(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
たとえば、入力側と出力側が絶縁された絶縁型DC−DCコンバータでは、入力側に、直流電源の直流電圧をスイッチングして交流電圧に変換する第1変換回路が設けられ、出力側に、第1変換回路で変換された交流電圧を整流して直流電圧に変換する第2変換回路が設けられる。そして、第1変換回路と第2変換回路とは、トランスによって絶縁されている。
【0003】
このような絶縁型DC−DCコンバータには、昇圧チョッパ(ブーストコンバータ)とハーフブリッジ型のDC−DCコンバータとを複合化したブーストハーフブリッジ方式(以下「BHB方式」と表記)と呼ばれるものがある。特許文献1〜10および非特許文献1〜4には、このようなBHB方式の絶縁型DC−DCコンバータが記載されている。
【0004】
BHB方式の絶縁型DC−DCコンバータにおいては、入力側の第1変換回路に、主スイッチング素子と、補助スイッチング素子と、インダクタと、トランスの一次巻線と、2つのコンデンサとが設けられる。直流電源に対してインダクタと主スイッチング素子は直列に接続され、トランスの一次巻線と一方のコンデンサとの直列回路が、主スイッチング素子に対して並列に接続される。また、他方のコンデンサと補助スイッチング素子との直列回路が、トランスの一次巻線に対して並列に接続される。
【0005】
出力側の第2変換回路には、たとえば特許文献1の
図11に示されているような、2つの整流素子と、2つのコンデンサと、トランスの二次巻線とを備えた回路、あるいは、特許文献2の
図1に示されているような、2つの整流素子と、1つのコンデンサと、1つのインダクタと、中間タップを有するトランスの二次巻線とを備えた回路が設けられる。
【0006】
第1変換回路の主スイッチング素子と補助スイッチング素子は、所定のデューティで片方づつONする。主スイッチング素子がONの期間では補助スイッチング素子はOFFとなり、補助スイッチング素子がONの期間では主スイッチング素子はOFFとなる。主スイッチング素子がONすると、トランスの一次巻線に一方のコンデンサの電圧が印加されて、トランスの二次巻線に電力が伝達される。このときの一次巻線の電圧は、入力電圧に等しくなる。一方、補助スイッチング素子がONすると、トランスの一次巻線に他方のコンデンサの電圧が印加されて、トランスの二次巻線に電力が伝達される。このときの一次巻線の電圧は、入力電圧とデューティに依存する。
【0007】
ところで、電圧変換装置において、入力側(第1変換回路)のスイッチング素子が故障していると、スイッチング動作が正常に行われず、出力側(第2変換回路)から所望の電圧出力が得られない。そこで、スイッチング素子を駆動する前の初期状態において、スイッチング素子が故障しているか否かをチェックする初期診断が行われる。
【0008】
スイッチング素子の故障には、ON故障(短絡故障)とOFF故障(オープン故障)とがある。ON故障は、スイッチング素子へ印加する駆動電圧を停止しても、素子がOFFせずONしたままの短絡状態となる故障である。OFF故障は、スイッチング素子へ駆動電圧を印加しても、素子がONせずにOFFしたままの開放状態となる故障である。
【0009】
初期診断において、スイッチング素子に駆動信号を与えない状態で故障を検出する場合は、スイッチング素子をON・OFFさせないので、たとえば特許文献11に記載されているような、動作中のスイッチング素子の故障を検出する手法をそのまま用いることはできない。特許文献11では、動作中のスイッチング素子の両端電圧を測定し、当該電圧値のサンプリングデータをウェーブレット変換し、その演算結果のピーク値と基準値との比較結果に基づいて、スイッチング素子に流れる電流の異常増加を検出している。
【0010】
もちろん、初期診断において、スイッチング素子を駆動してON・OFFさせることで、動作中の場合と同様の故障検出は可能である。しかし、そのようにすると、スイッチング素子に通電されるため、消費電力が増加する。また、初期診断のたびにスイッチング素子をON・OFFさせる結果、素子の寿命にも影響を与える。さらに、特許文献11の方法では、初期診断のプログラムが複雑となるという問題もある。
【0011】
