(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6575384
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】液体クロマトグラフ装置
(51)【国際特許分類】
G01N 30/24 20060101AFI20190909BHJP
G01N 30/26 20060101ALI20190909BHJP
G01N 30/02 20060101ALI20190909BHJP
G01N 30/86 20060101ALI20190909BHJP
【FI】
G01N30/24 A
G01N30/24 L
G01N30/26 L
G01N30/02 Z
G01N30/86 M
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-20483(P2016-20483)
(22)【出願日】2016年2月5日
(65)【公開番号】特開2017-138248(P2017-138248A)
(43)【公開日】2017年8月10日
【審査請求日】2018年6月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 幸二
【審査官】
赤坂 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−206497(JP,A)
【文献】
特開平06−300742(JP,A)
【文献】
特開昭61−118659(JP,A)
【文献】
特開2012−173148(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/013701(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00−30/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動相を送給する送液部と、その送給された移動相中に試料を注入する試料注入部と、該試料に含まれる成分を時間的に分離するカラムと、該カラムの出口から溶出する溶出液中の成分を検出する検出部と、該検出部による検出信号に基づいてクロマトグラムを作成する信号処理部と、を具備する液体クロマトグラフ装置において、
a)前記試料注入部から前記カラムの入口までの間の配管及び/又は該カラムの出口から前記検出部までの間の配管の容量に関する配管情報をユーザーが設定するための配管情報設定部と、
b)前記配管情報とその分析時点での分離条件として定められている移動相流量とに基づいて、前記配管容量が所定の基準容量であるときの基準保持時間との保持時間のずれを算出する保持時間ずれ算出部と、
c)前記信号処理部において保持時間のずれが補正されたクロマトグラムを得るべく、分析実行時に、前記保持時間ずれ算出部で算出された保持時間ずれに応じて、前記試料注入部において移動相中に試料を注入するタイミングと、前記信号処理部において作成するクロマトグラム上で保持時間がゼロとされるタイミングとを調整するように、前記試料注入部及び前記信号処理部を制御する制御部と、
を備えることを特徴とする液体クロマトグラフ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液体クロマトグラフ装置であって、
前記配管情報設定部は、前記配管情報と保持時間のずれとのいずれを設定するかの選択を可能とし、配管情報の設定の選択に対応して前記配管情報の設定を行う一方、保持時間のずれの設定の選択に対応して保持時間のずれの設定を行い、
前記制御部は、前記配管情報設定部により保持時間のずれが設定された場合に、前記保持時間ずれ算出部で算出された保持時間のずれに代えて、設定された保持時間のずれを制御に用いることを特徴とする液体クロマトグラフ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体クロマトグラフ装置に関し、さらに詳しくは、液体クロマトグラフ装置における分析動作の制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な液体クロマトグラフ(以下「LC」と称す)装置では、移動相容器に貯留された移動相が送液ポンプにより吸引され、インジェクタを介してカラムに送給される。所定のタイミングでインジェクタから移動相中に液体試料が注入されると、該液体試料は移動相の流れに乗ってカラムに導入され、カラムを通過する間に液体試料中の各種成分が時間方向に分離されてカラム出口から溶出する。その溶出液に含まれる成分は例えばフォトダイオードアレイ(PDA)検出器などの検出器により検出され、各成分の濃度に応じた検出信号が得られる。データ処理部では、この検出信号に基づいて、経過時間と検出器で得られた信号強度との関係を
