特許第6575313号(P6575313)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6575313-デュアルクラッチ式変速機 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6575313
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】デュアルクラッチ式変速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 3/091 20060101AFI20190909BHJP
【FI】
   F16H3/091
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-222047(P2015-222047)
(22)【出願日】2015年11月12日
(65)【公開番号】特開2017-89790(P2017-89790A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2018年10月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100171619
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 顕雄
(72)【発明者】
【氏名】宇治 秀敏
【審査官】 塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003-113911(JP,A)
【文献】 特開2008-530456(JP,A)
【文献】 特開2010-535990(JP,A)
【文献】 特開2015-166603(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 3/091
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源からの動力を断接可能な第1クラッチ及び第2クラッチを有するクラッチ装置と、前記第1クラッチに接続された第1入力軸と、前記第2クラッチに接続された第2入力軸と、前記第1及び第2入力軸と平行に配置された副軸と、前記副軸と平行に配置された出力軸と、前記第1入力軸から前記副軸に動力を伝達する第1プライマリギヤ列と、前記第2入力軸から前記副軸に動力を伝達する第2プライマリギヤ列と、前記副軸又は前記出力軸の少なくとも一方に回転可能に設けられた複数の出力用ギヤ列と、前記出力用ギヤ列をギヤインさせるシンクロ機構とを備え、所定の出力用ギヤ列をギヤインさせて前記第1クラッチを接、前記第2クラッチを断にすると所定の第1変速段が実現され、前記所定の出力用ギヤ列をギヤインさせた状態で前記第1クラッチを断、前記第2クラッチを接に切り替えると前記第1変速段よりも一段高い所定の第2変速段にシフトアップされ、前記所定の出力用ギヤ列とは異なる他の出力用ギヤ列をギヤインさせて前記第1クラッチを接、前記第2クラッチを断に切り替えると前記第2変速段よりも一段高い所定の第3変速段にシフトアップされるデュアルクラッチ式変速機において、
前記第2変速段及び前記第3変速段の変速間のステップ比が、前記第1変速段及び前記第2変速段の変速間のステップ比よりも小さいステップ比で設定された
ことを特徴とするデュアルクラッチ式変速機。
【請求項2】
前記第1プライマリギヤ列のギヤ比を前記第2プライマリギヤ列のギヤ比で除算して得られる段間比が、各変速間のステップ比を等しくする段間比よりも大きい値で設定された
請求項1に記載のデュアルクラッチ式変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デュアルクラッチ式変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、二個のクラッチを有するデュアルクラッチ装置をエンジンと変速機との間に設け、エンジンから変速機への動力伝達を二系統に切り替えられるようにしたデュアルクラッチ式変速機が実用化されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなデュアルクラッチ式変速機においては、例えば、1速から2速にシフトアップする際は、1/2速用ギヤをギヤインさせた状態でクラッチの切り替えのみを行い、2速から3速にシフトアップする際はクラッチの切り替えと共に、1/2速用ギヤをギヤ抜きして3/4速用ギヤをギヤインさせるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−245818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、デュアルクラッチ式変速機においては、スプリッタのギヤ比は、各変速間のステップ比(変速段を1段シフトアップしたときのギヤ比の増加割合)が略等しくなるギヤ比で設定されている。