(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6574955
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】弾性表面波共振器間の相互干渉抑制構造、および加速度センサ
(51)【国際特許分類】
G01P 15/097 20060101AFI20190909BHJP
G01P 15/08 20060101ALI20190909BHJP
H01L 41/113 20060101ALI20190909BHJP
H01L 41/047 20060101ALI20190909BHJP
H03H 9/25 20060101ALI20190909BHJP
【FI】
G01P15/097 A
G01P15/08 101B
G01P15/08 101D
H01L41/113
H01L41/047
H03H9/25 Z
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-133859(P2015-133859)
(22)【出願日】2015年7月2日
(65)【公開番号】特開2017-15606(P2017-15606A)
(43)【公開日】2017年1月19日
【審査請求日】2018年4月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000203634
【氏名又は名称】多摩川精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119264
【弁理士】
【氏名又は名称】富沢 知成
(72)【発明者】
【氏名】松井 友弘
【審査官】
岡田 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−60405(JP,A)
【文献】
特開平9−321574(JP,A)
【文献】
特開平8−330880(JP,A)
【文献】
特開平5−110375(JP,A)
【文献】
米国特許第4805456(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P15/00−15/18
G01C19/00−19/72
H01L29/84
H01L41/00−41/47
H03H 9/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の弾性表面波共振器を備えた加速度センサにおける共振器間の相互干渉を抑制するための構造であって、二の弾性表面波共振器間に設けられた一または複数の隆起構造であって、該隆起構造として少なくともワイヤ結線のバンプが含まれていることを特徴とする、弾性表面波共振器間の相互干渉抑制構造。
【請求項2】
前記隆起構造が金(Au)、銅(Cu)またはアルミニウム(Al)のいずれかであることを特徴とする、請求項1に記載の弾性表面波共振器間の相互干渉抑制構造。
【請求項3】
複数の弾性表面波共振器を備えた加速度センサにおける共振器間の相互干渉を抑制するための構造であって、二の弾性表面波共振器間に設けられた一または複数の隆起構造であって、該隆起構造として少なくとも単体のバンプが含まれていることを特徴とする、弾性表面波共振器間の相互干渉抑制構造。
【請求項4】
前記隆起構造が金(Au)、銅(Cu)またはアルミニウム(Al)のいずれかであることを特徴とする、請求項3に記載の弾性表面波共振器間の相互干渉抑制構造。
【請求項5】
請求項1、2、3、4のいずれかに記載の弾性表面波共振器間の相互干渉抑制構造を用いた、加速度センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は弾性表面波共振器間の相互干渉抑制構造、および加速度センサに係り、特に、多軸感度検出機能を有する加速度センサの特性を向上させることのできる、弾性表面波共振器間の相互干渉抑制構造等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
加速度センサは加速度を検知するセンサであり、適切な信号処理を行うことによって、傾きや動き、振動や衝撃といったさまざまな情報が得られる。自動車ではエアバックや横滑り制御装置などのシステムなどに利用されている。
【0003】
たとえば後掲特許文献1、2には、弾性表面波を利用した加速度センサが開示されており、弾性表面波共振子形成部の撓みによって発生する引張・圧縮応力によりSAW伝搬速度を変化させ、発振周波数変化として検出する加速度センサが開示されている。
【0004】
しかし従前の技術では、撓み量を増やすために錘を負荷させる必要があり、また多軸検出についても複雑な製造技術や設備が必要であった。また、特に上記文献のうち後者は、高感度化に難点がある上、素子の小型化・回路の小型化にも難点があった。
