特許第6574965号(P6574965)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6574965
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】レンズ保持装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 7/02 20060101AFI20190909BHJP
【FI】
   G02B7/02 A
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-156857(P2015-156857)
(22)【出願日】2015年8月7日
(65)【公開番号】特開2017-37118(P2017-37118A)
(43)【公開日】2017年2月16日
【審査請求日】2018年5月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】391044915
【氏名又は名称】株式会社コシナ
(74)【代理人】
【識別番号】100088579
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 茂
(72)【発明者】
【氏名】奥山 康史
(72)【発明者】
【氏名】大西 智之
【審査官】 井亀 諭
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−031910(JP,A)
【文献】 特開昭58−159509(JP,A)
【文献】 特開2007−188010(JP,A)
【文献】 実開昭60−016110(JP,U)
【文献】 特開平06−018797(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ鏡筒の内部に配したレンズを当該レンズ鏡筒に対して同軸上に位置決めして保持するレンズ保持装置において、前記レンズ鏡筒の内部に形成することにより前記レンズの外周部に隣接する一方の端面が当接する規制部と、前記レンズ鏡筒の内周部に螺合する螺合部を有し、かつ前記規制部に当接したレンズの反対側に位置する他方の端面に当接して当該レンズの光軸方向の位置を固定するとともに、前記螺合部の光軸方向他方側に、周方向に沿って所定間隔おきに配し、かつ径方向の外面側が前記レンズ鏡筒の内周部に圧接する所定の弾性を有する複数の規制片部を設けてなるレンズ固定リングと、前記螺合部の光軸方向一方側に、前記レンズ鏡筒の周方向に沿って所定間隔おきに配し、かつ一端を前記レンズ鏡筒に対して位置を固定し、かつ径方向の内面側が前記レンズの外周部に圧接する所定の弾性を有する複数の保持片部とを備えることを特徴とするレンズ保持装置。
【請求項2】
前記レンズ固定リングは、前記保持片部を一体に有することを特徴とする請求項1記載のレンズ保持装置。
【請求項3】
前記レンズ固定リングと前記レンズ鏡筒は、同一素材により形成することを特徴とする請求項1記載のレンズ保持装置。
【請求項4】
前記保持片部は、前記レンズの外周部に圧接する径方向の内面を傾斜面に形成することを特徴とする請求項1記載のレンズ保持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ鏡筒の内部に配したレンズを当該レンズ鏡筒に対して同軸上に位置決めして保持するレンズ保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、レンズ装置は、レンズ鏡筒の内部に複数のレンズを収容して構成するため、特に、レンズ鏡筒によりレンズが直接保持される場合、レンズ鏡筒の形成素材とレンズの形成素材の熱膨張係数の相違により、使用時の温度環境によってはレンズに無用な応力が付加される問題を生じる。このため、この問題を解決するレンズの保持手段、即ち、レンズに付加される無用な応力を吸収する保持手段も提案されている。
【0003】
