(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記基準値は、アイオノマー単品を前記ヒーターによって加熱して、昇温中に前記温度計によって測定した温度および前記質量計によって測定した質量から得られたアイオノマー単品の熱分解温度であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池電極用触媒インクの測定装置。
前記温度および前記質量の前記測定は、前記触媒インク、および前記アイオノマー単品から、溶媒を真空乾燥により蒸発させた残留物を用いて行われることを特徴とする請求項2に記載の燃料電池電極用触媒インクの測定装置。
前記演算部は、前記差分を求めずに、前記触媒インクの前記熱分解温度を前記アイオノマーの分散度とすることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池電極用触媒インクの測定装置。
前記温度および前記質量の前記測定は、前記触媒インクから溶媒を真空乾燥により蒸発させた残留物を用いて行われることを特徴とする請求項1または4に記載の燃料電池電極用触媒インクの測定装置。
前記基準値は、アイオノマー単品を加熱して、昇温中に測定した温度および質量から得られたアイオノマー単品の熱分解温度であることを特徴とする請求項7に記載の燃料電池電極用触媒インクの測定方法。
前記温度および質量を測定する段階は、前記触媒インクおよび前記アイオノマー単品から、溶媒を真空乾燥により蒸発させた残留物を用いて行うことを特徴とする請求項8に記載の燃料電池電極用触媒インクの測定方法。
前記アイオノマーの分散度は、前記差分を前記アイオノマーの分散度として求める段階の代わりに、前記触媒インクの前記熱分解温度を前記アイオノマーの分散度とする段階により求めることを特徴とする請求項7に記載の燃料電池電極用触媒インクの測定方法。
前記温度および質量を測定する段階は、前記触媒インクから溶媒を真空乾燥により蒸発させた残留物を用いて行うことを特徴とする請求項7または10に記載の燃料電池電極用触媒インクの測定方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、適宜図面を参照しながら、本発明の一実施形態を詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施形態のみには制限されない。なお、各図面は説明の便宜上誇張されて表現されており、各図面における各構成要素の寸法比率が実際とは異なる場合がある。また、本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明した場合では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0016】
<触媒インクの測定装置>
図1は、燃料電池電極用触媒インクの測定装置(以下測定装置という)の構成を示すブロック図である。
【0017】
測定装置100は、大別して演算装置110(演算部)と熱分解分析装置120とからなる。
【0018】
演算装置110は、パソコン(コンピューター)などであり、熱分解分析装置120に対して測定条件(昇温開始および終了温度や開始終了条件、昇温速度など)を設定し、熱分解分析装置120から得られた結果を取得して分析する。また演算装置110は、本実施形態では、詳細は後述するが、触媒インク内のアイオノマーの熱分解温度の算出、分散度の算出、および触媒インクの良不良の判定なども行う。このような演算装置110は熱分解分析装置120と一体的な装置構成であってもよく、装置の形態は制限されない。
【0019】
熱分解分析装置120は、チャンバー121内に、質量計122、試料容器123、ヒーター124、温度計125が設けられている。また、チャンバー121には不活性ガス源126が接続されている。また図示していないがチャンバー121には、排気装置(または真空ポンプなど)が接続されている。また、冷却器を備えていてもよい。
【0020】
質量計122は、その上に置かれた試料容器123ごと試料130の質量を測定する。もちろん試料容器123の質量はあらかじめ分かっており、試料130の質量は、質量計122によって測定された質量の値から試料容器123の質量を引いた値である。
【0021】
試料容器123は、開放容器であり、中に試料130を載置するためのものである。
【0022】