【0005】
そこで本願発明者は、これらの課題を解決するために、二の錘部と一の支持部、もしくは一の錘部と二の支持部、およびそれらを連結する梁を有する構造の弾性表面波型加速度センサであって、少なくとも二箇所の梁の表面にそれぞれ一以上の弾性表面波共振器を備えた構成の加速度センサを発明し、特許出願した (特許文献3)。当該発明によれば、多軸検出についても複雑な製造技術や設備を要することなく、簡便な素子構造によって、かつ 1個の素子のみによって、2軸または3軸の加速度検出を高感度に行うことができ、また、素子や回路を小型化することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−243983号公報「弾性表面波センサ及び弾性表面波センサ素子」
【特許文献2】特開2009−243981号公報「弾性表面波センサ」
【特許文献3】特願2011−189707号「弾性表面波型加速度センサおよびセンサ素子基体」
【特許文献4】特開平9−321574号公報「弾性表面波装置」(特許第3239064号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
さて、弾性表面波型加速度センサにおいては、多軸の加速度を検出するために、複数の検出部をセンサ素子上に配置する必要があり、複数の検出部の情報を用いて各軸方向の加速度を分離し、1軸、2軸および3軸加速度の検出を行なう。上記既出願発明(特許文献3)の構成のように、センサ素子上に複数の弾性表面波共振器を配置した場合、相互干渉による影響を受けて、正しい情報が得られない可能性がある。
【0008】
図8は、既出願発明の弾性表面波型加速度センサのセンサ素子構造の例を示す斜視説明図である。また
図9は、
図8に示したセンサにおける弾性表面波伝搬状態を示す断面視説明図である。これらに示すように既出願発明では、センサ素子81は弾性表面波SAWを発生させるための圧電基板89から構成されており、中央の支持部89cと錘部89a、89aおよび両者を連結する板厚が薄い梁部89bから構成される簡便な構造である。センサ素子構造の構成例は図示するものに限らないが、図示する例は、支持部89cに基準弾性表面波共振器83、および梁部89bに弾性表面波共振器82、84が設けられた加速度センサである。
【0009】
しかし、このように複数の弾性表面波共振器82、83等が同一圧電基板89上に配置されている場合、たとえば
図9に示すように、弾性表面波共振器83から励振される弾性表面波SAWは、圧電基板89表面を伝搬して他の弾性表面波共振器84と相互干渉する。
【0010】
そこで、複数の弾性表面波共振器82、83等の相互干渉を抑制するために従来は、弾性表面波共振器間に接地電極を設けて、入出力端子間の直達波の遮蔽用として機能させている。あるいはまた、弾性表面波共振器の長辺方向(表面波伝搬方向)の両端に弾性表面波吸収体(吸音材)を塗布して、不要反射波を抑圧するという方法を採る場合もある。
【0011】
しかし、接地電極を設ける方法では、弾性表面波からバルク波へ変換されるエネルギーによる干渉が発生してしまう。一方、弾性表面波吸収体(吸音材)を塗布する方法を採るためには、相応の製造技術や設備が必要となり、また吸音材の管理も必要となる。より簡易な方法・構成によって弾性表面波共振器間の相互干渉を十分に抑制でき、弾性表面波からバルク波へ変換されるエネルギーによる干渉の発生も回避できる技術が求められている。
【0012】
そこで本発明が解決しようとする課題は、かかる従来技術の問題点を踏まえ、弾性表面波共振器を不感帯部分と複数の検出部分に配置する加速度センサについて、弾性表面波共振器からの漏れによる他の弾性表面波共振器との相互干渉を、簡易な方法・構成によって十分に抑制することができ、かつ弾性表面波からバルク波へ変換されるエネルギーによる干渉の発生も回避することのできる、弾性表面波共振器間の相互干渉抑制構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明者は上記課題について検討した結果、Auワイヤ結線およびAuバンプボンドをすることで、複数の弾性表面波共振器間の相互干渉を抑制し、高精度の加速度検出機能を有する加速度センサの実現が容易に可能であることを見出し、これに基づいて本発明を完成するに至った。すなわち、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下の通りである。
【0014】
〔1〕 複数の弾性表面波共振器を備えた加速度センサにおける共振器間の相互干渉を抑制するための構造であって、二の弾性表面波共振器間に設けられた一または複数の隆起構造であ