従来、このような応力を吸収する保持手段としては、主に、レンズとレンズ鏡筒の間に吸収部材を介在させて保持する方式及びレンズ自体に吸収部を一体に形成して保持する方式が存在する。
【0004】
前者の方式としては、特開平7−191247号公報で開示されるレンズ保持構体が知られている。このレンズ保持構体は、レンズの組み替えを容易にし、レンズ面精度を低下させることなく、熱による変形を吸収して歪みの発生を防止することを目的としたものであり、具体的には、レンズを、レンズの外周に嵌合する保持環およびレンズの外周に嵌合する保持枠により径方向に保持するとともに、保持環が嵌合しているレンズの鍔部を、保持枠のフランジ部と保持枠の上部に螺合している環状のレンズ押えとにより、上下から挟持し、温度変化の激しい環境下で使用した場合、保持枠との線膨張係数の違いにより、レンズの径方向に生じる保持枠に対する変形を、レンズの外周と保持環との間に形成された第1の間隙および第lの接合部と、保持環と保持枠との間に形成された第2の接合部および第2の隙間との働きにより、レンズとほぼ同じ線膨張係数を有する保持環の弾性変形によりレンズの変形を吸収するようにしたものである。
【0005】
また、後者の方式としては、特開2006−178236号公報で開示されるプラスチックレンズが知られている。このプラスチックレンズは、保持時に生じる応力がレンズ本体側に伝わるのを防ぐことを目的としたものであり、具体的には、レンズ本体の外周に、半径方向に突出した突起が一体成形され、突起の先端側にはビスが挿通される挿通穴が、根元側には開口がそれぞれ形成され、ビスを挿通穴に通してレンズ枠のビス穴にねじ込み、プラスチックレンズをレンズ枠に取り付けるものであり、このビス止めによりプラスチックレンズの突起の先端側に、応力がかかり、この応力が、突起の根元側を伝ってレンズ本体側に伝わろうとするが、突起の根元側に開口が形成されているため、レンズ本体にほとんど伝わることがないようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−191247号公報
【特許文献2】特開2006−178236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述したレンズを保持する従来の方式(レンズの保持手段)は、次のような問題点があった。
【0008】
まず、レンズとレンズ鏡筒の間に吸収部材(保持環)を介在する方式(特許文献1)は、レンズを光軸方向に保持するレンズ押えに加えて、レンズを径方向に保持する保持環(吸収部材)を別途必要とする。したがって、レンズを保持する部品点数が増加し、部品コスト及び組立工数の上昇を招くとともに、レンズとレンズ鏡筒の間に、保持環,第1の隙間及び第2の隙間を介在させるため、レンズ鏡筒の大型化(大径化)又はレンズの小径化を招きやすい。
【0009】
また、レンズ自体に吸収部を一体に形成する方式(特許文献2)は、レンズ自体に、いわば、特許文献1と同様の保持環の一部及び隙間を含む吸収部(突起及び開口)を一体に形成するため、レンズの全体形状が複雑化し、レンズのコストアップを招く。しかも、吸収部の素材がレンズの素材と同一になるため、吸収能力が制限され、十分かつ適切な変形吸収性能を得にくく、特に、レンズのサイズアップ等に伴う熱変形量の増加に対応するにも限界がある。
【0010】
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決したレンズ保持装置の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上述した課題を解決するため、レンズ鏡筒2の内部に配したレンズLを当該レンズ鏡筒2に対して同軸上に位置決めして保持するレンズ保持装置1を構成するに際して、レンズ鏡筒2の内部に形成することによりレンズLの外周部Lfに隣接する一方の端面Lcaが当接する規制部2sと、レンズ鏡筒2の内周部2iに螺合する螺合部3nを有し、かつ規制部2sに当接したレンズLの反対側に位置する