(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の詳細について実施形態に基づいて説明する。
【0016】
<セルロース材料>
本実施形態のセルロースナノファイバーシートは、異なる製造方法により製造された2種類以上のセルロースナノファイバーを含むものである。ここで、セルロースナノファイバーとは、セルロースミクロフィブリルまたはセルロースミクロフィブリル集合体のことで、幅2〜数百nmオーダーのセルロース繊維のことを指す。
【0017】
セルロースナノファファイバーはセルロース材料より製造することができる。本実施形態で用いられるセルロース材料は、特に限定されるものではなく、各種木材、非木材パルプ、微生物産生セルロース、バロニアセルロース、ホヤセルロース等の天然セルロースを用いることができ、パルプ化の方法や、精製方法、漂白方法などについて特に限定されない。しかし、より物性を制御し、純度や再現性を高くするためには、漂白済みのパルプや溶解パルプなど精製度の高いセルロース材料を用いることが好ましい。
【0018】
天然のセルロースは、セルロース合成酵素による合成と、広い意味での自己組織化により、高い結晶構造を有する数nmから数百nmのセルロースナノファイバーを形成する。このセルロースナノファイバーが様々な方向に配向・集合することで、セルロース繊維を形成している。従って、天然のセルロースは元々70%以上の結晶化度を有している。パルプやコットン、バクテリアセルロースなどの天然のセルロース素材を用い、結晶構造を壊すことなく、できるだけセルロースミクロフィブリルに近い構造単位にまでほぐすことで、高い結晶構造を有するセルロースナノファイバーを得ることができる。高い結晶性を有するセルロースナノファイバーを用いることで、セルロースナノファイバーシートが、耐熱性、耐溶剤性、低線膨張率等の特性を有する。
【0019】
<セルロースナノファイバー>
本実施形態のセルロースナノファイバーシートは、(1)セルロース材料に化学処理を施した後、解繊処理を行うことにより得られるセルロースナノファイバー(化学変性セルロースナノファイバー)と、(2)セルロース材料に解繊処理のみ行って得られるセルロースナノファイバー(未化学変性セルロースナノファイバー)と、をともに含む。セルロースに化学処理を施した後、解繊処理を行うことで得られるナノファイバーは、幅数nmまで均一に微細化が可能であり、シート化した際に透明性の高いシートが得られる。しかしながら、化学処理の過程でセルロース低分子量化、短繊維化が進みやすく、ナノファイバー同士の絡み合いが弱くなるため、シートの強度が低下し、曲げや引っ張りに対して耐性が低くなる。
【0020】
一方、化学処理を行うことなく解繊処理を施した場合、得られるナノファイバーの繊維径は数十〜数百nmオーダーのナノファイバーとなり、これ以上の微細化は困難である。このようなセルロースナノファイバーを単独でシート化した場合、シートは不透明となるが、繊維長の長いナノファイバーが多く含まれるため、シートの曲げ性、伸びは向上する。
【0021】
上記2種類のセルロースナノファイバーを混合しシート化することで曲げ性と透明性とを両立するセルロースナノファイバーシートを得ることができる。また、粗大な未化学変性セルロースナノファイバーのファイバー間を、微細な化学変性セルロースナノファバーが埋めることにより、より緻密で寸法安定性や平滑性に優れるシート材を得ることができる。
【0022】
セルロース材料に施す化学処理としては、酸化処理、リン酸エステル化処理、酵素処理、オゾン処理など、公知の処理方法を用いることができる。中でも、水系にて温和な条件で反応が可能で、セルロースの結晶構造を維持したまま軽微な機械的分散処理でセルロースナノファイバーを得ることができることから、N−オキシル化合物を用いた酸化処理が好適である。
【0023】
