(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係るリチウムイオン二次電池の充放電方法、電池モジュール、及びリチウムイオン二次電池の実施形態について詳説する。
【0014】
[リチウムイオン二次電池]
まず、本発明の充放電方法で用いるリチウムイオン二次電池について説明する。このリチウムイオン二次電池は、正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極とがセパレータを介して交互に重畳される発電要素を主に備える。また、上記発電要素はケースに収納され、このケース内に電解液が充填される。なお、リチウムイオン二次電池は、正極電位を計測するための参照電極を備えてもよい。
【0015】
<正極>
正極は、集電層及び正極活物質層を有する。また、正極は集電層と正極活物質層との間に中間層を有していてもよい。
【0016】
(集電層)
集電層は、導電性を有する層である。集電層の材質としては、アルミニウム、銅、鉄、ニッケル等の金属又はそれらの合金が用いられる。これらの中でも、導電性の高さとコストとのバランスからアルミニウム、アルミニウム合金、銅及び銅合金が好ましく、アルミニウム及びアルミニウム合金がより好ましい。また、集電層の形成形態としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの面から箔が好ましい。つまり、正極の集電層としてはアルミニウム箔が好ましい。なお、アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS−H−4000(2014年)に規定されるA1085P、A3003P等が例示できる。
【0017】
集電層の平均厚さの下限としては、5μmが好ましく、10μmがより好ましい。一方、集電層の平均厚さの上限としては、50μmが好ましく、40μmがより好ましい。集電層の平均厚さが上記下限より小さい場合、集電層の強度が不足し、電極の形成が困難になるおそれがある。逆に、集電層の平均厚さが上記上限を超える場合、二次電池の厚さを一定に収めるために他の構成要素の厚さが不足するおそれがある。なお、「平均厚さ」とは、任意の十点において測定した厚さの平均値をいう。なお、以下において他の部材等に対して「平均厚さ」という場合にも同様に定義される。
【0018】
(中間層)
中間層は、集電層の表面の被覆層であり、炭素粒子等の導電性粒子を含むことで集電層と正極活物質層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば樹脂バインダー、導電性粒子、及び非導電性無機粒子を含有する組成物により形成できる。なお、「導電性」とは、JIS−H−0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が10
7Ω・cm以下であることを意味し、「非導電性」とは、上記体積抵抗率が10
7Ω・cm超であることを意味する。
【0019】
(正極活物質層)
正極活物質層は、正極活物質を含むいわゆる正極合材から形成される。また、正極活物質層を形成する正極合材は、必要に応じて導電剤、結着剤(バインダー)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0020】
正極活物質層に含まれる正極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵及び離脱することができる活物質の紛体が用いられる。具体的な活物質としては、一般式Li
1+αM1
1−αO
2(0≦α≦0.2、M1はNi、Mn、Ti、Cr、Fe、Co、Cu、Zn、Al、Ge、Sn、Mg、MoおよびZrから選ばれる少なくとも一種以上の金属)で表される化合物、一般式Li
1+βM2
2−βO
4(0≦β≦0.5、M2はNi、Mn、Ti、Cr、Fe、Co、Cu、Zn、Al、Ge、Sn、Mg、MoおよびZrから選ばれる少なくとも一種以上の金属)で表される化合物等が挙げられる。また、上記一般式Li
1+αM1
1−αO
2で表される化合物のうち、M1にNiが含まれることが好ましく、更には、M1にNi、MnおよびCoが含まれるLi
1+αNi
xMn
yCo
zO
2(x+y+z=1−α、0<x<1、0<y<1、0<z<1)で表される化合物がさらに好ましい。なお、正極活物質は上述した二種以上を混合して用いてもよい。
【0021】
正極活物質は、層状構造を有することが好ましく、特に層状構造を有するリチウム含有遷移金属酸化物が好ましい。また、リチウム含有遷移金属酸化物の遷移金属としてはニッケルが好ましい。さらに、正極活物質は、リチウム含有遷移金属酸化物の遷移金属としてコバルト及びマンガンを含むことがより好ましい。このように正極活物質がニッケル、好ましくはさらにコバルト及びマンガンを含むリチウムイオン二次電池を用いることで、当該リチウムイオン二次電池の充放電方法における容量維持率向上効果を促進することができる。
【0022】
また、本発明に用いるリチウムイオン二次電池は、正極活物質がタングステンを含有する。このタングステンは、例えば酸化物(WO
