(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ヒストグラム生成部は、前記整形された波形の平坦部において少なくとも第1領域及び第2領域の波高値を測定し、前記第1領域と前記第2領域の測定値の差分を前記特徴値として取得する波高値測定部を有し、
前記第1時定数または前記第2時定数は、前記ヒストグラムのピークにおけるエネルギーがゼロ値からずれている場合に、該ピークにおけるエネルギーがゼロ値となるように、ソフトウェア制御により調整される、
ことを特徴とする請求項1に記載のX線分析用信号処理装置。
前記ヒストグラム生成部は、前記整形された波形の平坦部において少なくとも第1領域及び第2領域の波高値を測定し、前記第1領域と前記第2領域の測定値の差分を前記特徴値として取得する波高値測定部を有し、
X線分析用信号処理装置は、さらに、前記ヒストグラムのピークにおけるエネルギーがゼロ値からずれている場合に、該ずれを表す情報を出力する出力部と、ユーザが前記ずれを表す情報に基づいて前記第1時定数または前記第2時定数を調整する入力部と、を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載のX線分析用信号処理装置。
前記波形整形デジタルフィルタは、前記微分波を階段波に整形した上で、前記階段波を第3時定数を用いて微分し、さらに、少なくとも1回積分してガウシアン波に整形し、
前記波高値測定部は、前記ガウシアン波の底部の平坦部において、前記第1領域と前記第2領域の波高値の差分を測定し、該差分を前記特徴値として取得する、
ことを特徴とする請求項2または3に記載のX線分析用信号処理装置。
前記波形整形デジタルフィルタは、前記微分波を階段波に整形した上で、前記階段波を第3時定数を用いて微分し、さらに、少なくとも1回積分してガウシアン波に整形し、
前記波高値測定部は、前記ガウシアン波のピークを含む第1領域と、ピーク位置の前またはピーク位置の後の平坦部の第2領域と、の波高値の差分を前記ピーク値として測定し、前記特徴値として取得する、
ことを特徴とする請求項8または9に記載のX線分析用信号処理装置。
前記波高値測定部は、さらに、前記整形された波形に含まれる立ち上がりエッジを挟んで、少なくとも2か所の領域の波高値の差分を測定し、X線エネルギーとして取得することを特徴とする請求項2乃至14のいずれかに記載のX線分析用信号処理装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献5によれば、補正に用いる時定数の選択は、数10個(平均16個)の信号波形を用いた評価に基づいて行われる。この場合、評価に用いる信号波形の数が少なく十分な統計精度が得られないため、補正の精度が低い。また、異なる時定数を用いて台形波を96通り算出する為、演算の負担が大きく、補正に時間がかかってしまう。さらに、時定数評価用に専用の測定試料を用意し、装置の測定条件を決める必要もある。
【0010】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、時定数の補正を高精度に行えるとともに、当該補正するための調整作業が簡易かつ迅速にできるX線分析用信号処理装置及びX線分析用信号処理装置の調整方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載のX線分析用信号処理装置は、X線検出器から出力された信号を、第1時定数を用いてアナログ信号である微分波に変換する微分回路と、前記アナログ信号である微分波をデジタル信号である微分波に変換するAD変換器と、第2時定数を用いて、前記デジタル信号である微分波を整形する波形整形デジタルフィルタと、整形された波形の少なくとも2か所の領域の波高値に基づいて、前記整形された波形の特徴値を取得し、前記特徴値毎の取得頻度を表すヒストグラムを生成するヒストグラム生成部と、を有することを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載のX線分析用信号処理装置は、請求項1に記載のX線分析用信号処理装置において、前記ヒストグラム生成部は、前記整形された波形の平坦部において少なくとも第1領域及び第2領域の波高値を測定し、前記第1領域と前記第2領域の測定値の差分を前記特徴値として取得する波高値測定部を有し、前記第1時定数または前記第2時定数は、前記ヒストグラムのピークにおけるエネルギーがゼロ値からずれている場合に、該ピークにおけるエネルギーがゼロ値となるように、ソフトウェア制御により調整される、ことを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載のX線分析用信号処理装置は、請求項1に記載のX線分析用信号処理装置において、前記ヒストグラム生成部は、前記整形された波形の平坦部において少なくとも第1領域及び第2領域の波高値を測定し、前記第1領域と前記第2領域の測定値の差分を前記特徴値として取得する波高値測定部を有し、X線分析用信号処理装置は、さらに、前記ヒストグラムのピークにおけるエネルギーがゼロ値からずれている場合に、該ずれを表す情報を出力する出力部と、ユーザが前記ずれを表す情報に基づいて前記第1時定数または前記第2時定数を調整する入力部と、を有する、ことを特徴とする。
【0014】
請求項4に記載のX線分析用信号処理装置は、請求項2または3に記載のX線分析用信号処理装置において、前記波形整形デジタルフィルタは、前記微分波を階段波に整形し、前記波高値測定部は、前記階段波に含まれる立ち上がりエッジの後の平坦部において、前記第1領域及び前記第2領域の波高値の差分を測定し、前記特徴値として取得する、ことを特徴とする。
【0015】
請求項5に記載のX線分析用信号処理装置は、請求項2または3に記載のX線分析用信号処理装置において、前記波形整形デジタルフィルタは、前記微分波を階段波に整形した上で、所定の時間間隔を有する2か所の領域の波高値の差分に基づいて前記階段波を台形波に整形し、前記波高値測定部は、前記台形波の頂部または底部のいずれか一方の平坦部において、前記第1領域と前記第2領域の波高値の差分を測定し、該差分を前記特徴値として取得する、ことを特徴とする。
【0016】
請求項6に記載のX線分析用信号処理装置は、請求項2または3に記載のX線分析用信号処理装置において、前記波形整形デジタルフィルタは、前記微分波を階段波に整形した上で、隣接する2か所の領域の波高値の差分に基づいて前記階段波を三角波に整形し、前記波高値測定部は、前記三角波の底部の平坦部において、前記第1領域と前記第2領域の波高値の差分を測定し、該差分を前記特徴値として取得する、ことを特徴とする。
