(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この特開2012−125136号公報(特許文献1)には、磁場と磁性弾性体の変形との関係が詳細に説明されており、磁性弾性体の具体的な利用例としてはマッサージ機への適用が記されている。
本発明者は、この公報の記載にあるような磁性弾性体をはじめとして種々の磁性材料、弾性材料について研究を進めたところ興味深い性質を見出した。即ち本発明は、この興味深い性質に関して研究を重ねることによって、磁性弾性体の新たな可能性や代替材料の適用、そして、新たな用途を開発することに成功したので、本発明はこうした技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成する本発明の磁気変形部材は以下のとおり構成される。
即ち、磁性を備える弾性体でなる磁性部と、この磁性部の少なくとも側面を覆う非磁性の弾性体でなるベース部とを備える磁気変形部材であって、少なくとも前記磁性部に、磁場の印加によりベース部との境界側端部が形状変形する磁性変形部を有し、この形状変形が表れる表示部を表面に有する磁気変形部材を提供する。
そして、この変位が磁性部の中央部に対して前記境界側端部を相対的に外方に突出させる変位とすることができる。
【0006】
ベース部を有せず磁性部のみからなる部材に対して磁場を印加すると、厚みが薄くなる方向に磁性部全体が凹むか、または他の文献によれば厚み方向に伸びることが示されている。これらに共通するのは、磁性部の外形に対して伸びる方向または縮む方向のどちらか一方に変形するとされていることである。こうした従来技術に対して本発明では、弾性変形可能で磁性を備えた磁性部とともに、磁性を有しない弾性体であるベース部を設けることで、磁性部のベース部との境界側端部を変位させることに成功したのである。この現象は、均一な磁束中において、磁力に起因する圧縮方向の応力、圧縮変形によって厚みが小さくなる分の体積を外側に逃そうとする広がり方向の応力、この広がり方向の応力をベース部が抑制する力などが相乗的に作用することでもたらされると考えられる。
【0007】
磁性部のベース部との境界側端部の変位は、磁性部の中央部に対して前記境界側端部を相対的に外方に突出させる変位とすることができる。この変位は、磁性部自体が磁場によって弾性変形可能な柔軟性を有することに加え、この磁性部に接触するベース部もまた弾性体であるため、ベース部は磁性部の変形を抑制すると同時に、磁性部の変形に追随して磁性部との境界部分が伸張可能であるからである。
【0008】
前記ベース部における前記磁性部との境界側端部に、前記磁性部の磁性変形部の形状変形に伴って形状変形するベース変形部を有することができる。
ベース部における磁性部との境界側端部に、磁性部の磁性変形部の形状変形に伴って形状変形するベース変形部を有するため、磁性部だけでなくベース部も変形させることができ、これにより磁性部とベース部の境界部を変形させることができる。
【0009】
磁気変形部材は、その表面とは反対側のベース部と磁性部の両表面に、剛体でなる硬質部を備えることができる。
表示部を備える表面とは反対側の裏面となるベース部と磁性部の両表面に、剛体でなる硬質部を備えることとしたため、表面とは反対側の裏面方向への磁性部の変位を抑えることができ、表面から外方向への変位をより大きなものとすることができる。
【0010】
磁気変形部材の表面に、磁性部とベース部の表面を保護する保護部を備えるものとすることができる。
磁気変形部材の表面に保護部を備えたため、ゲルのような摩擦や引裂きに弱い材質からなるベース部や磁性部を保護し耐久性を高めることができる。また、表面の触感や操作性を良くすることができる。
【0011】
ベース部よりも硬質の規制部をベース部の外縁に備えるものとすることができる。ベース部の外縁にベース部よりも硬質の規制部を設けたため、磁性部やベース部の外方に向かう広がり変形を抑止して磁性部とベース部との境界部分の変位をより大きなものとすることができる。
【0012】
前記表面とは反対側に、前記磁場を印加する磁石を備えることができる。磁石を表面とは反対側の裏面に備えたため、磁気変形部材の一方面側だけに磁石を配置することができる。よって、磁石を磁気変形部材の裏側に隠すことができる。
また、前記表面に対する交差方向への磁力線を印加して前記磁場を形成するように磁石を配置することができる。前記表面に対する交差方向への磁力線を印加して前記磁場を形成するように磁石を配置したため、ベース部と磁性部との境界を表面に対する垂直方向に大きく変位させることができる。
【0013】
前記表示部を電子機器へのタッチ操作又は押圧操作が行われる操作部とする磁気変形部材とすることができる。
前記表示部は、電子機器へのタッチ操作又は押圧操作が行われる操作部であるため、タッチパネルや押しボタンスイッチを備える操作部として利用することができる。
【0014】
前記磁性変形部が、点字や文字、数字、記号、模様を表示する形状である磁気変形部材とすることができる。
即ち、磁性部のベース部との境界側端部の変位により点字や文字、数字を表示することができるため、点字や文字、数字を表示する表示機器として利用することができる。
【0015】
前記磁性部を複数備えており、当該複数の磁性部は、各磁性部の前記磁性変形部どうしが一体となって所定の表示を構成するように配置されている磁気変形部材とすることができる。
前記磁性部を複数備え、当該複数の磁性部は、各磁性部の前記磁性変形部どうしが一体となって所定の表示を構成するように配置したため、個々の磁性部を点字や文字、数字、種々の画像等の一部を構成する網点のように作用させ、点字や文字等の所望の表示を形成することができる。
【0016】
磁性部がベース部の肉厚を貫通する形状である磁気変形部材とすることができる。ベース部を貫通する磁性部を形成することで、磁場を印加したときに磁性部が圧縮変形し外側に広がろうとする体積を大きくするように作用させ、磁性部のベース部との境界側の突出変位を大きくすることができる。
【0017】
磁性部の表面以外をベース部が覆う磁気変形部材とすることができる。磁性部の表面以外をベース部が覆うこと、即ち、磁性部の表面を除く側面や底面を覆い、磁性部を表面側に偏在させることで、磁場の印加により磁性部が硬化しても、磁性部の下側に積層するベース部が柔らかく弾性変形することから、磁場の印加にかかわらず全体的に柔軟な磁気変形部材とすることができる。