他方の端面Lcdに当接して当該レンズLの光軸方向Fsの位置を固定するとともに、螺合部3nの光軸方向Fs他方側に、周方向Ffに沿って所定間隔おきに配し、かつ径方向Fdの外面側がレンズ鏡筒2の内周部2iに圧接する所定の弾性を有する複数の規制片部5…を設けてなるレンズ固定リング3と、螺合部3nの光軸方向Fs一方側に、レンズ鏡筒2の周方向Ffに沿って所定間隔おきに配し、かつ一端4r…をレンズ鏡筒2に対して位置を固定し、かつ径方向Fdの内面側がレンズLの外周部Lfに圧接する所定の弾性を有する複数の保持片部4…とを備えることを特徴とする。
【0012】
この場合、発明の好適な態様により、保持片部4…は、レンズ固定リング3に対して一体に設けることができるとともに、レンズLの外周部Lfに圧接する径方向Fdの内面を傾斜面4k…に形成することができる。また、レンズ固定リング3とレンズ鏡筒2は、同一素材により形成することができる。
【発明の効果】
【0013】
このような構成を有する本発明に係るレンズ保持装置1によれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0014】
(1) レンズLを保持するための追加部品が不要になるため、部品点数の削減(半減)を図ることができる。これにより、部品コスト及び組立工数の低減に寄与できるとともに、レンズ鏡筒2の小型化(小径化)又はレンズLの大径化に寄与できる。しかも、基本的には、レンズL自体の変更が不要なため、レンズLの全体形状の複雑化を招く不具合を回避でき、この観点からもコストダウンに寄与できる。
【0015】
(2) レンズLを保持するに際し、レンズ鏡筒2の周方向Ffに沿って所定間隔おきに配し、かつ一端4r…をレンズ鏡筒2に対して位置を固定し、かつ径方向Fdの内面側がレンズLの外周部Lfに圧接する所定の弾性を有する複数の保持片部4…を用いたため、十分かつ適切な変形吸収性能を得ることができ、特に、レンズのサイズアップ等に伴う熱変形量の増加にも十分に適応できる。
【0016】
(3) レンズ固定リング3には、レンズ鏡筒2の内周部2iに螺合する螺合部3nを設けたため、保持片部4…を、螺合部3nの光軸方向Fs一方側に配するようにすれば、レンズ固定リング3を、レンズ鏡筒2に組付けると同時に、レンズLに対する光軸方向Fsの位置固定と径方向Fdの保持を行うことができる。この結果、組立の容易化及び効率化を実現できる。
【0017】
(4) レンズ固定リング3における螺合部3nの光軸方向Fs他方側には、周方向Ffに沿って所定間隔おきに配し、かつ径方向Fdの外面側がレンズ鏡筒2の内周部2iに圧接する所定の弾性を有する複数の規制片部5…を設けたため、レンズ固定リング3をレンズ鏡筒2に対して同軸上に位置させるレンズ固定リング3の芯出しを容易に行うことができる。即ち、レンズ固定リング3の螺合部3nとレンズ鏡筒2の内周部2i間には、通常、僅かながらガタを有しているが、所定の弾性を有する複数の規制片部5…により支持することにより、螺合時にレンズ固定リング3が偏芯する不具合を回避できる。
【0018】
(5) 好適な態様により、保持片部4…を、レンズ固定リング3に対して一体に設ければ、レンズ固定リング3の成形と同時に保持片部4…を一体成形できるとともに、レンズ固定リング3自体にレンズLに対する光軸方向Fsの位置固定機能と径方向Fdの保持機能を兼用できるため、組付性及び低コスト性を図る観点から最適な形態として実施できる。
【0019】
(6) 好適な態様により、レンズ固定リング3とレンズ鏡筒2を同一素材により形成すれば、レンズ固定リング3及びレンズ鏡筒2の熱膨張係数を一致させることができるため、レンズ固定リング3とレンズ鏡筒の一体性を維持することができる。これにより、使用時の温度環境によるレンズ固定リング3とレンズ鏡筒2間に生じる熱変形量の相違に基づく弊害を回避できる。
【0020】
