(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
合成フォージャサイト型ゼオライトと層状ケイ酸アルミニウム化合物と合成層状ケイ酸マグネシウム化合物の合計量に対する、層状ケイ酸アルミニウム化合物と合成層状ケイ酸マグネシウム化合物の合計量の割合が3〜30重量%である、請求項1から3のいずれかに記載のメタクリル酸メチル製造用触媒成型体。
【背景技術】
【0002】
α−ヒドロキシイソ酪酸メチルを原料として気相接触反応によりメタクリル酸メチルを製造する方法は公知であり、例えば、特許文献1は、α−ヒドロキシカルボン酸エステル、α−アルコキシカルボン酸エステル及びβ−アルコキシカルボン酸エステルの単独または混合物を原料とし、結晶性アルミノ珪酸塩を触媒に用いて脱水または脱アルコール反応させることによるα,β−不飽和カルボン酸エステルの製造方法を開示している。該製造方法で用いられる結晶性アルミノ珪酸塩としては、X型またはY型ゼオライトが特に優れた触媒活性を示すことが記載されている。また、特許文献2、特許文献3及び特許文献4は、アルカリ金属及び/または白金族元素にて修飾した結晶性アルミノ珪酸塩、特にX型またはY型ゼオライトが該製造方法の触媒として有効であることを開示している。
【0003】
このような結晶性アルミノケイ酸塩を触媒に用いて気相接触反応によりα−ヒドロキシイソ酪酸メチルからメタクリル酸メチルを製造する場合、高沸点副生物が結晶性アルミノケイ酸塩の細孔入口を覆ってしまうことによる触媒の一時的な劣化や副生ジアセチルによる反応液の着色が問題となることが知られている。
【0004】
これらの問題に対し、特許文献5は、Na含有量を規定したX型とY型の境界領域の格子定数を持つ遷移型の合成フォージャサイト型ゼオライトを使用することで、着色物質であるジアセチルの生成が抑制でき、同時に高沸点副生物の副生を削減でき、触媒活性を長期間維持できることを開示している。その際、バインダーとして、Al含有量が5重量%未満の粘土、特にシリカマグネシア系粘土がジアセチルの副生を抑制するのに好適であることが記載されている。
【0005】
更に、特許文献6は、遊離アルカリ量を0.1 ミリ当量/g以下にした合成フォージャサイト型ゼオライトを有効成分とする触媒、あるいは合成フォージャサイト型ゼオライトを水に分散させた際のpHが9未満の粘土を用いて成型体とした触媒を使用することにより、触媒の一時的な劣化原因となる高沸点副生物の副生が抑制され、触媒寿命が更に長くなることを開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記の特許文献5及び特許文献6では、α−ヒドロキシイソ酪酸メチルを原料とし気相接触反応によりメタクリル酸メチルを製造する際、エステル基の加水分解を抑えるため、メタノールをα−ヒドロキシイソ酪酸メチルに対して0.1-3.0 重量倍の割合で反応器に供給して気相接触反応を行う。その際、α−ヒドロキシイソ酪酸メチルの水酸基の脱水反応だけでなく、メタノールの脱水反応によりジメチルエーテル(以下、本明細書ではDMEと記す)が副生する。工業的には、メタノールは精製工程で回収して再利用するが、DMEが副生すると精製工程でのメタノール回収率が悪くなり、メタクリル酸メチルの製造コストが高くなる欠点がある。
【0008】
即ち、本発明の課題は、α−ヒドロキシイソ酪酸メチルを原料として気相接触反応によりメタクリル酸メチルを製造する方法において使用される、従来方法よりもメタノール回収率が良く触媒寿命も長いメタクリル酸メチル製造用触媒成型体、及び該メタクリル酸メチル製造用触媒成型体を用いたメタクリル酸メチルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題について鋭意検討した結果、合成フォージャサイト型ゼオライトと、層状ケイ酸アルミニウム化合物と合成層状ケイ酸マグネシウム化合物とを特定の割合で混合してなるバインダー成分とを成型して得られる触媒成型体をメタクリル酸メチル製造用触媒として使用することで、従来法よりもDMEの副生量を抑制し、高いメタノール回収率を維持しながら、触媒寿命も長くなることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明は以下の通りである。