【0018】
磁性部をベース部から突出させて形成することができる。磁性部をベース部から突出させて形成したため、その突出した磁性部が視認され易く、ヒトの指等に接触し易い。そのため、磁性部に対する視覚変化や触感変化を感じ易くすることができる。
【0019】
磁性部をゲルで構成することができる。磁性部をゲルとすることで、磁場の印加によって変形し易くすることができる。また、磁性部を流体を用いて構成する場合と比較して、流体漏れの心配がなく、耐久性を高めることができる。
【0020】
磁性部が、磁性体が分散した粘性流体とこれを被覆する可撓性膜とを有することができる。磁性部を、磁性体が分散した粘性流体とこれを被覆する可撓性膜とを有するため、磁場の印加による磁性部の硬さの変化を大きくすることができる。
【0021】
磁性部を、磁性金属箔や可撓性磁性膜からなる薄膜で構成することができる。磁性部を、磁性金属箔や可撓性磁性膜からなる薄膜で構成したため、ベース部成形用金型で磁性金属箔や可撓性磁性膜をインサート成形することで簡単に磁気変形部材を形成することができる。
【0022】
磁性部の硬度はJIS規定のE硬度で0〜50とすることができる。磁性部の硬度をJIS規定のE硬度で0〜50としたため、磁性部に含まれる磁性体が磁場の作用で移動し得る距離を長くでき、磁場を印加したときの変位を大きくすることができる。また、磁場を印加する前は柔軟でありながら、磁場を印加した後は硬度を高め、硬度変化に起因する触感の変化を得易くすることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、触感や視覚で認識できる磁気変形部材を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明による磁気変形部材について図面を参照しつつ説明するが、各実施形態において同一の材質、組成、製法、作用、効果等については重複説明を省略する。
磁気変形部材を構成する主な構成単位について、まず第1実施形態から第3実施形態で説明し、こうした構成単位を持って形成される応用例について第4実施形態から第6実施形態で説明する。
【0026】
第1実施形態[図1〜図6]:
本実施形態の磁気変形部材11の要部構成を
図1で示す。
図1(A)はその平面図、
図1(B)はその断面図である。この
図1に示すように、磁気変形部材11は磁性部2とベース部3とからなるものであり、本実施形態では、磁性部2がベース部3の肉厚を貫通しており、磁性部2の側面がベース部3で覆われている。磁気変形部材11はその外形がシート状であり、そのシートの中に
図1で示されたような磁性部2をベース部3で覆う構成が含まれている。また、後述するようにシートの表面s1は磁場の印加により変形する表示部となっている。次には磁気変形部材11を構成する磁性部2とベース部3について説明する。
【0027】
<磁性部>
磁性部は、ゴム弾性変形可能な材質(弾性体)でなり、磁性を備える部位である。その一形態として、バインダーとバインダーに分散する磁性体とを主成分とするゲル状部材とすることができ、この場合の磁性は磁性体によって発現する。
【0028】
磁性体には、磁場を印加したときに生じる応力を大きくするため、強磁性体を用いることが好ましい。また、磁場を印加していないときには、磁性体どうしの相互作用がないことが好ましいため保磁力の小さい軟磁性体であることが好ましい。軟磁性体としては、鉄、ニッケル及びコバルトなどの金属軟磁性体や、鉄珪素合金やパーマロイ、センダスト、パーメンジュールなどの軟磁性合金、ソフトフェライトなどの磁性粉を用いることができる。
【0029】
磁性部に含まれる磁性体の含有量を6〜60体積%、質量割合でいえば64〜92質量%とすることが好ましい。磁性体の含有量が6体積%未満では、磁性部の変形量と硬さの双方が小さくなるおそれがある。また、磁性体の含有量が60体積%を超えると、磁場を印加していない状態における磁性部の硬さが硬くなりすぎ、磁場を印加したときに磁性部が変形し難くなるおそれがある。
【0030】
後述する磁性部の変形を大きくするためには、磁性部中の磁性体どうしの距離が変化することが好ましく、磁性体どうしが離れて分散する程度の比較的少量を磁性部中に含むことが好ましい。具体的には、磁場を印加したときに、触感の変化の大きな磁性部とするために、磁性部に含まれる磁性体の含有量を20〜40体積%、質量割合でいえば64〜83質量%とすることが好ましい。
【0031】
また、磁場を印加したときの磁性部の硬さを硬くする場合には、磁性体どうしの相対位置を固定するために磁性体どうしの接点を多くすることが好ましい。より具体的には、磁性体をやや多めに含むことで、分散している磁性体どうしの距離を小さくして、任意の磁性体とその周囲の磁力が及ぶ範囲内の磁性体との接点を増やすことが好ましいと考えられる。したがって、磁場を印加したときの磁性部の硬さを硬くするためには、磁性部に含まれる磁性体の含有量を20〜49体積%、質量割合でいえば64〜88質量%とすることが好ましい。
磁性体の含有量を多くすると、磁場を印加しないときの磁性部の硬さも高まる傾向があるが、磁場を印加した時の硬さの上昇の方が大きいため、磁場印加時の硬さの変化を大きくしたい場合にも、磁性体の添加量を多くすることが好ましい。
【0032】
磁性体の平均粒径は、0.05〜1000μmとすることが好ましい。平均粒径が0.05μm未満の場合には、個々の磁性体に作用する磁力が小さくなるため、変位するための応力が小さく、変位が小さくなるおそれがある。一方、1000μmを超えると、磁性粉の粒子1つ1つに働く磁力が大きくなり、磁場印加時に磁性粉が脱落するおそれがある。
【0033】
磁性体の形状は、球状や塊状、柱状、針状、板状、鱗片状など種々の形状のものを用いることができる。しかし、磁場を印加したときの変位の大きさを大きくするという観点からは、球状などのアスペクト比が小さな粒子が好ましい。こうした粒子を用いることで、磁場を印加したときに、離れていた粒子どうしが確実に接近して、大きな変位を生じさせるためである。これに対して、アスペクト比が大きい粒子を用いた場合には、個々の粒子が回転することで、他の粒子と接近する場合もあるため、相対的に変位量が小さくなるおそれがある。また、磁場を印加したときの硬さの変化を大きくするという観点からも、球状などのアスペクト比が小さな粒子が好ましい。磁性体どうしが、密に接近することで、硬さが増すためである。
【0034】
