特許第6575170号(P6575170)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6575170-電圧非直線性抵抗体磁器および電子部品 図000011
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6575170
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】電圧非直線性抵抗体磁器および電子部品
(51)【国際特許分類】
   H01C 7/10 20060101AFI20190909BHJP
【FI】
   H01C7/10
【請求項の数】3
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-128791(P2015-128791)
(22)【出願日】2015年6月26日
(65)【公開番号】特開2017-17053(P2017-17053A)
(43)【公開日】2017年1月19日
【審査請求日】2018年3月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】内田 雅幸
(72)【発明者】
【氏名】伊丹 崇裕
(72)【発明者】
【氏名】吉田 尚義
(72)【発明者】
【氏名】小▲柳▼ 健
(72)【発明者】
【氏名】山田 孝樹
(72)【発明者】
【氏名】梶原 和晃
【審査官】 田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−133693(JP,A)
【文献】 特開昭59−127801(JP,A)
【文献】 特開平03−254085(JP,A)
【文献】 特開平11−307312(JP,A)
【文献】 特開2011−233863(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01C 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Znの酸化物、Coの酸化物、Rの酸化物、Crの酸化物、M1の酸化物、M2の酸化物およびチタン酸ストロンチウムを含有する電圧非直線性抵抗体磁器であって、
前記RがY、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記M1がCaおよびSrからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記M2がAl、GaおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記Znの酸化物の含有量をZn換算で100モル部とする場合に、
前記Coの酸化物の含有量がCo換算で0.30〜10モル部、
前記Rの酸化物の含有量がR換算で0.10〜10モル部、
前記Crの酸化物の含有量がCr換算で0.01〜2モル部、
前記M1の酸化物の含有量がM1換算で0.10〜5モル部、
前記M2の酸化物の含有量がM2換算で0.0005〜5モル部、
前記チタン酸ストロンチウムの含有量がSrTiO換算で0.10〜5モル部であり、
Srの酸化物の含有量をSr換算でαモル部、チタン酸バリウムの含有量をBaTiO換算でβモル部とした場合に、式(1)および/または式(2)を満たすことを特徴とする電圧非直線性抵抗体磁器。
β≦0.10 ・・・式(1)
α×β≦0.18 ・・・式(2)
【請求項2】
前記チタン酸ストロンチウムの含有量が前記チタン酸バリウムの含有量よりも大きい請求項1に記載の電圧非直線性抵抗体磁器。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電圧非直線性抵抗体磁器から構成される電圧非直線性抵抗体層を有する電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば積層チップバリスタの電圧非直線性抵抗体層などに好適に用いられる電圧非直線性抵抗体磁器と、該電圧非直線性磁器を電圧非直線性抵抗体層として用いる電子部品とに関する。
【背景技術】
【0002】
電圧非直線性抵抗体層を有する電子部品の一例としてのバリスタは、たとえば静電気などの外来サージ(異常電圧)やノイズなどを吸収または除去し、電子機器等のIC回路を保護するために使用されている。
【0003】
近年、デジタル信号の高速化および通信速度の高速化がますます進んでいると共に、電子部品の集積度を上げるために、より小型で薄型のチップ部品が望まれている。バリスタの小型化および薄型化を図るためには、層間厚みを薄くする必要がある。
【0004】
ところが従来の電圧非直線性抵抗体磁器では、層間厚みを薄くすると、良好なバリスタ特性を得ることが困難になるという課題を有していた。
【0005】
上記の課題に対して、下記の特許文献1に示す電圧非直線性抵抗体磁器が提案されている。特許文献1に示す電圧非直線性抵抗体磁器は、特にR(希土類元素)の酸化物およびチタン酸バリウムを特定量、含有することで上記の課題を解決している。
【0006】