示すクロマトグラムが作成される。クロマトグラム上では各成分に対応するピークが観測されるから、そのピークのピークトップが現れる時間(保持時間)に基づいて液体試料中の成分を特定(同定)することができる。
【0003】
一般にデータ処理部では、インジェクタから移動相中に液体試料が注入された時点(厳密にいえば、インジェクタの動作を制御する制御部からインジェクタに対し液体試料を注入するように指令が出された時点)を基点としてクロマトグラムデータを収集する。したがって、試料注入時点がクロマトグラムの時間ゼロ、つまり保持時間ゼロとなる。同一装置で分離条件(例えば移動相の流速、カラムの温度など)が同一である場合には、同じ成分に対する保持時間はほぼ同一となる。つまりは保持時間の再現性は確保される。
【0004】
しかしながら、装置の設置環境が相違すると同じ試料を同一分離条件の下で分析しても同一成分に対するピークの保持時間が相違することがある。典型的には、インジェクタからカラム入口までの移動相流路(配管)の容量やカラム出口から検出器までの移動相流路(配管)の容量が相違する場合に、保持時間のずれが生じる。特に近年のLC装置では、送液ポンプ、インジェクタ(オートサンプラ)、カラムオーブン、検出器などが個々にユニット化されており、分析目的等に応じてユーザーが適宜のユニットを選択してシステムを構成する構成が採られることがよくある。こうしたシステムは汎用性、拡張性が大きい反面、ユニット間を接続する配管の長さがその設置環境によって様々であり、それに起因する保持時間ずれが生じることがよくある。
【0005】
上記のように同じ成分に対する保持時間がクロマトグラム毎に異なると、統一した基準(保持時間と成分との関係)の下で成分を同定することが難しい。また、複数のクロマトグラムを比較して含有成分が同一であるか否か、或いはどのピークが異なる成分由来のものであるのか等を判断するのが難しくなる。移動相の流量等の分離条件を調整することによって異なる装置における同一成分の保持時間を揃えることも可能ではあるものの、そうした分離条件の設定はユーザーにとって煩雑で面倒である。
【0006】
例えば特許文献1には、保持時間に差がある二つのクロマトグラムについて、各クロマトグラムから信号強度が高い主要ピークを抽出して、その差から保持時間のずれ量を把握し、その分だけ一方のクロマトグラムの時間軸をずらすことで同一成分のピークの同定を可能とすることが記載されている。また、同様の技術は非特許文献1にも開示されている。こうした技術によれば、同一分離条件の下で得られた二つのクロマトグラム上の同一成分の保持時間の差を補正することが可能である。しかしながら、異なる装置で分析を行う場合に、分離条件、特に移動相流量が全く同一の設定値で以て分析が行われるケースは必ずしも多くなく、移動相流量が相違していた場合であっても同一成分の保持時間を揃えたいという要望が強い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭60−239669号公報(第2頁右上欄、第4頁左下欄参照)
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「シンプリファイイング・メソッズ・トランスファー:ノベル・ツールズ・フォー・リプリケイティング・ユア・エスタブリッシュド・メソッズ・オン・アン・アクイティ・アーク・システム(Simplifying Methods Transfer: Novel Tools for Replicating Your Established Methods on an ACQUITY Arc System)」、[online]、米国ウォーターズ(Waters)社、[平成28年2月5日検索]、インターネット<URL: http://www.waters.com/webassets/cms/library/docs/720005469en.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記課題に鑑みて成されたものであり、その目的とするところは、異なる装置間で或いは同一装置で構成を変更したような場合に、分離条件を調節することなく同じ成分に対する保持時間を揃えることができるLC装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するためになされた本発明は、移動相を送給する送液部と、その送給された移動相中に試料を注入する試料注入部と、該試料に含まれる成分を時間的に分離するカラムと、該カラムの出口から溶出する溶出液中の成分を検出する検出部と、該検出部による検出信号に基づいてクロマトグラムを作成する信号処理部と、を具備する液体クロマトグラフ装置において、
a)前記試料注入部から前記カラムの入口までの間の配管及び/又は該カラムの出口から前記検出部までの間の配管の容量に関する配管情報をユーザーが設定するための配管情報設定部と、