って、該隆起構造として少なくともワイヤ結線のバンプが含まれていることを特徴とする、弾性表面波共振器間の相互干渉抑制構造。
〔2〕 前記隆起構造が金(Au)、銅(Cu)またはアルミニウム(Al)のいずれかであることを特徴とする、〔1〕に記載の弾性表面波共振器間の相互干渉抑制構造。
【0015】
〔3〕
複数の弾性表面波共振器を備えた加速度センサにおける共振器間の相互干渉を抑制するための構造であって、二の弾性表面波共振器間に設けられた一または複数の隆起構造であって、該隆起構造として少なくとも単体のバンプが含まれていることを特徴とする、弾性表面波共振器間の相互干渉抑制構造。
〔4〕 前記隆起構造として少なくとも単体のバンプが含まれていることを特徴とする、〔
3〕に記載の弾性表面波共振器間の相互干渉抑制構造。
〔5〕 〔1〕
、〔2〕、〔3〕、〔4〕のいずれかに記載の弾性表面波共振器間の相互干渉抑制構造を用いた、加速度センサ。
【発明の効果】
【0016】
本発明の弾性表面波共振器間の相互干渉抑制構造、および加速度センサは上述のように構成されるため、これらによれば、弾性表面波共振器を不感帯部分と複数の検出部分に配置する加速度センサについて、弾性表面波共振器からの漏れによる他の弾性表面波共振器との相互干渉を、簡易な方法・構成によって十分に抑制することができ、かつ弾性表面波からバルク波へ変換されるエネルギーによる干渉の発生も回避することができる。これにより、高精度の加速度検出機能を有する加速度センサとすることができる。
【0017】
また本発明において、センサ素子上に配置する複数の弾性表面波共振器間に、Au等のワイヤ結線およびバンプを1つまたは複数ボンディングする構成とすることによって、外部結線の役割をしつつ不要な弾性表面波を減衰させることができる。このことは、少ないボンディングで所期の効果を得ることにつながる。
【0018】
なお、上記特許文献4に開示されている技術は、圧電基板上に複数のSAWフィルタをカスケード接続した二重モードフィルタにおいて櫛形電極の電極対数を中央の櫛形電極に対して非対称にすることにより入力インピーダンスと出力インピーダンスを独立に設定可能なSAWフィルタであり、相互干渉についての言及がある。しかしここでの相互干渉は、弾性表面波共振器(櫛歯電極)と接地電極(GND)間の電気的な容量結合による干渉に係るものであり、物理的な弾性表面波(振動エネルギー)による相互干渉の抑制を課題とする本発明は、これとは課題・解決手段ともに異なる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の弾性表面波共振器間の相互干渉抑制構造の一実施例を示す斜視図である。
【
図3】バンプのみを用いる本発明相互干渉抑制構造の実施例を示す側断面図である。
【
図4】ワイヤ結線を用いる本発明相互干渉抑制構造の実施例を示す斜視図である。
【
図6】ワイヤ結線および単独のバンプを併用する本発明相互干渉抑制構造の実施例を示す斜視図である。
【
図8】既出願発明の弾性表面波型加速度センサのセンサ素子構造の例を示す斜視説明図である。
【
図9】
図8に示したセンサにおける弾性表面波伝搬状態を示す断面視説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面により本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明の弾性表面波共振器間の相互干渉抑制構造の一実施例を示す斜視図である。また、
図2は
図1の要部側断面図である。これらに示すように本弾性表面波共振器間の相互干渉抑制構造(以下、単に「相互干渉抑制構造」ともいう。)10は、弾性表面波SAWを発生させるための圧電基板9上に複数の弾性表面波共振器2、3等を備えて構成されている、加速度センサのセンサ素子1上における構造であって、二の弾性表面波共振器3、4間等に設けられた一または複数の隆起構造であることを、主たる構成とする。
【0021】
なお図示する例では、前掲
図8に示した従来技術と同様、圧電基板9は中央の支持部9cと錘部9a、9aおよび両者を連結する板厚が薄い梁部9bからなる形態に形成されており、支持部9cに基準弾性表面波共振器3、および梁部9bに弾性表面波共振器2、4が設けられた加速度センサである。かかる形態に限定されないが、本発明の加速度センサ・センサ素子も、支持部、錘部および両者を連結する板厚が薄い梁部から構成される構造を有する。
【0022】
かかる構成により本相互干渉抑制構造10によれば、弾性表面波共振器3から励振される弾性表面波SAWは、相互干渉抑制構造10を通過する際に物理的に減衰され、他の弾性表面波共振器4と相互干渉することが無くなる。このようにして、共振器間の相互干渉の抑制が可能となる。