バインダーは高分子材料からなり、柔軟性の高い高分子ゲル、ゴム及び熱可塑性エラストマーなどを用いることができる。高分子ゲルとして、シリコーンゲル、及びポリウレタンゲルなどが挙げられる。また、ゴムとして、天然ゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、ニトリルゴム、水添ニトリルゴム、クロロプレンゴム、エチレン−プロピレン共重合ゴム、塩素化ポリエチレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、ポリイソブチレンゴム、及びアクリルゴムなどが挙げられる。また、熱可塑性エラストマーとして、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、及びポリウレタン系熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。これらの中でも、磁性体を高充填でき、硬化して極めて柔軟なゲルを形成することができるシリコーンゲルを用いることが好ましい。なお、これらの高分子材料は、単独で用いず、二種以上を組合せて用いてもよい。
【0035】
バインダーは、日本工業規格であるJIS K 6253のタイプEの硬度計によって測定される値(以下「E硬度」)で50以下であることが好ましい。硬さがE50を超えると、磁場を印加したときの形状の変化や硬さの変化が小さくなるおそれがある。また、E硬度の下限を限定しないのは、測定限界以下(E0以下)であっても好ましい範囲に含まれるからである。このE0以下を別の尺度である針入度でみると、針入度で320程度までは好ましく用いることができ、340までは利用可能である。但し、これよりも柔らかくなり、針入度が340を超えると、自重で変形して磁気変形部材としての形状を維持できないおそれがある。
上記針入度は、JIS K2220記載の装置を用いて試験片の表面に対する針入度を測定した結果である。即ち、JIS K2207に規定される形状の針を用い、針と針固定具全体の重さ(すなわち試験片にかかる重さ)は50gとしている。
【0036】
磁性部は、上記磁性体をバインダー中に分散したものである。但し、磁性部には磁性体やバインダー以外にもその機能を損なわない範囲で種々の添加剤を含ませることができる。例えば、可塑剤、分散剤、カップリング剤、粘着剤などの有機成分を含んでも良い。またその他の成分として難燃剤、酸化防止剤、着色剤などを適宜添加してもよい。
【0037】
<ベース部>
ベース部は、非磁性の材料でなり、磁性部を囲むように形成されている。また、ベース部も、磁性部と同様にゴム弾性変形可能な材質(弾性体)でなり、その一態様としてはゲル状とすることができ、柔軟な触感を持たせることができる。磁場中でまったく磁化しない性質であることが好ましいが、磁性が大きくならない程度の少量の磁性を有する充填材の含有を除外するものではなく、磁性部との比較で磁化の程度が遥かに小さい実質的に非磁性であればよい。
【0038】
ベース部もまた磁性部のバインダーと同様に高分子材料で形成することができる。具体的には、柔軟性の高い高分子ゲル、ゴム及び熱可塑性エラストマーなどを用いることができる。ベース部に用いる高分子材料は、磁性部のバインダーと同じでも良いし、異なるものでも良いが、同じ高分子材料を用いれば、ベース部と磁性部の密着性を高めて一体化しやすいなどのメリットがある。
【0039】
ベース部の硬さは、磁性部の硬さと同じとすることも異なるものとすることもできる。ベース部と磁性部の硬さを同じにすれば、磁場を印加しないときには、磁性部とベース部の硬さの違いを感じることがなくその境界がわからない一体感のある磁気変形部材とすることができる。そうした一方で磁場を印加すれば、磁性部が硬くなることから磁性部とベース部の硬さの違いの感触を得ることができる。また、ベース部の硬さを磁性部の硬さよりも硬くすると、磁場を印加したときに生じる磁性部が広がろうとする方向に対する規制力が高まり、磁性部の端部の外方への変位を大きなものとすることができる。ただし、磁性部とベース部との境界部分の変位もまた、ベース部によって規制を受けるため、硬さの上限は針入度80とすることが好ましい。
【0040】
<硬質部>
図2で示すように、磁性部2とベース部3の表面s1とは反対側の面s2に、剛体からなる硬質部4を積層することができる。硬質部4は、磁場を印加した場合に、表面s1とは反対側へ磁性部2が変形することを抑止することができる。これにより、硬質部4を設けない場合よりも磁性部2の端部の外方への変形を大きなものとすることができると考えられる。
硬質部は、ベース部や磁性部が有する粘着性によって一体化するが、接着剤等を用いて一体化してもよいし、一体化しないように構成してもよい。硬質部4は硬質樹脂から形成することができる。
【0041】
<規制部>
図3で示すように、ベース部3の周囲(側面)には、ベース部3の広がりを規制する規制部5を設けることができる。磁気変形部材11に磁場を印加したときに、磁性部2が圧縮されるとともに、周囲に広がる方向の応力が生じるが、ベース部3もまたゲル状で柔らかいため、ベース部が周囲に広がるおそれがある。そのため、そうした広がりを防止するために設けたのが規制部5である。
規制部の材質は、ベース部よりも硬い材質であれば、一定の効果を奏することができるが、より硬質な樹脂材料で形成することが好ましい。
【0042】
<保護部>
図4で示すように、磁性部2やベース部3の表面s1には、磁性部2やベース部3を保護する保護部6を設けることができる。磁性部2やベース部3はゲル状物質からなるため、保護部6を設けることで、耐久性を高め、また表面s1を表示部とする際にその触感を良くすることができる。また、保護部6に印刷等で文字や図形、模様等を施すことで機能性、意匠性を高めることができる。
【0043】
保護部は、磁性部に磁場を印加して磁性部を変位させ、その後、磁場の印加を解いたときに、元の形状に戻ることを助けるように作用させることができる一方で、磁性部の変位の妨げとなるおそれもある。そのため、保護部には、磁性部の変形を過度に妨げず、かつ磁場を解消したときには変位を元に戻すように働く弾性を備えることが好ましく、保護部もまた復元力を有する部材で構成し、磁性部の変位によって伸び縮みできる材質であることが好ましい。
【0044】