こうしたことから、初期診断を行うにあたって、主スイッチング素子および補助スイッチングを駆動しなくても、各スイッチング素子の故障を簡単に検出できる技術が望まれる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係る電圧変換装置の実施形態につき、図面を参照しながら説明する。各図において、同一の部分または対応する部分には、同一の符号を付してある。
【0024】
最初に、
図1を参照して、第1実施形態に係る電圧変換装置の構成を説明する。
図1において、電圧変換装置100は、前述のBHB(ブーストハーフブリッジ)方式の絶縁型DC−DCコンバータであって、リレー10、第1変換回路11、第2変換回路12、CPU30、およびゲートドライバ40を備えている。第1変換回路11と第2変換回路12は、トランスTrによって絶縁されている。この電圧変換装置100は、たとえば車両に搭載され、バッテリ電圧を昇圧して車載機器などの負荷に供給するDC−DCコンバータとして利用される。
【0025】
リレー10は、直流電源1の正極と第1変換回路11との間に接続されている。直流電源1の負極は、グランドGに接地されている。リレー10の動作は、CPU30からの信号によって制御される。リレー10は、本発明における「開閉器」の一例である。
【0026】
第1変換回路11は、直流電源1の直流電圧をスイッチングし、かつ昇圧して交流電圧に変換する回路であり、補助スイッチング素子S1と、主スイッチング素子S2と、入力インダクタLinと、トランスTrの一次巻線W1と、コンデンサC1およびC2とを有している。スイッチング素子S1およびS2は、それぞれFET(電界効果トランジスタ)からなる。コンデンサC1は本発明における「第1コンデンサ」に相当し、コンデンサC2は本発明における「第2コンデンサ」に相当する。第1変換回路11の回路構成は、非特許文献3の
図2.1に示されている回路構成と同じである。
【0027】
補助スイッチング素子S1のソースは、主スイッチング素子S2のドレインに接続されており、これらの接続点とリレー10との間に、入力インダクタLinが接続されている。
【0028】
補助スイッチング素子S1のドレイン・ソース間には、等価的に寄生容量Cs1と寄生ダイオードD1の並列回路が接続されている。同様に、主スイッチング素子S2のドレイン・ソース間には、等価的に寄生容量Cs2と寄生ダイオードD2の並列回路が接続されている。また、トランスTrの一次巻線W1には、等価的に漏れインダクタンスLkが直列に接続されている。
【0029】
補助スイッチング素子S1のドレインは、コンデンサC1の一端に接続されており、コンデンサC1の他端は、コンデンサC2の一端に接続されている。コンデンサC2の他端は、グランドGに接地されている。コンデンサC1、C2の接続点と、スイッチング素子S1、S2の接続点との間に、トランスTrの一次巻線W1と漏れインダクタンスLkとの直列回路が接続されている。
【0030】
以上の結果、第1変換回路11においては、直流電源1に対して、入力インダクタLinと主スイッチング素子S2とが直列に接続され、一次巻線W1とコンデンサC2との直列回路が、主スイッチング素子S2に対して並列に接続され、コンデンサC1と補助スイッチング素子S1との直列回路が、一次巻線W1に対して並列に接続されている。
【0031】
第2変換回路12は、第1変換回路11により昇圧された交流電圧を整流して、直流電圧に変換する回路であり、トランスTrの二次巻線W2と、この二次巻線W2に発生した交流電圧を整流するダイオードD3、D4と、整流された電圧を平滑化するコンデンサC3、C4とを有している。ダイオードD3、D4は、本発明における「整流素子」の一例である。この第2変換回路12の回路構成も、非特許文献3の
図2.1に示されている回路構成と同じである。
【0032】
ダイオードD3のカソードは、コンデンサC3の一端に接続されており、ダイオードD3のアノードは、ダイオードD4のカソードに接続されている。ダイオードD4のアノードは、グランドGに接地されている。コンデンサC3の他端は、コンデンサC4の一端に接続されており、コンデンサC4の他端は、グランドGに接地されている。トランスTrの二次巻線W2は、ダイオードD3およびD4の接続点と、コンデンサC3およびC4の接続点との間に接続されている。ダイオードD3とコンデンサC3との接続点と、グランドGとの間には、負荷Roが接続されている。
【0033】