【0017】
請求項7に記載のX線分析用信号処理装置は、請求項2または3に記載のX線分析用信号処理装置において、前記波形整形デジタルフィルタは、前記微分波を階段波に整形した上で、前記階段波を第3時定数を用いて微分し、さらに、少なくとも1回積分してガウシアン波に整形し、前記波高値測定部は、前記ガウシアン波の底部の平坦部において、前記第1領域と前記第2領域の波高値の差分を測定し、該差分を前記特徴値として取得する、ことを特徴とする。
【0018】
請求項8に記載のX線分析用信号処理装置は、請求項1に記載のX線分析用信号処理装置において、前記ヒストグラム生成部は、前記整形された波形に含まれるピーク値またはステップ高さを測定し、前記特徴値として取得する波高値測定部を有し、前記第1時定数または前記第2時定数は、前記ヒストグラムのピークにおけるエネルギーが所定値からずれている場合に、該ピークにおけるエネルギーが前記所定値となるように、ソフトウェア制御により調整される、ことを特徴とする。
【0019】
請求項9に記載のX線分析用信号処理装置は、請求項1に記載のX線分析用信号処理装置において、前記ヒストグラム生成部は、前記整形された波形に含まれるピーク値またはステップ高さを測定し、前記特徴値として取得する波高値測定部を有し、X線分析用信号処理装置は、さらに、前記ヒストグラムのピークにおけるエネルギーが所定値からずれている場合に、該ずれを表す情報を出力する出力部と、ユーザが前記ずれを表す情報に基づいて前記第1時定数または前記第2時定数を調整する入力部と、を有する、ことを特徴とする。
【0020】
請求項10に記載のX線分析用信号処理装置は、請求項8または9に記載のX線分析用信号処理装置において、前記波形整形デジタルフィルタは、前記微分波を階段波に整形し、前記波高値測定部は、前記階段波に含まれる立ち上がりエッジを挟む第1領域及び第2領域の波高値の差分を前記ステップ高さとして測定し、前記特徴値として取得する、ことを特徴とする。
【0021】
請求項11に記載のX線分析用信号処理装置は、請求項8または9に記載のX線分析用信号処理装置において、前記波形整形デジタルフィルタは、前記微分波を階段波に整形した上で、所定の時間間隔を有する2か所の領域の波高値の差分に基づいて前記階段波を台形波に整形し、前記波高値測定部は、前記台形波の頂部の第1領域と、立ち上がりエッジの前または立ち下がりエッジの後の平坦部の第2領域と、の波高値の差分を前記ステップ高さとして測定し、前記特徴値として取得する、ことを特徴とする。
【0022】
請求項12に記載のX線分析用信号処理装置は、請求項8または9に記載のX線分析用信号処理装置において、前記波形整形デジタルフィルタは、前記微分波を階段波に整形した上で、隣接する2か所の領域の波高値の差分に基づいて前記階段波を三角波に整形し、前記波高値測定部は、前記三角波のピークを含む第1領域と、ピーク位置の前またはピーク位置の後の平坦部の第2領域と、の波高値の差分を前記ピーク値として測定し、前記特徴値として取得する、ことを特徴とする。
【0023】
請求項13に記載のX線分析用信号処理装置は、請求項8または9に記載のX線分析用信号処理装置において、前記波形整形デジタルフィルタは、前記微分波を階段波に整形した上で、前記階段波を第3時定数を用いて微分し、さらに、少なくとも1回積分してガウシアン波に整形し、前記波高値測定部は、前記ガウシアン波のピークを含む第1領域と、ピーク位置の前またはピーク位置の後の平坦部の第2領域と、の波高値の差分を前記ピーク値として測定し、前記特徴値として取得する、ことを特徴とする。
【0024】
請求項14に記載のX線分析用信号処理装置は、請求項2乃至13のいずれかに記載のX線分析用信号処理装置において、前記微分回路は、コンデンサと可変抵抗器を含み、前記第1時定数は、前記可変抵抗器によって調整される、ことを特徴とする。
【0025】
請求項15に記載のX線分析用信号処理装置は、請求項2乃至14のいずれかに記載のX線分析用信号処理装置において、前記波高値測定部は、さらに、前記整形された波形に含まれる立ち上がりエッジを挟んで、少なくとも2か所の領域の波高値の差分を測定し、X線エネルギーとして取得することを特徴とする。
【0026】
請求項16に記載のX線分析用信号処理装置の調整方法は、X線検出器から出力された信号を、第1時定数を用いてアナログ信号である微分波に変換する工程と、前記アナログ信号である微分波をデジタル信号である微分波に変換する工程と、第2時定数を用いて、前記デジタル信号である微分波を整形する工程と、整形された波形の少なくとも2か所の領域の波高値に基づいて、前記整形された波形の特徴値を取得し、前記特徴値毎の取得頻度を表すヒストグラムを生成する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
請求項1乃至7及び15に記載の発明によれば、波形整形の補正を高精度に行えるとともに、当該補正を行うための調整作業が簡易かつ迅速にできる。
【0028】
また、請求項8乃至13に記載の発明によれば、通常のX線エネルギーを測定する機構と時定数を調整するために波高値を測定する機構を共有することにより、装置を簡易にすることができる。
【0029】
また、請求項14に記載の発明によれば、アナログ回路の時定数が調整される。それにより、X線分析装置運用時にX線検出器を交換する必要が生じた際に、X線検出器と共に時定数が波形整形デジタルフィルタに合わせてすでに調整されたアナログ回路基板を差し替えることができ、X線分析装置の較正作業が簡易になる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
[第1の実施形態]
以下、本発明を実施するための好適な実施の形態(以下、実施形態という)を説明する。
図1は、本発明に係るX線分析用信号処理装置100を概略的に示す図である。X線分析用信号処理装置100は、X線検出器102と、プリアンプ104と、微分回路106と、AD変換器108と、デジタル信号処理部110と、を含む。
【0032】
X線検出器102は、試料から出射された特性X線等を電気信号に変換する。X線検出器102は、従来技術と同様である為、詳細な説明は省略する。
【0033】