ヒーター124はチャンバー内温度を昇温する。なお、ヒーター124はチャンバー121の外にあってチャンバー121内を加熱できるようにしたものであってもよい。
【0023】
温度計125は試料130の温度を測定する。
【0024】
不活性ガス源126は、たとえば、窒素ガスボンベ、ヘリウムガスボンベ、アルゴンガスボンベなどである。不活性ガス源126は、チャンバー121内に不活性ガスを供給し、チャンバー121内を不活性ガスにより満たした状態で熱分解温度を測定するために使用する。
【0025】
このような熱分解分析装置120を用いた一般的な熱分解温度の測定について説明する。まず、試料130を試料容器123内に載置する。そして必要に応じてチャンバー121内を不活性ガスで満たす。初期状態(加熱前)における質量を質量計122により測定する。また、初期状態の試料130の温度を温度計125により測定する。演算装置110によって設定された昇温終了温度(または終了条件)になるまで、同じく設定された昇温速度でヒーター124によって試料130を加熱する。ここでは、チャンバー121の内部全体を加熱することになる。この加熱による昇温中に、試料130の温度を温度計125により測定するとともに試料130の質量を質量計122により測定する。温度および質量の測定値は演算装置110に送られて熱分解温度が求められる。
【0026】
このような熱分解温度の測定は、周知のものであり、たとえば、文献「日本工業規格熱分析通則の改定」、畠山立子、Netsu Sokutei 33(3)127−133に、熱質量測定(thermogravimetry:TG)として記載されている。また、TG装置の構成がこの文献のFig.5として記載されているので、この図を本願
図2として示した。この文献によれば、熱質量測定は、試料の温度を一定のプログラムに従って変化または保持させながら、その試料の質量を温度または時間の関数として測定する。
【0027】
<触媒インクの測定方法>
本実施形態による触媒インクの測定方法について説明する。本実施形態では、上述した測定装置を用いて、触媒インク中のアイオノマーの熱分解温度を求める。そして得られた熱分解温度から、アイオノマーの分散度を求めるのである。以下、このアイオノマーの熱分解温度を求める手順を説明する。
【0028】
まず、触媒インクを製造する際に使用するアイオノマー単品の熱分解温度T1を求める。得られた熱分解温度T1は、たとえば演算装置110内のメモリ(または他の記憶媒体)などに記憶しておくことになる。
【0029】
ここでアイオノマー単品を測定するのは、熱分解温度の基準値を得るためである(詳細後述)。測定するアイオノマー単品は、少なくとも触媒インクを製造する際に使用するアイオノマーと同じ仕様、同じ製造条件によって製造された製品を使用する。好ましくは、触媒インクを製造する際に使用するアイオノマーと同じロット(同じ製品固体)を使用する。こうすることで製品規格内ではあるが製品固体が異なることによる微妙な測定誤差を防止することができる。より好ましくは、触媒インク製造のときに、アイオノマーを他の成分と混合する直前で抜き取って測定することである。混合の直前に抜き取ることで、アイオノマーの貯蔵状態や製造環境などによる影響による極わずかな誤差もなくすることができる。
【0030】
アイオノマーは、製品の多くがアイオノマーを溶媒に分散させたアイオノマー溶液として納品されている。溶媒はアイオノマーの熱分解温度を求める際に誤差が生じる原因となる。熱分解温度は試料130を昇温しつつその質量を測定することにより行われる。このため溶媒があると、アイオノマーの熱分解による質量変化が、昇温によって溶媒が蒸発する質量変化に隠れてしまい、アイオノマーそのものが熱分解して変化した質量を観測できない。このためアイオノマー単品の熱分解温度T1の測定には溶媒を除去する必要があるのである。溶媒に分散させていないアイオノマーのみの製品の場合は、溶媒の除去は不要である。
【0031】
溶媒の除去は真空乾燥によって行う。真空乾燥は、たとえば、室温(通常18〜30℃程度である)で、圧力20kPa程度にすることで溶媒を蒸発させる。真空乾燥には市販の真空乾燥装置を用いればよい。真空状態の維持時間は、溶媒が飛んだ後、多少長くても差し支えない。溶媒とアイオノマーとの分子量は大きく違うため、常温で上記の圧力程度であれば、溶媒が蒸発後、アイオノマーまでが蒸発してしまうことはない。また、常温で行うため、アイオノマーが変質してしまうこともない。