<1> α−ヒドロキシイソ酪酸メチルを原料として気相接触反応によりメタクリル酸メチルを製造するメタクリル酸メチル製造用触媒成型体であって、前記触媒成型体が、合成フォージャサイト型ゼオライトと層状ケイ酸アルミニウム化合物と合成層状ケイ酸マグネシウム化合物とを含み、前記層状ケイ酸アルミニウム化合物と前記合成層状ケイ酸マグネシウム化合物との重量比が1:5〜6:1であることを特徴とする、メタクリル酸メチル製造用触媒成型体である。
<2> 前記触媒成型体成分を2重量%の割合で含む水分散液のpH値が10.2〜10.8である、上記<1>に記載のメタクリル酸メチル製造用触媒成型体である。
<3> 前記触媒成型体中の遊離ナトリウム量が0.03ミリ当量/g以下である、上記<1>または<2>に記載のメタクリル酸メチル製造用触媒成型体である。
<4> 合成フォージャサイト型ゼオライトと層状ケイ酸アルミニウム化合物と合成層状ケイ酸マグネシウム化合物との合計量に対する、層状ケイ酸アルミニウム化合物と合成層状ケイ酸マグネシウム化合物との合計量の割合が3〜30重量%である、上記<1>から<3>のいずれかに記載のメタクリル酸メチル製造用触媒成型体である。
<5> 前記層状ケイ酸アルミニウム化合物が、モンモリロナイト、バイデライト、及びカオリナイトから選ばれる少なくとも一種類を主成分とする粘土化合物である、上記<1>から<4>のいずれかに記載のメタクリル酸メチル製造用触媒成型体である。
<6> 前記層状ケイ酸アルミニウム化合物が、モンモリロナイトを主成分とする粘土化合物である、上記<1>から<5>のいずれかに記載のメタクリル酸メチル製造用触媒成型体である。
<7> 前記合成層状ケイ酸マグネシウム化合物が、合成ヘクトライトである、上記<1>から<6>のいずれかに記載のメタクリル酸メチル製造用触媒成型体である。
<8> 上記<1>から<7>のいずれかに記載のメタクリル酸メチル製造用触媒成型体の存在下、α−ヒドロキシイソ酪酸メチルを原料として気相接触反応によりメタクリル酸メチルを製造する、メタクリル酸メチルの製造方法である。
<9> 希釈剤としてα−ヒドロキシイソ酪酸メチルに対して0.1〜3.0 重量倍の範囲のメタノールを用いる、上記<8>に記載のメタクリル酸メチルの製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、α−ヒドロキシイソ酪酸メチルを原料として気相接触反応によりメタクリル酸メチルを製造する方法において使用され、従来方法よりもメタノール回収率が良く触媒寿命も長い触媒成型体と、前記触媒成型体を用いるメタクリル酸メチルの製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のメタクリル酸メチル製造用触媒成型体は、合成フォージャサイト型ゼオライトと層状ケイ酸アルミニウム化合物と合成層状ケイ酸マグネシウム化合物とを成型したものである。
【0013】
まず、合成フォージャサイト型ゼオライトについて説明する。本発明において用いることができる合成フォージャサイト型ゼオライトは、国際ゼオライト学会(IZA: International Zeolite Association)が定めている結晶質モレキュラーシーブの結晶構造を表わす3文字のコードで、FAU型の結晶構造を持つアルミノケイ酸塩である。合成フォージャサイト型ゼオライトの種類としては、結晶構造は同一であるが化学組成、即ちSi/Al原子比が異なるX型とY型が一般に知られており、いずれも好適に用いることができる。なかでもE.Dempsey, G.H.Kuhl, D.H.Olson, J.Phys.Chem., 73, 387 (1969) に記載されている遷移型が特に好適に用いることができる。該文献によると、遷移型の合成フォージャサイト型ゼオライトとは、X線回折で測定される格子定数が24.80〜24.94Åの範囲にあるゼオライトのことである。