セルロース材料に対するN−オキシル化合物を用いた酸化処理とは、例えば、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル)またはその誘導体の存在下で共酸化剤を用いて、セルロースミクロフィブリル表面のグルクロン酸骨格中の6位の水酸基を選択的に酸化する化学処理である。この酸化方法では、酸化の程度に応じて、カルボキシル基を均一かつ効率よく導入できる。導入されたカルボキシル基の静電反発作用により、セルロースミクロフィブリルが安定的に分散し、容易にセルロースナノファイバーを得ることが可能となる。本酸化反応は、水系にてTEMPO触媒と、臭化物又はヨウ化物との共存下で行うのが有利である。臭化物又はヨウ化物としては、水中で解離してイオン化可能な化合物、例えば、臭化アルカリ金属やヨウ化アルカリ金属などが使用できる。共酸化剤としては、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸や過ハロゲン酸又はそれらの塩、ハロゲン酸化物、窒素酸化物、過酸化物など、目的の酸化反応を推進し得る酸化剤であれば、いずれの酸化剤も使用できる。
【0024】
セルロース材料の酸化反応系は、触媒であるN−オキシル化合物としてTEMPOを用い、臭化ナトリウムの存在下、共酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムを用いるのが好ましく、温和な条件下で短時間でナノファイバー化に必要なカルボキシル基を導入できる。
【0025】
セルロース材料の結晶表面への酸化の選択性を上げ、副反応を抑える目的で、反応温度は室温以下で、系が凍らない範囲で反応させることが望ましい。0℃以上30℃以下、より好ましくは5℃以上20℃以下の範囲であると、セルロース繊維の結晶内部の酸化などの副反応が抑えられる。
【0026】
また、触媒として4−アセトアミドTEMPOを用い、共酸化剤として亜塩素酸ナトリウムを用いる系も、後述する黄変の原因となるアルデヒド基の生成を抑制する効果があり好ましい。
【0027】
セルロース材料に導入するカルボキシル基の量としては、セルロース材料の重量に対し、1.0mmol/g以上2.5mmol/g以下、好ましくは1.3mmol/g以上2.0mmol/g以下であれば、結晶性を損なうことなく安定した2〜4nmオーダーのセルロースナノファイバーを提供できる。セルロース材料中のカルボキシル基量は、酸化されたセルロース材料を用いて、伝導度測定を行うことにより求めることができる。本実施形態のセルロースナノファイバーシートは、上記繊維径範囲のセルロースナノファイバーが含まれることにより、透明なシート材を提供することができる。
【0028】
また、この方法によりセルロース材料を酸化させると、カルボキシル基の他に、酸化の中間体であるアルデヒド基を導入残存することになる。このアルデヒド基は、ナノ化を阻害したり、着色を促進させたりする場合がある。アルデヒド基が存在するセルロースナノファイバーは、熱や光、アルカリなどの影響により、β脱離などの各種分解反応が起こり、二重結合が導入され、あるいは架橋反応などにより著しく着色する。着色したセルロース繊維あるいは基材は、光線透過率が低下し、透明性が損なわれる。特に、660nmの光線透過率が70%より低いと、効率よく光を透過することができず、透明基材としては機能を発揮できない。そのため、アルデヒド基を残さないために、セルロースを追酸化させることで、一度導入されたアルデヒド基をカルボキシル基に変換することができる。
【0029】
具体的には、TEMPO酸化されたセルロース材料に対し、追酸化剤として亜塩素酸ナトリウムを用いるのが好ましい。亜塩素酸ナトリウムを用いると、アルデヒド基のみを選択的に酸化し、カルボキシル基に変換することができる。
【0030】
上記の追酸化反応はTEMPO酸化反応の系と同様に、0℃以上30℃以下の範囲で反応を行うのが好ましく、より好ましくは5℃以上25℃以下である。
【0031】
この追酸化反応における反応系のpHは、反応の効率の面からpH4程度が好ましい。
【0032】
セルロースナノファイバーは、アルデヒド基量が少ないほど着色、黄変しにくく、透明基材として適した材料として用いることができる。セルロース繊維に存在するアルデヒド基量が、セルロースの重量に対し、0.20mmol/g以下、好ましくは0.03mmol/g以下であると変色しにくく、安定した透明基材として提供することができる。