【0032】
熱分解温度T1は、アイオノマー溶液から溶媒を蒸発させた残留物(すなわちアイオノマー成分のみ)を試料130として熱分解分析装置120にセットして、昇温中の温度および質量を測定することで求める。測定の際には、試料130を入れたチャンバー121内を不活性ガス(たとえばアルゴン)雰囲気となるようにガス置換する。不活性ガスは、アイオノマー単品の測定時には必ずしも必要ではない。しかし、触媒インク測定時と測定環境を合わせるために不活性ガス雰囲気で行うことが好ましい(詳細後述)。
【0033】
続いて、触媒インクの測定を行う。まず触媒インク中から溶媒を除去する。触媒インクは、触媒担持粒子、アイオノマー、その他の添加物、そしてこれらを分散させている溶媒からなる。触媒インクの溶媒も、アイオノマー単品の測定と同様の理由により、熱分解温度を求める際の誤差の原因となるので除去する。溶媒の除去は、アイオノマー単品の場合と同じように、室温で、20kPaによる真空乾燥によって行う。
【0034】
熱分解温度T2は、触媒インクから溶媒を蒸発させた残留物を試料130として熱分解分析装置120にセットして、昇温中の温度および質量を測定することで求める。測定の際には、試料130を入れたチャンバー121内を不活性ガス(たとえばアルゴン)置換して不活性ガス雰囲気中で行う。
【0035】
不活性ガス雰囲気中で行う理由を説明する。触媒インクには触媒担持粒子が含まれている。多くの場合、触媒担持粒子を構成する担体は炭素粒子を用いている。そして触媒金属がこの炭素粒子に担持されている。このため空気中で熱分解分析を行うために加熱すると、触媒金属の触媒作用により、炭素が空気中の酸素と反応して一酸化炭素や二酸化炭素となってしまう。このような炭素の反応を抑えるために、熱分解温度測定中は、チャンバー121内を不活性ガスで満たしておくのである。
【0036】
熱分解温度T2を求めた後、アイオノマー単品の熱分解温度T1と、触媒インク中のアイオノマーの熱分解温度T2の差分ΔT=T1−T2を求める(詳細後述)。このΔTは演算装置110によって算出する。
【0037】
ここで、熱分解温度と分散度、および吸着量の関係についてさらに説明する。
【0038】
図3は触媒の望ましい構造を説明するための模式図である。
図4は触媒の望ましくない構造を示す模式図である。
【0039】
まず触媒インクの基本構造について説明する。
図3を参照して、触媒インク200は、アイオノマー210を吸着した触媒担持粒子220が溶媒201中に分散している。アイオノマー210は固体プロトン伝導体となるものであり、高分子電解質である。触媒担持粒子220は、担体221および触媒金属222からなる。担体221は複数の微細孔を有する。触媒金属222は、担体221の微細孔内部および担体表面に担持される。
【0040】
そして、触媒インク200の望ましい構造は
図3に示したように、各触媒担持粒子220がアイオノマー210によって覆われて溶媒201中に分散している。このため、触媒担持粒子220も、アイオノマー210も溶媒201中での分散度が高く、各触媒担持粒子220に対するアイオノマー210の吸着量も多くなる。
【0041】
一方、触媒インク200の望ましくない構造は
図4に示したように、触媒担持粒子220の一部は凝集していて、アイオノマー210によって覆われていない部分も存在する。また、アイオノマー210自身も、その一部は触媒担持粒子220に吸着されることなく凝集してしまっている。このため溶媒201中でのアイオノマー210の分散度は低く、触媒担持粒子220に対するアイオノマー210の吸着量も少ない。
【0042】
このような触媒インク200の構造からわかるように、アイオノマー210の多くが触媒担持粒子220に吸着し、触媒担持粒子220を覆っていれば、触媒インク200内に一定量存在しているアイオノマー210の分散度は高くなる。したがって、溶媒201中のアイオノマー210の分散度は、触媒担持粒子220へ吸着しているアイオノマー210の吸着量(被覆量と云ってもよい)に対応している。
【0043】
そして、アイオノマー210の分散度は、アイオノマー210の熱分解温度と相関がある。これは触媒インク200内でアイオノマー210がよく分散していれば、アイオノマー210全体の表面積が大きくなる。一方、分散度が低い場合、触媒担持粒子220に吸着することなくアイオノマー210だけで凝集して塊になって存在するものも多くなる。このためアイオノマー210だけの塊の表面積は、触媒担持粒子220に吸着して広がっているアイオノマー210の表面積よりも小さくなる。