プリアンプ104は、X線検出器102から出力された信号を増幅する増幅器である。具体的には、プリアンプ104は、X線検出器102が出力した電気信号を増幅する。プリアンプ104が出力する信号は、アナログ信号である階段波である。当該階段波の各段がX線を検出していることを示し、段差の高さは検出されたX線のエネルギーの大きさと比例する。
【0034】
微分回路106は、X線検出器102から出力された信号を、時定数(以下第1時定数とする)を用いてアナログ信号である微分波に変換する。具体的には、例えば、微分回路106は、プリアンプ104を経て増幅された階段波である信号を、
図2(a)に示すような形状の波形に変換する。このように階段波を微分波に変換することで、AD変換器108のダイナミックレンジを広くとることができる。
【0035】
微分回路106は、例えば、コンデンサ112と可変抵抗器114を含んで構成される。微分回路106の第1時定数は、コンデンサ112の静電容量と可変抵抗器114の抵抗値の積で表される。微分された信号の減衰速度は、当該第1時定数に応じて定まる。
図2(a)に示す2種の波形は、調整後の第1時定数に基づいて生成された調整後の微分波202と、調整前の第1時定数に基づいて生成された調整前の微分波204と、を示す。第1時定数の調整は、可変抵抗器114の抵抗値を変化させることによって調整される。
【0036】
なお、コンデンサ112を可変容量コンデンサとし、可変容量コンデンサの静電容量の大きさを変化させることで第1時定数の調整を行うこととしてもよい。なお、
図1に示した微分回路106は一例であり、例えばオペアンプを用いた他の構成によって実現されてもよい。
【0037】
AD変換器108は、アナログ信号である微分波をデジタル信号である微分波に変換する。具体的には、AD変換器108は、微分回路106が出力したアナログ信号である微分波を、後段のデジタル信号処理部110が処理できるデジタル信号に変換する。
【0038】
デジタル信号処理部110は、微分波に対して、微分回路106の時定数に応じて生じた減衰を除去するための処理や、測定した波高値に応じた弁別処理等を行う。デジタル信号処理部110は、波形整形デジタルフィルタ116と、波高値測定部118を含むヒストグラム生成部119と、ヒストグラムメモリ120と、を含んで構成される。
【0039】
波形整形デジタルフィルタ116は、第2時定数を用いて、デジタル信号である微分波の整形を行う。第1の実施形態においては、波形整形デジタルフィルタ116は、微分波を階段波に整形する。なお、波形を整形する方法は、台形波、三角波、ガウシアン波などの関数波に整形する方法であってもよい。
【0040】
波形整形デジタルフィルタ116は、波形整形の初段の処理として第2時定数を用いて、
図2(a)に示すような微分波を、
図2(b)に示すような階段波に整形する。ここで、第1時定数が、第2時定数に応じて調整された値となっている場合、整形された調整後の階段波206は、立ち上がりエッジの後側が平坦となる。一方、第1時定数が調整されていない場合、整形された調整前の階段波208は、立ち上がりエッジの後側に傾きを有する。例えば、
図2(a)に示すように、第1時定数が小さい場合、調整前の微分波204の減衰速度が速くなる。当該調整前の微分波204から整形された調整前の階段波208は、立ち上がりエッジの後側が負の傾きを有する形状となる。
【0041】
ヒストグラム生成部119は、整形された波形の少なくとも2か所の領域の波高値に基づいて、整形された波形の特徴値を取得し、特徴値毎の取得頻度を表すヒストグラムを生成する。具体的には、ヒストグラム生成部119は、波形整形デジタルフィルタ116が整形した波形に基づいて、当該波形の平坦部における傾きを表す特徴値毎の取得頻度を表すヒストグラムを生成する。
【0042】
波高値測定部118は、整形された波形の平坦部において少なくとも第1領域212及び第2領域216の波高値を測定し、第1領域212と第2領域216の測定値の差分を特徴値として取得する。具体的には、波高値測定部118は、階段波に含まれる立ち上がりエッジの後の平坦部において、第1領域212及び第2領域216の波高値の差分を測定し、特徴値として取得する。例えば、
図2(b)に示すように、波高値測定部118は、立ち上がりエッジから第1時間210経過した時点から、一定の期間(第1領域212)の波高値の平均値を算出する。
【0043】
また、波高値測定部118は、立ち上がりエッジから第2時間214経過した時点から、一定の期間(第2領域216)の波高値の平均値を算出する。さらに、波高値測定部118は、第1領域212の波高値の平均値と、第2領域216の波高値の平均値と、の差分を測定する。波高値測定部118は、例えば、波高値を10eV毎のエネルギー値に換算して弁別するマルチチャンネルアナライザーである。なお、第1領域212と第2領域216は、所定の時間間隔を有して設定されてもよいし、隣接して設定されてもよい。
【0044】
なお、第1時間210は、例えば6.6μsである。また、第2時間214は、第1領域212と第2領域216が重複しないように、第1時間210よりも短く設定される。第1時間210と第2時間214は第1領域212と第2領域216が隣接するように設定されてもよい。そして、波高値測定部118は、第1領域212における波高値の平均値から、第2領域216における波高値の平均値を差し引き、当該差分を特徴値として出力する。
【0045】
波高値測定部118は、デジタル信号処理部110に予め設定された閾値より大きい立ち上がりエッジを有する波形が入力される度に、特徴値を取得する。ヒストグラム生成部119は、波高値測定部118が取得した複数の特徴値に基づいて、特徴値毎の取得頻度を表すヒストグラム(
図3及び5等参照)を生成する。
【0046】
なお、本実施形態においては、第1領域212と第2領域216の波高値が測定されるが、波高値測定部118は、立ち上がりエッジより後の期間において、より多くの領域の波高値を測定し、各領域間の差分を算出してもよい。
【0047】