【0033】
一方、アルデヒド基量が0.03mmol/gを超えるセルロース繊維を含む基材は、100℃で3時間の加熱をすることで黄色く変色する。これは、アルデヒド基を含む場合、分子間あるいは分子内で三次元的な架橋を起こしやすいことや、分解反応が進行しやすいためと考えられる。この変色の有無は、加熱後に光線透過率を測定することで確認することができる。尚、100℃で3時間加熱した後の450nmの光線透過率が、70%以上であれば、効率よく光を透過することができ、透明基材として機能を発揮することができる。
【0034】
また、上記追酸化反応の他に、セルロース繊維に導入されたアルデヒド基を還元することで変換する方法もある。この場合、セルロース繊維に還元剤として水素化ホウ素ナトリウムを作用させることで、アルデヒド基を水酸基に変換することができる。これらの方法は、TEMPO酸化反応の反応液に追酸化剤、還元剤を投入することで連続的に処理することも可能であり、着色、黄変の原因となるTEMPO酸化セルロース中のアルデヒド基量を、非常に簡便な手法で低減することが可能である。
【0035】
TEMPO酸化処理後のセルロース材料中のアルデヒド基の量は、追酸化または還元後のセルロース材料に対して伝導度測定を行いカルボキシル基量を測定し、追酸化または還元前のカルボキシル基量からの差分を求めることにより算出可能である。TEMPO酸化後に、一度追酸化または還元処理を行うことにより、アルデヒド基を上述した好適な範囲に収めることができるため、安定した透明基材を提供することが可能となる。
【0036】
酸化反応後のセルロース材料は、反応液を濾別または脱水し、水等で洗浄を繰り返すことにより精製し回収することができる。このとき、一旦反応系を弱酸性から酸性(例えばpH3以下)としカルボキシル基を酸型としてから洗浄、回収することで酸化セルロースの濾水性がよくなり、収率や純度が向上する。
【0037】
次に、TEMPO酸化後の酸化セルロース材料に解繊処理を施して、化学変性セルロースナノファイバー分散液を得る。解繊処理には、通常のジューサーミキサー、ヘンシェルミキサー、高速ミキサー、シェアミキサー、リボンブレンダー、ホモミキサー、ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、ボールミル、サンドミル、遊星ミル、三本ロール、グラインダー、アトライター、バスケットミルなどを用いることができる。
【0038】
具体的には、上記の酸化セルロース材料を分散媒である水系媒体に浸漬する。この時、浸漬した液のpHは、例えば4以下となる。酸化セルロース材料は水系媒体に不溶であり、浸漬した時点では不均一な懸濁液となっている。次に、アルカリを用いて懸濁液のpHをpH4以上pH12以下の範囲に調整する。特に、pHをpH7より大、かつ、pH12以下のアルカリ性とすることで、カルボン酸塩を形成する。これにより、カルボキシル基同士の電気的反発が起こりやすくなるため、分散性が向上し微細化されたセルロースナノファイバーを得やすくなる。この条件で上記の解繊処理を行うことで、効率よくセルロースナノファイバー分散液が得られる。
【0039】
アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アンモニア水、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウムなど、市販の種種のアルカリ水溶液を用いることができる。中でも、コストや入手のし易さの点から水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。また、アルカリとして水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウムなど、4級アンモニウムイオンの水酸化物を用いて調製したセルロースナノファイバーを用いてシート化すると、得られるシートの柔軟性が高まる効果があり、これらのアルカリも好適に用いることができる。特に、長鎖のアルキル基を有するアンモニウムイオンを用いた場合に効果が顕著である。シートの柔軟性が高まる理由としては、カルボキシル基の対イオンとして、アルキル基を有するアンモニウムイオンが配位し、剛直なセルロースナノファイバー間で可塑剤的に振舞うものと考えられる。