第1変換回路11における補助スイッチング素子S1とコンデンサC1との接続点Pと、グランドGとの間には、分圧抵抗R1、R2からなる電圧検出回路20が接続されている。分圧抵抗R1、R2の接続点とグランドGとの間には、ノイズ除去用のコンデンサCfが接続されている。さらに、抵抗R2およびコンデンサCfの両端は、CPU30の所定の入力ポート(図示省略)に接続されている。
【0034】
CPU30は、電圧検出回路20の出力、すなわち抵抗R2の両端の電圧を取り込んで、接続点PとグランドGとの間の電圧(コンデンサC1の電圧とコンデンサC2の電圧との和)を監視する。そして、この電圧に基づいて、スイッチング素子S1、S2の初期状態でのON故障を検出する。故障検出の具体的な方法については、後で詳しく説明する。また、CPU30は、スイッチング素子S1、S2のON・OFFを制御するための制御信号をゲートドライバ40に与え、リレー10のON・OFFを制御するための制御信号をリレー10に与える。さらに、CPU30は、スイッチング素子S1、S2の故障を検出した場合に、これを報知するための故障報知信号を外部へ出力する。CPU30は、本発明における「故障検出部」の一例である。
【0035】
ゲートドライバ40は、CPU30からの制御信号に基づいて、スイッチング素子S1、S2をON・OFFさせるための駆動信号を生成する。この駆動信号は、たとえば所定のデューティを持ったPWM(Pulse Width Modulation)信号であり、スイッチング素子S1、S2の各ゲートへ与えられる。
図2は、駆動信号(ゲート信号)の一例を示しており、(a)は主スイッチング素子S2のゲートに印加されるゲート信号、(b)は補助スイッチング素子S1のゲートに印加されるゲート信号である。Tはゲート信号の周期を表しており、Dはデューティを表している。スイッチング素子S1、S2は、それぞれのゲート信号がH(High)レベルの区間でONとなり、L(Low)レベルの区間でOFFとなる。前述したように、スイッチング素子S1、S2は交互にONし、一方がONのときは他方はOFFとなる。(実際には、スイッチング素子S1、S2が同時にON状態とならないようデッドタイム区間が設けられるが、
図2ではこれを省略してある。)
【0036】
上述した電圧変換装置100の動作は、概略以下のとおりである。電圧変換装置100は、リレー10がONとなり、スイッチング素子S1、S2の各ゲートに、ゲートドライバ40からゲート信号が印加されることによって、動作を開始する。補助スイッチング素子S1がOFFで、主スイッチング素子S2がONのときは、直流電源1により入力インダクタLinにエネルギーが蓄積される。この蓄積エネルギーは、主スイッチング素子S2のデューティDによって決まる。また、コンデンサC2の電圧がトランスTrの一次巻線W1に印加されて、二次巻線W2へ伝達され、負荷Roに電力が供給される。このときのコンデンサC2の電圧は、直流電源1の電圧とほぼ等しくなる。
【0037】
次に、主スイッチング素子S2がOFFになると、昇圧動作が開始され、入力インダクタLinに蓄積されたエネルギーが、寄生ダイオードD1を介してコンデンサC1、C2を充電する。そして、続く補助スイッチング素子S1のONによって、コンデンサC1の電圧がトランスTrの一次巻線W1に印加されて、昇圧された電圧が二次巻線W2へ伝達され、負荷Roに電力が供給される。このときのコンデンサC1の電圧は、直流電源1の電圧とデューティDとによって決まる。
【0038】
図3は、電圧変換装置100の各部の電圧および電流を示している。なお、
図3においては、
図1のP点より後段の部分の図示を省略してある。
図3は、非特許文献3の
図2.1と基本的に同じであり、図中の各符号の定義は、以下のとおりである。
Vin:入力電圧(直流電源1の電圧)
Vo:出力電圧
Vs1:補助スイッチング素子S1の両端電圧
Vs2:主スイッチング素子S2の両端電圧
Vc1:コンデンサC1の両端電圧
Vc2:コンデンサC2の両端電圧
Vc3:コンデンサC3の両端電圧
Vc4:コンデンサC4の両端電圧
Vm:監視電圧(P点の電圧)
Vp:トランスTrの一次巻線W1の両端電圧
Vs:トランスTrの二次巻線W2の両端電圧
V
Lin:入力インダクタLinの両端電圧
V
LK:漏れインダクタンスLkの両端電圧
i
in:入力電流
i
o:出力電流
i
SW1:補助スイッチング素子S1に流れる電流
i
SW2:主スイッチング素子S2に流れる電流
i
LK:漏れインダクタンスLkに流れる電流