このような保護部としては、ブチルゴムやスチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム等の合成ゴムの他、天然ゴムや、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー等の熱可塑性エラストマー等で構成される樹脂フィルムや塗膜を用いることができる。また、オレフィン系樹脂、ポリウレタン樹脂、ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂等の樹脂フィルムについても可とう性を有する薄膜であれば好適に用いることができる。
【0045】
<動作>
次に、硬質部4を設けた構成の第1実施形態の磁気変形部材11の動作について
図5および
図6に基づいて説明する。
【0046】
まず、
図5で示すように、磁性部2とベース部3に硬質部4を設けた裏面s2側に磁石M1を配置する。磁石M1の向きは、図面における上側がN極、下側がS極となるように配置するがこの逆であっても良い。これらの向きに磁石を配置することで磁力線の向きは表面s1に対する交差方向へ向くようにすることができる。こうして磁石M1を配置し、磁場が印加されると磁性部2の中央部2aは磁石に引きつけられるように凹む方向に変位する。そうした一方で磁性部の外周であり、ベース部との境界側の端部2bはこの中央部に対して相対的に外方に突出するように形状変形を起こす(磁性変形部)。この磁性部2に接するベース部3も弾性体であるため、ベース部3における磁性部2との境界側端部3bは前記端部2bの形状変形に伴って形状変形する(ベース変形部)。こうした変形に加えて、磁性部2全体が硬化する。この突出変形と硬化変化は、磁場の印加を解消すれば、即ち、磁石を除去すれば速やかに解消し、元の形状および元の硬さに戻る。
【0047】
磁性部とベース部の境界に変化が生じる理由は明らかではないが次のように考えられる。磁気変形部材を磁束に置くと磁力に起因する圧縮方向の応力が生じ中央部は凹む方向に変位するが、体積を外側に逃そうとする広がり方向にも変位する力が働く。ところが、磁性部の周囲はベース部が囲んでおり、この広がり方向の応力は規制され、表面方向に逃げることとなり、この力が磁力に起因する圧縮方向の応力に勝り、磁性部のベース部側の端面で突出するように変位するものと思われる。一方、硬くなる現象については、磁場の印加によって磁性体どうしが結びつき、拘束されることで磁性部が硬くなるものと思われる。
【0048】
磁場を印加する範囲を変えることで変形させる磁性部の数を変えることができる。
図5に示すのは、1つの磁性部に対し、その磁性部だけに磁場が印加されるように磁石M1を配置したが、
図6で示すように、3つの磁性部に対して磁場が印加されるように磁石M2を配置すれば、これら3つの磁性部を同時に変形させることができる。磁石には永久磁石を用いることができ、またコイルを使った電磁石を用いることもできる。
【0049】
<製造方法>
磁気変形部材の製造方法の一例を説明する。磁性部については、まずバインダーとなる硬化前の液状高分子に磁性体を配合した液状組成物を調製し、この液状組成物を磁性部の形状に対応した金型に注入し硬化させて磁性部を得る。次に、ベースを成形する金型内にこの磁性部をインサートし、ベース部の材料である硬化前の液状高分子を注入して硬化させる。こうして、ベース部と磁性部が一体となった磁気変形部材を得る。
【0050】
硬質部や保護部を設ける方法としては、あらかじめ準備したフィルム状の硬質部または保護部を、ベース部を成形する金型内に磁性部とともにインサートして一体成形する方法や、磁性部とベース部とを形成した後、フィルム状の硬質部または保護部を貼り付けたり、塗装等で磁性部やベース部の表面や裏面に硬質部や保護部を設けたりする方法などが挙げられる。規制部を設ける方法としては、こうして得られたものの外周に規制部を貼り付ける方法が挙げられる。
【0051】
磁気変形部材11は、磁場を印加することにより磁性部が硬化し、磁性部のベース部との境界側端部が外方に変位する。したがって、磁場を印加する前後で、磁気変形部材表面の触覚や視認性の変化を感じることができる。
【0052】
変形例1:
本実施形態で示す磁気変形部材は、磁性部の材質をゲル状物質から、磁性体が分散した粘性流体とこれを被覆する可撓性膜とに変更したものである。
【0053】
粘性流体としては、例えば、シリコーン系オイル、パラフィン系オイル、エステル系オイル、液状ゴム等の液体を用いることができまる。中でも、温度依存性、耐熱性、信頼性等の要求性能により、シリコーン系オイルが好ましく、具体的には、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイル等が好適である。
【0054】
また、この粘性流体には、先の実施形態で示した磁性体を配合するが、磁性体の含有量は6〜47体積%、質量割合でいえば64〜87質量%とすることが好ましい。磁性体の含有量が6体積%未満では、磁性部の変形量と硬さの双方が小さくなるおそれがある。磁性体の含有量が47体積%を超えると、磁性体を含む粘性流体の流動性が損なわれるおそれがある。また、粘性流体には、磁性体以外にも種々に、液体に反応または溶解しない固体粒子を添加することができる。例えば、シリコーン系オイルに反応または溶解しない固体粒子としては、シリコーンレジン粉末、ポリメチルシルセスキオキサン粉末、湿式シリカ、乾式シリカ、ガラスビーズ、ガラスバルーン等、又はこれらの表面処理品等を用いることができ、これらを単独もしくは複数組合せて用いることができる。
【0055】
可とう膜としては、ゴム状弾性体を用いることができ、ブチルゴムやスチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム等の合成ゴムの他、天然ゴムや、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー等の熱可塑性エラストマーを好適に用いることができる。
【0056】
本実施形態の構成において、磁性部の全体を可とう膜で覆う構成の他、ベース部を貫通する貫通孔の表面および裏面と、側面の表面付近および裏面付近を可とう膜で形成する構成とすることができる。この表面(および裏面)と側面の表面(および裏面)付近を可とう膜とする構成では、前記貫通孔の側面の一部を硬質樹脂で構成しても良い。硬質樹脂を利用することで、磁性流体の封止を容易にすることができるとともに、後述の硬質部との固着部位として利用することができる。