しかし、特許文献1記載の電圧非直線性抵抗体磁器および電子部品は、車載部品等、高い耐湿性が求められる部品に用いる場合においては耐湿性が不足している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014−133693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、良好なバリスタ特性、特に良好な耐ESD特性を得ることができ、さらに、車載部品等の高い耐湿性が求められる部品にも用いることができる電圧非直線性抵抗体磁器および電子部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る電圧非直線性抵抗体磁器は、
Znの酸化物、Coの酸化物、Rの酸化物、Crの酸化物、M1の酸化物、M2の酸化物およびチタン酸ストロンチウムを含有する電圧非直線性抵抗体磁器であって、
前記RがY、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記M1がCaおよびSrからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記M2がAl、GaおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記Znの酸化物の含有量をZn換算で100モル部とする場合に、
前記Coの酸化物の含有量がCo換算で0.30〜10モル部、
前記Rの酸化物の含有量がR換算で0.10〜10モル部、
前記Crの酸化物の含有量がCr換算で0.01〜2モル部、
前記M1の酸化物の含有量がM1換算で0.10〜5モル部、
前記M2の酸化物の含有量がM2換算で0.0005〜5モル部、
前記チタン酸ストロンチウムの含有量がSrTiO換算で0.10〜5モル部であり、
Srの酸化物の含有量をSr換算でαモル部、チタン酸バリウムの含有量をBaTiO換算でβモル部とした場合に、式(1)および/または式(2)を満たすことを特徴とする。
β≦0.10 ・・・式(1)
α×β≦0.18 ・・・式(2)
【0010】
本発明では、上記の特定の組成および含有量とすることで、特に、チタン酸ストロンチウムを特定量、含有させ、チタン酸バリウムの含有量を特定の範囲内とすることで、焼結時における結晶粒子の粒成長を抑制でき、種々のバリスタ特性、特に良好な耐ESD特性を得ることができる。さらに、耐湿性を向上させることができる。
【0011】
また、本発明に係る電圧非直線性抵抗体磁器は、前記チタン酸ストロンチウムの含有量が前記チタン酸バリウムの含有量よりも大きいことが好ましい。
【0012】
本発明に係る電子部品は、上記の電圧非直線性抵抗体磁器から構成される電圧非直線性抵抗体層を有する。
【0013】
本発明に係る電子部品としては、特に限定されないが、積層チップバリスタ、ディスクバリスタ、バリスタ複合素子などが例示される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る積層チップバリスタの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0016】
積層チップバリスタ
図1に示すように、電子部品の一例としての積層チップバリスタ2は、内部電極層4,6と層間電圧非直線性抵抗体層8と外側保護層8aとが積層された構成の素子本体10を有する。この素子本体10の両端部には、素子本体10の内部に配置された内部電極層4,6と各々導通する一対の外部端子電極12,14が形成してある。素子本体10の形状は、特に制限はないが、通常、直方体状とされる。また、その寸法にも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とすればよいが、通常、縦(0.6〜5.6mm)×横(0.3〜5.0mm)×厚み(0.3〜1.9mm)程度である。
【0017】
内部電極層4,6は、各端面が素子本体10の対向する2端部の表面に露出するように積層してある。一対の外部端子電極12,14は、素子本体10の両端部に形成され、内部電極層4,6の露出端面にそれぞれ接続されて、回路を構成する。
【0018】
素子本体10において、内部電極層4,6および層間電圧非直線性抵抗体層8の積層方向の両外側端部には、外側保護層8aが配置してあり、素子本体10の内部を保護している。外側保護層8aの材質は、層間電圧非直線性抵抗体層8の材質と同じであっても異なっていても良い。
【0019】
内部電極層
内部電極層4,6に含有される導電材は、特に限定されないが、PdまたはAg−Pd合金で構成してあることが好ましい。前記Ag−Pd合金中のPd含有量は、前記Ag−Pd合金を100重量%として95重量%以上であることが好ましい。内部電極層4,6の厚さは、用途に応じて適宜決定すればよいが、通常0.5〜5μm程度である。
【0020】
外部端子電極
外部端子電極12,14に含有される導電材は、特に限定されないが、通常、AgやAg−Pd合金などを用いる。外部端子電極12,14の厚さは、用途に応じて適宜決定すればよいが、通常10〜50μm程度である。