このため、クラッチ切り替えのみで行う変速の所要時間に対して、クラッチ切り替え及びギヤ切り替えの両方を行う変速の所要時間がギヤイン動作(回転同期)の影響で長くなり、運転者に違和感を与えることで、変速フィーリングを悪化させる課題がある。
【0006】
開示の技術は、各変速の所要時間のばらつきを抑制することで、運転者の違和感を効果的に低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
開示の技術は、駆動源からの動力を断接可能な第1クラッチ及び第2クラッチを有するクラッチ装置と、前記第1クラッチに接続された第1入力軸と、前記第2クラッチに接続された第2入力軸と、前記第1及び第2入力軸と平行に配置された副軸と、前記副軸と平行に配置された出力軸と、前記第1入力軸から前記副軸に動力を伝達する第1プライマリギヤ列と、前記第2入力軸から前記副軸に動力を伝達する第2プライマリギヤ列と、前記副軸又は前記出力軸の少なくとも一方に回転可能に設けられた複数の出力用ギヤ列と、前記出力用ギヤ列をギヤインさせるシンクロ機構とを備え、所定の出力用ギヤ列をギヤインさせて前記第1クラッチを接、前記第2クラッチを断にすると所定の第1変速段が実現され、前記所定の出力用ギヤ列をギヤインさせた状態で前記第1クラッチを断、前記第2クラッチを接に切り替えると前記第1変速段よりも一段高い所定の第2変速段にシフトアップされ、前記所定の出力用ギヤ列とは異なる他の出力用ギヤ列をギヤインさせて前記第1クラッチを接、前記第2クラッチを断に切り替えると前記第2変速段よりも一段高い所定の第3変速段にシフトアップされるデュアルクラッチ式変速機において、前記第2変速段及び前記第3変速段の変速間のステップ比が、前記第1変速段及び前記第2変速段の変速間のステップ比よりも小さいステップ比で設定されたことを特徴とする。
【0008】
前記第1プライマリギヤ列のギヤ比を前記第2プライマリギヤ列のギヤ比で除算して得られる段間比が、各変速間のステップ比を等しくする段間比よりも大きい値で設定されることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
開示の技術によれば、各変速の所要時間のばらつきを抑制することで、運転者の違和感を効果的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係るデュアルクラッチ式自動変速機を示す模式的な全体構成図である。
図2】本発明の第一実施形態に係るデュアルクラッチ式自動変速機による車速及びエンジン回転数に応じたシフトアップを説明する図である。
図3】従来例のデュアルクラッチ式自動変速機による車速及びエンジン回転数に応じたシフトアップを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面に基づいて、本発明の一実施形態に係るデュアルクラッチ式自動変速機を説明する。同一の部品には同一の符号を付してあり、それらの名称及び機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0012】
図1は、本実施形態のデュアルクラッチ式自動変速機を示す模式的な全体構成図である。図1中において、符号10は駆動源であるエンジン、符号80はコントロールユニット、符号90はエンジン回転数センサ、符号95は車速センサをそれぞれ示している。
【0013】
デュアルクラッチ式自動変速機は、第1及び第2クラッチ21,22を有するデュアルクラッチ装置20と、変速機構30とを備えて構成されている。
【0014】
第1クラッチ21は、例えば、湿式多板クラッチであって、エンジン10の出力軸11と一体回転するクラッチハブ23と、変速機構30の第1入力軸31と一体回転する第1クラッチドラム24と、複数枚の第1クラッチプレート25と、第1クラッチプレート25を圧接する第1ピストン26と、第1油圧室26Aとを備えている。
【0015】