また、波高値測定部118は、所定の時間間隔を有し、かつ、整形された波形に含まれる立ち上がりエッジを挟んで、少なくとも2か所の領域の波高値の差分を測定し、X線エネルギー122として出力するようにしてもよい。具体的には、第1領域212は、立ち上がりエッジから所定の期間を経過した時点から一定の期間とする。また、第2領域216は、立ち上がりエッジから所定時間遡った時点から一定の期間とする。そして、波高値測定部118は、第1領域212における波高値の平均値から、第2領域216における波高値の平均値を差し引き、当該差分をX線エネルギー122として出力する。これにより、単に第1領域212と第2領域216の設定されるタイミングを変化させるだけで、試料から放出されたX線のエネルギーを測定することができる。従って、新たな構成を付加することなく、本発明に係るX線分析用信号処理装置100は、第1時定数または第2時定数の調整と、試料の分析と、を行うことができる。
【0048】
ヒストグラムメモリ120は、特徴値毎の取得頻度を表すヒストグラムを記憶する。具体的には、ヒストグラムメモリ120は、所定の期間にわたって、測定された上記差分を記憶する。
【0049】
第1時定数または第2時定数は、ヒストグラムのピークにおけるエネルギーがゼロ値となるように調整される。例えば、第1時定数または第2時定数は、ヒストグラムのピークにおけるエネルギーがゼロ値からずれている場合に、該ピークにおけるエネルギーがゼロ値となるように、ソフトウェア制御により調整される。具体的には、X線分析用信号処理装置100は、ヒストグラムのピークにおけるエネルギー値に応じて、後述する可変抵抗器114の抵抗値の大きさを制御する制御部(図示なし)を有する。第1時定数または第2時定数は、制御部によって、ピークにおけるエネルギーがゼロ値となるように調整される。
【0050】
また、第1時定数または第2時定数は、ユーザーによって手動により調整されてもよい。具体的には、例えば、X線分析用信号処理装置100は、さらに、ヒストグラムのピークにおけるエネルギーがゼロ値からずれている場合に、該ずれを表す情報を出力する出力部と、ユーザが当該ずれを表す情報に基づいて第1時定数または第2時定数を調整する入力部と、を有する構成としてもよい。出力部は、例えばヒストグラムを表示する表示部である。入力部は、例えば可変抵抗器114の抵抗を調整するためのつまみである。ユーザは、表示部に表示されたヒストグラムを見ながら可変抵抗の抵抗の大きさを変化させてもよい。
【0051】
図3は、ヒストグラムメモリ120が記憶するヒストグラムを表す図である。第1時定数が第2時定数の値に応じて調整されている場合は、整形された調整後の階段波206の立ち上がりエッジ後は平坦である。当該平坦な領域に設定された第1領域212と第2領域216における波高値の差分には、電気的ノイズ等による計測エネルギーの揺らぎが含まれるが、ヒストグラムの分布の中心はゼロ値となるのが理想である。従って、この場合、調整後のヒストグラム302は、エネルギーがゼロである位置にピークを有する。
【0052】
一方、第1時定数が第2時定数の値に応じて調整されていない場合は、整形された調整前の階段波208は、立ち上がりエッジ後に傾きを有する。当該立ち上がりエッジ後の領域において第1領域212と第2領域216が設定され、特徴値が算出された場合、特徴値は一定の値を有する。従って、調整前のヒストグラム304は、エネルギーがゼロである位置からシフトした位置にピークを有する。
【0053】
従って、上記ヒストグラムのピークの位置が、エネルギーがゼロである位置となるように第1時定数または第2時定数を調整することによって、高精度な調整をすることが可能となる。
【0054】
続いて、X線分析用信号処理装置100の調整方法について説明する。
図4は、第1時定数を調整する過程を示すフロー図である。
【0055】
まず、第1時定数が初期値に設定される(S402)。具体的には、微分回路106の可変抵抗器114の抵抗値が初期値に設定される。なお、本実施形態では、第2時定数は固定であるが、以下の工程において、第1時定数の代わりに第2時定数を変更してもよい。
【0056】
続いて、X線分析装置は、測定を開始する(S404)。具体的には、X線源(図示なし)には、例えばFe55等の密閉線源を使用し、その放射線を直接X線検出器102に照射する。密閉線源の代わりにX線管を使用し、較正用の試料に対してX線を照射し、試料から放出されるX線をX線検出器102で検出してもよい。また、X線分析装置は、設定された測定時間の間、測定を行う。X線検出器102は、X線が入射すると階段波である信号を出力する。X線検出器102から出力された信号は、第1時定数を用いてアナログ信号である微分波に変換される。さらに、アナログ信号である微分波は、デジタル信号である微分波に変換される。
【0057】
波形整形デジタルフィルタ116は、予め設定された閾値より大きい立ち上がりエッジを有する波形が入力された場合、すなわちX線が検出された場合(S406)、第2時定数を用いて、デジタル信号である微分波を整形する(S408)。X線が検出されない場合、測定時間が予め設定された時間に達するまで、測定が継続される。
【0058】
波高値測定部118は、整形された波形の少なくとも2か所の領域の波高値を測定し、特徴値として取得する(S410)。具体的には、例えば波高値測定部118は、第1領域212の波高値の平均値と第2領域216の波高値の平均値の差分を特徴値として取得する。
【0059】
ヒストグラムメモリ120は、算出された差分を特徴値として、ヒストグラムに追加して記憶する(S412)。この時点で測定時間が予め設定された時間に達していなければ、再度S406へ進む。
【0060】
測定時間が予め設定された時間に達した場合(S414)、ピークの位置が、エネルギーがゼロである位置の近傍にあるか否かに基づいて、時定数の合否判定が行われる(S416)。S404乃至S414の工程により、ヒストグラム生成部119は、整形された波形の少なくとも2か所の領域の波高値に基づいて、整形された波形の特徴値を取得し、特徴値毎の取得頻度を表すヒストグラムを生成する。測定時間は、例えば10秒である。当該判定は、ユーザが行ってもよいし、ソフトウェア制御によって行われてもよい。例えば、X線分析用信号処理装置100に含まれる制御部(図示なし)は、ヒストグラムのピークのエネルギーが、0keV±2eVであれば合格と判定する。合格と判定された場合、調整作業は終了する。
【0061】
一方、不合格と判定された場合(S418)、制御部は、波形に含まれる立ち上がりエッジの後の平坦部における波高値の変化を抑制するよう第1時定数または第2時定数を調整する。本実施形態では、第1時定数は、ヒストグラムのピークにおけるエネルギーに応じて調整される。
【0062】