3)の状態でリチウム含有遷移金属酸化物の表面を被覆する。このように正極活物質がタングステンを含有することで、正極活物質の副反応を抑え、リチウムの伝導性を向上させることができる。その結果、リチウムイオン二次電池の出力特性を向上できる。タングステンを含有する形態として、タングステンを含む化合物を正極活物質の粒子表面にコーティングする方法がある。また、正極活物質の合成時にタングステンに固溶して焼成することで、タングステンを含む化合物を正極活物質の粒子表面に担持させる方法もある。また、タングステンに加え、ジルコニウム(Zr)をさらに添加してもよい。
【0023】
正極活物質全体におけるタングステンの含有量の下限としては、0.05質量%が好ましく、0.1質量%がより好ましく、0.5質量%がさらに好ましい。一方、タングステンの含有量の上限としては、3質量%が好ましく、2質量%がより好ましく、1質量%がさらに好ましい。タングステンの含有量が上記下限に満たない場合、出力特性の向上効果が不十分となるおそれがある。逆に、タングステンの含有量が上記上限を超える場合、正極活物質の電子伝導性が低下し、リチウムイオン二次電池の電気容量が低下するおそれがある。
【0024】
正極活物質の平均粒径としては特に限定されないが、例えば0.1μm以上20μm以下とすることができる。正極活物質の平均粒径が上記下限より小さい場合、正極活物質の製造や取り扱いが困難になるおそれがある。逆に、正極活物質の平均粒径が上記上限を超える場合、活物質層の電子伝導性が低下するおそれがある。ここで、「平均粒径」とは、JIS−Z−8815(2013年)に準拠し、粒子を溶媒で希釈した希釈液に対しレーザ回折・散乱法により測定した粒径分布に基づき、JIS−Z−8819−2(2001年)に準拠し計算される体積基準積算分布が50%となる値を意味する。
【0025】
正極活物質層における正極活物質の含有量の下限としては、50質量%が好ましく、70質量%がより好ましく、80質量%がさらに好ましい。一方、正極活物質の含有量の上限としては、99質量%が好ましく、95質量%がより好ましい。正極活物質粒子の含有量を上記範囲とすることで、リチウムイオン二次電池の電気容量を高めることができる。
【0026】
(任意成分)
上記導電剤としては、電池性能に悪影響を与えない導電性材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、天然又は人造の黒鉛、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、金属、導電性セラミックスなどが挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。
【0027】
正極活物質層における導電剤の含有量の下限としては、1質量%が好ましく、3質量%がより好ましい。一方、導電剤の含有量の上限としては、10質量%が好ましく、9質量%がより好ましい。導電剤の含有量を上記範囲とすることで、リチウムイオン二次電池の電気容量を高めることができる。
【0028】
上記結着剤としては、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂;エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子などが挙げられる。
【0029】
正極活物質層における結着剤の含有量の下限としては、1質量%が好ましく、3質量%がより好ましい。一方、結着剤の含有量の上限としては、10質量%が好ましく、9質量%がより好ましい。結着剤の含有量を上記範囲とすることで、活物質を安定して保持することができる。
【0030】
上記増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。また、増粘剤がリチウムと反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させておくことが好ましい。
【0031】
上記フィラーとしては、電池性能に悪影響を与えないものであれば特に限定されない。フィラーの主成分としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス、炭素などが挙げられる。
【0032】
<負極>
負極は、集電層及び負極活物質層を有する。また、負極は、正極と同様、集電層と負極活物質層との間に中間層を有していてもよい。この中間層は正極の中間層と同様の構成とすることができる。
【0033】
(集電層)
集電層は、正極の集電層と同様の構成とすることができるが、材質としては、銅又は銅合金が好ましい。つまり、負極の集電層としては銅箔が好ましい。銅箔としては、圧延銅箔、電解銅箔等が例示される。
【0034】
(負極活物質層)
負極活物質層は、負極活物質を含むいわゆる負極合材から形成される。また、負極活物質層を形成する負極合材は、必要に応じて導電剤、結着剤(バインダー)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。導電剤、結着剤、増粘剤、フィラー等の任意成分は、正極活物質層と同様のものを用いることができる。
【0035】