粘性流体と粘性流体に分散する磁性体を可とう膜で封止した構成とする磁性部であっても、その硬さは、前記実施形態における磁性部の硬さと同様の範囲とすることが好ましい。
【0057】
第2実施形態[図7〜図9]:
本実施形態の磁気変形部材21を
図7で示す。この磁気変形部材21は、磁性部2を表面側s1に偏在させており、表面s1以外の部分をベース部3で覆っている。より具体的には、
図7(B)の断面図で示すように、磁気変形部材21の表面s1から所定の厚さの磁性部2が形成されており、磁性部2の厚みを超える深部は周囲と同じベース部3となっている。
図7では、硬質部4を設けた構成を示すが、磁気変形部材11と同様に、硬質部4や規制部5、保護部6を設けるか否かは任意である。
【0058】
本実施形態の磁気変形部材21の動作について
図8および
図9に基づいて説明する。まず、
図8で示すように、磁性部2とベース部3に硬質部4を設けた裏面s2側に磁石M1を配置する。こうして磁場が印加されると磁性部2の中央部2aは磁石に引きつけられるように凹む方向に変位し、ベース部との境界側の端部2bは外方に突出変位する。加えて、磁性部2全体が硬化する。この突出変位と硬化変化は、磁場の印加を解消すれば、即ち、磁石を除去すれば速やかに解消し、元の形状および元の硬さに戻る。
なお、
図9で示すように、3つの磁性部に対して磁場が印加されるように磁石M2を配置すれば、これら3つの磁性部を同時に変形させることができる。
【0059】
本実施形態の磁性部は、印刷法によって形成することができる。したがって、磁性部を複雑なパターンや装飾パターンとして形成することができ、機能性を高めたり、意匠性を高めたりし易い。
【0060】
磁性部を表面側に偏在させると、磁性部の硬さが変化しても、磁性部の下側に積層するベース部の硬さは変化しないため、磁場の印加の有無にかかわらず、柔軟な磁気変形部材とすることができる。即ち、第1実施形態の磁気変形部材よりも磁性部の硬さを硬くし易い。
【0061】
変形例1:
本実施形態で示す磁気変形部材は、磁性部の材質を第1実施形態の変形例1と同様の材質に変更したものである。即ち、本実施形態における磁性部は、磁性体が分散した粘性流体とこれを被覆する可撓性膜とで構成している。
【0062】
本実施形態の構成において、磁性部の全体を可とう膜で覆う構成の他、ベース部の表面に設けられた凹部の表面と側面の表面付近を可とう膜で形成する構成とすることができる。この表面と側面の表面付近を可とう膜とする構成では、前記凹部の底面と側面の一部を硬質樹脂で構成しても良い。硬質樹脂を利用することで、磁性流体の封止を容易にすることができる。
粘性流体と粘性流体に分散する磁性体を可とう膜で封止した構成とする磁性部であっても、その硬さは、前記実施形態における磁性部の硬さと同様の範囲とすることが好ましい。
【0063】
変形例2:
本実施形態で示す磁気変形部材は、磁性部の材質を磁性金属箔に変更したものである。磁性金属箔としては、鉄、ニッケル及びコバルトなどの軟磁性金属箔や、鉄珪素合金やパーマロイ、センダスト、パーメンジュールなどの軟磁性合金箔等を利用することができる。
【0064】
変形例3:
本実施形態で示す磁気変形部材は、磁性部の材質を硬質の材質でなる可とう性の磁性膜に変更したものである。こうした磁性膜としては、鉄、ニッケル及びコバルトなどの金属軟磁性体や、鉄珪素合金やパーマロイ、センダスト、パーメンジュールなどの軟磁性合金、ソフトフェライトなどの磁性粉をインクや塗料に配合し、塗布することで形成した塗膜等を利用することができ前記インクや塗料に含まれるバインダーとしては、第1実施形態で説明した磁性部として用いることができるバインダーの他に、ポリエステル樹脂、ビニル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、オレフィン系樹脂など、可とう性を備えた樹脂材料を用いることができる。
【0065】
第3実施形態[図10〜図12]:
本実施形態の磁気変形部材31を
図10で示す。この磁気変形部材31は、表面において磁性部2をベース部3から突出するように構成したものである。また、
図11で示す磁気変形部材41も磁性部2をベース部3から突出するように構成したものである。但し、
図10で示す磁気変形部材31の磁性部2がベース部3の肉厚を貫通するように構成されているのに対し、
図11で示す磁気変形部材41は、その磁性部2がベース部3の表面側に偏在している。
【0066】
図12には、磁場を印加した場合の磁性部2の変化の様子を模式的に表したものである。磁気変形部材31,41においても、磁場が印加されると磁性部2の中央部2aは磁石に引きつけられるように凹む方向に変位し、ベース部との境界側の端部2bは外方に突出変位する磁性変形部となる。このため、磁性部2は凹凸が小さくなるように変形する。換言すれば、高い突起を備える表面から平坦に近い表面に変化する。これにより触感の変化を感じることができる。
【0067】
磁性部をベース部から突出させたその形状は、ベース部から一様に突出させる場合の他、
図10や
図11で示すように、磁性部の中央を周囲よりも突出させた半球状やドーム状とすることができる。半球状やドーム状に中央をやや突出させると、磁場を印加して磁性部を圧縮変形させたときに、磁性部の凹凸が小さくなるように、即ち、平坦になるように変位させることができ、触感の変化を感じ易くすることができる。
【0068】
第4実施形態[図13]:
本実施形態の磁気変形部材51は、これまで説明した磁気変形部材を応用し、オーディオ装置等の表示部分に利用するものである。この磁気変形部材51の要部構成を
図13で示す。
図13(A)はその平面図、
図13(B)はその断面図である。
図13で示すように、磁気変形部材51に設けた3つの磁性部2は、それぞれの磁性部2が3つの操作ボタン7a,7b,7cに対応する形状に構成されている。また、操作ボタン7a,7b,7cの全部に磁場を印加し得る磁石M2が設けられている。
【0069】
磁場を印加しない状態においては、表面は略均一に柔らかであり操作ボタン7a,7b,7cは表示されないが、オーディオ操作部として機能させる際には、磁場を印加することで3つの操作ボタン7a,7b,7cを表面から浮かび上がらせて、操作ボタン7a,7b,7cの位置を表示するようにできる。
なお、変更形態として操作ボタン7a,7b,7cに対応する3つの磁石M1を設けて、操作ボタン7a,7b,7cごとに表面から浮かび上がらせて表示するようにすることもできる。
【0070】
第5実施形態[図14]:
本実施形態の磁気変形部材61は、ポータブル立体表示画面の表示装置として利用するものである。この磁気変形部材61の要部構成を
図14で示す。
図14(A)はその平面図、
図14(B)はその断面図である。これらの図で示すように、一つの磁性部2の形状を円柱状とし、複数個の磁性部2をベース部3中に縦横に規則的に配列している。一つの磁性部2の直径は、0.1〜5mmの範囲で選択した一の大きさにし、磁性部どうしに挟まれる部分のベース部の長さ(磁性部どうしの間隔)を0.1〜10mmの範囲で選択した一の長さとする。
また、表面の表示部には保護部を、裏面には硬質部を、そしてベース部の外周には規制部をそれぞれ設けている。
【0071】
磁性部の直径を0.1〜5mmとしたのは、0.1mm未満では、表面の凹凸の変化が小さくなりすぎ、触感の変化が小さくなるおそれがあるからであり、5mmよりも大きい場合には、もはや複数の磁性部による触感の変化というよりも、単一の磁性部の変位によって触感が変化し、対応できる変化のパターンが少なくなるからである。
また、磁性部どうしの間隔を0.1〜10mmとしたのは、0.1mm未満では磁性部どうしが影響し変位が小さくなるおそれがあるからであり、10mmを超えると対応できる変化のパターンが少なくなるおそれがあるからである。
【0072】
磁気変形部材の裏面s2には、個々の磁性部に対応した電磁石を配置しており、縦横に複数個配置した磁性部うち、所望の一個または複数個の磁性部のみに同時に磁場を印加し、それ以外の磁性部には磁場がかからない状態に置くことができる。
【0073】
磁性部および磁石を上記のように配列したため、所望の磁性部に磁場を印加することで、その磁場を印加した磁性部のみを変位させまた硬くすることができる。即ち、所望の磁性部を変位させ、その磁性部を設けた部分を表示部の表面から浮かび上がらせて所望の立体画像を表示させ、時間の経過によって印加する磁場のパターンを変えることで、その立体画像が変化し、その変化によって動画のように変化する立体画像を楽しむことができる。
【0074】
別の具体例としては所定の磁性部を浮かび挙がらせて点字とすることができ、ポータブル電子点字書籍として利用することができる。
【0075】
<変形例>
磁石の配置を磁性部に対する1:1対応で配置する代わりに、1個の磁性部の大きさを超えた所望の大きさを最小単位として磁場を印加し得る磁石とし、これを複数個設けることもできる。こうした磁石とすれば、その最小領域内の磁性部に磁場を印加することができ、その磁場を印加した領域内にある磁性部をまとめて変位させることができる。
なお、磁性部は規則的に配列した例を示しているが、必ずしも規則的である必要はなく、ランダムに配列したり、形状や間隔が異なる磁性部を併用したりしても、印加する磁場を制御することで、所望の立体画像を得ることも可能である。
【0076】
第6実施形態[図15]:
本実施形態の磁気変形部材71は、時刻表示装置として利用するものである。この磁気変形部材71の要部構成を
図15で示す。
図15(A)はその平面図、
図15(B)、
図15(C)は
図15(A)の別の位置の断面図である。これらの図で示すように、一つの数字8を形成し得る7つの要素をそれぞれ一つの磁性部2で形成し、その磁性部ごとに磁場を印加し得る磁石M1を配置している。
【0077】
磁場を印加しない状態においては、数字は表示されないが、所定の磁性部に磁場を印加することで特定の数字を浮かび上がらせて時刻を表示することができる。
【実施例】
【0078】
次に実施例に基づいて本発明を説明する。
各試料の磁気変形部材の形成:
<試料1〜7>
第1実施形態や第2実施形態に相当する磁気変形部材を作製した。まず、第1実施形態に相当する磁気変形部材として、横80mm×縦50mmで厚さが2mmのシート形状で、中央に10mm四方の貫通孔を3つ備えたベース部を形成し、続いて、この貫通孔を埋めるように磁性部を形成した。こうして試料1〜試料7の磁気変形部材を作製した。
【0079】
<試料8〜15>
また、第2実施形態に相当する磁気変形部材として、離型フィルムの上にスクリーン印刷で中央に10mm四方の大きさで所定の厚さとなるように3つの磁性部を印刷形成し、この離型フィルムを金型内にインサートし、横80mm×縦50mmで厚さが2mmのシート形状となるようにベース部を成形した。こうして試料8〜試料15の磁気変形部材を作製した。なお、平面視では試料8〜15と試料1〜7とは同じ形状である。
【0080】
<試料16>
さらに、第1実施形態に相当する磁気変形部材として、直径10mmのドット状でベース部の肉厚を貫通する磁性部を縦2列、横2列の合計5つ設け、その周囲をベースでとり囲んだ厚さが2mmとなる試料16の磁気変形部材を作製した。
<試料17>
また、第2実施形態に相当する磁気変形部材として、直径10mmのドット状で厚さが0.15mmとなる磁性部を縦2列、横2列の合計5つ設け、その周囲をベースでとり囲んだ厚さが2mmとなる試料17の磁気変形部材を作製した。なお、平面視では試料16と試料17とは同じ形状である。
【0081】
<試料18>
比較例に相当する試料として、横80mm×縦50mmで厚さが2mmのシート形状の全体を磁性部に相当する材料で形成した。こうして試料18の磁気変形部材を作製した。
【0082】
上記試料1〜試料18の磁気変形部材について、各試料を構成する具体的な材質、性質、添加量等の詳細を表1に示す。なお、各試料のベース部は付加反応型シリコーンで形成した。磁性部はベース部と同じ付加反応型シリコーンに、磁性体として平均粒径が5μmで球状の珪素鉄粉(磁性粉)を配合した混合組成物を硬化させて形成した。試料ごとの磁性粉の配合量は表1に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
各試料の性質:
<硬さの測定>
各試料の磁性部とベース部に用いた材料について、その材料のみからなる厚さ10mmの試験片を準備し、JIS K 6253のタイプEの硬度計を用いてE硬度を測定した。その結果を表1に示す。
<磁性部の変位量の測定>