例えば、ヒストグラムのピークが、エネルギーがゼロである位置より大きい位置にある場合、第1時定数は適正な値よりも大きい値である。従って、第1時定数を小さくするため、微分回路106の可変抵抗の抵抗値は小さくされる(S420)。一方、ヒストグラムのピークが、エネルギーがゼロである位置より小さい位置にある場合、第1時定数は適正な値よりも小さい値である。従って、第1時定数を大きくするため、微分回路106の可変抵抗の抵抗値は大きくされる(S422)。
【0063】
上記のように、当該可変抵抗の抵抗値を変化させる工程は、ユーザが行ってもよいし、ソフトウェア制御によってX線分析用信号処理装置100が制御するようにしてもよい。ユーザが当該作業を行う場合、ユーザがX線分析装置の出力部であるディスプレイに表示されたヒストグラムを見ながら可変抵抗器114の抵抗値を変化させることで、調整作業が行われる。
【0064】
一方、ソフトウェア制御によってX線分析用信号処理装置100が制御する場合、X線分析用信号処理装置100は、ヒストグラムのピークのエネルギーに基づいてフィードバック制御を行ってもよい。具体的には、ヒストグラムのピークが、エネルギーがゼロである位置より小さい位置にある場合、X線分析用信号処理装置100は、可変抵抗器114の抵抗値を、所定の大きさだけ増加させるようにしてもよい。また、ヒストグラムのピークが、エネルギーがゼロである位置より大きい位置にある場合、X線分析用信号処理装置100は、可変抵抗器114の抵抗値を、所定の大きさだけ減少させるようにしてもよい。なお、ソフトウェア制御によって時定数を調整する場合、可変抵抗器114として例えばデジタルポテンショメータが用いられる。
【0065】
時定数が変更された場合、ヒストグラムメモリ120が記憶するヒストグラムのデータは、消去される(S424)。その後、再度S404へ進み、再度測定を行う。上記調整作業が繰り返し行われ、最終的にヒストグラムのピークにおけるエネルギーがゼロ値の近傍となるように調整される。
図5に実際のヒストグラムを示す。
【0066】
以上の工程により、整形後の階段波を平坦にすることが出来る。上記のように測定時間を10秒とすれば、調整に要する測定回数は3回から4回であるため、30秒から40秒で調整することができる。また、測定時間を設定せず、一定時間より前のヒストグラムのデータを順次消去しながら調整してもよい。このように時定数を調整することにより、測定されるX線のエネルギーの精度を向上することができる。
【0067】
上記においては、第1時定数または第2時定数は、階段波の平坦な領域における傾きを小さくすることによって調整する場合について説明したが、本発明の実施形態はこれに限られない。例えば、エネルギーが既知の放射線、または予め元素が既知である標準試料を用いて、ヒストグラムのピーク値が既知のエネルギーとなるように、第1時定数または第2時定数が調整されてもよい。以下、第1の実施形態の変形例について説明する。
【0068】
本変形例においては、波形整形デジタルフィルタ116は、上記と同様、微分波を階段波に整形する。波高値測定部118は、整形された波形に含まれるピーク値またはステップ高さを測定し、上記特徴値として取得する。具体的には、波高値測定部118は、階段波に含まれる立ち上がりエッジを挟む第1領域212と第2領域216の波高値の差分をステップ高さとして測定し、上記特徴値として取得する。第1時定数または第2時定数は、ヒストグラムのピークにおけるエネルギーが所定値からずれている場合に、該ピークにおけるエネルギーが所定値となるように調整される。
【0069】
具体的には、まず、X線源は、X線検出器102に対してエネルギーが既知のX線の照射を開始する。
図6(a)は、照射されたX線に基づいて検出された調整前の微分波204と、調整後の微分波202である。
【0070】
図6(b)に示すように第1領域212は、立ち上がりエッジから第1時間210を経過した時点から一定の期間である。第2領域216は、立ち上がりエッジから第2時間214遡った時点から一定の期間である。なお、第1時間210と第2時間214は第1領域212と第2領域216が隣接するように設定されてもよい。波高値測定部118は、第1領域212における波高値の平均値から、第2領域216における波高値の平均値を差し引き、当該差分を特徴値として出力する。
【0071】
図7は、本変形例において、上記と同様の方法により、生成されたヒストグラムを表す図である。第1時定数が第2時定数の値に応じて調整されている場合は、整形された調整後の階段波206の立ち上がりエッジ後は平坦である。また、前回のX線検出による立ち上がりエッジ(図示せず)から同じ時定数で減衰している立ち上がりエッジ前の領域も、第1時定数が同様に処理されているため、平坦である。
【0072】
よって、立ち上がりエッジの後に設定された第1領域212と、立ち上がりエッジの前に設定された第2領域216における波高値の差分は、既知のエネルギー値(AkeV)となることが理想である。従って、この場合、調整後のヒストグラム302は、エネルギーAkeVにピークを有するヒストグラムが生成される。なお、本変形例では、X線源によっては複数のピークが観測される事もあるが、説明を簡単にするため、
図7にはそのうちの1つのピークを記載している。
【0073】
一方、第1時定数が第2時定数の値に応じて調整されていない場合は、整形された調整前の階段波208は、立ち上がりエッジ後に傾きを有する。また、立ち上がりエッジ前にも傾きを有し(図示せず)、前回の立ち上がりエッジから次の立ち上がりエッジまでの時間は一定でない。そのため、第1領域212と第2領域216の波高値の差分は、例えば標準試料の元素に固有の既知のエネルギー値(AkeV)と異なる。従って、この場合、調整前のヒストグラム304は、エネルギーAkeVからシフトした位置にピークを有するヒストグラムが生成される。
【0074】
本変形例によれば、第1時定数または第2時定数を調整する際に用いる構成と、X線エネルギーを測定する為に必要な構成を共有することができる。これにより、X線分析用信号処理装置100を簡易な構成とすることができる。
【0075】
なお、本変形例においても、第1領域212と第2領域216の波高値が測定されるが、波高値測定部118は、より多くの領域の波高値を測定し、各領域間の差分を算出してもよい。また、第1時定数または第2時定数は、ヒストグラムのピークにおけるエネルギーが所定値からずれている場合に、該ピークにおけるエネルギーが所定値となるように、ソフトウェア制御により調整されるようにしてもよい。さらに、X線分析用信号処理装置100は