【0040】
分散媒中の酸化セルロース材料は、繊維の表面に生成したカルボキシル基が荷電反発し拡散することにより、ナノファイバーが孤立しやすくなるため、透明な分散体を得ることができる。分散液の透過率を分光光度計により測定すると、波長660nm、光路長1cmにおいて90%以上の透過率となる。解繊処理によりセルロース材料は微細化し、セルロースナノファイバーとなる。解繊処理後のセルロースナノファイバーは、数平均繊維径(繊維の短軸方向の幅)が50nm以下であることが好ましい。セルロースナノファイバーの繊維径は、走査型電子顕微鏡(SEM)や原子間力顕微鏡(AFM)により確認できる。
【0041】
特に、上述のTEMPOを用いた酸化方法により、パルプなどのセルロース繊維を酸化すると、結晶表面に効率的にカルボキシル基が導入されるため、その後の水中での解繊処理において、より少ないエネルギーでセルロースナノファイバーが調製できることが分かっている。このセルロースナノファイバーは繊維径が3nm以上4nm以下、長さが数百nm程度であり、この方法で調製されたセルロースナノファイバーは、シート材の構成材料として特に好適に用いることができる。
【0042】
次に、セルロースを解繊処理のみ行ってセルロースナノファイバーを調製する場合、公知の解繊方法にて処理をすることができる。例えば、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、グラインダーなどで繰り返し処理することにより、繊維径20nm以上500nm以下、繊維長3μm以上のセルロースナノファイバーを調製することが可能である。繊維径、繊維長がこの範囲内であれば、化学変性セルロースナノファイバーと混合したセルロースナノファイバーシートにおいて、曲げ性と透明性を発揮することができる。
【0043】
<セルロースナノファイバーシート>
本実施形態のセルロースナノファイバーシートは、化学変性セルロースナノファイバー分散液と、未化学変性セルロースナノファイバー分散液とを混合し製造する。化学変性セルロースナノファイバーは、変性方法の異なる2種類以上の化学変性セルロースナノファイバーを用いても良い。また未化学変性セルロースナノファイバーも、例えば原料の異なる2種類以上の未化学変性セルロースナノファイバーを用いても良い。化学変性セルロースナノファイバーと、未化学変性セルロースナノファイバーとの混合比は、求める特性に応じて最適な比率を任意に設定できるが、95/5から5/95が好ましく、より好ましくは20/80から80/20である。混合比が95/5から5/95の範囲を外れると、曲げ性と透明性の両立が困難となる。
【0044】
本実施形態のセルロースナノファイバーシートは、上記の混合セルロースナノファイバー分散液を乾燥することで得ることができる。具体的な方法としては、セルロースナノファイバーを含む分散液を平滑な容器に流し込み、室温以上160℃以下で乾燥させることにより、目的のシート材を得ることができる。この際の乾燥温度は、低いほど均一で着色のないものが得られる。
【0045】
他にも、セルロース繊維を含む分散液を平滑な容器に流し込み、例えば、100℃で10分、130℃で10分、150℃で10分乾燥させるように、徐々に乾燥温度を上昇させることで、速やかに平滑なシート材を得る方法もある。
【0046】
また、多孔質基材、ロール状多孔質基材、又はフィルム基材の表面にセルロースナノファイバーを含む分散液をキャスト、コーティング、型押し、鋳型成形する方法でも本実施形態に係るシート材を得ることができる。特に、多孔質基材やロール状多孔質基材を用いた方法では、分散媒を除去するためのエネルギーを大きく減少させることができる。また、従来のように、乾燥して得られたシート材を単独あるいは重ね合わせた後、プレス機・カレンダーなどにより圧力をかけることで、より平滑で透過率や屈折率にムラのないシートを得ることができる。
