特許第6575184号(P6575184)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6575184
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】熱処理装置および熱処理方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 1/00 20060101AFI20190909BHJP
   C21D 1/06 20060101ALN20190909BHJP
   C21D 1/18 20060101ALN20190909BHJP
【FI】
   C21D1/00 119
   !C21D1/06 A
   !C21D1/18 X
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-138099(P2015-138099)
(22)【出願日】2015年7月9日
(65)【公開番号】特開2017-20070(P2017-20070A)
(43)【公開日】2017年1月26日
【審査請求日】2018年1月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】杉本 剛
(72)【発明者】
【氏名】田中 真悟
(72)【発明者】
【氏名】石田 圭太郎
(72)【発明者】
【氏名】山下 珠貴
【審査官】 鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−157942(JP,A)
【文献】 特表2011−527837(JP,A)
【文献】 特開2005−180783(JP,A)
【文献】 実開昭61−129865(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 1/00
C21D 1/02− 1/84
C21D 9/00− 9/44,9/50
F27B 17/00
F27D 7/00−15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱処理を行う被熱処理物を収容する収容空間に前記被熱処理物を設置し、
前記収容空間において設けられた多孔板にガスを通過させて前記ガスに渦を生じさせ、
前記ガスが前記多孔板から当該多孔板よりも下流側に離間して設置された前記被熱処理物に前記渦の状態で接触することで前記被熱処理物を冷却し、
前記ガスの通過は、前記ガスが通過する穴部を備え、前記多孔板において前記ガスが通過する面積を前記ガスの流れる方向と交差する方向の前記収容空間の断面積よりも小さくして前記ガスを流通させるプレート部材を用い、前記多孔板を前記プレート部材の前記穴部のみに取りつけることによって行う熱処理方法。
【請求項2】
前記渦の強さを示す渦度を増加させた状態で前記被熱処理物を冷却する請求項1に記載の熱処理方法。
【請求項3】
前記被熱処理物の冷却の前に、前記多孔板と前記被熱処理物との間の距離を調整する請求項1または2に記載の熱処理方法。
【請求項4】
熱処理を行う被熱処理物を収容する収容空間と、
前記収容空間に設けられ前記収容空間にガスを供給する供給口と、
前記収容空間に設けられ前記収容空間に供給された前記ガスを排出する排出口と、
前記収容空間に設けられ前記供給口から前記排出口に向けて流れる前記ガスを通過させる際に前記ガスに渦を生じさせる多孔板と、
前記ガスが通過する穴部を備え、前記多孔板において前記ガスが通過する面積を、前記ガスの流れる方向と交差する方向の前記収容空間の断面積よりも小さくして前記ガスを流通させるプレート部材と、を有し、
前記被熱処理物は前記収容空間において前記多孔板よりも下流側において前記多孔板と離間して設置され、前記多孔板によって前記ガスに生じた前記渦と接触し、冷却され、
前記多孔板は、前記プレート部材の前記穴部のみに取り付けられる熱処理装置。
【請求項5】
前記被熱処理物は、前記渦の強さを示す渦度が増加した状態で冷却される請求項4に記載の熱処理装置。
【請求項6】
前記多孔板を移動させるアクチュエーターをさらに備える請求項4または5に記載の熱処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理装置および熱処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車などに用いられる歯車などの部品は比較的高い耐摩耗性や衝撃強度が要求される。このような歯車部品を製造する場合には浸炭焼入れなどの熱処理を行うことがある。浸炭焼入れなどの焼入れの際に行われる冷却には液体を用いるものがあるが、冷却後に部品に付着した液体を落とすなどの作業が発生することがある。そのため、近年ガスを用いた部品の冷却についての研究開発が行われている(特許文献1、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−10037号公報