【0014】
本発明で用いられる合成フォージャサイト型ゼオライトのカチオン型は特に限定されないが、ナトリウムイオン型が好ましく、ゼオライト中のAlに対するNaの原子比(Na/Al原子比)が0.90〜1.02の範囲であるのが特に好ましい。また、一般に合成フォージャサイト型ゼオライトは、アルカリ性下での水熱合成で得られた結晶をろ過、洗浄、乾燥して製造される。その際、洗浄が不十分だとアルカリ成分が結晶中に残存し、下記で定義している遊離アルカリ量が多いゼオライトとなる。遊離アルカリ量は、ゼオライトの4重量%水分散液を0.01N塩酸で滴定することにより測定、計算される数値である。
本発明に用いられる合成フォージャサイト型ゼオライトの遊離アルカリ量は、ゼオライト1g当たり0.1ミリ当量以下であるのが好ましい。
【0015】
次に、成型体とする際に用いられるバインダーについて説明する。合成フォージャサイト型ゼオライトは、バインダーレスゼオライト成型体として製造されない限り、微粉末の形態で製造される。従って、固定床触媒として工業的に使用する際は、微粉末のままでは使用しにくい。このため、球状や柱状など、適当な形状にした成型体として用いるのが一般的であるが、ゼオライト微粉末自体に相互結合性がないため、適度な可塑性と強度を付与するためバインダーが使用される。本発明の触媒成型体はバインダー成分として、層状ケイ酸アルミニウム化合物および層状ケイ酸マグネシウム化合物を特定の比率で含有する。
【0016】
その理由は、α−ヒドロキシイソ酪酸メチルの脱水反応でメタクリル酸メチルを合成する反応におけるメタノール回収率と触媒寿命は、反応の活性成分である合成フォージャサイト型ゼオライト中のナトリウムイオン量を適切な量に調整すれば良好となるが、その際、層状ケイ酸アルミニウム化合物と合成層状ケイ酸マグネシウム化合物との混合物をバインダーとして用いることによって、成型体触媒の形において合成フォージャサイト型ゼオライト中のナトリウムイオン量を適切な量に調整できるからである。
【0017】
本発明者らが、α−ヒドロキシイソ酪酸メチルの脱水反応でメタクリル酸メチルを合成する反応におけるDME副生量と触媒寿命の挙動について詳細に検討した結果、DME副生量と触媒寿命は反応の活性成分である合成フォージャサイト型ゼオライト中のナトリウムイオン量が多いほどDMEの副生量は少なくなり、ナトリウムイオン量が多いほど触媒寿命は短くなるが、いずれも単純な直線関係ではなく、中間領域ではDMEの副生量、触媒寿命とも良好となることがわかった。
【0018】
しかし、上記したように合成フォージャサイト型ゼオライト粉末は単独では成型性がないため、成型体触媒として考える場合は、ゼオライトのみではなくバインダー成分も含めてナトリウムイオン量を適切な量に制御する必要がある。そこで、バインダー成分を水に分散させた溶液の挙動についても、本発明者らは詳細に検討した。その結果、ベントナイトなどの層状ケイ酸アルミニウム化合物は、水溶液中のナトリウムイオンを吸着しやすい性質を持ち、合成ヘクトライトなどの合成層状ケイ酸マグネシウム化合物は、ナトリウムイオンを水溶液中に供給しやすい性質があることがわかった。さらに、層状ケイ酸アルミニウム化合物と合成層状ケイ酸マグネシウム化合物とをある特定比率の範囲で混合してバインダーに用いると、成型体触媒の形でも合成フォージャサイト型ゼオライト中のナトリウムイオン量を適切な量に調整でき、DMEの副生量を抑制しメタノール回収率が良く触媒寿命も長い触媒にすることができる。
【0019】