【0047】
さらに、セルロースナノファイバーを含む分散液に含まれる分散媒が、アルコール等の低沸点の分散媒との混合液である場合には、乾燥効率が良く乾燥後の塗膜に分散媒が残りにくいため、緻密な膜が形成できる。例えば、アルコールとしては、コストや沸点の面から、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノールの低分子量アルコールを用いることができる。
【0048】
セルロースナノファイバーシートの厚みは、用途に応じ任意に設定することができるが、10μm以上200μm以下であることが好ましい。厚みが10μmより小さい場合、強度が保てず、クラックなどの原因となる。また、厚みが200μmより大きい場合、乾燥工程の負荷が大きくコスト的に不利であり、透過率も低下する。
【0049】
また、セルロースナノファイバーシートを23℃50%にて調湿した場合のシートの伸び率が2%以上であることが好ましい。2%以上であれば、シートの強度が向上し、曲げや引っ張りに対して耐性が高くなる。
【0050】
また、本実施形態に係るセルロースナノファイバーシートには、用途に応じて紫外線吸収剤、劣化防止剤、帯電防止剤等の添加剤を添加することができる。
【0051】
また、本実施形態に係るセルロースナノファイバーシートは、用途に応じ他のシート状基材と組み合わせて使用することができる。
【0052】
本実施形態に係るセルロースナノファイバーシートによれば、少なくとも1種類の化学変性セルロースナノファイバーと、少なくとも1種類の未化学変性セルロースナノファイバーとを含むことにより、曲げ性と透明性とを両立させ、かつ、緻密で寸法安定性や平滑性に優れるシート材を得ることが可能となる。
【0053】
(実施例)
以下に、本発明の実施例を説明する。なお、以下の実施例は本発明の一例であり、本発明はこれらの実施例には限定されない。また、以下の各例において、「%」は、特に断りのない限り、質量%(w/w%)を示す。
【0054】
[製造例1]
<TEMPO酸化セルロースナノファイバーの調製>
(1)セルロースのTEMPO酸化処理
針葉樹クラフトパルプ30gを水600gに浸漬し、ミキサーにて分散させた。分散後のパルプスラリーにあらかじめ水200gに溶解させたTEMPOを0.3g、臭化ナトリウムを3g添加し、更に水で希釈し全体を1400mLとした。系内を20℃に保ち、セルロース1gに対し10mmolになるよう次亜塩素酸ナトリウム水溶液を計りとり滴下した。滴下開始からpHは低下を始めたが、0.5N水酸化ナトリウム水溶液を随時滴下し、系のpHを10に保った。3時間後、エタノールを30g添加し、反応を停止させた。反応系に0.5N塩酸を添加し、pH2まで低下させた。酸化パルプをろ過し、0.01N塩酸または水で繰返し洗浄した後、固形分濃度16%の酸化セルロースを得た。
【0055】
得られた酸化セルロースについて、含有されるカルボキシル基量は、以下の方法にて算出した。TEMPO酸化処理したセルロースの乾燥重量換算0.2gをビーカーにとり、水80mlを添加した。これに、0.01M塩化ナトリウム水溶液0.5mlを加え、攪拌させながら0.1M塩酸を加えて、全体がpH2.6となるように調整した。次に、自動滴定装置(東亜ディーケーケー(株)、AUT−701)を用いて、0.5N水酸化ナトリウム水溶液を0.015ml/30秒で注入し、30秒毎の電導度とpH値を測定し、pH11になるまで測定を続けた。得られた電導度曲線から水酸化ナトリウムの滴定量を求め、カルボキシル基の含有量を算出した。測定を行った結果、得られたカルボキシル基量は1.55mmol/gであった。
【0056】
(2)酸化セルロースの追酸化処理
上記(1)で得られた酸化セルロースの乾燥重量10gに対して、固形分濃度10%の懸濁液になるように水を添加し、亜塩素酸ナトリウム9gと5M酢酸100mlとを添加した。これを48時間室温中で攪拌しながら反応させ、十分に水洗することにより、TEMPO酸化処理により生成したアルデヒド基を酸化した。