【0023】
本相互干渉抑制構造10をなす隆起構造の具体的材質等は、通過する弾性表面波SAWを物理的に減衰せしめる特性を備えたものである限り、特に限定されない。たとえば金(Au)は特に有効だが、そのほかにも、銅(Cu)やアルミニウム(Al)は、本相互干渉抑制構造10に好適に用いることができる。
【0024】
図3は、バンプのみを用いる本発明相互干渉抑制構造の実施例を示す側断面図である。図示するように本相互干渉抑制構造310をなす隆起構造としては、単体のバンプを用いるものとすることができる。また、具体的材質等については上述のとおりである。一の弾性表面波共振器から励振された弾性表面波SAWは、本相互干渉抑制構造310すなわちバンプを通過する際に物理的に減衰され、他の弾性表面波共振器と相互干渉することが無くなる。
【0025】
バンプは単独で一個または複数個用いて相互干渉抑制構造としてもよいし、また、一または複数のワイヤ結線と併用して一個または複数個用いて相互干渉抑制構造としてもよい。
【0026】
図4は、ワイヤ結線を用いる本発明相互干渉抑制構造の実施例を示す斜視図である。また、
図5は
図4の要部側断面図である。図示するように本相互干渉抑制構造410をなす隆起構造としては、ワイヤ結線46のバンプを用いるものとすることができる。また、具体的材質等については上述のとおりである。一の弾性表面波共振器43等から励振された弾性表面波SAWは、本相互干渉抑制構造410すなわちワイヤ結線46のバンプを通過する際に物理的に減衰され、他の弾性表面波共振器42等と相互干渉することが無くなる。
【0027】
ワイヤ結線は単独で一個または複数個用いて相互干渉抑制構造としてもよいし、また、一または複数のバンプと併用して一個または複数個用いて相互干渉抑制構造としてもよい。
【0028】
多軸加速度を検出する弾性表面波型加速度センサにおいて、センサ素子41上に配置する複数の弾性表面波共振器42、43等間にAu等によるワイヤ結線46を一または複数ボンディングすることで、外部結線の役割をしつつ、相互干渉抑制構造410をなすバンプによって不要な弾性表面波を減衰させることができる。
【0029】
図6は、ワイヤ結線および単独のバンプを併用する本発明相互干渉抑制構造の実施例を示す斜視図である。また、
図7は
図6の要部側断面図である。図示するように本相互干渉抑制構造710をなす隆起構造としては、ワイヤ結線56のバンプ(510)、および単独のバンプ(610)の双方を併せ用いるものとすることができる。ここで、相互干渉抑制構造710を構成するワイヤ結線56のバンプ、単独のバンプ、それぞれもまた、相互干渉抑制構造510、610であると把握することができる。また、具体的材質等については上述のとおりである。
【0030】
かかる構成により本実施例では、一の弾性表面波共振器53等から励振された弾性表面波SAWは、本相互干渉抑制構造710、すなわちワイヤ結線56のバンプ(相互干渉抑制構造510)および単独のバンプ(相互干渉抑制構造610)をそれぞれ通過する際に、物理的な減衰作用を受け、他の弾性表面波共振器54等と相互干渉することが無くなる。本例では、物理的な減衰作用をなす箇所が二箇所であるため、
図1、3等により説明した実施例よりも減衰作用は大きくなり、それだけ相互干渉抑制効果が大きくなるといえる。
【0031】
用いるワイヤ結線の数、および単独のバンプの数は限定されない。このように本発明の相互干渉抑制構造は、ワイヤ結線のみ、バンプのみ、ワイヤ結線+バンプ、のいずれのパターンであってもよい。また、かかる弾性表面波共振器間の相互干渉抑制構造を用いた加速度センサ自体も、本発明の範囲内である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の弾性表面波共振器間の相互干渉抑制構造、および加速度センサによれば、弾性表面波共振器を不感帯部分と複数の検出部分に配置する加速度センサについて、弾性表面波共振器からの漏れによる他の弾性表面波共振器との相互干渉を、簡易な方法・構成によって十分に抑制することができる。したがって、当該分野および関連する全分野において産業上利用性が高い発明である。
【符号の説明】
【0033】
1、41、51…センサ素子
2、4、42、44、52、54…弾性表面波共振器
3、43、53…基準弾性表面波共振器
9、39、49、59…圧電基板
9a…錘部、 9b…梁部、 9c…支持部
10、310、410、510、610、710…弾性表面波共振器間の相互干渉抑制構造
46、56…ワイヤ結線
47、57…ワイヤ部
81…センサ素子
82、84…弾性表面波共振器
83…基準弾性表面波共振器
89…圧電基板
89a…錘部、 89b…梁部、 89c…支持部
SAW…弾性表面波