(7) 好適な態様により、保持片部4…におけるレンズLの外周部Lfに圧接する径方向Fdの内面を傾斜面4kに形成すれば、レンズ固定リング3をレンズ鏡筒2に組付ける際に、レンズLの外周部Lfに対して保持片部4…を容易かつ確実に当接させることができ、組付の容易化及び円滑化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の好適実施形態に係るレンズ保持装置の一部抽出拡大図を含む断面側面図、
図2】同レンズ保持装置に備える構成部品の一部を破断して示す分解側面図、
図3】同レンズ保持装置に備えるレンズ固定リングの正面図、
図4】同レンズ保持装置に備えるレンズ固定リングの背面図、
図5】同レンズ保持装置に備える保持片部の作用説明図、
図6】同レンズ保持装置に備える規制片部の作用説明図、
図7】同レンズ保持装置の変更例を示す断面側面図、
図8】同レンズ保持装置の他の変更例を示す断面側面図、
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明に係る好適実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【0023】
まず、本実施形態に係るレンズ保持装置1を含むレンズ装置100の概要について、図1を参照して説明する。
【0024】
図1に、レンズ装置100の前側一部の断面を示す。例示のレンズ装置100はプロジェクタ用であり、比較的大型サイズのレンズ装置を想定している。プロジェクタの場合、スクリーンに投影される画面サイズが大きく、画像の一部に生じる湾曲やボケが目立ちやすいため、レンズ装置100に、特に直径が100〔mm〕以上となる大型サイズのプラスチックレンズを使用し、かつ高画質が要求される場合、熱によるレンズの変形量が大きくなり、レンズを保持するレンズ保持装置の性能も敏感に影響する。本実施形態に係るレンズ保持装置1は、このようなプロジェクタのレンズ装置100に用いて最適となる。
【0025】
図1は、レンズ鏡筒2の内部における前端に、本実施形態に係るレンズ保持装置1により保持されたレンズLを備えるとともに、このレンズLの後段にレンズ枠102により複数のレンズ103,104等が支持されたレンズユニット101を配した状態を示している。なお、レンズ装置100には、図に現れないフォーカス調整機能部及びズーミング調整機能部等のレンズ装置に必要な各種機能部を備えている。
【0026】
次に、本実施形態に係るレンズ保持装置1の構成について、図1図6を参照して具体的に説明する。
【0027】
なお、レンズ保持装置1の保持対象となるレンズLは、図1及び図2に示すように、レンズ本体部Lm(例示は、凸レンズ)及びこのレンズ本体部Lmの外周に沿ったフランジ部Lcを一体成形したプラスチックレンズである。フランジ部Lcは前後に平行面となる一方の端面(後端面)Lcaと他方の端面(前端面)Lcbを有する。なお、例示の場合、フランジ部Lcの外周部Lfの前側は、後述する保持片部4…の径方向Fdの内面が当接可能になる傾斜面を形成している。
【0028】
以下、レンズ保持装置1の構成について説明する。レンズ保持装置1は、レンズ鏡筒2の内部に形成し、レンズLの外周部Lfに隣接する一方の端面Lcaが当接する規制部2sを備える。具体的には、図1に示すように、レンズ鏡筒2の前側に位置する固定筒2cの前部2cfを大径に形成し、かつ後部2crを小径に形成することにより、固定筒2cの後部2crと前部2cf間に段差面2dsを有する段差部2dを設ける。これにより、この段差面2dsが規制部2sとして機能する。なお、固定筒2cの形成素材には合成樹脂素材を使用する。例示はポリカーボネート(PC)樹脂である。
【0029】
一方、3はレンズ固定リングであり、レンズ鏡筒2に対して別体の独立した部品として一体形成する。図1図4に、レンズ固定リング3を示す。このレンズ固定リング3は、レンズ鏡筒2(固定筒2c)と同一の素材、例示の場合、PC樹脂により形成する。したがって、このレンズ固定リング3は、射出成形機等により一体成形することができる。このように、レンズ固定リング3とレンズ鏡筒2を同一素材により形成すれば、レンズ固定リング3及びレンズ鏡筒2の熱膨張係数を一致させることができるため、レンズ固定リング3とレンズ鏡筒の一体性を維持することができる。これにより、使用時の温度環境によるレンズ固定リング3とレンズ鏡筒2間に生じる熱変形量の相違に基づく弊害を回避できる利点がある。