【0057】
追酸化処理した酸化セルロースについては、上記(1)で得られた酸化セルロースと同様の方法によりカルボキシル基の測定を行った。その結果、追酸化処理後の酸化セルロースのカルボキシル基量は1.62mmol/gであった。
【0058】
追酸化の結果、TEMPO酸化処理後の酸化セルロースのアルデヒド基量は、1.62−1.55=0.07mmol/gであることがわかった。
【0059】
(3)追酸化処理後の酸化セルロースの分散処理
上記(2)で得られた酸化セルロース5gに水を加え固形分濃度1%となるように調製し、攪拌しながら1N水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH10に調整した。続いてミキサー(大阪ケミカル、アブソルートミル、14,000rpm)を用いて2時間処理し、微細化することにより透明なセルロースナノファイバー分散液を得た。得られたセルロースナノファイバー分散液の固形分濃度は0.97%であった。
【0060】
[製造例2]
<TEMPO酸化セルロースナノファイバーの調製>
[製造例1]の(1)と同様に調製したTEMPO酸化セルロース5gに水を加えて固形分濃度1%となるように調製し、撹拌しながら1N水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH10に調整した。続いてミキサー(大阪ケミカル、アブソルートミル、14,000rpm)を用いて2時間処理し、微細化することにより透明なセルロースナノファイバー分散液を得た。得られたセルロースナノファイバー分散液の固形分濃度は0.98%であった。
【0061】
[製造例3]
<TEMPO酸化セルロースナノファイバーの調製>
[製造例1]の(1)と同様に調製したTEMPO酸化セルロース5gに水を加えて固形分濃度1%となるように調製し、撹拌しながら10%水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液を用いてpH10に調整した。続いてミキサー(大阪ケミカル、アブソルートミル、14,000rpm)を用いて2時間処理し、微細化することにより透明なセルロースナノファイバー分散液を得た。得られたセルロースナノファイバー分散液の固形分濃度は1.0%であった。
【0062】
[製造例4]
<機械的解繊によるセルロースナノファイバーの調製>
(1)分散処理
針葉樹漂白クラフトパルプ(乾燥重量で40g)に水を加え固形分2%となるように調整した。これをミキサー(大阪ケミカル、アブソルートミル、14,000rpm)で20秒間処理し粗くほぐした。続いて石臼式摩砕機(増幸産業、スーパーマスコロイダー)により繰り返し処理(砥石E−46深型にて7パス、砥石G−80型にて6パス)し、白色クリーム状のセルロースナノファイバー分散液(固形分濃度1.7%)を得た。
【0063】
[製造例の評価1]
製造例1−3の分散液を0.001%濃度まで希釈し、マイカ上に塗布した後に、加熱乾燥させた試料を原子間力顕微鏡(AFM)にて繊維形態を観察した。1本ずつ存在している任意の繊維10点の幅の平均を求め、平均の繊維径とした。
製造例1・・・・・3nm
製造例2・・・・・3nm
製造例3・・・・・3nm
製造例4・・・・・250nm
観察した結果、製造例1−3のセルロースナノファイバーの繊維径はほぼ同等であった。また、製造例1−3の繊維長はAFM観察の結果から400〜800nmであった。また、製造例4の繊維長は、レーザー顕微鏡にて観察を行った結果、5μm以上であった。
【0064】
<セルロースナノファイバーシートの作製>
[実施例1]
[製造例1]で得られたセルロース分散液と[製造例4]で得られたセルロースナノファイバー分散液とを配合比8:2で混合し、ポリスチレン製容器上にキャストし、50℃のオーブン中で24時間かけて乾燥させ厚み20μmのセルロースナノファイバーシートを得た。
【0065】
[実施例2]