【0044】
熱分解分析においては、同じ物質でも、表面積が大きい方が熱分解温度は低くなる。したがって、触媒インク200中においては、触媒担持粒子220へのアイオノマー210の吸着量が多く、分散度が高ければアイオノマー210の表面積も大きくなる。よって熱分解温度は低くなる。一方、触媒担持粒子220へのアイオノマー210の吸着量が少なく、分散度が低ければ、アイオノマー210の表面積は小さい。よって熱分解温度は高くなる。
【0045】
触媒インク200中のアイオノマー210の熱分解温度は、上記のように触媒担持粒子220へのアイオノマー210の吸着によって生じた分散を表したものとなる。しかし、得られた熱分解温度は、元々のアイオノマーが持つ熱分解温度や分散状態を示した数値となっている。
【0046】
そこで、触媒インク200を測定することによって得られた熱分解温度T2から、元々のアイオノマーが持つ熱分解温度や分散状態の影響を取り除くのである。
【0047】
このために、触媒インク200中のアイオノマー210と同成分のアイオノマー210(既に説明したように好ましくは同一ロット、より好ましくは触媒インク製造直前のアイオノマー210)を用いて、アイオノマー単品での熱分解温度T1を求め、これを基準値として熱分解温度T2から減算する。つまりアイオノマー単品の熱分解温度T1と、触媒インク200の熱分解温度T2との差分ΔT=T1−T2を算出するのである。このように差分ΔTを算出することで、元々のアイオノマー210の熱分解温度および分散状態の影響を取り除き、触媒インク200中におけるアイオノマー210の分散度を正確に知ることができるようになる。
【0048】
基準となるアイオノマー単品の熱分解温度T1が最も分散度が低い状態である。そして熱分解温度T1が同じ場合、分散度の高い(DH)アイオノマー210の熱分解温度T2
DHが、分散度の低い(DL)アイオノマー210の熱分解温度T2
DLよりも低くなる。つまり、熱分解温度は、T1>T2
DL>T2
DHとなる。このため差分ΔT=T1−T2は分散度の高いアイオノマー210の方が大きくなり、分散度の低いアイオノマー210の方が小さくなる。このことから差分ΔTは、触媒インク200中におけるアイオノマー210の分散度の指標となるのである。これはこれまでアイオノマー210の分散度を知ることが難しかったことにかんがみれば、本実施形態により得られる差分ΔTの値は触媒インクを直接測定することで得られるアイオノマー210の分散度そのものと定義してもよいものである。
【0049】
次に熱分解温度の求め方を説明する。熱分解温度は温度と質量の測定結果を用いたグラフから接線法により求める。
図5は熱分解温度を説明するためのグラフである。
図5は、後述する実施例におけるアイオノマー単品の熱分解分析結果のグラフを用いたものである。
【0050】
熱分解温度は、樹脂(高分子)を加熱して温度を上げて行った際、樹脂が分解し始めて質量減少が始まる温度のことである。
図5のグラフは熱分解分析装置120によって測定された結果であり、温度(横軸)に対する質量減少率(縦軸)を示している。このグラフからわかるように、温度が上がると、あるところから質量が大きく減少することがわかる。この大きく質量が減少している位置の前後のグラフ線に沿う接線を引いて、質量減少前の接線と質量減少後の接線の交点の温度を熱分解温度としている。なお、このような接線法による熱分解温度の算出は、たとえば演算装置110によって自動的に(プログラムを利用して)求めている。しかし、得られた測定結果からユーザーが
図5のようなグラフを描いて、そのグラフから求めてもよい。
【0051】
このようにして求めた触媒インク200中のアイオノマー210の分散度(上記の差分ΔT)を用いて、触媒インク200の良、不良を判定することができる。たとえば分散度の値にしきい値を設け、このしきい値以上の測定結果が得られた触媒インク200は良品とするのである。このような良否判定は、演算装置110によって行わせ、演算装置110(たとえばパソコン)のディスプレイに表示させるなどとしてもよい。
【0052】
良品となった触媒インク200は、触媒層や膜電極接合体(MEA)の製造に回され、燃料電池に使用されることになる。これにより触媒インク200の段階で、触媒インク200に起因した性能不足が取り除かれるようになるため、触媒層や膜電極接合体(MEA)の歩留まりを向上させ、ひいては燃料電池そのもの製造歩留まりも向上させ得る。