【0030】
レンズ固定リング3は、光軸方向Fsの中間位置にリング本体部3mを有し、このリング本体部3mの外周面に、レンズ鏡筒2の内周部2iに螺合する螺合部3nを設ける。例示の場合、リング本体部3mの断面形状は、図1に示すように、ほぼ直角三角形状となる。また、螺合部3nの光軸方向Fs一方側に位置するリング本体部3mの端面3aの外周面寄りには、複数の保持片部4…を一体に設ける。各保持片部4…は、レンズ鏡筒2の周方向Ffに沿って所定間隔おきに配し、かつ一端4r…をレンズ固定リング3に一体形成し、かつ径方向Fdの内面側がレンズLの外周部Lfに圧接するように、所定の弾性を有する形状に選定する。これにより、保持片部4…の一端4r…はレンズ鏡筒2に対して位置が固定されることになる。
【0031】
例示の場合、図2及び図4に示すように、端面3aに沿って突出形成したリング状体4oに六つの切込部K…を等間隔に形成することにより、一定間隔おきに配した六つの保持片部4…を設けている。また、各保持片部4…におけるレンズLの外周部Lfに圧接する径方向Fdの内面は、図1に示すように、傾斜面4kとなるように形成する。これにより、レンズ固定リング3をレンズ鏡筒2に組付ける際には、レンズLの外周部Lfに対して保持片部4…を容易かつ確実に当接させることができ、組付の容易化及び円滑化を図ることができる。
【0032】
このように、レンズ固定リング3に、レンズ鏡筒2の内周部2iに螺合する螺合部3nを設け、保持片部4…を、螺合部3nの光軸方向Fs一方側に配するようにすれば、レンズ固定リング3を、レンズ鏡筒2に組付けると同時に、レンズLに対する光軸方向Fsの位置固定と径方向Fdの保持を行うことができるため、組立の容易化及び効率化を実現できる。加えて、保持片部4…を、レンズ固定リング3に対して一体に設ければ、レンズ固定リング3の成形と同時に保持片部4…を一体成形できるとともに、レンズ固定リング3自体にレンズLに対する光軸方向Fsの位置固定機能と径方向Fdの保持機能を兼用できるため、組付性及び低コスト性を図る観点から最適な形態として実施できる。
【0033】
また、リング本体部3mの端面3a上であって、保持片部4…に対して中心側の位置には、レンズLの他方の端面(前端面)Lcbに当接し、当該レンズLの光軸方向Fsの位置を固定するリング状の当接部3pを一体に形成する。これにより、レンズLの外周部Lfは保持片部4…の一端4r…よりも先端側に当接(圧接)することになる。
【0034】
他方、レンズ固定リング3における螺合部3nの光軸方向Fs他方側の位置には、周方向Ffに沿って所定間隔おきに配し、かつ径方向Fdの外面側がレンズ鏡筒2の内周部2iに圧接する所定の弾性を有する複数の規制片部5…を一体形成する。例示の場合、図1及び図4に示すように、リング本体部3mの前端に沿って突出形成したリング状体5oに六つの切込部J…を等間隔に形成することにより、一定間隔に配した六つの規制片部5…を設けている。また、各規制片部5…の外面中央位置には、外方に突出した半球状の係合突起部5c…を一体に形成する。このような規制片部5…を設けることにより、レンズ固定リング3をレンズ鏡筒2に対して同軸上に位置させるレンズ固定リング3の芯出しを容易に行うことができる。即ち、レンズ固定リング3の螺合部3nとレンズ鏡筒2の内周部2i間には、通常、僅かながらガタを有しているが、所定の弾性を有する複数の規制片部5…により支持することにより、螺合時にレンズ固定リング3が偏芯する不具合を回避できる。
【0035】
次に、本実施形態に係るレンズ保持装置1を用いたレンズLの組付方法(保持方法)及び作用について、図1図6を参照して説明する。
【0036】