b)前記配管情報とその分析時点での分離条件として定められている移動相流量とに基づいて、前記配管容量が所定の基準容量であるときの基準保持時間との保持時間のずれを算出する保持時間ずれ算出部と、
c)
前記信号処理部において保持時間のずれが補正されたクロマトグラムを得るべく、分析実行時に、前記保持時間ずれ算出部で算出された保持時間ずれに応じて、前記試料注入部において移動相中に試料を注入するタイミングと、前記信号処理部において作成するクロマトグラム上で保持時間がゼロとされるタイミングとを調整するように、前記試料注入部及び前記信号処理部を制御する制御部と、
を備えることを特徴としている。
【0011】
ユーザーは、試料注入部からカラム入口までの間及び/又はカラム出口から検出部までの間の配管の内径や長さなどから配管容量を計算するか、或いは、例えば配管中に満たした液量を実測する等、実験的に配管容量を求める。そして、配管情報設定部により、その算定された配管容量を入力設定する。配管容量の値そのものではなく、算定された配管容量と基準となる配管容量との差を入力設定できるようにしてもよい。保持時間ずれ算出部は配管情報設定部により設定された配管情報とその時点で分離条件の一つとして設定されている移動相流量とに基づいて、配管容量が所定の基準容量であるときの基準保持時間との保持時間のずれを算出する。この保持時間ずれは正値の場合(時間が遅れる方向へのずれである場合)と負値の場合(時間が遡る方向へのずれである場合)とがある。即ち、実際の配管容量が基準容量よりも少なければ保持時間ずれは負値、実際の配管容量が基準容量より多ければ保持時間ずれは正値となる。
【0012】
制御部は実際に分析を実施する際に、上述のように算出された保持時間ずれに従って、試料注入部において移動相中に試料を注入するタイミングと、信号処理部において作成するクロマトグラム上で保持時間がゼロとされるタイミングとを調整するように、試料注入部及び信号処理部のそれぞれの動作を制御する。
【0013】
具体的には例えば、保持時間ずれが負値である場合には、制御部は、試料注入よりも先にクロマトグラム上で保持時間がゼロとなるように信号処理部に検出信号の取得を開始させ、その信号取得開始時点から保持時間ずれに相当する補正時間が経過した時点で試料注入を実行するように試料注入部を制御する。保持時間ずれが正値である場合には逆に、制御部は、試料注入を実行するように試料注入部を制御したあと、その試料注入時点から保持時間ずれに相当する補正時間が経過した時点でクロマトグラム上で保持時間がゼロとなるように信号処理部に検出信号の取得を開始させる。これにより、配管容量が基準配管容量よりも多い場合、少ない場合のいずれにおいても、保持時間のずれを補正したクロマトグラムを取得することができる。
【0014】
また本発明に係る液体クロマトグラフ装置の好ましい一実施形態として、
前記配管情報設定部は、前記配管情報と保持時間のずれとのいずれを設定するかの選択を可能とし、配管情報の設定の選択に対応して前記配管情報の設定を行う一方、保持時間のずれの設定の選択に対応して保持時間のずれの設定を行い、
前記制御部は、前記配管情報設定部により保持時間のずれが設定された場合に、前記保持時間ずれ算出部で算出された保持時間のずれに代えて、設定された保持時間のずれを制御に用いる構成とするとよい。
【0015】
この構成によれば、ユーザーは計算や実測により配管容量を求めることなく、保持時間のずれを直接入力設定することも可能である。もちろん、その場合には、入力設定された保持時間ずれに相当する補正時間だけクロマトグラムの時間軸がずれることになる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る液体クロマトグラフ装置によれば、例えば異なる複数の装置(システム)で試料注入部とカラムとを繋ぐ配管やカラムと検出部とを繋ぐ配管の長さが相違する場合や、或いは同じ装置でもそれら配管の長さを変更した場合に、配管の容量に関する配管情報を入力しさえすれば、分離条件を調節することなく同じ成分に対する保持時間が揃ったクロマトグラムを取得することができる。それによって、統一した基準の下で成分を同定することができる。また、複数のクロマトグラムを比較して同じ成分が含まれるか否か等を容易に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施例によるLC装置の概略構成図。
【
図2】
図1に示したLC装置において配管容量の相違する構成の概略図。
【
図3】本実施例のLC装置における保持時間ずれ補正処理のフローチャート。
【
図4】本実施例のLC装置における保持時間ずれ補正処理の説明図。
【
図5】配管容量が相違する場合におけるクロマトグラムの例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るLC装置の一実施例について、添付図面を参照して説明する。
図1は本実施例のLC装置の概略構成図、
図2は
図1に示したLC装置において配管容量が相違する構成の概略図、