【0053】
以下、触媒インクに含まれる各成分について説明する。
【0054】
(担体)
触媒担持粒子220は既に説明したように、担体221と触媒金属222よりなる。
【0055】
担体221は、触媒金属222を担持して、触媒金属222と他の部材との間での電子の授受に関与する電子伝導パスとして機能する。担体221の材料は、一般的に燃料電池の触媒として使用されているものであればよく、制限はない。したがって、担体221は触媒金属222を担持させるための比表面積を有し、集電体として十分な電子導電性を有しているものであればよい。たとえば主成分が炭素であるものが好ましい。具体的には、カーボンブラック、活性炭、コークス、天然黒鉛、人造黒鉛などからなる炭素粒子が挙げられる。なお、「主成分が炭素である」とは、主成分として炭素原子を含むことをいい、炭素原子のみからなる、実質的に炭素原子からなる、の双方を含む概念である。場合によっては、燃料電池の特性を向上させるために、炭素原子以外の元素が含まれていてもよい。なお、実質的に炭素原子からなるとは、2〜3質量%程度以下の不純物の混入が許容されることを意味する。
【0056】
(触媒金属)
触媒金属222は、電気的化学反応の触媒作用をする機能を有する。触媒金属222についても一般的に燃料電池の触媒として使用されているものであればよく、制限はない。触媒金属222は、触媒活性、一酸化炭素等に対する耐被毒性、耐熱性などを向上させるために、少なくとも白金を含むものが好ましく用いられる。すなわち、触媒金属222は、白金であるまたは白金と白金以外の金属成分を含む。
【0057】
白金以外の金属成分としては、特に制限はなく公知の触媒成分が同様にして使用でき、具体的には、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、タングステン、鉛、鉄、銅、銀、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム、亜鉛等の金属などが挙げられる。白金以外の金属成分は1種であっても2種以上であってもよい。なかでも、触媒性能の観点からは、遷移金属であることが好ましい。ここで、遷移金属原子とは、第3族元素から第12族元素を指し、遷移金属原子の種類もまた、特に制限されない。触媒活性の観点から、遷移金属原子は、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、銅、亜鉛およびジルコニウムからなる群より選択されることが好ましい。
【0058】
合金の組成は、合金化する金属の種類にもよるが、たとえば白金の含有量を30〜90原子%とし、白金と合金化する金属の含有量を10〜70原子%とするのがよい。なお、合金とは、一般に金属元素に1種以上の金属元素または非金属元素を加えたものであって、金属的性質を持っているものの総称である。合金の組織には、成分元素が別個の結晶となるいわば混合物である共晶合金、成分元素が完全に溶け合い固溶体となっているもの、成分元素が金属間化合物または金属と非金属との化合物を形成しているものなどがあり、いずれであってもよい。
【0059】
触媒金属222の形状や大きさは、特に制限されず公知の触媒成分と同様の形状および大きさが採用されうる。形状としては、たとえば、粒状、鱗片状、層状などのものが使用できるが、好ましくは粒状である。この際、触媒担持粒子220の平均粒子径は、好ましくは1〜30nm、より好ましくは2〜10nmである。触媒担持粒子220の平均粒子径がこのような範囲内の値であると、電気化学反応が進行する有効電極面積に関連する触媒層利用率と担持の簡便さとのバランスが適切に制御されうる。
【0060】
(触媒担持粒子の製造方法)
触媒担持粒子220の製造方法(触媒担体への金属触媒の担持方法)は特に制限されず、従来公知の方法を用いることができる。たとえば、液相還元法、蒸発乾固法、コロイド吸着法、噴霧熱分解法、逆ミセル(マイクロエマルジョン法)などの公知の方法が使用できる。ここではこれらの製法の詳細は省略する。もちろん触媒担持粒子220(触媒粉末と称されることもある)は、市販品であってもよい。
【0061】
(アイオノマー(高分子電解質))