【非特許文献1】渡辺陽一、外15名、「高精度真空浸炭加圧ガス冷却システムおよびその制御技術開発」、2006年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では冷却する部品の形状に合わせてノズルにインサートを取り付けるなどしてノズルの位置の調節を行っている。このような構成ではインサートを用いても部品形状によっては必ずしも部品に適合した形状にノズルを調節できるとは限らない。また、ガス焼入れは冷媒の冷却密度が低く、比較的大型の部品に適用することは難しい。これに対して非特許文献1ではガス焼入れによる冷却能力を向上させるために窒素、水素、ヘリウムなどの様々な冷却ガスを使用している。しかし、冷却能力の高いガスはコストが嵩むという問題がある。また、ガスの種類を変える代わりにガスの圧力を高めことも考えられるが、高圧に耐えうる設備にコストがかかってしまうといった問題があり、上記のような高価なガスや高圧の設備に依存しない効率的な冷却が求められる。
【0005】
そこで本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、様々な部品形状に合わせて部品の効率的な冷却が可能な熱処理装置および熱処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明にかかる熱処理方法は、熱処理を行う被熱処理物を収容する収容空間に前記被熱処理物を設置し、前記収容空間において設けられた多孔板にガスを通過させて前記ガスに渦を生じさせ、前記ガスが前記多孔板から当該多孔板よりも下流側に離間して設置された前記被熱処理物に前記渦の状態で接触することで前記被熱処理物を冷却する。ガスの通過は、ガスが通過する穴部を備え、多孔板においてガスが通過する面積をガスの流れる方向と交差する方向の収容空間の断面積よりも小さくしてガスを流通させるプレート部材を用い、多孔板を前記プレート部材の穴部のみに取りつけることによって行う。
【0007】
上記目的を達成する本発明にかかる熱処理装置は、熱処理を行う被熱処理物を収容する収容空間と、前記収容空間に設けられ前記収容空間にガスを供給する供給口と、前記収容空間に設けられ前記収容空間に供給された前記ガスを排出する排出口と、前記収容空間に設けられ前記供給口から前記排出口に向けて流れる前記ガスを通過させる際に前記ガスに渦を生じさせる多孔板と、前記ガスが通過する穴部を備え、前記多孔板において前記ガスが通過する面積を、前記ガスの流れる方向と交差する方向の前記収容空間の断面積よりも小さくして前記ガスを流通させるプレート部材と、を有する。前記被熱処理物は前記収容空間において前記多孔板よりも下流側において前記多孔板と離間して設置され、前記多孔板によって前記被熱処理物は前記ガスに渦が生じた状態で接触し、冷却される。前記多孔板は、前記プレート部材の前記穴部のみに取り付けられる。
【発明の効果】
【0008】
上記本発明にかかる熱処理方法および熱処理装置によれば、供給口から排出口に向かうガスには多孔板を通過することによってガスに渦を生じさせ、前記ガスに渦が生じた状態で被熱処理物と接触させ、被熱処理物を冷却している。発明者らは多孔板を通過する際にガスに生じる渦は被熱処理物からの熱を外部に輸送し、冷却効率の向上に寄与することを見出した。そのため、多孔板を通過させて流体に渦を生じさせ、被熱処理物に渦の状態で接触させることによって、流体による冷却効率を向上させて冷却能力の高いガスや高圧に耐えうる設備に依存しなくても効率よく被熱処理物(部品)の冷却を行うことができる。また、被熱処理物を多孔板から離間して設置することによって、被熱処理物を変更して設置するだけで変更した部品の熱処理を行うことができる。よって、従来のような部品形状に合わせてノズルの仕様を調整する必要がなく、被熱処理物の熱処理を効率的に行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1(A)、図1(B)は本発明の一実施形態にかかる熱処置装置を示す斜視図、正面図、図1(C)は同熱処理装置の外壁を一部表示しない状態での熱処理装置の内部を示す斜視図である。
図2】同熱処理装置を示す平面図である。
図3図2の3−3線に沿う断面図である。
図4】同実施形態にかかる熱処理方法を示すフローチャートである。
図5】上記実施形態にかかる熱処理装置の変形例であって図3と同じ位置での断面図である。
図6】実施例および比較例における被熱処理物の温度測定位置を示す図である。
図7】実施例および比較例における流れ場の渦度の分布を示す図である。
図8図8(A)は比較例における被熱処理物の温度について示すグラフ、図8(B)は実施例における被熱処理物の温度について示すグラフである。