【0021】
層間電圧非直線性抵抗体層
層間電圧非直線性抵抗体層8は、本実施形態に係る電圧非直線性抵抗体磁器で構成される。当該電圧非直線性抵抗体磁器は、Znの酸化物と、Coの酸化物と、Rの酸化物と、Crの酸化物と、M1の酸化物と、M2の酸化物と、チタン酸ストロンチウムと、を有している。
【0022】
Znの酸化物(酸化亜鉛)は、電圧−電流特性における優れた電圧非直線性と、大きなサージ耐量と、を発現する物質として作用する。
【0023】
Coの酸化物はアクセプター(電子捕捉剤)として働き、バリスタ特性を維持する物質として作用する。酸化亜鉛100モル部に対するCoの酸化物の含有量は、Co換算で、0.30〜10モル部、好ましくは0.50〜7.0モル部、より好ましくは0.50〜5.0モル部である。
【0024】
Coの酸化物の含有量が少なすぎると、もれ電流が増大するとともに、ESD耐量が低下する傾向にある。Coの酸化物の含有量が多すぎると、焼結不足となり、特にESD耐量が低下する傾向にある。いずれの場合も良好なバリスタ特性が得られない傾向にある。
【0025】
もれ電流とは、半導体素子が通常、使用される電圧において、電圧非直線性抵抗体素子を流れる電流である。もれ電流は小さいことが好ましい。
【0026】
ESD耐量とは、バリスタが吸収可能な静電気の大きさの目安である。例えば、IEC(International Electrotechnical Commission)の規格IEC61000−4−2に定められている静電気放電イミュニティ試験によって測定できる。ESD耐量は大きいことが好ましい。また、ESD耐量が大きいほど耐ESD特性が優れている。
【0027】
Coは、焼結時にZnの酸化物の粒子内に入り込む傾向にある。そして、Znの酸化物の粒子内にCoが入り込むことで、抵抗が高くなる。Znの酸化物の粒子の抵抗が高くなることで、もれ電流が減少すると考えられる。
【0028】
Rの酸化物は、結晶粒界への酸素の拡散速度を早める物質として作用する。Rの酸化物を添加することにより、焼結体の焼結性を高め、焼結体の焼結を十分に行うことができるようになる。
【0029】
Rの酸化物を構成するR元素としては、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれる少なくとも1つである。少なくともPrまたはTbを含むことが好ましく、少なくともPrを含むことが特に好ましい。酸化亜鉛100モル部に対するRの酸化物の含有量は、R換算で、0.10〜10モル部、好ましくは0.10〜7.0モル部、より好ましくは0.20〜5.0モル部である。
【0030】
Rの酸化物の含有量を、上記の範囲内とすることにより、電圧非直線性抵抗体磁器を半導体の状態に維持しやすくなるとともに、結晶粒界への酸素拡散速度を早めることができる。
【0031】
Rの酸化物の含有量が少なすぎると、焼結不足となり、特にESD耐量が低下する傾向にある。Rの酸化物の含有量が多すぎると、Rが電圧非直線性抵抗体磁器の表面に析出しやすくなる。Rが析出することで信頼性が悪化し、もれ電流およびESD耐量が悪化する傾向にある。いずれの場合も良好なバリスタ特性が得られない傾向にある。
【0032】
Crの酸化物はアクセプター(電子捕捉剤)として働き、バリスタ特性を維持する物質として作用する。さらに、焼結時における結晶粒子の粒成長を抑制する効果がある。酸化亜鉛100モル部に対するCrの酸化物の含有量は、Cr換算で、0.01〜2.00モル部、好ましくは0.01〜1.00モル部、より好ましくは0.1〜1.00モル部である。
【0033】
Crの酸化物の含有量が少なすぎる場合には、焼結時における結晶粒子の粒成長を抑制する効果が十分に得られない場合がある。さらに、もれ電流が大きくなる傾向にある。Crの酸化物の含有量が多すぎる場合には、ESD耐量が低下する傾向にある。
【0034】
なお、結晶粒子の粒成長を十分に抑制できず、結晶粒子の粒径が大きくなると、内部電極間に存在する粒界の数が少なくなる。通常、粒界の数が多いほどバリスタ電圧が高くなる。したがって、結晶粒子の粒成長を抑制することでバリスタ電圧を高く保つことができる。
【0035】
また、バリスタ電圧が高くなると、低電圧領域で流れる電流が小さくなる。したがって、バリスタ電圧が高いほど、もれ電流が小さくなる傾向にある。
【0036】
M1の酸化物はアクセプター(電子捕捉剤)として働き、バリスタ特性を維持する物質として作用する。M1は、CaおよびSrから選ばれる少なくとも1種であり、Srを含むことが好ましい。Srを含むことが好ましいのは、より良好な非直線性のためである。酸化亜鉛100モル部に対するM1の酸化物の含有量は、M1換算で、0.10〜5.0モル部、好ましくは0.10〜3.0モル部、より好ましくは0.10〜2.0モル部である。
【0037】
M1の酸化物の含有量が少なすぎると、特にESD耐量が低下する傾向にある。M1の酸化物の含有量が多すぎると、粒径のバラつきなどが大きくなり、もれ電流およびESD耐量が悪化する傾向にある。いずれの場合も良好なバリスタ特性が得られない傾向にある。
【0038】