負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材質が用いられる。具体的な負極活物質としては、例えばリチウム、リチウム合金(リチウム−アルミニウム、リチウム−鉛、リチウム−錫、リチウム−アルミニウム−錫、リチウム−ガリウム等)等の金属;金属酸化物;ポリリン酸化合物;黒鉛、非晶質炭素(易黒鉛化炭素または難黒鉛化性炭素)等の炭素材料などが挙げられる。
【0036】
これらの中でも、黒鉛及び非晶質炭素が好ましい。負極活物質として、黒鉛又は非晶質炭素を用いることで、負極の不可逆容量を大きくすることができる。負極の不可逆容量が正極のそれより大きい場合、電池の放電終止は主に負極電位の変化によって決まる。つまり、黒鉛又は非晶質炭素を用いた電池では、放電末期に負極電位が急激に上昇して放電が終了する。放電末期に負極電位が急激に上昇して放電が終了することにより、正極の下限電位を高く維持することができる。また、リチウムイオン二次電池の放電時における正極の下限電位を一定値以上とする制御を容易化することができる。
【0037】
なお、負極活物質は上述した二種以上を混合して用いてもよく、黒鉛と難黒鉛化炭素との組み合わせを用いることが特に好ましい。黒鉛を負極活物質として用いた場合、不可逆容量を大きくできるものの、負極における固体電解質界面(SEI)の形成により出力抵抗が電池の使用に伴って増加する。これに対し、難黒鉛化炭素はその不可逆容量の大きさが主にリチウムのトラップに起因するため、出力抵抗の増加に寄与しない。そのため、黒鉛と難黒鉛化炭素とを混合して用いることで、不可逆容量を大きくしつつ出力抵抗の増加を抑制することができる。また、負極の不可逆容量を大きくする手法として、黒鉛と硫黄系材料(SiO、Si−O−C)とを混合する方法を採用することもできる。
【0038】
負極活物質層における負極活物質の含有量の下限としては、60質量%が好ましく、80質量%がより好ましく、90質量%がさらに好ましい。一方、負極活物質の含有量の上限としては、99質量%が好ましく、98質量%がより好ましい。負極活物質粒子の含有量を上記範囲とすることで、リチウムイオン二次電池の電気容量を高めることができる。
【0039】
負極活物質層の不可逆容量の下限としては、10mAh/gが好ましく、20mAh/gがより好ましい。一方、負極活物質層の不可逆容量の上限としては、100mAh/gが好ましく、80mAh/gがより好ましい。負極活物質層の不可逆容量を上記下限以上とすることで、リチウムイオン二次電池の放電時における正極の下限電位を一定値以上とする制御を容易化できる。一方で、負極活物質層の不可逆容量が上記上限を超えると、リチウムイオン二次電池の容量が不十分となるおそれがある。
【0040】
<セパレータ>
セパレータの材質としては、例えば織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が用いられる。これらの中でも多孔質樹脂フィルムが好ましい。多孔質樹脂フィルムの主成分としては、強度の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましい。また、これらの樹脂とアラミドやポリイミド等の樹脂とを複合した多孔質樹脂フィルムを用いてもよい。
【0041】
<電解液>
電解液としては、リチウムイオン二次電池に通常用いられる公知の電解液が使用でき、例えばエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)等の環状カーボネート、又はジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等の鎖状カーボネートを含有する溶媒に、リチウムヘキサフルオロホスフェート(LiPF
6)等を溶解した溶液を用いることができる。
【0042】
[リチウムイオン二次電池の充放電方法]
当該リチウムイオン二次電池の充放電方法は、上述のリチウムイオン二次電池を用い、このリチウムイオン二次電池を充電する工程と、上記リチウムイオン二次電池を放電する工程とを備え、放電工程において正極の下限電位をリチウム基準で3.7V以上とする。
【0043】
本発明者らは、正極活物質がタングステンを含有するリチウムイオン二次電池の使用時(充放電サイクル時)の下限電位と容量維持率との関係について、鋭意検討したところ、正極の下限電位をリチウム基準で3.7V未満とした場合、サイクルの進行に伴って容量維持率が極端に低下することを見出した。この理由は定かではないが、正極電位がリチウム基準で3.7V未満の状態では、正極活物質表面のタングステン酸化物の層が厚くなることや、リチウム伝導性の低いタングステン化合物が生成すること等に起因し、正極活物質の表面に高抵抗層が形成されると推測される。この高抵抗層により、充放電時の分極が大きくなり、容量維持率が大きく低下するものと推察される。
【0044】
従って、当該リチウムイオン二次電池の充放電方法では、正極の下限電位をリチウム基準で3.7V以上とすることで、正極活物質がタングステンを含有することで出力特性に優れるリチウムイオン二次電池に対し、充放電サイクルにおける容量維持率を著しく高められる。
【0045】
[電池モジュール]
当該電池モジュールは、上記リチウムイオン二次電池と、このリチウムイオン二次電池の充放電を制御する機構とを備え、上記制御機構が、正極の下限電位をリチウム基準で3.7V以上とするよう制御する。
【0046】