図9図9(A)から図9(C)は実施例および比較例における流れ場の様子を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、以下の記載は特許請求の範囲に記載される技術的範囲や用語の意義を限定するものではない。また、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0011】
図1(A)、図1(B)は本発明の一実施形態に係る熱処理装置を示す斜視図、正面図、図1(C)は同熱処理装置の外壁を一部表示しない状態での熱処理装置の内部を示す斜視図である。図2は同熱処理装置を示す平面図である。図3図2の3−3線に沿う断面図である。
【0012】
本実施形態にかかる熱処理装置100は、自動車に用いられる歯車やプーリーなどの耐摩耗性や衝撃強度を特に要求される部品の製造の際に用いられる。熱処理装置100は、上記部品の強度等を向上させるために焼入れなどを行う際の冷却にガスを用いて行う場合等に用いられる。
【0013】
熱処理装置100は、図1(A)〜図3を参照して概説すれば、熱処理を行う被熱処理物を収容する収容空間10と、収容空間10に設けられ収容空間10にガスを供給する供給口11と、収容空間10に設けられ収容空間10に供給されたガスを収容空間10から排出する排出口12と、被熱処理物200を載置するベース部材13と、収容空間10に設けられ供給口11から排出口12に向けて流れるガスを通過させる際にガスに渦を生じさせる多孔板14と、を有する。以下、詳述する。
【0014】
収容空間10は、被熱処理物200に対して冷却などの熱処理を行うためのガスを外部と隔離して流通させる空間である。収容空間10は、外壁部20によって図1(A)などに示すように外部と隔離して構成される。外壁部20は、図1(B)などに示すように、収容空間10に冷却などの熱処理を行う被熱処理物200の投入を行うための開口部21(例えばドア等)を有する。外壁部20によって収容空間10はガスの流れる方向に交差(直交)する断面が略矩形状に形成されている。しかし、冷却能力が比較的低くならなければ収容空間10の断面形状などは矩形状に限定されない。
【0015】
開口部21は、図1(A)、図1(B)などに示すように作業者の手などによって把持される把持部22と、開口の際の回転の支点となるヒンジ23と、を有する。作業者は把持部22を把持してヒンジ23を回転軸として開口部21を回転させる。これによって熱処理装置100の内部の収容空間10に被熱処理物200を収容することが可能となる。
【0016】
供給口11は、図1(B)などに示すように収容空間10の上部に設けられている。供給口11は、例えばシロッコファン(不図示)などと接続される。シロッコファンは、本実施形態において収容空間10に被熱処理物200に冷却などの熱処理を行う際のガスを供給するための翼を多数備えた送風機である。しかし、冷却などの熱処理を行うことができれば、ガスを供給する装置はシロッコファン以外の他の送風機であってもよい。
【0017】
また、供給口11は、図1(A)において熱処理装置100の中でも上部において断面が略円形状として設けられている。しかし、被熱処理物200の効率的な冷却が可能であれば配置は上部でなく例えば側面部などであってもよく、断面形状は円形だけでなく矩形などであってもよい。
【0018】
排出口12は供給口11から導入されたガスを収容空間10から排出する構成である。排出口12はダクトなどの公知の構成と接続される。排出口12は供給口11と同様に断面が円形状に構成され、装置における下部に設置されている。しかし、被熱処理物200の効率的に冷却できれば、供給口11の断面形状は円形に限定されず、設置位置も装置下部でなくてもよい。
【0019】
ベース部材13は、図1(C)、図3等に示すように多孔板14よりも収容空間10における下流に設けられる。ベース部材13は、開口部21から投入された被熱処理物200の設置場所を構成する。また、ベース部材13は、図1(C)に示すように供給口11から供給されたガスを下流に向けて流通できるように開口部13aを複数備えている。開口部13aは、被熱処理物200がベース部材13から落下しない程度の大きさに構成されている。また、開口部13aは図1(C)において円形状に構成されているが、ガスを流通できれば断面形状は円形状に限定されない。
【0020】
多孔板14は、供給口11から流通するガスに渦を生じさせるための構成である。多孔板14は、収容空間10においてガスの流れる箇所の断面積を収容空間10の断面積よりも減少させる穴部を備えたプレート部材15に取り付けられる。また、多孔板14およびプレート部材15は被熱処理物200を設置するベース部材13よりも収容空間10における上流側に設置されている。
【0021】