【0039】
図3において、リレー10がONして回路が動作している定常状態では、図中にも示されているように、Vc1、Vc2、Vm、Vc3、Vc4、およびVoは、それぞれ以下の式から算出することができる。なお、Dは
図2に示したデューティ、NはトランスTrの巻数比である。
Vc1=[D/(1−D)]・Vin
Vc2=Vin
Vm=Vc1+Vc2=[1/(1−D)]・Vin
Vc3=Vc1・N=[D/(1−D)]・Vin・N
Vc4=Vc2・N=Vin・N
Vo=Vc3+Vc4=[1/(1−D)]・Vin・N
【0040】
上式より、コンデンサC2の電圧Vc2は入力電圧Vinに等しく、コンデンサC1の電圧Vc1は、入力電圧VinとデューティDによって決まることがわかる。後述するように、本発明では、Vc1とVc2の和である監視電圧Vmの値に基づいて、初期状態におけるスイッチング素子S1、S2のON故障を検出する。
【0041】
図4は、
図3の各部の電圧および電流の1周期分の波形を示している。本図は、非特許文献3の
図2.2を引用したものである。横軸のt0〜t6は、それぞれ以下のタイミングを表している。t0は、補助スイッチング素子S1がOFFした直後のタイミングである。t1は、主スイッチング素子S2のゲート信号Vgs2が立ち上がる(LからHになる)タイミングである。t2は、ゲート信号Vgs2によって主スイッチング素子S2がONするタイミングである。t3は、主スイッチング素子S2のゲート信号Vgs2が立ち下がる(HからLになる)タイミングである。t4は、補助スイッチング素子S1のゲート信号Vgs1が立ち上がる(LからHになる)タイミングである。t5は、ゲート信号Vgs1によって補助スイッチング素子S1がONするタイミングである。t6は、補助スイッチング素子S1のゲート信号Vgs1が立ち下がる(HからLになる)タイミングである。
【0042】
図5A〜
図5Fは、1周期内の所定区間における第1変換回路11と第2変換回路12の電流経路を示している。各図の下の波形図は、区間A〜Fを表示するために、
図4の波形図の一部を抜粋したものである。
【0043】
図5Aは、区間A(t0〜t1)における電流経路を示している。区間Aでは、スイッチング素子S1、S2はいずれもOFF状態にある。第1変換回路11においては、補助スイッチング素子S1のOFFと同時に、寄生コンデンサCs1の充電が開始され、電圧Vs1はVc1+Vc2まで上昇する。一方、主スイッチング素子S2の寄生コンデンサCs2は放電し、電圧Vs2はゼロまで低下する。入力電流i
inは最小値となり、漏れインダクタンス電流i
LKは正のピーク値となる。第2変換回路12においては、ダイオードD3に流れていた電流i
D3はそのまま流れ続ける。
【0044】
図5Bは、区間B(t1〜t2)における電流経路を示している。区間Bでは、補助スイッチング素子S1はOFFを継続し、主スイッチング素子S2はONに切り替わる直前の状態にある。第1変換回路11においては、t1のタイミングでダイオードD2が導通する。このダイオードD2に流れる電流がゼロになるまでは、スイッチング素子S2はONしない。入力電流i
inは最小値から増加し始め、漏れインダクタンス電流i
LKはゼロまで減少する。第2変換回路12においては、ダイオードD3に流れていた電流i
D3は、ゼロまで減少する。
【0045】
図5Cは、区間C(t2〜t3)における電流経路を示している。区間Cでは、主スイッチング素子S2がONとなり、補助スイッチング素子S1はOFFを維持する。第1変換回路11においては、コンデンサC2の電圧Vc2が、一次巻線W1と漏れインダクタンスLkとの直列回路の両端に印加されて、一次巻線W1の電圧Vpの極性が正から負へ反転する(
図4参照)。入力電流i
inは増加を続け、漏れインダクタンス電流i
LKはゼロから負方向へ増加し始める。第2変換回路12においては、ダイオードD4が導通し、このダイオードD4に電流i
D4が流れ始める。また、二次巻線W2の電圧Vsの極性が正から負へ反転する(
図4参照)。
【0046】
図5Dは、区間D(t3〜t4)における電流経路を示している。区間Dでは、スイッチング素子S1はOFF状態を維持し、スイッチング素子S2もONからOFFに切り替わる。第1変換回路11においては、寄生コンデンサCs2がVs2=Vc1+Vc2となるまで充電されるとともに、寄生コンデンサCs1がVs1=0となるまで放電する。入力電流i