これに対し、層状ケイ酸アルミニウム化合物のみを用いて成型した触媒では、合成フォージャサイト型ゼオライト中のナトリウムイオン量が少なくなりやすいためDME副生量は多く、逆に、合成層状ケイ酸マグネシウム化合物のみを用いて成型した触媒では、合成フォージャサイト型ゼオライト中のナトリウムイオン量が多くなりやすいため、多くの場合、触媒寿命は短い。
【0020】
本発明における層状ケイ酸アルミニウム化合物とは、少なくともケイ素、アルミニウム、酸素の元素で構成される層状の結晶性構造を有する化合物である。このような化合物としては、例えば、モンモリロナイト、バイデライト、及びカオリナイトから選ばれる少なくとも一種類を主成分とする天然の粘土化合物やそれらの精製品が挙げられる。なかでも、モンモリロナイトを主成分とする粘土化合物である精製ベントナイトであることが特に好ましい。上記の精製ベントナイトとしては、例えば日本有機粘土株式会社製の、ベンゲル、ベンゲルHV、ベンゲルHVP、ベンゲルFW、ベンゲルブライト11、ベンゲルブライト23、ベンゲルブライト25、ベンゲルAが具体的に挙げられる。本発明の層状ケイ酸アルミニウム化合物の層間カチオンの種類は特に限定されないが、ナトリウムイオン型またはナトリウムイオンとカルシウムイオンの混合型が特に好ましい。
【0021】
一方、本発明における合成層状ケイ酸マグネシウム化合物とは、少なくともケイ素、マグネシウム、酸素の元素で構成される層状の結晶性構造を有する化合物であって、化学合成されたもの及び天然の粘土化合物を変性したものを指す。このような化合物としては、例えば、ナトリウム、リチウム、マグネシウムの塩とケイ酸ソーダから化学合成される合成ヘクトライトや合成雲母、天然の粘土化合物を変性して得られる変性ヘクトライトや変性雲母が挙げられる。なかでも、化学合成して得られる合成ヘクトライトが特に好ましい。上記の合成ヘクトライトとしては、例えばRockwood Additives社製のラポナイトRD、ラポナイトRDS、ラポナイトOGや、コープケミカル株式会社製のルーセンタイトSWN、ルーセンタイトSWFが具体的に挙げられる。
合成ヘクトライトは、スメクタイト構造を持つトリオクタヘドラル型層状ケイ酸塩であり、種々の合成方法が知られているが、本発明で使用することができる合成ヘクトライトの化学合成方法は特に限定されず、特開平6-345419号公報に記載されている合成膨潤性ケイ酸塩の製造方法、特開平9−249412号公報に記載されているヘクトライト様ケイ酸塩の製造方法、特開平11−71108号公報に記載されている合成ケイ酸マグネシウムの製造方法などの公知の方法が使用できる。本発明の合成層状ケイ酸マグネシウム化合物の層間カチオンの種類は特に限定されないが、ナトリウムイオン型が好ましい。
【0022】
層状ケイ酸アルミニウム化合物の種類によってナトリウムイオンの吸着量が異なり、また合成層状ケイ酸マグネシウム化合物の種類によってナトリウムイオンの放出量が異なるため、本発明における層状ケイ酸アルミニウム化合物と合成層状ケイ酸マグネシウム化合物との最適な混合比は、使用する層状ケイ酸アルミニウム化合物と合成層状ケイ酸マグネシウム化合物の組合せによって変わる。層状ケイ酸アルミニウム化合物と合成層状ケイ酸マグネシウム化合物との混合比は、重量比で表わして1:5〜6:1であることが好ましく、1:5〜4:1であることがより好ましく、1:5〜7:2がさらに好ましく、1:5〜3:1が最も好ましい。
層状ケイ酸アルミニウム化合物の割合が上記の範囲より小さい場合、触媒寿命が低下する傾向がある。触媒成型体中の遊離ナトリウム量が増加することが原因と考えられる。層状ケイ酸アルミニウム化合物の割合が上記の範囲より大きい場合、DMEの副生量が多くなる傾向がある。これは前述したように、成型後の触媒成型体における、合成フォージャサイト型ゼオライト中のナトリウムイオン量が適正範囲よりも少なくなることが原因と考えられる。