、上記と同様の出力部及び入力部を有し、ユーザが手動により第1時定数または第2時定数を調整する構成としてもよい。
【0076】
また、本変形例においては、ヒストグラムにおけるピークの半値幅が最小とな
るように、第1時定数または第2時定数が調整されてもよい。具体的には、予め複数の第1時定数を用いて、上記のヒストグラムを複数作成する。そして、当該複数のヒストグラムの内、最も半値幅が小さくなるヒストグラムと対応する第1時定数を調整後の第1時定数としてもよい。当該方法によれば、エネルギーが既知ではないX線を用いて時定数の調整を行うことができる。
【0077】
[第2の実施形態]
続いて、第2の実施形態について説明する。なお、第2乃至第4の実施形態においては、第1の実施形態と同様の構成については説明を省略する。
【0078】
第2の実施形態において、波形整形デジタルフィルタ116は、微分波を階段波に整形した上で、所定の時間間隔を有する2か所の領域800の波高値の差分に基づいて階段波を台形波に整形する。
【0079】
具体的には、第1の実施形態と同様に、波形整形デジタルフィルタ116は、第2時定数を用いて、デジタル信号である微分波の整形を行う。これにより、
図8(a)に示すように、微分波は、階段波に整形される。
【0080】
続いて、波形整形デジタルフィルタ116は、
図8(a)に示す所定の時間間隔を有する2か所の領域800の波高値の平均値をそれぞれ算出する。ここで、当該2か所の領域800は、所定の時間間隔を保ったまま立ち上がりエッジの前から後ろにかけて移動される。すなわち、波形整形デジタルフィルタ116は、当該2か所の領域800における移動平均をそれぞれ算出する。さらに、波形整形デジタルフィルタ116は、各時点における2か所の領域800の波高値の平均値の差分を算出する。これにより、
図8(b)に示すように、階段波は、台形波に整形される。
【0081】
波高値測定部118は、台形波の頂部または底部のいずれか一方の平坦部において、第1領域212と第2領域216の波高値の差分を測定し、該差分を上記特徴値として取得する。具体的には、例えば
図8(b)に示すように、第1領域212は、台形波の立ち上がりエッジの前に設定される。また、第2領域216は、台形波の立ち下がりエッジの後に設定される。この場合、波高値測定部118は、立ち上がりエッジから第1時間210遡った時点から、一定の期間(第1領域212)の波高値の平均値を算出する。また、波高値測定部118は、立ち上がりエッジから第2時間214経過した時点から、一定の期間(第2領域216)の波高値の平均値を算出する。さらに、波高値測定部118は、第1領域212の波高値の平均値と、第2領域216の波高値の平均値と、の差分を測定し、特徴値として取得する。
【0082】
なお、例えば
図8(c)に示すように、第1領域212及び第2領域216は、いずれも台形波の立ち上がりエッジの後であって立ち下がりエッジの前の平坦部に設定されてもよい。この場合、波高値測定部118は、立ち上がりエッジから第1時間210経過した時点から、一定の期間(第1領域212)の波高値の平均値を算出する。また、波高値測定部118は、立ち上がりエッジから第2時間214経過した時点から、一定の期間(第2領域216)の波高値の平均値を算出する。
【0083】
また、例えば
図8(d)に示すように、第1領域212及び第2領域216は、いずれも台形波の立ち下がりエッジの後の平坦部に設定されてもよい。この場合、波高値測定部118は、立ち上がりエッジから第1時間210経過した時点から、一定の期間(第1領域212)の波高値の平均値を算出する。また、波高値測定部118は、立ち上がりエッジから第2時間214経過した時点から、一定の期間(第2領域216)の波高値の平均値を算出する。
【0084】
さらに、例えば
図9(a)に示すように、第1領域212及び第2領域216は、いずれも台形波の立ち上がりエッジの前の平坦部に設定されてもよい。この場合、波高値測定部118は、立ち上がりエッジから第1時間210遡った時点から、一定の期間(第1領域212)の波高値の平均値を算出する。また、波高値測定部118は、立ち上がりエッジから第2時間214遡った時点から、一定の期間(第2領域216)の波高値の平均値を算出する。
【0085】
図8(a)に示す階段波の立ち上がりエッジの後が平坦であれば、台形波の頂部または立ち下がりエッジの後も平坦となる。従って、当該ヒストグラムのピークにおけるエネルギーは、ゼロ値となるのが理想である。しかしながら、例えば、第1時定数が第2時定数よりも小さい場合、階段波は、立ち上がりエッジの後に傾きを有する形状となる。この場合、
図9(b)に示すように、台形波は、頂部または立ち下がりエッジの後に傾きを有する形状となる。なお、
図8(b)乃至
図9(a)において、第1領域212と第2領域216の位置は、入れ替えてもよい。
【0086】
従って、第1の実施形態と同様に、上記ヒストグラムのピークの位置が、エネルギーがゼロである位置となるように第1時定数または第2時定数を調整することによって、高精度な調整をすることが可能となる。
【0087】
第2の実施形態においても、第1の実施形態の変形例と同様、エネルギーが既知の放射線、または予め元素が既知である標準試料を用いて、ヒストグラムのピーク値が既知のエネルギーとなるように、第1時定数または第2時定数が調整されてもよい。
【0088】
上記と同様に、波形整形デジタルフィルタ116は、微分波を階段波に整形した上で、所定の時間間隔を有する2か所の領域800の波高値の差分に基づいて階段波を台形波に整形する。
【0089】
波高値測定部118は、台形波の頂部の第1領域212と、立ち上がりエッジの前または立ち下がりエッジの後の平坦部の第2領域216と、の波高値の差分をステップ高さとして測定し、当該ステップ高さを特徴値として取得する。
【0090】
具体的には、
図9(c)に示すように、第1領域212は、立ち上がりエッジから第1時間210を経過した時点から一定の期間であって、台形波の頂部に設定された領域である。第2領域216は、立ち上がりエッジから第2時間214遡った時点から一定の期間であって、台形波の立ち上がりエッジより前に設定された領域である。波高値測定部118は、第1領域212における波高値の平均値から、第2領域216における波高値の平均値を差し引き、当該差分を特徴値として取得する。
【0091】
また、