inは最大となり、漏れインダクタンス電流i
LKは負のピーク値となる。第2変換回路12においては、ダイオードD4に電流i
D4が流れ続ける。
【0047】
図5Eは、区間E(t4〜t5)における電流経路を示している。区間Eでは、主スイッチング素子S2はOFFを維持し、補助スイッチング素子S1はONに切り替わる直前の状態にある。第1変換回路11においては、寄生コンデンサCs1の放電終了と同時に、寄生ダイオードD1に電流が流れ始める。このダイオードD1の電流がゼロになるまで、補助スイッチング素子S1はONしない。入力電流i
inは最大値から減少し始め、漏れインダクタンス電流i
LKは負のピーク値からゼロまで減少する。第2変換回路12においては、ダイオードD4に流れていた電流i
D4は、ゼロまで減少する。
【0048】
図5Fは、区間F(t5〜t6)における電流経路を示している。区間Fでは、補助スイッチング素子S1がONとなり、主スイッチング素子S2はOFFを維持する。第1変換回路11においては、入力電流i
inは最小値まで減少し、漏れインダクタンス電流i
LKはゼロから正のピーク値まで増加する。第2変換回路12においては、ダイオードD3が導通して、このダイオードD3に電流i
D3が流れる。タイミングt6で補助スイッチング素子S1がOFFになると、
図5Aに戻って次の周期へ移行する。
【0049】
次に、スイッチング素子S1、S2が動作する前の初期状態において行われる初期診断につき、
図6〜
図9を参照しながら説明する。各図において、スイッチング素子S1、S2は、簡略化した回路記号で示してある。なお、初期状態のコンデンサC1、C2の電圧Vc1、Vc2は、いずれもゼロとする(Vc1=0、Vc2=0)。
【0050】
<S1、S2が正常な場合>
図6は、初期状態において、スイッチング素子S1、S2のいずれにも故障が発生していない状態(正常状態)を示している。この場合、
図6(a)のように、スイッチング素子S1、S2は、いずれもOFFしており、リレー10もOFFとなっている。この状態から初期診断を行うには、リレー10をONする。すると、直流電源1からリレー10を介してコンデンサC2が充電される。コンデンサC2の充電完了までには一定時間を要する。このため、
図6(b)のように、コンデンサC2の電圧Vc2が、この一定時間後に直流電源1の電圧Vinまで上昇する。また、Vc2がVinに至るまでの間は、スイッチング素子S1、S2の接続点と、コンデンサC1、C2の接続点との間に電位差があることから、直流電源1からスイッチング素子S1の寄生ダイオードを介して、コンデンサC1が充電される。このため、コンデンサC1の電圧Vc1がVαまで上昇する(0<Vα<Vin)。その結果、P点の電圧、すなわち監視電圧Vm(=Vc1+Vc2)は、リレー10がONしてから一定時間後に、Vm=Vin+Vαまで上昇する。
【0051】
このように、初期状態でスイッチング素子S1、S2が共に正常である場合は、リレー10をONすることによって、監視電圧VmがVin+Vαまで上昇する。CPU30は、電圧検出回路20の出力を取り込んで、リレー10がONしてから一定時間後に、監視電圧VmがVm=Vin+Vαになれば、スイッチング素子S1、S2はいずれもON故障していないと判定する。この場合、CPU30は、故障報知信号を外部へ出力しないか、あるいは、故障報知信号に代えて、スイッチング素子S1、S2が共に正常であることを示す信号を外部へ出力する。
【0052】
<S2がON故障の場合>
図7は、初期状態において、主スイッチング素子S2にON故障が発生している状態を示している。この場合、
図7(a)のように、主スイッチング素子S2は短絡状態となっており、補助スイッチング素子S1はOFF状態にある。この状態から、リレー10がONすると、主スイッチング素子S2がON故障しているため、直流電源1からコンデンサC2へ充電が行われない。したがって、コンデンサC2の電圧Vc2は、
図7(b)のように、直流電源1の電圧Vinまで上昇せず、ゼロのままとなる。また、コンデンサC1の電圧Vc1も、Vαまで上昇せずゼロのままである。その結果、監視電圧Vm(=Vc1+Vc2)は、リレー10がONしてから一定時間が経過しても、すなわち、スイッチング素子S1およびS2が正常な場合の、コンデンサC1およびC2の充電に要する時間が経過しても、Vin+Vαまで上昇せずゼロを維持する。
【0053】