M2の酸化物はドナー(電子伝達剤)として働き、バリスタ特性を維持する物質として作用する。M2はAl、GaおよびInから成る群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、Gaを含むことが好ましい。Gaを含むことが好ましいのは、焼成温度の低温化のためである。
【0039】
酸化亜鉛100モル部に対するM2の酸化物の含有量は、M2換算で、0.0005〜5.0モル部、好ましくは0.0005〜3.0モル部、より好ましくは0.001〜2.0モル部である。
【0040】
M2の酸化物の含有量が少なすぎると、ドナー不足となり、ESD耐量が低下する傾向にある。M2の酸化物の含有量が多すぎると、ドナー過剰となりもれ電流が増大する傾向にある。いずれの場合も良好なバリスタ特性が得られない傾向にある。
【0041】
また、M2は、焼結時にZnの酸化物の粒子内に入り込む傾向にある。そして、Znの酸化物の粒子内にM2が入り込むことで、抵抗が低くなる。M2の酸化物の含有量が多すぎると、Znの酸化物の粒子の抵抗が低くなりすぎ、もれ電流が増大すると考えられる。
【0042】
チタン酸ストロンチウム(SrTiO)は、焼結抑制効果を有する。すなわち、焼結時における結晶粒子の粒成長を抑制する効果を有する。酸化亜鉛100モル部に対するチタン酸ストロンチウムの含有量は、SrTiO換算で、0.10〜5.0モル部、好ましくは0.10〜3.00モル部、より好ましくは0.10〜1.00モル部である。
【0043】
さらに、本実施形態に係る誘電体組成物はチタン酸バリウム(BaTiO)を含有しても良い。チタン酸バリウムはチタン酸ストロンチウムと同様に焼結抑制効果を有する。
【0044】
また、チタン酸ストロンチウムとチタン酸バリウムとの合計の含有量に特に制限はないが、0.10〜5モル部であることが好ましい。
【0045】
なお、チタン酸ストロンチウムのかわりに、ストロンチウムの酸化物とチタンの酸化物とを別々に添加しても上記の焼結抑制効果は得られない。また、チタン酸バリウムのかわりに、バリウムの酸化物とチタンの酸化物とを別々に添加しても上記の焼結抑制効果は得られない。
【0046】
ストロンチウムの酸化物とチタンの酸化物とを別々に添加しても上記の焼結抑制効果が得られない理由、および、バリウムの酸化物とチタンの酸化物とを別々に添加しても上記の焼結抑制効果は得られない理由は、以下に示す理由であると考えられる。なお、以下の記載は、ストロンチウムの酸化物とチタンの酸化物とを別々に添加する場合についての記載であるが、バリウムの酸化物とチタンの酸化物とを別々に添加する場合においても同様である。
【0047】
まず、チタン酸ストロンチウムを添加した場合に、焼結時の焼結抑制効果が得られるのは、チタン酸ストロンチウムがペロブスカイト化合物であるためであると考えられる。
【0048】
これに対し、ストロンチウムの酸化物とチタンの酸化物とを別々に添加する場合、ストロンチウムの酸化物とチタンの酸化物とが焼結中に反応してチタン酸ストロンチウムとなる場合もあるが、全量がチタン酸ストロンチウムとなるわけではない。また、焼結時の前記の反応によりチタン酸ストロンチウムが生成されても、結晶粒子は焼結により既に粒成長してしまっている。したがって、ストロンチウムの酸化物とチタンの酸化物とを別々に添加しても上記の焼結抑制効果は得られないと考える。
【0049】
チタン酸ストロンチウムの含有量が少なすぎると、結晶粒子の粒成長が生じてしまい、結晶粒子の大きさが不均一になってしまう。その結果、もれ電流が増大し良好なバリスタ特性が得られない傾向にある。チタン酸ストロンチウムの含有量が多すぎると、焼結不足となり、特にESD耐量が低下する傾向にある。
【0050】
なお、チタン酸ストロンチウムのSr/Tiのモル比は、概ね0.90〜1.10の範囲で適宜調整されたものを用いることができる。チタン酸バリウムのBa/Tiのモル比は、概ね0.90〜1.10の範囲で適宜調整されたものを用いることができる。
【0051】
ここで、チタン酸バリウムの含有量が多すぎる場合には、耐湿性が著しく低下してしまう。言いかえれば、本実施形態では、チタン酸バリウムの含有量を適切に制御することで、耐湿性を著しく向上させることができる。
【0052】
具体的には、Srの酸化物の含有量をSr換算でαモル部、前記チタン酸バリウムの含有量をBaTiO換算でβモル部とした場合に、式(1)および/または式(2)を満たすようにチタン酸バリウムの含有量を制御する。
β≦0.10 ・・・式(1)
α×β≦0.18 ・・・式(2)
【0053】
また、チタン酸ストロンチウムの含有量をチタン酸バリウムの含有量より大きくすることで、上記したCrの酸化物の含有量を低減することができる。そして、Crの酸化物の含有量を低減することで、ESD耐量が向上する。
【0054】
なお、チタン酸ストロンチウムの含有量をチタン酸バリウムの含有量より大きくすることでCrの酸化物の含有量を小さくできるのは、チタン酸バリウムよりもチタン酸ストロンチウムの方が、焼結抑制効果が大きく、焼結抑制のために必要なCrの酸化物の含有量が小さくなるためであると考えられる。
【0055】