第1クラッチ21は、第1油圧室26Aに供給される作動油圧によって第1ピストン26が出力側(図1の右方向)にストローク移動すると、第1クラッチプレート25が圧接されて、トルクを伝達する接続状態となる。一方、第1油圧室26Aの作動油圧が解放されると、第1ピストン26が図示しないスプリングの付勢力によって入力側(図1の左方向)にストローク移動されて、第1クラッチ21は動力伝達を遮断する切断状態となる。
【0016】
第2クラッチ22は、例えば、湿式多板クラッチであって、クラッチハブ23と、変速機構30の第2入力軸32と一体回転する第2クラッチドラム27と、複数枚の第2クラッチプレート28と、第2クラッチプレート28を圧接する第2ピストン29と、第2油圧室29Aとを備えている。
【0017】
第2クラッチ22は、第2油圧室29Aに供給される作動油圧によって第2ピストン29が出力側(図1の右方向)にストローク移動すると、第2クラッチプレート28が圧接されて、トルクを伝達する接続状態となる。一方、作動油圧が解放されると、第2ピストン29が図示しないスプリングの付勢力によって入力側(図1の左方向)にストローク移動されて、第2クラッチ22はトルク伝達を遮断する切断状態となる。
【0018】
変速機構30は、入力側に配置された副変速機40と、出力側に配置された主変速機50とを備えて構成されている。また、変速機構30は、副変速機40に設けられた第1入力軸31及び第2入力軸32と、主変速機50に設けられた出力軸33と、これらの軸31〜33と平行に配置された副軸34とを備えている。第1入力軸31は、第2入力軸32を軸方向に貫通する中空軸内に相対回転自在に挿入されている。出力軸33の出力端には、何れも図示しない車両駆動輪に差動装置等を介して連結されたプロペラシャフトが接続されている。
【0019】
副変速機40には、低速用の第1プライマリギヤ列41と、高速用の第2プライマリギヤ列42とが設けられている。第1プライマリギヤ列41は、第1入力軸31に固定された第1入力主ギヤ43と、副軸34に固定されて第1入力主ギヤ43と常時歯噛する第1入力副ギヤ44とを備えている。第2プライマリギヤ列42は、第2入力軸32に固定された第2入力主ギヤ45と、副軸34に固定されて第2入力主ギヤ45と常時歯噛する第2入力副ギヤ46とを備えている。これら第1及び第2プライマリギヤ列41,42のギヤ比の設定については後述する。
【0020】
主変速機50には、各変速段に対応する1/2速用ギヤ列51、3/4速用ギヤ列52、5/6速用ギヤ列53、リバース用ギヤ列54及び、これら変速用ギヤ列51〜54を出力軸33と選択的に同期結合させる複数のシンクロ機構60が設けられている。
【0021】
1/2速用ギヤ列51は、副軸34に固定された1/2速用副ギヤ51Aと、出力軸33に相対回転自在に設けられると共に1/2速用副ギヤ51Aと常時歯噛する1/2速用主ギヤ51Bとを備えている。
【0022】
3/4速用ギヤ列52は、副軸34に固定された3/4速用副ギヤ52Aと、出力軸33に相対回転自在に設けられると共に3/4速用副ギヤ52Aと常時歯噛する3/4速用主ギヤ52Bとを備えている。
【0023】
5/6速用ギヤ列53は、副軸34に固定された5/6速用副ギヤ53Aと、出力軸33に相対回転自在に設けられると共に5/6速用副ギヤ53Aと常時歯噛する5/6速用主ギヤ53Bとを備えている。
【0024】
リバース用ギヤ列54は、副軸34に固定されたリバース用副ギヤ54Aと、出力軸33に相対回転自在に設けられたリバース用主ギヤ54Bと、これらのギヤ55A,Bに常時歯噛するアイドラギヤ54Cとを備えている。
【0025】
シンクロ機構60は、公知の構造であって、何れも図示しないシンクロスリーブやシンクロリング等を備えて構成されている。シンクロ機構60の作動は、コントロールユニット80によってエンジン回転数や車速等に応じて制御されており、出力軸33と各変速用主ギヤ51B〜54Bとを選択的に同期結合(ギヤイン)させるように構成されている。
【0026】
次に、本実施形態に係るデュアルクラッチ式自動変速機のギヤ比の詳細設定について説明する。なお、以下の説明に用いる各数値は、本実施形態の一例であって、本発明の趣旨を一脱しない範囲で適宜最適な値に設定することが可能である。
【0027】
本実施形態の各ギヤ列の歯数及びギヤ比の一例を以下の表1、各変速段1〜6の最終ギヤ比及び各変速間のステップ比を以下の表2に示す。また、従来例の各ギヤ列の歯数及びギヤ比を以下の表3、各変速段1〜6の最終ギヤ比及び各変速間のステップ比を以下の表4に示す。表1,3において、歯数Z1は、副軸側に設けられた各ギヤの歯数、歯数Z2は、入力軸側又は出力軸側に設けられた各ギヤの歯数をそれぞれ示している。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