このように、初期状態で主スイッチング素子S2がON故障している場合は、リレー10をONしても、監視電圧VmがVin+Vαまで上昇せず、Vm=0のままとなる。CPU30は、電圧検出回路20の出力を取り込んで、リレー10のONから一定時間が経過した後も、監視電圧VmがVm=0のままであれば、主スイッチング素子S2がON故障していると判定する。この判定に基づき、CPU30は、主スイッチング素子S2が初期状態でON故障していることを報知するための、故障報知信号を外部へ出力する。
【0054】
<S1がON故障の場合>
図8は、初期状態において、補助スイッチング素子S1にON故障が発生している状態を示している。この場合、
図8(a)のように、補助スイッチング素子S1は短絡状態となっており、主スイッチング素子S2はOFF状態にある。この状態から、リレー10がONすると、直流電源1からリレー10を介してコンデンサC2が充電され、
図8(b)のように、コンデンサC2の電圧Vc2が、一定時間後に直流電源1の電圧Vinまで上昇する。一方、補助スイッチング素子S1がON故障しているため、コンデンサC1の電圧Vc1は、Vαまで上昇せずゼロのままである。その結果、監視電圧Vm(=Vc1+Vc2)は、Vc2とともにVinまで上昇するが、Vin+Vαまでは上昇しない(0<Vm<Vin+Vα)。
【0055】
このように、初期状態で補助スイッチング素子S1がON故障している場合は、リレー10のONから一定時間が経過すると、監視電圧Vmは、Vm=Vinまで上昇するものの、Vm=Vin+Vαには至らない。CPU30は、電圧検出回路20の出力を取り込んで、リレー10のONから一定時間が経過した後の監視電圧VmがVm=Vinであれば、補助スイッチング素子S1がON故障していると判定する。この判定に基づき、CPU30は、補助スイッチング素子S1が初期状態でON故障していることを報知するための、故障報知信号を外部へ出力する。
【0056】
<S1、S2がON故障の場合>
図9は、初期状態において、双方のスイッチング素子S1、S2にON故障が発生している状態を示している。この場合、
図9(a)のように、スイッチング素子S1、S2は共に短絡状態となっている。この状態から、リレー10がONすると、主スイッチング素子S2がON故障しているため、直流電源1からコンデンサC2へ充電が行われない。したがって、コンデンサC2の電圧Vc2は、
図9(b)のように、直流電源1の電圧Vinまで上昇せず、ゼロのままとなる。また、コンデンサC1の電圧Vc1も、Vαまで上昇せずゼロのままである。その結果、監視電圧Vm(=Vc1+Vc2)は、リレー10がONしてから一定時間が経過しても、Vin+Vαまで上昇せずゼロを維持する。
【0057】
このように、初期状態で双方のスイッチング素子S1、S2がON故障している場合は、リレー10をONしても、監視電圧VmがVin+Vαまで上昇せず、Vm=0のままとなる。しかしながら、この現象は、
図7に示した、主スイッチング素子S2がON故障している場合と同じ現象である。したがって、
図9の場合は、少なくとも主スイッチング素子S2がON故障していることは判定可能であるが、これに加えて、補助スイッチング素子S1もON故障しているかどうかの判定は不可能である。結局、
図9の場合は、
図7の場合と区別がつかないことから、初期状態でスイッチング素子S1、S2が共にON故障していることの検出はできないことになる。
【0058】
なお、初期状態においては、スイッチング素子S1、S2をONさせないので、スイッチング素子S1、S2の一方または両方にOFF故障が発生していたとしても、これを検出することはできない。すなわち、初期診断で検出できる故障は、スイッチング素子S1、S2のいずれか一方のON故障に限られる。スイッチング素子S1、S2のOFF故障の診断は、各スイッチング素子が動作を開始した後に行われる。
【0059】
以上説明したように、リレー10をONにしてから一定時間経過後の監視電圧Vmの値に基づいて、補助スイッチング素子S1または主スイッチング素子S2がON故障しているか否かの初期診断を行うことができる。
図10は、この初期診断におけるON故障有無の判定基準を示したテーブルである。前述のように、
図9の故障は、
図7の故障と区別がつかないため、本テーブルには挙げていない。
【0060】