各試料を厚さ1mmのポリカーボネート樹脂板の上に載せ、その下側に直径30mm、厚さ5mmの円柱形状のネオジム磁石(0.18テスラ)を配置することで磁場を印加し、磁場の印加の前後の磁性部の表面の変位をCNC画像測定機(株式会社ミツトヨ製「QV202−PRO」)で測定した。測定結果は、表面に突出するものを“+”で、表面から沈み込む方向の変位を“−”で記載した。なお、試料18の変位の測定は、磁石の外形に沿った、他の試料の測定位置と略同じ位置で測定した。その結果を表1に示すが、表1において、磁性部の中央部における変位を「中央部の変位」とし、磁性部のベース部側のベース部との境界側端部の変位を「境界部の変位」とし、この両者の変位の差を「変位の大きさ」として、それぞれの項目に示す。
【0085】
<針入度の測定>
各試料の磁性部とベース部を形成した材料について、個々の試料とは別にその材料のみからなる厚さ10mmの試験片を準備し、JIS K2220に準拠した装置を用いて表面の針入度を測定した。その際に、針の形状についてはJIS K2207に規定されるものを用い、針と針固定具全体の重さ(すなわち試験片にかかる重さ)は、50gとした。結果を表1に示す。
【0086】
<硬さの測定>
各試験片について、先端の平坦面の直径が5mmで円柱形状である金属製のプローブを用いて、圧縮速度1mm/minの速度で50%圧縮したときの荷重を測定した。その結果を表1の「磁性部の硬さ(N)」「ベース部の硬さ(N)」の項目に示す。また、磁性部については、0.18テスラの磁場を印加した状態で同様に荷重を測定した。その結果を表1の「磁場印加時の磁性部の硬さ(N)」に示す。さらに、磁性部について、磁場印加時の硬さと印加しない硬さの比である(磁場印加時の磁性部の硬さ(N)/磁場を印加しないときの磁性部の硬さ(N)×100)を、表1の「磁場印加時の磁性部の硬さの変化(%)」に示す。
【0087】
各試料の評価:
<変位の大きさの評価>
中央部ではマイナスに変位し、境界部ではプラスに変位した試料であって、変位の大きさの値が200μm以上だったのものを“◎”とした。
中央部ではマイナスに変位し、境界部ではプラスに変位した試料であって、変位の大きさの値が50μm以上200μm未満だったのものを“○”とした。
中央部ではマイナスに変位し、境界部ではプラスに変位した試料であって、変位の大きさの値が10μm以上50μm未満だったのものを“△”とした。
中央部と境界部で変位の方向が同じだったもの、または中央部ではマイナスに変位し、境界部ではプラスに変位しているが、変位の大きさの値が10μm未満だった試料を“×”とした。この結果を表1に示す。
【0088】
<硬さの変化の評価>
各試料に対応する試験片の硬さの変化を次のように評価した。磁場を印加した際の硬さと印加しないときの硬さの変化が110%未満のものを“×”、110%以上150%未満のものを“△”、150%以上200%未満のものを“○”、200%以上のものを“◎”とした。この結果を表1に示す。
【0089】
<触感の変化の評価>
前記変位の大きさの評価結果と、硬さの変化の評価結果に基づき以下のように評価した。「◎と◎」、「◎と○」の場合には“◎”とした。「○と○」、「◎と△」、「○と△」、「×と◎」の場合には“○”とした。「△と△」、「×と○」、「×と△」の場合には“△”とした。そして、硬さの評価にかかわらず変位が“×”の場合には“×”とした。この結果を表1の「触感の変化」項目に示す。なお、上記「〇と〇」とした記載は、前者が変位の大きさの評価結果を、後者が硬さの評価結果をそれぞれ示す。
【0090】
考察:
<従来例との比較>
試料18は、ベース部を形成せずに、全体を磁性部の材料で構成した試料である。この試料18では、磁場を印加しても表面に突出する変位は見られず、平坦な表面がゆるやかに凹むように変位をしていたため、触感の変化はほとんど感じられなかった。この試料18に対して、試料1〜17は、磁性部のベース部側の境界は突出方向に、磁性部の中央部分は凹み方向に変位しており、触感の変化が際立っていた。
【0091】
<磁性部の硬さの影響について>
磁性部の硬さに相違のある試料1、4〜7を比較すると、針入度が30であり、やや硬めの磁性部を備える試料1は、硬さの変化が“△”であった。磁場を印加する前にもある程度の硬さを備えるため、硬さの変化が小さくなったものと思われる。一方、針入度が300と柔軟な試料6については、硬さの変化が“○”であった。試料6は、磁性部を極めて柔軟なものにするために、磁性粉の配合量を減らしているため、この場合は、所定の磁力によって生じる磁性粉どうしの拘束力が弱く、磁場を印加した状態において、やや硬さの上昇が小さかったものと思われる。これらの試料に対して、試料4、5、7は硬さの変化が大きく、何れも200%以上の変化を示していた。針入度が80の試料7では硬さの変化が300%を超えていた。これらの結果より、磁性部の硬さが針入度で80〜190のときに、硬さの変化の増大に対して好ましいことがわかる。
【0092】
針入度が30でありやや硬めの磁性部を備える試料1は、変位の大きさが68μmでありその評価は“〇”となった。一方、針入度が300であり柔軟な試料6についても、変位の大きさが73μmでありその評価は“〇”となった。また、針入度の値が110である試料4や、針入度の値が190である試料5についても変位の大きさの評価は“〇”となった。これらの結果から、磁性部の硬さが針入度で30〜300のときに、変位の大きさの増大に対して好ましく、その中では針入度が110〜190のときにより好ましいことがわかる。
なお、試料1で変位の大きさが68μm程度となったのは、磁性部が硬いため、所定の磁力によって生じる応力では大きな変位を生じさせることができなかったためと考えられる。また、試料6で変位の大きさが73μm程度となったのは、磁性粉の配合量を減らしてあり磁性部が極めて柔軟であるが、この場合でも、所定の磁力によって生じる応力が弱く、大きな変位を生じさせるまでに至らなかったためと考えられる。
【0093】
磁性部がベース部を貫通する前記試料1、4〜7に対して、ベース部の上に磁性部を有する構成の試料8、10〜13では、「硬さの変化」について何れも“×”となった。その理由は、磁性部そのものは硬さが変化しているものの、積層するベース部が柔軟なため、磁場の印加の有無にかかわらず積層体全体としてベース部の柔らかさに起因して硬くならなかったと考えられる。したがって、これらの試料のように磁性部をベース部に積層した構成とすれば、磁場の印加によって硬さの変化を生じさせ難い磁気変形部材を得る事ができることがわかる。
【0094】