図9(d)に示すように、第2領域216は、立ち上がりエッジから第2時間214経過した時点から一定の期間であって、台形波の立ち下がりエッジより後に設定された領域であってもよい。この場合においても、波高値測定部118は、第1領域212における波高値の平均値から、第2領域216における波高値の平均値を差し引き、当該差分を特徴値として取得する。
【0092】
当該変形例においても、第1の実施形態における変形例と同様に、上記ステップ高さは、既知のX線のエネルギー値(AkeV)となることが理想である。従って、調整後のヒストグラム302が、エネルギーAkeVにピークを有するように、第1時定数または第2時定数が調整されてもよい。
【0093】
[第3の実施形態]
続いて、第3の実施形態について説明する。第3の実施形態において、波形整形デジタルフィルタ116は、微分波を階段波に整形した上で、隣接する2か所の領域800の波高値の差分に基づいて階段波を三角波に整形する。
【0094】
具体的には、第1の実施形態と同様に、波形整形デジタルフィルタ116は、第2時定数を用いて、デジタル信号である微分波の整形を行う。これにより、
図10(a)に示すように、微分波は、階段波に整形される。
【0095】
続いて、波形整形デジタルフィルタ116は、
図10(a)に示す隣接する2か所の領域800の波高値の平均値をそれぞれ算出する。第3の実施形態における2か所の領域800は隣接する点が、第2の実施形態と異なる。当該2か所の領域800は、立ち上がりエッジの前から後ろにかけて移動される。すなわち、波形整形デジタルフィルタ116は、当該2か所の領域800における移動平均をそれぞれ算出する。さらに、波形整形デジタルフィルタ116は、各時点における2か所の領域800の波高値の平均値の差分を算出する。これにより、
図10(b)に示すように、階段波は、三角波に整形される。
【0096】
波高値測定部118は、三角波の底部の平坦部において、第1領域212と第2領域216の波高値を測定し、該差分を特徴値として取得する。具体的には、例えば
図10(b)に示すように、第1領域212は、三角波のピーク位置の前の平坦部に設定される。また、第2領域216は、三角波のピーク位置の後の平坦部に設定される。この場合、波高値測定部118は、ピーク位置から第1時間210遡った時点から、一定の期間(第1領域212)の波高値の平均値を算出する。また、波高値測定部118は、ピーク位置から第2時間214経過した時点から、一定の期間(第2領域216)の波高値の平均値を算出する。さらに、波高値測定部118は、第1領域212の波高値の平均値と、第2領域216の波高値の平均値と、の差分を測定し、特徴値として取得する。
【0097】
なお、例えば
図10(c)に示すように、第1領域212及び第2領域216は、いずれも三角波のピーク位置の後の平坦部に設定されてもよい。この場合、波高値測定部118は、ピーク位置から第1時間210経過した時点から、一定の期間(第1領域212)の波高値の平均値を算出する。また、波高値測定部118は、ピーク位置から第2時間214経過した時点から、一定の期間(第2領域216)の波高値の平均値を算出する。
【0098】
また、例えば
図10(d)に示すように、第1領域212及び第2領域216は、いずれも三角波のピーク位置の前の平坦部に設定されてもよい。この場合、波高値測定部118は、
ピーク位置から第1時間210遡った時点から、一定の期間(第1領域212)の波高値の平均値を算出する。また、波高値測定部118は、ピーク位置から第2時間214遡った時点から、一定の期間(第2領域216)の波高値の平均値を算出する。なお、
図10(b)乃至
図10(d)において、第1領域212と第2領域216の位置は、入れ替えてもよい。
【0099】
図10(a)に示す階段波の立ち上がりエッジの後が平坦であれば、三角波が立ち下がり切った後の領域も平坦となる。従って、当該ヒストグラムのピークにおけるエネルギーは、ゼロ値となるのが理想である。しかしながら、例えば、第1時定数が第2時定数よりも小さい場合、整形後の波形は、立ち上がりエッジの後に傾きを有する形状となる。この場合、
図11(a)に示すように、三角波は、立ち下がり切った後の領域において傾きを有する形状となる。
【0100】
従って、第1の実施形態と同様に、上記ヒストグラムのピークの位置が、エネルギーがゼロである位置となるように第1時定数または第2時定数を調整することによって、高精度な調整をすることが可能となる。
【0101】
第3の実施形態においても、第1の実施形態の変形例と同様、エネルギーが既知の放射線、または予め元素が既知である標準試料を用いて、ヒストグラムのピーク値が既知のエネルギーとなるように、第1時定数または第2時定数が調整されてもよい。
【0102】
上記と同様に、波形整形デジタルフィルタ116は、微分波を階段波に整形した上で、隣接する2か所の領域800の波高値の差分に基づいて階段波を三角波に整形する。
【0103】
波高値測定部118は、三角波のピークを含む第1領域212とピーク位置の前またはピーク位置の後の平坦部の第2領域216と、の波高値の差分をピーク値として測定し、特徴値として取得する。具体的には、
図11(b)に示すように、第1領域212は、三角波のピーク位置を中心とする一定の期間である。第2領域216は、三角波のピーク位置から第2時間214遡った時点から一定の期間であって、平坦部に設定された領域である。波高値測定部118は、第1領域212における波高値の平均値から、第2領域216における波高値の平均値を差し引き、当該差分をピーク値として測定する。波高値測定部118は、当該ピーク値を特徴値として取得する。
【0104】
また、
図11(c)に示すように、第2領域216は、ピーク位置から第2時間214経過した時点から一定の期間であって、平坦部に設定された領域であってもよい。この場合においても、波高値測定部118は、第1領域212における波高値の平均値から、第2領域216における波高値の平均値を差し引き、当該差分を特徴値として取得する。
【0105】
当該変形例においても、第1の実施形態における変形例と同様に、上記ピーク値は、既知のX線のエネルギー値(AkeV)となることが理想である。従って、調整後のヒストグラム302が、エネルギーAkeVにピークを有するように、第1時定数または第2時定数が調整されてもよい。
【0106】
[第4の実施形態]
続いて、第4の実施形態について説明する。第4の実施形態において、波形整形デジタルフィルタ116は、微分波を階段波に整形した上で、階段波を第3時定数を用いて微分し、さらに、少なくとも1回積分してガウシアン波に整形する。