まず、図2に示すように、レンズLとレンズ固定リング3を用意し、最初に、レンズLをレンズ鏡筒2(固定筒2c)の前端開口2oから内部へ収容する(矢印Fsi方向)。そして、レンズLのフランジ部Lcの一方の端面(後端面)Lcaを規制部2sとなる段差面2dsに当接させる。この場合、フランジ部Lcの外周部Lfとレンズ鏡筒2の内周部2i間には、少なくともレンズLの熱膨張によるレンズLの径方向Fdの拡大変形を許容するための隙間Csを確保する。
【0037】
次いで、レンズ固定リング3を、レンズ鏡筒2(固定筒2c)の前端開口2oに対して矢印Fsj方向に挿入し、レンズ固定リング3をレンズ鏡筒2の内周部2iに装着する。即ち、レンズ固定リング3を回し操作し、螺合部3nをレンズ鏡筒2の内周部2iに螺合させる。この場合、レンズ固定リング3を回し操作することにより矢印Fsj方向に徐々に進入し、各保持片部4…の径方向Fdの内面側が、レンズLの外周部Lfに当接するとともに、傾斜面4k…により徐々に圧接する。レンズ固定リング3が、さらに進入すれば、当接面3pがレンズLのフランジ部Lcの他方の端面(前端面)Lcbに当接する。これにより、レンズLのフランジ部Lcは、段差面2dsと当接面3pにより挟まれ、光軸方向Fsの位置が固定される。この状態が図5(a)となる。
【0038】
一方、レンズ固定リング3の当接面3pがレンズLのフランジ部Lcの他方の端面(前端面)Lcbに当接した際には、規制片部5…の径方向Fdの外面側が、図1及び図6に示すように、レンズ鏡筒2の内周部2iに圧接する。即ち、図6に示すように、規制片部5…に設けた半球状の係合突起部5c…がレンズ鏡筒2の内周部2iに圧接する。この場合、係合突起部5c…が、内周部2iに係合していない状態の位置と内周部2iに係合した状態の位置の変位量はLpとなるように設定されており、係合突起部5c…が内周部2iに係合した際には、規制片部5…が変位量Lpだけ径方向Fd中心側に弾性変形する。なお、図6において、仮想線で示す規制片部5が外部から力が付与されていない自然状態の位置を示すとともに、実線で示す規制片部5が内周部2iに係合突起部5c…が係合した状態の位置を示している。
【0039】
このように、レンズ固定リング3を用いることにより、レンズ鏡筒2の内部に配したレンズLを容易に保持することができる。そして、保持状態においては、レンズ固定リング3により、レンズLはレンズ鏡筒2に対して同軸上に位置決め保持される。即ち、光軸方向Fsに対しては位置が固定された状態で保持されるとともに、使用時の温度環境により、レンズLが熱膨張し、レンズLが径方向Fdに拡大変形した場合には、図5(b)に示すように、保持片部4…が弾性変形し、レンズLの拡大変形が吸収される。なお、図5(a)は、熱膨張による拡大変形が生じていないレンズLの状態を示している。この状態ではレンズ鏡筒2の内周部2i間の隙間Csは比較的大きい状態となる。これに対して、図5(b)は、熱膨張による拡大変形が生じたレンズLの状態を示すため、レンズ鏡筒2の内周部2i間の隙間Cssは隙間Csよりも狭くなる。
【0040】
また、この状態におけるレンズ固定リング3は、複数の規制片部5…により支持されるため、レンズ固定リング3を、レンズ鏡筒2に対して同軸上に配することができる。即ち、レンズ固定リング3のいわば芯出しを行うことができるとともに、複数の規制片部5…により、この状態が維持される。
【0041】
よって、このような本実施形態に係るレンズ保持装置1によれば、基本構成として、レンズ鏡筒2の内部に形成することによりレンズLの外周部Lfに隣接する一方の端面Lcaが当接する規制部2sと、この規制部2sに当接したレンズLの反対側に位置する他方の端面Lcbに当接して当該レンズLの光軸方向Fsの位置を固定するレンズ固定リング3と、レンズ鏡筒2の周方向Ffに沿って所定間隔おきに配し、かつ一端4r…をレンズ鏡筒2に対して位置を固定し、かつ径方向Fdの内面側がレンズLの外周部Lfに圧接する所定の弾性を有する複数の保持片部4…とを備えて構成するため、レンズLを保持するための追加部品が不要になり、部品点数の削減(半減)を図ることができる。