正極の下限電位の具体的な制御方法としては、例えば、正極の放電終止電位(下限電位)を3.7V以上に設定して、放電時に正極電位をモニタリングし、正極電位が放電終止電位になった時点で電池の放電を終了させる方法を用いることができる。この方法の場合、上記制御機構は、正極電位をモニタリングするモニタリング部と、放電を終了させる放電制御部とを備える。正極電位のモニタリング方法としては、リチウムイオン二次電池に設けた参照電極の電位を基準に正極電位を測定する方法、電池電圧と正極電位との関係を予め把握しておき、電池電圧の計測により対応する正極電位を算出する方法、これらを組み合わせた方法等が挙げられる。
【0047】
放電を終了させる放電制御部の構成としては、例えば出力がローになることで放電遮断スイッチをオフとするインバータを備える構成や、正極電位が一定値に達したときに放電遮断スイッチをオフにするプログラムを有するマイクロコンピュータを備える構成等が挙げられる。
【0048】
なお、正極電位が放電終止電位となった時点で電池の放電を終了させた場合、制御のタイムラグによっては正極電位が3.7Vより低くなり得る。そこで、3.7Vより高い閾値電位を定めておき、この閾値電位に達した時点で電池の放電を終了させてもよい。この閾値電位としては、例えば下限電位よりもリチウム基準で0.1V高い電位とすることができる。
【0049】
正極の放電終止電位を3.7V以上に設定していたとしても、突発的な大電流放電などで正極電位が3.7Vより低くなる場合がある。しかしながら、正極電位が3.7Vになるようなサイクルが繰り返されなければ、容量維持率は低下せず本発明の効果は阻害されない。つまり、正極の放電終止電位の設定とは反して、正極電位が3.7Vより低くなる事象は発明の主旨において許容される。
【0050】
当該電池モジュールは、正極の下限電位をリチウム基準で3.7V以上と制御することで、正極活物質がタングステンを含有するリチウムイオン二次電池の充放電サイクルにおける容量維持率を著しく高められる。
【0051】
なお、負極活物質の選択および正極と負極との容量バランスにより、正極の最低到達電位がリチウム基準で3.7V以上となるリチウムイオン二次電池の場合は、上述した正極の下限電位の制御は不要である。つまり、負極電位の変化によって放電終止に至るような電池にて、負極電位が変化した後の正極電位を3.7V以上にするような電池設計にすることで、正極電位のモニタリングや正極電位に基づいた放電終止の制御は不要となる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
[試験体1]
アルミニウム箔の表面に、正極活物質としてのLiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2(タングステンを0.8質量%含む)、導電剤としてのアセチレンブラック、及び結着剤としてのPVDFを90:5:5の質量比で含む正極活物質層を積層し、正極を作製した。また、銅箔の表面に、負極活物質としての黒鉛、及び結着剤としてのPVDFを95:5の質量比で含む負極活物質層を積層し、負極を作製した。これらの正極及び負極をセパレータを介して巻回することで発電要素を作製した。この発電要素を電池ケースに挿入した後に、電池蓋をレーザー溶接で溶接した。電池蓋に設けた注液孔を介して、ECとEMCとを30:70の質量比で含む溶媒にLiPF
6を1Mで溶解させた電解液を充填した。
図1に示すような電池断面を有し、電池容量が700mAhである試験体1のリチウムイオン二次電池を製作した。
【0054】
[試験体2]
正極活物質をLiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2(ジルコニウムを0.5質量%含む)とした以外は、上記試験体1と同様の材料を用いて試験体2のリチウムイオン二次電池を製作した。
【0055】
[評価]
試験体1、2のリチウムイオン二次電池について、電池の充電電圧を4.15Vに設定して、45℃で500回の充放電サイクルを行うサイクル寿命試験を実施した。このサイクル寿命試験では、各電池の放電終止電圧をそれぞれ2.75V、3.40V、3.50Vおよび3.58Vに設定した。各放電終止電圧における正極の放電終止電位(正極の下限電位)は、それぞれ2.95V、3.60V、3.70Vおよび3.78Vとなる。放電時の正極の放電終止電位に対応する各電池の容量維持率(1サイクル目の放電容量に対して500サイクル目の放電容量)を計測した。この結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
表1に示されるように、正極活物質がタングステンを含む試験体1では、放電終止電位がリチウム基準で3.7V未満となると容量維持率が急激に低下し、タングステンを含まない試験体2よりも大きく低下することがわかる。逆に、試験体1では、放電終止電位をリチウム基準で3.7V以上とすることで、容量維持率を試験体2よりも高くできることがわかる。なお、試験体2では放電終止電位による容量維持率の変化はほとんどみられなかった。正極活物質にタングステンを含有させて、リチウム基準に対する正極の下限電位を3.7V以上とすることで、サイクル寿命における容量維持率の向上することがわかった。