積にわたって酸化被膜が完全に除去された状態で確実にはんだメッキが施された、前記引き出し部材とのはんだ付けのための接合面が得られる。
【0014】
前記はんだごてでは、先端面に向かって厚みが漸減するチップ板の先端面に、チップ板幅方向に沿って2個所以上のスリットが穿設され、それによって前記チップ板の先端面に、歯状体がチップ板幅方向に3個以上に形成され、それらの構成によって、前記凹み部表面上の酸化被膜を、厚みが漸減するチップ板の先端面による強い押圧力の下における3個以上の一連の歯状体による擦り付けにより、効果的に擦り取ることができる。
【0015】
また、前記はんだごてでは、前記のように、前記チップ板の3個以上の歯状体により凹み部表面上の酸化被膜の擦り取りが前記のように効果的に行われると共に、それら歯状体の各間に存する各スリットにより、前記歯状体による酸化被膜の擦取の直後に、前記酸化被膜の擦取後の凹み部表面に対して、前記スリットに貯留された溶融はんだ材の供給が円滑に行われる。
【0016】
なお、こて先部材におけるチップ板の先端面へのスリットの穿設に関しては、特開2002−239719号公報(特許文献3)に、こて先部材の先端部に種々の態様でスリットを設け、はんだ付け後の余剰な溶融はんだ材を毛細管現象で前記スリット内に吸い上げて除去し、或いは前記スリット内に吸い上げられた溶融はんだ材を次のはんだ付けに使用するようにしたはんだごてが開示され、また特開2005−161336号公報(特許文献4)には、こて先部材の先端部にスリットを設け、前記スリット内に予め溶かし込み、溜めておいた溶融はんだ材をはんだ付けに使用するようにしたはんだごてが開示されている。
【0017】
しかしながら、前記従来技術のはんだごては、本発明に係るはんだごてにおけるこて先のチップ板のように前記板金の凹み部表面上の酸化被膜を効果的に擦取することが可能な一連の歯状体を構成せず、また前記こて先の先端部を仮に前記凹み部表面に擦り付けて往復移動させても、前記凹み部表面上の酸化被膜の擦取及び排出と、前記酸化被膜が擦取された直後の表面部分への前記スリットからの溶融はんだ材の流動供給が交互に繰り返されることはなく、従ってアルミ合金等からなる板金の前記凹み部表面に、酸化被膜が完全に除去された状態で確実にはんだメッキが施された、前記引き出し部材とのはんだ付けのための接合面は得られない。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に係る発明のはんだごてによれば、自動車のボディパネル等を構成する板金、特にアルミ合金からなる板金に生じた凹み部を修復するに際して、前記凹み部表面への引き出し部材のはんだ付けによる接合を容易に可能にする。
【0019】
請求項2に係る発明のはんだごてによれば、前記作用効果に加えて、前記凹み部の修理の対象となる板金の材質等に応じて、こて先のチップ板の温度を微調節することができる。
【0020】
前記はんだごてを用いて、自動車のボディパネル等を構成する板金、特にアルミ合金からなる板金に生じた凹み部を修復するに際して、前記凹み部表面への引き出し部材のはんだ付けによる接合を容易に可能にするべく、前記凹み部表面に、所要面積にわたって、酸化被膜が完全に除去された状態で確実にはんだメッキが施された、前記引き出し部材とのはんだ付けのための接合面を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の実施例に係るはんだごての要部側面図である。
図2図2(A)、(B)及び(C)は、本発明の実施例に係るはんだごてにおけるこて先の各々正面図、側面図及び底面図である。
図3図3は、本発明の実施例に係るはんだごてを用いた板金修理方法におけるはんだメッキ状況を模式的に示す説明図である。
図4図4(A)及び(B)は、本発明に係るはんだごてを用いた板金修理方法における、板金のはんだメッキが施された凹み部表面への引き出し部材の接合及びそれに続く前記凹み部の引き出し完了時の各状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施例に係るはんだごて1は、図1に示すように、ヒータ部材2と、ヒータ部材2に断熱的に連結された把持部材3と、ヒータ部材2に伝熱的に連結されたこて先部材4とから構成され、前記こて先部材4は、本体5に銅又は銅合金製等のこて先6が交換可能且つ軸方向に位置調節可能に止めネジ7で固定されてなり、前記こて先6の先端部を本体5から所要長さだけ前方に突出させている。