【0107】
具体的には、第1の実施形態と同様に、波形整形デジタルフィルタ116は、第2時定数を用いて、デジタル信号である微分波の整形を行う。これにより、第3の実施形態と同様、微分波は、階段波に整形される。
【0108】
続いて、波形整形デジタルフィルタ116は、階段波を第3時定数を用いて微分する。これにより、
図12(a)に示すように、階段波は、再度、微分波に整形される。さらに、波形整形デジタルフィルタ116は、当該微分された波形に対して、第3時定数を用いて4回積分する。これにより、
図12(b)に示すように、微分波は、ガウシアン波に整形される。なお、当該整形方法は、CR−(RC)
nと呼ばれる整形方法であり、nは自然数である。積分する回数nは4でなくてもよいが、nを4とすることで整形後の波形がガウシアン波形になることが知られている。
【0109】
波高値測定部118は、ガウシアン波の底部の平坦部において、第1領域212と第2領域216の波高値の差分を測定し、該差分を特徴値として取得する。具体的には、例えば
図12(b)に示すように、第1領域212は、ガウシアン波のピーク位置の前の平坦部に設定される。また、第2領域216は、ガウシアン波のピーク位置の後の平坦部に設定される。この場合、波高値測定部118は、ピーク位置から第1時間210遡った時点から、一定の期間(第1領域212)の波高値の平均値を算出する。また、波高値測定部118は、ピーク位置から第2時間214経過した時点から、一定の期間(第2領域216)の波高値の平均値を算出する。さらに、波高値測定部118は、第1領域212の波高値の平均値と、第2領域216の波高値の平均値と、の差分を測定し、特徴値として取得する。
【0110】
なお、例えば
図12(c)に示すように、第1領域212及び第2領域216は、いずれもガウシアン波のピーク位置の後の平坦部に設定されてもよい。この場合、波高値測定部118は、ピーク位置から第1時間210経過した時点から、一定の期間(第1領域212)の波高値の平均値を算出する。また、波高値測定部118は、ピーク位置から第2時間214経過した時点から、一定の期間(第2領域216)の波高値の平均値を算出する。
【0111】
また、例えば
図12(d)に示すように、第1領域212及び第2領域216は、いずれもガウシアン波のピーク位置の前の平坦部に設定されてもよい。この場合、波高値測定部118は、立ち上がりエッジから第1時間210遡った時点から、一定の期間(第1領域212)の波高値の平均値を算出する。また、波高値測定部118は、ピーク位置から第2時間214遡った時点から、一定の期間(第2領域216)の波高値の平均値を算出する。なお、
図12(b)乃至
図12(d)において、第1領域212と第2領域216の位置は、入れ替えてもよい。
【0112】
階段波の立ち上がりエッジの後が平坦であれば、ガウシアン波が立ち下がり切った後の領域も平坦となる。従って、当該ヒストグラムのピークにおけるエネルギーは、ゼロ値となるのが理想である。しかしながら、例えば、第1時定数が第2時定数よりも小さい場合、整形後の波形は、立ち上がりエッジの後に傾きを有する形状となる。この場合、
図13(a)に示すように、ガウシアン波は、立ち下がり切った後の領域において傾きを有する形状となる。
【0113】
従って、第1の実施形態と同様に、上記ヒストグラムのピークの位置が、エネルギーがゼロである位置となるように第1時定数または第2時定数を調整することによって、高精度な調整をすることが可能となる。
【0114】
第4の実施形態においても、第1の実施形態の変形例と同様、エネルギーが既知の放射線、または予め元素が既知である標準試料を用いて、ヒストグラムのピーク値が既知のエネルギーとなるように、第1時定数または第2時定数が調整されてもよい。
【0115】
上記と同様に、波形整形デジタルフィルタ116は、微分波を階段波に整形した上で、階段波を第3時定数を用いて微分し、さらに、少なくとも1回積分してガウシアン波に整形する。
【0116】
波高値測定部118は、ガウシアン波のピークを含む第1領域212とピーク位置の前またはピーク位置の後の平坦部の第2領域216と、の波高値の差分をピーク値として測定し、特徴値として取得する。具体的には、
図13(b)に示すように、第1領域212は、ガウシアン波のピーク位置を中心とする一定の期間である。第2領域216は、ガウシアン波のピーク位置から第2時間214遡った時点から一定の期間であって、平坦部に設定された領域である。波高値測定部118は、第1領域212における波高値の平均値から、第2領域216における波高値の平均値を差し引き、当該差分をピーク値として測定する。波高値測定部118は、当該ピーク値を特徴値として取得する。
【0117】
また、
図13(c)に示すように、第2領域216は、ピーク位置から第2時間214経過した時点から一定の期間であって、平坦部に設定された領域であってもよい。この場合においても、波高値測定部118は、第1領域212における波高値の平均値から、第2領域216における波高値の平均値を差し引き、当該差分を特徴値として取得する。
【0118】
当該変形例においても、第1の実施形態における変形例と同様に、上記ピーク値は、既知のX線のエネルギー値(AkeV)となることが理想である。従って、調整後のヒストグラム302が、エネルギーAkeVにピークを有するように、第1時定数または第2時定数が調整されてもよい。
【0119】
本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。上記X線分析用信号処理装置100の構成は一例であって、これに限定されるものではない。上記の実施例で示した構成と実質的に同一の構成、同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成する構成で置き換えてもよい。
【0120】
例えば、第2乃至第4の実施形態においても、第1の実施形態と同様に、波高値測定部118は、第1領域212及び第2領域216を含む2か所の領域より多くの領域の波高値を測定し、各領域間の差分を測定してもよい。また、第1時定数または第2時定数は、ソフトウェア制御によって調整されてもよいし、ユーザによって手動で調整されてもよい。さらに、ヒストグラムにおけるピークの半値幅が最小
となるように、第1時定数または第2時定数が調整されてもよい。