これにより、部品コスト及び組立工数の低減に寄与できるとともに、レンズ鏡筒2の小型化(小径化)又はレンズLの大径化に寄与できる。しかも、基本的には、レンズL自体の変更が不要なため、レンズLの全体形状の複雑化を招く不具合を回避でき、この観点からもコストダウンに寄与できる。さらに、レンズLを保持するに際し、レンズ鏡筒2の周方向Ffに沿って所定間隔おきに配し、かつ一端4r…をレンズ鏡筒2に対して位置を固定し、かつ径方向Fdの内面側がレンズLの外周部Lfに圧接する所定の弾性を有する複数の保持片部4…の保持機能により、十分かつ適切な変形吸収性能を得ることができ、特に、レンズのサイズアップ等に伴う熱変形量の増加にも十分に適応できる。
【0042】
次に、本実施形態に係るレンズ保持装置1の変更例について、図7及び図8を参照して説明する。
【0043】
図7には、図1図6に示した実施形態における保持片部4…の位置を変更した変更例を示す。図1図6の実施形態では、保持片部4…をレンズ固定リング3に一体に形成したが、図7の変更例は、保持片部4…をレンズ鏡筒2側に一体形成したものである。したがって、図1図6に示した実施形態の場合、保持片部4…はレンズLの前側に位置しているが、図7に示す変更例の場合、保持片部4…はレンズLの後側に位置することになる。また、保持片部4…及びレンズLのフランジ部Lcは、前後対称形状になる点を除き、基本的な構成(形状)は、図1図6に示した実施形態と図7の変更例は同じである。なお、レンズLの外周部Lfに対して、保持片部4…の一端4r…よりも先端側が当接(圧接)するように、本来の段差面2dsoに、当接部3pと同様の突出部分を設け、この突出部分の先端面を段差面2dsとして機能させている。
【0044】
図8には、図1図6に示した実施形態における規制片部5…を設けない変更例を示す。したがって、規制片部5…は任意に設けることができ、必ずしも必須とするものではない。なお、図8は、複数の固定ネジ9…によりレンズ鏡筒2とレンズ固定リング3を固定した例を示している。
【0045】
以上、変更例を含む好適実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,素材,数量,数値等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
【0046】
例えば、保持片部4…の数量及び規制片部5…の数量は、それぞれ六つ設けた場合を示したが、基本的には、三つ以上の任意の数量により実施できる。また、各保持片部4…及び各規制片部5…はそれぞれ等間隔で配した場合を示したが、離間した二つの保持片部4…を一組とし、これらの組を等間隔で配するなど、必ずしも個々の保持片部4…が等間隔であることを要しない。一方、レンズ固定リング3とレンズ鏡筒2は、同一素材により形成することが望ましいが、保持片部4…及び(又は)規制片部5…が機能することから必ずしも同一素材であることを要しない。また、保持片部4…に傾斜面4k…を形成した例を示したが、レンズLの外周部Lfに傾斜面を設けた場合には、保持片部4…の傾斜面4k…を省略することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明に係るレンズ保持装置は、レンズ鏡筒の内部に配したレンズを当該レンズ鏡筒に対して同軸上に位置決めして保持する構成を有する、特に、プロジェクタ等の光学機器に搭載する各種レンズ装置に利用できる。
【符号の説明】
【0048】
1:レンズ保持装置,2:レンズ鏡筒,2s:規制部,2i:レンズ鏡筒の内周部,3:レンズ固定リング,3n:螺合部,4…:保持片部,4r…:保持片部の一端,4k:保持片部の傾斜面,5…:規制片部,L:レンズ,Lf:レンズの外周部,Lca:一方の端面,Lcb:他方の端面,Fs:光軸方向,Fd:径方向,Ff:周方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8