また、チタン酸バリウムの含有量等を適切に制御することで、耐湿性を著しく向上させることができる理由は、以下に示す理由であると考える。
【0056】
後述するグリーンチップの焼成時において、チタン酸バリウムとSrの酸化物とが共存している場合には、チタン酸バリウムのバリウムがSrに置換され、バリウムの酸化物が遊離する場合がある。ここで、バリウムの酸化物は、水蒸気と反応して水酸化バリウムに変化しやすい。さらに、水酸化バリウムは、水中ではバリウムイオンと水酸化物イオンとに電離しやすい。このような水酸化バリウムの変化により、電圧非直線性抵抗体磁器が変色したり、バリスタ特性が劣化したりすると考えられる。
【0057】
ここで、チタン酸バリウムの含有量を適切に制御する場合には、遊離するバリウムの酸化物の量を適切に制御することができる。また、Srの酸化物はBaの酸化物と比較して水蒸気と反応しにくく、水酸化物に変化しにくい。したがって、チタン酸バリウムの含有量を適切に制御することで、耐湿性を著しく向上させることができる。
【0058】
前記式(1)および/または前記式(2)を満たすようにチタン酸バリウムの含有量を制御することで耐湿性を著しく向上させることができる理由は不明であるが、本発明者らは以下のような理由であると考えている。
【0059】
まず、前記式(1)を満たす場合には、チタン酸バリウムの含有量自体が小さい。チタン酸バリウムの含有量が小さければ、遊離するバリウムの酸化物の量も小さくなる。したがって、前記式(1)を満たす場合には、耐湿性を著しく向上させることができると考えている。
【0060】
また、前記式(2)を満たす場合には、チタン酸バリウムの含有量とSrの酸化物の含有量との積が小さくなる。ここで、上記のチタン酸バリウムのバリウムがSrに置換される反応は、チタン酸バリウムとSrの酸化物との二次反応であると考えられる。一般的に、二次反応の反応速度は各反応物の濃度の積に比例する。したがって、チタン酸バリウムの含有量とSrの酸化物の含有量との積が小さければ、上記のチタン酸バリウムのバリウムがSrに置換される反応の反応速度が小さくなり、ひいてはバリウムの酸化物が遊離する速度が小さくなる。したがって、前記式(2)を満たす場合にも、耐湿性を著しく向上させることができると考えている。
【0061】
また、前記α×βは、好ましくは0.06以下である。
【0062】
本実施形態に係る電圧非直線性抵抗体磁器は、さらに、上記した化合物以外の化合物を、本発明の目的を達成することができる範囲内で含有してもよい。ただし、Biの酸化物およびSbの酸化物を含有する場合には、もれ電流が増加しやすく、ESD耐性が低下しやすい。したがって、Biの酸化物およびSbの酸化物の含有量は低いほど好ましく、含有しないことが特に好ましい。
【0063】
本明細書で、バリスタ電圧とは、1mAの電流が流れる時の電圧をいう。バリスタ特性とは、バリスタ電圧、もれ電流およびESD耐性の諸特性をいう。
【0064】
層間電圧非直線性抵抗体層8の厚みや積層数等の諸条件は、目的や用途に応じ適宜決定すればよい。本実施形態では、層間電圧非直線性抵抗体層8の厚みはたとえば5〜100μm程度であり、積層数はたとえば10〜50程度である。また、外側保護層8aの厚みは、たとえば100〜500μm程度である。
【0065】
積層チップバリスタの製造方法
次に、本実施形態に係る積層チップバリスタ2の製造方法の一例を説明する。
【0066】
本実施形態では、ペーストを用いた通常の印刷法やシート法によりグリーンチップを作製し、これを焼成した後、外部端子電極を印刷または転写して焼成することにより製造される。以下、製造方法について具体的に説明する。
【0067】
まず、電圧非直線性抵抗体層用ペースト、内部電極層用ペースト、外部端子電極用ペーストをそれぞれ準備する。電圧非直線性抵抗体原料(電圧非直線性抵抗体磁器粉末)を準備し、これを塗料化して、電圧非直線性抵抗体層用ペーストを調製する。
【0068】
電圧非直線性抵抗体層用ペーストは、電圧非直線性抵抗体原料と有機ビヒクルとを混練した有機系の塗料であってもよく、水系の塗料であってもよい。
【0069】
電圧非直線性抵抗体原料としては、上記した主成分および副成分の酸化物やその混合物、複合酸化物を用いることができるが、その他、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物、たとえば、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等から適宜選択し、混合して用いることもできる。
【0070】
電圧非直線性抵抗体原料中の各成分の含有量は、焼成後に上記した電圧非直線性抵抗体磁器の組成となるように決定すればよい。これらの原料粉末は、通常、平均粒子径0.3〜2μm程度のものが用いられる。
【0071】
有機ビヒクルとは、バインダを有機溶剤中に溶解したものである。有機ビヒクルに用いるバインダは特に限定されず、エチルセルロース、ポリビニルブチラール等の通常の各種バインダから適宜選択すればよい。用いる有機溶剤も特に限定されず、印刷法やシート法など、利用する方法に応じて、テルピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン等の各種有機溶剤から適宜選択すればよい。