アイオノマー210は、イオン伝導性の高分子電解質である。アイオノマー210についても、特に限定されず公知のものが使用される。アイオノマー210は、燃料極側の触媒活物質周辺で発生したプロトンを伝達する役割を果たすことから、固体プロトン伝導体とも呼ばれる。この高分子電解質は、特に限定されず従来公知のものが使用される。高分子電解質は、構成材料であるイオン交換樹脂であり、その種類は、フッ素系高分子電解質と炭化水素系高分子電解質とに大別される。高分子電解質は、耐熱性、化学的安定性などに優れることから、フッ素原子を含むのが好ましい。たとえば、パーフルオロカーボンスルホン酸を挙げることができる。また、具体的な製品としては、たとえば、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)などのフッ素系電解質が挙げられる。
【0062】
(溶媒)
溶媒201は、特に限定されず、触媒層を形成するのに使用される通常の溶媒201が同様にして使用できる。具体的には、水道水、純水、イオン交換水、蒸留水等の水、シクロヘキサノール、メタノール、エタノール、n−プロパノール(n−プロピルアルコール)、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、イソブタノール、およびtert−ブタノール等の炭素数1〜4の低級アルコール、プロピレングリコール、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。これらの他にも、酢酸ブチルアルコール、ジメチルエーテル、エチレングリコールなどが溶媒201として用いられてもよい。これらは、1種を単独で使用してもあるいは2種以上の混合液の状態で使用してもよい。
【0063】
触媒インク200を構成する溶媒201の量は、触媒担持粒子220およびアイオノマー210を分散させることができる量であれば特に制限されない。具体的には、触媒担持粒子220およびアイオノマー210などを合わせた固形分の濃度が、電極触媒インク中、1〜50質量%、より好ましくは5〜30質量%程度とするのが好ましい。
【0064】
(他の添加物)
電極触媒インク中には、必要に応じて、撥水剤、分散剤、増粘剤、造孔剤等の添加剤を混合する。これらの添加剤を使用する場合、その添加量は、それぞれ、電極触媒インクの全質量に対して、好ましくは5〜20質量%である。
【0065】
(触媒インクの製造方法)
触媒インク200は、触媒担持粒子220、アイオノマー210、他の添加物が溶媒201中に混合分散されたものである。この触媒インク200の製造方法は特に制限されない。たとえば、アイオノマー210を極性溶媒に添加し、この混合液を加熱・攪拌して、アイオノマー210を極性溶媒に溶解した後、これに触媒担持粒子220を添加することによって、触媒インク200が調製できる。または、アイオノマー210を、溶媒201中に一旦分散、懸濁された後、上記分散懸濁液を触媒担持粒子220と混合して、触媒インク200を調製してもよい。また、アイオノマー210があらかじめ溶媒201中に調製されている市販の電解質溶液に触媒担持粒子220を入れて混合することで触媒インク200を調製してもよい。
【0066】
このようにして製造された触媒インク200は、既に説明した触媒インク200の測定によってアイオノマー210の分散度を測定し、その結果を用いて良品を選別して、良品を触媒層の製造に用いることになる。
【実施例】
【0067】
本発明を、実施例および比較例を用いてさらに説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0068】
(実施例)
実施例の触媒インクを以下のように調整した。
【0069】
触媒インクの溶媒となる水52g中に、触媒担持粒子13gとアイオノマー溶液33gをビーズミルに投入して混合することで実施例の触媒インクを得た。触媒担持粒子は、炭素粒子からなる担体に白金6.5gを担持させたものであり、その平均粒径は3nmである。アイオノマー溶液は、アイオノマーとしてパーフルオロカーボンスルホン酸を含有する水/n−プロパノール混合溶液(水/n−プロパノールの混合比34/46)である。アイオノマー溶液33g中にパーフルオロカーボンスルホン酸7gが含まれている。ビーズミルによる混合は、本実施例では回転数500rpm、1時間撹拌した。
【0070】
なお、基準となる熱分解温度T1の測定用のアイオノマー単品としては、この実施例の触媒インクを調整する際に使用するアイオノマー溶液を、上記溶媒(水)へ投入する直前に取り分けしたものを使用した。