多孔板14は、ガスを流通させる複数の小孔を備えている。多孔板14は、本実施形態において略円形状の部材であり、小孔が例示としてφ20mmの円形状であり、小孔の間隔が例示的に40mm間隔に構成したいわゆるパンチングメッシュによって構成している。供給口11から供給されたガスは多孔板14の小孔を通過することによって流速に差が生じ、渦が発生する。
【0022】
本実施形態における冷却は上述のように特に冷却流体にガスを用いる。本発明者らは、ガスを用いた焼入れなどの冷却時において、層流ではなく乱流の状態で被熱処理物200の表面に噴きつけるガスに渦を生じさせることによって、当該渦が被熱処理物200から生じる熱を外部に輸送し、冷却効率を向上できることを見出した。渦による冷却は、実施例において後述するように被熱処理物200の中でも特にガスの流れる方向に並行な面(側流面とも呼ばれる)において特に効果的である。
【0023】
また、多孔板14の小孔に供給口11から供給されたガスを流通させることによってガスの流れは墳流へと変化する。多孔板14によってガスの流れを噴流へと変化させることによって被熱処理物200の表面に形成された熱境界層の破壊が促進され、冷却能力を向上させることができる。噴流による冷却は被熱処理物200の中でも特にガスの流れと交差する面に対して有効である。
【0024】
また、ベース部材13と多孔板14とは収容空間10においてガスの流れる方向に離間して設置されている。ベース部材13と多孔板14とが離間して設置されていることによって多孔板14を通過して発生した渦はベース部材13に設置された被熱処理物200に接触するまでに渦度が増加するようにできる。渦度は多孔板14における小孔の大きさやガスの流速によって調節することができる。
【0025】
プレート部材15は板部材に少なくとも一箇所穴部を備えて構成される。プレート部材15は、供給口11から供給されたガスを収容空間10の断面積よりも小さい穴部に流通させることによって、ガスが通過する断面積を減少させ、多孔板14とともにガスの流れを墳流に変えるとともにガスの平均流速を向上させる。プレート部材15は、本実施形態において図1(C)に示すように矩形状の板部材に3ヵ所穴部を設けて構成し、当該穴部に多孔板14を取り付けている。また、プレート部材15は、収容空間10を形成する内壁面に固定して取り付けられている。
【0026】
(熱処理方法)
次に本実施形態にかかる熱処理方法について説明する。図4は本実施形態にかかる熱処理方法を示すフローチャートである。本実施形態にかかる熱処理方法は、図4を参照して概説すれば、設置工程(ステップST1)と、ガス供給工程(ステップST2)と、冷却工程(ステップST3)と、を有する。
【0027】
まず設置工程では冷却対象となる被熱処理物200を開口部21から収容空間10のベース部材13に設置する(ステップST1)。本実施形態にかかる熱処理方法は浸炭焼入れなどの熱処理の一環として用いられることがある。そのため、収容空間10に設置された被熱処理物200は収容空間10において不図示の加熱装置において一度加熱される。加熱装置の構成は公知のものと同様であるため説明を省略する。
【0028】
加熱が終了すると、シロッコファンなどと接続された供給口11から冷却ガスが供給される(ステップST2)。ガスが供給口11から収容空間10に導入されると、プレート部材15ではプレート部材15の穴部のみからガスが下流へと流通する。ガスがプレート部材15に設けられた穴部を流通する際にガスの流れる断面積が減少し、ガスの平均流速が向上する。
【0029】
また、ガスがプレート部材15の穴部に取り付けられた多孔板14の小孔を通過する際にガスの速度差が発生して、渦が発生し、被熱処理物200と接触して冷却が行われる(ステップST3)。被熱処理物200の冷却において本発明者らは渦を発生させたガスを被熱処理物200に噴きつけると渦が発生していない状態の場合と比べて冷却効率が向上することを見出した。
【0030】
渦度は多孔板14における小孔の大きさや流速の調整によって、多孔板14を通過した時点から被熱処理物200に接触するまでの間に増加させることができる。なお、渦度の測定について一例を挙げればPIVなどを用いることができる。渦による冷却効果は被熱処理物200の中でも特にガスの流れと並行な部位(側流面とも呼ばれる)において特に現れる。また、ガスがプレート部材15の穴部に取り付けられた多孔板14を通過する際にガスは墳流へと変化する。墳流による冷却の効果はガスの流れと交差する部位に特に現れる。さらに多孔板14およびプレート部材15を用いることによってガスの平均流速を向上させることができ、これによっても冷却能力を向上させることができる。
【0031】
(作用効果)