【0023】
なお、本発明に係るはんだごて1は、前記実施例に記載される形態に限定されるものではない。
【0024】
前記こて先6は、図2(A)〜(C)に示すように、先端部に扁平チップ板8を備え、該扁平チップ板8はその先端面8aに向かって厚みが漸減する形態を呈し、前記チップ板8の先端面8aに、チップ板幅方向に沿ってスリット8bが2個所に、チップ板面と直交する方向に穿設されると共に、それによって前記チップ板8の先端面8aに、チップ板幅方向に沿って矩形の歯状体8cが3個にわたって配列形成されている。
【0025】
なお、本発明に係るはんだごて1のこて先6は、前記実施例に記載される形態に限定されるものではなく、例えば前記スリット8bは2個所を越えて穿設されてもよく、従って前記歯状体8cが3個を越えて配列形成されもよい。さらに前記チップ板8の両側の側面は、平面のみならず曲面で構成されていてもよい。
【0026】
本発明の実施例に係るはんだごてを用いた板金修理方法は、図4(A)〜(B)に示すように、アルミ合金等からなる板金11のはんだメッキ21が施された凹み部11a表面に、はんだメッキ21が施された又は施されていない引き出し部材31をはんだ付けにより接合すると共に前記引き出し部材31を引っ張り具32により外方向に引っ張ることにより、前記凹み部11aを引き出して修復するようにした板金修理方法であって、既述のようなはんだごて1を使用して、以下のように前記凹み部11a表面にはんだメッキ21が施される。
【0027】
即ち、前記凹み部11a表面に、酸化被膜の除去を含む前処理の後に、図3に模式的に示すように、はんだ材を前記こて先6のチップ板8で加熱、溶融させつつ供給し、前記溶融はんだ材22を前記チップ板8の各スリット8b内に毛細管現象で吸引、貯留させた状態の下に、前記チップ板8の一連の歯状体8cを、溶融はんだ材22で覆われた中でチップ板幅方向に往復移動させつつ前記凹み部11a表面に擦り付けて酸化被膜を擦取すると共に、前記酸化被膜が擦取された直後の前記凹み部11a表面に、酸素の遮断下に、従って新たな酸化被膜の形成の抑制下に、前記スリット8bから溶融はんだ材22を流動供給させるようにしている。なお、前記処理工程を通じて、前記凹み部11aの加熱温度は、好ましくは400℃以下に保持される。
【0028】
前記チップ板8の一連の歯状体8c自体の温度は、前記凹み部の修理の対象となる板金の材質等に応じて、例えばチップ板8の突出長さ、スリット8bの深さ、ヒータ部材2の出力等の選択や調節により適度に調整される。前記歯状体8cの温度の実測によれば、中央側の歯状体がその両側の歯状体よりも若干高温を呈する。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、自動車のボディパネルを構成する特にアルミ合金からなる板金に損傷等により生じた凹み部を、該凹み部の構成材料の材質劣化や強度の低下、及び該凹み部に隣接配置された断熱材その他の可燃材の着火等の発生なしに修復するための板金修理に適用できる。
【符号の説明】
【0030】
1 はんだごて
2 ヒータ部材
3 把持部材
4 こて先部材
5 本体
6 こて先
7 止めネジ
8 チップ板
8a 先端面
8b スリット
8c 歯状体
11 板金
11a 凹み部
21 はんだメッキ
22 溶融はんだ材
31 引き出し部材
32 引っ張り具
【要約】
【課題】 自動車のボディパネル等を構成する板金に生じた凹み部を修復する板金修理に用いるはんだごてを提供する。
【解決手段】 ヒータ部材2と、把持部材3と、こて先部材4とから構成され、前記こて先部材4のこて先6は、先端面8aに向かって厚みが漸減する扁平チップ板8を備え、前記チップ板8の先端面8aに、チップ板幅方向に沿ってスリット8bが、板金11の凹み部11a表面上の溶融はんだ材22の毛細管現象による内部への吸引、貯留可能に且つ前記内部に貯留された溶融はんだ材22の前記凹み部11a表面への流動供給可能に2個所以上に、チップ板面と直交する方向に穿設されると共に、それによって前記チップ板8の先端面8aに、チップ板幅方向に沿って矩形の歯状体8cが、溶融はんだ材で覆われた中でのチップ板幅方向の往復移動による前記凹み部11a表面上の酸化被膜の擦取、排出可能に3個以上にわたって配列形成されている。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4