【0071】
(比較例)
比較例の触媒インクを以下のように調整した。
【0072】
実施例と同様に、溶媒である水52gに、触媒担持粒子13gとアイオノマー溶液33gを混合した。ただし、比較例ではビーズミルにより、回転数250rpm、30分撹拌することにより混合して、比較例の触媒インクを得た。
【0073】
(熱分解温度の測定)
熱分解温度の測定は、熱分解分析装置としてティー・エイ・インスツルメント社製のTGDTA6200を用いた。測定条件は、開始温度100℃、昇温速度10℃/min、終了条件として、質量変化が飽和して、質量減少率が1%以上変化しなくなった時点とした。アイオノマー単品、実施例および比較例のいずれも同じ条件で測定した。
【0074】
測定は、まず、試料として、アイオノマー溶液と、実施例および比較例それぞれの触媒インクとを室温(25℃)にて真空乾燥させた。真空乾燥後の残留物をおおむね5〜15mgの範囲で取り出して、熱分解分析装置にそれぞれセットした。また、測定に際しては、アルゴンガスにより試料室(チャンバー)内をパージして、アルゴンガス雰囲気中で行った。
【0075】
図6はアイオノマー単品の熱分解分析結果のグラフである。
図7は実施例の触媒インクの熱分解分析結果のグラフである。
図8は比較例の触媒インクの熱分解分析結果のグラフである。また、
図9はアイオノマー単品、実施例の触媒インク、比較例の触媒インクのそれぞれの熱分解温度をまとめたグラフである。
【0076】
これらの熱分解分析の結果から、
図9に示したように、熱分解温度はアイオノマー単品が495℃、実施例が440℃、比較例が482℃であった。この結果から差分ΔTは、実施例のΔT=495−440=55℃、比較例のΔT=495−482=13℃であった。この差分ΔTから、分散度は実施例の方が大きいことがわかる。
【0077】
(発電性能の検証)
実施例および比較例の触媒インクをそれぞれ用いて、燃料電池の単セルを作製して、発電性能を測定した。単セルを製作は以下のようにして作製した。
【0078】
(単セルの作製)
高分子電解質膜(Dupont社製、NAFION NR211、膜厚:25μm)の両面の周囲にガスケット(帝人Dupont社製、テオネックス、膜厚:25μm(接着層:10μm))を配置した。次いで、高分子電解質膜の片面の露出部に、カソード触媒インクをスプレー塗布法により、5cm×5cmのサイズに塗布した。スプレー塗布を行うステージを60℃に1分間保つことで触媒インクを乾燥し、カソード触媒層を得た。このときの白金担持量は0.4mg/cm
2である。
【0079】
次に、カソード触媒層と同様に電解質膜上にスプレー塗布および熱処理を行うことでアノード触媒層を形成した。
【0080】
得られた積層体の両面をガス拡散層(24BC,SGLカーボン社製)で挟持し、膜電極接合体(MEA)を得た。
【0081】
このMEAの両側にガス流路を形成して単セル構造体を作製した。
【0082】
このような単セルを、カソード触媒インクおよびアノード触媒インクに、実施例の触媒インクを使用したもの(実施例の単セルという)と、比較例の触媒インクを使用したもの(比較例の単セルという)をそれぞれ作製した。
【0083】
実施例および比較例のそれぞれの単セルをカソード側に空気と水蒸気を流し、アノード側に水素ガスと水蒸気を流して、発電させ、負荷を接続して、取り出せた電圧および電流を測定した。単セルの温度調整はヒーターと熱電対で行った。
【0084】
図10は発電性能を示すグラフである。
図10に示したように、電流密度が高くなるほど、実施例の方が比較例よりも電圧が高いことがわかる。すなわち、電圧が同じであれば、実施例の方が、より多くの電流を取り出すことができるのである。したがって、この結果から、実施例の方が高い発電性能となっていることがわかる。そしてこのことから、アイオノマーの分散度と発電性能は相関関係のあることがわかる。
【0085】
これら実施例および比較例から、触媒インクの段階で、その熱分解温度を測定することにより、アイオノマーの分散度がわかる。そして、この分散度の値から、燃料電池に触媒インクを用いた時の発電性能を見極めることが可能となる。
【0086】