針入度が30であり、やや硬めの磁性部を備える試料8においても、変位の大きさが265μmとなりその評価は“◎”となった。この結果は試料1の結果と対照的であるが、その理由は、磁性部が硬いものの柔軟なベース部が積層するため、磁性部の硬さがやや硬い場合であっても、変形が許容されるためであると考えられる。より具体的には、試料1では磁性部の圧縮と伸び変形を伴う変位であったの対して、試料8の場合には、圧縮や伸びよりも、曲げ変形によって変位しているように見えた。このため、磁性部が伸びにくい程度に硬い場合であっても、曲げを許容するものであれば、大きな変位となるものと考えられる。
【0095】
一方、針入度が300と柔軟な試料12については、変位の大きさの評価が“△”となった。試料12は、磁性粉の配合量が減って磁性部が極めて柔軟なものになっているが、この場合には、所定の磁力によって生じる応力が弱く、膜厚が薄いことも相まって、大きな変位を生じさせる応力が生じなかったことが考えられる。また、試料10、11については、試料4、5と同様に、変位の大きさが大きいものとなった。これらの結果より、所定厚みの磁性部を形成して、磁性部とベース部とを積層する構成の場合には、磁性部の硬さが針入度で30〜190のときには変位の大きさの増大に対して好ましいことがわかる。
【0096】
<ベース部の硬さの影響について>
ベース部の硬さが相違する試料2〜4について「硬さの変化」の評価結果が同じであり、「硬さの変化」はベースの硬さに影響を受けない結果となった。一方「変位の大きさ」については、ベース部の針入度が80の試料2で変位の大きさが小さく “△”となり、試料3、4で“〇”となったことから、試料2では、ベース部が硬く、磁性部とベース部の境界で磁性部が拘束され、変形が抑制されたと考えられる一方で、ベース部の針入度が120および320である試料3、4では、大きな変位を生じさせており、ベース部の針入度が120以上であれば大きな変位を生じさせることができ、ベース部が柔軟であればあるほど、磁性部の変位の大きさを大きくさせることができると考えられる。
【0097】
試料9、10は何れも「硬さの変化の評価」について“×”であり、磁性部の硬さを変化させたときと同様であった。その理由についても、同様で、磁性部そのものは硬さが変化しているものの、積層するベース部の硬さが大きく影響し、磁場の印加の有無にかかわらず全体の硬さが変化しにくかったものと思われる。ただし、ベース部の硬さが硬くなるにつれて、ベース部の硬さの影響が小さくなり、やや硬さの変化がみられるようになっていた。
また、ベース部の針入度が120の試料9で「変位の大きさの評価」について“△”、ベース部の針入度が320の試料10で“◎”となり、ベース部の針入度が大きいほど、変位の大きさが大きくなると思われる。
【0098】
<磁性粉の配合量の影響について>
同一のマトリクスに対しての磁性粉の配合量が異なる試料4〜7の「硬さの変化の評価」をみると、磁性粉の配合量が多くなるにつれて、硬さの変化が大きくなることがわかる。また、配合量が少ない試料6については硬さの変化が“○”であり、他の試料では硬さの変化の評価が“◎”であったことから、磁性粉の配合量は20〜49質量%としたときに、硬さの変化の増大に対して好ましいことがわかる。
【0099】
また、磁性粉の添加量が少ない試料6と、磁性粉の添加量が多い試料7の双方とも「変位の大きさ」は小さいものであった。磁性粉の配合量が少ない試料6では、所定の磁力によって生じる応力が弱く、大きな変位を生じさせるに至らなかったものと考えられる一方で、磁性粉の配合量が多い試料7では、磁場を印加する前から磁性粉どうしが接触しており、磁力によって引き付けあっても、磁性粉どうしの間隔が変化し難いことから、大きな変位を生じさせることができなかったと考えられる。これらの結果より、磁性粉の配合量を20〜40質量%とすると、変位の大きさの増大に対して好ましいことがわかる。
【0100】
試料10〜13は何れも「硬さの変化の評価」について“×”であり、磁性部の硬さを変化させたときと同様であった。その理由についても、同様で、磁性部そのものは硬さが変化しているものの、積層するベース部の硬さが大きく影響し、磁場の印加の有無にかかわらず全体の硬さが変化しにくかったものと思われる。
【0101】
磁性粉の添加量が6質量%の試料12では、変位の大きさが小さいものの、磁性粉の添加量が20〜45質量%の試料10、11、13では、変位の大きさが大きいものとなった。この結果より、所定厚みの磁性部を形成して、ベース部と積層する構成の場合には、磁性粉の添加量が20質量%以上添加されていれば、変位の大きさを大きくできることがわかる。
【0102】
<磁性部の厚みについて>
総厚を2mmに一定にして、磁性部の厚みを変化させた試料4、10、14、15の「硬さの変化の評価」に関し、試料4では“◎”、試料15では“◎”、試料14は“△”、試料10は“×”であった。この試験では、50%圧縮しているため、総厚の50%が磁性部で構成されている試料15については、磁性部の硬さの変化が大きく影響しており、硬さの変化が大きくなることがわかる。一方、磁性部の厚みが25%の試料14については、磁性部に積層するベース部の影響が大きく、硬さの変化が小さくなることがわかる。この結果より、磁性部の厚みが厚いほど、硬さの変化が大きくなることがわかる。
一方、「変位の大きさ」については、いずれの試料において、大きな変位量を示しており、磁性部の厚さによらず、大きな変位が得られることがわかる。
【0103】
試料16、17の「硬さの変化」について、試料16では“○”であり、試料17は“×”であった。試料16の磁性部は、肉厚を貫通しているものの、周囲を柔軟なベース部が覆っているため、押圧時には横方向に膨らむことで荷重の上昇が軽減され、全体としては硬さの変化がやや小さくなっているように思われる。一方、試料17については、磁性部そのものは硬さが変化しているものの、積層するベース部の硬さが大きく影響し、磁場の印加の有無にかかわらず全体の硬さが変化しにくかったものと思われる。
一方、「変位の大きさ」については、試料16、17ともに、境界部が突出している様子が確認された。また、複数ある磁性部について、磁場を印加した磁性部のみが変位している様子が確認できた。
【0104】
上記実施形態や実施例で示した形態は本発明の例示であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、実施形態の変更または公知技術の付加や、組合せ等を行い得るものであり、それらの技術もまた本発明の範囲に含まれるものである。例えば、磁性部やベース部、そして磁気変形部材の図面に示した形状はその一例であり、こうした形状に限定されるものではない。