【0072】
また、電圧非直線性抵抗体層用ペーストを水系の塗料とする場合には、水溶性のバインダや分散剤などを水に溶解させた水系ビヒクルと、誘電体原料とを混練すればよい。水溶性バインダは特に限定されず、たとえば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性アクリル樹脂などを用いればよい。
【0073】
内部電極層用ペーストは、上述した各種導電材あるいは焼成後に上述した導電材となる各種酸化物、有機金属化合物、レジネート等と、上述した有機ビヒクルとを混練して調製される。また、外部端子電極用ペーストも、この内部電極層用ペーストと同様にして調製すればよい。
【0074】
上記した各ペースト中の有機ビヒクルの含有量に特に制限はなく、通常の含有量、たとえば、バインダは1〜5重量%程度、溶剤は10〜50重量%程度とすればよい。また、各ペースト中には、必要に応じて各種分散剤、可塑剤、誘電体、絶縁体等から選択される添加物が含有されていてもよい。これらの総含有量は、10重量%以下とすることが好ましい。
【0075】
印刷法を用いる場合は、電圧非直線性抵抗体層用ペーストを、PET等の基板上に所定厚みで複数回印刷して、グリーンの外側保護層8aを形成する。
【0076】
次に、この外側保護層8aの上に、内部電極層用ペーストを所定パターンで印刷して、グリーンの内部電極層4を形成する。次に、この内部電極層4の上に、上記と同様にして電圧非直線性抵抗体層用ペーストを所定厚みで複数回印刷して、グリーンの層間電圧非直線性抵抗体層8を形成する。
【0077】
次に、層間電圧非直線性抵抗体層8の上に、内部電極層用ペーストを所定パターンで印刷して、グリーンの内部電極層6を形成する。内部電極層4,6は、対向して相異なる端部表面に露出するように印刷する。
【0078】
最後に、内部電極層6の上に、上記と同様にして電圧非直線性抵抗体層用ペーストを所定厚みで複数回印刷して、グリーンの外側保護層8aを形成する。その後、加熱しながら加圧、圧着し、所定形状に切断した後、基板から剥離してグリーンチップとする。
【0079】
また、シート法を用いる場合は、電圧非直線性抵抗体層用ペーストを用いてグリーンシートを成形し、その後、このグリーンシートを所定の枚数、積層して、図1に示す外側保護層8aを形成する。
【0080】
次に、この外側保護層8aの上に、内部電極層用ペーストを所定パターンで印刷して、グリーンの内部電極層4を形成する。同様にして、別の外側保護層8aの上に、グリーンの内部電極層6を形成する。
【0081】
これらを、グリーンシートを所定の枚数、積層して形成された層間電圧非直線性抵抗体層8を間に挟み、かつ内部電極層4,6が対向して相異なる端部表面に露出するように重ね、加熱しながら加圧、圧着し、所定形状に切断してグリーンチップとする。
【0082】
次に、このグリーンチップを脱バインダ処理および焼成して、焼結体(素子本体10)を作製する。
【0083】
グリーンチップの脱バインダ処理は、通常の条件で行えばよい。たとえば、空気雰囲気において、昇温速度を5〜300℃/時間程度、保持温度を180〜400℃程度、温度保持時間を0.5〜24時間程度とする。
【0084】
グリーンチップの焼成は、通常の条件で行えばよい。たとえば、空気雰囲気において、昇温速度を50〜500℃/時間程度、保持温度を1000〜1400℃程度、温度保持時間を0.5〜8時間程度、冷却速度を50〜500℃/時間程度とする。保持温度を1000℃程度以上とすることで、グリーンチップの緻密化を十分に進行させやすくなる。保持温度を1400℃程度以下とすることで、内部電極の異常焼結および電極の途切れを防止しやすくなる。
【0085】
上記のようにして得られた焼結体(素子本体10)に、たとえばバレル研磨やサンドブラストにより端面研磨を施し、外部端子電極用ペーストを塗布して焼成し、外部端子電極12,14を形成する。外部端子電極用ペーストの焼成条件は、たとえば、空気雰囲気中で600〜900℃にて10分〜1時間程度とすることが好ましい。
【0086】
このようにして製造された本実施形態の積層チップバリスタ2は、たとえば高速伝送回路等に接続され、静電気などの外来サージ(異常電圧)やノイズなどを、吸収または除去して、該回路等の保護のために使用される。
【0087】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様で実施し得る。
【0088】
たとえば、上述した実施形態では、本発明に係る電子部品として積層チップバリスタを例示したが、本発明に係る電子部品としては、積層チップバリスタに限定されず、上記組成の電圧非直線性抵抗体磁器組成物で構成してある電圧非直線性抵抗体層を有するものであれば何でも良い。
【0089】
また、図1に示すように、内部電極層が1対のみの積層チップバリスタに限定されない。図1では、内部電極層が1対のみであるが、内部電極が複数対積層してあってもよく、あるいは内部電極が多数積層してある積層チップバリスタであってもよい。