次に本実施形態にかかる作用効果について説明する。本実施形態にかかる熱処理装置100は、熱処理を行う被熱処理物200を収容する収容空間10と、収容空間10に設けられ収容空間10にガスを供給する供給口11と、収容空間10に設けられ収容空間10に供給されたガスを排出する排出口12と、収容空間10に設けられ被熱処理物200に噴きつけられるガスに渦を生じさせる多孔板14と、を有し、被熱処理物200は収容空間10において多孔板14よりも下流側において多孔板14と離間して設置され、多孔板14によってガスに渦が生じた状態で被熱処理物と接触し、冷却される。また、熱処理装置100を用いた熱処理方法ではガスが多孔板14から多孔板14よりも下流側に離間して設置された被熱処理物200に渦の状態で接触することで被熱処理物200を冷却するように構成している。
【0032】
本発明者らはガスに渦を生じさせた状態で被熱処理物200に噴きつけると被熱処理物200の冷却に寄与することを見出した。そのため、上記のように被熱処理物200に渦が生じた状態で接触させることによって被熱処理物200を効率よく冷却することができる。また、被熱処理物200を収容空間10において多孔板14から離間して設置することによって、被熱処理物200を変更して設置するだけで変更した部品の熱処理を行うことができる。よって、従来のように部品形状に合わせてノズルの仕様を調整する必要がなく、被熱処理物の熱処理を効率的に行なうことができる。
【0033】
渦の強さを示す渦度は多孔板14から被熱処理物200にかけて増加するように構成している。冷却効果は渦の強さに応じて変化すると考えられるため、多孔板から被熱処理物200に接触するまでに渦度を増加させることによって渦による冷却効果をさらに向上させることができる。
【0034】
また、熱処理装置100は、ガスが通過する穴部を備え、多孔板14においてガスが通過する面積を、ガスの流れる方向と交差する方向の収容空間10の断面積よりも小さくしてガスを流通させるプレート部材15を有するように構成している。そのため、ガスがプレート部材15の穴部を通過する際にガスの流れる断面積を減少させてガスの平均流速を向上させることができる。また、多孔板14の小孔と同様にガスの墳流化を促進させることができ、冷却効率の向上に寄与することができる。
【0035】
また、多孔板14はプレート部材15の穴部にのみ取り付けられるように構成している。そのため、多孔板14を収容空間10に別途設置する場合と比較してプレート部材15の穴部にのみ設置するだけで足り、装置の低コスト化に寄与することができる。
【0036】
(実施形態の変形例)
図5は上記実施形態にかかる熱処理装置の変形例であって図3と同じ位置での断面図である。上記実施形態では多孔板14を取り付けたプレート部材15を収容空間10を形成する内壁面に固定して取り付ける実施形態について説明した。しかし、上記に限定されず、図5に示すように多孔板14を取り付けたプレート部材15をガスの流れる方向に移動可能に設置するように構成してもよい。
【0037】
本変形例にかかる熱処理装置100aは、図5に示すように、多孔板14を取り付けたプレート部材15を収容空間10におけるガスの流通方向に移動させるアクチュエーター16a、16bを有している。アクチュエーター16a、16bは、収容空間10を形成する内壁面の中でも対向する内壁面に設置されている。アクチュエーター16a、16bは、例えばプレート部材15を取り付けたステージをガスの流れる方向に移動可能な電動アクチュエーターとして構成している。しかし、プレート部材15をガスの流れる方向に移動できれば、その他のアクチュエーターで構成してもよい。その他の構成は上記実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0038】
このように熱処理装置100aがアクチュエーター16a、16bを有するように構成することによって、多孔板14と被熱処理物200との距離を調節できるようになり、ガスが被熱処理物200に接触する際の渦度をより調節しやすくすることができる。
【0039】
(実施例)
以下、上記実施形態にかかる熱処理方法についてシミュレーションにて冷却速度の確認を行ったので説明する。本実施例では断面寸法が500×600mm、流路長が250mmの収容空間10を使用した。実施例として収容空間10の下流壁面にあたる位置から上流に400mm離れた位置(図3のA寸法、B寸法、C寸法の合計)に多孔板14およびプレート部材15を設置した。多孔板14は小孔がφ20mmの40mmピッチであり、プレート部材15の穴部の直径はφ60mm、多孔板14およびプレート部材15の板厚は1mmである。多孔板14およびプレート部材15の材料はSUS304としている。また、ベース部材13は収容空間10の下部壁面から50mmの位置(図3のC寸法)に設置した。
【0040】