[製造例1]で得られたセルロース分散液と[製造例4]で得られたセルロースナノファイバー分散液とを配合比5:5で混合し、ポリスチレン製容器上にキャストし、50℃のオーブン中で24時間かけて乾燥させ厚み20μmのセルロースナノファイバーシートを得た。
【0066】
[実施例3]
[製造例1]で得られたセルロース分散液と[製造例4]で得られたセルロースナノファイバー分散液とを配合比2:8で混合し、ポリスチレン製容器上にキャストし、50℃のオーブン中で24時間かけて乾燥させ厚み20μmのセルロースナノファイバーシートを得た。
【0067】
[実施例4]
[製造例2]で得られたセルロース分散液と[製造例4]で得られたセルロースナノファイバー分散液とを配合比5:5で混合し、ポリスチレン製容器上にキャストし、50℃のオーブン中で24時間かけて乾燥させ厚み20μmのセルロースナノファイバーシートを得た。
【0068】
[実施例5]
[製造例3]で得られたセルロース分散液と[製造例4]で得られたセルロースナノファイバー分散液とを配合比5:5で混合し、ポリスチレン製容器上にキャストし、50℃のオーブン中で24時間かけて乾燥させ厚み20μmのセルロースナノファイバーシートを得た。
【0069】
[比較例1]
[製造例1]で得られたセルロース分散液をポリスチレン製容器上にキャストし、50℃のオーブン中で24時間かけて乾燥させ厚み20μmのセルロースナノファイバーシートを得た。
【0070】
[比較例2]
[製造例2]で得られたセルロース分散液をポリスチレン製容器上にキャストし、50℃のオーブン中で24時間かけて乾燥させ厚み20μmのセルロースナノファイバーシートを得た。
【0071】
[比較例3]
[製造例4]で得られたセルロース分散液をポリスチレン製容器上にキャストし、50℃のオーブン中で24時間かけて乾燥させ厚み20μmのセルロースナノファイバーシートを得た。
【0072】
<評価>
以下の方法により、セルロースナノファイバーシートの評価を行った。
【0073】
(1)セルロースナノファイバーシートの平坦性評価
実施例1−5及び比較例1−3のセルロースナノファイバーシートについて、シートの状態を以下の基準により評価した。○および△が実用上問題ないレベルである。その結果を表1に示す。
○ : 全面的に平坦で均一である。
△ : 部分的に歪みがみられる。
× : 全面的に歪みがみられる。
【0074】
(2)光線透過率測定
実施例1−5及び比較例1−3のセルロースナノファイバーシートについて、U−4000分光光度計(日立製作所製)を用いて、660nmにおける光線透過率を測定した。同様に、実施例1−10及び比較例1−3のフィルムについて、U−4000分光光度計(日立製作所製)を用いて、100℃で3時間加熱した後の450nmにおける光線透過率を測定した。その結果を表1に示す。
【0075】
(3)セルロースナノファイバーシートの伸び測定
実施例1−5及び比較例1−3のセルロースナノファイバーシートを23℃50%環境下で一晩調湿し、小型卓上試験機EZ−LXオートグラフ(島津製作所製)を用いて、幅10mm、スパン10mm、速度5mm/minにて引っ張り、伸び率の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0077】
<評価結果>
表1の結果の通り、実施例1−5においては、化学変性セルロースナノファイバーと未化学変性セルロースナノファイバーを混合することにより、平坦で、透過率が高く、加熱後の変色が少なく、かつ、伸び率の高いセルロースナノファイバーシートを得ることができた。
【0078】
一方、化学変性セルロースナノファイバーのみからなる比較例1及び比較例2のセルロースナノファイバーシートは、伸び率が低く、引っ張りに対して耐性が低いことがわかった。また、未化学変性セルロースナノファイバーのみからなる比較例3のセルロースナノファイバーシートは、光線透過率が低く、加熱後の変色もみられることから、透明基材として機能を発揮できないことがわかった。また、全面的に歪みがみられ、平坦で均一なシートを得ることができなかった。