上述した実施形態によると、初期診断において、リレー10がONしてから一定時間経過後の、接続点Pの電圧(監視電圧Vm)を検出し、当該電圧の値に基づいて、初期状態でのスイッチング素子S1、S2のON故障の有無を判定している。このため、1箇所の電圧を監視することで、スイッチング素子S1、S2のいずれがON故障している場合でも、その故障を検出することができる。また、初期診断時にスイッチング素子S1、S2に通電しないので、消費電力の増加を抑制できるとともに、スイッチング素子S1、S2のON・OFFによる寿命への影響も抑制できる。さらに、
図10のような単純な判定基準によりON故障を検出できるため、CPU30の初期診断プログラムが簡単となる。
【0061】
図11は、第2実施形態に係る電圧変換装置200を示している。第1実施形態の電圧変換装置100(
図1)は、DC−DCコンバータであったが、第2実施形態の電圧変換装置200は、DC−ACコンバータである。なお、
図11では、P点より後段の部分の図示を省略してある。P点より後段には、
図1の電圧検出回路20、コンデンサCf、CPU30、およびゲートドライバ40が、
図1と同じ回路構成で設けられる。
【0062】
図11において、電圧変換装置200は、直流電源1、リレー10、第1変換回路11、第2変換回路22、および第3変換回路23を備えている。直流電源1、リレー10、および第1変換回路11については、
図1と同じであるので説明を省略する。
【0063】
第2変換回路22は、第1変換回路11により昇圧された交流電圧を整流して、直流電圧に変換する回路であり、整流用のダイオードD3およびD4と、平滑用のコンデンサC3〜C5と、トランスTrの二次巻線W2とを有している。
【0064】
第3変換回路23は、第2変換回路22で得られた直流電圧をスイッチングして交流電圧に変換する回路であり、スイッチング素子S3〜S6と、インダクタL1およびL2と、コンデンサC6とを有している。スイッチング素子S3〜S6は、スイッチング素子S1、S2と同様にFETからなる。
【0065】
このような3つの変換回路11、22、23を備えた電圧変換装置(DC−ACコンバータ)は、たとえば非特許文献1に記載されている。
【0066】
上述した電圧変換装置200においても、初期状態でリレー10をONにしてから、一定時間経過後のP点の電圧(監視電圧)を検出することで、初期診断を行うことができる。その手法は、第1実施形態の電圧変換装置100の場合と同じであるので、重複説明を省略する。
【0067】
以上の実施形態では、スイッチング素子S1、S2の組が1つだけ設けられた単相型の電圧変換装置を例に挙げたが、スイッチング素子S1、S2の組が複数並列に接続された多相型の電圧変換装置においても、前記と同様の原理に基づいて、初期診断を行うことができる。ただし、多相型の場合は、複数の主スイッチング素子のいずれかがON故障していること、および、複数の補助スイッチング素子のいずれかがON故障していることは判定できるが、ON故障したスイッチング素子を特定することはできない。
【0068】
本発明では、以上述べた実施形態以外にも、以下のような種々の実施形態を採用することができる。
【0069】
電圧変換装置100の第2変換回路12において、
図1の構成に代えて、トランスTrの二次巻線W2に中間タップを設け、特許文献2〜10に示されている二次側回路のような構成としてもよい。電圧変換装置200の第2変換回路22についても同様である。
【0070】
前記の各実施形態においては、第2変換回路12、22の整流素子としてダイオードD3、D4を用いたが、ダイオードの替わりにFETを用いてもよい。
【0071】
前記の各実施形態においては、スイッチング素子S1、S2にFETを用いたが、FETの替わりにトランジスタやIGBTなどを用いてもよい。電圧変換装置200のスイッチング素子S3〜S6についても同様である。
【0072】
前記の各実施形態においては、直流電源1と第1変換回路11との間に設けられる開閉器として、リレー10を例に挙げたが、リレー10の替わりにスイッチ、FET、トランジスタなどを用いてもよい。
【0073】
前記の各実施形態においては、スイッチング素子S1、S2をPWM信号により駆動したが、PWM信号以外の信号によりスイッチング素子S1、S2を駆動してもよい。
【0074】
前記の各実施形態においては、車両に搭載される電圧変換装置を例に挙げたが、本発明は、車両用以外の電圧変換装置にも適用することができる。