【0023】
本発明の触媒成型体中の、合成フォージャサイト型ゼオライトと層状ケイ酸アルミニウム化合物と合成層状ケイ酸マグネシウム化合物との合計量に対する、層状ケイ酸アルミニウム化合物と合成層状ケイ酸マグネシウム化合物との合計量の割合は、成型のしやすさや成型体の機械的強度などを考慮すると、3〜30重量%の範囲であることが好ましい。更には5〜20重量%の範囲が特に好ましい。
【0024】
また、本発明の触媒成型体は、成型性を良くするために成型助剤や滑剤を添加することもでき、例えば、カルボキシメチルセルロース、ステアリン酸、アルコール類、界面活性剤、繊維類などを用いることができる。
【0025】
本発明の触媒成型体の成型方法は特に限定されず、成型体の形状に応じて、押出し成型法や転動造粒法、打錠成型法など種々の方法で成型することができる。また成型体の形状も特に限定されず、例えば、球状、円柱状、リング状、花びら状などの形状にして使用することができる。
【0026】
本発明の触媒成型体を2重量%の割合で水に分散させて得られる水分散液のpH値は、10.2〜10.8であることが好ましい。水分散液のpH値が10.2を下回ると、DMEの副生量が多くなる傾向がある。成型後の触媒成型体における、合成フォージャサイト型ゼオライト中のナトリウムイオン量が適正範囲よりも少なくなることが原因と考えられる。水分散液のpH値が10.8を上回る場合、DMEの副生量は抑制することができるが、触媒寿命が低下する傾向がある。
【0027】
本発明の触媒成型体中の遊離ナトリウム量は、0.03ミリ当量/g以下であることが好ましい。触媒成型体中の遊離ナトリウム量が上記を上回ると、DMEの副生量は少ないが、触媒寿命が低下する傾向がある。
【0028】
次に、本発明のメタクリル酸メチルの製造方法について説明する。原料のα−ヒドロキシイソ酪酸メチルの製造方法は特に限定されるものではなく、α−ヒドロキシイソ酪酸アミドのメタノリシスや特公平2-2874号公報で開示されているα−ヒドロキシイソ酪酸アミドとギ酸メチルのアミド−エステル交換により製造されたものを使用できる。またα−ヒドロキシイソ酪酸メチルは、アセトンシアンヒドリンと硫酸からメタクリル酸メチルを製造するACH法や、イソブチレンを原料とするC4 酸化法の高沸点副生物からも得られる。このような高沸点副生物から回収したα−ヒドロキシイソ酪酸メチルには、大概α又はβ−メトキシイソ酪酸メチルも含有されるが、本発明の触媒はこのような同族体の脱メタノール反応にも有効であり、 共にメタクリル酸メチルとして回収することができる。
【0029】
本発明の反応は固定床気相流通式で行うことができ、断熱式、多管熱交換式などの反応器が使用できる。原料のα−ヒドロキシイソ酪酸メチルは予熱・気化して反応器に供給される。気化した原料はそのまま導入するか、あるいは、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスで希釈して導入することもできるが、メタクリル酸メチルの収率を向上させるためには、希釈剤としてメタノールを用いるのがより好ましい。希釈剤のメタノールの割合はα−ヒドロキシイソ酪酸メチルに対して0.1〜3.0 重量倍の範囲が好ましく、更には0.2〜2.0 重量倍の範囲が特に好ましい。原料の供給速度は、単位触媒重量当りの原料α−ヒドロキシイソ酪酸メチルと希釈剤メタノールとの合計重量、即ち重量空間速度(WHSV)で 0.1〜5.0hr
-1の範囲が好適である。
【0030】