【表3】
【0031】
【表4】
【0032】
表3,4に示す従来例において、第1プライマリギヤ列のギヤ比を第2プライマリギヤ列のギヤ比で除算して得られる副変速機の段間比は、約1.40(=1.61/1.15)となる。副変速機の段間比をこのような値にすると、表4に示すように、各変速間のステップ比は略等しい等間隔で設定される。また、各シフトアップ時の入力側と出力側との回転数差は、図3に示すように、クラッチ切り替えのみで行う奇数段から偶数段への変速時(1st→2nd、3rd→4th、5th→6th)と、クラッチ切り替え及びギヤ切り替えの両方を行う偶数段から奇数段への変速時(2nd→3rd、4th→5th)とで互いに略等しくなる。
【0033】
その結果、従来例では、クラッチ切り替えのみで行う変速の所要時間に対し、クラッチ切り替え及びギヤ切り替えの両方を行う変速の所要時間がギヤイン動作(回転同期結合)の影響で長くなり、運転者に違和感を与えることで、変速フィーリングを悪化させる課題がある。
【0034】
これに対し、表1,2に示す本実施形態では、副変速機の段間比が、上記従来例の段間比よりも大きい約1.48(=1.61/1.09)で設定されている。副変速機の段間比をこのような値に設定すると、表2に示すように、クラッチ切り替えのみで行う奇数段から偶数段への変速間(1st→2nd、3rd→4th、5th→6th)のステップ比に対して、クラッチ切り替え及びギヤ切り替えの両方を行う偶数段から奇数段への変速間(2nd→3rd、4th→5th)のステップ比が小さく設定されるようになる。
【0035】
その結果、各シフトアップ時の入力側と出力側との回転数差は、図2に示すように、クラッチ切り替えのみで行う奇数段から偶数段への変速時(1st→2nd、3rd→4th、5th→6th)の回転数差よりも、クラッチ切り替え及びギヤ切り替えの両方を行う偶数段から奇数段への変速時(2nd→3rd、4th→5th)の回転数差が小さく抑制されるようになり、ギヤイン動作(回転同期結合)に要する時間も短縮される。すなわち、クラッチ切り替え及びギヤ切り替えの両方を行う変速の所要時間が従来例よりも短くなり、クラッチ切り替えのみで行う変速の所要時間と略等しくなることで、シフトアップ時に運転者に与える違和感が効果的に低減されるようになる。
【0036】
以上詳述したように、本実施形態では、副変速機の段間比を、各変速間のステップ比が略等しくなる従来例よりも大きい段間比で設定したことで、クラッチ切り替えのみで行う変速間のステップ比に対して、クラッチ切り替え及びギヤ切り替えの両方を行う変速間のステップ比が小さく設定される。その結果、各シフトアップ時の入力側と出力側との回転数差は、クラッチ切り替えのみを行う変速時の回転数差に対して、クラッチ切り替え及びギヤ切り替えの両方を行う変速時の回転数差が小さく抑制され、ギヤ切り替え時の同期結合に要する時間も短縮されるようになる。これにより、クラッチ切り替えのみで行う変速の所要時間と、クラッチ切り替え及びギヤ切り替えの両方を行う変速の所要時間とが互いに略等しくなり、各変速の所要時間のばらつきも抑制されることで、各シフトアップ時に運転者に与える違和感が効果的に低減されるようになり、変速フィーリングを確実に向上することができる。
【0037】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変形して実施することが可能である。
【0038】
例えば、ギヤ比の設定は上記実施形態に限定されるものではなく、クラッチ切り替えのみで行う変速間のステップ比に対して、クラッチ切り替え及びギヤ切り替えの両方を行う変速間のステップ比が小さくなる範囲で適宜最適な値に設定することができる。
【0039】
また、ギヤの配列や変速段数等は図示例に限定されず、他の配列又は変速段数のデュアルクラッチ式変速機にも広く適用することが可能である。
【符号の説明】
【0040】
10 エンジン
20 デュアルクラッチ装置
21 第1クラッチ
22 第2クラッチ
30 変速機構
31 第1入力軸
32 第2入力軸
33 出力軸
34 副軸
40 副変速機
41 第1プライマリギヤ列
42 第2プライマリギヤ列
50 主変速機
51 1/2速用ギヤ列
52 3/4速用ギヤ列
53 5/6速用ギヤ列
54 リバース用ギヤ列
60 シンクロ機構
80 コントロールユニット
90 エンジン回転数センサ
95 車速センサ
図1
図2
図3