図3は本実施例のLC装置における保持時間ずれ補正処理のフローチャート、
図4は保持時間ずれ補正処理の説明図、
図5は保持時間ずれ補正処理によって得られるクロマトグラムの概念図である。
【0019】
図1に示すように、本実施例のLC装置は、移動相容器1から移動相を吸引して一定流量で送給する送液ポンプ2、送給された移動相中に液体試料を注入するインジェクタ3、液体試料中の各種成分を分離するカラム4、カラム4の周囲温度を調節するカラムオーブン5、カラム4から溶出する溶出液中の成分を検出する検出器6、各部の動作を制御する制御部7、検出器6による検出データを受けてデータ処理を行うデータ処理部8、を備える。また、制御部7に接続された入力部9及び表示部10はユーザーインターフェイスである。
【0020】
制御部7は、本実施例のLC装置に特徴的な機能ブロックとして、パラメータ受付部71、保持時間ずれ算出部72、時間ずれ補正制御部73を含む。また、データ処理部8は、クロマトグラムデータ収集部81、クロマトグラム作成部82、を含む。
なお、制御部7の一部及びデータ処理部8は、パーソナルコンピュータにインストールされた専用の制御・処理ソフトウエアを該コンピュータ上で動作させることで具現化される構成とすることができる。
【0021】
本実施例のLC装置において、インジェクタ3は制御部7からの指令に基づくタイミングで以て移動相中に液体試料を注入する。注入された液体試料は移動相の流れに乗ってカラム4の入口に到達し、該カラム4中を液体試料が通過する間に該試料中の各種成分は時間方向に分離される。そして、カラム4中で分離された成分を含む溶出液は、カラム4出口から出て検出器6に到達し、検出器6は導入された成分の濃度(量)に応じた強度信号をデジタル化した検出データを出力する。
【0022】
このLC装置において、インジェクタ3での試料注入時点からその注入された液体試料がカラム4に導入される時点までの時間T1は、インジェクタ3とカラム4入口とを繋ぐ配管11の容量に依存する。また、或る成分がカラム4出口より溶出した時点から検出器6に導入される時点までの時間T2は、カラム4出口と検出器6とを繋ぐ配管12の容量に依存する。そのため、
図2(a)、(b)に示すように、配管11、12の容量が相違すると時間T1、T2は異なり、これが同じ成分に対する保持時間のずれとなる。具体的には、
図2(a)に示した配管11a、12aがそれぞれ標準的な配管容量であるとすると、
図2(b)に示した配管11b、12bではいずれも
図2(a)よりも配管が長いので内径が同じであるとすると配管容量が大きくなる。その結果、T1、T2とも、
図2(a)の場合よりも長くなり、保持時間ずれが生じる。
【0023】
そこで、本実施例のLC装置では次のようにして保持時間ずれを補正する。
まず、ユーザーは分析開始に先立って、入力部9から移動相容量等の分離条件を入力設定する。また、補正用パラメータとして配管容量差又は保持時間差のいずれかを入力設定する(ステップS1)。具体的には、ユーザーが入力部9で所定の操作を行うと、これを受けてパラメータ受付部71は、補正用パラメータとして配管容量差又は保持時間差のいずれを入力するかの選択画面を表示部10に表示する。ユーザーがそのいずれかを選択したうえで配管容量差又は保持時間差を数値で入力すると、パラメータ受付部71はその選択及び数値を記憶する。なお、保持時間差は予め決められた基準保持時間よりも保持時間が短ければ負極性、該基準保持時間よりも保持時間が長ければ正極性と極性を定めるものとする。
【0024】
配管11、12の容量はそれら配管の内径や長さなどの寸法から計算することができる。そこで、ユーザーは予めそうした計算を行い、さらに標準的な配管容量(基準配管容量)との差を計算してこれを配管容量差とすればよい。また、寸法からの計算ではなく実験的に配管容量を算出するようにしてもよい。また、保持時間差は、同装置を用い所定の分離条件の下で所定の成分をLC分析することで求まった該成分に対する保持時間と基準保持時間との差とすればよい。
【0025】
次に、ユーザーが入力部9から分析の開始を指示すると時間ずれ補正制御部73は分析開始要求を受け(ステップS2)、該時間ずれ補正制御部73はステップS1における入力設定が保持時間差入力であったか否かを判定する(ステップS3)。そして、保持時間差入力であった場合(ステップS3でYes)にはステップS4をパスしてステップS5へ進む。他方、保持時間差入力でなかった場合つまりは配管容量差入力であった場合には、保持時間ずれ算出部72が、入力された配管容量差Aと、その時点で分離条件の一つとして設定されている移動相流量Bとから、A/Bにより保持時間ずれΔtを算出する(ステップS4)。即ち、保持時間差が入力された場合にはその保持時間差をそのまま保持時間ずれΔtとし、配管容量差が入力された場合にはその配管容量差から計算により保持時間ずれΔtを求める。
【0026】