反応温度は230〜300℃の範囲が好適であり、一定温度で保持してもよいが、種々の副生物を抑制し触媒活性を維持するためには、α−ヒドロキシイソ酪酸メチルの反応率を98.0〜99.9%の範囲に維持するように、反応時間の経過と共に特定の温度範囲で少しずつ昇温する方法がより好適である。この場合、反応の開始温度は230〜270 ℃、より好ましくは240〜260 ℃の範囲であり、また反応終了温度は250〜300 ℃、より好ましくは260〜290 ℃の範囲である。このような反応温度の調整は、触媒に高沸点副生物等が付着し活性点が経時的に減少するのを補うために必要であり、前記の反応温度範囲でα−ヒドロキシイソ酪酸メチルの反応率を98.0-99.9%の範囲に維持できなくなった際には原料供給を一旦停止し、触媒のFAU型構造が破壊されない温度、好ましくは550 ℃を超えない範囲の温度で空気焼成をすることにより、その触媒活性をほぼ完全に回復することができる。このように、本発明の触媒は容易に再生して繰り返し使用することができる。反応圧力は特に限定されないが、常圧ないし若干の加圧下で行うことができる。
【0031】
本発明の方法で得られる反応生成液には、目的物であるメタクリル酸メチルの他に、未反応原料やメタクリル酸、アセトン、ポリメチルベンゼン類などの副生物が含まれる。このような副生物は蒸留や抽出などの通常の精製方法を適用すれば容易に分離できる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。本発明の実施例、比較例のメタクリル酸メチル合成反応の性能試験は、次のようにして行った。
【0033】
<触媒成型体の分析>
<触媒成型体のpH分析>
触媒成型体のpHは、触媒成型体をメノウなどで粉砕して粉末状とした触媒成型体成分と水を混合し、触媒成型体成分を2重量%の割合で含む混合液を調製した。その後、混合液を超音波分散処理をし、さらに一晩放置して完全に分散させた水分散液を得た。水分散液のpHは、株式会社堀場製作所製のpHメータD54を使用して測定した。
【0034】
<電気伝導度分析>
触媒成型体の電気伝導度は、触媒成型体をメノウなどで粉砕して粉末状とした触媒成型体成分と水を混合し、触媒成型体成分を2重量%の割合で含む混合液を調製した。その後、混合液を超音波分散処理をし、さらに一晩放置して完全に分散させた水分散液を得た。水分散液の電気伝導度は、株式会社堀場製作所製のpHメータD54を使用して測定した。
【0035】
<遊離ナトリウム量(遊離Na量)>
触媒成型体の遊離Na量は、触媒成型体の4重量%水分散液を調製したあと一晩放置し、その上澄み液について0.01N塩酸で滴定することにより計算値から求めた。
【0036】
<メタクリル酸メチル合成反応の性能試験>
メタクリル酸メチル合成反応の性能試験は、原料タンク、原料供給ポンプ、原料ガス導入装置、反応管(SUS316製、内径18mmφ、長さ300mm)、冷却装置、反応生成液捕集装置などを備えた固定床気相流通式反応装置を用いて行った。性能試験は、10-20メッシュのサイズに整粒した成型体7gを反応管の中央に充填し、55重量%のα−ヒドロキシイソ酪酸メチルのメタノール溶液を9g/hrで供給し、大気圧下で行った。反応温度は、α−ヒドロキシイソ酪酸メチルの反応率が99.5〜99.9%の範囲となるように徐々に上げ、280℃に到達するまでの日数を触媒寿命とした。反応成績は、反応生成液をガスクロマトグラフに導入して、定量分析して求めた。
【0037】
ここで、メタノール回収率(MeOH回収率)、ジメチルエーテルの収率(DME収率)、メタクリル酸メチルとメタクリル酸の合計収率(MMA+MAA収率)は、次のようにして算出した。
(1)MeOH回収率(%)=(反応生成液中のメタノールのモル数)/(原料中のメタノールのモル数)×100
(2)DME生成率(%)=(反応生成液中のジメチルエーテルのモル数×2)/(原料中のメタノールのモル数)×100
(3)MMA+MAA収率(%)=(反応生成液中のメタクリル酸メチルのモル数+反応生成液中のメタクリル酸のモル数)/(原料中のα−ヒドロキシイソ酪酸メチルのモル数)×100
【0038】
実施例1
NaOH 75.9gをイオン交換水 462.9g に溶解し、アルミン酸ソーダ(Al
2O
3 51.0wt%
, Na
2O 36.0wt%) 27.7g を添加、溶解した。さらにシリカゾル(SiO