【実施例】
【0090】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されない。
【0091】
実施例1
まず、Zn、Co、Pr、Cr、SrおよびGaの原料、および、チタン酸ストロンチウムを準備した。Znの原料としては酸化亜鉛を準備した。Co、Pr、Cr、SrおよびGaの原料としては、各元素の酸化物、または、焼成後に各元素の酸化物となる化合物から適宜選択して準備した。焼成後に各元素の酸化物となる化合物としては、具体的には、炭酸塩および炭酸塩の水和物などが例示される。チタン酸ストロンチウムは酸化チタンおよび酸化ストロンチウムから予め合成した。
【0092】
次に、これらの原料を、焼成後の組成が、酸化亜鉛100モル部に対して、表1に示す組成となるように配合した。そして、有機バインダ、有機溶剤、可塑剤を加え、ボールミルにより約20時間湿式混合して、スラリーを作製した。
【0093】
前記スラリーをドクターブレード法により、PETフィルム上に11μmの厚さで塗布して複数枚のグリーンシートを作製した。
【0094】
前記グリーンシートの上に、パラジウムペーストを用い、スクリーン印刷にて、所望の形状になるように印刷し、乾燥して、図1に示す内部電極層4、6を形成した。なお、前記パラジウムペーストは、上記の有機バインダおよび有機溶剤とパラジウムの酸化物とを湿式混合して製造した。
【0095】
さらに、前記グリーンシートを複数枚重ねて、後に述べる加熱、圧着を経て図1に示す層間電圧非直線性抵抗体層8となる部分、および、外側保護層8aとなる部分を形成し、前記グリーンシートの積層体を形成した。なお、外側保護層8aとなる部分は、前記内部電極層4、6を形成していないグリーンシートを複数枚重ねることで形成した。
【0096】
その後、前記グリーンシートの積層体を加熱、圧着した。その後、所定のチップ形状となるように切断してグリーンチップを形成した。
【0097】
前記グリーンチップに対して、脱バインダ処理を350℃、2時間の条件で行った後、1190℃で2時間、空気中において焼成し、素子本体10となる焼結体を得た。
【0098】
次いで、得られた焼結体の両端に、銀ペーストを塗布し、800℃で焼き付けして端子電極12,14を形成し、図1に示す断面図の構成をした積層チップバリスタ2を得ることができた。上記銀ペーストは、上記の有機バインダおよび有機溶剤と銀の酸化物とを湿式混合して製造した。
【0099】
得られた積層チップバリスタ2のサイズは、0.6mm×0.3mm×0.3mmであり、電圧非直線性抵抗体層8の厚みは7μm、内部電極層4、6に挟まれた電圧非直線性抵抗体層8の数は3である。また、内部電極層4、6の重なり面積は0.045mmである。
【0100】
得られた積層チップバリスタ試料(以下、単にバリスタ試料という場合がある)を用いて、平均粒子径、バリスタ電圧、もれ電流(Id)およびESD耐性を測定した。
【0101】
平均粒子径(Gs)
平均粒子径を測定するために、電圧非直線性抵抗体層の断面が現れるようにバリスタ試料を切断し、断面を走査型電子顕微鏡(日本電子製、JSM−6510LA)により観察し、倍率4000倍でSEM写真を撮影した。前記SEM写真をソフトウェア(日本電子製、Analysis Station)により画像処理を行い、半導体粒子の境界を判別し、各半導体粒子の断面積を算出した。そして、算出された半導体粒子の断面積を円相当径に換算して粒子径を算出した。得られた粒子径の平均値を平均粒子径(Gs)とした。なお、粒子径の算出は、前記SEM写真に含まれる20個の半導体粒子について行った。本実施例では、平均粒子径(Gs)2.0μm以下を良好とした。結果を表1〜表9に示す。
【0102】
バリスタ電圧
バリスタ試料を直流定電圧電源に接続し、バリスタ試料の両電極間に作用する電圧を電圧計で測定すると共に、バリスタ試料に流れる電流を電流計にて読みとることにより、バリスタ電圧(V1mA)を求めた。具体的には、バリスタ試料に流れる電流が1mAの時に、バリスタ試料の電極間に作用する電圧を電圧計により読みとり、その値をバリスタ電圧(単位V)とした。結果を表1〜表9に示す。
【0103】
もれ電流(Id)
本実施例におけるもれ電流(Id)は、印加電圧が3Vの場合の電流とした。本実施例では、もれ電流(Id)は5000nA未満を良好とした。結果を表1〜表9に示す。
【0104】
ESD耐量
本実施例におけるESD耐量は、IEC61000−4−2に定められている静電気放電イミュニティ試験によって測定した。本実施例では、ESD耐量は12kV以上を良好とした。結果を表1〜表9に示す。
【0105】
【表1】
【0106】
表1より、各成分の含有量が本発明の範囲外である場合には(試料番号1、2、9、10、17、18、23、24、25、31、32、33、41、42および49)、平均粒子径、もれ電流およびESD耐量の何れか1つ以上が良好ではないことが確認できた。
【0107】
これに対し、各成分の含有量が本発明の範囲内である場合には(試料番号3〜8、11〜16、19〜22、26〜30、34〜40および43〜48)、平均粒子径、もれ電流およびESD耐量の全てが良好であることが確認できた。