これに対し、比較例としては流路の上流には本実施形態にかかる多孔板14およびプレート部材15に当たる構成は配置していない。図6は実施例および比較例における被熱処理物の温度測定位置を示す図である。被熱処理物200にはCVT(無断変速機)における固定側プーリー(直径160mm、高さ150mm(図3のB寸法)、軸長180mm、材料SCr420H)を用いた。被熱処理物200の測定は図6に示すように回転体である被熱処理物200の軸方向に離れた測定箇所a1〜a4の4箇所にて行った。多孔板14から被熱処理物200までの距離(図3のA寸法)は200mmである。
【0041】
このような状況下において収容空間10に1MPaの圧力下において供給口11から19m/sにてガスを供給した。使用したガスは窒素ガスである。ガスは10秒間供給した後封止し、4分50秒攪拌する、という条件に設定した。本実施形態では収容空間10において上記速度においてガスを供給した際の流れ場の渦度と図6に示す被熱処理物200の温度測定箇所a1〜a4について確認を行った。図7は実施例および比較例における流れ場の渦度の分布について示す図である。図8(A)は比較例における被熱処理物の温度について示すグラフ、図8(B)は実施例における被熱処理物の温度について示すグラフである。
【0042】
図7において条件1と記載された図7の上側半分は比較例のデータを示し、図7の条件2と記載された下側半分は実施例のデータを示す。図7のいわゆるコンタ図は乱流粘性をグラフ化したものであり、渦度を乱流粘性によって評価している。渦度はコンタ図の色が明るい色になればなるほど、高くなることを示している。図7の条件1と条件2とを比較すると、下側である実施例の方が部品の側面付近(図7のA付近)においてコンタ図の色が明るく変化している様子が確認できる。これから部品の特に側面付近において渦度が高くなっていることが確認できた。
【0043】
また、図8(A)、図8(B)では縦軸を時間、横軸を温度に設定しており、図6に示す測定箇所a1〜a4に示す位置での温度の時間変化を表示している。図8(A)、図8(B)によれば、測定箇所a1〜a4のいずれの場所においても実施例である図9(B)の結果の方が比較例である図9(A)の実験結果より少ない時間で約650℃程度まで冷却されており、本実施例の方が比較例よりも冷却能力において優れていることを確認できた。
【0044】
また、本件では多孔板からガスを供給した場合の墳流の状態や平均流速についても確認を行なった。図9(A)から図9(C)は実施例および比較例における流れ場の様子を示す写真である。墳流の状態及び平均流速については、多孔板およびプレート部材を用いない比較例(図9(A)参照)、多孔板のみを用いた実施例(図9(B)参照)、および多孔板とプレート部材を用いた実施例(図9(C)参照)について確認を行なった。実験の仕様は上記シミュレーションと同様である。ガスの挙動はPIVにて確認を行なった。
【0045】
墳流の状態について、図9(A)〜図9(C)によれば、多孔板およびプレート部材を用いた実施例(図9(C))においてガスは被熱処理物の付近に比較的滞留せずに流通していると見られ、墳流の度合いが高くなっていることが確認できた。
【0046】
また、PIVによる測定結果から平均流速を求めると、多孔板およびプレート部材を用いていない比較例(図9(A))は4.3m/s、多孔板のみを用いた実施例(図9(B))では4.9m/s、多孔板およびプレート部材のいずれも用いた実施例(図9(C))では24m/sとなった。このように多孔板を用いることによってガスの平均流速が向上し、さらにプレート部材を用いることによって平均流速をさらに向上させることができることが確認できた。
【0047】
なお、本発明は上述した実施形態にのみ限定されず、特許請求の範囲において種々の変更が可能である。多孔板14は断面が円形の小孔を複数備える実施形態について説明したが、これに限定されず、小孔の形状は上記以外に例えば矩形などの多角形であってもよい。また、多孔板14はプレート部材15の穴部に取り付けられる実施形態について説明したが、これに限定されず、多孔板14をプレート部材15の穴部ではなく収容空間10に別途設置してもよい。
【0048】
また、図5に示す変形例では、多孔板14を取り付けたプレート部材15にアクチュエーター16a、16bが取り付けられ、被熱処理物200に向かって接近離間する実施形態について説明したが、これに限定されない。多孔板14と被熱処理物200との距離が調整できれば、上記以外に被熱処理物200を設置するベース部材13が多孔板14に接近離間してもよいし、多孔板14およびベース部材13のいずれもが互いに移動する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0049】
10 収容空間、
11 供給口、
12 排出口、
13 ベース部材、
14 多孔板、
15 プレート部材、
16a、16b アクチュエーター、
100 熱処理装置、
200 被熱処理物。
図1
図2
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図9