2 20wt%) 333.0g とイオン交換水 200.0g との混合液を加え、均一なスラリー混合物になるまで撹拌した。上記混合物をオートクレーブに入れ、100 ℃で48時間結晶化を行った。その後室温に戻して濾過し、ろ液の遊離アルカリ量が0.01ミリ当量/gになるまで水洗後、150℃で乾燥して白色のゼオライト粉末 51.6 gを得た。このゼオライトはX線回折と化学組成分析の結果、格子定数24.86 Å,Na/Al = 0.96の合成フォージャサイト型ゼオライトであった。
【0039】
上記合成フォージャサイトゼオライト粉末34gに、層状ケイ酸アルミニウム化合物であり、モンモリロナイトの含有量が75〜95%であるベンゲルブライト11(日本有機粘土株式会社製の精製ベントナイト、層間カチオンがCaとNaであるタイプ)1.2gとRockwood Additives社から市販されている合成ヘクトライトであるラポナイトRD(Lot番号10-4550,ラポナイトは登録商標)4.8gを混合し、更にイオン交換水を徐々に加えながら良く混練したのち成型し、150℃で乾燥、350℃で焼成して触媒成型体を得た。この触媒成型体の合成フォージャサイト型ゼオライト/ベンゲルブライト11(層状ケイ酸アルミニウム化合物)/ラポナイトRD(合成層状ケイ酸マグネシウム化合物)の混合比は重量比で85/3/12であった。触媒成型体の分析結果を表1に、またメタクリル酸メチル合成反応の性能試験結果を表2に示す。pH10.55、電気伝導度217μS/cm、遊離Na量0.023ミリ当量/gであった。得られた触媒成型体を用いて前記したメタクリル酸メチル合成反応の性能試験を行った結果、触媒寿命は61日であり、MeOH回収率は94.4%、DME生成率は4.0%、MMA+MAA収率は93.3%であった。これらの反応成績はいずれも反応期間中の平均値である。
【0040】
実施例2
ベンゲルブライト11の代わりにモンモリロナイトの含有量が85〜99%であるベンゲル(日本有機粘土株式会社製の精製ベントナイト、層間カチオンがNaであるタイプ)を用い、合成フォージャサイト型ゼオライト/ベンゲル(層状ケイ酸アルミニウム化合物)/ラポナイトRD(合成層状ケイ酸マグネシウム化合物)の混合比を重量比で90/7/3としたほかは、実施例1と同様に触媒調製し、得られた触媒成型体のメタクリル酸メチル合成反応の性能試験を行った。触媒成型体の分析結果を表1に、またメタクリル酸メチル合成反応の性能試験結果を表2に示す。
【0041】
比較例1
合成フォージャサイト型ゼオライト/ベンゲルブライト11(層状ケイ酸アルミニウム化合物)/ラポナイトRD(合成層状ケイ酸マグネシウム化合物)の混合比を重量比で85/15/0とし、ラポナイトRDをバインダーに用いなかったほかは、実施例1と同様に触媒調製し、得られた触媒成型体のメタクリル酸メチル合成反応の性能試験を行った。触媒成型体の分析結果を表1に、またメタクリル酸メチル合成反応の性能試験結果を表2に示す。
【0042】
比較例2
合成フォージャサイト型ゼオライト/ベンゲルブライト11(層状ケイ酸アルミニウム化合物)/ラポナイトRD(合成層状ケイ酸マグネシウム化合物)の混合比を重量比で85/0/15とし、ベンゲルブライト11をバインダーに用いなかったほかは、実施例1と同様に触媒調製し、得られた触媒成型体のメタクリル酸メチル合成反応の性能試験を行った。触媒成型体の分析結果を表1に、またメタクリル酸メチル合成反応の性能試験結果を表2に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
これらの実施例、比較例より、合成フォージャサイト型ゼオライトに加え、層状ケイ酸アルミニウム化合物と合成層状ケイ酸マグネシウム化合物との混合物をバインダーに用いて成型体とした実施例触媒は、比較例触媒に比べて寿命、メタノール回収率の点で優れていることがわかる。