たとえば、アイオノマーの分散度にしきい値を設定することで、良品と不良品の選別が可能となる。本実施例および比較例を参考にすれば、たとえば、各ΔTの中間値である34℃をしきい値として両者を選別してもよい。またたとえば、ある程度の発電性能が得られれば良いということであれば、しきい値を20℃などと中間値より低い値に設定すればよい。逆に、たとえば特別な高性能を要求するのであれば、しきい値を50℃などとより高い値に設定すればよい。ここで例示したしきい値の値は、あくまでも本実施例および比較例を選別するとした場合の値であり、本発明がこのようなしきい値を用いることに限定されるものではない。このようなしきい値は、ユーザーが任意に設定して、触媒インクの測定によって得られたアイオノマーの分散度による選別を行えばよいものである。
【0087】
以下本発明を利用した実施形態および実施例による効果を説明する。
【0088】
(1)実施形態および実施例によれば、触媒インクそのものを分析して、触媒インクの熱分解温度からアイオノマーの分散度を求めることした。このため触媒インクを直接測定するだけで、アイオノマーの分散状態を知ることができる。また、熱分解温度を測定するだけなので、従来技術のような煩雑な処理が必要ないので、実際の触媒インク中のアイオノマーの分散状態を高精度で表したものとなる。
【0089】
(2)実施形態および実施例によれば、触媒担持粒子と混合前のアイオノマー単品の熱分解温度を求めておいて、これを基準値として、触媒インクの熱分解温度との差分を取ってアイオノマーの分散度とした。これにより触媒インクの製造に用いるアイオノマーの初期状態における分散度の違いによる誤差を少なくすることができ、いっそう分散度の指標としての精度を高くすることができる。
【0090】
(3)実施形態および実施例によれば、触媒インクについても、またアイオノマー単品においても、溶媒を真空乾燥により蒸発させた残留物を用いて熱分解温度を測定することとした。これにより熱分解温度測定時に、溶媒が蒸発する際の質量変化を検出してしまうことがなくなり、いっそう分散度の指標としての精度を高くすることができる。また、常温での真空乾燥により溶媒を蒸発させることで、高分子成分であるアイオノマーの変質を防ぐことができる。
【0091】
(4)実施形態および実施例によれば、不活性ガス雰囲気中で熱分解温度を測定することとした。これにより触媒インク中における触媒担体粒子を構成する炭素が加熱中に触媒作用によって酸化されて、質量変化するのを防止することができ、いっそう分散度の指標としての精度を高くすることができる。
【0092】
以上本発明を適用した実施形態および実施例について説明したが、本発明は上述した実施形態および実施例に限定されるものではない。
【0093】
たとえば、上述した実施形態および実施例では、アイオノマー単品での熱分解温度T1を求めて、その後触媒インクの測定を行った結果である熱分解温度T2との差分ΔTを求めて、これを分散度と定義した。しかし、同じ成分、同じ製造条件などで製造されたアイオノマー単品の熱分解温度T1は、その後の保存状態や使用環境に大きな違いがなければ、大きく変動することはない。そうすると、同じ成分、同じ製造条件のアイオノマーを使用し続けているのであれば、常に同じ値のT1を用いてT2との差分ΔTを求めることになる。とすれば、アイオノマー単品の熱分解温度T1は変わらないのであるから、触媒インクの選別を行うためには、T2とT1の差分を取る必要はなく、T2の値そのものを分散度として、選別しても何ら変わらないことになる。このようにすることでΔTの算出を省略することも可能である。これを上述した実施例および比較例の選別に適用するとすれば、しきい値をたとえば中間値とするのであれば、しきい値を461℃として、直接実施例および比較例のそれぞれのT2をしきい値と比較して判定すればよいことになる。
【0094】
また、基準値は、アイオノマー単品の熱分解温度を測定することなく、ユーザーが任意に設定してもよい。これは、たとえばアイオノマー単品の分散度がある程度予想がつくような場合、たとえばこれまでの経験から環境温度によってアイオノマー単品での分散度の予想がつくような場合である。このような場合は、それに応じて基準値を設定しても、得られるΔTの値の精度はある程度確保することもできる。
【0095】
ただし、アイオノマー単品における分散状態が、大きく変動するような場合には、既に説明したとおり、別途基準値となるアイオノマー単品の熱分解温度T1を求めて、T2との差分ΔTを分散度とすることが好ましいものである。
【0096】
そのほか、本発明は特許請求の範囲に記載された技術思想に基づいてさまざまな形態として実施可能であり、それらもまた本発明の範疇である。