そのあと時間ずれ補正制御部73はインジェクタ3に対し試料注入準備指示を出す(ステップS5)。この指示に応じてインジェクタ3は、指定された液体試料を指定された量だけ採取してインジェクションラインに用意する。時間ずれ補正制御部73は試料注入準備が完了したか否かを繰り返し判定し(ステップS6)、インジェクタ3から試料注入準備が完了した旨の連絡があると、補正すべき保持時間ずれΔtが正値であるか否かを判定する(ステップS7)。
【0027】
保持時間ずれΔtが正値であるということは配管容量が基準配管容量よりも大きいことを意味しており、保持時間を基準保持時間に合わせるには保持時間をゼロに設定する時点を試料注入時点よりも遅らせる必要がある。そこで、時間ずれ補正制御部73はまずインジェクタ3に対し試料注入を指示する(ステップS8)。これにより、インジェクタ3から液体試料が移動相中に注入される。時間ずれ補正制御部73はそれから、保持時間ずれΔtに相当する補正時間が経過したか否かを繰り返し判定する(ステップS9)。そして補正時間が経過したならば、データ処理部8に対し実質的なデータ収集の開始を指示する(ステップS10)。ここでいう「実質的なデータ収集」とは、クロマトグラムに反映されるデータの収集のことを意味し、実質的なデータ収集を開始した時点が保持時間ゼロ、つまりクロマトグラムの始点となる。このときの試料注入と実質的なデータ収集開始とのタイミングの関係を
図4(b)に示す。
【0028】
一方、保持時間ずれΔtが負値であるということは配管容量が基準配管容量よりも小さいことを意味しており、保持時間を基準保持時間に合わせるには試料注入時点を保持時間をゼロに設定する時点より遅らせる必要がある。そこで、ステップS7でNoと判定された場合には、時間ずれ補正制御部73はまずデータ処理部8に対し実質的なデータ収集の開始を指示する(ステップS11)。これにより、データ処理部8においてクロマトグラムデータ収集部81は検出器6で得られた検出データをクロマトグラムデータとして格納し始め、クロマトグラム作成部82は得られたクロマトグラムデータに基づいてリアルタイムのクロマトグラムの作成を開始する。時間ずれ補正制御部73はその時点から保持時間ずれΔtに相当する補正時間が経過したか否かを繰り返し判定する(ステップS12)。そして補正時間が経過したならば、インジェクタ3に対し試料注入を指示する(ステップS13)。これにより、インジェクタ3から液体試料が移動相中に注入される。このときの試料注入と実質的なデータ収集開始とのタイミングの関係を
図4(c)に示す。
【0029】
ステップS10又はステップS13の処理の終了後、制御部7は予め定めた分析終了条件が満たされたか否かを判定することで分析終了か否かを繰り返し判定する(ステップS14)。例えば規定の分析時間が経過した時点で分析終了すればよい。そして分析終了と判定されたならば次の分析要求の有無が判定され(ステップS15)、次の分析要求があればステップS2へと戻るし、次の分析要求がなければそのまま分析を終了する。
【0030】
上記処理により
図4(b)に示したようなタイミング制御が行われると、
図4(a)に示すように試料注入と実質的なデータ収集開始とが同時であるときよりも保持時間ゼロが後方(時間的に遅れる方)にずれる
。したがって、
図5(b)に示すように、保持時間ゼロを始点とするクロマトグラムは保持時間を補正しない場合に比べて前方にシフトすることになり、配管容量が相対的に大きいことによる保持時間ずれが補正される。
他方、
図4(c)に示したようなタイミング制御が行われると、
図4(a)に示すように試料注入と実質的なデータ収集開始とが同時であるときよりも保持時間ゼロが前方(時間的に早まる方)にずれる。したがって、
図5(c)に示すように、保持時間ゼロを始点とするクロマトグラムは保持時間を補正しない場合に比べて後方にシフトすることになり、配管容量が相対的に小さいことによる保持時間ずれが補正される。
このようにして、配管11、12の配管容量の相違に起因する保持時間のずれが補正されたクロマトグラムを取得することができ、それによって、例えば同じデータベースを用いて成分を同定することができる。また、複数のクロマトグラムをそのまま比較し、同じ時間付近にピークがあれば同じ成分が含まれていると容易に推測することができる。
【0031】
なお、上記実施例は本発明の一例であり、本発明の趣旨に沿った範囲で適宜変形や修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。
【符号の説明】
【0032】
1…移動相容器
2…送液ポンプ
3…インジェクタ
4…カラム
5…カラムオーブン
6…検出器
7…制御部
71…パラメータ受付部
72…保持時間ずれ算出部
73…時間ずれ補正制御部
8…データ処理部
81…クロマトグラムデータ収集部
82…クロマトグラム作成部
9…入力部
10…表示部
11、11a、11b、12、12a、12b…配管