【0108】
実施例2
実施例1の試料番号5について、Prの代わりにBi(試料番号50)、Sb(試料番号51)を用いて、バリスタ試料を作製した。結果を表2に示す。
【0109】
【表2】
【0110】
表2より、Prの代わりに本願発明のRに含まれないBi、Sbを用いた場合には、もれ電流およびESD耐量が悪化することが確認できた。
【0111】
実施例3
実施例1の試料番号5について、Rの種類をPrから変化させて試料番号52〜66のバリスタ試料を作製した。結果を表3に示す。
【0112】
【表3】
【0113】
表3より、Prの代わりに本願発明のRに含まれる別の元素を用いた場合であっても、全ての特性が良好であることが確認できた。
【0114】
実施例4
実施例1の試料番号5について、M2の種類をGaからAl(試料番号67)、In(試料番号68)に変化させてバリスタ試料を作製した。結果を表4に示す。
【0115】
【表4】
【0116】
表4より、Gaの代わりにAl、Inを用いた場合であっても、全ての特性が良好であることが確認できた。
【0117】
実施例5
実施例1の試料番号5について、チタン酸ストロンチウムの代わりにチタン酸バリウムを用いたバリスタ試料(試料番号69)、および、酸化ストロンチウムの代わりに酸化バリウムを用いたバリスタ試料(試料番号70)を作製した。また、試料番号5、69、70のバリスタ試料について、耐湿性試験を130℃、湿度85%、2.3気圧、60時間の条件で実施した。耐湿性試験後のバリスタ試料について各種特性の測定を行い、外観不良の有無を確認した。外観不良の有無の確認は、具体的には、変色の有無を確認した。結果を表5に示す。
【0118】
【表5】
【0119】
耐湿性試験前においては、試料番号5、試料番号69、試料番号70のバリスタ試料は、いずれも良好な特性を示した。しかし、試料番号5のバリスタ試料は耐湿性試験後においても外観不良がなく良好な特性を示したのに対し、チタン酸ストロンチウムの代わりにチタン酸バリウムを用いた試料番号69のバリスタ試料は耐湿性試験後に外観不良が生じた。具体的には、緑色の変色が生じた。さらに、もれ電流およびESD耐量が悪化した。さらに、酸化ストロンチウムの代わりに酸化バリウムを用いた試料番号70のバリスタ試料は耐湿性試験後に粉々になってしまった。粉々になってしまったため、耐湿性試験後の特性も測定できなかった。
【0120】
実施例6
実施例1の試料番号5について、チタン酸ストロンチウム1.00モル部の代わりに、TiをTiOの形で0.25モル部添加してバリスタ試料(試料番号71)を作製した。結果を表6に示す。
【0121】
【表6】
【0122】
表6より、チタン酸ストロンチウムを含有せず、ストロンチウムの酸化物とチタンの酸化物とを別個に含む場合には、平均粒子径およびもれ電流が大きくなりすぎることが確認できた。
【0123】
さらに、焼結後の試料番号5、71について、X線回析測定により、チタン酸ストロンチウムを示すピークの有無および大きさを測定した。試料番号71においても、試料番号5と同様にチタン酸ストロンチウムを示すピークが検出された。しかし、チタン酸ストロンチウムを示すピークの大きさは試料番号5と比較して著しく小さかった。また、試料番号71は、平均粒子径が2.35μmであり、2.0μmを越えていた。よって、試料番号71では、チタン酸ストロンチウムの焼結抑制効果が発揮されていないことが明らかである。以上より、焼結前の試料番号71にチタン酸ストロンチウムが存在しなかったことは焼結後の試料番号71からも推定できる。
【0124】
実施例7
実施例1の試料番号5について、酸化ストロンチウム、チタン酸ストロンチウムおよびチタン酸バリウムの含有量を変化させて多数のバリスタ試料(試料番号81〜190)を作製し、耐湿性試験を実施例5と同様の条件で実施した。さらに、耐湿性試験後のバリスタ試料について各種特性の測定を行った。結果を表7〜表9に示す。表9で測定不能と記載されている試料は、耐湿性試験後に粉々になる、亀裂が走る等の変化が生じ、各種特性の測定ができなかった試料である。なお、実施例7では、実施例5とは異なり、外観の評価を行っていない。
【0125】
【表7】
【0126】
【表8】
【0127】
【表9】
【0128】
表7より、β≦0.10の場合(試料No.81〜94)には、Srの酸化物の含有量に関わらず、耐湿性試験後に全ての特性が良好であることが確認できた。
【0129】
表8より、α×β≦0.18の場合(試料No.101〜138)には、β>0.10であっても、耐湿性試験後に全ての特性が良好であることが確認できた。
【0130】
表9より、β>0.10かつα×β>0.18の場合(試料No.141〜190)には、耐湿性試験後に特性が測定できないか、特性が測定できても、もれ電流およびESD耐量が悪化することが確認できた。
【符号の説明】
【0131】
2… 積層チップバリスタ
4,6… 内部電極層
8… 層間電圧非直線性抵抗体層
8a… 外側保護層
10… 素子本体
12,14… 外部端子電極
図1